(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144614
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ポリオレフィンの酸化分解方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/06 20060101AFI20231003BHJP
C08J 11/16 20060101ALN20231003BHJP
【FI】
C08F8/06
C08J11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051685
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】下山 祥弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】樋口 久美子
【テーマコード(参考)】
4F401
4J100
【Fターム(参考)】
4F401AA08
4F401BA06
4F401CA67
4F401CA74
4F401EA17
4F401EA32
4F401EA40
4J100AA02P
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4J100GC29
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4J100HB34
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4J100HB37
4J100HB38
4J100HB44
4J100HD01
4J100HE12
(57)【要約】
【課題】簡便な方法でポリオレフィンを酸化分解できるポリオレフィンの酸化分解方法を提供することである。
【解決手段】部分的に酸化したポリオレフィンを水溶液中で酸化剤と遷移金属触媒の存在下、200℃以下または90-150℃の温度で加熱する、ポリオレフィンの酸化分解方法である。また、ポリオレフィンを酸化剤により酸化処理することで、部分的に酸化したポリオレフィンを得た後、当該ポリオレフィンを酸化分解してもよい。その場合、ポリオレフィンを水溶液中で酸化剤の存在下、200℃以下の温度で加熱することで部分的に酸化したポリオレフィンを得ることができる。また、酸化剤として、過酸化水素を含む過酸を用いたり、遷移金属触媒として、コバルト塩とオキソ酸塩とを原料として得られるコバルト-オキソ酸複合体を含むコバルト触媒を用いたりするとよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的に酸化したポリオレフィンを水溶液中で第一酸化剤と遷移金属触媒の存在下、200℃以下の温度で加熱する、ポリオレフィンの酸化分解方法。
【請求項2】
前記加熱する温度は、90-150℃である、請求項1に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
【請求項3】
前記部分的に酸化したポリオレフィンは、ポリオレフィンを第二酸化剤により酸化処理して得られたものである、請求項1または請求項2に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
【請求項4】
前記酸化処理は、ポリオレフィンを水溶液中で第二酸化剤の存在下、200℃以下の温度で加熱するものである、請求項3に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレンを含む飽和炭化水素を主鎖骨格とするポリオレフィンである、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
【請求項6】
前記第一酸化剤と前記第二酸化剤のうち少なくとも一方は、過酸化水素を含む過酸を使用する、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
【請求項7】
前記過酸は、3-50質量%の過酸化水素である、請求項6に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
【請求項8】
前記遷移金属触媒として、遷移金属の無機塩または遷移金属の無機塩とオキソ酸塩との複合体を使用する、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
【請求項9】
前記遷移金属がコバルトである、請求項8に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
【請求項10】
前記遷移金属触媒として、遷移金属の無機塩とオキソ酸塩との複合体を使用する場合に、前記オキソ酸塩がリン酸塩である、請求項8または請求項9に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィンの酸化分解方法に関し、特に代表的なポリオレフィンであるポリエチレンやポリプロピレンなどの酸化分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くのプラスチック製品が市場に流通しており、私たちの生活には欠かせないものとなっている。特にプラスチックのなかでも、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系プラスチックは、例えば、ゴミ袋、鮮度保持袋、レジ袋、梱包緩衝材、青果パック、農業用シート、フルーツキャップ、ウレタンボード、緩衝用シート、包装用シート、ラップ等など種々のものに多用されている。
【0003】
このようなプラスチック製品によって、私たちの生活が便利になる反面、廃棄する場合は自然に分解されにくいことから、プラスチックごみが深刻な環境問題を引き起こしてしまう。また、プラスチックごみが海に流れることによる、海洋生物に与える影響も懸念されている。特に、ポリオレフィンは、その主鎖骨格が安定な飽和炭化水素で構築されており、化学的に非常に安定なことから、分解されにくい。したがって、ポリオレフィンの分解は、資源循環の観点からも非常に重要なプロセスであり、燃焼によって電気エネルギーを得る他、海洋プラスチックごみ問題を解決する手法の1つとして知られている。
【0004】
そして、このように、ポリオレフィンは、化学的に非常に安定なことから、分解には多大なエネルギーを必要とする。例えば、ポリオレフィンの酸化や分解方法として、高濃度の過酸化水素を用いて300℃以上の高温条件を用いて分解する方法(非特許文献1)や、空気存在下、遷移金属のステアリン酸塩の添加によりポリオレフィンの劣化を促進する方法(非特許文献2)などがある。
また、熱硝酸とマイクロ波の併用によるポリエチレンのカルボン酸への分解(非特許文献3)や、イオン誘導プラズマを用いたポリプロピレンのプロピレンへの解重合(非特許文献4)などがある。
さらに、ニッケル錯体触媒とメタクロロ過安息香酸を用いたポリエチレンの酸化(非特許文献5)や、ルテニウム触媒とメタクロロ過安息香酸を用いたポリイソブチレンの酸化(非特許文献6)などがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Zhong, et al. IOP Conf. Series: Earth and Environmental Science 2020, 450, 012049.
【非特許文献2】P. K. Roy, et al. Journal of Applied Polymer Science 2010, Vol.117, p524-533.
【非特許文献3】M. Hakkarainen, et al. Ind. Eng. Chem. Res. 2017, 56, p14814-14821.
【非特許文献4】R. Knight, et al. Ind. Eng. Chem. Res. 2000, 39, p1171-1176.
【非特許文献5】J. F. Hartwig, et al. ACS Cent. Sci. 2017, 3, p895-903.
