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  • -赤外線センサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143359
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】赤外線センサ
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/08 20060101AFI20230928BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H01L31/08 L
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050685
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 進也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩己
【テーマコード(参考)】
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
5F149AA03
5F149AB07
5F149AB17
5F149BA01
5F149CB03
5F149CB14
5F149DA02
5F149DA30
5F149FA05
5F149GA04
5F149GA06
5F149LA01
5F149XB18
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5F849DA30
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5F849GA06
5F849LA01
5F849XB18
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(57)【要約】
【課題】室温において高抵抗で長波長赤外線に感度を持つ赤外線センサが提供される。
【解決手段】赤外線センサは、基板と、基板上に形成された複数の化合物半導体層からなる薄膜積層部とを備え、薄膜積層部は、インジウム、アンチモン及びヒ素を含む化合物半導体である活性層と、活性層と接する、活性層よりも大きなバンドギャップを有するバリア層を備え、活性層がp型ドーピングされており、バリア層のp型ドーピング濃度が1×1018/cm未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された複数の化合物半導体層からなる薄膜積層部とを備え、
前記薄膜積層部は、
インジウム、アンチモン及びヒ素を含む化合物半導体である活性層と、
前記活性層と接する、前記活性層よりも大きなバンドギャップを有するバリア層を備え、
前記活性層と前記バリア層がp型ドーピングされており、
前記バリア層のp型ドーピング濃度が1×1018/cm未満である、赤外線センサ。
【請求項2】
前記バリア層は、AlGaInAsSb(0.1≦Al+Ga≦0.5、0≦As≦0.5)、である、請求項1に記載の赤外線センサ。
【請求項3】
前記バリア層のp型ドーピング濃度が3×1016/cm以上である、請求項1又は2に記載の赤外線センサ。
【請求項4】
前記活性層のp型ドーピング濃度が2×1016/cm以上7×1017/cm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線センサ。
【請求項5】
前記活性層と前記バリア層のp型ドーパントがZnである、請求項1から4のいずれか一項に記載の赤外線センサ。
【請求項6】
前記バリア層の、前記バリア層と前記活性層とが接する面と反対側の面で接する第三の半導体層を更に備え、前記第三の半導体層のp型ドーピング濃度が1×1018/cm以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の赤外線センサ。
【請求項7】
前記第三の半導体層がInSbである、請求項6に記載の赤外線センサ。
【請求項8】
前記活性層がInAsSb(0<As<0.36)である、請求項1から7のいずれか一項に記載の赤外線センサ。
【請求項9】
前記活性層がInAsSb(0<As<0.2)である、請求項1から7のいずれか一項に記載の赤外線センサ。
【請求項10】
