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  • 特開-積層フィルム及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145132
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】積層フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
B32B27/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052436
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】摺出寺 浩成
(72)【発明者】
【氏名】井上 恭輔
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK02
4F100AK02A
4F100AK02B
4F100AK02C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA21A
4F100BA21B
4F100BA21C
4F100EH20
4F100EH20A
4F100EH20B
4F100EH20C
4F100EJ42A
4F100EJ42B
4F100EJ42C
4F100GB48
4F100JA05
4F100JA11
4F100JA11B
4F100JA12
4F100JA12A
4F100JA12C
4F100JB07
4F100JJ03
4F100JK06
4F100JL11
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】耐溶剤性に優れ、かつ、接着剤との密着性に優れたフィルム。
【解決手段】結晶性重合体を含み結晶化開始温度Tc(A)を有し非晶状態である樹脂(A)の層である、第一樹脂層、及び結晶性重合体を含み結晶化開始温度Tc(B)を有し結晶状態である樹脂(B)の層である、第二樹脂層を含み、下記式(1)を満たす、積層フィルム。
(Tc(A)-Tc(B))>0℃ (1)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性重合体を含み結晶化開始温度Tc(A)を有し非晶状態である樹脂(A)の層である、第一樹脂層、及び
結晶性重合体を含み結晶化開始温度Tc(B)を有し結晶状態である樹脂(B)の層である、第二樹脂層を含み、
下記式(1)を満たす、積層フィルム。
(Tc(A)-Tc(B))>0℃ (1)
【請求項2】
前記樹脂(A)の層である第三樹脂層を更に含み、
前記第一樹脂層と前記第三樹脂層との間に、前記第二樹脂層が設けられている、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記樹脂(A)が、非晶性重合体を更に含む、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
下記式(2)を満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層フィルム。
(Tc(A)-Tc(B))≧15℃ (2)
【請求項5】
前記樹脂(A)及び前記樹脂(B)がそれぞれ独立して、環状オレフィン系重合体を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法であって、
結晶性重合体を含み前記結晶化開始温度Tc(A)を有する樹脂(a)及び結晶性重合体を含み前記結晶化開始温度Tc(B)を有する樹脂(b)をそれぞれ、溶融する工程(1)、並びに
溶融された前記樹脂(a)の層と溶融された前記樹脂(b)の層とを押し出して、積層フィルムを得る工程(2)を含む、積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記工程(2)が、
前記積層フィルムを、前記結晶化開始温度Tc(A)より低い温度Tで熱処理する工程を含む、請求項6に記載の積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性樹脂で形成された層を含む、積層フィルムが知られている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/204146号
【特許文献2】特開2005-144726号公報
【特許文献3】特開2012-152932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
結晶性を有する重合体(以下、結晶性重合体ともいう。)を含む樹脂は、耐熱性が期待されて、偏光子保護フィルムなどの光学フィルムの材料として用いられることがある。
しかし、結晶性を有する重合体を含む樹脂から形成されたフィルムは、耐熱性を備えていても、他の部材に接着剤を用いて貼合すると、接着剤との密着性が不十分であり、他の部材から容易に剥離する場合があった。
【0005】
したがって、耐熱性に優れ、かつ、接着剤との密着性に優れたフィルム;及びかかる優れた特性を有するフィルムの製造方法;が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した結果、非晶状態である所定の樹脂(A)の層と、結晶状態である所定の樹脂(B)の層とを含み、樹脂(A)の結晶化開始温度と樹脂(B)の結晶化開始温度とが所定の関係にある積層フィルムにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0007】
[1] 結晶性重合体を含み結晶化開始温度Tc(A)を有し非晶状態である樹脂(A)の層である、第一樹脂層、及び
結晶性重合体を含み結晶化開始温度Tc(B)を有し結晶状態である樹脂(B)の層である、第二樹脂層を含み、
下記式(1)を満たす、積層フィルム。
(Tc(A)-Tc(B))>0℃ (1)
[2] 前記樹脂(A)の層である第三樹脂層を更に含み、
前記第一樹脂層と前記第三樹脂層との間に、前記第二樹脂層が設けられている、[1]に記載の積層フィルム。
[3] 前記樹脂(A)が、非晶性重合体を更に含む、[1]又は[2]に記載の積層フィルム。
[4] 下記式(2)を満たす、[1]~[3]のいずれか一項に記載の積層フィルム。
(Tc(A)-Tc(B))≧15℃ (2)
[5] 前記樹脂(A)及び前記樹脂(B)がそれぞれ独立して、環状オレフィン系重合体を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の積層フィルム。
[6] [1]~[5]のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法であって、
結晶性重合体を含み前記結晶化開始温度Tc(A)を有する樹脂(a)及び結晶性重合体を含み前記結晶化開始温度Tc(B)を有する樹脂(b)をそれぞれ、溶融する工程(1)、並びに
溶融された前記樹脂(a)の層と溶融された前記樹脂(b)の層とを押し出して、積層フィルムを得る工程(2)を含む、積層フィルムの製造方法。
[7] 前記工程(2)が、
前記積層フィルムを、前記結晶化開始温度Tc(A)より低い温度Tで熱処理する工程を含む、[6]に記載の積層フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性に優れ、かつ、接着剤との密着性に優れた積層フィルム;及びかかる優れた特性を有する積層フィルムの製造方法;を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層フィルムを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。以下に示す実施形態の構成要素は、適宜組み合わせうる。また、図において、同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0011】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0012】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0013】
以下の説明において、MD方向(machine direction)は、製造ラインにおけるフィルムの流れ方向であり、TD方向(traverse direction)は、フィルム面に平行な方向であって、MD方向に垂直な方向である。また便宜上、長尺のフィルムの長手方向をフィルムのMD方向、幅方向をフィルムのTD方向と呼ぶ場合もある。
