IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 昭和産業株式会社の特許一覧

特開2023-143518揚げ物用ミックス粉、及びそれを用いて製造される揚げ物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143518
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】揚げ物用ミックス粉、及びそれを用いて製造される揚げ物
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20230928BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 17/40 20160101ALN20230928BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
A23L29/238
A23L29/256
A23L29/30
A23L17/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050932
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 杏菜
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕幸
【テーマコード(参考)】
4B025
4B035
4B041
4B042
【Fターム(参考)】
4B025LB05
4B025LG04
4B025LG27
4B025LG28
4B025LP12
4B035LC03
4B035LE17
4B035LE18
4B035LG21
4B035LG23
4B035LG25
4B035LG34
4B035LK15
4B035LK19
4B035LP07
4B035LP27
4B035LP43
4B041LC03
4B041LD10
4B041LH02
4B041LH07
4B041LH10
4B041LK23
4B041LK28
4B042AC05
4B042AD18
4B042AG72
4B042AH01
4B042AK07
4B042AK09
4B042AK12
4B042AK13
4B042AP05
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】揚げ物について、油ちょう後も、食感の低下を抑制することができる揚げ物用ミックス粉を提供する。
【解決手段】(A)小麦粉、
(B)タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びこれらの加工澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の澱粉を総量で1~30質量%、及び
(C)アルギン酸塩、アルギン酸エステル、及びローカストビーンガムよりなる群から選択される少なくとも1種の増粘多糖類を総量で0.05~5質量%
含有する、揚げ物用ミックス粉。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)小麦粉、
(B)タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びこれらの加工澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の澱粉を総量で1~30質量%、並びに
(C)アルギン酸塩、アルギン酸エステル、及びローカストビーンガムよりなる群から選択される少なくとも1種の増粘多糖類を総量で0.05~5質量%
含有する、揚げ物用ミックス粉。
【請求項2】
請求項1に記載する揚げ物用ミックス粉に液体を加えて調製される揚げ物用バッター。
【請求項3】
請求項1に記載する揚げ物用ミックス粉、又は請求項2に記載する揚げ物用バッターが具材の表面に付着してなる、未油ちょうの衣付き食品。
【請求項4】
冷蔵又は冷凍状態にある、請求項3に記載する未油ちょうの衣付き食品。
【請求項5】
請求項2に記載する揚げ物用バッター、又は請求項3若しくは4に記載する未油ちょうの衣付き食品が、油ちょう処理されてなる揚げ物。
【請求項6】
さらに冷蔵又は冷凍処理されてなる、請求項5に記載する揚げ物。
【請求項7】
請求項1に記載する揚げ物用ミックス粉に液体を加えてバッターを調製する工程、及び
調製されたバッターをそのまま又は具材に付着させて、油ちょうする工程、
又は
請求項3又は4に記載する未油ちょうの衣付き食品を油ちょうする工程
を有する揚げ物の製造方法。
【請求項8】
油ちょうした揚げ物を、さらに冷蔵又は冷凍処理する工程を有する、請求項6に記載する揚げ物の製造方法。
【請求項9】
揚げ物用ミックス粉として、(A)小麦粉に加えて、
(B)タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びこれらの加工澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の澱粉を総量で1~30質量%、及び
(C)アルギン酸塩、アルギン酸エステル、及びローカストビーンガムよりなる群から選択される少なくとも1種の増粘多糖類を総量で0.05~5質量%
