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特開2023-144806評価装置、評価システム、評価方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144806
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】評価装置、評価システム、評価方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/00 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
G01N15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051957
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】宮内 恭子
(72)【発明者】
【氏名】松村 吉章
(57)【要約】
【課題】機能性ペーストに含まれる無機粉末の塗膜中の分散性を評価できる評価装置を提供すること。
【解決手段】無機粉末とバインダー樹脂と有機溶剤とを含む機能性ペーストの評価装置であって、学習用の機能性ペーストの断面から得られた元素マッピングの結果を用いて予め学習済みの無機粉末の粒子の領域を、評価用の機能性ペーストの断面画像から抽出する抽出部と、抽出した無機粉末の粒子の領域を用いて、評価用の機能性ペーストに含まれる無機粉末の分散状態を示す評価指標を算出する算出部と、を有する評価装置により上記課題を解決する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末とバインダー樹脂と有機溶剤とを含む機能性ペーストの評価装置であって、
学習用の前記機能性ペーストの断面から得られた元素マッピングの結果を用いて予め学習済みの前記無機粉末の粒子の領域を、評価用の前記機能性ペーストの断面画像から抽出する抽出部と、
抽出した前記無機粉末の粒子の領域を用いて、評価用の前記機能性ペーストに含まれる前記無機粉末の分散状態を示す評価指標を算出する算出部と、
を有する評価装置。
【請求項2】
前記算出部は、抽出した前記無機粉末の粒子の領域の画素数及び前記無機粉末の粒子の数の少なくとも一つを用いて、評価用の前記機能性ペーストに含まれる前記無機粉末の分散状態を示す評価指標を算出する
請求項1記載の評価装置。
【請求項3】
前記算出部は、抽出した前記無機粉末の粒子の領域のそれぞれに母点を設定し、前記母点に基づいて分割した前記断面画像の領域の面積を用いて、評価用の前記機能性ペーストに含まれる前記無機粉末の分散状態を示す評価指標を算出する
請求項1記載の評価装置。
【請求項4】
学習用の前記機能性ペーストの複数の断面から得られた元素マッピングの結果を教師データとして前記無機粉末の粒子の領域を予め学習する学習部を更に有する
請求項1乃至3の何れか一項に記載の評価装置。
【請求項5】
前記学習部は、ニューラルネットワークを用いた深層学習により、前記無機粉末の粒子の領域を予め学習する
請求項4記載の評価装置。
【請求項6】
前記元素マッピングの結果は、エネルギー分散型X線分光法、波長分散型X線分光法及び粒子線励起X線分析の少なくとも一つを用いて得られる
請求項1乃至5の何れか一項に記載の評価装置。
【請求項7】
一台以上の情報処理装置により、無機粉末とバインダー樹脂と有機溶剤とを含む機能性ペーストの評価を行う評価システムであって、
評価用の前記機能性ペーストの断面画像を取得する取得部と、
学習用の前記機能性ペーストの断面から得られた元素マッピングの結果を用いて予め学習済みの前記無機粉末の粒子の領域を、評価用の前記機能性ペーストの断面画像から抽出する抽出部と、
抽出した前記無機粉末の粒子の領域を用いて、評価用の前記機能性ペーストに含まれる前記無機粉末の分散状態を示す評価指標を算出する算出部と、
算出した前記評価指標を出力する出力部と、
を有する評価システム。
【請求項8】
コンピュータが行う無機粉末とバインダー樹脂と有機溶剤とを含む機能性ペーストの評価方法であって、
学習用の前記機能性ペーストの断面から得られた元素マッピングの結果を用いて予め学習済みの前記無機粉末の粒子の領域を、評価用の前記機能性ペーストの断面画像から抽出する抽出ステップと、
抽出した前記無機粉末の粒子の領域を用いて、評価用の前記機能性ペーストに含まれる前記無機粉末の分散状態を示す評価指標を算出する算出ステップと、
を有する評価方法。
【請求項9】
コンピュータに、
無機粉末とバインダー樹脂と有機溶剤とを含む学習用の機能性ペーストの断面から得られた元素マッピングの結果を用いて予め学習済みの前記無機粉末の粒子の領域を、評価用の前記機能性ペーストの断面画像から抽出する抽出ステップ、
