(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143551
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ユニットおよび液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B41J2/14 609
B41J2/14 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051604
(22)【出願日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2022046784
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】湯本 侑大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 崇裕
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF65
2C057AG14
2C057AG44
(57)【要約】
【課題】堅牢性に優れ、外部からの衝撃による破損を低減することが可能な液体吐出ヘッドを提供する
【解決手段】
液体を吐出する複数のノズルが配置されたノズル板を備える液体吐出ヘッドであって、前記複数のノズルは所定の定義に基づいたノズル列をなして前記ノズル板に配置され、前記ノズル板には、第1傾斜方向とは異なる方向であって、前記ノズル板の長手方向および短手方向に対して傾斜した第2傾斜方向に沿って、N個のノズルを有する前記ノズル列が配置され、前記ノズル列は、前記第2傾斜方向において所定の間隔Xで配置され、前記複数のノズルのそれぞれについて、前記ノズルと前記ノズル板の前記長手方向の一端側の縁との間の前記第2傾斜方向における距離がX以上であり、前記ノズルと前記ノズル板の前記長手方向の他端側の縁との間の前記第2傾斜方向における距離がX以上である。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルが配置されたノズル板を備える液体吐出ヘッドであって、
前記複数のノズルは、複数のサブノズルからなるP個(Pは1以上の整数)のサブノズル群に分割され、
前記複数のサブノズルは、前記ノズル板の長手方向において記録解像度(d)および前記サブノズル群の数(P)に対応する所定の間隔(d×P)で配置され、
前記サブノズル群のそれぞれは、前記長手方向に(d×P)の間隔で、且つ前記長手方向および前記長手方向と直交する短手方向に対して傾斜した第1傾斜方向に並ぶ複数のサブノズルからなるサブノズル列を有し、
前記第1傾斜方向に沿って一列に並ぶ、P個のサブノズル群のサブノズル列からなる列の組をノズル列と定義したとき、
前記ノズル板には、
前記第1傾斜方向とは異なる方向であって、前記長手方向および前記短手方向に対して傾斜した第2傾斜方向に沿って、N個のノズルを有する前記ノズル列が配置され、
前記ノズル列は、前記第2傾斜方向において所定の間隔Xで配置され、
前記複数のノズルのそれぞれについて、前記ノズルと前記ノズル板の前記長手方向の一端側の縁との間の前記第2傾斜方向における距離がX以上であり、前記ノズルと前記ノズル板の前記長手方向の他端側の縁との間の前記第2傾斜方向における距離がX以上であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記ノズルと前記ノズル板の前記長手方向の一端側の縁との間の前記第2傾斜方向における距離が1.5X以上であり、前記ノズルと前記ノズル板の前記長手方向の他端側の縁との間の前記第2傾斜方向における距離が1.5X以上であることを特徴とする請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記ノズル板の前記長手方向の一端側の縁と前記長手方向とがなす角度のうち鈍角のものをノズル板エッジ角度θaとし、前記第1傾斜方向に延びる仮想線と前記長手方向とがなす角度のうち鈍角のものをノズル領域エッジ角度θbとした場合、θa≦θbの関係を満たすことを特徴とする請求項1または2記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記液体吐出ヘッドは、前記ノズル板を複数備え、複数の前記ノズル板が前記長手方向に複数個並んで設けられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
複数の前記ノズル板のうち、前記長手方向で隣り合う第1のノズル板と第2のノズル板において、前記第1のノズル板のノズルと前記第2のノズル板のノズルとを前記長手方向に投影した場合、前記第1のノズル板のノズルと前記第2のノズル板のノズルとが交互になるように配置された部位を有することを特徴とする請求項4記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
複数の前記ノズル板のうち、前記長手方向で隣り合う第1のノズル板と第2のノズル板において、前記第1のノズル板のノズル領域を前記第2傾斜方向へ延ばした領域を延長領域としたとき、前記第2のノズル板のノズル領域のうち、前記延長領域と重なる領域が9割未満であることを特徴とする請求項4または5記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記ノズル列の数をM、
前記短手方向と前記第1傾斜方向とのなす角で鋭角のものをδ1、
前記長手方向と前記第2傾斜方向とのなす角で鋭角のものをδ2、
としたとき、
δ2≧arctan(1/((M+1)tanδ1))
の関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを、前記長手方向に複数並べてなることを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項9】
複数の前記液体吐出ヘッドのうち、前記長手方向で隣り合う第1の液体吐出ヘッドと第2の液体吐出ヘッドにおいて、前記第1の液体吐出ヘッドのノズルと前記第2の液体吐出ヘッドのノズルとを前記長手方向に投影した場合、前記第1の液体吐出ヘッドのノズルと前記第2の液体吐出ヘッドとが交互になるように配置された部位を有することを特徴とする請求項8記載の液体吐出ユニット。
【請求項10】
複数の前記液体吐出ヘッドのうち、前記長手方向で隣り合う第1の液体吐出ヘッドと第2の液体吐出ヘッドにおいて、前記第1の液体吐出ヘッドのノズル領域を前記第2傾斜方向へ延ばした領域を延長領域としたとき、前記第2の液体吐出ヘッドのノズル領域のうち、前記延長領域と重なる領域が9割未満であることを特徴とする請求項8または9記載の液体吐出ユニット。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド、または請求項8乃至10のいずれか一項に記載の液体吐出ユニットを備えることを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニットおよび液体吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液体を吐出する複数のノズルを配置したヘッドモジュールを複数つなぎあわせて構成した液滴吐出ヘッドが開示されている。
【0003】
