(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144067
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット、グラニュラ膜および垂直磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
C23C14/34 A
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132703
(22)【出願日】2023-08-16
(62)【分割の表示】P 2019555707の分割
【原出願日】2019-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2018150677
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】清水 正義
(72)【発明者】
【氏名】増田 愛美
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】小庄 孝志
(57)【要約】
【課題】磁性粒子の結晶配向及び磁性粒子の分離性を向上させることのできるスパッタリ
ングターゲット、グラニュラ膜および垂直磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】Biを0.05at%以上かつ10at%以下含有し、金属酸化物としてTiO2を含み、金属酸化物の合計含有量が10vol%~70vol%であり、残部に少なくともRuを40mol%以上含んでなるスパッタリングターゲットである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Biを0.05at%以上かつ10at%以下含有し、金属酸化物としてTiO2を含み、金属酸化物の合計含有量が10vol%~70vol%であり、残部に少なくともRuを40mol%以上含んでなるスパッタリングターゲット。
【請求項2】
Coを含んでなる請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
Biの一部または全部を金属酸化物として含有してなる請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
Biを0.5at%以上含有してなる請求項1~3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記金属酸化物が、Co、Cr、Si、B及びTaからなる群から選択される少なくとも一種の元素の酸化物を更に含んでなる請求項1~4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
さらに、Pt、Au、Ag、B、Cu、Cr、Ge、Ir、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ta、W及びVからなる群から選択される一種以上を、0.5at%~30at%含有してなる請求項1~5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
Biを0.05at%以上含有し、かつ10at%以下含有し、金属酸化物としてTiO2を含み、金属酸化物の合計含有量が10vol%~70vol%であり、残部に少なくともRuを40mol%以上含むグラニュラ膜。
【請求項8】
Coを含んでなる請求項7に記載のグラニュラ膜。
【請求項9】
Biの一部または全部を金属酸化物として含有してなる請求項7又は8に記載のグラニュラ膜。
【請求項10】
Biを0.5at%以上含有してなる請求項7~9のいずれか一項に記載のグラニュラ膜。
【請求項11】
前記金属酸化物が、Co、Cr、Si、B及びTaからなる群から選択される少なくとも一種の元素の酸化物を含んでなる請求項7~10のいずれか一項に記載のグラニュラ膜。
【請求項12】
さらに、Pt、Au、Ag、B、Cu、Cr、Ge、Ir、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ta、W及びVからなる群から選択される一種以上を、0.5at%~30at%含有してなる請求項7~11のいずれか一項に記載のグラニュラ膜。
【請求項13】
