(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145211
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】プリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/18 20060101AFI20231003BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
H05K3/18 A
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052570
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】小畠 直貴
【テーマコード(参考)】
5E343
【Fターム(参考)】
5E343AA02
5E343AA16
5E343AA17
5E343AA18
5E343AA19
5E343BB24
5E343BB38
5E343BB44
5E343BB52
5E343BB59
5E343BB71
5E343DD23
5E343DD33
5E343DD43
5E343DD63
5E343FF16
5E343GG20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プリント配線板の製造方法、樹脂基材の製造方法及びシード層を形成する方法を提供する。
【解決手段】プリント配線板の製造方法は、銅箔表面に銅酸化物を含む突起を形成する工程と、突起が形成された前記銅箔表面に凸部を形成する工程と、凸部が形成された銅箔表面を溶解剤で処理する工程と、凸部が形成された銅箔表面をめっき液を用いてめっき処理する工程と、樹脂基材に凸部が接するように銅箔を積層する工程と、樹脂基材に積層した銅箔の一部又は全部に、加熱することを含む所定条件で圧力をかける工程と、樹脂基材から、圧力をかけた銅箔を引き剥がし、シード層が形成された前記樹脂基材を得る工程と、シード層の表面に銅めっき処理を行う工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔表面の突起を樹脂基材に転移させ、シード層を形成するための方法であって、
前記銅箔表面に銅酸化物を含む突起を形成する工程と、
前記突起が形成された前記銅箔表面に凸部を形成する工程と、
前記凸部が形成された前記銅箔表面を溶解剤で処理する工程と、
前記凸部が形成された前記銅箔表面をめっき液を用いてめっき処理する工程と、
前記樹脂基材に前記凸部が接するように前記銅箔を積層する工程と、
前記樹脂基材に積層した前記銅箔の一部または全部に、加熱することを含む所定条件で圧力をかける工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記溶解剤で処理する工程の後でめっき処理をする工程を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記めっき液に前記溶解剤を含有させることにより、前記溶解剤で処理する工程とめっき処理をする工程を同時に行う、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記凸部の高さが10nm~1000μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記所定条件が、50℃~400℃の温度、0~20MPaの圧力、および1分~5時間の時間を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記樹脂基材が、ポリフェニレンエーテル(PPE)、エポキシ、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、液晶ポリマー(LCP)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリシクロオレフィン、ビスマレイミド樹脂、低誘電率ポリイミド及びシアネート樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの絶縁性樹脂を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
さらに、前記樹脂基材から、前記圧力をかけた前記銅箔を引き剥がし、前記凸部に存在する前記突起の一部または全部が転移し、シード層が形成された前記樹脂基材を得る工程を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
