(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143325
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】塩化カリウムの苦みマスキング剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20230928BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050644
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】那須 元太郎
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LB09
4B047LF08
4B047LF10
4B047LG04
4B047LG05
4B047LG06
4B047LG09
4B047LG12
4B047LG15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】塩化カリウムの新たな苦味マスキング剤及び当該マスキング剤を含んだ飲食品の製造方法等を開発することを課題とする。
【解決手段】ペルーバルサム精油を有効成分として含有する塩化カリウムの苦味マスキング剤とする。ここで、アルギニン、グルタミン酸、リジン及びシトルリンからなる群から選択される少なくとも一種以上をさらに含有することが好ましい。また、アセトイン、ダイアセチル及び2,3-ペンタンジオンからなる群から選択される少なくとも一種以上をさらに含有することも好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルーバルサム精油を有効成分として含有する塩化カリウムの苦味マスキング剤。
【請求項2】
さらに、アルギニン、グルタミン酸、リジン及びシトルリンからなる群から選択される少なくとも一種以上を含有する請求項1に記載の塩化カリウムの苦味マスキング剤
【請求項3】
さらに、アセトイン、ダイアセチル及び2,3-ペンタンジオンからなる群から選択される少なくとも一種以上を含有する請求項1又は2に記載の塩化カリウムの苦味マスキング剤。
【請求項4】
さらに、ファルネソール、ネロリドール、カレオレフィン及びヌートカインからなる群から選択される少なくとも一種以上を含有する請求項1~3のいずれかに記載の塩化カリウムの苦味マスキング剤。
【請求項5】
さらに、バーチ精油、ヒッコリースモーク精油又はクローブ精油から選択される少なくとも一種以上を含有する請求項1~4のいずれかに記載の塩化カリウムの苦味マスキング剤。
【請求項6】
さらに、グアイアコール、オイゲノール、バニリン及びフェノールからなる群から選択される少なくとも一種以上を含有する請求項1~5のいずれかに記載の塩化カリウムの苦味マスキング剤。
【請求項7】
さらに、乳酸、酒石酸及びリンゴ酸からなる群より選択される少なくとも一種以上を含有する請求項1~6のいずれかに記載の塩化カリウムの苦味マスキング剤。
【請求項8】
ペルーバルサム精油を含有する、塩化カリウムを含む飲食品。
【請求項9】
ペルーバルサム精油を添加する工程を含む、塩化カリウムを含む飲食品の製造方法。
【請求項10】
ペルーバルサム精油を利用する、塩化カリウムを含む飲食品に対する苦味マスキング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化カリウムを使用した場合の苦味のマスキング剤等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加工食品をはじめとする各種食品においては、減塩を目的として、塩化カリウムを利用する場合がある。塩化カリウムを利用した場合、減塩の効果を得られる一方、独特の苦み等の問題があった。このような問題の解決方法として、例えば、以下の特許文献1に記載の発明が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
特許文献1の方法は、塩化カリウムに対し、グルコン酸ナトリウム及び又はグルコン酸カリウムと、乳清ミネラルを配合した食塩代替物に関するものである。当該発明によってナトリウム分の少ない食塩代替物、及び該代替物を食塩の代わりに用いることで、摂取するナトリウム分を少なくすることのできる減塩加工食品、及びその製造方法とすることができる。
に関する。
上記の方法は有効な方法であるが、他のマスキング方法も考えられるところである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の発明者らは塩化カリウムの新たな苦味マスキング剤及び当該マスキング剤を含んだ製造方法等を開発することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々の天然素材、香料、化合物等の素材を用いて、その香気成分を利用した実験を繰り返し実施した。本発明者の鋭意研究の結果、精油成分として、バルサムペルー精油を利用することで、塩化カリウムのマスキング効果を得ることを見出して、本発明を完成させたのである。