含む揚げ物用ミックス粉を用いることを特徴とする、
油ちょう処理後の揚げ衣の食感の経時的低下を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物用ミックス粉、揚げ物用バッター、並びにこれらを用いて製造される未油ちょうの衣付き食品、及び油ちょうされた揚げ物に関する。また本発明は、油ちょう処理後の衣の食感の経時的低下を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天ぷらやから揚げ、パン粉付きフライ食品など、衣を付けて油ちょうして製造される揚げ物は、揚げたて時に衣が適度な硬さを有し、またサクサクと歯切れの良い食感であることが求められる。また、一般に、油ちょう後に時間が経過すると、具材から水分が移行し、衣と具材との間にぬめり(べちゃつき感)が生じたり、衣がふやけて軟らかくなるなど、食感が低下しやすくなるため、これを抑制して、経時後もサクサクとした歯切れの良い食感を維持していることが求められる。特に、昨今、中食化が進み、市販の弁当や総菜を購入して食する人口が増えているため、油ちょう後、時間が経過した後でも、サクサクとした食感が維持された揚げ物に対するニーズは高い。
【0003】
揚げ物の食感改良に、アルギン酸エステル、アルギン酸塩、キサンタンガム、及びローカストビーンガム等の水溶性の増粘多糖類を用いることが有効であることが知られている(例えば、特許文献1~3等参照)。
【0004】
例えば、特許文献1には、アルギン酸プロピレングリコールエステルとカルボキシメチルセルロース又はその塩を含有する組成物が、小麦粉加工食品(油ちょう食品)の油揚げ時の吸油を抑制し、食感や外観を改善する小麦粉加工食品用品質改良剤として有用であることが記載されている。しかし、ここで対象とする小麦粉加工食品は、主として揚げパン、ドーナツ類、フライ麺、固焼きそば、及びフライ食品に用いられるパン粉であり、揚げ物用ミックス粉を用いた油ちょう食品ではない。また吸油抑制作用によって衣のサクサク感が維持されることについては記載も示唆もされておらず、また当業界の技術常識でもない。さらに当該技術はカルボキシメチルセルロースを必須成分として用いるものであり、カルボキシメチルセルロースを用いないことは想定されていない。
【0005】
特許文献2は、結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルを含有する結晶セルロース複合化物と衣材とを含む揚げ衣組成物を開示するものであり、当該揚げ衣組成物を用いることで、冷凍した揚げ物を再加熱解凍しても、衣のサクサク感が損なわれないことが記載されている。しかし、ここで使用される結晶セルロース複合化物は、結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルとが一定の割合で化学結合し複合化してなるものであり、表3には、結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルを単に混合しただけでは、衣のサクサク感は得られないことが記載されている(比較例4参照)。
【0006】
特許文献3は、アルギン酸エステルに吸油抑制作用があることを開示するものであり、アルギン酸エステルの吸油抑制剤としての用途、及び小麦粉にそれを配合した油ちょう食品の衣材が記載されている。特に、実施例4には、アルギン酸エステル水溶液に市販のバッターミックスを溶解して調製したバッターを用いてサツマイモの天ぷらを製造したことが記載されており、バッターにアルギン酸エステルを配合することで、外観、食感、味香がいずれも優れていたことが記載されている。しかし、具体的な食感は記載されておらず、衣のサクサク感が維持されることについては記載も示唆もされていない。また表4には、バッターにアルギン酸エステルを配合し、且つその配合割合が多くなるほど、衣に含まれる油分量が減少するとともに、逆に水分量が増加することが記載されており、このことからも、バッターにアルギン酸エステルを配合することで衣のサクサク感が維持される効果は予測することはできない。
【0007】
特許文献4には、大量調理施設で調理される冷凍揚物の製造に関して、アルカリ化処理した中具に、増粘多糖類、アルギン酸プロピレングリコールエステル(PGA)及びメチルセルロースからなる群より選択される2種以上の多糖類を含むバッター液を付着させて油ちょうすることが記載されており、こうすることで、多量の食数を一括して加熱調理できるとともに、加熱中に損傷を受け難く、好ましい食感を有する冷凍揚物が得られることが記載されている。また、前記バッター液には、配合量は記載されていないものの、小麦粉、澱粉及び増粘剤などが配合できることが記載されている。冷凍揚物を加熱調理した後の衣の脆さ(サクサク感)を評価した試験結果(表15~23)によると、小麦粉、澱粉、及び加工澱粉等を含むバッターミックスにPGAだけを配合してもサクサク感は得られず、PGAにサイリウムシードガムや、またさらにタマリンドシードガム及びメチルセルロースを併用することでサクサク感が得られることが記載されている。
【0008】