銅酸化物を有する樹脂基材の製造方法であって、
銅箔表面を酸化剤で酸化処理し、前記銅箔表面に銅酸化物を含む凸部を形成する工程と、
前記突起が形成された前記銅箔表面に凸部を形成する工程と、
前記凸部が形成された前記銅箔表面を溶解剤で処理する工程と、
前記凸部が形成された前記銅箔表面をめっき液を用いてめっき処理する工程と、
前記樹脂基材に、前記凸部が接するように前記銅箔を積層する工程と、
前記樹脂基材に積層した前記銅箔の一部または全部に、加熱することを含む所定条件で圧力をかける工程と、
前記樹脂基材から、前記圧力をかけた前記銅箔を引き剥がし、前記凸部に存在する前記凸部に存在する前記突起の一部または全部が転移し、シード層が形成された前記樹脂基材を得る工程と、
を含む、製造方法。
【請求項9】
プリント配線板の製造方法であって、
銅箔表面を酸化剤で酸化処理し、前記銅箔表面に銅酸化物を含む突起を形成する工程と、
前記突起が形成された前記銅箔表面に凸部を形成する工程と、
前記凸部が形成された前記銅箔表面を溶解剤で処理する工程と、
前記凸部が形成された前記銅箔表面をめっき液を用いてめっき処理する工程と、
前記樹脂基材に、前記凸部が接するように前記銅箔を積層する工程と、
前記樹脂基材に積層した前記銅箔の一部または全部に、加熱することを含む所定条件で圧力をかける工程と、
前記樹脂基材から、前記圧力をかけた前記銅箔を引き剥がし、前記凸部に存在する前記凸部に存在する前記突起の一部または全部が転移し、シード層が形成された前記樹脂基材を得る工程と、
前記シード層の表面に銅めっき処理を行う工程と
を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板及び半導体パッケージ基板の回路形成工法について、サブトラクティブ法や、SAP法(Semi-Additive Process)やM-SAP法(Modified Semi-Additive Process)などのセミアディティブ法が知られている(特許文献1)。
【0003】
サブトラクティブ法では、樹脂基材に銅箔を積層した積層体に対し、必要な部分にレジストを形成し、レジストが存在しない部分の銅箔をエッチングした後でレジストを除去することにより、銅配線を形成する。また、SAP法やMSAP法では、表面に金属のシード層を有する樹脂基材に対し、配線を作らない部分にレジストを形成し、その後めっき処理をする。そして、レジストを除去した後で、残ったシード層をエッチングすることにより微細な回路を形成することができる。
【0004】
SAP法では、樹脂基材表面に無電解めっき処理を行うことによってシード層を形成するが、MSAP法では、シード層として銅箔の付いた樹脂基材を用いる。銅箔の付いた樹脂基材を製造する際、予め銅箔上に多数の微細な突起を形成し、それによって、銅箔と樹脂基材の接着性を高める工夫がなされている。
【0005】
これらの方法に対し、樹脂基材に、多数の微細な突起を有する銅箔を熱圧着した後、樹脂基材から銅箔を引き剥がすことによって、多数の微細な突起が転移した樹脂基材を得、その樹脂基材の面において、配線を作らない部分にレジストを形成し、その後めっき処理をし、レジストを除去することによって回路を形成する方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-034216号公報
【特許文献2】国際公開第2021/079952号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規なプリント配線板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様は、銅箔表面の突起を樹脂基材に転移させ、シード層を形成するための方法であって、前記銅箔表面に銅酸化物を含む突起を形成する工程と、前記突起が形成された前記銅箔表面に凸部を形成する工程と、前記凸部が形成された前記銅箔表面を溶解剤で処理する工程と、前記凸部が形成された前記銅箔表面をめっき液を用いてめっき処理する工程と、前記樹脂基材に前記凸部が接するように前記銅箔を積層する工程と、前記樹脂基材に積層した前記銅箔の一部または全部に、加熱することを含む所定条件で圧力をかける工程と、を含む。前記溶解剤で処理する工程の後でめっき処理をする工程を行ってもよい。前記めっき液に前記溶解剤を含有させることにより、前記溶解剤で処理する工程とめっき処理をする工程を同時に行ってもよい。前記凸部の高さが10nm~1000μmであってもよい。前記所定条件が、50℃~400℃の温度、0~20MPaの圧力、および1分~5時間の時間を含んでもよい。前記樹脂基材が、ポリフェニレンエーテル(PPE)、エポキシ、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、液晶ポリマー(LCP)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリシクロオレフィン、ビスマレイミド樹脂、低誘電率ポリイミド及びシアネート樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの絶縁性樹脂を含有してもよい。さらに、前記樹脂基材から、前記圧力をかけた前記銅箔を引き剥がし、前記凸部に存在する前記突起の一部または全部が転移し、シード層が形成された前記樹脂基材を得る工程を含んでもよい。
