(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144295
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】電気化学的酸素還元触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 31/28 20060101AFI20231003BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20231003BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20231003BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20231003BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20231003BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20231003BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B01J31/28 M
B01J35/10 301J
B01J35/10 301G
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/92
H01M4/90 M
H01M12/06 F
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051204
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】大久保 慶一
(72)【発明者】
【氏名】五百蔵 勉
(72)【発明者】
【氏名】山崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】朝日 将史
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08B
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BB02A
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4G169BC67B
4G169BC75A
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4G169BD01A
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4G169BD04A
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4G169CC32
4G169DA06
4G169EA02X
4G169EB18Y
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4G169EC01Y
5H018EE02
5H018EE03
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5H018EE05
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5H018HH02
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5H032AA01
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5H032HH01
5H032HH04
(57)【要約】
【課題】触媒活性を向上させることができる電気化学的酸素還元触媒を提供する。
【解決手段】酸素還元活性を有する金属粒子と、添加剤と、細孔を有する担体の1次粒子を含み、前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、前記金属粒子は、前記担体に担持され、前記担体の1次粒子の最外表面上に存在する金属粒子を外部粒子とし、前記担体の1次粒子の最外表面よりも内部に存在する金属粒子を内部粒子としたとき、前記内部粒子の総表面積に対する前記外部粒子の総表面積の比(外部粒子の総表面積/内部粒子の総表面積)が0.36以上であることを特徴とする、電気化学的酸素還元触媒。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素還元活性を有する金属粒子と、添加剤と、細孔を有する担体の1次粒子を含み、
