(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144469
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂とその製造方法及び塗料
(51)【国際特許分類】
C08G 63/12 20060101AFI20231003BHJP
C08G 63/183 20060101ALI20231003BHJP
C08G 63/78 20060101ALI20231003BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C08G63/12
C08G63/183
C08G63/78
C09D167/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051447
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】河合 優香
(72)【発明者】
【氏名】田村 陽子
【テーマコード(参考)】
4J029
4J038
【Fターム(参考)】
4J029AA01
4J029AB01
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4J029AB07
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4J038DD061
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4J038MA09
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4J038NA01
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4J038PC08
(57)【要約】
【課題】TVOCが十分に低減され、環境面及び健康面に配慮をしつつ、溶剤溶解性が良好であり、基材に対する密着性に優れる塗膜を形成できるポリエステル樹脂とその製造方法及び塗料の提供。
【解決手段】多価アルコール由来の構成単位を含むポリエステル樹脂であって、多価アルコール由来の構成単位が脂肪族多価アルコール由来の構成単位のみからなり、ポリエステル樹脂の軟化温度が110℃以上であり、水酸基価が1mgKOH/g以上であり、濃度30質量%のメチルエチルケトン溶液としたときの不溶解分が5質量%以下であり、ポリエステル樹脂に含まれる揮発性有機化合物の総量が500ppm以下であり、下記式(1)を満たすポリエステル樹脂。
Mn×(AV+OHV)≦200,000 ・・・(1)
(式(1)中、Mnはポリエステル樹脂の数平均分子量であり、AVはポリエステル樹脂の酸価であり、OHVはポリエステル樹脂の水酸基価である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコール由来の構成単位を含むポリエステル樹脂であって、
前記多価アルコール由来の構成単位が脂肪族多価アルコール由来の構成単位のみからなり、
前記ポリエステル樹脂の軟化温度が110℃以上であり、水酸基価が1mgKOH/g以上であり、
前記ポリエステル樹脂を濃度30質量%のメチルエチルケトン溶液としたときの不溶解分が5質量%以下であり、
前記ポリエステル樹脂に含まれる揮発性有機化合物の総量が500ppm以下であり、
下記式(1)を満たす、ポリエステル樹脂。
Mn×(AV+OHV)≦200,000 ・・・(1)
(式(1)中、Mnはポリエステル樹脂の数平均分子量であり、AVはポリエステル樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、OHVはポリエステル樹脂の水酸基価(mgKOH/g)である。)
【請求項2】
多価カルボン酸由来の構成単位をさらに含む、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
ポリエチレンテレフタレート由来の構成単位及びビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート由来の構成単位の少なくとも一方をさらに含む、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂と、溶剤とを含む、塗料。
【請求項5】
ポリエチレンテレフタレート及びビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの少なくとも一方と、多価アルコールとを含む原料混合物を反応させるエステル化工程と、
前記エステル化工程で得られた反応生成物を重縮合する重縮合工程とを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記多価アルコールは、脂肪族多価アルコールのみからなり、
前記エステル化工程の少なくとも一部が、前記ポリエチレンテレフタレートの融点以上の温度で行われ、
前記エステル化工程及び前記重縮合工程において有機溶剤を使用しない、ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記原料混合物が多価カルボン酸をさらに含む、請求項5に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記エステル化工程を3時間以内に行う、請求項5又は6に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂とその製造方法及び塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、その優れた特性により、繊維及びフィルム等の原料として用いられる他、塗料、インキ及びトナー等のバインダー樹脂としても広く用いられている。昨今、CO2排出量削減等の観点から、ポリエステル樹脂の原料としてバイオマス由来の原料や、リサイクル原料を用いる技術が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、他の原料とともにリサイクルポリエチレンテレフタレート(リサイクルPET)を装置に導入し、ポリエステル樹脂を製造する方法が開示されている。
特許文献2には、リサイクルPETと特定のカルボン酸由来の構成単位とを含むポリエステル樹脂と、このポリエステル樹脂を用いた、高温環境下での保存性、定着性、定着強度に優れるトナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-155133号公報
【特許文献2】国際公開第2022/009793号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載のポリエステル樹脂では、溶剤に溶解して使用する用途への適性が低く、溶剤に対する溶解性(溶剤溶解性)や溶液塗工して得られる塗膜の基材への密着性には問題があり、塗料のバインダー樹脂としては不向きであった。
また、特許文献2に記載の技術では、ポリエステル樹脂の原料としてビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物等の芳香族アルコールを用いており、使用者の健康や環境への影響が懸念されている。
【0006】
ところで、ポリエステル樹脂を含む塗料を基材等に塗工した後に乾燥する際や、ポリエステル樹脂を含むトナーを紙等に定着する際には、塗料やトナーを加熱することがあるが、塗料やトナーが加熱されると揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compound)が発生することがある。