【0009】
本発明の他の実施態様は、銅酸化物を有する樹脂基材の製造方法であって、銅箔表面を酸化剤で酸化処理し、前記銅箔表面に銅酸化物を含む凸部を形成する工程と、前記突起が形成された前記銅箔表面に凸部を形成する工程と、前記凸部が形成された前記銅箔表面を溶解剤で処理する工程と、前記凸部が形成された前記銅箔表面をめっき液を用いてめっき処理する工程と、前記樹脂基材に、前記凸部が接するように前記銅箔を積層する工程と、前記樹脂基材に積層した前記銅箔の一部または全部に、加熱することを含む所定条件で圧力をかける工程と、前記樹脂基材から、前記圧力をかけた前記銅箔を引き剥がし、前記凸部に存在する前記突起の一部または全部が転移し、シード層が形成された前記樹脂基材を得る工程と、を含む。
【0010】
本発明のさらなる実施態様は、プリント配線板の製造方法であって、銅箔表面を酸化剤で酸化処理し、前記銅箔表面に銅酸化物を含む突起を形成する工程と、前記突起が形成された前記銅箔表面に凸部を形成する工程と、前記凸部が形成された前記銅箔表面を溶解剤で処理する工程と、前記凸部が形成された前記銅箔表面を前記電解めっき液を用いてめっき処理する工程と、前記樹脂基材に、前記凸部が接するように前記銅箔を積層する工程と、前記樹脂基材に積層した前記銅箔の一部または全部に、加熱することを含む所定条件で圧力をかける工程と、前記樹脂基材から、前記圧力をかけた前記銅箔を引き剥がし、前記凸部に存在する前記突起の一部または全部が転移し、シード層が形成された前記樹脂基材を得る工程と、前記シード層の表面に銅めっき処理を行う工程とを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、新規なプリント配線板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施態様における、シード層の模式図である。グレーの部分は樹脂基材、黒の部分は樹脂基材に転移した銅箔の部分を表す。銅箔を樹脂基材から引き剥がした時、(A)樹脂基材のちょうど表面で、銅箔が引き剥がされた場合の一例(B)樹脂基材の表面から離れ、銅箔の突起より胴箔の内側で銅箔が引き剥がされた場合の一例を示す。2本の直線は、それぞれ、引き剥がされた銅箔の面と、銅箔の突起によって樹脂基材に形成された孔の最底部を含むように構成される面の位置に相当する。この2本の直線で挟まれた部分がシード層であって、矢印で表された2本の直線の間隔がシード層の厚さになる。
【
図2】本発明の一実施例において表面処理をした銅箔の外観を示す図である。Aは、めっき処理前に描画を行った実施例、Bは、めっき処理後に描画を行った比較例の結果を示している。
【
図3】本発明の一実施例において樹脂に熱圧着した銅箔を引き剥がしたときの、銅箔側および樹脂側の接着面を示す図である。Aは、めっき処理前に描画を行った実施例、Bは、めっき処理後に描画を行った比較例の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、添付図面を用いて詳細に説明するが、必ずしもこれに限定するわけではない。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0014】
==シード層を形成する方法==
本明細書に開示の方法は、銅箔表面の突起を樹脂基材に転移させ、シード層を形成するための方法であって、銅箔表面に銅酸化物を含む突起を形成する工程と、突起が形成された銅箔表面に凸部を形成する工程と、凸部が形成された銅箔表面を溶解剤で処理する工程と、凸部が形成された銅箔表面にめっき液を用いてめっき処理をする工程と、樹脂基材に凸部が接するように銅箔を積層する工程と、樹脂基材に積層した銅箔の一部または全部に、加熱することを含む所定条件で圧力をかける工程と、を含む。本方法の詳細を以下に述べる。
【0015】
(1)銅箔の準備