前記バリア層がAlInSb(0.16<Al<0.3)である、請求項1から9のいずれか一項に記載の赤外線センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
特に2~15μm程度の波長を有する短波長から、中波長、長波長赤外線の領域(中赤外域と称する)の赤外線は、気体分子が特有の吸収帯を示すことから、非分散赤外吸収式のガス濃度測定装置に用いられてきた。その中で、赤外線センサは、ガス濃度測定器の検出分解能及び消費電力といった主要性能を大きく左右する重要な部材であり、所望の波長における高い受光感度を有する赤外線センサが求められてきた。赤外線センサとして例えば、赤外線フォトダイオード(PD)、焦電センサ、サーモパイル等が知られている。この中でも特に半導体を用いた赤外線PDは、材料設計により、所望の波長帯での受光が可能であり、ガス濃度測定器に用いられてきた。
【0003】
赤外線PDの特徴として、波長依存性の他に応答速度が速いなどの長所が挙げられるが、室温での性能向上が難しい事が知られている。特に7.3μm~15μmの長波長赤外線に感度を持つ赤外線PDを作製するにあたっては、例えばInAsSbといった、InSbよりも小さなバンドギャップを有する材料を活性層に用いることが考えられる。しかしながら、そのような材料では室温においてキャリア濃度が高い。そのため、励起キャリアのバンドフィリングによる感度の低下及びオージェ再結合の増加による抵抗の減少のため、性能が低下する。従来は液体窒素又はペルチエ素子による電子冷却などと組み合わせて、計測器、赤外線カメラ等の用途に利用されてきた。しかしながら、これらの冷却機構は、寸法が大きくなること、液体窒素及び電力の供給などでランニングコストが高くなる等の問題がある。上記の問題を解決した赤外線センサとして、例えば、特許文献1に記載のInSb系材料を用いた室温動作可能な赤外線PDがある。特許文献1においては、赤外線PDを構成する化合物半導体の積層構造に関して、バリア層を導入することでリーク電流を抑制する又は活性層をp型ドーピングすることで感度を向上させるといった改良が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/027228号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、室温で長波長赤外線用PDを作製する際は、活性層をp型ドーピングすることでバンドフィリングを抑制し、感度を向上させることができるが、活性層のキャリア濃度が増加するため必ずしもオージェ再結合を抑制することができない。特に後述の通り、バリア層と活性層の界面で特にオージェ再結合が多くなるためセンサ抵抗の向上に課題が残る。
【0006】
本開示はこのような事情を鑑みてされたものであって、室温において高抵抗で長波長赤外線に感度を持つ赤外線センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係る赤外線センサは、
基板と、前記基板上に形成された複数の化合物半導体層からなる薄膜積層部とを備え、
前記薄膜積層部は、
インジウム、アンチモン及びヒ素を含む化合物半導体である活性層と、
前記活性層と接する、前記活性層よりも大きなバンドギャップを有するバリア層を備え、
前記活性層と前記バリア層がp型ドーピングされており、
前記バリア層のp型ドーピング濃度が1×1018/cm未満である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、バリア層において最適なp型ドーピング濃度を選択することで、室温において高抵抗で長波長赤外線に感度を持つ赤外線センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係る赤外線センサの構造を示す図である。
図2図2は、一実施形態に係る赤外線センサの構造を示す図である。
図3図3は、一実施形態に係る赤外線センサの薄膜積層部のエネルギーバンド図である。
図4図4は、一実施形態に係る赤外線センサの薄膜積層部のオージェ再結合レートを示す図である。
図5図5は、一実施形態に係る赤外線センサの薄膜積層部のエネルギーバンド図である。
図6図6は、一実施形態に係る赤外線センサの薄膜積層部のオージェ再結合レートを示す図である。
