(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143101
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】曲げ成形制御装置、曲げ成形装置および曲げ成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 7/14 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B21D7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050305
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100195659
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】藤村 南
(72)【発明者】
【氏名】太田 英一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 正哉
(72)【発明者】
【氏名】新原 正倫
(72)【発明者】
【氏名】古島 剛
【テーマコード(参考)】
4E063
【Fターム(参考)】
4E063AA04
4E063BB04
4E063CA03
4E063LA09
(57)【要約】
【課題】曲げ成形された長尺状部材の計測結果を用いて補正を行う技術の向上を図る技術を提供する。
【解決手段】曲げ成形制御装置は、長尺状部材の一の面に押し当てられることにより、長尺状部材を曲げ成形する曲げツールの移動を制御する移動制御部と、曲げ成形時における曲げツールの位置を表す曲げツール位置の候補と、候補による曲げ成形後の長尺状部材の予測曲率と、が対応付けられた予測モデルを用いて、曲げツール位置を決定する位置決定部と、位置決定部で決定された曲げツール位置により実際に曲げ成形された長尺状部材の曲率である実曲率を計測する計測部と、実曲率と、実曲率が得られた曲げツール位置に対応する予測曲率と、の曲率誤差を演算する誤差演算部と、当該曲率誤差を用いて、予測モデルにおける候補の各々と、各々の候補による予測曲率と、の対応関係を補正する補正部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ成形制御装置であって、
長尺状部材の一の面に押し当てられることにより、前記長尺状部材を曲げ成形する曲げツールの移動を制御する移動制御部と、
曲げ成形時における前記曲げツールの位置を表す曲げツール位置の候補と、前記候補による曲げ成形後の前記長尺状部材の予測曲率と、が対応付けられた予測モデルを用いて、前記曲げツール位置を決定する位置決定部と、
前記位置決定部で決定された前記曲げツール位置により実際に曲げ成形された前記長尺状部材の曲率である実曲率を計測する計測部と、
前記実曲率と、前記実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、の曲率誤差を演算する誤差演算部と、
当該曲率誤差を用いて、前記予測モデルにおける前記候補の各々と、各々の前記候補による前記予測曲率と、の対応関係を補正する補正部と、を備える、曲げ成形制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の曲げ成形制御装置であって、さらに、
前記実曲率と、前記実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、を対応付けて保管する保管部を備え、
前記補正部は、前記保管部に保管された前記実曲率および前記予測曲率を用いて、前記予測モデルにおける前記候補の各々と、各々の前記候補による前記予測曲率との対応関係を補正する、曲げ成形制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の曲げ成形制御装置であって、
前記計測部は、曲げ成形途中の前記長尺状部材のうち、曲げ成形を終えた部分における前記実曲率である部分実曲率を計測し、
前記誤差演算部は、前記部分実曲率と、前記部分実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、の曲率誤差を演算し、
前記補正部は、前記部分実曲率に基づいて演算された当該曲率誤差を用いて、前記予測モデルにおける前記候補の各々と、各々の前記候補による前記予測曲率との対応関係を補正し、
前記移動制御部は、前記部分実曲率を計測した前記長尺状部材のうち曲げ成形を終えていない部分の曲げ成形を実行する際、補正された前記予測モデルを用いて決定された前記曲げツール位置に前記曲げツールを移動させる、曲げ成形制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の曲げ成形制御装置であって、
前記計測部は、曲げ成形終了後の前記長尺状部材を区分けした区間の各々における前記実曲率である区間実曲率を計測し、
前記誤差演算部は、前記区間実曲率と、前記区間実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、の曲率誤差を演算し、
前記補正部は、前記区間実曲率に基づいて演算された当該曲率誤差を用いて、前記予測モデルにおける前記候補の各々と、各々の前記候補による前記予測曲率との対応関係を補正し、
前記移動制御部は、新たな前記長尺状部材の曲げ成形を実行する際、補正された前記予測モデルを用いて決定された前記曲げツール位置に前記曲げツールを移動させる、曲げ成形制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の曲げ成形制御装置であって、
前記誤差演算部は、
前記区間実曲率と、前記区間実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、の曲率誤差に加えて、
曲げ成形終了後の前記長尺状部材が曲げ成形途中であった際に計測された前記部分実曲率と、前記部分実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、の曲率誤差を演算し、
前記補正部は、前記部分実曲率および前記区間実曲率に基づいて演算された各々の曲率誤差を用いて、前記予測モデルにおける前記候補の各々と、各々の前記候補による前記予測曲率との対応関係を補正し、
前記移動制御部は、新たな前記長尺状部材の曲げ成形を実行する際、補正された前記予測モデルを用いて決定された前記曲げツール位置に前記曲げツールを移動させる、曲げ成形制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の曲げ成形制御装置であって、
前記補正部は、前記区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差に対する重み付けを、前記部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差に対する重み付けより大きくして、前記予測モデルにおける前記曲げツール位置の候補と前記予測曲率との各々の対応関係を補正する、曲げ成形制御装置。
