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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144503
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】起上り性を有する膨化食品
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/40 20170101AFI20231003BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20231003BHJP
   A23J 3/26 20060101ALI20231003BHJP
   A23J 3/14 20060101ALI20231003BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20231003BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20231003BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
A21D13/40
A23J3/16 501
A23J3/26
A23J3/14
A21D2/26
A21D13/00
A23G3/34 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051503
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 裕之
【テーマコード(参考)】
4B014
4B032
【Fターム(参考)】
4B014GE04
4B014GG12
4B014GP01
4B014GP15
4B014GQ10
4B032DB40
4B032DE01
4B032DK21
4B032DP23
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】蛋白質を主原料とした起上り性を有する膨化食品の提供。
【解決手段】麻蛋白質、大豆蛋白質、及び水を含む生地を焼成することにより、中空であり、外皮と、底部方向に偏った内相とを備え、丸い底部を有する膨化食品を生成することを含む、膨化食品の製造方法、及びその膨化食品。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻蛋白質、大豆蛋白質、及び水を含む生地を焼成することにより、中空であり、外皮と、底部方向に偏った内相とを備え、丸い底部を有する膨化食品を生成することを含む、膨化食品の製造方法。
【請求項2】
焼成により生成する前記膨化食品が起上り性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
大豆蛋白質に対する麻蛋白質の重量比率が15~70重量%である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記生地が水を60~72重量%含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
円柱状又は球状に成形した前記生地を焼成する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記生地を180~240℃の温度条件下で焼成する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記生地を常圧下で焼成する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記生地が大豆蛋白質と麻蛋白質をその合計量で20重量%以上含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
焼成により生成する前記膨化食品が球状である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記生地が食物繊維をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記生地が膨張剤を含まない、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記生地がグルテン、α化デンプン、及び増粘剤のいずれも含まない、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法によって製造される、膨化食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起上り性を有する膨化食品に関する。
【背景技術】
【0002】
健康増進を目的とした高蛋白質で低糖質の食品の開発が求められている。栄養摂取にも適した菓子の需要は高く、高蛋白質で低糖質の菓子は気軽な栄養補給に利用できる。
【0003】
一方、食玩市場では大人と子供のボーダーレス化現象がみられ、ヒット商品が誕生するなど、今後も国境を越えた世界規模での拡大が期待される(非特許文献1)。遊びの要素(玩具性)を有する菓子や食品の需要は高い。例えば、起上り小法師のような起上り性を有する菓子は、菓子それ自体が玩具性を有する。
【0004】
特許文献1は、上部に空洞を有し、下部は密となるよう成形された起上り性を有するチョコレート菓子の製法を開示している。しかしこの製法で得られるチョコレート菓子は低蛋白質で高糖質であり、近年の健康志向の食品需要に応えるものではない。また特許文献1の製法は、2分割された合わせモールドを用い、それぞれ成形した上部と下部のチョコレート部分を接合し一体化する際にモールドを反転させることによって接着部分のチョコレート壁を厚く均等にするものであり、複雑な製造工程と特別な製造装置を必要とする。
【0005】
特許文献2は、所定の加水分解度を有する植物性分離蛋白、膨張剤、油脂、及び水を含む生地を加熱処理して得られる、特異な外観と食感を有する中空状スナック菓子の製造方法を開示している。特許文献2の製法では生地の膨化のために膨張剤を必要としている。特許文献2で得られる中空状スナック菓子は起上り性を有していない。
【0006】