特許文献5には、穀粉類及び/又は澱粉に加えて、アルギン酸1価金属塩、及びカルシウム塩やマグネシウム塩等の2価金属塩を含有する揚げ物衣ミックスが記載されており、かかる揚げ物衣ミックスを用いることで、油ちょう前に冷蔵保存した場合でも、良好な揚げ色が付き、また具材のぱさつきが抑制できることが記載されている。この技術は、前記の通り、アルギン酸塩と2価金属塩を併用することを必須とするものであり、2価金属塩を配合しない場合や、アルギン酸塩に代えてアルギン酸エステルを用いた場合は、上記効果が得られないことが記載されている(表2参照)。
【0009】
特許文献6は、前記特許文献5と類似した技術を開示するものであり、衣材付き揚げ調理用具材の製造方法において、穀粉類及び/又は澱粉に加えてアルギン酸1価金属塩を含む衣材Aと、カルシウム塩やマグネシウム塩等の2価金属塩を含有する衣材Bとを、交互に具材に付着させることで、油ちょう前に冷蔵保存した場合でも、良好な揚げ色が付き、また具材のぱさつきが抑制できることが記載されている。この技術は、前記の通り、2価金属塩を含有する衣材Bを併用することを必須とし、衣材Bとして2価金属塩を含有しない衣材を用いた場合や、衣材Aとしてアルギン酸塩に代えてアルギン酸エステルを含む衣材を用いた場合は、上記効果が得られないことが記載されている(表2参照)。
【0010】
特許文献7は、唐揚げやトンカツ等の衣付き食品の製造方法に関して、食材の表面に保水性粉末、卵タンパク質含有液、及び衣材の順に付着させ、油ちょうすることで、冷蔵保存後も再加熱することで揚げたてのサクサク感を保持した衣付き食品が提供できることが記載されている。ここで食材の表面に付着させる保水性粉末として、小麦粉に加えて、加工澱粉及び/又はゲル化剤を含む粉末を用い、衣材として穀粉及び/又は澱粉を含む粉末を用いることが記載されている。このように、この技術は食材に付着させる衣材として特定の成分を配合した粉末組成物を用いるものである。
【0011】
特許文献8は、チルド温度帯での保存、流通及び/又は販売に適した冷凍衣材付き揚げ物の製造方法に関して、衣材として、穀粉や澱粉に加えてローカストビーンガムを含有するバッター液を用いることが記載されている。しかし、穀粉として小麦粉、澱粉としてコーンスターチ、及びローカストビーンガムを含むバッター液を用いた場合であっても、冷凍後の解凍処理をチルド温度帯を超える温度条件で実施すると、衣のサクサク感が低下することが記載されている(比較例6及び7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2016-158518号公報
【特許文献2】特開2011-152087号公報
【特許文献3】特開2000-236821号公報
【特許文献4】特開2015-23846号公報
【特許文献5】特開2019-195292号公報
【特許文献6】WO2019/216361公報
【特許文献7】特開2015-126706号公報
【特許文献8】特開2019-103446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、油ちょう後も、衣の食感の経時的低下を有意に抑制することができる揚げ物用ミックス粉を提供することを目的とする。また、本発明は、これを用いて製造される揚げ物用バッター、未油ちょうの衣付き食品、及び油ちょうされた揚げ物、並びにその製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、油ちょう処理後の衣の食感の経時的低下を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題に鑑み、鋭意検討したところ、(A)小麦粉に加えて、(B)タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びこれらの加工澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の澱粉と、(C)アルギン酸塩、アルギン酸エステル、及びローカストビーンガムよりなる群から選択される少なくとも1種の増粘多糖類を、それぞれ特定の割合で含む揚げ物用ミックス粉を用いて揚げ物を製造することで、(B)及び(C)成分を含有しない揚げ物用ミックス粉を用いた場合と比べて、揚げ物特有の衣のサクサクした食感の経時的低下が有意に抑制され、また経時的に生じる具材と衣の間のぬめり(べちゃつき感)が有意に抑制されることを確認した。またこの効果は、油ちょう後、冷凍保存した後に、再加熱した場合でも、同様に維持されていることを確認した。
【0015】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含する。
【0016】
(I)揚げ物用ミックス粉、揚げ物用バッター
(I-1)(A)小麦粉、
(B)タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びこれらの加工澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の澱粉を総量で1~30質量%、及び
(C)アルギン酸塩、アルギン酸エステル、及びローカストビーンガムよりなる群から選択される少なくとも1種の増粘多糖類を総量で0.05~5質量%
含有する、揚げ物用ミックス粉。
【0017】
(I-2)前記加工澱粉がアセチル化澱粉及び/又はエーテル化澱粉である、(I-1)に記載する揚げ物用ミックス粉。
