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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145215
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ウエハ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 41/06 20120101AFI20231003BHJP
   B24B 55/00 20060101ALI20231003BHJP
   B23Q 11/14 20060101ALI20231003BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B24B41/06 L
B24B55/00
B23Q11/14
H01L21/304 631
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052575
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 文雄
【テーマコード(参考)】
3C034
3C047
5F057
【Fターム(参考)】
3C034AA07
3C034BB73
3C034BB87
3C034DD10
3C047FF03
3C047FF15
5F057AA16
5F057DA11
5F057FA13
5F057GA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】チャックとチャックベースを固定している固定ネジの熱膨張を抑えることにより、軸力変化を低減させて高精度に加工を行うことができる構造にしたウエハ加工装置を提供する。
【解決手段】チャックテーブル12に恒温チラー水を供給してチャック15を略定温に保持する恒温チラー水源23と、チャックテーブル12の外周側面から排出される恒温チラー水をチャックテーブル12の外周側面との間に貯溜して固定ネジ17側に供給する、少なくともチャック15の外周側面全体を覆って設けられた環状のカバー27と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエハを吸引保持するチャックと前記チャックと一体に回転するチャックベースとの間を複数個の固定ネジで固定したチャックテーブルを備えるウエハ加工装置であって、
前記チャックテーブルに恒温チラー水を供給して前記チャックを略定温に保持する恒温チラー水供給手段と、
前記チャックテーブルの外周側面から排出される前記恒温チラー水を前記チャックテーブルの前記外周側面との間に貯溜して前記固定ネジ側に供給する、少なくとも前記チャックの外周側面の略全体を覆って設けられた環状のカバーと、
を備えることを特徴とするウエハ加工装置。
【請求項2】
前記カバーは、前記固定ネジの頭部と略同じ高さまで延伸され、前記固定ネジの頭部が前記恒温チラー水に浸る位置まで前記恒温チラー水を貯溜可能である、ことを特徴とする請求項1に記載のウエハ加工装置。
【請求項3】
前記チャックは、前記チャックの外周側面から前記固定ネジを取り付けた取付孔の内周側面まで切欠しているスリットを有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のウエハ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハ加工装置に関するものであり、特に、回転するチャックテーブルに保持された円板状のウエハに対して、研削及び研磨などの加工を高精度に施すことが可能なウエハ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」という)の表面を平坦に研削加工する加工装置として、円板状のウエハを吸引保持するチャックテーブルと、そのウエハに研削を施す研削用砥石を有する回転加工ホイールを備え、研削用砥石によってウエハの表面研削を行う装置は知られている。
【0003】
このような研削装置では、研削加工を行う場合に、研削用砥石等に蓄熱された加工熱がウエハを介してチャックテーブルに蓄熱される。その結果、チャックテーブルが熱膨張して、ミクロン単位の精度で加工を行うウエハの加工には、支障をきたすことがある。
【0004】
