(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143260
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】レーダ装置および検出方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20230928BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20230928BHJP
【FI】
G01S7/40 139
G01S13/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050542
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】堀 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 禎央
(72)【発明者】
【氏名】日比野 勉
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC20
5J070AD06
5J070AD13
5J070AF03
5J070AH23
5J070AH31
5J070AK22
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】汚れ検出の精度の向上を図り、もって物標までの距離演算の精度の向上を図ることが可能なレーダ装置および検出方法を提供する。
【解決手段】上記課題は、所定の距離隔てて前面にカバーが配置されているレーダ装置(1)であって、信号波を送信する送信部(10)と、信号波が反射され、その反射波を受信する受信部(20)と、所定の距離からの反射波を処理してカバーの汚れを検出する第1処理モードと、所定の距離までの範囲を除くレーダの検知範囲からの反射波を処理して物標を検出する第2処理モードとを有する制御処理部(30)とを備え、制御処理部(30)は、第1処理モードにおいて、カバー(3)で反射された反射波の振幅から、カバー(3)の汚れを検出し、第2処理モードにおいて、反射波から所定の距離までの成分を除去して、レーダの検知範囲内の物標を検出する、レーダ装置(1)等により解決することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の距離隔てて前面にカバーが配置されているレーダ装置であって、
信号波を送信する送信部と、
前記信号波が反射され、その反射波を受信する受信部と、
前記所定の距離からの反射波を処理して前記カバーの汚れを検出する第1処理モードと、前記所定の距離までの範囲を除くレーダの検知範囲からの反射波を処理して物標を検出する第2処理モードとを有する制御処理部と、
を備え、
前記制御処理部は、
前記第1処理モードにおいて、前記カバーで反射された反射波の振幅から、前記カバーの汚れを検出し、
前記第2処理モードにおいて、前記反射波から前記所定の距離までの成分を除去して、前記レーダの検知範囲内の物標を検出する、
レーダ装置。
【請求項2】
前記制御処理部は、前記カバーで反射された反射波の振幅を、前記カバーの汚れが無いときの反射波の振幅と比較して、前記汚れの有無を検出する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記制御処理部は、前記汚れが有ることが検出されたときに、前記カバーで反射された反射波の振幅の時間変動の大きさから、前記汚れの原因を判定する、請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記制御処理部は、前記カバーで反射された反射波の振幅を、前記カバーの汚れが無いときの反射波の振幅と比較して、前記汚れの有無と前記汚れの程度とを検出する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記制御処理部は、
前記汚れの程度が、所定の程度を超えることが検出されたときに、前記カバーの清掃が必要であることを示す信号を発信し、
前記清掃が完了したことを示す信号を受信したにもかかわらず、前記所定の程度を超える前記汚れの程度を検出したときには、前記カバーの修理が必要であることを示す信号を発信する、
請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記送信部は、中心周波数を所定の周波数差で複数の周波数に変化させた前記信号波を送信し、
前記制御処理部は、前記反射波に含まれる前記複数の周波数に対応するビート信号の位相差と前記所定の周波数差とから、前記物標の位置を推定する、
請求項1から5までのいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