抽出した前記無機粉末の粒子の領域を用いて、評価用の前記機能性ペーストに含まれる前記無機粉末の分散状態を示す評価指標を算出する算出ステップ、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機能性ペーストの評価装置、評価システム、評価方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化及び大容量化が求められている積層セラミックコンデンサでは、それを構成する内部電極及びセラミック誘電体ともに、薄層化が進められている。積層セラミックコンデンサの薄層化が進むことによって、内部電極に使用されるニッケル粉末には、粒子径を小さくすること、粗大粒子を含まないことが求められている。
【0003】
例えば、粗大粒子は分散処理する際の条件が適切化できていない場合、平均粒子径よりも大きく粗大粒子とみなすべき、粉末が発生してしまう。そこで、粗大粒子そのものを分析結果の画像から検出評価する手法が検討されている。特許文献1では、導電性ペースト中の誘電体粉末を選択的に分離し、導電性粉末に含まれている粗大粒子を評価する評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-161536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機能性ペーストに含まれる無機粉末は塗膜中に適切な分散性を有していることも要求される。
【0006】
本開示が解決しようとする課題は、機能性ペーストに含まれる無機粉末の塗膜中の分散性を評価できる評価装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、無機粉末とバインダー樹脂と有機溶剤とを含む機能性ペーストの評価装置であって、学習用の前記機能性ペーストの断面から得られた元素マッピングの結果を用いて予め学習済みの前記無機粉末の粒子の領域を、評価用の前記機能性ペーストの断面画像から抽出する抽出部と、抽出した前記無機粉末の粒子の領域を用いて、評価用の前記機能性ペーストに含まれる前記無機粉末の分散状態を示す評価指標を算出する算出部と、を有する評価装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、機能性ペーストに含まれる無機粉末の塗膜中の分散性を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る評価システムの一例の構成図である。
図2】本実施形態に係るコンピュータの一例のハードウェア構成図である。
図3】本実施形態に係る評価システムの一例の機能構成図である。
図4】乾燥させた機能性ペーストの断面画像の一例のイメージ図である。
図5】断面画像から抽出した分散性の評価対象となる無機粉末の領域の一例のイメージ図である。
図6】学習用の機能性ペーストの断面の元素マッピングの結果の一例のイメージ図である。
図7】学習モデルの構築時に利用した教師画像について説明する一例の図である。
図8】機能性ペーストに含まれる無機粉末の分散状態を示す評価指標について説明する一例の図である。
図9】機能性ペーストに含まれる無機粉末の分散状態を示す評価指標について説明する一例の図である。
図10】抽出部が抽出した無機粉末の粒子のそれぞれの領域の母点について説明する一例の図である。
図11】本実施形態に係る評価システムの処理手順の一例を示すフローチャートである。
図12】評価対象の粒子の領域を抽出する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0011】
[システム構成]
まず、本実施形態に係る機能性ペーストの評価システムについて、図1を参照して説明する。図1は本実施形態に係る評価システムの一例の構成図である。図1(A)は評価装置10を有する評価システム1の例である。図1(B)は情報処理装置14及びユーザ端末16がインターネットやローカルエリアネットワーク(LAN)などのネットワーク18を介して通信可能に接続された評価システム1の例である。
【0012】
図1(A)の評価システム1の評価装置10は、無機粉末とバインダー樹脂と有機溶剤とを含む機能性ペーストの塗膜中の分散性を評価する装置である。評価装置10は、情報処理装置(コンピュータ)を含む構成である。例えば評価装置10はPC(パーソナルコンピュータ)である。評価装置10はタブレット端末、スマートフォン、又は測定器などであってもよい。
【0013】
評価装置10はユーザからの操作をタッチパネル、コントローラ、マウス、キーボード等で受け付ける。評価装置10はユーザから受け付けた操作に従い、後述するような機能性ペーストの分散性を評価するための各種処理を行う。