VOCの発生は、使用者の健康や環境へ影響を及ぼすおそれがある。そのため、近年、健康や環境保護を考慮してVOCの総量(TVOC:Total Volatile Organic Compound)の低減が求められている。
【0007】
本発明は、TVOCが十分に低減され、環境面及び健康面に配慮をしつつ、溶剤溶解性が良好であり、基材に対する密着性に優れる塗膜を形成できるポリエステル樹脂とその製造方法及び塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 多価アルコール由来の構成単位を含むポリエステル樹脂であって、
前記多価アルコール由来の構成単位が脂肪族多価アルコール由来の構成単位のみからなり、
前記ポリエステル樹脂の軟化温度が110℃以上であり、水酸基価が1mgKOH/g以上であり、
前記ポリエステル樹脂を濃度30質量%のメチルエチルケトン溶液としたときの不溶解分が5質量%以下であり、
前記ポリエステル樹脂に含まれる揮発性有機化合物の総量が500ppm以下であり、
下記式(1)を満たす、ポリエステル樹脂。
Mn×(AV+OHV)≦200,000 ・・・(1)
(式(1)中、Mnはポリエステル樹脂の数平均分子量であり、AVはポリエステル樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、OHVはポリエステル樹脂の水酸基価(mgKOH/g)である。)
[2] 多価カルボン酸由来の構成単位をさらに含む、前記[1]のポリエステル樹脂。
[3] ポリエチレンテレフタレート由来の構成単位及びビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート由来の構成単位の少なくとも一方をさらに含む、前記[1]又は[2]のポリエステル樹脂。
[4] 前記[1]~[3]のいずれかのポリエステル樹脂と、溶剤とを含む、塗料。
[5] ポリエチレンテレフタレート及びビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの少なくとも一方と、多価アルコールとを含む原料混合物を反応させるエステル化工程と、
前記エステル化工程で得られた反応生成物を重縮合する重縮合工程とを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記多価アルコールは、脂肪族多価アルコールのみからなり、
前記エステル化工程の少なくとも一部が、前記ポリエチレンテレフタレートの融点以上の温度で行われ、
前記エステル化工程及び前記重縮合工程において有機溶剤を使用しない、ポリエステル樹脂の製造方法。
[6] 前記原料混合物が多価カルボン酸をさらに含む、前記[5]のポリエステル樹脂の製造方法。
[7] 前記エステル化工程を3時間以内に行う、前記[5]又は[6]のポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、TVOCが十分に低減され、環境面及び健康面に配慮をしつつ、溶剤溶解性が良好であり、基材に対して密着性に優れる塗膜を形成できるポリエステル樹脂とその製造方法及び塗料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ポリエステル樹脂]
本発明の第一の態様のポリエステル樹脂は、多価アルコール由来の構成単位を含む。
本発明の第一の態様のポリエステル樹脂は、多価アルコール由来の構成単位に加えて、多価カルボン酸由来の構成単位、ポリエチレンテレフタレート由来の構成単位及びビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート由来の構成単位の1つ以上をさらに含んでいてもよい。特に、本発明の第一の態様のポリエステル樹脂は、多価アルコール由来の構成単位と、多価カルボン酸由来の構成単位と、ポリエチレンテレフタレート由来の構成単位及びビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート由来の構成単位の少なくとも一方とを含むことが好ましい。
【0011】
本発明の一態様のポリエステル樹脂は、多価アルコールを含む原料混合物(以下、「混合物(M)」ともいう。)を原料とする。すなわち、ポリエステル樹脂は、混合物(M)の反応生成物である。
別の側面として、混合物(M)は、多価アルコールに加えて、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ともいう。)及びビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート(以下、「BHET」ともいう。)の少なくとも一方を含んでいてもよい。
別の側面として、混合物(M)は、多価アルコール、並びにPET及びBHETの少なくとも一方に加えて、多価カルボン酸をさらに含んでいてもよい。
【0012】
<多価アルコール>
混合物(M)は、多価アルコールとして脂肪族多価アルコールのみを含む。すなわち、本発明の第一の態様のポリエステル樹脂は、多価アルコール由来の構成単位を含み、多価アルコール由来の構成単位が脂肪族多価アルコール由来の構成単位のみからなるポリエステル樹脂である。
脂肪族多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、D-イソソルバイド、L-イソソルバイド、イソマンニド、エリスリタン、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン等の2価の脂肪族アルコール;トリメチロールプロパン、ソルビトール、1,4-ソルビタン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、グリセリン等の3価以上の脂肪族アルコールなどが挙げられる。
これらの中でも、作業性とコストの点で、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンが好ましい。
脂肪族多価アルコールは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、脂肪族多価アルコールは、石油由来であってもバイオマス由来であってもよい。
【0013】
<ポリエチレンテレフタレート>
PETとしては、例えばエチレングリコールとテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル等とのエステル化若しくはエステル交換、並びに重縮合により、常法に従って製造されたものを用いることができる。
PETとしては、未使用のPETを用いてもよいし、使用済のPET又はPET製品を再生(つまり、リサイクル)したリサイクルPETを用いてもよい。また、PETとしてバイオマス由来原料を使用したPETを用いてもよい。また、PETとしてA-PET(非晶性ポリエチレンテレフタレート)、C-PET(結晶性ポリエチレンテレフタレート)、G-PET(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)を用いてもよい。
リサイクルPETとしては、使用済みのPETをペレット状に加工したものを使用してもよいし、フィルム及びボトル等の製品あるいは端材を破砕したものを使用してもよい。
