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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143210
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】レーダ装置用の反射抑制材
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/03 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
G01S7/03 246
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050470
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】長田 真幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AF03
(57)【要約】
【課題】広い角度範囲に対する電波の通過特性の容易な調整を可能とするレーダ装置用の反射抑制材を提供すること。
【解決手段】レーダ装置用の反射抑制材1は、衝突時の衝撃を緩和するバンパ4またはレーダ装置2を覆うカバーの内壁41に設けられ、レーダ装置2の前面を覆うように配置されるレーダ装置用の反射抑制材であって、誘電率がバンパ4又はカバーよりも低く、レーダ装置2側に突出する複数の突起部20を備え、突起部20は、錐体状又は錐台状に形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突時の衝撃を緩和する衝撃緩和部材またはレーダ装置を覆うカバーの内壁に設けられ、前記レーダ装置の前面を覆うように配置されるレーダ装置用の反射抑制材であって、
誘電率が前記衝撃緩和部材又は前記カバーよりも低く、前記レーダ装置側に突出する複数の突起部を備えるレーダ装置用の反射抑制材。
【請求項2】
前記突起部は、錐体状又は錐台状に形成される請求項1に記載のレーダ装置用の反射抑制材。
【請求項3】
前記突起部は、その先端部がR形状である請求項2に記載のレーダ装置用の反射抑制材。
【請求項4】
前記レーダ装置に対向するように配置される板状の土台部を更に備え、
複数の前記突起部は前記土台部から前記レーダ装置側に突出する請求項1~3のいずれかに記載のレーダ装置用の反射抑制材。
【請求項5】
前記衝撃緩和部材又は前記カバーに対する前記突起部の比誘電率の比が0.86未満である請求項1~4のいずれかに記載のレーダ装置用の反射抑制材。
【請求項6】
前記衝撃緩和部材又は前記カバーと前記突起部との間に配置される粘着層を更に備え、
前記粘着層の誘電率は、前記突起部の誘電率よりも高く、かつ前記衝撃緩和部材又は前記カバーの誘電率を超えない請求項1~5のいずれかに記載のレーダ装置用の反射抑制材。
【請求項7】
前記粘着層は、アクリル系材料によって形成される請求項6に記載のレーダ装置用の反射抑制材。
【請求項8】
前記衝撃緩和部材は、車両の塗装層を有するバンパである請求項1~7のいずれかに記載のレーダ装置用の反射抑制材。
【請求項9】
前記衝撃緩和部材又は前記カバーとともにレドム又は前記レーダ装置の車両への取り付け機構を構成する請求項1~8のいずれかに記載のレーダ装置用の反射抑制材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置用の反射抑制材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のバンパ等の衝撃緩和部材に取り付けられ、衝撃緩和部材に向かって照射させるレーダ装置からの電波の透過特性を改善する技術が知られている。この種の技術が記載されているものとして例えば特許文献1がある。特許文献1には、バンパの内壁に設けられ、電波の入射角に応じて高さが異なる複数の突起部を備える装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-200121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の装置では、正面方向及び正面以外の方向(広角方向)からの電波の通過特性を調整できるものの、電波の入射角に応じて突起部の高さを変更するので装置の構造が複雑になり、装置の製造や設計作業に手間がかかる。
