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特開2023-146030表面処理組成物、表面処理方法、および半導体基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146030
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】表面処理組成物、表面処理方法、および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20231004BHJP
   C11D 7/22 20060101ALI20231004BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
C11D7/22
C11D7/32
H01L21/304 622C
H01L21/304 622Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053005
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼島 栄至
(72)【発明者】
【氏名】吉野 努
【テーマコード(参考)】
4H003
5F057
5F157
【Fターム(参考)】
4H003DA09
4H003DA12
4H003DB01
4H003DC02
4H003EA08
4H003EA16
4H003EA23
4H003EB07
4H003EB20
4H003EB28
4H003EB33
4H003FA04
4H003FA28
5F057AA04
5F057AA08
5F057AA21
5F057AA27
5F057BA15
5F057BB05
5F057BB15
5F057BB16
5F057BB19
5F057BB29
5F057CA12
5F057CA25
5F057DA03
5F057DA08
5F057DA38
5F057DA39
5F057EA02
5F057EA21
5F057EA26
5F057EA29
5F057EA33
5F057EB08
5F057EC30
5F057FA37
5F157AA28
5F157AA29
5F157AA30
5F157AA96
5F157BC03
5F157BC04
5F157BC07
5F157BE57
5F157BF42
5F157BF44
5F157BF48
5F157BF52
5F157BF53
5F157BF55
5F157BF58
5F157BF59
5F157BF60
5F157BF72
5F157DB03
(57)【要約】
【課題】研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去しうる手段を提供する。
【解決手段】下記(A)~(C)成分を含み、pHが7.0を超える、表面処理組成物:
(A)成分:炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルキル基および炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルケニル基のうち少なくとも1つを有する、第四級含窒素オニウム塩化合物
(B)成分:ノニオン性高分子
(C)成分:式:A-COONH で示される緩衝剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)成分を含み、pHが7.0を超える、表面処理組成物:
(A)成分:炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルキル基および炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルケニル基のうち少なくとも1つを有する、第四級含窒素オニウム塩化合物
(B)成分:ノニオン性高分子
(C)成分:式:A-COONH (Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である)で示される緩衝剤。
【請求項2】
前記(C)成分に対する前記(A)成分の含有比が、0.01以上1.0以下の質量比である、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項3】
前記(B)成分に対する前記(A)成分の含有比が、0.01以上200以下の質量比である、請求項1または2に記載の表面処理組成物。
【請求項4】
前記第四級含窒素オニウム塩化合物が、下記式(a)で表される第四級アンモニウム塩化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理組成物:
【化1】

上記式(a)中、
11は、炭素数9以上15以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、R12、R13およびR14は、それぞれ独立して、炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基またはベンジル基であり;
Xは、アニオンである。
【請求項5】
前記ノニオン性高分子の重量平均分子量が10,000以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項6】
前記ノニオン性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロースおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項7】
前記緩衝剤が、酢酸アンモニウムである、請求項1~6のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項8】
砥粒を実質的に含まない、請求項1~7のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項9】
下記(D)成分をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の表面処理組成物:
(D)成分:pH調整剤。
【請求項10】
前記pH調整剤がアンモニアである、請求項9に記載の表面処理組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の表面処理組成物を用いて、窒化ケイ素、酸化ケイ素、およびポリシリコンからなる群から選択される少なくとも1種を含む研磨済研磨対象物を表面処理して、前記研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減する、表面処理方法。
【請求項12】
リンス研磨処理方法または洗浄処理方法である、請求項11に記載の表面処理方法。
【請求項13】
研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、
砥粒を含む研磨用組成物を用いて、窒化ケイ素、酸化ケイ素、およびポリシリコンからなる群から選択される少なくとも1種を含む研磨前半導体基板を研磨することによって、研磨済半導体基板を得る研磨工程と、
請求項1~10のいずれか1項に記載の表面処理組成物を用いて、前記研磨済半導体基板の表面における前記砥粒を含む残渣を低減する表面処理工程と、
を含む半導体基板の製造方法。
【請求項14】
前記研磨用組成物のpHが、8.5以上である、請求項13に記載の半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理組成物、表面処理方法、および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカ、アルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、酸化珪素、窒化珪素や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
CMP工程後の半導体基板表面には、不純物(異物または残渣とも称する)が多量に残留している。不純物には、CMPで使用された研磨用組成物由来の砥粒、金属、防食剤、界面活性剤等の有機物、研磨対象物であるシリコン含有材料、金属配線やプラグ等を研磨することによって生じたシリコン含有材料や金属、さらには各種パッド等から生じるパッド屑等の有機物などが含まれる。
【0004】
半導体基板表面がこれらの不純物により汚染されると、半導体の電気特性に悪影響を与え、デバイスの信頼性が低下する可能性がある。したがって、CMP工程後に洗浄工程を導入し、半導体基板表面からこれらの不純物を除去することが望ましい。
【0005】
かような洗浄用組成物として、例えば、特許文献1には、第四級ポリアンモニウム塩、炭素数6以上の第四級アンモニウム塩、および特定の構造を有するポリマーからなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、水溶性高分子と、を含むリンス組成物が開示されている。さらに特許文献1には、上記リンス組成物によれば、研磨パッド上に残留している研磨剤等を除去するとともに、予備研磨および仕上げ研磨の両方において基材表面のヘイズを低減できることなどが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-203980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、研磨済研磨対象物の洗浄において、異物(残渣)を十分に除去できないという問題があった。
【0008】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、特定の構造の構成単位を有する第四級含窒素オニウム塩化合物、ノニオン性高分子、および緩衝剤として作用するモノカルボン酸アンモニウムを含むアルカリ性の表面処理組成物により上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、上記目的は、下記(A)~(C)成分を含み、pHが7.0を超える、表面処理組成物によって達成される:
(A)成分:炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルキル基および炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルケニル基のうち少なくとも1つを有する、第四級含窒素オニウム塩化合物
(B)成分:ノニオン性高分子
(C)成分:式:A-COONH (Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である)で示される緩衝剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去しうる手段が提供されうる。また、本発明によれば、多結晶シリコンを含む研磨済研磨対象物に対するエッチングレートを低く抑えうる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、下記(A)~(C)成分を含み、pHが7.0を超える、表面処理組成物を提供する:
(A)成分:炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルキル基および炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルケニル基のうち少なくとも1つを有する、第四級含窒素オニウム塩化合物
(B)成分:ノニオン性高分子
(C)成分:式:A-COONH (Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である)で示される緩衝剤。
【0013】
かような本発明の表面処理組成物によれば、研磨済研磨対象物(特に研磨済の窒化ケイ素基板)の表面に残留する残渣(例えば、砥粒残渣、有機物残渣)を十分に除去しうる。また、多結晶シリコンを含む研磨済研磨対象物に対するエッチングレートを低く抑えうる。
【0014】
本発明者らは、かような構成によって、研磨済研磨対象物の表面における残渣が除去されうる、さらには多結晶シリコンを含む研磨済研磨対象物に対するエッチングレートを低く抑えうるメカニズムを以下のように推測している。
【0015】
本発明に係る表面処理組成物は、特定の(A)~(C)成分を含む。このうち、(A)成分は、水中でpKaを示さず、正に帯電する。このため、pHによらず、研磨済研磨対象物(特に研磨済の窒化ケイ素基板)、砥粒残渣、有機物残渣(例えば、パッド屑、高分子)等のゼータ電位は正に制御され、静電反発により残渣の研磨済研磨対象物への吸着が抑制・防止されうる。また、(B)成分は、研磨済研磨対象物の表面の濡れ性を向上させ、当該表面に水分子膜を形成しやすくする。ゆえに、研磨済研磨対象物の表面に対し、疎水性である有機物残渣が付着することが抑制されるだけでなく、有機物残渣の再付着もまた防止できる。このため、本発明に係る表面処理組成物によれば、残渣を効率よく除去することができる。
【0016】
また、通常、洗浄工程(表面処理、リンス研磨)前に、CMP工程で半導体基板表面がアルカリ性スラリー(研磨スラリー)で研磨される。このような研磨済の半導体基板(研磨済研磨対象物)を表面処理組成物で洗浄(リンス研磨)する際の表面処理組成物のpHは、アルカリ性の研磨スラリーにより上昇する。その結果、残渣のゼータ電位が変化することにより残渣(特に、砥粒残渣)の付着が誘発され、また、多結晶シリコンを含む研磨済研磨対象物に対するエッチングレートを増加させてしまう。しかし、(C)成分の存在により、洗浄(リンス研磨)時の表面処理組成物のpHの上昇が抑えられる。このため、研磨済研磨対象物(特に研磨済の窒化ケイ素基板)、砥粒残渣、有機物残渣(例えば、パッド屑、高分子)等のゼータ電位はベストな状態(正)に制御され、静電反発により残渣の研磨済研磨対象物への吸着が抑制・防止されうる。このため、本発明に係る表面処理組成物によれば、残渣を効率よく除去することができる。加えて、アルカリ条件下では、多結晶シリコンを含む研磨済研磨対象物に対するエッチングレートが大きく変化する。しかし、(C)成分の存在により、洗浄(リンス研磨)時の表面処理組成物のpHの変化が少ない(アルカリ性の研磨スラリーの影響を受けにくい)。このため、多結晶シリコンを含む研磨済研磨対象物に対するエッチングレートを低く抑えうる。
【0017】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。また、「Xおよび/またはY」は、X、Yの各々およびこれらの組み合わせを含むことを意味する。
【0019】
[残渣]
本明細書において、残渣とは、研磨済研磨対象物の表面に付着した異物を表す。残渣の例は、特に制限されないが、例えば、研磨対象物由来の残渣、後述する有機物残渣、研磨用組成物に含まれる砥粒由来のパーティクル残渣(砥粒残渣)、パーティクル残渣および有機物残渣以外の成分からなる残渣、パーティクル残渣および有機物残渣の混合物等のその他の残渣等が挙げられる。
【0020】
総残渣数とは、種類によらず、全ての残渣の総数を表す。総残渣数は、ウェーハ欠陥検査装置を用いて測定することができる。また、残渣数とは、特定の残渣の総数を表す。残渣数の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0021】
本明細書において、有機物残渣とは、研磨済研磨対象物(表面処理対象物)表面に付着した異物のうち、有機低分子化合物や高分子化合物等の有機物や有機塩等からなる成分を表す。
【0022】
研磨済研磨対象物に付着する有機物残渣は、例えば、後述の研磨工程もしくはリンス研磨工程において使用したパットから発生するパッド屑、または研磨工程において用いられる研磨用組成物もしくはリンス研磨工程において用いられる表面処理組成物に含まれる添加剤に由来する成分等が挙げられる。
【0023】
なお、有機物残渣とその他の異物とは色および形状が大きく異なることから、異物が有機物残渣であるか否かの判断は、SEM観察によって目視にて行うことができる。また、異物が有機物残渣であるか否かの判断は、必要に応じて、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析にて判断してもよい。有機物残渣数は、ウェーハ欠陥検査装置、およびSEMまたはEDX元素分析を用いて測定することができる。
【0024】
[研磨済研磨対象物]