バイオマス由来原料を使用したPETとしては、エチレングリコール及びテレフタル酸の少なくとも一方がバイオマス由来であるPETが挙げられる。PETがバイオマス由来原料を使用しているか否かについては、例えば、ASTM D6866「放射性炭素(C14)測定法を利用した生物起源炭素濃度を決定する標準規格」により確認することができる。
環境保全の観点から、PETとしては、リサイクルPET又はバイオマス由来原料を使用したPETが好ましい。バイオマス由来原料を使用したPETは、未使用でもよいし、使用済みでもよい。
PETは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明で使用できるPETのIV(Intrinsic Viscosity)値は、得られるポリエステル樹脂の結晶性制御の観点から、0.2~1.2が好ましく、0.3~1.1がより好ましく、0.4~0.6がさらに好ましい。
PETのIV値は固有粘度であり、PETの分子量の指標となる。PETのIV値は重縮合時間等により調整することができる。
PETのIV値は、フェノールと1,1,2,2-テトラクロルエタンとを質量比1:1で混合した混合溶媒30mLにPET0.3gを溶解し、得られた溶液について、ウベローデ粘度計を使用して30℃で測定した値である。
【0015】
<ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート>
BHETとしては、例えばPETを解重合して得られるものなどが挙げられる。
解重合に用いるPETとしては、例えば上述したものが挙げられる。
【0016】
<多価カルボン酸>
多価カルボン酸としては、2価のカルボン酸及び3価以上のカルボン酸が挙げられる。
2価のカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸の異性体(具体的には1,4-、1,5-、1,6-、1,7-、2,5-、2,6-、2,7-、2,8-)、及びこれらの低級アルキルエステル若しくは酸無水物等の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、フランジカルボン酸、及びこれらの低級アルキルエステル若しくは酸無水物等の脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
テレフタル酸及びイソフタル酸の低級アルキルエステルとしては、例えばテレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジブチル及び5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウムなどが挙げられる。
これらの中でも、2価のカルボン酸としては、ハンドリング性及びコストに優れる点で、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸及び5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウムが好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸がより好ましい。
2価のカルボン酸は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、2価のカルボン酸は、石油由来でもバイオマス由来でもよい。
また、2価のカルボン酸は、後述の3価以上のカルボン酸と併用してもよい。
【0017】
3価以上のカルボン酸としては、例えばトリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、及びこれらの酸無水物や低級アルキルエステルなどが挙げられる。
これらの中でも、3価以上のカルボン酸としては、ハンドリング性及びコストに優れる点で、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物が好ましく、トリメリット酸及びその無水物が特に好ましい。
3価以上のカルボン酸は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、3価以上のカルボン酸は、石油由来でもバイオマス由来でもよい。
【0018】
<他の成分>
混合物(M)は、多価アルコール、PET及び多価カルボン酸以外の成分(以下、「他の成分」ともいう。)を含んでいてもよい。すなわち、ポリエステル樹脂は、多価アルコール由来の構成単位に加えて、他の成分由来の構成単位をさらに含んでいてもよい。
他の成分としては、1価のカルボン酸及び1価のアルコールなどが挙げられる。
1価のカルボン酸としては、例えば安息香酸及びp-メチル安息香酸等の炭素数30以下の芳香族カルボン酸;ステアリン酸及びベヘン酸等の炭素数30以下の脂肪族カルボン酸;桂皮酸、オレイン酸、リノール酸及びリノレン酸等の二重結合を分子内に1つ以上有する不飽和カルボン酸などが挙げられる。
1価のアルコールとしては、例えばベンジルアルコール等の炭素数30以下の1価の芳香族アルコール;オレイルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール及びベヘニルアルコール等の炭素数30以下の1価の脂肪族アルコールなどが挙げられる。
【0019】
<含有量>
混合物(M)中の多価アルコールの含有量は、酸成分100モル部に対して40~150モル部が好ましく、50~140モル部がより好ましい。
すなわち、ポリエステル樹脂中の多価アルコール由来の構成単位の含有量は、酸成分に由来する構成単位100モル部に対して40~150モル部が好ましく、50~140モル部がより好ましい。
多価アルコールの含有量、及び多価アルコール由来の構成単位の含有量が上記下限値以上であれば、重合挙動の制御が容易となる。加えて、ポリエステル樹脂の溶剤不溶解成分を低減できる。多価アルコールの含有量、及び多価アルコール由来の構成単位の含有量が上記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂中のTVOCをより低減できる。
ここで、「酸成分」とは、混合物(M)に含まれる全ての酸成分のことである。酸成分には、PET由来の酸成分(例えばテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル等)、BHET由来の酸成分(例えばテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル等の解重合に用いるPET由来の酸成分)、多価カルボン酸成分及び1価のカルボン酸が含まれる。
【0020】
酸成分の合計100モル%に対する、PET由来の酸成分の割合は、10~80モル%が好ましく、15~75モル%がより好ましい。PET由来の酸成分の割合が上記下限値以上であれば、ポリエステル樹脂中のTVOCをより低減できる。PET由来の酸成分の割合が上記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂の結晶性を抑制し、溶剤溶解性が良好になる。
【0021】
酸成分の合計100モル%に対する、BHET由来の酸成分の割合は、10~80モル%が好ましく、15~75モル%がより好ましい。BHET由来の酸成分の割合が上記下限値以上であれば、ポリエステル樹脂中のTVOCをより低減できる。BHET由来の酸成分の割合が上記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂の結晶性を抑制し、溶剤溶解性が良好になる。
【0022】
