(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144709
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
H10N 10/17 20230101AFI20231003BHJP
【FI】
H01L35/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051820
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】古志 知也
(72)【発明者】
【氏名】大川 顕次郎
(72)【発明者】
【氏名】天谷 康孝
(72)【発明者】
【氏名】坂本 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 学
(72)【発明者】
【氏名】野村 健一
(57)【要約】
【課題】 柔軟性を有し高い変形能を有しながら、高い発電量を得られる熱電変換モジュールの提供。
【解決手段】 温度差を与えられる一対の主面の間に跨がって熱電素子を配置させたシート状の熱電変換モジュールである。両主面の間に跨って与えられたp型熱電素子片及びn型熱電素子片を電気的に交互に接続するように第1主面側及び第2主面側に交互に金属配線を与えてなる。ここで、少なくとも第2主面側の金属配線を蛇行配線としてその両端のp型熱電素子片とn型熱電素子片との距離を可変とし、p型及びn型熱電素子片について気泡を含むゴム弾性体からなるシート体に貫挿させて少なくともその側面を封入させている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度差を与えられる一対の主面の間に跨がって熱電素子を配置させたシート状の熱電変換モジュールであって、
前記主面のうちの第1主面及び第2主面の間に跨って与えられたp型熱電素子片及びn型熱電素子片を電気的に交互に接続するように前記第1主面側及び前記第2主面側に交互に金属配線を与えてなり、
少なくとも前記第2主面側の前記金属配線を蛇行配線としてその両端に接続された前記p型熱電素子片と前記n型熱電素子片との距離を可変とし、
前記p型熱電素子片及び前記n型熱電素子片について気泡を含むゴム弾性体からなるシート体に貫挿させて少なくともその側面を封入させていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記ゴム弾性体は、前記気泡を表面に連通させた連続気泡を与えられたエラストマースポンジであることを特徴とする請求項1記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記エラストマースポンジの弾性率は、1~100kPaの範囲内にあることを特徴とする請求項2記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記主面の一方に沿って前記金属配線の上には支持基板を与えられていることを特徴とする請求項1記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記支持基板はポリイミドからなることを特徴とする請求項4記載の熱電変換モジュール。
【請求項6】
前記第1主面側の前記金属配線とその両側の前記p型熱電素子片及び前記n型熱電素子片とを封止し一体化したチップ状素子を含むことを特徴とする請求項1記載の熱電変換モジュール。
【請求項7】
前記エラストマースポンジの熱伝導率は、0.01~0.1W/m・Kの範囲内にあることを特徴とする請求項2記載の熱電変換モジュール。
【請求項8】
前記金属配線の導電率は、1.0×104~1.0×108S/mの範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の熱電変換モジュール。
【請求項9】
前記p型熱電素子片のゼーベック係数は、1~1000μV/Kの範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の熱電変換モジュール。
【請求項10】
前記n型熱電素子片のゼーベック係数は、-1000~-1μV/Kの範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の熱電変換モジュール。
【請求項11】
前記シート体よりも熱伝導度の高いゴム弾性体からなる一対の表層シート体の間に挟まれていることを特徴とする請求項1乃至10のうちの1つに記載の熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度差を与えられる一対の主面の間に跨がって熱電素子を配置させたシート状の熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