特許文献3は、大豆、デンプン及びα化デンプンを配合した生地を焼成することにより中空菓子を製造する方法を開示している。特許文献3は、菓子類の材料としての小麦粉の全部又は一部を大豆蛋白に置換すると膨化性が低下する問題があること、それを解決するために膨化剤等が従来使用されてきたことを指摘した上で、大豆、デンプン、及び膨化作用を有するα化デンプンの3成分を用いることで、膨化剤等を使用せずに、大豆の含有量を多くしても生地を良好な中空状に膨化させることができると記載している。特許文献3の方法で得られる中空菓子は、サクサクとした軽い食感を備えたものであり、起上り性は有していない。
【0007】
非特許文献2は、大豆蛋白質の一部を麻蛋白質で置換した大豆蛋白質ベースの肉代替品の製造方法を開示している。非特許文献2は、大豆蛋白質と麻蛋白質の混合物を二軸エクストルーダーを用い300~800rpmのスクリュー速度、40~120℃の温度で撹拌、加熱、及び加圧し、冷却射出すること(エクストルージョン・クッキング)により、肉代替品を製造したことを記載している。非特許文献2に記載の方法で製造された肉代替品は、高蛋白質で低糖質ではあるが、中空ではなく、起上り性を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7-16058号公報
【特許文献2】特開2018-42554号公報
【特許文献3】国際公開WO2012/053536号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】隅田,「食品産業における子供市場に関するマーケティング論的研究」, 四天王寺大学紀要, 64, p.179-194 (2017)
【非特許文献2】Zahari et al., Foods, 9, e772 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、蛋白質を主成分とした起上り性を有する膨化食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、麻蛋白質と大豆蛋白質を含む生地を焼成すると、生地が膨化して中空となり、丸い底部と、底部方向に偏った内相が形成され、その結果、起上り性を有する膨化食品を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]麻蛋白質、大豆蛋白質、及び水を含む生地を焼成することにより、中空であり、外皮と、底部方向に偏った内相とを備え、丸い底部を有する膨化食品を生成することを含む、膨化食品の製造方法。
[2]焼成により生成する前記膨化食品が起上り性を有する、上記[1]に記載の方法。
[3]大豆蛋白質に対する麻蛋白質の重量比率が15~70重量%である、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記生地が水を60~72重量%含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]円柱状又は球状に成形した前記生地を焼成する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記生地を180~240℃の温度条件下で焼成する、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記生地を常圧下で焼成する、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記生地が大豆蛋白質と麻蛋白質をその合計量で20重量%以上含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]焼成により生成する前記膨化食品が球状である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記生地が食物繊維をさらに含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]前記生地が膨張剤を含まない、上記[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]前記生地がグルテン、α化デンプン、及び増粘剤のいずれも含まない、上記[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]上記[1]~[12]のいずれかに記載の方法によって製造される、膨化食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蛋白質を主成分とした起上り性を有する膨化食品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は膨化食品の製造過程で得られた生地の写真を示す。A:原料の混合・攪拌後の生地、B:焼成前の円柱状に成形した生地、C:焼成後の生地(膨化食品)。生地20gを焼成に供して膨化食品を得た。
図2図2は得られた膨化食品の鉛直方向の断面の写真の例を示す。矢印は、膨化食品における外皮、内相、又は中空部をそれぞれ示している。生地20gを焼成に供して膨化食品を得た。
図3図3は加水量が異なる生地から得られた膨化食品の写真を示す。A~C:生地No.5で得られた膨化食品の頂部(上部)(A)、底部(下部)(B)、鉛直方向の断面(C)。D~F:生地No.12で得られた膨化食品の頂部(上部)(D)、底部(下部)(E)、鉛直方向の断面(F)。生地20gを焼成に供して膨化食品を得た。
図4図4は各種配合の生地から得られた膨化食品の写真を示す。A~C:生地No.14で得られた膨化食品の頂部(上部)(A)、底部(下部)(B)、鉛直方向の断面(C)。D:生地No.18で得られた膨化食品の鉛直方向の断面。E:生地No.21で得られた膨化食品の鉛直方向の断面。F:生地No.25で得られた膨化食品の鉛直方向の断面。G:生地No.29で得られた膨化食品の鉛直方向の断面。H:生地No.31で得られた膨化食品の鉛直方向の断面。I~K:生地No.44で得られた膨化食品の頂部(上部)(A)、底部(下部)(B)、鉛直方向の断面(C)。それぞれの生地20gを焼成に供して膨化食品を得た。
図5図5は生地No.29と同一の生地1gを球形に成形し、焼成に供して作製した膨化食品の写真を示す。A、B:得られた膨化食品の頂部(上部)(A)、及び鉛直方向の断面(B)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は蛋白質を主成分とした起上り性を有する膨化食品及びその製造方法に関する。
【0016】
