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特開2023-143326アリウム属野菜の風味向上剤及び風味向上方法
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  • 特開-アリウム属野菜の風味向上剤及び風味向上方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143326
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】アリウム属野菜の風味向上剤及び風味向上方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20230928BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20230928BHJP
【FI】
A23L27/20 G
A23L19/00 A
A23L19/00 Z
A23L27/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050645
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前中 理沙
【テーマコード(参考)】
4B016
4B047
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LG05
4B016LK01
4B016LK02
4B016LP08
4B016LP13
4B047LB08
4B047LF01
4B047LG14
4B047LG20
(57)【要約】
【課題】アリウム属野菜の風味を向上させる方法であって、特にアリウム属野菜の乾燥食品を製造するに際して、当該乾燥されたアリウム属野菜の風味を向上させる方法を開発することを課題とする。
【解決手段】
以下の一般式1で示されるメトキシピラジンを有効成分とするアリウム属の野菜の風味向上剤とする。
【式1】
[式中、R1はC2~C4のアルキル基、R2は水素又はメチル基を表す]
また、当該風味向上剤は、乾燥されたアリウム属の野菜に対する風味向上剤として好適に利用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式1で示されるメトキシピラジンを有効成分とするアリウム属の野菜の風味向上剤。
【化1】
[式中、R1はC2~C4のアルキル基、R2は水素又はメチル基を表す]
【請求項2】
前記風味向上剤が、乾燥されたアリウム属の野菜に対する風味向上剤である請求項1に記載のアリウム属の野菜の風味向上剤。
【請求項3】
下記一般式1で示されるメトキシピラジンを添加する工程を含む乾燥されたアリウム属の野菜の製造方法。
【化1】
[式中、R1はC2~C4のアルキル基、R2は水素又はメチル基を表す]
【請求項4】
下記一般式1で示されるメトキシピラジンが添加されたアリウム属の野菜。
【化1】
[式中、R1はC2~C4のアルキル基、R2は水素又はメチル基を表す]
【請求項5】
前記アリウム属の野菜が乾燥品である請求項4に記載のアリウム属の野菜。
【請求項6】
下記一般式1で示されるメトキシピラジンを利用することを特徴とする、アリウム属の野菜に対する風味向上方法。
【化1】
[式中、R1はC2~C4のアルキル基、R2は水素又はメチル基を表す]
【請求項7】
前記アリウム属の野菜が乾燥品である請求項6に記載のアリウム属の野菜の風味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリウム属の野菜の風味向上剤及びアリウム属野菜の風味向上方法に関する。特に、乾燥させたアリウム属野菜を製造する場合において当該アリウム属野菜に対して利用することでアリウム属野菜の風味を向上させることができる。
【背景技術】
【0002】
従来から即席味噌汁や即席麺等の即席食品やその他の多くの食品の具材として、乾燥ネ
ギ、乾燥ニラ、乾燥ニンニクや乾燥玉ねぎ等のアリウム属の野菜が使用されている。また、これらのアリウム属の野菜の乾燥方法としては、熱風乾燥法、凍結乾燥法、真空乾燥法、マイクロウエーブ乾燥法等が挙げられる。