本明細書において、研磨済研磨対象物とは、研磨工程において研磨された後の研磨対象物を意味する。研磨工程としては、特に制限されないが、CMP工程であることが好ましい。
【0025】
本発明に係る研磨対象物に含まれる材料としては特に制限されず、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素(SiN)、炭窒化ケイ素(SiCN)等の炭素含有シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン)、非晶質シリコン(アモルファスシリコン)、不純物がドープされたシリコン材料、金属単体、合金、金属窒化物、SiGe等の化合物半導体等が挙げられる。これらのうち、窒化ケイ素、酸化ケイ素、およびポリシリコンの少なくとも一が含まれることが好ましい。
【0026】
酸化ケイ素を含む膜の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)タイプ酸化ケイ素膜(以下、単に「TEOS膜」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。研磨対象物に含まれる材料は、1種単独でも、または2種以上の組み合わせであってもよい。
【0027】
研磨済研磨対象物は、研磨済半導体基板であることが好ましく、CMP工程後の半導体基板であることがより好ましい。かかる理由は、残渣は半導体デバイスの破壊の原因となりうるため、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板である場合は、半導体基板の洗浄工程としては、残渣をできる限り除去しうるものであることが必要とされるからである。
【0028】
また、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、親水性材料と、疎水性材料とを、共に含む研磨済研磨対象物であっても、表面における残渣を低減することができる。ここで、親水性材料とは、水との接触角が50°未満である材料をいい、疎水性材料とは、水との接触角が50°以上である材料をいう。なお、当該水との接触角は、協和界面科学株式会社製の接触角計DropMaster(DMo-501)により測定された値である。
【0029】
親水性材料の具体的な例としては、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化シリコン、タングステン、窒化チタン、窒化タンタル、ホウ素含有シリコン等が挙げられる。これら親水性材料は1種単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。本発明の好ましい一実施形態によれば、上記親水性材料が酸化ケイ素である。本発明の好ましい一実施形態によれば、上記親水性材料が窒化ケイ素である。また、疎水性材料の具体的な例としては、例えば、多結晶シリコン、単結晶シリコン、非晶質シリコン、炭素含有シリコン等が挙げられる。これら疎水性材料は1種単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。本発明の好ましい一実施形態によれば、上記疎水性材料が多結晶シリコンである。
【0030】
すなわち、本発明の好ましい一実施形態によれば、上記親水性材料が酸化ケイ素であり、上記疎水性材料が多結晶シリコンである。また、本発明の好ましい一実施形態によれば、上記親水性材料が窒化ケイ素であり、上記疎水性材料が多結晶シリコンである。
【0031】
[表面処理組成物]
本発明に係る表面処理組成物は、下記(A)~(C)成分を含み、pHが7.0を超える:
(A)成分:炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルキル基および炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルケニル基のうち少なくとも1つを有する、第四級含窒素オニウム塩化合物
(B)成分:ノニオン性高分子
(C)成分:式:A-COONH (Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である)で示される緩衝剤。
【0032】
本発明に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減するために使用される。また、本発明に係る表面処理組成物は、多結晶シリコンを含む研磨済研磨対象物に対するエッチングレートを低く抑えるために使用される。
【0033】
本明細書において、(A)成分としての第四級含窒素オニウム塩化合物を、単に「本発明に係る第四級含窒素オニウム塩化合物」または「第四級含窒素オニウム塩化合物」とも称する。また、(B)成分としてのノニオン性高分子を、単に「本発明に係るノニオン性高分子」または「ノニオン性高分子」とも称する。(C)成分としての式:A-COONH (Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である)で示される緩衝剤を、単に「本発明に係る緩衝剤」または「本発明に係るモノカルボン酸アンモニウム」もしくは「モノカルボン酸アンモニウム」とも称する。
【0034】
<(A)成分>
本発明に係る表面処理組成物は、(A)成分として、炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルキル基および炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルケニル基のうち少なくとも1つを有する、第四級含窒素オニウム塩化合物を含む。
【0035】
当該第四級含窒素オニウム塩化合物は、上記特定の置換基を有する第四級含窒素オニウムカチオンと、アニオン(カウンターアニオン)と、から構成される。
【0036】
第四級含窒素オニウムカチオンは、炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルキル基(以下、単に「アルキル基」とも称することがある)および炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルケニル基(以下、単に「アルケニル基」とも称することがある)のうち少なくとも1つを含む。第四級含窒素オニウムカチオンは、かようなアルキル基および/またはアルケニル基を2以上含んでいてもよく、これらの置換基を2以上含む場合、これらの置換基は互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0037】
第四級含窒素オニウムカチオンの好ましい一形態としては、少なくとも1つの上記アルキル基または上記アルケニル基が窒素原子に結合している第四級アンモニウムカチオンである。より具体的には、第四級アンモニウムカチオンは、下記式(I)で表されると好ましい。
【0038】
【化1】
【0039】
上記式(I)中、Rは、炭素数7以上の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基または炭素数7以上の直鎖もしくは分岐鎖のアルケニル基であり、R’は、有機基であり、nは、1以上4以下の整数である。ただし、nが2以上である場合において、複数存在するRは、互いに同一のものであっても、異なるものであってもよい。また、nが2以下である場合において、複数存在するR’は、互いに同一のものであっても、異なるものであってもよい。
【0040】
上記式(I)において、Rとしての炭素数7以上の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基の具体例としては、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、ラウリル基(n-ドデシル基)、n-トリデシル基、ミリスチル基(n-テトラデシル基)、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、ステアリル基(n-オクタデシル基)、n-ノナデシル基、n-イコシル基等の直鎖状アルキル基;
1-メチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1-エチルペンチル基、1-プロピルブチル基、1-エチル-1,2-ジメチルプロピル基、1-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、1-プロピルペンチル基、2-プロピルペンチル基、1-メチルオクチル基、2,2-ジメチルヘプチル基、1-エチルヘプチル基、3-エチルヘプチル基、1-プロピルヘキシル基、1-ブチルペンチル基、1-メチルノニル基、1-エチルオクチル基、1-プロピルヘプチル基、1-ブチルヘキシル基等の分枝鎖状アルキル基;が挙げられる。
【0041】
また、Rとしての炭素数7以上の直鎖もしくは分岐鎖のアルケニル基の具体例としては、1-ヘプテニル基、2-ヘプテニル基、5-ヘプテニル基、1-オクテニル基、3-オクテニル基、5-オクテニル基、1-ノネニル基、1-デセニル基、1-ウンデセニル基、1-ドデセニル基、1-トリデセニル基、1-テトラデセニル基、1-ペンタデセニル基、1-ヘキサデセニル基、1-ヘプタデセニル基、オクタデセニル基(例えば、オレイル基((Z)-オクタデカ-9-エン-1-イル基))、リノレオイル基((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエノイル基)、α-リノレノイル基((9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエノイル基)、γ-リノレノイル基((6Z,9Z,12Z)-オクタデカ-6,9,12-トリエノイル基)等の直鎖状アルケニル基が挙げられる。
【0042】
なかでも、上記アルキル基および上記アルケニル基は、いずれも直鎖であると好ましい。
【0043】
上記アルキル基および上記アルケニル基について、炭素数の上限は特に制限されないが、有機物残渣を低減するという観点から、30以下であると好ましく、20以下であるとより好ましく、15以下であるとさらにより好ましく、14以下であると特に好ましい。一方、炭素数の下限は7であるが、8以上であると好ましく、9以上であるとより好ましく、10以上であると特に好ましい。ゆえに、一例として、第四級アンモニウムカチオンに含まれるアルキル基またはアルケニル基の炭素数は、7以上30以下であると好ましく、8以上20以下であるとより好ましく、9以上15以下であるとさらにより好ましく、10以上14以下であると特に好ましい。さらに、上記炭素数は、12であると最も好ましい。
【0044】
上記アルキル基および上記アルケニル基は、置換されていてもよいし、非置換であってもよい。本明細書において「置換」とは、特に定義しない限り、アルキル基、シクロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヒドロキシ基(-OH)、カルボキシ基(-COOH)、チオール基(-SH)、シアノ基(-CN)等で置換されていることを指す。なお、ある基が置換される場合、置換された構造がさらに置換される前の定義に含まれるような置換の形態は除外される。例えば、置換基がアルキル基である場合、置換基としてのこのアルキル基はさらにアルキル基で置換されることはない。ただし、不純物の混入を極力低減するという観点から、第四級アンモニウムカチオンに含まれる上記アルキル基および上記アルケニル基は、非置換であると好ましい。
【0045】
なかでも、上記式(I)において、Rは、炭素数8以上20以下である直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基または炭素数8以上20以下である直鎖もしくは分岐鎖のアルケニル基であると好ましく、炭素数9以上15以下である直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基または炭素数9以上15以下である直鎖もしくは分岐鎖のアルケニル基であるとより好ましく、炭素数9以上15以下である直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であるとさらにより好ましく、炭素数10以上14以下である直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であると特に好ましく、炭素数12である直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であると最も好ましい。
【0046】
上記式(I)において、R’としての有機基は、特に制限されないが、炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数2以上6以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルケニル基、炭素数3以上20以下の環状のアルキル基、炭素数6以上20以下のアリール基、炭素数7以上20以下のアラルキル基、または炭素数1以上6以下のヒドロキシアルキル基であると好ましい。
【0047】
炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、1,3-ジメチルブチル基、1-イソプロピルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基等が挙げられる。
【0048】
炭素数2以上6以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基等が挙げられる。
【0049】
炭素数3以上20以下の環状のアルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0050】
炭素数6以上20以下のアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フルオレニル基、アンスリル基、ピレニル基等が挙げられる。
【0051】
アラルキル基とは、アルキル基上の1つの水素原子がアリール基で置換されたアルキル基をいい、炭素数7以上20以下のアラルキル基の具体例としては、ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)等が挙げられる。
【0052】
炭素数1以上6以下のヒドロキシアルキル基とは、上記炭素数1以上6以下のアルキル基上の少なくとも1つの水素原子がヒドロキシ基に置換されているものをいい、その具体例としては、カルビノール基(-CHOH)、およびメチルカルビノール基(ヒドロキシエチル基:-CHCHOH)等が挙げられる。
【0053】
なかでも、R’としては、炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、ベンジル基、およびフェネチル基が好ましく、炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基およびベンジル基がより好ましい。
【0054】
上記式(I)において、nは、窒素原子上に結合したRの数を表す。nは、好ましくは、1以上3以下の整数であり、より好ましくは、1または2であり、特に好ましくは、1である。
【0055】
また、第四級含窒素オニウムカチオンの他の好ましい形態としては、以下の形態がある。
【0056】
他の好ましい形態に係る第四級含窒素オニウムカチオンは、窒素原子を含む複素環を有し、当該複素環上に炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルキル基および炭素数7以上の直鎖または分岐鎖のアルケニル基のうち少なくとも1つを有する。
【0057】
かような環(複素環)構造を含む第四級含窒素オニウムカチオンとしては、イミダゾリニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン等が挙げられる。
【0058】
なかでも、環(複素環)構造を含む第四級含窒素オニウムカチオンは、イミダゾリニウムイオンであると好ましい。さらにこのとき、第四級イミダゾリニウムカチオンは、下記式(II)で表されると好ましい。
【0059】
【化2】
【0060】