前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、
前記金属粒子は、前記担体に担持され、
前記担体の1次粒子の最外表面上に存在する金属粒子を外部粒子とし、前記担体の1次粒子の最外表面よりも内部に存在する金属粒子を内部粒子としたとき、
前記内部粒子の総表面積に対する前記外部粒子の総表面積の比(外部粒子の総表面積/内部粒子の総表面積)が0.36以上であることを特徴とする、電気化学的酸素還元触媒。
【請求項2】
酸素還元活性を有する金属粒子と、添加剤と、細孔を有する担体の1次粒子を含み、
前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、
前記金属粒子は、前記担体に担持され、
前記担体の1次粒子の最外表面上に存在する金属粒子を外部粒子とし、前記担体の1次粒子の最外表面よりも内部に存在する金属粒子を内部粒子としたとき、
前記内部粒子の総粒子数に対する前記外部粒子の総粒子数の比(外部粒子の総粒子数/内部粒子の総粒子数)が0.37以上であることを特徴とする、電気化学的酸素還元触媒。
【請求項3】
酸素還元活性を有する金属粒子と、添加剤と、細孔を有する担体の1次粒子を含み、
前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、
前記金属粒子は、前記担体に担持され、
前記担体の1次粒子の最外表面上に存在する金属粒子を外部粒子とし、前記担体の1次粒子の最外表面よりも内部に存在する金属粒子を内部粒子としたとき、
前記内部粒子の総体積に対する前記外部粒子の総体積の比(外部粒子の総体積/内部粒子の総体積)が0.43以上であることを特徴とする、電気化学的酸素還元触媒。
【請求項4】
前記有機窒素化合物が下記一般式(1)で表されるモノマー、又は、少なくとも一部に当該モノマーを含むポリマーである、請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学的酸素還元触媒。
【化1】
[ 一般式(1)中、R
1、R
2、R
3は、それぞれ、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、又は、炭素数1~10のアルキル基であり、それぞれ、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及び、水素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を有していてもよい。]
【請求項5】
前記金属粒子は、白金粒子、白金合金粒子、及び、白金を含む複合粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の電気化学的酸素還元触媒。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の電気化学的酸素還元触媒とイオン交換基を有する高分子電解質を含む空気極。
【請求項7】
燃料電池用又は金属空気電池用である、請求項6に記載の空気極。
【請求項8】
請求項6に記載の空気極をカソードとして有する、燃料電池。
【請求項9】
請求項6に記載の空気極をカソードとして有する、金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学的酸素還元触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学的酸素還元触媒について様々な研究がなされている。
特許文献1では、白金を含有するナノ粒子と、メラミン化合物、チオシアヌル酸化合物、並びに前記メラミン化合物若しくは前記チオシアヌル酸化合物をモノマーとする重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有する、電気化学的酸素還元用触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
触媒に添加剤を添加しても、担体の細孔内部へは、添加剤の侵入が困難であり、細孔内部に侵入した場合であっても、添加剤が安定した状態で存在できず、担体の細孔内部に存在する金属粒子に添加剤が十分に吸着せず、添加剤の効果を十分に享受することができず、触媒活性向上効果が小さいという問題がある。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、触媒活性を向上させることができる電気化学的酸素還元触媒を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示においては、酸素還元活性を有する金属粒子と、添加剤と、細孔を有する担体の1次粒子を含み、