図7図7は、一実施形態に係る赤外線センサの薄膜積層部のNPPオージェ再結合レートの界面成分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態が説明される。ただし、図面は模式的なものである。例えば厚み、長さ等は現実のものと異なる。本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、様々な変更を加えることができる。以下の実施形態は、特許請求の範囲の内容を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが必須であるとは限らない。
【0011】
<赤外線センサ>
本実施形態に係る赤外線センサは、波長が7.3μm~15μmの長波長赤外線に感度を有するフォトダイオードである。赤外線センサは、半導体基板と化合物半導体積層部とを備える。化合物半導体積層部は活性層をp型半導体層とn型半導体層で挟んだ構造を含む。化合物半導体積層部の少なくとも一部が後述の薄膜積層部に対応する。
【0012】
<基板>
本実施形態に係る赤外線センサは、半導体基板を備えている。例えばSi基板、InP基板、GaAs基板などを用いることができる。InSb基板は、後述の活性層の材料と格子定数が近いことから、低欠陥で高性能な赤外線センサを形成するための基板として使用することができる。また、長波長赤外線の領域は、電子又はホールによる自由電子吸収が顕著となってくることから、不純物濃度(キャリア濃度)の低い半導体基板が好まれる。さらに半絶縁性のGaAs基板を用いることにより、上記の自由電子吸収を抑制すると共に、基板上に形成した薄膜積層部を、電気的に絶縁分離することができる。従って電極配線を用いて、複数の薄膜積層部を直列に接続することにより、高い抵抗を有する赤外線センサを得ることが可能となる。
【0013】
<薄膜積層部>
本実施形態に係る赤外線センサは、基板上に形成された複数の化合物半導体層からなる薄膜積層部を備えている。薄膜積層部は、少なくとも、活性層と、活性層に接するp型ドーピングされたバリア層とを有している。薄膜積層部は、さらにバリア層の、バリア層と活性層とが接する面と反対側の面で接する第三の半導体層を有していてよい。
【0014】
図1は、一実施形態に関わる基板と薄膜積層部の構造を示す。本実施形態において、薄膜積層部は、基板上にn型層、活性層、バリア層、第三の半導体層がこの順に積層された構造である。また、図2に示すようにバリア層が活性層よりも基板側であってよい。n型層はn型ドーピングされた半導体層である。
【0015】
<活性層>
活性層は、波長が7.3μm~15μmである長波長赤外線の一部又は全部を受光することで、電子とホールのキャリア対を生成する。活性層は、インジウム、アンチモン及びヒ素を含む化合物半導体である。活性層としては、例えばInAsSb1-x(0<x<0.72)を含む薄膜を用いることができる。当該組成領域では、InSbよりも小さなバンドギャップ、すなわち7.3μmよりも長波長の赤外線に対する感度が実現される。活性層は、当該材料からなる単一組成の薄膜であってよいし、異なる材料を積層してよい。また、活性層は、複数のバンドギャップを有する半導体層を用いた量子井戸構造を含む積層体としてよい。例えばInSb/InAsSbの繰り返し積層からなるタイプ2(type-II)超格子構造がある。また、活性層はキャリアの熱励起による実効的なバンドギャップの増加を抑制するため、p型ドーピングされている。一例として、特許文献1に開示された、3.5×1017/cmにp型ドーピングされたInAs0.23Sb0.77層がある。
【0016】
活性層の構成材料としては、InAsSb混晶材料のAs組成を狭めることによって、より良い結晶成長が可能になることから、InAsSb(0<As<0.36)を用いてよい。ここで、括弧内の記載は混晶における組成比を示す。(0<As<0.36)は、InAsSbにおいて、同族元素中のAsの組成比が0より大きく0.36未満であることを示す。以下において、同様の記載によって組成比が示される。当該組成領域では、より小さい混晶比で、最大15μmまでの赤外線に対する感度が得られる。
【0017】
また、更にAs組成範囲を狭めることによって、より良い結晶成長が可能になることから、InAsSb(0<As<0.20)を用いてよい。当該組成領域では、最大12μmまでの赤外線に対する感度が得られる。波長9.5μm付近に吸収を持つアルコールガス検知に用いる場合、InAsSb(0.10<As<0.15)が好適である。
【0018】
<バリア層>