膨化食品は、原料、特に原料を混合し生成される生地を膨化(膨張)させる工程を経て製造される食品である。食品における膨化とは、通常、食品(典型的には、生地)の内部に閉じ込められた気体の体積が増加するか及び/又は食品の内部で気体が発生することにより、食品が膨らみ、サイズが増大した食品が生成することを意味する。
【0017】
本発明では、起上り性を有する膨化食品を製造することができる。本発明において「起上り性」とは、起上り小法師が示す挙動、すなわち、転がしたり傾けたりしても一定の姿勢に自律的に復元して静止する特性を意味する。一般的に、起上り小法師においては、静止状態で、丸い底部の球中心よりも低い位置に重心があることにより、起上り小法師を傾けたときには重心が高くなって重力で元に戻ろうとする力が働き、その結果、起上り小法師が起き上がって元の姿勢に戻る(復元する)ことになる。本発明で得られる膨化食品も、起上り小法師と基本的に同じ原理で「起上り性」を示す。
【0018】
本発明では、本発明に係る生地を焼成することにより、中空であり、起上り性を有する膨化食品を生成することができる。より具体的な実施形態では、本発明の方法では、本発明に係る生地を焼成することにより、中空であり、外皮と、底部方向に偏った内相とを備え、丸い底部を有する膨化食品を生成することができる。本発明は、麻蛋白質、大豆蛋白質、及び水を含む生地を焼成することにより、中空であり、外皮と、底部方向に偏った内相とを備え、起上り性を有する膨化食品を生成することを含む、膨化食品の製造方法を提供する。好ましい実施形態では、本発明は、麻蛋白質、大豆蛋白質、及び水を含む生地を焼成することにより、中空であり、外皮と、底部方向に偏った内相とを備え、丸い底部を有し、それにより起上り性を有する膨化食品を生成することを含む、膨化食品の製造方法を提供する。より好ましい実施形態では、本発明は、麻蛋白質、大豆蛋白質、及び水を含む生地を焼成することにより、中空かつ球状であり、外皮と、底部方向に偏った内相とを備え、起上り性を有する膨化食品を生成することを含む、膨化食品の製造方法を提供する。
【0019】
本発明において「麻蛋白質」とは、食品分野で使用される用語としての麻蛋白質を意味し、具体的には、麻の実に含まれる(麻の実由来の)蛋白質又はその分離物を指す。本発明の生地は、麻蛋白質の供給源として、麻蛋白質含有原料を含むことができる。すなわち、本発明における「麻蛋白質」は、麻蛋白質含有原料に含まれるものであってよい。本発明において「麻蛋白質含有原料」は、麻の実から製造された麻蛋白質含有原料であってよく、例えば、麻の実から脱脂、抽出、分離、精製、及び/又は濃縮して得られる麻蛋白質画分、麻蛋白質粗精製品、麻蛋白質精製品、麻の実パウダー等であってよい。麻蛋白質含有原料は、粉末状(粉体)、粒状(顆粒)、繊維状(繊維体)、ペースト状(ペースト)などの分散体であることが好ましいが、それに限定されない。本発明において「麻」は、大麻(Cannabis sativa L.)(ヘンプとも呼ばれる)を指す。
【0020】
本発明において「大豆蛋白質」は、食品分野で使用される用語としての大豆蛋白質を意味し、具体的には、大豆の豆(種子)に含まれる(大豆の豆(種子)由来の)蛋白質又はその分離物を指す。本発明の生地は、大豆蛋白質の供給源として、大豆蛋白質含有原料を含むことができる。すなわち、本発明における「大豆蛋白質」は、大豆蛋白質含有原料に含まれるものであってよい。本発明において「大豆蛋白質含有原料」は、大豆の豆(種子)から製造された大豆蛋白質含有原料であってよく、例えば、大豆の豆(種子)から脱脂、抽出、分離、精製、及び/又は濃縮して得られる大豆蛋白質画分、大豆蛋白質粗精製品、大豆蛋白質精製品、大豆粉等であってよい。大豆蛋白質含有原料は、例えば、分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白等であってもよい。大豆蛋白質含有原料は、粉末状(粉体)、粒状(顆粒)、繊維状(繊維体)、ペースト状(ペースト)などの分散体であることが好ましいが、それに限定されない。
【0021】
本発明に係る膨化食品の生地は、麻蛋白質、大豆蛋白質、及び水を含む。本発明に係る生地及びそれを焼成した膨化食品は、大豆蛋白質を麻蛋白質よりも多い量(重量ベース)で含むことが好ましく、大豆蛋白質に対する麻蛋白質の重量比率は、好ましくは15~90重量%であり、より好ましくは15~70重量%であり、さらに好ましくは16~66重量%であり、例えば、30~70重量%、30~50重量%、又は40~66重量%である。本発明において、大豆蛋白質に対する麻蛋白質の重量比率(%)は、式:[重量比率(%)=麻蛋白質の配合量(重量)/大豆蛋白質の配合量(重量)×100]に従って算出することができる。大豆蛋白質に対する麻蛋白質の重量比率が上記の好ましい範囲である場合、本発明の膨化食品は、丸い底部、ひいては球状である全体形状をより形成しやすく、また、底部方向への内相の偏りをより生じやすい。
【0022】
なお、本明細書において、用語「本発明に係る生地」及び「本発明の生地」は、「焼成後の生地」のような特段の記載が無い限り、生地の原料を混合するなどして調製した生地であって加熱や焼成を行っていない(焼成前の)生地を意味する。
【0023】
一実施形態では、本発明に係る生地は、生地の総重量(生地の原料の合計量;本明細書において以下同様)に対し、麻蛋白質を、3重量%以上含むことが好ましく、4重量%以上含むことがより好ましく、5重量%以上含むことがさらに好ましく、例えば、6重量%以上、又は8重量%以上含んでもよい。一実施形態では、本発明に係る生地は、生地の総重量に対し、麻蛋白質を、14重量%以下で含むことが好ましく、12重量%以下で含むことがより好ましい。
【0024】
一実施形態では、本発明に係る生地は、生地の総重量に対し、大豆蛋白質を、10重量%以上含むことが好ましく、14重量%以上含むことがより好ましく、15重量%以上含むことがさらに好ましく、例えば、16重量%以上、又は18重量%以上含んでもよい。一実施形態では、本発明に係る生地は、生地の総重量に対し、大豆蛋白質を、40重量%以下で含むことが好ましく、25重量%以下で含むことがより好ましく、22重量%以下で含むことがさらに好ましい。
【0025】