【0014】
重合体又は樹脂のガラス転移温度Tg及び融点Tmは、以下の方法によって測定できる。まず、重合体又は樹脂を、加熱によって融解させ、融解した重合体又は樹脂をドライアイスで急冷する。続いて、この重合体又は樹脂を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体又は樹脂のガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定しうる。
【0015】
以下の説明において、接着剤とは、別に断らない限り、狭義の接着剤(エネルギー線照射後、あるいは加熱処理後、23℃における剪断貯蔵弾性率が1MPa~500MPaである接着剤)のみならず、23℃における剪断貯蔵弾性率が1MPa未満である粘着剤をも包含する。
【0016】
[1.積層フィルム]
[1.1.積層フィルムの概要]
本発明の一実施形態に係る積層フィルムは、樹脂(A)の層である第一樹脂層及び樹脂(B)の層である第二樹脂層を含む。樹脂(A)は、結晶性重合体を含み、結晶化開始温度Tc(A)を有し、非晶状態である。樹脂(B)は、結晶性重合体を含み、結晶化開始温度Tc(B)を有し、結晶状態である。
本実施形態の積層フィルムは、下記式(1)を満たす。
(Tc(A)-Tc(B))>0℃
積層フィルムが、前記の構成を有することにより、積層フィルムを、接着剤との密着性に優れ、かつ耐熱性に優れたフィルムとしうる。
【0017】
本実施形態の積層フィルムは、樹脂(A)の層である第三樹脂層を更に含む。第一樹脂層と第三樹脂層との間に、第二樹脂層が設けられている。すなわち、本実施形態の積層フィルムは、第一樹脂層、第二樹脂層、及び第三樹脂層を、この順に備える。
積層フィルムは、第三樹脂層を含んでいなくてもよいが、積層フィルムの両面において、接着剤との密着性を効果的に向上させる観点から、第三樹脂層を含んでいることが好ましい。
【0018】
[1.2.積層フィルムの構造]
本実施形態に係る積層フィルムの構造を、図を用いて更に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る積層フィルムを模式的に示す断面図である。
積層フィルム100は、樹脂(A)の層である第一樹脂層110、樹脂(B)の層である第二樹脂層120、及び樹脂(A)の層である第三樹脂層130をこの順に備える。
第一樹脂層110と第二樹脂層120とは、間に他の層を介することなく、直接している。第二樹脂層120と第三樹脂層130とは、間に他の層を介することなく、直接している。第二樹脂層120と第一樹脂層110とが直接し、第二樹脂層120と第三樹脂層130とが直接していることにより、積層フィルムの接着剤との密着性及び耐熱性を、効果的に向上させうる。また、積層フィルムの厚みを薄くしうる。
【0019】
積層フィルムの厚みは特に限定されず、積層フィルムの使用用途に応じて適宜設定してよいが、例えば、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、更に好ましくは100μm以下である。
【0020】
第二樹脂層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上であり、好ましくは80μm以下、より好ましくは70μm以下、更に好ましくは60μm以下である。第二樹脂層の厚みが前記下限値以上であることにより、積層フィルムの耐溶剤性、耐熱性を効果的に向上させうる。また、第二樹脂層の厚みが前記上限値以下であることにより、積層フィルムを薄型化できる。
【0021】
第一樹脂層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは15μm以下、更に好ましくは10μm以下、更に好ましくは8μm以下である。
【0022】
第三樹脂層の好ましい厚みは、第一樹脂層の好ましい厚みの範囲と同様の範囲としうる。
【0023】
第一樹脂層又は第三樹脂層の厚みが、前記下限値以上であることにより、積層フィルムの接着剤に対する密着性を効果的に向上させうる。第一樹脂層又は第三樹脂層の厚みが、前記上限値以下であることにより、積層フィルムの耐溶剤性及び耐熱性を効果的に向上させうる。
【0024】
第一樹脂層の厚みと第三樹脂層の厚みとは、互いに異なる厚みであってもよいが、互いに同じ厚みであることが好ましい。第一樹脂層の厚みの第三樹脂層の厚みに対する比(第一樹脂層/第三樹脂層)は、好ましくは110/90~90/110、より好ましくは105/95~95/105、更に好ましくは101/99~99/101である。これにより、積層フィルムのカール量を効果的に低減できる。
【0025】
第一樹脂層の厚みの第二樹脂層の厚みに対する比(第一樹脂層/第二樹脂層)は、好ましくは1/20以上、より好ましくは1/15以上、更に好ましくは1/10以上であり、好ましくは1/1以下、より好ましくは1/2以下、更に好ましくは1/5以下である。これにより、積層フィルムの接着剤に対する密着性及び耐熱性を、バランス良く効果的に向上させうる。
【0026】
積層フィルムは、延伸されていない未延伸フィルムであってもよく、延伸された延伸フィルムであってもよい。
【0027】
積層フィルムは、長尺のフィルムであってもよく、枚葉のフィルムであってもよい。
【0028】
[1.3.各層を形成する樹脂]
第一樹脂層及び第三樹脂層は、樹脂(A)の層である。したがって、第一樹脂層及び第三樹脂層は、樹脂(A)から形成され、樹脂(A)のみを含む。第一樹脂層及び第三樹脂層を形成する樹脂(A)は、結晶性重合体を含む。
第二樹脂層は、樹脂(B)の層である。したがって、第二樹脂層は、樹脂(B)から形成され、樹脂(B)のみを含む。第二樹脂層を形成する樹脂(B)は、結晶性重合体を含む。
【0029】
結晶性重合体とは、結晶性を有する重合体を意味する。結晶性を有する重合体とは、融点Tmを有する重合体を表す。重合体の融点Tmは、示差走査熱量計(DSC)によって測定できる。よって、結晶性重合体とは、示差走査熱量計(DSC)で融点Tmを観測することができる重合体を表す。
【0030】
結晶性重合体は、正の固有複屈折を有していてもよく、負の固有複屈折を有していてもよい。中でも、正の固有複屈折を有する結晶性重合体が好ましい。
【0031】
結晶性重合体の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;以下に述べる環状オレフィン系重合体;が挙げられる。
【0032】
結晶性重合体は、環状オレフィン系重合体であることが好ましい。以下、結晶性を有する環状オレフィン系重合体を、「結晶性環状オレフィン系重合体」と呼ぶことがある。
【0033】
結晶性環状オレフィン系重合体は、その分子内に脂環式構造を有しうる。このような結晶性環状オレフィン系重合体は、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物でありうる。結晶性環状オレフィン系重合体を用いることにより、積層フィルムの機械的特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性を良好にできる。
【0034】
脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる積層フィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、更に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にある場合、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0035】
結晶性環状オレフィン系重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、更に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造を有する構造単位の割合が前記のように多い場合、耐熱性を高めることができる。全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、100重量%以下としうる。また、結晶性環状オレフィン系重合体において、脂環式構造を有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0036】