【0005】
本発明は、広い角度範囲に対する電波の通過特性の容易な調整を可能とするレーダ装置用の反射抑制材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、衝突時の衝撃を緩和する衝撃緩和部材又はレーダ装置を覆うカバーの内壁に設けられ、前記レーダ装置の前面を覆うように配置されるレーダ装置用の反射抑制材であって、誘電率が前記衝撃緩和部材または前記カバーよりも低く、前記レーダ装置側に突出する複数の突起部を備えるレーダ装置用の反射抑制材に関する。
【0007】
前記突起部は、錐体状又は錐台状に形成されてもよい。
【0008】
前記突起部は、その先端部がR形状であってもよい。
【0009】
前記レーダ装置に対向するように配置される板状の土台部を更に備え、複数の前記突起部は前記土台部から前記レーダ装置側に突出してもよい。
【0010】
前記衝撃緩和部材又は前記カバーに対する前記突起部の比誘電率の比が0.86未満であってもよい。
【0011】
前記衝撃緩和部材又は前記カバーと前記突起部との間に配置される粘着層を更に備え、前記粘着層の誘電率は、前記突起部の誘電率よりも高く、かつ前記衝撃緩和部材又は前記カバーの誘電率を超えなくてもよい。
【0012】
前記粘着層は、アクリル系材料によって形成されてもよい。
【0013】
前記衝撃緩和部材は、車両の塗装層を有するバンパであってもよい。
【0014】
前記衝撃緩和部材又は前記カバーとともにレドム又は前記レーダ装置の車両への取り付け機構を構成されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、広い角度範囲に対する電波の通過特性の容易な調整を可能とするレーダ装置用の反射抑制材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】車両のバンパとレーダ装置との間に配置された本発明の一実施形態に係る反射抑制材を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る反射抑制材の突起部の第1変形例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る反射抑制材の突起部の第2変形例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る反射抑制材の突起部の第3変形例を示す図である。
図5】レーダ装置を固定するブラケットに設けられた本発明の一実施形態に係る反射抑制材を示す模式図である。
図6A】実施例1~6及び比較例における正面方向からの電波の通過特性と突起部の誘電率との関係を示すグラフである。
図6B】実施例1~6及び比較例における広角方向からの電波の通過特性と突起部の誘電率との関係を示すグラフである。
図7A】実施例7~9における正面方向からの電波の通過特性と土台部の厚みとの関係を示すグラフである。
図7B】実施例7~9における広角方向からの電波の通過特性と土台部の厚みとの関係を示すグラフである。
図8A】実施例10~12における正面方向からの電波の通過特性と土台部の厚みとの関係を示すグラフである。
図8B】実施例10~12における広角方向からの電波の通過特性と土台部の厚みとの関係を示すグラフである。
図9A】実施例6、13、14における正面方向からの電波の通過特性と土台部の厚みとの関係を示すグラフである。
図9B】実施例6、13、14における広角方向からの電波の通過特性と土台部の厚みとの関係を示すグラフである。
図10A】実施例15~17における正面方向からの電波の通過特性と土台部の厚みとの関係を示すグラフである。
図10B】実施例15~17における広角方向からの電波の通過特性と土台部の厚みとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るレーダ装置用の反射抑制材1について説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものでない。また、以下の説明において参照する各図は、本開示の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。即ち、本発明は、各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものでない。
