(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144944
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】セメントクリンカの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/44 20060101AFI20231003BHJP
C04B 7/52 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C04B7/44
C04B7/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052166
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100191204
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 春彦
(72)【発明者】
【氏名】辻尾 賢一
(72)【発明者】
【氏名】柿本 竜太
(72)【発明者】
【氏名】関 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 幸二郎
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112KA02
4G112KA03
4G112KA08
(57)【要約】
【課題】通常の運転に影響を与えることなく、CO
2の発生量の低減を可能とするセメントクリンカの製造方法を提供すること。
【解決手段】
焼成キルン内に投入されたセメントクリンカ粉体原料を、ガス燃料を含む熱エネルギー源を用いてキルンバーナーで焼成する焼成工程を有するセメントクリンカの製造方法であって、キルンバーナーで用いる熱エネルギー源中のガス燃料の使用量を、キルンバーナーの温度が、その耐熱温度よりも低くなるよう調整するセメントクリンカの製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成キルン内に投入されたセメントクリンカ粉体原料を、ガス燃料を含む熱エネルギー源を用いてキルンバーナーで焼成する焼成工程を有するセメントクリンカの製造方法であって、
前記キルンバーナーで用いる熱エネルギー源中のガス燃料の使用量を、キルンバーナーの温度が、該キルンバーナーの耐熱温度よりも低くなるよう調整することを特徴とするセメントクリンカの製造方法。
【請求項2】
キルンバーナーの温度が、該キルンバーナーの耐熱温度よりも40℃以上低くなるよう調整することを特徴とする請求項1記載のセメントクリンカの製造方法。
【請求項3】
前記ガス燃料が、水素であることを特徴とする請求項1又は2記載のセメントクリンカの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか記載の製造方法により製造されたセメントクリンカに、石膏を配合して粉砕する仕上げ工程を有することを特徴とするセメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントを製造する際の工程としては、主として、石灰石、粘土等のセメントクリンカ原料を乾燥し、粉砕する原料調製工程、調製したセメントクリンカ粉体原料を焼成キルン等の焼成装置で焼成してセメントクリンカを製造する焼成工程、及び製造したセメントクリンカに石膏等を加えてセメントとする仕上げ工程がある。
【0003】
上記焼成キルンにおいては、通常、熱源として、石油や石炭などの炭素含有熱エネルギー源が使用されており、燃焼時に多くのCO2が発生するという問題があった。
そこで、CO2発生量を削減するために、CO2発生量の少ないガス燃料を主な熱エネルギー源として使用することが提案されている。
【0004】
例えば、ガス燃料として、水素、メタン、エタン、プロパンを使用する方法(特許文献1参照)やアンモニアを使用する方法(特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-052746号公報
【特許文献2】特開2019-137579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
石油、石炭などの炭素含有熱エネルギー源を用いる場合に比べて、水素やメタンなどのガス燃料を用いることにより、CO2の発生量は減少する。
