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特開2023-144673二次電池の状態診断方法および状態診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144673
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】二次電池の状態診断方法および状態診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20231003BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20231003BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20231003BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20231003BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20231003BHJP
   G01R 31/3828 20190101ALI20231003BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231003BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/387
G01R31/389
G01R31/3828
H01M10/48 P
H01M10/42 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051770
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 耕平
(72)【発明者】
【氏名】井上 健士
(72)【発明者】
【氏名】米元 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】平澤 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏明
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠仁
(72)【発明者】
【氏名】澄川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】堀越 伸也
【テーマコード(参考)】
2G216
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA01
2G216BA22
2G216BA23
2G216BA25
2G216BA26
2G216BA41
2G216BA51
2G216BA61
5H030AA09
5H030AS20
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】二次電池の劣化状態を簡便な操作で取得できる情報に基づいて高精度に診断することができる二次電池の状態診断方法および二次電池の状態診断装置を提供する。
【解決手段】二次電池の状態診断方法は、二次電池の充電状態と開回路電圧との関係と、二次電池の充電状態と内部抵抗との関係とに基づいて、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算結果を求める工程と、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定結果と、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算結果とを比較する工程とを含み、測定結果は、二次電池の充電過程または放電過程において、二次電池の充電状態毎の測定を連続的に行って取得される。二次電池の状態診断装置は、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定データを取得する取得部と、記憶部と、演算部とを備え、測定データは、二次電池の充電過程または放電過程において、二次電池の充電状態毎の測定を連続的に行って取得された後に取得部に入力される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の劣化状態を診断する状態診断方法であって、
二次電池の充電状態と開回路電圧との関係と、二次電池の充電状態と内部抵抗との関係とに基づいて、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算結果を求める工程と、
二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定結果と、前記二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算結果とを比較する工程と、を含み、
前記二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定結果は、二次電池の充電過程または放電過程において、前記二次電池の充電状態毎の測定を連続的に行って取得される二次電池の状態診断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池の状態診断方法であって、
正極材料に固有の正極の充電状態と開回路電位との関係、正極材料に固有の正極の充電状態と内部抵抗との関係、負極材料に固有の負極の充電状態と開回路電位との関係、および、負極材料に固有の負極の充電状態と内部抵抗との関係を、劣化状態を表すパラメータで補正する工程と、
補正された前記正極の充電状態と開回路電位との関係と、補正された前記負極の充電状態と開回路電位との関係とに基づいて、二次電池の充電状態と開回路電圧との関係を示す計算結果を求める工程と、
補正された前記正極の充電状態と内部抵抗との関係と、補正された前記負極の充電状態と内部抵抗との関係とに基づいて、二次電池の充電状態と内部抵抗との関係を示す計算結果を求める工程と、を含む二次電池の状態診断方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の二次電池の状態診断方法であって、
前記測定結果と前記計算結果とを比較する工程において、前記測定結果と前記計算結果との一致性に基づいて前記パラメータを特定し、特定された前記パラメータで補正された前記計算結果から前記二次電池の劣化状態を推定する二次電池の状態診断方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の二次電池の状態診断方法であって、
前記二次電池の充電状態毎の測定は、0.3C以下の低レートの前記充電過程または前記放電過程において行われる二次電池の状態診断方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の二次電池の状態診断方法であって、
前記二次電池の内部抵抗は、充電状態に依存する正極の内部抵抗と、充電状態に依存する負極の内部抵抗と、充電状態に依存しない電極以外の要素の抵抗との合成である二次電池の状態診断方法。
【請求項6】
二次電池の劣化状態を診断する状態診断装置であって、
前記二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定データを取得する取得部と、
正極材料に固有の正極の充電状態と開回路電位との関係を示す参照データ、正極材料に固有の正極の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データ、負極材料に固有の負極の充電状態と開回路電位との関係を示す参照データ、および、負極材料に固有の負極の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データを記憶した記憶部と、
劣化状態を表すパラメータで補正された前記参照データに基づいて、二次電池の充電状態と開回路電圧との関係を示す第1計算データ、および、二次電池の充電状態と内部抵抗との関係を示す第2計算データを生成し、前記第1計算データおよび前記第2計算データに基づいて、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す第3計算データを生成し、前記測定データと前記第3計算データとを比較する演算部と、を備え、
前記測定データは、二次電池の充電過程または放電過程において、前記二次電池の充電状態毎の測定を連続的に行って取得された後に、前記取得部に入力される二次電池の状態診断装置。
【請求項7】
請求項6に記載の二次電池の状態診断装置であって、
前記二次電池の劣化状態の診断結果を表示する表示部を備え、
