(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142996
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】加飾成形用シート、それに賦形したプリフォーム成形体、及び加飾成形体
(51)【国際特許分類】
B32B 5/24 20060101AFI20230928BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230928BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20230928BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B32B5/24
B32B27/40
D06N3/14
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050172
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(72)【発明者】
【氏名】松田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】割田 真人
(72)【発明者】
【氏名】赤木 祐太
(72)【発明者】
【氏名】江口 大祐
(72)【発明者】
【氏名】大門 竜也
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
4F206
【Fターム(参考)】
4F055BA12
4F055BA13
4F055DA02
4F055FA15
4F055GA13
4F055HA01
4F100AK01A
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100DD01C
4F100DD07C
4F100DG01A
4F100EH46
4F100EJ39
4F100EJ86
4F100JK07
4F100JK07B
4F100JK07C
4F100YY00B
4F100YY00C
4F206AA28
4F206AA31
4F206AA42
4F206AD08
4F206AD09
4F206AD16
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB13
4F206JB24
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】プリフォーム成形体を製造したり加飾成形体を製造したりする場合に、表面に形成されたシボ凹凸を変形させずに正確に維持させやすい、皮革調の弾性のある触感を備えた加飾成形用シートを提供する。
【解決手段】繊維基材と、繊維基材と、繊維基材の一面に積層接着された少なくとも1層の樹脂層を含む表面樹脂層とを含む加飾成形用シートであって、表面樹脂層は、ポリウレタンを主体とし、表面にシボ凹凸が形成されており、70~200μmの総厚さを有し、100%モジュラスが9~30MPaで、且つ、厚さ20~150μmである高モジュラス層を含む加飾成形用シートを用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と、前記繊維基材の一面に積層接着された少なくとも1層の樹脂層を含む表面樹脂層と、を含む加飾成形用シートであって、
前記表面樹脂層は、ポリウレタンを主体とし、
表面にシボ凹凸が形成されており、
70~200μmの総厚さを有し、
20℃における100%モジュラスが9~30MPaで、且つ、厚さ20~150μmである高モジュラス層を含むことを特徴とする加飾成形用シート。
【請求項2】
前記表面樹脂層は、100%モジュラスの平均値が9~30MPaである請求項1に記載の加飾成形用シート。
【請求項3】
前記表面樹脂層は、表面に配される表皮層と、前記表面に配されない少なくとも1層の中間層と、を含み、前記高モジュラス層が、前記表皮層または前記中間層の少なくとも1層である請求項1または2に記載の加飾成形用シート。
【請求項4】
前記表面樹脂層における前記高モジュラス層の厚さ割合が、20~80%である請求項1~3の何れか1項に記載の加飾成形用シート。
【請求項5】
前記シボ凹凸の最大高さRzが60~120μmである請求項1~4の何れか1項に記載の加飾成形用シート。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の加飾成形用シートに、三次元的な形状を賦形したことを特徴とするプリフォーム成形体。
【請求項7】
被加飾成形体と、前記被加飾成形体の表面を加飾する加飾層とを備える加飾成形体であって、
前記加飾層が、請求項1~5の何れか1項に記載の加飾成形用シートを含むことを特徴とする加飾成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の表面を加飾するための、表面にシボ凹凸を有する皮革調の加飾成形用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
物品の表面を加飾するための、表面にシボ凹凸面を有する皮革調の加飾成形用シートが知られている。このような加飾成形用シートに、熱プレス成形,真空成形,圧空成形,真空圧空成形等の熱成形により三次元的な形状を賦与してプリフォーム成形体とし、金型内にプリフォーム成形体を収容して射出成形するインモールド加飾成形により、加飾成形体を製造する方法が知られている。また、プリフォーム成形体を、予め形成された被加飾成形体に接着剤で貼り合わせることにより加飾成形体を製造する方法も知られている。
【0003】
加飾成形用シートを真空圧空成形や熱プレス成形することによりプリフォーム成形体を製造したり、プリフォーム成形体を金型に収容して加飾成形体を製造する場合、表面にシボ凹凸面を有する加飾成形用シートの凹凸が、浅くなったり、潰れたりして、立体的な触感が低下したりすることがあった。
【0004】
