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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144637
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】研磨用組成物および研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20231003BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20231003BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20231003BHJP
   H01L 21/321 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 621D
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
H01L21/88 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051717
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 将志
【テーマコード(参考)】
5F033
5F057
【Fターム(参考)】
5F033HH15
5F033HH18
5F033HH19
5F033HH21
5F033HH32
5F033HH33
5F033HH34
5F033MM01
5F033MM13
5F033NN07
5F033QQ48
5F033QQ50
5F033RR04
5F033RR14
5F033RR15
5F033TT02
5F033XX01
5F057AA03
5F057AA12
5F057BA12
5F057CA11
5F057CA12
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA22
5F057EA25
5F057EA26
5F057EA32
(57)【要約】
【課題】
バリア層及び酸化ケイ素を含む層を有する研磨対象物を研磨する際、できるかぎり、酸化ケイ素の研磨を抑えて、バリア層を効率よく研磨することができる研磨用組成物を提供することを目的とする
【解決手段】
表面がカチオン修飾された砥粒と、疎水性化合物と、水とを含有する、研磨用組成物であって、前記研磨用組成物のpHにおける前記疎水性化合物の水-オクタノール分配係数logDの値が1.45以上3.0以下である研磨用組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面がカチオン修飾された砥粒と、疎水性化合物と、水とを含有する、研磨用組成物であって、
前記研磨用組成物のpHにおける前記疎水性化合物の水-オクタノール分配係数logDの値が1.45以上3.0以下であることを特徴とする、研磨用組成物。
【請求項2】
前記砥粒は表面がカチオン修飾されたコロイダルシリカである、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
さらに、酸化剤を含有する、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
さらに、pH調整剤を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
pHが7未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、酸化ケイ素を含む層を研磨することを含む、研磨方法。
【請求項7】
前記酸化ケイ素を含む層はバリアメタルを含む、請求項6に記載の研磨方法。
【請求項8】
前記酸化ケイ素の研磨速度に対する前記バリアメタルの研磨速度の比が10以上である、請求項7に記載の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物および研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの高集積化、高性能化に伴い、埋め込み金属配線(ダマシン配線)の形成が行われている。ダマシン配線構造においては、銅や銅合金などの導電性物質の下層に、層間絶縁膜中への導電性物質の拡散を防止するためにバリア層が形成されている。バリア層を構成する材料としては、従来から、タンタル、タンタル合金、タンタル化合物、チタン、チタン化合物等が用いられてきた。
【0003】
このような多層配線形成工程においては、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing、以下、「CMP」と称することがある)によって、基板の平滑化や配線形成時の余分な金属薄膜の除去や絶縁膜上の余分なバリア層の除去を行っている。
【0004】
例えば、特許文献1では、配線層として銅を含む層とバリア金属層としてコバルト層を含む研磨対象物を研磨する際に、銅を含む層に対する高い研磨速度を発現しつつコバルトを含む層の研磨を抑制することが提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、バリア層を研磨する際に高研磨速度を実現し、且つ、スクラッチを抑制するための研磨用組成物が提案されている。
