(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146049
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】多孔質体及びその製造方法並びにその多孔質体から構成されたフィルタ
(51)【国際特許分類】
C04B 38/00 20060101AFI20231004BHJP
C04B 38/06 20060101ALI20231004BHJP
C04B 35/577 20060101ALI20231004BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20231004BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20231004BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
C04B38/06 E
C04B35/577
B01D39/20 D
B01D46/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053035
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】石澤 俊崇
【テーマコード(参考)】
4D019
4D058
4G019
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA05
4D019BB06
4D019BC20
4D019BD01
4D019CA01
4D019CB04
4D019CB06
4D019CB07
4D019CB09
4D058JA38
4D058JB06
4D058SA08
4G019FA12
(57)【要約】
【課題】耐熱衝撃性がより高められた多孔質体を提供する。
【解決手段】複数のセラミックス粒子と、前記複数のセラミックス粒子間を接合する、主成分として非晶質の酸化珪素を有する結合部と、前記複数のセラミックス粒子及び前記結合部の少なくともいずれか一方で外周縁が形成された複数の気孔と、を有する多孔質体であって、前記多孔質体の任意の複数の断面において、前記複数のセラミックス粒子の円相当径の個数分布から求めた10%積算径が4~11μmの範囲、50%積算径が6~17μmの範囲、90%積算径が11~27μmの範囲にあることを特徴とする多孔質体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセラミックス粒子と、
前記複数のセラミックス粒子間を接合する、主成分として非晶質の酸化珪素を有する結合部と、
前記複数のセラミックス粒子及び前記結合部の少なくともいずれか一方で外周縁が形成された複数の気孔と、
を有する多孔質体であって、
前記多孔質体の任意の複数の断面において、前記複数のセラミックス粒子の円相当径の個数分布から求めた10%積算径が4~11μmの範囲、50%積算径が6~17μmの範囲、90%積算径が11~27μmの範囲にあることを特徴とする多孔質体。
【請求項2】
前記10%積算径の常用対数をA1、前記50%積算径の常用対数をA2、前記90%積算径の常用対数をA3としたとき、(A3-A2)/(A2-A1)の値が0.70~2.00である請求項1に記載の多孔質体。
【請求項3】
前記結合部は、第1族元素及び第2族元素のうちの1種類以上の金属元素を更に含み、
前記複数のセラミックス粒子と前記結合部との合計の質量に対する前記金属元素の割合は、質量基準で20~500ppmである、請求項1又は2に記載の多孔質体。
【請求項4】
前記第1族元素はNa及びKのうちの少なくともいずれか一方であり、前記第2族元素はMg及びCaのうちの少なくともいずれか一方である、請求項3に記載の多孔質体。
【請求項5】
前記Na,前記K,前記Mg及び前記Caの質量の合計に対する前記Kの質量の割合が10%以下である、請求項4に記載の多孔質体。
【請求項6】
前記複数のセラミックス粒子のそれぞれは炭化珪素から成り、
前記結合部はクリストバライトを更に有しており、
前記多孔質体の一部をエックス線回折試験に供したとき、前記炭化珪素のピーク強度に対する前記クリストバライトのピーク強度の比は0.05以下である、請求項1又は2に記載の多孔質体。
【請求項7】
前記多孔質体の任意の断面において、セラミックス粒子の外周縁の周長をL1、前記セラミックス粒子の外周縁に対し接合した前記結合部の接合長をL2とするとき、L2/L1の値が0.3~0.95であるセラミックス粒子の面積が、前記複数のセラミックス粒子の面積の合計値に対して80%以上である、請求項1又は2に記載の多孔質体。
【請求項8】
前記セラミックス粒子の外周縁うち、前記セラミックス粒子と前記結合部により外周縁が形成された気孔に接している部分の長さをL3としたとき、L3/L2の値が0.2以下であるセラミックス粒子の面積が、前記複数のセラミックス粒子の面積の合計値に対して80%以上である、請求項7に記載の多孔質体。
【請求項9】
前記多孔質体の複数の任意の断面における、前記結合部の面積率の平均値は5~30%である、請求項1又は2に記載の多孔質体。
【請求項10】
前記気孔の体積率は、前記多孔質体の見かけの体積の35~65%である、請求項1又は2に記載の多孔質体。
【請求項11】
前記複数の気孔のうち、水銀圧入法で測定された気孔径が1.0μm未満である気孔は、前記多孔質体の10体積%以下であり、前記気孔径が100μmを超える気孔は、前記多孔質体の10体積%以下である、請求項1又は2に記載の多孔質体。
【請求項12】
固定型4点曲げ試験により測定された曲げ強度が10MPa以上であり、前記曲げ強度のヤング率に対する比が1.8×10-3以上である、請求項1又は2に記載の多孔質体。
【請求項13】
室温から800℃における熱膨張係数が4.2×10-6/K以下である、請求項1又は2に記載の多孔質体。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の多孔質体から構成されたフィルタ。
【請求項15】
複数のセラミックス粒子からなるセラミックス原料と、結合部用原料と、金属元素と、造孔材及びバインダとを多孔質体の原材料とし、前記原材料から作製されたセラミックス坏土を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を酸素雰囲気中で焼成する焼成工程と、
を有する多孔質体の製造方法であって、
前記金属元素は、第1族元素及び第2族元素のうちの1種類以上を含み、前記セラミックス原料と前記結合部用原料との合計の質量に対して、質量基準で20~500ppm含有するとともに、
前記結合部用原料が、主成分として非晶質の酸化珪素を含み、
前記セラミックス原料の個数分布の10%積算径が5~13μmの範囲、50%積算径が8~21μmの範囲、90%積算径が13~34μmの範囲にあり、
前記焼成工程における焼成温度は、下限値が1000℃であり、上限値が1250℃であることを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項16】
前記セラミックス原料の個数分布の10%積算径の常用対数をB1、50%積算径の常用対数をB2、及び90%積算径の常用対数をB3としたとき、(B3-B2)/(B2-B1)の値が0.85~2.0である、請求項15に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項17】