前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、
前記金属粒子は、前記担体に担持され、
前記担体の1次粒子の最外表面上に存在する金属粒子を外部粒子とし、前記担体の1次粒子の最外表面よりも内部に存在する金属粒子を内部粒子としたとき、
前記内部粒子の総表面積に対する前記外部粒子の総表面積の比(外部粒子の総表面積/内部粒子の総表面積)が0.36以上であることを特徴とする、電気化学的酸素還元触媒を提供する。
【0007】
本開示においては、酸素還元活性を有する金属粒子と、添加剤と、細孔を有する担体の1次粒子を含み、
前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、
前記金属粒子は、前記担体に担持され、
前記担体の1次粒子の最外表面上に存在する金属粒子を外部粒子とし、前記担体の1次粒子の最外表面よりも内部に存在する金属粒子を内部粒子としたとき、
前記内部粒子の総粒子数に対する前記外部粒子の総粒子数の比(外部粒子の総粒子数/内部粒子の総粒子数)が0.37以上であることを特徴とする、電気化学的酸素還元触媒を提供する。
【0008】
本開示においては、酸素還元活性を有する金属粒子と、添加剤と、細孔を有する担体の1次粒子を含み、
前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、
前記金属粒子は、前記担体に担持され、
前記担体の1次粒子の最外表面上に存在する金属粒子を外部粒子とし、前記担体の1次粒子の最外表面よりも内部に存在する金属粒子を内部粒子としたとき、
前記内部粒子の総体積に対する前記外部粒子の総体積の比(外部粒子の総体積/内部粒子の総体積)が0.43以上であることを特徴とする、電気化学的酸素還元触媒を提供する。
【0009】
本開示の電気化学的酸素還元触媒においては、前記有機窒素化合物が下記一般式(1)で表されるモノマー、又は、少なくとも一部に当該モノマーを含むポリマーであってもよい。
【0010】
【0011】
[ 一般式(1)中、R1、R2、R3は、それぞれ、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、又は、炭素数1~10のアルキル基であり、それぞれ、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及び、水素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を有していてもよい。]
【0012】
本開示の電気化学的酸素還元触媒においては、前記金属粒子は、白金粒子、白金合金粒子、及び、白金を含む複合粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0013】
本開示においては、前記電気化学的酸素還元触媒とイオン交換基を有する高分子電解質を含む空気極を提供する。
【0014】
本開示の空気極は、燃料電池用又は金属空気電池用であってもよい。
【0015】
本開示においては、前記空気極をカソードとして有する、燃料電池を提供する。
【0016】
本開示においては、前記空気極をカソードとして有する、金属空気電池を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本開示は、触媒活性を向上させることができる電気化学的酸素還元触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、表面積内外比と触媒質量活性向上倍率との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、粒子数内外比と触媒質量活性向上倍率との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、体積内外比と触媒質量活性向上倍率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示による実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄(例えば、本開示を特徴付けない電気化学的酸素還元触媒の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、数値範囲における上限値と下限値は任意の組み合わせを採用できる。
【0020】
1.電気化学的酸素還元触媒
本開示の第1実施形態においては、酸素還元活性を有する金属粒子と、添加剤と、細孔を有する担体の1次粒子を含み、
前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、
前記金属粒子は、前記担体に担持され、