所定の距離隔てて前面にカバーが配置されているレーダ装置により、信号波を送信するステップと、
前記信号波が反射され、その反射波を前記レーダ装置により受信するステップと、
前記レーダ装置により、前記所定の距離からの反射波を処理して、前記カバーの汚れを検出するステップと、
前記レーダ装置により、前記反射波から前記所定の距離までの成分を除去して、前記レーダの検知範囲内の前記レーダの検知範囲内の物標を検出するステップと、
を含む、検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置および検出方法に関し、特に、汚れなどによるカバーの状態の変化を検出可能な、移動体用のレーダ装置および検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体に搭載されるレーダ装置は、連続波(CW信号)の信号波を送信し、その反射波に基づいて、他の移動体などの物標を検出する。レーダ装置は、泥や雨などの外部環境からレーダ装置を保護するために、移動体のバンパなどで構成されたカバーの内側に配置され、カバーを通して信号波を送信し、またその反射波を受信する。このため、泥などの付着物やキズや凹みなどの電波を吸収・反射する汚れがカバーに付着すると、検出性能が低下してしまう。そこで、カバーの汚れをレーダ装置で検出し、ユーザに通知する機能が必要とされている。
【0003】
このような汚れを検出する方法として、特許文献1や特許文献2に開示されているような方法がある。特許文献1に開示されているような、物標からの反射波を解析して汚れを検出する方法は、周囲環境(物標の種類、個数)によって汚れ検出の精度が左右されてしまう。また、特許文献2のように、金属製の反射部が設けられた特殊構造のカバーを用いて、反射部からの反射波の受信レベルと、それ以外からの反射波の受信レベルとの偏差を算出することにより汚れを検出する方法は、汚れ検出の精度は向上するものの、カバーの構造が複雑になり材料費や製造費が高くなってしまう。また、移動体のバンパをカバーとして利用する場合、予めバンパに反射部を設けておかなければならず、汎用性に欠ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-237322号公報
【特許文献2】特開2008-96136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カバー(バンパ)からの反射波を解析して、カバーに付着している汚れの検出を行う方法は、周囲環境による精度の低下を防ぐことができるが、近距離反射成分を含めた反射波を受信して解析する必要があるため、物標までの距離演算精度が低下する恐れがある。このため、近距離反射成分の影響を軽減するために、設計段階で車体に合わせた取り付け位置の検証等の実施が必要となるなど、汚れ検出の精度の向上を図り、もって物標までの距離演算の精度の向上を図ることは難しいという課題がある。
【0006】
本願発明は、特殊構造のカバーを用いずに、汚れ検出の精度の向上を図り、もって物標までの距離演算の精度の向上を図ることが可能なレーダ装置および検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、所定の距離隔てて前面にカバーが配置されているレーダ装置であって、信号波を送信する送信部と、信号波が反射され、その反射波を受信する受信部と、所定の距離からの反射波を処理してカバーの汚れを検出する第1処理モードと、所定の距離までの範囲を除くレーダの検知範囲からの反射波を処理して物標を検出する第2処理モードとを有する制御処理部とを備え、制御処理部は、第1処理モードにおいて、カバーで反射された反射波の振幅から、カバーの汚れを検出し、第2処理モードにおいて、反射波から所定の距離までの成分を除去して、レーダの検知範囲内の物標を検出する、レーダ装置により解決することができる。
【0008】
ここで、「移動体」は、乗用車のみならず農業用や工事用の車両を含み、また1台の車両である必要はなく、トラクターとトレーラの組み合わせなどの移動する物体の集合体を含む。また、「カバー」は、レーダ装置の前面に設置され、レーダ装置を外部環境から保護する機能を有する部材であり、移動体のバンパを含む。また、「カバーの汚れ」には、泥、雨、雪などの付着物のみならず、カバー自身の傷やへこみなど、電波を吸収・反射して検出性能の低下の原因となるものを含む。
【0009】
制御処理部は、カバーで反射された反射波の振幅を、カバーの汚れが無いときの反射波の振幅と比較して、汚れの有無を検出することが望ましい。さらに、制御処理部は、汚れが有ることが検出されたときに、カバーで反射された反射波の振幅の時間変動の大きさから、汚れの原因を判定することが望ましい。ここで、「汚れの原因」とは、泥、雨、雪などの付着物や、カバー自身の傷やへこみなどの、レーダ装置の検出性能の低下させる原因を意味する。