特許文献2には、平行四辺形の外形形状を有したアクチュエータユニットを複数配置して構成したインクジェットヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-173264号公報
【特許文献2】特開2007-160566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような構成では、複数のヘッドモジュールのつなぎ部分と、ノズルが形成されるノズル領域との間に大きなスペースを設けることが難しく、ヘッドの堅牢性が低いという課題があった。
【0006】
特許文献2のような構成では、複数のアクチュエータユニットのつなぎ部分と、アクチュエータユニット内でノズルが形成されるノズル領域との間に大きなスペースを設けることが難しく、ヘッドの堅牢性が低いという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、液体を吐出する複数のノズルが配置されたノズル板を備える液体吐出ヘッドであって、前記複数のノズルは、複数のサブノズルからなるP個(Pは1以上の整数)のサブノズル群に分割され、前記複数のサブノズルは、前記ノズル板の長手方向において記録解像度(d)および前記サブノズル群の数(P)に対応する所定の間隔(d×P)で配置され、前記サブノズル群のそれぞれは、前記長手方向に(d×P)の間隔で、且つ前記長手方向および前記長手方向と直交する短手方向に対して傾斜した第1傾斜方向に並ぶ複数のサブノズルからなるサブノズル列を有し、前記第1傾斜方向に沿って一列に並ぶ、P個のサブノズル群のサブノズル列からなる列の組をノズル列と定義したとき、前記ノズル板には、前記第1傾斜方向とは異なる方向であって、前記長手方向および前記短手方向に対して傾斜した第2傾斜方向に沿って、N個のノズルを有する前記ノズル列が配置され、前記ノズル列は、前記第2傾斜方向において所定の間隔Xで配置され、前記複数のノズルのそれぞれについて、前記ノズルと前記ノズル板の前記長手方向の一端側の縁との間の前記第2傾斜方向における距離がX以上であり、前記ノズルと前記ノズル板の前記長手方向の他端側の縁との間の前記第2傾斜方向における距離がX以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、堅牢性に優れ、外部からの衝撃による破損を低減することが可能な液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図9】比較例のヘッドを複数並べた状態を示す説明図。
【
図11】第1の実施形態と比較例との関係を補足する説明図。
【
図12】第1の実施形態に係るヘッドを複数並べた状態を示す説明図。
【
図16】第2の実施形態に係るヘッドを複数並べた状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
<液体吐出装置の概略>
はじめに、
図1を用いて液体吐出装置の概略を説明する。
図1は、液体吐出装置の一例を示す概略構成図である。例示した液体吐出装置は、インクジェット方式により用紙にインクを吐出し、用紙に画像を形成する印刷装置である。
【0012】
印刷装置500は、給紙部501、搬送部503、印刷部505、乾燥部507および排紙部509を備える。給紙部501は、ロール状に巻かれた用紙510を保持する保持ローラ511を備え、長尺に連続した用紙510を印刷部505側へ供給する。搬送部503は、給紙部501から供給された用紙510に対して、例えば、張力制御や蛇行補正を行い、用紙510の張力や搬送位置の状態を整えて、用紙510を印刷部505へ搬送する。
【0013】
印刷部505は、ヘッドユニット555を搭載したインクジェット記録部550と、インクジェット記録部550に対向する搬送ガイド部材559とを備える。印刷部505は、搬送ガイド部材559上を移動する用紙510に対してヘッドユニット555からインクを吐出させることにより、用紙510に画像を形成する。
【0014】
なお、インクジェット記録部550に搭載するヘッドユニット555の数は、印刷装置500で用いるインクの色の種類や数に応じて適宜増減してよい。また、ヘッドユニット555で用いる液体は、インクに限らず、用紙510の表面を改質するための処理液、または用紙510に形成した画像を保護するためのコート剤などを含む構成でもよい。
【0015】
乾燥部507は、画像を載せた用紙510を加熱し、用紙510および用紙510に形成された画像を乾かす。排紙部509は、用紙510を巻き取る巻取ローラ591を備え、乾燥部507から送り出された用紙510を巻き取る。
【0016】
以降、上述の印刷装置500の構成に基づいて説明するが、本発明に係る液体吐出装置は印刷装置に限られるものではない。例えば、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)に適用することも可能である。また、電子回路のレジストパターンを形成するために、レジストパターン形成用液を吐出させる電子素子生産装置などへの適用も可能である。
【0017】
また、媒体は、用紙510に限られるものではない。紙以外に、例えば、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々材質に適用することが可能である。媒体の形態についても、長尺物に限られるものではなく、所定サイズに裁断された媒体でもよい。
【0018】
また、印刷装置500は、定位置のインクジェット記録部550に対して用紙510を移動させ、用紙510に画像形成を行う、いわゆるライン型の装置構成を例示したが、ライン型に限られるものではない。インクジェット記録部550と用紙510とは相対的に移動する構成であればよい。したがって、例えば、間欠送りされる用紙に対してインクジェット記録部を用紙送り方向と直交する方向へ移動させ、用紙510に画像形成を行う、いわゆるシリアル型の装置構成でもよい。あるいは、用紙載置テーブルに保持された用紙に対してインクジェット記録部をXY方向へ移動させ、用紙510に画像形成を行う、いわゆるフラットベッド型の装置構成でもよい。
【0019】
また、液体を吐出する装置で用いられる吐出物は、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどが挙げられる。また、液体は金属粉などの微粉末を含むものでもよい。これらは例えば、インクジェット用インク、塗装用塗料、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、三次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0020】
<ヘッドユニットの構成>
次に、
図2を用いてヘッドユニットの構成を説明する。
図2は、ヘッドユニットの一例を示す説明図であり、
図1のインクジェット記録部550に図示された8つのヘッドユニット555のうちの1つを、搬送ガイド部材559側から見た図である。
【0021】
ヘッドユニット555は、媒体送り方向と直交する方向に隣接して並ぶ複数のヘッド1a,1b,1c,1dを備える。以降、これらヘッド1a~1dを総称する場合は「ヘッド1」と称する。なお、本実施形態において「媒体送り方向と直交する方向」は、後述の「第2の方向」(複数のノズルが記録解像度に対応する所定のピッチで等間隔に並ぶ方向)とおおよそ一致する。また、「媒体送り方向」は、後述の「第1の方向」(第2の方向に直交する方向)とおおよそ一致する。
【0022】