前記演算部は、前記測定データと前記第3計算データとの一致性に基づいて前記パラメータを特定し、特定された前記パラメータで補正された前記第3計算データから前記二次電池の劣化状態を推定し、
前記表示部は、推定された前記二次電池の劣化状態の診断結果を表示する二次電池の状態診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の状態診断方法および状態診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の二次電池は、充放電の繰り返し時や、高温環境下での保管時等に、電池特性が劣化することが知られている。二次電池の劣化が進行すると、電圧降下や容量低下を生じる。そのため、二次電池の劣化の進行度合に応じて、電圧や電流の制御が行われている。
【0003】
従来、二次電池を適切に制御するために、劣化状態(State of Health:SOH)の診断が行われている。二次電池の劣化は、正極や負極の不可逆的反応や、電極以外の要素、例えば、電解液、集電体等の変質によって起こる。二次電池の劣化は、電極や電極以外の要素の個別の劣化の結果であることが知られている。二次電池の使用中には、劣化の要因に応じた適切な制御が望まれるため、二次電池の劣化状態を非破壊で診断する方法が求められている。
【0004】
特許文献1には、二次電池の内部情報検知方法が記載されている。この方法では、正極単独や負極単独の充放電カーブを利用することによって、正極の状態や負極の状態を非破壊で定量的に評価している。正極単独の充放電カーブと負極単独の充放電カーブとを重ね合わせ計算して、二次電池の充放電カーブを再現している。
【0005】
特許文献2には、二次電池の内部情報検出装置が記載されている。この装置では、一定容量の充電と充電の休止とを繰り返すことで被検知電池を間欠的に充電するよう間欠充電制御を行っている。二次電池の電圧等の充電特性の情報は、二次電池を間欠充電する過程で取得されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-080093号公報
【特許文献2】国際公開第2014/147753号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
二次電池の劣化状態を診断するにあたり、特許文献1では、正極材料固有の充放電カーブと、負極材料固有の充放電カーブと、補正パラメータとに基づいて、二次電池の充放電カーブを計算した後、実測に基づく二次電池の充放電カーブと、測定に基づく二次電池の充放電カーブとを比較している。しかし、充放電カーブには、放電量等の充電状態と電位や電位変化率との関係と、二次電池の内部抵抗による電圧上昇および電圧降下の影響が含まれる。電位や電位変化率のみを指標とする方法では、劣化に伴う内部抵抗の変化が大きい場合に、診断の精度が低くなるという課題がある。
【0008】
特許文献2では、診断対象である二次電池の充電特性の情報を取得する際に、間欠的に充電を行っている。しかし、間欠的に充放電を行う方法では、所定の条件で充放電を行うための充放電装置や、使用時の回路から二次電池を取り外す作業、或いは定期的なスイッチ切り替え作業が必要になる。特殊な装置や作業が必要になるため、二次電池のユーザ自身で情報を取得するのが容易でなく、汎用性が低いという課題がある。また、間欠的に充放電を行う方法では、電池情報を取得するのに時間がかかる。
【0009】
そこで、本発明は、二次電池の劣化状態を簡便な操作で取得できる情報に基づいて高精度に診断することができる二次電池の状態診断方法および二次電池の状態診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明に係る二次電池の状態診断方法は、二次電池の劣化状態を診断する状態診断方法であって、二次電池の充電状態と開回路電圧との関係と、二次電池の充電状態と内部抵抗との関係とに基づいて、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算結果を求める工程と、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定結果と、前記二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算結果とを比較する工程と、を含み、前記二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定結果は、二次電池の充電過程または放電過程において、前記二次電池の充電状態毎の測定を連続的に行って取得される。
【0011】
また、本発明に係る二次電池の状態診断装置は、二次電池の劣化状態を診断する状態診断装置であって、前記二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定データを取得する取得部と、正極材料に固有の正極の充電状態と開回路電位との関係を示す参照データ、正極材料に固有の正極の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データ、負極材料に固有の負極の充電状態と開回路電位との関係を示す参照データ、および、負極材料に固有の負極の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データを記憶した記憶部と、劣化状態を表すパラメータで補正された前記参照データに基づいて、二次電池の充電状態と開回路電圧との関係を示す第1計算データ、および、二次電池の充電状態と内部抵抗との関係を示す第2計算データを生成し、前記第1計算データおよび前記第2計算データに基づいて、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す第3計算データを生成し、前記測定データと前記第3計算データとを比較する演算部と、を備え、前記測定データは、二次電池の充電過程または放電過程において、前記二次電池の充電状態毎の測定を連続的に行って取得された後に、前記取得部に入力される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、二次電池の劣化状態を簡便な操作で取得できる情報に基づいて高精度に診断することができる二次電池の状態診断方法および二次電池の状態診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る二次電池の状態診断装置の構成を示す図である。
図2】二次電池の劣化状態の診断の処理を示すフローチャートである。
図3】電極の充電状態と開回路電位との関係の一例を示す図である。
図4】電極の充電状態と開回路電位との関係の一例を示す図である。
図5】電極の充電状態と内部抵抗との関係の一例を示す図である。
図6】電極の充電状態と内部抵抗との関係の一例を示す図である。
図7】二次電池の充電状態と開回路電位との関係の一例を示す図である。
図8】二次電池の充電状態と内部抵抗との関係の一例を示す図である。
図9】二次電池の充電状態と閉回路電位との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る二次電池の状態診断方法および二次電池の状態診断装置について説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
本実施形態に係る二次電池の状態診断方法は、二次電池の劣化状態を診断する方法に関する。診断対象の二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウムイオン二次電池、亜鉛二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池、鉛二次電池等が挙げられる。診断対象の二次電池としては、リチウムイオン二次電池が特に好ましい。
【0016】
本実施形態に係る二次電池の状態診断方法では、診断対象である二次電池の劣化状態を診断するための情報として、二次電池の充電状態と閉回路電圧(Closed circuit voltage:CCV)との関係を用いる。二次電池の充電状態毎の閉回路電圧の測定に基づいて、二次電池の劣化状態や、二次電池が備える電極毎の劣化状態を、非破壊で個別に診断することができる。
【0017】
本実施形態に係る二次電池の状態診断方法では、診断対象である二次電池の充電状態毎の閉回路電圧を、二次電池の充電過程または放電過程において、途中に充放電の切り替えを挟むことなく連続的に測定する。二次電池の閉回路電圧は、互いに異なる充電状態における測定結果を含むように、連続的な充電過程、または、連続的な放電過程のうちで、必要に応じて測定間隔を空けて連続的に測定される。
【0018】