(I-3)(I-1)又は(I-2)に記載する揚げ物用ミックス粉に液体、好ましくは水を加えて調製される揚げ物用バッター。
【0018】
(II)未油ちょうの衣付き食品、及びその製造方法
(II-1)(I-1)又は(I-2)に記載する揚げ物用ミックス粉、又は(I-3)に記載する揚げ物用バッターが具材の表面に付着してなる、未油ちょうの衣付き食品。
(II-2)冷蔵又は冷凍状態にある(II-1)に記載する未油ちょうの衣付き食品。(II-3)(I-1)又は(I-2)に記載する揚げ物用ミックス粉に水を加えてバッターを調製する工程、及び調製したバッターを具材の表面に付着する工程を有する、(II-1)又は(II-2)に記載する未油ちょうの衣付き食品の製造方法。
(II-4)さらに冷蔵又は/及び冷凍処理する工程を有する、(II-3)に記載する製造方法。
【0019】
(III)揚げ物、及びその製造方法
(III-1)(I-3)に記載する揚げ物用バッター、又は(II-1)又は(II-2)に記載する未油ちょうの衣付き食品が、油ちょう処理されてなる揚げ物。
(III-2)冷蔵又は冷凍状態にある(III-1)に記載する揚げ物。
(III-3)(I-1)又は(I-2)に記載する揚げ物用ミックス粉に液体を加えてバッターを調製する工程、及び調製されたバッターをそのまま又は具材に付着させて、油ちょうする工程、又は
(II-1)又は(II-2)に記載する未油ちょうの衣付き食品を油ちょうする工程
を有する揚げ物の製造方法。
(III-4)さらに冷蔵又は冷凍処理する工程を有する、(III-3)に記載する製造方法。
【0020】
(IV)食感の経時的低下の抑制方法
(IV-1)揚げ物用ミックス粉として、(A)小麦粉に加えて、
(B)タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びこれらの加工澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の澱粉を総量で1~30質量%、及び
(C)アルギン酸塩、アルギン酸エステル、及びローカストビーンガムよりなる群から選択される少なくとも1種の増粘多糖類を総量で0.05~5質量%
含む揚げ物用ミックス粉を用いることを特徴とする、
油ちょう処理後の揚げ衣の食感の経時的低下を抑制する方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、揚げ物用のミックス粉として、小麦粉に加えて、特定の澱粉と特定の増粘多糖類を組み合わせて配合した粉体混合物を用いることで、これらを配合しない粉体混合物を用いる場合と比べて、揚げ物を油ちょう処理した後の衣の食感の経時的低下を抑制することができる。具体的には、揚げ物特有のサクサク感の低下を抑制し、サクサク感を比較的長く持続することができ、また具材と衣の間のぬめり感(べちゃつき感)の発生を有意に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(I)揚げ物用ミックス粉、揚げ物用バッター、及びそれらの調製方法
[揚げ物用ミックス粉]
本発明が対象とする揚げ物用ミックス粉(以下、単に「本発明ミックス粉」とも称する)は、下記の成分を含有することを特徴とする:
(A)小麦粉、(B)タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びこれらの加工澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の澱粉、及び
(C)アルギン酸塩、アルギン酸エステル、及びローカストビーンガムよりなる群から選択される少なくとも1種の増粘多糖類。
【0023】
これらの各成分について説明する。
(A)小麦粉
本発明が対象とする小麦粉には、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、全粒粉、デュラム小麦粉、これらに加熱処理等の加工を施した改質小麦粉が含まれる。これらの小麦粉は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは薄力粉である。本発明ミックス粉100質量%中の小麦粉の割合としては、50~98.5質量%を挙げることができる。好ましくは、60~95質量%、より好ましくは70~90質量%、さらに好ましくは75~85質量%である。
【0024】
(B)澱粉
本発明が対象とする澱粉は、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びこれらの未加工澱粉に物理的、化学的な加工を単独又は複数組み合わせて施した加工澱粉である。これらは1種単独で用いることができるが、2種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。上記加工澱粉には、熱処理澱粉、α化澱粉、酸処理澱粉(例えば、酢酸澱粉、及びリン酸化澱粉等が含まれる)、架橋澱粉(例えば、リン酸架橋澱粉等が含まれる)、エーテル化澱粉(例えば、ヒドロキシプロピル澱粉等が含まれる)、アセチル化澱粉、及びエステル化澱粉が含まれる。加工澱粉として、制限されないものの、好ましくはエーテル化澱粉、及びアセチル化澱粉を挙げることができる。澱粉として、より好ましくはタピオカ澱粉、並びにその加工澱粉、例えばエーテル化タピオカ澱粉、及びアセチル化タピオカ澱粉を挙げることができる。