請求項7~12のいずれか一項に記載のグラニュラ膜を備える垂直磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、スパッタリングターゲット、グラニュラ膜および垂直磁気記録媒体に関する技術について開示するものである。
【背景技術】
【0002】
記録面に対して垂直方向に磁気を記録する垂直磁気記録媒体等の磁気記録媒体は、上部記録層及び下部記録層を含む記録層並びにその他の層からなる複数の層で構成されることがある。これらの層はそれぞれ、各層に応じたスパッタリングターゲットを用いて、基板上にスパッタリングすることにより順次に成膜して形成するが、そのなかで、金属相がCoを主成分とした金属からなり酸化物相が所定の金属酸化物を含むスパッタリングターゲットを用いる場合がある。このようなスパッタリングターゲットとしては、特許文献1~4に記載されたもの等がある。
【0003】
ここで、最近の記録層はCoを主体として酸化物を含有した強磁性酸化物層と、Co及びRuまたはRuを主体として酸化物を含有したグラニュラ膜を用いた交換結合制御層とを交互に形成した所謂ECC(Exchange-coupled composite)媒体が用いられている。また、Ruを主体とする中間層と、Coを主体として酸化物を含有した強磁性層を用いた記録層の最下部との間にも、記録層の磁性粒子間の分離を良くするために非磁性でCo及びRuまたはRuを主体として酸化物を含有したグラニュラ膜のオンセット層が用いられている。このような層については、たとえば特許文献1~4に記載されている。これらの交換結合制御層、オンセット層に用いるグラニュラ膜には、その上部に形成される強磁性酸化物層の磁性粒子の高い結晶配向性と良好な磁性粒子間の分離を促す特性が求められる。
ここでいう強磁性酸化物層とは、室温で概ね400emu/cc以上の飽和磁化を有する層であり、交換結合制御層、オンセット層とは、室温で概ね飽和磁化が300emu/cc以下であるものを示す(特許文献3参照)。
【0004】
かかる層は一般に、CoとRuまたはRuを主体として、PtやCr等の非磁性金属を添加したものに、さらにSiO2、TiO2、B2O3等の金属酸化物を添加したスパッタリングターゲットにより形成されている。これは、上部に形成する強磁性酸化物層のCoPt磁性粒の結晶配向性を良好にしながら、非磁性になるようにできることによるものである。また、SiO2、TiO2、B2O3等の金属酸化物が同時にスパッタリングされ、磁性粒子間に満たされることによりいわゆるグラニュラ構造を形成して、磁性粒子間の交換結合を弱めることで高密度な記録ビットを保持できる記録層としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-009086号公報
【特許文献2】特開2012-053969号公報
【特許文献3】特開2008-176858号公報
【特許文献4】特開2011-123959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したようなCoやRuにSiO2、TiO2、B2O3等の金属酸化物を添加したスパッタリングターゲットでは、さらなる記録密度向上には磁性粒子の分離性が不十分になっている。それ故に、この種のスパッタリングターゲットは更なる改善の余地があるといえる。
【0007】
この明細書は、このような問題を解決するため、磁性粒子の結晶配向及び磁性粒子の分離性を向上させることのできるスパッタリングターゲット、グラニュラ膜および、垂直磁気記録媒体を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この明細書で開示するスパッタリングターゲットは、Biを0.05at%以上含有し、金属酸化物の合計含有量が10vol%~70vol%であり、残部に少なくともRuを含んでなるものである。
【0009】
この明細書で開示するグラニュラ膜は、Biを0.05at%以上含有し、金属酸化物の合計含有量が10vol%~70vol%であり、残部に少なくともRuを含むものである。
この明細書で開示する垂直磁気記録媒体は、上記のグラニュラ膜を備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