【請求項7】
曲げ成形装置であって、
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の曲げ成形制御装置と、
前記曲げツールと、を備える、曲げ成形装置。
【請求項8】
曲げ成形方法であって、
長尺状部材の一の面に押し当てられることにより、前記長尺状部材を曲げ成形する曲げツールの移動を制御する移動制御工程と、
曲げ成形時における前記曲げツールの位置を表す曲げツール位置の候補と、前記候補による曲げ成形後の前記長尺状部材の予測曲率と、が対応付けられた予測モデルを用いて、前記曲げツール位置を決定する位置決定工程と、
前記位置決定工程で決定された前記曲げツール位置により実際に曲げ成形された前記長尺状部材の曲率である実曲率を計測する計測工程と、
前記実曲率と、前記実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、の曲率誤差を演算する誤差演算工程と、
当該曲率誤差を用いて、前記予測モデルにおける前記候補の各々と、各々の前記候補による前記予測曲率と、の対応関係を補正する補正工程と、を備える、曲げ成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ成形制御装置、曲げ成形装置および曲げ成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、加工対象の部材を所望の形状に成形する工作機械において、成形の精度を高めるために様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、長尺状部材を曲げ加工して屈曲部材を製造する製造装置において、長尺状部材のうち曲げ加工が行われた部分の三次元形状の計測結果に基づいて、後に曲げ加工が行われる部分の三次元形状を予め補正加工することにより、曲げ加工に伴う横断面の寸法変化の抑制を図る技術が開示されている。また、特許文献2には、工作機械を数値制御する数値制御装置において、機械学習を行った学習済み推論モデルを持つ推論部に推論用データセットを入力することで、加工精度の悪化を招くびびり振動の発生を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-252567号公報
【特許文献2】国際公開2020/208893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1に開示された技術は、長尺状部材を曲げ加工する際の曲げ具合が一定であって、且つ、曲げ加工される長尺状部材の横断面が一定であることを前提としている。すなわち、特許文献1に開示された技術は、長尺状部材のうち曲げ加工が行われた部分(計測される部分)の曲げ具合もしくは加工前の横断面が、後に曲げ加工が行われる部分の曲げ具合もしくは横断面と異なる場合には適用できない。このため、曲げ成形された長尺状部材の計測結果を用いて補正を行う技術には改善の余地があった。また、特許文献2に開示された技術では、工作機械におけるびびり振動の発生を判定しており、長尺状部材の曲げ成形については、何ら考慮されていない。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、曲げ成形された長尺状部材の計測結果を用いて補正を行う技術の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、曲げ成形制御装置が提供される。この曲げ成形制御装置は、長尺状部材の一の面に押し当てられることにより、前記長尺状部材を曲げ成形する曲げツールの移動を制御する移動制御部と、曲げ成形時における前記曲げツールの位置を表す曲げツール位置の候補と、前記候補による曲げ成形後の前記長尺状部材の予測曲率と、が対応付けられた予測モデルを用いて、前記曲げツール位置を決定する位置決定部と、前記位置決定部で決定された前記曲げツール位置により実際に曲げ成形された前記長尺状部材の曲率である実曲率を計測する計測部と、前記実曲率と、前記実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、の曲率誤差を演算する誤差演算部と、当該曲率誤差を用いて、前記予測モデルにおける前記候補の各々と、各々の前記候補による前記予測曲率と、の対応関係を補正する補正部と、を備える。
【0008】
この構成によれば、計測した実曲率と、当該実曲率が得られた曲げツール位置に対応する予測曲率と、の曲率誤差を用いて、予測モデルにおける曲げツール位置の候補の各々と、各々の候補による曲げ成形後の長尺状部材の予測曲率との対応関係を補正する。このため、実際の曲げ成形に用いられた候補の曲げツール位置による実曲率を用いて演算された曲率誤差を用いて、予測モデルのうち、実際の曲げ成形に用いられた候補の曲げツール位置と、当該候補による予測曲率と、の対応関係だけではなく、当該候補とは異なる他の候補の曲げツール位置と、当該他の候補による予測曲率と、の対応関係も併せて補正することができる。したがって、当該他の候補の曲げツール位置により次回実際に曲げ成形した際には、曲率誤差が小さくなっている可能性が高い。すなわち、この構成によれば、実曲率が得られた曲げツール位置で次回曲げ成形する際の精度のみならず、他の曲げツール位置で次回曲げ成形する際の精度も併せて向上することができる。よって、この構成によれば、曲げ成形された長尺状部材の計測結果を用いて補正を行う技術の向上を図ることができる。
【0009】
(2)上記形態の曲げ成形制御装置において、さらに、前記実曲率と、前記実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、を対応付けて保管する保管部を備え、前記補正部は、前記保管部に保管された前記実曲率および前記予測曲率を用いて、前記予測モデルにおける前記候補の各々と、各々の前記候補による前記予測曲率との対応関係を補正してもよい。
この構成によれば、保管部には予測モデルを補正する直前に計測された実曲率およびその実曲率に対応する予測曲率のみならず、それより過去に計測された実曲率およびその実曲率に対応する予測曲率も保管可能である。このため、そのような保管部に保管された実曲率および予測曲率を予測モデルの補正に用いることができるため、予測モデルの補正における精度を向上させることができる。その結果、長尺状部材を狙いの形状(曲率)に曲げ成形する際の精度を向上することができる。
【0010】