【0014】
また、図1(B)の評価システム1のユーザ端末16は、ユーザからの操作をタッチパネル、コントローラ、マウス、キーボード等で受け付ける装置である。例えばユーザ端末16は、PC、タブレット端末、スマートフォンなどである。ユーザ端末16は情報処理装置14とネットワーク18を介して通信を行う。ユーザ端末16はユーザから受け付けた操作内容に従って情報処理装置14に処理を要求し、情報処理装置14から受信した処理の結果を出力する。処理の結果の出力は表示出力であってもよいし、印刷出力であってもよい。
【0015】
情報処理装置14はユーザ端末16から受け付けた要求に従って、後述するような機能性ペーストの分散性を評価するための各種処理を行い、処理の結果をユーザ端末16に送信する。情報処理装置14は、例えばクラウドコンピュータで実現してもよい。情報処理装置14の台数は1台に限定されるものではなく、2台以上で分散処理してもよい。
【0016】
なお、図1の評価システム1は、元素分析を行う装置、例えばエネルギー分散型または波長分散型X線分光器、粒子線励起X線分析器が含まれても良い。以下、元素分析を行う装置がEDS搭載走査電子顕微鏡(SEM-EDS)の例を説明するが、これに限らない。EDSは試料表面を電子線で走査し、電子線により励起されたX線を検出することにより元素分布などの解析を行う。図1の評価システム1は、SEM-EDSと通信可能に接続されていてもよい。SEM-EDSと通信可能に接続されている評価システム1はSEM-EDSの分析結果を受信できる。また、図1の評価システム1はSEM-EDSの分析結果を保存したデータベースから受信してもよいし、SEM-EDSの分析結果を保存したUSB(ユニバーサルシリアルバス)メモリなどの記憶媒体から読み出してもよい。
【0017】
なお、図1に示した評価システム1の構成は一例であって、図1の構成に限定されるものではない。本実施形態に係る評価システム1の評価装置10、情報処理装置14、及びユーザ端末16は例えば一般的なコンピュータを構成するハードウェアと、コンピュータで実行されるプログラム(ソフトウェア)との協働により実現することができる。
【0018】
本実施形態に係る評価システム1の評価装置10、情報処理装置14、及びユーザ端末16は、例えば図2のコンピュータ20がプログラムを実行することによって、本実施形態に係る機能性ペーストの評価システム1、評価装置10、及び評価方法を実現できる。
【0019】
[ハードウェア構成]
図2は、本実施形態に係るコンピュータの一例のハードウェア構成図である。図2に示したコンピュータ20は、例えば図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)21などのプロセッサと、ROM(Read Only Memory)22やRAM(Random Access Memory)23などのメモリと、補助記憶装置24と、表示デバイスなどの出力装置25と、入力デバイス等の入力装置27と、I/F装置26と、これら各部を接続するバスと、を備えたハードウェア構成を有する。なお、補助記憶装置24、出力装置25、及び入力装置27は、コンピュータ20の筐体の外部に設けられていてもよい。
【0020】
コンピュータ20が実行するプログラムは、例えば、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ、又はこれに類する記録媒体に記録されて提供され、補助記憶装置24などに格納される。プログラムを記録する記録媒体は、コンピュータ20が読み取り可能な記録媒体であれば、何れの記憶形式の形態であってもよい。また、プログラムはコンピュータ20に予めインストールされた構成であってもよい。また、プログラムはROM22に格納された構成であってもよい。また、プログラムはネットワーク18を介して配布され、コンピュータ20に適宜インストールされる構成であってもよい。
【0021】
CPU21はコンピュータ20の全体の動作を制御する。CPU21がROM22及び補助記憶装置24に格納されたプログラムをRAM23などのメモリ上に適宜読み出して実行することにより、後述の各種処理部を実現する。
【0022】
ROM22はプログラム及びデータを記憶する。RAM23はCPU21のワークエリアとして用いられる。RAM23は不揮発RAMを含んでいてもよい。また、補助記憶装置24はSSD(Solid State Drive)又はHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置である。例えば補助記憶装置24は機能性ペーストに含まれる無機粉末の塗膜中の分散性を評価するために必要な各種のプログラム、データ、ファイル等を格納できる。補助記憶装置24は、本実施形態に係る評価システム1が利用する乾燥させた機能性ペーストの断面画像等を格納しておくことができる。なお、乾燥させた機能性ペーストの断面画像は、塗布した機能性ペーストを乾燥させ、断面を露出させて撮像した画像である。出力装置25はモニタディスプレイなどの出力デバイスである。入力装置27はタッチパネル、コントローラ、マウス、キーボード、操作ボタン等の入力デバイスである。I/F装置26は、ネットワーク18を介した通信を行うインタフェース、記録媒体からデータを読み出し又は記録媒体にデータを書き込むI/Fを含む。