上記のスパッタリングターゲットを用いて作製したグラニュラ膜および垂直磁気記録媒体によれば、磁性粒子の結晶配向を維持しながら、磁性粒子の粒子成長を抑え、磁性粒子の粒径分散及び磁性粒子間の分離性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、上述したスパッタリングターゲット、グラニュラ膜および垂直磁気記録媒体の実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態のスパッタリングターゲットは、Biを0.05at%以上含有し、金属酸化物の合計含有量が10vol%~70vol%であり、残部に少なくともRuを含むものである。このようにBiを添加したスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングすることにより、結晶配向性を維持したまま、このスパッタリングによる膜の上部に形成した膜の磁性粒子の分離を良くすることができる。
【0012】
(スパッタリングターゲットの組成)
スパッタリングターゲットの金属成分は、主として、Co及びRuまたは、Ruを含むが、それに加えて、Biを含むことが肝要である。Biを含むことにより、金属粒子の成長を抑制することができる。これにより、上部に形成する記録層の磁性粒子をより小さくすることが容易になる。特に、結晶性を良くするために高い基板温度で成膜した場合に金属粒子のサイズが大きくならず、小さな粒子サイズと結晶性を両立できる。さらに、金属酸化物が粒界に偏析しやすくなるだけでなく、粒界幅の分散が少ない膜を作ることができる。これにより、粒径分散のそろった微細な金属粒子を均一な幅を持った酸化物粒界を介して分散させることができる。その結果、上部に形成する記録層の磁性粒子の粒径分散を小さくでき、また均一な幅を持った酸化物粒界を持った記録層を形成できる。
【0013】
これは、Bi及びBi酸化物自身の融点が低いだけでなく、Bi酸化物が他の主要な酸化物と結合して融点を下げられることと、BiとCoやRuとが合金を作りにくい一方で、CoやRuとBi酸化物との濡れ性が良いことによると考えられる。一般に粒子サイズ分散が大きくなる一因として融点の高い金属酸化物が先に固化してCoやRuを主体とする磁性粒子の成長を妨げることが考えられるが、金属酸化物の融点を下げることで、金属酸化物が移動しやすくなって粒子の成長が妨げられなくなり、粒径サイズ分散が低減することが期待できる。さらに、Bi酸化物とCoやRuとの濡れ性が良いことから酸化物に囲まれた磁性粒子が丸くなることが抑えられ、多角形の磁性粒子の周りに均一な幅の酸化物が形成された膜になることが期待できる。
以上のようなことが考えられるが、このような理論に限定されるものではない。
【0014】
Biの含有量は、Bi当量で0.05at%以上とする。Biは金属成分として、また酸化物成分として含まれることがあるが、金属成分及び酸化物成分の両方の成分として含まれる場合は、上記の含有量はそれらの成分中のBi元素の合計を意味する。
Biの含有量が0.05at%未満である場合は、金属粒子間の空間分離性の改善が十分ではない。一方、Biの含有量が多すぎると、金属粒子のhcp構造が安定しないことが懸念される。そのため、Biの含有量は、0.5at%以上とすることが好ましく、たとえば0.5at%~10at%とすることができる。
Biを添加することの先述した効果より、Biはその一部または全部が金属酸化物として含有されていることが好適である。
【0015】
スパッタリングターゲットは、金属成分として少なくともRuを含む。さらにCoを含むことができる。これは、上部に形成するCoPtと同じhcp結晶構造を持った金属粒子とするためである。なお、Coは含まない場合もある。
【0016】
スパッタリングターゲットの金属成分は、結晶格子定数及び上部層を形成する磁性粒子及び酸化物粒界との濡れ性最適化のため上記のBi及びRu並びに、場合によってはさらにCoの他、必要に応じて、Pt、Au、Ag、B、Cu、Cr、Ge、Ir、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ta、W及びVからなる群から選択される一種以上を、合計0.5at%~30at%含有することができる。
【0017】
スパッタリングターゲットは、一般に上述した金属と金属酸化物を含有する。金属酸化物の合計含有量は、体積率で10vol%~70vol%とする。なお、金属酸化物の合計含有量は1mol%~30mol%とすることができる。本スパッタリングターゲットを用いて形成した膜は、Ruなどのhcp構造を有した膜上に形成すると上述した金属に金属酸化物が分散したグラニュラ構造となる。金属酸化物が少なすぎる場合は、金属粒子の分離が不十分でこれを用いて作製した記録層の磁気クラスタサイズが大きくなる可能性がある。一方、金属酸化物が多すぎる場合は、金属粒子の割合が少なく上部に形成する磁性粒子の結晶性が低下してしまい上部に形成する磁性粒子が十分な飽和磁化および磁気異方性を得られず、再生信号強度や熱安定性が不十分となることがある。