上記式(II)中、R”は、炭素数7以上の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基または炭素数7以上の直鎖もしくは分岐鎖のアルケニル基である。上記式(II)において、R”としてのアルキル基およびアルケニル基としては、上記式(I)のRについて述べたものと同様のアルキル基およびアルケニル基がそれぞれ例示される。また、好ましい形態も上記で述べたものと同様であるが、なかでも、R”は、炭素数8以上20以下である直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基または炭素数8以上20以下である直鎖もしくは分岐鎖のアルケニル基であると好ましい。
【0061】
第四級含窒素オニウム塩化合物を構成するアニオン(カウンターアニオン)は、第四級含窒素オニウムカチオンと塩を形成できるものであれば、特に制限されない。かようなアニオンとしては、例えば、フッ化物イオン(F)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)およびヨウ化物イオン(I)等のハロゲン化物イオン;硫酸水素イオン(HSO );亜硫酸イオン(HSO );アルキル硫酸イオン((Alkyl)SO :Alkylは、炭素数1以上8以下のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、好ましくはエチル基);硫酸イオン(SO 2-);硝酸イオン(NO );リン酸二水素イオン(HPO )、リン酸水素イオン(HPO 2-)、リン酸イオン(PO 3-);過塩素酸イオン(ClO );水酸化物イオン(OH);クエン酸イオン、酢酸イオン、リンゴ酸イオン、フマル酸イオン、乳酸イオン、グルタル酸イオンおよびマレイン酸イオン等のカルボン酸系アニオンなどが挙げられる。これらのうち、アニオン(カウンターアニオン)は、ハロゲン化物イオン、アルキル硫酸イオン、硝酸イオンであると好ましく、ハロゲン化物イオン、アルキル硫酸イオンであるとより好ましく、塩化物イオン、エチル硫酸イオン(CSO )であることがさらに好ましく、塩化物イオンであることが特に好ましい。
【0062】
本発明に係る第四級含窒素オニウム塩化合物は、上記式(I)または式(II)で表される第四級含窒素オニウムカチオンを含むと好ましく、上記式(I)で表される第四級アンモニウムカチオンを含むとより好ましい。
【0063】
さらに、第四級アンモニウムカチオンを含む第四級アンモニウム塩化合物は、下記式(a)で表される化合物であると好ましい。
【0064】
【化3】
【0065】
上記式(a)中、
11は、炭素数9以上15以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、R12、R13およびR14は、それぞれ独立して、炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基またはベンジル基であり;
Xは、アニオンである。
【0066】
上記式(a)において、炭素数9以上15以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基の具体例としては、上記式(I)のRについて挙げた、炭素数9以上15以下である具体例と同様のものが挙げられる。また、炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基の具体例としては、上記式(I)のR’について挙げた具体例と同様のものが挙げられる。さらに、Xは、式:N11121314で表される第四級アンモニウムカチオンのカウンターアニオンであり、その具体例としては、上記で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0067】
なかでも、R11は、炭素数10以上14以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、R12、R13およびR14は、それぞれ独立して、炭素数1以上3以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基またはベンジル基であり、Xは、ハロゲン化物イオンまたはアルキル硫酸イオンであると好ましい。さらに、R11は、炭素数10以上14以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、R12、R13およびR14は、それぞれ独立して、炭素数1以上3以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基またはベンジル基であり、Xは、塩化物イオンまたはエチル硫酸イオンであるとより好ましい。さらに、上記各形態においては、R12、R13およびR14のうち、いずれか一つがベンジル基であると特に好ましい。第四級アンモニウム塩化合物がベンジル基を含んでいると、π-π相互作用により研磨済研磨対象物、砥粒残渣、有機物残渣等の表面上に親水化膜(水分子膜)を形成しやすくなるため、残渣を効率よく除去することができる。さらにまた、R11は、炭素数10以上14以下の直鎖のアルキル基であり、R12はベンジル基であり、R13およびR14は、それぞれ独立して、炭素数1以上3以下の直鎖アルキル基であり、Xは、塩化物イオンであると特に好ましい。
【0068】
第四級含窒素オニウム塩化合物の分子量は特に制限されないが、1,000未満であると好ましく、800以下であるとより好ましく、600以下であるとさらにより好ましく、400以下であると特に好ましい。一方、分子量の下限は特に制限されないが、150以上であると好ましく、200以上であるとより好ましく、300以上であると特に好ましい。一例として、第四級含窒素オニウム塩化合物の分子量は、150以上1,000未満であると好ましく、200以上800以下であるとより好ましく、200以上600以下であるとさらにより好ましく、300以上400以下であると特に好ましい。
【0069】
なお、第四級含窒素オニウム塩化合物(低分子量化合物)の分子量は、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)法等、公知の方法で測定できる。また、NMR等の方法により、その化合物の構造を特定し、当該構造に基づき計算を行うことにより分子量を特定することができる。
【0070】
(A)成分として用いられうる第四級含窒素オニウム塩化合物は、合成によって製造されても、または市販品であってもよい。市販品の例としては、カチオーゲン(登録商標)BC-50、カチオーゲン(登録商標)ES-L、カチオーゲン(登録商標)TMS(いずれも第一工業製薬株式会社)、ニッサンカチオン(登録商標)2-OLR、ニッサンカチオン(登録商標)AR-4(いずれも日油株式会社)などが挙げられる。
【0071】
(A)成分としての第四級含窒素オニウム塩化合物は、1種単独でも、または2種以上組み合わせても用いることができる。
【0072】
表面処理組成物中の(A)成分の含有量は、使用する(A)成分の種類や所望の効果に応じて適宜設定される。(A)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.005質量%を超えることがさらに好ましい。また、表面処理組成物中の(A)成分の含有量の上限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%未満が特に好ましい。このような上限値とすることにより、(A)成分がミセルを形成して(A)成分自体が残渣となることが抑制され、残渣を効率よく除去することができる。
【0073】
本発明の一実施形態では、(A)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.001質量%以上0.5質量%以下である。本発明の一実施形態では、(A)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.005質量%以上0.3質量%以下である。本発明の一実施形態では、(A)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.005質量%超0.1質量%以下である。本発明の一実施形態では、(A)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.005質量%超0.1質量%未満である。なお、表面処理組成物が2種以上の(A)成分を含む場合、(A)成分の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0074】
<(B)成分>
本発明に係る表面処理組成物は、(B)成分として、ノニオン性高分子を含む。ここでいう「ノニオン性高分子」とは、分子内に、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基や、アミノ基、第四級アンモニウム基等のカチオン性基を有しない高分子をいう。
【0075】
表面処理組成物が、(B)成分の代わりにアニオン性高分子を含む場合、上記(A)成分とアニオン性高分子とが凝集してしまい、均一な表面処理組成物を調製することが難しくなる。また、表面処理組成物が、(B)成分の代わりにポリエチレンイミンなどのカチオン性高分子を含む場合、カチオン性高分子が、研磨済研磨対象物の表面上で上記(A)成分の正電荷と反発してしまい、研磨済研磨対象物の表面に対して(A)成分と同時に吸着することが抑制される。ゆえに、研磨済研磨対象物の表面の濡れ性を向上させる効果が不十分となり、当該表面に水分子膜が効率よく形成できないため、有機物残渣が付着しやすい傾向となる。
【0076】
これらの高分子に対し、ノニオン性高分子は、上記(A)成分による研磨済研磨対象物、砥粒残渣、有機物残渣等のゼータ電位の制御(正に帯電させること)を阻害することなく、研磨済研磨対象物の表面の濡れ性を向上させることにより、研磨済研磨対象物の表面における残渣の除去を促進することができる。
【0077】
ノニオン性高分子は、同一(単独重合体;ホモポリマー)または相異なる(共重合体;コポリマー)繰り返し構成単位を有する高分子であって、典型的には重量平均分子量(Mw)が1,000以上の化合物であり得る。ノニオン性高分子が共重合体である場合の共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。
【0078】
ノニオン性水溶性高分子の例としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリアミン類、ポリビニルエーテル類(ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテルなど)、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性の多糖類、アルギン酸多価アルコールエステル、水溶性尿素樹脂、デキストリン誘導体、カゼイン等が挙げられる。また、このような主鎖構造を有するもののみならず、ノニオン性ポリマー構造を側鎖に有するグラフト共重合体も好適に用いることができる。さらに、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ブテンジオール-ビニルアルコール共重合体のような共重合体も用いることができる。
【0079】
これらの中でも、ノニオン性水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロースおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体が好ましい。ゆえに、(B)成分としてのノニオン性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロースおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含むと好ましい。さらに、ノニオン性高分子としては、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンがより好ましい。さらに、水素結合により水分子を保持すること、多結晶シリコンを含む研磨済研磨対象物に対するエッチングレートを低減する効果が高いこと等の観点から、ポリビニルアルコールが特に好ましい。
【0080】
ノニオン性高分子の重量平均分子量(Mw)の下限は、1,000以上であることが好ましく、3,000以上であることがより好ましく、5,000を超えることがさらに好ましく、10,000以上であることが特に好ましい。また、ノニオン性高分子の重量平均分子量(Mw)の上限は、1,000,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、50,000以下であることがさらに好ましく、30,000以下であることが特に好ましい。一例として、ノニオン性高分子の重量平均分子量(Mw)は、1,000以上1,000,000以下であることが好ましく、3,000以上100,000以下であることがより好ましく、5,000超100,000以下であることがさらに好ましく、5,000超50,000以下であることがさらにより好ましく、5,000超30,000以下であることが特に好ましく、10,000以上30,000以下であることが最も好ましい。
【0081】
なお、ノニオン性高分子の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いたポリエチレングリコール換算の値として測定することができ、測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0082】
(B)成分として用いられうるノニオン性高分子は、合成によって製造されても、または市販品であってもよい。市販品の例としては、JMR(登録商標)-10HH、JMR(登録商標)-3HH(いずれも日本酢ビ・ポバール株式会社)、ピッツコール(登録商標)K30A、K30L(いずれも第一工業製薬株式会社)、CMCダイセル(登録商標)1150、1170(いずれもダイセルミライズ株式会社)などが挙げられる。
【0083】
(B)成分としてのノニオン性高分子は、1種単独でも、または2種以上組み合わせても用いることができる。
【0084】
表面処理組成物中の(B)成分の含有量は、使用する(B)成分の種類や所望の効果に応じて適宜設定される。(B)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.00001質量%以上が好ましく、0.0001質量%を超えることがより好ましく、0.01質量%以上がさらに好ましい。また、表面処理組成物中の(B)成分の含有量の上限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。本発明の一実施形態では、(B)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.00001質量%以上2質量%以下である。本発明の一実施形態では、(B)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.0001質量%超1.5質量%以下である。本発明の一実施形態では、(B)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.01質量%以上1.0質量%以下である。なお、表面処理組成物が2種以上の(B)成分を含む場合、(B)成分の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0085】
上記に代えてまたは上記に加えて、表面処理組成物中の(A)成分と(B)成分との混合比は、使用する(A)成分や(B)成分の種類ならびに所望の効果に応じて適宜設定される。(B)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(B)成分含有比)(質量比)は、0.01以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.05を超えることがさらに好ましい。(B)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(B)成分含有比)(質量比)は、200以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、1.0未満であることがさらに好ましく、0.50未満であることが特に好ましい。本発明の一実施形態では、(B)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(B)成分含有比)(質量比)は、0.01以上200以下である。本発明の一実施形態では、(B)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(B)成分含有比)(質量比)は、0.03以上10以下である。本発明の一実施形態では、(B)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(B)成分含有比)(質量比)は、0.05超1.0未満である。本発明の一実施形態では、(B)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(B)成分含有比)(質量比)は、0.05超0.50未満である。