そこで、従来、冷却機能を備えるチャックテーブルが提案されている。このチャックテーブルは、ウエハが載置される円板状のチャック(吸引板)と、チャックの裏面側に冷却手段を備えている。そして、チャック内部の流路に、温度調整された水を流すことで、チャックの熱膨張を低減する技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
また、チャックと一体に回転するチャックベース上に流路を設け、チャックベース上の流路に温度調節された水を流すことで、チャックの熱膨張を低減する技術も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-237200号公報
【特許文献2】特開2018-27588号公報
【特許文献3】特開2017-69429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、特許文献2、特許文献3に記載される技術は、チャックの熱膨張は低減できるものの、チャックとチャックベースとの間を固定している固定ネジなどの締結部材は、一般にチャック及びチャックベースなどは異なる材料で形成されている。そのため、固定ネジにチャック及びチャックベースからの熱が伝わり、その固定ネジがチャック及びチャックベースと略同じ温度になるまでに時間がかかり、その間に固定ネジなどが熱膨張を起こす。この固定ネジの熱膨張は、チャックを固定している軸力に変化をもたらし、その結果、チャックの形状が変化してしまう。そのため、1枚目の加工からN枚目の加工までの間に、精度差が生じやすいという問題点があった。
【0008】
そこで、チャックとチャックベースを固定している固定ネジの熱膨張を抑えることにより、軸力変化を低減させて高精度に加工を行うことができる構造にしたウエハ加工装置を提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載の発明は、ウエハを吸引保持するチャックと前記チャックと一体に回転するチャックベースとの間を複数個の固定ネジで固定したチャックテーブルを備えるウエハ加工装置であって、前記チャックテーブルに恒温チラー水を供給して前記チャックを略定温に保持する恒温チラー水供給手段と、前記チャックテーブルの前記外周側面から排出される前記恒温チラー水を前記チャックテーブルの前記外周側面との間に貯溜して前記固定ネジ側に供給する、少なくとも前記チャックの外周側面の略全体を覆って設けられた環状のカバーと、を備えるウエハ加工装置を提供する。
【0010】
この構成によれば、恒温チラー水供給手段から恒温チラー水をチャックテーブルに流すことにより、チャック及びチャックベースが定温に保たれる。また、同時に、チャックテーブルに供給された恒温チラー水をチャックテーブルの外周側面から排出させ、その排出された恒温チラー水を、チャックテーブルの外周側面の略全体を覆って設けている環状のカバーとチャックテーブルの間に形成している隙間で受けられる。そして、隙間内に所定量の恒温チラー水を溜め、隙間に溜めた恒温チラー水を固定ネジ側に積極的に供給すると、固定ネジがチャック及びチャックテーブルと同じ温度になるまでの時間を短縮できる。これにより、加工時における固定ネジの熱膨張変化を最小限に抑えることができる。したがって、チャックを固定する軸力の変化を抑えて、ウエハの1枚目の加工からN枚目の加工までの間の加工精度差をなくすことができ、ウエハの高精度加工が可能になる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記カバーは、前記固定ネジの頭部と略同じ高さまで延伸され、前記固定ネジの頭部が前記恒温チラー水に浸る位置まで、前記恒温チラー水を貯溜可能である、ウエハ加工装置を提供する。
【0012】
この構成によれば、カバーが固定ネジの高さまで延伸しているので、環状のカバーとチャックテーブルとの隙間で受けられた恒温チラー水は、固定ネジの頭部が浸る位置まで溜められる。したがって、環状のカバーとチャックテーブルとの隙間で受けられた恒温チラー水は、固定ネジの頭部を通して固定ネジに直接触れ、固定ネジの温度調節を積極的に行うことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成において、前記チャックは、前記チャックの外周側面から前記固定ネジを取り付けた取付孔の内周側面まで切欠しているスリットを有している、ウエハ加工装置を提供する。
【0014】
