(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143689
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】液滴吐出装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20230928BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206062
(22)【出願日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2022047411
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】塚越 敏弘
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF42
2C057AG44
2C057AM16
2C057AR14
2C057AR16
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】大きな電力を発生させることなく、複数のノズル間の吐出速度のバラツキを抑制する。
【解決手段】複数の圧電素子のそれぞれに駆動信号を印加する波形生成部αは、複数のノズルにおける個別のノズル毎に任意で指定した駆動信号の電圧が変化する電圧遷移時における傾斜割合に基づいて駆動のON/OFFを切り替える複数の傾斜切替選択部を有し、複数の傾斜切替選択部の各傾斜切替選択部134は、高電圧電位VHと接地電位GNDが入力され、高電圧電位VHに接続されている期間立ち上がりの電圧遷移波形を発生するPチャンネルMOSトランジスタと、接地電位GNDに接続されている期間立ち下がりの電圧遷移波形を発生するNチャンネルMOSトランジスタと、を備え、各傾斜切替選択部では、圧電素子に印加される駆動信号の基準電位V1を、PチャンネルMOSトランジスタ及びNチャンネルMOSトランジスタとは異なる経路で供給する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルから液滴から記録媒体上に液滴を吐出する液滴吐出装置であって、
前記複数のノズルに液滴を吐出させる複数の圧電素子と、
前記複数の圧電素子のそれぞれに駆動信号を印加する波形生成部と、を備え、
前記波形生成部は、前記複数のノズルにおける個別のノズル毎に、任意で指定した、前記駆動信号の電圧が変化する電圧遷移時における傾斜割合に基づいて、駆動のON/OFFを切り替える複数の傾斜切替選択部を有し、
前記複数の傾斜切替選択部の各傾斜切替選択部は、高電圧電位と接地電位が入力され、
前記高電圧電位に接続されている期間、立ち上がりの電圧遷移波形を発生するPチャンネルMOSトランジスタと、
前記接地電位に接続されている期間、立ち下がりの電圧遷移波形を発生するNチャンネルMOSトランジスタと、を備え、
前記各傾斜切替選択部では、前記圧電素子に印加される駆動信号の基準電位を、前記PチャンネルMOSトランジスタ及び前記NチャンネルMOSトランジスタとは異なる経路で供給する
液滴吐出装置。
【請求項2】
前記波形生成部は、前記複数の傾斜切替選択部の前段に設けられる、傾斜切替伝送部を有し、
前記傾斜切替伝送部は、前記駆動信号の遷移期間割合を算出する除算器を有し、
前記除算器が発生するアンダーフロー信号を発生した期間が、前記電圧遷移時において、前記PチャンネルMOSトランジスタ及び前記NチャンネルMOSトランジスタがOFFし、途中の電圧を維持する期間となる
請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記駆動信号の電圧遷移は、立ち上がりと立ち下がりを含み、
前記傾斜切替伝送部は、前記圧電素子の駆動信号の立ち上がり時の傾斜割合と立ち下がり時の傾斜割合を個別に設定でき、
前記駆動信号の電圧遷移期間中に連続して、2以上の途中電圧維持期間を挟むように切り替えられる
請求項2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記波形生成部は、
複数の種類の駆動信号の電圧値と、ノズル出力毎に定めた傾斜割合に沿った信号切り替えタイミング情報を格納する出力情報記憶部を有し、
前記傾斜切替伝送部は、
前記駆動信号の立ち上がり又は立ち下がりの遷移の方向を示す選択信号と、
前記信号切り替えタイミング情報を基に、前記駆動信号の遷移期間を規定するアサート状態を示すイネーブル信号をノズル毎にそれぞれ出力する
請求項2又は3のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記圧電素子へ出力される駆動信号の立ち上がり時の傾斜割合と立ち下がり時の傾斜割合を計測するAD変換部と、
前記AD変換部が計測した傾斜割合と、期待する所望の傾斜割合との差異を検出する出力比較部と、を備え、
前記出力情報記憶部は、前記出力比較部の比較結果に基づいて補正された前記ノズル毎の傾斜割合を格納する
請求項4に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
複数のノズルから液滴を吐出して記録媒体上に画像形成を行う画像形成装置であって、
前記複数のノズルに液滴を吐出させる複数の圧電素子と、
前記複数の圧電素子のそれぞれに駆動信号を印加する波形生成部と、を備え、