前記第1族元素はNa及びKの少なくともいずれか一方であり、前記第2族元素はMg及びCaの少なくともいずれか一方であり、
前記Naを含む酸化物の含有率をfNa [ppm]、前記Kを含む酸化物の含有率をfK[ppm]、前記Mgを含む酸化物の含有率をfMg[ppm]及び前記Caを含む酸化物の含有率をfCa[ppm]としたとき、前記焼成工程における焼成温度の上限値Tmax[℃]は、下記式
Tmax=1250-0.8×fNa-3.24×fK-0.71×fMg-0.23×fCa
で計算される値である、請求項15又は16に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項18】
前記結合部用原料の個数分布の50%積算径は0.1~5μmの範囲であって、前記セラミックス原料の個数分布の50%積算径は前記結合部用原料の個数分布の50%積算径の5~150倍である、請求項15又は16に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項19】
前記結合部用原料において、個数分布の10%積算径が0.05~1μmの範囲であり、90%積算径が0.2~10μmの範囲であって、前記90%積算径は前記10%積算径の2~10倍である、請求項18に記載の多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス粒子を含む多孔質体及びその製造方法並びにその多孔質体から構成されたフィルタに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フィルタとして使用されるハニカム構造体として、耐火性粒子としての炭化珪素粒子をガラス化素材で結合したハニカム構造体が記載されている。特許文献2には、骨材となる炭化珪素粒子と、金属珪素とを含む炭化珪素質多孔体であって、炭化珪素質多孔体の平均気孔径が炭化珪素粒子の平均粒子径の0.25倍以上とした炭化珪素質多孔体が記載されている。
【0003】
耐火性を有する骨材である多数のセラミックス粒子を、結合部を介して互いに結合することにより得られる耐熱衝撃性を有する多孔質体は、例えばフィルタなどの用途に利用される。例えば、DPF(Diesel Particulate Filter)と呼ばれるフィルタに上記した多孔質体を用いた場合、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微小な粒子状物質(PM:Particulate Matter)等の微粒子が多孔質体によって捕集され、微粒子の数が低減したクリーンな排気ガスが排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-199777号公報
【特許文献2】特開2002-356383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなDPFとして適用される多孔質体に要求される特性の一つとして、耐熱衝撃性がある。例えば、捕集された微粒子を焼成してフィルタの捕集特性を再生させる再生処理時には、多孔質体が高温環境下におかれる。このため、多孔質体の周辺温度の変化に伴って多孔質体に印加される熱衝撃が大きい。したがって、DPF等に適用される多孔質体には、高い耐熱衝撃性が要求される。本発明は、耐熱衝撃性がより高められた多孔質体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0007】
[1] 本発明に係る多孔質体は、
複数のセラミックス粒子と、
前記複数のセラミックス粒子間を接合する、主成分として非晶質の酸化珪素を有する結合部と、
前記複数のセラミックス粒子及び前記結合部の少なくともいずれか一方で外周縁が形成された複数の気孔と、
を有する多孔質体であって、
前記多孔質体の任意の複数の断面において、前記複数のセラミックス粒子の円相当径の個数分布から求めた10%積算径が4~11μmの範囲、50%積算径が6~17μmの範囲、90%積算径が11~27μmの範囲にある。
【0008】
[2] [1]に記載の多孔質体において、前記10%積算径の常用対数をA1、前記50%積算径の常用対数をA2、前記90%積算径の常用対数をA3としたとき、(A3-A2)/(A2-A1)の値が0.70~2.00である。
【0009】
[3] [1]又は[2]に記載の多孔質体において、前記結合部は、第1族元素及び第2族元素のうちの1種類以上の金属元素を更に含み、前記複数のセラミックス粒子と前記結合部との合計の質量に対する前記金属元素の割合は、質量基準で20~500ppmである。
【0010】
[4] [3]に記載の多孔質体において、前記第1族元素はNa及びKのうちの少なくともいずれか一方であり、前記第2族元素はMg及びCaのうちの少なくともいずれか一方である。
【0011】
[5] [4]に記載の多孔質体において、前記Na,前記K,前記Mg及び前記Caの質量の合計に対する前記Kの質量の割合は10%以下である。
【0012】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の多孔質体において、前記複数のセラミックス粒子のそれぞれは、炭化珪素から成り、
前記結合部はクリストバライトを更に有しており、
前記多孔質体の一部をエックス線回折試験に供したとき、前記炭化珪素のピーク強度に対する前記クリストバライトのピーク強度の比は0.05以下である。
【0013】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の多孔質体の任意の断面において、セラミックス粒子の外周縁の周長をL1、前記セラミックス粒子の外周縁に対し接合した前記結合部の接合長をL2とするとき、L2/L1の値が0.3~0.95であるセラミックス粒子の面積が、前記複数のセラミックス粒子の面積の合計値に対して80%以上である。
【0014】
[8] [7]に記載の多孔質体において、前記セラミックス粒子の外周縁うち、前記セラミックス粒子と前記結合部により外周縁が形成された気孔に接している部分の長さをL3としたとき、L3/L2の値が0.2以下であるセラミックス粒子の面積が、前記複数のセラミックス粒子の面積の合計値に対して80%以上である。
【0015】
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の多孔質体の複数の任意の断面における、前記結合部の面積率の平均値は5~30%である。
【0016】
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の多孔質体において、前記気孔の体積率は、前記多孔質体の見かけの体積の35~65%である。
【0017】
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の多孔質体において、前記複数の気孔のうち、水銀圧入法で測定された気孔径が1.0μm未満である気孔は、前記多孔質体の見かけの体積の10体積%以下であり、前記気孔径が100μmを超える気孔は、前記多孔質体の見かけの体積の10体積%以下である。
【0018】
[12] [1]~[11]のいずれかに記載の多孔質体において、固定型4点曲げ試験により測定された曲げ強度は10MPa以上であり、前記曲げ強度のヤング率に対する比は1.8×10-3以上である。
【0019】
[13] [1]~[12]のいずれかに記載の多孔質体において、室温から800℃における熱膨張係数は4.2×10-6/K以下である。
【0020】
[14] 本発明の他の一態様は、[1]~[13]のいずれかに記載の多孔質体から構成されたフィルタである。