【非特許文献6】J. F. Hartwig, et al. J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 12, 4531-4535.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1に記載の方法は、高温の非常に厳しい反応条件を必要としている。一方、非特許文献2に記載の方法は、ポリオレフィンの酸化反応に半月以上の長時間が必要となる上に、表面の劣化にとどまり分解には至らない。また、非特許文献3、4に記載の方法は、マイクロ波の照射装置やイオン誘導プラズマの発生装置など、大型な装置が必要となる。そして、非特許文献5、6に記載の方法は、使用する錯体触媒の合成が煩雑である上、ポリオレフィンが表面酸化されるにとどまり、分解されるものではない。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、簡便な方法でポリオレフィンを酸化分解できるポリオレフィンの酸化分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 部分的に酸化したポリオレフィンを水溶液中で第一酸化剤と遷移金属触媒の存在下、200℃以下の温度で加熱する、ポリオレフィンの酸化分解方法。
(2)前記加熱する温度は、90-150℃である、前記(1)に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
(3) 前記部分的に酸化したポリオレフィンは、ポリオレフィンを第二酸化剤により酸化処理して得られたものである、前記(1)または(2)に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
(4) 前記酸化処理は、ポリオレフィンを水溶液中で第二酸化剤の存在下、200℃以下の温度で加熱するものである、前記(3)に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
(5)前記ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレンを含む飽和炭化水素を主鎖骨格とするポリオレフィンである、前記(1)から(4)のいずれか一つに記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
(6)前記第一酸化剤と前記第二酸化剤のうち少なくとも一方は、過酸化水素を含む過酸を使用する、前記(1)から(5)のいずれか一つに記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
(7)前記過酸は、3-50質量%の過酸化水素である、前記(6)に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
(8)前記遷移金属触媒として、遷移金属の無機塩または遷移金属の無機塩とオキソ酸塩との複合体を使用する、前記(1)から(7)のいずれか一つに記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
(9)前記遷移金属がコバルトである、前記(8)に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
(10)前記遷移金属触媒として、遷移金属の無機塩とオキソ酸塩との複合体を使用する場合に、前記オキソ酸塩がリン酸塩である、前記(8)または(9)に記載のポリオレフィンの酸化分解方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便な方法でポリオレフィンを酸化分解できるポリオレフィンの酸化分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】酸化改質したポリエチレンの1H、13CNMRスペクトルである(実施例1)。
【
図2】酸化改質したポリエチレンのIRスペクトルと超高分子量ポリエチレンの購入時のもののIRスペクトルである(実施例1)。
【
図3】酸化改質ポリエチレンの酸化分解後の1H、13CNMRスペクトルである(実施例1)。
【
図4】実施例10の未処理PO-PE(購入時)のIRスペクトルと実施例1の超高分子量ポリエチレンの購入時のもののIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の実施の形態について詳しく説明する。なお、本発明の実施の形態において、温度範囲や濃度範囲等を示すときは、上限値及び下限値を含むものとする。また、%濃度は質量%を示すものとする。
【0012】
本実施形態のポリオレフィンの酸化分解方法は、部分的に酸化したポリオレフィンを酸化剤および遷移金属触媒の存在下、加熱して分解する、ポリオレフィンの酸化分解方法である。部分的に酸化したポリオレフィンを酸化分解することで、カルボン酸などの低分子化合物の生成物(Product)を効率よく得ることができる。ここで、部分的に酸化したポリオレフィンとして、予め部分的に酸化されたポリオレフィン(例えば、製造時に酸化処理されたもの、経年劣化等で酸化劣化してしまったものなど)をそのまま又はさらに酸化処理して用いてもよいし、ポリオレフィンを、水溶液中、酸化剤の存在下で加熱して部分的に酸化処理したものを用いてもよい。
【0013】
例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンを、水溶液中、酸化剤の存在下で所定時間、200℃以下の低温で加熱処理し、部分的に酸化したポリオレフィン(以下、酸化改質ポリオレフィン(Oxidized polyolefin)という)を調製する。加熱温度は、比較的温和な条件である90-170℃の低温が好ましく、効率を下げる過剰な酸化改質が進行することを避けるために、特に、90-110℃のより低温が好ましい。また、加熱時間は10-20時間程度あれば良いが、十分改質を進めるために、30-60時間程度としてもよい。