前記波形生成部は、前記複数のノズルにおける個別のノズル毎に、任意で指定した、前記駆動信号の電圧が変化する電圧遷移時における傾斜割合に基づいて、駆動のON/OFFを切り替える複数の傾斜切替選択部を有し、
前記複数の傾斜切替選択部の各傾斜切替選択部は、高電圧電位と、接地電位が入力され、
前記高電圧電位に接続されている期間、立ち上がりの電圧遷移波形を発生するPチャンネルMOSトランジスタと、
前記接地電位に接続されている期間、立ち下がりの電圧遷移波形を発生するNチャンネルMOSトランジスタと、を備え、
前記各傾斜切替選択部では、前記圧電素子に印加される駆動信号の基準電位を、前記PチャンネルMOSトランジスタ及び前記NチャンネルMOSトランジスタとは異なる経路で供給する
画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、給紙される記録用紙の表面にインクジェットヘッドからインク液滴を吐出させて画素を形成する。この種の装置では、例えば圧電素子に駆動電圧波形を印加した際の圧電素子の伸縮を利用し、インク滴をノズルから吐出する。ここで、インクを個々のノズルへ供給する個別液室の物理構造、圧電素子や振動板の特性、駆動波形を伝達する回路素子の特性などにバラツキが生じると、同一の駆動電圧波形を同時に印加しても、複数のノズル間でインクの吐出速度にバラツキが生じてしまうことがある。ノズル間で吐出速度のバラツキが生じると、色ずれ画像、或いは鮮鋭性の劣る画像となってしまう。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では、吐出ヘッド内に設けられた駆動部であるドライバーICにおいて、充電制御回路とDACが複数のノズルと同数設けられ、複数のノズルの各ノズルでの吐出速度がそろうように駆動波形のパルス幅を制御することが開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1では、吐出ヘッド内の駆動部において部品点数が大幅に増大することにより大きな電力が発生する。
【0005】
一方、特許文献2では、ヘッドの上位に位置する駆動基板において、駆動波形生成部のための記憶部で、ノズルの吐出速度をそろえるための波形の最小値、中間値、最大値、波形の斜辺の傾きがそれぞれ記憶されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の構成では、駆動波形において変動するパラメータが多く、記憶するデータ量が多いため、駆動基板に記憶のための多くのスペースが必要となり、必要な電力も大きくなる。
【0007】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、大きな電力を発生させることなく、複数のノズル毎での吐出速度のバラツキを抑制する、液滴吐出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様では、
複数のノズルから液滴から記録媒体上に液滴を吐出する液滴吐出装置であって、
前記複数のノズルに液滴を吐出させる複数の圧電素子と、
前記複数の圧電素子のそれぞれに駆動信号を印加する波形生成部と、を備え、
前記波形生成部は、前記複数のノズルにおける個別のノズル毎に、任意で指定した、前記駆動信号の電圧が変化する電圧遷移時における傾斜割合に基づいて、駆動のON/OFFを切り替える複数の傾斜切替選択部を有し、
前記複数の傾斜切替選択部の各傾斜切替選択部は、高電圧電位と接地電位が入力され、
前記高電圧電位に接続されている期間、立ち上がりの電圧遷移波形を発生するPチャンネルMOSトランジスタと、
前記接地電位に接続されている期間、立ち下がりの電圧遷移波形を発生するNチャンネルMOSトランジスタと、を備え、
前記各傾斜切替選択部では、前記圧電素子に印加される駆動信号の基準電位を、前記PチャンネルMOSトランジスタ及び前記NチャンネルMOSトランジスタとは異なる経路で供給する
液滴吐出装置、を提供する。
【発明の効果】
【0009】
一態様によれば、液滴吐出装置において、大きな電力を発生させることなく、複数のノズル間の吐出速度のバラツキを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】記録ヘッド内におけるノズル周辺の動作説明図。
【
図3】本発明におけるインクジェット記録モジュールの駆動制御の概略ブロック図。
【
図5】本発明における記録ヘッド内のドライバーICの機能ブロック図。
【
図6】
図5のドライバーIC内の、波形生成回路の傾斜切替選択部の構成を示す図。
【
図7】傾斜切替伝送部の除算器と傾斜切替選択回路の回路例を示す図。
【
図8】本発明における、ノズル毎の吐出速度バラツキのグループ分けを示す図。
【
図9】記録媒体上に着弾したドットのバラツキ例を示す図。
【
図10】本発明における、駆動波形の各パラメータの説明図。
【
図11】基本的な駆動波形と制御信号の対応を示すグラフ。
【
図12】電圧遷移期間中に1回の途中電圧保持期間を含む駆動波形と制御信号の対応を示すグラフ。
【
図13】電圧遷移期間中に2回の途中電圧保持期間を含む駆動波形と制御信号の対応を示すグラフ。
【
図14】電圧遷移期間中に4回の途中電圧保持期間を含む駆動波形と制御信号の対応を示すグラフ。
【
図15】本発明における傾斜切替伝送部内の除算器で用いる除算テーブルを示す図。
【