【0018】
本実施形態に係るレーダ装置用の反射抑制材1は、車両100に搭載されるレーダ装置2からの電波が外部に送信される際の衝撃緩和部材(以下、バンパと称する)4における反射を抑制するための部材である。図1は、車両100のバンパ4に取り付けられた反射抑制材1を示す模式図である。まず、反射抑制材1について説明する前に、車両100とレーダ装置2の構成について説明する。
【0019】
車両100は、例えば自動四輪車であり、主に車体フレーム3と、バンパ4を備える。車体フレーム3は、車両100の骨格であり、その表面にレーダ装置2が取り付けられる。
【0020】
バンパ4は、車体フレーム3の外側を覆い、衝突時の衝撃を緩和する外装体であり、樹脂部材によって構成される。図1に示すように、車体フレーム3の表面とバンパ4の内壁41の間にはレーダ装置2や反射抑制材1が配置される空間Sが形成される。バンパ4を構成する樹脂部材としては、例えばポリプロピレン等が挙げられる。本実施形態のバンパ4は、ポリプロピレンによって構成され、誘電率が2.27である。なお、バンパ4は車両100の塗装層を有している。
【0021】
レーダ装置2は、電波を送受信し、車両100の周囲に存在する物標を検出する装置である。図1に示すように、レーダ装置2は、バンパ4と対向するとともにその視野中心が車両100の外側を向くように車体フレーム3に取り付けられる。レーダ装置2は、バンパ4を介して車両100の外側に電波を送受信する。即ち、バンパ4は、レーダ装置2とレーダ装置2によって検出される物標との間に介在する。本実施形態に係る反射抑制材1は、バンパ4におけるレーダ装置2からの電波が通過する位置に取り付けられる。
【0022】
ところで、バンパ4は軽量化やデザイン性、車両安全性等の観点から設計、製造され、空間Sの大きさも車両100の種類に応じて異なるので、バンパ4の厚みt1や空間Sの大きさ等をレーダ装置2からの電波の特性に合わせて調整することが難しい場合がある。本実施形態に係る反射抑制材1によれば、電波の通過特性を容易に調整できる。
【0023】
次に、反射抑制材1について図1を参照しながら説明する。反射抑制材1は、バンパ4の内壁41に設けられ、レーダ装置2の前面を覆うように配置される。具体的には、反射抑制材1は、少なくともレーダ装置2の視野中心方向である正面方向Aから正面方向Aに対して±70度の方向である広角方向Bまでの範囲の電波が通過する位置に取り付けられる。即ち、反射抑制材1は、正面方向Aから入射する電波と広角方向Bから入射する電波の反射を抑制可能な位置に取り付けられる。
【0024】
反射抑制材1は、土台部10と、複数の突起部20と、粘着層30と、を備える。
【0025】
土台部10は、板状であり、複数の突起部20の土台である。土台部10は、バンパ4及びレーダ装置2のそれぞれに対向するように配置される。土台部10のレーダ装置2側の面11には、複数の突起部20が形成される。
【0026】
複数の突起部20は、土台部10からレーダ装置2側に突出するように構成される。突起部20は、レーダ装置2側に向かって先細りとなる形状に形成される。具体的には、突起部20は、レーダ装置2が取り付けられる車体フレーム3に向かって先細りになる三角錐状、四角錐状等の多角錐状や円錐状等の錐体状に形成される。また複数の突起部20のそれぞれは、そのサイズや形状が略等しく形成される。即ち、複数の突起部20のそれぞれは、高さhやその底面(土台部10と接する面)の幅wが略等しく形成される。
【0027】
ここで、レーダ装置2から送信された電波が空気層からバンパ4等の樹脂層に入射する場合、その屈折率が極端に変化するため空気層と樹脂層との界面で反射波が発生する。この反射波と進行波との干渉によって電波の通過特性が低下する。
【0028】
これに対して、本実施形態の錐体状に形成される突起部20の構造により、空気層と樹脂層の界面が平坦な場合に比べて、界面の屈折率が連続的に変化するので、レーダ装置2から送信される電磁波の反射波を抑制できる。