酸成分の合計100モル%に対する、多価カルボン酸の割合は、20~90モル%が好ましく、25~85モル%がより好ましい。多価カルボン酸の割合が上記下限値以上であれば、ポリエステル樹脂の結晶性を抑制し、溶剤溶解性が良好になる。多価カルボン酸の割合が上記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂中のTVOCをより低減できる。
【0023】
<物性>
ポリエステル樹脂の軟化温度(T4)は110℃以上であり、115℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。また、ポリエステル樹脂の軟化温度は170℃以下が好ましく、165℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましい。ポリエステル樹脂の軟化温度の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。例えば、ポリエステル樹脂の軟化温度は110~170℃が好ましく、115~165℃がより好ましく、120~160℃がさらに好ましい。ポリエステル樹脂の軟化温度が上記下限値以上であれば、塗料としたときに基材に対する密着性に優れる塗膜を形成できる。加えて、ポリエステル樹脂が固体状態を良好に維持でき、取扱い性に優れる。ポリエステル樹脂の軟化温度が上記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂が溶融しやすくなる。
【0024】
ポリエステル樹脂の軟化温度は、以下のようにして求める。すなわち、フローテスターを用い、1mmφ×10mmのノズルにより、荷重294N(30Kgf)、昇温速度3℃/分の等速昇温下で測定し、ポリエステル樹脂1.0g中の1/2量が流出したときの温度を測定し、これをポリエステル樹脂の軟化温度とする。
【0025】
ポリエステル樹脂の水酸基価(OHV)は1mgKOH/g以上であり、2mgKOH/g以上が好ましく、3mgKOH/g以上がより好ましい。また、ポリエステル樹脂の水酸基価は70mgKOH/g以下が好ましく、50mgKOH/g以下がより好ましく、30mgKOH/g以下がさらに好ましい。ポリエステル樹脂の水酸基価の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。例えば、ポリエステル樹脂の水酸基価は1~70mgKOH/gが好ましく、2~50mgKOH/gがより好ましく、3~30mgKOH/gがさらに好ましい。ポリエステル樹脂の水酸基価が上記下限値以上であれば、ポリエステル樹脂の生産性が向上する。ポリエステル樹脂の水酸基価が上記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂の耐湿性が向上し、使用環境の影響を受けにくくなる。
【0026】
ポリエステル樹脂の水酸基価とは、試料1g当たりの水酸基数に相当する水酸化カリウムの量をミリグラム数で表したものであり、単位:mgKOH/gで示される。
ポリエステル樹脂の水酸基価は、ポリエステル樹脂をテトラヒドロフランに溶解し、ジメチルアミノピリジンの存在下で無水酢酸と反応させて水酸基をアセチル化し、過剰の無水酢酸を加水分解して酢酸にした後、フェノールフタレインを指示薬として0.5規定のKOH溶液を用いて滴定し、無水酢酸の消費量から算出した値である。
【0027】
ポリエステル樹脂の酸価(AV)は、0.1~40mgKOH/gが好ましく、0.1~30mgKOH/gがより好ましく、0.1~20mgKOH/gがさらに好ましい。ポリエステル樹脂の酸価が上記下限値以上であれば、ポリエステル樹脂の生産性が向上する。ポリエステル樹脂の酸価が上記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂の耐湿性が向上し、使用環境の影響を受けにくくなる。
【0028】
ポリエステル樹脂の酸価とは、試料1g当たりのカルボキシル基を中和するのに必要な水酸化カリウムの量をミリグラム数で表したものであり、単位:mgKOH/gで示される。
ポリエステル樹脂の酸価は、ポリエステル樹脂をベンジルアルコールに溶解し、クレゾールレッドを指示薬として、0.02規定のKOH溶液を用いて滴定して求めた値である。
【0029】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-15~100℃が好ましく、0~80℃がより好ましく、5~70℃がさらに好ましい。ポリエステル樹脂のガラス転移温度が上記下限値以上であれば、ポリエステル樹脂の保存性が向上する。ポリエステル樹脂のガラス転移温度が上記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂が溶融しやすくなる。加えて、塗料としたときに基材に対する密着性に優れる塗膜を形成できる。
【0030】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、以下のようにして求める。すなわち、示差走差熱量計を用い、昇温速度5℃/分で測定したときのチャートの低温側のベースラインと、ガラス転移温度近傍にある吸熱カーブの接線との交点の温度を求め、これをポリエステル樹脂のガラス転移温度とする。
【0031】
ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は1,500~5,000が好ましく、1,800~5,000がより好ましく、2,000~5,000がさらに好ましい。ポリエステル樹脂の数平均分子量が上記下限値以上であれば、塗料としたときに基材に対する密着性に優れる塗膜を形成できる。ポリエステル樹脂の数平均分子量が上記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂が溶融しやすくなる。
【0032】
ポリエステル樹脂の重量均分子量(Mw)は2,000~50,000が好ましく、3,000~50,000がより好ましく、4,000~50,000がさらに好ましい。ポリエステル樹脂の重量平均分子量が上記下限値以上であれば、塗料としたときに基材に対する密着性に優れる塗膜を形成できる。ポリエステル樹脂の重量平均分子量が上記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂が溶融しやすくなる。
ポリエステル樹脂の数平均分子量及び重量均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン基準の分子量である。
【0033】
ポリエステル樹脂は、下記式(1)を満たす。ポリエステル樹脂が下記式(1)を満たすことで、溶剤溶解性が向上し、溶剤系のインキ、塗料等及び溶剤に溶解して使用する用途への適合性が高まる。
Mn×(AV+OHV)≦200,000 ・・・(1)
(式(1)中、Mnはポリエステル樹脂の数平均分子量であり、AVはポリエステル樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、OHVはポリエステル樹脂の水酸基価(mgKOH/g)である。)
Mn×(AV+OHV)は150,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、70,000以下がさらに好ましい。
Mn×(AV+OHV)の下限値については特に限定されないが、例えば1,650以上が好ましく、1,750以上がより好ましく、1,850以上がさらに好ましく、1,950以上が特に好ましい。