【0021】
[15] 本発明に係る多孔質体の製造方法は、
複数のセラミック粒子からなるセラミックス原料と、結合部用原料と、金属元素と、造孔材及びバインダとを多孔質体の原材料とし、前記原材料から作製されたセラミックス坏土を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を酸素雰囲気中で焼成する焼成工程と、
を有する多孔質体の製造方法であって、
前記金属元素は、第1族元素及び第2族元素のうちの1種類以上を含み、前記セラミックス原料と前記結合部用原料との合計の質量に対して、質量基準で20~500ppm含有するとともに、
前記結合部用原料が、主成分として非晶質の酸化珪素を含み、
前記セラミックス原料の個数分布の10%積算径が5~13μmの範囲、50%積算径が8~21μmの範囲、90%積算径が13~34μmの範囲にあり、
前記焼成工程における焼成温度は、下限値が1000℃であり、上限値が1250℃である。
【0022】
[16] [15]に記載の多孔質体の製造方法において、前記セラミックス原料の個数分布の10%積算径の常用対数をB1、50%積算径の常用対数をB2、及び90%積算径の常用対数をB3としたとき、(B3-B2)/(B2-B1)の値が0.85~2.0である。
【0023】
[17] [15]又は[16]のいずれかに記載の多孔質体の製造方法において、前記第1族元素はNa及びKの少なくともいずれか一方であり、前記第2族元素はMg及びCaの少なくともいずれか一方であり、
前記Naを含む酸化物の含有率をfNa[ppm]、前記Kを含む酸化物の含有率をfK[ppm]、前記Mgを含む酸化物の含有率をfMg[ppm]及び前記Caを含む酸化物の含有率をfCa[ppm]としたとき、前記焼成工程における焼成温度の上限値Tmax[℃]は、下記式
Tmax=1250-0.8×fNa-3.24×fK-0.71×fMg-0.23×fCa
で計算される値である。
【0024】
[18] [15]~[17]のいずれかに記載の多孔質体の製造方法において、前記結合部用原料の個数分布の積算径の50%積算径は0.1~5μmの範囲であって、前記セラミックス原料の個数分布の50%積算径は前記結合部用原料の個数分布の50%積算径の5~150倍である。
【0025】
[19] [18]に記載の多孔質体の製造方法において、前記結合部用原料の個数分布の50%積算径が0.05~1μmの範囲であり、90%積算径が0.2~10μmの範囲であって、前記90%積算径は前記10%積算径の2~10倍である。
【発明の効果】
【0026】
本願において開示される発明によれば、熱衝撃破壊抵抗係数が大きくなるため耐熱衝撃性が高い多孔質体を得ることができる、特に自動車用エンジンからお排気ガスに含まれる微粒子の除去に用いられるフィルタに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る多孔質体の一断面をEPMAで撮影した組成像の例である。
【
図2】
図1の一部を拡大してEPMAで撮影した二次電子像である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る多孔質体のセラミックス粒子の粒子径と個数基準での積算頻度との関係を例示するグラフである。
【
図4】
図2に示す多孔質体の一部分をエックス線回折試験に供して得られた回折パターンを示す図である。
【
図5】本発明に係る多孔質体の任意の断面におけるセラミックス粒子の外周縁の周長及び結合部との接合長を説明するための模式図である。
【
図6】本発明に係る多孔質体の任意の断面におけるセラミックス粒子と結合部との間に存在する空隙を説明するための模式図である。
【
図7】本発明に係る多孔質体で構成されたフィルタの模式的な斜視図及びその端面の構造を模式的に示す部分拡大図である。
【
図8】
図8に示すフィルタの軸方向の断面の一部であって通過する排気ガスの経路を模式的に示す説明図である。
【
図9】本発明に係る多孔質体から構成されるフィルタの製造工程を示すフロー図である。
【
図10】
図10に示す成形工程で使用する成形機の構成の模式断面図である。
【
図11】
図11に示す成形機で使用する金型の端面の構造を示す模式平面図である。
【
図12】実施例1に係る多孔質体の断面のEPMAによる元素マッピングの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明に係る多孔質体の一実施形態について、
図1~
図6を参照しつつ説明する。なお、
図1は、本発明の一実施形態に係る多孔質体の一断面を電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer、以下、EPMAともいう。)で撮影した組成像、
図2は、
図1の多孔質体の一部を拡大してEPMAで撮影した二次電子像、
図3は、本発明の一実施形態に係る多孔質体のセラミックス粒子の粒子径と個数基準での積算(累積)頻度との関係を例示するグラフ、
図4は、
図2に示す多孔質体の一部分をエックス線回折試験に供して得られた回折パターンを示す図、
図5は、本発明に係る多孔質体の任意の断面におけるセラミックス粒子の外周縁の周長および結合部との接合長を説明するための模式図、
図6は、本発明に係る多孔質体の任意の断面におけるセラミックス粒子と結合部との間に空隙を説明するための模式図である。
【0029】
図1および
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る多孔質体100は、複数のセラミックス粒子10と、複数のセラミックス粒子10同士を接合する非晶質の酸化珪素を主成分として有する結合部20と、複数のセラミックス粒子10および結合部20の少なくとも一方により外周縁が形成された複数の気孔30と、を有する。そして、多孔質体100の任意の複数の断面において、複数のセラミックス粒子10の円相当径の個数分布から求めた10%積算径は4~11μmの範囲、50%積算径は6~17μmの範囲、90%積算径は11~27μmの範囲にある。
【0030】
<耐熱衝撃性の評価指標:熱衝撃破壊抵抗係数R>
次に、多孔質体100の耐熱衝撃性の評価の指標として用いる熱衝撃破壊抵抗係数を説明する。熱衝撃破壊抵抗係数Rは、ビオの係数βが無限大であって熱伝導率が考慮されない熱衝撃条件のように、急激な温度変化に伴って物体に生じる熱応力に対する抵抗性を示す係数である。熱衝撃破壊抵抗係数Rの数値が大きいほど抵抗性が高い、すなわち急激な熱衝撃においてもその物体が破壊し難いことを意味する。熱衝撃破壊抵抗係数Rは、破壊強度をS、ポアソン比をν、熱膨張係数をα、ヤング率をEとすると、下記の式(1)で計算される。
R=S(1-ν)/αE ・・・式(1)
ここで、本発明において、式(1)の破壊強度Sは、多孔質体100の曲げ強度の値を用いることとする。
【0031】
上記式(1)によれば、熱衝撃破壊抵抗係数Rは破壊強度Sに比例し、熱膨張係数αおよびヤング率Eに反比例する。したがって、破壊強度S(曲げ強度)の値を大きくする、あるいは熱膨張係数αまたはヤング率Eを小さくすることにより、多孔質体の熱衝撃破壊抵抗係数Rの値を大きくすることができる。
【0032】
図1を参照する。上記したように本実施形態に係る多孔質体100は、任意の複数の断面において、円相当径の分布から求めた複数のセラミックス粒子10の個数分布の50%積算径が4~11μmの範囲、50%積算径が6~17μmの範囲、90%積算径が11~27μmの範囲にある。このような個数分布積算径の範囲に構成とすることにより、多孔質体100の破壊強度Sが大きくなるので、熱衝撃破壊抵抗係数Rが大きくなって耐熱衝撃性が高くなる。破壊強度Sをより大きくする観点から、セラミックス粒子10の10%積算径は5~8μmの範囲、50%積算径は8~15μmの範囲、90%積算径は15~25μmの範囲にあることがより好ましい。
