(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143858
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】分析方法、分析試料作製方法および分析用治具
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20230928BHJP
G01N 1/42 20060101ALI20230928BHJP
G01N 1/32 20060101ALI20230928BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20230928BHJP
H01J 37/31 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01N1/28 F
G01N1/28 W
G01N1/42
G01N1/32
G01N1/28 G
H01J37/20 A
H01J37/20 E
H01J37/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046358
(22)【出願日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2022048442
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 悟
【テーマコード(参考)】
2G052
5C101
【Fターム(参考)】
2G052AA24
2G052AA40
2G052AD14
2G052AD34
2G052AD52
2G052CA03
2G052CA04
2G052CA05
2G052CA48
2G052DA05
2G052DA22
2G052DA23
2G052DA33
2G052EB08
2G052EB13
2G052EC14
2G052EC18
2G052GA35
2G052JA04
2G052JA05
2G052JA07
2G052JA08
2G052JA22
5C101AA32
5C101FF05
5C101FF09
5C101FF16
5C101FF22
5C101FF47
5C101FF49
(57)【要約】
【課題】本発明は、凍結した試料が試料台から剥がれ落ちにくく、試料を安定して分析可能な分析方法を提供する。
【解決手段】本発明は、液体を含む試料を走査型電子顕微鏡で観察するための分析方法において、試料台に少なくとも一部が固定されたメッシュ上に、前記試料を載せる工程と、前記試料を凍結する温度以下に冷却して凍結試料を調整する工程と、前記凍結試料に収束イオンビームを照射し、走査型電子顕微鏡で観察するための前記凍結試料の断面を表出させる工程と、を有する分析方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を含む試料を走査型電子顕微鏡で観察するための分析方法において、
試料台に少なくとも一部が固定されたメッシュ上に、前記試料を載せる工程と、
前記試料を凍結する温度以下に冷却して凍結試料を調整する工程と、
前記凍結試料に収束イオンビームを照射し、前記走査型電子顕微鏡で観察するための前記凍結試料の断面を表出させる工程と、を有する分析方法。
【請求項2】
前記試料を載せる工程では、前記試料台に設置した固定用シートに、前記メッシュの少なくとも一部が接するように前記メッシュを配置して固定する請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記固定用シートはカーボンテープである請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記メッシュは、前記試料台の上側の主面に対し、傾斜をもって配置されている、請求項1に記載の分析方法。
【請求項5】
前記凍結試料の断面を表出させる工程では、前記凍結試料の外周部に前記収束イオンビームを照射する、請求項1に記載の分析方法。
【請求項6】
液体を含む試料を走査型電子顕微鏡で観察する分析方法に用いる分析試料を作製する方法において、
試料台に少なくとも一部が固定されたメッシュ上に、前記試料を載せる工程と、
前記試料を凍結する温度以下に冷却して凍結試料を調整する工程と、を有する分析試料作製方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の前記液体を含む前記試料の分析方法に用いる治具であり、
前記試料台と、