【0086】
<(C)成分>
本発明に係る表面処理組成物は、上記(A)および(B)成分に加えて、(C)成分を含む。(C)成分は、式:A-COONH で示される緩衝剤(モノカルボン酸アンモニウム)を含む。本明細書において、「緩衝剤」とは、pHを一定に保つために表面処理組成物(溶液)に緩衝作用を付与する物質を意味する。
【0087】
(C)成分は、上記式:A-COONH で示される緩衝剤以外の成分(例えば、公知の緩衝剤)を含んでもよいが、本発明による効果のさらなる向上などの観点から、(C)成分は、上記式:A-COONH で示される緩衝剤から構成される((C)成分は上記式:A-COONH で示される緩衝剤である)ことが好ましい。(C)成分の存在により、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を効率よく除去しうる。また、多結晶シリコンを含む研磨済研磨対象物に対するエッチングレートを低く抑えうる。すなわち、本発明の好ましい形態では、(C)成分が、上記式:A-COONH で示される緩衝剤から構成される((C)成分は上記式:A-COONH で示される緩衝剤である)。
【0088】
上記式:A-COONH において、Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である。ここで、アルキル基としては、上記式(I)のR’について挙げた具体例と同様のアルキル基が例示される。これらのうち、本発明による効果のさらなる向上などの観点から、Aは、炭素数1以上8以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であることが好ましく、炭素数1以上3以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であることがより好ましく、メチル基(酢酸アンモニウム)またはエチル基(プロピオン酸アンモニウム)であることがさらに好ましく、メチル基(酢酸アンモニウム)であることが特に好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、緩衝剤は、Aが炭素数1以上8以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基である上記式:A-COONH で示される。本発明のより好ましい形態では、緩衝剤は、Aが炭素数1以上3以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基である上記式:A-COONH で示される。本発明のさらなる好ましい形態では、緩衝剤は、Rがメチル基またはエチル基である上記式:A-COONH で示される(緩衝剤が酢酸アンモニウムまたはプロピオン酸アンモニウムである)。本発明の特に好ましい形態では、緩衝剤は酢酸アンモニウムである。
【0089】
表面処理組成物中の(C)成分の含有量は、使用する(C)成分の種類や所望の効果に応じて適宜設定される。(C)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%を超えることがより好ましく、0.2質量%以上がさらに好ましい。また、表面処理組成物中の(C)成分の含有量の上限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。本発明の一実施形態では、(C)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.05質量%以上2質量%以下である。本発明の一実施形態では、(C)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.1質量%超1.5質量%以下である。本発明の一実施形態では、(C)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.2質量%以上1.0質量%以下である。なお、表面処理組成物が2種以上の(C)成分を含む場合、(C)成分の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0090】
上記に代えてまたは上記に加えて、表面処理組成物中の(A)成分と(C)成分との混合比は、使用する(A)成分や(C)成分の種類ならびに所望の効果に応じて適宜設定される。(C)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(C)成分含有比)(質量比)は、0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.03を超えることがさらに好ましい。(C)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(C)成分含有比)(質量比)は、1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.5未満であることがさらに好ましく、0.1未満であることが特に好ましい。本発明の一実施形態では、(C)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(C)成分含有比)(質量比)は、0.01以上1.0以下である。本発明の一実施形態では、(C)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(C)成分含有比)(質量比)は、0.02以上0.5以下である。本発明の一実施形態では、(C)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(C)成分含有比)(質量比)は、0.03超0.5未満である。本発明の一実施形態では、(C)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(C)成分含有比)(質量比)は、0.03超0.1未満である。
【0091】
<pH調整剤((D)成分)>
本発明に係る表面処理組成物は、上記(A)~(C)成分を必須に含むが、これらに加えて、さらにpH調整剤を含むことが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、表面処理組成物は、(D)成分をさらに含む:
(D)成分:pH調整剤。
【0092】
pH調整剤は、特に制限されず、表面処理組成物の分野で用いられる公知のpH調整剤を用いることができ、公知の酸、塩基、またはこれらの塩等を用いることができる。pH調整剤の例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、アミノ酸、アントラニル酸等のカルボン酸や、スルホン酸、有機ホスホン酸等の有機酸;硝酸、炭酸、塩酸、リン酸、次亜リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ホウ酸、フッ化水素酸、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸などの無機酸;水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸カリウム(KCO)、炭酸ナトリム(NaCO)等のアルカリ金属の炭酸塩;第2族元素の水酸化物;アンモニア(水酸化アンモニウム);水酸化第四級アンモニウム化合物等の有機塩基等が挙げられる。pH調整剤は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。また、これらpH調整剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。これらのうち、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニアが好ましく、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニアがより好ましく、アンモニアが特に好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、pH調整剤は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムおよびアンモニアからなる群より選択される少なくとも一種である。本発明のより好ましい形態では、pH調整剤は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムおよびアンモニアからなる群より選択される少なくとも一種である。本発明の特に好ましい形態では、pH調整剤は、アンモニアである。
【0093】
表面処理組成物中のpH調整剤の含有量は、下記に詳述される所望の表面処理組成物のpH値となるような量を適宜選択すればよい。
【0094】
<表面処理組成物のpH>
本発明に係る表面処理組成物のpHは、7.0を超える。表面処理組成物のpHが7.0以下であると、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分除去できない。本発明による効果のさらなる向上などの観点から、表面処理組成物のpHは、7.5以上であることが好ましく、7.5を超えることがより好ましく、8.5を超えることが特に好ましい。表面処理組成物のpHは、11.0未満であることが好ましく、10.5未満であることがより好ましく、10.0未満であることが特に好ましい。すなわち、本発明の一実施形態では、表面処理組成物のpHは、7.5以上11.0未満である。本発明の一実施形態では、表面処理組成物のpHは、7.5超10.5未満である。本発明の一実施形態では、表面処理組成物のpHは、8.5超10.0未満である。なお、表面処理組成物のpHは、実施例に記載の方法により測定した値を採用する。
【0095】
<溶媒>
本発明に係る表面処理組成物は、溶媒を含むことが好ましい。溶媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。溶媒は、水を含むことが好ましく、水のみであることがより好ましい。また、溶媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、例えば、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0096】
水は、研磨済研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを防ぐという観点から、残渣をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる残渣イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0097】
<界面活性剤>
本発明に係る表面処理組成物は、界面活性剤をさらに含んでもよい。界面活性剤の種類は、特に制限はなく、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、および両性の界面活性剤のいずれであってもよい。
【0098】
ノニオン性界面活性剤の例としては、上記(B)成分以外の化合物が挙げられ、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型等が挙げられる。その他、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、モノエタノールアミン、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、3級アセチレングリコール、アルカノールアミド等も、ノニオン性界面活性剤として用いることができる。なお、上記(B)成分は、ノニオン性界面活性剤としての機能を有しうるため、別途のノニオン性界面活性剤を添加しなくてもよい。
【0099】
アニオン性界面活性剤の例としては、例えば、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル型;ラウリルリン酸、ラウリルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル型;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸型等が挙げられる。
【0100】
カチオン性界面活性剤の例としては、上記(A)成分以外の化合物が挙げられ、例えば、ラウリルアミン塩酸塩等のアミン類等が挙げられる。なお、上記(A)成分は、カチオン性界面活性剤としての機能を有しうるため、別途のカチオン性界面活性剤を添加しなくてもよい。
【0101】
両性界面活性剤の例としては、例えば、レシチン、アルキルアミンオキシド、N-アルキル-N,N-ジメチルアンモニウムベタイン等のアルキルベタインやスルホベタイン等が挙げられる。
【0102】
界面活性剤は、1種単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。また、界面活性剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0103】
表面処理組成物が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量の下限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。また、表面処理組成物中の界面活性剤の含有量の上限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。なお、表面処理組成物が2種以上の界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0104】
<キレート剤>
本発明に係る表面処理組成物は、キレート剤をさらに含んでもよい。キレート剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)(EDTPO)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0105】
キレート剤は、1種単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。また、キレート剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0106】
表面処理組成物がキレート剤を含む場合、キレート剤の含有量の下限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることがより好ましく、0.002質量%以上であることがさらに好ましい。キレート剤の含有量の上限は、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましく、0.15質量%以下であることが特に好ましい。なお、表面処理組成物が2種以上のキレート剤を含む場合、キレート剤の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0107】
<他の添加剤>