Mn×(AV+OHV)の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。例えば、Mn×(AV+OHV)は1,650~200,000が好ましく、1,750~150,000がより好ましく、1,850~100,000がさらに好ましく、1,950~70,000が特に好ましい。
【0034】
ポリエステル樹脂を濃度が30質量%になるようにメチルエチルケトン(MEK)に溶解してMEK溶液としたときの不溶解分(以下、「MEK不溶解分」ともいう。)は5質量%以下である。MEK不溶解分は少ない方が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が特に好ましく、0質量%が最も好ましい。
MEK不溶解分が上記上限値以下であれば、溶剤溶解性が向上し、溶剤系のインキ、塗料等及び溶剤に溶解して使用する用途への適合性が高まる。また、水系インキ及び塗料バインダー等として、ポリエステル樹脂を乳化物に加工して使用する場合を想定しても、転相乳化法等で乳化処理する際には溶剤溶解性が必須であり、MEK不溶解分を5質量%以下とすることで適性が高まる。
【0035】
ポリエステル樹脂に含まれる揮発性有機化合物の総量(TVOC)は、500ppm以下である。TVOCは少ない方が好ましく、400ppm以下が好ましく、300ppm以下がより好ましく、200ppm以下がさらに好ましい。ポリエステル樹脂のTVOCが上記上限値以下であることから、本実施形態のポリエステル樹脂は、環境面及び健康面に配慮したポリエステル樹脂である。
ここで、本発明における揮発性有機化合物とは、ポリエステル樹脂の原料に使用される液体モノマー由来の成分であり、触媒や溶剤は含まない。
ポリエステル樹脂のTVOCは、ガスクロマトグラフを用いて測定することができる。
【0036】
<ポリエステル樹脂の製造方法>
本発明の第二の態様のポリエステル樹脂の製造方法は、混合物(M)を反応させるエステル化工程と、エステル化工程で得られた反応生成物を重縮合する重縮合工程とを含む。
混合物(M)は、得られるポリエステル樹脂を構成する構成単位の含有量が上述した範囲となるように各成分を混合することで得られる。
本発明の第二の態様において、混合物(M)は、少なくともポリエチレンテレフタレート及びビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの少なくとも一方と、多価アルコールとを含み、多価アルコールは脂肪族多価アルコールのみからなる。混合物(M)は、ポリエチレンテレフタレート及びビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの少なくとも一方、並びに多価アルコールに加えて、多価カルボン酸及び他の成分の1つ以上をさらに含んでいてもよい。
【0037】
エステル化工程は、エステル化反応及びエステル交換反応の少なくとも一方を含むことが好ましい。すなわち、エステル化反応及びエステル交換反応の少なくとも一方を実施した後に、重縮合工程を行うことが好ましい。具体的には、混合物(M)と触媒等を反応容器に投入し、加熱昇温して、エステル化反応及びエステル交換反応の少なくとも一方を行い、反応で生じた水又はアルコールを除去する。その後、引き続き重縮合反応を実施するが、このとき反応装置内を徐々に減圧し、150mmHg(つまり、20kPa)以下、好ましくは15mmHg(つまり、2kPa)以下の圧力下で多価アルコール成分を留出除去させながら重縮合を行うことで、ポリエステル樹脂を製造することができる。
【0038】
エステル化反応若しくはエステル交換反応、並びに重縮合反応時に用いる触媒としては特に制限されないが、例えばアルコキシ基を有するチタンアルコキシド化合物、カルボン酸チタン、カルボン酸チタニル、カルボン酸チタニル塩、チタンキレート化合物等のチタン系化合物;ジブチルスズオキシド等の有機スズ;酸化スズ、2-エチルヘキサンスズ等の無機スズなどが挙げられる。また、上述した以外にも触媒として、例えば酢酸カルシウム、酢酸カルシウム水和物、酢酸亜鉛、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウムなどを用いてもよい。
これらの中でも、TVOCが低減されたポリエステル樹脂が容易に得られる観点から、触媒としてはチタン系化合物が好ましく、触媒としてチタン系化合物のみを用いることがより好ましい。
触媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
アルコキシ基を有するチタンアルコキシド化合物としては、例えばテトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラペントキシチタン、テトラオクトキシチタンなどが挙げられる。
カルボン酸チタン化合物としては、例えば蟻酸チタン、酢酸チタン、プロピオン酸チタン、オクタン酸チタン、シュウ酸チタン、コハク酸チタン、マレイン酸チタン、アジピン酸チタン、セバシン酸チタン、ヘキサントリカルボン酸チタン、イソオクタントリカルボン酸チタン、オクタンテトラカルボン酸チタン、デカンテトラカルボン酸チタン、安息香酸チタン、フタル酸チタン、テレフタル酸チタン、イソフタル酸チタン、1,3-ナフタレンジカルボン酸チタン、4,4-ビフェニルジカルボン酸チタン、2,5-トルエンジカルボン酸チタン、アントラセンジカルボン酸チタン、トリメリット酸チタン、2,4,6-ナフタレントリカルボン酸チタン、ピロメリット酸チタン、2,3,4,6-ナフタレンテトラカルボン酸チタンなどが挙げられる。
これらの中でも、チタン系化合物としては入手しやすさ等からテトラブトキシチタンが好ましい。
チタン系化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明の第二の態様において、エステル化工程の少なくとも一部は、PETの融点以上の温度で行われる。エステル化工程の少なくとも一部をPETの融点以上の温度で行うことで、PET又はBHETが溶融し、確実にPET又はBHETを多価アルコールや多価カルボン酸と反応させることができる。また、反応が迅速に進行するので、反応時間を短縮できる。
ここで、「エステル化工程の少なくとも一部」とは、エステル化反応の一部若しくは全部、又は、エステル交換反応の一部若しくは全部である。
【0041】
エステル化工程は、その全部がPETの融点以上の温度で行われることが好ましい。すなわち、エステル化反応若しくはエステル交換反応における重合温度は、PETの融点以上であることが好ましい。
PETの融点は通常、255℃前後である。よって、エステル化反応若しくはエステル交換反応における重合温度は、260℃以上が好ましく、265℃以上がより好ましい。また、エステル化反応若しくはエステル交換反応における重合温度は、290℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましい。重合温度の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。例えば、重合温度は260~290℃が好ましく、265~280℃がより好ましい。重合温度が上記下限値以上であれば、ポリエステル樹脂の生産性が向上する。重合温度が上記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂の分解や、臭気の要因となる揮発分の副生成を抑制でき、TVOCをより低減できる。
【0042】