乾燥させたアリウム属野菜は、当該アリウム属野菜の水分を減らすことで保存性を向上させたものであり、今後も多くの利用が見込まれる具材である。
【0003】
一方、乾燥野菜はその種類を問わず、乾燥工程において細胞組織の酸化反応等により、風味が揮散したり、金属臭の様な特別の風味を呈することがあることが指摘されていた。このような点において、乾燥野菜は生野菜より風味が劣る等の問題が指摘されていた。
また、このような問題は、乾燥させたアリウム属野菜においても同様であり、この点を回避する方法が望まれていた。
一方、このような乾燥野菜の風味劣化に対応する方法として、例えば、以下の先行技術が
開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-142244
【特許文献2】特開平7-298849
【0005】
上記特許文献1及び2の技術は乾燥臭の回避するための優れた技術である。しかし、特許文献1は、スープを対象としており、適用範囲が限定されている。さらに、モノグルコシルヘスペリジンを加える点を必須としており、当該物質のコスト等も考慮される。また、特許文献2は、野菜類を粉砕することを前提にしており、用途が限定されるという点が指摘される。
【0006】
また、これらの方法は凍結乾燥する対象としての野菜の範囲が広く、特定の野菜を対象とする凍結乾燥方法ではない。
しかし、野菜はその種類によってその組成や特性が異なるものである。したがって、乾燥野菜を製造する場合にも、野菜の種類による固有の問題が生じる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは、対象とする野菜をアリウム属の野菜として、当該アリウム属野菜の風味を向上させる方法を検討した。また、特に当該アリウム属野菜の乾燥食品を製造するに際して、上記の風味劣化の問題に対応するために、当該乾燥されたアリウム属野菜の風味を向上させる方法を検討した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々の素材を用いてその香気成分について実験を繰り返し実施した。本発明者の鋭意研究の結果、一般式1で示されるメトキシピラジンを利用することで、アリウム属野菜に対して当該アリウム属野菜の風味を向上させる効果を見出し、本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本願第一の発明は、
“下記一般式1で示されるメトキシピラジンを有効成分とするアリウム属の野菜の風味向上剤。
【0009】
【化1】
[式中、R1はC2~C4のアルキル基、R2は水素又はメチル基を表す]“、である。
【0010】
次に本発明においては、アリウム属の野菜のうち、乾燥されたアリウム属野菜に対して利用することが好ましい。すなわち、本願第二の発明は、
“前記風味向上剤が、乾燥されたアリウム属の野菜に対する風味向上剤である請求項1に記載のアリウム属の野菜の風味向上剤。”、である。
【0011】
次に本発明においては、前記一般式1で示されるメトキシピラジンを添加する工程を有するアリウム属の野菜の製造方法について意図している。
すなわち、本願第三の発明は、
“下記一般式1で示されるメトキシピラジンを添加する工程を含む乾燥されたアリウム属の野菜の製造方法。
【0012】
【化1】
[式中、R1はC2~C4のアルキル基、R2は水素又はメチル基を表す]“、である。
【0013】
次に、本発明においては、一般式1で示されるメトキシピラジンが添加されたアリウム属野菜自体についても意図している。
すなわち、本願第四の発明は、
“下記一般式1で示されるメトキシピラジンが添加されたアリウム属の野菜。
【0014】
【化1】
[式中、R1はC2~C4のアルキル基、R2は水素又はメチル基を表す]“、である。
【0015】
次に、本願第四の発明においては、アリウム属野菜については乾燥されたアリウム属野菜であることが好ましい。
すなわち、本願第五の発明は、
“前記アリウム属の野菜が乾燥品である請求項4に記載のアリウム属の野菜。”、である。
【0016】
次に、本発明においては、一般式1で示されるメトキシピラジンを利用するアリウム属野菜の風味向上方法についても意図している。すなわち、本願第六の発明は、