【0033】
これに対して、多孔質体100の任意の複数の断面において、円相当径の分布から求めた複数のセラミックス粒子10の個数分布の10%積算径が4μm未満、50%積算径が6μm未満、および90%積算径が11μm未満である場合、セラミックス粒子10が細か過ぎるため、多孔質体100でフィルタを構成した際に、排気ガスが通過できる気孔30(通気孔31)が少なすぎるために圧力損失が増大する。また一方、多孔質体100の任意の複数の断面において、円相当径の分布から求めた複数のセラミックス粒子10の10%積算径が11μm超、50%積算径が17μm超、および90%積算径が27μm超である場合、セラミックス粒子10が粗過ぎるため、多孔質体100の破壊強度S(曲げ強度)を十分に得ることができない。
【0034】
ここで、「円相当径の分布から求めた複数のセラミックス粒子10の個数分布の積算径」とは、セラミックス粒子10をEPMAで観察して撮像し、得られた粒子画像を画像解析することにより、セラミックス粒子10の粒子径の円相当径を算出し、その個数基準での粒子径分布(以下、粒度分布と記載する場合がある。)を求め、全個数を100%としたときに、粒子径が小さい側からの積算(累積)個数が所定の割合(%)となる粒子径をいう。
【0035】
次に「個数分布の積算径」について
図3を用いて説明する。
図3に示すグラフ内の曲線は、横軸を常用対数目盛で表示した粒子径、縦軸を積算頻度(累積頻度)として示した積算粒子径分布曲線である。セラミックス粒子10の個数分布の「10%積算径(D10)」、「50%積算径(D50)」および「90%積算径(D90)」とは、
図3の個数基準での粒子径分布から求めた積算粒子径分布曲線において、粒子径が小さい側から順に積算(累積)したときの個数が、それぞれ10%、50%および90%となる点の粒子径をいう。なお、「50%積算径(D50)」は、「個数基準での平均粒子径D50」または「メジアン粒子径」と一般に称されている。
【0036】
このように、例えば個数分布の50%積算径は一般的には「D50」と表記されるが、
図1に示す製品である多孔質体100に観察されるセラミックス粒子の50%積算径を「Dc50」、後述するセラミックス原料の50%積算径を「Da50」、同様に後述する結合部用原料の粒子の50%積算径を「Db50」のように表記することによって、以下、互いを区別する場合がある(10%積算径、90%積算径についても同様である。)。
【0037】
ここで、セラミックス粒子10が主に炭化珪素(SiC)からなることを例にして、セラミックス粒子の観察方法の一例について説明する。セラミックス粒子10の観察は、多孔質体100の複数(少なくとも5か所)の任意の断面を選択し、各断面において任意に選択した少なくとも6視野について、各視野の領域内のセラミックス粒子の粒子数が100~1000個となるように倍率を調整して行う(例えば、1000倍の倍率で320μm×240μmの領域)。セラミックス粒子が炭化珪素であることを同定する方法としては、例えばEPMAを用いて、セラミックス粒子の画像の撮像と、Si(珪素)、O(酸素)、C(炭素)の元素マッピングを実施し、セラミックス粒子10のうち、元素マッピングでSiとCとの両方が検出されたものを炭化珪素の粒子と同定する。
【0038】
また、セラミックス粒子の円相当径は、例えばEPMAの元素マッピングにより得られた炭化珪素の粒子のみの画像をJIS R 1670に準拠して画像解析ソフトウェア(旭化成エンジニアリング、A像くん)を用いて画像解析することにより、粒子画像の投影面積と等しい面積を有する真円の直径に換算した値として算出することができる。
【0039】
多孔質体100は、セラミック原料を含む多孔質体の原材料からなる成形体を1000℃~1250℃という比較的低い温度で焼成して製造する。このような低温で焼成することにより、セラミック原料の粉末粒子同士が凝集して焼結や粒成長をしないため、セラミック原料の粉末粒子の変形や粗大化が抑制される。このため、製品としての多孔質体100を構成する複数のセラミックス10の粒子形状や粒子径は、焼成前のセラミック原料の状態からほとんど変化しない。すなわち、セラミックス原料の粒子径が細粒のまま維持されて製造されることから、多孔質体100の破壊強度Sを大きくすることができる。
【0040】
したがって、多孔質体100を構成するセラミックス粒子10の個数分布の10%積算径Dc10、50%積算径Dc50および90%積算径Dc90の値は、その多孔質体100を製造したセラミック原料の粉末粒子の個数分布の10%積算径Da10、50%積算径Da50および90%積算径Da90の値とほぼ同じとなる。したがって、多孔質体100のセラミックス粒子10の所望のDc10、Dc50およびDc90は、その製造におけるセラミック原料の粉末粒子のDa10、Da50およびDa90をその所望の値になるように調整することにより得ることができる。
【0041】
本実施形態に係る多孔質体100においては、任意の複数の断面における、円相当径の分布から求めた複数のセラミックス粒子の個数分布の積算径のうちDc10の常用対数をC1、Dc50の常用対数をA2、Dc90の常用対数をA3としたとき、(A3-A2)/(A2-A1)の値が0.70~2.00であることが好ましい。
図3に示す積算粒子径分布曲線において、個数分布の10%積算径D10(Dc10)の常用対数をA1、50%積算径D50(Dc50)の常用対数をA2、90%積算径D90(Dc90)の常用対数をA3としたときに、セラミックス粒子10の粒子径分布の幅である(A3-A2)および(A2-A1)は、それぞれ
図3に示す範囲となる。つまり(A3-A2)はメジアン粒子径D50(Dc50)より大きい粒子径の幅を、(A2-A1)はメジアン粒子径D50(Dc50)より小さい粒子径の幅を示す。
【0042】
A3とA2の差(A3-A2)およびA2とA1の差(A2-A1)は、セラミックス粒子10の粒子径分布の細粒から粗粒までの幅(広がり)、即ち、粒子径分布がシャープ(狭い)かブロード(広い)かの程度を表す指標(尺度)である。粒子径分布がシャープの場合、メジアン粒子径D50に対して小さな細粒および大きな粗粒が少ないことを意味する。一方で粒子径分布がブロードの場合、メジアン粒子径D50に対して小さな細粒および大きな粗粒が多いことを意味する。多孔質体100でフィルタを構成する際に、排気ガスが通過するときの圧力損失が増大するため、小さな細粒は少ない方が好ましい。一方、多孔質体100の破壊強度Sを低下させるため、大きな粗粒は少ない方が好ましい。(A3-A2)および(A2-A1)は、いずれもその値(幅)が小さいほど、セラミックス粒子10の粒子径分布がシャープであることを意味する。
【0043】
(A3-A2)/(A2-A1)の値は、(A3-A2)の幅と(A2-A1)の幅との比率を表し、(A3-A2)および(A2-A1)と同様にセラミックス粒子10の粒子径分布の幅(広がり)を表す指標である。(A3-A2)/(A2-A1)の値が1.0に近いほど、セラミックス粒子10の粒子径分布がシャープであることを意味する。(A3-A2)/(A2-A1)の値を0.70~2.00とすることで、セラミックス粒子10の粒子径分布がシャープとなって、小さな細粒や大きな粗粒を過剰に含まないため、多孔質体100の圧力損失の増大を抑制しつつ破壊強度Sを増大して熱衝撃破壊抵抗係数Rを大きくできるので、耐熱衝撃性の高い多孔質体100を得ることができる。(A3-A2)/(A2-A1)の値が0.70未満では粗粒が多く粒子径分布が粗粒に偏ることとなって破壊強度Sが低下する。一方、(A3-A2)/(A2-A1)の値が2.00を超えると細粒が多く粒子径分布が細粒に偏ることとなって圧力損失が増大する。(A3-A2)/(A2-A1)の値は1.00~1.30であることがより好ましい。以下、本実施形態に係る多孔質体100について、詳細に説明する。