バリア層は活性層に接して積層される。バリア層は、活性層よりも大きなバンドギャップを持つ。バリア層は、構成材料として、例えばAlGaInAsSb(0≦Al+Ga≦0.5、0≦As≦0.5)を含む。また、バリア層はp型ドーピングされており、p型ドーピング濃度が1×1018/cm未満である。p型ドーピング濃度の詳細については後述する。
【0019】
ここで、バリア層のp型ドーピング濃度とは、バリア層が活性層と接する界面から、バリア層の方向へ20nm進入した位置までのp型ドーピング濃度の平均値を指す。例えばバリア層の厚さが100nmで、そのうち活性層界面側の50nmのp型ドーピング濃度が5×1017/cmで、残りの50nmのp型ドーピング濃度が2×1018/cmである場合等も、同様の効果が見込まれ、本開示の技術的思想に含まれる。
【0020】
バリア層の構成材料として、特にAlInSb(0.16<Al<0.30)が用いられてよい。当該材料はAlGaInAsSb(0≦Al+Ga≦0.5、0≦As≦0.5)の中でも、大きなバンドギャップをより小さい混晶比で実現できる。
【0021】
<第三の半導体層>
本実施形態に係る赤外線センサは、バリア層の、バリア層と活性層とが接する面と反対側の面で接する第三の半導体層を更に備えていて良い。第三の半導体層は、バリア層よりも電気伝導度の高い材料を用いると更に良い。
【0022】
第三の半導体層のバンドギャップは、活性層以外での赤外線吸収を抑えるため活性層のそれより大きいことが望ましい。また第三の半導体層のバンドギャップは、電気伝導度を高くするため、バリア層のそれより小さいと良い。
【0023】
第三の半導体層のバンドギャップは、電気伝導度を高くするためバリア層よりも高濃度にp型ドーピングされていてよい。このとき第三の半導体層中のp型ドーピング濃度が深さ方向によって必ずしも一定である必要はない。
【0024】
<p型ドーピング>
p型ドーピングに用いる材料(p型ドーパント)としてZn、Si、Be、Ge等がある。
【0025】
次に好適なp型ドーピング濃度について述べるため、バンド図等を用いて、本開示の一実施形態に係る赤外線センサの詳細が説明される。
【0026】
本実施形態に係る赤外線センサの活性層は、上記の通りバンドギャップが小さいため、特に室温におけるキャリア密度が大きい。電気伝導に寄与する再結合として、SRH再結合、発光性再結合、オージェ再結合が挙げられるが、このようにキャリア密度が大きい場合、オージェ再結合の寄与が大きくなる。更にオージェ再結合の中でも電子2つとホール1つが相互作用する過程と、電子1つとホール2つが相互作用する過程が知られているが、本実施形態に係る赤外線センサの活性層は、上記の通りp型ドーピングされているため、後者の過程が支配的となる。以降、電子1つとホール2つが相互作用するオージェ再結合は、NPPオージェ再結合と称される。
【0027】
バリア層は、電子拡散に対する障壁となるため、比較的エネルギーギャップの大きい材料が用いられるが、同時にホールに対する障壁とならないよう、p型ドーピングにより価電子帯のエネルギーレベルを高く保つ必要がある。従来、特に室温で動作する赤外線センサにおいて、このp型ドーピング濃度について、本開示と類似の材料を用いた場合1×1018/cm以上が好ましいとされている(例えば特許文献1)。
【0028】
しかし、このようにp型ドーピング濃度が大きい場合、図3に示す様に、活性層のバリア層と接する部分付近でバンド曲がりが生じる。この影響により、活性層端でホール濃度が増加し、ひいては活性層界面におけるNPPオージェ再結合が増加する。図4はこのときのNPPオージェ再結合レートの位置依存性を示したものである。表1は図3、4を計算する際に仮定した層構造を示す。ここで、図3図4、後述する図5及び図6の横軸の座標(μm)は、活性層中のある断面を0とする、積層方向の位置を示す。
【0029】
【表1】
【0030】
図5は、上記の場合よりもバリア層のp型ドーピング濃度を小さくした場合のバンド図を示す。この場合活性層端でのバンド曲がりが抑制される。図6は、このときのNPPオージェ再結合レートの位置依存性を示す。表2は図5及び図6を計算する際に仮定した層構造を示す。図4図6の比較から、バリア層におけるp型ドーピング濃度を減らすことで、活性層界面におけるNPPオージェ再結合が抑制されることが分かる。
【0031】
【表2】
【0032】