結晶性環状オレフィン系重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる積層フィルムが得られ易いことから、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
【0037】
具体的には、結晶性環状オレフィン系重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましい。中でも、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0038】
ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物は、ラセモ・ダイアッドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物における繰り返し単位のラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは85%以上である。ラセモ・ダイアッドの割合が高いことは、シンジオタクチック立体規則性が高いことを表す。よって、ラセモ・ダイアッドの割合が高いほど、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の融点が高い傾向がある。
ラセモ・ダイアッドの割合は、13C-NMRスペクトル分析に基づいて決定できる。
【0039】
上記重合体(α)~重合体(δ)としては、国際公開第2018/062067号に開示されている製造方法により得られる重合体を用いうる。
【0040】
結晶性環状オレフィン系重合体として、市販品を用いることもできる。市販品の例としては、日本ゼオン社製「ZEONEXC2420」が挙げられる。
【0041】
結晶性重合体の融点Tmは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Tmを有する結晶性重合体を用いる場合、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた積層フィルムを得ることができる。
【0042】
通常、結晶性重合体は、ガラス転移温度Tgを有する。結晶性重合体の具体的なガラス転移温度Tgは、特に限定されないが、通常は85℃以上、通常170℃以下である。
【0043】
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する結晶性重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
【0044】
結晶性重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する結晶性重合体は、成形加工性に優れる。
【0045】
重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。また、重合体がシクロヘキサンに溶解しない場合には、溶媒としてトルエンを用いて、ポリイソプレン換算値として重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定しうる。
【0046】
結晶性重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
樹脂(A)及び樹脂(B)はそれぞれ独立して、結晶性重合体に加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、酸化防止剤;光安定剤;ワックス;核剤;蛍光増白剤;紫外線吸収剤;無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー;及び、結晶性重合体以外の任意の重合体;が挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0048】
樹脂(A)における結晶性重合体の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは32重量%以上、更に好ましくは35重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは65重量%以下、更に好ましくは60重量%以下である。樹脂(A)における結晶性重合体の割合が前記範囲の下限値以上である場合、積層フィルムの耐溶剤性及び耐熱性を高めることができる。樹脂(A)における結晶性重合体の割合が前記範囲の上限値以下である場合、積層フィルムの接着剤への密着性を高めることができる。
【0049】
樹脂(B)における結晶性重合体の割合は、好ましくは、75重量%以上、より好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上であり、通常100重量%以下であり、100重量%であってもよい。樹脂(B)における結晶性重合体の割合が前記範囲の下限値以上である場合、積層フィルムの耐溶剤性及び耐熱性を高めることができる。
【0050】
樹脂(A)は、好ましくは、結晶性重合体に加えて、非晶性重合体を更に含む。非晶性重合体とは、結晶性を有さない重合体を表す。結晶性を有さない重合体とは、融点Tmを有さない重合体を表す。よって、非晶性重合体とは、示差走査熱量計(DSC)で融点Tmを観測することができない重合体を表す。樹脂(A)が、非晶性重合体を含むことにより、樹脂(A)を容易に非晶状態としうる。
【0051】
非晶性重合体は、正の固有複屈折を有していてもよく、負の固有複屈折を有していてもよい。中でも、正の固有複屈折を有する非晶性重合体が好ましい。
【0052】
非晶性重合体としては、環状オレフィン系重合体が好ましい。すなわち、非晶性重合体は、融点を有さない環状オレフィン系重合体であることが好ましい。以下、融点を有さない環状オレフィン系重合体を、「非晶性環状オレフィン系重合体」と呼ぶことがある。非晶性環状オレフィン系重合体は、機械的特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性に優れる。
【0053】
非晶性環状オレフィン系重合体は、その分子内に環状構造を有しうる。通常、非晶性環状オレフィン系重合体は、その重合体の構造単位が脂環式構造を有する。非晶性環状オレフィン系重合体は、主鎖に脂環式構造を有する重合体、側鎖に脂環式構造を有する重合体、主鎖及び側鎖に脂環式構造を有する重合体、並びに、これらの2以上の任意の比率の混合物でありうる。中でも、非晶性環状オレフィン系重合体は、機械的強度及び耐熱性の観点から、主鎖に脂環式構造を有することが好ましい。
【0054】
脂環式構造としては、例えば、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、及び不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造が挙げられる。中でも、機械的強度及び耐熱性の観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、シクロアルカン構造が特に好ましい。
【0055】
1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、更に好ましくは15個以下である。脂環式構造を構成する炭素原子数がこの範囲である場合、機械的強度、耐熱性及び成形性が高度にバランスされる。
【0056】
非晶性環状オレフィン系重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは55重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上である。全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合がこの範囲にある場合、透明性及び耐熱性が良好となる。
【0057】
非晶性環状オレフィン系重合体としては、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び、これらの水素化物等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体及びその水素化物は、成形性が良好である。
【0058】