重縮合反応時における重合温度は、180~280℃が好ましく、200~270℃がより好ましく、210℃~255℃がさらに好ましい。重縮合反応時の重合温度が上記下限値以上であれば、ポリエステル樹脂の生産性が向上する。重縮合反応時の重合温度が上記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂の分解や、臭気の要因となる揮発分の副生成を抑制でき、TVOCを低減できる。
【0043】
本発明の第二の態様では、エステル化工程及び重縮合工程において有機溶剤を使用しない。これらの工程で有機溶剤を使用しないことで、環境面及び健康面に配慮したポリエステル樹脂が容易に得られやすくなる。
ここで、「有機溶剤を使用しない。」とは、意図せずして原料などから持ち込まれる場合を除き、積極的にエステル化工程及び重縮合工程において反応系に有機溶剤を添加しないことを意味する。
【0044】
本発明の第二の態様においては、エステル化工程を3時間以内で行うことが好ましい。すなわち、エステル化反応時間及びエステル交換反応時間の合計が3時間(つまり、180分)以内であることが好ましい。エステル化反応及びエステル交換反応の際には、反応に伴い反応系から水もしくは低級アルコール等が留出するが、「エステル化反応時間及びエステル交換反応時間の合計」とは、この留分が出始めた時点から留出終了までの時間をいう。
エステル化反応時間及びエステル交換反応時間の合計は、60~180分が好ましく、80~150分がより好ましい。
【0045】
重合終点は、例えばポリエステル樹脂の軟化温度により決定される。例えば、攪拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで重縮合反応を行った後、重合を終了させればよい。ここで、「重合を終了させる」とは、反応容器の攪拌を停止し、反応容器の内部に窒素を導入して容器内を常圧とすることをいう。
重縮合反応時間は特に制限されないが、30~300分が好ましく、30~240分がより好ましい。
重縮合反応時間とは、反応系を重縮合反応温度にして減圧し始めた時点から、重合を終了させるまでの時間をいう。
冷却した後に得られたポリエステル樹脂を所望の大きさに粉砕してもよい。
【0046】
<作用効果>
以上説明した本発明の第一の態様のポリエステル樹脂は、TVOCが十分に低減されている。しかも、本発明の第一の態様のポリエステル樹脂は、多価アルコール由来の構成単位として脂肪族多価アルコール由来の構成単位のみを含み、芳香族アルコール由来の構成単位は含んでいないため、環境面及び健康面に配慮をできる。加えて、本発明の第一の態様のポリエステル樹脂は、MEK不溶解分が5質量%以下であり、かつ、前記式(1)を満たすので、溶剤溶解性が良好であり、溶剤系のインキ、塗料等及び溶剤に溶解して使用する用途への適合性が高まる。また、ポリエステル樹脂の軟化温度が110℃以上であることから、塗料となったときに基材に対する密着性に優れる塗膜が得られる。
【0047】
特に、ポリエステル樹脂の原料の一部にPET及びBHETの少なくとも一方を用いていれば、PET及びBHETはエチレングリコール由来の構成単位を既に含んでいるので、原料モノマーとしてのエチレングリコールの使用量を削減できる。エチレングリコールはVOCであるが、エチレングリコールの使用量を削減できれば、TVOCをより低減できる。なお、PET及びBHET中には、モノマーとしてのエチレングリコールは概ね残存していないので、PET及びBHET由来のVOCは発生しにくい。
【0048】
本発明の第一の態様のポリエステル樹脂は、溶剤系のインキ及び塗料、水系のインキ及び塗料、粉体塗料、トナー、溶剤系液体現像材及び水系現像材などに幅広く使用することができる。特に、溶剤溶解性が良好であることから、溶剤系のインキ及び塗料、又は溶剤系液体現像材のバインダー樹脂に適しており、溶剤系の塗料のバインダー樹脂として好適である。
【0049】
本発明の第二の態様のポリエステル樹脂の製造方法によれば、TVOCが十分に低減され、環境面及び健康面に配慮をしつつ、溶剤溶解性が良好であり、基材に対して密着性に優れる塗膜を形成できるポリエステル樹脂を容易に製造できる。
しかも、ポリエステル樹脂の原料の一部としてPET及びBHETの少なくとも一方を用いているので、TVOCがより低減されたポリエステル樹脂を製造できる。加えて、PET及びBHETが起点となり、エステル化反応やエステル交換反応が進行しやすくなるので、反応時間を短縮できる。
【0050】
[塗料]
本発明の第三の態様の塗料は、本発明の第一の態様のポリエステル樹脂と、溶剤とを含む、溶剤系の塗料である。
本発明の第一の態様のポリエステル樹脂の含有量は、塗料の総質量に対して20~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。
【0051】
溶剤としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル系溶剤:メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-エチルヘキサノール、エチレングリコール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;セロソルブアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール等のセロソルブ系溶剤などが挙げられる。
溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
溶剤の含有量は、塗料の総質量に対して30~80質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましい。
【0052】
塗料は、本発明の第一の態様のポリエステル樹脂及び溶剤に加えて、着色剤をさらに含んでいてもよい。
着色剤としては、無機系着色剤、有機系着色剤が挙げられる。無機系着色剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化クロム、シリカ、カーボンブラック、アルミニウム、マイカなどが挙げられる。有機系着色剤としては、有機顔料や染料があり、例えばアゾ系着色剤、フタロシアニン系着色剤、アントラキノン系着色剤、ペリレン系着色剤、ペリノン系着色剤、キナクリドン系着色剤、チオインジゴ系着色剤、ジオキサジン系着色剤、イソインドリノン系着色剤、キノフタロン系着色剤、アゾメチンアゾ系着色剤、ジクトピロロピロール系着色剤、イソインドリン系着色剤などが挙げられる。
着色剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
着色剤の含有量は、塗料の総質量に対して1~50質量%が好ましい。
【0053】
顔料等の着色剤を安定に分散させるには、バインダー樹脂単独でも分散可能であるが、さらに顔料を安定に分散させるため顔料分散剤を併用することもできる。
顔料分散剤としては、例えばアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤などが挙げられる。
顔料分散剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
顔料分散剤は、塗料の総質量に対して0.05~10質量%が好ましい。
【0054】
塗料は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて、本発明の第一の態様のポリエステル樹脂、溶剤、着色剤及び顔料分散剤以外の成分(以下、「任意成分」ともいう。)をさらに含んでいてもよい。
任意成分としては、例えば油脂、レベリング剤、消泡剤、シランカップリング剤、可塑剤、湿潤剤、乳化剤、粘度調節剤等の添加剤などが挙げられる。