【0023】
[機能構成]
以下、本実施形態に係る評価システム1の一例として、図1(A)の評価システム1の例を説明する。ここでは、図1(A)の評価システム1の評価装置10が積層セラミックコンデンサ(MLCC)などに用いられる機能性ペーストの分散性を評価する例について説明する。積層セラミックコンデンサ(MLCC)などに用いられる機能性ペーストの主な構成成分は、複数の無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤などである。
【0024】
図3は本実施形態に係る評価システムの一例の機能構成図である。図3に示した評価装置10は、取得部50、抽出部52、算出部54、出力部56、記憶部60、及び学習部62を有する。なお、本実施形態に係る評価システム1の説明に不要な機能構成については図示を適宜省略する。
【0025】
取得部50は、乾燥させた評価用の機能性ペーストの断面画像を取得する。取得部50は、乾燥させた機能性ペーストの塗膜を断面加工した断面画像を、乾燥させた機能性ペーストの断面画像として取得する。
【0026】
機能性ペーストは、複数種の無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤を混合及び混錬して作製する。無機粉末は機能性ペーストを、塗布、乾燥及び焼成して作製される機能層の主成分又は添加成分となる粉末をさす。具体的に無機粉末は、金属粉末、セラミック粉末、及びガラス粉末からなる群から選択される少なくとも一つである。
【0027】
また、乾燥させた機能性ペーストの断面画像は次のように得る。まず、ユーザは機能性ペーストを基材上に塗布及び乾燥して塗膜にする。なお、基材は、その上に機能性ペーストを塗布でき、乾燥工程での加熱に耐えうるものであればよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの支持フィルムが挙げられる。塗布は、例えば、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、インクジェット印刷といった印刷法が挙げられる。塗布は、ドクターブレードやアプリケータを用いた手法を用いてもよい。塗膜の厚さは断面を露出する作業ができればよく、10~400μmなどである。
【0028】
乾燥は、例えば100~150℃の温度で5分間~2時間、行う。機能性ペーストの種類に応じて使用される有機溶剤の種類が異なるため、温度や乾燥時間は適宜設定して行えばよい。
【0029】
最後に、ユーザは塗膜を加工して塗膜断面を露出させ、乾燥させた機能性ペーストの断面画像を撮像する。例えば塗膜断面を露出させる加工は、クロスセクションポリシャ、収束イオンビーム(FIB)、ミクロトームなどの試料の断面を加工する既存の技術を用いることができる。
【0030】
電子顕微鏡で観察する場合には、予め塗膜断面に導電性物質をコーティングし、帯電防止処理を施してもよい。また、観察時の倍率は、無機粉末に含まれる粒子の径に応じて設定すればよい。倍率は、例えば1万倍~10万倍である。
【0031】
取得部50は乾燥させた学習用の機能性ペーストの断面から例えばEDS搭載走査電子顕微鏡(SEM-EDS)によって得られた元素マッピングの結果を取得する。また、乾燥させた学習用の機能性ペーストの断面は次のように得る。
【0032】
まず、ユーザは機能性ペーストを基材上に塗布及び乾燥して塗膜にする。ユーザは塗膜を加工して塗膜断面を露出させ、乾燥させた機能性ペーストの断面を例えばEDS搭載走査電子顕微鏡(SEM-EDS)によって分析する。
【0033】
取得部50は、評価用の機能性ペーストの断面画像、及び学習用の機能性ペーストの断面の元素マッピングの結果を記憶部60に記憶させる。記憶部60は乾燥させた評価用の機能性ペーストの断面画像、及び学習用の機能性ペーストの断面の元素マッピングの結果を記憶する。
【0034】
抽出部52は、乾燥させた学習用の機能性ペーストの断面から走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDS)で得られた元素マッピングの結果を用いて予め学習済みの無機粉末の粒子の領域を、乾燥させた評価用の機能性ペーストの断面画像から抽出する。