ノルボルネン系重合体及びその水素化物の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びその水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びその水素化物が挙げられる。また、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる他の単量体の開環共重合体が挙げられる。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる他の単量体の付加共重合体が挙げられる。これらの重合体としては、例えば、特開2002-321302号公報、国際公開第2017/145718号等に開示されている重合体が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物は、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適である。
【0059】
ノルボルネン構造を有する単量体の例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、5-フェニル-2-ノルボルネン、5-(4-メチルフェニル)-2-ノルボルネン、5-(1-ナフチル)-2-ノルボルネン、9-(2-ノルボルネン-5-イル)-カルバゾール、1,4-メタノ-1,4,4a,4b,5,8,8a,9a-オクタヒドロフルオレン、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロジベンゾフラン、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロカルバゾール、1,4-メタノ-1,4,4a,9,9a,10-ヘキサヒドロアントラセン、1,4-メタノ-1,4,4a,9,10,10a-ヘキサヒドロフェナンスレン;並びに、これらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの);などが挙げられる。
【0060】
置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロキル基等のアルキル基;アルキリデン基;アルケニル基;極性基;などが挙げられる。極性基としては、例えば、ヘテロ原子、又はヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、フルオロ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基等のハロゲン基;カルボキシル基;カルボニルオキシカルボニル基;エポキシ基;ヒドロキシ基;オキシ基;アルコキシ基;エステル基;シラノール基;シリル基;アミノ基;ニトリル基;スルホン基;シアノ基;アミド基;イミド基;などが挙げられる。置換基の数は、1でもよく、2以上でもよい。また、2以上の置換基の種類は、同じでもよく、異なっていてもよい。ただし、飽和吸水率が低く耐湿性に優れる非晶性樹脂を得る観点では、ノルボルネン系単量体は、極性基の量が少ないことが好ましく、極性基を有さないことがより好ましい。
【0061】
非晶性環状オレフィン系重合体の例を商品名で挙げると、日本ゼオン社製「ZEONEX」;JSR社製「アートン」;三井化学社製「アペル」;ポリプラスチックス社製「TOPAS」;などが挙げられる。
【0062】
非晶性重合体のガラス転移温度Tgは、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下、更に好ましくは180℃以下である。非晶性重合体のガラス転移温度Tgが前記の範囲にある場合に、積層フィルムの接着剤への密着性及び耐熱性の両方を効果的に高めることができる。
【0063】
非晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、更に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、更に好ましくは50,000以下である。重量平均分子量が前記の範囲にある場合、樹脂(A)の機械的強度及び成形加工性が高度にバランスされる。
【0064】
非晶性重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.7以下である。分子量分布が前記範囲の下限値以上である場合、重合体の生産性を高め、製造コストを抑制できる。また、上限値以下である場合、低分子成分の量が小さくなるので、高温曝露時の緩和を抑制して、積層フィルムの安定性を高めることができる。
【0065】
非晶性重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0066】
樹脂(A)に含まれうる非晶性重合体の量は、樹脂(A)100重量%に対して、好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%以上、更に好ましくは40重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは68重量%以下、更に好ましくは65重量%以下である。非晶性重合体の量が前記範囲にある場合に、積層フィルムの接着剤への密着性及び耐熱性の両方を効果的に高めることができる。
【0067】
樹脂(B)は、非晶性重合体を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。樹脂(B)に含まれうる非晶性重合体の量は、樹脂(B)100重量%に対して、好ましくは25重量%以下、より好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下であり、通常0重量%以上であるが、0重量%であってもよい。樹脂(B)は、非晶性重合体を含んでいないことが好ましい。
【0068】
[1.4.樹脂の特性]
樹脂(A)は、結晶化開始温度Tc(A)を有する。樹脂(B)は、結晶化開始温度Tc(B)を有する。
樹脂の結晶化開始温度Tcは、以下の方法によって測定できる。樹脂を加熱によって融解させる。融解した樹脂を、ドライアイスで急冷する。続いて、この樹脂について、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、結晶化開始温度Tcを測定しうる。結晶化開始温度Tcは、昇温過程における発熱ピークのピークトップの値として得られうる。
【0069】
積層フィルムは、通常下記式(1)を満たす。
(Tc(A)-Tc(B))>0℃ (1)
積層フィルムは、下記式(2)を満たすことが好ましい。
(Tc(A)-Tc(B))≧15℃ (2)
【0070】
(Tc(A)-Tc(B))の値は、通常0℃より大きく、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上であり、好ましくは110℃以下、より好ましくは105℃以下、更に好ましくは100℃以下である。
(Tc(A)-Tc(B))の値が前記範囲内である場合、非晶状態である樹脂(A)の層及び結晶状態である樹脂(B)の層を含む積層フィルムを、容易に製造しうる。また、積層フィルムの接着剤への密着性及び耐熱性の両方を、効果的に向上させうる。
【0071】
第一樹脂層及び第三樹脂層を形成する樹脂(A)は、通常、非晶状態である。また、第二樹脂層を形成する樹脂(B)は、通常、結晶状態である。
ここで、樹脂が非晶状態であることは、樹脂に含まれる重合体の結晶化度が、5%未満であることにより確認される。樹脂に含まれる重合体の結晶化度が5%未満の場合、通常は、樹脂の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した際、樹脂中に結晶部が確認できない状態である。また、樹脂が結晶状態であることは、樹脂に含まれる重合体の結晶化度が、5%以上であることにより確認される。樹脂に含まれる重合体の結晶化度が5%以上の場合、通常は、樹脂の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した際、樹脂中に結晶部が確認できる状態である。
【0072】
TEMによる樹脂の断面は、下記の方法により観察しうる。
・TEM観察用サンプルの作製
観察対象とする樹脂の層を、常温にてミクロトーム(ダイヤモンドナイフ)により切削し、樹脂切片とする。切削の際の試料送りは50nmとする。
次いで、樹脂切片をルテニウムを含む染色液の蒸気に120秒間さらし、染色を行い、TEM観察用サンプルを作製する。
・TEM観察の条件
TEMとして、例えば、日立ハイテク社製「HT7700」を用いうる。