二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係は、二次電池の充電状態と開回路電圧(Open circuit voltage:OCV)との関係と、二次電池の充電状態と内部抵抗との関係とに基づいて計算できる。また、二次電池の充電状態と開回路電圧との関係は、正極の充電状態と開回路電圧との関係と、負極の充電状態と開回路電位との関係に基づいて計算できる。二次電池の充電状態と内部抵抗との関係は、正極の充電状態と内部抵抗との関係と、負極の充電状態と内部抵抗との関係と、電極以外の要素の抵抗に基づいて計算できる。
【0019】
そのため、本実施形態に係る二次電池の状態診断方法では、電極毎の充電状態と開回路電圧との関係や、電極毎の充電状態と内部抵抗との関係を、参照情報として予め用意しておく。これらの関係を、正極や負極、電極以外の要素の劣化状態を表す劣化状態パラメータで補正する。劣化状態パラメータで補正された関係同士を組み合わせると、劣化状態が仮定された二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を計算上で再現できる。
【0020】
したがって、実測に基づく測定結果と、再現に基づく劣化状態が仮定された計算結果とを比較すると、測定結果と計算結果との一致性に基づいて、実際の劣化状態を推定することができる。測定結果と計算結果との一致性に基づいて、仮定的に設定された劣化状態パラメータが、真値に向けて近似される。劣化状態パラメータは、正極や負極、電極以外の要素の劣化度合を表すため、劣化状態パラメータの解を求めることにより、二次電池の劣化状態や、二次電池の電極毎の劣化状態を評価することができる。
【0021】
従来、診断対象である二次電池の情報を間欠的な充放電で収集する方法が知られている。しかし、間欠的に充放電を行う方法では、所定の充電状態における電圧等を、二次電池の充電状態を変更しながら繰り返し測定する必要がある。従来の方法では、離散的な多数の充電状態毎の情報を収集するにあたり、微小な電流による充放電と、電気化学的な緩和のための休止とを、測定点毎に繰り返さなければならない。
【0022】
このような従来の方法では、所定の条件で充放電を行うための充放電装置や充放電作業が必要になる。また、二次電池が使用されている既存の回路を使用できないことが多いため、二次電池を使用時の回路から取り外す作業が必要になる。また、間欠的に充放電を行う方法では、電池情報の収集に時間がかかる。診断対象である二次電池の情報を間欠的な充放電で収集する方法では、特殊な装置や作業が必要になり、手間や技能、測定時間を要するという課題がある。
【0023】
これに対し、本実施形態に係る二次電池の状態診断方法では、診断対象である二次電池の閉回路電圧を、充電過程または放電過程において連続的に測定して診断に用いる。そのため、診断に必要な二次電池の情報を簡単な作業で収集できる。例えば、二次電池の充電状態毎の閉回路電圧の測定を、電圧計や電流計を備えた既存の回路上で行うことも可能である。特殊な装置や作業が不要であり、手間や技能を必要としないため、診断対象である二次電池の劣化状態を、簡便な操作で取得できる情報に基づいて、非破壊で高精度に診断することができる。
【0024】
本明細書において、充電状態とは、満充電状態から放電可能な電気量に対する放電可能な電気量の割合によって定まる電気化学的な状態を意味する。充電状態は、満充電状態を100%、全放電状態を0%とする充電状態SOC(State of Charge)[%]や、満充電状態を0%、全放電状態を100%とする充電深度DOD(Depth of Discharge)や、満充電状態からの放電量[Ah]や、全放電状態からの充電量[Ah]や、活物質に含まれる電荷キャリア元素の組成比等、相互に換算可能な適宜の状態量で表すことができる。
【0025】
図1は、本実施形態に係る二次電池の状態診断装置の構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る二次電池の状態診断装置100は、演算部10と、記憶部20と、入力部30と、出力部40と、通信部50と、を備えている。状態診断装置100の演算部10、記憶部20、入力部30、出力部40および通信部50は、バスに接続されている。
【0026】
状態診断装置100は、二次電池の劣化状態を診断する装置であり、コンピュータ等のハードウェアによって構成することができる。状態診断装置100は、二次電池の劣化状態を診断する処理を所定のプログラムにしたがって実行する。
【0027】
状態診断装置100は、実測によって得られた測定結果を示す測定データを入力として、所定のプログラムを実行し、二次電池の劣化状態の診断結果を示す診断データを出力する。二次電池の劣化状態を診断する処理では、予め用意された電極特性を示す参照データを参照して、測定データと比較するための計算データを生成する。
【0028】
演算部10は、各種のデータやプログラムの読み取り、プログラムの実行、二次電池の状態の計算等を行う。演算部10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置によって構成される。
【0029】
記憶部20は、各種のデータやプログラムを記憶する。記憶部20は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の記憶装置によって構成される。各種のデータやプログラムは、書き込み可能且つ読み取り可能なハードディスク、フラッシュメモリ、磁気ディスク、光学ディスク等に記憶されてもよい。
【0030】
入力部30は、操作者による入力を受け付ける装置である。入力部30は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等によって構成される。入力部30は、不図示の入力インターフェイスを介して接続することができる。
【0031】
出力部40は、状態診断装置100の操作情報、各種のデータの内容、診断状況、診断結果等を出力する装置である。出力部40は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、ブラウン管等によって構成される。出力部40は、不図示の出力インターフェイスを介して接続することができる。
【0032】
通信部50は、外部の測定機器や、電気通信回線等との間で、各種のデータや制御信号の送信および受信を行う。通信部50は、不図示の通信インターフェイス、入出力インターフェイス等を介して接続することができる。
【0033】
通信部50には、診断対象である二次電池の測定データを、電圧計や電流計等の外部の測定機器から取得してもよいし、二次電池の使用元の端末、二次電池の保守を行うサービスセンタの端末等から電気通信回線を通じて取得してもよい。二次電池の使用元やサービスセンタでは、診断対象である二次電池から測定データを収集して端末等に入力し、二次電池の劣化状態の診断要求に応じて状態診断装置100に送信できる。
【0034】
図2は、二次電池の劣化状態の診断の処理を示すフローチャートである。
図2に示すように、二次電池の劣化状態の診断の処理では、電極毎の充電状態と開回路電圧との関係を示す参照データや、電極毎の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データを読み込み、劣化状態パラメータを設定して、劣化状態が仮定された二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データを生成する。そして、実測に基づく測定データと、再現に基づく計算データとを比較して、データ同士の一致性を判定する。
【0035】
測定データは、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定結果のデータである。測定データは、診断対象である二次電池の充電状態毎の閉回路電圧を、二次電池の充電過程または放電過程において連続的に測定することによって収集される。測定データは、実測によって収集された後、状態診断装置100の測定データを取得する取得部に入力されて、記憶部120に記憶される。取得部は、測定データを、通信部50を介して取得してもよいし、入力部30や記憶媒体を介して取得してもよい。測定データは、関係式で表されてもよいし、データテーブルで表されてもよい。
【0036】
測定データは、診断対象である二次電池の満充電状態に向けた充電過程、または、完全放電状態に向けた放電過程において、二次電池の充電状態毎の閉回路電圧を、途中に充放電の切り替えを挟むことなく連続的に測定することによって求められる。閉回路電圧の測定は、測定点同士の間に充放電の切り替えを伴わない限り、時間間隔を空けながら行ってもよい。
【0037】
閉回路電圧の測定は、低レートの充電電流で充電する充電過程、または、低レートの放電電流で放電する放電過程において行われることが好ましい。測定時の充放電電流は、0.3C以下が好ましく、0.2C以下がより好ましく、0.1C以下が更に好ましい。また、測定時の充放電電流は、0.01C以上が好ましい。測定時の充放電電流は、一定電流であってもよいし、可変電流であってもよい。
