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特開2023-144717アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチド
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  • 特開-アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチド 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144717
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/097 20060101AFI20231003BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20231003BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C07K5/097 ZNA
A23L33/18
A61K38/06
A61P43/00 111
A61P9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051836
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 智弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 菜那
(72)【発明者】
【氏名】横山 典弘
(72)【発明者】
【氏名】中埜 拓
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018ME03
4B018ME04
4B018MF14
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA15
4C084BA23
4C084CA59
4C084DC40
4C084NA14
4C084ZA42
4C084ZC20
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA12
4H045DA57
4H045EA20
4H045EA23
4H045FA10
(57)【要約】
【課題】構造生物学的手法により、アンジオテンシン変換酵素の基質認識部位に強く結合するペプチドを探索し、従来より高いアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有する新規なペプチドの提供を課題とする。
【解決手段】本発明は、下記のアミノ酸配列からなるペプチドを提供する。
Trp-Ile-Asp
本発明はまた、前記ペプチドを有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害剤を提供する。また、前記ペプチドを有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品、アンジオテンシン変換酵素阻害用医薬品を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のアミノ酸配列からなるペプチド。
Trp-Ile-Asp
【請求項2】
下記のアミノ酸配列を有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
Trp-Ile-Asp
【請求項3】
下記のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品。
Trp-Ile-Asp
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なペプチドに関する。また、本発明は新規なペプチドを有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害剤及びアンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
アンジオテンシン変換酵素(ACE)は、血圧の調節においてレニン-アンジオテンシン系に作用する酵素である。分子量約57,000のアンジオテンシノーゲンは、腎臓から血管中に移行するレニンによりアンジオテンシンIに変換される。このアンジオテンシンIは、殆ど血管収縮作用を示さない不活性型であるが、アンジオテンシン変換酵素は強い昇圧作用を有するアンジオテンシンIIを生成させるとともに、降圧作用を有するブラジキニンを不活性化する作用も有している。このような作用から、アンジオテンシン変換酵素阻害剤は、高血圧の治療薬として使用されており市販薬として知られている。また、アンジオテンシン変換酵素阻害剤は、心疾患、腎疾患、脳血管障害、動脈硬化性疾患、糖尿病、メタボリックシンドローム、高齢者高血圧など多くの病態に対して使用されている。
【0003】
これまでにアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有するペプチドが天然物中から見出されている(特許文献1~3)。これらの文献には、牛由来カゼインから得られた特定構造のペプチドを有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤について開示されている。特許文献1のペプチドのIC50(アンジオテンシン変換酵素の活性を50%阻害するために必要な濃度)は7.7×10-Mであり、特許文献2のペプチドのIC50は15.5μMであることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58-109425号公報
【特許文献2】特開平6-277090号公報
【特許文献3】特許第3567012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように乳カゼイン由来のアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有するペプチドが知られているが、これらのペプチド類では、未だアンジオテンシン変換酵素阻害活性は不十分である。よって、天然物型で、一層高いアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するペプチドの取得と、その食品又は医薬等への応用が望まれているところである。
本発明は、高いアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有する新規ペプチドの提供及び当該ペプチドを有効成分として含むアンジオテンシン変換酵素阻害剤及びアンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った。すなわち、構造生物学的手法により、アンジオテンシン変換酵素の基質認識部位に強く結合するペプチドを探索した。その結果、従来より高いアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有する新規なペプチドを発見し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