加速電圧は、100kVとしうる。
観察倍率は、1000倍~20000倍としうる。
観察範囲は、15μm×15μmとしうる。
【0073】
第一樹脂層及び第三樹脂層が、非晶状態である樹脂(A)により形成され、第二樹脂層が、結晶状態である樹脂(B)により形成されている場合、積層フィルムが、接着剤への密着性に優れ、かつ耐溶剤性及び耐熱性に優れる。
【0074】
樹脂に含まれる重合体の結晶化度は、JIS K0131に準じて、X線回折により測定されうる。具体的には、広角X線回折装置(例、「RINT 2000」、株式会社リガク製)を用いて、結晶化部分からの回析X線強度を求め、全体の回析X線強度との比から、下記式(I)によって結晶化度を求めうる。
Xc=K・Ic/It (I)
上記式(I)において、Xcは被検試料の結晶化度、Icは結晶化部分からの回析X線強度、Itは全体の回析X線強度、Kは補正項を、それぞれ表す。
【0075】
樹脂(B)に含まれる重合体の結晶化度は、通常5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上であり、好ましくは70%以下、より好ましくは65%以下、更に好ましくは60%以下である。樹脂(B)に含まれる重合体の結晶化度が前記範囲の下限値以上である場合、積層フィルムの耐溶剤性及び耐熱性を効果的に向上させることができ、前記範囲の上限値以下である場合、積層フィルムの接着剤への密着性を効果的に向上させうる。
【0076】
樹脂(A)及び樹脂(B)のそれぞれに含まれる重合体の結晶化度は、従来公知の方法を用いて調整しうる。
例えば、樹脂に含まれる結晶性重合体の量を増加させることにより、結晶化度は上昇する傾向がある。
また、樹脂に非晶性重合体を含有させ、樹脂における非晶性重合体の量を増加させることにより、結晶化度は減少する傾向がある。
また、樹脂の層を延伸することにより、結晶化度は上昇する傾向がある。
さらに、樹脂の層を、その樹脂が有する結晶化開始温度Tc以上融点Tm未満の温度で加熱処理することにより、結晶化度は上昇する傾向がある。
また、樹脂中に結晶核剤を添加することにより、結晶化度は増加する傾向がある。
【0077】
樹脂(A)は、通常、融点Tm(A)を有する。融点Tm(A)は、好ましくは250℃以上、より好ましくは255℃以上、更に好ましくは260℃以上であり、好ましくは280℃以下、より好ましくは275℃以下、更に好ましくは270℃以下である。
【0078】
樹脂(A)の結晶化開始温度Tc(A)は、好ましくは160℃以上、より好ましくは165℃以上、更に好ましくは170℃以上であり、好ましくは240℃以下、より好ましくは235℃以下、更に好ましくは230℃以下である。
【0079】
樹脂(B)は、通常融点Tm(B)を有する。融点Tm(B)は、好ましくは255℃以上、より好ましくは260℃以上、更に好ましくは263℃以上であり、好ましくは280℃以下、より好ましくは275℃以下、更に好ましくは270℃以下である。
【0080】
[1.5.積層フィルムの特性]
(密着性)
積層フィルムは、接着剤への密着性に優れる。接着剤への密着性は、以下の方法によって評価されうる。
環状オレフィン系重合体を含む樹脂からなる、試験用フィルムを用意する。評価するフィルム及び試験用フィルムのそれぞれの片面にコロナ処理を施す。評価するフィルムのコロナ処理を施した面及び試験用フィルムのコロナ処理した面のそれぞれに、紫外線硬化型接着剤を付着させ、接着剤を付着させた面同士を貼り合わせ、接着剤を硬化させる。これにより、評価するフィルム及び試験用フィルムを備えるサンプルフィルムを得る。
【0081】
前記サンプルフィルムを15mmの幅に裁断して、評価するフィルム側をスライドガラスの表面に粘着剤にて貼り合わせる。
【0082】
フォースゲージの先端に前記試験用フィルムを挟み、スライドガラスの表面の法線方向に引っ張ることにより、90度剥離試験を実施する。フィルム間の密着性がよく、剥離できずに試験用フィルムがちぎれたものは密着性が良好である。
【0083】
(耐溶剤性)
積層フィルムは、耐溶剤性に優れる。積層フィルムの耐溶剤性は、積層フィルムを折り曲げ、折れ目の部分にn-ヘキサンを滴下し、30秒間保持した後に、積層フィルムの表面にクラックが生じないことによって確認できる。
【0084】
(耐熱性)
積層フィルムは、耐熱性に優れる。積層フィルムの耐熱性は、積層フィルムを200℃に加熱されたオーブン中で10分間加熱する、加熱試験において、積層フィルムの熱収縮率(%)を測定することにより評価されうる。積層フィルムの当該加熱試験における熱収縮率は、好ましくは0.5%未満であり、理想的には0%である。
【0085】
(ヘイズ)
積層フィルムは、小さいヘイズを有することが好ましい。積層フィルムのヘイズは、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下、特に好ましくは0.5%以下であり、理想的には0.0%である。ヘイズの測定は、JIS K7361-1997に準拠して、NDH-7000(日本電色製)を用いて行いうる。
【0086】
[2.積層フィルムの製造方法]
前記の積層フィルムは、任意の方法によって製造されうる。
例えば、積層フィルムに含まれる各層(第一樹脂層、第二樹脂層、及び任意の第三樹脂層)を別々に製造する工程、及び、これらを積層する工程を含む方法により、積層フィルムを製造しうる。各層を積層する工程は、各層を厚み方向において重ね合わせる工程、重ね合わせた各層を加圧する工程、重ね合わせた各層を加熱する工程を含んでいてもよい。
【0087】
また例えば、積層フィルムは、溶融共押出法により製造されうる。
積層フィルムは、下記の工程(1)及び工程(2)を含む製造方法により製造することが好ましい。
工程(1): 結晶性重合体を含み前記結晶化開始温度Tc(A)を有する樹脂(a)及び結晶性重合体を含み前記結晶化開始温度Tc(B)を有する樹脂(b)をそれぞれ、溶融すること。
工程(2):溶融された前記樹脂(a)の層と溶融された前記樹脂(b)の層とを押し出して、積層フィルムを得ること。
以下、前記工程(1)及び工程(2)を含む、積層フィルムの製造方法について説明する。
【0088】
[2.1.工程(1)]
工程(1)では、樹脂(a)及び樹脂(b)をそれぞれ溶融する。
樹脂(a)は、前記の樹脂(A)の材料であり、樹脂(A)と同様に、結晶性重合体を含み結晶化開始温度Tc(A)を有する。樹脂(a)は、非晶状態であってもよく結晶状態であってもよい。樹脂(a)は、通常、樹脂(A)と同様の組成を有する。
樹脂(b)は、前記の樹脂(B)の材料であり、樹脂(B)と同様に、結晶性重合体を含み結晶化開始温度Tc(B)を有する。樹脂(b)は、非晶状態であってもよく結晶状態であってもよい。樹脂(b)は、通常、樹脂(B)と同様の組成を有する。
【0089】
樹脂(a)及び樹脂(b)はそれぞれ、任意の溶融装置により溶融されうる。溶融装置の例として、単軸押出機及び二軸押出機が挙げられる。これら押出機には、樹脂に含まれる不純物を除去するための、ポリマーフィルターが接続されていてもよい。
【0090】
樹脂(a)を溶融する温度(押出機により溶融する場合は、シリンダー温度)は、通常、樹脂(a)のガラス転移温度Tga以上であり、好ましくはTma以上であり、好ましくはTma+100℃以下、より好ましくはTma+50℃以下である。ここで、Tmaは、樹脂(a)の融点を意味する。
【0091】
樹脂(b)を溶融する温度(押出機により溶融する場合は、シリンダー温度)は、通常、樹脂(b)のガラス転移温度Tgb以上であり、好ましくはTmb以上であり、好ましくはTmb+100℃以下、より好ましくはTmb+50℃以下である。ここで、Tmb
は、樹脂(b)の融点を意味する。
【0092】
[2.2.工程(2)]
工程(2)では、溶融された前記樹脂(a)の層と溶融された前記樹脂(b)の層とを押し出して、積層フィルムを得る。工程(2)は、溶融された前記樹脂(a)の層と溶融された前記樹脂(b)の層とを押し出して溶融樹脂フィルムを形成する工程(2a)、次いで溶融樹脂フィルムを冷却して積層フィルムを得る工程(2aa)を含んでいてもよい。
【0093】
工程(2)は、冷却された積層フィルムを予熱する工程(2b)、積層フィルムを延伸する工程(2c)、積層フィルムを結晶化開始温度Tc(A)よりも低い温度Tで熱処理する工程(2d)を含んでいてもよい。工程(2b)は、通常工程(2c)及び工程(2d)の前に行われる。工程(2c)及び工程(2d)は、通常この順で行われる。工程(2c)が行われない場合、通常、工程(2b)の後に工程(2d)が行われる。