【0006】
このような絶縁膜上のバリア層を除去するためにCMPを行う際、バリア層と共に、酸化ケイ素からなる絶縁膜を一緒に研磨してしまうという問題があった。CMPを行う際に酸化ケイ素を研磨してしまうと、絶縁膜の機能が損なわれる虞がある。
【0007】
したがって、絶縁膜(酸化ケイ素)上のバリア層を除去するためにCMPを行う際に、できるだけ酸化ケイ素層の研磨を抑制することが必要とされている。言い換えると、酸化ケイ素層の研磨速度に対するバリア層の研磨速度の比を高めて研磨を行うことが求められている。
【0008】
【特許文献1】特開2016-56254号公報
【特許文献2】特開2010-62434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、バリア層及び酸化ケイ素を含む層を有する研磨対象物を研磨する際、できるかぎり、酸化ケイ素の研磨を抑えて、バリア層を効率よく研磨することができる研磨用組成物を提供することを目的とする。すなわち、酸化ケイ素の研磨速度に対するバリア層の研磨速度の比を高くすることができる研磨用組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討した結果、下記研磨用組成物を用いることによって上記問題を解決できることを見出した。すなわち、表面がカチオン修飾された砥粒と、疎水性化合物と、水とを含有する研磨用組成物であって、研磨用組成物のpHにおけるこの疎水性化合物の水-オクタノール分配係数logDの値が1.45以上3.0以下である研磨用組成物を使用する。
【0011】
水- オクタノール分配係数(水-オクタノール分配係数(logD))を測定・算出するには、例えば、技術情報協会,“分配係数”構造決定及び物性の測定・解析と規格試験法設定, 技術情報協会,pp.130-142(2001)等に記載されているような、直接測定方法、間接測定方法、計算化学による算出方法等をあげることができるが、各方法の特徴を考慮し、目的や状況に応じて適宜適切な方法を選択すればよい。
【0012】
疎水性化合物の水-オクタノール分配係数logDを直接測定方法で求める場合、logDは、下記の式(1)で定義される。
logD=log((Ci oct+Cu oct)/(Ci wat+Cu wat))
・・・式(1)
上記式(1)中、Ci octは、オクタノール中のイオン化した化学種の総濃度であり、Cu octは、オクタノール中のイオン化していない化学種の総濃度であり、Ci watは、特定のpH水溶液中でのイオン化した化学種の総濃度であり、Cu watは、特定のpH水溶液中でのイオン化していない化学種の総濃度である。
【0013】
なお、実験上で薬物の挙動を予想する場合には、みかけの分配係数が重要なパラメータとなり、分配係数を実測する必要がある。そのため、分配係数を実測する必要がない簡便な測定・算出方法として、計算化学による算出方法を好ましいものとしてあげることができる。具体的には、Advanced ChemistryDevelopment(ACD) 社製の化学計算ソフトウェアであるSolubilityBatch等を使用する算出方法があげられる。当該算出方法に用いられるアルゴリズムに関する情報はACD社のWebサイト(www.acdlabs.com) で確認することができる。なお、当該算出方法により計算された水-オクタノール分配係数(logD)は、CASのREGISTRYファイルにすでに収録されており、これを利用してもよい。例えば、AdvancedChemistry Development(ACD)社製の化学計算ソフトウェアであるACD/LogD等を使用して算出できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、表面がカチオン修飾された砥粒と、研磨用組成物のpHにおける水-オクタノール分配係数logD値が1.45以上3.0以下である疎水性化合物を合わせて含有する研磨用組成物を使用することにより、酸化ケイ素の研磨速度に対するバリア層の研磨速度の比を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[砥粒]
本実施形態に係る研磨用組成物には表面がカチオン修飾された砥粒を含む。表面がカチオン修飾された砥粒としては、表面がカチオン修飾されたシリカ等が挙げられる。本発明の一実施形態において、砥粒の具体例としては、例えば、シリカ等の金属酸化物からなる粒子が挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。これら砥粒の中でも、シリカが好ましく、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカがより好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明の砥粒として好適に用いられる。しかしながら、高純度で製造できるゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。
【0016】