【0025】
本発明ミックス粉100質量中の前記澱粉の割合は、総量で1~30質量%である。好ましくは3~25質量%、より好ましくは5~20質量%である。また本発明のミックス粉に含まれている小麦粉100質量部に対する割合としては、1~50質量部、好ましくは3~30質量部、より好ましくは5~20質量部を挙げることができる。
【0026】
本発明ミックス粉は、前記澱粉以外の澱粉を含むことを排除するものではない。しかし、含まないことが好ましい。
【0027】
(C)増粘多糖類
本発明が対象とする増粘多糖類は、アルギン酸塩、アルギン酸エステル、及びローカストビーンガムよりなる群から選択される少なくとも1種の増粘多糖類である。これらは1種単独で用いることができるが、2種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。
【0028】
アルギン酸塩は、アルギン酸と一価の金属との塩であり、具体的にはアルギン酸カリウム、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸のアルカリ金属塩である。好ましくはアルギン酸ナトリウムである。
【0029】
アルギン酸エステルは、アルギン酸の構成糖であるウロン酸のカルボキシル基にプロピレングリコールがエステル結合して天然海藻由来の化合物であり、正式にはアルギン酸プロピレングリコールエステルと称される。本発明では可食性の食品に添加可能なアルギン酸エステルが用いられる。本発明の効果を奏する限り、分子量、構造、エステル化度、及びアルギン酸エステルを構成するβ-D-マンヌロン酸とα-D-グルロン酸の割合や配列順序は特に制限されない。好ましくはエステル化度20%以上のアルギン酸エステルであり、より好ましくはエステル化度50%以上であり、さらに好ましくはエステル化度70%以上である。また、1%水溶液にした場合の20℃における粘度が10~500mPa・sであるものが用いられる。好ましくは当該粘度が100~400mPa・s、より好ましくは150~250mPa・sの範囲にあるものである。
【0030】
こうしたアルギン酸塩及びアルギン酸エステルは、いずれも商業的に入手することができる。
【0031】
ローカストビーンガムは、常緑植物のカロブ樹(Carob Tree, 学名Celatonia Siliqua L.) の種子(Carob Kernel、カロブ豆)から得られる多糖類であり、食品に添加可能な成分として認可されており、商業的に入手することができる。
【0032】
本発明ミックス粉100質量中の前記増粘多糖類の割合は、総量で0.05~5質量%である。好ましくは0.07~3質量%、より好ましくは0.1~1.5質量%である。また本発明のミックス粉に含まれている小麦粉100質量部に対する割合としては、0.07~7質量部、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.2~2質量部を挙げることができるまた本発明ミックス粉に含まれている前記澱粉総量100質量部に対する割合としては、0.5~15質量部、好ましくは1~10質量部、より好ましくは、2~7質量部を挙げることができる。
【0033】
本発明ミックス粉は、前記増粘多糖類以外の増粘多糖類(制限されないものの、例えば、キサンタンガム、ジェランガム、グァーガム、カラギーナン等)を含むことを排除するものではない。しかし、含まないことが好ましい。
【0034】
(D)その他の任意成分
本発明ミックス粉には、本発明の効果を損なわないことを限度として、それ以外の材料(副資材)を配合することもできる。副資材としては、制限されないものの、例えば、重曹(炭酸水素ナトリウム)や炭酸アンモニウム等のガス発生剤、並びに酒石酸、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の酸性剤を含むベーキングパウダー等の膨張剤;デキストリン、粉末水あめ、オリゴ糖、ぶどう糖、ショ糖、及びマルトース等の糖質類;植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、及び粉末油脂等の油脂類;食塩、グルタミン酸ナトリウム、及び粉末醤油等の調味料;酵母エキス、畜肉又は魚介由来エキス等のエキス類;グリセリン脂肪酸エステル、及びレシチン等の乳化剤;その他、かぼちゃ粉、色素、香料、香辛料、酵素、種々の品質改良剤等が挙げられる。好ましくは、膨脹剤、及び調味料である。膨張剤の含有量は、本発明の効果を損なわないことを限度として、制限されないものの、0.1~5質量%、好ましくは0.5~2質量%の範囲から適宜選択することができる。
【0035】
なお、本発明ミックス粉は、副資材として、2価金属塩やセルロースを含むことを排除するものではない。しかし、含まないことが好ましい。ここで2価金属塩としては、制限されないものの、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム、及び水酸化カルシウム等のカルシウム塩;塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、及び水酸化マグネシウム等のマグネシウ塩が含まれる。またセルロースとしては、制限されないものの、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロース、メチルセルロース、及び結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルとの複合化物が含まれる。