【0038】
測定時の充放電電流が低レートであると、大電流による抵抗成分の影響や、大電流による劣化の影響が小さくなるため、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を正確に求めることができる。また、測定時の充放電電流が0.01C以上であると、電池情報の収集の所要時間が短縮される。
【0039】
閉回路電圧の測定は、診断に十分な測定データが得られる限り、任意の充電状態の範囲を対象として行うことができる。満充電状態であるSOC100%から、完全放電状態であるSOC0%までの全範囲の測定データを得ることが最も望ましいが、SOC80~20%、SOC100~50%、SOC50~0%等の一部の範囲を対象として行うこともできる。
【0040】
閉回路電圧の測定は、例えば、使用中の二次電池の現在の充電状態から満充電状態に向けた充電過程や、現在の充電状態から完全放電状態に向けた放電過程において行ってもよい。また、使用中の二次電池の次の充放電サイクルにおける充電過程や、次の充放電サイクルにおける放電過程で行ってもよい。但し、測定データは、正確な診断を行う観点から、連続的な一回の充電過程、または、連続的な一回の放電過程において収集されることが好ましい。
【0041】
閉回路電圧の測定は、互いに充電状態が異なる複数の充電状態について行うことが好ましい。閉回路電圧を測定する測定点は、2点以上が好ましく、5点以上がより好ましく、10点以上が更に好ましい。測定点が多いと、測定データと計算データとの精密な比較を行えるため、劣化状態の診断の精度を向上させることができる。
【0042】
参照データは、劣化状態が仮定された計算データを生成するための基礎データとして用いられる。参照データは、ハーフセル等を用いて電極の充電状態毎の開回路電位や内部抵抗を測定することによって収集される。参照データは、状態診断装置100の記憶部20に記憶される。参照データは、関係式で表されてもよいし、データテーブルで表されてもよい。
【0043】
参照データとしては、正極材料に固有の正極の充電状態と開回路電位との関係を示す参照データ、正極材料に固有の正極の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データ、負極材料に固有の負極の充電状態と開回路電位との関係を示す参照データ、および、負極材料に固有の負極の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データが、状態診断装置100に予め用意される。
【0044】
図3は、電極の充電状態と開回路電位との関係の一例を示す図である。
図3は、正極の参照データに対応している。横軸は、電極の充電状態の一例として、正極活物質の単位質量当たりの満充電状態からの放電量qp[Ah/g]を示す。縦軸は、基準電極に対する正極の開回路電位Vp[V]を示す。
【0045】
図4は、電極の充電状態と開回路電位との関係の一例を示す図である。
図4は、負極の参照データに対応している。横軸は、電極の充電状態の一例として、負極活物質の単位質量当たりの満充電状態からの放電量qn[Ah/g]を示す。縦軸は、基準電極に対する負極の開回路電位Vn[V]を示す。
【0046】
図3および図4に示すように、電極の充電状態と開回路電位との関係は、電極の材料として用いる活物質に固有の関係となる。このような充電状態と開回路電位との関係を示す参照データを、正極および負極の電極毎、且つ、電極に用いられる活物質毎に、関係式またはデータテーブルとして用意することが好ましい。複数種の活物質の参照データを用意すると、診断対象の二次電池に用いられている活物質の種類が不明であっても、参照データを入れ替えながら計算を収束させることによって、二次電池の劣化状態を適正に診断できる。
【0047】
図3に示すように、電極の充電状態-開回路電位の曲線は、電極の充電状態の変化に対して開回路電位が実質的に変動しないプラトーな領域を持っている場合がある。図3に示す曲線は、例えば、LiFePOを用いた場合等に得られる。一方、図4に示すように、電極の充電状態-開回路電位の曲線は、電極の充電状態の変化に対して開回路電位が変動する場合がある。
【0048】
図3および図4に示すように、電極の充電状態の変化に対して開回路電位が実質的に変動しない活物質を用いた場合、電極の劣化状態が電極電位に反映され難い。電極の劣化によって曲線が上下等にシフトするが、シフト量は充電状態の変化に対して微小となる。そのため、電極の充電状態と開回路電位との関係のみに基づいては、高精度な診断が困難である。
【0049】
図5は、電極の充電状態と内部抵抗との関係の一例を示す図である。
図5は、正極の参照データに対応している。横軸は、電極の充電状態の一例として、正極活物質の単位質量当たりの満充電状態からの放電量qp[Ah/g]を示す。縦軸は、正極活物質の内部抵抗rp[mΩ・g]を示す。図5は、図3と同種の活物質を用いた正極のデータである。
【0050】
図6は、電極の充電状態と内部抵抗との関係の一例を示す図である。
図6は、負極の参照データに対応している。横軸は、電極の充電状態の一例として、負極活物質の単位質量当たりの満充電状態からの放電量qn[Ah/g]を示す。縦軸は、負極活物質の内部抵抗rn[mΩ・g]を示す。図6は、図4と同種の活物質を用いた負極のデータである。
【0051】
図5および図6に示すように、電極の充電状態と内部抵抗との関係は、電極の材料として用いる活物質に固有の関係となる。このような充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データを、正極および負極の電極毎、且つ、電極に用いられる活物質毎に、関係式またはデータテーブルとして用意することが好ましい。複数種の活物質の参照データを用意すると、診断対象の二次電池に用いられている活物質の種類が不明であっても、参照データを入れ替えながら計算を収束させることによって、二次電池の劣化状態を適正に診断できる。
【0052】
図5に示すように、電極の充電状態-内部抵抗の曲線は、電極の充電状態の変化に対して開回路電位が実質的に変動しないプラトーな領域を持っている活物質を用いた場合であっても、電極の充電状態の変化に対して変動を生じることが多い。一方、図6に示すように、電極の充電状態-内部抵抗の曲線は、0.18Ah/g付近に特徴点を持っている。0.18Ah/g付近の特徴点は、図4に示す充電状態-開回路電位の曲線にも現れている。
【0053】
図5および図6に示すように、電極の充電状態の変化に対して内部抵抗の変動を生じることが多い。電極の充電状態と開回路電位との関係に加え、電極の充電状態と内部抵抗との関係を参照すると、充電状態と開回路電位との関係のみに基づく場合は異なり、電極材料に固有の抵抗上昇挙動を考慮して、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を計算上で精密に再現できる。そのため、二次電池の劣化状態を簡便な操作で取得できる閉回路電圧の情報に基づいて高精度に診断できる。
【0054】
参照データとしては、例えば、劣化が実質的に進行していない初期状態の電極のデータを用いることができる。例えば、作製した電極を用いてハーフセルを作製した後、1~5回目程度の充電過程や放電過程において、初期状態の電極のデータを収集することができる。1回目の充電過程や放電過程においては、電極上で不可逆的な反応を生じる場合があるため、2~5回目程度の充放電過程で収集することが好ましい。
【0055】
測定データおよび参照データは、充電過程において取得されてもよいし、放電過程において取得されてもよい。但し、一般には、充電過程における挙動と、放電過程における挙動とに、ヒステリシスがある。そのため、測定データや参照データとしては、互いに共通の充放電過程で取得されたデータを、同一の診断に用いることが好ましい。
【0056】
測定データおよび参照データは、充電状態と電圧値との関係を示すデータや、充電状態と内部抵抗値との関係を示すデータであってもよいし、充電状態と電圧の微分値との関係を示すデータや、充電状態と内部抵抗の微分値との関係を示すデータであってもよい。電圧の微分値を用いると、活物質利用量に反比例する関係が得られるため、活物質利用量の正しさを確保できる。
【0057】
図2に示すように、はじめに、演算部10は、診断対象である二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定データを、記憶部20から読み込む(ステップS1)。測定データとしては、二次電池の劣化状態の診断要求に応じて、所定の診断対象のデータを選択することができる。
【0058】
続いて、演算部10は、正極材料に固有の正極の充電状態と開回路電位との関係を示す参照データ、および、負極材料に固有の負極の充電状態と開回路電位との関係を示す参照データを、記憶部20から読み込む(ステップS2)。