図16】本発明の制御信号と駆動波形のスルーレート調整の例を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0012】
<液滴吐出ヘッド構成>
まず、
図1を用いて、本発明の液滴吐出ヘッドの一例である記録ヘッド(インクジェットヘッド)について説明する。
図1は、本発明の記録ヘッドの一例の下面図である。
【0013】
図1に示すように、記録ヘッド81のノズル面(底面)には多数のノズル82が列状に配置されている。なお、
図1では、複数のノズル82で構成されるノズル列は1列である例を示すが、2列以上であってもよく、2列以上の場合は、千鳥配列あってもよい。
【0014】
図1では、1つの記録ヘッド81の下面拡大図を示しているが、本発明の液滴吐出装置では、ノズル列方向及び又はノズル列方向と直交する方向に記録ヘッドが複数設けられた、インクジェット記録モジュール8としてもよい。なお、記録ヘッドが複数である例として、例えば、カラー印刷用に、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の各色のインク滴が吐出可能な複数の記録ヘッド81K、81C、81M、81Y(81C~81Yは不図示)が設けられていてもよい。
【0015】
また、
図1のような記録ヘッドが搭載される液滴吐出装置では、記録ヘッドの位置が固定された、ライン走査型のインクジェット記録装置、又は1つ若しくは複数の記録ヘッド81を、記録媒体の搬送方向の垂直方向である本紙面の奥行き方向(若しくは、手前方向)に移動しながら、更に記録媒体Sを搬送方向に搬送し、画像を形成するシリアル走査型プリンタのいずれであってもよい。
【0016】
<ノズルの構成例>
図2は、記録ヘッド内におけるノズル周辺の動作説明図である。
図2において、(a)は定常時の状態を示し、(b)は吐出時の過渡状態を示す。
【0017】
図2に示すように、記録ヘッド81Kにおいて、流路板86に形成された穴によって、ノズル82及び液室83が構成されている。液室83には、インクIがインクチューブ等によって供給され、ノズル82及び液室83の内部にはインクIが収容されている。そして、液室83の上方(インク上流側)には、振動板84及び圧電素子85が設けられている。
【0018】
図2(a)は、圧電素子85へ印加される駆動信号が基準電位の場合の定常状態を示す。収容されたいインクIのインク面(メニスカス)はノズル82の内側に位置しており、安定状態を保っている。
【0019】
圧電素子85は、駆動信号が基準電位から電圧を指定した電圧レベルに変化すると、電圧値に応じて、物理的に形状が変化する(
図2(a)→
図2(b))。そして、圧電素子85の形状変化は、振動板84を介して、液室83に伝えられる。液室83にあるインクIは、
図2(b)のように、圧電素子85によって、液室83内の容積が狭まると、液面がノズル82よりも外側に位置する過渡状態になる。
【0020】
さらに圧電素子85が変形すると、圧力を受けたインクIがノズル82から滴状に記録媒体Mに向かって吐出する。記録ヘッド81K,81C,81M,81Yでは、
図2に示すような内部構造を有するノズル82が列状に複数設けられている。
【0021】
<制御ブロック>
図3は、本発明におけるインクジェット記録モジュール8の駆動制御の概略ブロック図である。
【0022】
インクジェット記録モジュール8の駆動制御構成として、ドライバーIC(Integrated Circuit)100と、ヘッド制御ボード200とを有している。ドライバーIC100は、記録ヘッド81Yの内部であって、複数の圧電素子85の集合体である圧電素子群の近傍に位置する駆動基板に配置される。ヘッド制御ボード200は、記録ヘッド81Yよりも前段であって上位に位置する上位制御基板(外部プリント基板)である。ヘッド制御ボード200と、ドライバーIC100との間は、配線ケーブルで接続されており、電圧値等の送受信を担っている。
【0023】
なお、
図3では、1つの記録ヘッド81K内において、対応するドライバーIC100を1つのみ示しているが、液滴吐出装置に複数の記録ヘッドが設けられる場合、ドライバーIC100は、それぞれの記録ヘッド内に、必要な数量設けられている。例えば、1つの記録ヘッドあたり4つ又は8つ、設けられている。
【0024】
ヘッド制御ボード200は、吐出制御回路210と、定電圧発生回路220とを有している。この構成により、本発明では、前段のヘッド制御ボード200上では駆動波形を生成することなく、最終的な駆動波形に必要な電圧を生成している。
【0025】
記録ヘッド81K内のドライバーIC100は、波形生成回路(波形生成部)αと、出力信号観測部140を有している。出力信号観測部140は、AD変換部141と、出力比較部142を有している。
【0026】
本発明の構成では、後段のドライバーIC100が駆動波形を生成し出力している間、前段のヘッド制御ボード200では固定電圧を生成している。
【0027】
ここで、駆動波形が正しく電圧が生成できているかは、ドライバーIC100から圧電素子85nへの出力端子OTnへ出力する端子電圧OUTnを、出力信号観測部140によって計測することによって検証可能である。なお、本明細書において、nは1つの記録ヘッド内の圧電素子の数であって、数nは、2以上の整数であって、2桁や3桁(10~999)であってもよい。
【0028】
また、ドライバーIC100では、ヘッド制御ボード200上の定電圧発生回路220により生成された、高電圧の高電圧電位VHと、駆動波形の基準電圧となる基準電圧電位V1などの2つ以上の複数の固定電圧が入力されている。