(3)上記形態の曲げ成形制御装置において、前記計測部は、曲げ成形途中の前記長尺状部材のうち、曲げ成形を終えた部分における前記実曲率である部分実曲率を計測し、前記誤差演算部は、前記部分実曲率と、前記部分実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、の曲率誤差を演算し、前記補正部は、前記部分実曲率に基づいて演算された当該曲率誤差を用いて、前記予測モデルにおける前記候補の各々と、各々の前記候補による前記予測曲率との対応関係を補正し、前記移動制御部は、前記部分実曲率を計測した前記長尺状部材のうち曲げ成形を終えていない部分の曲げ成形を実行する際、補正された前記予測モデルを用いて決定された前記曲げツール位置に前記曲げツールを移動させてもよい。
この構成によれば、曲げ成形途中の長尺状部材のうち曲げ成形を終えた部分の部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差を用いて、予測モデルが補正される。そして、補正された予測モデルを用いて、長尺状部材のうち曲げ成形を終えていない部分の曲げ成形が実行される。このため、長尺状部材の曲げ成形途中に補正した予測モデルを用いて、長尺状部材のうち未だ曲げ成形を終えていない部分の曲げ成形における曲率誤差を小さくすることができる。したがって、曲げ成形途中であったとしても、長尺状部材のうち未だ曲げ成形を終えていない部分を狙いの形状(曲率)に曲げ成形する際の精度を向上することができる。
【0011】
(4)上記形態の曲げ成形制御装置において、前記計測部は、曲げ成形終了後の前記長尺状部材を区分けした区間の各々における前記実曲率である区間実曲率を計測し、前記誤差演算部は、前記区間実曲率と、前記区間実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、の曲率誤差を演算し、前記補正部は、前記区間実曲率に基づいて演算された当該曲率誤差を用いて、前記予測モデルにおける前記候補の各々と、各々の前記候補による前記予測曲率との対応関係を補正し、前記移動制御部は、新たな前記長尺状部材の曲げ成形を実行する際、補正された前記予測モデルを用いて決定された前記曲げツール位置に前記曲げツールを移動させてもよい。
この構成によれば、曲げ成形終了後の長尺状部材を区分けした区間の各々における区間実曲率を用いて演算された曲率誤差を用いて、予測モデルが補正される。そして、補正された予測モデルを用いて、新たな長尺状部材の曲げ成形が実行される。曲げ成形終了後の長尺状部材を計測して得られる区間実曲率は、曲げ成形途中の長尺状部材のうち曲げ成形を終えた部分を計測して得られる部分実曲率と比べて、信頼性が高い傾向にある。このため、信頼性が高い区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差を用いて予測モデルが補正されることから、高い予測精度の予測モデルを構築することができる。その結果、新たな長尺状部材を狙いの形状(曲率)に曲げ成形する際の精度を向上することができる。
【0012】
(5)上記形態の曲げ成形制御装置において、前記誤差演算部は、前記区間実曲率と、前記区間実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、の曲率誤差に加えて、曲げ成形終了後の前記長尺状部材が曲げ成形途中であった際に計測された前記部分実曲率と、前記部分実曲率が得られた前記曲げツール位置に対応する前記予測曲率と、の曲率誤差を演算し、前記補正部は、前記部分実曲率および前記区間実曲率に基づいて演算された各々の曲率誤差を用いて、前記予測モデルにおける前記候補の各々と、各々の前記候補による前記予測曲率との対応関係を補正し、前記移動制御部は、新たな前記長尺状部材の曲げ成形を実行する際、補正された前記予測モデルを用いて決定された前記曲げツール位置に前記曲げツールを移動させてもよい。
この構成によれば、部分実曲率および区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差を用いて、予測モデルにおける曲げツール位置の候補の各々と、各々の候補による曲げ成形後の長尺状部材の予測曲率との対応関係を補正する。このため、異なる時点で計測される多様な実曲率に基づいて演算された各々の曲率誤差を用いて予測モデルが補正されることから、高い予測精度の予測モデルを構築することができる。
【0013】
(6)上記形態の曲げ成形制御装置において、前記補正部は、前記区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差に対する重み付けを、前記部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差に対する重み付けより大きくして、前記予測モデルにおける前記曲げツール位置の候補と前記予測曲率との各々の対応関係を補正してもよい。
この構成によれば、予測モデルの補正において、信頼性が高い傾向にある区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差を、部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差より強く反映させることができるため、高い予測精度の予測モデルを構築することができる。
【0014】
(7)本発明の一形態によれば、曲げ成形装置が提供される。この曲げ成形装置は、上記形態に記載の曲げ成形制御装置と、前記曲げツールと、を備える。
この曲げ成形装置によれば、長尺状部材を狙いの形状(曲率)に精度よく成形することができる。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、曲げ成形制御装置、曲げ成形方法、曲げ成形制御装置を含むシステム、これら装置、方法、システムにおいて実行されるコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1施形態の曲げ成形制御装置の構成を例示した説明図である。
【
図2】長尺状部材が曲げ成形されている状況を示す説明図である。
【
図4】予測モデル構築処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】曲げ成形された長尺状部材上の部分を示した説明図である。
【
図6】長尺状部材上の部分における狙いの曲率半径を例示した説明図である。
【
図7】補正された予測モデルの一例を示した説明図である。
【
図8】補正された予測モデルの一例を示した説明図である。
【
図9】長尺状部材を曲げ成形した際の曲げツール位置を示した説明図である。
【
図10】曲げ成形終了後の長尺状部材の曲率測定を示した説明図である。
【
図11】補正された予測モデルの一例を示した説明図である。
【
図12】曲げ成形した長尺状部材の計測結果を示す説明図である。
【
図13】曲げ成形後の長尺状部材の形状を示す説明図である。
【
図14】曲げ成形後の長尺状部材の形状を示す説明図である。
【
図15】曲げ成形後の長尺状部材の形状における最大誤差を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としての曲げ成形制御装置1の構成を例示した説明図である。曲げ成形制御装置1は、後述する