【0044】
<多孔質体の構造>
図1および
図2に示すように、多孔質体100は、複数のセラミックス粒子10と、複数のセラミックス粒子10の間を接合する結合部20と、複数の気孔30と、を有する。結合部20は、主成分として非晶質の酸化珪素を有する。複数のセラミックス粒子10は、前述した所定の範囲のDc10、Dc50およびDc90に構成されている。複数の気孔30のそれぞれは、セラミックス粒子10および結合部20の少なくとも一方で外周縁が形成された孔である。複数の気孔30は更に、通気孔31と空隙32とから構成される。
【0045】
複数の気孔30を構成する通気孔31と空隙32とは、その大きさにより互いに区別することができる。通気孔31は、多孔質体100の製造時の原料に含まれる造孔材に起因して意図的に形成されるものである。一方、空隙32は、多孔質体100を製造する焼成工程において結合部20の内部に生じる細かい気泡である。このため、通気孔31の大きさは空隙32の大きさよりも大きい。
【0046】
空隙32は、珪素を含む酸化物を有する結合部20の内部に形成される。したがって、空隙32は、多孔質体100の任意の断面において観察される気孔30のうち、その外周縁から0.5μm外側の範囲の領域の70%以上の面積が珪素を含む酸化物で占められている気孔30、と定義する。これに対して、通気孔31は、結合部20の内部には形成されず、セラミックス粒子10に直接に接しているか、またはセラミックス粒子10の表面に形成された酸化物皮膜11を介してセラミックス粒子10と接している場合が多い。したがって、通気孔31は、多孔質体100の任意の断面において観察される気孔30のうち、複数のセラミックス粒子10、または複数のセラミックス粒子10の表面に形成された酸化物皮膜11の少なくともいずれか一方によってその外周縁の長さの半分以上が形成されている気孔30、と定義する。
【0047】
なお、酸化物皮膜11は、多孔質体100を製造する焼成工程においてセラミックス粒子10自身の組成に起因して形成されるものである。酸化物皮膜11の厚さは、結合部20の厚さよりも非常に薄く(0.2μm以下)無視できる厚さである。このため、結合部20および気孔30(通気孔31および空隙32)との関係においては、は酸化物被膜11も含めてセラミックス粒子10と称する。
【0048】
式(1)における熱膨張係数αを抑制し、多孔質体100全体としての熱衝撃破壊抵抗係数Rを高めるために、非晶質の酸化珪素を主成分とする結合部用原料のクリストバライト(結晶質)化が抑制された低熱膨張率の結合部20が形成されるように、多孔質体100の製造方法では1000℃~1250℃という低温で焼成することをその特徴の一つとしている。
【0049】
また、比較的低温の焼成温度であっても焼結されやすいように、結合部用原料は、好ましくは非晶質の酸化珪素を主成分とするものとしている。一般に非晶質の酸化珪素は、温度上昇に伴う熱膨張率の上昇度合いが結晶質のクリストバライトに比べて非常に小さく、かつ室温から1000℃付近まで連続的(線形的)に変化する。これに対して、クリストバライトは、200℃~300℃の間で結晶構造が変化(相転移)し、この温度域を挟んで熱膨張係数も大きく変化する。このため、クリストバライトを過剰に含む多孔質体に対して、相転移が起こる温度域を挟んで繰り返し加熱冷却が繰り返された場合には、結合部には急激な膨張と収縮による大きな応力変化が繰り返されて、結合部が破壊され易くなってしまう。このため結合部20は非晶質の酸化珪素を主成分とすることが好ましい。
【0050】
多孔質体100の結合部20に含まれるクリストバライトの割合は、多孔質体100の一部をエックス線回折試験に供し、
図4に例示するように、炭化珪素とクリストバライトのピーク強度により評価することができる。耐熱衝撃性の観点で許容できる範囲においてはクリストバライトを有していてもよいが、2θ(回折角の2倍の値)が35.5度付近である炭化珪素の面指数(ミラー指数(006))のピーク強度P1に対して、2θが21.9度付近であるクリストバライトの面指数(ミラー指数(101))のピーク強度P2の比(P2/P1)が0.05以下であることが好ましい。なお、
図4では理解しやすいようにバックグランドノイズは除去している。
【0051】
多孔質体100の強度を保つためには、任意に抽出した複数の試験片の全てにおいて、炭化珪素のピーク強度に対するクリストバライトのピーク強度比が0.05以下であることが特に好ましい。
図4に示す例では、炭化珪素のピーク強度P1に対するクリストバライトのピーク強度P2の比は約0.04である。多孔質体100(
図1および
図2参照)から採取する試験片の個体差によって、炭化珪素のピーク強度に対するクリストバライトのピーク強度比が互いに若干異なる場合がある。このような場合であっても、任意に抽出された複数(例えば5個)の試験片のピーク強度比の平均値が0.05以下になっていれば、十分な熱衝撃破壊抵抗係数Rが確保される。
【0052】
一方、焼成温度が過度に低温であると、結合部20内に生じたガスが結合部20の外に放出されずに、複数の空隙32として結合部20の内部に残留しやすくなる。結合部20の内部に占める空隙32の割合が過大になると、結合部20自身の強度が低下して、多孔質体100の破壊強度が低下する。結合部20には多数の空隙32が含まれるが、体積の大きい空隙32がある場合は多孔質体100の破壊強度の低下に大きく影響する。なお、極めて稀な場合だが、通気孔31を形成する目的で添加された造孔材が、結合部20の内部に包まれた状態で焼成された場合は、結合部20中に粗大な気孔30が形成されて、前述の空隙32の定義から外れることがある。この場合は、結合部20の強度低下に大きな影響を与えるので、結合部20中の大きな気孔30は空隙32として取り扱う。
【0053】
また、結合部用原料に、さらに第1族元素および第2族元素のうちの少なくとも1種類以上の金属元素を適量添加させると好ましい。このことにより結合部原料の粘度の低下が一層生じやすくなって、結合部用原料の結合(焼結)性が更に高まり、空隙32の生成がより抑制された結合部20を得ることができる。金属元素の含有率は、セラミックス原料と結合部用原料との合計の質量に対して質量基準で20~500ppmであることが好ましい。20ppm以上含むことにより、結合部20内に生じたガスが結合部20の外に放出されやすくなり、結合部20内に粗大な空隙32が生じにくくなる。一方、含有率が500ppmを超えると、焼成工程における加熱時に結合部の酸化珪素が過度に軟化して焼成体の形状を維持することが難しくなり、冷却時にはクリストバライト(結晶質)化が促進されてしまうので好ましくない。
【0054】
このように、多孔質体100が有する結合部20は、第1族元素および第2族元素のうちの1種類以上の金属元素を更に含み、複数のセラミックス粒子10と結合部20との合計の質量に対する上記金属元素の割合が質量基準で20~500ppmであることが望ましい。なお、この金属元素は、結合部20において、酸化物、窒化物、酸窒化物、硼化物(例えば、金属元素がMgで酸化物の場合にはMgO)などの化合物(複合化合物を含む)として通常は存在しているが、化合物を構成しない遊離した元素として存在していてもよい。