本方法に用いる銅箔は、純度が、95質量%以上、99質量%以上、又は99.9質量%以上の純銅からなる銅が好ましく、タフピッチ銅、脱酸銅、無酸素銅で形成されていることがより好ましく、含有酸素量が0.001質量%~0.0005質量%の無酸素銅で形成されていることがさらに好ましい。その厚さは特に限定されないが、0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、0.5μm以上50μm以下がより好ましい。
【0016】
(2)酸化処理工程
まず、銅箔表面を酸化処理することにより、銅箔表面に銅酸化物を含む突起を形成する。この酸化処理によって、銅材料表面が粗面化され、樹脂に対する接着性が大きくなる。
【0017】
この酸化処理以前に、ソフトエッチング又はエッチングなどの粗面化処理工程を行ってもよい。また、酸化処理以前に、脱脂処理、自然酸化膜除去によって表面を均一化するための酸洗浄、または酸洗浄後に酸化工程への酸の持ち込みを防止するためのアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法は特に限定されないが、好ましくは0.1~10g/L、より好ましくは1~2g/Lのアルカリ水溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液で、30~50℃、0.5~2分間程度処理すればよい。
【0018】
酸化処理方法は特に限定されず、加熱処理や陽極酸化によって突起を形成してもよいが、酸化剤を用いて突起を形成することが好ましい。
【0019】
酸化剤は特に限定されず、例えば、亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム等の水溶液を用いることができる。酸化剤には、各種添加剤(たとえば、リン酸三ナトリウム十二水和物のようなリン酸塩)や表面活性分子を添加してもよい。表面活性分子としては、ポルフィリン、ポルフィリン大員環、拡張ポルフィリン、環縮小ポルフィリン、直鎖ポルフィリンポリマー、ポルフィリンサンドイッチ配位錯体、ポルフィリン配列、シラン、テトラオルガノ-シラン、アミノエチル-アミノプロピルトリメトキシシラン、(3-アミノプロピル)トリメトキシシラン、(1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ウレア)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン、((3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン)、(3‐クロロプロピル)トリメトキシシラン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、エチルトリアセトキシシラン、トリエトキシ(イソブチル)シラン、トリエトキシ(オクチル)シラン、トリス(2-メトキシエトキシ)(ビニル)シラン、クロロトリメチルシラン、メチルトリクロロシラン、四塩化ケイ素、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、クロロトリエトキシシラン、エチレン-トリメトキシシラン、アミン、糖などを例示できる。
【0020】
酸化反応条件は特に限定されないが、酸化剤の液温は40~95℃であることが好ましく、45~80℃であることがより好ましい。反応時間は0.5~30分であることが好ましく、1~10分であることがより好ましい。酸化剤の濃度は、特に限定されないが、5~300g/Lであることが好ましく、10~250g/Lであることがより好ましい。
【0021】
この銅酸化物層の表面を還元剤により還元処理してもよく、その場合、銅酸化物を含む層の表面に亜酸化銅が形成されてもよい。この還元工程で用いる還元剤としては、ジメチルアミンボラン(DMAB)、ジボラン、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等が例示できる。
【0022】
また、銅酸化物層に対し、キレート剤、特に生分解性キレート剤を用いて、銅酸化物を含む突起の大きさ、太さ、高さ、長さなどを調整してもよい。キレート剤は特に限定されないが、エチレンジアミン四酢酸、ジエタノールグリシン、L-グルタミン酸二酢酸・四ナトリウム、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸、3-ヒドロキシ-2、2’-イミノジコハク酸ナトリウム、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム、アスパラギン酸ジ酢酸4ナトリウム、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸ジナトリウム、グルコン酸ナトリウム、塩化ニッケルなどが例示できる。キレート剤溶液のpHは特に限定されないが、アルカリ性であることが好ましく、pH8~10.5であることがより好ましく、pH9.0~10.5であることがさらに好ましく、pH9.8~10.2であることがさらに好ましい。