【0010】
また、制御処理部は、カバーで反射された反射波の振幅を、カバーの汚れが無いときの反射波の振幅と比較して、汚れの有無と汚れの程度とを検出することが望ましい。さらに、制御処理部は、汚れの程度が、所定の程度を超えることが検出されたときに、カバーの清掃が必要であることを示す信号を発信し、清掃が完了したことを示す信号を受信したにもかかわらず、所定の程度を超える汚れの程度を検出したときには、カバーの修理が必要であることを示す信号を発信することが望ましい。
【0011】
さらに、送信部は、中心周波数を所定の周波数差で複数の周波数に変化させた信号波を送信し、制御処理部は、反射波に含まれる複数の周波数に対応するビート信号の位相差と所定の周波数差とから、物標の位置を推定することが望ましい。
【0012】
また、上記課題は、所定の距離隔てて前面にカバーが配置されているレーダ装置により、信号波を送信するステップと、信号波が反射され、その反射波をレーダ装置により受信するステップと、レーダ装置により、所定の距離からの反射波を処理して、カバーの汚れを検出するステップと、レーダ装置により、反射波から所定の距離までの成分を除去して、レーダの検知範囲内の物標を検出するステップとを含む、検出方法によっても解決することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、汚れ検出の精度の向上を図り、もって物標までの距離演算の精度の向上を図ることが可能なレーダ装置および検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るレーダ装置の概略構成図である。
【
図2】本発明に係る検出方法のフローチャートである。
【
図7】本発明に係る検出方法の変形例のフローチャートである。
【
図8】第1処理モードの変形例のフローチャートである。
【
図9】第2処理モードの変形例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施態様であるレーダ装置1の概略構成図を
図1に示す。レーダ装置1は、移動体に搭載され、物標4や、移動体のバンパにより構成されるカバー3の汚れを検出し、検出結果を上位装置2に送信し、またユーザからの入力を上位装置2を介して受信する。カバー3は、レーダ装置1の前面を覆うレドームや車両のバンパを含む概念である。カバー3は、レーダ装置1の前面に所定の距離隔てて配置されている。
【0016】
レーダ装置1は、送信部10と、受信部20と、制御処理部30とを備える。送信部10は、局部発振部13と、局部発振部13に接続された変調部12と、変調部12に接続された送信アンテナ11とを備える。局部発振部13は、所望の周波数の連続波(CW信号)を生成して変調部12と受信部20の復調部231・・・23nに供給する。変調部12は局部発振部13から供給されるCW信号をパルス変調して信号波を生成し、送信アンテナ11を介して物標4およびカバー3に対して信号波を送信する。
【0017】
受信部20は、複数の受信アンテナ211・・・21n(nは自然数)と、各受信アンテナ211・・・21nに接続された増幅部221・・・22n、各増幅部221・・・22nに接続された復調部231・・・23n、および、各復調部231・・・23nに接続されたA/D変換部241・・・24nを備える。受信アンテナ211・・・21nは、送信アンテナ11から送信され、物標4およびカバー3によって反射された反射波を受信し、増幅部221・・・22nに供給する。増幅部221・・・22nは、所望の利得で増幅して復調部231・・・23nに出力する。復調部231・・・23nは増幅部221・・・22nから供給される受信信号を局部発振部13から供給されるCW信号を用いて復調してA/D変換部241・・・24nに出力する。A/D変換部241・・・24nは、復調部231・・・23nで復調された信号を、所定の周期でサンプリングし、デジタル信号に変換して制御処理部30に供給する。
【0018】
制御処理部30は、所定の距離(レーダ装置1とカバー3との距離)からの反射波を処理してカバー3の汚れを検出する第1処理モードと、所定の距離(レーダ装置1とカバー3との距離)までの範囲を除くレーダの検知範囲からの反射波を処理して物標4を検出する第2処理モードとを有する。制御処理部30は、制御部31と、処理部32と、記憶部33とを備える。制御部31は、変調部12のパルス変調や、増幅部221・・・22nの利得など、レーダ装置1の各部の動作を制御する。処理部32は、A/D変換部241・・・24nから供給される反射波の受信データに対して演算処理を実行することで、物標4やカバー3の汚れの検出を行う。記憶部33は、A/D変換部241・・・24nから供給される受信データや、汚れ検出で用いる閾値のデータや、汚れ検出の検出結果などを格納し、格納されたデータは後の処理で必要に応じて呼び出すことができる。