【0014】
その後、この酸化改質ポリオレフィンに、遷移金属触媒を添加し、酸化剤の存在下で所定時間、200℃以下の低温で加熱し、生成物を得る。加熱温度は、遷移金属触媒の種類にもよるが、温度が高いと触媒効果が発揮されにくく、また省エネルギーの観点からも、比較的温和な条件である90-150℃の低温が好ましく、特に、触媒の効果を安定に発揮させるために、110-130℃が好ましい。また、加熱時間は10-60時間程度あれば良く、生成物の過剰な分解を抑えるために、15-45時間程度がより好ましい。ポリオレフィンは酸化しやすい部位がほとんど無い化学的に安定な化合物であるため、遷移金属触媒との反応前に酸化処理をしておくことで、比較的酸化しやすい部位(カルボニル基、カルボキシル基など)が増え、酸化改質によって低温の条件下においても遷移金属触媒による分解がより進行しやすくなる。なお、遷移金属触媒は、過酸化水素水、過炭酸ナトリウム、過酸化水素-尿素、過酢酸などの過酸などの水溶液中で、加熱、撹拌して、分散させたものを用いると良い。分散させることで、触媒作用が向上する。
【0015】
(ポリオレフィン)
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンやポリイソブチレンなどの、特に、廃プラスチックの多数を占める、2-4個の炭素が繋がった(そのうち最低一つは二重結合)化学構造の低級オレフィンがある。具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレン、プロピレンホモポリマー、プロピレンランダムポリマー、プロピレンブロックポリマー等のポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン及びこれらの水素添加物等のジエン系エラストマー等のオレフィン系樹脂がある。これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用することも可能である。また、そのほかに、エチレン・プロピレン共重合体(EP)、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)などでもよい。GPCによる重量平均分子量、数平均分子量は概ねMw1,000-6,000,000、Mn1,000-1,000,000のものである。
【0016】
(酸化剤)
ポリオレフィンの酸化改質や酸化分解に用いる酸化剤には、過酸化水素、過ギ酸、過酢酸、過炭酸、過リン酸などの過酸、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、ペルオキソホウ酸ナトリウムなどの過ホウ酸塩、など公知の酸化剤が使用できる。また、過酸化水素と尿素の混合物や、過炭酸ナトリウム(炭酸ナトリウム/過酸化水素の混合物)を用いても良い。これらの酸化剤は、200℃以下、特に150℃以下の低温で安定性があるものである。そして、これらの中でも、過酸化水素が、安価で、かつ原子効率も高いことから、好ましい。また、酸化剤は、酸化改質や酸化分解の両方において、樹脂含有(分散)水溶液に対して、モル濃度として1.0-10mol/L、好ましくは、9-10mol/Lであるとよい。酸化剤の濃度が1.0mol/L未満では、効率よく酸化されない場合があり、また、効果の向上と安全性を考慮すると、10mol/L以下が好適である。特に、酸化剤として過酸化水素を使用する場合は、3-50%、好ましくは3―35%のものが、安全性の点からも望ましい。例えば、入手しやすい30-35%程度のものを使用するとよい。また、酸化剤の濃度は、水を溶媒として用いて調整すればよい。なお、過酸化水素をそのまま使う場合には、希釈用の水を除けば、溶媒は不要である。
【0017】
そして、酸化改質ポリオレフィンを得るための酸化剤の配合量は、有機過酸化物が生成しにくいように、また酸化されすぎないように、ポリオレフィン(分子量はモノマー換算)に対して0.2倍モル-0.4倍モルの範囲が好ましい。また、酸化改質ポリオレフィンを酸化分解するための酸化剤の配合量は、同様に、有機過酸化物が生成しにくいように、また分解が進行するように、酸化改質ポリオレフィン(分子量はモノマー換算)に対して2倍モル-5倍モルの範囲が好ましい。そして、上記したモル濃度の酸化剤を含む水溶液において、液量や樹脂量を変えることで上記配合量(配合比)を調整するとよい。
なお、本明細書中、酸化改質とは、部分酸化させることを目的として、酸化処理を行った場合を意味しており、自然に酸化(劣化)した場合やポリオレフィンの製造工程において、部分的に酸化した場合とは区別される。
【0018】
(遷移金属触媒)
遷移金属触媒としては、遷移金属と無機酸との塩(遷移金属の無機塩)や、コバルト酸化物、ポリオキソ酸等に導入されたクラスター型のコバルト触媒が挙げられる。遷移金属としては、銅、銀、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、ニオブ、テクネチウム、ルテニウム、パラジウム、銀、カドミウムなどがある。また、無機酸としては、硝酸、炭酸、リン酸、塩酸、硫酸、ケイ酸、ホウ酸、タングステン酸、モリブデン酸、チタン酸、アルミン酸などがある。例えば、遷移金属として、コバルト、マンガン、鉄、ニッケル、亜鉛、銅が遷移金属の中でも低コストで好適であり、これらの中でも、コバルトとマンガンが触媒活性の点で好ましく、特に、触媒活性が高いコバルトがより好ましい。また、遷移金属がコバルトの場合、遷移金属触媒として硝酸コバルト、炭酸コバルト、リン酸コバルト、塩化コバルト、硫酸コバルト、酢酸コバルトなどのコバルト塩があるが、例えば、硝酸コバルト六水和物、塩化コバルト六水和物、硫酸コバルト七水和物のような塩化物、硫酸塩を用いるとよい。また、他の遷移金属の触媒の例として、硝酸鉄九水和物、硝酸ニッケル六水和物、硝酸マンガン四水和物、硝酸亜鉛六水和物、硝酸銅三水和物などを用いても良い。そして、これらを単独または混合して使用するとよい。