【0023】
純銅の比抵抗値が1.7×10-8(Ωm)なのに対して、酸化銅は1~10(Ωm)、亜酸化銅は1×106~1×107(Ωm)であるため、銅酸化物を含む層は導電性が低く、例え、樹脂基材に転移した銅酸化物を含む層の量が多くても、本発明に係る銅箔を用いてプリント配線基板や半導体パッケージ基板の回路を形成する際、表皮効果による伝送損失が起こりにくい。
【0024】
(3)凸部形成工程
形成する凸部の高さは特に限定されないが、10nm~1000μmであることが好ましい。この凸部は、一方の面に樹脂基材に転写するための突起が形成された銅箔に対し、その裏面から圧力をかけることによって、その突起が形成された面を突出させることによって形成することができる。凸部を形成する領域は特に限定されず、凸部が優先的に樹脂基材に転写されることを考慮し、転写することが要望されている部分に凸部を形成すればよい。
【0025】
凸部の形成は溶解処理工程前に実施すればよく、(2)の酸化処理工程前に実施してもよいし、酸化処理後に実施してもよい。また、あらかじめ凸部が形成された部材を使用してもよい。
【0026】
(4)溶解処理工程
凸部を形成した銅箔表面に対し、突起を含む表層部分を銅箔から破断させやすくするための溶解剤で処理する工程を行う。この工程は、めっき液に溶解剤を含有させることによって、後述するめっき処理工程と同時に行ってもよい。
【0027】
溶解剤は、銅酸化物を溶解する成分が含まれていればよく、塩化物(塩化ニッケル、塩化カリウム、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化クロム、塩化スズ(II)など)、アンモニウム塩(クエン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸ニッケルアンモニウムなど)、キレート剤(エチレンジアミン四酢酸、ジエタノールグリシン、L-グルタミン酸二酢酸・四ナトリウム、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸、3-ヒドロキシ-2、2’-イミノジコハク酸ナトリウム、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム、アスパラギン酸ジ酢酸4ナトリウム、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸ジナトリウム、グルコン酸ナトリウムなど)、およびクエン酸から選択されてもよい。
【0028】
例えば塩化ニッケルで処理する場合、塩化ニッケル溶液(濃度45g/L以上)に室温または室温より高い温度で5秒以上、突起が形成された銅箔を浸漬することが好ましい。また、めっき処理と同時に行う場合、例えば、めっき液の中に塩化ニッケルを含有させ、5秒、10秒、15秒、20秒、30秒、1分、または2分間めっき液に浸漬したあとで、めっき処理するのが好ましい。浸漬する時間は、酸化膜厚により適宜変更してもよい。
【0029】
この溶解処理工程は、実施例で示すように、凸部形成後に行う必要がある。以下の理論に拘泥するつもりはないが、凸部形成後に溶解剤で処理をすると、凸部は盛り上がっているために、凸部には溶解剤が当たりやすかったり、凸部近傍で溶解剤の流れが早くなったりして、溶解剤による反応が進行しやすく、従って凸部で突起がより弱体化し、樹脂結合後に転写が進みやすくなると考えられる。
【0030】
(5)めっき処理工程
本工程では、めっき液を用いて、凸部を形成した銅箔表面をめっき処理する。めっきの方法は特に限定されず、電解めっき、無電解めっき、真空蒸着、化成処理などでめっきすることができるが、一様なめっき層を形成することが好ましいため、電解めっきが好ましい。
【0031】
電解めっきの場合はニッケルめっき及びニッケル合金めっきが好ましい。ニッケルめっき及びニッケル合金めっきで形成される金属は、例えば、純ニッケル、Ni-Cu合金、Ni-Cr合金、Ni-Co合金 、Ni-Zn合金、Ni-Mn合金、Ni-Pb合金、Ni-P合金等が挙げられる。
【0032】
ニッケルめっきに用いる金属塩として、例えば、硫酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酸化亜鉛、塩化亜鉛、ジアンミンジクロロパラジウム、硫酸鉄、塩化鉄、無水クロム酸、塩化クロム、硫酸クロムナトリウム、硫酸銅、ピロリン酸銅、硫酸コバルト、硫酸マンガンなどが挙げられる。