表面がカチオン修飾されたシリカは、表面がカチオン修飾されているコロイダルシリカが好ましい。ここで、表面がカチオン修飾されているコロイダルシリカとして、アミノ基または第4級アンモニウム基が表面に固定化されたコロイダルシリカが好ましく挙げられる。このようなカチオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特開2005-162533号公報に記載されているような、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤またはN-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム基を有するシランカップリング剤を砥粒の表面に固定化する方法が挙げられる。これにより、アミノ基または第4級アンモニウム基が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。本発明の一実施形態において、前記砥粒は、アミノ基を有するシランカップリング剤または第4級アンモニウム基を有するシランカップリング剤を砥粒の表面に固定化させてなる。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記砥粒の平均一次粒子径が10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、25nm以上であることがよりさらに好ましく、30nm以上であることが特に好ましい。本発明の一実施形態の研磨用組成物において、前記砥粒の平均一次粒子径が60nm以下であることが好ましく、55nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましく、40nm以下であることが特に好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチなどのディフェクトを抑えることができる。なお、コロイダルシリカの平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定されるコロイダルシリカの比表面積に基づいて算出される。
【0018】
前記砥粒の平均二次粒子径が、20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、40nm以上であることがさらに好ましく、45nm以上であることが特に好ましい。本発明の一実施形態において、前記砥粒の平均二次粒子径が、250nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましく、120nm以下であることが特に好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチなどのディフェクトを抑えることができる。砥粒の平均二次粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0019】
研磨用組成物における砥粒の含有量は特に制限されないが、典型的には0.5質量%以上であり、1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨速度が実現される傾向にある。研磨後の基板の表面平滑性や砥粒の分散安定性の観点から、上記含有量は、通常、25質量%以下であることが適当であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、例えば5質量%以下である。
【0020】
[疎水性化合物]
本実施形態に係る研磨用組成物は、水-オクタノール分配係数logDの値が1.45以上3.0以下である疎水性化合物を含む。疎水性化合物の水-オクタノール分配係数logDの値は1.50以上であることが好ましく、1.58以上であればより好ましい。疎水性化合物の水-オクタノール分配係数logDの値がこの範囲であると、疎水性化合物が酸化ケイ素層に吸着して疎水性の膜を形成し、研磨用組成物スラリーの酸化ケイ素層に対するなじみ性を低下させて、酸化ケイ素層の研磨速度を抑えることができる。疎水性化合物の水-オクタノール分配係数logDの値が1.45未満であると、酸化ケイ素層に対して過剰な研磨速度となる傾向にある。
【0021】
水-オクタノール分配係数logDの値が1.45以上3.0以下である疎水性化合物としては、環状構造を有する化合物、特にベンゼン環を有する化合物が挙げられる。ベンゼン環を持つものは、π-πスタッキングをすることができ自己集積膜を作るのに優位である。環状構造を有する化合物は、疎水性を高めつつ界面活性能がない。このため、砥粒と相互作用しスラリーの保管安定性を悪化させることが少ない。また、研磨時に泡立ちがないため装置保全や研磨後ウェハーへの欠陥への影響が少ない傾向にある。また、環状構造中にN,S,Oを組み込まれていると、分子内で電荷の偏りを発生させ水への溶解性が上がり、環状構造であるため分子同士の相互作用(スタッキング)がしやすく密な膜を作れる傾向にある。
【0022】