ヘッド1a~1dは、液体吐出部101a~101d、ノズル板保持部材102a~102dおよびマウント部材103a~103dを備える。以降、液体吐出部101a~101dを総称する場合は「液体吐出部101」、ノズル板保持部材102a~102dを総称する場合は「ノズル板保持部材102」、マウント部材103a~103dを総称する場合は「マウント部材103」と称する。
【0023】
ヘッド1の液体吐出部101は、外形形状が概略平行四辺形をしたノズル板10を備え、ノズル板10は、液体を吐出するノズル11が形成されるノズル面12を有する。なお、
図2ではノズル11の図示を一部省略しているが、実際はノズル面12の空白部分にもノズル11が形成される。ノズル板10は、ノズル板保持部材102によって保持される。ノズル板保持部材102は、その一部にマウント部材103を備え、マウント部材103をインクジェット記録部550に設けた支持部材550aに取り付けることで、ヘッドユニット555はインクジェット記録部550に固定される。なお、以降の説明では「ノズル面12」を「ノズル領域12」とも称する。ここで、ヘッド1は「液体吐出ヘッド」の一例である。
【0024】
<ヘッドの構成>
次に、
図3乃至
図5を用いてヘッドの構成を説明する。
図3は、ヘッドの一例を示す概略分解図であり、
図2のヘッド1を構成する液体吐出部101のみを表した図である。
図4は、ヘッドの流路部分の一例を示す説明図、
図5は、ヘッドの流路部分の一例を示す断面斜視図である。なお、ノズル板10は、
図2に示したように概略平行四辺形の外形形状をなすが、ここでは長方形に簡略化した図を用いて説明する。
【0025】
ヘッド1の液体吐出部101は、ノズル板10、流路板(個別流路部材)20、振動板部材30、共通流路部材50、ダンパ部材60、フレーム部材80および駆動回路104を実装した基板(フレキシブル配線基板)105などを備える。
【0026】
ノズル板10は、液体(本実施形態ではインク)を吐出する複数のノズル11を備え、複数のノズル11は、ノズル板10の短手方向(ノズル板短手方向)およびこれと直交するノズル板長手方向に二次元状に並んで配置されている。
【0027】
個別流路部材20は、複数のノズル11に各々連通する複数の圧力室(個別液室)21と、複数の圧力室21に各々通じる複数の個別供給流路22と、複数の圧力室21に各々通じる複数の個別回収流路23とを形成している。なお、1つの圧力室21およびこれに通じる個別供給流路22と個別回収流路23を併せて個別流路25と称する。
【0028】
振動板部材30は、圧力室21の変形が可能な壁面である振動板31を形成し、振動板31には圧電素子40が一体に設けられている。また、振動板部材30には、個別供給流路22に通じる供給側開口32と、個別回収流路23に通じる回収側開口33とが形成されている。
【0029】
圧電素子40は、振動板31を変形させて圧力室21内の液体を加圧する圧力発生手段である。
【0030】
なお、個別流路部材20と振動板部材30とは、部材として別部材であることに限定されるものではない。例えば、SOI(Silicon on Insulator)基板を使用して個別流路部材20および振動板部材30を同一部材で一体に形成することも可能である。つまり、シリコン基板上に、シリコン酸化膜、シリコン層、シリコン酸化膜の順に成膜されたSOI基板を使用し、シリコン基板を個別流路部材20とし、シリコン酸化膜、シリコン層およびシリコン酸化膜とで振動板31を形成することができる。この構成では、SOI基板のシリコン酸化膜、シリコン層およびシリコン酸化膜の層構成が振動板部材30となる。このように、振動板部材30は個別流路部材20の表面に成膜された材料で構成されるものを含む。
【0031】
共通流路部材50は、2以上の個別供給流路22に通じる複数の共通供給流路支流52と、2以上の個別回収流路23に通じる複数の共通回収流路支流53とを、ノズル板長手方向において交互に隣接して形成している。共通流路部材50には、個別供給流路22の供給側開口32と共通供給流路支流52を通じる供給口54となる貫通孔と、個別回収流路23の回収側開口33と共通回収流路支流53を通じる回収口55となる貫通孔が形成されている。また、共通流路部材50は、複数の共通供給流路支流52に通じる1または複数の共通供給流路本流56と、複数の共通回収流路支流53に通じる1または複数の共通回収流路本流57を形成している。
【0032】
ダンパ部材60は、共通供給流路支流52の供給口54と対面(対向)する供給側ダンパ62と、共通回収流路支流53の回収口55と対面(対向)する回収側ダンパ63を有している。ここで、共通供給流路支流52および共通回収流路支流53は、同じ部材である共通流路部材50に交互に並べて配列された溝部を、ダンパ部材60の供給側ダンパ62または回収側ダンパ63で封止することで構成している。なお、ダンパ部材60のダンパ材料としては、有機溶剤に強い金属薄膜または無機薄膜を用いることが好ましい。ダンパ部材60の供給側ダンパ62、回収側ダンパ63の部分の厚みは10μm以下が好ましい。
【0033】
共通供給流路支流52と共通回収流路支流53の内壁面、および共通供給流路本流56と共通回収流路本流57の内壁面には、流路中を流れる液体に対して内壁面を保護するための保護膜(接液膜とも言う)が形成されている。例えば、共通供給流路支流52と共通回収流路支流53の内壁面、および共通供給流路本流56と共通回収流路本流57の内壁面はSi基板が熱処理されることで、表面に酸化シリコン膜が形成される。酸化シリコン膜の上にはインクに対してSi基板の表面を保護するタンタルシリコン酸化膜が形成される。
【0034】
フレーム部材80は、その上部に供給ポート81と排出ポート82を備える。供給ポート81は、共通供給流路本流56に液体を供給し、排出ポート82は、共通回収流路本流57より排出される液体を排出する。
【0035】
<ノズル列の定義>
ノズル板10に設けられるノズル11の配列の説明に入る前に、
図6および
図7を用いて、本実施形態におけるノズル列の定義等を説明する。
【0036】
図6において、ノズル板10は、第1軸と、第1軸と直交する第2軸とがなす平面上に配置される複数のノズル11を有する。
【0037】
「第1軸」は、図示のように「第1の方向」に対して平行に延びる軸であり、本実施形態において「第1軸」および「第1の方向」は、「ノズル板短手方向」でもある。
【0038】
「第2軸」は、図示のように「第2の方向」に対して平行に延びる軸であり、本実施形態において「第2軸」および「第2の方向」は、「ノズル板長手方向」でもある。また、「第2軸」および「第2の方向」は、「複数のノズルが記録解像度に対応する所定のピッチで等間隔に並ぶ方向」でもある。
【0039】
なお、「ノズル板短手方向」とは、外形形状が平行四辺形をしたノズル板10の短辺の方向を指すのではなく、ノズル板を長方形と仮定し、長方形の長辺を水平に置いた場合の、長方形短辺の方向をノズル板短手方向としている。同様に、「ノズル板長手方向」とは、外形形状が平行四辺形をしたノズル板10の長辺の方向を指すのではなく、ノズル板を長方形と仮定し、その場合の長方形長辺の方向をノズル板長手方向としている。
【0040】
ノズル板10は、第1軸(第1の方向)に対して傾斜方向Aに傾斜したノズル板短辺eと、第2軸(第2の方向)に対して傾斜方向Bに傾斜したノズル板長辺fによって平行四辺形状の外形をなす。
【0041】
ノズル板10に設けられる複数のノズル11は、サブノズル群SBN1を構成する複数のノズルと、サブノズル群SBN2を構成する複数のノズルに分けられている。以降、ノズル板10に存在する全てのノズルを指す場合と、各サブノズル群SBN1,SBN2に属するノズルを指す場合とを区別するため、各サブノズル群SBN1,SBN2に属するノズルを「サブノズル」と称する。