上述した問題を解決するために、例えば、下記特許文献1は、加飾成形体の製造に用いられる加飾成形用シートであって、表面にシボ凹凸面を有する樹脂層を備えた加飾成形用シート本体と、シボ凹凸面の凹部を充填し、且つ、20℃における引張弾性率が2~10MPaである弾性体を含む弾性保護層と、を備える加飾成形用シートを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術によれば、射出成形により成形された樹脂成形体の表面に加飾成形用シートを一体化した加飾成形体を製造する場合において、加飾成形用シートに形成されたシボ凹凸を射出成形時に崩れにくくすることができる。しかしながら、加飾成形用シートを製造する際に、後に剥離される弾性保護層を形成したり、それを剥離したりする等の、製造工程の煩雑さがあった。また、弾性保護層が加飾成形用シート全体を伸びにくくさせることにより、プリフォーム成形やインモールド加飾成形において、加飾成形用シートが型の形状を転写しにくくなり、熱成形性が低下するという問題があった。さらに、このような弾性保護層は再利用が難しいために、環境への負荷を考慮すれば好ましくなく、生産コストが増大するという欠点もあった。
【0007】
本発明は、プリフォーム成形体を製造したり加飾成形体を製造したりする場合に、表面に形成されたシボ凹凸を変形させずに正確に維持させやすい、皮革調の弾性のある触感を備えた加飾成形用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面は、繊維基材と、繊維基材の一面に積層接着された少なくとも1層の樹脂層を含む表面樹脂層と、を含む加飾成形用シートであって、表面樹脂層は、ポリウレタンを主体とし、表面にシボ凹凸が形成されており、70~200μmの総厚さを有し、20℃における100%モジュラス(以下単に、100%モジュラスとも称する)が9~30MPaで、且つ、厚さ20~150μmである高モジュラス層を含む加飾成形用シートである。このような加飾成形用シートによれば、プリフォーム成形体を製造したり加飾成形体を製造したりする場合に、表面に形成されたシボ凹凸の形状を崩さずに正確に維持させやすい、皮革調の弾性のある触感を備えた加飾成形用シートが得られる。また、副次的には、射出成形体に一体化させるインモールド加飾成形をする場合、とくには、250℃を超えるような樹脂温度で射出成形されるポリカーボネート樹脂等の樹脂を射出する場合において、表面樹脂層にシワや破れ等の欠陥を発生させず、反り等の少ない、良品の加飾成形体が得られやすくなる。
【0009】
また、表面樹脂層は、100%モジュラスの平均値が9~30MPaであることが、シボ凹凸の形状の維持性と皮革調の弾性のある触感とのバランスに優れる点から好ましい。
【0010】
また、表面樹脂層が、表面に配される表皮層と、表面に配されない少なくとも1層の中間層とを含み、高モジュラス層が、表皮層または中間層の少なくとも1層であることが、シボ凹凸の形状の維持性と、皮革調の弾性のある触感とのバランスを調整しやすい点から好ましい。
【0011】
また、表面樹脂層における高モジュラス層の厚さ割合が、20~80%であることが、シボ凹凸の形状の維持性と、皮革調の弾性のある触感とのバランスを調整しやすい点から好ましい。
【0012】
また、シボ凹凸の形状としては、最大高さRzが60~120μmであることが、本発明の効果がとくに顕著に奏される点から好ましい。
【0013】
また、本発明の他の一局面は、上述した加飾成形用シートに、三次元的な形状を賦形して得られる、加飾成形体の製造に用いられるプリフォーム成形体である。このようなプリフォーム成形体は、プリフォーム成形後であっても、加飾成形用シートの表面樹脂層の皮革調の弾性のある触感を失わせずに、表面に形成されたシボ凹凸面を変化させずに維持させやすい。
【0014】
また、本発明の他の一局面は、被加飾成形体と、被加飾成形体の表面を加飾する加飾層とを備える加飾成形体であって、加飾層が、上述した何れかの加飾成形用シートを含む加飾成形体である。このような加飾成形体は、加飾成形用シートの表面樹脂層の皮革調の弾性のある触感を失わせることなく、表面に形成されたシボ凹凸を変化させずに維持させやすい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プリフォーム成形体を製造したり加飾成形体を製造したりする成形を行う場合に、表面に形成されたシボ凹凸を変形させずに正確に維持させやすい、皮革調の弾性のある触感を備えた、加飾成形用シートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態の加飾成形用シート10の模式断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態の加飾成形用シート20の模式断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態の加飾成形用シート10をプリフォーム成形する際の各工程を説明する模式断面図である。
【
図4】
図4は、加飾成形用シート10のプリフォーム成形体30を用いて加飾成形体を成形する各工程を説明する模式断面図である
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態の加飾成形用シートを、図面を参照して詳しく説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の加飾成形用シート10の模式断面図である。
図1に示すように、加飾成形用シート10は、繊維基材1と、繊維基材1に積層接着された、表面樹脂層5とを含む加飾成形用シートである。
【0019】
表面樹脂層5は、第1のポリウレタンを主体とする表皮層4と、第2のポリウレタンを主体とする第1の中間層3と、接着用のポリウレタンを主体とする接着層である第2の中間層2と、の積層体である。表皮層4は、表面樹脂層5の表面(外表面)側に配される層であり、第1の中間層3は、表皮層4の表面側ではない繊維基材1側に配される層であり、第2の中間層2は繊維基材1と表面樹脂層5とを接着する際に形成される接着層である。そして、表面樹脂層5の表面には、シボ凹凸面Eが形成されている。
【0020】