上記を満たす疎水性化合物としては、例えば、1,4-ベンゾジオキサン、1H-インドール、2,3-ベンゾフラン、2H-1,4-ベンゾチアジン-3(4H)-オン、1,2-ベンゾイリチアゾール-3(2H)-オン、4-ヒドロキシ-2H-1-ベンゾチオピラン-2-オン、ベンゾ[d]チアゾール、ベンゾ[d]オキサゾール、1,3,5-トリチアン、1,3-ジチアン、フラン、2H-チエタン、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、チアン、2H-チオピラン、4H-チオピラン、オキセパン、チエパン、チエピン、オキソカン、オキソナン、1,4,5,6-テトラヒドロシクロペンタ[b]ピロ―ル、1,4-ジヒドロピロ―ル[3,2-b]ピロ―ル、1,6-ジヒドロピロ―ル[2,3-b]ピロ―ル、6H―フロ[2,3-b]ピロ―ル、4H―フロ[3,2-b]ピロ―ル、4H-チエノ[3,2-b]ピロ―ル、6H-チエノ[2,3-b]ピロ―ル、2H-イソインドール、インドリジン、1H-インダゾール、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ベンゾ[d]イソオキサゾール、ベンゾ[c]イソオキサゾール、ベンゾ[c][1,2,5]チアジアゾール、2H-クロメン、1H-クロメン、フェナジン、1-オキサスピロ[4,5]デカン、3‘,4’,5‘,6’、-テトラヒドロ-3H-スピロ-[イソベンゾフラン-1,2‘-ピラン]などが挙げられるが、これに限定されず、logDの値が1.45以上3.0以下となる化合物であればよい。
【0023】
疎水化合物として好ましくは、1,4-ベンゾジオキサン、1H-インドール、2H-1,4-ベンゾチアジン-3(4H)-オン、1,2-ベンゾイリチアゾール-3(2H)-オン、4-ヒドロキシ-2H-1-ベンゾチオピラン-2-オン、ベンゾチアゾール、1,3,5-トリチアン、チオフェン、チアン、2H-チオピラン、4H-チオピラン、チエパン、チエピン、オキソカン、オキソナン、6H―フロ[2,3-b]ピロ―ル、4H―フロ[3,2-b]ピロ―ル、4H-チエノ[3,2-b]ピロ―ル、6H-チエノ[2,3-b]ピロ―ル、2H-イソインドール、インドリジン、ベンゾ[d]イソオキサゾール、1-オキサスピロ[4,5]デカン、3‘,4’,5‘,6’、-テトラヒドロ-3H-スピロ-[イソベンゾフラン-1,2‘-ピラン]などが挙げられる。これらの化合物は、logDが1.45以上3.0以下の範囲でより高く、かつ水への溶解性も維持できているため、好ましい。
【0024】
なお、環状構造であっても、単純なアルキル鎖を有する化合物は水に対する溶解性がよくない。また、ベンゼン環を有する化合物であっても、必ずしも水-オクタノール分配係数logDの値が1.45以上となるとは限らない。例えば、ベンゾトリアゾール(BTA)、1-(ヒドロキシメチル)-1H-ベンゾトリアゾール、1-メチル-1-H-ベンゾトリアゾール、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、ピロリジン、1-ピロ-ル、2H-ピロ―ル、2-ピロリン、3-ピロリン、ピラゾリジン、イミダゾリジン、2-ピラゾリン、2-イミダゾリン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4、-トリアジン、1,3,5、-トリアジン、ベンズイミダゾール、7-アザインドール、4-アザインドール、5-アザインドール、6-アザインドール、7-アザインダゾール、1,2,3,4―テトラヒドロキノリン、1,2-ジヒドロイソキノリン、イソキノリン、4H-キノリジン、フタラジン、シノリン、1,8-ナフチリジンなどは上記式(1)で規定されるlogDの値が1.45未満であり、酸化ケイ素の研磨速度抑制効果が十分ではないことが分かった。
【0025】
水-オクタノール分配係数logDの値が1.45以上3.0以下である疎水性化合物量の下限は、0.1mM以上であることが好ましく、1mM以上であることがより好ましく、3mM以上であることがさらに好ましく、5mM以上であることが特に好ましい。また、水-オクタノール分配係数logDの値が1.45以上3.0以下である疎水性化合物量の上限は、100mM以下であることが好ましく、50mM以上であることがより好ましく、30mM以上であることがさらに好ましく、10mM以上であることが特に好ましい。疎水性化合物の含有量が上記の範囲であると、酸化ケイ素層に吸着して、酸化ケイ素層に対する研磨用組成物スラリーのなじみ性を低下させやすい傾向にある。
【0026】
[水]
本発明の研磨用組成物は、水を含む。本発明のより好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。最も好ましくは、分散媒は水である。
【0027】
本発明の研磨用組成物は、必要に応じて、錯化剤、金属防食剤、防腐剤、防カビ剤、酸化剤、還元剤、pH調整剤、界面活性剤、水溶性高分子、難溶性の有機物を溶解するための有機溶媒等の他の成分をさらに含んでもよい。以下、好ましい成分である、酸化剤およびpH調整剤について説明する。
【0028】
[酸化剤]
本発明に係る研磨用組成物は、酸化剤を含んでもよい。酸化剤は、バリアメタル層、特にTiN層に対する腐食速度を低下させて、安定した研磨を発現させる作用を有する。
【0029】