【0029】
土台部10と複数の突起部20とは、同じ部材によって構成され、その誘電率が略等しい。本実施形態では、土台部10と複数の突起部20は一体成形されている。土台部10及び突起部20の素材としては、例えば、ポリプロピレン系の発泡性樹脂等が挙げられる。土台部10及び複数の突起部20の誘電率は、バンパ4よりも低い。本実施形態の土台部10及び突起部20の誘電率は1.35である。バンパ4に対する土台部10及び突起部20の誘電率は低い方が好ましい。
【0030】
粘着層30は、バンパ4と突起部20との間に配置され、バンパ4に反射抑制材1を接続する機能を有する。粘着層30は、アクリル系材料によって形成される。粘着層30の誘電率は、土台部10及び突起部20よりも高く、かつバンパ4の誘電率を超えないことが好ましい。本実施形態の粘着層30の誘電率は、バンパ4の誘電率と略等しい。
【0031】
ところで電波の透過特性は、バンパ4の厚みt1やバンパ4への入射角度等に応じて変化する。上述した特許文献1の技術によれば、電波の入射角度に応じてバンパ4に配置される突起部の高さhを変更することで、正面方向Aの電波と広角方向Bの電波の通過特性を調整している。しかしながら、電波の入射角度に応じて突起部の高さが異なるので、部材の構成が複雑になるとともに、車両100のバンパ4の厚みt1に応じて突起部の高さを調整する必要があり、製造や設計に手間がかかる。また、車両100によっては空間Sが狭くバンパ4とレーダ装置2との間の間隔が制限され、所定以上の高さの突起部を設けられない場合がある。
【0032】
これに対して本発明では、突起部20の誘電率をバンパ4の誘電率よりも低くすることで、正面方向Aから広角方向Bの広い角度範囲に対する電波の通過特性を調整できる。即ち、電波の入射角度に応じて突起部20の高さhを調整せずに、広い角度範囲に対する電波の通過特性の容易な調整を可能とする。また、バンパ4と略等しい誘電率の粘着層30の厚みt2を調整することで、バンパ4の厚みt1が照射される電波の周波数に適していない場合であっても、正面方向A及び広角方向Bの通過特性を向上させることができる。なお、反射抑制材1は、土台部10及び粘着層30を備えるが、土台部10や粘着層30を備えない構成であってもよい。即ち、複数の突起部20がバンパ4の内壁41からレーダ装置2側に突出するように構成されていてもよい。この場合、例えば錐体状の突起部20の底面をバンパ4の内壁41に接合することによってバンパ4に突起部20を取り付けてもよい。
【0033】
次に、反射抑制材1の変形例である反射抑制材1A~1Cについて説明する。図2は第1変形例に係る反射抑制材1Aを模式的に示す側面図であり、図3は第2変形例に係る反射抑制材1Bを模式的に示す側面図であり、図4は第3変形例に係る反射抑制材1Cを模式的に示す側面図である。
【0034】
反射抑制材1A~1Cは、図2図4に示すように、反射抑制材1とは突起部の構成が異なる。
【0035】
反射抑制材1Aは、図2に示すように、土台部10からレーダ装置2側に突出するように錐台状に形成される複数の突起部20Aを備える。突起部20Aは、レーダ装置2に向かって先細りになる三角錐台状や四角錐台状等の多角錐台状、円錐台状等の錐台状に形成される。図2に示す突起部20Aは、四角錐台状に形成されている。
【0036】
反射抑制材1Bは、図3に示すように、土台部10からレーダ装置2側に突出するように錐台状に形成される複数の突起部20Bを備える。突起部20Bは、レーダ装置2に向かって先細りになる三角錐台状や四角錐台状等の多角錐台状に形成されるとともに、先端部(レーダ装置2側の端部)がR形状である。図3に示す突起部20Bは、球状に丸められた、R形状の先端部を有する四角錐台状に形成されている。
【0037】
反射抑制材1Cは、図4に示すように、土台部10からレーダ装置2側に突出するように錐台状に形成される複数の突起部20Cを備える。突起部20Cは、レーダ装置2に向かって先細りになり、先端部がR形状である円錐台状に形成される。突起部20Cは、円錐台状の部材の先端部を面取りすることによって形成してもよく、三角錐台状や四角錐台状等の多角錐台状の表面を面取りすることによって形成してもよい。
【0038】