表面樹脂層5は、総厚さが70~200μmである積層体である。表面樹脂層5の総厚さが70μm未満の場合、高低差のあるシボ凹凸面を形成しにくくなる。また、200μmを超える場合には、プリフォーム成形等による三次元的な形状を賦与しにくくなったり、インモールド加飾成形性が低下したりする傾向がある。
【0021】
このような表面樹脂層5は、第3のポリウレタンを主体とする接着用のポリウレタンを含む接着層である第2の中間層2によって、繊維基材1に接着されている。
【0022】
そして、加飾成形用シート10においては表皮層4,第1の中間層3,及び第2の中間層2の少なくとも1層が、20℃における100%モジュラスが9~30MPaで、且つ、厚さ20~150μmである、ポリウレタンを主体とする層である。
【0023】
また、表面樹脂層は、20℃における100%モジュラスの平均値が、5~30MPaであること、さらには9~25MPaであることが、シボ凹凸をより正確に維持させる点から好ましい。ここで、表面樹脂層の、100%モジュラスの平均値とは、表面樹脂層を形成する各層の100%モジュラスに厚さの割合を乗じた値の和である、全層における100%モジュラスの平均と定義される。例えば、加飾成形用シート10の場合、表皮層4と第1の中間層3と第2の中間層2との、100%モジュラスの平均値が、5~30MPaであることが、シボ凹凸をより正確に維持させる点から好ましい。
【0024】
また、
図2は、本実施形態の他の例の加飾成形用シート20の模式断面図である。
図2に示すように、加飾成形用シート20は、繊維基材1と、繊維基材1に積層接着された表面樹脂層15と、を含む加飾成形用シートである。
【0025】
表面樹脂層15は、第1のポリウレタンを主体とする表皮層14と、接着用のポリウレタンを含む接着層である中間層12と、の積層体である。表皮層14は、繊維基材1に接着層である中間層12を介して接着されて表面側に配される層である。そして、表面樹脂層15の表面には、シボ凹凸面Eが形成されている。
【0026】
加飾成形用シート20においては、表面樹脂層15が70~200μmの総厚さを有し、表皮層14または中間層12が、100%モジュラスが9~30MPaで、且つ、厚さ20~150μmである高モジュラス層である。
【0027】
また、表皮層14と中間層12とを含む表面樹脂層15においては、100%モジュラスの平均値が、5~30MPaであること、さらには9~25MPaであることが、シボ凹凸の形状の維持性と、皮革調の弾性のある触感とのバランスに優れる点から好ましい。
【0028】
また、上述した加飾成形用シートにおいては、表面樹脂層における高モジュラス層の厚さ割合が、20~80%、さらには20~55%であることが、インモールド加飾成形をする場合においては、表面樹脂層にシワや破れ等の欠陥を発生させにくく、シボ凹凸を正確に維持させやすく、また、反り等の少ない、良品の加飾成形体が得られやすくなる点から好ましい。
【0029】
以下、上述したような加飾成形用シートについて、その製造方法を参照しながら、さらに詳しく説明する。
【0030】
加飾成形用シートを形成する繊維基材は、不織布,織物,編物,またはそれらを組み合わせた繊維絡合体を含む。また、好ましくは、繊維絡合体に含浸付与された高分子弾性体を含む。
【0031】
繊維絡合体を形成する繊維の種類は特に限定されない。繊維を形成する樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),変性ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリトリメチレンテレフタレート(PTT),ポリトリエチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート,ポリプロピレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂;ポリ乳酸,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートアジペート,ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体等の脂肪族ポリエステル系樹脂;ナイロン6,ナイロン66,ナイロン610,ナイロン10,ナイロン11,ナイロン12,ナイロン6-12等のナイロン系樹脂;ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリブテン,ポリメチルペンテン,塩素系ポリオレフィン,エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0032】
繊維基材の製造に用いられる樹脂には、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、各種添加剤、具体的には、例えば、着色剤,着色防止剤,耐熱剤,難燃剤,滑剤,防汚剤,蛍光増白剤,艶消剤,光沢改良剤,制電剤,芳香剤,消臭剤,触媒,抗菌剤,防ダニ剤,無機微粒子等を必要に応じて配合してもよい。
【0033】
また、繊維絡合体を形成する繊維の繊度は特に限定されないが、1dtex以下、さらには0.001~0.8dtex、とくには0.001~0.1dtexの繊度を有する極細繊維を含むことが、充実感を兼ね備えたしなやかな風合いを備える繊維基材が得られやすい点から好ましい。極細繊維は、海島型複合繊維のような極細繊維形成型繊維を経て形成されるような、複数本の極細繊維が集束してなる繊維束として存在していてもよい。
【0034】
また、繊維基材は、繊維絡合体に含浸付与された高分子弾性体を含有することが好ましい。繊維絡合体に含浸付与される高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン,アクリロニトリルエラストマー,オレフィンエラストマー,ポリエステルエラストマー,ポリアミドエラストマー,アクリルエラストマー等が挙げられる。これらの中では、ポリウレタン、さらには、水系ポリウレタンエマルジョンを凝固して得られる水系ポリウレタンや、DMF等の有機溶剤に溶解したポリウレタンを湿式凝固させて得られる溶剤型ポリウレタンが物性のバランスに優れる点、また、とくには、水系ポリウレタンが低環境負荷性に優れる点から好ましい。繊維基材中の高分子弾性体の含有割合は特に限定されないが、1~50質量%、さらには5~30質量%であることが好ましい。