“以下の一般式1で示されるメトキシピラジンを利用することを特徴とする、アリウム属の野菜に対する風味向上方法。
【0017】
【化1】
[式中、R1はC2~C4のアルキル基、R2は水素又はメチル基を表す]“、である。
【0018】
次に、本願第七の発明においては、アリウム属野菜について乾燥されたアリウム属野菜であることが好ましい。
すなわち、本願第七の発明は、
“前記アリウム属の野菜が乾燥品である請求項6に記載のアリウム属野菜の風味向上方法。”、である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のアリウム属野菜の風味向上剤又はアリウム属野菜の風味向上方法を利用することでアリウム属野菜、特に乾燥されたアリウム属野菜の風味を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】アリウム属野菜のうち特に一般的なネギの正面図
【符号の説明】
【0021】
1 葉身部
2 葉鞘部
3 根部
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を実施の形態に準じて詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
【0023】
─メトキシピラジン─
本発明におけるアリウム属の野菜に対する風味向上剤は特に、メトキシピラジンのうち特に以下の一般式1及びR1、R2の置換基で示される化合物である。尚、メトキシピラジン(Methoxypyrazine)とは、ピラジン環にメトキシ基が結合した、物質の分類をいう。
【0024】
【化1】
[式中、R1はC2~C4のアルキル基、R2は水素又はメチル基を表す]
【0025】
ここで、R1はC2~C4のアルキル基を示すが、これらのアルキルの具体例としては、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。また、R2は水素又はメチル基を示す。
【0026】
本発明に利用するメトキシピラジンについては、市販のタイプを入手等することができ、そのうち、特定のものは食品用香料化合物として使用することができる。食品用香料化合物は、食品衛生法施行規則 別表第一で指定され、着香を目的として使用される食品添加物として指定されている。
【0027】
具体的には、2-エチル-3-メトキシピラジン(2-ethyl-3-methoxypyrazine、CAS番号: 25680-58-4)、2-イソプロピル-3-メトキシピラジン(2-isopropyl-3-methoxypyrazine、CAS番号: 25773-40-4)、2-イソブチル-3-メトキシピラジン(2-isobutyl-3-methoxypyrazine、CAS番号: 24683-00-9)、2-sec-ブチル-3-メトキシピラジン(2-sec-butyl-3-methoxypyrazine、CAS番号: 24168-70-5)等が指定添加物として、類又は誘導体として指定されている18項目の香料(いわゆる18類)に該当すると判断された具体的品目に含まれている。
【0028】
本発明に利用するメトキシピラジンについては、市販のタイプを購入することができるが、合成したものを利用することもできる。さらに、食品等から抽出(蒸留等)により、その香気成分を抽出したものを用いることもできる。
尚、本発明におけるメトキシピラジンについては、これを食品の製造において使用する場合は、液体油脂等の溶剤又は水、エタノール等に溶解させた状態のタイプのものを利用したり、必要に応じて種々の賦形剤等とともに粉末化した状態のタイプのものを利用することが好ましい。
【0029】
具体的な添加の方法としては、上述の熱風乾燥後のアリウム属の野菜に対して、式1で示すメトキシピラジンを溶かした液状油脂又は水系、エタノール等のアルコール等を噴霧する方法が挙げられる。
尚、式1で示されるメトキシピラジンの添加の方法は上述の方法に限定されず、種々の方法が可能であることは勿論である。
【0030】
─アリウム属の野菜─