次に、第4変形例に係る反射抑制材1Dについて説明する。図5は、第4変形例に係る反射抑制材1Dを模式的に示す断面図である。
【0039】
反射抑制材1Dは、土台部10と、複数の突起部20と、粘着層30と、ブラケット部40と、を備える。反射抑制材1A~1Cは突起部の形状が反射抑制材1と異なっていたが、第4変形例に係る反射抑制材1Dは、ブラケット部40を備える点が反射抑制材1とは主に異なる。
【0040】
ブラケット部40は、箱状であり、その底面42にレーダ装置2を取り付けた状態で粘着層30を介してバンパ4に取り付けられる。具体的には、図5に示すようにブラケット部40は、反射抑制材1の土台部10と複数の突起部20を覆うようにバンパ4に取り付けられる。レーダ装置2と複数の突起部20は、ブラケット部40内で対向するよう位置関係となる。即ち、反射抑制材1Dは、バンパ4とともにレドム又はレーダ装置2の車両100への取り付け機構を構成する。
【実施例0041】
次に、本発明の実施例について説明する。本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<評価試験方法>
実施例では、衝撃緩和部材に実施例1~実施例17及び比較例の反射抑制材を取り付け、反射抑制材に向かって79GHzの周波数の電波を送信することで、正面方向A及び広角方向Bの電波の通過特性を確認した。反射抑制材が取り付けられる衝撃緩和部材として板状の樹脂部材(以下、試験用樹脂部材)を用いた。試験用樹脂部材は、ポリプロピレン樹脂であり、誘電率が2.27であるものを用いた。試験用樹脂部材の厚みは、1.9mm~2.8mmのものを用いた。そして、実施例1~実施例17及び比較例のそれぞれについて、反射抑制材が取り付けられる試験用樹脂部材の厚みを1.9mm~2.8mmまで0.1mm毎に変更し、正面方向A及び広角方向Bの電波の通過特性を確認した。
【0043】
<突起部の誘電率と通過特性の関係>
実施例1~実施例6及び比較例の反射抑制材を用いて確認した突起部の誘電率と電波の通過特性の関係について説明する。
【0044】
実施例1~実施例6として、土台部10を備えていない上記実施形態の反射抑制材1を用いた。実施例1~実施例6は、突起部20以外は全て同じ構成の反射抑制材1を用いた。実施例1~実施例6の突起部20は、形状が三角錐状、長さhが2.0mm、幅wが0.5であり、誘電率のみがそれぞれ異なる。実施例1~6の突起部20の誘電率は、実施例1が1.9、実施例2が1.8、実施例3が1.7、実施例4が1.6、実施例5が1.5、実施例6が1.35である。比較例として、突起部の誘電率が試験用樹脂部材と同じ2.27である点以外は実施例1と同じ構成の反射抑制材を用いた。
【0045】
<評価結果>
突起部の誘電率による通過特性の影響についての評価結果について図6A及び図6Bを参照しながら説明する。図6Aは、実施例1~実施例6及び比較例の反射抑制材を用いた場合における正面方向Aからの電波の通過特性と試験用樹脂部材の厚みt1と突起部20の誘電率との関係を示すグラフである。図6Bは、実施例1~実施例6及び比較例の反射抑制材を用いた場合における広角方向Bからの電波の通過特性と試験用樹脂部材の厚みt1と突起部20の誘電率との関係を示すグラフである。図6A及び図6Bの横軸は試験用樹脂部材の厚みt1を示し、縦軸は正面方向Aの電波の通過特性を示している。
【0046】
図6Aに示すように、誘電率が試験用樹脂部材よりも低い実施例1~実施例6では、試験用樹脂部材の厚みt1が2.3~2.8mmの範囲で、正面方向Aからの電波の通過特性が比較例に比べて高いことが確認できる。特に実施例1~実施例6では、試験用樹脂部材の厚みt1が2.5mmである場合に正面方向Aからの電波の通過特性が高いことが確認できる。一方、広角方向Bの電波の通過特性については、図6Bに示すように、試験用樹脂部材の誘電率と突起部の誘電率の差が大きくなるほど、通過特性が最も高くなる場合の試験用樹脂部材の厚みt1が厚くなることが確認できる。例えば比較例では試験用樹脂部材の厚みt1が2.3mmの場合に通過特性が最も高く、実施例1では厚みt1が2.4mmの場合、実施例2では厚みt1が2.5mmの場合、実施例4では厚みt1が2.6mmの場合に透過特性が最も高くなる。即ち、突起部の誘電率をバンパ4の誘電率よりも低い値で調整していくことで、正面方向Aの電波の通過特性が高い試験用樹脂部材の厚みt1で広角方向Bの電波の通過特性も高くなるように調整できる。即ち、正面方向Aからの電波の通過特性と広角方向Bからの電波の通過特性を両立させることができ、広い角度範囲で電波の反射を抑制することが可能となる。図6Aの比較例より通過特性が良好となる比誘電率の構成は、試験用樹脂部材(ポリプロピレン樹脂)に対する突起部20の比誘電率の比が0.86未満となる構成である。これにより、電波の反射をさらに抑制されることが可能となる。