【0035】
これらの中では、ポリウレタンを含浸付与された極細繊維の不織布を含む繊維基材が、しなやかな風合いと、充実感及び形態安定性とに優れる加飾成形用シートが得られやすい点から好ましい。
【0036】
また、繊維基材の厚さはとくに限定されないが、0.1~2mm、さらには0.2~1.5mmであることが好ましい。また、繊維基材の見掛け密度は特に限定されないが、0.20~1.00g/cm3、とくには0.30~1.00g/cm3であることが好ましい。
【0037】
このような繊維基材の一面に、100%モジュラスが9~30MPaのポリウレタンを主体とする、厚さ20~150μmの高モジュラス層を含み、表面にシボ凹凸が形成された、70~200μmの総厚さを有する表面樹脂層を接着することにより、加飾成形用シートが得られる。
【0038】
ポリウレタンは、高分子ポリオール,有機ジイソシアネート化合物,鎖伸長剤及び、必要に応じて用いられる多官能性化合物や酸基含有化合物等を含むウレタン原料を反応させることにより得られる。
【0039】
高分子ポリオールの具体例としては、例えば、ポリプロピレンカーボネートジオール,ポリ(2-メチル-1,3-プロピレンカーボネート)ジオール,ポリテトラメチレンカーボネートジオール,ポリペンタメチレンカーボネートジオール,ポリヘキサメチレンカーボネートジオール,ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンカーボネート)ジオール,ポリペンタメチレンカーボネートジオール,ポリテトラメチレンカーボネートジオール,ポリオクタメチレンカーボネートジオール,ポリ(2-メチル-1,8-オクチレンカーボネート)ジオール,ポリノナメチレンカーボネートジオール,ポリデカメチレンポリカーボネートジオール,ポリドデカメチレンポリカーボネートジオール,等のポリカーボネート系ジオールまたはそれらの共重合体;ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリテトラメチレングリコール,ポリ(メチルテトラメチレングリコール)等のポリエーテル系ジオールまたはそれらの共重合体;ポリブチレンアジペートジオール,ポリブチレンセバケートジオール,ポリヘキサメチレンアジペートジオール,ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)ジオール,ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンセバケート)ジオール,ポリカプロラクトンジオール等のポリエステル系ジオールまたはそれらの共重合体;ポリエステルカーボネートジオール等の高分子ジオールが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
また、有機ジイソシアネート化合物の具体例としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート:イソホロンジイソシアネート,ノルボルネンジイソシアネート,4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート,1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン,1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネート;2,4-トリレンジイソシアネート,2,6-トリレンジイソシアネート,4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソシアヌレート型,ビウレット型,アダクト型等の3官能や4官能のイソシアネート等の分岐構造を与える多官能性化合物である、多官能イソシアネートやそのイソシアネートブロック体、等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
また、鎖伸長剤の具体例としては、例えば、ヒドラジン,エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,ノナメチレンジアミン,キシリレンジアミン,イソホロンジアミン,ピペラジンおよびそれらの誘導体;アジピン酸ジヒドラジド,イソフタル酸ジヒドラジド等のジアミン;ジエチレントリアミン等のトリアミン;トリエチレンテトラミン等のテトラミン;エチレングリコール,プロピレングリコール,1,4-ブタンジオール,1,6-ヘキサンジオール,1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン,1,4-シクロヘキサンジオール等のジオール;アミノエチルアルコール,アミノプロピルアルコール等のアミノアルコール等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
表面樹脂層を形成するためのポリウレタンの種類は、特に限定されず、具体的には、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン,ポリエステル系ポリウレタン,ポリカーボネート系ポリウレタン,ポリエーテル‐ポリエステル系ポリウレタン,シリコーン変性されたポリカーボネート系ポリウレタン,等のポリウレタンが挙げられる。
【0043】
また、表面樹脂層、または表面樹脂層を形成する各層は、ポリウレタンを主体とし、必要に応じて、顔料や染料等の着色剤、柔軟化剤、防汚剤、親水化剤、滑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤などの添加剤を含んでもよい。なお、ポリウレタンを主体とするとは、表面樹脂層、または表面樹脂層を形成する各層が、ポリウレタンを50質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有することを意味する。
【0044】