【0018】
酸化物体積率は、スパッタリングターゲットに含まれる各成分の密度、分子量から計算によって求めることもできるが、スパッタリングターゲットの任意の切断面における、酸化物相の面積比率から求めることもできる。この場合、スパッタリングターゲット中の酸化物相の体積比率は、切断面での面積比率とすることができる。
【0019】
上記の金属酸化物として具体的には、Co、Cr、Si、Ti、B、Taの酸化物を挙げることができる。したがって、スパッタリングターゲットは、Co、Cr、Si、Ti、B及びTaからなる群から選択される少なくとも一種の元素の酸化物を含んでもよい。このような金属酸化物としては、たとえば、SiO2、TiO2、B2O3等を挙げることができる。
【0020】
なかでも、Tiの酸化物を含む場合は、金属粒子の分離性が良くなることから、スパッタリングターゲットは、TiO2等のTiの酸化物を含むことが好適である。
また、Si及びBの酸化物は酸化物層を非晶質化することができ均一な幅と金属粒子の形状に沿った粒界形成に寄与するため、スパッタリングターゲットには、SiO2またはB2O3のいずれかの酸化物を含むことが好適である。
【0021】
さらに、Biが酸化物の形態でターゲットに存在してもよい。つまり、上記の金属酸化物にはBiが含まれることがある。Biの酸化物は他の金属酸化物と複合酸化物を形成して融点を下げ、ターゲットの焼結性を向上することが期待できる。また、スパッタ膜の状態でも酸化物の粒径への偏折を促進することが期待できる。さらに、Biの一部または全部を酸化物として安定に保つためにCoの酸化物を含むことが好適である。
【0022】
(スパッタリングターゲットの製造方法)
以上に述べたスパッタリングターゲットは、たとえば粉末焼結法により製造することができ、その具体的な製造方法の例を次に述べる。
【0023】
はじめに、金属粉末として、Bi粉末と、Ru粉末と、場合によってはCo粉末と、さらに必要に応じて、Pt、Au、Ag、B、Cu、Cr、Ge、Ir、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ta、W及びVからなる群から選択される一種以上の粉末とを用意する。
【0024】
金属粉末は、単元素のみならず合金の粉末であってもよく、その粒径が1μm~150μmの範囲内のものであることが、均一な混合を可能にして偏析と粗大結晶化を防止できる点で好ましい。金属粉末の粒径が150μmより大きい場合は、後述の酸化物粒子が均一に分散しないことがあり、また、1μmより小さい場合は、金属粉末の酸化の影響でスパッタリングターゲットが所望の組成から外れたものになるおそれがある。
【0025】
また、酸化物粉末として、たとえば、TiO2粉末、SiO2粉末、Bi2O3及び/又はB2O3粉末等を用意する。酸化物粉末は粒径が1μm~30μmの範囲のものとすることが好ましい。それにより、上記の金属粉末と混合して加圧焼結した際に、金属相中に酸化物粒子をより均一に分散させることができる。酸化物粉末の粒径が30μmより大きい場合は、加圧焼結後に粗大な酸化物粒子が生じることがあり、この一方で、1μmより小さい場合は、酸化物粉末同士の凝集が生じることがある。
【0026】
次いで、上記の金属粉末及び酸化物粉末を、所望の組成になるように秤量し、ボールミル等の公知の手法を用いて混合するとともに粉砕する。このとき、混合・粉砕に用いる容器の内部を不活性ガスで充満させて、原料粉末の酸化をできる限り抑制することが望ましい。これにより、所定の金属粉末と酸化物粉末とが均一に混合した混合粉末を得ることができる。
【0027】
その後、このようにして得られた混合粉末を、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気下で加圧して焼結させ、円盤状等の所定の形状に成型する。ここでは、ホットプレス焼結法、熱間静水圧焼結法、プラズマ放電焼結法等の様々な加圧焼結方法を使用することができる。なかでも、熱間静水圧焼結法は焼結体の密度向上の観点から有効である。
【0028】