(1)下記のアミノ酸配列からなるペプチド。
Trp-Ile-Asp
(2)下記のアミノ酸配列を有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
Trp-Ile-Asp
(3)下記のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品。
Trp-Ile-Asp
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のペプチドの各濃度におけるアンジオテンシン変換酵素阻害率を示すグラフである。
図2】本発明のペプチドを400μMで添加して行ったアンジオテンシン変換酵素阻害試験の反応液のクロマトグラムである。
図3】本発明のペプチドを添加していない場合のアンジオテンシン変換酵素阻害試験の反応液のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである 。
尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0010】
(Trp-Ile-Aspで表される配列を有するペプチド)
本発明のペプチドは、Trp-Ile-Aspで表される配列を有する。本発明において、TrpはL-トリプトファン残基、IleはL-イソロイシン残基、AspはL-アスパラギン酸残基を示す。また、本発明のペプチドは、このペプチドの製剤学上許容されうる酸付加塩および塩基付加塩等であってもよい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸との塩;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸との塩等が挙げられる。また、製剤学上許容されうる塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム、エタノールアミン、トリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等のアミン類との塩等がある。
【0011】
本発明のペプチドは、化学合成によって製造することができる。本発明のペプチドの化学合成は、オリゴペプチドの合成に通常用いられている液相法または固相法によって行うことができる。合成されたペプチドは、必要に応じて脱保護され、未反応試薬、副生物等を除去する。このようなペプチドの合成は、市販のペプチド合成装置を用いて行うことができる。上記合成物から、好ましくは本発明のペプチドを単離、精製する。ペプチドの精製は、通常、オリゴペプチドの精製に用いられているのと同様の手法、例えばイオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー、溶媒沈殿、塩析、2種の液相間での分配等の方法を適宜組み合わせることによって、行うことができる。本発明のペプチドの精製に際しては、目的物質を含む画分は、後述するアンジオテンシン変換酵素阻害作用を指標として決定することができ、それらの画分の活性成分は質量分析法又は/およびプロテインシーケンサーにより同定することができる。
【0012】
また、本発明のペプチドは、同ペプチドをコードする組換えDNAを適当な宿主細胞で 発現させることによっても、製造することができる。組換えDNAの作成に必要なベクター、及び宿主は、通常タンパク質やペプチドの製造に用いられているものを使用することができる。
本発明のペプチドは、天然物を由来として抽出されたものであってもよく、天然物からアンジオテンシン変換酵素阻害作用を指標として抽出することができる。抽出された画分の精製度は、必要とされるアンジオテンシン変換酵素阻害活性の程度に応じて精製すればよい。したがって、高度に精製された本発明のペプチドだけではなく、本発明のペプチドを含む粗画分も本発明の有効成分としてのペプチドの範囲に含まれる。
【0013】
(アンジオテンシン変換酵素阻害剤)
本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤は、前記Trp-Ile-Aspで表される配列からなるペプチドを有効成分として含む。本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤は、飲食品、飼料、化粧品、医薬部外品、医薬品等が挙げられる。特に飲食品の場合をアンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品、医薬品の場合をアンジオテンシン変換酵素阻害用医薬品ということがある。
【0014】
本発明のペプチドを有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤は、経口投与、非経口投与のいずれによって投与されてもよい。非経口投与としては、経皮投与、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。本発明のペプチドを経口投与するに際しては、有効成分であるTrp-Ile-Aspをそのままの状態で投与することもできるが、常法に従い、飲食品に添加したり、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に製剤化して投与することもできる。
【0015】
(アンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品)
本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品は、前記Trp-Ile-Aspで表される配列からなるペプチドを有効成分として含む。このような食品は、特に、特定保健用食品・飲食品、機能性表示食品・飲食品、栄養補助食品・飲食品と呼ばれることがある。これらの飲食品は、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食等のほか、例えば、チーズ、発酵乳などの乳製品、ゼリーなどの菓子類、ソーセージなどの練製品、うどんやそばなどの麺類、果汁飲料、乳飲料等の飲食品が挙げられる。
【0016】
(アンジオテンシン変換酵素阻害用医薬品)