【0029】
ドライバーIC100内の波形生成回路αでは、設定された時刻に、高電圧電位VHを時分割でON/OFFすることで所望の電圧傾斜で駆動電圧を生成する。そして、生成された駆動電圧、又は基準電圧V1のどちらか一方の出力すべき信号を選択して、出力端子OT1~OTnから圧電素子851~85nへ駆動波形を供給する。
【0030】
あるいは、ドライバーIC100内に出力電圧選択部を設け、後述の
図4(a)のように上位のヘッド制御ボードで生成された駆動波形信号をアナログ信号として入力し、アナログスイッチをON/OFFすることで、駆動波形を出力することも可能である。
【0031】
また、本構成のドライバーIC100では、固定電圧とアナログ信号を組み合わせることで、インクを吐出する駆動波形に加えて、記録ヘッド81Kの液室83内のインクをリフレッシュするための微駆動波形を圧電素子85nへ供給することも可能である。
【0032】
なお、
図3では、高電圧電位VHや基準電圧電位V1は、上位制御基板であるヘッド制御ボード200で生成される例を示しているが、高電圧電位VHや基準電圧V1は、プリンタ本体のPSU(Power Supply Unit)や、ドライバーIC100内部で生成されてもよい。
【0033】
<比較例>
次に、
図4を用いて比較例の駆動制御の回路構成について説明する。
【0034】
(比較例1)
図4(a)の比較例1では、ドライバーIC100Xの前段に位置するヘッド制御ボード200Xに、駆動波形生成用アンプ232を含む駆動波形生成回路230を配置した構成例である。
【0035】
この比較例1の構成では、ドライバーIC100Xへ入力されるインクジェット駆動波形は、前段のヘッド制御ボード200X上で生成される。ドライバーIC100Xは、記録ヘッド81K内に配置されるが、ヘッド制御ボード200Xは記録ヘッド81Kから離れた場所に設置される。ドライバーIC100Xの出力端子から出力される出力電圧VOUTnは、インクを吐出するための振動を引き起こす圧電素子85へ入力される。
【0036】
駆動波形は、ヘッド制御ボード200X上のDAC231とアンプ232で構成される任意波形発生機能デバイスである駆動波形生成回路230で生成され、数十cm以上の配線を経由して、ドライバーIC100Xへ入力される。
【0037】
そのため、
図4(a)の構成では、ヘッド制御ボード200XからドライバーIC100Xへ至る配線において、LCR(インダクタンス、コンダクタンス、インピーダンス)の影響により、波形なまりや位相変動を生じる可能性がある。また、駆動波形はドライバーIC100Xに接続される全ての圧電素子851~85nへ供給される可能性があり、同時に駆動波形を供給する圧電素子の数が多くなると、圧電素子の持つ容量成分の影響を多く受け、駆動波形になまりが生じる可能性が高くなる。
【0038】
その一方、
図4(a)の構成では、大電力を消費する回路である駆動波形生成回路230は、ヘッド制御ボード200X上に配置されており、ドライバーIC100X内で発生する発熱は、スイッチSWのON時のインピーダンス成分による発熱に限定されている。
【0039】
(比較例2)
図4(b)に示す比較例2では、駆動波形生成用アンプ192を含む駆動波形生成回路190をドライバーIC100Y内部に配置した構成例である。
【0040】
この比較例2の構成では、駆動波形を生成するDAC191およびアンプ192をドライバーIC100Y内部に配置している。そのため、駆動波形がドライバーIC100Yまでに至る長距離の配線を伝搬することなく、ドライバーIC100Y内で生成したアナログ信号を、後段の圧電素子へ出力することで、LCRによる駆動波形のなまりといった影響を排除することができている。
【0041】
しかしながら、この構成では、ドライバーIC100Y内に、接続される圧電素子の数と同数(例えばN個)のアンプ192が設けられる。よって、ドライバーIC100Yの半導体チップサイズの肥大化と、アンプ192などアナログ回路が常時大きな電流を消費することから生じる大きな発熱量が課題となる。
【0042】
本発明の
図3の構成を、
図4の比較例1、比較例2の構成と比較すると、ドライバーIC100側でアンプやDACを圧電素子と同数設けないため、発熱量を抑制できるとともに、ヘッド制御ボード200内で駆動波形の全てを生成しないため、信号なまりも発生しにくい。
【0043】
<ドライバーIC>
図5は、本発明におけるインク吐出機能を実現する、記録ヘッド81K内のドライバーIC100の機能ブロック図である。
【0044】
ドライバーIC100は、出力電圧制御部110と、出力波形制御部120と、出力波形生成部130と、出力信号観測部140とを実行可能に有している。ドライバーIC100における、出力電圧制御部110と、出力波形制御部120と、出力波形生成部130は、
図3に示す波形生成回路αとして機能する。
【0045】
ドライバーIC100は、複数の圧電素子851~85nをそれぞれ駆動することで、複数のノズル82のノズル毎にインクを吐出する機能を実現する。また、ドライバーIC100は、圧電素子851~85nに駆動波形を供給する際、ノズル毎に駆動波形とそのタイミングを位相制御することができる。
【0046】