【0019】
また、遷移金属触媒は、前記遷移金属の無機塩とオキソ酸塩との複合体であってもよい。複合体とすることで、溶媒へ溶解しにくくなるため、固体触媒として再利用可能になるメリットがある。例えば、遷移金属がコバルトの場合、コバルト塩とリン酸塩との複合体である、コバルト-リン酸複合体や、コバルト塩とホウ酸塩との複合体である、コバルト-ホウ酸複合体や、コバルト塩とアルミン酸塩との複合体である、コバルト-アルミン酸複合体や、コバルト塩とケイ酸塩との複合体である、コバルト-ケイ酸複合体や、コバルト塩とタングステン酸塩との複合体である、コバルト-タングステン酸複合体などがある。このような複合体は、錯体触媒とは異なり合成が容易であり、また原料の塩も安価ですむ。
そして、これらの遷移金属触媒を、過酸化水素水などの水溶液中で、所定時間(例えば、16-24時間)、所定温度(例えば、60-100℃)で加熱、撹拌して、分散させて調整したものを、ポリオレフィンの酸化分解反応に用いることで、効率よく反応を促進させることができるので、好ましい。
また、触媒の配合量は、部分的に酸化したポリオレフィン(酸化改質ポリオレフィンを含む)に対して、触媒同士の反応による失活を抑えるために0.1-0.5質量%の範囲が好ましい。
【0020】
(酸化分解反応)
ポリオレフィンの酸化分解方法について、下記化学反応式(1)および化学反応式(2)に基づいて説明する。この例では、酸化剤として、過酸化水素を使用し、遷移金属触媒として、コバルト触媒(遷移金属としてコバルトを用いた触媒)を使用した場合を示している。
まず、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンを、過酸化水素水(例えば30%)の存在下で所定時間(例えば15時間)、加熱処理し(例えば110℃)、酸化改質ポリオレフィンを調製する(酸化改質工程)。その後、この酸化改質ポリオレフィンに、コバルト触媒を添加し、過酸化水素水(例えば30%)中で所定時間(例えば15時間)加熱し(例えば110℃)、生成物(Product)を得る(酸化分解工程)。なお、コバルト触媒は、化学反応式(2)に示すように、過酸化水素水(例えば30%)中、所定温度(例えば80℃)で所定時間(例えば一晩)加熱、撹拌し、溶液中に分散させることで調整するとよい(触媒調整工程)。ここで、当該工程は必須ではないが、過酸化水素水中で触媒を撹拌することで、触媒の高分散化が図れるため、好ましい。
【0021】
そして、化学反応式(2)においては、この分散させたコバルト触媒を、Co-MPと表記している。なお、MPはマイクロ粒子の略称であるが、必ずしも粒子径がμmオーダーであるというわけではなく、分散している状態であることを示すものである。また、分散用の水溶液は、過酸化水素水に限られないが、低コストであること、また副生成物として水しか生成しない点から過酸化水素水が好ましい。また、この分散液を酸化改質ポリオレフィンに加えて水分を除去することで、コバルト触媒含有の酸化改質ポリエチレンを作製し、この酸化改質ポリエチレンを過酸化水素水中で加熱し、生成物を得ることもできる。当該工程も必須ではないが、遷移金属触媒含有の酸化改質ポリエチレンとすることで、触媒反応部位と酸化改質ポリエチレンがより近接した状態となるため、効率良く生成物を得ることができる。
【0022】
【0023】
遷移金属触媒として、遷移金属の無機塩とオキソ酸塩との複合体を使用する場合は、以下の方法により、当該複合体を作製する。まず、遷移金属の無機塩とオキソ酸塩とを蒸留水やイオン交換水、水道水などの水溶液中で加熱、撹拌することで、沈殿物が生成する。その後、当該沈殿物を濾過して洗浄、乾燥させることで、前記複合体を得ることができ、このように、簡便な方法で触媒を作製できる。例えば、遷移金属の無機塩として、硝酸コバルト六水和物を使用し、オキソ酸塩としてトリメタリン酸ナトリウムを使用する場合、桃色の沈殿が生成する。また、硝酸コバルト六水和物とリン酸三ナトリウムの場合は、紫色の沈殿が生成し、硝酸コバルト六水和物とペルオキソホウ酸ナトリウムの場合は、茶色の沈殿が生成する。
【0024】
また、上記酸化改質工程および酸化分解工程において、酸化剤として、過酸化水素以外の化合物を使用する場合は、溶媒として、酸化に対する耐性の高い溶媒で、ポリオレフィンの分解による生成物を含まないもの、例えば、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、リン酸などの無機酸を用いると良い。なお、酸化改質工程と酸化分解工程における酸化剤は異なるものでも良いが、上記したように、酸化改質工程と酸化分解工程における酸化剤として、また触媒調整工程における分散液として、過酸化水素(過酸化水素水)を共通して用いることで、低コスト化が図れ、作業効率も向上する。そして、本実施形態によれば、酸化改質工程および酸化分解工程を含む全工程において、低温かつ酸化剤濃度が低い温和な条件でポリオレフィンの分解が可能となる。
【実施例0025】
[実施例1]
本実施例では、ポリオレフィンとして、超高分子量ポリエチレン、酸化剤として過酸化水素、遷移金属触媒として、コバルト(硝酸コバルト(II)六水和物)-リン酸(トリメタリン酸ナトリウム)複合体を用いた場合を示す。
(実験例1)
(ポリオレフィンの酸化改質)