【0042】
サブノズル群SBN1を構成する複数のサブノズル11は、ノズル板長手方向においてd×Pの間隔で並べられている。dは記録解像度、Pはサブノズル群の個数(1以上の整数)である。つまり、
図6は、ノズル板10に2つのサブノズル群SBN1,SBN2が設けられているため、P=2の場合の一例を示すものである。間隔d×Pで並ぶ複数(
図6は4つ)のサブノズル11は、ノズル板短手方向およびノズル板長手方向に対して傾斜した傾斜方向Aに並べられ、1つのサブノズル列11sb1を形成する。ここで、傾斜方向Aは「第1傾斜方向」の一例である。本実施形態では、傾斜方向Aは、上述のノズル板短辺eに対して平行としている。
【0043】
サブノズル群SBN1と同様、サブノズル群SBN2を構成する複数のサブノズル11も、ノズル板長手方向においてd×Pの間隔で並べられている。間隔d×Pで並ぶ複数のサブノズル11は、ノズル板短手方向およびノズル板長手方向に対して傾斜した傾斜方向Aに並べられ、1つのサブノズル列11sb2を形成する。
【0044】
上記構成において、傾斜方向Aに沿って並ぶ2つのサブノズル列11sb1,11sb2からなる列の組を「ノズル列」(ノズル列11N)と定義する。複数のノズル列11Nは、傾斜方向Aとは異なる方向であって、ノズル板長手方向およびノズル板短手方向に対して傾斜した傾斜方向Bに沿って配置される。この場合、各ノズル列11Nは、ノズル板長手方向においてN×dの間隔で配置される。Nはノズル列11Nに含まれるノズル数(1以上の整数)、dは記録解像度である。ここで、傾斜方向Bは「第2傾斜方向」の一例である。本実施形態では、傾斜方向Bは、上述のノズル板長辺fに対して平行としている。
【0045】
なお、サブノズル列11sb1,11sb2を構成するノズル11の数は、4つに限るものではない。ノズル数は、4つより多くてもよく、また4つより少なくてもよい。また、サブノズル群SBN1,SBN2の数についても2つに限るものではない。サブノズル群SBN1,SBN2の数は、2つより多くてもよく、また1つであってもよい。
【0046】
図7は、ノズル列の定義をより具体的に説明する説明図である。複数のノズル11は、2つのサブノズル群SBN1,SBN2に分けられる。サブノズル群SBN1,SBN2の各サブノズル列11sb1,11sb2(
図6参照)に含まれる複数のノズル11は、ノズル板長手方向においてd×Pの間隔で配置される。
【0047】
また、ノズル板長手方向に並ぶ複数のノズル11の、ノズル板短手方向における配置は、所定数のノズル分だけ第1の方向(ノズル面12中に示した矢印A方向)に所定距離L1ずつずらして配置されている。そして、次のサブノズル列のノズルは、第1の方向とは逆の第2の方向(ノズル面12中に示した矢印B方向)にずれる。ノズル11は、以上を繰り返して規則性を有して配置される。
【0048】
ノズル板短辺eとノズル板長辺fとが角度θ3(θ3は鋭角)で交わる点を原点0とし、ノズル板短辺eが原点0から第2象限に延びるように座標平面を形成する。座標平面を形成する互いに直交した2つの軸のうち、ノズル板短手方向に延びる軸を「第1軸」、ノズル板長手方向に延びる軸を「第2軸」と定義する。
【0049】
また、ノズル板短手方向において原点0に最も近いサブノズル群(本例ではサブノズル群SBN1)に含まれるサブノズルのうちの1つのノズルと、当該1つのノズルからみて第2軸負側において間隔d×Pずつ等間隔に離れ、且つ第1軸正側において所定距離L1ずつ等間隔に離れて配置された1または複数のノズルと、を含む複数のノズルからなる列を「第1サブノズル列」と定義する。
【0050】
また、ノズル板10の中央寄りの領域での、複数の第1サブノズル列それぞれに含まれる最も第1軸負側に配置されたノズル同士の間隔を、所定のピッチ(記録解像度d)で除した数をNと定義する。
【0051】
また、第1サブノズル列に含まれる複数のノズルを通る1つの直線を、第1サブノズル列に含まれる最も第1軸負側に配置されたノズル(本例ではノズル11-1)を基点として、当該基点が第1サブノズル列の隣のサブノズル列に含まれる最も第1軸負側に配置されたノズル(本例ではノズル11-2)に一致するようにずらす距離をL2と定義する。
【0052】
そして、第1サブノズル列に含まれる複数のノズルを通る直線と、距離L2ずつ等間隔にずらした複数の直線と、を含む直線群(
図7において破線で示す直線)を「ノズル列直線群」と定義する。また、ノズル列直線群に含まれる直線同士の中間を通る線(
図7において一点鎖線で示す直線)を「中間線」と定義する。
【0053】
このとき、「ノズル列」は、P個のサブノズル群の全体に含まれる複数のノズル11のうち、ノズル列直線群に含まれる1つの直線上にあるノズル、当該1つの直線からみてノズル板長手方向において第2軸正側に隣り合う中間線上または当該中間線よりも上記1つの直線寄りに位置するノズル、および、上記1つの直線からみて第2軸負側に隣り合う中間線よりも上記1つの直線寄りに位置するノズルからなる列として定義される。
【0054】
<比較例>
次に、
図8および
図9を用いて比較例の構成について説明する。
図8は、比較例のヘッドを示す説明図であり、
図8(a)はヘッド単体の概略構成図、
図8(b)は
図8(a)に示したA部拡大図である。
図9は、比較例のヘッドを複数並べた状態を示す説明図である。
【0055】
比較例として示されたヘッド1Rにおいて、液体吐出部101Rおよびノズル板10Rは、ノズル板短手方向に対して角度θ1傾斜し、ノズル板長手方向に対して角度θ2傾斜した外形(稜線)を有している。つまり、液体吐出部101Rおよびノズル板10Rは、外形形状が平行四辺形をしており、ノズル板10Rには複数のノズル11Rが規則的に二次元状に配列されている。ノズル11Rの配列は、例えば、N個のノズル11Rによって一列のノズル列11Nが構成され、このノズル列11Nを、上述の稜線と平行に、且つノズル板短手方向と直交するノズル板長手方向に複数列設けた配列となっている。
【0056】
上記構成のヘッド1Rは、
図9に示すように複数のヘッド1Ra,1Rbをノズル板長手方向に一列に並べることができる。ヘッド1Ra,1Rb(ノズル板10Ra,10Rb)のつなぎ部分の角度は、ノズル板短手方向およびノズル板長手方向のノズル密度に依存するとともに、ノズル板10Ra,10Rbの端部までノズル11Rを設ける必要がある。そのため、ノズル板10R(10Ra,10Rb)のノズル板長手方向端部では、
図8(b)に示すようにノズル板10Rの縁に対してノズル列11Nの並び間隔でd×P未満の距離までノズル11Rが配置される。
【0057】
その結果、ノズル板長手方向の端部のノズル列11Nからヘッド1R(ノズル板10R)の稜線(縁)までの距離が小さくならざるを得ず、外部からの稜線への衝撃によってノズルや、ノズルにつながる圧力室や流路の破損をまねきやすいという堅牢性の課題がある。
【0058】
また、
図9に示すようにヘッド1Ra,1Rbをノズル板長手方向に並べた場合、比較例の構成では、ヘッド1Raのノズル領域12Raと、ヘッド1Rbのノズル領域12Rbとの重なりが9割以上になる。ここで、ノズル領域とは、ヘッド1Raのノズル板10Raにおいて破線で囲まれた領域を指し、ノズル板10(10Ra,10Rb)のノズル11Rが形成される領域を意味する。ヘッド1Rbのノズル板10Rbに一点鎖線で示した範囲は、隣り合うノズル領域12Raをノズル板長手方向へ延ばした延長領域を示している。