【0055】
塗料を製造する方法としては特に制限されないが、溶剤に本発明の第一の態様のポリエステル樹脂と、必要に応じて着色剤、顔料分散剤及び任意成分の1つ以上とを溶解又は分散させることで得られる。
【0056】
本発明の第三の態様の塗料は、上述した本発明の第一の態様のポリエステル樹脂を含むので、TVOCが十分に低減され、環境面及び健康面に配慮をしつつ、基材に対して密着性に優れる塗膜を形成できる。
【実施例0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例で示されるポリエステル樹脂の測定及び評価方法は、以下の通りである。
【0058】
[測定・評価方法]
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、示差走差熱量計(株式会社島津製作所製、「DSC-60」)を用いて、昇温速度5℃/分におけるチャートのベースラインと吸熱カーブの接線との交点から測定した。測定試料は、10mg±0.5mgをアルミパン内に計量し、ガラス転移温度以上の100℃で10分融解後、ドライアイスを用いて急冷却処理したサンプルを用いて行った。
【0059】
<軟化温度(T4)の測定>
ポリエステル樹脂の軟化温度は、フローテスター(株式会社島津製作所製、「CFT-500D」)を用いて、1mmφ×10mmのノズル、荷重294N、昇温速度3℃/分の等速昇温下で、樹脂サンプル1.0g中の1/2量が流出したときの温度を測定し、これをポリエステル樹脂の軟化温度とした。
【0060】
<酸価(AV)の測定>
ポリエステル樹脂の酸価は、以下のようにして測定した。
測定サンプル約0.2gを枝付き三角フラスコ内に精秤し(A(g))、ベンジルアルコール20mLを加え、窒素雰囲気下として230℃のヒーターにて15分加熱し測定サンプルを溶解した。室温まで放冷後、クロロホルム20mL、クレゾールレッド溶液数滴を加え、0.02規定のKOH溶液にて滴定した(滴定量=B(mL)、KOH溶液の力価=f)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=C(mL))、以下の式に従って酸価を算出した。
酸価(mgKOH/g)={(B-C)×0.02×56.11×f}/A
【0061】
<水酸基価(OHV)の測定>
ポリエステル樹脂の水酸基価は、以下のようにして測定した。
測定サンプル約5.0gを三角フラスコ内に精秤し(A(g))、テトラヒドロフラン(THF)50mL加え、完全に溶解させた。ジメチルアミノピリジン/THF溶液30mLを加え、無水酢酸/THF溶液10mLを加えた後、15分撹拌した。さらに蒸留水3mLを加え、15分撹拌した後、THF50mL及び0.5規定のKOH溶液25mLを加えた。指示薬としてフェノールフタレイン溶液数滴を加え、0.5規定のKOH溶液にて滴定した(滴定量=B(mL)、KOH溶液の力価=f)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=C(mL))、以下の式に従って水酸基価を算出した。
水酸基価(mgKOH/g)={(C-B)×56.11×f}/A+酸価
【0062】
<分子量の測定>
ポリエステル樹脂の数平均分子量及び重量平均分子量は、GPC法によりポリスチレン換算値として以下の条件下で求めた。
GPC法により、得られた溶出曲線のピーク値に相当する保持時間から、重量平均分子量(Mw)、ピーク分子量(Mp)、数平均分子量(Mn)、分散度(Mw/Mn)を標準ポリスチレン換算により求めた。なお、溶出曲線のピーク値とは、溶出曲線が極大値を示す点であり、極大値が2点以上ある場合は、溶出曲線が最大値を与える点のことである。
・装置:東ソー株式会社製、HLC8020、
・カラム:東ソー株式会社製、TSKgelGMHXL(カラムサイズ:7.8mm(ID)×30.0cm(L))を3本直列に連結、
・オーブン温度:40℃、
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、
・試料濃度:4mg/10mL、
・濾過条件:0.45μmテフロン(登録商標)メンブレンフィルターで試料溶液を濾過、
・流速:1mL/分、
・注入量:0.1mL、
・検出器:RI、
・検量線作成用標準ポリスチレン試料:東ソー(株)製TSK standard、A-500(分子量5.0×102)、A-2500(分子量2.74×103)、F-2(分子量1.96×104)、F-20(分子量1.9×105)、F-40(分子量3.55×105)、F-80(分子量7.06×105)、F-128(分子量1.09×106)、F-288(分子量2.89×106)、F-700(分子量6.77×106)、F-2000(分子量2.0×107)。
【0063】
<TVOCの測定>
ポリエステル樹脂のTVOCは、以下のようにして測定した。
内部標準液が入ったクロロホルム溶液のサンプルをガスクロマトグラフ装置で測定後、事前に作成した検量線を用いて、TVOCを定量した。測定装置、測定条件、定量方法は以下の通りである。
なお、揮発性有機化合物とは、ポリエステル樹脂の原料に使用される液体モノマー由来の成分であり、触媒や溶剤は含まない。
【0064】
(測定装置)
・ガスクロマトグラフ(GC):株式会社島津製作所製、GC-2014、
・オートインジェクタ/オートサンプラー:株式会社島津製作所製、AOC-20 、
・データ処理装置:株式会社島津製作所製、C-R7A plus。
【0065】
(GC条件)
・キャピラリーカラム:株式会社島津製作所製、DB-5(長さ30m、直径0.53mm、膜厚1.5μm)、
・カラム温度:40℃(1min)→10℃/min→250℃(3min)、
・キャリアガス:ヘリウム(流量4.1mL/min)、
・入口圧:21.0KPa、
・線速度:29.7cm/min、
・スプリット比:20.0、
・全流量:89.1mL/min、
・注入モード:SPLITLESS、
・制御モード:線速度。
【0066】
(TVOCの定量方法)
<<内部標準液の作成>>
1,4-ブタンジオール0.25mLをメスピペットで500mLメスフラスコに加え、クロロホルムで標線を合わせた。十分に混合後したものを内部標準液とした。
<<検量線の作成>>
0.1000mg/mLのエチレングリコール(EG)のクロロホルム溶液を原液とし、以下の比率で調製した3種類の混合溶液についてGCを測定し、検量線を作成した。
1)原液/クロロホルム/内部標準液=2mL/18mL/1mL
2)原液/クロロホルム/内部標準液=4mL/16mL/1mL
3)原液/クロロホルム/内部標準液=6mL/14mL/1mL
<<サンプルの測定>>
測定試料約0.5gを三角フラスコ内に精秤し、クロロホルム20mL、内部標準液1mL加え、完全に溶解させた。これをガスクロマトグラフ装置で測定し、事前に作成した検量線を用いて、EG量を定量した。
なお、ここではエチレングリコールを一例としたが、他の液体モノマーについても同様の手法で測定することができる。
【0067】
<MEK不溶解分の測定>
MEK不溶解分は、以下の条件で求めた。
目開き3mmの篩を通過する大きさまで粉砕したポリエステル樹脂を約15g、共栓つき三角フラスコに精秤した。このときの重量を、Agとした。MEK約35gを加えて3時間スターラーで撹拌してポリエステル樹脂を溶解させ、ポリエステル樹脂の濃度が30質量%のMEK溶液を調製した。
ガラスフィルター1GP100にセライト545を7分目程度まできつく充填し、105℃の真空乾燥機で3時間以上乾燥した。このときの重量を、Bgとした。