ポリウレタンの100%モジュラスは、ポリウレタンを重合するための、高分子ポリオール、有機ジイソシアネート化合物、及び鎖伸長剤を含むポリウレタン原料において、鎖伸長剤に由来するハードセグメントの割合を高くすることによりハードセグメントの凝集による強い疑似結晶構造を多くしたり、水素結合による凝集力を高くしたり、または、有機ジイソシアネート化合物として、芳香族ジイソシアネート化合物を多く用いることより、高くなる。
【0045】
そして、表面樹脂層は、100%モジュラスが9~30MPaで、且つ、厚さ20~150μmである高モジュラス層を含む。
【0046】
高モジュラス層の100%モジュラスは、20℃において9~30MPaであり、20~30MPaであることがとくに好ましい。高モジュラス層を含まない場合には、プリフォーム成形体を製造したり、加飾成形体を製造したり、する工程において、表面に形成されたシボ凹凸が変形しやすくなる。また、高モジュラス層の100%モジュラスが、30MPaを超える場合には、表面の触感が硬い樹脂ライクな加飾成形用シートになる。
【0047】
また、高モジュラス層の厚さは20~150μmであり、好ましくは20~100μm、とくに好ましくは20~80μmである。高モジュラス層の厚さが20μm未満である場合には、プリフォーム成形体を製造したり加飾成形体を製造したりする工程において、表面に形成されたシボ凹凸面が変化しやすくなり、また、インモールド加飾成形性が低下する傾向がある。また、高モジュラス層の厚さが150μmを超える場合には、表面の触感が硬い加飾成形用シートになり、また、インモールド加飾成形性が低下する傾向がある。
【0048】
そして、表面樹脂層が互いに異なる種類の100%モジュラスを有する複数層からなる積層構造を有する場合には、少なくとも何れかの層として高モジュラス層が含まれる。例えば、
図1に示したように、表皮層4と第1の中間層3と第2の中間層2とを含む積層構造を有する表面樹脂層5の場合、表皮層4と第1の中間層3と第2の中間層2のうちの少なくとも1層が高モジュラス層である。また、
図2に示したように、表皮層14と中間層12とを含む積層構造を有する表面樹脂層15の場合、表皮層14と中間層12のうちの少なくとも1層が高モジュラス層である。
【0049】
また、
図1に示したような表皮層4と第1の中間層3と第2の中間層2とを含む積層構造を有する表面樹脂層5の場合、表皮層4,第1の中間層3及び第2の中間層2の100%モジュラスの平均値が5~30MPaであることが好ましい。また、
図2に示したような表皮層14と中間層12とを含む積層構造を有する表面樹脂層15の場合、表皮層14及び中間層12の100%モジュラスの平均値が5~30MPaであることが好ましい。表面樹脂層の100%モジュラスの平均値が低すぎる場合には、プリフォーム成形体を製造したり加飾成形体を製造したりする工程において、シボ凹凸が変形しやすくなり、また、インモールド加飾成形性が低下する傾向がある。また、100%モジュラスの平均値が高すぎる場合には、表面の触感が硬い加飾成形用シートになる。
【0050】
また、積層構造を有する表面樹脂層の高モジュラス層以外の層の100%モジュラスは、0.1~8MPa、さらには、1~5MPa、であり、その厚さは、合計で20~100μm、さらには20~90μmであることが好ましい。このような高モジュラス層以外の層が厚すぎる場合には、プリフォーム成形体を製造したり加飾成形体を製造したりする工程において、表面に形成されたシボ凹凸面が変化しやすくなる傾向がある。
【0051】
以上説明したような、表面樹脂層の全体の総厚さは、70~200μmである。表面樹脂層の総厚さが薄すぎる場合には、高低差のあるシボ凹凸面を形成しにくくなる。また、表面樹脂層の総厚さが厚すぎる場合には、プリフォーム成形等による三次元的な形状を賦与しにくくなったり、インモールド加飾成形性が低下したりする傾向がある。
【0052】
そして、加飾成形用シートに積層された表面樹脂層は、表面にシボ凹凸を有する。シボ凹凸の形状は特に限定されないが、最大高さRzが60~120μm、さらには、70~100μmであることが、皮革調のシボ状の意匠が形成されやすい点から好ましい。また、算術平均粗さRaは、10~50μm、さらには、20~40μmであることが好ましい。
【0053】
このような、表面にシボ凹凸を有する表面樹脂層を形成する方法としては、例えば皮革調のシボ状の凹凸表面を有する離型紙を用いて表面樹脂層を形成する方法が挙げられる。具体的には、シボ状の凹凸表面を有する離型紙の表面に、上述したような各層を形成するためのポリウレタンを含む樹脂組成物の樹脂液を塗布し、固化させることによりシボ凹凸面を有する樹脂フィルムが形成される。詳しくは、例えば、
図1に示したような、表皮層4と第1の中間層3と第2の中間層2とを含む積層構造を有する表面樹脂層5を形成する場合には、シボ状の凹凸表面を有する離型紙に、表皮層4を形成するためのポリウレタンを含む樹脂組成物の樹脂液を塗布し、固化させた後、第1の中間層3を形成するためのポリウレタンを含む樹脂組成物の樹脂液を塗布し、固化させる。
【0054】
そして、凹凸表面を有する離型紙上に形成された第1の中間層3の表面に、接着層となる第2の中間層2を形成するためのポリウレタンを塗布し、繊維基材の表面に貼り合せて、必要により加熱プレスして接着した後、離型紙を剥離する。このようにして、本実施形態の加飾成形用シートを製造することができる。
【0055】
接着層となる中間層の厚さは特に限定されないが、15~100μm、さらには20~90μm、とくには30~80μmであることが好ましい。接着層が薄すぎる場合には、接着力が不充分になる傾向があり、厚すぎる場合には、プリフォーム成形等による三次元的な形状を賦与しにくくなる傾向がある。
【0056】
また、表面樹脂層の凹凸表面には、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、0.1~10μm程度のトップコート層がさらに形成されてもよい。このようなトップコート層を含む場合、トップコート層も表面樹脂層を構成するものとする。
【0057】
このようにして得られる加飾成形用シートの全体の厚さはとくに限定されないが、0.5~5mm、さらには、0.1~3mmであることが、プリフォーム成形体や加飾成形体を製造する際の成形性に優れる点から好ましい。また、加飾成形用シートの見かけ密度は0.3~1.5g/cm3、さらには0.6~1.2g/cm3であることが好ましい。