【0036】
[揚げ物用ミックス粉及び揚げ物用バッターの製造方法]
本発明ミックス粉は、前述する成分を粉体混合することで製造することができ、常温常圧下で粉粒状の形態(粉末状、粒状のいずれをも含む)を有する。これを用いて揚げ物を製造する際には、この粉粒状のまま具材表面に付着させて使用することもできるが、粉粒状のミックス粉に液体を添加混合して揚げ物用バッターを調製し、これを具材表面に付着させて使用することもできる。本発明の効果をより高く得ることができる点から、好ましい使用方法は後者の方法である。また、揚げ物用バッターそのものを油ちょうすることもできる(揚げ玉など)。揚げ物用バッターを調製する際に使用される液体としては、水が一般的である。本発明の効果を損なわないことを限度として、水道水や飲用水などの水に代えて、だし汁、煮汁、牛乳、液卵、液状油脂などを用いることもできる。本発明ミックス粉と混合して揚げ物用バッターを調製する際に使用する液体の量は、揚げ物や具材の種類に応じて、適宜選択調整することができる。制限されないものの、例えば、揚げ物が天ぷらであれば、ミックス粉100質量部に対して、80~200質量部、唐揚げであれば70~120質量部、パン粉付けフライであれば100~1000質量部を例示することができる。以下、本発明ミックス粉に液体を混合して調製される揚げ物用バッターを、単に「本発明バッター」とも称する。
【0037】
(II)未油ちょうの衣付き食品、揚げ物、及びそれらの製造方法
本発明が対象とする未油ちょうの衣付き食品は、食品の表面に前述する本発明の揚げ物用ミックス粉又は揚げ物用バッターによる衣が付着してなる油ちょう前の食品である。具体的には、葉菜、根菜、花菜などの野菜類;エビ、イカ、白身魚などの魚介類;鶏肉、豚肉、牛肉などの畜肉類等を必要に応じて加工成形した具材に、本発明ミックス粉を付着させるか、又は必要に応じて打ち粉を付着させた後に本発明バッターを付着して調製される油ちょう処理前の食品である。また製造する衣揚げ食品がパン粉等により衣が形成される衣付き食品の場合、本発明バッターを具材に付着させた後、パン粉等の粉粒体を付けて未油ちょうの衣付き食品としてもよい。これらの未油ちょうの衣付き食品は、そのまま油ちょう処理に供してもよいし、また未油ちょうの状態で冷蔵又は冷凍保存されてもよい。
【0038】
斯くして調製される未油ちょうの衣付き食品は、そのままの状態で、又は冷蔵又は冷凍処理後、油ちょう処理することで衣揚げ食品を製造することができる。また本発明バッターをそのまま油ちょうすることで、揚げ玉(天かす)を製造することができる。本発明では、それらを総称して揚げ物という。本発明が対象とする揚げ物とは、揚げ衣そのもの、並びに具材の表面に揚げ衣が存在する揚げ物を意味し、例えば、揚げ玉(天かす)、天ぷら、から揚げ、竜田揚げ、フリッター、チキンナゲット等が含まれる。また、具材の表面に揚げ衣とともに、パン粉、クラッカー粉、ナッツ粉、又はコーンフレーク粉などの揚げ粉が存在する、コロッケ、とんかつ、メンチカツ、魚介フライ等の揚げ物(フライ)であってもよい。
【0039】
油ちょう処理は、常法に従って実施することができる。例えば、前述する未油ちょうの衣付き食品またはバッターを、150℃以上の適当な温度(通常160~200℃)の食用油脂の中に投入し、具材に応じて適当な時間(通常1~10分)加熱処理する方法を挙げることができる。食用油脂の中に投入する以外の油ちょう処理方法として、前述する未油ちょうの衣付き食品の表面に、食用油脂を噴霧又は塗布して加熱処理する方法を用いることもできる。なお、衣付き食品の具材が比較的多くの油分を含み、具材から衣に染み出る油分が利用できる場合は食用油の噴霧又は塗布を省略することもできる。この場合の加熱調理器具・装置としては、例えば、電子レンジ、オーブン、スチームオーブン、コンベクションオーブン、オーブントースター、ホットプレート、鉄板、フライパンなどを用いることができる。また、食材に含まれる油分を使って調理する調理器具(例えば、フィリップス社製ノンフライヤー)を用いることもできる。
【0040】
斯くして調製される揚げ物は、油ちょう直後は、揚げ衣が適度な硬さを有し、サクサクとした歯切れのよい良好な食感を有するのは勿論であるが、時間が経過した後でも、揚げ衣の食感の低下が抑えられて、比較的長くサクサクとした歯切れのよい食感を維持している。また、時間が経過すると、具材の水分が衣に移行して、具材に面した衣の部分がべちゃつく感じ(ぬめり感)が生じるが、本発明ミックス粉又は本発明バッターを用いて揚げ物を製造することで、ぬめり感の発生を抑制することができる。つまり、本発明が対象とする「揚げ衣の食感」には、サクサクとした歯切れのよい良好な食感が含まれ、また「揚げ衣の食感の低下」には、前記サクサクとした歯切れよさの低下、及び具材と衣の間のぬめり感が含まれる。こうした、本発明ミックス粉や本発明バッターによる、揚げ衣の食感の経時的低下の抑制効果は、揚げ物用ミックス粉に、(A)小麦粉に加えて前述する(B)澱粉及び(C)増粘多糖類を配合しない場合(対照例)と比較することで評価することができる。対照例と比較して揚げ衣の食感の低下が抑制されている場合は、本発明の効果を奏すると評価することができる。その詳細は後述する実施例の記載を参考にすることができる。