【0059】
例えば、演算部10は、正極材料に固有の正極の充電状態と開回路電位との関係を示す参照データとして、満充電状態からの正極の単位質量当たりの放電量qpのデータと、放電量qpに対応した正極の開回路電位OCVpのデータ、または、完全放電状態からの正極の単位質量当たりの充電量qpのデータと、充電量qpに対応した正極の開回路電位OCVpのデータを、記憶部20から読み込むことができる。
【0060】
また、演算部10は、負極材料に固有の負極の充電状態と開回路電位との関係を示す参照データとして、満充電状態からの負極の単位質量当たりの放電量qnのデータと、放電量qnに対応した負極の開回路電位OCVnのデータ、または、完全放電状態からの負極の単位質量当たりの充電量qnのデータと、充電量qnに対応した負極の開回路電位OCVnのデータを、記憶部20から読み込むことができる。
【0061】
続いて、演算部10は、正極材料に固有の正極の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データ、および、負極材料に固有の負極の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データを、記憶部20から読み込む(ステップS3)。
【0062】
例えば、演算部10は、正極材料に固有の正極の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データとして、満充電状態からの正極の単位質量当たりの放電量qpのデータと、放電量qpに対応した正極の内部抵抗Rpのデータ、または、完全放電状態からの正極の単位質量当たりの充電量qpのデータと、充電量qpに対応した正極の内部抵抗Rpのデータを、記憶部20から読み込むことができる。
【0063】
また、演算部10は、負極材料に固有の負極の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データとして、満充電状態からの負極の単位質量当たりの放電量qnのデータと、放電量qnに対応した負極の内部抵抗Rnのデータ、または、完全放電状態からの負極の単位質量当たりの充電量qnのデータと、充電量qnに対応した負極の内部抵抗Rnのデータを、記憶部20から読み込むことができる。
【0064】
なお、ステップS1、ステップS2およびステップS3とは、実行の順序が、特に限定されるものではない。ステップS2およびステップS3において、参照データは、ステップS1で読み込まれた測定データに応じて、参照データベース中から選定されてもよい。或いは、読み込まれた参照データに応じて、診断要求毎の測定データが、測定データベース中から選定されてもよい。
【0065】
参照データは、測定データと関連付けられた情報、例えば、診断対象である二次電池に用いられている活物質の種類の情報、診断対象である二次電池の上限電圧や下限電圧の情報等に基づいて、参照データベース中から選定することもできる。測定データは、種々の診断対象である二次電池から収集して、測定データベースを形成することもできる。
【0066】
ステップS2やステップS3において、参照データとしては、診断対象である二次電池と同じ種類の活物質を用いた電極のデータを読み込むことが好ましい。但し、診断対象である二次電池に用いられている活物質の種類が不明である場合は、任意の電極のデータを読み込むことができる。活物質の種類が不明であっても、参照データを入れ替えながら以降の計算を収束させることによって、二次電池の劣化状態を適正に診断できる。
【0067】
続いて、演算部10は、参照データによって示される関係に対して、電極や電極以外の要素の劣化状態を表す劣化状態パラメータを設定する(ステップS4)。
【0068】
具体的には、演算部10は、参照データによって示される関係、すなわち、正極材料に固有の正極の充電状態と開回路電位との関係、正極材料に固有の正極の充電状態と内部抵抗との関係、負極材料に固有の負極の充電状態と開回路電位との関係、および、負極材料に固有の負極の充電状態と内部抵抗との関係を、任意値に設定した劣化状態パラメータで補正する処理を行う。
【0069】
劣化状態パラメータは、正極の劣化状態や、負極の劣化状態や、電極以外の要素の劣化状態を定量的に表すパラメータである。劣化状態パラメータとしては、正極や、負極や、電極以外の要素毎に、個別のパラメータが設定される。劣化状態パラメータは、無劣化や完全劣化に対応する所定の上限値と下限値との間で定義される。
【0070】
参照データによって示される関係を劣化状態パラメータで補正すると、所定の劣化状態が仮定された二次電池の充電状態と開回路電圧との関係を示す計算データや、所定の劣化状態が仮定された二次電池の充電状態と内部抵抗との関係を示す計算データを生成できる。これらの計算データから、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データを生成し、測定データに対してフィッティングさせると、真値に向けて近似された劣化状態パラメータの解が得られる。
【0071】
劣化状態パラメータとしては、劣化の要因となる電極や電極以外の要素に対応するように、複数のパラメータを設定することが好ましい。劣化状態パラメータとしては、容量に関する劣化状態パラメータや、抵抗に関する劣化状態パラメータを設定できる。
【0072】
容量に関する劣化状態パラメータとしては、充電状態と開回路電位との関係を示す関数や、充電状態と内部抵抗との関係を示す関数において、充電状態を表す状態量の係数や定数を設定することができる。例えば、正極については、正極活物質利用量mp、正極側位置ずれδp等を設定できる。負極については、負極活物質利用量mn、負極側位置ずれδn等を設定できる。
【0073】
正極活物質利用量mpは、正極に含まれる正極活物質のうち、充放電反応に利用される正極活物質の量を表す。正極活物質利用量mp[g]は、正極に含まれる正極活物質量をmp0[g]、充放電反応に利用される正極活物質の割合をmprとしたとき、mp=mp0×mprを満たす。
【0074】
正極側位置ずれδpは、正極の電圧-容量曲線上において、正極の劣化による容量軸に沿った曲線の位置ずれを意味する。正極側位置ずれδpは、正極の劣化による正極の容量の減少分に相当する。正極側位置ずれδpは、正極の容量のうち、二次電池の使用電圧範囲の上限よりも高電位側でしか得られない容量に対応している。
【0075】
正極の容量Qp[Ah]は、充放電反応に利用される正極活物質利用量をmp[g]、正極の単位質量当たりの容量をqp[Ah/g]としたとき、Qp=qp×mpで表される。正極の容量Qp[Ah]は、正極側位置ずれδpを生じる劣化を仮定した場合、次の式(1)で表すことができる。
Qp=qp×mp-δp・・・(1)
【0076】
負極活物質利用量mnは、負極に含まれる負極活物質のうち、充放電反応に利用される負極活物質の量を表す。負極活物質利用量mn[g]は、負極に含まれる負極活物質量をmn0[g]、充放電反応に利用される負極活物質の割合をmnrとしたとき、mn=mn0×mnrを満たす。
【0077】
負極側位置ずれδnは、負極の電圧-容量曲線上において、負極の劣化による容量軸に沿った曲線の位置ずれを意味する。負極側位置ずれδnは、負極の劣化による負極の容量の減少分に相当する。負極側位置ずれδnは、負極の容量のうち、二次電池の使用電圧範囲の下限よりも低電位側でしか得られない容量に対応している。
【0078】
負極の容量Qn[Ah]は、充放電反応に利用される負極活物質利用量をmn[g]、負極の単位質量当たりの容量をqn[Ah/g]としたとき、Qn=qn×mnで表される。負極の容量Qn[Ah]は、負極側位置ずれδnを生じる劣化を仮定した場合、次の式(2)で表すことができる。
Qn=qn×mn-δn・・・(2)
【0079】
抵抗に関する劣化状態パラメータとしては、充電状態と内部抵抗との関係を示す関数において、充電状態に依存する電極毎の内部抵抗に対応する抵抗項の係数や、充電状態に依存しない電極以外の要素の抵抗に対応する定数を設定することができる。例えば、正極の内部抵抗に関しては、正極抵抗係数ap、負極の内部抵抗に関しては、負極抵抗係数anを設定できる。電極以外の要素の抵抗に関しては、抵抗定数Roを設定できる。
【0080】
充電状態xにおける正極の内部抵抗Rp[Ω]は、正極抵抗係数apの劣化を仮定すると、充放電反応に利用される正極活物質利用量をmp[g]、充電状態xにおける正極活物質内部抵抗をrp(x)[Ω・g]としたとき、次の式(3)で表すことができる。
Rp(Qp)=ap/mp×rp(qp)・・・(3)
【0081】
充電状態xにおける負極の内部抵抗Rp[Ω]は、負極抵抗係数anの劣化を仮定すると、充放電反応に利用される負極活物質利用量をmn[g]、充電状態xにおける負極活物質内部抵抗をrn(x)[Ω・g]としたとき、次の式(4)で表すことができる。