本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害用医薬品は、前記Trp-Ile-Aspで表される配列からなるペプチドを有効成分として含む。医薬の製剤化にあたっては、担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、安定剤、希釈剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。具体的製剤として、錠剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、トローチ剤、等を例示することができる。
本発明において、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の経口剤は、例えば、澱粉、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の賦形剤を用いて常法によって製剤化することが可能である。この種の製剤には、前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、着色料、香料等を適宜使用してもよい。
【0017】
結合剤としては、例えば、澱粉、デキストリン、アラビアガム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、結晶性セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられ、崩壊剤としては、例えば、澱粉、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶性セルロース等が挙げられる。また、界面活性剤としては、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステル等、滑沢剤としては、タルク、ロウ、蔗糖脂肪酸エステル、水素添加植物油等、流動性促進剤としては無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。
【0018】
(その他の用途)
本発明のペプチドを有効成分として飼料(ペット用を含む)に含有させ、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する飼料として加工することもできる。
また、本発明のペプチドを有効成分として化粧品や医薬部外品に含有させ、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する化粧品や医薬部外品として加工することもできる。
【0019】
本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤(飲食品、医薬品、その他の用途の各態様)において、本発明のペプチドの配合量は、アンジオテンシン変換酵素阻害剤の最終組成物に対して、0.001%質量以上であることが好ましい。
【0020】
本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤の投与量は、年齢、症状等により異なるが、通常、本発明のペプチドの量として0.001mg~1000mgであり、1日1回、又は複数回に分けて投与してもよい。また、本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を摂取又は服用する場合は、食前、食間、食後のいずれのタイミングであっても、本発明の効果は十分に発揮されるものである。
【実施例0021】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
<実施例1>
[ペプチドのアンジオテンシン変換酵素阻害作用]
(1)試験方法
(1-1)アンジオテンシン変換酵素阻害の測定
アンジオテンシン変換酵素阻害の測定は、カッシュマンらの方法〔バイオケミカル・ファーマコロジー20巻、1637~1648頁(1971)〕に準じて行った。
試料として、化学合成した本発明のペプチドTrp-Ile-Asp (ジーエルバイオケム社)を用いた。
【0023】
(i)試料を0.1Mホウ酸緩衝液(0.3M NaClを含む、pH8.3)に溶解し、試験管に0.08ml入れた後、0.1Mホウ酸緩衝液(0.3M NaClを含む、pH 8.3)で5mMに調製した酵素基質(ヒプリルヒスチジルロイシン、シグマ社製)0.2mlを添加し、37℃で3分間保温した。次いで、蒸留水を添加して0.1U/mlになるように調製したウサギ肺のアンジオテンシン変換酵素(シグマ社製)0.02mlを添加し、37℃で30分間反応させた。
【0024】
(ii)その後、1N塩酸0.25mlを添加して反応を終了した後、1.7mlの酢酸エチルを加え、20秒間激しく攪件し、3000rpmで10分間遠心分離して、酢酸エチル層を1.4ml採取した。得られた酢酸エチル層を加熱して溶媒を除去した後、蒸留水を1 .0ml添加し、抽出した馬尿酸の吸収(228nmの吸光度)を測定して、これを酵素活性とした。
【0025】
(1-2)IC50決定方法
次の式から、阻害活性を求め、縦軸に阻害率、横軸に試料濃度をプロットして阻害曲線の式を求めた後、IC50[アンジオテンシン変換酵素の活性を50%阻害するために必要な試料濃度(μM)]を決定した。
【0026】
阻害率(%)=(A-B)/(A-C)×100
A:試料(ペプチド)を含まない場合の酵素活性(228nmの吸光度)
B:試料を添加した場合の酵素活性(228nmの吸光度)
C:酵素および試料を添加しない場合の酵素活性(228nmの吸光度)
【0027】
(2)試験結果
本試験結果を表1、図1図2図3及び表2に示す。
表1、図1より、阻害率50%のときの試料(本発明ペプチド)の濃度IC50は、0.6μMであった(表2)。
図2はTrp-Ile-Aspを400μMで添加した上記(i)の反応液のクロマトグラムであり、図3は添加していない反応液のクロマトグラムである。図2は、基質のヒプリルヒスチジルロイシンが馬尿酸に分解されず、アンジオテンシン変換酵素の機能を阻害していることを示している。また、図3は、アンジオテンシン変換酵素の作用により基質のヒプリルヒスチジルロイシンが馬尿酸に分解されたことを示している。
したがって、本発明のTrp-Ile-Aspの配列からなるペプチドは強力なアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有することが判明した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、高いアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有する新規なペプチドが提供される。同ペプチドを有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害剤は、医薬品として利用することができる。また、同ペプチドは、すべて天然型(L体)のアミノ酸から構成されるため、安全性が高くアンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品としても用いることができる。
図1
図2
図3