(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143258
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ゴム組成物および表面処理シリカ
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20230928BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20230928BHJP
C09C 1/28 20060101ALI20230928BHJP
C09C 3/12 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K9/06
C09C1/28
C09C3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050540
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣神 宗直
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】峯村 正彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 勉
【テーマコード(参考)】
4J002
4J037
【Fターム(参考)】
4J002AC001
4J002AC011
4J002AC021
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002DJ016
4J002FB146
4J002FD016
4J002GN01
4J037AA18
4J037CB23
4J037DD07
4J037EE02
4J037FF17
4J037FF18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】所定の有機ケイ素化合物で表面処理されたフィラーを含み、組成物の加工性やその硬化物の硬度、引張特性を維持したまま、所望の低燃費タイヤ性能、耐摩耗性能を実現し得るゴム組成物を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される有機ケイ素化合物で表面処理されたフィラーを含むゴム組成物。
(R
1は、C1~10のアルキル基等;R
2は、C1~10のアルキル基等;R
3は、H、C1~10のアルキル基又はC6~10のアリール基;R
4は、H、又はS含有基以外の置換基を有してもよく、S以外のヘテロ原子を含んでいてもよいC1~20の炭化水素基(ただし、隣り合うR
4同士が架橋して環を形成してもよい);Zは、ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基を有しない2価の基;nは、1~3の整数)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される有機ケイ素化合物で表面処理されたフィラーを含むゴム組成物。
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
2は、それぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
3は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
4は、それぞれ独立に水素原子、または硫黄原子含有基以外の置換基を有してもよく、硫黄原子以外のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表し(ただし、隣り合うR
4同士が架橋して環を形成してもよい。)、Zは、ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基を有しない2価の基を表し、nは、1~3の整数を表す。)
【請求項2】
前記有機ケイ素化合物が、下記式(2)~(4)で表される有機ケイ素化合物から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載のゴム組成物。
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4およびnは、前記と同じ意味を表し、mは、1~12の整数を表し、pは、1~12の整数を表す。)
【請求項3】
天然ゴムを含む請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載のゴム組成物を成形してなるタイヤ。
【請求項5】
BET比表面積50~500m
2/gであるシリカの表面が、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物で処理された表面処理シリカ。
【化3】
(式中、R
1は、それぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
2は、それぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
3は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
4は、それぞれ独立に水素原子、または硫黄原子含有基以外の置換基を有してもよく、硫黄原子以外のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表し(ただし、隣り合うR
4同士が架橋して環を形成してもよい。)、Zは、ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基を有しない2価の基を表し、nは、1~3の整数を表す。)
【請求項6】
前記有機ケイ素化合物が、下記式(2)~(4)で表される有機ケイ素化合物から選ばれる1種または2種以上である請求項5記載の表面処理シリカ。