【0055】
なお、上記の金属元素の含有効果をより有効にするためには、上記第1族元素としてナトリウム(Na)およびカリウム(K)のうちの少なくともいずれか一方を、上記第2族元素としてマグネシウム(Mg)およびカルシウム(Ca)のうちの少なくともいずれか一方であることが好ましい。さらに、上記のNa,K,MgおよびCaの質量の合計に対するKの割合は10%以下であることがより望ましい。
【0056】
本実施形態の場合、骨材である複数のセラミックス粒子10のそれぞれは、耐火性(耐熱性)のあるセラミックス粒子であればよく、チタン酸アルミニウム、コーディエライト、窒化珪素、アルミナ、ムライトその他の種々のセラミックスからなる粒子を使用することができるが、炭化珪素からなることが望ましい。炭化珪素の結晶は、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5)の結晶、あるいはコーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)などと比較して熱容量が大きく、熱伝導率が高いため、耐熱性が高い。また、炭化珪素のように、珪素を含むセラミックス粒子の場合、焼成したときに、セラミックス粒子の表面に酸化珪素から成る酸化物皮膜11が形成され易い。この場合、酸化珪素を主成分とする結合部20との結合性が特に高くなる点で好ましい。
【0057】
ところで、車両に搭載される、多孔質体で構成されたフィルタ(DPF)において、捕集された微粒子が所定量に到達して捕集能力が低下した場合は、捕集能力を回復させるためにフィルタを車両から取り外してフィルタ内部の微粒子を燃焼させて消失させる再生処理(燃焼再生)が一般に行われる。このとき多孔質体の表面に捕集された微粒子の量が多すぎると、微粒子の燃焼熱により多孔質体が損傷を受けることで、フィルタの損傷が生じる場合がある(熱損傷)。この熱損傷が生じない微粒子の捕集量の限界値を微粒子の溶損限界量というが、本発明の耐熱性の高い多孔質体100をフィルタ(DPF)に適用すると、微粒子の溶損限界量を増大させることができるので好ましい。溶損限界量が大きくなると燃焼再生を実施するまでの期間を長くできてフィルタを効率的に稼働させることができる。また、燃焼再生の頻度を低減できるのでフィルタの長寿命化にも寄与する。このため本発明の多孔質体100はフィルタ(DPF)に好適である。
【0058】
再び
図1および
図2を参照する。結合部20は、複数のセラミックス粒子10の外周縁を取り囲むように、セラミックス粒子10と長い接合長で(できるだけ隙間なく)接合されていることが、多孔質体100の熱衝撃破壊抵抗係数Rを大きくする観点では好ましい。しかし一方で、多孔質体100をフィルタとしての機能を具備させるために、適量の通気孔31を備えている必要があり、セラミックス粒子10の外周縁のうちのある程度は、結合部20ではなく通気孔31に接する構成とすることが好ましい。
【0059】
図5は、
図1および
図2に示すセラミックス粒子10の外周縁の周長および結合部20との接合長の一例を示す拡大模式断面図である。
図5では、セラミックス粒子10、結合部20、および通気孔31を互いに区別するため、セラミックス粒子10にハッチングを付し、結合部20には、灰色を付している。なお
図5では説明を容易にするために、結合部20内に存在する空隙32(
図2参照)は図示を割愛している。複数のセラミックス粒子10のそれぞれと結合部20とが強固に結合し、かつ多数の通気孔31が形成された状態は以下のような状態であることが好ましい。すなわち、多孔質体100の任意の断面において、セラミックス粒子10の外周縁の一周分の長さを周長L1、当該セラミックス粒子10の外周縁に接する結合部20の当該接する部分の長さを接合長L2とするとき、周長L1に対する接合長L2の比(L2/L1)の値が0.3~0.95であるセラミックス粒子10の合計の面積が、当該の任意の断面に観察されるすべてのセラミックス粒子10の面積の合計値に対して80%以上である。以下、複数のセラミックス粒子10の面積の合計値に対する、L2/L1の値が0.3~0.95であるセラミックス粒子の面積の比率を、「L2/L1の値が0.3~0.95であるセラミックス粒子の面積率」と記載する場合がある。
【0060】
図5に示すように、セラミックス粒子10は、その外周縁上において互いに離れた複数の箇所で結合部20と接している形態が多い。この場合、接合長L2は、その複数の箇所における接合長の和とする。つまり、例えば3箇所であるならば、それぞれの接合長L2A、L2B、L2Cの和である(2箇所、または4箇所以上の場合も同様である。)。周長L1と接合長L2は、例えば無作為に抽出した少なくとも5か所の任意の断面を選択し、各断面において任意に選択した少なくとも6視野を2500倍の倍率でEPMA観察した画像において周長L1と接合長L2を測定する。そしてL2/L1の値を計算した後、各断面の各視野における平均値としてのL2/L1の値を求める。このときL2/L1が0.3~0.95であるセラミックス粒子10の面積率が80%以上であればよい。この構成により、結合部20の強度を確保し、かつ、フィルタを構成した場合にも通気機能を確保することができる。
【0061】
ここで、多孔質体100の任意の断面における、結合部20、気孔30およびセラミックス粒子10の面積および面積率の算出方法の一例について
図12を参照して説明する。
図12は多孔質体の断面のEPMAによる元素マッピングの一例を示す図である。多孔質体において無作為に抽出した少なくとも5か所の任意の断面を選択し、各断面において任意に選択した少なくとも6視野について2500倍の倍率で、EPMAを使用して撮像し元素マッピングを行う。面積率はこれら観察した各視野において計算し、さらに各視野の面積率を平均することにより求める。例えば、5か所の任意の断面について6視野を観察した場合は、合計である30視野のそれぞれについて面積率を求め、その30視野の平均値を面積率として求めてよい。結合部20の同定とその面積は、元素マッピングにおいてSi、CとOの分布を取得し、SiとOが両方検出された領域が酸化珪素(珪素を含む酸化物)の存在領域であって結合部20であるとみなしてその面積を測定する。気孔30の同定をその面積は、元素マッピングにおいてSiおよびOのいずれも存在しない領域を気孔30とみなしてその面積を算出する。そして、セラミックス粒子10の同定とその面積は、上記したセラミックス粒子の観察方法と同様に、EPMAの元素マッピングでSiとCの両方を確認した部分をセラミックス粒子とみなしてその面積を測定する。
【0062】
図6を参照する。
図6は本発明に係る多孔質体の任意の断面におけるセラミックス粒子と結合部との間に存在する空隙を説明するための模式図である。
図6でも
図5と同様に、セラミックス粒子10にハッチングを付し、結合部20には灰色を付している。空隙32は、気孔30のうち、その外周縁から外側に0.5μmまでの領域の面積のうちの70%以上の面積が酸化珪素で占められている気孔30をいう。
【0063】