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の添加剤を任意の割合で含有していてもよい。ただし、本発明の一形態に係る表面処理組成物の必須成分以外の成分は、異物(残渣)の原因となりうることから、できる限り添加しないことが望ましい。ゆえに、他の添加剤の添加量はできる限り少ないことが好ましい。他の添加剤としては、例えば、防カビ剤(防腐剤)、溶存ガス、還元剤、酸化剤等が挙げられる。本発明に係る表面処理組成物は、ノニオン性高分子を含み、かつアルカリ性である。このため、これらのうち、本発明に係る表面処理組成物は、防カビ剤(防腐剤)を含むことが好ましい。本発明に係る表面処理組成物が防カビ剤(防腐剤)を含む場合に使用できる、防カビ剤(防腐剤)は、特に制限されず、ノニオン性高分子((B)成分)の種類に応じて適切に選択できる。具体的には、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾール-3(2H)-オン(BIT)等のイソチアゾリン系防腐剤、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。
【0108】
または、防カビ剤(防腐剤)は、下記化学式1で表される化合物でありうる。
【0109】
【化4】
【0110】
前記化学式1中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも2種の原子から構成される置換基である。
【0111】
炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも2種の原子から構成される置換基の例としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のヒドロキシアルキル基、炭素数1以上20以下のアルコキシ基、炭素数1以上20以下のヒドロキシアルコキシ基、炭素数2以上21以下のアルコキシカルボニル基、炭素数6以上30以下のアリール基、炭素数7以上31以下のアラルキル基(アリールアルキル基)、炭素数6以上30以下のアリールオキシ基、炭素数6以上30以下のアリールオキシカルボニル基、炭素数8以上32以下のアラルキルオキシカルボニル基、炭素数2以上20以下のアシル基、炭素数2以上20以下のアシルオキシ基等が挙げられる。
【0112】
さらに具体的には、炭素数1以上20以下のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、t-アミル基、ネオペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジエチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、1-メチル-1-プロピルブチル基、1,1-ジプロピルブチル基、1,1-ジメチル-2-メチルプロピル基、1-メチル-1-イソプロピル-2-メチルプロピル基等の分岐状のアルキル基;シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルネニル基等の環状のアルキル基等が挙げられる。
【0113】
炭素数1以上20以下のヒドロキシアルキル基の例としては、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシ-n-プロピル基、3-ヒドロキシ-n-プロピル基、2-ヒドロキシ-n-ブチル基、3-ヒドロキシ-n-ブチル基、4-ヒドロキシ-n-ブチル基、2-ヒドロキシ-n-ペンチル基、3-ヒドロキシ-n-ペンチル基、4-ヒドロキシ-n-ペンチル基、5-ヒドロキシ-n-ペンチル基、2-ヒドロキシ-n-ヘキシル基、3-ヒドロキシ-n-ヘキシル基、4-ヒドロキシ-n-ヘキシル基、5-ヒドロキシ-n-ヘキシル基、6-ヒドロキシ-n-ヘキシル基等が挙げられる。
【0114】
炭素数1以上20以下のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基等の直鎖状のアルコキシ基;イソプロピルオキシ基、イソブチルオキシ基、s-ブチルオキシ基、t-ブチルオキシ基、t-アミルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基、1,1-ジエチルプロピルオキシ基、1,1-ジメチルブチルオキシ基、1-メチル-1-プロピルブチルオキシ基、1,1-ジプロピルブチルオキシ基、1,1-ジメチル-2-メチルプロピルオキシ基、1-メチル-1-イソプロピル-2-メチルプロピルオキシ基等の分岐状のアルコキシ基;シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、ノルボルネニルオキシ基等の環状のアルコキシ基等が挙げられる。
【0115】
炭素数1以上20以下のヒドロキシアルコキシ基の例としては、ヒドロキシメトキシ基、2-ヒドロキシエトキシ基、2-ヒドロキシ-n-プロピルオキシ基、3-ヒドロキシ-n-プロピルオキシ基、2-ヒドロキシ-n-ブチルオキシ基、3-ヒドロキシ-n-ブチルオキシ基、4-ヒドロキシ-n-ブチルオキシ基、2-ヒドロキシ-n-ペンチルオキシ基、3-ヒドロキシ-n-ペンチルオキシ基、4-ヒドロキシ-n-ペンチルオキシ基、5-ヒドロキシ-n-ペンチルオキシ基、2-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基、3-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基、4-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基、5-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基、6-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0116】
炭素数2以上21以下のアルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0117】
炭素数6以上30以下のアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ピレニル基等が挙げられる。
【0118】
炭素数7以上31以下のアラルキル基(アリールアルキル基)の例としては、ベンジル基、フェネチル基(フェニルエチル基)等が挙げられ、炭素数6以上30以下のアリールオキシ基の例としては、フェニルオキシ基(フェノキシ基)、ナフチルオキシ基、アントラニルオキシ基、ピレニルオキシ基等が挙げられる。
【0119】
炭素数7以上31以下のアリールオキシカルボニル基の例としては、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、アントラニルオキシカルボニル基、ピレニルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0120】
炭素数8以上32以下のアラルキルオキシカルボニル基としては、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0121】
炭素数1以上20以下のアシル基の例としては、メタノイル基(ホルミル基)、エタノイル基(アセチル基)、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0122】
炭素数1以上20以下のアシルオキシ基の例としては、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、オクタノイルオキシ基、デカノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0123】
さらに、上記化学式1で表される防カビ剤は、下記化学式1-a~1-cで表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0124】
【化5】
【0125】
前記化学式1中、R~Rは、それぞれ独立して、炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも2種の原子から構成される置換基である。
【0126】
炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも2種の原子から構成される置換基の例は、上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0127】
上記化学式1で表される化合物のより具体的な例としては、パラオキシ安息香酸メチル(パラヒドロキシ安息香酸メチル)、パラオキシ安息香酸エチル(パラヒドロキシ安息香酸エチル)、パラオキシ安息香酸ブチル(パラヒドロキシ安息香酸ブチル)、パラオキシ安息香酸ベンジル(パラヒドロキシ安息香酸ベンジル)等のパラオキシ安息香酸エステル(パラヒドロキシ安息香酸エステル);サリチル酸、サリチル酸メチル、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、イソプロピルフェノール、クレゾール、チモール、フェノキシエタノール、フェニルフェノール(2-フェニルフェノール、3-フェニルフェノール、4-フェニルフェノール)、2-フェニルエチルアルコール(フェネチルアルコール)等が挙げられる。
【0128】
これらの中でも、本発明の所期の効果がより効果的に奏されるという観点から、上記化学式1で表される化合物としては、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、およびフェニルフェノールからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、パラオキシ安息香酸ブチルがより好ましい。
【0129】
または、防カビ剤(防腐剤)は、不飽和脂肪酸でありうる。不飽和脂肪酸の例としては、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リシノール酸等のモノ不飽和脂肪酸;ソルビン酸、リノール酸、エイコサジエン酸等のジ不飽和脂肪酸;リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸等のトリ不飽和脂肪酸;ステアリドン酸やアラキドン酸等のテトラ不飽和脂肪酸;ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸等のペンタ不飽和脂肪酸;ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等のヘキサ不飽和脂肪酸;等が挙げられる。
【0130】
これらの中でも、本発明の所期の効果がより効果的に奏されるという観点から、不飽和脂肪酸としては、ソルビン酸が好ましい。
【0131】
また、上記以外に、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール等の1,2-アルカンジオール;2-エチルヘキシルグリセリルエーテル(エチルヘキシルグリセリン)等のアルキルグリセリルエーテル;カプリン酸、デヒドロ酢酸等の化合物を、防カビ剤(防腐剤)として用いてもよい。
【0132】
上記防カビ剤(防腐剤)は、単独で使用されてもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0133】
表面処理組成物が防カビ剤(防腐剤)を含む場合の、防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)の下限は、特に制限されないが、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることがより好ましく、0.005質量%以上であることがさらに好ましく、0.01質量%以上であることが特に好ましい。また、防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)の上限は、特に制限されないが、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。すなわち、表面処理組成物中の防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)は、好ましくは0.0001質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上1質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以上0.5質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下である。このような範囲であれば、微生物を不活性化または破壊するのに十分な効果が得られる。なお、表面処理組成物が2種以上の防カビ剤(防腐剤)を含む場合には、上記含有量はこれらの合計量を意図する。
【0134】
本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、第四級含窒素オニウム塩化合物((A)成分)、ノニオン性高分子((B)成分)、緩衝剤((C)成分)、pH調整剤((D)成分)および水、ならびに防カビ剤、有機溶媒、界面活性剤およびキレート剤からなる群より選択される少なくとも一から実質的に構成される。本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、第四級含窒素オニウム塩化合物((A)成分)、ノニオン性高分子((B)成分)、緩衝剤((C)成分)、pH調整剤((D)成分)および水、ならびに防カビ剤および有機溶媒の少なくとも一方から実質的に構成される。本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、第四級含窒素オニウム塩化合物((A)成分)、ノニオン性高分子((B)成分)、緩衝剤((C)成分)、pH調整剤((D)成分)および水から実質的に構成される。上記形態において、「表面処理組成物が、Xから実質的に構成される」とは、Xの合計含有量が、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、99質量%を超える(上限:100質量%)ことを意味する。好ましくは、表面処理組成物は、Xから構成される(上記合計含有量=100質量%)。例えば、「表面処理組成物が、第四級含窒素オニウム塩化合物((A)成分)、ノニオン性高分子((B)成分)、緩衝剤((C)成分)、pH調整剤((D)成分)および水、ならびに防カビ剤および有機溶媒の少なくとも一方から実質的に構成される」とは、第四級含窒素オニウム塩化合物((A)成分)、ノニオン性高分子((B)成分)、緩衝剤((C)成分)、pH調整剤((D)成分)および水、ならびに防カビ剤および有機溶媒の合計含有量が、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、99質量%を超える(上限:100質量%)ことを意味し、表面処理組成物が、第四級含窒素オニウム塩化合物((A)成分)、ノニオン性高分子((B)成分)、緩衝剤((C)成分)、pH調整剤((D)成分)および水、ならびに防カビ剤および有機溶媒の少なくとも一方から構成される(上記合計含有量=100質量%)ことが好ましい。
【0135】
残渣(異物)除去効果のさらなる向上のため、本発明に係る表面処理組成物は、砥粒を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「砥粒を実質的に含有しない」とは、表面処理組成物全体に対する砥粒の含有量が0.01質量%未満である場合をいう。すなわち、本発明の一実施形態では、砥粒の含有量が、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.01質量%未満(下限:0質量%)である。
【0136】
<表面処理組成物の製造方法>
本発明に係る表面処理組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、(A)成分(第四級含窒素オニウム塩化合物)と、(B)成分(ノニオン性高分子)と、(C)成分(緩衝剤)と、ならびに必要に応じて(D)成分(pH調整剤)、界面活性剤、キレート剤、水、有機溶媒、防カビ剤(防腐剤)および他の添加剤からなる群より選択される少なくとも一とを、攪拌混合することにより得ることができる。本発明の一実施形態では、(A)成分(第四級含窒素オニウム塩化合物)と、(B)成分(ノニオン性高分子)と、(C)成分(緩衝剤)と、(D)成分(pH調整剤)と、水と、ならびに防カビ剤、有機溶媒、界面活性剤およびキレート剤からなる群より選択される少なくとも一とを、攪拌混合することにより、本発明に係る表面処理組成物を製造する。本発明の一実施形態では、(A)成分(第四級含窒素オニウム塩化合物)と、(B)成分(ノニオン性高分子)と、(C)成分(緩衝剤)と、(D)成分(pH調整剤)と、水と、ならびに防カビ剤および有機溶媒の少なくとも一方とを、攪拌混合することにより、本発明に係る表面処理組成物を製造する。本発明の一実施形態では、(A)成分(第四級含窒素オニウム塩化合物)と、(B)成分(ノニオン性高分子)と、(C)成分(緩衝剤)と、(D)成分(pH調整剤)と、水とを、攪拌混合することにより、本発明に係る表面処理組成物を製造する。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0137】