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4およびnは、前記と同じ意味を表し、mは、1~12の整数を表し、pは、1~12の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物および表面処理シリカに関し、さらに詳述すると、特定の有機ケイ素化合物により表面処理されたフィラーを含むゴム組成物および特定の有機ケイ素化合物により表面処理されたシリカに関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ充填タイヤは、自動車用途で優れた性能を有し、特に、耐摩耗性、転がり抵抗およびウェットグリップ性に優れている。これらの性能向上は、タイヤの低燃費性向上と密接に関連しているため、特に溶液重合スチレン・ブタジエンゴム(S-SBR)を用いた乗用車用タイヤの業界において昨今盛んに研究されている。
【0003】
シリカ充填ゴム組成物は、タイヤの転がり抵抗を低減し、ウェットグリップ性を向上させるものの、未加硫粘度が高く、多段練り等を要し、作業性に問題がある。
そのため、シリカ等の無機質充填剤を単に配合したゴム組成物においては、充填剤の分散が不足し、破壊強度および耐摩耗性が大幅に低下するといった問題が生じる。そこで、無機質充填剤のゴム中への分散性を向上させるとともに、充填剤とゴムマトリックスとを化学結合させるため、含硫黄有機ケイ素化合物が必須であった。
【0004】
ゴム用配合剤として使用される含硫黄有機ケイ素化合物としては、アルコキシシリル基とポリスルフィドシリル基を分子内に含む化合物、例えば、ビス-トリエトキシシリルプロピルテトラスルフィドやビス-トリエトキシシリルプロピルジスルフィド等が有効であることが知られている(特許文献1~4参照)。
【0005】
また、トラックやバスなどに装着される高耐荷重タイヤは、過酷な条件下での使用にも耐えうるよう、高い耐破壊特性が要求され、ゴムとしては天然ゴムが使用されているが、そのようなタイヤにおいても、低燃費性や耐摩耗性の向上要求が高まっている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004-525230号公報
【特許文献2】特開2004-18511号公報
【特許文献3】特開2002-145890号公報
【特許文献4】特開2000-103795号公報
【特許文献5】特開2019-131649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、所定の有機ケイ素化合物で表面処理されたフィラーを含み、組成物の加工性やその硬化物の硬度、引張特性を維持したまま、所望の低燃費タイヤ性能、耐摩耗性能を実現し得るゴム組成物、およびこのゴム組成物から形成されたタイヤ、並びに上記フィラーとして好適な表面処理シリカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アニリン骨格および加水分解性シリル基を有する所定の有機ケイ素化合物により表面処理されたフィラーを含むゴム組成物から得られたタイヤが、硬度および引張特性を維持したまま、所望の低燃費性能および耐摩耗性能を実現し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 下記式(1)で表される有機ケイ素化合物で表面処理されたフィラーを含むゴム組成物、
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
2は、それぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
3は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
4は、それぞれ独立に水素原子、または硫黄原子含有基以外の置換基を有してもよく、硫黄原子以外のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表し(ただし、隣り合うR
4同士が架橋して環を形成してもよい。)、Zは、ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基を有しない2価の基を表し、nは、1~3の整数を表す。)
2. 前記有機ケイ素化合物が、下記式(2)~(4)で表される有機ケイ素化合物から選ばれる1種または2種以上である1のゴム組成物、
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4およびnは、前記と同じ意味を表し、mは、1~12の整数を表し、pは、1~12の整数を表す。)
3. 天然ゴムを含む1または2のゴム組成物、
4. 1~3のいずれかのゴム組成物を成形してなるタイヤ、
5. BET比表面積50~500m
2/gであるシリカの表面が、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物で処理された表面処理シリカ、
【化3】
(式中、R
1は、それぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
2は、それぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
3は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
4は、それぞれ独立に水素原子、または硫黄原子含有基以外の置換基を有してもよく、硫黄原子以外のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表し(ただし、隣り合うR
4同士が架橋して環を形成してもよい。)、Zは、ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基を有しない2価の基を表し、nは、1~3の整数を表す。)
6. 前記有機ケイ素化合物が、下記式(2)~(4)で表される有機ケイ素化合物から選ばれる1種または2種以上である5の表面処理シリカ、
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4およびnは、前記と同じ意味を表し、mは、1~12の整数を表し、pは、1~12の整数を表す。)