超高分子量ポリエチレン15.0g(メルク社製、品番429015-1KG、数平均分子量300万-600万、形状は粉末状)と、30%過酸化水素水(富士フイルム和光純薬株式会社製)12mLを、耐圧小型オートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社製、TAF-SR-50、容積50mL)中に入れて大気圧下で密閉し、反応温度110℃で15時間加熱した。得られた白色粉末をろ過し、蒸留水50mLで洗浄した後、ベルト駆動式油回転真空ポンプ(佐藤真空株式会社製、BSW-150N)により真空下で乾燥させた。得られた乾燥粉末について1H、13CNMRスペクトル測定およびIRスペクトル測定を行い、その結果から、超高分子量ポリエチレン中にカルボニル基が導入されたことを確認した。なお、1H、13CNMRスペクトル測定には、核磁気共鳴装置(Bruker社製、AV600)を使用し、クロロホルム-d1(CDCl3)(CIL社製)に前記乾燥粉末を分散させて測定した。また、IRスペクトル測定には、フーリエ変換赤外分光光度計(Bruker社製、ALPHA)を使用し、臭化カリウムと前記乾燥粉体を混ぜて錠剤を形成し、透過法によって測定した。
【0026】
図1(A)には、1HNMRスペクトルを示し、
図1(B)には、13CNMRスペクトルを示し、
図2には、IRスペクトルを示す。なお、
図2中、上段(a)がOx-110 (酸化処理後の超高分子量ポリエチレン)、下段(b)が超高分子量ポリエチレンの購入時のものである。また、以下、得られた粉末を酸化改質ポリエチレン(Ox-110)という。なお、「Ox-110」の数値「110」は、反応温度(以下、酸化改質温度という)を示している。
図1(A)の2.4ppm付近の信号は、カルボニル基に隣接する炭素に結合する水素由来のものであり、
図1(B)の36ppm付近の信号は、カルボニル基に隣接する炭素由来のものである。また、
図2によれば、(a)の1715cm
-1付近に見られるように、酸化処理後の超高分子量ポリエチレンには特徴的なC=Oの伸縮振動が観測される。
【0027】
(実験例2)
(遷移金属触媒の作製)
遷移金属触媒として、コバルト-リン酸複合体を作製した。以下に作製方法を示す。
コバルト塩原料として硝酸コバルト(II)六水和物(Co(NO3)2・6H2O)(富士フイルム和光純薬株式会社製)(2.9g、9.8mmol)と、リン酸塩原料としてトリメタリン酸ナトリウム(Na3P3O9)(メルク社製)(3.0g、9.8mmol)と、スターラーチップを50mLナスフラスコに入れ、蒸留水12mLを加えて80℃で一晩撹拌を行った。生成した桃色沈殿を濾過し、蒸留水で濾液がほぼ無色になるまで洗浄を行い、ベルト駆動式油回転真空ポンプ(佐藤真空株式会社製、BSW-150N)により真空下で乾燥後、1.3gの桃色粉末を得た。この桃色粉末はコバルト-リン酸複合体であり、以後の実験で用いた。
【0028】
(実験例3)
(遷移金属触媒含有の酸化改質ポリエチレンの作製)
実験例2で得た桃色粉末を7.4mg量り取り、試験管に入れ、過酸化水素水30%を4mL添加し80℃にて一晩静置した。桃色粉末が溶媒によく分散していることを確認した後、この分散液全量を、実験例1で得られた酸化改質ポリエチレン(Ox-110)5gに加え、エバポレーターにより撹拌しながら水分を減圧下で除去し、コバルト触媒含有の酸化改質ポリエチレンを得た。以下、当該コバルト触媒含有の酸化改質ポリエチレンを、Ox-110/OxCoP3O9という。なお、下記実施例においては、リン酸塩の組成に合わせ、Ox-110/OxCoPnOmと表記した(n、mは2以上の整数である)。
【0029】
(実験例4)
(遷移金属触媒含有の酸化改質ポリエチレンの分解)
実験例3によって得られたコバルト触媒含有の酸化改質ポリエチレン(Ox-110/OxCoP
3O
9)を500mg量り取り、耐圧小型オートクレーブ(Huanyu社製、品番:TX-202B、50mL)に入れ、30%過酸化水素水4mLを加えて大気圧下で密閉し、反応温度(以下、酸化分解温度という)110℃で15時間加熱を行った。反応終了後、50℃付近まで放冷し、その後室温付近まで水冷し、容器内に残る酸化改質ポリエチレン残渣および液相をろ過によって分離した。残渣は水洗浄し、乾燥後重量を測ることで、分解量を求めた。
分解量(mg) = 500 (mg)- 乾燥後重量(mg)
また、ろ液を300μLとり、定量溶液300μLと混合し、計600μLとなった溶液にさらに濃硫酸を10μL加え、この溶液に対する1H、13CNMRスペクトル測定を行い(Bruker社製、AV600)、その結果から、溶液内の各種有機物(生成物)の濃度の定量を、内部標準をもとに行った。
図3(A)には、1HNMRスペクトルを示し、
図3(B)には、13CNMRスペクトルを示す。主な生成物として、酢酸(1)、ギ酸(2)、アセトン(3)、コハク酸(4)、グルタル酸(5)などが得られた。また、生成物の濃度から、各々の物質量をもとに生成物の重量を算出し、生成物の重量の総和を生成物全重量(mg)として評価を行った(表1)。
【0030】
なお、この際に用いた定量溶液の調製法を以下に示す。
9.18mgの4,4-ジメチル-4-シラペンタンスルホン酸ナトリウム(Sodium4,4-dimethyl-4-silapentanesulfonate)(DSS)を容積50mLのメスフラスコに量り取り、これに重水(D2O)を加えてDSSを溶解し全量を50mLとした重水溶液を定量溶液とした。
表1において、サンプルNo.4(Ox-110/OxCoP3O9)が上記実験例1-4における結果を示している。表1において、括弧外には生成物濃度(mmol/L)を示し、括弧内には生成物重量(mg)を示している。なお、生成物全重量は、前記酢酸等の5種類のカルボン酸の合計重量である(小数点以下は四捨五入)。また、表1には、下記に説明するが、実験例4における酸化分解温度を110℃、反応時間(以下、酸化分解時間という)を15時間として、触媒の種類を変えた実施例(サンプルNo.3、5-15)および触媒を用いなかった比較例(サンプルNo.1-2)の結果も示している。そして、以下の実施例および比較例において、使用した化合物や装置および条件等は、特に断りのない限り、実験例1-4と同様の化合物や装置および条件等で実施した。また、以下の実施例において、ポリオレフィン(未処理のポリオレフィンおよび酸化改質ポリオレフィン)に対する触媒量は、全て同じmol(当量)とした。さらに、実験例1における反応後、得られた固体が粉末ではなく塊となっていた場合には、別途破砕機によって細かく粉砕したものを後の反応に用いた。