出力波形生成部130は、インクを吐出する複数のノズル82の夫々に対応する圧電素子851~85nへ複数の電圧を指定順序で供給する。出力電圧制御部110は、ドライバーIC100内部で出力波形を生成するために必要な複数の電圧を供給する。出力波形制御部120は、出力位相制御部としても機能し、駆動波形として出力すべき指定電圧と時刻を出力毎に制御する。出力信号観測部140は、ノズル82毎に、生成され出力される駆動波形を選択して、その波形の電圧状態を計測する。
【0047】
出力電圧制御部110は、駆動電圧入力部111と、出力電圧供給回路112とを有する。駆動電圧入力部111は、2つ以上の複数の固定電圧が入力される。
【0048】
出力電圧供給回路112は、後段の出力波形生成部130へ供給する複数の電圧を生成する。この際、出力電圧供給回路112は、ドライバーIC100の動作状態に応じて、駆動電圧入力部111から供給される電圧を同一電位で出力する場合と、駆動電圧入力部111からの電圧を元に新たな電圧を生成して出力する場合がある。また、駆動電圧入力部111から可変電圧を受け入れた場合は、可変電圧を出力することもできる。さらに入力された高電圧電位VHを元に、出力電圧供給回路112内部で、駆動波形の基準電位V1を生成することも可能である。
【0049】
出力波形制御部120は、位相制御部であって、波形情報入力部121と、クロック入力部122と、出力毎波形伝送部123と、傾斜切替伝送部124と、基準周期カウント部125と、出力情報記憶領域126とを有している。
【0050】
クロック入力部122は、ドライバーIC100の動作の基準となる基準クロックCLKが入力される。基準周期カウント部125は、その基準クロックCLKを数え、必要なタイミングでドライバーIC100の内部状態を遷移させる、基準周期クロック信号TCKを出力する。本発明では、基準クロックCLKを複数サイクルカウントすることで、インクの吐出サイクルを構成する。
【0051】
波形情報入力部121は、特定のノズル82で、必要なインク滴を吐出するために、画像制御情報に基づいて複数の駆動波形情報DINを受け入れる。出力毎波形伝送部123は、波形情報入力部121に入力された駆動波形情報DINに基づいて、出力先のノズル82毎に駆動波形(T1、T2、T3)を選択し伝送する。
【0052】
傾斜切替伝送部124は、出力電圧の立ち上がり/立ち下がり時の電圧傾斜割合(スルーレート)を、出力先のノズル82毎にそれぞれ設定する。
【0053】
出力情報記憶領域126は、複数種類の駆動波形と、出力ノズル毎に出力すべき時刻と電圧情報とを格納しておく。出力情報記憶領域126には、記憶容量面で効率よく、全ノズル出力に共通な複数の波形情報を格納する機能と、ノズル出力毎に定めたタイミングで出力電圧を切り替えるための波形を伝送制御する機能を有している。
【0054】
出力波形生成部130は、ノズル82の数nと同数の、出力駆動信号生成部OG1~OGnと、出力端子OT1~OTnを有している。
【0055】
出力駆動信号生成部OG1~OGnは、出力波形制御部120から受けたノズル出力毎の波形番号情報と位相情報と出力電圧選択と傾斜切替選択情報に基づいて、出力電圧制御部110から順次選択した電圧(出力電圧VOUT1~VOUTn)を、各出力端子OT1~OTnから出力する。
【0056】
出力駆動信号生成部OG1~OGnの夫々は、波形番号選択部131と、位相情報選択部132と、出力電圧選択部133と、傾斜切替選択部134とを有している。
【0057】
出力電圧選択部133は、駆動波形の基準電圧となるV1と、出力電圧の立ち上がり/立ち下がりで生成される駆動波形を含む駆動信号とを選択する。
【0058】
波形番号選択部131は、波形番号を選択する。位相情報選択部132は位相を選択する。波形番号とは、吐出する液滴の滴量サイズや、環境変化に応じて形状変更された駆動波形、など複数種類の駆動波形に対応した番号であり、出力端子OT1~OTnそれぞれにおいて、どの駆動波形を出力するかを定めるために設定するものである。
【0059】
また、波形番号選択部131では、出力毎の波形番号のみを保有し、変化時刻や電圧レベルなどデータ量の多い情報は共通情報として前段の出力情報記憶領域126から参照することで、発熱を最小限にして駆動波形を生成できる。
【0060】
傾斜切替選択部134は、電圧遷移時において、駆動波形を、途中電圧維持期間を挟んで段状に変化させるように切り替えて傾斜割合を変化させ、傾斜割合に基づいて対応する圧電素子85nの駆動のON/OFFを切り替える。傾斜切替選択部134の詳細については、
図6、
図7とともに後述する。
【0061】
出力信号観測部140は、AD変換部141と、出力比較部142とを有している。任意に選択された出力端子OTnの電気信号である出力電圧VOUTnがAD変換部141に入力される。そしてAD変換部141でデジタル値へ変換し、出力比較部142で、変換したデジタル値を期待するスルーレートと比較した差異を計測する。スルーレートの差異情報から期待するスルーレートを実現するための補正情報を算出する補正演算は、ドライバーIC100内部で構成する演算回路で求めてもよいし、あるいは、ドライバーIC100外部の上位のヘッド制御ボード200に搭載された演算回路で求めてもよい。
【0062】
また、計測結果である期待値との差異情報は、ドライバーIC100から判定信号CMPとして出力することが可能であるが、デジタル変換値をドライバーIC100外部から読み取る機能や、AD変換器をドライバーIC100内部に配置せずアンプを経由した電気信号をそのままアナログ信号として出力する機能を構成しても、同様の効果が得られる。