【0058】
以上説明した加飾成形用シートは、従来から知られた加飾成形用シートの用途に特に限定なく用いられる。具体的には、例えば、車両や航空機等の内装材、携帯電話,モバイル機器,家電製品等の筐体の外装素材、建材,家具雑貨,スポーツ用品等の外装素材等の用途に好ましく用いられる。
【0059】
本実施形態の加飾成形体は、被加飾成形体と、被加飾成形体の表面を加飾する加飾層とを備える加飾成形体であって、加飾層として、上述した加飾成形用シートを含む。このような加飾成形体は、熱プレス成形,真空成形,圧空成形,真空圧空成形等の熱成形により三次元的な形状を賦与されたプリフォーム成形体を製造し、プリフォーム成形体を金型内に収容して射出成形するインモールド加飾成形により製造される。また、別の方法としては、予め形成された被加飾成形体に、プリフォーム成形体を接着剤で貼り合わせることにより加飾成形体を製造する方法も挙げられる。さらに、別の方法としては、予め形成された被加飾成形体に、真空成形,圧空成形,真空圧空成形等の熱成形により、加飾成形用シートに三次元的な形状を賦与しながら、被加飾成形体に接着剤を介して接着して貼りわせることにより加飾成形体を製造する方法も挙げられる。
【0060】
以下、プリフォーム成形体を金型内に収容して射出成形する方法である、インモールド加飾成形する方法について、加飾成形体の製造方法の代表例として、詳しく説明する。
【0061】
加飾成形用シートを三次元形状に賦形してプリフォーム成形体を製造する方法としては、真空圧空成形,真空成形,圧空成形,熱プレス成形等が挙げられる。これらの中では、賦形性に優れる点から、真空圧空成形が特に好ましい。以下、代表例として、加飾成形用シートを真空圧空成形することにより、プリフォーム成形体を製造する方法について、詳しく説明する。
【0062】
図3は、真空圧空成形により、加飾成形用シート10をプリフォーム成形体に成形するための各工程を説明する説明図である。
【0063】
図3(a)に示すように、真空圧空成形機50は、上チャンバーボックス41及び下チャンバーボックス42と、ヒータ33と、テーブル44と、排気管45a,45bと、吸気管46a,46bとを備える。上チャンバーボックス41及び下チャンバーボックス42は、互いに対面し、それらを閉じることにより、ヒータ33とテーブル44とを内部に収容する気密チャンバーを形成する。テーブル44はピストン37により、上下動する。
【0064】
本実施形態のプリフォーム成形体の製造方法においては、はじめに、
図3(a)に示すように、テーブル44の上に基台31を配置し、その上に、型32を配置する。基台31は、テーブル44の上方に型32を配置するために設けられている。
【0065】
そして、
図3(b)に示すように、型32及び下チャンバーボックス42を覆うように加飾成形用シート10を配置する。
図3(b)においては、上チャンバーボックス41と下チャンバーボックス42との合わせ面Fに加飾成形用シート10を配置している。
【0066】
そして、
図3(c)に示すように、上チャンバーボックス41を下降させることにより、上チャンバーボックス41と下チャンバーボックス42とを閉じる。上チャンバーボックス41と下チャンバーボックス42とを閉じることにより、上チャンバーボックス41と加飾成形用シート10との間に気密な第1の空間S1が形成され、下チャンバーボックス42と加飾成形用シート10との間に気密な第2の空間S2が形成される。そして、図略の減圧ポンプにより、排気管45aから第1の空間S1の空気を排気し、排気管45bから第2の空間S2の空気を排気して減圧させる。このとき、第1の空間S1と第2の空間S2とは同じ圧力になるまで減圧される。
【0067】
そして、
図3(d)に示すように、加飾成形用シート10をヒータ33で加熱して軟化させる。そして、
図3(e)に示すように、テーブル44をピストン37で上昇させるとともに、上チャンバーボックス41に設けられた吸気管46aから第1の空間S1に空気を供給して気圧を上昇させ、必要に応じて、下チャンバーボックス42に設けられた排気管45bから第2の空間S2の空気を吸引して気圧をさらに降下させることにより、第1の空間S1と第2の空間S2との気圧差により、軟化した加飾成形用シート10が型32の表面に密着する。
【0068】
そして、
図3(f)に示すように、上チャンバーボックス41を上昇させて下チャンバーボックス42を開放し、また、テーブル44をさせることにより、型32の形状を転写したプリフォーム成形体30aが形成される。そして、型32からプリフォーム成形体30aを離型して取り出す。
【0069】
このような真空圧空成形においては、加熱された状態で、加飾成形用シート10が型32にプレスされる。このときに、表面樹脂層に形成されたシボ凹凸面の凹部が浅くなる等の形状の変化を生じることがある。本実施形態の加飾成形用シートによれば、加熱された状態で、型32が加飾成形用シート10を引き延ばしても、シボ凹凸面の形状が変化しにくくなる。
【0070】
このようにして成形されたプリフォーム成形体30aは、加飾する被加飾成形体の被着される面の形状に合わせてトリミングされる。このようにして、プリフォーム成形体30が得られる。そして、あらかじめ準備された被加飾成形体の被着される面に接着剤でプリフォーム成形体30を接着させたり、射出成形により成形される樹脂成形体である被加飾成形体の表面にプリフォーム成形体30を射出成形と同時に一体化するインモールド加飾成形したりすることに用いられる。このようにして、被加飾成形体に加飾成形用シート10を加飾層として積層一体化した加飾成形体が得られる。
【0071】
次に、プリフォーム成形体30を用いてインモールド加飾成形することにより、加飾成形用シートを加飾層として積層一体化した加飾成形体を成形する方法について、
図4を参照して詳しく説明する。本実施形態の加飾成形用シートを用いたプリフォーム成形体によれば、表面樹脂層にシボ凹凸を正確に維持させやすい。
【0072】