すなわち、本願第一の発明は、
“ペルーバルサム精油を有効成分として含有する塩化カリウムの苦味マスキング剤。”、である。
【0007】
次に、ペルーバルサム精油に加えて、アミノ酸のうち、アルギニン、グルタミン酸、リジン又はシトルリンを使用すると、塩化カリウムの苦味マスキング効果を向上させることができる。
すなわち、本願第二の発明は、
“さらに、アルギニン、グルタミン酸、リジン及びシトルリンからなる群から選択される少なくとも一種以上を含有する請求項1に記載の塩化カリウムの苦味マスキング剤”、である。
【0008】
次に、ペルーバルサム精油に加えて、ケトン類のうち、アセトイン、ダイアセチル又は2,3-ペンタンジオンを使用すると、塩化カリウムの苦味マスキング効果を向上させることができる。
すなわち、本願第三の発明は、
“さらに、アセトイン、ダイアセチル及び2,3-ペンタンジオンからなる群から選択される少なくとも一種以上を含有する請求項1又は2に記載の塩化カリウムの苦味マスキング剤。”、である。
【0009】
次に、ペルーバルサム精油に加えて、テルペン類のうち、ファルネソール、ネロリドール、カレオレフィン又はヌートカインを使用すると、塩化カリウムの苦味マスキング効果を向上させることができる。
すなわち、本願第四の発明は、
“さらに、ファルネソール、ネロリドール、カレオレフィン及びヌートカインからなる群から選択される少なくとも一種以上を含有する請求項1~3のいずれかに記載の塩化カリウムの苦味マスキング剤。”、である。
【0010】
次に、ペルーバルサム精油に加えて、樹木系の天然香として、バーチ精油、ヒッコリースモーク精油又はクローブ精油を使用すると、塩化カリウムの苦味マスキング効果を向上させることができる。
すなわち、本願第五の発明は、
“さらに、バーチ精油、ヒッコリースモーク精油又はクローブ精油から選択される少なくとも一種以上を含有する請求項1~4のいずれかに記載の塩化カリウムの苦味マスキング剤。”、である。
【0011】
次に、ペルーバルサム精油に加えて、フェノール類、芳香族及びアルデヒド類のうち、グアイアコール、オイゲノール、バニリン又はフェノールを使用すると、塩化カリウムの苦味マスキング効果を向上させることができる。
すなわち、本願第六の発明は、
“さらに、グアイアコール、オイゲノール、バニリン及びフェノールからなる群から選択される少なくとも一種以上を含有する請求項1~5のいずれかに記載の塩化カリウムの苦味マスキング剤。”、である。
【0012】
次に、ペルーバルサム精油に加えて、酸味料のうち、乳酸、酒石酸又はリンゴ酸を使用すると、塩化カリウムの苦味マスキング効果を向上させることができる。
すなわち、本願第七の発明は、
“さらに、乳酸、酒石酸及びリンゴ酸からなる群より選択される少なくとも一種以上を含有する請求項1~6のいずれかに記載の塩化カリウムの苦味マスキング剤。”、である。
【0013】
次に、本出願人は上記と同様の減塩の趣旨から、ペルーバルサム精油を含有する、塩化カリウムを含む飲食品についても意図している。
すなわち、本願第八の発明は、
“ペルーバルサム精油を含有する、塩化カリウムを含む飲食品。”、である。
【0014】
次に、その製造方法についても意図している。
すなわち、本願第九の発明は、
“ペルーバルサム精油を添加する工程を含む、塩化カリウムを含む飲食品の製造方法。”、である。
【0015】
次に、本出願人はペルーバルサム精油を利用する、塩化カリウムを含む飲食品に対する苦味マスキング方法も意図している。
すなわち、本願第十の発明は、
“ペルーバルサム精油を利用する、塩化カリウムを含む飲食品に対する苦味マスキング方法。”、である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のペルーバルサム精油を有効成分として利用することによって、塩化カリウムの苦味のマスキングを可能とすることができる。本発明の塩化カリウムの苦味をマスキングする方法を利用することによって、飲食品の業界における減塩に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施の形態に準じて詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施態
様に限定されるものではない。まず、本発明の有効成分はペルーバルサム精油である。
【0018】
─ペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)─