【0033】
ニッケルめっきにおいて、めっき液の組成は、例えば、硫酸ニッケル(例えば、100g/L以上350g/L以下)、スルファミン酸ニッケル(例えば、100g/L以上600g/L以下)、塩化ニッケル(例えば、0g/L超300g/L以下)及びこれらの混合物を含むものが好ましいが、添加剤としてクエン酸ナトリウム(例えば、0g/L超100g/L以下)やホウ酸(例えば、0g/L超60g/L以下)が含まれていてもよい。
【0034】
酸化処理をされた銅箔表面に電解めっきを施す場合、まず表面の酸化銅が還元され、亜酸化銅又は純銅になるのに電荷が使われるため、めっきされるまでに時間のラグが生じ、その後、金属層を形成する金属が析出し始める。その電荷量はめっき液種や銅酸化物量によって異なるが、例えば、Niめっきを銅箔に施す場合、その厚さを好ましい範囲に収めるためには電解めっき処理する銅箔の面積dm2あたり、10C以上90C以下の電荷を与えることが好ましく、20C以上65C以下の電荷を与えることがより好ましい。
【0035】
また、電流密度は特に限定されないが、0.2A/dm2~10A/dm2が好ましい。なお、銅箔表面の突起に含まれる酸化物を一部還元するまでの時間と、めっきを被覆中の時間とで、電流を変えてもよい。
【0036】
めっきによって銅箔の表面に形成される金属の付着量は特に限定されないが、0.8~6.0mg/dm2であることが好ましい。なお、金属の付着量は、例えば酸性溶液で溶解し、ICP分析によって金属量を測定し、構造体の平面視野面積で除して算出することができる。
【0037】
(6)銅箔を樹脂基材に熱圧着する工程
本工程では、まず、樹脂基材に凸部を含む銅箔面が接するように銅箔を積層する。
【0038】
用いる樹脂基材は特に限定されないが、ポリフェニレンエーテル(PPE)、エポキシ、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、液晶ポリマー(LCP)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリシクロオレフィン、ビスマレイミド樹脂、低誘電率ポリイミド、およびシアネート樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの絶縁性樹脂を含有するか、または選択される少なくとも1つの絶縁性樹脂からなることが好ましい。樹脂基材はさらに無機フィラーやガラス繊維を含んでいてもよい。使用される樹脂基材の比誘電率は5.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.8以下がさらに好ましい。
【0039】
突起が形成された銅箔の表面を樹脂基材に貼り合わせると、銅箔の突起を含む表面プロファイルが樹脂基材に転写されるが、凸部に存在する突起が優先的に転写される。従って、樹脂基材表面には、銅箔表面の凸部に存在する突起に相補する孔が形成される。孔の平均深さは特に限定されないが、2.50μm以下であればよく、2.00μm以下がより好ましく、1.70μm以下がさらに好ましい。また、0.01μm以上であることが好ましく、0.10μm以上であることがより好ましく、0.36μm以上であることがさらに好ましい。深さが0.01μm未満であると、樹脂基材との密着性が低下する。2.50μm超であると、配線形成性が悪くなる。なお、孔の平均深さは、例えば、SEM画像において実測することができる。
【0040】
銅箔の表面を樹脂基材に貼り合わせる方法は、銅箔の一部または全部に、加熱することを含む所定条件で圧力をかけることによる。所定の条件(例えば、温度、圧力、時間など)として、各基材メーカーの推奨条件を用いてもよい。所定の条件とは、例えば以下のような条件が考えられる。
【0041】
1)樹脂基材がエポキシ樹脂を含むか、またはエポキシ樹脂からなる場合、50℃~300℃の温度で0~20MPaの圧力を1分~5時間かけることにより、樹脂基材に銅箔を熱圧着させることが好ましい。
【0042】
たとえば、
1-1)樹脂基材が、R-1551(Panasonic製)の場合、
1MPaの圧力下で加熱し、100℃に到達後、その温度で5~10分保持し;
その後3.3MPaの圧力下でさらに加熱し、170~180℃に到達後、その温度で50分間保持することで熱圧着できる。
1-2)樹脂基材が、R-1410A(Panasonic製)の場合、
1MPaの圧力下で加熱し、130℃到達後、その温度で10分保持し;その後2.9MPaの圧力下でさらに加熱し、200℃到達後、その温度で70分間保持することで熱圧着できる。