【0063】
<傾斜切替選択部>
図6は、
図5のドライバーIC100に含まれる波形生成回路αの傾斜切替選択部134の構成を示す図である。
【0064】
傾斜切替選択部134は、前段の傾斜切替伝送部124より供給されるSL信号、EN信号、BS信号、UF信号を元に、出力電圧制御部110の出力電圧供給回路112から供給される定電圧V1、VH、GNDの各電位を用いて、後段の圧電素子851~85nへ供給する駆動波形を生成する。
【0065】
傾斜切替選択部134は、傾斜切替選択回路41と、アナログスイッチ42と、PチャンネルMOSトランジスタ43と、NチャンネルMOSトランジスタ44とを有している。PチャンネルMOSトランジスタ43と、NチャンネルMOSトランジスタ44の一対で、相補型トランジスタとなる。
【0066】
選択信号(SL信号)は、スルーレート制御の向きを表し、例えばLOWレベルが立ち下がり波形、HIGHレベルが立ち上がり波形であることを示す。
【0067】
イネーブル信号(EN信号)は、駆動波形の遷移期間の間にアサートされる信号を示す。
【0068】
BS信号は、駆動波形の遷移期間以外のいずれかのタイミングにアサートすることで、基準電圧となるV1レベルを供給することが可能となる信号を示す。
【0069】
UF信号は、出力電位が、高電圧電位VHまたは接地電位GNDへ向けて遷移する期間において、途中電圧維持期間を規定する。
【0070】
傾斜切替選択回路41がS2信号を出力すると、高電圧電位VHに接続されるPチャンネルMOSトランジスタ43がONすることで、駆動波形の立ち上がり信号を生成する。
【0071】
傾斜切替選択回路41がS3信号を出力すると、接地電位GNDに接続されるNチャンネルMOSトランジスタ44がONすることで、駆動波形の立ち下がり信号を生成する。
【0072】
また、傾斜切替選択回路41がS1信号を出力すると、アナログスイッチ42をON/OFF制御することで、駆動波形の基準となる固定電圧V1の電圧レベル(基準電位)を供給し、後段の圧電素子85nへ所望の駆動波形を出力する。
【0073】
また、
図6に示す傾斜切替選択部134の回路構成では、傾斜切替選択部134では、圧電素子85nに印加される駆動信号の基準電位V1を、PチャンネルMOSトランジスタ43と、NチャンネルMOSトランジスタ44とは異なる経路を用いて出力端子OTnに供給している。よって、基準電位を規定する固定電圧V1は、トランジスタ43、44には供給されない。そのため、複数の圧電素子851~85nに対応するそれぞれの出力駆動信号生成部OG1~OGn間で、トランジスタ43、44の特性が異なっても、特性変動による影響を受けずに、基準電位を固定電圧V1にそろえることができる。これにより、駆動波形の変動要因も減らして、安定した駆動波形を生成することができる。
【0074】
図7は、傾斜切替伝送部124の除算器と傾斜切替選択回路41の回路例を示す図である。
【0075】
傾斜切替伝送部124は、除算器240を有しており、除算器240は減算器241と加算器242で構成されている。
【0076】
傾斜切替選択回路41は、NOT回路411と、AND回路412と、NAND回路413と、AND回路414とを有している。
【0077】
UF信号は、傾斜切替伝送部124において、被除数を除数で割る除算器240を、基準周期クロック信号TCKのクロック同期の減算器241と加算器242で構成した際のアンダーフローによって生成される。後述の
図15の除算テーブルに示す商の割合が、圧電素子を駆動する時間の割合で、立ち上がり/立ち下がりのスルーレート(傾斜割合)を示す。除数と被除数は、前段の出力情報記憶領域126に格納されており、複数の駆動波形のスルーレートに対応する数値の組み合わせから選択して除算器240へ供給される。
【0078】
図6と同様に、SL信号は、駆動波形の立ち上がり/立ち下がりの向きを表し、EN信号は電圧遷移期間においてアサートする信号であり、BS信号は遷移期間外に基準電圧供給の際にアサートする信号である。
【0079】
出力されるS1信号は、駆動波形の基準電圧レベルであるV1を出力するための制御信号で、BS信号とEN信号の論理回路であるAND回路412の論理積により生成される。
【0080】
出力されるS2信号は、駆動波形を高電圧電位VH側へ立ち上げるための制御信号である。出力されるS3信号は、駆動波形を接地電位GND側へ立ち下げるための制御信号である。
【0081】
出力されるS2信号及びS3信号は共に、EN信号がHIGHレベルで駆動波形を遷移することができるが、UF信号がLOWレベルの間は出力の遷移を停止することができる(
図11、
図12参照)。
【0082】
<吐出速度と着弾バラツキ>
図8は、本発明における、ノズル毎の吐出速度バラツキのグループ分けを示す図である。
【0083】
生産工程によって製作された記録ヘッド81Kは、次の工程である検査工程にて、各ノズルから吐出されるインク滴の吐出性能が検査され、評価される。そして、記録ヘッド81の各ノズルからのインク吐出速度にはバラつきがあり、一般には生産工程の加工精度や組立精度を向上させることを狙っているが、プラスマイナス数%から十数%のバラつきが検査工程で検出されている。
【0084】
本発明では、ノズル毎のインク吐出速度のバラツキに応じてグループ化し、
図8の例では、吐出速度の少し速いA1グループ、さらに速いA2グループ、さらに規格以上に速いA3グループ、少し遅いB1グループ、さらに遅いB2グループ、に分類できる。