前記担体の1次粒子の最外表面上に存在する金属粒子を外部粒子とし、前記担体の1次粒子の最外表面よりも内部に存在する金属粒子を内部粒子としたとき、
前記内部粒子の総表面積に対する前記外部粒子の総表面積の比(外部粒子の総表面積/内部粒子の総表面積)が0.36以上であることを特徴とする、電気化学的酸素還元触媒を提供する。
【0021】
本開示の第2実施形態においては、酸素還元活性を有する金属粒子と、添加剤と、細孔を有する担体の1次粒子を含み、
前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、
前記金属粒子は、前記担体に担持され、
前記担体の1次粒子の最外表面上に存在する金属粒子を外部粒子とし、前記担体の1次粒子の最外表面よりも内部に存在する金属粒子を内部粒子としたとき、
前記内部粒子の総粒子数に対する前記外部粒子の総粒子数の比(外部粒子の総粒子数/内部粒子の総粒子数)が0.37以上であることを特徴とする、電気化学的酸素還元触媒を提供する。
【0022】
本開示の第3実施形態においては、酸素還元活性を有する金属粒子と、添加剤と、細孔を有する担体の1次粒子を含み、
前記添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物であり、
前記金属粒子は、前記担体に担持され、
前記担体の1次粒子の最外表面上に存在する金属粒子を外部粒子とし、前記担体の1次粒子の最外表面よりも内部に存在する金属粒子を内部粒子としたとき、
前記内部粒子の総体積に対する前記外部粒子の総体積の比(外部粒子の総体積/内部粒子の総体積)が0.43以上であることを特徴とする、電気化学的酸素還元触媒を提供する。
【0023】
本開示の電気化学的酸素還元触媒は、反応活性点である金属粒子を担体の外部に担持させることで、添加剤の効果が高まり、触媒活性を向上させることができる。
本開示の電気化学的酸素還元触媒は、(1)上記特定の範囲の前記内部粒子の総表面積に対する前記外部粒子の総表面積の比、(2)上記特定の範囲の前記内部粒子の総粒子数に対する前記外部粒子の総粒子数の比、及び、(3)上記特定の範囲の前記内部粒子の総体積に対する前記外部粒子の総体積の比、からなる群より選ばれる少なくとも一つの条件を満たせばよく、2つ以上の条件を満たしてもよく、すべての条件を満たしてもよい。
【0024】
本開示の電気化学的酸素還元触媒は、酸素還元活性を有する金属粒子と、添加剤と、細孔を有する担体の1次粒子を含む。
【0025】
添加剤は、少なくとも1種の有機窒素化合物である。
有機窒素化合物としては、窒素1モル当たりの乾燥重量を表す窒素当量が20~270g・eq-1を満たす化合物であってもよく、20~70g・eq-1を満たす化合物であってもよい。
窒素当量は、以下の式から算出することができる。なお、重合体の場合は当該モノマーの窒素当量を当該重合体の窒素当量とみなす。
窒素当量(g・eq-1)=分子量(g/mol)÷分子中の窒素物質量(molN/mol)
有機窒素化合物としては、アミン官能基を有する化合物であってもよく、ピリジン型窒素を有する化合物であってもよく、トリアジン環を含む化合物であってもよい。有機窒素化合物としては、下記一般式(1)で表されるモノマー、又は、少なくとも一部に当該モノマーを含むポリマーであってもよい。
【0026】
【0027】
[ 一般式(1)中、R1、R2、R3は、それぞれ、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、又は、炭素数1~10のアルキル基であり、それぞれ、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及び、水素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を有していてもよい。]
R1、R2、R3は、それぞれ、1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウムカチオン、又は、ヒドロキシル基であってもよい。
【0028】
有機窒素化合物としては、例えば、メラミン化合物(窒素当量21g・eq-1)、チオシアヌル酸化合物(窒素当量59g・eq-1)、シアヌル酸化合物(窒素当量34g・eq-1)、オレイルアミン(窒素当量267g・eq-1)、テトラデシルアミン(窒素当量213g・eq-1)、
2,4,6-Tris[bis(methoxymetyl)amino]-1,3,5-triazine(窒素当量65g・eq-1)、
6-(Dibutylamino)-1,3,5-triazine-2,4-dithiol(窒素当量68g・eq-1)、
2,4-Diamino-6-butylamino-1,3,5-triazine(窒素当量30 g eq-1)、