図2で示されるように、加工対象である管状の長尺状部材LGを長手方向に沿って送りながら長尺状部材LGに対して曲げツール33を押し当てることにより、長尺状部材LGを曲げ成形する一連の工程を制御する。曲げ成形制御装置1は、CPU10と、入力部21と、表示部23と、保管部25と、を備える。
【0018】
入力部21は、作業者からの入力を受け付けるキーボードおよびマウスで構成され、入力された情報をCPU10に送信する。表示部23は、各種画像を表示可能なモニタであり、CPU10から送信された情報に応じて、各種情報を表示する。保管部25は、詳細を後述する予測モデル、実曲率および予測曲率等のデータを保管している。
【0019】
CPU10は、図示されていないROM(Read Only Memory)に記憶されているプログラムをRAM(Ramdom Access Memory)に展開することにより、プログラムを実行する。CPU10は、位置決定部11と、移動制御部13と、計測部15と、誤差演算部17と、補正部19として機能する。
【0020】
図2は、長尺状部材LGが曲げ成形されている状況を示す説明図である。
図2には、相互に直交するXYZ軸を図示する。
図2において、長尺状部材LGは、図示しない送りツールにより白抜き矢印の送り方向(
図2では+X軸方向)に送られつつ、対向して配置される複数の保持ツール31の間で移動可能に保持されている。また、保持ツール31より+X軸方向側に設けられた曲げツール33は、Z軸方向に沿って移動可能に構成されている。曲げツール33pの位置は、+Z軸方向に移動を開始する前の初期位置における曲げツール33の位置を示している。曲げツール33は、+Z軸方向側に移動して長尺状部材LGの一の面(
図2では-Z軸方向側を向いた面)に押し当てられることにより、+X軸方向に送られてくる長尺状部材LGを曲げ成形する。この曲げツール33と、
図1の曲げ成形制御装置1と、を合わせて、曲げ成形装置と呼ぶこともできる。計測機構35は、X軸方向に沿って移動可能に構成され、長尺状部材LGの曲率を計測する。
【0021】
図1の説明に戻り、CPU10の各機能について説明する。CPU10は、位置決定部11として機能することにより、曲げ成形時における曲げツール33の位置を表す曲げツール位置の候補と、その候補による曲げ成形後の長尺状部材LGの予測曲率と、が対応付けられた予測モデルを用いて、曲げツール位置を決定する。
【0022】
図3は、予測モデルM1の一例を示した説明図である。
図3の縦軸は、曲げツール位置を示し、
図3の横軸は、曲率(予測曲率)を示す。後述する
図7,8,11の縦軸および横軸についても同様である。
図3に示されるように、曲率と曲げツール位置とのうち一方を入力として予測モデルM1に適用すると、曲率と曲げツール位置とのうちその入力に対応する他方が決定される。このように、位置決定部11として機能するCPU10は、入力部21を介して作業者から狙いの形状(曲率)の入力(例えば、
図3の点D1で示される曲率の入力)を受け付けた場合、その入力を予測曲率として予測モデルに適用することにより、その予測曲率に長尺状部材LGを曲げ成形する曲げツール位置を演算して決定する。これら予測曲率および曲げツール位置は、表示部23に表示されて作業者に確認される。そして、表示された曲げツール位置による曲げ成形を許可する入力を作業者が行った場合、CPU10は、後述する移動制御部13として機能する。一方、位置決定部11として機能するCPU10は、入力部21を介して作業者から曲げツール位置の入力(例えば、
図3の点D1で示される曲げツール位置の入力)を受け付けた場合、その入力を、長尺状部材LGを曲げ成形する曲げツール位置として決定するとともに予測モデルに適用することにより、その曲げツール位置により曲げ成形した際の長尺状部材LGの予測曲率を演算する。これら予測曲率および曲げツール位置は、表示部23に表示されて作業者に確認される。そして、表示された予測曲率を確認したうえで、決定された曲げツール位置による曲げ成形を許可する入力を作業者が行った場合、CPU10は、次に説明する移動制御部13として機能する。
【0023】
CPU10は、移動制御部13として機能することにより、曲げツール33の移動を制御する。具体的には、CPU10は、曲げ成形が許可された際の曲げツール位置に曲げツール33を移動させて長尺状部材LGの一の面に押し当てることにより、長尺状部材LGの曲げ成形を実行する。なお、曲げ成形時には、曲げツール位置の制御に加えて、その曲げツール位置に曲げツール33が配置された状態で送り方向(
図2では+X軸方向)に送られる長尺状部材LGの送り量についても制御される。
【0024】
次に、CPU10は、計測部15として機能することにより、位置決定部11で決定された曲げツール位置により実際に曲げ成形された長尺状部材LGの曲率である実曲率を計測する。具体的には、CPU10は、計測機構35をX軸方向に沿って移動させることにより、実際に曲げ成形された長尺状部材LGの実曲率を計測する。この実曲率は計測されるたびに、その実曲率が得られた曲げツール位置に対応する予測曲率と対応付けられて、保管部25に保管される。
【0025】
次に、CPU10は、誤差演算部17として機能することにより、計測機構35により計測された実曲率と、その実曲率が得られた曲げツール位置に対応する予測曲率と、の曲率誤差を演算する。ここで、実曲率が得られた曲げツール位置に対応する予測曲率とは、実曲率に長尺状部材LGを曲げ成形した曲げツール位置と予測モデル上において対応する予測曲率のことである。曲率誤差は、長尺状部材LGの曲げ具合が予測曲率となるよう、その予測曲率に対応する候補の曲げツール位置で曲げ成形を行った際の、その予測曲率と、実際に曲げ成形された長尺状部材LGの曲率(実曲率)と、の差のことである。
【0026】
次に、CPU10は、補正部19として機能することにより、誤差演算部17として機能した際に演算された曲率誤差を用いて、予測モデルを補正する。この予測モデルの補正の詳細は後述する。
【0027】
図4は、予測モデル構築処理の手順の一例を示すフローチャートである。予測モデル構築処理は、長尺状部材LGに対する曲げ成形を繰り返すごとに演算される曲率誤差を用いて予測モデルを補正することにより、高い予測精度の予測モデルを構築する処理である。本実施形態の曲げ成形制御装置1では、予測モデル構築処理において、長尺状部材LGに対して実際に曲げ成形を行うことによって予測モデルを構築する。予測モデル構築処理は、入力部21を介した作業者からの開始入力により開始される。
【0028】
予測モデル構築処理が開始されると、CPU10は、まず初めに、作業者からの入力を受け付ける(ステップS10)。このとき、CPU10が入力部21を介して作業者から受け付ける入力は、狙いの形状(曲率)、もしくは、曲げツール位置である。次に、CPU10は、位置決定部11として機能することにより、保管部25に保管された予測モデル(例えば、