一実施形態では、本発明に係る生地は、大豆蛋白質と麻蛋白質を、その合計量で、生地の総重量に対し、13重量%以上含むことが好ましく、20重量%以上含むことがより好ましく、23重量%以上含むことがさらに好ましく、24重量%以上含むことが特に好ましく、例えば、13重量%以上40重量%未満、13~38重量%、13~37重量%、13~35重量%、13~30重量%、13~27重量%、20~38重量%、20~37重量%、20~35重量%、20~30重量%、20~27重量%、23~38重量%、23~37重量%、23~35重量%、23~30重量%、23~27重量%、24~38重量%、24~37重量%、24~35重量%、24~30重量%、又は24~27重量%含んでもよい。
【0026】
一実施形態では、本発明に係る生地は、生地の総重量に対し、水(水分)を、55重量%以上含むことが好ましく、60重量%以上含むことがより好ましく、60~72重量%含むことがさらに好ましく、63~72重量%含むことが特に好ましく、例えば、64~72重量%、64~71重量%、又は64~69重量%含んでもよい。水の含量が63重量%未満の場合、焼成後の内相の偏りがより少なくなる傾向が示される。水の含量が72重量%を超える場合、焼成後の底部の丸みがより少なくなる傾向が示される。水(水分)は、軟水、硬水、水道水、ミネラルウォーターなどの任意の水を他の原料と配合することによって生地に含ませてもよいし、あるいは、緑茶、紅茶、清涼飲料水、牛乳などの飲料又は水性原料を他の原料と配合することによって生地に水を含ませてもよい。
【0027】
一実施形態では、本発明に係る生地は、麻蛋白質、大豆蛋白質、及び水に加えて、食物繊維をさらに含むことが好ましい。食物繊維は、特に限定されないが、麻の実由来の食物繊維、大豆の豆(種子)由来の食物繊維、若しくは他の食用植物由来の食物繊維、又はそれらの任意の組み合わせを含むものであってよい。食物繊維は、例えば、麻蛋白質含有原料及び大豆蛋白質含有原料のうち少なくとも一方に含まれる食物繊維であってもよい。食物繊維は、水不溶性食物繊維であるか又は水不溶性食物繊維を含むことが好ましいが、それに限定されない。一実施形態では、本発明に係る生地は、生地の総重量に対し、食物繊維(例えば、麻の実由来の食物繊維)を、1重量%以上含むことが好ましく、2重量%以上含むことがより好ましく、2.5重量%以上含むことがさらに好ましく、3重量%以上含むことが特に好ましく、例えば、1~6重量%、2~6重量%、2~5重量%、2.5~5重量%、又は3~5重量%含んでもよい。
【0028】
本発明に係る生地は、膨張剤を含む必要がなく、典型的には、膨張剤を含まないか又は生地を膨化させるのに必要な有効量未満の量しか含まない。本発明において、用語「膨張剤」(膨化剤、又は発泡剤とも称される)とは、膨化食品において、炭酸ガスなどの気体を発生させ、生地を膨らませるために使用される食品添加物を意味する。膨張剤としては、重曹(炭酸水素ナトリウム)、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、重炭酸アンモニウム等、及びそれらと組み合わせて使用する酒石酸、酒石酸水素カリウム、フマール酸、フマール酸ナトリウム、第一リン酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、ミョウバン、アンモニウムミョウバン、グルコノデルタラクトン、塩化アンモニウム等、あるいは、ベーキングパウダー、イースト(酵母)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明に係る生地は、グルテンを含んでもよいが、膨化のためにグルテンを含む必要はなく、典型的には、グルテンを含まないか又は生地を膨化させるのに必要な有効量未満の量のグルテンしか含まない。本発明に係る生地は、増粘剤を含んでもよいが、膨化のために増粘剤を含む必要はなく、典型的には、増粘剤を含まないか又は生地を膨化させるのに必要な有効量未満の量の増粘剤しか含まない。一実施形態では、本発明に係る生地は、グルテン及び増粘剤のいずれも含まない。
【0030】
本発明に係る生地は、デンプンを含んでもよいが、膨化のためにデンプンを含む必要はなく、典型的には、デンプンを含まないか又は生地を膨化させるのに必要な有効量未満の量のデンプンしか含まない。本発明に係る生地は、α化デンプンを含んでもよいが、膨化のためにα化デンプンを含む必要はなく、典型的には、α化デンプンを含まないか又は生地を膨化させるのに必要な有効量未満の量のα化デンプンしか含まない。
【0031】
一実施形態では、本発明に係る生地は、グルテン、増粘剤、及びデンプンのいずれも含まない。一実施形態では、本発明に係る生地は、グルテン、増粘剤、及びα化デンプンのいずれも含まない。
【0032】
一般的な小麦粉パンの製造においては、小麦粉に水を加えて練り合わせることにより、小麦粉に含まれる蛋白質グリアジンとグルテニンから粘り気と弾力性に富む「グルテン」が形成され、これがパン生地の伸張性及び弾力性を高めることで、発酵・焼成後の小麦粉パンが良好な膨らみや柔らかさを有するようになることが知られている。一方でグルテンは、小麦アレルギーやセリアック病症状等の原因となることが知られている他、近年ではグルテンフリー食品指向の高まりによって食品中の含量低減が期待されている。本発明に係る生地中のグルテンの含量は、生地を膨化させるのに必要な有効量未満であることが好ましい。用語「グルテン」は、生地調製時のミキシングや混捏などにより生成するグルテン、及び、食品添加物として生地に配合されるグルテンのいずれも包含する。
【0033】
本発明において、用語「増粘剤」は、食品分野で使用できる多種多様な増粘剤を指し、例えば増粘多糖類、ゲル化剤等を包含する。増粘剤の例としては、アルギン酸、アラビアガム、カラギナン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン、セルロース、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、グルコマンナン、ゼラチン、寒天などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明において、用語「デンプン」は、一般的なデンプン(生デンプン;βデンプン)、加工デンプン、α化デンプン(糊化デンプン)、及び老化(β化)デンプンを包含する。デンプンとしては、例えば、小麦デンプン、米デンプン、もち米デンプン、コーンスターチ、バレイショデンプン、キャッサバ(タピオカ)デンプン、サツマイモデンプン、レンコンデンプン、クワイデンプン、緑豆デンプン、エンドウデンプン、ソラマメデンプン、小豆デンプン、インゲンデンプン、くずデンプン、カタクリデンプン、及びサゴデンプンが挙げられるが、これらに限定されない。