2,4,6-Tris(pentafluoroethyl)-1,3,5-triazine(窒素当量145g・eq-1)、及び、これらをモノマーとする重合体、並びに、
Poly(melamine-co-formaldehyde)methylated(窒素当量20~40g・eq-1)、及び、
Poly(melamine-co-formaldehyde)isobutylated(窒素当量20~40g・eq-1)等であってもよい。また、前述の添加剤を2種類以上含んでいてもよい。
メラミン化合物、チオシアヌル酸化合物、シアヌル酸化合物としては、メラミン、チオシアヌル酸、シアヌル酸の他、これらの誘導体を制限なく使用することができる。
メラミン化合物、チオシアヌル酸化合物、又はシアヌル酸化合物をモノマーとする重合体としては、上記したメラミン化合物、チオシアヌル酸化合物、又はシアヌル酸化合物を繰り返し単位の主鎖に有するメラミン樹脂、チオシアヌル酸樹脂、又はシアヌル酸樹脂等が挙げられる。
添加剤としては、上記の中でも、メラミン(1,3,5-triazine-2,4,6-triamine)、又は、当該メラミンの重合体であってもよい。重合体の場合は、モノマーの場合よりも金属粒子に吸着した後、脱離し難くなるため、吸着安定性が向上する。
【0029】
金属粒子は、酸素還元触媒能を有する金属ではあればよく、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、及び、イットリウム等の金属が挙げられ、これらの金属を2種類以上用いてもよい。また、金属は酸化物、窒化物、硫化物、及び、リン化物等であってもよい。
金属粒子は、上記の中でも、白金粒子、白金合金粒子、及び、白金を含む複合粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
白金合金、及び、白金を含む複合粒子に含まれる、白金以外の金属は、例えば、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、及び、イットリウム等の金属が挙げられ、これらの金属を2種類以上含んでいてもよい。
白金合金中の白金以外の金属の元素比率は特に限定されず、0.11~50atm%であってもよい。
金属粒子の粒子径(粒径)は、特に限定されず、1~100nmであってもよい。
【0030】
本開示において、粒子の粒径は、X線回折法により測定される平均結晶子径である。
粒子の粒径は、電子顕微鏡により100~1000個の粒子の粒径を測定し、これらの平均値を粒子の平均粒径としてもよい。本開示では上記2つの方法で粒径を測定した。
【0031】
担体は、細孔を有する1次粒子である。本開示において担体として、細孔を有する1次粒子が含まれていれば、その他に、細孔を有する1次粒子が凝集した二次粒子が含まれていてもよい。
本開示において、直径が1~300nmを満たし、1次粒子の最外表面からの深さが1nm以上である1次粒子内に空いた孔を細孔と定義する。
1次粒子とは分解することのできない担体の粒子の最小単位である。
担体の1次粒子の粒径は、例えば、5~500nmであってもよい。
担体に担持される金属粒子の金属担持比率は、特に限定されず、1~50%であってもよく、29~48%であってもよい。
担体は、カーボン、及び、酸化物等であってもよく、導電性を有するカーボン、及び、酸化物等であってもよい。
カーボンは、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、及び、ファーネスブラック等)、活性炭、黒鉛、グラッシーカーボン、グラファイト、グラフェン、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、窒化カーボン、硫黄化カーボン、及び、リン化カーボン、またはこれらの内少なくとも2種類を含む混合物等であってもよい。
酸化物は、チタン酸化物、ニオブ酸化物、スズ酸化物、タングステン酸化物、及び、モリブデン酸化物、またはこれらの内少なくとも2種類を含む混合物等であってもよい。
本開示の電気化学的酸素還元触媒は、担体の重量に対する添加剤の重量の比が0より大きくてもよく、0.1以上であってもよい。
【0032】
金属粒子は、担体に担持される。
金属粒子を担体に担持させる方法は、特に限定されず、従来公知の方法を適宜採用することができる。
本開示の電気化学的酸素還元触媒においては、担体の1次粒子の最外表面上に存在する金属粒子を外部粒子とし、担体の1次粒子の最外表面よりも内部に存在する金属粒子を内部粒子とする。
【0033】
[担体に担持されている金属粒子の存在位置の評価方法]
担体に担持されている金属粒子の存在位置を測定する方法としては、電子顕微鏡を用いた観察法等がある。