この構成によれば、環状のカバーとチャックテーブルとの隙間で受けられた恒温チラー水は、スリットを通して固定ネジの外周側面に直接触れながら、固定ネジの頭頂部まで溜められる。したがって、環状のカバーとチャックテーブルとの隙間で受けられた恒温チラー水は、スリットを通してねじ孔内にネジ止めしている固定ネジの外周側面から頭部に至る範囲に渡って直接触れ、固定ネジの温度調節を積極的に行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、恒温チラー水供給手段から恒温チラー水をチャックテーブルに流して、チャックを定温に保つことができると同時に、チャックテーブルに供給した恒温チラー水をチャックテーブルの外周側面から排出させ、その排出された恒温チラー水を、チャックテーブルの外周側面の略全体を覆って設けられている環状のカバーとチャックテーブルの間に形成している隙間で受け、その隙間で受けた恒温チラー水を固定ネジ側に供給し、固定ネジの温度が恒温チラー水と略同じ温度となるように積極的に調整しているので、固定ネジがチャック及びチャックテーブルと同じ温度になるまでの時間を短縮できる。また、加工時における固定ネジの熱膨張変化を最小限に抑えることができる。これにより、チャックを固定する軸力の変化が抑えられて、チャックの形状を略一定に保持することができるので、ウエハ1枚目の加工からN枚目の加工までの間の精度差をなくして、ウエハの高精度な加工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係るウエハ加工装置における回転機構部の要部構成を概略的に示すもので、(A)はその回転機構部の斜視図、(B)は(A)のA-A線断面矢視図である。
図2】同上回転機構部におけるチャックベースに形成されている恒温制御通路の構造説明図である。
図3図1に示す回転機構部の部分拡大図であり、(A)はその斜視図、(B)は(A)のB-B線断面矢視図である。
図4図3に示す同上回転機構部の一変形例を示す部分拡大図であり、(A)はその斜視図、(B)は(A)のC-C線断面矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、チャックとチャックベースを固定している固定ネジの熱膨張を抑えることにより、軸力変化を低減させて高精度に加工を行うことができる構造にしたウエハ加工装置を提供するという目的を達成するために、ウエハを吸引保持するチャックと前記チャックと一体に回転するチャックベースとの間を複数個の固定ネジで固定したチャックテーブルを備えるウエハ加工装置であって、前記チャックテーブルの前記外周側面から排出される前記恒温チラー水を前記チャックの前記外周側面との間に貯溜して前記固定ネジ側に供給するようにして、少なくとも前記チャックの外周側面の略全体を覆って設けられた環状のカバーと、を備える、ことにより実現した。
【実施例0018】
以下、本発明の実施形態に係る一実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例において、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0019】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0020】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0021】
また、以下の説明において、上下や左右等の方向を示す表現は、絶対的なものではなく、本発明のウエハ加工装置の各部が描かれている姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。また、実施例の説明の全体を通じて同じ要素には同じ符号を付している。
【0022】
以下、本発明の実施形態によるウエハ加工装置を、ウエハの表面を平坦に加工する研削装置に適用した場合を例に挙げ、図1乃至図3を参照しながら好適な実施例について詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明に係るウエハ加工装置における回転機構部10の要部構成を概略的に示すもので、(A)はその回転機構部10の斜視図、(B)は(A)のA-A線断面矢視図である。ウエハ加工装置は、装置本体11に取り付けられた回転機構部10を有している。また、ウエハ加工装置の全体は、制御装置50内のプログラムにより予め決められた手順に従って制御される。
【0024】