焼結時の保持温度は、好ましくは600~1500℃の温度範囲とし、より好ましくは700℃~1400℃とする。そして、この範囲の温度に保持する時間は、1時間以上とすることが好適である。
また焼結時の加圧力は、好ましくは10MPa以上、より好ましくは20MPa以上とする。
それにより、金属相中に酸化物粒子をより均一に分散させることができる。
【0029】
上記の加圧焼結により得られた焼結体に対し、旋盤等を用いて所望の形状にする切削その他の機械加工を施すことにより、円盤状等のスパッタリングターゲットを製造することができる。
【0030】
(グラニュラ膜)
先に述べたようなスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング装置、一般にはマグネトロンスパッタリング装置にてスパッタリングを行うことにより、非磁性酸化層の構造を有するグラニュラ膜を成膜することができる。
【0031】
このような非磁性酸化層になるグラニュラ膜は、上述のスパッタリングターゲットと実質的に同様の組成を有するものとなる。
より詳細には、グラニュラ膜は、Biを0.05at%以上、好ましくは0.5at%以上を含有するとともに、Co及びRu、または、Ruを主体とする多数の金属粒子の周りに金属酸化物を合計、10vol%~70vol%で含有する所謂グラニュラ膜である。このグラニュラ膜中の金属酸化物の合計含有量は、1mol%~30mol%とすることができる。Biの添加量は所望の値を得るために調整することができる。Biの添加量を増やすと金属粒子の結晶性が低下するが、これは他の非磁性金属、酸化物量にも依存する。そのため、一概にBiの最大添加量を規定することは難しいが、Biを10at%程度添加すると、Co及びRuを主体とするhcp構造の結晶が劣化する可能性がある。したがって、磁性膜中のBiの含有量は、たとえば0.5at%~10at%とすることができる。Biはその一部または全部が酸化物として含まれることがある。グラニュラ膜とは、金属粒子が分散した構造を有し、金属粒子間に金属酸化物が埋められた膜のことをいう。
【0032】
グラニュラ膜中の金属酸化物には、Co、Cr、Si、Ti、B及びTaからなる群から選択される少なくとも一種の元素の酸化物が含まれることがある。このなかでも、当該金属酸化物として、Ti、Si、Bの酸化物を含むことが好ましい。金属酸化物の合計含有量は、10vol%~70vol%とする。
【0033】
グラニュラ膜は、さらに、Pt、Au、Ag、B、Cu、Cr、Ge、Ir、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ta、W及びVからなる群から選択される一種以上を、合計0.5at%~30at%含有することができる。
【0034】
かかるグラニュラ膜は、種々の用途に用いることができるが、たとえば、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体(すなわち、垂直磁気記録媒体)を構成する基板上の密着層、軟磁性層、Seed層、Ru層などの下地層、中間層、記録層および保護層のうち、中間層及び記録層の一部として用いることが好適である。特に記録層のうち強磁性層となる層の下部に用いることにより強磁性層の磁気異方性と磁性粒子の分離性の改善の両方を助ける役目を担うことができる。具体的には、中間層と記録層の間に設ける最下部の強磁性層の磁性粒子分離性を改善することを目的とするオンセット層や、記録層を構成する複数の強磁性層間に層間の磁気結合を調整するために用いる交換結合制御層に用いるのが好適である。このような層を構成するグラニュラ膜は、飽和磁化が300emu/cc以下であることが好ましい。なお、強磁性層は一般に、室温で概ね400emu/cc以上の飽和磁化を有する。
【0035】
(垂直磁気記録媒体)
垂直磁気記録媒体は、これまでの記録面に対して水平方向に磁気を記録する水平磁気記録方式とは異なり、記録面に対して垂直方向に磁気を記録することから、より高密度の記録が可能であるとして、ハードディスクドライブ等で広く採用されている。垂直磁気記録方式の磁気記録媒体は具体的には、たとえば、アルミニウムやガラス等の基板上に密着層、軟磁性層、Seed層、Ru層などの下地層、中間層、記録層および保護層等を順次に積層して構成される。このうち、上述したスパッタリングターゲットは記録層の最下部に設けるオンセット層の成膜に適している。また記録層は、複数の強磁性酸化物層と非磁性酸化物層を交互に積層したいわゆるECC媒体構造を構成することができる。この場合には、上述したスパッタリングターゲットは、強磁性酸化物層間を構成する非磁性酸化物層の成膜にも適している。