【0059】
つまり、比較例の構成では、ノズル領域12Raの延長領域と、ノズル領域12Rbとの重なりが9割以上になる。この場合、ヘッド1Ra,1Rbのつなぎ部分において隣り合わせとなるノズル、圧力室、流路等の数が多くなるため、その分、外部からの衝撃によるダメージが広がりやすくなるという課題もある。
【0060】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態について、
図10乃至
図14を用いて説明する。
図10は、本発明の第1の実施形態に係るヘッドの説明図であり、
図10(a)はヘッド単体の概略構成図、
図10(b)は
図10(a)に示したA部拡大図である。
図11は、第1の実施形態と比較例との関係を補足する説明図、
図12は、本発明の第1の実施形態に係るヘッドを複数並べた状態を示す説明図である。
図13は、ノズル間隔を示した説明図、
図14は、ヘッドつなぎ目部分の説明図である。
【0061】
ヘッド1の基本構成は、
図2で説明したとおりであるため、同一要素には同一符号を付し、ここでの説明は省略する。
図10において、ノズル板10は、ノズル板短手方向に対して角度θ1´傾斜したノズル板短辺eと、ノズル板長手方向に対して角度θ2´傾斜したノズル板長辺fを有した平行四辺形をしている。本実施形態において、角度θ1´の傾斜は
図6に示した傾斜方向A(第1傾斜方向)に相当し、角度θ2´の傾斜は傾斜方向B(第2傾斜方向)に相当する。ノズル板10には複数のノズル11が規則的に二次元状に配列されている。
【0062】
ノズルの配列について、複数のノズル11は、複数のサブノズルからなる2つのサブノズル群SBN1,SBN2に分割される。各サブノズル群SBN1,SBN2に属する複数のサブノズルは、ノズル板長手方向において記録解像度d、およびサブノズル群SBN1,SBN2の数P(本例では2つ)に対応する所定の間隔d×Pで配置される。また、サブノズル群SBN1,SBN2は、ノズル板長手方向に間隔d×Pで、且つ角度θ1´の方向に並ぶ複数のサブノズルからなるサブノズル列を有する(サブノズル列については
図6を詳細)。
【0063】
この場合の、角度θ1´の方向に沿って一列に並ぶ、2つのサブノズル群のサブノズル列からなる列の組がノズル列11Nとなる。例えば、N個のノズル11によって一列のノズル列11Nが構成され、このノズル列11Nを、ノズル板短辺eと平行に、且つノズル板長辺fの方向にN×dの間隔で複数列設けた配列となっている。
【0064】
第1の実施形態の構成においては、比較例の構成に比べてヘッド1(ノズル板10)のノズル板長手方向に対する角度θ2´を大きい角度に設定している。その際、ノズル11が形成されるノズル領域12(破線で囲まれた領域)は、ノズル板長手方向の上流側端部(
図10(a)では左側)および下流側端部(
図10(a)では右側)に隙間Dを確保して設けられる。つまり、角度θ2´の方向において最も一端側のノズル列11Nのノズル11および最も他端側のノズル列11Nのノズル11と、ノズル板短辺eとの間に隙間Dが設けられる。
【0065】
隙間Dの角度θ2´(傾斜方向B)の方向における長さは、
図10(b)に示すように、ノズル列11Nの並び間隔X以上の長さとし、ノズル板10の縁(ノズル板短辺e)に対して十分なスペースを得る。なお、第1の実施形態の構成において、ノズル領域12をなす平行四辺形の角度と、ノズル板10の外形をなす平行四辺形の角度とは同一である。
【0066】
隙間Dの傾斜方向Bにおける長さを、ノズル列11Nの並び間隔X以上とする理由は、例えば、ノズル11の両端に設置される液室や隔壁等のサイズに起因する。例えば、液室および隔壁のサイズがそれぞれノズル列11Nの並び間隔の半分のサイズの場合は、最端ノズル11(ノズル列11N)とノズル板10の縁との間に
図10(b)のようにX以上の隙間Dを設ける。なお、例えば、ノズル板10のノズル板長手方向端部に、液室を保護するための隔壁を配置する場合は、隙間Dのノズル板長手方向の長さを、ノズル列11Nの並び間隔で1.5X以上とするのが好ましい。この隙間Dにより、ヘッド端部に加わる衝撃からノズル領域12の端部のノズルおよび液室に与えられるダメージが抑制される。
【0067】
上述のように、第1の実施形態は、比較例に比べてノズル板10のノズル板長手方向に対する角度θ2´を大きい角度に設定している。つまり、
図11に示すように、比較例のノズル板10Rは、ノズル板長辺と、ノズル板長手方向の直線とが角度θ2をなしている。これに対し、第1の実施形態のノズル板10は、ノズル板長辺と、ノズル板長手方向の直線とが、比較例の角度θ2よりも大きい角度θ2´をなしている。なお、ノズル板短辺と、ノズル板短手方向の直線とがなす角度は、比較例(角度θ1)および第1の実施形態(角度θ1´)ともに等しい(θ1=θ1´)ものとする。このように、第1の実施形態は、ノズル配置(ノズル列)の角度、およびノズル板短辺の角度θ1´を比較例と同じにしたまま、ノズル板長辺の角度θ2´を比較例に対してより大きくしている。
【0068】
また、第1の実施形態では、ヘッド1を
図12のようにノズル板長手方向に複数並べた場合、隣り合うノズル板10aのノズル領域12aと、ノズル板10bのノズル領域12bとで重なり合う領域が9割未満(
図12は重なりが発生しない構成を例示している)となるようにノズル11が配列される。つまり、ノズル板10aとノズル板10bにおいて、ノズル板10aのノズル領域12aを上述の傾斜方向Bへ延ばした領域を延長領域としたとき、ノズル領域12bのうち、延長領域と重なる領域が9割未満になる。
【0069】
上記の構成によれば、ノズル領域12aとノズル領域12bとの重なる領域が小さくなる(もしくは、なくなる)ことで、ヘッド1a,1bのつなぎ部分におけるノズル板10a,10b同士の直接の接触を減らす(もしくは、なくす)ことができる。その結果、外部から衝撃が与えられた際に、隣り合うヘッド1a,1b同士の衝突面積が小さくなり、衝撃によるノズル板10a,10bのダメージを抑制することが可能になる。
【0070】
図13は、本実施形態のヘッドにおけるノズル間隔を示した説明図である。なお、
図13は、ヘッド1を構成するノズル板保持部材102の図示は省略し、ノズル板10のみを図示したものである。
【0071】
ノズル板10には、ノズル11をノズル板長手方向の線上に投影した場合に、ノズル11同士のノズル間隔が等間隔をなすように、ノズル11は配置される。
【0072】
図14は、ヘッドつなぎ目部分の説明図であり、
図14(a)は複数のヘッドを並べた場合の概略図、
図14(b)はヘッドつなぎ目部分のノズル概略図である。
【0073】
上記のようにノズル板長手方向に投影した場合のノズル間隔を等しくすることができる。そのため、複数のヘッドを並べた場合、
図14(a)において一点鎖線で示したつなぎ目部分では、
図14(b)のようにヘッド1aから投影したノズルと、ヘッド1bから投影したノズルとを交互に配置できる。これにより、つなぎ目部分においてノズルが途切れることなく、均一の記録解像度を連続で得ることができる。
【0074】