【0031】
[比較例]
比較例において、サンプルNo.1は、超高分子量ポリエチレンを酸化改質することなく、そのまま500mg量り取り、実験例4と同様の条件で、耐圧小型オートクレーブ(50mL)に入れ、30%過酸化水素水4mLを加えて密閉し、110℃で15時間加熱を行ったものである。また、サンプルNo.2は、実験例1と同様の条件で、超高分子量ポリエチレン15.0gを酸化改質し、当該酸化改質ポリエチレン(Ox-110)を500mg量り取り、実験例4と同様に、耐圧小型オートクレーブ(50mL)に入れ、30%過酸化水素水4mLを加えて密閉し、110℃で15時間加熱を行ったものである。すなわち、サンプルNo.1は、酸化改質していない(このことを未処理ともいう)超高分子量ポリエチレンを、触媒を用いずに酸化分解した例であり、サンプルNo.2は、酸化改質した超高分子量ポリエチレンを、触媒を用いずに酸化分解した例である。
【0032】
[実施例2]
本実施例において、サンプルNo.3は、酸化改質した超高分子量ポリエチレンを、触媒を用いて酸化分解した点で、実施例1と共通するが、触媒として、コバルト-リン酸複合体を作製せずに、コバルト塩のみとした点で、実施例1とは異なるものである。
実験例1と同様に、超高分子量ポリエチレン15.0gを酸化改質し、30%過酸化水素水4mLに硝酸コバルト(II)六水和物を溶解して、濃度が10mmol/Lとなるようにした硝酸コバルト(II)六水和物水溶液に、前記酸化改質した超高分子量ポリエチレン500mgを入れて、実験例4と同様の条件で、酸化分解を行った。すなわち、酸化改質した超高分子量ポリエチレン500mgと硝酸コバルト(II)六水和物(10mmol/L)を含む30%過酸化水素水4mLを耐圧小型オートクレーブ(50mL)に入れ、110℃で15時間加熱を行った。
【0033】
[実施例3]
本実施例において、サンプルNo.5-7は、触媒として、コバルト-リン酸複合体を作製した点で、実施例1と共通するが、実施例1の実験例2のリン酸塩原料(トリメタリン酸ナトリウム)を変えた点で、実施例1とは異なるものである。なお、それ以外の条件は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。リン酸塩原料として、下記記載のリン酸塩化合物を用いた。
サンプルNo.5(Ox-110/OxCoP3O10):トリポリリン酸ナトリウム(Na3P3O10)(0.50g、1.4mmol)(メルク社製)
サンプルNo.6(Ox-110/OxCoP6O18):ヘキサメタリン酸ナトリウム(Na6P6O18)(0.50g、0.8mmol)(メルク社製)
サンプルNo.7(Ox-110/OxCoPO4):リン酸ナトリウム(Na3PO4)(0.50g、3.0mmol)(メルク社製)
【0034】
[実施例4]
本実施例において、サンプルNo.8-13は、触媒として、コバルト-オキソ酸複合体を作製した点で、実施例1と共通するが、オキソ酸塩として、実施例1の実験例2のリン酸塩原料(トリメタリン酸ナトリウム)の代わりに、他の無機酸塩を用いた点で、実施例1とは異なるものである。なお、それ以外の条件は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。実施例1のリン酸塩原料の代わりに、下記記載の化合物を用いた。
サンプルNo.8(Ox-110/OxCoSiO3):メタ珪酸ナトリウム(Na2SiO3)(1.0g、3.5mmol)(富士フイルム和光純薬株式会社製)
サンプルNo.9(Ox-110/OxCoWO4):タングステン酸ナトリウム(Na2WO4)(2.0g、6.1mmol)(富士フイルム和光純薬株式会社製)
サンプルNo.10(Ox-110/OxCoAlO2):アルミン酸ナトリウム(NaAlO2)(1.0g、12.2mmol)(富士フイルム和光純薬株式会社製)
サンプルNo.11(Ox-110/OxCoBO2):メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)(1.0g、7.3mmol)(富士フイルム和光純薬株式会社製)
サンプルNo.12(Ox-110/OxCoBO3):ペルオキソホウ酸ナトリウム(NaBO3)(1.0g、6.5mmol)(富士フイルム和光純薬株式会社製)
サンプルNo.13(Ox-110/OxCoBO4):四ホウ酸ナトリウム: (Na2B4O7)(1.0g、2.6 mmol)(メルク社製)
【0035】
[実施例5]
本実施例において、サンプルNo.14-15は、触媒として、コバルト-オキソ酸複合体を作製せずに、コバルト塩のみとした点で、実施例1と異なるものである。すなわち、実施例1の実験例1、3-4は共通するが、実験例2は行わず、実験例3においては、下記に示すコバルト塩を量り取り、試験管に入れ、過酸化水素水30%を4mL添加し80℃にて一晩静置し、溶媒によく分散していることを確認した後、この分散液全量を、酸化改質ポリエチレン(Ox-110)5gに加え、エバポレーターにて撹拌しながら水分を減圧下で除去した。
サンプルNo.14(Ox-110/OxCoCO3):炭酸コバルト(CoCO3)(4.8 mg、0.04mmol)(関東化学株式会社製)
サンプルNo.15(Ox-110/OxCo3PO4):リン酸コバルト(Co3(PO4)2)(6.9mg、0.014mmol)(メルク社製)
【0036】
[実施例6]