本発明でいうペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)とは、ペルーバルサム(マメ科の熱帯性高木)の精油の成分をいう。ここで、精油とは、植物の幹、樹脂、花、葉、つぼみ又は果実等から得られる芳香のある揮発性の成分をいう。主に、テルペン系化合物、芳香族化合物、エステル類等などから成り,蒸留や圧搾・抽出によって分離される。
本発明におけるペルーバルサム精油とは、一般的には、当該樹木の樹脂から蒸留又は溶媒抽出によって抽出された香料又は精油成分をいう。また、当該樹木の木部又は樹皮から蒸留したものでもよい。
【0019】
但し、抽出方法は上述に限定することなく種々の方法が利用可能である。
本発明に利用するペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)については、市販のタイプを入手等することができ飲食品用の香料化合物として使用することができる。
尚、本ペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)を飲食品の製造において使用する場合は、液体油脂等の溶剤に溶解させた状態のタイプのものを利用することが好ましい。
【0020】
─塩化カリウムの苦味─
近年、高血圧症や高血圧による合併症の予防等を目的に、食塩(ナトリウム分)の摂取
量を抑制したいという要求が強い。しかし、食塩の量を削減すると、飲食品が味気ないもの
となってしまうので、食塩の代わりに塩味を呈する、いわゆる代替塩が求められている。
代替塩としては、塩化カリウムを用いることが最も一般的であるが、塩化カリウムは塩味
以外に独特の苦味(えぐみ)を有している。
【0021】
─塩化カリウムの苦味のマスキング─
本発明のマスキングについては、上記の塩化カリウムのえぐみ又は苦味をマスキングすることができる。尚、ここでいうマスキングとは、人が官能評価した場合に、上記の塩化カリウムの苦味(えぐみ)を低減させることができる、又は、カモフラージュして感じにくくすることができるという意味である。
【0022】
尚、人が官能評価した場合において、上述の塩化カリウムのえぐみ、苦味をマスキングする、という見方とともに、塩化カリウムと同時に塩化ナトリウム(食塩)が同時に存在している場合において、当該塩化ナトリウム(食塩)が有している塩味を増強するという効果を奏する場合も多い。
【0023】
─塩化ナトリウム(食塩)─
本発明における、塩化カリウムを含有する飲食品においては、塩化ナトリウムを含有していることが好ましい。当該塩化ナトリウムを含有することで、本来の塩化ナトリウムによる塩味を呈するとともに、塩化カリウムと塩化カリウムの併用効果によって効果的に減塩を実現することができる。
【0024】
そして、本発明におけるペルーバルサム精油を利用することによって塩化カリウムの苦味を改善したり、又は、塩化ナトリウムの塩味を増強させることができる。
尚、飲食品中の塩化カリウムと塩化ナトリウムの含有比率については特に限定されるものではないが、概ね、塩化カリウム:塩化ナトリウム=1:100~15:7程度である。
また、好ましくは、塩化カリウム:塩化ナトリウム=1:50~3:2程度である。さらに、好ましくは、塩化カリウム:塩化ナトリウム=1:20~1:4程度である。
【0025】
─飲食品中の塩化カリウムに対するペルーバルサム精油の濃度─
本発明における、ペルーバルサム精油の塩化カリウムに対する使用濃度は特に限定されるものではない。
【0026】
但し、概ね、塩化カリウムの濃度に対して、概ね以下のような濃度が好ましい。例えば、喫食時において塩化カリウムが0.1~1.5%程度である場合、使用するペルーバルサム精油の濃度は概ね、喫食時において飲食品中に、1ppb~1ppm程度となるように使用するのが一般的である。また、好ましくは、概ね10~1000ppb程度である。さらに、より好ましくは、50~500ppb程度である。
尚、使用する濃度については、当該ペルーバルサム精油の濃度や使用する飲食品類の種類・状態にも左右される場合もある。
【0027】
─塩化カリウムを含有する飲食品─
本発明にいう塩化カリウム含有飲食品とは、上述の塩化カリウムを原料として用いた飲食品という。当該塩化カリウムが原料として一部に利用されていればよく、特に減塩のために、使用する塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムに置換して使用する場合が一般的である。
【0028】
また、当該塩化カリウム以外の原料が含まれていることは勿論である。より具体的には、塩化カリウム以外に塩化ナトリウム、糖類、増粘剤、各種塩類、動物性タンパク質(牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉等)、植物性タンパク質、炭水化物(穀類、野菜等)、脂質、食物繊維、水分、ミネラル、ビタミン、色素、食品添加物等を含んでいてもよい。