【0094】
(工程(2a):押出工程)
溶融された前記樹脂(a)の層と溶融された前記樹脂(b)の層とを押し出して溶融樹脂フィルムを形成する装置としては、任意の押出成形装置を用いうる。例えば、フィードブロックを備えた多層押出成形機を用いてもよく、多層ダイを備えた多層押出成形機を用いてもよい。
【0095】
(工程(2aa):溶融樹脂フィルムの冷却工程)
溶融樹脂フィルムが最初に接触する冷却体は特に限定されないが、通常はキャストロールを用いる。このキャストロール温度は、好ましくは(Tga-40℃)以上であり、好ましくは(Tga+70℃以下)である。
【0096】
(工程(2b):予熱工程)
溶融樹脂フィルムを冷却して得られる積層フィルムを予熱する工程は、好ましくは樹脂(A)の結晶化開始温度Tc(A)未満の温度で行うことが好ましい。具体的な予熱温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは120℃以上であり、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下である。
前記範囲内の温度で積層フィルムを予熱することにより、第一樹脂層及び第三樹脂層を形成する樹脂(A)において結晶性重合体の結晶化の進行を抑制できる。その結果、積層フィルムの接着剤との密着性を効果的に向上させうる。
【0097】
(工程(2c):延伸工程)
延伸は、樹脂(A)の結晶化開始温度Tc(A)未満の延伸温度で行うことが好ましい。具体的な延伸温度は、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、更に好ましくは120℃以上であり、好ましくはTc(A)-20℃以下、より好ましくはTc(A)-25℃以下、更に好ましくはTc(A)-30℃以下である。この範囲の延伸温度で延伸を行う場合、第一樹脂層及び第三樹脂層を形成する樹脂(A)において結晶性重合体の結晶化の進行を抑制しながら、積層フィルム中の重合体の分子を効果的に配向させることができる。よって、積層フィルムの接着剤との密着性を効果的に向上させ、かつ積層フィルムに所望の光学特性を容易に発現させることができる。
【0098】
前記延伸の延伸倍率は、所望とする積層フィルムの光学特性に応じて設定しうる。具体的な延伸倍率は、好ましくは1倍より大きく、より好ましくは1.1倍以上、特に好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは5倍以下、より好ましくは4倍以下、特に好ましくは3倍以下である。二軸延伸を行う場合、一方の方向への延伸の延伸倍率と他方の方向への延伸の延伸倍率との積で表される全体の延伸倍率が、前記範囲に収まることが好ましい。
【0099】
前記の延伸の態様は、例えば、1方向に延伸を行う一軸延伸であってもよく、非平行な2方向に延伸を行う二軸延伸であってもよい。また、二軸延伸は、2方向への延伸を同時に行う同時二軸延伸であってもよく、一方の方向への延伸を行った後で他方の方向への延伸を行う逐次二軸延伸であってもよい。
【0100】
(工程(2d):熱処理工程)
積層フィルムの熱処理は、樹脂(A)の結晶化開始温度Tc(A)よりも低い温度Tで行うことが好ましい。また熱処理は、樹脂(B)の結晶化開始温度Tc(B)よりも高い温度で行うことが好ましい。具体的な熱処理温度Tは、好ましくはTc(B)+5℃以上、より好ましくはTc(B)+10℃以上、更に好ましくはTc(B)+15℃以上であり、好ましくはTc(A)-5℃以下、より好ましくはTc(A)-10℃以下、更に好ましくはTc(A)-15℃以下である。
積層フィルムの熱処理を、前記温度範囲の下限値以上で行うことより、第二樹脂層を形成する樹脂(B)における結晶性重合体の結晶化を促進させて、積層フィルムの耐熱性及び耐溶剤性を効果的に向上させうる。また、熱処理を前記温度範囲の上限値以下で行うことにより、第一樹脂層及び第二樹脂層を形成する樹脂(A)における結晶性重合体の結晶化を抑制して、積層フィルムの接着剤への密着性を効果的に向上させうる。
【0101】
(冷却工程)
熱処理された積層フィルムは、通常冷却される。積層フィルムは、例えば、常温(20℃±15℃)の範囲まで冷却される。
【0102】
[2.3.その他の工程]
さらに、任意の工程としては、積層フィルムをトリミングする工程、積層フィルムに表面処理を施す工程、などが挙げられる。
【0103】
[3.積層フィルムの用途]
前記の積層フィルムは、接着剤との密着性及び耐溶剤性に優れる。そのため、積層フィルムを、偏光子などの光学素子の保護フィルム、高周波基板を構成する要素として好適に用いうる。
【実施例0104】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0105】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温(20℃±15℃)及び常圧(1atm)の条件において行った。
【0106】
[評価方法]
(結晶化度)
フィルムに含まれる各層の結晶化度を、下記の方法で測定した。
フィルムが単層構造を有する場合は、フィルムをそのまま試料として用いた。フィルムが積層フィルムである場合は、積層フィルムが有する各層と同じ樹脂を用い、積層フィルムと同じ溶融押出条件及び熱処理条件にて単層フィルムを製造し、単層フィルムを試料として用いた。詳細には、後述する押出成形機の第一の単軸押出機及び第二の単軸押出機の両方に、単層フィルムの材料である、同種の樹脂ペレットを導入することにより単層構造を有する押出フィルムを製造し、当該押出フィルムを積層フィルムと同じ条件にて処理することにより、結晶化度を評価するための単層フィルムを得た。
【0107】
試料としたフィルムに含まれる重合体の結晶化度を、JIS K0131に準じて、X線回折により確認した。具体的には、広角X線回折装置(RINT 2000、株式会社リガク製)を用いて、結晶化部分からの回析X線強度を求め、全体の回析X線強度との比から、下記式(I)によって結晶化度を求めた。
Xc=K・Ic/It (I)
上記式(I)において、Xcは被検試料の結晶化度、Icは結晶化部分からの回析X線強度、Itは全体の回析X線強度、Kは補正項を、それぞれ表す。
積層フィルムの各層に含まれる重合体の結晶化度として、単層フィルムを試料として測定された結晶化度を用いた。
【0108】
(ガラス転移温度Tg、結晶化開始温度Tc、及び融点Tmの測定)
試料のガラス転移温度Tg、結晶化開始温度Tc、並びに、融点Tmの測定は、以下のようにして行った。
まず、試料のペレットを加熱によって融解させた。融解した試料を、ドライアイスで急冷した。続いて、この試料について、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、ガラス転移温度Tg、結晶化開始温度Tc、並びに、融点Tmを測定した。昇温過程における発熱ピークのピークトップの値を結晶化開始温度Tcとした。
【0109】
(TEMによる樹脂の観察)
フィルムが単層構造を有する場合は、フィルムをそのまま試料として用いた。フィルムが積層フィルムである場合は、積層フィルムが有する各層と同じ樹脂を用い、積層フィルムと同じ溶融押出条件及び熱処理条件にて単層フィルムを製造し、単層フィルムを試料として用いた。
・TEM観察用サンプルの作製
観察対象とする樹脂のフィルムを、常温にてミクロトーム(ダイヤモンドナイフ)により切削し、樹脂切片とした。切削の際の試料送りは50nmとした。
次いで、樹脂切片をルテニウムを含む染色液の蒸気に120秒間さらし、染色を行い、TEM観察用サンプルを作製した。
・TEM観察の条件
TEMとして、日立ハイテク社製「HT7700」を用いた。
加速電圧は、100kVとした。
観察倍率は、1000~20000倍とした。
観察範囲は、15μm×15μmとした。
上記条件にて、観察対象である樹脂の層について、TEMにより観察し、観察範囲において、結晶部の存在を確認した場合、「結晶あり」、観察範囲において結晶部の存在が確認されなかった場合、「結晶なし」と判断した。
【0110】
(紫外線硬化型接着剤との密着性)
日本ゼオン社製「ZEONEX790R」から形成された試験用フィルムを用意した。評価するフィルム及び前記試験用フィルムのそれぞれの片面に、コロナ処理を施した。評価するフィルムのコロナ処理を施した面及び試験用フィルムのコロナ処理した面のそれぞれに、接着剤を付着させ、接着剤を付着させた面同士を貼り合わせ、接着剤を硬化させた。この際、接着剤としては紫外線硬化型接着剤(トーヨーケム社製「CRBシリーズ」)を用いた。これにより、評価するフィルム及び試験用フィルムを備えるサンプルフィルムを得た。