上述のように、本実施形態は、液体を吐出する複数のノズル11が配置されたノズル板10を備えるヘッド1であって、複数のノズル11は、複数のサブノズルからなる2つのサブノズル群SBN1,SBN2に分割され、複数のサブノズルは、ノズル板10の長手方向において記録解像度(d)およびサブノズル群SBN1,SBN2の数(P)に対応する所定の間隔(d×P)で配置され、サブノズル群SBN1,SBN2のそれぞれは、ノズル板長手方向に(d×P)の間隔で、且つノズル板長手方向およびノズル板長手方向と直交するノズル板短手方向に対して傾斜した傾斜方向Aに並ぶ複数のサブノズルからなるサブノズル列11sb1,11sb2を有し、傾斜方向Aに沿って一列に並ぶ、2つのサブノズル群SBN1,SBN2のサブノズル列11sb1,11sb2からなる列の組をノズル列11Nと定義する。その上で、ノズル板10には、傾斜方向Aとは異なる方向であって、ノズル板長手方向およびノズル板短手方向に対して傾斜した傾斜方向Bに沿って、N個のノズル11を有するノズル列11Nが配置され、ノズル列11Nは、傾斜方向Bにおいて所定の間隔Xで配置され、複数のノズル11のそれぞれについて、ノズル11とノズル板10のノズル板長手方向の一端側の縁との間の傾斜方向Bにおける距離がX以上であり、ノズル11とノズル板10のノズル板長手方向の他端側の縁との間の傾斜方向Bにおける距離がX以上である。
【0075】
これにより、一定の個数(N個)ずつ規則的にノズル列11Nを簡易に配列することができ、且つノズル板10の両端部の隙間DをX以上の長さで設けることで、堅牢性を確保し、外部からの衝撃による破損を低減できる。
【0076】
また、上述のように、ノズル11とノズル板10のノズル板長手方向の一端側の縁との間の傾斜方向Bにおける距離が1.5X以上であり、ノズル11とノズル板10のノズル板長手方向の他端側の縁との間の傾斜方向Bにおける距離が1.5X以上である。
【0077】
これにより、ノズル板10のノズル板長手方向端部に、液室を保護するための隔壁などを配置することが可能になり、より堅牢性を高めることができる。
【0078】
また、本実施形態では、複数のサブノズル群を設けることにより、サブノズル群が1つのみの場合に比べて、ノズル同士の物理的な距離(ノズル板10の表面におけるノズル11同士の距離)を確保しつつ、ヘッド101の記録解像度を高めることができる。
【0079】
なお、第1サブノズル群SBN1と第2サブノズル群SBN2とが互いに異なる色の液体を吐出するようにヘッドを構成してもよい。また、媒体に記録される画像に実質的に影響しない限り、ノズル板長手方向において、ノズル板10の右側端部および/または左側端部の領域に配置されるノズル11同士の間隔を、中央の領域に配置されるノズル11同士の間隔と異ならせてもよい。
【0080】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について、
図15および
図16を用いて説明する。
図15は、本発明の第2の実施形態に係るヘッドの説明図であり、
図15(a)はヘッド単体の概略構成図、
図15(b)は
図15(a)に示したA部拡大図である。
図16は、本発明の第2の実施形態に係るヘッドを複数並べた状態を示す説明図である。
【0081】
第2の実施形態では、ノズル板10に対するノズル領域12のレイアウトが第1の実施形態と異なる。具体的には、ノズル板10のノズル板長手方向の一端側の縁(ノズル板短辺e)とノズル板長手方向の直線とがなす角度のうちの鈍角をθa(以下、ノズル板エッジ角度θaと称する)とし、ノズル領域12の傾斜方向Aに延びる仮想線vとノズル板長手方向の直線とがなす角度のうちの鈍角をθb(以下、ノズル領域エッジ角度θbと称する)とした場合、ノズル領域エッジ角度θbがノズル板エッジ角度θa以上となるようにノズル領域12を設ける。
【0082】
このように、ノズル領域エッジ角度θbを大きい角度に設定することで、ノズル板長手方向の両端部に、より広い隙間を設けることが可能になる。これにより、ヘッド1の端部に衝撃が加わった場合に、ノズル領域12の端部に位置するノズル11や液室に衝撃を伝えにくくすることができる。
【0083】
また、第2の実施形態においても、ヘッド1を
図16のようにノズル板長手方向に複数並べた場合、ヘッド1aのノズル領域12aと、ヘッド1bのノズル領域12bとで重なり合う領域が9割未満となるようにノズル11が配列される。これによって、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0084】
上述のように、本実施形態は、ノズル板10のノズル板長手方向の一端側の縁とノズル板長手方向とがなす角度のうち鈍角のものをノズル板エッジ角度θaとし、傾斜方向Aに延びる仮想線vとノズル板長手方向とがなす角度のうち鈍角のものをノズル領域エッジ角度θbとした場合、θa≦θbの関係を満たすように構成した。
【0085】
これにより、ノズル板10のノズル板長手方向の両端部に、より広い隙間Dを設けることが可能になり、ノズル領域12の端部に衝撃を伝えにくくすることができる。
【0086】
<ノズル板端部の距離について>
次に、ノズル板10に形成されるノズル11と、ノズル板10のノズル板短辺eとの間の傾斜方向Bにおける距離(間隔)をX以上の間隔として確保するための条件について、
図17を用いて説明する。
図17は、ノズル板端部の距離の説明図である。
【0087】
図17において、短手方向と傾斜方向A(第1傾斜方向であって、ノズル列11N内のノズル11の並ぶ方向)とのなす角で鋭角のものをδ1、長手方向と傾斜方向B(第2傾斜方向であって、ノズル列11Nが並ぶ方向)とのなす角で鋭角のものをδ2とする。
図17に示すノズル板10の例では、δ1は、ノズル板短手方向と、ノズル板10のノズル板長手方向一端側の縁(傾斜方向Aと平行なノズル板短辺e)とのなす角で鋭角のものに相当する。また、δ2は、ノズル板長手方向と、ノズル板10のノズル板短手方向一端側の縁(傾斜方向Bと平行なノズル板長辺f)とのなす角で鋭角のものに相当する。また、
図17において、ノズル列11Nに含まれるノズル数をN(
図17ではN=3を例示している)、ノズル列11Nの数をM(
図17ではM=9を例示している)、ノズル11同士のノズル板長手方向の間隔(記録解像度)をdとする。
【0088】
1つのヘッド(ノズル板10a)と、もう1つのヘッド(ノズル板10b)は、ノズル板短手方向の位置が同じになるように配置される。この場合、ノズル板10aに含まれるノズルと、ノズル板10bに含まれるノズルとがノズル板長手方向に間隔dで規則的に並ぶように、両者は隣り合わせにして配置される。この状態において、ノズル列同士は、
図17の左上部分に示したように傾斜方向Bにおいて所定の間隔X(=N・d/cosδ2)を有する。
【0089】
ここで、ノズル板10a,10bの最も外側に位置するノズル列のノズルからノズル板の縁(ノズル板短辺e)までの距離を傾斜方向Bに沿ってXだけ設けるとき、破線で示した直角三角形に対して、tanδ1=L1/(H1+H2)が成り立つ。
H1、H2およびL1は、
H1=(M+1)・N・d・tanδ2、
H2=(N-1)・d/tanδ1、
L1=(2N-1)・d、
となり、これより、
δ2=arctan(1/((M+1)tanδ1))
である。
【0090】
従って、δ2≧arctan(1/((M+1)tanδ1))となるようにδ2を設定することで、外側に位置するノズル列のノズルからノズル板短辺eまでの距離をX以上確保することができる。
【0091】
上述のように、本実施形態は、ノズル列の数をM、ノズル板短手方向と傾斜方向Aとのなす角で鋭角のものをδ1、ノズル板長手方向と傾斜方向Bとのなす角で鋭角のものをδ2としたとき、
δ2≧arctan(1/((M+1)tanδ1))
の関係を満たすようにδ2を設定する。
【0092】
これにより、ノズル板同士をノズル板長手方向に互いに平行移動させるように配置しつつ、記録解像度に対応する等間隔でノズルを配置でき、かつ端部の距離をX以上確保でき、ノズル等の破損を防止できる。なお、