加工デンプン(デンプン誘導体又は化工デンプンとも称される)は、デンプンに化学的な加工を施すことで機能を高めた食品添加物であり、例えば、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、デンプングリコール酸ナトリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。α化デンプンは、デンプンを水存在下で加熱することにより糊化(α化)したものである。本発明において「α化デンプン」は、α化加工デンプンを包含する。一実施形態では、本発明に係る生地中のデンプンの含量は、生地の総重量に対し、1重量%未満、0.5重量%未満、又は0.4重量%未満であることが好ましい。一実施形態では、本発明に係る生地中のα化デンプンの含量は、生地の総重量に対し、1重量%未満、0.5重量%未満、又は0.4重量%未満であることが好ましい。
【0035】
一実施形態では、本発明に係る生地は、麻デンプン及び大豆デンプン以外のデンプンを含まないことが好ましい。一実施形態では、本発明に係る生地は、麻デンプン及び大豆デンプン以外のデンプンを含まず、かつ、麻デンプン及び/又は大豆デンプンをその合計量で、生地を膨化させるのに必要な有効量未満の量しか含まない。一実施形態では、本発明に係る生地中の麻デンプン及び/又は大豆デンプンの含量は、麻デンプンと大豆デンプンの合計量で、生地の総重量に対し、1重量%未満、0.5重量%未満、又は0.4重量%未満であることが好ましい。
【0036】
本発明に係る生地は、糖質を含んでもよいが、その含量は少ないことが好ましい。一実施形態では、本発明に係る生地は、糖質として、単糖、又はオリゴ糖(二糖、三糖など)を含んでもよい。本発明において用語「オリゴ糖」とは、2~10個の単糖がグリコシド結合した糖を意味する。本発明において、用語「糖質」は、食物繊維を包含しない。一実施形態では、本発明に係る生地は、麻の実由来の糖質及び/又は大豆の豆(種子)由来の糖質を含んでもよい。一実施形態では、本発明に係る生地は、甘味料としての糖質(単糖又はオリゴ糖など)を含んでもよい。一実施形態では、本発明に係る生地は、糖質として、単糖(例えば、ショ糖など)又はオリゴ糖を含むが、デンプンは含まないか又は生地を膨化させるのに必要な有効量未満の量しか含まない。一実施形態では、本発明に係る生地は、糖質として、単糖又はオリゴ糖を含むが、α化デンプンは含まないか又は生地を膨化させるのに必要な有効量未満の量しか含まない。一実施形態では、本発明に係る生地中の糖質の含量は、生地の総重量に対し、1重量%未満、0.5重量%未満、又は0.4重量%未満であり得る。
【0037】
本発明に係る生地は、脂質を含んでもよいが、その含量は少ないことが好ましい。本発明において用語「脂質」は、食品原料として使用される食用脂質や食品原料に含まれる脂質を包含する。脂質としては、例えば、麻の実油、大豆油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、パーム油、菜種油、米ぬか油、アーモンド油、ゴマ油、ヤシ油、乳脂、ラード等の動植物油脂、及びそれらの硬化油、分別油、エステル交換油等の加工油脂、ショートニング、マーガリン等に由来する油脂、麻の実や大豆等の油性種子由来製品に含まれる脂質等が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、本発明に係る生地は、麻の実由来の脂質及び/又は大豆の豆(種子)由来の脂質を含んでもよい。一実施形態では、本発明に係る生地は、食品原料として添加された食用脂質を含んでもよいし、含まなくてもよい。一実施形態では、本発明に係る生地は、麻の実由来の脂質及び/又は大豆の豆(種子)由来の脂質を含むが、それ以外の脂質を含まない。一実施形態では、本発明に係る生地中の脂質の含量は、生地の総重量に対し、5重量%未満、3重量%未満、又は2重量%未満、例えば0.8~3重量%又は0.9~2.5重量%であり得る。
【0038】
本発明に係る生地は、小麦粉を始めとする、グリアジンやグルテニン等のグルテンを生成する蛋白質を含有する穀物粉を含んでもよいが、それを膨化のために含む必要はなく、一実施形態では、本発明に係る生地は、そのような穀物粉を含まない。本発明に係る生地は、卵白及び/又は卵白蛋白質を含んでもよいが、それを膨化のために含む必要はなく、一実施形態では、本発明に係る生地は、卵白及び/又は卵白蛋白質を含まない。一実施形態では、本発明に係る生地は、卵黄及び/又は卵黄蛋白質を含まない。一実施形態では、本発明に係る生地は、米粉を含まない。
【0039】
一実施形態では、本発明に係る生地は、他の食品原料や食品成分を含んでもよい。他の食品原料としては、例えば、塩、醤油、人工甘味料などの調味料や、保存料、香料、着色料等の食品添加物などが挙げられるが、これらに限定されない。他の食品成分としては、特に限定されないが、任意の食品原料に由来する成分などが挙げられる。
【0040】
本発明では、生地の原料を混合し、原料を均一に分散させるように攪拌及び/又は混捏等することにより、生地を調製することができる。生地の原料の混合及び攪拌等は、例えば、ミキサー、又は製パン機などを使用して行うことができるが、それに限定されない。
【0041】
調製した生地は、1個当たり任意の量で焼成に供することができる。一実施形態では、0.5~50g/個、例えば、1~30g/個の生地を焼成に供してもよい。小さな膨化食品を製造する場合には、例えば、0.5~5g/個、又は0.5~3g/個の生地を焼成に供してもよい。
【0042】