【0019】
制御部31および処理部32は、コンピュータの構成、すなわちCPU、DSPなどプロセッサ、および、ROM、RAMなどのメモリを備える。記憶部33は、ハードディスクやフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを備える。上述した制御処理部30の処理モードは、記憶部33に格納されたプログラムにより記述され、制御部31および処理部32のコンピュータによってプログラムを実行することにより、その機能を実現している。制御部31および処理部32はそれぞれ個別のハードウェアで構成してもよいし、1つのハードウェアで両方の機能を実現してもよい。
【0020】
次に、
図2~6に基づいて、レーダ装置1の動作、すなわち本発明の実施態様である検出方法について説明する。
図2は検出方法全体のフローチャート、
図3は第1処理モード(ステップ104)のフローチャート、
図4は第2処理モード(ステップ105)のフローチャート、
図6は第2処理モード動作中に実行される物標検出処理(ステップ400)のフローチャートである。
【0021】
図2の全体フローチャートは、所定のタイミング、例えば、移動体のイグニッションキーがオンの状態にされ、レーダ装置1に対して電源電力の供給が開始されるタイミングで、開始される。はじめに、制御部31が変調部12を制御して、送信アンテナ11から信号波を送信する(ステップ101)。信号波は、中心周波数を所定の周波数差で複数の周波数に変化させた複数のパルス信号を順に繰り返す信号パターンで構成される。例えば、中心周波数f1のパルス信号の後に、f1と10MHz異なる中心周波数f2のパルス信号が送信され、その後f2と10MHz異なる(すなわち、f1と20MHz異なる)中心周波数f3のパルス信号が送信される。所定時間経過後に、再びf1、f2、f3のパルス信号を順次送信し、その後、所定時間経過毎に、f1、f2、f3のパルス信号を順次送信するというパターンの信号波が送信される。
【0022】
次に、制御部31は受信部20を制御して、信号波が物標4およびカバー3で反射された反射波を受信アンテナ211・・・21nで受信し(ステップ102)、受信処理(ステップ103)、すなわち、増幅部221・・・22nによる増幅処理、復調部231・・・23nによる復調処理、およびA/D変換部241・・・24nによるA/D変換処理を行い、変換されたデジタル信号を制御処理部30に送信する。
【0023】
受信された反射波には、カバー3で反射された反射波(所定の距離からの反射波)と、物標4で反射された反射波(所定の距離までの範囲を除くレーダの検知範囲からの反射波)とが含まれる。処理部32は、所定の距離からの反射波を処理して、カバー3の汚れを検出して、検出結果を上位装置2に発信する第1処理モードを実行する(ステップ104)。次に、処理部32は、受信された反射波のデジタル信号から所定の距離からの反射波成分(近距離成分)を除去して、物標4を検出して、検出結果を上位装置2に発信する第2処理モードを実行する(ステップ105)。
【0024】
次に、
図3のフローチャートに基づいて、第1処理モード(ステップ104)の動作を詳細に説明する。はじめに、処理部32が、受信した反射波から、所定の距離からの反射波の振幅を算出する(ステップ201)。反射波には、カバー3で反射された反射波(所定の距離からの反射波)と、物標4で反射された反射波(所定の距離までの範囲を除くレーダの検知範囲からの反射波)とが含まれているが、カバー3と、送信アンテナ11および受信アンテナ21
1・・・21
nとの距離(所定の距離)は既知であることから、信号波の送信から反射波の受信までの時間が特定できるため、反射波のデジタル信号のなかから、カバー3で反射された反射波を特定し、その振幅を算出することができる。
【0025】
次に、処理部32は、カバー3で反射された反射波の振幅を、カバー3の汚れが無いときの反射波の振幅と比較する(ステップ202)。例えば、レーダ装置1の出荷時に、カバー3の汚れが無い初期状態の反射波の大きさを記憶部33に格納しておき、格納された振幅を読み出して、レーダ装置1の通常動作中に受信する反射波の振幅と比較する。比較の結果、通常動作中に受信する反射波と汚れが無いときの反射波の振幅との相違が、所定の閾値を超える場合には、処理部32は、レーダ性能の低下が生じる汚れが有ると判断して(ステップ203)、汚れが有ることを示す信号を上位装置2に発信することにより通知を行う(ステップ204)。上位装置2は、汚れが有ることを示す信号を受信すると、カーナビの表示装置や警告音などを用いて、ユーザに対して通知を行う。一方、カバー3の汚れが無いときの反射波の振幅との相違が、所定の閾値以下の場合には、処理部32は、レーダ性能の低下が生じる汚れは無いと判断して(ステップ203)、処理を終了する。