使用可能な酸化剤は、例えば過酸化物である。過酸化物の具体例としては、例えば、過酸化水素、過酢酸、過炭酸塩、過酸化尿素、過塩素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩などのハロゲン元素のオキソ酸塩ならびに過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩が挙げられる。なかでも過硫酸塩および過酸化水素が研磨速度の観点から好ましく、水溶液中での安定性および環境負荷への観点から過酸化水素が特に好ましい。
【0030】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量の下限は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物中の酸化剤の含有量の上限は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。酸化剤の含有量をこれらの範囲に調整することによって、バリアメタルの腐食を抑えることができる。
【0031】
[pH調整剤]
本発明に係る研磨用組成物のpHは、必要によりpH調整剤を適量添加することにより、調整することができる。pH調整剤は酸であることが好ましく、また、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。これにより、研磨対象物の研磨速度や砥粒の分散性等を制御することができる。pH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0032】
pH調整剤としては、公知の酸またはそれらの塩を使用することができる。酸の具体例としては、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸等の有機酸等が挙げられる。
【0033】
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0034】
[pH]
本発明の研磨用組成物のpHの範囲は7未満であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。pHをこれらの範囲に調整することによって、バリアメタル、特に、TiNの腐食速度を抑えることができ、安定した研磨速度を得ることができる。
【0035】
[研磨対象物]
本発明の研磨対象物としては、酸化ケイ素を含む層が好適であり、より好ましくはさらにバリアメタルを含む酸化ケイ素層を研磨するのに好適に用いられる。ここで、酸化ケイ素としては、TEOSを原料に成膜した酸化ケイ素膜、HDP膜、USG膜、PSG膜、BPSG膜、RTO膜などを含む面が挙げられ、これらの中でも、TEOSを原料に成膜した酸化ケイ素膜が好ましい。また、バリアメタルとしては、Ti、TiN、Ta、TaN、W、WN、TaN、Ru、Coなどが挙げられ、これらの中でも、TiNが好ましい。
【0036】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、疎水性化合物、酸化剤、pH調整剤、および必要に応じて他の成分を水などの分散媒または溶媒中で攪拌混合することにより得ることができる。
【0037】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0038】
[研磨方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、酸化ケイ素を含む層を有する研磨対象物の研磨、より好ましくはさらにバリアメタルを含む酸化ケイ素層を研磨するのに好適に用いられる。よって、本発明は、酸化ケイ素を含み、より好適にはさらにバリアメタルを含む研磨対象物を本発明の研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。本発明の効果をより効率よく得るために、酸化ケイ素を含む層とバリアメタルを同時に研磨することが好ましい。
【0039】
本発明の研磨用組成物を用いて、バリアメタルを含む酸化ケイ素層を研磨する際に、酸化ケイ素絶縁膜を損傷することなくバリアメタルを効率よく研磨するためには、酸化ケイ素の研磨速度に対する前記バリアメタルの研磨速度の比(選択比)が10以上であればよく、好ましくは13以上、より好ましくは15以上であるとよい。
【0040】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0041】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0042】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転速度は、10~500rpmが好ましく、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.1~10psiが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。供給速度(流量)は50~500mL/分が好ましい。
【0043】
研磨終了後、研磨対象物を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により研磨対象物上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、研磨済研磨対象物が得られる。