測定対象の電気化学的酸素還元触媒の観察角度を徐々に変更し、複数の画像を撮影し、再構成することで、3次元的に物体を撮影することができる。
金属粒子の重心座標を3次元的に決定し、担体1次粒子の最外表面上に位置する金属粒子を外部粒子、最外表面より内部に位置する金属粒子を内部粒子と判断する。
評価する粒子選定の際はばらつきが表れないよう下記の手順を満たしてもよい。
評価する粒子数は100個以上、特に200個以上、さらには1000個以上であってもよい。
評価する粒子は少なくとも2か所以上の担体アグリゲート(一次凝集体)から複数視野測定してもよい。
評価する粒子は少なくとも2か所以上の担体アグロメレート(二次凝集体)から複数視野測定してもよい。
【0034】
[内部粒子の総表面積に対する外部粒子の総表面積の比(表面積内外比)]
本開示の電気化学的酸素還元触媒においては、前記内部粒子の総表面積に対する前記外部粒子の総表面積の比(外部粒子の総表面積/内部粒子の総表面積)が0.36以上であればよく、0.53以上であってもよく、上限は特に限定されず、例えば、2.25以下であってもよい。
本開示においては、外部粒子の総表面積/内部粒子の総表面積を「表面積内外比」と定義する。表面積内外比が0.36以上の際に添加剤の添加による触媒活性向上効果が高くなる。
【0035】
[内部粒子の総粒子数に対する外部粒子の総粒子数の比(粒子数内外比)]
本開示の電気化学的酸素還元触媒においては、前記内部粒子の総粒子数に対する前記外部粒子の総粒子数の比(外部粒子の総粒子数/内部粒子の総粒子数)が0.37以上であればよく、0.39以上であってもよく、上限は特に限定されず、例えば、1.14以下であってもよい。
本開示においては、外部粒子の総粒子数/内部粒子の総粒子数を「粒子数内外比」と定義する。粒子数内外比が0.37以上の際に添加剤の添加による触媒活性向上効果が高くなる。
内部粒子の総粒子数と外部粒子の総粒子数は、上記電子顕微鏡を用いた観察法等により算出することができる。
【0036】
[内部粒子の総体積に対する外部粒子の総体積の比(体積内外比)]
本開示の電気化学的酸素還元触媒においては、前記内部粒子の総体積に対する前記外部粒子の総体積の比(外部粒子の総体積/内部粒子の総体積)が0.43以上であればよく、0.72以上であってもよく、上限は特に限定されず、例えば、3.42以下であってもよい。
本開示においては、外部粒子の総体積/内部粒子の総体積を「体積内外比」と定義する。体積内外比が0.43以上の際に添加剤の添加による触媒活性向上効果が高くなる。
【0037】
[粒子の総表面積および総体積の評価方法]
測定した粒子の粒子径(r)を最大直径として定義する。
測定した粒子ごとに表面積および体積を計算し、すべて加算したものを総表面積および総体積と評価する。
表面積(S)算出には球形モデルを用い、S=2π(r/2)2で算出する。
体積(V)算出には球形モデルを用い、V=(4/3)π(r/2)3で算出する。
粒子ごとに算出した表面積および体積を外部粒子と内部粒子で個別に集計したものをそれぞれ外部粒子の総表面積、内部粒子の総表面積、外部粒子の総体積、内部粒子の総体積とする。
【0038】
[添加剤重量評価法]
本開示の電気化学的酸素還元触媒に含まれる添加剤の重量の評価法は、CHN元素分析で窒素含有量を測定する手法、及び、電気化学的酸素還元触媒から添加剤を抽出し、添加剤を直接測定する手法等がある。
CHN元素分析で窒素含有量を測定する手法は、酸素で試料を一定時間燃焼させた後、生成した二酸化炭素、水、窒素酸化物をそれぞれ定量することで、試料中に含まれるカーボン、水素、窒素原子の量を定量する手法である。添加剤を導入前後の試料で窒素量を比較することで、添加剤の量を評価することが可能である。
酸素還元触媒から添加剤を抽出し、添加剤を直接測定する手法は、電気化学的酸素還元触媒中に含まれる添加剤を溶解する溶媒で添加剤を抽出した上で添加剤を定性・定量分析する手法である。
分析手法として、クロマトグラフィー、紫外可視分光法(UV-vis)、赤外分光法(IR)、及び、核磁気共鳴法(NMR)等がある。
【0039】
[金属粒子重量評価法]
本開示の電気化学的酸素還元触媒に含まれる金属粒子の重量の評価法は、熱重量分析(TG)、及び、高周波誘導結合プラズマ発光分光(ICP)等がある。
熱重量分析(TG)は、ガス雰囲気、温度等を変化させた際の重量を測定する手法である。昇温し、水分、導電性担体、イオン交換基を有する高分子、不純物を燃焼させた後に、残存した重量を金属粒子重量とする測定手法である。
高周波誘導結合プラズマ発光分光(ICP)は、プラズマで励起させた原子が放出する発光線の波長と強度から含有元素を定性、定量する手法である。
電気化学的酸素還元触媒中に含まれる金属粒子重量を直接的に定量することが可能である。
【0040】