Rn(Qn)=an/mn×rn(qn)・・・(4)
【0082】
劣化状態パラメータとしては、無劣化や完全劣化に対応する所定の上限値と下限値との間で、任意の数値間隔で、任意の数値を定義することができる。劣化状態パラメータは、補正する関係式に応じて規格化されることが好ましい。劣化状態パラメータは、劣化状態(SOH)[%]を示すデータ等と関連付けて、パラメータテーブルとして用意しておくこともできる。このようなテーブルを用いると、同じ劣化状態(SOH)[%]に対応する劣化状態パラメータ同士の設定が可能になる。
【0083】
ステップS4において、劣化状態パラメータとしては、正極の劣化状態や、負極の劣化状態や、電極以外の要素の劣化状態を仮定して、所定の上限値と下限値との間で、任意の数値を設定することができる。任意の数値を設定して以降の計算を収束させると、真値に近似された劣化状態パラメータの解が得られる。以降の計算が収束しない場合は、劣化状態パラメータを未設定の数値に更新して再計算を行う。
【0084】
具体的には、演算部10は、正極材料に固有の正極の充電状態と開回路電位との関係を示す参照データに基づいて、充電状態毎の正極の開回路電位OCVp(Qp)のデータから、劣化状態パラメータで補正したOCV(qp×mp-δp)を計算する処理を行う。同様に、負極材料に固有の負極の充電状態と開回路電位との関係を示す参照データに基づいて、充電状態毎の負極の開回路電位OCVn(Qn)のデータから、劣化状態パラメータで補正したOCV(qn×mn-δn)を計算する処理を行う。
【0085】
また、演算部10は、正極材料に固有の正極の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データに基づいて、充電状態毎の正極の内部抵抗Rp(Qp)のデータから、劣化状態パラメータで補正したap/mp×rp(qp)を計算する処理を行う。同様に、負極材料に固有の負極の充電状態と内部抵抗との関係を示す参照データに基づいて、充電状態毎の負極の内部抵抗Rn(Qn)のデータから、劣化状態パラメータで補正したan/mn×rn(qn)を計算する処理を行う。
【0086】
続いて、演算部10は、劣化状態パラメータで補正された正極の充電状態と開回路電位との関係と、劣化状態パラメータで補正された負極の充電状態と開回路電位との関係とに基づいて、二次電池の充電状態と開回路電圧との関係を示す計算データ(第1計算データ)を生成する(ステップS5)。
【0087】
二次電池の充電状態と開回路電圧との関係を示す計算データは、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データの生成に用いられる。二次電池の充電状態と開回路電圧との関係を示す計算データは、計算によって生成された後、記憶部120に記憶することができる。二次電池の充電状態と開回路電圧との関係を示す計算データは、関係式で表されてもよいし、データテーブルで表されてもよい。
【0088】
充電状態xにおける二次電池の開回路電位OCVc(x)[V]は、充電状態xにおける正極の開回路電位をOCVp(x)[V]、充電状態xにおける負極の開回路電位をOCVn(x)[V]、二次電池の満充電状態からの放電容量をQc[Ah]、正極の満充電状態からの放電容量をQp[Ah]、負極の満充電状態からの放電容量をQn[Ah]としたとき、Qc=Qp+δp=Qn+δnの下で、次の式(5)によって計算することができる。
OCVc(Qc)=OCVp(Qp)-OCVn(Qn)・・・(5)
【0089】
図7は、二次電池の充電状態と開回路電位との関係の一例を示す図である。
図7において、横軸は、二次電池の充電状態の一例として、活物質の単位質量当たりの満充電状態からの放電量[Ah/g]を示す。縦軸は、電位[V]を示す。一点鎖線は、正極の開回路電位OCVp、実線は、二次電池の開回路電位OCVc、破線は、負極の開回路電位OCVnを示す。
【0090】
図7に示すように、二次電池の充電状態と開回路電位との関係は、正極の充電状態と開回路電位との関係と、負極の充電状態と開回路電位との関係との合成によって求められる。このような充電状態と開回路電位との関係を示す計算データを、劣化状態パラメータで補正された参照データから生成し、関係式またはデータテーブルとして記憶する。
【0091】
続いて、演算部10は、補正パラメータで補正された正極の充電状態と内部抵抗との関係と、補正パラメータで補正された負極の充電状態と内部抵抗との関係とに基づいて、二次電池の充電状態と内部抵抗との関係を示す計算データ(第2計算データ)を生成する(ステップS6)。
【0092】
二次電池の充電状態と内部抵抗との関係を示す計算データは、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データの生成に用いられる。二次電池の充電状態と内部抵抗との関係を示す計算データは、計算によって生成された後、記憶部120に記憶することができる。二次電池の充電状態と内部抵抗との関係を示す計算データは、関係式で表されてもよいし、データテーブルで表されてもよい。
【0093】
充電状態xにおける二次電池の内部抵抗Rc(x)[Ω]は、充電状態xにおける正極の内部抵抗をRp(x)[Ω]、充電状態xにおける負極の内部抵抗をRn(x)[Ω]、電極以外の要素の抵抗をRo[Ω]、二次電池の満充電状態からの放電容量をQc[Ah]、正極の満充電状態からの放電容量をQp[Ah]、負極の満充電状態からの放電容量をQn[Ah]としたとき、Qc=Qp+δp=Qn+δnの下で、次の式(6)によって計算することができる。
Rc(Qc)=Ro+Rp(Qp)+Rn(Qn)・・・(6)
【0094】
図8は、二次電池の充電状態と内部抵抗との関係の一例を示す図である。
図8において、横軸は、二次電池の充電状態の一例として、活物質の単位質量当たりの満充電状態からの放電量[Ah/g]を示す。縦軸は、直流内部抵抗[mΩ]を示す。実線は、二次電池の内部抵抗Rc、一点鎖線は、正極の内部抵抗Rp、破線は、負極の内部抵抗Rnを示す。
【0095】
図8に示すように、二次電池の充電状態と内部抵抗との関係は、充電状態に依存する正極の充電状態と内部抵抗との関係と、充電状態に依存する負極の充電状態と内部抵抗との関係と、充電状態に依存しない電極以外の要素の抵抗との合成によって求められるが、電極や電極以外の要素の個別の劣化状態に強く依存するため、参照データの適切な選定が必要である。このような充電状態と内部抵抗との関係を示す計算データを、劣化状態パラメータで補正された参照データから生成し、関係式またはデータテーブルとして記憶する。
【0096】
基礎データとして用いられる参照データの二次電池の内部抵抗が、充電状態に依存する正極の内部抵抗と、充電状態に依存する負極の内部抵抗と、充電状態に依存しない電極以外の要素の抵抗との合成であると、劣化の進行度合が異なる電極毎の劣化状態を、計算上で精密に再現することができる。そのため、二次電池の電極毎の劣化状態を高精度に評価することが可能になる。
【0097】
続いて、演算部10は、二次電池の充電状態と開回路電圧との関係を示す計算データと、二次電池の充電状態と内部抵抗との関係を示す計算データとに基づいて、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データ(第3計算データ)を生成する(ステップS7)。
【0098】
二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データは、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定データとの比較に用いられる。二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データは、計算によって生成された後、記憶部120に記憶することができる。二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データは、関係式で表されてもよいし、データテーブルで表されてもよい。
【0099】
充電状態xにおける二次電池の閉回路電位CCVc(x)[V]は、充電状態xにおける正極の閉回路電位をCCVp(x)[V]、充電状態xにおける負極の閉回路電位をCCVn(x)[V]、二次電池の満充電状態からの放電量をI[A]としたとき、次の式(7)~(9)によって計算することができる。
CCVc(Qc)=CCVp(Qp)-CCVn(Qn)-I×Rc
・・・(7)
CCVp(Qp)=OCVp(Qp)-I×Rp(Qp)・・・(8)
CCVn(Qn)=OCVn(Qn)-I×Rn(Qn)・・・(9)
【0100】
図9は、二次電池の充電状態と閉回路電位との関係の一例を示す図である。