調製した生地は、成形後に焼成することが好ましい。一実施形態では、成形した本発明に係る生地、例えば、円柱状又は球状に成形した生地を焼成すればよい。本発明において、用語「円柱状」及び「円形状」は、それぞれ、数学的に厳密な円柱、円形には限定されず、「円柱」、「円形」に近い形状であって食品分野において「円柱」、「円形」であるとそれぞれ認識される範囲の形状を意味する。一実施形態では、円柱状に成形した生地は、直径が1cm~10cm、好ましくは3cm~7cm、例えば4cm~6cmであり、高さが3mm~5cm、好ましくは5mm~3cm、例えば7mm~2cmの円柱状であり得るが、それに限定されない。一実施形態では、円柱状に成形した生地は、直径1cm~10cm、高さ3mm~5cmを有するものであってよく、例えば、直径4cm~6cm、高さ7mm~2cmを有することが好ましい。一実施形態では、円柱状に成形した生地の直径と高さの比率は、直径:高さ=1:2~20:1、好ましくは3:4~10:1、例えば1:1~7:1、又は3:1~6:1であり得るが、この範囲に限定されない。本発明において「円柱状に成形した生地」は、円柱状となるように生地を形作ったものであってもよく、生地を円柱状に絞り出したものであってもよく、又は円柱状に型抜きした(成型した)生地であってもよいが、それらに限定されない。本発明の焼成前の生地に関して「球状」とは、全体形状が球形又は転がり可能な程度に球に近い形状(略球状)であって食品分野で「球状」と認識される範囲の形状を意味し、数学的に厳密な球形には限定されない。本発明において「球状」は、具体的には、球形のほか、ラグビーボール状を含む楕円球状も包含する。一実施形態では、成形した生地は、球形であってもよい。本発明において「球形」は、完全な球であるか又は長軸と短軸の長さが同等である球状の形状を意味する。ここで「同等」とは、±10%の範囲を意味する。一実施形態では、球状に成形した生地は、直径が3mm~5cm、好ましくは5mm~3cm、例えば7mm~2cm、又は1cm~3cmであり得るが、この範囲に限定されない。本発明において「球状に成形した生地」は、球状となるように生地を形作ったものであってもよく、生地を球状に絞り出したものであってもよく、又は球状に型抜きした(成型した)生地であってもよいが、それらに限定されない。なお、本発明において焼成前若しくは焼成後の生地又は膨化食品を特定するための「直径」、「高さ」、「長軸」、「短軸」などのサイズは、測定データの中央値又はそれに相当する値で定めることができる。本発明において「成形した生地」は、焼成前は、中空ではなく、すなわち、中実である(中身が詰まっている)ことが好ましい。
【0043】
本発明に係る生地は、焼成前に発酵させる必要はない。本発明の方法は、本発明に係る生地を発酵させる工程を含まないことが好ましい。
【0044】
本発明では、本発明に係る生地(好ましくは、成形した本発明に係る生地)を焼成することにより、膨化食品を生成することができる。
【0045】
一実施形態では、本発明に係る生地は、非加圧条件で、典型的には、常圧下で、焼成することが好ましい。本発明において、用語「常圧下」とは、典型的には、大気圧(1気圧)に等しい圧力下を意味する。食品加工においてしばしば使用されるエクストルーダー(加圧押出機)を使用したエクストルージョン法では、加熱や押出の際にスクリューによる加圧を伴うことから、例えば生地をエクストルーダーを用いてエクストルージョンする場合は、常圧下での焼成には含まれない。一実施形態では、本発明に係る生地は、開放下で焼成することが好ましい。一実施形態では、本発明に係る生地は、常圧かつ開放下で焼成することが好ましい。
【0046】
本発明に係る生地を、高温の温度条件下で加熱することにより、焼成することができる。「高温の温度条件下で加熱する」とは、本発明に係る生地全体を、所定の高温環境下に置くことを意味し、例えば、庫内温度を所定の設定温度に上昇させたオーブン、オーブンレンジ、又はトースター等の加熱調理機器内に本発明に係る生地を置いて加熱することであり得る。本発明に係る生地は、180~240℃の温度条件下で焼成することが好ましく、200~240℃の温度条件下で焼成することがより好ましく、210~240℃の温度条件下で焼成することがさらに好ましく、220~230℃の温度条件下で焼成することが特に好ましい。本発明に係る生地をより低い温度条件下で焼成すると、得られる膨化食品において底部方向への内相の偏りが少なくなる傾向がある。
【0047】
本発明に係る生地は、非攪拌条件下で焼成することが好ましい。本発明において「非攪拌条件下で焼成する」とは、本発明に係る生地を焼成する際に生地の撹拌操作を実施しないことを意味する。一実施形態では、本発明に係る生地を、静置条件下で焼成することがさらに好ましい。「静置条件下」とは、本発明に係る生地を動かさずに生地を焼成することを意味する。例えば生地をエクストルーダーを用いてエクストルージョンする場合は、「非攪拌条件下」や「静置条件下」での焼成には含まれない。本発明に係る生地の焼成には、エクストルーダーは使用されない。
【0048】
本発明に係る生地を焼成すると、生地全体が膨化して丸みを帯び、内部に大きな空洞(中空部)が生じて中空となる。焼成後の本発明に係る生地又は膨化食品は、外皮(クラスト)を備え、かつ外皮の下(内側)に内相(クラム)を備えており、その内相は、中空部に押しのけられるようにして底部方向に偏っている。本発明において「底部方向に偏った内相」とは、焼成後の生地又は膨化食品において、内相の体積が底部側に偏って存在することを意味する。本発明において焼成後の生地又は膨化食品の「底部」(下部)とは、焼成後の生地又は膨化食品を正姿勢(起き上がった状態の姿勢)水平面上に静置したときに、焼成後の生地又は膨化食品において当該水平面と接する部分及びその部分を中心とした周囲部分を指す。本発明において、焼成後の生地又は膨化食品の「底部側」とは、正姿勢で水平面上に静置した状態の焼成後の生地又は膨化食品を、その全体の体積がちょうど半分ずつになるように水平方向に2つに仮想上で切断したときの底部を含む側を指す。本発明において「頂部」(上部)とは、焼成後の生地又は膨化食品を正姿勢で水平面上に静置したときに、焼成後の生地又は膨化食品において鉛直方向に最も高い位置にある部分及びその部分を中心とした周囲部分を指す。本発明において、焼成後の生地又は膨化食品の「頂部側」とは、正姿勢で水平面上に静置した状態の焼成後の生地又は膨化食品を、その全体の体積がちょうど半分ずつになるように水平方向に2つに仮想上で切断したときの頂部を含む側を指す。内相が底部方向へより大きく偏るほど、焼成後の生地又は膨化食品の重心は底部方向へとより大きく偏ってより低い位置になる。底部方向への内相の偏りは、焼成後の生地又は膨化食品の底部側に含まれる内相の体積と、頂部側に含まれる内相の体積の差が大きくなるほど大きくなる。例えば、正姿勢で水平面上に静置した状態の焼成後の生地又は膨化食品を、焼成後の生地又は膨化食品に存在する内相全体の体積がちょうど半分ずつになるように水平方向に2つに仮想上で切断したときの切断面と鉛直軸との交点の高さX(底部が接する水平面からの距離)を、底部方向への内相の偏りを示す指標として用いることができる。高さXが低いほど、底部方向への内相の偏りが大きい。底部方向に偏った内相は、通常、底部方向に偏った厚みを有し、すなわち、頂部側と比較して底部側において内相がより肉厚であり、内相の平均厚みがより大きい。