【0029】
次に、本発明における塩化カリウム含有飲食品において塩化カリウムの使用量は特に限定されない。少量若しくは微量であっても塩化カリウム含有飲食品に含まれることは勿論である。尚、当該飲食品については塩化ナトリウムを含有していることが好ましい。
また、塩化カリウム含有飲食品は、固体状又は液体状のいずれの形態も可能であることは勿論である。
【0030】
具体的には、例えば、麺類、ワンタン類、グラタン類、シチュー類、カレー類、調理スープ・ブイヨン類(チキンスープ、コーンスープ、野菜スープ等)、畜肉・野菜等のエキス類、各種調合調味料類、各種つゆ・たれ類、ハム・ソーセージ等の食肉加工品、等々、通常一般の食生活に供される飲食品類が挙げられる。またこれらは、一般市販食料品若しくは業務用食料品又は飲食店における調理・料理品など、特に限定されるものではない。
【0031】
また、本発明に係る塩化カリウムの苦味マスキング剤を、市販「減塩調味料」の如く、顆粒状形態や液体状形態等にて製品化すれば、これを家庭内の調理品に対しても簡便に使用・利用することもできる。
【0032】
特に、本発明については、健康食品や即席食品にも好適に用いることができる。塩化カリウムを使用した具体的な食品名としては、例えば、即席食品(即席カップ麺や即席袋麺等の即席麺、即席カップライス、即席スープ等)が挙げられる。
【0033】
特に、即席麺(即席カップ麺)や即席カップライスでは、塩化ナトリウムと併用する微量原料として、塩化カリウムを一部に使用した粉末スープや液体スープを使用する場合があるが、本発明は、これらのスープに好適に適用できる。
また、塩化カリウムを利用した各種具材(ハンバーグ、ミンチボール等の畜肉練製品、はんぺん等魚肉練り製品等)にも好適に適用することができる。
【0034】
尚、当該乾燥具材や疑似肉を構成する他の成分として澱粉等の糖質、動物性タンパク質(牛、豚、鶏等)、塩、醤油及びソース等の調味料並びに香辛料が用いられてもよいことは勿論である。
【0035】
─マスキング剤─
本発明においては、ペルーバルサム精油を含有する塩化カリウムの苦味マスキング剤について意図しているが、当該苦味マスキング剤は、塩化カリウムを含む飲食品に対して添加又は含有させるものであれば、あらゆる態様を含むものとする。
また、ペルーバルサム精油以外として、他の化合物や香料や各種添加物、香辛料等の様々な飲食品に利用できる成分について含んでいてもよいことは勿論である。
【0036】
本発明のマスキング剤とは、塩化カリウムを含有する飲食品に対して上述の苦味又はえぐみを低減化したり、又は、塩化ナトリウムを含んでいる場合においては、当該塩化ナトリウムの塩味を増強させる効果を得ることができる場合もある。
また、本発明のマスキング剤については、少なくともペルーバルサム精油を含有していればよく、他の成分として各種の油脂、溶媒、香料、調味料等を含んでいてもよいことは勿論である。
【0037】
さらに、苦味付与剤の剤形態は必ずしも所定の形式の容器等に収納されている場合のみならず、飲食品を製造等する際に、塩化カリウムの苦味等の軽減のために、少なくともペルーバルサム精油を含む素材(液体状、粉状物、粒状物等の添加用の各種食材)が存在すればよく、当該素材を塩化カルシウム含有飲食品の製造の際や喫食時に添加や混合する態様であれば、本発明にいう苦味付与剤に該当するものとする。
次に、本発明においてはペルーバルサム精油以外に以下の各成分を含むことが好ましい。
以下に説明する。
【0038】
─アルギニン、グルタミン酸、リジン及びシトルリン─
本発明においては、オイルペルーバルサム(ペルーバルサム精油)とともに、アミノ酸類のうちアルギニン、グルタミン酸、リジン又はシトルリンを併用することが好ましい。また、これらのアミノ酸は組み合わせて利用してもよいことは勿論である。
これらのアミノ酸については、概ね、オイルペルーバルサムの原液を1とすると、これに対して1000~50000程度の比であるとよい。また、5000~20000程度の比であるとより好ましい。
【0039】
本発明においては、オイルペルーバルサム(ペルーバルサム精油)とともに、ケトン類のうちアセトイン、ジアセチル及び2,3-ペンタンジオンを併用することが好ましい。これらのケトン類については、
概ね、オイルペルーバルサムの原液を1とすると、これに対して1~100程度の比であるとよい。また、5~50程度の比であるとより好ましい。
【0040】
─ファルネソール、ネロリドール、カレオレフィン及びヌートカイン(テルペン類)─
本発明においては、オイルペルーバルサムとともに、テルペン類のうちファルネソール、ネロリドール、カレオレフィン及びヌートカインを併用することが好ましい。これらのテルペン類については、概ね、オイルペルーバルサムの原液を1とすると、これに対して0.1~50程度の比であるとよい。また、1~10程度の比であるとより好ましい。