図3に例示の予測モデルM1)を参照して、作業者が入力した情報から、曲げツール位置を決定する(ステップS20)。決定された曲げツール位置は、表示部23に表示される。
【0029】
次に、CPU10は、曲げ成形が許可されたか判定する(ステップS25)。具体的には、CPU10は、入力部21を介して作業者から曲げ成形を許可する入力を受け付けたか否かに応じて、曲げ成形が許可されたか判定する。曲げ成形が許可されなかった場合(ステップS25:NO)、CPU10は、再びステップS10の処理を実行する。
【0030】
曲げ成形が許可された場合(ステップS25:YES)、CPU10は、移動制御部13として機能することにより、ステップS20の処理時に決定された曲げツール位置に曲げツール33を移動させて長尺状部材LGの一の面に押し当てることにより、長尺状部材LGの曲げ成形を実行する(ステップS30)。このときの長尺状部材LGの送り量は、一定であってもよいし、ステップS30の処理が実行される前の任意のタイミングで設定されてもよい。
【0031】
次に、CPU10は、計測部15として機能することにより、ステップS30の処理により曲げ成形された長尺状部材LGの実曲率を計測する(ステップS40)。実曲率を計測後、CPU10は、誤差演算部17として機能することにより、その実曲率と、その実曲率が得られた曲げツール位置に対応する予測曲率と、の曲率誤差を演算する(ステップS50)。曲率誤差の演算後、CPU10は、補正部19として機能することにより、予測モデルを補正する(ステップS60)。このとき補正により更新された予測モデルは、保管部25に保管される。
【0032】
次に、CPU10は、曲げ成形を続行するか判定する(ステップS65)。具体的には、CPU10は、入力部21を介して作業者から曲げ成形を続行する入力を受け付けたか否かに応じて、曲げ成形を続行するか判定する。曲げ成形を続行する場合(ステップS65:YES)、CPU10は、再びステップS10の処理を実行して、作業者から新たな入力を受け付けたのち、ステップS20にて補正後の予測モデルを用いた処理を実行する。曲げ成形を続行しない場合(ステップS65:NO)、CPU10は、予測モデル構築処理を終了する。
【0033】
図5は、曲げ成形された長尺状部材LG上の部分P1、P2、P3を示した説明図である。部分P1、P2、P3は、予測モデル構築処理におけるステップS10~60の一連の処理が3回繰り返されることによって曲げ成形された部分である。なお、
図5の長尺状部材LGにおいて部分P1が初めに曲げ成形された区間である。
【0034】
図6は、長尺状部材LG上の部分P1、P2、P3における狙いの曲率半径を例示した説明図である。
図6の縦軸は、曲率半径を示し、
図6の横軸は、長尺状部材LGの送り量を示す。長尺状部材LGの送り量のうち、0~360mmの範囲が部分P1にあたり、360~720mmの範囲および720~1080mmの範囲がそれぞれ部分P2および部分P3に当たる。
図6に示されるように、部分P1、P2、P3における各々の狙いの曲率半径は、600mm、1200mm、2400mmである。
【0035】
図7は、補正された予測モデルM2の一例を示した説明図である。予測モデルM2は、予測モデルM1(
図7では一点鎖線にて図示)に対して、部分P1の曲げ成形(
図4のステップS10~60の処理)実行時に補正を行うことにより構築された予測モデルである。部分P1では、予測モデルM1を用いて点D1が示す曲げツール位置により曲げ成形が行われたが、実際に曲げ成形された部分P1の曲率は、点D1で示される曲率(予測曲率)ではなく、点R1で示される曲率(実曲率)であった。このとき、部分P1の曲げ成形時のステップS50において、CPU10は、誤差演算部17として機能することにより、点R1で示される曲率(実曲率)と、点D1で示される曲率(予測曲率)と、の曲率誤差を演算したのち、補正部19として機能することにより、この曲率誤差を用いて、予測モデルM1を補正して予測モデルM2を構築する。すなわち、CPU10は、補正部19として機能することにより、予測モデルにおける曲げツール位置の候補の各々と、各々の候補の曲げツール位置による曲げ成形後の長尺状部材LGの予測曲率と、の対応関係を補正する。具体的に説明すると、CPU10は、
図7に示すように、予測モデルM1を補正して予測モデルM2を構築することにより、実際の曲げ成形に用いられた点D1で示される曲げツール位置と予測曲率との対応関係だけではなく、点D1とは異なる予測モデルM1上の点における曲げツール位置と予測曲率との対応関係も併せて補正する。なお、予測モデルM1の補正においては、比例項の補正係数が用いられる。このようにして構築された予測モデルM2を用いて、部分P2の曲げ成形(
図4のステップS10~60の処理)が実行される。
【0036】
図8は、補正された予測モデルM3の一例を示した説明図である。予測モデルM3は、予測モデルM2(
図8では二点鎖線にて図示)に対して、部分P2の曲げ成形(
図4のステップS10~60の処理)実行時に補正を行うことにより構築された予測モデルである。部分P2では、予測モデルM2を用いて点D2が示す曲げツール位置により曲げ成形が行われたが、実際に曲げ成形された部分P2の曲率は、点D2で示される曲率(予測曲率)ではなく、点R2で示される曲率(実曲率)であった。そこで、部分P2の曲げ成形時のステップS50において、CPU10は、点R2で示される曲率(実曲率)と、点D2で示される曲率(予測曲率)と、の曲率誤差を用いて、予測モデルM2を補正して予測モデルM3を構築する。なお、予測モデルM2の補正においては、比例項及び指数項の補正係数が用いられる。
【0037】
図5、
図7および
図8を用いて説明したように、CPU10は、計測部15として、曲げ成形途中の長尺状部材LGのうち、曲げ成形を終えた部分における実曲率である部分実曲率を計測する。
図5を用いて説明すると、部分P1(もしくは部分P2)の曲げ成形を終えた時点で、長尺状部材LGのうち曲げ成形を終えた部分にあたる部分P1(もしくは部分P2)の部分曲率を計測する。また、CPU10は、誤差演算部17として、計測された部分実曲率(
図7の点R1、
図8の点R2)と、その部分実曲率が得られた曲げツール位置に対応する予測曲率(
図7の点D1、
図8の点D2)と、の曲率誤差を演算し、補正部19として、その曲率誤差を用いて、それまでの予測モデルを補正して新たな予測モデルを構築する。新たな予測モデルの構築後、CPU10は、移動制御部13として、部分実曲率を計測した長尺状部材LGのうち曲げ成形を終えていない部分の曲げ成形を実行する際、新たな予測モデルを用いて決定された曲げツール位置に曲げツール33を移動させる。すなわち、
図5を用いて説明すると、部分P1の曲げ成形後には、予測モデルM2を用いて部分P2の曲げ成形を実行し、部分P2の曲げ成形後には、予測モデルM3を用いて部分P3の曲げ成形を実行するということである。このように、CPU10は、長尺状部材LGに対する部分的な曲げ成形を繰り返すごとに演算される曲率誤差を用いて予測モデルを補正することにより、予測モデルによる予測精度を向上させていく。