【0041】
衣揚げ食品は、油ちょう後、冷蔵又は/及び冷凍処理されてよく、再加熱して食することができる。再加熱方法は、制限されることなく、例えば油ちょう処理のほか、前述する加熱調理器具・装置を用いて再加熱する方法などを任意に採用することができる。こうした場合でも、衣の食感の低下が有意に抑制することができる。
【0042】
(III)揚げ衣の食感の経時的低下の抑制方法
前述するように、揚げ物用ミックス粉の調製に、(A)小麦粉に加えて前述する(B)澱粉及び(C)増粘多糖類を所定量の割合で用いることで、当該揚げ物用ミックス粉を使用して製造した揚げ物について、油ちょう処理した後の揚げ衣の食感の経時的低下を抑制することができる。
【0043】
当該方法で使用する小麦粉、澱粉、及び増粘多糖類の種類、その配合割合、揚げ物用ミックス粉の製造方法、揚げ物の製造方法は、前述した通りであり、ここに援用することができる。
【0044】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0045】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0046】
また、下記の実験例で行った食感の評価には、揚げ物の食感の評価(官能評価)について社内でよく訓練したパネル5名を用いた。
【0047】
実験例で使用した材料は以下の通りである。
(1)小麦粉:薄力粉、昭和産業株式会社
(2)タピオカ澱粉:昭和産業株式会社
(3)馬鈴薯澱粉:美幌地方農産加工農業協同組合連合会
(4)ワキシーコーンスターチ:株式会社Jオイルミルズ
(5)アセチル化タピオカ澱粉:昭和産業株式会社
(6)エーテル化タピオカ澱粉(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉):昭和産業株式会社
(7)コーンスターチ:昭和産業株式会社
(8)アルギン酸プロピレングリコールエステル:株式会社キミカ(エステル化度75%以上;1質量%水溶液粘度150~250mPa・s)
(9)アルギン酸ナトリウム:株式会社キミカ
(10)アルギン酸カリウム:株式会社キミカ
(11)ローカストビーンガム:ソマール株式会社
(12)キサンタンガム:株式会社カーギルジャパン
(13)膨張剤:株式会社アイコク
【0048】
実験例1 天ぷらの製造及びその評価(1)
具材として、海老を用いて、表1に記載する揚げ物用ミックス粉を用いて天ぷらを製造し、揚げ物用ミックス粉が食感に与える影響を評価した。
(1)揚げ物用ミックス粉、及びバッターの調製
表1に記載する配合で各成分を混合し、各種の揚げ物用ミックス粉(コントロール、実施例1~5、比較例1~2)を調製した。
【0049】
調製した揚げ物用ミックス粉に水を入れて混ぜ合わせてバッターを調製した。なお、水の添加量は、調製したバッターの粘度が試験区内で同程度になるように、揚げ物用ミックス粉100質量部に対して130~170質量部の範囲で適宜調整した。
(2)天ぷらの製造
殻を剥いた生海老(26/30サイズ)に、各揚げ物用ミックス粉(1尾あたり約0.2g程度)をまぶした後に、上記で調製したバッター(1尾あたり約20g程度)を付着させた。これを、170℃に熱しておいたキャノーラ油の中に投入し、同温度で2分30秒間油ちょうして、海老の天ぷらを製造した。
(3)天ぷらの食感評価
油ちょうした天ぷらを網付の揚げ物バットに上げて粗熱をとった後、ポリプロピレン製容器に入れて蓋をし、室温又は5℃の環境下(冷蔵庫内)で24時間保存した。その後、再加熱することなく、パネル5名に喫食してもらい、天ぷらの食感(衣の歯切れ感、衣と具材の間のぬめり感)を、下記の基準に沿って評価してもらった。
【0050】
なお、官能評価は、コントロールの揚げ物用ミックス粉を用いて製造した天ぷら(対照天ぷら)の揚げたての食感(対照食感1)を「評価5.0」、対照天ぷらを揚げた後、5℃環境下で24時間保存した後の食感(対照食感2)を「評価1.0」とし、これらとの比較で評価した。また官能評価にあたり、評価する食感の定義と評価基準をパネル全体で討議して明確にするとともに、対照天ぷらを事前に試食して対照食感1及び2を確認しながら、評価基準をパネル間で摺り合わせることで、各パネルが共通認識を有するようにした。
【0051】
(a)衣の歯切れ感:天ぷらを噛んだときに感じる、衣のサクサク感
[評価基準]
評価5:対照食感1と同程度にサクサク感が非常に強く、非常に良好
評価4:対照食感1よりもややサクサク感は弱いものの、サクサク感が強く、良好
評価3:対照食感1と対照食感2の間のサクサク感があり、やや良好
評価2:対照食感2よりもややサクサク感はあるものの、サクサク感が弱く、やや悪い
評価1:対照食感2と同程度でサクサク感が全く感じられず、悪い。
【0052】
(b)衣と具材の間のぬめり感:衣と具材の間のべちゃつき感、具材に面している衣の面が水っぽく感じる感覚
[評価基準]
評価5:対照食感1と同程度に、衣全体がドライな食感でぬめり感が全くなく、非常に良好