2.空気極
本開示においては、前記電気化学的酸素還元触媒とイオン交換基を有する高分子電解質を含む空気極を提供する。
【0041】
本開示の空気極は、本開示の電気化学的酸素還元触媒とイオン交換基を有する高分子電解質を含む。
本開示の空気極は、燃料電池用又は金属空気電池用であってもよい。
イオン官能基を有する高分子電解質は、電解質、アイオノマ、イオノマ、又は、バインダーと呼ぶことがある。本開示では、以下バインダーと記載する。バインダーは、イオンを交換する高分子であればよく、イオン交換基として、スルホン酸、リン酸、及び、4級アンモニウムカチオン等を有していてもよい。バインダーは、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーであってもよく、アニオン交換ポリマーであってもよく、ポリエーテルエーテルケトン、及び、ポリベンズイミダゾール等を主成分とするポリマーであってもよい。
本開示の電気化学的酸素還元触媒は、担体の重量に対するバインダーの重量の比が0より大きくてもよく、0.5以上であってもよい。
【0042】
3.燃料電池
本開示においては、前記空気極をカソードとして有する、燃料電池を提供する。
【0043】
本開示の燃料電池は、本開示の空気極をカソードとして有する。
本開示の燃料電池は、本開示の空気極をカソードとして有する以外は従来公知の燃料電池の構成を適宜採用することができる。
本開示の燃料電池は、触媒活性が高い本開示の電気化学的酸素還元触媒を含む空気極をカソードとして用いるため、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0044】
4.金属空気電池
本開示においては、前記空気極をカソードとして有する、金属空気電池を提供する。
【0045】
本開示の金属空気電池は、本開示の空気極をカソードとして有する。
本開示の金属空気電池は、本開示の空気極をカソードとして有する以外は従来公知の金属空気電池の構成を適宜採用することができる。
本開示の金属空気電池は、触媒活性が高い本開示の電気化学的酸素還元触媒を含む空気極をカソードとして用いるため、金属空気電池の発電性能を向上させることができる。
【実施例0046】
(実施例1)
金属粒子として白金コバルト合金(白金以外の金属比率0.13 atm %)粒子(金属粒子径3~4 nm)、添加剤として1,3,5-triazine-2,4,6-triamine(メラミン、富士フィルム和光純薬製)、金属粒子を担持した担体としてカーボン(金属担持比率42 wt%)を含む電気化学的酸素還元触媒を準備した。
電気化学的酸素還元触媒中に投入した仕込み重量から、担体重量に対する添加剤重量(添加剤重量)/(担体重量)を算出した。担体重量に対する添加剤重量は、0.1であった。
電気化学的酸素還元触媒の電子顕微鏡観察により、担体に担持されている金属粒子の表面積内外比、粒子数内外比、体積内外比を算出した。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例2)
金属粒子として白金ニッケル合金(白金以外の金属比率0.13 atm %)粒子(金属粒子径3~4 nm)を用い、表面積内外比、粒子数内外比、体積内外比が表1に示す値であること以外は実施例1と同様の条件で電気化学的酸素還元触媒を準備した。
【0048】
(実施例3)
金属粒子として白金粒子(金属粒子径2~3 nm)を用い、金属担持比率が29 wt%であり、表面積内外比、粒子数内外比、体積内外比が表1に示す値であること以外は実施例1と同様の条件で電気化学的酸素還元触媒を準備した。
【0049】
(実施例4)
金属粒子として白金粒子(金属粒子径2~3 nm)、添加剤として1,3,5-triazine-2,4,6-triamine(メラミン、富士フィルム和光純薬製)の重合体(polymer)を用い、金属担持比率29 wt%であり、表面積内外比、粒子数内外比、体積内外比が表2に示す値であること以外は実施例1と同様の条件で電気化学的酸素還元触媒を準備した。
【0050】
(実施例5)
金属粒子として白金コバルト合金(白金以外の金属比率0.11 atm %)粒子(金属粒子径3~4 nm)を用い、金属担持比率48 wt%であり、表面積内外比、粒子数内外比、体積内外比が表2に示す値であること以外は実施例1と同様の条件で電気化学的酸素還元触媒を準備した。
【0051】
(比較例1)
金属粒子として白金粒子(金属粒子径2~3 nm)を用い、金属担持比率29 wt%であり、表面積内外比、粒子数内外比、体積内外比が表2に示す値であること以外は実施例1と同様の条件で電気化学的酸素還元触媒を準備した。
【0052】
(比較例2)