前記試料台に少なくとも一部が固定されている前記メッシュと、を備える分析用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を含む試料を走査型電子顕微鏡で観察するための分析方法、分析試料作製方法および分析用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を含む試料を観察する方法として、試料を冷却して急速凍結(クライオ加工)した後に走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで、構造観察を可能にする方法が知られている。液体を含む試料では、特に水や油を含む場合、走査型電子顕微鏡で観察する際、試料から水や油が気化して形状が変化しやすいことから、クライオ加工等の手法が採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、急速凍結した試料を収束イオンビーム(FIB)により加工し、凍結した試料の断面を走査型電子顕微鏡で分析する方法が利用されている。クライオ加工後にFIB加工することにより、液体状の流動性を有する試料に関しても、所望の断面を表出させて観察することができ、液体状態における内容物の分散性等を確認できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記方法では、試料の凍結中または凍結後等において、試料台から試料が剥がれ落ち、FIB加工や走査型電子顕微鏡による観察ができない場合があった。そこで本発明は、凍結した試料が試料台から剥がれ落ちにくく、試料を安定して分析可能な分析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、
液体を含む試料を走査型電子顕微鏡で観察するための分析方法において、
試料台に少なくとも一部が固定されたメッシュ上に、前記試料を載せる工程と、
前記試料を凍結する温度以下に冷却して凍結試料を調整する工程と、
前記凍結試料に収束イオンビームを照射し、走査型電子顕微鏡で観察するための前記凍結試料の断面を表出させる工程と、を有する分析方法である。
【0007】
本発明の第2の態様は、
前記試料を載せる工程では、前記試料台に設置した固定用シートに、前記メッシュの少なくとも一部が接するようにメッシュを配置して固定する第1の態様に記載の分析方法である。
【0008】
本発明の第3の態様は、
前記固定用シートはカーボンテープである第2の態様に記載の分析方法である。
【0009】
本発明の第4の態様は、
前記メッシュは、前記試料台の上側の主面に対し、傾斜をもって配置されている、第1の態様に記載の分析方法である。
【0010】
本発明の第5の態様は、
前記凍結試料の断面を表出させる工程では、前記凍結試料の外周部に前記収束イオンビームを照射する、第1の態様に記載の分析方法である。
【0011】
本発明の第6の態様は、
液体を含む試料を走査型電子顕微鏡で観察する分析方法に用いる分析試料を作製する方法において、
試料台に少なくとも一部が固定されたメッシュ上に、前記試料を載せる工程と、
前記試料を凍結する温度以下に冷却して凍結試料を調整する工程と、を有する分析試料作製方法である。
【0012】
本発明の第7の態様は、
第1の態様から第5の態様のいずれかに1つに記載の液体を含む試料の分析方法に用いる治具であり、
試料台と、
前記試料台に少なくとも一部が固定されているメッシュと、を備える分析用治具である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液体を含む試料を凍結して走査型電子顕微鏡で観察するための分析方法において、凍結した試料が試料台から剥離しにくい方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一態様にかかる分析方法において、メッシュに試料を載せる工程の概略図である。
【
図2】本開示の一態様にかかる分析方法において、メッシュ上に載せた試料を示す概略図である。
【
図4】試料台にメッシュを固定する様子の一例を示す図である。
【
図5】試料台にメッシュを固定する様子の一例を断面図で示す図である。
【
図6】FIB-SEM複合装置の一例を示す概略図である。
【
図7】メッシュ上に載せた試料の状態を平面視で示す図、および部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様について
図1から
図7を参照しながら説明する。
【0016】
(1)分析用試料の作製方法
本開示における分析方法では、
試料台に固定されたメッシュの上に試料を載せる工程(工程A)と、
試料を冷却して凍結試料を調整する工程(工程B)と、
収束イオンビームを照射して凍結試料の断面を表出させる工程(工程C)と、を行う。
【0017】
(工程A:メッシュの上に試料を載せる工程)
工程Aでは、
図1のように、試料台10に固定されたメッシュ22上に、液体を含む試料23を載せる。まず、試料23を観察するための試料台10を用意する。試料台10としては、走査型電子顕微鏡における観察に利用できる任意の試料台10を利用してよい。試料台10の材質は、アルミ製、真鍮製、カーボン製等の任意のものを使用してよく、好ましくは、アルミ製を使用する。試料台10の形状は、走査型電子顕微鏡観察に用いられている公知のものでよく、例えば円柱状等のものを利用できる。
【0018】
試料23は、金属ペースト等、粘性を有していることが好ましい。これにより、メッシュ22上で、試料23が液滴の形状を保ちやすくなる。試料23の粘度は、メッシュ22上で液滴の形状を保つことができる程度であればよく、具体的には、20Pa・s以上60Pa・s以下が例示される。