温度差を有する界面に与えられ、この温度差を与えられる一対の主面の間に跨がってゼーベック効果を用いた熱電素子を複数並べて配置させたシート状の熱電変換モジュールが知られている。かかる熱電変換素子には、p型及びn型半導体片を一対として直方体のチップ状に形成された小型半導体熱電素子が広く用いられ、かかる小型半導体熱電素子同士を多数、適宜、配線にて電気的に接続して所定の電力を取り出すことができる。
【0003】
例えば、特許文献1では、表裏の一方に冷却面が設けられ、他方に加熱面が設けられた熱電変換モジュールが開示されている。かかる熱電変換モジュールは、ゼーベック効果を用いた複数の熱電素子と、該熱電素子を挟持し冷却面及び加熱面を形成する一対のフレキシブル基板と、フレキシブル基板の互いの対向面に設けられて熱電素子を電気的に接続する複数の素子間電極と、電気的な配列の端部に位置する端部素子を接続する端部電極に電気的に接続されたリード線と、を含む。フレキシブル基板上に熱電素子を設けることで変形能を与えられて熱部材の形状に合わせて取り付けが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここでシート状の熱電変換モジュールでは、柔軟性を有し変形能を高めるようにシートを薄くすると、一対の主面の間の温度差が十分に得られず、発電量が低下してしまう。また、様々な形状の曲面や動的な変形を生じる面への取付けを考慮すると、可撓性だけではなく伸縮性も与える必要がある上に、変形後に荷重を除去したときに元の形状に戻る形状安定性も要求される。
【0006】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、可撓性や伸縮性を含む柔軟性を有し高い変形能を有しながら形状安定性にも優れ、高い発電量を得られる熱電変換モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、温度差を与えられる一対の主面の間に跨がって熱電素子を配置させたシート状の熱電変換モジュールであって、前記主面のうちの第1主面及び第2主面の間に跨って与えられたp型熱電素子片及びn型熱電素子片を電気的に交互に接続するように前記第1主面側及び前記第2主面側に交互に金属配線を与えてなり、少なくとも前記第2主面側の前記金属配線を蛇行配線としてその両端に接続された前記p型熱電素子片と前記n型熱電素子片との距離を可変とし、前記p型熱電素子片及び前記n型熱電素子片について気泡を含むゴム弾性体からなるシート体に貫挿させて少なくともその側面を封入させていることを特徴とする。
【0008】
かかる特徴によれば、ゴム弾性体からなるシート体及び蛇行配線により、可撓性や伸縮性を含む柔軟性を有し高い変形能を有しながら、気泡を含むゴム弾性体により形状安定性に優れるとともに、一対の主面の間の温度差を十分に得られ、高い発電量を得られるのである。
【0009】
上記した発明において、前記ゴム弾性体は、前記気泡を表面に連通させた連続気泡を与えられたエラストマースポンジであることを特徴としてもよい。また、エラストマースポンジの弾性率は1~100kPaの範囲内にあることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、柔軟性を有し高い変形能を有しながら、高い発電量を得られる
【0010】
上記した発明において、前記熱電素子及び前記金属配線の下部には、前記主面の一方に沿った支持基板を与えられていることを特徴としてもよい。また、前記支持基板はポリイミドからなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、柔軟性を有し高い変形能を有しながら、形状安定性により優れるのである。
のである。
【0011】
上記した発明において、前記第1主面側の前記金属配線とその両側の前記p型熱電素子片及び前記n型熱電素子片とを封止し一体化したチップ状素子を含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、柔軟性を有し高い変形能を有しながら、高い発電量を得られるのである。
【0012】
上記した発明において、前記エラストマースポンジの熱伝導率は0.01~0.1W/m・Kの範囲内にあることを特徴としてもよい。また、前記金属配線の導電率は1.0×104~1.0×108S/mの範囲内にあることを特徴としてもよい。さらに、前記p型熱電素子片のゼーベック係数は1~1000μV/Kの範囲内にあることを特徴としてもよい。また、前記n型熱電素子片のゼーベック係数は-1000~-1μV/Kの範囲内にあることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、柔軟性を有し高い変形能を有しながら、より高い発電量を得ることができる。