【0041】
─バーチ精油、ヒッコリースモーク精油又はクローブ精油(樹木系の天然香成分)─
本発明においては、ペルーバルサム精油とともに、樹木系の天然香(薫臭を有するものを含む)を有する素材を利用してもよい。これらのうちバーチ精油、ヒッコリースモーク精油又はクローブ精油を併用することが好ましい。これらの樹木系の天然香については、概ね、ペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)の原液を1とすると、これに対して0.01~10程度の比であるとよい。また、0.1~1程度の比であるとより好ましい。
【0042】
─グアイアコール、オイゲノール、バニリン及びフェノール─
本発明においては、ペルーバルサム精油とともに、フェノール類、芳香族、アルデヒド類の中から、グアイアコール、オイゲノール、バニリン及びフェノールから選択する化合物を併用することが好ましい。これらの化合物については、概ね、オイルペルーバルサムの原液を1とすると、これに対して0.01~10程度の比であるとよい。また、0.1~1程度の比であるとより好ましい。
【0043】
─乳酸、酒石酸及びリンゴ酸(酸味料)─
本発明においては、オイルペルーバルサム(ペルーバルサム精油)とともに、乳酸、酒石酸及びリンゴ酸等の酸味料を併用することが好ましい。これらの酸味料については、概ね、オイルペルーバルサムの原液を1とすると、これに対して1~1000程度の比であるとよい。また、10~200程度の比であるとより好ましい。
【0044】
─その他の併用について─
本発明における塩化カリウムのマスキング剤、マスキング方法等については、ペルーバルサム精油を基本成分とするが、上述のようにアルギニン等のアミノ酸、アセトイン等のケトン類、ファルネソール等のケトン類、バーチ精油等の樹木系の天然香成分、グアイアコール等の成分、乳酸等の酸味料を併用することが好ましいが、これらの各成分をさらに、組み合わせて利用してもよいことは勿論である。
【0045】
─本発明の苦味マスキング剤を使用する飲食品─
本発明の苦味付与剤は、塩味を呈する飲食品において減塩のため塩化カリウムを使用する場合に添加して当該飲食品の塩化カリウム由来の苦味を軽減することができる。例えば、塩化カリウムを粉末や液体スープの一部に使用したり、各種飲食品に使用する場合に、これに添加する方法で利用することができる。具体的には、塩味を呈するスープ等の液状飲食品や、ハンバーグやミンチボール等の固形飲食品等の種々に利用することができる。特に、当該スープや各種飲食品が塩化ナトリウムを有する場合に、その一部を塩化カリウムに置換する場合に有効に利用することができる。
【0046】
また、特に、加工食品である即席麺(即席カップ麺、即席袋めん)、即席スープ、即席カップライス等の即席食品に好適に利用することができる。これらの即席食品の添付スープ(粉末スープ、液体スープ)や添付の乾燥具材等に好適に利用することができる。さらに、麺(熱風乾燥麺、フライ処理麺)等にも利用することも可能である。
【0047】
─ペルーバルサム精油を含有する塩化カリウム含有飲食品─
本発明においては、ペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)を含有する塩化カリウム含有する飲食品についても意図している。ここで、塩化カリウムを含有する飲食品がペルーバルサム精油を含有するとは、まず、塩化カリウム含有飲食品の製造過程のいずれかにおいて、ペルーバルサム精油を添加する場合が挙げられる。
【0048】
また、例えば、即席麺や即席ライス等の加工食品等で喫食時に添付フレーバーとして、喫食者が付属のスープパック等を開封して加える場合には、当該スープパック等に含有しているものでもよく、また、麺やコメに添加しておくことも可能である。喫食時に塩化カリウム含有飲食品とペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)が同時に含有する態様であれば、あらゆる態様を含むものとする。
【0049】
さらに、添加されるペルーバルサム精油は必ずしも精製されたものである必要はなく、ペルーバルサム精油をその一部の成分として含む、香料、食品素材、各種食品等であれば、あらゆる態様を含むことは勿論である。
【0050】
本発明においては、塩化カリウムの風味マスキングを目的として、飲食品の製造工程においてペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)を含有させる工程を含む飲食品の製造方法も意図している。すなわち、当該飲食品の製造過程のいずれかの工程でペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)を含有させる工程を含む工程が存在すればよく、また、その使用量については限定されないが、概ね喫食時のペルーバルサムの濃度が1ppb~1ppmとなるように調製するのが一般的である。また、好ましくは10~1000ppb程度である。さらに好ましくは、50~500ppb程度である。