【0085】
本発明の駆動波形の調整によって、このように検査で検出したノズル毎の情報に基づいて、A1,A2,A3グループに含まれるノズルはそれぞれの吐出速度の進みに応じて吐出速度を遅らせ、B1,B2グループはそれぞれの吐出速度の遅れに応じて吐出速度を速くする制御によって、0%前後の目標の吐出速度近傍へ速度を調整する。
【0086】
特にA3グループに属するノズル群のように、目標値との乖離が大きく、駆動波形の傾斜電圧制御だけでは調整しきれない場合、本発明の駆動波形の位相制御を加えることで、目標値へ近づけて、全体としてバラツキを調整することが可能になる。
【0087】
図9は、本発明における、記録媒体M上に着弾したドットのバラツキ例を示す図である。
図9では、特定の記録ヘッドから吐出されたインク滴が、記録媒体M上に一列にドットとして着弾した状態を示している。
【0088】
図9の下方向の矢印が記録媒体Mの搬送方向の場合、(1)は吐出速度低下などの理由で、記録媒体Mへの着弾が遅れたドットを示している。(2)は吐出速度上昇などの理由で記録媒体Mへの着弾が速くなったドットを示している。
【0089】
本発明では、同一の滴サイズの液滴を、同一の温度で吐出させる場合、(1)のように吐出速度が遅くなる場合のノズルに対応する圧電素子における傾斜割合を基準として、吐出速度が早くなるノズルに対応する圧電素子の傾斜割合を、途中電圧保持期間を割り込むことによって遷移期間を長くするように制御する。
【0090】
(3)は、記録媒体Mへの着弾時刻は目標通りであるが、インク滴量が少ないなどの理由で、液滴サイズが小さくなったインク滴を示している。(3)に対応するノズルに対しては、
図10に示す駆動波形で示す底辺期間(底辺ホールドパラメータ)の時間幅を広げるなどの調整により、液滴サイズを調整することが可能である。
【0091】
<駆動波形>
図10は、本発明における、駆動波形の各パラメータの説明図である。
図10に示す駆動波形(駆動信号)において、(1)は駆動波形の基準電位維持期間、(2)は駆動波形のパルス幅(振幅)、(3)は立ち上がり/立ち下がり波形のスルーレート(傾斜割合)、(4)はインク滴を吐出する直前の底辺ホールド時間幅を示している。
【0092】
これらのパラメータのうち、本発明では、底辺電位V2から基準電位V1へ遷移する電圧のパルス幅(2)と、遷移に要する電圧遷移期間によって定まる(3)のスルーレート(傾斜割合)を、上述の除数・被除数、および駆動波形の遷移の開始時刻を設定することで調整する。
【0093】
<駆動波形と制御信号>
図11は、基本的な駆動波形と制御信号の対応を示すグラフである。
図11に示すように、SL信号とEN信号によって生成されるS2信号およびS3信号のアサート期間に、駆動波形の電圧レベルを遷移させている。S2信号のアサート期間(Lの期間)では、駆動波形において立ち上がりの電圧遷移波形が発生し、S3信号のアサート期間(Hの期間)では、立ち下がりの電圧遷移波形が発生している。
【0094】
<調整駆動波形>
図12は、電圧遷移期間中に1回の途中電圧保持期間を含む駆動波形と制御信号の対応を示すグラフである。
図12の駆動波形は、傾斜切替伝送部124内の除算器240へ与える、被除数と除数の組み合わせ選択によって、駆動波形の遷移期間中に除算器240からアンダーフローを一度発生させてUF信号をLにした期間に、駆動波形のスルーレートが階段状に変化した波形を示している。
【0095】
図12の駆動波形では、途中電圧保持期間を設けることで遷移に要する時間が増え、
図11の基本波形よりも、電圧遷移期間におけるスルーレートが緩やかになる。
【0096】
なお、
図12~
図14ではスルーレートは、はっきりと階段状にかつ直線的に変化している例を示したが、実際の圧電素子85nへ供給する駆動信号VOUTnでは、CR成分によるフィルター効果により滑らかな波形となる。
【0097】
図13は、電圧遷移期間中に2回の途中電圧保持期間を含む駆動波形と制御信号の対応を示すグラフである。
図13の駆動波形は、傾斜切替伝送部124内の除算器240へ与える、被除数と除数の組み合わせ選択によって、駆動波形の遷移期間中に除算器240からアンダーフローを2度発生させることで生成している。アンダーフローの回数を増やすことで、駆動波形のスルーレートがさらに緩やかになる。
【0098】
図14は、電圧遷移期間中に4回の途中電圧保持期間を含む駆動波形と制御信号の対応を示すグラフである。
図14の駆動波形は、傾斜切替伝送部124内の除算器240へ与える、被除数と除数の組み合わせ選択によって、駆動波形の遷移期間中に除算器240からアンダーフローを4度発生させることで生成している。アンダーフローの回数を増やすことで、駆動波形のスルーレートがさらに緩やかになる。
【0099】
<除算テーブル>
図15は、本発明における傾斜切替伝送部124内の除算器240で用いる除算テーブルを示す図である。
【0100】
各数値には、被除数÷除数の1の補数(1-(被除数÷除数))を示しており、小数の値は、アンダーフロー信号(UF信号)により間引きされた後の駆動波形が駆動素子を駆動する時間の割合(スルーレート)を示している。なお、
図15の表で暗く示す、負の数、および、ゼロの組み合わせは推奨しない。
【0101】
例えば、被除数2、除数10を選択した結果の0.800は、スルーレート傾斜が80%となる駆動波形が出力されることを示している。
【0102】