図17においては、サブノズル群が1つ(P=1)の場合を例に説明したが、サブノズル群が2つ以上ある場合でも、δ2≧arctan(1/((M+1)tanδ1))の関係を満たすようにδ2を設定することが好ましい。この場合も、上述の説明と同様の理由により、ノズル板同士を互いに平行移動させるように配置しつつ、等間隔でノズルを配置でき、かつ端部の距離をX以上確保でき、ノズル等の破損を防止できる。
【0093】
<変形例>
これまでは、ノズル板10を1つずつ備えたヘッド1を複数個並べてヘッドユニット555とする構成を説明した。しかし、1つのヘッド1に設けるノズル板10の数は必ずしも1つでなくてもよい。例えば、1つのヘッド1にノズル板10を複数備え、この複数のノズル板10がノズル板長手方向に1つのヘッド内で複数個並んで設けられるように構成してもよい。
【0094】
なお、その際、ノズル板長手方向で隣り合う1つのノズル板10(第1のノズル板)と、もう1つのノズル板10(第2のノズル板)とは、
図14の場合と同様に配置される。つまり、第1のノズル板のノズルと第2のノズル板のノズルとをノズル板長手方向に投影した場合、第1のノズル板のノズルと第2のノズル板のノズルとが交互になるように配置された部位をなすように配置される。
【0095】
これにより、ノズル板10のつなぎ目部分においてノズルが途切れることなく、均一の記録解像度を連続で得ることができる。
【0096】
また、ノズル板長手方向で隣り合う1つのノズル板10(第1のノズル板)と、もう1つのノズル板10(第2のノズル板)とは、
図12または
図16の場合と同様に配置される。つまり、第1のノズル板のノズル領域12aを傾斜方向B(第2傾斜方向)へ延ばした領域を延長領域としたとき、第2のノズル板のノズル領域12bのうち、延長領域と重なる領域が9割未満となるように配置される。
【0097】
これにより、隣り合うノズル領域の重なる領域が小さくなり(もしくは、なくなり)、ノズル板10同士の直接の接触を減らす(もしくは、なくす)ことができる。その結果、外部から衝撃が与えられた際に、隣り合うノズル板10同士の衝突面積が小さくなり、衝撃によるノズル板10のダメージを抑制することが可能になる。
【0098】
<保護手段の構成>
次に、保護手段について、
図18を用いて説明する。
図18は、保護手段の一例を示す説明図である。第1の実施形態および第2の実施形態で説明したヘッド1(1a,1b)は、以下に説明する保護手段を備えた構成であってもよい。
【0099】
図18(a)に示されたヘッド1は、ノズル板10のノズル板長手方向の両端部に、ノズル板10のエッジ(縁)を保護するための保護部13が設けられている。保護部13は、外部からの衝撃を吸収することが可能な樹脂材料からなる保護部材(緩衝材)を装着した形態でもよいし、樹脂材料を塗布し保護膜として形成した形態であってもよい。なお、保護部13を設ける範囲は、ノズル板10のエッジ(縁)の範囲に限るものではない。保護部13を設ける範囲は、必要に応じてヘッド保持部材102のエッジ(縁)まで延長させて設けてもよい。
【0100】
また、保護手段は、
図18(a)に示した保護部13のように、外観から目視可能な構成に限るものではない。
図18(b)に示されたヘッド1は、ノズル領域12のノズル板長手方向の端部B(破線部)に配置されたノズルをダミーノズルとしている。つまり、端部Bに配置されたノズルのうち、特定のノズルないしはノズル列をダミーノズルとし、実際の液体吐出動作では使用されないノズルを設けている。このようにダミーノズルを設けることで、実質、ノズル板10の隙間D(
図10参照)の長さを調整してもよい。
【0101】
また、均一な記録解像度を得るために二次元状に並んで配置された複数のノズルとは別に、当該ノズルのいずれかと長手方向の同じ位置に液体を吐出可能な1または複数の付加的なノズルをさらに設けてもよい。付加的なノズルは、二次元状に並んで配置された複数のノズルと同数であってもよい。この場合、二次元状に並んで配置された複数のノズルそれぞれについて、ノズルとノズル板の長手方向の一端側の縁との間の第2傾斜方向における距離がX以上であり、かつ、ノズルとノズル板の長手方向の他端側の縁との間の第2傾斜方向における距離がX以上であればよく、付加的なノズルは任意の位置に設けることができる。
【0102】
また、保護手段は、
図18(c)に示すように、複数のヘッド1a,1bを並べた際にノズル板10a,10b同士が接する部位にのみ設ける構成としてもよい。例えば、ヘッド1aは、ノズル板10aのノズル板長手方向端部において、ヘッド1bのノズル板10bと隣接する部位に、保護部14aが設けられている。一方、ヘッド1bは、ノズル板10bのノズル板長手方向端部において、ヘッド1aのノズル板10aと隣接する部位に、保護部14bが設けられている。なお、保護部14は、
図18(a)の保護部13と同様、外部からの衝撃を吸収することが可能な樹脂材料からなる保護部材(緩衝材)を装着した形態でもよいし、樹脂材料を塗布し保護膜として形成した形態であってもよい。
【0103】
上記のような保護手段を追加することで、ヘッド1を外部の衝撃等からより効果的に保護することが可能になる。
【0104】
<適用例>
<<適用例1>>
本発明の液体吐出ヘッドは、立体造形物を形成するために用いられる液体も吐出可能である。立体造形物を形成するために用いられる液体として例えば、治療の手技トレーニングに用いられる三次元立体構造体を形成するための、ハイドロゲル形成材料が挙げられる。ハイドロゲル形成材料は、水および重合性モノマーを含有し、鉱物、有機溶媒を含有することが好ましく、さらに必要に応じて、重合開始剤、その他の成分を含有する。重合性モノマーは、不飽和炭素-炭素結合を1つ以上有する化合物であり、紫外線や電子線等の活性エネルギー線により重合する重合性モノマーが好ましい。
【0105】
重合性モノマーとしては、例えば、単官能モノマー、多官能モノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。多官能モノマーとしては、例えば、2官能モノマー、3官能モノマー、4官能以上のモノマーなどが挙げられる。
【0106】
鉱物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ハイドロゲルが水を主成分とすることから、粘土鉱物が好ましく、さらに、水中で一次結晶のレベルで均一に分散可能な層状粘土鉱物が好ましく、水膨潤性層状粘土鉱物がより好ましい。
【0107】
有機溶媒としては、例えば、水溶性有機溶媒などが挙げられる。水溶性有機溶媒の水溶性とは、有機溶媒が水に対して30質量%以上溶解可能であることを意味する。水溶性有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等の炭素数1以上4以下のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトンアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(またはエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルコールエーテル類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどが挙げられる。
【0108】