【0013】
上記した発明において、前記シート体よりも熱伝導度の高いゴム弾性体からなる一対の表層シート体の間に挟まれていることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、柔軟性を有し高い変形能を有しながら、高い発電量を得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明による実施例としての熱電変換モジュールの外観写真である。
【
図2】熱電変換モジュールのシート体を透過表示した場合の(a)上面図及び(b)側面図である。
【
図3】熱電変換モジュールのシート体を透過表示した場合の要部の上面図である。
【
図5】熱電発電モジュールに手で変形を与える様子を示す写真である。
【
図7】各試験体に用いたシート体の弾性率と熱伝導率の測定結果を示す表である。
【
図8】(a)伸縮耐久試験の結果を示すグラフ、及び、(b)同試験における破断を示す抵抗変化率についてのグラフである。
【
図10】熱源温度と開放電圧の関係を示すグラフである。
【
図11】柔軟ゴムスポンジ封止構造の試験体における発電量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明による1つの実施例である熱電変換モジュールについて、
図1乃至
図4を用いて説明する。
【0016】
図1及び
図2に示すように、熱電変換モジュール10は、複数個の熱電素子1をシート体2の主面に沿って並べて、それぞれをシート体2に貫挿させて配置させて備える。熱電素子1のそれぞれは金属配線である配線3にて電気的に接続されており、外部へ電力を取り出すための端子電極4に接続される。ここでは、熱電素子1の数を30個として5列×6行の全てを直列に接続して配置した例を示す。
【0017】
熱電素子1のそれぞれは、シート体2の表側と裏側との温度差によって起電力を得るようその向きを定められて配置される。また、熱電素子1は上記したようにシート体2に貫挿されており、少なくともその側面をシート体2に封入されている。これによって、シート体2の一対の主面の高温側と低温側とに温度差を与えることで、両主面間に跨がって配置された熱電素子1が電力を発生することになり、シート状の熱電変換モジュール10を得ることができる。
【0018】
シート体2は、気泡を含むゴム弾性体からなり、これによって両主面間の断熱性に優れるとともに、主面を屈曲させる方向への曲げ性(可撓性)と、主面に沿った方向への伸縮性とを備える。特に、シート体2は、気泡の内部を表面に連通させた連続気泡を与えられていることが好ましい。気泡を連続気泡とすることで、独立気泡のシート体を用いる場合に比べて、熱電変換モジュール10のヤング率を小さくできる。つまり、連続気泡とすることによって、伸縮性と曲げ性をより向上させ得て好ましい。このようなシート体2として、例えば、柔軟シリコーンゴムスポンジなどのエラストマースポンジを好適に用い得る。
【0019】
なお、シート体2の弾性率は1~100kPaの範囲内から選択されたものとすることが好ましい。特に、シート体2の弾性率を低くすると、熱電変換モジュール10を変形させたときに内部の配線3に過度の応力を付与せず、配線3の変形の阻害を抑制できる。つまり、シート体2の弾性率を低くすることは、熱電変換モジュールとしての変形能を高めるとともに、寿命の向上にも寄与し、好ましい。
【0020】
また、シート体2の熱伝導率は0.01~0.1W/m・Kの範囲内から選択されたものであることが好ましい。特に、熱伝導率を低く抑えることによって、熱電変換モジュールとしての両主面間の温度差を大きく保つことができて、発電量を大きくし得る。
【0021】
図3に示すように、配線3は、熱電素子1同士の距離を可変とし得る金属薄膜からなる蛇行配線とされる。かかる蛇行配線により、熱電変換モジュール10の延びや曲げに熱電素子の位置を容易に追従させ得る。配線3の材料としては電気抵抗が比較的小さく安価な銅を好適に用い得る。配線3を銅箔とすることで、配線3の幅を大きくでき、曲げに対する変形能を高く維持しつつ配線の電気抵抗を低くできる。つまり、熱電変換モジュール10としてその内部抵抗を低くできて発電量を大きくし得る。なお、配線3の導電率は1.0×10
4~1.0×10
8S/mの範囲内から選択されたものであることも好ましい。特に、導電率が高いほど熱電変換モジュール10の内部抵抗を低くできて好ましい。
【0022】