なお、割合を厳密に計算しなくてもよく、例えば10%単位のスルーレートとなる組合せを表から選択することが可能である。なお、目的の割合に近い組合せが複数ある場合は任意に選択してよい。
【0103】
また、圧電素子85nへ直結する傾斜切替選択部134のPチャンネルMOSトランジスタ43の電気的特性と、NチャンネルMOSトランジスタ44の電気的特性は、半導体製造工程のバラツキに依存して変動する。よって、上述のスルーレートが変動することにより、記録ヘッド81K内のノズルのインク吐出性能の個体差を生じることになる。
【0104】
この個体差は、出力信号観測部140によって、計測することが可能となり、期待するトランジスタ43、44の駆動能力を1とした場合の特定個体のトランジスタ駆動能力比率Rを算出することで、駆動波形の個体バラツキを抑えることができる。
【0105】
トランジスタ駆動能力の個体差を補正するには、
図15の各数値に対して、駆動能力比率Rを乗じることで得られる数値から、例えば10%単位に最も近い除数、被除数の組み合わせを選択することで実現できる。
【0106】
演算処理を簡略化し回路規模を削減するために、Rを乗じる乗算器でなく、(R-(被除数÷除数))といった加減算器によって代用することでも、同様の補正効果が期待することができる。
【0107】
<実際の駆動波形の調整例>
図16は、本発明の制御信号と駆動波形のスルーレート調整の例を示すタイミングチャートである。
【0108】
図16の左側の周期「Cycle N」では、駆動波形を含む出力電圧VOUTnは、基準電圧V1レベルから始まり、期間Td1経過後、f1の期間に設定された除数・被除数の組み合わせにより決定されたS3信号のスルーレートによりV3レベルまで立ち下がる。
【0109】
続くS2信号のスルーレートr1,r2の期間に設定される二組の除数・被除数によって、駆動波形の出力電圧VOUTnは、二段階のスルーレートを経てV3からV4レベルまで立ち上がる。立ち上がり/立ち下がり時の駆動波形の遷移は、ひとつのスルーレートでも、二つ以上の複数のスルーレートの組み合わせで実現してもよい。
【0110】
S2およびS3信号がどちらもアサートされない期間は、出力電圧VOUTnはハイインピーダンス(Hi-Z)状態となる。これにより、圧電素子85nへ入力される出力電圧VOUTnに対する電位の充電(チャージ)、放電(ディスチャージ)が停止することから、S2信号およびS3信号がネゲートされる直前の電位を維持する、途中電圧保持期間となる。
【0111】
また、出力電圧VOUTnの信号経路上で漏れ電流(リーク電流)が異常に大きく発生すると、インク吐出機能に障害が起きるリスクがあるため、1周期内で駆動波形印加後に、S1信号によって出力電圧VOUTnへ基準電位のV1レベルを供給する。これにより、一連の駆動波形の開始時刻に、出力電圧VOUTnの電位をV1レベルへ統一することができるため、障害リスクを低減することと同時に、駆動波形の変動要因も減らすことができ、安定した駆動波形を生成することができる。
【0112】
図16の右側の周期「Cycle N+1」では、駆動波形の出力電圧VOUTnは、期間Td2経過後、S2信号のスルーレートr3,r2によって、前サイクルとは異なるスルーレートでV3からV4レベルまで立ち上がることを示している。
【0113】
さらに、基準周期クロック信号TCKを基準とした位相制御によって、駆動波形の開示時刻を制御する手段と、スルーレート制御を組み合わせて、インク滴の吐出速度や吐出開始時刻を、ノズル個別に制御可能となる。
【0114】
このように、本発明では、圧電素子へ出力する電圧信号を、所望の電圧傾斜割合(スルーレート)に応じて、駆動のON/OFFを切り替えることにより吐出信号を変化させることで、従来のインクジェットドライバーICの半導体デバイス上で多くの領域を必要としていたアナログスイッチ数を減らすことができる。さらに、ノズル毎に個別の駆動波形の立ち上がり/立ち下がりのスルーレート制御の自由度を向上させることができる。
【0115】
さらに、このような制御では、ドライバーIC内で、DACやAMPによって大きな電力を発生させることなく、ノズル毎の特性に応じた駆動波形を生成し、複数のノズル間の吐出速度のバラツキを抑制できる。その結果、記録媒体M上での着滴位置バラツキを抑制できる。
【0116】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の実施形態の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0117】
8 インクジェット記録モジュール(液滴吐出装置)
81K、81C、81M、81Y 記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)
82 ノズル
83 液室
85 圧電素子
100 ドライバーIC
110 出力電圧制御部
120 出力波形制御部
124 傾斜切替伝送部
130 出力波形生成部
134 傾斜切替選択部
140 出力信号観測部
200 ヘッド制御ボード(上位制御基板)
240 除算器
M 記録媒体(用紙)
α 波形生成回路(波形生成部)
SL 選択信号
EN イネーブル信号
UF アンダーフロー信号
V1 基準電位
V2 底辺電位
VH 高電圧電位
GND 接地電位
【先行技術文献】
【特許文献】
【0118】
【特許文献1】特開2016-124245号公報
【特許文献2】特開平11-342602号公報