【0049】
本発明の焼成後の生地又は膨化食品に関して「中空」とは、内相、又は外皮と内相によって囲まれた空洞(中空部)を有することを意味する。本発明の焼成後の生地又は膨化食品における「中空部」は、外皮内及び/又は内相内に生じる細かい気泡とは区別される。本発明における「中空部」は、本発明の生地の焼成時に風船のように膨張して生地全体の膨化を誘導した少なくとも1つ(典型的には1つ)の空洞である。本発明の焼成後の生地又は膨化食品における「中空部」は、焼成後の生地又は膨化食品の頂部方向に偏って位置し、内相を底部方向に偏らせるのに十分な大きさ(容積)を有することが好ましい。
【0050】
本発明の方法では、本発明に係る生地を焼成することにより、中空であり、かつ、底部方向に偏った内相を備えることによって、低い位置(底部方向に偏った位置)に重心を有する焼成後の生地又は膨化食品を生成することができる。本発明の方法ではまた、本発明に係る生地を焼成することにより、丸い底部を有する生地又は膨化食品を生成することができる。好ましい実施形態では、本発明の焼成後の生地又は膨化食品は、丸い底部を有し、その底部の球の中心よりも低い位置(高さ)に重心を有する。本発明の焼成後の生地又は膨化食品について「丸い底部」とは、焼成後の生地又は膨化食品を正姿勢で水平面上に静置したときに、鉛直下向きに凸状に湾曲している底部であって、そのような静置状態の焼成後の生地又は膨化食品に手で横向きに力を加えたときに揺動可能な程度の丸みを有する底部を意味する。本発明における「丸い底部」は、そのような揺動可能な程度の丸みを有する限り、表面の一部に平らな面を含んでいてもよい。丸い底部の「球の中心」とは、正姿勢で水平面上に静置した状態の焼成後の生地又は膨化食品を水平方向に仮想上で切断したときに、丸い底部を有する底部側で面積が最大となる切断面の中心(好ましくは、円の中心)を指す。より好ましい実施形態では、丸い底部を有する本発明の焼成後の生地又は膨化食品は、球状である。球状である本発明の焼成後の生地又は膨化食品は、全体形状としてのその球の中心よりも低い位置(高さ)に重心を有する。本発明の焼成後の生地又は膨化食品に関して「球状」とは、全体形状が球形又は転がり可能な程度に球に近い形状(略球状)であって食品分野で「球状」と認識される範囲の形状を意味し、数学的に厳密な球形には限定されない。一実施形態では、球状である本発明の焼成後の生地又は膨化食品は、球形であってもよい。本発明の焼成後の生地又は膨化食品は、丸い底部を有するか、又は球状であることにより、転がり性を有する。本発明の焼成後の生地又は膨化食品は、上記のように低い位置に重心を有する(重心が底部方向に偏っている)ことにより、転がしたり傾けたりしても重力で元の姿勢に戻ろうとする力が働き、底部を下にして起き上がることができ、すなわち起上り性を示すことができる。
【0051】
好ましい実施形態では、本発明の焼成後の生地又は膨化食品に存在する「内相」は、外皮と比べて比較的柔らかく、気泡を含み得る。
【0052】
本発明では、本発明に係る生地中で共存する麻蛋白質と大豆蛋白質が、加熱により反応して重合体を形成し、生地中に含まれる空気の膨張に伴って1つの風船のように膨らむことにより、中空の膨化食品が生成すると考えられる。本発明の膨化食品における底部方向に偏った内相には、麻蛋白質と大豆蛋白質の重合体の他、遊離の麻蛋白質及び大豆蛋白質、さらに、存在する場合には他の原料成分がより多く含まれる。一実施形態として、本発明に係る生地中に食物繊維が含まれる場合には、食物繊維は、麻蛋白質と大豆蛋白質の重合体に参加できず、また吸水して重くなるため底部方向に残留しやすくなることから、底部方向に偏った内相の形成や底部方向への重心の偏り、起上り性などに少なくとも部分的に寄与すると考えられる。但し、本発明は、本発明の膨化食品に関するこのような生成メカニズムの記載によって過度に限定されるものではない。
【0053】
上記のようにして生成される膨化食品に対し、さらなる食品加工を施してもよい。例えば、本発明の焼成後の生地又は膨化食品の表面、例えば、正姿勢で水平面上に静置したときに見やすい部分の表面(例えば、上面又は側面など)に、着色料や食用金箔などの食品添加物、水溶性可食フィルム又はシートなどを用いて、文字、記号、絵(例えば、アニメーションのキャラクターなどの人や動物又はその顔など)、模様、及び/又は写真などを付してもよい。例えば、本発明の焼成後の生地又は膨化食品の表面、例えば、上面に、チョコレートパウダー、ココアパウダー、ココナッツパウダー、抹茶パウダー、きな粉、イチゴフリーズドライパウダーなどの食用パウダーや、ゴマ、チーズ、ナッツなどのトッピング材料を、まぶしたり、載せたり、或いはコーティングしたりしてもよい。あるいは、本発明の焼成後の生地又は膨化食品の中空部にクリームやジャムなどの他の食材を入れてもよい。
【0054】
本発明は、上記のような方法によって製造される膨化食品を提供する。本発明の膨化食品は、麻蛋白質、大豆蛋白質、及び水を含む生地を焼成したものである、中空であり、外皮と、底部方向に偏った内相とを備え、丸い底部を有する膨化食品であってもよい。そのような膨化製品は起上り性を有することが好ましい。本発明は、蛋白質を主成分とした起上り性を有する膨化食品を提供することができる。本発明の膨化食品に関して「蛋白質を主成分とする」とは、本発明の膨化食品(特に、焼成後の本発明に係る生地)を構成する成分として、蛋白質を、水分を除き、最も多い割合で(例えば、蛋白質、脂質、糖質、食物繊維、食塩相当量、ミネラル、ビタミンの中で、蛋白質を最も多い割合で)含むことを意味する。本発明の膨化食品は、例えば、硬い水平面上で起上り性を示す菓子として提供することができる。本発明の膨化食品はまた、飲料や汁物などに浮かべた時に起上り性を示す麩様食品として提供することもできる。しかしながら、本発明の膨化食品の食品としての提供形態は、それらに限定されるものではない。
【実施例0055】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