【0038】
図9は、長尺状部材LG上の部分P1、P2、P3を曲げ成形した際の曲げツール位置を示した説明図である。長尺状部材LGの送り量に対する部分P1、P2、P3の範囲は
図6と同様である。
図9に示す実線は、
図3で示した予測モデルM1を用いて部分P1~P3を狙いの形状に曲げ成形する場合の曲げツール位置を示している。
図9に示す破線は、
図7で示した予測モデルM2を用いて部分P2、P3を狙いの形状に曲げ成形する場合の曲げツール位置を示している。
図9に示す一点鎖線は、
図8で示した予測モデルM3を用いて部分P3を狙いの形状に曲げ成形する場合の曲げツール位置を示している。上述したように、CPU10は、長尺状部材LGに対する部分的な曲げ成形を繰り返すごとに予測モデルを補正することから、部分P1では、予測モデルM1(実線)を用いて決定した曲げツール位置で曲げ成形し、部分P2では、更新された予測モデルM2(破線)を用いて決定した曲げツール位置で曲げ成形し、部分P3では、更新された予測モデルM3(一点鎖線)を用いて決定した曲げツール位置で曲げ成形する。
【0039】
図10は、曲げ成形終了後の長尺状部材LGの曲率測定を示した説明図である。
図10の長尺状部材LGのうち領域MRは、曲げ成形された領域を示している。領域MRは、長尺状部材LG上の部分P1、P2、P3を合わせた領域である。CPU10は、曲げ成形終了後の長尺状部材LGにおける実曲率も計測する。具体的には、CPU10は、曲げ成形終了後の長尺状部材LGのうち領域MRを区分けした区間の各々における実曲率である区間実曲率を計測する。
図10においては、長尺状部材LGのうち領域MRを区分けした区間の各々の区間実曲率が計測される。この区間実曲率が計測される際、長尺状部材LGのうち領域MRは、送り方向に送られて保持ツール31および曲げツール33からの荷重を取り除かれた状態で実曲率を計測されることから、同荷重がかかっている状態で領域MRを計測した場合と比べて、より信頼性の高い実曲率が得られる。計測機構35は、X軸方向に沿って移動することにより、領域MRにおける長尺状部材LGの実曲率を計測する。なお、計測機構35pの位置は、+X軸方向に移動を開始する前の初期位置における計測機構35の位置を示している。CPU10は、誤差演算部17として機能することにより、計測された区間実曲率と、その区間実曲率が得られた曲げツール位置に対応する予測曲率と、の曲率誤差を演算する。そして、CPU10は、補正部19として機能することにより、区間実曲率に基づいて演算されたその曲率誤差を用いて、それまでの予測モデルを補正して新たな予測モデルを構築する。
【0040】
図11は、補正された予測モデルM4の一例を示した説明図である。予測モデルM4は、
図8に示した予測モデルM3(
図11では一点鎖線にて図示)に対して、曲げ成形終了後の区間実曲率を用いて演算された曲率誤差に基づく補正を行うことにより構築された予測モデルである。上述したように、長尺状部材LGの曲げ成形終了後、CPU10は、区間実曲率を計測したのち、その区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差を用いて、予測モデルを補正する。長尺状部材LGのうち領域MRに保持ツール31および曲げツール33からの荷重がかかっている状態(すなわち、長尺状部材LGが曲げ成形途中である状態)では、領域MRにおける部分P1,P2(
図5に図示)を曲げ成形した際の曲げツール位置および実曲率(部分実曲率)は、点R1,R2(
図11に図示)で示される。一方、領域MRに対する保持ツール31および曲げツール33からの荷重が取り除かれた状態(すなわち、長尺状部材LGが曲げ成形終了後である状態)では、領域MRにおける部分P1,P2(
図5に図示)に相当する区間を曲げ成形した際の曲げツール位置および実曲率(区間実曲率)は、点R3,R4(
図11に図示)で示される。ここで、区間実曲率が計測される時点での予測モデルは予測モデルM3であることから、点R3,R4で示される区間実曲率にとって点R1,R2で示される曲率は、その区間実曲率が得られた曲げツール位置に対応する予測曲率にあたる。したがって、曲げ成形終了後において、CPU10は、点R3,R4で示される区間実曲率と、点R1,R2で示される予測曲率と、の曲率誤差を用いて、予測モデルM3を補正して予測モデルM4を構築する。なお、予測モデルM3の補正においては、比例項及び指数項の補正係数が用いられる。予測モデルM4の構築後、CPU10は、移動制御部13として、長尺状部材LGの次に新たな長尺状部材の曲げ成形を実行する際、予測モデルM4を用いて決定された曲げツール位置に曲げツール33を移動させる。
【0041】
図12は、曲げ成形制御装置1により曲げ成形した長尺状部材LGの計測結果を示す説明図である。
図6で説明したように、部分P1、P2、P3における各々の狙いの曲率半径は、600mm、1200mm、2400mmである。
図12のうち「比較対象」は、長尺状部材LGの部分P1、P2、P3の曲げ成形において、すべて予測モデルM1(
図3)により決定された曲げツール位置を用いる曲げ成形制御装置を示している。
図12のうち「成形中の計測値」は、曲げ成形途中の状態にある長尺状部材LGの部分P1、P2、P3を計測した際の曲率半径(部分実曲率の逆数)の値を示している。
図12のうち「全体形状計測値」は、曲げ成形終了後の状態にある長尺状部材LGの部分P1、P2、P3に相当する区間を計測した際の曲率半径(区間実曲率の逆数)の値を示している。
図12のうち「1本目」は、曲げ成形制御装置1により曲げ成形された1本目の長尺状部材LGを示している。
図12のうち「2本目」は、曲げ成形制御装置1により曲げ成形された2本目の長尺状部材LGを示している。
図12に示された3桁や4桁の数字は、曲率半径の値を示している。
【0042】
曲げ成形制御装置1による1本目の長尺状部材LGの曲げ成形途中においては、部分P1、P2、P3の各部分における曲げ成形が終了するごとに曲げ成形を終えた部分の部分実曲率を計測して、予測モデルの更新を繰り返す(予測モデルM1、M2、M3に相当)。曲げ成形制御装置1による1本目の長尺状部材LGの曲げ成形終了後においては、部分P1、P2、P3の各部分に相当する区間の区間実曲率を計測して、さらに予測モデルを更新する(予測モデルM4に相当)。そして、曲げ成形制御装置1による2本目の長尺状部材LGの部分P1を曲げ成形する際においては、区間実曲率に基づいて更新された予測モデル(予測モデルM4に相当)により決定された曲げツール位置が用いられる。その後は1本目と同様、2本目の長尺状部材LGの曲げ成形途中においても、各部分における曲げ成形が終了するごとに曲げ成形を終えた部分の部分実曲率を計測して、予測モデルの更新を繰り返す。
【0043】
図12に示されるように、比較対象による曲げ成形結果と比べて、曲げ成形制御装置1による曲げ成形結果は、1,2本目のいずれにおいても、狙いの曲率半径に対する誤差が低減している。また、曲げ成形制御装置1による曲げ成形結果において、1本目の結果と2本目の結果とを比較すると、概ね2本目の方が狙いの曲率半径に対する誤差が更に低減している。