【0051】
─ペルーバルサム精油を含有させることによって塩化カリウムの風味をマスキングする方法─
本発明においては、塩化カリウムの風味マスキングを目的として、ペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)を含有させることによって塩化カリウムの風味をマスキングする方法についても意図している。
【実施例0052】
以下の本発明の実施例について説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定される
ものではない。
[試験例1]塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含有する水に対するペルーバルサム精油の添加効果
塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含有する水溶液に対して、ペルーバルサム精油の希釈液を添加することによって塩化カリウムの苦味をマスキングできるかどうかを試験した。
【0053】
ペルーバルサム精油(オイルバルサムペルー)は市販のものを利用した。次に1重量%の塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(0.3重量%塩化ナトリウム+0.7重量%塩化カリウム)を100g準備し、当該水溶液に対して、表1に記載のようにオイルバルサムペルー(原液)を、エタノールを溶剤として希釈し、0.01重量%及び0.001重量%の2通りの希釈液を作成した。当該希釈液の前記の1重量%の塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(100g)にそれぞれを表1に記載の重量を添加した。このようにして試験区1~試験区9の各試験溶液を調製した。
【0054】
次に、当該各試験区の各試験水溶液について官能評価した。評価は熟練のパネラー5人によって行い、塩化カリウムのえぐみのマスキングの程度によって、9段階:1(無添加と同等)⇔9(塩化カリウムのマスキングの効果高い)で評価した。
【0055】
すなわち、オイルバルサムペルーを添加しないか、添加しても塩化カリウムの苦味等をマスキング(軽減)しない場合については評価1とし、何らかのマスキング効果を有する場合を評価2以上とした。さらに、マスキング効果が向上するに従って、評価の数値を上げていく評価とした。また、評価9とは、塩化カリウムの苦味をほとんど感じない程度の場合の評価とした。結果を表1の下欄に示す。
【0056】
【表1】
結果としてオイルバルサムペルーを添加することで塩化カリウムの苦味をマスキングできることを見出した。
【0057】
[試験例2]アミノ酸を併用した場合の検討
オイルバルサムペルーに塩化カリウムの風味をマスキングする効果を確認したが、さらにアミノ酸を添加することでその効果を増強する効果があるかを調べた。
アミノ酸としては、グリシン、アラニン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、シスチン、グルタミン、グルタミン酸、バリン、ヒスチジン、チロシン、トレオニン、プロリン、トリプトファン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、オルニチン、シトルリンの各種アミノ酸を用意し、試験例1で使用した希釈された0.01%のオイルペルーバルサムを利用した。
【0058】
次に、1重量%の塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(0.3重量%塩化ナトリウム+0.7重量%塩化カリウム)を100g準備し、当該水溶液に対して、表2-1及び表2-2に記載のようにオイルバルサムペルー(0.01重量%)及び各アミノ酸を添加して、官能評価した。
添加したオイルバルサムペルー溶液の重量及び各アミノ酸溶液の重量を表2-1、表2-2に示す。また、官能評価の結果を表2-1及び表2-2の下欄に示す。
【0059】
【0060】
【表2-2】
オイルバルサムペルーとともに、アルギニン、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、リジン又はシトルリンを使用すると塩化カリウムのマスキング効果が向上することを見出した。
【0061】
[試験例3]ケトン類を併用した場合の添加効果
オイルバルサムペルーに塩化カリウムの風味をマスキングする効果を確認したが、さらにケトン類を添加することでその効果を増強する効果があるかを調べた。