図4及び図6において、活性層内で活性層端から十分離れた部分のNPPオージェ再結合レートがバルクの寄与である。NPPオージェ再結合レートの位置依存性からバルクの寄与を除き、活性層部分について積分することで、NPPオージェ再結合レートの界面成分を計算することができる。そのようにして得られる界面成分を、バリア層のp型ドーピング濃度に対してプロットしたものが図7である。縦軸はp型ドーピング濃度が1×1019/cmの時の値で規格化されている。横軸は対数スケールとなっている。図7によると、p型ドーピング濃度を1×1019/cmから減少させていくと、1×1018/cmまでNPPオージェ再結合レートの界面成分は直線的に減少する。更にp型ドーピング濃度を減少させると界面成分の減少はなだらかになり、3×1016/cmまで減少させるとほとんど変化が無くなる。上記の振る舞いは、活性層のAs組成、p型ドーピング濃度又はバリアのAl組成を変化させても大きく変わらない。従って、NPPオージェ再結合レートの界面成分を抑制するにあたって、バリア層の好適なドーピング濃度は3×1016/cmから1×1018/cmである。
【0033】
上記のメカニズムから、活性層においてNPPオージェ再結合が支配的な状況で更に効果が大きくなる。InSbの室温における真性キャリア密度が2×1016/cmであることから、活性層のp型ドーピング濃度は2×1016/cm以上であるとよい。
【0034】
(実施例1)
表3は実施例1に係る薄膜積層部の構成を示す。実施例1において、層番号1~5は下地層(n型層)で、ノンドープ又はSnをドープすることでn型化されたAlInSb(Al=0、0.09、0.18のいずれか)で構成される。層番号6がInAs0.13Sb0.87からなる活性層で、Znを用いてp型ドーピングされている。層番号6がInAs0.13Sb0.87からなる活性層で、Znを用いてp型ドーピングされている。層番号7がAl0.18In0.82Sbからなるバリア層で、Znを用いて2×1017/cmにp型ドーピングされている。層番号8及び9がInSbからなる第三の半導体層で、層番号8の部分はZnを用いて3×1017/cmにp型ドーピングされている。また、層番号9の部分はZnを用いて3×1018/cmにp型ドーピングされている。Znの濃度は、Znの濃度が既知のInSb標準試料を用いて校正された二次イオン質量分析法により得られた値である。
【0035】
赤外線センサは以下の手順で作製された。まず、半絶縁性のGaAs基板上に、表3に示される薄膜積層部がMBE法にて形成された。ドライエッチ法により、上部から層番号4の途中までエッチングすることでメサ構造を形成し、SiO及びSiNからなる保護層を形成後、電極と半導体とのコンタクト部について窓開けが行われた。次いで、当該窓開け部を覆うようにAu/Pt/Ti層からなる電極層が形成された。メサ構造の面積は約230μmである。赤外光はGaAs基板側から入射されることで、基板、下地層を透過し、活性層にて吸収される。活性層にて生じたキャリア対のうち、ホールは層番号9と接続した電極層へ取り出される。また、電子は層番号4と接続した電極層へ取り出される。あるメサの層番号9と接続した電極層と、別のメサの層番号4と接続した電極層とを電気的に接続することで、643個のメサが直列に接続された。
【0036】
【表3】
【0037】
(比較例1)
表4は比較例1に係る薄膜積層部の構成を示す。比較例1は実施例1において、層番号7の部分及び層番号8の部分のドーピング濃度を3×1018/cmに変更したものに等しい。比較例1の赤外線センサの作製手順は実施例1と同一である。
【0038】
【表4】
【0039】
実施例1と比較例1の無バイアス下での抵抗値はそれぞれ29.0kΩと24.4kΩであった。すなわち抵抗値の1.19倍の改善が確認された。また、波長が8μm、9μmの赤外線における、比較例1に対する実施例1の受光感度の比は、それぞれ1.01、0.95でほぼ変わらなかった。赤外線センサのSN比は、(受光感度)×(抵抗値)1/2に比例する。そのため、波長が8μm、9μmの赤外線における、比較例1に対する実施例1のSN比はそれぞれ1.10倍、1.04倍の改善であった。すなわち、バリア層のp型ドーピング濃度を減らすことで、わずかに取り出し効率の低下があり得るが、NPPオージェ再結合の界面成分を抑制でき、赤外線センサの性能が向上することが確認された。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る赤外線センサは、上記のように、バリア層において最適なp型ドーピング濃度を選択することで、室温において高抵抗で長波長赤外線に感度を持つ赤外線センサとなる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7