【0043】
1-3)樹脂基材が、EM-285(EMC製)の場合、
0.4MPaの圧力下で加熱し、100℃到達後、圧力を2.4~2.9MPaに上げてさらに加熱し、195℃到達後、その温度で50分間保持することで熱圧着できる。
【0044】
1-4)樹脂基材が、GX13(味の素ファインテクノ製)の場合、1.0MPaで加圧しながら加熱し、180℃で60分間保持することで熱圧着できる。
【0045】
2)樹脂基材が、PPE樹脂を含むか、またはPPE樹脂からなる場合、50℃~350℃の温度で0~20MPaの圧力を1分~5時間かけることにより、樹脂基材に銅箔を熱圧着することが好ましい。
【0046】
たとえば、
2-1)樹脂基材が、R5620(Panasonic製)の場合、
0.5MPaの圧力下で100℃になるまで加熱しながら熱圧着した後、温度と圧力を上げ、2.0~3.0MPa、200~210℃で、120分間保持することでさらに熱圧着できる。
【0047】
2-2)樹脂基材が、R5670(Panasonic製)の場合、
0.49MPaの圧力下で110℃になるまで加熱しながら熱圧着した後、温度と圧力を上げ、2.94MPa、210℃で120分間保持することで熱圧着できる。
【0048】
2-3)樹脂基材が、R5680(Panasonic製)の場合、0.5MPaの圧力下で110℃になるまで加熱しながら熱圧着した後、温度と圧力を上げ、3.0~4.0MPa、195℃で、75分間保持することで熱圧着できる。
【0049】
2-4)樹脂基材が、N-22(Nelco製)の場合、1.6~2.3MPaで加圧しながら加熱し、177℃で30分間保持後、さらに加熱し、216℃で60分間保持することで熱圧着できる。
【0050】
3)樹脂基材が、PTFE樹脂を含むか、PTFE樹脂からなる場合、50℃~400℃の温度で0~20MPaの圧力を1分~5時間かけることにより、樹脂基材に銅箔を熱圧着することが好ましい。
【0051】
たとえば、
3-1)樹脂基材が、NX9255(パークエレクトロケミカル製)の場合、0.69MPaで加圧しながら260℃になるまで加熱し、1.03~1.72MPaに圧力をあげて385℃になるまで加熱し、385℃で10分間保持することで熱圧着できる。
【0052】
3-2)樹脂基材が、RO3003(ロジャース製)の場合、プレス開始50分(おおよそ220℃)以降、2.4MPaに加圧し、371℃で30~60分間保持することで熱圧着できる。
【0053】
4)樹脂基材が、液晶ポリマー(LCP)を含むか、LCPからなる場合、50℃~400℃の温度で0~20MPaの圧力を1分~5時間かけることにより、樹脂基材に銅箔を熱圧着することが好ましい。たとえば、樹脂基材がCT-Z(クラレ製)の場合、0MPaの圧力下で加熱し、260℃で15分間保持後、4MPaで加圧しながらさらに加熱し、300℃で10分間保持することで熱圧着できる。
【0054】
(7)銅箔を引き剥がす工程
本工程では、銅箔を熱圧着させた樹脂基材から銅箔を所定の条件で引き剥がすことにより、凸部に存在する突起の一部または全部が樹脂基材に転移し、シード層が形成された樹脂基材を得ることができる。なお、本明細書で、シード層とは、引き剥がされた銅箔の表面と、銅箔の突起によって樹脂基材に形成された孔の最底部を含むように構成される面との間に形成される層をいい(
図1)、従って、その孔、および孔に転移した銅箔由来の金属は、その層の中に含まれる。孔の最底部は、複数ある孔の底部のうち、引き剥がされた銅箔の表面から最も遠い底部をいい、孔の最底部を含むように構成される面は、引き剥がされた銅箔の表面と平行である。
【0055】
樹脂基材から銅箔を引き剥がす方法は、特に限定しないが、90°剥離試験(日本工業規格(JIS)C5016「フレキシブルプリント配線板試験方法」;対応国際規格IEC249-1:1982、IEC326-2:1990 )に基づいて、行ってもよい。その場合、銅箔を引き剥がす方向の角度が、接着のために圧力をかけた面に対して90±5゜に保持される。また、手作業で(manually)銅箔を引き剥がしてもよいが、その場合、圧力をかけた面に対して80~180゜の角度で引き剥がされる。
【0056】
銅箔の凸部に存在する突起に含まれる金属は、転写された表面プロファイルの孔の70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上、または99.9%以上を埋めるように樹脂基材に転移することが好ましい。一方、銅箔の凸部以外の部分に存在する突起に含まれる金属は、樹脂基材に対し30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、1%以下、または0.1%以下の割合しか転移しないことが好ましい。