【0019】
図2に示すように、試料台10に固定されたメッシュ22上に載せた試料23は、メッシュ22に対して垂直方向における試料23の厚みTが、試料23の種類に応じて好適な厚みをもつように配置することが好ましい。
【0020】
本開示におけるメッシュ22としては、
図3に示すように、貫通孔22Hが複数形成されているものを使用できる。貫通孔22Hは、メッシュ22において、網状に配置されていることが好ましい。例えば、
図3のように、メッシュ22として、網部22Mを規則的に配置することにより、貫通孔22Hが網目状に複数形成されたものを使用できる。
【0021】
メッシュ22は好ましくは金属製のシートである。メッシュ22の材質は、特に限定されず、例えば、銅、モリブデン、ステンレス、白金等の材質からなるものを使用できる。メッシュ22は、好ましくは、モリブデンからなるものを使用できる。メッシュ22の外形の形状(枠の形状)は限定されず、任意の形状であってよい。好ましくは、メッシュ22の外形は円形状である。
【0022】
貫通孔22Hは、シート状のメッシュ22において、2つの主面をつなぐ厚み方向に形成されている。貫通孔22Hの形状は、種々の形状であってよい。例えば、貫通孔22Hの形状は、円形、正方形、長方形、または、細長いスリット状の形状であってよい。例えば、
図3におけるメッシュ22は、複数の正方形の貫通孔22Hを有している。貫通孔22Hの大きさは、観察対象とする試料23の粘度等に応じて、後述するメッシュに試料を載せる工程で、試料がメッシュ上に留まりやすいものを適宜選択してよい。また、
図3のように、メッシュ22の端部付近に、形状が正方形でない貫通孔22Hが存在する場合も、本開示におけるメッシュ22として、網状に配置された貫通孔22Hを有するものに含まれる。
【0023】
以上説明したメッシュ22は、少なくとも一部が試料台10に固定された状態で設置される。メッシュ22は、任意の方法で試料台10に固定してよい。また、試料台10に対し、メッシュ22の少なくとも一部が固定されていればよく、メッシュ22の複数の個所が試料台10に固定されていても良い。このように試料台10と、この試料台10に少なくとも一部が固定されているメッシュ22と、を備える分析用治具は、本態様の分析方法に用いるために好適である。
【0024】
また、
図4に示すように、試料台10に設置した固定用シート21に、前記メッシュ22の少なくとも一部が接するように配置して固定することが好ましい。また、固定用シート21は、メッシュ22に対して非対称に配置してもよい。例えば、
図4に示すように、固定用シート21を、円形のシート状であるメッシュ22に対し、メッシュ22の外縁上の一部分のみに接するように配置する等の方法が挙げられる。
【0025】
固定用シート21としては、走査型電子顕微鏡の試料観察に使用される任意のテープを使用してよい。例えば、固定用シート21として、カーボンテープ、アルミ箔テープ、銅箔テープ、布テープ等を使用してよい。固定用シート21は、好ましくはカーボンテープである。カーボンテープを用いる場合、メッシュ22を固定できる範囲内で、カーボンテープの使用面積は小さい方が好ましい。
【0026】
以上の方法により、
図1のように、試料台10に固定されたメッシュ22上に試料23を配置する。例えば、プローブ24を用いて、試料23を垂らすようにメッシュ22上に載せることができる。試料23は、メッシュ22の中央付近に接するように載せることが好ましい。試料23が、メッシュ22の外形(枠)から、はみ出さないように載せることが好ましい。
【0027】
以上の方法により、メッシュ22上に載せた試料23を観察した場合の断面の模式図を
図5に示している。メッシュ22は、試料台10上の固定用シート21と接する部分(
図5における図に向かって左側)において、他の部分よりも試料台10と間隔を空けて配置されている。すなわち、メッシュ22は、試料台10の上側の主面に対し、固定用シート21の厚みに応じて、傾斜をもって配置されている。
【0028】
上述のように、メッシュ22は、試料台10の上側の主面に対し、傾斜をもって配置されていることが好ましい。これにより、
図5に示すように、試料台10と試料23との間に、隙間25を設けることができる。隙間25を設けることで、後述の工程Bにおいて、試料23を凍結する際、ひび割れ等の発生を抑制することができる。メッシュ22の傾斜角は、特に限定されないが、試料23がメッシュ22からはみ出さない程度の角度(例えば、0度超10度以下)であればよい。
【0029】
本態様では、固定用シート21の厚みを利用して、メッシュ22が傾斜をもって配置されるようにしたが、固定用シート21とは別に、試料台10上に傾斜用スペーサーを配置し、傾斜用スペーサー上にメッシュ22の外周部を配置することで、メッシュ22が傾斜をもって配置されるようにしてもよい。本態様では、