図9において、横軸は、二次電池の充電状態の一例として、活物質の単位質量当たりの満充電状態からの放電量[Ah/g]を示す。縦軸は、電位[V]を示す。太実線は、正極の開回路電位OCVp、中実線は、二次電池の開回路電圧OCVc、太破線は、正極の閉回路電位CCVp、中実線は、二次電池の閉回路電圧CCVc、細実線は、負極の開回路電位OCVn、細破線は、負極の閉回路電位CCVnを示す。●プロットは、実測に基づく測定データを示す。
【0101】
図9に示すように、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係は、二次電池の充電状態と開回路電圧との関係と、二次電池の充電状態と内部抵抗との関係との合成によって求められる。式(5)~(9)の連立式によって、中破線で示すように、劣化状態を仮定した二次電池の充電状態毎の閉回路電圧の計算データを求めることができる。このような充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データを、劣化状態パラメータで補正された計算データから生成し、関係式またはデータテーブルとして記憶する。そして、中破線で示す計算データと、●プロットで示す実測に基づく測定データとが一致するように、劣化状態パラメータを設定してフィッティングを行う。
【0102】
続いて、演算部10は、実測に基づく二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定データと、再現に基づく劣化状態が仮定された二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データとを比較する(ステップS8)。比較の処理では、実測に基づく測定データと、劣化状態が仮定された計算データとが、互いに一致しているか否かを判定する(ステップS9)。
【0103】
測定データと計算データとの比較は、データ間の類似度を判定する任意の方法で行うことができる。例えば、線形回帰または非線形回帰の下で残差平方和、相関係数等を求める回帰分析や、充電状態等に応じて重みを付けた重み付き回帰分析や、クラスタリングされたデータベースと比較してデータを帰属させるクラスタ分析等によって行うことができる。測定データや計算データは、温度等の追加的な変数のデータが関連付けられてクラスタリングされてもよい。
【0104】
測定データと計算データとの比較は、充電状態の一部の区間に対応するデータについて行ってもよいし、充電状態の全部の区間に対応するデータについて行ってもよい。全部の区間でフィッティングを行うと、劣化状態の診断の精度を向上させることができる。一方、充電状態の一部の区間に特徴点がある場合等には、特徴点を含む一部の区間のみでフィッティングを行うことができる。
【0105】
例えば、測定データと計算データとの比較は、データ間の残差平方和に基づいて行うことができる。測定データと計算データとの差分の平方和を計算し、差分の平方和と任意に設定した閾値とを比較する。差分の平方和と閾値との大小関係によって、測定データと計算データとの一致性を判定することができる。
【0106】
診断対象である二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定データは、充電状態として、二次電池の満充電状態からの放電容量Qcを用いる場合、二次電池の満充電状態からの放電容量の測定値Qceと、二次電池の閉回路電圧の測定値CCVceとの組み合わせによる離散的なデータの集合となる。測定データの集合は、データテーブルとして記憶部20に格納しておくことができる。測定データのデータテーブルは、(Qce_1,CCVce_1)、(Qce_2,CCVce_2)、・・・、(Qce_N,CCVce_N)等のデータを含む。
【0107】
データ同士が互いに一致しているか否かの判定では、計算データのデータテーブルから、測定データの充電状態に対応する計算データを抽出する。測定データ(Qce_1,CCVce_1)、(Qce_2,CCVce_2)、・・・、(Qce_N,CCVce_N)に対して、同一または近似した放電容量Qcの計算データ(Qcc_1,CCVcc_1)、(Qcc_2,CCVcc_2)、・・・、(Qcc_N,CCVcc_N)等を抽出することができる。
【0108】
そして、互いに対応する充電状態のデータ間で、測定データ中の測定値と計算データ中の計算値との差分の二乗を計算し、差分の二乗を所定の範囲のデータ間で合計する。測定データ中の測定値CCVce_1~CCVce_Nと、計算データ中の計算値CCVcc_1~CCVcc_Nとの差分の二乗和として、Σ(CCVce_i-CCVcc_i)を、i=1~Nに対して計算することができる。
【0109】
計算された差分の二乗和は、予め設定された一致性に関する閾値と比較する。閉回路電位についての一致性に関する閾値としては、診断に要求される精度や、劣化状態パラメータを変更した計算の繰り返し数等に応じて、データ同士の類似度が高くなるような任意値を設定できる。測定データに対応する放電状態の計算データがない場合は、内挿によって計算データを補間してもよい。
【0110】
比較の結果、測定データと計算データとの差分の二乗和が、予め設定された閾値を超えているとき、診断対象である二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定データと、劣化状態を仮定して計算した二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データとが、互いに一致していないと判定できる。この場合(ステップS9;NO)、劣化状態パラメータを再設定して、計算データの再生成および再比較を行う。
【0111】
計算データの再生成および再比較において、劣化状態パラメータとしては、未設定の数値を設定することができる。劣化状態パラメータは、例えば、劣化状態パラメータが表す劣化状態に関して昇順または降順に選定して設定することができる。容量に関する劣化状態パラメータと、抵抗に関する劣化状態パラメータとは、推定される劣化状態にかかわらず、互いに独立に選定されてもよい。
【0112】
一方、比較の結果、測定データと計算データとの差分の二乗和が、予め設定された閾値以下であるとき、診断対象である二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す測定データと、劣化状態を仮定して計算した二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データとが、互いに一致していると判定できる。この場合(ステップS9;YES)、設定した劣化状態パラメータを採用して記憶部20に登録し、診断の処理を終了する。
【0113】
劣化状態パラメータの再設定や、再設定した劣化状態パラメータに基づく計算データの再生成および再比較は、測定データと計算データとが互いに一致していると判定されるまで、任意の回数を繰り返すことができる。二次電池の劣化状態の診断の処理は、測定データと計算データとの一致性の判定の結果や、所定の停止条件に応じて、終了することができる。
【0114】
例えば、計算の繰り返し数が所定数に達した場合や、計算によって収束された劣化状態パラメータで補正された計算データと測定データとの類似度が所定の類似度に達しなかった場合や、予め用意された全ての劣化状態パラメータの設定が完了した場合等に、診断の処理を終了することができる。
【0115】
計算データの再生成および再比較において、測定データと計算データが、所定の計算回数や、所定の計算時間において、互いに一致しない場合には、別の活物質を用いた電極の参照データと入れ替えて、劣化状態パラメータの再設定や、再設定した劣化状態パラメータに基づく計算データの再生成および再比較を、やり直してもよい。
【0116】
二次電池の劣化状態の診断の処理が終了すると、出力部40は、二次電池の劣化状態の診断結果や、電極毎の劣化状態の診断結果を表示する。出力部40には、診断要求に対する診断結果を示すデータを、充電状態-電圧の曲線、充電状態-内部抵抗の曲線等のグラフや、テーブル等として表示することができる。
【0117】
二次電池の劣化状態の診断結果を示すデータとしては、採用された劣化状態パラメータや、電極毎の計算データによって生成された二次電池の充電状態と開回路電圧との関係を示す計算データや、電極毎の計算データによって生成された二次電池の充電状態と内部抵抗との関係を示す計算データや、これらの計算データによって生成された二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を示す計算データが挙げられる。
【0118】
電極毎の劣化状態の診断結果を示すデータとしては、採用された補正パラメータで補正された電極の充電状態と開回路電位との関係を示す計算データや、採用された補正パラメータで補正された電極の充電状態と内部抵抗との関係を示す計算データが挙げられる。これらのデータは、正極および負極の電極毎に表示することができる。