回転機構部10は、図示しないウエハを保持して水平回転するチャックテーブル12を有している。チャックテーブル12は、ウエハを保持して図示しない研削部の下方に配置され、研削部の回転している研削用砥石にウエハを当接させてウエハの表面を研削加工する。
【0025】
チャックテーブル12は、ロータリジョイント13を介して回転可能に取り付けられている円板状のチャックベース14と、チャックベース14上に一体回転可能に取り付けられている同じく円板状のチャック15と、チャック15とチャックベース14との間に位置してチャックベース14に設けられている恒温制御部16などを備えている。チャック15とチャックベース14との間は、締結部材である固定ネジ17で固定されている。
【0026】
チャック15は、円板状に形成されている吸引板18とチャック側枠体19とを備えている。チャック側枠体19は、吸引板18の外周側面及び下面を囲暁して、吸引板18と一体化されている。吸引板18は、多孔質保持部材により構成されており、その上面がウエハを吸引保持する吸着面18Aとなっている。そして、本実施例では、チャック15のチャック側枠体19はアルミナ(酸化アルミニウム)で形成されており、チャックベース14と固定ネジ17は共にステンレス鋼(SUS)で形成されている。
【0027】
チャック側枠体19には、吸引板18の外周外側において、上下方向に貫通している取付孔20を複数個(本実施例では8個)、円周方向に沿って略等間隔で設けられている。一方、チャックベース14側には、チャック側枠体19の取付孔20に対応して、取付孔20と同じ数のねじ孔33が形成されている。そして、取付孔20とねじ孔33とを対応させて、チャックベース14上にチャック側枠体19を重ね、チャック側枠体19の上側から取付孔20を通してねじ孔33にそれぞれ固定ネジ17をねじ止めすると、チャック15とチャックベース14とが、チャックテーブル12の中心Oを同心として一体に固定される。なお、取付孔20の上部には、ザグリ20Aを設けている。また、ザグリ20Aの一部は、チャック側枠体19の外周面に開口されており、固定ネジ17の側部をチャック側枠体19の外周面側に露出させている。
【0028】
恒温制御部16は、チャックベース14の上面にチャック15と対向して設けられている。恒温制御部16は、断面U字に掘削した溝として形成されており、その溝の上面をチャック15の下面(界面)で覆って塞いだ、水路21でなる。
【0029】
その水路21は、図3に示すように、同心状にして形成された複数個(本実施例では、21A、21B、21C、21Dの4つ)の環状水路部21A、21B、21C、21Dと、これら各環状水路部21A、21B、21C、21D同士を順に連通している連通水路部21Eとよりなる。
【0030】
また、チャックベース14の中心側に設けられた環状水路部21Aには、給水口21Fとしての貫通孔が設けられ、チャックベース14の最外周側に設けられた環状水路部21Dには排水口21Gが設けられている。なお、給水口21Fは、ロータリジョイント13内を通って配設された給水配管22を介して、恒温チラー水源23と接続されている。一方、排水口21Gは、チャックベース14の外周部に開放されている。さらに、チャックベース14の中心には、チャック用配管24が設けられている。このチャック用配管24の一端側は、吸引板18の下端部に連結されている。
【0031】
恒温チラー水源23は、水路21内に供給する恒温チラー水を例えば略30℃の温度に調整して供給するものであり、チャック15の全体を略30℃に温度調整できるようになっている。一方、真空源25は、チャック用配管24を介して吸引板18に真空引きをして吸引力を付与し、吸引板18の吸着面18AにウエハWを吸着保持できるようになっている。
【0032】
また、チャックベース14の外周面には、リング状をしたベース側枠体26が取り付けられている。ベース側枠体26の上面はチャックベース14の上面よりも若干低く、水路21の排水口21Gの前面を塞がない高さに設定して設けられている。一方、ベース側枠体26の下面には、下面から上面に向かって切り込まれたラビリンス用の凹溝26Aが全周に亘って形成されている。ラビリンス用の凹溝26Aには、装置本体11内に侵入しようとする処理水を封止し、モータ29A、動力伝達ベルト29B、プーリ29C、プーリ29D等を有する動力部29やロータリジョイント13等を保護するラビリンスカバー30の、一部が配置されている。
【0033】