図5に示すように、試料台10上に固定用シート21を貼り付け、固定用シート21上にメッシュ22の外周部を貼り付けているため、固定用シート21が傾斜用スペーサーの役割を兼ねていると言える。
【0030】
(工程B:試料を冷却して凍結試料を調整する工程)
以上の工程Aでメッシュ22上に試料23を載せた後、試料23を冷却して凍結試料を調整する。試料23を凍結する方法としては、試料23の種類に応じて、試料内部まで凍結することが可能な任意の方法を利用してよい。例えば、試料23を冷却するために、液体窒素等の冷媒を外部容器等に入れ、その中へ試料23を載せた試料台10を入れ、試料23を浸して急速冷凍する方法等を利用してよい。また、試料23を急速冷凍させる容器と、後述する走査型電子顕微鏡の観察装置とが、一体型として同一装置内に配置された装置を使用してもよい。
【0031】
以上説明した、メッシュ22の上に試料23を載せる工程(工程A)と、試料23を冷却して凍結試料を調整する工程(工程B)によって、本態様の分析方法に用いるための分析試料を作製できる。
【0032】
(工程C:収束イオンビームを照射して断面を表出させる工程)
以上の工程Bで凍結試料を調整した後、収束イオンビーム(FIB)を照射して試料23の断面23cを表出させる加工を行う。収束イオンビームとしては、周知のイオンビームを利用してよく、好ましくは、ガリウム(Ga)イオンビーム等を使用する。ガリウムイオン等を試料表面に照射すると、ガリウムと共に試料表面を構成している原子や分子が真空中にはじき出され、スパッタリング現象を生じ、試料23の断面23cを表出させることができる。
【0033】
そして、上記により表出させた試料23の断面23cは、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する。ここで、本態様における分析方法では、収束イオンビームを照射する装置と、走査型電子顕微鏡とが、一体型となった複合装置(FIB-SEM複合装置)を用いて分析してもよい。収束イオンビームにより試料23の断面23cを表出させる加工と、走査型電子顕微鏡による断面観察とは、交互に繰り返して行ってもよく、加工と観察を同時に行ってもよい。
【0034】
FIB-SEM複合装置を用いる場合、収束イオンビームを照射する装置(FIB)と、走査型電子顕微鏡(SEM)とが、任意の角度で配置されたものを使用してよく、配置する角度は特に限定されない。例えば、
図6に示すように、FIB-SEM複合装置として、SEM32に対して、FIB31が角度θ傾けて配置されたものを本発明の分析方法に使用してもよい。
図6において、試料23はFIB31に対して、試料表面23fが垂直方向になるように配置されている。FIB31によって試料23に収束イオンビームを照射することにより、試料23の断面23cが表出する。そして、SEM32によって、表出した試料の断面23cの視野範囲Vを観察する。以上は、FIB-SEM複合装置の一例であり、FIB31とSEM32の角度θが50°以上60°以下の場合について説明したが、例えば角度θが90°(垂直)であってもよい。
【0035】
図5に示すように、FIB31が収束イオンビームを照射する位置は、試料23の外周部(R形状を有する位置)であることが好ましく、固定用シート21(傾斜用スペーサー)が配置されている位置とは反対側の外周部(
図5、
図7で示す位置P)であることがより好ましい。本態様では、メッシュ22上で試料23を凍結させているため、試料23は凍結状態でも液滴形状が保たれており、外周部はR形状を有している。このような位置に収束イオンビームを照射することで、試料23の断面出しを容易に行うことができる。また、固定用シート21(傾斜用スペーサー)が配置されている位置とは反対側の外周部は、試料台10に試料23が接しており、冷却されやすいため、収束イオンビームを照射した際にきれいな断面23cを出しやすくなる。
【0036】
(2)試料
本態様では、液体を含む試料を観察対象とする。観察対象は、水、油、または有機溶媒等の液体を含むものであれば、特に限定されず、各種ペースト、塗料、食品等を観察対象としてもよい。本態様の分析方法は、例えば、液体中に特定の粒子を含む試料を観察対象として、液体中における試料の分散状態を確認するために利用できる。例えば、水または有機溶剤に金属粒子が分散した金属ペースト等を観察対象として、ペースト中における金属粒子の分散状態を観察対象としてもよい。ここで、工程Aにおいて、メッシュ22に形成されている貫通孔22Hについて説明したが、上記した試料中に含まれる溶媒の種類、粒子の種類または大きさ、試料の粘度等に応じて、貫通孔22Hの大きさとして好適なものを適宜選択してよい。
【0037】
(3)効果
本態様によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0038】
(a)従来の分析方法では、試料23を急速冷凍する際に、試料台10から試料23が剥がれ落ちること、または、収束イオンビームによる加工時に試料23が剥がれ落ちることがあった。特に、試料台10に乗せた試料23を、液体窒素等の冷媒中に浸して急速冷凍する方法では、凍結時に試料23から気泡が発生することがあり、その際に特に試料台10から試料23が剥がれやすい傾向にあった。