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴム組成物は、加工性に優れ、このゴム組成物を用いて形成されたタイヤは、硬度、引張特性を維持したまま、所望の低燃費タイヤ特性および耐摩耗性能を満足することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のゴム組成物は、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物で表面処理されたフィラー(以下、「表面処理フィラー」という場合がある。)を含むゴム組成物である。
【0012】
【0013】
R1は、それぞれ独立に炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10、好ましくは炭素数6~8のアリール基を表し、R2は、それぞれ独立に炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表し、R3は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10、好ましくは炭素数6~8のアリール基を表し、R4は、それぞれ独立に水素原子、または硫黄原子含有基以外の置換基を有してもよく、硫黄原子以外のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表し(ただし、隣り合うR4同士が架橋して環を形成してもよい。)、Zは、ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基を有しない2価の基を表し、nは、1~3の整数を表す。
【0014】
R1の炭素数1~10のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル基等が挙げられる。
炭素数6~10のアリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基等が挙げられる。
これらの中でも、R1は、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0015】
R2の炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基としては、それぞれR1と同じものが挙げられ、それらの中でもメチル基がより好ましい。
【0016】
R3の炭素数1~10のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル基等が挙げられ、炭素数6~10のアリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基等が挙げられる。これらの中でもR3は、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基が好ましい。
【0017】
R4の硫黄原子含有基以外の置換基を有してもよく、硫黄原子以外のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基としては、例えば、直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル3-ヘキシル、イソヘキシル、tert-ヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、オクチル、イソオクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロヘキシル、tert-ブチルシクロヘキシル等の直鎖状、分岐状、環状アルキル基;トリフルオロメチル、トリクロロメチル、テトラフルオロエチル、テトラクロロエチル等のハロアルキル基;メトキシ、エトキシ、n-プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、n-ブチルオキシ、s-ブチルオキシ、イソブチルオキシ、t-ブチルオキシ、n-ペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ、n-ヘプチルオキシ、n-オクチルオキシ、n-ノニルオキシ、n-デシルオキシ等のアルコキシ基;シクロプロピルオキシ、シクロブチルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ等のシクロアルコキシ基;フェニル、ナフチル、アントラセニル等のアリール基;フェニルオキシ、1-ナフチルオキシ、2-ナフチルオキシ等のアリールオキシ基;フェニル-C1~C12アルキル、ナフチル-C1~C10アルキル、およびアントラセニル-C1~C6アルキル等のアリールアルキル基;フェニル-C1~C12アルコキシ、ナフチル-C1~C10アルコキシ等のアリールアルコキシ基;ピロリル、フラニル、フリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジル、ピラジニル、トリアジニル、ピロリジル、ピペリジル、キノリル、イソキノリル等の複素環基;フェニルアミノ、メチルアミノ基等のアリールまたはアルキルアミノ基;トリメチルシリル基等のアルキルシリル基;アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ピバロイル、ベンゾイル等のアシル基;アセトキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、イソブチリルオキシ、ピバロイルオキシ、ベンゾイルオキシ等のアシルオキシ基;カルボキシ基;シアノ基等が挙げられる。
【0018】
これらの中でも、R4としては、水素原子、アリールアミノ基が好ましく、全てのR4が水素原子であるか、水素原子とフェニルアミノ基との組み合わせがより好ましく、全てのR4が水素原子であるか、4つの水素原子と1つのフェニルアミノ基の組み合わせがより一層好ましい。
【0019】
Zは、ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基を有しない2価の基であれば特に限定されるものではなく、例えば、酸素原子(-O-)、硫黄原子(-S-)を含んでいてもよい炭素数1~20のアルキレン基、-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-、およびこれらの組み合わせ等が挙げられる。