本実施例において、サンプルNo.16-19は、実施例1の実験例1のポリエチレンの酸化改質温度を、それぞれ90℃、130℃、150℃、170℃とした点で、実施例1と異なるものであるが(実験例1では110℃)、それ以外の条件は、実施例1のサンプルNo.4の条件と共通するものである。その結果を表2に示す。表2中のOxの後の数値は、酸化改質温度を示しており、サンプルNo.16は、(Ox-90)、サンプルNo.17は、(Ox-130)、サンプルNo.18は、(Ox-150)、サンプルNo.19は、(Ox-170)と表記している。
【0037】
【0038】
【0039】
表1の結果から、上記実施例1-6においては、比較例である、酸化改質なし(サンプルNo.1)および酸化改質ありで無触媒の場合(サンプルNo.2)に比べて、ポリエチレンの分解量および生成物重量ともに、増加したことがわかる。また、サンプルNo.3のコバルト塩のみの触媒を用いた場合や、サンプル14-15のコバルト-オキソ酸複合体を作製しなかった場合においても、他の実施例のサンプルと同様の作用効果が認められた。
【0040】
また、表2の結果から、ポリエチレンの酸化改質温度を変えた場合でも、ポリエチレンの酸化分解が認められた。なお、ポリエチレンの酸化改質温度は、高い場合に、生成物の重量が少なくなるものもあった。分解量は多い方が良いが、生成物の重量が少ない場合は、温室効果ガスである二酸化炭素が生成していることが想定されることから、酸化改質温度は、ポリエチレンの分解量および生成物重量ともに良好な結果となった、90-110℃の低温が好適であるといえる。
【0041】
[実施例7]
本実施例では、上記実施例1-6および比較例について、実験例4における酸化分解時間を45時間とした。なお、実験例4における酸化分解温度は110℃であり、上記実施例1-6および比較例とは、酸化分解時間を45時間とした点以外は、同様の化合物や装置および条件等で実施したものである。表3および表4には、その結果を示す。表3は、表1に対応しており、表4は、表2に対応しているものである。
【0042】
【0043】
【0044】
上記表1-4の結果から、酸化分解時間が15時間と45時間の両方の条件において、触媒に、サンプルNo.4-6(No.24-26)のコバルト-リン酸複合体やサンプルNo.11-13(No.31-33)のコバルト-ホウ酸複合体を用いた場合はポリエチレンの分解量および生成物重量ともに、良好であった。また、全体的に見て、酸化分解時間を15時間から45時間に長くしたことで、ポリエチレンの分解量および生成物重量ともに、飛躍的に向上したことがわかる。特に、酸化改質温度を90℃と110℃とした、サンプルNo.24およびNo.36(触媒として、硝酸コバルト(II)六水和物-トリメタリン酸ナトリウム複合体を用いたもの、「OxCoP3O9」と表記)が、分解量200mg程度、生成物重量160mg以上と良好な結果となり、また、サンプルNo.4と比べて大幅に増加した。したがって、硝酸コバルト(II)六水和物-トリメタリン酸ナトリウム複合体触媒は、酸化分解時間に依存して、ポリエチレンの分解量および生成物重量ともに向上することから、比較的長時間の加熱によっても性能を保持でき、特に安定性や耐久性の点でも良好であることが認められた。
【0045】
[実施例8]
上記実施例1-7の結果から、性能が良好であった、サンプルNo.4、No.24における触媒(硝酸コバルト(II)六水和物-トリメタリン酸ナトリウム複合体触媒)を用いて、実験例4における酸化分解温度と酸化分解時間と過酸化水素(酸化剤)の量とを変えて、ポリエチレンの酸化改質および酸化分解を行った(サンプルNo.43-48)。なお、それ以外の条件は、実施例1の実験例1-4と同様とした。その結果を表5に示す。
【0046】
【0047】
なお、サンプルNo.41-42は酸化分解温度を130℃とした場合の比較例であり、酸化分解温度を130℃とした以外は、それぞれサンプルNo.1-2と同様の条件としたものである。また、サンプルNo.43-48は、酸化分解温度を130℃とした場合を示し、No.44-47では、さらに過酸化水素(水)の量を6mL、8mL、10mL、12mLに増やした場合を示し、No.48では、酸化分解温度130℃、酸化分解時間45時間、過酸化水素(水)量8mLとした場合を示している。
【0048】
表5から、触媒の反応温度として110-130℃が適しているといえ、反応温度を高くしたり、酸化剤の量を増やしたり、反応時間を長くしたりすることで、ポリエチレンの酸化分解反応が促進されることが分かる。なお、酸化分解温度を高くすると、比較例においても分解量や生成物の重量が増加したこと、また省エネルギーの観点からも、酸化分解温度は、触媒効果が顕著となる低温であることが好ましい。
そして、本実施例によれば、この程度の低温や数十時間程度でもポリエチレンの酸化分解反応が効率よく進むことが確認できた。
【0049】
[実施例9]
本実施例では、遷移金属触媒の遷移金属として、コバルト以外のマンガン、ニッケル、亜鉛を使用した。具体的には、実施例1の実験例2において、硝酸コバルト(II)六水和物の代わりに、それぞれ硝酸マンガン四水和物、硝酸ニッケル六水和物、硝酸亜鉛六水和物を用いた。すなわち、実験例2において、下記遷移金属の無機塩と、トリメタリン酸ナトリウム(Na3P3O9)(0.5g、1.6mmol)と、スターラーチップを50mLナスフラスコに入れ、蒸留水12mLを加えて80℃で一晩撹拌を行ったものである。その他の条件は、酸化分解温度を130℃とした以外は実施例1の実験例1-4と同じ条件とした。
サンプルNo.50(Ox-110/OxMnP3O9):硝酸マンガン四水和物(Mn(NO3)2・4H2O)(0.47g、1.6mmol)(富士フイルム和光純薬株式会社製)
サンプルNo.51(Ox-110/OxNiP3O9):硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO3)2・6H2O)(0.48g、1.6mmol)(富士フイルム和光純薬株式会社製)
サンプルNo.52(Ox-110/OxZnP3O9):硝酸亜鉛六水和物(Zn(NO3)2・6H2O)(0.49g、1.6mmol)(富士フイルム和光純薬株式会社製)