【0047】
<土台部の高さと通過特性の関係>
次に、実施例6~実施例17の反射抑制材を用いて確認した土台部の厚みdと電波の透過特性の関係について説明する。
【0048】
実施例6~実施例17は、突起部20の高さh及び土台部10の厚みd以外は実施例6と同じ構成の反射抑制材1を用いた。表1は、実施例6~実施例17の反射抑制材1の突起部20の高さh及び土台部10の厚みdを示す表である。実施例6~実施例17の突起部20の高さh及び土台部10の厚みdは、表1に記載の通りである。
【0049】
【表1】
【0050】
<評価結果>
土台部の高さによる通過特性の影響についての評価結果について図7A図10Bを参照しながら説明する。図7A図8A図9A図10Aは、正面方向Aからの電波の通過特性と試験用樹脂部材の厚みt1との関係を示すグラフである。図7B図8B図9B図10Bは、広角方向Bからの電波の通過特性と試験用樹脂部材の厚みt1との関係を示すグラフである。図7A及び図7Bは実施例7~9の評価結果を示し、図8A及び図8Bは実施例10~12の評価結果を示し、図9A及び図9Bは実施例6、13、14の評価結果を示し、図10A及び図10Bは実施例15~17の評価結果を示している。図7A図10Bの横軸は試験用樹脂部材の厚みt1を示し、縦軸は電波の通過特性を示している。
【0051】
図7A図8A図9A図10Aに示すように、正面方向Aからの電波の通過特性は、土台部10の厚みdによる変化が少ないことが確認できる。一方で、図7B図8B図9B図10Bに示すように、広角方向Bからの電波の通過特性は、土台部10の厚みdによって変化することが確認できる。具体的には、土台部10の厚みdに応じて通過特性が最も高くなる試験用樹脂部材の厚みt1が変化する。例えば、図8Bに示すように、突起部20の高さhが1.5mmである場合、土台部10が0mm(実施例10)では厚みt1が2.8mm以上である場合の通過特性が最も高くなり、土台部10が0.5mm(実施例11)では厚みt1が約2.6mmである場合の通過特性が最も高くなり、土台部10が1.0mm(実施例12)では厚みt1が約2.4mmである場合の通過特性が最も高くなる。
【0052】
図7A図10Bに示す結果から、土台部10の厚みdを調整することで、突起部20の高さh1.0mm~3.0mm全ての場合における正面方向Aと広角方向Bの電波の通過特性を両立できることが確認できる。例えば、図7A及び図7Bに示すように、試験用樹脂部材の厚みt1が2.5mmであり、突起部20の高さhが1.0mmである場合、土台部10の厚みdを1.0mmとすることで正面方向Aと広角方向Bの両方向からの電波の通過特性が高くなる。また例えば、図8A及び図8Bに示すように、試験用樹脂部材の厚みt1が2.5mmであり、突起部20の高さhが1.5mmである場合、土台部10の厚みdを0.5mm又は1.0mmとすることで正面方向Aと広角方向Bの両方向からの電波の通過特性が高くなる。また例えば、図9A及び図9Bに示すように、試験用樹脂部材の厚みt1が2.5mmであり、突起部20の高さhが2.0mmである場合、土台部10の厚みdを0.5mmとすることで正面方向Aと広角方向Bの両方向からの電波の通過特性が高くなる。また例えば、図10A及び図10Bに示すように、試験用樹脂部材の厚みt1が2.5mmであり、突起部20の高さhが3.0mmである場合、土台部10を備えない構成とすることで正面方向Aと広角方向Bの両方向からの電波の通過特性が高くなる。即ち、突起部20の高さhが一定の場合であっても土台部10の厚みdを調整することで、正面方向Aからの電波の通過特性に合わせて広角方向Bからの電波の通過特性を向上させることができる。即ち、複数の突起部20の土台である土台部10の厚みdを調整するという簡易的な方法で、広い角度範囲で電波の反射を抑制できる。