ケトン類としては、アセトイン(acetoin)、ジアセチル(diacetyl)、2,3-ペンタンジオン(2,3-pentanedione)、2,3-ヘキサンジオン(2,3-hexanedione)、4-アセトキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン(4-acetoxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanon)を利用した。
【0062】
次に、1重量%の塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(0.3重量%塩化ナトリウム+0.7重量%塩化カリウム)を100g準備し、当該水溶液に対して、表3に記載のようにオイルバルサムペルー(0.01重量%)及び各ケトン類溶液(表3に記載の各重量%)を添加して、官能評価した。
添加したオイルバルサムペルー溶液の重量及び各ケトン類溶液の重量を表3に示す。また、官能評価の結果を表3の下欄に示す。
【0063】
【表3】
オイルバルサムペルーとともに、アセトイン(acetoin)、ジアセチル(diacetyl)又は2,3-ペンタンジオン(2,3-pentanedione)を使用すると塩化カリウムのマスキング効果が向上することを見出した。
【0064】
[試験例4]テルペン類を併用した場合の添加効果
オイルバルサムペルーに塩化カリウムの風味をマスキングする効果を確認したが、さらにテルペン類を添加することでその効果を増強する効果があるかを調べた。
テルペンとしては、ミルセン、オシメン、リモネン、テルピネオール、ピネン、カンファ―、ファルネソール、ネロリドール、エレメン、カリオフィレン、ヌートカトンを利用した。
【0065】
次に、1重量%の塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(0.3重量%塩化ナトリウム+0.7重量%塩化カリウム)を100g準備し、当該水溶液に対して、表4に記載のようにオイルバルサムペルー(0.01重量%)及び各テルペン類溶液(表4に記載の各重量%)を添加して、官能評価した。添加したオイルバルサムペルー溶液の重量及び各テルペン類溶液の重量を表4に示す。また、官能評価の結果を表4の下欄に示す。
【0066】
【表4】
オイルバルサムペルーとともに、ファルネソール、ネロリドール、カレオレフィン又はヌートカインを使用すると塩化カリウムのマスキング効果が向上することを見出した。
【0067】
[試験例5]樹木系の天然成分を併用した場合の添加効果
オイルバルサムペルーに塩化カリウムの風味をマスキングする効果を確認したが、さらにバーチ精油等の樹木系の天然成分を添加することでその効果を増強する効果があるかを調べた。
樹木系の天然成分としては、バーチ精油(オイルバーチ、市販品)、ヒッコリー スモーク精油(オイル ヒッコリー スモーク、市販品)、クローブ精油(オイルクローブ、市販品)、オイルスモーク(メスキート精油、市販品))、SMOKES CHERRY WOOD(市販品)及びOAKWOOD TINCTURE(オークウッドチンキ、市販品)を利用した。
【0068】
次に、1重量%の塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(0.3重量%塩化ナトリウム+0.7重量%塩化カリウム)を100g準備し、当該水溶液に対して、表5に記載のようにオイルバルサムペルー(0.01重量%)及び各樹木系の天然成分(0.001重量%又は0.01重量%)を添加して、官能評価した。添加したオイルバルサムペルー溶液の重量及び各樹木系の天然成分の重量を表5に示す。また、官能評価の結果を表5の下欄に示す。
【0069】
【表5】
オイルバルサムペルーとともに、バーチ精油又はクローブ精油を使用すると塩化カリウムのマスキング効果が向上することを見出した。
【0070】
[試験例6]フェノール類、芳香族又はアルデヒド類を併用した場合の効果
オイルバルサムペルーに塩化カリウムの風味をマスキングする効果を確認したが、さらにフェノール類、芳香族、アルデヒド類のいずれかを添加することでその効果を増強する効果があるかを調べた。
【0071】
フェノール類、芳香族又はアルデヒド類の成分としては、グアイアコール(guaiacol)
4-ビニルグアイアコール(4-vinylguaiacol)、4-エチルグアイアコール(4-ethylguaiacol)、
オイゲノール (eugenol)、バニリン(vanillin)、アセチルバニリン(Acetyl vanillin)、4-メチル-2,6-ジメトキシ-フェノール(4-methyl-2,6-dimethoxy phenol)及びフェノール(phenol)
を利用した。
【0072】