図6に示すように、空隙32には、結合部20に包含されている形態のものだけでなく、その一部がセラミックス粒子10に接しているものもある。言い換えると、外周縁の一部が結合部20とは接しておらず、空隙32と接しているセラミックス粒子10が存在する場合がある。結合部20とセラミックス粒子10との結合強度を向上させる観点から、セラミックス粒子10と結合部20との間に空隙32が介在しないことが好ましいが、多孔質体100の製造において空隙32を完全に排除することは難しいため、セラミックス粒子10と結合部20との接合部分(接合長L2)を十分に確保しておくことが重要である。つまり、接合長L2のうち、空隙32の外周縁で構成されている部分、すなわち結合部20と接していない部分の長さがある程度以下になっていて、かつそのようなセラミックス粒子10が多孔質体100を構成する複数のセラミックス粒子10に対して所定の割合を占めていることが好ましい。
【0064】
すなわち、セラミックス粒子10の外周縁のうち、空隙32に接している部分の長さを空隙介在長L3と定義したとき、多孔質体100の任意の断面における、接合長L2に対する空隙介在長L3の比(L3/L2)の値が0.2以下であるセラミックス粒子10の面積率が80%以上であることが望ましい。ここで、空隙32に接している部分が複数ある場合のセラミックス粒子10の空隙介在長L3は、当該複数箇所の空隙介在長の和である。例えば
図7において2つの空隙32に接しているセラミックス粒子10の空隙介在長L3は各空隙32における空隙介在長L3AとL3Bの和とする。なお、接合長L2と空隙介在長L3との関係は、無作為に抽出された任意の断面の全てで成立することが特に好ましい。ただし、例えば、無作為に抽出した少なくとも5か所の任意の断面を選択し、各断面において任意に選択した少なくとも6視野を2500倍の倍率でEPMA観察した画像におけるL3/L2の値を算出した後、各断面の各視野における平均値としてのL3/L2の値が0.2以下であるセラミックス粒子10の面積率が、80%以上であってもよい。この構成により、結合部20の強度を確保することができる。
【0065】
式(1)で示した多孔質体100の熱衝撃破壊抵抗係数R(主に破壊強度S)を大きくする観点では、多孔質体100において結合部20の量が多い方が好ましい。一方、多孔質体100でフィルタを構成する場合には、排気ガスが多孔質体100を通過する際の圧力損失を抑える目的のために、多孔質体100に相応の数の通気孔31を設けることによって結合部20の量をある程度までにとどめておくことも必要である。特に排ガス用フィルタを構成する実施形態の多孔質体100は、任意の断面において、複数のセラミックス粒子10、結合部20、および複数の気孔30の面積の合計値(つまり、視野中の多孔質体100全ての面積)に対し、結合部20の面積率の平均値は、5~30%であることが望ましい。これにより、多孔質体100の熱衝撃破壊抵抗係数Rを大きくし、かつ、フィルタを構成した際における通気時の圧力損失を低減できる。ここで、結合部20の面積率の平均値とは、上記した結合部の面積の算出方法により算出した各断面(無作為に抽出した少なくとも5か所の任意の断面)の各視野(各断面において任意に選択した少なくとも6視野)における結合部の面積率の平均値である。
【0066】
多孔質体100の破壊強度を大きくする観点から気孔30の占有率は小さい方が好ましい。また、多孔質体100をフィルタとして利用する実施形態の場合では、微粒子の捕集特性を向上させる観点からも、気孔30の占有率は小さい方が好ましいが、圧力損失を抑制させる観点では、気孔30の占有率はある程度以上は必要である。気孔30の占有率を表す指標としては、多孔質体100の見かけ体積に対する気孔30の体積の比率を用いることができる。特に排ガス用フィルタを構成する実施形態の多孔質体100が含む気孔30の体積率は、35~65%であることが望ましい。これにより、圧力損失を低減し、かつ、熱衝撃破壊抵抗係数Rおよび微粒子の捕集性能を向上させることができる。なお、気孔30の体積率は、JIS R 1655に規定された水銀圧入法に準じて測定することができる。水銀圧入法では、供試試料に水銀を圧入したときの圧力と、圧入された水銀の容積との関係から気孔径の分布を測定するものである。水銀の表面張力は大きいので、通気孔31の気孔径と比較して径が著しく小さい空隙32には、水銀はほとんど圧入されない。このため、水銀圧入法では実質的に通気孔31のみの体積率が計測される。また、通気孔31の体積率に対して空隙32の体積率は無視できるレベルであるため、通気孔31の体積率は気孔30の体積率に実質的に等しいとみなしてよい。
【0067】
多孔質体100でフィルタを構成する実施形態の場合、その圧力損失を低減させるためには、複数の通気孔31(気孔30)のそれぞれの大きさ(以下、気孔径ともいう。)は大きい方が好ましい。一方、微粒子の捕集性能を確保するためには、複数の通気孔31のそれぞれの気孔径は小さい方が好ましい。つまり、フィルタを構成する多孔質体100は、適正な大きさの通気孔31を適量含んでいることが好ましい。フィルタを構成する形態の多孔質体100においては、複数の気孔30のうち、気孔径が1.0μm未満の通気孔(微小な気孔)31を、多孔質体100の見かけの体積の10体積%以下とし、気孔径が100μmを超える通気孔(粗大な気孔)31を、多孔質体100の見かけの体積の10体積%以下とすることが好ましい。これにより、フィルタの圧力損失を抑制し、かつ、微粒子の捕集性能を確保することができる。なお、所定の気孔径を有する通気孔31(気孔30)の体積率は、JIS R 1655に規定された水銀圧入法に準じて、同様に計測することができる。
【0068】
本発明に係る多孔質体100の曲げ強度(式(1)における破壊強度Sに相当)は10MPa以上であり、曲げ強度のヤング率Eに対する比が1.8×10-3以上となり、高い耐熱衝撃性(熱衝撃破壊抵抗係数R)を具現することができる。なお、曲げ強度およびヤング率は、JIS R 1601の規定に準じて計測することができる。
【0069】
加えて、本発明に係る多孔質体100の室温から800℃における熱膨張係数αは、4.2×10-6[/K]以下であり、高い耐熱衝撃性(熱衝撃破壊抵抗係数R)を有する。なお、熱膨張係数については、JIS R 1618の規定に準じて計測することができる。
【0070】
<多孔質体から構成されたフィルタ>
次に、本発明に係る多孔質体100から構成されたフィルタの一実施形態として、自動車に取り付けられ、ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を捕集するフィルタであるDPF(以下、単に、フィルタともいう。)を説明する。
図8は、
図2に示す多孔質体100で構成された円柱状のフィルタ200の外形を示す斜視図およびその端面の一部の拡大図、
図9は、
図8に示すフィルタ200の端面を含む軸方向に沿った断面の一部の模式的な斜視図であって、端面(供給面200A)からフィルタ200内部通過する排気ガスG1およびG2の経路を模式的に示す図である。
【0071】
図8および
図9に示すフィルタ200は、多孔質体100からなる隔壁42で仕切られ、一方の端面(供給面200A)から他の一方の端面(排出面200B)まで軸方向に貫通して延びる複数の通気路40を有するハニカム構造の円柱状の多孔質体100(本体部分)と、この本体部分の多孔質体100の側面を覆う外皮101とを備える。また、通気路40のそれぞれは、供給面200A側および排出面200B側のいずれか一方に栓41が埋め込まれることにより一端が封止されている。
図9に示すように、供給面200A側および排出面200B側のそれぞれにおいて、栓41で封止された通気路40と栓41で封止されていない通気路40とが交互に(千鳥状に)配列されている。つまり、供給面200A側のみに開口する通気路40と、排出面200B側のみに開口する通気路40とが互いに隣接する構造となっている。このため、不図示のエンジンから排出された燃焼ガスである排気ガスG1は供給面200A側のみに開口する通気路40のみからフィルタ200内に流入し、隔壁42の必ず通過して、排出面200B側のみに開口する通気路40に移動し、浄化された排出ガスBとして排出面200Bからフィルタ200の外部に流出する。