評価4:対照食感1よりは劣るが、衣全体がドライな食感でぬめり感がほとんどなく、良好
評価3:対照食感1と対照食感2の間のぬめり感があり、衣全体がややドライな食感で、やや良好
評価2:対照食感2よりもぬめり感は弱いものの、衣全体が柔らかくぬめり感が感じられ、悪い
評価1:対照食感2と同程度で衣全体が柔らかくぬめり感が強く感じられ、悪い。
【0053】
結果を表1に合わせて示す。結果はパネル5名の合議により、0.5きざみで評価点を付けたものである。衣の歯切れ感、衣と具材の間のぬめり感が、ともに3.0以上であれば合格とする(以下の実験例2~4も同じ)。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、揚げ物用ミックス粉として、小麦粉に加えて、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、ワキシーコーンスターチ、アセチル化タピオカ澱粉、及びエーテル化タピオカ澱粉からなる群より選択される澱粉と、アルギン酸エステルであるアルギン酸プロピレングリコールエステルとを組み合わせて配合した粉を用いることで(実施例1~5)、油ちょう後に室温及び冷蔵で保存した場合に生じる歯切れ感の低下が抑制されることが確認された。また、具材と衣の間のぬめり感の発生も抑制されることが確認された。こうした現象は、小麦粉に加えてアルギン酸エステルを配合した揚げ物用ミックス粉を用いた場合(比較例1)、及び小麦粉に加えてコーンスターチとアルギン酸エステルを配合した揚げ物用ミックス粉を用いた場合(比較例2)でもやや認められるものの、その効果の程度は高くなかった。
【0056】
実験例2 天ぷらの製造及びその評価(2)
実験例1の結果から、澱粉としてアセチル化タピオカ澱粉を、増粘多糖類としてアルギン酸エステルを用いて、表2に記載する割合で、澱粉の配合量が種々異なる揚げ物用ミックス粉を調製した(比較例3、4、実施例6~10)。そして、実験例1と同様にして、各揚げ物用ミックス粉を用いて海老の天ぷらを製造し、その食感を評価した。
【0057】
結果を表2に合わせて示す。結果はパネル5名の合議により、0.5きざみで評価点を付けたものである。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、揚げ物用ミックス粉中、澱粉の配合量を1~30質量%とすることで、揚げ物を油ちょう後に室温及び冷蔵で保存した場合に生じる歯切れ感の低下が抑制され、また、具材と衣の間のぬめり感の発生も抑制されることが確認された。
【0060】
実験例3 天ぷらの製造及びその評価(3)
実験例2の結果から、アセチル化タピオカ澱粉の配合量を10質量%に固定したうえで、表3に記載する割合で、アルギン酸エステルの配合量を種々変えて、揚げ物用ミックス粉を調製した(比較例5、6、実施例11~15)。また、増粘多糖類として、アルギン酸エステルに代えて、アルギン酸塩、ローカストビーンガム、及びキサンタンガムを用いて、各種の揚げ物用ミックス粉を調製した(実施例16~18、比較例7)。そして、実験例1と同様にして、各揚げ物用ミックス粉を用いて海老の天ぷらを製造し、その食感を評価した。
【0061】
結果を表3に合わせて示す。結果はパネル5名の合議により、0.5きざみで評価点を付けたものである。
【0062】
【表3】
【0063】
表3に示すように、揚げ物用ミックス粉中、増粘多糖類であるアルギン酸プロピレングリコールエステルの配合量を0.01~5質量%とすることで、揚げ物を油ちょう後に室温及び冷蔵で保存した場合に生じる歯切れ感の低下が抑制され、また、具材と衣の間のぬめり感の発生も抑制されることが確認された。また、アルギン酸プロピレングリコールエステルに代えて、アルギン塩やローカストビーンガムを用いた場合にも、同様の効果が認められた。一方、増粘多糖類として、キサンタンガムを用いた場合には、上記効果は十分でなかった。
【0064】
実験例4 天ぷらの製造及びその評価(4)
表4に示す割合で、澱粉としてアセチル化タピオカ澱粉、増粘多糖類としてアルギン酸プロピレングリコールエステル、ローカストビーンガム、又はキサンタンガムを用いて、揚げ物用ミックス粉を調製した(比較例8、実施例19~20)。これらの各揚げ物用ミックス粉を用いて、実験例1と同様にして、海老の天ぷらを製造した。油ちょう後、油ちょうした天ぷらを網付の揚げ物バットに上げて、そのままの状態で、ブラストチラーに入れて―40℃環境下1時間凍結し、次いでポリプロピレン製容器に入れて蓋をし、-20℃の環境下(冷凍庫内)で2週間保存した。その後、冷凍したままレンジで加熱(500W、1分30秒間/4尾)するか、170℃に加熱したキャノーラ油にて2分間油ちょうした。これを、パネル5名に喫食してもらい、天ぷらの食感(衣の歯切れ感、衣と具材の間のぬめり感)を、実験例1と同じ基準に従って評価してもらった。
【0065】
結果を表4に合わせて示す。パネル5名の合議により、0.5きざみで評価点を付けたものである
【0066】
【表4】
【0067】
表4に示すように、本発明の揚げ物用ミックス粉(実施例18及び19)を用いて製造した揚げ物は、油ちょうした後、一定期間冷凍保存した後に、再加熱した場合、衣のサクサク感があるととともに、具材からの離水によるぬめり感が有意に抑制されていることが確認された。