【0111】
その後、前記サンプルフィルムを15mmの幅に裁断して、評価するフィルム側をスライドガラスの表面に粘着剤にて貼り合わせた。この際、粘着剤としては、両面粘着テープ(日東電工社製、品番「CS9621」)を用いた。
【0112】
フォースゲージの先端に前記試験用フィルムを挟み、スライドガラスの表面の法線方向に引っ張ることにより、90度剥離試験を実施した。この際、試験用フィルムが剥れる際に測定された力は、評価するフィルムと試験用フィルムとを剥離させるために要する力であるので、この力の大きさを評価するフィルムの剥離強度として測定した。フィルム間の密着性がよく、剥離できずに試験用フィルムがちぎれたものは密着性が「良」、試験用フィルムがちぎれず、測定精度を超えた力(0.5N超)で剥離したものは、密着性が「可」、簡単に剥離してしまい測定精度下限以下(0.5N以下)のものは密着性が「不良」とした。
【0113】
(耐溶剤性)
評価対象のフィルムを縦5cm及び横2cmの矩形に切り出してサンプルフィルムを得た。切り出しは、サンプルフィルムの長辺がMD方向に平行となるように、短辺がTD方向に平行となるように、行った。ここで、MD方向及びTD方向は、切断される前のフィルムについての方向である。
サンプルフィルムを、折れ目がサンプルフィルムの短辺(TD方向)と平行になるように屈曲させ、屈曲部の直径が5mmとなるようにクリップでとめた。
折れ目の部分に、n-ヘキサンを1mL容量のスポイトを用いて1滴垂らし、30秒間保持し、その後、クリップからサンプルフィルムを外した。
下記の基準に従い、フィルムの耐溶剤性を評価した。
良:サンプルフィルム表面にクラックがない。
不良:サンプルフィルム表面にクラックが生じる。及び/又は、サンプルフィルムが破断する。
【0114】
(耐熱性)
評価対象のフィルムを120mm×120mm角に切り出してサンプルフィルムを得た。切り出しは、サンプルフィルムの各辺が、MD方向又はTD方向に平行となるように、行った。ここで、MD方向及びTD方向は、切断される前のフィルムについての方向である。
サンプルフィルムの内側であって、約100mm×100mmの正方形の4つの角の位置に、マーキングした。次いで、万能投影機(ニコン社製「V-12BDC」)を用いて角がマーキングされた正方形の四辺を測定し、加熱前寸法とした。さらに200℃に加熱されたオーブンにサンプルフィルムを入れ10分間加熱した。次いで、サンプルフィルムをオーブンから取り出し、加熱前寸法の測定と同様の方法で、角がマーキングされた正方形の四辺を測定し、加熱後寸法とした。加熱前後の寸法から、MD方向及びTD方向の収縮率をそれぞれ算出した。収縮率は、角がマーキングされた正方形の二辺(MD方向又はTD方向)の平均から算出した。MD方向及びTD方向の平均の熱収縮率が0.5%以上のものは「不良」、0.5%未満は「良」とした。
【0115】
[樹脂の用意]
各実施例及び比較例で用いられる樹脂を、下記の手順に従って用意した。
(非晶性COP)
非晶性COPとして、市販のペレット状の非晶性樹脂である、日本ゼオン社製「ZEONEX790R」を用意した。非晶性COPは、非晶性の環状オレフィン系重合体(ガラス転移温度163℃)を99重量%含む。
【0116】
(COP1)
COP1として、市販のペレット状の結晶性樹脂である、日本ゼオン社製「ZEONEXC2420」を用意した。COP1は、結晶性の環状オレフィン系重合体(ガラス転移温度93℃)を99重量%含む。
【0117】
(COP2~COP4)
前記の非晶性COPとCOP1とを、表1記載の重量比となるように混合し、二軸混練押出機のホッパーに投入し、押出機内で二軸混練して混練物を得た。前記の二軸混練押出機は、スクリューの有効長さLとスクリューの直径Dとの比L/Dが、41であり、スクリューの直径が25mmであった。また、前記の二軸混練押出機の運転条件は、以下のとおりであった。
・バレル設定温度=275~280℃
・ダイ設定温度=275℃
・スクリュー回転数=200rpm
【0118】
混練物を押出機からストランド状に押し出し、ストランドカッターを用いて細断して、ペレット状の結晶性樹脂であるCOP2~COP4を得た。
【0119】
COP1~COP4及び非晶性COPの、組成(重量比)、ガラス転移温度Tg、融点Tm、及び結晶化開始温度Tcを、表1に示す。非晶性COPの融点Tm及び結晶化開始温度Tcは、観測されなかった。
【0120】
【表1】
【0121】
[実施例1~実施例3]
(1-1.工程(1):樹脂の溶融)
フィードブロックと、単層ダイと、ダブルフライト型である第一の単軸押出機と、第二の単軸押出機とを備える、押出成形機を用意した。
第一の単軸押出機は、目開き3μmの、リーフディスク形状であるポリマーフィルターを備え、スクリューの直径Dが50mm、スクリューの長さLとスクリューの直径Dとの比L/Dが28であった。
第二の単軸押出機は、目開き3μmの、リーフディスク形状であるポリマーフィルターを備え、スクリューの直径Dが50mm、スクリューの長さLとスクリューの直径Dとの比L/Dが30であった。
この押出成形機は、第二樹脂層(コア層)を形成するための溶融樹脂(溶融された樹脂(b))を第一の単軸押出機からフィードブロックを介して単層ダイに送出し、第一樹脂層及び第三樹脂層(スキン層)を形成するための溶融樹脂(溶融された樹脂(a))を第二の単軸押出機からフィードブロックを介して単層ダイに送出し、単層ダイから、(樹脂(a)の層)/(樹脂(b)の層)/(樹脂(a)の層)の層構成を有する溶融樹脂フィルムを連続的に押し出すことができるように、構成されている。
【0122】
この第一の単軸押出機に、結晶性樹脂であるCOP1のペレットを導入し、溶融させて、フィードブロックを介して前記の単層ダイに供給した。第一の単軸押出機へのCOP1の導入は、第一の単軸押出機に装填されたホッパーを介して行った。押出機温度は280℃であった。
【0123】
他方、第二の単軸押出機に、第一樹脂層及び第三樹脂層の材料として、下表に記載された樹脂(樹脂(a))のペレットを導入し、溶融させて、フィードブロックを介して前記の単層ダイに供給した。押出機の温度は280℃であった。
【0124】
(1-2.工程(2a):溶融樹脂の押出)
COP1及び樹脂(a)を、280℃の溶融状態で押出成形機の単層ダイから吐出させた。これにより、樹脂(a)から形成された層(スキン層)、COP1から形成された層(コア層)、及び樹脂(a)から形成された層(スキン層)を、この順に備える溶融樹脂フィルムを連続的に形成した(共押出成形工程)。
【0125】
吐出された溶融樹脂フィルムを、冷却ロールにキャストした。冷却ロールの温度は80℃に設定した。これにより、溶融樹脂フィルムを冷却し、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムは、二種の樹脂からなり、三層構造を有していた。すなわち、積層フィルムは、樹脂(a)から形成された、第一樹脂層としてのスキン層、樹脂(b)から形成された、第二樹脂層としてのコア層、及び樹脂(a)から形成された、第三樹脂層としてのスキン層をこの順に備えていた。積層フィルムの厚みは、60μmであった。
第一樹脂層、第二樹脂層、及び第三樹脂層の厚み比は、5μm/50μm/5μm、すなわち、1/10/1であった。なお、厚み比の確認は、得られた積層フィルムをミクロトームでカットし、断面を光学顕微鏡で観察することで測定した。
【0126】
(1-3.工程(2b):予熱工程)
得られた積層フィルムを、200mm角の正方形状に切断した。切断は、正方形状である積層フィルムの各辺が、切断前における積層フィルムのMD方向又はTD方向に平行となるように行った。切断された正方形状の積層フィルムを、バッチ式二軸延伸装置(エトー社製)を用いて、フィルムの四辺をクリップで固定した状態で、温度130℃で30秒間予熱した。
【0127】
(1-4.工程(2d):熱処理工程)
次いで、積層フィルムを、180℃で3分間加熱する、熱処理工程を行った。次いで、積層フィルムを、室温(23℃)まで冷却して、熱処理された積層フィルムを得た。
【0128】
得られた熱処理された積層フィルムを、前記の方法により評価した。また、積層フィルムが備える各層を形成するための樹脂と同じ樹脂を用いて、積層フィルムと同じ条件にて単層フィルムを製造し、得られた単層フィルムの結晶化度を測定し、TEMによる観察を行った。単層フィルムから得られた結晶化度の値を、積層フィルムが備える各層に含まれる重合体の結晶化度とした。