【0044】
図13は、比較対象による曲げ成形後の長尺状部材LGの形状を示す説明図である。
図13の縦軸は、Z座標上の位置を示し、
図13の横軸は、X座標上の位置を示す。このX座標およびZ座標は、
図2に示したXYZ軸で表される座標と一致する。
図13に示す破線は、狙いの曲率半径に曲げ成形できた場合の長尺状部材LGの形状を示している。
図13に示す実線は、比較対象による曲げ成形後の長尺状部材LGの形状を示している。
【0045】
図14は、曲げ成形制御装置1による曲げ成形後の長尺状部材LGの形状を示す説明図である。
図14の縦軸および横軸は、
図13と同様である。
図14に示す破線は、
図13と同様に、狙いの曲率半径に曲げ成形できた場合の長尺状部材LGの形状を示している。
図14に示す実線は、曲げ成形制御装置1による曲げ成形後の1本目の長尺状部材LGの形状を示している。
図14に示す一点鎖線は、曲げ成形制御装置1による曲げ成形後の2本目の長尺状部材LGの形状を示している。
図13および
図14に示された各々の長尺状部材LGの形状からも、比較対象による曲げ成形と比べて曲げ成形制御装置1による曲げ成形の方が狙いの曲率半径に対する誤差が少ないことや、曲げ成形制御装置1による曲げ成形においては概ね2本目の方が1本目より更に誤差が少ないことが示された。
【0046】
図15は、曲げ成形後の長尺状部材LGの形状の、狙いの曲率半径に対する最大誤差を示した説明図である。比較対象により曲げ成形された長尺状部材LGでは、狙いの曲率半径に対する最大誤差は193mmであった。一方、曲げ成形制御装置1により曲げ成形された1本目の長尺状部材LGにおける最大誤差は63mmであり、2本目の長尺状部材LGにおける最大誤差は15mmであった。
図15に示された結果からも、
図13および
図14と同様に、比較対象による曲げ成形、曲げ成形制御装置1による1本目の曲げ成形、曲げ成形制御装置1による2本目の曲げ成形の順に、誤差が少なくなることが示された。
【0047】
以上説明したように、第1実施形態の曲げ成形制御装置1によれば、計測した実曲率と、当該実曲率が得られた曲げツール位置に対応する予測曲率と、の曲率誤差を用いて、予測モデルにおける曲げツール位置の候補の各々と、各々の候補による曲げ成形後の長尺状部材LGの予測曲率との対応関係を補正する。このため、実際の曲げ成形に用いられた候補の曲げツール位置による実曲率を用いて演算された曲率誤差を用いて、予測モデルのうち、実際の曲げ成形に用いられた候補の曲げツール位置と、当該候補による予測曲率と、の対応関係だけではなく、当該候補とは異なる他の候補の曲げツール位置と、当該他の候補による予測曲率と、の対応関係も併せて補正することができる。したがって、当該他の候補の曲げツール位置により次回実際に曲げ成形した際には、曲率誤差が小さくなっている可能性が高い。すなわち、第1実施形態の曲げ成形制御装置1によれば、実曲率が得られた曲げツール位置で次回曲げ成形する際の精度のみならず、他の曲げツール位置で次回曲げ成形する際の精度も併せて向上することができる。よって、第1実施形態の曲げ成形制御装置1によれば、曲げ成形された長尺状部材の計測結果を用いて補正を行う技術の向上を図ることができる。
【0048】
また、第1実施形態の曲げ成形制御装置1では、曲げ成形途中の長尺状部材LGのうち曲げ成形を終えた部分の部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差を用いて、予測モデルが補正される。そして、補正された予測モデルを用いて、長尺状部材LGのうち曲げ成形を終えていない部分の曲げ成形が実行される。このため、長尺状部材LGの曲げ成形途中に補正した予測モデルを用いて、長尺状部材LGのうち未だ曲げ成形を終えていない部分の曲げ成形における曲率誤差を小さくすることができる。したがって、曲げ成形途中であったとしても、長尺状部材LGのうち未だ曲げ成形を終えていない部分を狙いの形状(曲率)に曲げ成形する際の精度を向上することができる。
【0049】
また、第1実施形態の曲げ成形制御装置1では、曲げ成形終了後の長尺状部材LGを区分けした区間の各々における区間実曲率から演算された曲率誤差を用いて、予測モデルが補正される。そして、補正された予測モデルを用いて、新たな長尺状部材LGの曲げ成形が実行される。曲げ成形終了後の長尺状部材LGを計測して得られる区間実曲率は、曲げ成形途中の長尺状部材LGのうち曲げ成形を終えた部分を計測して得られる部分実曲率と比べて、信頼性が高い傾向にある。このため、信頼性が高い区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差を用いて予測モデルが補正されることから、高い予測精度の予測モデルを構築することができる。その結果、新たな長尺状部材LGを狙いの形状(曲率)に曲げ成形する際の精度を向上することができる。
【0050】
また、第1実施形態の曲げ成形制御装置1と曲げツール33とを備えた曲げ成形装置によれば、長尺状部材LGを狙いの形状(曲率)に精度よく成形することができる。
【0051】
<第2実施形態>
第2実施形態の曲げ成形制御装置は、第1実施形態の曲げ成形制御装置1と比べて、予測モデルを補正するタイミングが異なる。第1実施形態の曲げ成形制御装置1では、長尺状部材LGの曲げ成形途中においては、各部分(例えば、部分P1、P2、P3)における曲げ成形が終了するごとに曲げ成形を終えた部分の部分実曲率を計測し、部分実曲率が計測されるごとに予測モデルの補正を行っていた。また、長尺状部材LGの曲げ成形終了後においても、部分P1、P2、P3の各部分に相当する区間の区間実曲率を計測し、その区間実曲率に基づいて、さらに予測モデルの補正を行っていた。一方、第2実施形態の曲げ成形制御装置では、長尺状部材LGの曲げ成形途中においては、各部分(例えば、部分P1、P2、P3)における曲げ成形が終了するごとに曲げ成形を終えた部分の部分実曲率を計測するが、部分実曲率の計測を契機とした予測モデルの補正を行わない(このとき計測された部分実曲率およびその部分実曲率に対応する予測曲率は、保管部25に保管される)。第2実施形態の曲げ成形制御装置では、長尺状部材LGの曲げ成形終了後において、部分P1、P2、P3の各部分に相当する区間の区間実曲率を計測し、その区間実曲率および曲げ成形途中の際に計測された部分実曲率に基づいて、予測モデルの補正を行う。
【0052】
具体的には、第2実施形態では、CPU10は、誤差演算部17として、計測された区間実曲率と、その区間実曲率が得られた曲げツール位置に対応する予測曲率と、の曲率誤差に加えて、曲げ成形終了後の長尺状部材LGが曲げ成形途中であった際に計測された部分実曲率と、その部分実曲率が得られた曲げツール位置に対応する予測曲率と、の曲率誤差を演算する。そして、CPU10は、補正部19として、部分実曲率および区間実曲率に基づいて演算された各々の曲率誤差を用いて、それまでの予測モデルを補正して新たな予測モデルを構築する。すなわち、第2実施形態では、曲げ成形終了後に計測された区間実曲率およびその実曲率に対応する予測曲率のみならず、それより前の曲げ成形途中に計測されて保管部25に保管されていた部分実曲率およびその部分実曲率に対応する予測曲率も、予測モデルの補正に用いられる。