生地の原料としての、麻蛋白質製品(麻蛋白質粗精製品[麻の実由来、乾燥品];商品名:有機ヘンププロテインパウダー、ヘンプフーズ製、蛋白質含有率:50重量%)24g、大豆蛋白質製品(大豆蛋白質粗精製品[大豆種子由来、乾燥品];商品名:Soy Protein Isolated、MP Biomedicals製、蛋白質含有率:92重量%)40g、及び水146gを、ミキサー(YFA-201、山善)を用いて混合・撹拌し、生地を作製した。この生地を20g採取し、高さ1cm、直径5cm程度の円柱状に成形した後、オーブン(RE-S205、シャープ)で220℃で25分間焼成したところ、生地は球状に膨らんだ。鉛直方向に切断したところ、焼成後の生地(膨化食品)には外皮と頂部付近に位置する中空部の存在が認められ、また、底部方向に偏ってより肉厚な内相が形成されていることが示された。得られた膨化食品は、下部に偏った低い重心を有しており起上り性を有し、また全体的に球状であることで転がり性を有していた。
【0057】
図1に、このような中空で起上り性を有する膨化食品の製造過程で得た、原料の混合・攪拌後の生地(図1A)、焼成前の成形した生地(図1B)、焼成後の生地(図1C)の写真を示す。図2は、得られた膨化食品の鉛直方向の断面の写真の例を示す。
【0058】
表1に、使用した麻蛋白質製品、大豆蛋白質製品の主要な栄養成分の量を、各製品ラベルに記載されている成分表示から引用して記載した。また、焼成前の生地の栄養成分の量は、これらの値と生地の原料組成から算出して表1に記載した。焼成後の生地の含有成分は一般財団法人日本食品分析センターで測定し、その結果を表1に示した。高蛋白質であり、低糖質かつ低脂質な、起上り性を有する膨化食品を製造できたことが示された。
【0059】
【表1】
【0060】
なお、麻蛋白質製品又は大豆蛋白質製品を、様々な他の植物又は微生物蛋白質製品に置換した生地を用いて、上記と同様に膨化食品の製造を試みたが、検討した範囲では、起上り性を有する中空の膨化食品は得られなかった。
【0061】
[実施例2]
大豆蛋白質に対する麻蛋白質の重量比率を32.6重量%(麻蛋白質/大豆蛋白質=0.326)に固定した上で、麻蛋白質、大豆蛋白質、及び水の配合量を表2に示すように設定したこと以外は実施例1と同様の方法で、同じ原料を使用して膨化食品を製造した。
【0062】
原料配合量、生地中の麻蛋白質と大豆蛋白質の含量及び重量比率、並びに得られた膨化食品(焼成後の生地)の評価を表2に示す。
【0063】
なお麻蛋白質と大豆蛋白質の含量は、麻蛋白質製品、大豆蛋白質製品のそれぞれの蛋白質含有率に基づいて算出した(以下の実施例において同じ)。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示されるように、生地に配合する水の割合が60~72重量%の条件は、外皮を有し、中空であり、丸い底部を有するか又は全体形状が球状であり、さらに底部方向への内相の偏りを有し起上り性を有する膨化食品の生成に適していた。生地に配合する水の割合が64~71.5重量%の条件が特に好適であった。
【0066】
[実施例3]
大豆蛋白質に対する麻蛋白質の重量比率を0重量%、8.1重量%、16.3重量%、48.9重量%、65.2重量%、81.5重量%、又は163重量%に設定したこと以外は、実施例1と同様の方法で、同じ原料を使用して膨化食品を製造した。
【0067】
原料配合量、生地中の麻蛋白質と大豆蛋白質の含量及び重量比率、並びに得られた膨化食品(焼成後の生地)の評価を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
生地中の大豆蛋白質に対する麻蛋白質の重量比率が15~70重量%である条件が、中空であり、丸い底部を有するか又は全体形状が球状であり、さらに底部方向への内相の偏りを有し起上り性及び転がり性が良好な膨化食品の生成に特に適していることが示された。
【0070】
生地No.14、18、21、25、29、31、及び44の焼成後の外観及び鉛直方向に切断した断面の写真を図4に示す。
【0071】
[実施例4]
大豆蛋白質に対する麻蛋白質の重量比率を32.6重量%とし、オーブンの焼成温度を150℃、200℃、220℃、230℃、又は250℃に設定したこと以外は、実施例1と同様の方法で、同じ原料を使用して膨化食品を製造した。
【0072】
原料配合量、生地中の麻蛋白質と大豆蛋白質の含量及び重量比率、焼成温度、並びに得られた膨化食品(焼成後の生地)の評価を表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
本実施例の結果から、150℃程度の焼成温度では底部方向への内相の偏りが少なくなること、250℃以上の焼成温度では十分な空洞(中空部)が形成されないことが示された。中空であり内相の偏りを有し起上り性及び転がり性を有する膨化食品の生成において、焼成時の温度条件としては、200~240℃、特に、210~240℃がより好適であることが示された。
【0075】
[実施例5]
表3に示した生地No.29と同一の原料配合量の生地を作製し、1gを採取して生地を球形(球状;直径12mm)に成形したこと以外は実施例1と同様の方法で、同じ原料を使用して膨化食品を製造した。焼成後の生地は球形(球状)であり、起上り性、転がり性ともに良好であった。焼成後の生地を鉛直方向に切断した断面では、中空部の存在と底部方向への内相の偏りが観察された。焼成後の外観及び鉛直方向に切断した断面の写真を図5に示す。A、B:本実施例で得られた膨化食品の頂部(上部)(A)、鉛直方向の断面(B)。
【0076】
さらに、生地No.29と同一の原料及び原料配合量を用いて同様に調製した生地1gを使用し、焼成温度を180℃に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、膨化食品を製造した。焼成により生地は丸く膨らみ、得られた球状の焼成後の生地は、起上り性、転がり性ともに良好であった。焼成後の生地を鉛直方向に切断した断面では、中空部の存在と底部方向への内相の偏りが観察された。180℃の焼成温度でも好適な膨化食品を製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、蛋白質を主成分とすることで栄養性が高く、また玩具性が高い食品を製造するために用いることができる。本発明を、菓子や、汁物などに浮かべる麩様食品などに利用し、例えば、起上り性のために視認しやすい位置(上部など)にキャラクターなどの画像を印刷することにより、良好な栄養性と玩具性を併せ持つ食品を製造することもできる。例えば、本発明は、玩具性を有しつつ、高蛋白質で低糖質・低脂質である栄養面で魅力が高い食品を製造するために利用することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5