金属粒子として白金粒子(金属粒子径2~3 nm)、添加剤として1,3,5-triazine-2,4,6-triamine(メラミン、富士フィルム和光純薬製)の重合体(polymer)を用い、金属担持比率29 wt%であり、表面積内外比、粒子数内外比、体積内外比が表3に示す値であること以外は実施例1と同様の条件で電気化学的酸素還元触媒を準備した。
【0053】
(実施例6)
金属粒子として白金コバルト合金(白金以外の金属比率0.17 atm %)粒子(金属粒子径3~4 nm)を用い、表面積内外比、粒子数内外比、体積内外比が表3に示す値であること以外は実施例1と同様の条件で電気化学的酸素還元触媒を準備した。
【0054】
(実施例7)
金属粒子として白金粒子(金属粒子径2~3 nm)を用い、金属担持比率48 wt%であり、表面積内外比、粒子数内外比、体積内外比が表3に示す値であること以外は実施例1と同様の条件で電気化学的酸素還元触媒を準備した。
【0055】
[評価用電極の作製]
実施例1~7、比較例1~2の各電気化学的酸素還元触媒とバインダーとしてパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(富士フィルム和光純薬製DE520)を2-プロパノール及び超純水の混合溶媒に分散させた。分散液を担体量が20μg/cm2になるよう北斗電工製グラッシーカーボン回転電極(直径5mm)に滴下し、乾燥させ、評価用電極を作製した。評価用電極中の担体としてのカーボン重量に対するバインダー重量(-)は、0.5となるようにした。
【0056】
[触媒質量活性の評価]
作成した各評価用電極を作用極とし、可逆水素電極を参照極、カーボンロッドを対極として、三電極式で電気化学測定を行った。
電解液として、超純水で0.1 Mに調整した過塩素酸水溶液を使用した。
不活性ガス雰囲気下でサイクリックボルタンメトリーを行った。
その後、ガス雰囲気を酸素に変え、低電位側からリニアスイープボルタンメトリーを行った。
電極回転数を400,900,1600,2000,2500,3600rpmと変更し、リニアスイープボルタンメトリー測定を繰り返した。
得られた電位-電流特性から、Kouteckey-Levichプロットを作成し、0.9Vv.s.RHEの際の触媒質量活性(A/g)を算出した。
触媒質量活性は、触媒活性という触媒の性能指標を質量で規格化した値であり、金属粒子重量当たりの電流である。電流は電気化学反応の反応速度を表す値であり、大きいほど、触媒活性が高いことを意味する。
また、添加剤を含む電気化学的酸素還元触媒の触媒質量活性(添加剤導入後電気化学的酸素還元触媒の触媒質量活性)と添加剤を含まないこと以外は同じ構成の電気化学的酸素還元触媒の触媒質量活性(添加剤導入前電気化学的酸素還元触媒の触媒質量活性)をそれぞれ算出し、これらから、触媒質量活性向上倍率を算出した。結果を表1~3に示す。
触媒質量活性向上倍率は、(添加剤導入後電気化学的酸素還元触媒の触媒質量活性)/(添加剤導入前電気化学的酸素還元触媒の触媒質量活性)で定義する。
【0057】
[触媒表面積活性の評価]
またサイクリックボルタモグラムにおける還元波の水素吸着電流値から金属粒子の表面積(cm2)を算出した。そして、触媒質量活性(A/g)に金属粒子の質量(g)を乗じ、金属粒子の表面積(cm2)で除することにより触媒表面積活性(A/cm2)を算出した。触媒表面積活性は、触媒活性という触媒の性能指標を表面積で規格化した値であり、金属粒子表面積当たりの電流である。
また、添加剤を含む電気化学的酸素還元触媒の触媒表面積活性(添加剤導入後電気化学的酸素還元触媒の触媒表面積活性)と添加剤を含まないこと以外は同じ構成の電気化学的酸素還元触媒の触媒表面積活性(添加剤導入前電気化学的酸素還元触媒の触媒表面積活性)をそれぞれ算出し、これらから、触媒表面積活性向上倍率を算出した。結果を表1~3に示す。
触媒表面積活性向上倍率は、(添加剤導入後電気化学的酸素還元触媒の触媒表面積活性)/(添加剤導入前電気化学的酸素還元触媒の触媒表面積活性)で定義する。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
[評価結果]
図1は、表面積内外比と触媒質量活性向上倍率との関係を示すグラフである。
図2は、粒子数内外比と触媒質量活性向上倍率との関係を示すグラフである。
図3は、体積内外比と触媒質量活性向上倍率との関係を示すグラフである。
図1~3、表1~3に示すように、実施例1~7は、比較例1~2よりも触媒質量活性向上倍率、及び、触媒表面積活性向上倍率が高いことが分かる。
上記の結果から、表面積内外比が0.36以上、粒子数内外比が0.37以上、及び、体積内外比が0.43以上、からなる群より選ばれる少なくとも一つの条件を満たすことにより、電気化学的酸素還元触媒の触媒活性を向上させることができることが実証された。