図4中、30はプリフォーム成形体,22aは可動側型,22bは固定側型,23は射出成形機の射出部本体,23aはノズル,23bはシリンダ,23cはインラインスクリュ,24は樹脂流入口,7は樹脂成形体,7aは溶融樹脂,40は加飾成形体である。可動側型22aと固定側型22bとは一対になってキャビティcを形成する射出成形金型22を構成する。なお、本実施形態においては、可動側型22aは射出成形金型の雌型、固定側型22bは射出成形金型の雄型である。
【0073】
はじめに、
図4(a)に示すように、可動側型22aのキャビティを形成するための凹部にプリフォーム成形体30を収容する。このとき、プリフォーム成形体30は、プリフォーム成形体30の表面樹脂層のシボ凹凸面が可動側型22aの凹部の表面に接触するように配置される。
【0074】
次に、
図4(b)に示すように、可動側型22aと固定側型22bとを型締めする。そして、
図4(c)に示すように、可動側型22aと固定側型22bとを型締めした状態で形成されるキャビティcに溶融樹脂7aを充填する。詳しくは、射出成形機の射出部23を前進させ、ノズル23aを固定側型22bに形成された樹脂流入口24に当接させ、シリンダ23b内で溶融樹脂7aをインラインスクリュ23cで射出することにより、溶融樹脂7aが所定の充填圧でキャビティcに充填される。
【0075】
射出成形条件は、射出される樹脂の熱特性や溶融粘度、樹脂成形体の形状、および樹脂厚みに応じて条件(樹脂温度、金型温度、射出圧力、射出速度、射出後の保持圧力、冷却時間)が適宜設定される。
【0076】
成形される射出成形体の樹脂の種類はとくに限定されない。その具体例としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂,PMMA樹脂のようなアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、各種ナイロン、COP樹脂等が挙げられる。これらの中では、射出成形体に一体化させるインモールド加飾成形、とくには、250℃を超えるような樹脂温度で射出成形されるポリカーボネート樹脂等の樹脂を射出する場合において、表面樹脂層にシワや破れ等の欠陥を発生させずに、反り等の少ない、良品の加飾成形体が得られやすくなる。
【0077】
また、成形される射出成形体の厚さも特に限定されず、用途や成形性に応じて適宜選択される。例えば、家電製品の筐体に用いる場合には、0.3~2mm、さらには0.5~1.5mmが好ましい範囲として選ばれる。
【0078】
そして、射出成形の冷却工程において、可動側型22aと固定側型22bとが型締めした状態で形成されるキャビティc内で成形された樹脂成形体である被加飾成形体7と被加飾成形体7に積層されたプリフォーム成形体30とが一体化された積層体を所定の時間冷却した後、
図4(d)に示すように、可動側型22aと固定側型22bとを型開きして、成形された被加飾成形体7とプリフォーム成形体30とが積層一体化された加飾成形体40が取り出される。
【0079】
このようなインモールド加飾成形においては、加飾成形用シート10のシボ凹凸面に金型の表面が接触した状態で、射出成形の際にシボ凹凸面から表面樹脂層が圧縮される。本実施形態の加飾成形用シートによれば、金型がシボ凹凸面に接触しても表面樹脂層が変形しにくいために、シボ凹凸面の変形を生じさせにくくなる。
【実施例0080】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0081】
はじめに、本実施例で用いた繊維基材について以下にまとめて説明する。
【0082】
・PET不織布:長繊維の海島型複合繊維の不織布から海成分を除去することにより得られた、単繊維繊度0.08dtexのPETの極細繊維の繊維束を絡合させた見掛け密度0.225g/cm3の不織布に、架橋されたポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを含浸付与して形成された、厚さ1.45mmの繊維基材。なお、繊維基材の不織布/ポリウレタンの質量比は90/10であった。
・ナイロン不織布:長繊維の海島型複合繊維の不織布から海成分を除去することにより得られた、単繊維繊度0.002dtexの6ナイロンの極細繊維の繊維束を絡合させた見掛け密度0.310g/cm3の不織布に、架橋されたポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを含浸付与して形成された、厚さ1.3mmの繊維基材。なお、繊維基材のポリウレタン/不織布の質量比は80/20であった。
・PET編物:単繊維繊度4.2dtexのPET繊維の編物であり、目付207g/m2、厚さ0.53mm、見掛け密度0.391g/cm3の編物。
【0083】
また、本実施例で用いた、表面樹脂層を形成するためのポリウレタン溶液について、以下にまとめて説明する。なお、各ポリウレタン溶液の溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、または、DMFと酢酸エチルとの混合溶媒の何れかであった。また、必要に応じて、固形分として20質量%程度の顔料を配合した。
【0084】
(表面樹脂層)
・100%モジュラス3.5MPaのポリカーボネート系ポリウレタンの固形分20%の溶液:DIC(株)製S-121
・100%モジュラス7.6MPaのシリコーン変性ポリカーボネート系ポリウレタンの固形分20%の溶液:DIC(株)NY328FTR
・100%モジュラス11MPaのポリカーボネート系ポリウレタンの固形分30%の溶液:DIC(株)MP-865PS
・100%モジュラス20MPaのポリカーボネート系ポリウレタンの固形分30%の溶液:DIC(株)MP-865PSとDIC(株)MP-886PSを質量比1対1でブレンド
・100%モジュラス29MPaのポリカーボネート系ポリウレタンの固形分30%の溶液:DIC(株)MP-886PS
(接着層)
・100%モジュラス2.5MPaのポリカーボネート系ポリウレタンの固形分70%の溶液:DIC(株)TA205FT
【0085】
なお、表面樹脂層を形成する各層の100%モジュラスは、以下のようにして測定した。