その結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
表6から、遷移金属触媒の遷移金属として、マンガン、ニッケル、亜鉛を用いた場合でも、ポリエチレンの分解量および生成物重量ともに概ね良好な結果となった。なお、サンプルNo.51のニッケル触媒では、生成物の重量は比較的少なかったものの、分解量はかなり多かったことから、触媒として、有用であるといえる。また、これらの結果から、酸化改質ポリエチレンの分解反応に用いる遷移金属触媒として、コバルト触媒やマンガン触媒が好適であるといえる。
【0051】
[実施例10]
本実施例では、ポリオレフィンとして、前記超高分子量ポリエチレンに代えて、ポリエチレン(粉末状、重量平均分子量Mw4000、数平均分子量 Mn1700)、低密度ポリエチレン(LDPE、ペレット状)、中密度ポリエチレン(MDPE、粉末状)、リニア低密度ポリエチレン(LLDPE、ペレット状)、高密度ポリエチレン(HDPE、ペレット状)、ポリプロピレン(PP)(Mw12000、Mn5000) を使用した。具体的には、実施例1の実験例1において、前記重量平均分子量Mw4000、数平均分子量 Mn1700のポリエチレン(以下、このポリエチレンをPO-PEという)を除く各ポリエチレンおよびポリプロピレンを15.0g量り取り、実験例1と同様の条件で、酸化改質した。また、実験例4における酸化分解温度を130℃、酸化分解時間を45時間、過酸化水素(水)(酸化剤)の量を8mLとした以外は、実施例1の実験例1-4と同じ条件として、酸化分解を行った。
サンプルNo.60(未処理PO-PE/OxCoP3O9):(メルク社製、品番:427772-250G)
サンプルNo.61(LDPE/Ox-110/OxCoP3O9):(メルク社製、品番:428043-1KG)
サンプルNo.62(MDPE/Ox-110/OxCoP3O9):(メルク社製、品番:332119-500G)
サンプルNo.63(LLDPE/Ox-110/OxCoP3O9):(メルク社製、品番:428078-1KG)
サンプルNo.64(HDPE/Ox-110/OxCoP3O9):(メルク社製、品番:547999-1KG)
サンプルNo.65(PP/Ox-110/OxCoP3O9):(メルク社製、品番:428116-1KG)
【0052】
また、サンプルNo.60のPO-PEは、実験例1における酸化改質工程は行わずに、実験例2で作製したコバルト-リン酸複合体触媒を用いて、実験例4における酸化分解温度を130℃、酸化分解時間を45時間、過酸化水素(水)(酸化剤)の量を8mLとした以外は、実施例1の実験例3-4と同じ条件で酸化分解を行った。すなわち、実験例3と同様に、コバルト-リン酸複合体の分散液全量を、PO-PE5gに加え、コバルト触媒含有のPO-PEを作製し、当該コバルト触媒含有のPO-PEを酸化分解した。
図4の上段(a)には、酸化分解前のPO-PE(購入時のそのままの状態のもの)のIRスペクトルを示し、下段(b)には、実施例1の超高分子量ポリエチレンの購入時のもののIRスペクトルを示す。(a)に示すように、このPO-PEにおいては、酸化された部位を持つような結果が得られた。すなわち、(a)の1719cm
-1付近に見られるように、特徴的なC=Oの伸縮振動が観測される。このような伸縮振動は、(b)のように、通常のポリエチレンには見られないものである。分子量1000以上10000未満の数千オーダーの低分子量のポリマーの作製においては、反応停止剤に酸化剤や酸化性のガスを使うこともあり、その影響により、製造時に部分的に酸化されたことが考えられる。
【0053】
そして、サンプルNo.60-65の比較例として、PO-PEと酸化改質したポリエチレンおよびポリプロピレンを、触媒を用いずに酸化分解し、サンプルNo.70-75とした。サンプルNo.70は、PO-PEを酸化改質することなく、そのまま500mg量り取り、酸化分解温度を130℃、酸化分解時間を45時間、過酸化水素(水)(酸化剤)の量を8mLとした以外は、実施例1の実験例4と同じ条件として、酸化分解を行った。また、サンプルNo.71-75は、酸化改質した各ポリエチレンおよびポリプロピレンを、触媒を用いずに酸化分解した例であり、上記と同様に、酸化改質したものを500mg量り取り、酸化分解温度を130℃、酸化分解時間を45時間、過酸化水素(水)(酸化剤)の量を8mLとした以外は、実施例1の実験例4と同じ条件として、酸化分解を行った。その結果を表7に示す。
【0054】
【0055】
表7から、全てのポリエチレンおよびポリプロピレンにおいて、良好な結果となったことが確認された。特に、PO-PEのような、意図的に酸化処理されたものではない、部分酸化しているポリオレフィンに対して、遷移金属触媒が有効に作用することが確認された。このことは、プラスチックごみなどの比較的劣化したポリオレフィンを、酸化改質することなく、酸化分解工程に供することでも十分であることを意味するものである。また、一般的に、触媒が負触媒(触媒添加条件の方が反応性が劣る)として作用することもあるが、ポリプロピレンを用いた場合において、そのようなことはなく、本実施例によれば、ポリエチレンのなかにポリプロピレンが混じっていても適用可能であるといえる。
【0056】
以上のように、上記実施例によれば、200℃を超えるような高温の厳しい反応条件を必要とすることもなく、また分解反応に半月以上の長時間を要することもない、省エネルギー化にも優れたポリオレフィンの酸化分解方法が可能となる。そして、ポリオレフィンの表面の劣化にとどまらずに、ポリオレフィンを確実に分解させることが可能になる。さらに、上記実施例によれば、大型な装置が不要であり、使用する触媒も容易に入手又は合成できるとともに、安定性や耐久性に富み、かつ少ない触媒量ですみ、簡便にポリオレフィンを分解できるものである。