【実施例0044】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0045】
[実施例1~11]
砥粒として、表面に3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTES)をカップリングすることでカチオン化されたコロイダルシリカ(平均二次粒子径50nm)1.8wt%、酸化剤として過酸化水素27.35mM、疎水性化合物として、それぞれ表1に示されるlogDの値が1.45以上の化合物を10.00mM、それぞれを記載の含有量となるように水中で攪拌混合(混合温度:約25℃、混合時間:約60分)した。さらに、pH調整剤として硝酸を用い、pHを3.0に調整することで研磨用組成物を得た。得られた研磨用組成物のpHは、pHメータにより25℃で確認した。
【0046】
【表1】
【0047】
[比較例1]
砥粒として、実施例1~11と同様のコロイダルシリカ1.8wt%、酸化剤として過酸化水素27.35mM、それぞれを記載の含有量となるように水中で攪拌混合(混合温度:約25℃、混合時間:約60分)した。さらに、pH調整剤として硝酸を用い、pHを3.0に調整することで研磨用組成物を得た。得られた研磨用組成物のpHは、pHメータにより25℃で確認した。
【0048】
[比較例2~17]
砥粒として、実施例1~11と同様のコロイダルシリカ1.8wt%、酸化剤として過酸化水素27.35mM、疎水性化合物に代わる添加物として、それぞれ表1に示されるlogDの値が1.45未満の化合物を10.00mM、それぞれを記載の含有量となるように水中で攪拌混合(混合温度:約25℃、混合時間:約60分)した。さらに、pH調整剤として硝酸を用い、pHを3.0に調整することで研磨用組成物を得た。得られた研磨用組成物のpHは、pHメータにより25℃で確認した。
【0049】
[比較例18、20、22]
砥粒として、表面修飾されていないコロイダルシリカ(比較例18、20、22では平均二次粒子径50nm、比較例24では平均二次粒子径70nm)(平均二次粒子径50nm)1.8wt%、酸化剤として過酸化水素27.35mM、それぞれを記載の含有量となるように水中で攪拌混合(混合温度:約25℃、混合時間:約60分)した。
【0050】
[比較例19、21、23]
砥粒として、表面修飾されていないコロイダルシリカ(比較例19、21、23では平均二次粒子径50nm、比較例25では平均二次粒子径70nm)1.8wt%、酸化剤として過酸化水素27.35mM、疎水性化合物としてlogDの値が2.59のインドールを10mM、それぞれを記載の含有量となるように水中で攪拌混合(混合温度:約25℃、混合時間:約60分)した。さらに、pH調整剤として硝酸を用い、pHを3.0に調整することで研磨用組成物を得た。得られた研磨用組成物のpHは、pHメータにより25℃で確認した。
【0051】
得られた研磨用組成物(実施例1~18、比較例1~23)を用いて下記の研磨条件で、研磨対象基板の表面を研磨した。研磨対象基板としては、シリコン基板表面に厚さ2500ÅのTiN膜を形成したTiNブランケットウェハ、およびシリコン基板表面に厚さ10000Åの酸化ケイ素膜を形成した酸化ケイ素ブランケットウェハを使用した。上記研磨対象物の直径は200mm、であった。
【0052】
[研磨条件]
研磨装置:アプライド マテリアル社製の研磨機、型式Mirra
研磨パッド:IC1010(ロームアンドハース社製)
研磨液の供給レート:113mL/分
加工圧力:4psi
下定盤回転数:113rpm
研磨時間:1分
供給速度(流量):220mL/分
【0053】
研磨用組成物を用いて上記の各研磨対象物を研磨して、TiN膜の研磨速度(Å/min)と、酸化ケイ素膜の研磨速度(Å/min)とを測定した。TiN膜の研磨速度は、直流4探針法を原理とするシート抵抗測定器を用いて測定される研磨前後のTiNブランケットウェハの厚み(Å)の差を、研磨時間(min)で除することにより求めた。酸化ケイ素膜の研磨速度は、光干渉式膜厚測定装置(ケーエルエー・テンコール(KLA-Tencor)株式会社製 型番:ASET-f5x)を用いて測定される研磨前後の酸化ケイ素ブランケットウェハの厚み(Å)の差を、研磨時間(min)で除することにより求めた。酸化ケイ素層の研磨速度に対するTiN層の研磨速度を選択比として算出し、疎水性化合物を添加した組成物の酸化ケイ素膜の研磨速度に対し、疎水性化合物が未添加の組成物の酸化ケイ素膜の研磨速度で除した値を酸化ケイ素抑制率として算出した。結果を表1に示した。
【0054】
上記表1から明らかなように、実施例1~11の研磨用組成物は、カチオン化されたコロイダルシリカと、logDの値が1.45以上の疎水性化合物を含むものであり、TiNの研磨速度に対して、酸化ケイ素の研磨速度が抑えられており、酸化ケイ素の研磨速度に対するTiNの研磨速度の選択比10以上が得られている。これに対して、カチオン化されたコロイダルシリカを含むが、logDの値が1.45以上の疎水性化合物を含まない比較例1~17は、TiNの研磨速度に対して、酸化ケイ素の研磨速度が十分に抑えられておらず、酸化ケイ素の研磨速度に対するTiNの研磨速度の選択比は10未満である。また、砥粒として表面修飾されていないコロイダルシリカを用いた比較例18~23はTiNを十分に研磨することが困難であった。