しかしながら、ガス燃料は石油、石炭などの炭素含有熱エネルギー源に比べて燃焼速度が高いため、キルンバーナーの先端部近傍での温度が上がり、キルンバーナーの温度がその耐熱温度を超えたり、たとえ超えなくとも、キルンバーナーの焼損(損傷)が激しくなり、キルンバーナーの交換寿命が短くなる。通常、焼成キルンは一年周期で補修していることが多いが、その周期が短期になると共に、通常の補修時以外で、キルンバーナー交換のためだけに運転を停止することになると、最低でも数日間は運転がストップすることになり、製造効率が非常に悪くなる。
【0007】
本発明の課題は、通常の運転に影響を与えることなく、CO2の発生量の低減を可能とするセメントクリンカの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記のように、CO2の発生量を低減させるために焼成キルンにおいてガス燃料を使用すると、石油、石炭などの炭素含有熱エネルギー源を用いる場合に比べて、キルンバーナーの先端部近傍での温度が上がることを知見した。したがって、キルンバーナーへの焼損を抑制するには、燃焼キルンにおけるガス燃料の使用量を制限することが有効であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1] 焼成キルン内に投入されたセメントクリンカ粉体原料を、ガス燃料を含む熱エネルギー源を用いてキルンバーナーで焼成する焼成工程を有するセメントクリンカの製造方法であって、
前記キルンバーナーで用いる熱エネルギー源中のガス燃料の使用量を、キルンバーナーの温度が、該キルンバーナーの耐熱温度よりも低くなるよう調整することを特徴とするセメントクリンカの製造方法。
[2] キルンバーナーの温度が、該キルンバーナーの耐熱温度よりも40℃以上低くなるよう調整することを特徴とする[1]記載のセメントクリンカの製造方法。
[3] 前記ガス燃料が、水素であることを特徴とする[1]又は[2]記載のセメントクリンカの製造方法。
[4] [1]~[3]のいずれか記載の製造方法により製造されたセメントクリンカに、石膏を配合して粉砕する仕上げ工程を有することを特徴とするセメントの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセメントクリンカの製造方法によれば、通常の運転に影響を与えることなく、CO2の発生量の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のセメントクリンカの製造方法の工程の一例を示す図である。
【
図2】本発明のセメントの製造方法の工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のセメントクリンカの製造方法は、焼成キルン内に投入されたセメントクリンカ粉体原料を、ガス燃料を含む熱エネルギー源を用いてキルンバーナーで焼成する焼成工程を有し、キルンバーナーで用いる熱エネルギー源中のガス燃料の使用量を、キルンバーナーの温度が、キルンバーナーの耐熱温度よりも低くなるよう調整することを特徴とする。
【0013】
本発明のセメントクリンカの製造方法は、焼成キルンで用いる熱エネルギー源の一部としてガス燃料を用いることから、石油、石炭などの炭素含有熱エネルギー源のみを用いる場合に比べて、CO2の発生量の低減を図ることができる。その一方で、焼成キルンでガス燃料を用いると、ガス燃料は石油、石炭などの炭素含有熱エネルギー源に比べて燃焼速度が高いため、キルンバーナーの先端部近傍での温度が上がり、キルンバーナーが焼損するおそれがあるが、本発明においては、ガス燃料を制限して用いるため、キルンバーナーの焼損を抑えて運転を行うことができる。
【0014】
ここで、
図1は、本発明のセメントクリンカの製造方法の工程の一例を示す図である。本発明の製造方法は、焼成工程前に、通常、原料調製工程を有している。以下、各工程について具体的に説明する。
【0015】
(原料調製工程)
原料調製工程は、セメントクリンカ原料を乾燥及び粉砕して、粉体原料を調製する工程である(ステップ1)。ここで、セメントクリンカ原料としては、石灰石、粘土、珪石等の従来公知の一般的なセメントクリンカ原料を用いることができる。
【0016】
原料調製工程においては、主として、調合処理、乾燥処理、粉砕処理を施す。調合処理は、各種セメントクリンカ原料を、目的に応じて所定割合で配合する処理である。乾燥処理は、セメントクリンカ原料を、各原料毎、又は調合(混合)した状態で、加熱乾燥する処理である。粉砕処理は、乾燥したセメントクリンカ原料を粉砕する処理であり、乾燥処理と同時に行ってもよい。乾燥処理は、粉砕処理前及び/又は粉砕処理と同時に行うことができる。
【0017】
原料調製工程の乾燥処理では、焼成工程で発生した燃焼ガスの熱エネルギーを利用することができる。
【0018】
(焼成工程)
焼成工程は、焼成キルン内に投入されたセメントクリンカ粉体原料を、ガス燃料を含む熱エネルギー源を用いてキルンバーナーで焼成する工程である(ステップ2)。