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、保湿性の点から、多価アルコール、グリセリン、プロピレングリコールが好ましく、グリセリン、プロピレングリコールがより好ましい。
【0109】
重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤などが挙げられる。光重合開始剤としては、光(特に波長220nm~400nmの紫外線)の照射によりラジカルを生成する任意の物質を用いることができる。なお、ハイドロゲル形成材料を用いて立体造形する場合には、UV(Ultra Violet)照射機構を設け、吐出したハイドロゲル形成材料にUV照射することで硬化して形成する。
【0110】
(ハイドロゲル形成材料具体例)
減圧脱気を30分間実施したイオン交換水120.0質量部を撹拌させながら、層状粘土鉱物として[Mg5.34Li0.66Si8O20(OH)4]Na-0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)12.0質量部を少しずつ添加して撹拌した。さらに、エチドロン酸(東京化成工業株式会社製)0.6質量部を加えて撹拌して分散液を作製した。得られた分散液に、重合性モノマーとして、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したアクリロイルモルホリン(KJケミカルズ株式会社製)44.0質量部、メチレンビスアクリルアミド(東京化成工業株式会社製)0.4質量部を添加した。さらに、グリセリン(阪本薬品工業株式会社製)20.0質量、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製)0.8質量部混合し、ハイドロゲル形成用材料を得た。
【0111】
<<適用例2>>
本発明の液体吐出ヘッドは、細胞からなる組織体を人工的に形成するために、細胞を任意に配置するためのインクジェット法にも使用可能であり、細胞懸濁液(細胞インク)を吐出可能である。細胞懸濁液(細胞インク)は、少なくとも細胞および細胞乾燥抑制剤を含有する。さらに、細胞懸濁液(細胞インク)は、細胞を分散させる分散培を含有し、必要に応じて、分散剤、pH調整剤などのその他の添加材料を含有してもよい。
【0112】
細胞は、その種類等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、分類学的に、例えば、真核細胞、原核細胞、多細胞生物細胞、単細胞生物細胞を問わず、すべての細胞について使用することができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0113】
真核細胞としては、例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、真菌などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、動物細胞が好ましく、細胞が細胞集合体を形成する場合は、細胞と細胞とが互いに接着し、物理化学的な処理を行わなければ単離しない程度の細胞接着性を有する接着性細胞がより好ましい。
【0114】
細胞乾燥抑制剤としては、細胞の表面を覆い、細胞の乾燥を抑制する働きを有するものであり、例えば、多価アルコール類、ゲル状多糖類、および細胞外基質から選ばれる蛋白質などが挙げられる。
【0115】
分散培としては、細胞培養用の培地や緩衝液が好ましい。培地は、細胞組織体の形成と維持に必要な成分を含み、乾燥を防ぎ浸透圧などの外部環境を整える溶液であり、培地として知られているものであれば適宜選択して使用することができる。細胞を常時培地液内に浸しておく必要がない場合には、細胞懸濁液から培地は適宜除去することができる。緩衝液は、細胞や目的に合わせpHを調整するためのものであり、公知のものを適宜選択して使用することができる。
【0116】
(細胞懸濁液(細胞インク)具体例)
緑色蛍光染料(商品名:Cell Tracker Green、Life Technologies社製)を10mmol/L(mM)の濃度でジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と称す)へ溶解させ、無血清ダルベッコ変法イーグル培地(Life Technologies社製)と混合し、濃度10μmol/L(μM)の緑色蛍光染料含有無血清培地を調製した。次に、培養したNIH/3T3細胞(Clone 5611、JCRB Cell Bank)のディッシュに緑色蛍光染料含有無血清培地を5mL添加し、インキュベーター(KM-CC17RU2、パナソニック株式会社製、37℃、5体積%CO2環境))内で30分間培養した。その後、アスピレータを用いて、上澄みを除去した。ディッシュにリン酸緩衝生理食塩水(Life Technologies社製、以下、PBS(-)とも称する)を5mL加え、アスピレータでPBS(-)を吸引除去し、表面を洗浄した。PBS(-)による洗浄作業を2回繰り返した後、0.05質量%トリプシン-0.05質量%EDTA溶液(life technologies社製)をディッシュ1枚あたり2mL加えた。
【0117】
次に、インキュベーター内にて5分間加温し、ディッシュから細胞を剥離した後、10質量%ウシ胎児血清(以下、「FBS」とも称す)および1質量%抗生物質(Antibiotic-Antimycotic Mixed Stock Solution(100x)、ナカライテスク株式会社製)を含むD-MEMを4mL加えた。次に、トリプシンを失活させた細胞懸濁液を50mL遠沈管1本に移し、遠心分離(商品名:H-19FM、KOKUSAN社製、1,200rpm、5分間、5℃)を行い、アスピレータを用いて上清を除去した。
【0118】
除去後、遠沈管に10質量%FBSおよび1質量%抗生物質を含むD-MEMを2mL添加し、穏やかにピペッティングを行い、細胞を分散させ細胞懸濁液を得た。この細胞懸濁液から10μLをエッペンドルフチューブに取り出し、培地を70μL添加後、10μLを別のエッペンドルフチューブに取り出し、0.4質量%トリパンブルー染色液10μLを加えてピペッティングを行った。染色した細胞懸濁液から10μL取り出してPMMA製プラスチックスライドに載せた。
【0119】
商品名:Countess Automated Cell Counter(インビトロジェン社製)を用いて細胞数を計測して細胞数を求めることで、細胞数を計測した細胞懸濁液を得た。分散培としてPBS(-)を用いた。PBS(-)へ、細胞乾燥抑制剤としてグリセリン(分子生物学用グレード、和光純薬工業株式会社製)を質量比0.5質量%となるように溶解させ、NIH/3T3細胞懸濁液を6×106cell/mLとなるように分散培へ分散させて、細胞インクを得た。
【0120】
以上説明した本発明の実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜構成要件を変更、追加、削除することが可能である。本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有する者により、多くの変形が可能である。
【符号の説明】
【0121】
1(1a,1b,1c,1d) ヘッド
101(101a,101b,101c,101d) 液体吐出部
102(102a,102b,102c,102d) ノズル板保持部材
103(103a,103b,103c,103d) マウント部材
10 ノズル板
11 ノズル
11N ノズル列
12 ノズル面
555 ヘッドユニット