[表面処理方法]
本発明に係る表面処理組成物によると、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去できる。また、多結晶シリコンを含む研磨済研磨対象物に対するエッチングレートを低く抑えることができる。したがって、本発明は、本発明に係る表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理することを含む、表面処理方法を提供する。ここで、研磨済研磨対象物は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、およびポリシリコンからなる群から選択される少なくとも1種を含みうる。すなわち、本発明は、本発明に係る表面処理組成物を用いて、窒化ケイ素、酸化ケイ素、およびポリシリコンからなる群から選択される少なくとも1種を含む研磨済研磨対象物を表面処理して、前記研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減する、表面処理方法を提供する。なお、本明細書において、「表面処理方法」とは、研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減する方法をいい、広義の洗浄を行う方法である。
【0138】
本発明に係る表面処理方法によれば、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去することができる。すなわち、本発明は、本発明に係る表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理することを有する、前記研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減する方法をも提供する。また、本発明は、本発明に係る表面処理組成物を用いて、窒化ケイ素、酸化ケイ素、およびポリシリコンからなる群から選択される少なくとも1種を含む研磨済研磨対象物を表面処理することを有する、前記研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減する方法を提供する。
【0139】
本発明に係る表面処理方法は、本発明に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させる方法により行われる。
【0140】
表面処理方法としては、主として、(I)リンス研磨処理による方法、(II)洗浄処理による方法が挙げられる。すなわち、本発明の一実施形態では、表面処理方法は、リンス研磨処理方法または洗浄処理方法である(上記表面処理は、リンス研磨処理または洗浄処理によって行われる)。リンス研磨処理および洗浄処理は、研磨済研磨対象物の表面上の異物(砥粒(パーティクル)残渣、高分子やパッド屑等の有機物残渣、金属汚染物など)を除去し、清浄な表面を得るために実施される。以下、上記(I)および(II)について説明する。
【0141】
(I)リンス研磨処理
本発明に係る表面処理組成物は、リンス研磨処理において好適に用いられる。すなわち、本発明に係る表面処理組成物は、リンス研磨用組成物として好ましく用いることができる。リンス研磨処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行い、研磨済研磨対象物を得た後、この研磨済研磨対象物の表面上の異物の除去を目的として、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる。このとき、本発明に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させることにより、リンス研磨処理が行われる。その結果、研磨済研磨対象物表面の異物は、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物による化学的作用によって除去される。異物のなかでも、特に砥粒(パーティクル)残渣や有機物残渣は、物理的な作用により除去されやすい。したがって、リンス研磨処理では、研磨定盤(プラテン)上で研磨パッドとの摩擦を利用することで、砥粒(パーティクル)残渣や有機物残渣を効果的に除去することができる。
【0142】
すなわち、本明細書において、リンス研磨処理、リンス研磨方法およびリンス研磨工程とは、それぞれ、研磨パッドを用いて表面処理対象物の表面における残渣を低減する処理、方法および工程をいう。
【0143】
具体的には、リンス研磨処理は、研磨工程後の研磨済研磨対象物表面を研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置し、研磨パッドと研磨済半導体基板とを接触させてその接触部分に表面処理組成物を供給しながら、研磨済研磨対象物と研磨パッドとを相対摺動させることにより行うことができる。
【0144】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモーター等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0145】
リンス研磨処理は、片面研磨装置、両面研磨装置のいずれを用いても行うことができる。また、上記研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加え、表面処理組成物の吐出ノズルを備えていることが好ましい。研磨装置のリンス研磨処理時の稼働条件は特に制限されず、当業者であれば適宜設定可能である。
【0146】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、表面処理組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0147】
リンス研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド(キャリア)回転数は、10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.67s-1)以下であることが好ましく、研磨済研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下であることが好ましい。研磨パッドに表面処理組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に表面処理組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。リンス研磨時間も特に制限されないが、5秒以上180秒以下であることが好ましい。
【0148】
本発明に係る表面処理組成物によるリンス研磨処理の後、研磨済研磨対象物(表面処理対象物)は、本発明に係る表面処理組成物をかけながら引き上げられ、取り出されることが好ましい。
【0149】
(II)洗浄処理
本発明に係る表面処理組成物は、洗浄処理において用いられてもよい。すなわち、本発明に係る表面処理組成物は、洗浄用組成物として好ましく用いることができる。洗浄処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、上記リンス研磨処理を行った後、または本発明に係る表面処理組成物以外のリンス研磨用組成物を用いた他のリンス研磨処理を行い、研磨済研磨対象物(洗浄対象物)を得た後、研磨済研磨対象物(洗浄対象物)の表面上の異物の除去を目的として行われることが好ましい。なお、洗浄処理と、上記リンス研磨処理とは、これらの処理を行う場所によって分類され、洗浄処理は、洗浄処理は、研磨定盤(プラテン)上ではない場所で行われる表面処理であり、研磨済研磨対象物を研磨定盤(プラテン)上から取り外した後に行われる表面処理であることが好ましい。洗浄処理においても、本発明に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させて、当該対象物の表面上の異物を除去することができる。
【0150】
洗浄処理を行う方法の例として、(i)研磨済研磨対象物を保持した状態で、洗浄ブラシを研磨済研磨対象物の片面または両面と接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら洗浄対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法、(ii)研磨済研磨対象物を表面処理組成物中に浸漬させ、超音波処理や攪拌を行う方法(ディップ式)等が挙げられる。かかる方法において、研磨済研磨対象物表面の異物は、洗浄ブラシによる摩擦力または超音波処理や攪拌によって発生する機械的力、および表面処理組成物による化学的作用によって除去される。
【0151】
上記(i)の方法において、表面処理組成物の研磨済研磨対象物への接触方法としては、特に限定されないが、ノズルから研磨済研磨対象物上に表面処理組成物を流しながら研磨済研磨対象物を高速回転させるスピン式、研磨済研磨対象物に表面処理組成物を噴霧して洗浄するスプレー式などが挙げられる。
【0152】
短時間でより効率的な汚染除去ができる点からは、洗浄処理は、スピン式やスプレー式を採用することが好ましく、スピン式であることがさらに好ましい。
【0153】
このような洗浄処理を行うための装置としては、カセットに収容された複数枚の研磨済研磨対象物を同時に表面処理するバッチ式洗浄装置、1枚の研磨済研磨対象物をホルダーに装着して表面処理する枚葉式洗浄装置などがある。洗浄時間の短縮等の観点からは、枚葉式洗浄装置を用いる方法が好ましい。
【0154】
さらに、洗浄処理を行うための装置として、研磨定盤(プラテン)から研磨済研磨対象物を取り外した後、当該対象物を洗浄ブラシで擦る洗浄用設備を備えている研磨装置が挙げられる。このような研磨装置を用いることにより、研磨済研磨対象物の洗浄処理を、より効率よく行うことができる。
【0155】
かような研磨装置としては、研磨済研磨対象物を保持するホルダー、回転数を変更可能なモーター、洗浄ブラシ等を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。なお、CMP工程の後、リンス研磨工程を行う場合、当該洗浄処理は、リンス研磨工程にて用いた研磨装置と同様の装置を用いて行うことが、より効率的であり好ましい。
【0156】
洗浄ブラシは、特に制限されないが、好ましくは、樹脂製ブラシである。樹脂製ブラシの材質は、特に制限されないが、PVA(ポリビニルアルコール)が好ましい。洗浄ブラシは、PVA製スポンジであることがより好ましい。
【0157】
洗浄条件にも特に制限はなく、表面処理対象物(研磨済研磨対象物)の種類、ならびに除去対象とする残渣の種類および量に応じて、適宜設定することができる。例えば、洗浄ブラシの回転数は10rpm(0.17s-1)以上200rpm(3.33s-1)以下であることが、洗浄対象物の回転数は10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.67s-1)以下であることが、それぞれ好ましい。洗浄ブラシに表面処理組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、洗浄ブラシおよび洗浄対象物の表面が常に表面処理組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。洗浄時間も特に制限されないが、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いる工程については5秒以上180秒以下であることが好ましい。このような範囲であれば、異物をより効果的に除去することが可能である。
【0158】
洗浄の際の表面処理組成物の温度は、特に制限されず、通常は室温でよいが、性能を損なわない範囲で、40℃以上70℃以下程度に加温してもよい。
【0159】
上記(ii)の方法において、浸漬による洗浄方法の条件については、特に制限されず、公知の手法を用いることができる。
【0160】
上記(I)または(II)の方法による表面処理を行う前に水による洗浄を行ってもよい。
【0161】
(後洗浄処理)
また、表面処理方法としては、本発明に係る表面処理組成物を用いた前記(I)または(II)の表面処理の後、研磨済研磨対象物をさらに洗浄処理することが好ましい。本明細書では、この洗浄処理を後洗浄処理と称する。後洗浄処理としては、特に制限されないが、例えば、単に表面処理対象物に水を掛け流す方法、単に表面処理対象物を水に浸漬する方法等が挙げられる。また、上記説明した(II)の方法による表面処理と同様に、表面処理対象物を保持した状態で、洗浄ブラシと表面処理対象物の片面または両面とを接触させて、その接触部分に水もしくは水溶液(例えば、NH水溶液)を供給しながらまたは水および水溶液(例えば、NH水溶液)をいずれかの順番で供給(水を供給した後水溶液を供給または水溶液を供給した後水を供給)しながら、表面処理対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法(ブラシ洗浄)、表面処理対象物を水中に浸漬させ、超音波処理や攪拌を行う方法(ディップ式)等が挙げられる。これらの中でも、表面処理対象物を保持した状態で、洗浄ブラシと、表面処理対象物の片面または両面と、を接触させてその接触部分に水もしくは水溶液(例えば、NH水溶液)を供給しながらまたは水および水溶液(例えば、NH水溶液)をいずれかの順番で供給(水を供給した後水溶液を供給またはNH水溶液を供給した後水を供給)しながら、表面処理対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法であることが好ましい。なお、後洗浄処理の装置および条件としては、前述の(II)の表面処理の説明を参照することができる。ここで、後洗浄処理に用いる水としては、特に脱イオン水を用いることが好ましい。
【0162】
本発明の一形態に係る表面処理組成物で表面処理を行うことによって、残渣が極めて除去されやすい状態となる。このため、本発明の一形態の表面処理に係る表面処理組成物で表面処理を行った後、水を用いてさらなる洗浄処理を行うことで、残渣が極めて良好に除去されることとなる。
【0163】
[半導体基板の製造方法]
本発明に係る表面処理方法は、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板である場合に、好適に適用される。すなわち、本発明は、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、当該研磨済半導体基板を、上記表面処理方法によって研磨済半導体基板の表面における残渣を低減することを含む、半導体基板の製造方法をも提供する。
【0164】
この際、研磨済研磨対象物は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、およびポリシリコンの少なくとも一を含む。すなわち、本発明は、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、砥粒を含む研磨用組成物を用いて、窒化ケイ素、酸化ケイ素、およびポリシリコンからなる群から選択される少なくとも1種を含む研磨前半導体基板を研磨することによって、研磨済半導体基板を得る研磨工程と、本発明に係る表面処理組成物を用いて、前記研磨済半導体基板の表面における前記砥粒を含む残渣を低減する表面処理工程と、を含む半導体基板の製造方法をも提供する。
【0165】
かかる製造方法が適用される半導体基板の詳細については、上記表面処理組成物によって表面処理される研磨済研磨対象物の説明の通りである。
【0166】
また、半導体基板の製造方法は、研磨済半導体基板の表面を、本発明に係る表面処理組成物を用いて表面処理する工程(表面処理工程)を含むものであれば、特に制限されない。かかる製造方法として、例えば、研磨済半導体基板を形成するための研磨工程および洗浄工程を有する方法が挙げられる。また、他の一例としては、研磨工程および洗浄工程に加え、研磨工程および洗浄工程の間に、リンス研磨工程を有する方法が挙げられる。以下、これらの各工程について説明する。