【0026】
次に、第2処理モード(ステップ105)の原理と動作について詳細に説明する。
図4は第2処理モードの原理の説明図であり、
図5は第2処理モード(ステップ105)の動作を示すフローチャートである。
【0027】
まず、第2処理モードの原理を説明する。
図4の(a)~(c)は、反射波に含まれる3つの周波数に対応するビート信号のベクトルを示す図である。ビート信号は、物標4で反射した反射波で構成される物標成分と、カバー3で反射された反射波で構成される近距離成分(所定の距離からの反射成分)との合成ベクトルである。
【0028】
近距離成分は、送受信間の往復距離が小さいため、ほぼ周波数の偏移によらず一定の位相と強度であるので、中心周波数f1に対応するビート信号と中心周波数f2に対応するビート信号との差分処理により、
図4の(d)および(e)に示すように、近距離成分が除去されたビート信号の差分ベクトル(1)が得られる。同様に、中心周波数f2に対応するビート信号と中心周波数f3に対応するビート信号との差分処理により、
図4の(d)および(e)に示すように、近距離成分が除去されたビート信号の差分ベクトル(2)が得られる。
【0029】
物標成分の位相φは、レーダ波の波長λに対するレーダ装置と物標間の往復距離2rによって、次式のように決定される。
【0030】
【0031】
ここで、
fn=f1+Δf・(n-1):レーダ波の中心周波数。n=1,2,3
c:光速
である。
【0032】
また、Δfだけ周波数を偏移させた場合の位相変化量Δφは、次式のように表される。
【0033】
【0034】
ビート信号のベクトルから直接に、このΔφを求めることは出来ないが、f2とf1との組合せ、またはf3とf2との組合せでのベクトルの差分を用いるとΔφを求めることができる。
【0035】
次に、
図5のフローチャートを参照しながら、第2処理モード(ステップ105)の動作を詳細を説明する。はじめに、処理部32は、記憶部33から、3つの周波数に対応する反射波の計測ビート信号の差分処理により、所定の周波数差Δfの2つの周波数に対応するビート信号を生成する(ステップ301)。次に、処理部32は、2つの周波数に対応するビート信号の各々に対して、位相情報が保たれた、複数の物標の方位角度または距離が互いに分離された分離ビート信号を生成する(ステップ302)。
【0036】
さらに、処理部32は、所定の周波数差Δf、および2つの周波数に対応する分離ビート信号の位相差Δφから、物標の位置として物標との距離rを推定する(ステップ303)。具体的には、処理部32は、所定の周波数差Δfおよび光速cに基づく上式(1)により、2つの周波数に対応する分離ビート信号の位相差Δφから、物標との距離rを推定する。このように、制御処理部30の処理部32は、中心周波数を所定の周波数差Δf(例えば、10MHz)で複数の周波数f1、f2、f3に変化させた信号波が物標4およびカバー3で反射された反射波に含まれる、複数の周波数f1、f2、f3に対応するビート信号の位相差Δφと、設定した所定の周波数差Δfとから、物標4の位置を推定する。さらに、物標検出処理を行う(ステップ400)。
【0037】
図6のフローチャートに基づいて、物標検出処理(ステップ400)の動作を詳細に説明する。はじめに、処理部32は、A/Dサンプリングされた時間軸の反射波のデジタル信号のデータを、周波数軸の波形に変換する速度演算処理を行う(ステップ401)。周波数データは反射波に含まれる反射物体の相対速度(ドップラー)そのものであり、周波数軸に変換することで同距離に含まれるドップラー情報から複数物体の識別が可能になる。次に、処理部32は、物標4によって信号が反射された点を受信信号の閾値処理によって抽出するレスポンス変換処理を行う(ステップ402)。レスポンスデータはレーダ装置1との距離・相対速度・角度の情報を持つ。次に、処理部32は、同じ物標由来の点を塊として推定し、その塊の挙動の推移から移動状態を推定するクラスタリング処理を行う(ステップ403)。最後に、クラスタリングされたデータを、閾値処理によってアイテム化して、レーダ装置1が真に検知したい物標4を検出する(ステップ404)。
【0038】
以上の処理により、レーダ装置1は、カバー3の汚れを検出することができる。レーダ装置1の検出情報は、上位装置2に送信される。このように、所定の距離からの反射波を処理してカバー3の汚れを検出した後に、所定の距離からの反射波成分を除去して物標検出することにより、汚れ検出の精度の向上を図り、もって物標4までの距離演算の精度の向上を図ることが可能なレーダ装置および検出方法を提供することができる。
【0039】