【0119】
出力部40は、診断結果を示すデータと共に、電極に用いられている活物質の種類や、測定データと計算データとの一致性を示す類似度等の情報を表示してもよい。また、劣化状態パラメータの値に対応した劣化状態(SOH)を表示してもよい。また、採用された劣化状態パラメータに基づく最終結果のみを表示してもよいし、計算の繰り返し毎の中間結果を最終結果と共に表示してもよい。
【0120】
二次電池の劣化状態の診断の処理において、測定データと計算データとの一致性に基づいて真値に近似された劣化状態パラメータが特定された後、特定された劣化状態パラメータで補正された計算データから二次電池の劣化状態(SOH)を推定することができる。劣化状態(SOH)は、二次電池の初期状態に対する容量維持率SOHQや、二次電池や電極の初期状態に対する抵抗上昇率SOHRとして表すことができる。
【0121】
容量維持率SOHQ[%]は、初期状態の二次電池の満充電状態における容量をQmax0[Ah]、劣化状態の二次電池の満充電状態における容量をQmax1[Ah]、劣化状態の二次電池の積分区間の上下限の充電状態をSOC1[%],SOC2[%]としたとき、次の式(10)~(11)によって計算することができる。
SOHQ=Qmax1/Qmax0×100[%]・・・(10)
Qmax1=∫Idt/((SOC1-SOC2)/100)・・・(11)
【0122】
二次電池の抵抗上昇率SOHRc[%]、正極の抵抗上昇率SOHRp[%]、および、負極の抵抗上昇率SOHRn[%]は、初期状態の二次電池の内部抵抗をRc0[Ω]、劣化状態の二次電池の内部抵抗をRc1[Ω]、初期状態の正極の内部抵抗をRp0[Ω]、劣化状態の二次電池の内部抵抗をRp1[Ω]、初期状態の負極の内部抵抗をRn0[Ω]、劣化状態の負極の内部抵抗をRn1[Ω]としたとき、次の式(12)~(14)によって計算することができる。
SOHRc=Rc1/Rc0×100[%]・・・(12)
SOHRp=Rp1/Rp0×100[%]・・・(13)
SOHRn=Rn1/Rn0×100[%]・・・(14)
【0123】
以上の二次電池の状態診断方法および二次電池の状態診断装置によると、二次電池の劣化状態を診断するための情報として、二次電池の充電状態と閉回路電圧との関係を用いるため、二次電池を所定の充電状態に調整して開回路電圧等を測定する必要がない。診断に用いる情報を収集するにあたり、所定の条件で充放電を行うための充放電装置や充放電作業が不要であり、手間や技能を必要としない。よって、診断対象である二次電池の劣化状態を、簡便な操作で取得できる情報に基づいて、非破壊で高精度に診断することができる。
【0124】
二次電池の劣化状態の診断結果は、二次電池の作動条件範囲の変更に用いることができる。二次電池の劣化状態の診断結果に応じて、二次電池の充電状態の上限および下限、二次電池への充電電流の上限および下限、二次電池からの放電電流の上限および下限等を変更することができる。
【0125】
例えば、正極材料を適正に使用できる電位範囲や、負極材料を適正に使用できる電位範囲を予め定めておく。そして、正極および負極のいずれか一方の劣化による開回路電位の変動が起こった場合に、適正に使用できる電位範囲で、容量が確保されるように、上限電圧値や下限電圧値を変更することができる。
【0126】
また、二次電池の劣化状態の診断結果は、診断要求毎に、データベースとして保存することができる。診断結果データは、互いに異なる二次電池毎に収集してもよいし、同一の二次電池について、異なる時期に診断を実施して収集してもよい。これらの診断結果は、診断要求毎、且つ、時系列の診断結果データとして、記憶装置に保存できる。
【0127】
診断要求は、二次電池の使用元の端末、サービスセンタの端末等から電気通信回線を通じて受け付けられる。二次電池の劣化状態の診断結果を示す診断結果データは、診断要求を識別する識別子や、二次電池の使用時間、二次電池への累積通電量等、使用元から送られた追加情報を示すデータや、診断の日時を示すデータと関連付けて、記憶装置に保存できる。
【0128】
二次電池の使用時間としては、診断対象である二次電池の初回充放電時から現在までの時間、充放電サイクル数等を登録・保存することができる。二次電池への累積通電量としては、二次電池の使用時間と、定格電流に基づいて計算される二次電池の初回受放電時から現在までを合計した通電量等を登録・保存することができる。
【0129】
データベースとして蓄積された二次電池の劣化状態の診断結果は、二次電池の作動条件を変更する処理に用いることができる。二次電池の作動条件としては、二次電池の充電状態の上限および下限、二次電池への充電電流の上限および下限、二次電池からの放電電流の上限および下限が挙げられる。これらの作動条件のうちの一以上を、蓄積された診断結果データに基づいて変更できる。
【0130】
二次電池の作動条件は、(1)電極毎の劣化状態、(2)電極毎の劣化状態の変化速度、または、(3)二次電池の残寿命を指標として変更することができる。これらの指標を所定の閾値と比較し、電極毎の劣化や二次電池の劣化が進行する可能性が高いと判定されたとき、二次電池の作動条件範囲を安全性が確保される条件に変更するために、二次電池のコントローラの制御条件を提示する。
【0131】
(1)電極毎の劣化状態としては、前記の処理において登録される最新の劣化状態パラメータを指標として用いることができる。劣化状態パラメータによって表される正極の劣化度、または、劣化状態パラメータによって表される負極の劣化度、または、劣化状態パラメータによって表される抵抗上昇度が、予め設定された閾値以上であるとき、二次電池の作動条件範囲を安全性が確保される条件に変更することができる。
【0132】
(2)電極毎の劣化状態の変化速度としては、正極の劣化状態の累積負荷量に対する変化速度(変化率)、または、負極の劣化状態の累積負荷量に対する変化速度(変化率)を指標として用いることができる。劣化状態パラメータによって表される正極の劣化度、または、劣化状態パラメータによって表される負極の劣化度、または、劣化状態パラメータによって表される抵抗上昇度が、所定の累積負荷量の印加に対して、予め設定された閾値以上であるとき、二次電池の作動条件範囲を安全性が確保される条件に変更することができる。
【0133】
累積負荷量は、二次電池の使用時間、二次電池における通電量、または、使用時間、通電量、温度および電流のうちの複数種の組み合わせから計算することができる。これらのうちの複数種を変数として、累積負荷量と電極の劣化状態との関係を示すモデル関数を立式する。そして、種々の累積負荷量に対する電極の劣化状態を実測し、実測結果を用いたフィッティングによってモデル関数の係数や定数を求めることができる。
【0134】
(3)二次電池の残寿命としては、二次電池の放電容量が劣化の進行によって所定の放電容量に低下するまでの二次電池の使用時間を指標として用いることができる。二次電池の残寿命が、想定される所定の使用時間に対して、予め設定された閾値以下であるとき、二次電池の作動条件範囲を安全性が確保される条件に変更することができる。
【0135】
所定の放電容量に低下するまでの二次電池の使用時間は、正極の劣化状態の累積負荷量に対する変化速度(変化率)と、負極の劣化状態の累積負荷量に対する変化速度(変化率)とに基づいて、二次電池の劣化状態の累積負荷量に対する変化速度(変化率)を計算し、二次電池の劣化状態の累積負荷量に対する変化速度(変化率)と、現在の二次電池の放電容量と、二次電池の寿命終了時の放電容量と、に基づいて推定することができる。
【0136】
二次電池の作動条件を安全性が確保される条件を変更する操作としては、例えば、二次電池の充電状態の上限を下げる変更、二次電池の充電状態の下限を上げる変更、二次電池への充電電流の上限または下限を下げる変更、二次電池からの放電電流の上限または下限を下げる変更が挙げられる。これらのうちの1種以上を制御するための二次電池のコントローラの制御条件を提示することができる。
【0137】
このような診断後の二次電池の作動条件範囲の変更を行うと、二次電池の劣化の進行を抑制することができるため、二次電池を長寿命化することができる。二次電池の作動条件範囲の変更に用いる診断結果の履歴は、以上の二次電池の状態診断方法や二次電池の状態診断装置によって、電極毎の劣化状態を示すデータとして得られるため、正極および負極のいずれかの劣化を早期に検知して、二次電池の安全性を確保することができる。
【0138】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0139】
100 状態診断装置(二次電池の状態診断装置)
10 演算部
20 記憶部
30 入力部
40 出力部
50 通信部(取得部)
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