【0035】
抽出部52は例えば図4に示したような断面画像であれば、学習用の機能性ペーストの断面の元素マッピングの結果を用いて予め学習済みの無機粉末の粒子の領域を例えば図5に示すように抽出する。学習用の機能性ペーストの断面の元素マッピングの結果は例えば図6に示すような分析結果である。
【0036】
図4は乾燥させた機能性ペーストの断面画像の一例のイメージ図である。図4の断面画像は粒径の異なる無機粉末の一例として、粒径の大きいニッケルの領域と粒径の小さいチタン酸バリウムの領域とが含まれている。例えば図4の断面画像では、ニッケルの領域とチタン酸バリウムの領域との少なくとも一方が、分散性の評価対象となる無機粉末の領域となる。評価装置10は図6に示すような学習用の機能性ペーストの断面の元素マッピングの結果を用いて学習部62が予め学習して構築しておいた学習モデルにより、図4の断面画像から図5に示すように分散性の評価対象となる無機粉末の領域を抽出できる。
【0037】
図5は断面画像から抽出した分散性の評価対象となる無機粉末の領域の一例のイメージ図である。例えば図5(A)は抽出部52により抽出した粒径の大きい無機粉末(ニッケル)の領域を円500で示している。また、図5(B)は抽出部52により抽出した粒径の小さい無機粉末(チタン酸バリウム)の領域を円502で示している。図5(A)及び図5(B)の断面画像の黒い領域はバインダー樹脂の領域を示している。
【0038】
図6は、学習用の機能性ペーストの断面の元素マッピングの結果の一例のイメージ図である。例えば図6(A)は走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDS)で得られた分析結果に基づき、無機粉末(ニッケル)の領域を着色600で示している。また、図6(B)は走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDS)で得られた分析結果に基づき、無機粉末(チタン酸バリウム)の領域を着色602で示している。
【0039】
評価対象となる無機粉末の領域を識別して抽出するための学習モデルは、例えば畳み込みニューラルネットワーク(CNN)で構成される。CNNは、教師付き学習によって訓練できる機械学習アルゴリズムの一種である。教師付き学習は、訓練データのセットが与えられた予測モデルを推論する機械学習の一つである。
【0040】
訓練データの個々のサンプルは、それぞれ、データセット(例えば、複数枚の画像)及び所望の出力値又はデータセットを含むペアとなる。教師付き学習アルゴリズムは、訓練データを分析して予測関数を生成する。訓練によって導出された予測関数は有効な入力に対する正しい出力値又はデータセットを、合理的に予測又は推定できる。予測関数は様々な機械学習モデル、アルゴリズム、及び/又はプロセスに基づいて定式化できる。
【0041】
CNNモデルのアーキテクチャは入力を出力に変換するレイヤ(層)を複数含む。レイヤの例としては、コンボリューション層、活性化関数を利用する非線形演算子層、プーリング層、及びアフィン層(結合層)等がある。各レイヤ(層)は、各々1つの前の層と1つの後の層とを接続する。データセットが入力される層は入力層、最終的な出力は出力層と呼ばれる場合もある。なお、例えば活性化関数にはReLu関数、シグモイド関数、又は双曲正接関数(tanh関数)などを用いることができる。
【0042】
また、学習部62は二乗誤差、交差エントロピー誤差等の損失関数に基づいて、誤差逆伝播法(Back Propagation)や、確率的勾配降下法(stochastic gradient descent)等を用いて学習モデルを予め学習すればよい。また、CNNモデルは異なる層の数を増やしてもよい。深層CNNモデルの例としては、AlexNet、VGGNet、GoogLeNet、及びResNetなどがある。
【0043】
図7は学習モデルの構築時に利用した教師画像について説明する一例の図である。例えば図7(A)は評価対象となる無機粉末を含む機能性ペーストの塗膜断面を作成し、EDS搭載走査電子顕微鏡(SEM-EDS)を用いた元素分析により得られた元素マッピングの結果である。
【0044】
図7(A)に示した元素マッピングの結果は、分析により塗膜断面から得られた元素の位置に色を付したSEM画像の例を表している。学習部62は評価対象となる無機粉末を例えば図7(B)に示すように図7(A)の元素マッピングの結果から特定する。
【0045】
例えば図7(B)では図7(A)の元素マッピングの結果から特定された評価対象の無機粉末の位置に点700が描画されている。図7(B)は粒径の小さい無機粉末(チタン酸バリウム)が評価対象として特定された例である。
【0046】