【0057】
(8)めっき処理工程
本工程では、シード層が形成された樹脂基材の表面をめっき処理する。この時、樹脂基材の表面に露出する銅箔由来の金属がめっきされ、樹脂基材はめっきされないので、めっきされた金属をプリント配線板の配線として利用できる。
【0058】
めっき処理の方法は、特に限定されず、電解めっきでも無電解めっきでもよい。金属も特に限定されず、例えばNi,Sn,Al,Cr,Co,Cuのうちから選ばれた1種の金属を用いることができるが、銅を用い、無電解めっき方法でめっきするのが好ましい。めっきの厚さは特に限定されず、0.02~2μm程度であってもよい。
【0059】
(9)プリント配線板の製造方法
まず、上記(1)~(5)に従って、表面処理をした銅箔を準備する。その際、(3)において、所望の銅配線の回路と同じ形状になるように、凸部を形成する。
【0060】
次に、(6)~(7)に従って、樹脂基材と銅箔との積層体を作製する。その後、必要に応じて、樹脂基材の表面において、回路の形状以外の部分に転移した銅箔由来の金属をエッチングして除去してもよい。
【0061】
最後に、(8)に従って樹脂基材にめっき処理をすることにより、樹脂基材上形成されたシード層に銅配線を形成することができる。
【0062】
このようにしてプリント配線板を製造することにより、従来のサブトラクティブ法、SAP法、MSAP法などで必要とされたような、レジストを用いたエッチング工程が不要になる。
【実施例0063】
(1)銅箔の処理
銅材料として古河電気工業株式会社製の銅箔(DR-WS、厚さ:18μm)のシャイニー面(光沢面。反対面と比較したときに平坦である面。)を用いて、以下の処理を行った。
【0064】
(1-1)前処理
銅箔を、液温25℃、5g/Lの水酸化カリウム水溶液に1分間浸漬することで、脱脂処理を行い、銅表面の汚れを除去した。その後、銅箔を水洗した。
【0065】
(1-2)酸化処理
前処理後の銅箔を、銅箔のシャイニー面に対して、酸化剤(亜塩素酸ナトリウム227.5g/L;水酸化カリウム18g/L)を用いて、液温50℃、1分間浸漬することで酸化処理を行い、銅箔の表面に微細な突起を形成した。
【0066】
(1-3)凸部の形成
酸化処理を行った銅箔のマット面(非光沢面。シャイニー面の裏面。)にボールペンを用いて線や文字を描画することによって、シャイニー面に突出した凸部を形成した。
【0067】
(1-4)電解めっき処理
描画を行った銅箔を、溶解剤(塩化ニッケル49g/L)を含有したNi電解めっき液(硫酸ニッケル255g/L;クエン酸三ナトリウム20g/L)に、30秒浸漬させた後、45℃、電流密度0.5A/dm
2、45秒(すなわち、22.5C/dm
2銅箔面積)の条件で、電解めっきを行った。なお、比較例として、電解めっき処理後に、同じ銅箔のマット面に、(1-3)と同様にして、シャイニー面に突出した凸部を形成した。これらの処理をした銅箔の外観を
図2に示す。
【0068】
(1-5)結果
図2に示されているように、めっき処理前に描画を行っても(実施例)、めっき処理後に描画を行っても(比較例)、同様の凸部が形成された。
【0069】
(2)凸部の転写
(2-1)方法
【0070】
凸部形成後の銅箔に対し、プリプレグとしてR5680NJ(Panasonic製)を積層し、真空高圧プレス機を用い、真空中、0.5MPaの圧力をかけながら110℃まで加熱した後、圧力を3.5MPaに上げ、195℃で75分間保持することで、銅箔を樹脂に熱圧着した。
【0071】
樹脂に熱圧着した銅箔を、手作業で引き剥がし、銅箔および樹脂の接着面を観察した。観察結果を
図3に示す。
【0072】
(2-2)結果
実施例では、
図3Aに示されているように、銅箔側接着面で、字や図形の跡が白く抜けていて、樹脂側接着面で、字や図形が黒っぽく現れており、銅箔表面の金属が、ボールペンによって作られた凸部の部分だけ、樹脂に転写された。
【0073】
ところが、比較例では、
図3Bに示されているように、銅箔側接着面で、字や図形が白く抜けておらず銅箔と同じ色であり、樹脂側接着面で、字や図形が着色せずに樹脂と同じ色であった。このように比較例では、銅箔表面の金属が樹脂表面に転写されなかった。
【0074】
本実施例では、溶解剤処理をめっき処理と同時に行っているが、銅箔表面の突起を含む金属の転移が生じるためには、上述したように凸部形成は溶解剤処理前に行う必要があることが示されている。
【0075】
(3)まとめ
以上のように、本実施例の処理によって、銅箔の凸部に存在する銅酸化物を含む金属が優先的に、銅箔から樹脂に転移する。