本発明におけるアリウム属の野菜とは、具体的にはネギ、ワケギ、ニンニク、玉ねぎ、ラッキョウ、ニラ、リーキ、エシャロット、ツリーオニオン、アサツキ、チャイブ等が代表的なものとして挙げられる。また、栽培するものや、自生するタイプのいずれでもよいことは勿論である。
【0031】
特に、本発明においては、アリウム属の野菜のうち、ネギに対して好適に利用することができる。例えば、ネギの種類としては、千住ネギ・加賀ネギ・下仁田ネギの様な白ネギ、九条ネギ・博多万能ネギの様な青ネギ(葉ネギ)、超津ネギの様な中間型、赤ネギ、わけぎ、あさつき、リーキまで、幅広く用いることができる。特に乾燥したネギに対して好適に利用することができる。
【0032】
以下に乾燥ネギの製造方法について説明する。乾燥ネギの製造に際しては、図1に示すように葉鞘部のみならず、葉身部をも含めて製造されることが多いが本発明はこのような場合でも、当然に利用することができる。
また、生ネギの収穫後においてネギを洗浄する際には、水等により洗浄するが、収穫直後のまま、洗浄するかあるいは、根部や葉身部の先端部を除去した上で洗浄することが好ましい。
【0033】
次に洗浄後のネギについては、次のように切断する。切断する方向としては、ネギの伸長方向に対して垂直に切断する方法の他、ネギに対して斜めに切断してもよい。具体的には、ネギの伸長方向と切断面との角度が25°程度以上に切断する方法が挙げられる。また、伸長方向に垂直・斜め方向に切断する方法の他、ネギの伸長方向に沿って切断する方法も可能である。切断は包丁やナイフ等による手切りの他、スライサーを用いることもできる。切断の幅としては、一定間隔でもよいし変化させてもよい。具体的な切断の幅としては、2mm~30mm程度まで幅広く切断する方法が可能である。特に5mm~15mm程度が好ましい。
【0034】
また、本工程において次亜塩素酸ナトリウム水溶液による殺菌工程を追加してもよい。この場合は、例えば、根部や葉身部の先端部を除去した生ネギを次亜塩素酸ナトリウム150~250ppm程度の水溶液中に10分~20分程度浸漬することにより行い、殺菌後、水で洗浄する。当該次亜塩素酸処理はネギのカット前後のいずれに実施してもよい。
【0035】
─乾燥方法─
本発明のアリウム属野菜の風味向上の効果については、生のアリウム属野菜に対して利用することができるが、特に乾燥タイプのアリウム属野菜に対して好適に利用することができる。一般にネギ等のアリウム属野菜の製造における乾燥方法については、熱風乾燥法、凍結乾燥法、真空乾燥法、マイクロウエーブ乾燥法等が挙げられる。本発明おいては、これらの乾燥方法のいずれにも適用できるが、特に、熱風乾燥や凍結乾燥の方法において好適に利用できる。
【0036】
尚、通常、熱風乾燥方法では、熱風を供給する乾燥機があれば、処理が可能であるため、簡便な設備で乾燥を実現できる。
例えば、熱風乾燥においては、当該熱風乾燥の温度については、概ね30℃~90℃程度で行うことができる。また、熱風乾燥の時間については、特に限定されないが、水分含量が5~15重量%程度となるまで乾燥する。熱風乾燥の時間は特に限定されないが、概ね40℃~80℃程度であると、4時間~10時間程度である。
【0037】
また、上記熱風乾燥については、二段階の乾燥としても可能である。すなわち、80~60℃で程度乾燥した後、70~50℃のやや低い温度で継続して乾燥する方法等が挙げられる。
また、凍結乾燥の場合においては、蒸気等によるブランチングの後、凍結させた後、減圧下(通常0.8Torr以下の真空度)で棚温度50℃~80℃で概ね14~24時間程度の乾燥処理を行う方法が挙げられる。
但し、上記の各乾燥方法については、例を示したものであり、本発明においては乾燥方法について特に限定されないことは勿論である。
【0038】
─アリウム属野菜の風味向上剤─
本発明のアリウム属野菜の風味向上剤とは、使用する生又は乾燥したアリウム属の野菜に対してアリウム属野菜の風味を向上したり、アリウム属野菜を含有している食品に対して使用することで含有されているアリウム属野菜の風味を向上させることをいう。
すなわち、本発明におけるアリウム属野菜の風味向上剤における“向上”とは、アリウム属野菜自体の風味をすでに有している場合において当該アリウム属野菜の風味を増強させるという意味をいうものとする。
【0039】