次に、1重量%の塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(0.3重量%塩化ナトリウム+0.7重量%塩化カリウム)を100g準備し、当該水溶液に対して、表6に記載のようにオイルバルサムペルー(0.01重量%)及び、フェノール類、芳香族又はアルデヒド類(0.0001重量%、0.001重量%又は0.01重量%)を添加して、官能評価した。添加したオイルバルサムペルー溶液の重量及びフェノール類、芳香族又はアルデヒド類の重量を表6に示す。また、官能評価の結果を表6の下欄に示す。
【0073】
【表6】
フェノール類、芳香族又はアルデヒド類の中では、グアイアコール、オイゲノール又はバニリンを使用すると塩化カリウムのマスキング効果が向上することを見出した。
【0074】
[試験例7]酸味料を併用した場合の効果
オイルバルサムペルーに塩化カリウムの風味をマスキングする効果を確認したが、さらに酸味料を添加することでその効果を増強する効果があるかを調べた。
酸味料としては、乳酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸、グルコン酸、酢酸又はリンゴ酸を利用した。
【0075】
次に、1重量%の塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(0.3重量%塩化ナトリウム+0.7重量%塩化カリウム)を100g準備し、当該水溶液に対して、表7に記載のようにオイルバルサムペルー(0.01重量%)及び、各種酸味料(表7に記載の各重量%)を添加して、官能評価した。添加したオイルバルサムペルー溶液の重量及び酸味料の重量を表7に示す。また、官能評価の結果を表7の下欄に示す。
【0076】
【表7】
酸味料の中では、乳酸、酒石酸及びリンゴ酸を使用すると塩化カリウムのマスキング効果が向上することを見出した。
【0077】
[試験例8]ケトン類及びテルペン類を併用した場合の効果
オイルバルサムペルーに特定のケトン類又はテルペン類を併用することで塩化カリウムの風味をマスキングする効果を確認したが、これらのケトン類及びテルペン類を併用することによってさらにその効果を増強する効果があるかを調べた。
ケトン類としては、アセトイン及びジアセチルを利用し、かつ、テルペン類としては、ネ
【0078】
ロリドール、カリオレフィン及びヌートカインを利用して、これらの組み合わせの効果を調べた。
次に、1重量%の塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(0.3重量%塩化ナトリウム+0.7重量%塩化カリウム)を100g準備し、当該水溶液に対して、表8に記載のようにオイルバルサムペルー(0.01重量%)及び、各種ケトン類及びテルペン類を添加して、官能評価した。添加したオイルバルサムペルー溶液の重量及び各種ケトン類及びテルペン類の重量を表8に示す。また、官能評価の結果を表8の下欄に示す。
【0079】
【表8】
オイルペルーバルサムに対して、さらに、ケトン類(アセトイン又はジアセチル)及びテルペン類(ネロドール、カリオレフィン又はヌートカイン)を添加することでマスキング効果が向上した。特に、アセトイン及びカレオレフィン、ジアセチル及びカレオレフィンの組合せの効果が大きかった。
【0080】
[試験例9]ケトン類及び樹木系の天然成分を併用した場合の効果
オイルバルサムペルーに特定のケトン類又は樹木系の天然成分を併用することで塩化カリウムの風味をマスキングする効果を確認したが、これらのケトン類及び樹木系の天然成分を併用することによってさらにその効果を増強する効果があるかを調べた。
【0081】
ケトン類としては、アセトイン又はジアセチルを利用し、かつ、樹木系の天然成分としては、バーチ精油、ヒッコリースモーク精油又はクローブ精油を利用して、これらの組み合わせの効果を調べた。
【0082】
次に、1重量%の塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(0.3重量%塩化ナトリウム+0.7重量%塩化カリウム)を100g準備し、当該水溶液に対して、表9に記載のようにオイルバルサムペルー(0.01重量%)及び、各種ケトン類(0.1重量%)及び樹木系の天然成分(0.001重量%又は0.1重量%)を添加して、官能評価した。添加したオイルバルサムペルー溶液の重量及び各種ケトン類及び樹木系の天然成分の重量を表9に示す。また、官能評価の結果を表9の下欄に示す。
【0083】
【表9】
オイルペルーバルサムに対して、さらに、ケトン類(アセトイン又はジアセチル)及び樹木系の天然成分(バーチ精油、ヒッコリースモーク精油又はクローブ精油)を添加することでマスキング効果が向上した。特に、アセトイン及びバーチ精油、ジアセチル及びバーチ精油、アセトイン及びクローブ精油、ジアセチル及びクローブ精油の組み合わせの効果が大きかった。