【0167】
<研磨工程>
半導体基板の製造方法に含まれうる研磨工程は、半導体基板を研磨して、研磨済半導体基板を形成する工程である。
【0168】
研磨工程は、半導体基板を研磨する工程であれば特に制限されないが、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)工程であることが好ましい。また、研磨工程は、単一の工程からなる研磨工程であっても複数の工程からなる研磨工程であってもよい。複数の工程からなる研磨工程としては、例えば、予備研磨工程(粗研磨工程)の後に仕上げ研磨工程を行う工程や、1次研磨工程の後に1回または2回以上の2次研磨工程を行い、その後に仕上げ研磨工程を行う工程等が挙げられる。本発明に係る表面処理組成物を用いた表面処理工程は、上記仕上げ研磨工程後に行われると好ましい。
【0169】
研磨用組成物としては、半導体基板の特性に応じて、公知の研磨用組成物を適宜使用することができる。研磨用組成物としては、特に制限されないが、例えば、砥粒、水溶性高分子、pH調整剤、および溶媒を含む研磨用組成物等が挙げられる。
【0170】
砥粒としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。また、該砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。なお、本明細書において特にことわりの無い限り、砥粒は表面修飾されていないものを指す。砥粒は、1種単独で用いてもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。これら砥粒の中でも、シリカが好ましく、コロイダルシリカがより好ましい。
【0171】
砥粒の平均一次粒子径の下限は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、30nm以上であることが特に好ましい。かような範囲であれば、高い研磨速度を維持できるため、粗研磨工程において好適に使用できる。また、砥粒の平均一次粒子径の上限は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。いくつかの態様において、平均一次粒子径は75nm以下でもよく、60nm以下でもよく、50nm以下であっても良い。かような範囲であれば、研磨後の研磨対象物の表面に欠陥が生じるのをより抑えることができる。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0172】
砥粒の平均二次粒子径の下限は、15nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、40nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることがさらにより好ましく、60nm以上であることが特に好ましい。かような範囲であれば、高い研磨速度を維持することができる。また、砥粒の平均二次粒子径の上限は、300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることがさらにより好ましく、80nm以下が特に好ましい。かような範囲であれば、研磨後の研磨対象物の表面に欠陥が生じるのをより抑えることができる。砥粒の平均二次粒子径は動的光散乱法により測定することができる。例えば、大塚電子株式会社製の型式「FPAR-1000」またはその相当品を用いて測定することができる。
【0173】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、砥粒の含有量は、研磨用組成物に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.4質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましい。砥粒の含有量の増大によって、研磨速度が向上する。また、研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、スクラッチ防止等の観点から、砥粒の含有量は、通常は10質量%以下が適当であり、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。砥粒の含有量を少なくすることは、経済性の観点からも好ましい。なお、砥粒を2種以上組み合わせて用いる場合は、上記の含有量は2種以上の砥粒の合計含有量を指す。
【0174】
水溶性高分子としては、セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ビニルアルコール系ポリマー等が挙げられる。具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース、プルラン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体やブロック共重合体、ポリビニルアルコール、アセタール化ポリビニルアルコール、ビニルアルコールとアルキレンオキサイドとの共重合体、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルピペリジン、ポリアクリロイルモルホリン、ポリヒドロキシアクリルアミド等が挙げられる。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、水溶性高分子を実質的に含まない態様、すなわち、少なくとも意図的には水溶性高分子を含有させない態様でも好ましく実施され得る。
【0175】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。なお、水溶性高分子を2種以上組み合わせて用いる場合は、上記の含有量は2種以上の水溶性高分子の合計含有量を指す。
【0176】
pH調整剤および溶媒は、それぞれ、上記<pH調整剤((D)成分)>および<溶媒>の項にて規定したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、pH調整剤は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、またはアンモニアであることが好ましく、アンモニアであることがより好ましい。また、溶媒は、水を含むことが好ましく、水のみであることがより好ましい。
【0177】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、研磨用組成物のpHが、本発明に係る表面処理組成物のpHより高い(8.0を超える)ことが好ましく、より好ましくは8.5以上であり、さらにより好ましくは9.5以上であり、特に好ましくは10.0以上である。研磨用組成物のpHが高くなると研磨速度が上昇する。一方、研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、研磨用組成物のpHは、好ましくは12.0以下であり、より好ましくは11.5以下である。研磨用組成物のpHが12.0以下であれば、砥粒の溶解を抑制し、該砥粒による機械的な研磨作用の低下を防ぐことができる。なお、研磨用組成物のpHは、実施例に記載の方法により測定した値を採用する。
【0178】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモーター等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。
【0179】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0180】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド(キャリア)回転数は、10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.67s-1)以下であることが好ましく、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下であることが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨用組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。研磨時間も特に制限されないが、研磨用組成物を用いる工程については5秒以上180秒以下であることが好ましい。
【0181】
<表面処理工程>
表面処理工程とは、本発明に係る表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減する工程をいう。半導体基板の製造方法において、リンス研磨工程の後、表面処理工程としての洗浄工程が行われてもよいし、リンス研磨工程のみ、または洗浄工程のみが行われてもよい。
【0182】
(リンス研磨工程)
リンス研磨工程は、半導体基板の製造方法において、研磨工程および洗浄工程の間に設けられてもよい。リンス研磨工程は、本発明の一形態に係る表面処理方法(リンス研磨処理方法)によって、研磨済研磨対象物(研磨済半導体基板)の表面における異物を低減する工程である。
【0183】
リンス研磨工程で用いられるリンス研磨方法の詳細は、上記リンス研磨処理に係る説明に記載の通りである。
【0184】
(洗浄工程)
洗浄工程は、半導体基板の製造方法において、研磨工程の後に設けられてもよいし、リンス研磨工程の後に設けられてもよい。洗浄工程は、本発明の一形態に係る表面処理方法(洗浄方法)によって、研磨済研磨対象物(研磨済半導体基板)の表面における異物を低減する工程である。
【0185】
洗浄工程で用いられる洗浄方法の詳細は、上記(後洗浄処理)におけるのと同様である。
【実施例0186】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件下で行った。
【0187】
[(A)~(D)成分の準備]
下記の(A)~(D)成分を準備した。
【0188】
<(A)成分:第四級含窒素オニウム塩化合物>
ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、分子量340:第一工業製薬株式会社製、製品名:カチオーゲン(登録商標)BC-50
ドデシルエチルジメチルアンモニウムエチル硫酸塩、分子量368:第一工業製薬株式会社製、製品名:カチオーゲン(登録商標)ES-L
メチルトリ-n-オクチルアンモニウムクロリド、分子量404:富士フイルム和光純薬株式会社製
トリメチルステアリルアンモニウムクロリド、分子量348:第一工業製薬株式会社製、製品名:カチオーゲン(登録商標)TMS
ジオレイルジメチルアンモニウムクロリド、分子量582:日油株式会社製、製品名:ニッサンカチオン(登録商標)2-OLR
1-メチル-1-ヒドロキシエチル-2-牛脂アルキル-イミダゾニウムクロリド:日油株式会社製、製品名:ニッサンカチオン(登録商標)AR-4。
【0189】
<(A’)成分:その他の塩化合物>
テトラデシルアミン酢酸塩、分子量273:日油株式会社製、製品名:ニッサンカチオン(登録商標)MA。
【0190】
<(B)成分:ノニオン性高分子>
ポリビニルアルコール(PVA)、Mw=10,000:日本酢ビ・ポバール株式会社製、製品名:JMR(登録商標)-10HH
ポリビニルアルコール(PVA)、Mw=5,000:日本酢ビ・ポバール株式会社製、製品名:JMR(登録商標)-3HH
ポリビニルピロリドン(PVP)、Mw=45,000:第一工業製薬株式会社製、製品名:ピッツコール(登録商標)K30A。
【0191】
<(B’)成分:その他の高分子>
ポリアクリル酸アンモニウム(PAA)、Mw=6,000:東亜合成株式会社製、製品名:A-30SL
ポリエチレンイミン、Mw=10,000:株式会社日本触媒製、製品名:EPOMIN(登録商標)SP-200。
【0192】
<(C)成分:pH緩衝剤>
酢酸アンモニウム、分子量77:関東化学株式会社製。
【0193】
<(C’)成分:その他のpH緩衝剤>
リン酸水素二アンモニウム、分子量132:富士フイルム和光純薬株式会社製
炭酸水素アンモニウム、分子量79:富士フイルム和光純薬株式会社製。
【0194】
<(D)成分:pH調整剤>
アンモニア、分子量17:関東化学株式会社製、製品名:ELアンモニア水。
【0195】
上記の(B)成分および(B’)成分の重量平均分子量(Mw)は、下記の方法により測定した。
【0196】
[重量平均分子量(Mw)の測定]
(B)成分および(B’)成分の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した重量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)の値を用いた。重量平均分子量は、下記の装置および条件によって測定した:
GPC装置:株式会社島津製作所製
型式:Prominence + ELSD検出器(ELSD-LTII)
カラム:VP-ODS(株式会社島津製作所製)
移動相 A:MeOH
B:酢酸1%水溶液
流量:1mL/分
検出器:ELSD temp.40℃、Gain 8、NGAS 350kPa
オーブン温度:40℃
注入量:40μL。
【0197】
[表面処理組成物のpHの測定]
表面処理組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))によって確認した。なお、以下で説明する研磨用組成物のpHも、同様の方法により測定した。
【0198】
[表面処理組成物の調製]
(実施例1)
(A)成分としてのラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドと、(B)成分としてのポリビニルアルコール(Mw=10,000)と、(C)成分としての酢酸アンモニウムと、(D)成分としてのアンモニアと、溶媒としての蒸留水とを、25℃で5分間攪拌混合することにより、表面処理組成物1を調製した。
【0199】
ここで、各成分の含有量は、以下の通りとした:表面処理組成物1の総量に対して、(A)成分の含有量は、0.01質量%(0.1g/L)とし、(B)成分の含有量は、0.10質量%(1g/L)とし、(C)成分の含有量は、0.25質量%(2.5g/L)とし、(D)成分(pH調整剤)の含有量は、表面処理組成物1のpHが9.0となる量とした。
【0200】
(実施例2および3)
各表面処理組成物のpHが、下記表1に記載の値となるように(D)成分の含有量(添加量)を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物2および3をそれぞれ調製した。
【0201】
(実施例4)
(A)成分の含有量を下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物4を調製した。
【0202】
(実施例5)
(B)成分の含有量を下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物5を調製した。
【0203】
(実施例6)
(B)成分としてのポリビニルアルコール(Mw=10,000)をポリビニルアルコール(Mw=5,000)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物6を調製した。
【0204】
(実施例7)
(B)成分としてのポリビニルアルコール(Mw=10,000)をポリビニルピロリドン(Mw=45,000)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物7を調製した。
【0205】
(実施例8)
(A)成分としてのラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドをドデシルエチルジメチルアンモニウムエチル硫酸塩に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物8を調製した。
【0206】
(実施例9)
(A)成分としてのラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドをドデシルエチルジメチルアンモニウムエチル硫酸塩に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、表面処理組成物9を調製した。