これらの中でも、-(CH2)m-(mは、1~12、好ましくは1~6の整数を表す。)、-(CH2)m-S-(CH2)p-(m、pは、それぞれ独立して1~12、好ましくは1~6の整数を表す。)、-(CH2)m-NHCO-(mは、上記と同じ意味を表す。)基が好ましい。
【0020】
したがって、有機ケイ素化合物としては、下記式(2)~(4)で表される有機ケイ素化合物が好ましい。
【0021】
【化6】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、n、mおよびpは、上記と同じ意味を表す。)
【0022】
上記式(2)で表される有機ケイ素化合物としては、例えば下記式で表される化合物が挙げられる。なお、下記式において、Meは、メチル基を、Etは、エチル基を意味する(以下、同様)。
【0023】
【0024】
【0025】
上記式(3)で表される有機ケイ素化合物としては、例えば下記式で表される化合物が挙げられる。
【0026】
【0027】
【0028】
上記式(4)で表される有機ケイ素化合物としては、例えば下記式で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【0030】
【0031】
なお、有機ケイ素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
フィラーとしては、例えば、シリカ、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどタイヤ工業において一般的に使用される充填剤が挙げられ、これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、シリカまたはカーボンブラックを含むことが好ましく、シリカを含むことがより好ましい。
【0033】
シリカとしては、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)など、タイヤ工業において一般的なものが挙げられ、なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製されたシリカが好ましい。
特に、シリカは、BET1点法による窒素吸着比表面積(N2SA)が50m2/g以上のものが好ましく、100m2/g以上のものがより好ましい。なお、N2SAの上限は特に限定されるものではないが、取扱い易さ等の観点から、500m2/g以下が好ましく、400m2/g以下がより好ましい。
【0034】
上記式(1)で表される有機ケイ素化合物で表面処理されたフィラーに含まれる有機ケイ素化合物の含有量は、表面処理フィラー全体の質量に対して0.01~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましい。
表面処理方法としては、特に限定されないが、乾式法、湿式法等の一般的な粉体の表面処理方法で行うことができる。
【0035】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴムを含むことが好ましく、ジエン系ゴムとしては、従来、各種ゴム組成物に一般的に用いられている任意のゴムを用いることができる。
その具体例としては、天然ゴム等の各種イソプレンゴム(IR)、各種スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等のジエン系ゴムなどが挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
特にジエン系ゴム成分は、天然ゴムを含むことが好ましく、高荷重車両用タイヤとして用いた場合にも十分な耐破壊特性が得られる点から、ジエン系ゴム成分中の天然ゴムの含有量は、50質量%以上が好ましく、70~100質量%がより好ましい。
天然ゴムとしては、RSS#3、SIR20、TSR20等のタイヤ工業において一般的なものを使用できる。また、エポキシ化天然ゴム、水素化天然ゴム、グラフト化天然ゴム、脱タンパク質天然ゴム等の改質天然ゴムなどを使用することもできる。
【0037】
さらに、本発明のゴム組成物は、ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基から選ばれる1種以上と、アルコキシシリル基とを有する有機ケイ素化合物を含有することが好ましい。この有機ケイ素化合物としては、上記のような官能基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、タイヤ等の用途でゴム組成物に配合されている従来公知の任意のシランカップリング剤を用いることができる。
【0038】
シランカップリング剤の具体例としては、ビス-(3-ビストリエトキシシリルプロピル)-テトラスルフィド、ビス-(3-ビストリエトキシシリルプロピル)-ジスルフィド等のポリスルフィド系有機ケイ素化合物;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト系有機ケイ素化合物;3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシラン等のチオエステル型有機ケイ素化合物などが挙げられる。
また、上記硫黄原子を有する有機ケイ素化合物とポリエーテル基を含有するアルコールとの反応物や、これらの有機ケイ素化合物の加水分解縮合物およびこれらの有機ケイ素化合物とアルコキシシリル基を有するその他の有機ケイ素化合物との共加水分解縮合物を用いることもできる。なお、ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基から選ばれる1種以上と、アルコキシシリル基とを有する有機ケイ素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明の組成物において、ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基から選ばれる1種以上と、アルコキシシリル基とを有する有機ケイ素化合物の配合量は特に限定されないが、質量比で配合するシリカに対して3~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0040】