なお、上述した実施態様では、第1処理モードのステップ203において、単一の閾値を用いて汚れの有無のみを検出しているが、複数の閾値を設定して、汚れの有無に加えて、汚れの程度を検出してもよい。例えば、汚れの程度の小さい状態から順に、「レーダ性能低下(小)」・「レーダ性能低下(中)」・「レーダ性能低下(大)」・「掃除必要」・「メンテナンス(修理)必要」の5段階の汚れの程度に対応する閾値の値を設定する。そして、レーダ装置1の通常動作中に受信する所定の距離からの反射波の振幅と、カバー3の汚れが無いときの反射波の振幅(例えば、レーザ装置1の出荷時の初期状態における反射波の振幅)との比較により得られた両者の相違の大きさと、各汚れの程度に対応する閾値とを比較して、汚れの程度を検出する。汚れの程度の検出結果は、ステップ204において、処理部32が、汚れの程度を示す信号を上位装置2に発信することにより通知を行う。このように、汚れの有無に加えて汚れの程度を検出することで、上位装置2やユーザは、汚れの程度に応じた適切な対処を講じることが可能となる。
【0040】
検出された汚れの程度が「掃除必要」であった場合、処理部32は、カバー3の清掃が必要であることを示す信号を上位装置2に発信する。上位装置2は、当該信号を受信すると、カーナビの表示装置や警告音などを用いて、ユーザに対して、カバー3を掃除するように促す通知を行う。続いて、上位装置2は、カーナビなどのユーザインターフェイスを介して、掃除が完了した旨のユーザ入力を受け付け、清掃が完了したことを示す信号を制御処理部30に送信する。制御処理部30の処理部32は、当該信号を受信したにもかかわらず、「掃除必要」と判断される汚れの程度を検出したときには、検出された汚れは掃除可能な汚れではないと判断して、カバー3の清掃が必要であることを示す信号に代えて、カバー3の修理が必要であることを示す信号を上位装置2に発信する。かかる処理より、ロバストな汚れ検出が可能となる。
【0041】
続いて、レーダ装置1の動作の変形例、すなわち本発明の検出方法の変形例について説明する。
図7に変形例の全体フローチャートを示す。変形例では、カバー3の汚れが有ることが検出されたときに、さらにカバー3で反射された反射波の振幅の時間変動の大きさから、汚れの原因を判定する。かかる判定のために、変形例では、第1処理モード(ステップ104’)と第2処理モード(ステップ105’)の処理内容が、
図2に示した検出方法とは異なる。その他の処理(ステップ101~103)は、
図2に示した検出方法と同じである。
【0042】
はじめに、制御部31が変調部12を制御して、送信アンテナ11から信号波を送信する(ステップ101)。信号波は、中心周波数を所定の周波数差で複数の周波数に変化させた複数のパルス信号を順に繰り返す信号パターンで構成される。次に、制御部31は受信部20を制御して、信号波がカバーで反射された反射波(所定の距離からの反射波)と、物標で反射された反射波(所定の距離までの範囲を除くレーダの検知範囲からの反射波)を受信アンテナ211・・・21nで受信し(ステップ102)、受信処理(ステップ103)を行い、変換されたデジタル信号を制御処理部30に送信する。
【0043】
次に、処理部32は、所定の距離(レーダ装置1とカバー3との距離)からの反射波の振幅から、カバー3の汚れを検出する第1処理モードを実行する(ステップ104’)。本変形例では、処理部32は、汚れがあることが検出された場合には、その状態を記憶部33に記録する。次に、処理部32は、受信された反射波のデジタル信号から所定の距離(レーダ装置1とカバー3との距離)からの反射波成分を除去することにより、物標4を検出して、検出結果を上位装置2に向けて発信する第2処理モードを実行する。本変形例の第2処理モードでは、さらに、記憶部33に記録された汚れの状態を読み出し、汚れが有るときには、カバー3で反射された反射波の振幅の時間変動の大きさから、汚れの原因を判定する処理も行う(ステップ105’)。
【0044】
次に、
図8のフローチャートに基づいて、変形例の第1処理モード(ステップ104’)の動作を詳細に説明する。はじめに、処理部32が、受信した反射波から、所定の距離からの反射波の振幅を算出する(ステップ201)。反射波には、カバー3で反射された反射波(所定の距離からの反射波)と、物標4で反射された反射波(所定の距離までの範囲を除くレーダの検知範囲からの反射波)とが含まれているが、カバー3と、送信アンテナ11および受信アンテナ21
1・・・21
nとの距離(所定の距離)は既知であることから、信号波の送信から反射波の受信までの時間が特定できるため、反射波のデジタル信号のなかから、カバー3で反射された反射波を特定し、その振幅を算出することができる。
【0045】