図7(C)は、図7(B)で評価対象として特定された無機粉末の領域が円702で指定された例である。図7(C)の円702で示した領域の画像は、教師画像として利用できる。なお、評価対象として特定された無機粉末の領域の画像は、図7(A)の着色された領域を切り取ることで指定するようにしてもよいし、図7(B)の点700から所定範囲を切り取ることで指定するようにしてもよい。機能性ペーストの場合は、複数の無機粉末を含むことが多いため、異なる無機粉末を含んだものを教師画像としてもよい。
【0047】
図7に示したように、走査型電子顕微鏡‐エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDS)で得られた機能性ペーストの断面の元素マッピングの結果は、教師画像として用いることができる。
【0048】
算出部54は、抽出部52が抽出した無機粉末の粒子の領域を用いて、機能性ペーストに含まれる無機粉末の分散状態を示す評価指標を算出する。また、算出部54は、抽出部52が抽出した無機粉末の粒子の領域の画素数及び無機粉末の粒子の数の少なくとも一つを用いて、機能性ペーストに含まれる無機粉末の分散状態を示す評価指標を算出してもよい。
【0049】
図8は機能性ペーストに含まれる無機粉末の分散状態を示す評価指標について説明する一例の図である。
【0050】
図8(A)に示した例は、抽出部52が断面画像から算出した分散性の評価対象となる無機粉末の総面積(画素数の合計)及び総数(断面画像全体での分散性の評価対象となる無機粉末の個数)の少なくとも一つを、無機粉末の分散状態を示す評価指標として用いている。
【0051】
また、算出部54は複数枚の断面画像について、分散性の評価対象となる無機粉末の領域から無機粉末の総面積(画素数の合計)及び総数(断面画像全体での分散性の評価対象となる無機粉末の個数)の少なくとも一つを算出して、その平均値を用いてもよい。
【0052】
図8(B)に示した例は、断面画像を所定数の所定区画(3×3)に分割し、それぞれの所定区画での分散性の評価対象となる無機粉末の個数を算出して、無機粉末の分散状態を示す評価指標として用いている。それぞれの所定区画から無機粉末の総面積(画素数の合計)を算出して、無機粉末の分散状態を示す評価指標として用いてもよい。また、算出部54は断面画像を所定数の所定区画に分割し、それぞれの所定区画から無機粉末の総面積(画素数の合計)及び総数(所定区画での分散性の評価対象となる無機粉末の個数)の少なくとも一つを算出して、その平均値を用いてもよい。
【0053】
特に、異なるサイズ(粒径)の複数の無機粉末が含まれる機能性ペーストの場合は、総面積や総数を用いるより、複数枚の断面画像又は複数の所定区間の平均値を算出して用いる方が、無機粉末の分散状態を示す評価指標として好ましい。平均値の他に、標準偏差や分散値などを別に算出してもよい。
【0054】
また、算出部54は、例えば抽出部52が抽出した無機粉末の粒子のそれぞれの領域の中心を入力点(母点)として図9に示すようにボロノイ分割を行い、変動係数を算出してもよい。図9は機能性ペーストに含まれる無機粉末の分散状態を示す評価指標について説明する一例の図である。図9(A)は抽出部52が抽出した無機粉末の粒子のそれぞれの領域の中心900をSEM画像上に示している。
【0055】
例えば図5に示したSEM画像であれば、円500又は502に示した領域の中心が例えば図10の点1100又は1102に示すように母点となる。図10は、抽出部が抽出した無機粉末の粒子のそれぞれの領域の母点について説明する一例の図である。
【0056】
ボロノイ分割とは、隣り合う母点間を結ぶ直線に垂直二等分線を引き、各母点の最近隣領域を図9(B)のように分割する手法である。変動係数(CV値)は、ボロノイ分割を行って分割された区間の面積の標準偏差(S)と分割された区間の面積の平均値(S)とから、以下の式(1)~式(3)によって求めることができる。Nは分割された区間の面積の合計値である。Sはi番目(iは1から始まる自然数)の面積である。
【0057】
【数1】
【0058】
【数2】
【0059】
【数3】
例えば変動係数(CV値)は、分散性の評価対象となる無機粉末が均一に分布している場合に小さくなり、分散性の評価対象となる無機粉末の凝集体が多く不均一に分布している場合に大きくなる。したがって、変動係数(CV値)は無機粉末の分散状態を示す評価指標として用いることができる。
【0060】
出力部56は、算出部54が算出した無機粉末の分散状態を示す評価指標を例えば表示出力する。出力部56は、例えばSEM画像に無機粉末の分散状態を示す評価指標の情報を付加して表示出力する。SEM画像に付加して表示する無機粉末の分散状態を示す評価指標の情報は、ユーザが設定した閾値よりも分散性が良いこと又は悪いことを表す情報であってもよい。また、例えば出力部56は無機粉末の分散状態を視覚的に表した例えば図5に示すようなSEM画像を表示出力してもよい。