特に本発明におけるメトキシピラジンを利用することで、アリウム属の野菜の自然な風味を向上させることができる。また、アリウム属の野菜の風味向上の効果とともに、アリウム属の野菜の乾燥品の場合、乾燥品特有の乾燥臭の軽減という効果も奏することができる場合がある。
また、水耕栽培のネギ(生又は乾燥品)に対して、当該ネギに対して、本発明のメトキシピラジンを使用すると土耕のネギの風味に近づけることができるという効果を奏する場合がある。
【0040】
また、本発明の風味向上剤については、少なくとも式1で示されるメトキシピラジンを含有していればよく、他の成分として各種の油脂、溶媒、香料、調味料等を含んでいてもよいことは勿論である。
さらに、アリウム属野菜の風味向上剤の剤形態は必ずしも所定の形式の容器等に収納されている場合のみならず、アリウム属の野菜を含有する食品を製造等する際に、当該アリウム属の野菜の風味向上のために、少なくとも式1で示されるメトキシピラジンを含む素材(粉状物、粒状物等の添加用の各種食材)が存在すればよく、当該素材について、アリウム属野菜自体又は、アリウム属野菜を含有する食品の製造の際や、喫食の際に添加や混合する態様であれば、本発明にいうアリウム属野菜の風味向上剤に該当するものとする。また、乾燥前において蒸気等によって適宜ブランチング処理を施してもよいことは勿論である。
【0041】
─アリウム属野菜への添加─
式1で示されるメトキシピラジンのアリウム属野菜に対する添加方法については種々の方法を選択することができる。
生のアリウム属野菜に対して添加する場合には、切断後又は切断前に適宜アリウム属野菜に対して添加することができる。添加には噴霧する方法等の種々が可能である。
次に乾燥されたアリウム属野菜に対して添加する場合においては、“乾燥処理”の工程に加えて、乾燥後の乾燥されたアリウム属野菜に対して、添加物として式1で示されるメトキシピラジンを添加することができる。尚、乾燥前に添加することも可能である。
アリウム属野菜に対する添加量としては、特に限定されるものではないが、乾燥ネギの場合、概ね乾燥ネギに対して概ね10ppt~500ppm程度が一般的である。また、100ppt~10ppmが好ましい。さらに、1ppb~1ppmがより好ましい。
【0042】
―式1で示されるメトキシピラジンを含むアリウム属野菜─
本発明においては、式1で示されるメトキシピラジンを含有するアリウム属野菜(特に乾燥されたアリウム属野菜)についても意図している。ここで、乾燥ネギが式1で示されるメトキシピラジンを含有するとは、まず、生のアリウム属の野菜に添加したり、乾燥したアリウム属野菜の製造過程のいずれかにおいて、式1で示されるメトキシピラジンを添加する場合が挙げられる。
【0043】
また、例えば、即席麺や即席ライス等の加工食品等で喫食時に添付調味料して、喫食者が付属のスープパック等を開封して加える場合には、当該スープパック等に式1で示されるメトキシピラジンを含有しており、かつ、当該即席麺等に乾燥具材として、アリウム属野菜が利用されている場合において、喫食時に乾燥又はお湯で復元されたネギと式1で示されるメトキシピラジンが同時に存在する態様となれば、式1で示されるメトキシピラジンを含むアリウム属野菜が存在することになる。
さらに、添加される式1で示されるメトキシピラジンは必ずしも精製されたものである必要はなく、式1で示されるメトキシピラジンをその一部の成分として含む、香料、食品素材等であれば、あらゆる態様を含むことは勿論である。

─式1で示されるメトキシピラジンを添加する工程を含む乾燥されたアリウム属の野菜の製造方法─
本発明においては、アリウム属野菜の風味の向上を目的として、乾燥されたアリウム属野菜の製造工程において式1で示されるメトキシピラジンを添加する(含有させる)工程を含む乾燥されたアリウム属野菜の製造方法も意図している。
すなわち、乾燥されたアリウム属野菜の製造過程のいずれかの工程において、式1で示されるメトキシピラジンを含有させる工程を含む工程が存在すればよい。また、その使用量については限定されないが、乾燥されたアリウム属野菜に対するものである場合、概ね上述した乾燥されたアリウム属野菜に対する添加量となるように調製することが好ましい。

─式1で示されるメトキシピラジンを利用することによるアリウム属野菜に対する風味向上方法─