【0129】
[実施例4]
実施例3の(1-3.工程(2b):予熱工程)において、積層フィルムを温度130℃で15秒間予熱した。以上の事項以外は実施例3と同様に操作して、予熱された積層フィルムを得た。
【0130】
次いで予熱された積層フィルムに対して、下記の延伸工程を行った。
(工程(2c):延伸工程)
130℃を保持したまま、15秒間かけてMD方向に1倍及びTD方向に2倍に延伸した。ここで、MD方向及びTD方向は、切断される前の積層フィルムについての方向である。
【0131】
次いで、延伸された積層フィルムに対して、実施例3の(1-4.工程(2d):熱処理工程)と同じ操作を行い、熱処理された積層フィルムを得た。
【0132】
得られた熱処理された積層フィルムを、前記の方法により評価した。また、積層フィルムが備える各層を形成するための樹脂と同じ樹脂を用いて、積層フィルムと同じ条件にて単層フィルムを製造し、得られた単層フィルムの結晶化度を測定し、TEMによる観察を行った。単層フィルムから得られた結晶化度の値を、積層フィルムが備える各層に含まれる重合体の結晶化度とした。
【0133】
[実施例5]
(1-2.工程(2a):溶融樹脂の押出)において、得られる積層フィルムの厚みが150μmとなるように、また、第一樹脂層、第二樹脂層、及び第三樹脂層の厚み比が、1/1/1となるように、押出量を調整した。すなわち、積層フィルムにおいて、第一樹脂層、第二樹脂層、及び第三樹脂層の厚み比を、50μm/50μm/50μmとした。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、熱処理された積層フィルムを得た。
【0134】
得られた熱処理された積層フィルムを、前記の方法により評価した。また、積層フィルムが備える各層を形成するための樹脂と同じ樹脂を用いて、積層フィルムと同じ条件にて単層フィルムを製造し、得られた単層フィルムの結晶化度を測定し、TEMによる観察を行った。単層フィルムから得られた結晶化度の値を、積層フィルムが備える各層に含まれる重合体の結晶化度とした。
【0135】
[比較例1]
実施例1の(1-3.工程(2b):予熱工程)において、積層フィルムを温度130℃で15秒間予熱した。以上の事項以外は実施例1と同様に操作して、予熱された積層フィルムを得た。
【0136】
次いで予熱された積層フィルムに対して、下記の延伸工程を行った。
(工程(2c):延伸工程)
130℃を保持したまま、15秒間かけてMD方向に1倍及びTD方向に2倍に延伸した。ここで、MD方向及びTD方向は、切断される前の積層フィルムについての方向である。
【0137】
次いで、延伸された積層フィルムに対して、実施例1の(1-4.工程(2d):熱処理工程)と同じ操作を行い、熱処理された積層フィルムを得た。
【0138】
得られた熱処理された積層フィルムを、前記の方法により評価した。また、積層フィルムが備える各層を形成するための樹脂と同じ樹脂を用いて、積層フィルムと同じ条件にて単層フィルムを製造し、得られた単層フィルムの結晶化度を測定し、TEMによる観察を行った。単層フィルムから得られた結晶化度の値を、積層フィルムが備える各層に含まれる重合体の結晶化度とした。
【0139】
[比較例2]
実施例1の(1-1.工程(1):樹脂の溶融)において、第二の単軸押出機にCOP1のペレットを導入した。
実施例1の(1-2.工程(2a):溶融樹脂の押出)において、単層ダイから、COP1から形成された、単層構造を有する溶融樹脂フィルムを連続的に形成した。
実施例1の(1-4.工程(2d):熱処理工程)を行わずに、予熱された単層フィルムを、室温(23℃)まで冷却した。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、単層フィルムを得て、得られた単層フィルムを前記の方法により評価した。
【0140】
[比較例3]
実施例1の(1-1.工程(1):樹脂の溶融)において、第二の単軸押出機にCOP1のペレットを導入した。
実施例1の(1-2.工程(2a):溶融樹脂の押出)において、単層ダイから、COP1から形成された、単層構造を有する溶融樹脂フィルムを連続的に形成した。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、単層フィルムを得て、得られた単層フィルムを前記の方法により評価した。
【0141】
[比較例4]
実施例1の(1-1.工程(1):樹脂の溶融)において、第一の単軸押出機及び第二の単軸押出機のそれぞれに、COP2のペレットを導入した。
実施例1の(1-2.工程(2a):溶融樹脂の押出)において、単層ダイから、COP2から形成された、単層構造を有する溶融樹脂フィルムを連続的に形成した。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、単層フィルムを得て、得られた単層フィルムを前記の方法により評価した。
【0142】
[比較例5]
実施例1の(1-1.工程(1):樹脂の溶融)において、第一の単軸押出機及び第二の単軸押出機のそれぞれに、非晶性COPのペレットを導入した。
実施例1の(1-2.工程(2a):溶融樹脂の押出)において、単層ダイから、非晶性COPから形成された、単層構造を有する溶融樹脂フィルムを連続的に形成した。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、単層フィルムを得て、得られた単層フィルムを前記の方法により評価した。
【0143】
[比較例6]
実施例1の(1-1.工程(1):樹脂の溶融)において、第二の単軸押出機に、非晶性COPのペレットを導入した。
実施例1の(1-2.工程(2a):溶融樹脂の押出)において、単層ダイから、COP1及び非晶性COPを、280℃の溶融状態で押出成形機の単層ダイから吐出させた。これにより、非晶性COPから形成されたスキン層、COP1から形成されたコア層、及び非晶性COPから形成されたスキン層を、この順に備える、溶融樹脂フィルムを連続的に形成した。
実施例1の(1-3.工程(2b):予熱工程)において、予熱の温度を160℃とした。
実施例1の(1-4.工程(2d):熱処理工程)において、加熱温度を160℃とした。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、熱処理された積層フィルムを得た。
【0144】
得られた熱処理された積層フィルムを、前記の方法により評価した。また、積層フィルムが備える各層を形成するための樹脂と同じ樹脂を用いて、積層フィルムと同じ条件にて単層フィルムを製造し、得られた単層フィルムの結晶化度を測定し、TEMによる観察を行った。単層フィルムから得られた結晶化度の値を、積層フィルムが備える各層に含まれる重合体の結晶化度とした。
【0145】
[結果]
結果を下表に示す。
下表では、便宜上、単層構造を有するフィルムを第二樹脂層のみ備えるフィルムとして記載する。
下表における「厚み比」の項目に記載されている比は、(第一樹脂層厚み)/(第二樹脂層厚み)/(第三樹脂層厚み)を意味する。
下表における「延伸倍率」は、(MD方向の延伸倍率)×(TD方向の延伸倍率)から算出される倍率を意味する。
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
以上の結果より、以下の事項が分かる。
結晶化度が5%未満である非晶状態の樹脂(A)から形成されている、第一樹脂層及び第三樹脂層、並びに、結晶化度が5%以上であって40%である結晶状態の樹脂(B)から形成されている第二樹脂層を備える実施例1~5に係る積層フィルムは、接着剤との密着性、耐溶剤性、及び耐熱性の、いずれの評価も良好である。
【0149】
結晶化度が5%以上である結晶状態の樹脂(A)から形成されている、第一樹脂層及び第三樹脂層を備える比較例1に係る積層フィルムは、接着剤との密着性についての評価が不良である。
【0150】
また、第一樹脂層を備えていない、比較例2~5に係る積層フィルムは、接着剤との密着性及び耐熱性のいずれかの評価が不良である。
【0151】
第二樹脂層が、結晶性重合体を含まない樹脂から形成されている比較例6に係る積層フィルムは、耐熱性の評価が不良である。
【符号の説明】
【0152】
100 積層フィルム
110 第一樹脂層
120 第二樹脂層
130 第三樹脂層
図1