【0207】
(実施例10)
(A)成分としてのラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドをドデシルエチルジメチルアンモニウムエチル硫酸塩に変更したこと以外は、実施例7と同様にして、表面処理組成物10を調製した。
【0208】
(実施例11、13、15および17)
(A)成分としてのラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドを表1に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物11、13、15および17をそれぞれ調製した。
【0209】
(実施例12、14、16および18)
(A)成分としてのラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドを表1に記載のように変更したこと以外は、実施例7と同様にして、表面処理組成物12、14、16および18をそれぞれ調製した。
【0210】
(比較例1)
(A)成分としてのラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドと、(D)成分としてのアンモニアと、溶媒としての蒸留水とを、25℃で5分間攪拌混合することにより、表面処理組成物19を調製した。
【0211】
ここで、各成分の含有量は、以下の通りとした:表面処理組成物19の総量に対して、(A)成分の含有量は、0.01質量%(0.1g/L)とし、(D)成分の含有量は、表面処理組成物19のpHが9.0となる量とした。
【0212】
(比較例2)
(B)成分としてのポリビニルアルコール(Mw=10,000)と、(D)成分としてのアンモニアと、溶媒としての蒸留水とを、25℃で5分間攪拌混合することにより、表面処理組成物20を調製した。
【0213】
ここで、各成分の含有量は、以下の通りとした:表面処理組成物20の総量に対して、(B)成分の含有量は、0.10質量%(1g/L)とし、(D)成分の含有量は、表面処理組成物20のpHが9.0となる量とした。
【0214】
(比較例3~5)
(B)成分、(A)成分および(C)成分をそれぞれ添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物21~23をそれぞれ調製した。
【0215】
(比較例6および7)
(C)成分としての酢酸アンモニウムを表1に記載のように変更し、また、その添加量を表1に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物24および25をそれぞれ調製した。
【0216】
(比較例8)
(A)成分としてのラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドをテトラデシルアミン酢酸塩に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物26を調製した。
【0217】
(比較例9)
(A)成分としてのラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドをテトラデシルアミン酢酸塩に変更したこと以外は、実施例7と同様にして、表面処理組成物27を調製した。
【0218】
(比較例10および11)
(B)成分としてのポリビニルアルコール(Mw=10,000)を表1に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物28および29をそれぞれ調製した。なお、表面処理組成物28は、含有成分が凝集してしまい、後述の評価を実施できなかった。
【0219】
なお、上記にて調製した表面処理組成物1~29は、砥粒を含まない(砥粒の含有量=0質量%)。
【0220】
【表1-1】
【0221】
【表1-2】
【0222】
[研磨済研磨対象物の準備]
下記の化学的機械的研磨(CMP)工程によって研磨された後の研磨済研磨対象物(研磨済SiN基板、研磨済Poly-Si基板)を準備した。
【0223】
(CMP工程)
研磨対象物として、表面に厚さ2500ÅのSiN膜をCVDで形成したシリコンウェーハ(SiN基板)(300mm ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)、および表面に厚さ5000Åの多結晶シリコン膜をCVDで形成したシリコンウェーハ(Poly-Si基板)(300mm ウェーハ、アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製)を準備した。
【0224】
上記で準備したSiN基板およびPoly-Si基板について、下記組成の研磨用組成物を使用し、下記の条件にて研磨を行い、研磨済研磨対象物(研磨済SiN基板および研磨済Poly-Si基板)を得た。
【0225】
<研磨用組成物>
シリカスラリー(組成:コロイダルシリカ(平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm) 10質量%、ポリビニルピロリドン(ピッツコール(登録商標) K30A、第一工業製薬株式会社、Mw=45,000) 0.25質量%、ELアンモニア水(濃度:28.0%~30.0%(NHとして)(関東化学株式会社) 0.33質量%(NHとして)、溶媒:蒸留水)を準備した。上記シリカスラリーを蒸留水で5倍希釈することによって、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHは、10.0であった。
【0226】
<研磨装置および研磨条件>
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド
H800-Type1
コンディショナー(ドレッサー):ナイロンブラシ(3M社製)
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa、以下同じ)
研磨定盤回転数:80rpm
ヘッド回転数:80rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200mL/分
研磨時間:30秒間。
【0227】
[リンス研磨]
上記CMP工程にて研磨対象物(SiN基板、Poly-Si基板)表面をそれぞれ研磨した後、研磨済研磨対象物(研磨済SiN基板、研磨済Poly-Si基板)を研磨定盤(プラテン)上から取り外した。続いて、同じ研磨装置内で、研磨済研磨対象物を別の研磨定盤(プラテン)上に取り付け、下記の条件にて、上記実施例および比較例で調製した各表面処理組成物1~29を用いて、研磨済研磨対象物表面に対してリンス研磨処理を行った。
【0228】
<リンス研磨装置およびリンス研磨条件>
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド
H800-Type1
コンディショナー(ドレッサー):ナイロンブラシ(3M社製)
研磨圧力:1.0psi
定盤回転数:80rpm
ヘッド回転数:80rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
表面処理組成物供給量:300mL/分
研磨時間:60秒間。
【0229】
[後洗浄処理]
リンス研磨処理後、0.3%NH水溶液を用いて20秒間、基板表面のブラシ洗浄を行い、その後脱イオン水による洗浄を40秒間行うことで、リンス研磨済研磨対象物(実施例および比較例の表面処理組成物1~29を用いたリンス研磨済SiN基板1~29、ならびに、実施例および比較例の表面処理組成物1~29を用いたリンス研磨済Poly-Si基板1~29)を得た。
【0230】
[評価]
(残渣評価)
アルカリ条件下ではPoly-Si基板表面に水酸基が多く存在し、表面に水の膜が形成される。このため、欠陥(ディフェクト)(例えば、砥粒残渣、パッド屑や高分子等の有機残渣)がPoly-Si基板表面に付着しにくいまたは付着しない。一方、欠陥(ディフェクト)(例えば、砥粒残渣、パッド屑や高分子等の有機残渣)は、SiN基板上には付着しやすい。このため、本評価では、下記方法に従って、リンス研磨済SiN基板(リンス研磨処理後のSiN基板)上の砥粒残渣数および有機物残渣(パッド屑、高分子など)数を測定した。結果を下記表2(表中の「SiN上の欠陥数」)に示す。
【0231】
ケーエルエー・テンコール株式会社製、光学検査機Surfscan(登録商標)SP5を用いて、リンス研磨済SiN基板(リンス研磨処理後の研磨済SiN基板)表面上の残渣数を評価した。具体的には、リンス研磨済SiN基板の片面の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、0mmから5mmまでの領域)を除外した残りの部分について、直径50nmを超える残渣の数をカウントした。その後、上記リンス研磨済SiN基板に関して、砥粒残渣数および有機残渣数を、株式会社日立ハイテク製Review SEM RS6000を使用し、SEM観察によって測定した。まず、SEM観察にて、リンス研磨済SiN基板の片面の外周端部から幅5mmの部分を除外した残りの部分に存在する残渣を100個サンプリングした。次いで、サンプリングした100個の残渣の中から、目視によるSEM観察にて残渣の種類(砥粒または有機残渣)を判別し、砥粒残渣(SiO残渣)および有機残渣(パッド屑や高分子など)のそれぞれについて、その個数を測定した。なお、砥粒残渣(SiO残渣)数は、なるべく少ない方が好ましいが、30以下であれば許容でき、25以下であることが好ましく、20未満であることがより好ましい。有機残渣(パッド屑や高分子など)も、なるべく少ない方が好ましいが、15未満であれば許容でき、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。
【0232】
(砥粒のゼータ電位評価)
各表面処理組成物中の砥粒(コロイダルシリカ、SiO)のゼータ電位を下記方法に従って、測定した。結果を下記表2(表中の「ゼータ電位 砥粒[mV]」)に示す。
【0233】
砥粒のゼータ電位は、スペクトリス株式会社製(マルバーン事業部)のZetasizer Nano ZSPにより測定された値である。表面処理組成物を用いてリンス研磨中の砥粒のゼータ電位は、以下のようなモデル実験で測定された値とした。
【0234】
各表面処理組成物中にシリカ(SiO)粒子分散液(コロイダルシリカ、平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm、19.5質量%水分散液)をシリカ粒子濃度が0.02質量%となるように添加して、シリカ粒子濃度0.02質量%の測定液を調製した(測定液中のシリカ粒子の含有量(濃度)は、測定液の総質量に対して0.02質量%)。得られた測定液を上記装置(Zetasizer Nano ZSP)の測定専用セルに充填して、砥粒のゼータ電位(mV)を測定した。砥粒のゼータ電位(mV)は30mV以上であれば許容できる。
【0235】
(SiN基板およびパッド屑のゼータ電位評価)
各表面処理組成物中の窒化ケイ素(SiN基板)およびパッド屑(ポリウレタン)のゼータ電位を測定した。結果を下記表2(表中の「ゼータ電位 SiN[mV]」および「ゼータ電位 パッド屑[mV]」)に示す。なお、窒化ケイ素のゼータ電位が、多結晶シリコンのゼータ電位に比して、残渣の除去効果に大きな影響を及ぼすと推測される。このため、本評価では、表面処理組成物中のSiN基板のゼータ電位を測定した。
【0236】
研磨済SiN基板のゼータ電位、およびパッド屑のゼータ電位は、それぞれ、アントンパールジャパン株式会社製の固体ゼータ電位測定器SurPASS3(ゼータ電位計)により測定された値である。表面処理組成物を用いてリンス研磨中の研磨済SiN基板表面のゼータ電位、および表面処理組成物を用いてリンス研磨中のパッド屑のゼータ電位は、それぞれ、以下のようなモデル実験で測定された値とした。
【0237】
研磨済SiN基板表面のゼータ電位の測定には、表面に厚さ2500ÅのSiN膜をCVDで形成したシリコンウェーハ(SiN基板)(300mm ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)を60mm角に切断したものを、測定対象物として用いた。
【0238】
パッド屑のゼータ電位の測定には、ポリウレタンパッド(富士紡ホールディングス株式会社製、発泡ポリウレタンパッド、H800-Type1)を60mm角に切断し、これを測定対象物として用いた。
【0239】
これらの測定対象物を、それぞれゼータ電位計に設置した。次いで、上記で調製した表面処理組成物を測定対象物に通液させて、これらの測定対象物のゼータ電位(mV)をそれぞれ測定した。
【0240】
(エッチングレート評価)
各表面処理組成物を用いてリンス研磨中の研磨済SiN基板のエッチングレート、および表面処理組成物を用いてリンス研磨中の研磨済Poly-Si基板のエッチングレートは、それぞれ、以下のようなモデル実験で測定された値とした。これらの値を下記表2(表中の「SiN[Å/min]」および「Poly-Si[Å/min]」)に示す。
【0241】
研磨済SiN基板のエッチングレートの測定には、表面に厚さ2500ÅのSiN膜をCVDで形成したシリコンウェーハ(SiN基板)(300mm ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)を60mm角に切断したものを、測定対象物として用いた。
【0242】
研磨済Poly-Si基板のエッチングレートの測定には、表面に厚さ5000Åの多結晶シリコン膜をCVDで形成したシリコンウェーハ(Poly-Si基板)(300mm、アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製)を60mm角に切断したものを、測定対象物として用いた。
【0243】
これらの測定対象物の厚みを、それぞれ、光学式膜厚測定器(ラムダエースVM-2030:大日本スクリーン製造株式会社製)で測定した(浸漬前の厚み(Å))。次に、これらの測定対象物を、それぞれ、上記で調製した表面処理組成物に30分間浸漬した。所定時間浸漬後の測定対象物の厚みを、光学式膜厚測定器(ラムダエースVM-2030:大日本スクリーン製造株式会社製)で測定した(浸漬後の厚み(Å))。浸漬前後の厚みの差を浸漬時間(min)で除することにより、エッチングレート[=(浸漬前の厚み(Å)-浸漬後の厚み(Å))/浸漬時間(min)]を算出した。なお、研磨済SiN基板のエッチングレートは、なるべく小さい方が好ましいが、15Å/min未満であれば許容でき、10Å/min未満であることが好ましく、8Å/min未満であることがより好ましい。
【0244】
(ΔpH評価)
研磨対象物としてSiN基板を上記リンス研磨した前後の表面処理組成物のpHの差(ΔpH)[=(リンス研磨後の表面処理組成物のpH)-(リンス研磨前の表面処理組成物のpH)]を測定した。なお、リンス研磨前の表面処理組成物のpHは、上記表1に記載された表面処理組成物のpHである。これらの値を下記表2(表中の「ΔpH[-]」)に示す。なお、ΔpH(リンス研磨前後のpH変化)は、なるべく小さい方が好ましいが、1.0未満であれば許容でき、0.8未満であることが好ましく、0.3未満であることがより好ましい。
【0245】
【表2-1】
【0246】
【表2-2】
【0247】
上記表2から明らかなように、実施例の表面処理組成物によれば、比較例の表面処理組成物と比べて、SiN基板上の残渣を十分に除去できることが分かる。また、実施例の表面処理組成物によれば、Poly-Si基板に対するエッチングレートを低く抑えることができる。上記は、表面処理組成物製造直後に評価した結果であるが、長期間保存または貯蔵する場合には、防カビ剤(防腐剤)を含むことが好ましい。なお、防カビ剤(防腐剤)は上記結果に影響をほとんど及ぼさないまたは及ぼさないので、防カビ剤(防腐剤)を含む表面処理組成物も上記と同様の結果となると考察される。
【0248】
また、上記表2では、研磨対象物としてSiN基板をリンス研磨した前後の表面処理組成物のpHの差(ΔpH)を示したが、Poly-Si基板やTEOS膜を研磨対象物としてリンス研磨した前後の表面処理組成物のpHの差は、研磨対象物としてSiN基板をリンス研磨した前後の表面処理組成物のpHの差と同等であった。