次に、処理部32は、カバー3で反射された反射波の振幅を、カバー3の汚れが無いときの反射波の振幅と比較する(ステップ202)。例えば、レーダ装置1の出荷時に、カバー3の汚れが無い初期状態の反射波の振幅を記憶しておき、記憶された振幅を、レーダ装置1の通常動作中に受信する上記反射波の振幅と比較する。比較の結果、通常動作中に受信する反射波と汚れが無いときの反射波の振幅との相違が、所定の閾値を超える場合には、処理部32は、レーダ性能の低下が生じる汚れが有ると判断して(ステップ203)、汚れが有る状態であることを示す情報を記憶部33に記録する(ステップ205)。一方、カバー3の汚れが無いときの反射波の振幅との相違が、所定の閾値以下の場合には、処理部32は、レーダ性能の低下が生じる汚れは無いと判断して(ステップ203)、処理を終了する。
【0046】
次に、
図9を参照しながら、第2処理モード(ステップ105’)の変形例の動作について詳細に説明する。第2処理モード(ステップ105’)は、分離ビート信号生成処理(ステップ302)と物標の位置推定処理(ステップ303)との間に、汚れの原因を判定する処理(ステップ304~307)を行う点が、
図5に示した第2処理モード(ステップ105)とは異なる。ステップ301、302、303および400の動作は、
図5の第2処理モードの動作と同一である。このため、以下では、
図5の第2処理モードと動作が異なる点、すなわち、汚れの原因を判定する処理(ステップ304~307)について説明を行う。
【0047】
分離ビート信号生成処理(ステップ302)後に、処理部32は、記憶部33に格納された汚れの状態を示す情報を呼び出す。汚れ検出処理(ステップ104’)で汚れが検出された場合には(ステップ304)、カバー3から反射された反射波の振幅の時間的差分を計算する差分ベクトル強度算出処理を行う(ステップ305)。すなわち、所定の周期でサンプリングされるカバー3から反射された反射波の振幅を、所定のサンプリング周期毎に記憶部33から読み出して差分をとることにより、反射波の振幅の時間変動の大きさを求める。
【0048】
次に、処理部32は、求めた時間変動の大きさを閾値と比較することにより、汚れの原因を判定する(ステップ306)。例えば、汚れとして検出されたものが泥であった場合、泥は時間変動するため、振幅レベルの差分としては比較的大きく、時間に対して連続的に変化する。一方で、汚れとして検出されたものが傷やへこみであった場合には、その状態は、新たに傷やへこみができない限りは変化しないため、振幅レベルの差分は時間に対して断続的になり、変化していない時間領域の差分はゼロに近くなる。したがって、時間変動の大きさを閾値と比較することにより、汚れの原因を判定することができる。
【0049】
その後、処理部32は、汚れが有ることを示す信号、および、汚れの原因を示す信号を上位装置2に発信することにより通知を行う(ステップ307)。上位装置2は、信号を受信すると、カーナビの表示装置や警告音などを用いて、ユーザに対して通知を行う。さらに、汚れの原因に応じた対応、例えば、掃除の必要性、メンテナンスの必要性などの通知を行ってもよい。その後、処理部32は、物標4の位置推定処理(ステップ303)を実施する。さらに、物標検出処理を行う(ステップ400)。
【0050】
一方、記憶部33に格納された汚れの状態を示す情報が格納されていない場合には、処理部32は、レーダ性能の低下が生じる汚れは無いと判断して(ステップ304)、物標4の位置推定処理(ステップ303)を実施する。さらに、物標検出処理を行う(ステップ400)。
【0051】
以上の処理により、レーダ装置1は、カバー3の汚れを検出することができる。これにより、汚れ検出の精度の向上を図り、もって物標4までの距離演算の精度の向上を図ることが可能なレーダ装置および検出方法を提供することができる。さらに、レーダ装置1の検知性能を低下させる可能性のある汚れ原因がなにかを判定することが可能となり、これによりユーザは適切なアクションを採ることが可能となる。
【0052】
以上、本発明にかかるレーダ装置および検出方法について説明を行ったが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。例えば、実施態様で説明したレーダ装置1は、パルス方式を採用しているが、FCM(Fast Chirp Modulation)方式でもよい。また、上述した変形例(
図7~9)では、汚れの原因を判定する処理(ステップ304~307)を、第2処理モード(ステップ105’)の一部として実施しているが、第1処理モードの後であれば、第2処理モードとは別に、例えば第1処理モード(ステップ104’)と第2処理モード(ステップ105’)との間に、実施してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 レーダ装置
2 上位装置
3 カバー(バンパ)
4 物標
10 送信部
11 送信アンテナ
12 変調部
13 局部発振部
20 受信部
211、21n 受信アンテナ
221、22n 増幅部
231、23n 復調部
241、24n A/D変換部
30 制御処理部
31 制御部
32 処理部
33 記憶部