また、チャック側枠体19には、チャック15の外周側面の略全体を覆って環状をしたカバー27が設けられている。カバー27はチャック側枠体19と同じアルミナで形成されており、本体部27Aの内径はチャック15の外径よりも大きく形成されている。そして、チャック側枠体19とチャック15との間に、排水口21Gから排出された恒温チラー水を溜める恒温チラー水貯溜室28を形成してなる隙間が形成されている。また、本体部27Aの下端側には、外側に折り曲げられた固定鍔部27Bを有し、上端側には、チャック15の外周側面に向かって内側に折り曲げられた隙間調整鍔部27Cが設けられている。また、固定鍔部27Bには、固定鍔部27Bの外周から内周まで通じている排出口27Dが設けられている。排出口27Dは、断面略U字状に凹ませた溝として形成されている。
【0034】
カバー27は、ベース側枠体26の上面に固定鍔部27Bを略密着させて、固定ネジ32でベース側枠体26に固定されている。また、図3の(B)に示すように、カバー27がベース側枠体26に固定された状態でのカバー27の高さHは、チャックベース14にチャック15を取り付けている固定ネジ17の頭部17Aの高さと略等しい。すなわち、カバー27は固定ネジ17の頭部17Aと略同じ高さまで延伸されている。さらに、本体部27Aの内周面とチャックベース14の外周面との間には、水路21の排水口21Gを塞がないように全周に亘って隙間δ1が設けられている。また、カバー27の隙間調整鍔部27Cの内周面とチャック15の外周面との間にも、所定の隙間δ2が設けられている。隙間調整鍔部27Cの内周面とチャック15の外周面との間の隙間δ2は、恒温チラー水貯溜室28内に溜められた恒温チラー水が上昇したときに、その恒温チラー水が固定ネジ17の頭部17Aの側面に流れ込みやすくする機能と、恒温チラー水貯溜室28内から排出口27Dで排出しきれずに溢れた恒温チラー水を隙間δ2を通してカバー27の外側に逃す機能と、を持たせている。
【0035】
動力部29は、制御装置50の制御で回転するモータ29Aの回転を、モータ29Aの出力軸に設けたプーリ29Dとロータリジョイント13の回転部に設けたプーリ29Cとの間に掛け渡した動力伝達ベルト29Bを介してチャックテーブル12側に伝達し、またチャックテーブル12を所定の速度で定速回転させる。
【0036】
次に、このように構成された加工装置の動作を説明する、まず、研削加工が行われる前に、恒温チラー水源23から給水配管22を通して、恒温制御部16に向けて略30℃の恒温チラー水が流される。この恒温チラー水は、給水口21Fから水路21内に入り、その後、排水口21Gから出て恒温チラー水貯溜室28内に排出される。この恒温チラー水の排出量は、カバー27の排出口27Dから排出される量よりも若干多くなるように制御装置50で調整される。そして、チャックテーブル12のチャックベース14及びチャック15の全体が、それぞれ恒温チラー水と同じ略30℃に近づく温度に調整される。
【0037】
また、排水口21Gから排出された恒温チラー水は、恒温チラー水貯溜室28内に溜まり、時間の経過と共に恒温チラー水貯溜室28内を上昇する。ここでのカバー27の高さは、固定ネジ17の頭部17Aと略同じ高さまで延伸されているので、恒温チラー水貯溜室28内に排出された恒温チラー水は固定ネジ17の頭部17Aの略頂部まで上昇する。そして、恒温チラー水が、固定ネジ17の頭部17Aの側面まで上昇すると、その恒温チラー水の中に固定ネジ17の頭部17Aの側面が徐々に浸る。これにより、恒温チラー水の熱で、固定ネジ17も恒温チラー水と略同じ温度に調整される。すなわち、チャックテーブル12の全体が恒温チラー水の温度(30℃)と近似の温度に調整される。
【0038】
また、チャックテーブル12の全体、すなわちチャックベース14とチャック15と固定ネジ17等がそれぞれ恒温チラー水と略等しい温度に調整された頃を見計らって、チャック15における吸引板18の吸着面18A上にウエハWを配置する。そして、制御装置50の制御により、真空源25が吸着面18A上を負圧すると、ウエハWが吸着面18A上に吸着保持される。その後、制御装置50の制御によりモータ29Aが回転駆動され、モータ29Aの駆動力によりチャックテーブル12が回転する。また同時に、図示しない研削部が駆動されて、ウエハの表面の研削加工が行われる。
【0039】