図4を併せて参照すると、熱電素子1としては、例えば、2種類の熱電素子片であるp型半導体片11p及びn型半導体片11nを封止材15で封止して低温側を接続させて一体化させたπ型構造のチップ状素子を用いることができる。半導体の場合には、例えば、Bi-Te系熱電材料を用いると高い熱電変換効率を得られて好ましい。封止材15には例えばエポキシ樹脂等の絶縁性を有する材料を用い得る。p型半導体片11pとn型半導体片11nとは封止材15によって左右に隔てるようにして配置され、互いに低温側(紙面上側)を銅からなる低温側電極14で接続している。銅からなる低温側電極14は、低融点はんだ13を介してp型半導体片11p及びn型半導体片11nの上面に取り付けられた、例えば、Niからなる高温側電極12に接続される。一方、高温側(紙面下側)ではp型半導体片11p及びn型半導体片11nのそれぞれの下面に取り付けられた高温側電極12に低融点はんだ13を介して配線3が接続され、それぞれの間は封止材15で隔てられる。
【0023】
なお、p型半導体片とn型半導体片とはチップ状素子に封入されたものでなく個々に配置されたものであってもよい。例えば、高温側及び低温側の両主面に跨ってp型半導体片及びn型半導体片が配置され、p型半導体片及びn型半導体片が交互に電気的に接続される。このとき、かかる接続は両主面に交互に与えられた金属配線によってなされる。そして、両主面側のうちの少なくとも一方の側の金属配線を蛇行配線とする。つまり、p型半導体片とn型半導体片とを用いた熱電変換モジュールとし、蛇行配線の両端に接続されたp型半導体片及びn型半導体片の距離を可変とするのである。これによっても上記したチップ型素子を用いた場合と同様の熱電変換モジュールを得られる。両主面側の電気配線を共に蛇行配線として、全てのp型半導体片及びn型半導体片同士の距離を可変としてもよい。
【0024】
また、p型半導体片11p及びn型半導体片11nのゼーベック係数は、それぞれ、1~1000μV/Kの範囲内から選択されたものであることも好ましい。どちらもゼーベック係数を大とすることでより発電量を大きくでき、好ましい。
【0025】
さらに配線3と熱電素子1は、その下部に接着層16によって接着された支持基板17を備える。支持基板17は、シート体2の主面のうちの高温側に沿って配置されるが、柔軟性と形状安定性を有することが好ましい。このような支持基板17としては、ポリイミドを好適に使用し得る。ポリイミドを用いた支持基板17と銅箔による配線3との二層構造によって、熱電変換モジュール10を柔軟性と高い変形能を有するとともに形状安定性に優れるものとし得る。なお、支持基板17は、熱電変換モジュール10の製作中における形状安定性にも寄与する。
【0026】
また、熱電素子1及び配線3は、その全体を絶縁膜18で覆われた上で、シート体2の内部に配置されている。連続気泡を有するシート体2に極端な曲げを付与した場合に熱電素子1や配線3が気泡を超えて接触する可能性を考慮した場合、絶縁膜18によってこのような接触による短絡を防止できる。また、絶縁膜18としてパラキシリレン系ポリマーを用いることで、外気の湿度に対しても防護膜となって好ましい。
【0027】
熱電変換モジュール10は、さらに一対の表層シート体2a及び2bを含み、これによって全体を挟まれている。表層シート体2a及び2bについては、シート体2よりも熱伝導度の高いゴム弾性体とし、主面に沿った方向の熱伝導度を高くすることで、熱電素子1の部分の高温側と低温側との温度差を高く維持できて好ましい。この熱伝導度の観点から、表層シート体2a及び2bには気泡を含まないことが好ましい。表層シート体2a及び2bは、例えば、シリコーンエラストマーに銀フレーク等の高い熱伝導度を有する材料を混合してシート形状としたものなどであるとさらに熱伝導度を高くできて好ましい。
【0028】
[製造試験]
次に、実際に製造した熱電変換モジュール10について性能を評価する試験を行った結果について
図5乃至
図11を用いて説明する。
【0029】
図5に示すように、熱電変換モジュール10を実際に製造し、変形試験を行った。なお、熱電変換モジュール10は、前出の図面に示したものと同じ構造であり、シート体2として、連続気泡を与えられた柔軟シリコーンゴムスポンジを用いた。また、配線3を銅箔、支持基板17をポリイミド、絶縁膜18をパラキシリレン系ポリマーで構成した。熱電素子1には、Bi-Te系半導体によるチップ型熱電素子を用いた。なお、表層シート体2a及び2bにはシリコーンゴムを用い、他の材料を混合させてはいない。
【0030】
略長方形の平板形状の熱電変換モジュール10を、同図(a)に示すように曲げ、(b)に示すように引っ張り、(c)に示すように不作為に丸めて折り畳み、それぞれの変形を指で与えた後に、変形を与えた力を除去した。すると同図(d)に示すように元の略長方形の平板形状に戻った。つまり、熱電変換モジュール10は、可撓性や伸縮性を含む柔軟性と高い変形能を有しながら、形状安定性に優れることが判った。