本発明のゴム組成物は、さらに充填剤、加硫剤、架橋剤、加硫促進剤、架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤等のタイヤ用、その他ゴム用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。これら添加剤の配合量は、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0041】
充填剤としては、例えば、シリカ、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどタイヤ工業において一般的に使用される、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物で表面処理されたフィラー以外の充填剤が挙げられ、これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、シリカおよびカーボンブラックを含むことが好ましく、シリカおよびカーボンブラックのみを含むことがより好ましい。
【0042】
カーボンブラックとしては、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなど、タイヤ工業において一般的なものが挙げられる。
シリカとしては、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)など、タイヤ工業において一般的なものが挙げられ、中でもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製されたシリカが好ましい。
特に、シリカは、窒素吸着比表面積(N2SA)が70m2/g以上のものが好ましく、100m2/g以上のものがより好ましい。なお、N2SAの上限は特に限定されるものではないが、取扱い易さ等の観点から、500m2/g以下が好ましく、400m2/g以下がより好ましい。
【0043】
本発明のゴム組成物における充填剤の配合量は、分散性、低燃費性および成形加工性等の観点から、ゴム成分100質量部に対して5~200質量部が好ましく、10~150質量部がより好ましく、20~100質量部がより一層好ましい。
【0044】
[ゴム製品(タイヤ)]
本発明のゴム組成物は、上述した成分およびその他の成分を一般的な方法で組成物とし、これを加硫または架橋することで、例えば、タイヤ等のゴム製品の製造に使用することができる。特に、タイヤを製造する場合、本発明のゴム組成物がトレッドに用いられることが好ましい。
本発明のゴム組成物を用いて得られるタイヤは、転がり抵抗の低減に加え、耐摩耗性が向上することから、所望の低燃費性を実現できる。
なお、タイヤの構造は、従来公知の構造とすることができ、その製法も、従来公知の製法を採用すればよい。また、気体入りのタイヤの場合、タイヤ内に充填する気体として通常空気や、酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例0045】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、下記式中、Phは、フェニル基を意味する。
【0046】
[合成例1-1]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、アニリン(東京化成工業(株)製)372.4g(4.0mol)を納めた後、クロロプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE-703)240.8g(1.0mol)を120℃で滴下し、120℃で4時間熟成を行った。その後、濾過工程、蒸留精製を行うことにより、下記式で表される有機ケイ素化合物(A-1)を得た。
(EtO)3Si-C3H6-NHPh・・・(A-1)
【0047】
[合成例1-2]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、N-メチルアニリン(東京化成工業(株)製)428.8g(4.0mol)を納めた後、クロロプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE-703)198.7g(1.0mol)を120℃で滴下し、120℃で4時間熟成を行った。その後、濾過工程、蒸留精製を行うことにより、下記式で表される有機ケイ素化合物(A-2)を得た。
(MeO)3Si-C3H6-NMePh・・・(A-2)
【0048】
[合成例1-3]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、N-アリルアニリン(東京化成工業(株)製)133.2g(1.0mol)、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE-803)196.3g(1.0mol)、トルエン300gを納めた後、パーブチルО(日油(株)製)5.0gを100℃で滴下し、100℃で4時間熟成を行った。その後、溶剤の留去を行うことにより、下記式で表される有機ケイ素化合物(A-3)を得た。
(MeO)3Si-C3H6-S-C3H6-NHPh・・・(A-3)
【0049】
[合成例1-4]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、アニリン(東京化成工業(株)製)93.2g(1.0mol)を納めた後、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE-9007N)247.4g(1.0mol)を80℃で滴下し、80℃で4時間熟成を行い、下記式で表される有機ケイ素化合物(A-4)を得た。
(EtO)3Si-C3H6-NHCONHPh・・・(A-4)
【0050】
[2]表面処理フィラーの合成
[実施例1-1]