また、研削加工中、チャックベース14には、恒温チラー水源23から、恒温制御部16に向けて略30℃の恒温チラー水が給水配管22を通して流され、チャックベース14及びチャック15が一定の温度に保たれるとともに、排水口21Gから排出されて恒温チラー水貯溜室28内に溜められた恒温チラー水が固定ネジ17の頭部17Aの側面を浸し、その恒温チラー水の熱で固定ネジ17も恒温チラー水と略同じ温度に調整される。これにより、研削加工中はチャックテーブル12の全体、すなわちチャックベース14とチャック15及び固定ネジ17が、それぞれ略恒温チラー水と略同じ温度に保たれる。
【0040】
したがって、本実施例における加工装置では、恒温チラー水供給手段である恒温チラー水源23から恒温チラー水をチャックテーブル12に流すことにより、チャック15及び吸引板18が略定温に保たれる。また、チャックテーブル12に供給された恒温チラー水をチャックテーブル12の外周側面から排出させ、その排出された恒温チラー水を、チャックテーブル12の外周側面全体を覆って設けられている環状のカバー27とチャックテーブル12との隙間である恒温チラー水貯溜室28で受け、恒温チラー水貯溜室28内に溜められた恒温チラー水で固定ネジ17の温度調整を積極的に行うので、固定ネジ17がチャック15及びチャックテーブル12と同じ温度になるまでの時間を短縮できるととも、加工時における固定ネジ17の熱膨張変化を最小限に抑えることができる。これにより、チャック15を固定する軸力の変化を抑えてチャック15の形状を略一定に保持することができる。これにより、ウエハの1枚目の加工からN枚目の加工までの間の加工精度差を無くすことができ、ウエハの高精度な加工が可能になる。また、環状のカバー27とチャックテーブル12との隙間で余った恒温チラー水は、カバー27に設けられている排出口27D及びカバー27とチャック15との間に設けられた隙間δ1を通してチャックテーブル12の外に排出することができる。
【0041】
図4は、図3に示した回転機構部10の一変形例を示す部分拡大図であり、(A)はその斜視図、(B)は(A)のC-C線断面矢視図である。なお、図4に示す変形例は、チャック15とチャックベース14とを固定している固定ネジ17を通す、チャック15側の取付孔20の箇所において、チャック15の外周側面から取付孔20の内周側面内まで連通する状態にして切欠されて、取付孔20内に開口しているスリット31をチャック15に設けたものである。また、図4における他の構成は、図1から図3の構成と同じであるから図1から図3と同じ構成部材には同じ符号を付して説明を省略し、異なる構造の部分についてのみ説明する。なお、スリット31の開口幅は、固定ネジ17のネジ径よりも小さく、スリット31から固定ネジ17が抜け出ないように考慮される。
【0042】
図4に示した回転機構部10の構造では、恒温チラー水源23から、恒温制御部16に供給されて、チャック15及びチャックベース14の温度調整を行い、その後、チャックベース14の排水口21Gから排出されて、恒温チラー水貯溜室28内に貯留された恒温チラー水は、スリット31を通って取付孔20内に入り、固定ネジ17の外周側面をより多く浸す。これにより、固定ネジ17も、恒温チラー水の熱で恒温チラー水と略同じ温度に積極的に調整される。この場合、固定ネジ17が恒温チラー水に浸る面積は、図3に示した構造の場合よりも多いので、固定ネジ17が恒温チラー水の温度と略等しくなるまでの時間が早まる。したがって、チャックテーブル12のチャックベース14とチャック15及び固定ネジ17の全体が、それぞれ恒温チラー水と同じ略30℃に近づく温度がより早められる。
【0043】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を成すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0044】
10 :回転機構部
11 :装置本体
12 :チャックテーブル
14 :チャックベース
15 :チャック
16 :恒温制御部
17 :固定ネジ
17A :頭部
18 :吸引板
18A :吸着面
20 :取付孔
20A :ザグリ
21 :水路
21F :給水口
21G :排水口
22 :給水配管
23 :恒温チラー水源(恒温チラー水供給手段)
24 :チャック用配管
25 :真空源
26 :ベース側枠体
26A :凹溝
27 :カバー
27D :排出口
28 :恒温チラー水貯溜室
31 :スリット
33 :ねじ孔
50 :制御装置
W :ウエハ
δ1、δ2:隙間
図1
図2
図3
図4