次いで、上記で乾燥したガラスフィルターを吸引瓶にセットし、吸引しながらポリエステル樹脂のMEK溶液を通過させた。MEKを用いてフラスコ内容物全てフィルターに移し、フィルター内に可溶分が残らないようMEKを用いて流して洗浄した後、30分以上吸引を続けた。不溶解分が残ったガラスフィルターを80℃の真空乾燥機で1時間以上真空乾燥した。このときの重量をCgとした。
以下の式に従ってMEK不溶解分を求めた。
MEK不溶解分(%)={(C-B)/A}×100
【0068】
<溶解性の評価>
溶解性は、以下の評価基準にて評価した。
(評価基準)
◎(非常に良好):MEK不溶解分が1%以下。
○(良好): MEK不溶解分が1%超、5%以下。
×(劣る):MEK不溶解分が5%超。
【0069】
<PET密着性の評価>
ポリエステル樹脂及びMEKを固形分濃度が30質量%となるようにガラス製容器に秤量し、マグネティックスターラーで完全に溶解させ、MEK溶液を調製した。
バーコーター(20番)を用い、得られたMEK溶液を未処理のPETフィルム(東洋紡株式会社製、商品名「コスモシャインA4100」、厚さ125μm)上に乾燥膜厚が10μmになるように塗工し、25℃で30分間乾燥して、PETフィルム上に塗膜が形成された試験片を作製した。
試験片の塗膜面にセロハン粘着テープの端部を残して貼りつけ、その上から1.2kgのローラーで10回こすって十分に密着させた後、この粘着テープをPETフィルムに対して直角としてから急激に剥がし、PETフィルム上の塗膜の残存状態を目視にて観察し、以下の基準でPETフィルムに対する密着性(PET密着性)を評価した。
(評価基準)
○:粘着テープを密着させた面積を100%としたときに、99%を超える塗膜がPETフィルム上に残存している。
△:粘着テープを密着させた面積を100%としたときに、50%以上、99%未満の塗膜がPETフィルム上に残存している。
×:粘着テープを密着させた面積を100%としたときに、50%未満の塗膜しかPETフィルム上に残存していない。
【0070】
[実施例1]
<ポリエステル樹脂の製造>
酸成分100モル部に対し、PET47モル部(439.6g)と、イソフタル酸52.9モル部(391.1g)と、アジピン酸0.1モル部(0.65g)と、エチレングリコール28モル部(77.34g)と、ネオペンチルグリコール55モル部(254.9g)と、トリメチロールプロパン5モル部(29.85g)と、触媒としてテトラブトキシチタンを酸成分に対して500ppm(0.416g)とを蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。
なお、PETは、テレフタル酸1モル及びエチレングリコール1モルからなるユニットをPET1モルとし、PET1モルにつき、PET由来のテレフタル酸は、酸成分1モルとして、PET由来のエチレングリコールはアルコール成分1モルとして、それぞれカウントした。すなわち、実施例1で反応容器に投入した混合物(M)は、酸成分が100モル部、アルコール成分が135モル部である。
【0071】
次いで、昇温を開始し、反応容器中の撹拌翼の回転数を徐々に上げ、200rpmに保ち、反応系内の温度が265℃になるように加熱し、この温度を保持してエステル化反応を行った。反応系からの水の留出がなくなった時点で、エステル化反応を終了した。反応系から水が出始めた時点からエステル化反応終了時点までの時間(つまり、エステル化反応時間及びエステル交換反応時間の合計)を、「エステル化反応」として表1に示す。
【0072】
次いで、反応系内の温度を下げて245℃に保ち、反応容器内を約20分間かけて減圧し、真空度を133Paとして重縮合反応を行った。反応とともに反応系の粘度が上昇し、粘度上昇とともに真空度を上昇させ、撹拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで縮合反応を実施した。そして、所定のトルクを示した時点で撹拌を停止し、反応系を常圧に戻し、窒素により加圧して反応生成物を反応容器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。重縮合反応に要した時間(つまり、重縮合反応時間)を「重縮合反応」として表1に示す。
【0073】
得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度、軟化温度、酸価、水酸基価、数平均分子量、重量平均分子量、TVOC、及びMEK不溶解分を測定した。これらの結果をそれぞれTg、T4、AV、OHV、Mn、Mw、TVOC、MEK不溶解分として表1に示す。
また、得られたポリエステル樹脂について、溶解性及びPET密着性を評価した。これらの結果を表1に示す。
なお、実施例1で得られたポリエステル樹脂は、PET由来の構成単位、イソフタル酸由来の構成単位、アジピン酸由来の構成単位と、エチレングリコール由来の構成単位と、ネオペンチルグリコール由来の構成単位と、トリメチロールプロパン由来の構成単位とを含み、各構成単位の割合は、仕込み組成と概ね一致する。
【0074】
[実施例2~6、比較例1~3]
<ポリエステル樹脂の製造>
表1、2に示す仕込み組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を製造し、各種測定及び評価を行った。これらの結果を表1、2に示す。
【0075】
【0076】
【0077】
表1、2中の略号は以下の通りである。また、表中の空欄は、その成分が配合されていないこと(配合量0質量%または0モル部)を意味する。
・PET:使用済みのPETを再生した、IV値0.57のリサイクルポリエチレンテレフタレート、
・BHET:ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート、
・TPA:テレフタル酸、
・IPA:イソフタル酸、
・ADA:アジピン酸、
・SbA:セバシン酸、
・SIPM:5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム、
・EG:エチレングリコール、
・DEG:ジエチレングリコール、
・NPG:ネオペンチルグリコール、
・TMP:トリメチロールプロパン。
なお、PETのIV値は、フェノールと1,1,2,2-テトラクロルエタンとを質量比1:1で混合した混合溶媒30mLにPET0.3gを溶解し、得られた溶液について、ウベローデ粘度計を使用して30℃で測定した。
【0078】
表1から明らかなように、各実施例で得られたポリエステル樹脂は、TVOCが十分に低減され、環境面及び健康面に配慮をしつつ、MEKに対する溶解性が良好であった。また、これらのポリエステル樹脂を含む塗料からは、PET密着性に優れる塗膜を形成できた。
【0079】
一方、比較例1で得られたポリエステル樹脂は、TVOCが高く、使用者の健康や環境への影響が懸念される。
比較例2で得られたポリエステル樹脂はMEK不溶解分が多く、MEKに対する溶解性に劣っていた。そのため、比較例2ではPET密着性の評価を行わなかった。
比較例3で得られたポリエステル樹脂は軟化温度が低く、このポリエステル樹脂を含む塗料より形成される塗膜は、PET密着性に劣っていた。
本発明のポリエステル樹脂は、TVOCが十分に低減され、環境面及び健康面に配慮をしつつ、溶剤溶解性が良好であり、基材に対する密着性に優れる塗膜を形成できるポリエステル樹脂であり、溶剤系のインキ及び塗料、水系のインキ及び塗料、粉体塗料、トナー、溶剤系液体現像材及び水系現像材などに幅広く使用することができる。