5Lのヘンシェルミキサー(日本コークス工業(株)製、以下同様。)にシリカ[BET比表面積:160m2/g、ニプシルAQ(東ソー・シリカ(株)製)、以下同様。]1,000gを納め、そこにN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-573、信越化学工業(株)製、以下同様。)20gを噴霧し、25℃で10分間撹拌した。その後、ヘンシェルミキサーから取り出し、80℃の恒温槽で24時間乾燥を行い、表面処理シリカAを得た。
【0051】
[実施例1-2]
5Lのヘンシェルミキサーにシリカ1,000gを納め、そこに上記合成例1-1で得られた有機ケイ素化合物(A-1)20gを噴霧し、25℃で10分間撹拌した。その後、ヘンシェルミキサーから取り出し、80℃の恒温槽で24時間乾燥を行い、表面処理シリカBを得た。
【0052】
[実施例1-3]
5Lのヘンシェルミキサーにシリカ1,000gを納め、そこに上記合成例1-2で得られた有機ケイ素化合物(A-2)20gを噴霧し、25℃で10分間撹拌した。その後、ヘンシェルミキサーから取り出し、80℃の恒温槽で24時間乾燥を行い、表面処理シリカCを得た。
【0053】
[実施例1-4]
5Lのヘンシェルミキサーにシリカ1,000gを納め、そこに上記合成例1-3で得られた有機ケイ素化合物(A-3)20gを噴霧し、25℃で10分間撹拌した。その後、ヘンシェルミキサーから取り出し、80℃の恒温槽で24時間乾燥を行い、表面処理シリカDを得た。
【0054】
[実施例1-5]
5Lのヘンシェルミキサーにシリカ1,000gを納め、そこに上記合成例1-4で得られた有機ケイ素化合物(A-4)20gを噴霧し、25℃で10分間撹拌した。その後、ヘンシェルミキサーから取り出し、80℃の恒温槽で24時間乾燥を行い、表面処理シリカEを得た。
【0055】
[合成例2-1]
5Lのヘンシェルミキサーにカーボンブラック[シースト9H、東海カーボン(株)製]1,000gを納め、そこにN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン20gを噴霧し、25℃で10分間撹拌した。その後、ヘンシェルミキサーから取り出し、80℃の恒温槽で24時間乾燥を行い、表面処理カーボンブラックAを得た。
【0056】
[3]ゴム組成物の製造
[実施例2-1~2-6,比較例2-1]
4Lのインターナルミキサー(MIXTRON、(株)神戸製鋼所製、以下同様。)を用いて、表1に示す配合量(質量部)で天然ゴムを60秒間混練した。
次いで、表1記載のカーボンブラック、シリカ、スルフィドシラン、ステアリン酸、老化防止剤、レジン、およびワックスを加え、内温を150℃まで上昇させ排出した。その後、ロールを用いて延伸した。得られたゴムを、再度インターナルミキサーを用いて内温が145℃になるまで混練し、排出した後、ロールを用いて延伸した。これに表1記載の酸化亜鉛、加硫促進剤および硫黄を加えて混練し、ゴム組成物を得た。
【0057】
天然ゴム:RSS#3
シリカ:ニプシルAQ(東ソー・シリカ(株)製)
カーボンブラック:シースト9H(東海カーボン(株)製)
スルフィドシラン:KBE-846(信越化学工業(株)製)
ステアリン酸:工業用ステアリン酸(花王(株)製)
老化防止剤:ノクラック6C(大内新興化学工業(株)製)
レジン:T-REZ RA-100(ENEOS(株)製)
ワックス:オゾエース0355(日本精蝋(株)製)
酸化亜鉛:亜鉛華3号(三井金属鉱業(株)製)
加硫促進剤(a):ノクセラーDM-P(大内新興化学工業(株)製)
加硫促進剤(b):ノクセラーCZ-G(大内新興化学工業(株)製)
硫黄:5%オイル処理硫黄(細井化学工業(株)製)
【0058】
上記実施例2-1~2-6,比較例2-1で得られたゴム組成物について、未加硫物性および加硫物性を下記の方法で測定した。結果を表1に併せて示す。なお、加硫物性に関しては、得られたゴム組成物をプレス成形(145℃、30分)し、加硫ゴムシート(厚み2mm)を作製した。
【0059】
〔未加硫物性〕
(1)ムーニー粘度
JIS K 6300-1:2013に準拠し、余熱1分、測定4分、温度130℃にて測定し、比較例2-1を100として指数で表した。指数値が小さいほど、ムーニー粘度が低く加工性に優れている。
〔加硫物性〕
(2)硬度
JIS K 6253-3:2012に準拠してデュロメーター(タイプA)硬さを測定し、比較例2-1を100として指数で表した。
(3)引張特性
JIS3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251に準拠して行い、300%モジュラス(M300)[MPa]を室温にて測定した。得られた結果を、比較例2-1を100として指数表示した。指数値が大きいほど、モジュラスが高く引張特性に優れることを示す。
(4)動的粘弾性(歪分散)
粘弾性測定装置(メトラビブ社製)を使用し、温度25℃、周波数55Hzの条件にて、歪0.5%の貯蔵弾性率E’(0.5%)と歪3.0%の貯蔵弾性率E’(3.0%)を測定し、[E’(0.5%)-E’(3.0%)]の値を算出した。なお、試験片は厚さ0.2cm、幅0.5cmのシートを用い、使用挟み間距離2cmとして初期荷重を1Nとした。[E’(0.5%)-E’(3.0%)]の値は、比較例2-1を100として指数で表し、指数値が小さい程、シリカの分散性が良好であることを示す。
(5)動的粘弾性(温度分散)
粘弾性測定装置(メトラビブ社製)を使用し、引張の動歪1%、周波数55Hzの条件にて測定した。なお、試験片は厚さ0.2cm、幅0.5cmのシートを用い、使用挟み間距離2cmとして初期荷重を1Nとした。tanδ(60℃)の値は、比較例2-1を100として指数で表した。tanδ(60℃)の値は、指数値が小さいほど転がり抵抗が良好であることを示す。
(6)耐摩耗性
FPS試験機((株)上島製作所製)を用いて、サンプルスピード200m/分、荷重20N、路面温度30℃、スリップ率5%とスリップ率20%の条件で試験を行った。得られた結果を、比較例2-1を100として指数表示した。指数値が大きいほど、摩耗量が少なく耐摩耗性に優れることを示す。
【0060】
【0061】
表1に示されるように、実施例2-1~2-6のゴム組成物の加硫物は、比較例2-1のゴム組成物の加硫物に比べ、硬度、引張特性を維持したまま、動的粘弾性が低い、すなわち、ヒステリシスロスが小さく低発熱性であり、また、耐摩耗性に優れていることがわかる。