上述した各ポリウレタン溶液を平滑な離型紙上に塗布し、100℃で30分間乾燥することにより、厚さ約400μmのフィルムを作成した。そして、2.5cm幅に切り出したものを万能材料試験機(米国インストロン社製、Instron5566)を用いて、20℃で、引張速度200mm/minの条件で引張試験を行った。そして、得られたSSカーブの伸度100%の強力を読み取り、フィルム厚さと2.5cm幅から得られた断面積で割り、100%モジュラス(MPa)を求めた。
【0086】
[実施例1~8,比較例1~5]
シボ付き離型紙(旭ロール(株)製AR-64M、シボ凹凸面の算術平均粗さRa95μm)の表面に表面樹脂層形成用のポリウレタン溶液を塗布し、80℃で10分間乾燥することにより表皮層を形成し、同様の手順で表皮層の表面に、必要に応じて第1の中間層を形成した。そして、形成された表皮層または第1の中間層の表面に、接着用のポリウレタン溶液をさらに塗布し、50℃で3分間乾燥することにより接着層である第2の中間層を形成した。なお、各実施例及び比較例において、表面樹脂層の各層を形成するために、表1に示したような、100%モジュラスを有するポリウレタンを用いた。また、実施例2~5,7,8,比較例1~5では、第1の中間層を形成しなかった。
【0087】
そして、繊維基材の一面にシボ付き離型紙の表面に形成された表面樹脂層の接着層を貼り合わせ、80℃で2分間加熱プレスした。なお、各実施例及び比較例において、繊維基材は、表1に示したものを用いた。そして、表面樹脂層からシボ付き離型紙を剥離した。このようにして銀付調の樹脂層を備える人工皮革である加飾成形用シートを得た。
【0088】
そして、加飾成形用シートをタテ40cm×ヨコ50cmに切断した。そして、真空圧空成形機(布施真空(株)製、NGF-0406-T)を用いて、型温120℃,成形圧力300kPaの条件で成形することにより、プリフォーム成形体を製造した。
【0089】
そして、得られたプリフォーム成形体を、シボ凹凸面が金型表面に接触するように、射出成形機の金型の、プリフォーム成形体の形状に沿った形状を有するキャビティ内に配置した。そして、射出成形機により、樹脂温度320℃、金型温度25℃、射出圧力50MPaの条件を中心として、最適な成形条件を探索しながらポリカーボネート樹脂を金型内に射出した。このようにして、化粧品コンパクトケースの形状(直径約80mm、高さ10mm、厚さ3mmのドーム形状)を有する加飾成形体をインモールド加飾成形した。
【0090】
得られた加飾成形用シート、プリフォーム成形体及び加飾成形体を下記評価方法に従って評価した。
【0091】
(加飾成形用シート、樹脂層及び繊維基材の厚さ)
加飾成形用シートの表面樹脂層と繊維基材とを片刃カミソリで切り離し、表面樹脂層の厚さ方向の断面の厚さを走査型電子顕微鏡(SEM)で画像を撮影し、各層の厚さを測定した。測定は満遍なく選択した5箇所で行い、その平均値を求めた。
【0092】
(表面樹脂層の100%モジュラスの平均値)
以下の式により算出した。
・(表皮層の100%モジュラス×表皮層の厚さ)+(第1の中間層の100%モジュラス×第1の中間層の厚さ)+(第2の中間層の100%モジュラス×第2の中間層の厚さ)/(表皮層の厚さ+第1の中間層の厚さ+第2の中間層の厚さ)
【0093】
(加飾成形用シート,プリフォーム成形体及び加飾成形体の、最大高さRz及び算術平均粗さRaの測定)
加飾成形用シート,プリフォーム成形体及び加飾成形体の、表面樹脂層のシボ凹凸面の表面粗さを非接触式の表面粗さ・形状測定機である「デジタルマクロスコープVHX-6000」((株)キーエンス製)を用いて測定した。具体的には、表面樹脂層のシボ凹凸面の18mm×24mmの範囲を高輝度LEDから照射された構造化照明光により、400万画素モノクロC-MOSカメラで50倍の倍率で歪みの生じた縞投影画像撮影を行った。そして、得られた画像を解析処理して加飾成形用シートの最大高さRz及び算術平均粗さRaを算出した。
【0094】
そして、加飾成形用シートの最大高さRzに対する、プリフォーム成形体及び加飾成形体の最大高さRzの割合を算出した。
【0095】
(加飾成形体の表面の触感)
A:皮革調の柔らかさを有する弾性を示した。
B:弾性は感じるが、皮革調の柔らかさを有する弾性は感じなかった。
C:弾性を感じず、硬質樹脂の触感であった。
【0096】
(インモールド加飾成形性)
上述したインモールド加飾成形により得られた、化粧品コンパクトケースの形状を有する加飾成形体の加飾面を目視し、以下の基準で評価した。
A:通常の成形条件で成形したときに、加飾成形体の反りも小さく、表面樹脂層にシワやひずみや割れの発生がなかった。
B:通常の成形条件で成形したときに、表面樹脂層にシワ又はひずみや割れが発生することがあった。一方、成形条件を詳細に探索することにより、表面樹脂層のシワ,ひずみ,割れ、及びシボ凹凸の形状の変形を改善させることができた。
C:通常の成形条件で成形したときには、表面樹脂層にシワやひずみや割れが発生し、加飾成形体にも反りが発生したりして良品が得られなかった。また、成形条件を詳細に探索しても、良品が得られなかった。
【0097】
結果を表1に示す。
【0098】
【0099】
表1を参照すれば、100%モジュラスが9~30MPaのポリウレタンを主体とする、厚さ20~150μmの高モジュラス層を含む表面樹脂層を有する実施例1~8で得られた加飾成形用シートを用いた場合には、プリフォーム成形体及び加飾成形体においてもシボ凹凸面が高い割合で維持されていた。また、実施例1~4,6,8で得られた加飾成形用シートを用いた場合には、インモールド加飾成形性にも優れていた。なお、高モジュラス層が厚く、高モジュラス層の厚さ割合も高い実施例5で得られた加飾成形用シートを用いた場合には、インモールド加飾成形性がやや低下した。
【0100】
一方、高モジュラス層を含まない表面樹脂層を有する比較例1,4,5で得られた加飾成形用シートを用いた場合には、プリフォーム成形体及び加飾成形体においてもシボ凹凸面が高い割合で維持されなかった。また、厚さ15μmの高モジュラス層を含む比較例2で得られた加飾成形用シートを用いた場合も、プリフォーム成形体及び加飾成形体においてもシボ凹凸面が高い割合で維持されなかった。また、厚さ160μmの高モジュラス層を含む比較例3で得られた加飾成形用シートを用いた場合、皮革調の弾性のある触感がなかった。