本発明においては、アリウム属野菜の風味の向上を目的として、式1で示されるメトキシピラジンを含有させたり、添加する等して利用することによってアリウム属野菜の風味を向上させる方法についても意図している。
【実施例0044】
以下に本発明の実施例について説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されないことは勿論である。
【0045】
[試験例1]乾燥ネギに対する2-sec-ブチル-3-メトキシピラジンの効果の確認及び添加濃度の検討
乾燥されたアリウム属野菜のうち乾燥ネギに対する2-sec-ブチル-3-メトキシピラジンの添加効果を調べた。
・2-sec-ブチル-3-メトキシピラジンについては、市販のものを使用した。
・乾燥ネギの調製方法
市販の生ネギ(九条ネギ)を根部5mmの部分を切り離した後に、次亜塩素酸ナトリウム
200ppmに10分間浸漬した。当該浸漬後のネギを5mmごとにカットして、カットネ
ギを調製した。当該カットネギを流水で30分間水洗し、十分、水切りした後に当該水切り後のネギをトレイに入れて、熱風乾燥処理装置に入れて、70℃、50分間処理を行った後、さらに60℃、4時間の乾燥処理を実施した。乾燥後の乾燥ネギに対して、各試験区において2-sec-ブチル-3-メトキシピラジンを乾燥ネギに対して表1に記載の濃度となるように添加した後、以下の官能評価に供した。
【0046】
・乾燥ネギの官能評価方法
当該乾燥ネギ1gに対して100gの熱湯を注ぎ、当該ネギについて官能評価を行った。評価については熟練のパネラー5名が以下の点を評価した。
ネギ風味向上効果は各試験例の乾燥ネギの風味を官能評価した。評価は、ネギ風味の向上を観点として、特にネギの自然な風味を向上させる効果を有するかどうかを判断した。
評価結果は、ネギ風味の向上効果が大きい程、数値が大きい評価とした。
評価は7段階で行い特に以下の評価基準とした。(1点:悪い⇔7点:良い)の7段階とした。
【0047】
評価基準
7点:ネギの自然な風味がとても強く感じられる
6点:ネギの自然な風味が強く感じられる
5点:ネギの自然な風味がやや強く感じられる
4点:コントロールと同等
3点:ネギの自然な風味がやや損なわれる
2点:ネギの自然な風味が損なわれる
1点:ネギの自然な風味がとても損なわれる
評価結果を表1に示す。尚、評価は5人の評価の平均点とした。
【0048】
【表1】

2-sec-ブチル-3-メトキシピラジンを利用することで、乾燥ネギに対するネギ風味が向上することが分かった。

[試験例2]ネギ以外のアリウム属野菜に対する2-sec-ブチル-3-メトキシピラジンの効果の確認の検討
乾燥ネギ以外のアリウム属野菜に対する2-sec-ブチル-3-メトキシピラジンの添加効果を調べた。アリウム属野菜としては、ニラ、タマネギ、ニンニク(ガーリック)を利用し、また、試験条件等は試験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
2-sec-ブチル-3-メトキシピラジンを利用することで、乾燥ニラ、乾燥タマネギ及び乾燥ガーリックに対する各風味が向上することが分かった。
【0050】
[試験例3]乾燥ネギに対する他のメトキシピラジンの効果の検討
乾燥ネギに対して、試験例1で利用した2-sec-ブチル-3-メトキシピラジン以外のメトキシピラジンとして、2-エチル-3-メトキシピラジン(2-ethyl-3-methoxypyrazine)、2-イソプロピル-3-メトキシピラジン(2-isopropyl-3-methoxypyrazine、2-イソブチル-3-メトキシピラジン(2-isobutyl-3-methoxypyrazine)を使用した場合の効果について調べた。また、試験条件等は試験例1と同様に実施した。尚、乾燥ネギに対して10ppbの濃度となるように調整した。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
2-sec-ブチル-3-メトキシピラジン以外のメトキシピラジンとして、2-エチル-3-メトキシピラジン、2-イソプロピル-3-メトキシピラジン及び2-イソブチル-3-メトキシピラジンについても効果を有することを確認した。
図1