【0019】
燃焼工程の熱エネルギー源として、一般的に石油や石炭等の炭素含有熱エネルギー源が用いられるが、本発明においては、その一部にガス燃料を用いる。ガス燃料としては、水素、メタン、エタン、プロパン、アンモニア等が挙げられるが、燃焼性、CO2を全く発生させない点から、水素が好ましい。熱エネルギー源の一部としてガス燃料を用いることにより、焼成によるCO2発生量の低減を図ることができる。
【0020】
本工程においては、キルンバーナーで用いる熱エネルギー源中のガス燃料の使用量を、キルンバーナーの温度が、キルンバーナーの耐熱温度よりも低くなるよう調整する。すなわち、ガス燃料を用いると、キルンバーナー先端近傍での炎の温度が高くなり、キルンバーナーの温度が上昇するため、このガス燃料の使用量を制限して、キルンバーナーへの影響を抑制する。
【0021】
ここで、キルンバーナーの耐熱温度とは、第一義的にはその材質の耐熱温度をいうが、高温での連続運転での推奨温度等がある場合は、その推奨温度等を優先する。推奨温度に幅がある場合は、より安全な低い方の温度を優先する。例えば、耐熱ステンレス鋼であるSUS310Sは、材質としての耐熱温度が1035℃とされているが、700~900℃での長期加熱は注意を要するとされている。したがって、この場合、耐熱温度は700℃として、これよりも低い温度とする。
【0022】
上記のように、本発明においては、キルンバーナーで用いる熱エネルギー源中のガス燃料の使用量を、キルンバーナーの温度がその耐熱温度よりも低くなるよう調整すればよいが、キルンバーナーへの負荷をより低減するため、耐熱温度より40℃以上低くなるよう調整することが好ましく、90℃以上低くなるように調整することがより好ましく、110℃以上低くなるように調整することがさらに好ましい。
【0023】
なお、キルンバーナーの温度が所定温度よりも低いとは、その温度以上が10分以上継続しないことをいい、所定温度以上になった際に警報等で知らせるようにすることが好ましい。警報等による警告があった場合には、キルンバーナーの状況を確認し、適宜、対処を行う。
【0024】
具体的に、ガス燃料の使用量としては、熱量換算で、熱エネルギー源全体の1~40%であることが好ましく、5~35%であることがより好ましく、10~30%であることがさらに好ましい。ガス燃料の割合は、発生する燃焼ガスに含まれるCO2の低減の観点と、キルンバーナーへの影響の観点の両者を勘案して決定することできる。
【0025】
以上のとおり、本発明のセメントクリンカの製造方法によれば、キルンバーナーへの影響を抑制して、通常の運転に影響を与えることなく、CO2の発生量の低減を図ることが可能となる。
【0026】
また、本発明のセメントの製造方法は、上記製造方法により製造されたセメントクリンカに、石膏を配合して粉砕する仕上げ工程を有することを特徴とする。ここで、
図2は、本発明のセメントの製造方法の工程の一例を示す図である。
【0027】
(仕上げ工程)
仕上げ工程では、ステップ1及び2で調製したセメントクリンカに、少なくとも石膏を配合して粉砕し、セメントを製造する(ステップ3)。本工程では、セメントクリンカ又は石膏を配合したセメントに対して、必要に応じて、高炉スラグや、フライアッシュ等の他の材料を配合してもよい。
【実施例0028】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0029】
焼成キルンにおいて、熱エネルギー源として、粉炭のみを用いた場合(粉炭専焼)、粉炭に熱量換算で熱エネルギー源全体の20%又は50%の水素を添加した場合、水素のみを用いた場合について、バーナー先端部近傍のガス温度の流体シミュレーションを行った。
【0030】
これらの流体シミュレーション条件を表1に示し、結果を表2に示す。この流体シミュレーションでは、焼成キルン構造を2次元軸対称として定義し、乱流モデル、輻射モデルおよび燃焼モデルを適用して解を得た。なお、本流体シミュレーションは、汎用の流体シミュレーションソフトである、Ansys社のAnsys Fluent 2021を用いて行った。
【0031】
【0032】
【0033】
表2より、熱エネルギー源の一部として水素を用いることにより、バーナー先端部近傍の温度が上昇することがわかる。水素20%混焼であれば温度上昇が軽微であり、バーナーへの影響もほぼないと考えられる。一方、水素混焼率が50%では、粉炭専焼の場合と比較してバーナー先端部近傍の温度が約100℃上昇しており、バーナーの耐熱温度によってはバーナーの焼損が生じる可能性がある。したがって、用いるバーナーにもよるが、水素混焼率が40%以下であることが好ましいと考えられる。