【0053】
そして、新たな予測モデルの構築後、CPU10は、移動制御部13として、新たな長尺状部材の曲げ成形を実行する際、補正された予測モデルを用いて決定された曲げツール位置に曲げツール33を移動させる。すなわち、
図5,7を用いて説明すると、第2実施形態の曲げ成形制御装置では、予測モデルM1を用いて部分P1、P2、P3の各部分の曲げ成形を実行して終了するごとに曲げ成形を終えた各部分の部分実曲率を計測するとともに、曲げ成形終了後に部分P1、P2、P3の各部分に相当する区間の区間実曲率を計測したのち、これら部分実曲率および区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差を用いて、予測モデルM1を補正するということである。ここで、部分実曲率および区間実曲率が計測される時点での予測モデルは予測モデルM1であることから、曲率誤差の演算に用いられる予測曲率は、区間実曲率が得られた曲げツール位置や部分実曲率が得られた曲げツール位置を予測モデルM1に適用して演算される予測曲率である。
【0054】
また、第2実施形態では、補正部19として機能するCPU10は、区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差に対する重み付けを、部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差に対する重み付けより大きくして、予測モデルの補正を行う。すなわち、新たな予測モデルの構築には、部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差よりも区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差の方が優先して反映される。
【0055】
以上のような第2実施形態の曲げ成形制御装置によっても、第1実施形態と同様に、実際の曲げ成形に用いられた候補の曲げツール位置と、当該候補による予測曲率と、の対応関係だけではなく、当該候補とは異なる他の候補の曲げツール位置と、当該他の候補による予測曲率と、の対応関係も併せて補正することができる。また、第2実施形態の曲げ成形制御装置では、保管部25に保管されていた部分実曲率およびそれに対応する予測曲率を区間実曲率およびそれに対応する予測曲率と併せて、予測モデルの補正に用いることができる。すなわち、異なる時点で計測される多様な実曲率に基づいて演算された各々の曲率誤差を用いて予測モデルが補正されることから、高い予測精度の予測モデルを構築することができる。
【0056】
また、第2実施形態の曲げ成形制御装置では、予測モデルの補正において、信頼性が高い傾向にある区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差を、部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差より強く反映させることができるため、このような点からも高い予測精度の予測モデルを構築することができる。
【0057】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0058】
[変形例1]
上記実施形態では、曲げ成形制御装置の加工対象は、管状の長尺状部材であったが、これに限られない。例えば、加工対象は、板状の長尺状部材であってもよい。
【0059】
[変形例2]
上記実施形態では、予測モデルM1の補正においてのみ、比例項の補正係数が用いられていたが、これに限られない。例えば、予測モデルの補正において、比例項の補正係数と比例項及び指数項の補正係数とのうちいずれを用いるかは作業者によって任意に決定されてもよい。
【0060】
[変形例3]
上記第1実施形態では、長尺状部材LGの曲げ成形途中においては、各部分における曲げ成形が終了するごとに曲げ成形を終えた部分の部分実曲率を計測して、予測モデルの更新を繰り返し、長尺状部材LGの曲げ成形終了後においては、各部分に相当する区間の区間実曲率を計測して、さらに予測モデルを更新していたが、これに限られない。例えば、予測モデルの更新は、長尺状部材LGの曲げ成形途中においてのみ行われてもよい。すなわち、各部分における曲げ成形が終了するごとに曲げ成形を終えた部分の部分実曲率を計測して、その部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差のみを用いて予測モデルの更新を繰り返してもよい。
【0061】
[変形例4]
上記第2実施形態では、区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差に対する重み付けを、部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差に対する重み付けより大きくして、予測モデルの補正を行っていたが、これに限られない。例えば、区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差に対する重み付けを、部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差に対する重み付けより小さくして、予測モデルの補正を行ってもよい。また、区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差に対する重み付けと、部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差に対する重み付けと、を等しくして、予測モデルの補正を行ってもよい。それぞれの重み付けの大きさは、作業者の経験に基づいて調整されてもよいし、区間実曲率に基づいて演算された曲率誤差と、部分実曲率に基づいて演算された曲率誤差と、の信頼性の度合の相関に基づいて調整されてもよい。
【0062】
[変形例5]
上記実施形態では、長尺状部材LGに対して実際に曲げ成形を行うことによって予測モデルを構築していたが、これに限られない。例えば、LS-DYNA等の成形シミュレーションモデルにより、成形シミュレーションで長尺状部材LGに対する曲げ成形を行うことによって予測モデルを構築してもよい。
【0063】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…成形制御装置
10…CPU
11…位置決定部
13…移動制御部
15…計測部
17…誤差演算部
19…補正部
21…入力部
23…表示部
25…保管部
31…保持ツール
33…曲げツール
35…計測機構