【0053】
以上説明した実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
【0054】
本実施形態に係る反射抑制材1は、衝突時の衝撃を緩和するバンパ4の内壁41に設けられ、レーダ装置2の前面を覆うように配置されるレーダ装置用の反射抑制材1であって、誘電率がバンパ4よりも低く、レーダ装置2側に突出する複数の突起部20を備える。これにより、突起部20の誘電率をバンパ4の誘電率よりも低くすることで、正面方向Aからの電波の透過特性と広角方向Bからの電波の通過特性を調整できる。よって、広い角度範囲に対する電波の通過特性の容易な調整が可能となる。
【0055】
本実施形態に係る反射抑制材1において、突起部20は、錐体状又は錐台状に形成される。これにより、突起部20における空気層との界面の屈折率が連続的に変化するので、電波の反射波を抑制できる。
【0056】
本実施形態に係る反射抑制材1において、突起部20は、その先端部がR形状である。これにより、突起部20の先端部がR形状であっても、電波の反射波を抑制できる。
【0057】
本実施形態に係る反射抑制材1は、レーダ装置2に対向するように配置される板状の土台部10を更に備え、複数の突起部20は土台部10からレーダ装置2側に突出する。これにより、突起部20の高さhに応じて土台部10の厚みdを調整することで正面方向からの電波の通過特性に合わせて広角方向Bからの電波の通過特性をより向上させることができる。
【0058】
本実施形態に係る反射抑制材1において、バンパ4に対する突起部20の比誘電率の比が0.86未満である。これにより、正面方向Aからの電波の通過特性及び広角方向Bからの電波の通過特性をより向上させることができる。
【0059】
本実施形態に係る反射抑制材1において、バンパ4と突起部20との間に配置される粘着層30を更に備え、粘着層30の誘電率は、突起部20の誘電率よりも高く、かつバンパ4の誘電率と同程度が好ましい。これにより、バンパ4の厚みt1がレーダ装置2から送信される電波の周波数に適した厚みt1ではない場合であっても、粘着層30の厚みt2を変更することで、正面方向A及び広角方向Bにおける電波の反射をより抑制できる。
【0060】
本実施形態に係る反射抑制材1において、粘着層30は、アクリル系材料によって形成される。これにより、正面方向A及び広角方向Bからの電波の反射をより抑制できる。
【0061】
本実施形態に係る反射抑制材1において、衝撃緩和部材は、車両100の塗装層を有するバンパ4である。これにより、車両100の周囲の物標をより正確に検出できる。
【0062】
本実施形態に係る反射抑制材1において、バンパ4とともにレドム又はレーダ装置2の車両100への取り付け機構を構成する。これにより、車両100毎にバンパ4の厚みt1が異なっていても、レーダ装置2を車両100に取り付けるために設けられるブラケット部40の厚みを調整する必要がなく、ブラケットの部品点数を低減できる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0064】
上記実施形態では、土台部10と突起部20は、同じ部材によって構成され、一体成形されていたが、土台部10と突起部20が異なる部材によって構成されていてもよい。
【0065】
上記実施形態では、反射抑制材1がバンパ4の内壁41に設けられていたが、レーダ装置2を覆うカバーの内壁に設けられ、突起部20の誘電率がカバーの誘電率よりも低い構成であってもよい。このとき、カバーに対する突起部20の比誘電率の比が0.86未満であってもよい。また粘着層30の誘電率は、突起部20の誘電率よりも高く、かつカバーの誘電率を超えない構成であってもよい。また反射抑制材1はカバーとともにレドム又はレーダ装置2の車両への取り付け機構を構成してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1,1A,1B,1C,1D 反射抑制材
2 レーダ装置
4 バンパ(物標)
20 突起部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B