【0031】
次に、熱電変換モジュールのシート体の材料を変えて3種類の試験体を作製し比較試験を行った。3種類の試験体は、シート体の材料を硬質シリコーンゴムとした試験体Ta、柔軟シリコーンゴムとした試験体Tb、気泡を含むゴム弾性体である柔軟シリコーンゴムスポンジとした試験体Tcとした。その他の材料については、上記した変形試験に用いたものと同一である。
【0032】
まず、
図6に外観を示すような熱電素子を3つとした伸縮耐久試験用の試験体Ta~Tcを作成した。なお、後述する発電性能試験用の試験体(
図9参照)においても符号Ta~Tcを共通で用いる。
【0033】
図7に示すように、各試験体Ta~Tcに用いた各シート体の弾性率及び熱伝導率をそれぞれ測定した。その結果、弾性率については、試験体Taに用いた硬質シリコーンゴムでは1.32MPaと他の2つに比べて大きく、試験体Tcに用いた柔軟シリコーンゴムスポンジが最も小さかった。つまり、一定の応力に対する変形能は試験体Tcが最も大きくなると推定できた。熱伝導率については、試験体Taに用いた硬質シリコーンゴム及び試験体Tbに用いた柔軟シリコーンゴムにてそれぞれ0.16及び0.20W/m・Kと大きく、試験体Tcに用いた柔軟シリコーンゴムスポンジにおいては0.08W/m・Kと小さかった。つまり、柔軟シリコーンゴムスポンジによる熱電変換モジュールによれば、高温側と低温側との温度差を高く維持でき、高い発電量を得られるものと考えられた。
【0034】
図8(a)には、伸縮耐久試験用の試験体Ta(硬質シリコーンゴム使用)、試験体Tb(柔軟シリコーンゴム使用)、試験体Tc(柔軟シリコーンゴムスポンジ使用)による伸縮耐久試験の結果を示した。伸縮耐久試験では、試験体を引張試験機に取り付けて四端子法で試験体の熱電変換モジュールとしての内部抵抗を測定しつつ所定の伸長率となるよう引張変形を繰り返し印加して、破断までの繰り返し数を記録した。試験中には内部抵抗の変化率を監視し、内部抵抗の変化率が100%以上になったときを破断として判定した。つまり、電気的な絶縁を破断として判定した。例えば、プロットされた点Pについての内部抵抗の変化率を同図(b)に示した。この例では、硬質シリコーンゴムを用いた試験体Taにおいて伸長率を20%とした場合にサイクル数(繰り返し数)を78としたところで内部抵抗の変化率が急激に増大して100%に達し、破断との判定に至った。
【0035】
伸縮耐久試験においては、硬質シリコーンゴムを用いた試験体Taについての耐久性が最も低く、柔軟シリコーンゴムスポンジを用いた試験体Tcについての耐久性が最も高いことが判った。試験体Tcでは、最大伸長率を125%とし、伸長率50%のときの破断までの繰り返し数は1025回となった。なお、最大伸長率は1回の引張変形で破断するまで伸長させたときの伸長率とした。
【0036】
図9には、発電性能試験用の試験体Ta~Tcの外観を示した。それぞれの試験体において熱電素子は30個を5列×6行に配置した。各試験体の高温側を熱源となるホットプレート上に密着させるとともに低温側を室内の空気に曝すように配置して温度差を与え、ホットプレートの表面温度を熱源温度として測定しつつ、それぞれの開放電圧を測定した。また、各試験体を同様にホットプレート上に配置するとともに、その下面及び上面の温度を測定しつつ発電量を測定した。
【0037】
図10に示すように、熱源温度60~100℃のいずれにおいても開放電圧は柔軟シリコーンゴムスポンジを用いた試験体Tcにおいて最も大きく、硬質シリコーンゴムを用いた試験体Taと柔軟シリコーンゴムを用いた試験体Tbとはほぼ同様の値となった。これは、上記した熱伝導率(
図7参照)の差に準じた温度差が高温側と低温側との間に生じたためであると考えられた。つまり、熱伝導率が大きいと温度差を小さくして開放電圧も小さくし、熱伝導率が小さいと温度差を大きくして開放電圧も大きくしたものと考えられた。
【0038】
図11には、柔軟シリコーンゴムスポンジを用いた試験体Tcの発電量を示した。高温側(下面)と低温側(上面)との温度差を大とすることで発電量を大きくすることが確認された。このとき、温度差8.6℃で最大発電量32.2μWを得ることができた。
【0039】
以上のように、柔軟シリコーンゴムスポンジを用いた試験体Tcにおいて、可撓性及び伸縮性を含む柔軟性を有し高い変形能を有しながら、高い発電量を得られることが判った。
【0040】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0041】
1 熱電素子
2 シート体
3 配線
10 熱電変換モジュール