【0039】
これに対し、本態様の分析方法では、少なくとも一部が固定されたメッシュ22上に、試料23を載せて凍結試料を調整することにより、試料23が剥がれにくいものとなる。
【0040】
(b)本態様は、液体中に特定の粒子を含む試料23を分析する場合に、粒子が液体中に分散している状況等を観察するために適した分析方法である。メッシュ22上に試料23を載せることにより、
図2に示すように、試料23をある程度の厚みTを有するように配置できる。このため、試料23を凍結させて、収束イオンビームで厚みT方向の断面を表出させて観察する場合に、粒子の分散状況を観察するために十分な視野範囲を確保しやすい。
【0041】
(c)
図7に示すように、メッシュ22に載せた試料23が、メッシュ22の網部22Mで形成されている貫通孔22Hに入り込むように(貫通孔22Hに試料23が満たされるように)配置されていると、凍結時に試料23が特に剥がれにくい傾向になる。試料23に含まれる溶媒の種類、粒子の種類または大きさ、試料の粘度等に応じて、メッシュ22の貫通孔22Hのサイズとして適宜なものを選択することにより、上記したような試料23が貫通孔22Hに入り込みやすい状況で分析できる。
【0042】
<他の態様>
以上、本開示の態様を具体的に説明した。但し、本開示は上述の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0043】
例えば、凍結試料を調整する工程において、液体窒素等の冷媒中に試料23を載せた試料台10を入れる方法について説明したが、これに限定されない。例えば、メッシュ22を固定した試料台10を予め冷却しておき、その上に試料23を載せる方法であってもよい。
【0044】
収束イオンビームを照射する装置と、走査型電子顕微鏡とが、一体型となった複合装置について説明したが、これに限定されない。例えば、各装置は別々の異なる装置であってよく、その場合には、収束イオンビームにより試料23の断面23cを表出させる加工を行った後に、走査型電子顕微鏡による断面観察を行うことができる。
【0045】
また、液体を含む試料23として、各種ペースト、塗料、食品等を例示したが、これに限定されない。観察対象の試料23は、例えば、生物試料等であってもよい。
【実施例0046】
以下、実験例1から実験例3を参照しながら本態様についてより具体的に説明する。
【0047】
<実験例1>
まず、アルミ製で円柱状(直径10mm、厚さ約8mm)の試料台を準備した。その上に、略矩形状に裁断したカーボンテープ(日新EM株式会社製、SEM用カーボン両面テープ(アルミ基材))を貼付した。
【0048】
上記カーボンテープ上にメッシュ(応研商事、50-Aメッシュ)を配置した。メッシュとしては、正方形の貫通孔が形成されており、貫通孔の一辺の長さが450μm(メッシュの枠の直径:3mm、メッシュの厚み:15μm、材質:モリブデン、貫通孔のピッチ:500μm、網部の径(バー):50μm)のものを使用した。メッシュは、
図4のように、カーボンテープの一部のみに、メッシュの外縁の一部が接するように配置した。
【0049】
そして、観察対象である試料として、金属ペーストを用いた。この金属ペーストを、上記で試料台に固定したメッシュ上に、プローブで滴下した。このとき、メッシュ上に載せた試料の厚みの一番厚い部分は、およそ20μm程度であった。
【0050】
メッシュ上に載せた試料は、試料台ごとクライオ加工装置(Quorum製、PP3010T)を用いて、液体窒素中に浸し、凍結試料を準備した。
【0051】
その後、収束イオンビームを照射する装置と走査型電子顕微鏡との複合装置(FEI製、Scios)により、上記で凍結させた試料の断面の表出と、断面観察を同時に行った。
【0052】
<実験例2>
実験例1において用いたメッシュに代えて、貫通孔の一辺の長さが117μmである150-Aメッシュ(応研商事、メッシュの枠の直径:3mm、メッシュの厚み:15μm、材質:モリブデン、貫通孔のピッチ:167μm、網部の径:50μm)を用いて分析を行った。メッシュ以外の条件は、全て実験例1と同様にした。
【0053】
<実験例3>
実施例1において用いたメッシュに代えて、貫通孔が円形で1つのみであり、貫通孔の直径が0.8mmの単孔φ0.8mmの金属シート(応研商事、シートの直径:3mm、シートの厚み:15μm、材質:モリブデン、単孔)を用いて分析を行った。金属シート以外の条件は、全て実験例1と同様にした。
【0054】
以上の結果、上記の金属ペーストを試料として分析する場合には、実験例1におけるメッシュを用いることで、凍結試料を調整する際において、試料が全く剥がれることなく分析することができた。実験例2のメッシュを用いた場合、凍結試料の断面観察を行うことは可能であったものの、凍結試料を調整する際に試料の一部に剥離がみられた。一方、実験例3のように単孔の金属シートを用いた場合、凍結試料を調整する際に、試料がメッシュより剥離し、断面観察を行うことができなかった。