【実施例0036】
次に、上述したスパッタリングターゲットを試作し、その性能を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0037】
実施例としてRu-(Co-Pt-)Bi-酸化物のスパッタリングターゲットと、Ru-(Co-Pt-)Bi2O3-酸化物のスパッタリングターゲットを、また比較例としてRu-(Co-Pt-)酸化物スパッタリングターゲットをそれぞれ作製した。各スパッタリングターゲットの組成を表1に示す。
【0038】
【0039】
これらのスパッタリングターゲットの具体的な製造方法について詳説すると、はじめに、所定の金属粉末及び金属酸化物粉末を秤量し、粉砕媒体のジルコニアボールとともに容量10リットルのボールミルポットに封入して、24時間回転させて混合した。そして、ボールミルから取り出した混合粉末を直径190mmのカーボン製の円柱状の型に充填し、ホットプレスで焼結させた。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度1000℃、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。これにより得られた焼結体を切削し、スパッタリングターゲットとした。
なお原料として、実施例1~7ではBi金属粉末を、実施例8~13ではBi酸化物粉末をそれぞれ使用した。
【0040】
マグネトロンスパッタリング装置(キャノンアネルバ(株)製C-3010)によりガラス基板上にCr-Ti(6nm)、Ni-W(5nm)、Ru(20nm)をこの順序で成膜したものに、上述した各スパッタリングターゲットをAr3.0Pa雰囲気下にて300Wでスパッタリングして膜厚が1nmのグラニュラ膜を成膜した後、強磁性層としてCo-20Pt-3TiO2-3SiO2-3B2O3の磁性膜を11nm成膜し、さらに酸化を防ぐため保護膜としてRu(3nm)成膜して、各層を形成した。比較例7では、Ruの上に直接強磁性層を成膜した。
【0041】
これにより得られた各試料について、飽和磁化Ms、保磁力Hc、磁気異方性Kuを測定した。なお、測定装置については(株)玉川製作所製の試料振動型磁力計(VSM)及び磁気トルク計(TRQ)により測定した。なおここで、この飽和磁化Msは、上記のように強磁性層を含む複数の層を積層させて作製した試料全体の飽和磁化を意味し、グラニュラ膜単独の飽和磁化ではない。
実施例1~13の試料は比較例1~7の試料に比べて、高い磁気異方性を示すことができていることがわかる。実施例の層を設けることにより強磁性層の磁性粒子の結晶性が向上したことを示している。また、比較例1~6と比べて磁気異方性が高いにも関わらず飽和磁化、保磁力がほとんど変わらないことは、強磁性層の磁性粒子のサイズが小さく、また分離性が良くなっていることを示していると考えられる。
【0042】
つぎに日本電子(株)製透過型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光法(TEM-EDX)により得られたTEM像から磁性粒子の平均粒径と粒径分散を求めた。表1に示す通り、Biを添加した場合は、添加していない場合に比べて、磁性粒子の粒径が小さく、粒径分散が概ね小さい傾向があることがわかる。なお通常は、磁性粒子の粒径が小さいと粒径分散が大きくなり結晶性の悪い小さい粒子が増えることによって磁気異方性が低くなるが、実施例1~13では、Biが添加されたことにより、磁性粒子の粒径が小さいにも関わらず粒径分散が小さく比較例よりも磁気異方性が高くなっている。したがって、実施例1~13は、分離性を向上させながら、非磁性膜の金属粒子の結晶性が向上し、これによって上部の強磁性層の磁気特性が維持され又は向上していると考えられる。
【0043】
以上より、実施例1~13のスパッタリングターゲットによれば、非磁性酸化物層の金属粒子の成長が抑制され、且つ金属酸化物の粒界への偏折が均一化するため、粒径が小さく且つ粒径分散が少ない膜を作ることができ、それによって、その上に形成する強磁性層の磁性粒子も成長が抑制されて、粒径分散が小さい膜が形成できることが解った。これにより、平均粒径が小さくて、且つ高い磁気異方性を持った強磁性層を作ることができ、さらに粒径分散が小さく粒子間の分離性も良くすることができることがわかる。