【0061】
[処理]
次に、本実施形態に係る評価装置10が行う処理について、フローチャートを用いて説明する。図11は本実施形態に係る評価システムの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0062】
ステップS10において、評価装置10は評価対象(無機粉末)を含む機能性ペーストの断面画像を取得する。ステップS12において、評価装置10はステップS10で取得した断面画像において、評価対象となる無機粉末の指定を受け付ける。対象となる無機粉末の指定の方法は、評価装置10が表示装置等を用いて提示した断面画像から、ユーザが評価対象となる無機粉末を円形や矩形などの図形で指定してもいいし、無機粉末の粒子のおおよその粒径を数値範囲で指定してもよい。
【0063】
または、対象となる無機粉末の指定の方法は、ユーザが予め評価対象となる無機粉末の粒子の画像や大きさを設定し、個別のID(識別番号など)を付与し、登録して用意しておいたものを選択してもよい。
【0064】
ステップS14において、評価装置10はステップS10で取得した断面画像から特徴量を抽出する。特徴量は断面画像から得られる画素値を利用する。例えば、SEM(走査電子顕微鏡)から得られる断面画像であれば明度を用いた特徴量を利用する。なお、特徴量は明度自体であってもよいし、ソーベルフィルタを利用してエッジ検出を行った結果の情報であってもよい。特徴量は、ステップS16で用いられる学習モデルに利用可能であれば、明度と、ソーベルフィルタを利用してエッジ検出を行った結果の情報(フィルタ処理後の情報)と組み合わせたものであってもよい。
【0065】
ステップS16において、評価装置10は断面画像における評価対象(無機粉末)の粒子の領域について事前に学習した(予め学習済みの)学習モデルを取得する。ステップS18において、評価装置10はステップS16で取得した予め学習済みの学習モデルを用いて、評価対象の粒子の領域を抽出する。
【0066】
ステップS18の評価対象の粒子の領域を抽出する処理は、例えば図12に示すように行う。図12は評価対象の粒子の領域を抽出する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0067】
ステップS30において、評価装置10は評価対象の粒子に指定された無機粉末のサイズ、例えばSEMなどの電子顕微鏡から得られた断面画像の倍率に基づいてn×nの探索ウインドウを設定する。
【0068】
ステップS32において、評価装置10は取得した断面画像の拡大又は縮小のスケーリングを行う。ステップS34において、評価装置10はスケーリングを行った画像を探索ウインドウで、例えば左上から右下に順次、スキャンしてウインドウ画像を得る。評価装置10は予め学習済みの学習モデルを用いてウインドウ画像が評価対象の粒子の領域であるか否かを識別し、評価対象の粒子の領域を抽出する。
【0069】
図11に戻り、評価装置10は抽出した評価対象の粒子の領域に基づいて、機能性ペースト中の無機粉末の分散状態を示す評価指標を算出する。機能性ペースト中の無機粉末の分散状態を示す評価指標は、ステップS18で抽出した評価対象の粒子の領域の数を用いてもよいし、ステップS18で抽出した評価対象の粒子の領域の画素数の合計値を用いてもよいし、複数枚の断面画像から抽出した評価対象の粒子の領域の数の平均値を用いてもよいし、複数枚の断面画像から抽出した評価対象の粒子の領域の画素数の合計値の平均値を用いてもよい。
【0070】
以上、本実施形態によれば、機能性ペーストに含まれる無機粉末の塗膜中の分散性を容易に評価できる評価装置、評価システム、評価方法、及びプログラムを提供できる。本実施形態によれば、機能性ペーストに含まれる無機粉末の塗膜中の分散性を容易に評価できるようになる。
【0071】
本実施形態によれば、例えば積層セラミックコンデンサに使用される機能性ペーストに含まれるニッケルの分散性を評価でき、塗膜中のニッケル密度の低下、及び凝集体による塗膜表面の凹凸の増加などが原因のコンデンサとしての容量不足を予測できる。一方、本実施形態によれば、塗膜中のニッケル密度の上昇、及び凝集体による塗膜表面の凹凸の減少などによるコンデンサとしての容量増加を予測できる。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1 評価システム
10 評価装置
14 情報処理装置
16 ユーザ端末
18 ネットワーク
50 取得部
52 抽出部
54 算出部
56 出力部
60 記憶部
62 学習部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12