【0072】
排気ガスG1に多数含まれる微粒子300は、隔壁42(多孔質体100)を通過する際に、セラミックス粒子10および結合部20(いずれも
図2を参照)に捕捉される。多孔質体100はこれに適する量の通気孔31を有することから、本実施形態であるフィルタ200は微粒子の捕集性能と低圧力損失というトレードオフの課題を解決することができる。
【0073】
また、長期間使用したフィルタ200は、車両から取り外してその隔壁42に堆積した微粒子300を燃焼させて除去する再生処理を行うが、再生処理ではフィルタ200を加熱するため、内部の多孔質体100に熱衝撃が加わる。特に、微粒子300が局所的に多く集まっている部位ではその燃焼により局所的に熱衝撃負荷が大きくなる。一般には、このような局所的な焼損を回避するために微粒子300の局所的な堆積が生じる前に再生処理を行なければならず、再生処理の頻度が多くなって経済的に好ましくない。これに対して、本実施形態のフィルタ200は熱衝撃破壊抵抗係数Rを大きいので、熱衝撃によるフィルタ200の部分的な焼損が生じ難い。したがって、再生処理の頻度を低減することができて経済的である。
【0074】
<フィルタの製造方法>
次に、フィルタ200(
図7および
図8を参照。)の製造方法の説明により、多孔質体100の製造方法の一態様を
図9~
図11を参照して説明する。
図9は、
図7および
図8に示すフィルタの製造フローの概要を示す説明図、
図10は、
図9に示す成形工程で使用する成形機の構成の模式断面図、
図11は、
図10に示す成形機で使用する金型の端面の構造を示す模式平面図である。
【0075】
本発明に係る多孔質体100を製造する製造方法は、その適用例としてフィルタ200を構成する多孔質体100を得るための好ましい一例である。すなわち、本実施形態の多孔質体100の製造方法は、
図9に示すように、セラミックス原料、結合部用原料、金属元素、造孔材、およびバインダを多孔質体の原材料として秤量し(秤量工程S1)、混合し(混合工程S2)、混錬して(混錬工程S4)得られたセラミックス坏土を成形して成形体を得る成形工程S4と、成形体を酸素雰囲気で焼成して焼成体を得る焼成工程S6と、を有する。多孔質体の原材料のうち、金属元素は、第1族元素および第2族元素のうちの少なくとも1種類を含み、セラミックス原料と結合部用原料との合計の質量に対して、質量基準で20~500ppm含有しており、結合部用原料は、主成分として非晶質の酸化珪素を含んでいる。焼成工程S6における焼成温度は、下限値が1000℃であり、上限値が1250℃である。この構成により、本発明に係る多孔質体100を好適に製造することが可能となる。以下、多孔質体100からなるフィルタの製造方法について詳細に説明する。
【0076】
[秤量工程S1]
まず、
図9に示す秤量工程S1では多孔質体100の原材料を秤量する。多孔質体の原材料は、セラミックス原料、結合部用原料、金属元素、造孔材、およびバインダから成る。多孔質体の原材料を構成する各原料の種類および分量には種々の変形例があるが、例えば、以下のように秤量する。まず、セラミックス原料として炭化珪素(SiC)の粉末粒子を例えば100質量部秤量する。炭化珪素の粉末粒子は、純度が94質量%以上であることが好ましい。
【0077】
また、多孔質体100のセラミックス粒子10の粒度分布は、セラミックス原料である炭化珪素の粉末粒子の粒度分布に依存することから、多孔質体100のセラミックス粒子10の個数分布10%積算径Dc10、50%積算径Dc50および90%積算径Dc90を所定の範囲とするために、セラミックス原料である炭化珪素の粉末粒子としては、その円相当径の分布から求めた個数分布の10%積算径Da10が5~13μm、50%積算径Da50が8~21μm、90%積算径Da90が13~34μmとなる粉末粒子を使用する必要がある。上述のような所望の粒度分布を有する炭化珪素の粉末粒子は、分級装置で炭化珪素の粉末粒子を分級し、もしくはいくつかの粒子径に分級した複数の炭化珪素の粉末粒子の割合を調整することまたは粉砕条件を最適化することにより得ることができる。
【0078】
また、セラミックス原料である炭化珪素の粉末粒子は、その個数分布の10%積算径Da10の常用対数をB1、50%積算径Da50の常用対数をB2、90%積算径Da90の常用対数をB3としたとき、(B3-B2)/(B2-B1)の値が0.85~2.0であることが好ましい。セラミックス原料の炭化珪素の粉末粒子の(B3-B2)/(B2-B1)の値を所定の範囲とすることで、多孔質体100のセラミックス粒子10の粒度分布がシャープとなって、小さな細粒や大きな粗粒を過剰に含まないため、多孔質体100の圧力損失の増大を抑制しつつ破壊強度Sを増大できるので、耐熱衝撃性の高い多孔質体100を得ることができる。なお、炭化珪素の粉末粒子の最大粒径は、後述する成形工程S4で用いる押出成形用の金型400(
図10および
図11参照)のスリット幅405W(
図11参照)の1/3以下であることが好ましい。
【0079】
また、多孔質体の原材料を構成する添加物として、第1族元素および第2族元素のうちの少なくとも1種類の金属元素を20~500ppm含有させる(添加する)。なお、炭化珪素の原料粉末には、上記した第1族元素および第2族元素のうちの少なくとも1種類の金属元素が不純物として含まれている場合がある。このような炭化珪素の原料粉末に含まれる金属元素は一般に化合物(酸化物)の形態で混入しており、例えば水で洗浄することによりこれらを取り除くことができる。したがって、炭化珪素の原料粉末に含まれるこれらの金属元素の好ましい含有率(20~500ppm)の調整は、炭化珪素の原料粉末を水で洗浄して除去、またはこれらの金属元素の化合物(酸化物)を単体で所定量添加することにより行う。
【0080】
本工程において、第1族元素および第2族元素のうち少なくとも1種類の金属元素を、セラミックス原料と結合部用原料との合計の質量に対して、質量基準で20~500ppm含有させることで、下記説明する焼成工程S6で1000~1250℃という比較的低い焼成温度で焼成した場合でも、上記説明した焼成メカニズムにより、結合部用原料の原料粒子同士および結合部用原料の原料粒子とセラミックス原料の複数のセラミックス粒子との結合(焼結)性を高めることができる。
【0081】
また、多孔質体の原材料を構成する結合部用原料として、酸化珪素である溶融シリカなどの非晶質シリカ原料粉末を、セラミックス原料100質量部に対して5.3~33.3質量部となるよう秤量する。非晶質シリカ原料粉末は、純度が99質量%以上で、結合部用原料を構成する非晶質シリカ原料粉末の粒子の円相当径の分布から求めた個数分布の50%積算径Db50(メジアン粒子径)が0.1~5μmの範囲であることが望ましい。なお、
図6を参照して説明したように、結合部の接合長L2とセラミックス粒子の周長L1との比(L2/L1)の値が0.3~0.95のセラミックス粒子の面積率が所定の範囲であるセラミックス粒子10が、所定の面積を占めることによる高い破壊強度を示す多孔質体100を製造するためには、セラミックス原料の個数分布の50%積算径(メジアン粒子径)Da50と、結合部用原料の個数分布の50%積算径(メジアン粒子径)Db50との比、Da50/Db50の値が5~150の範囲であることが望ましい。
【0082】
さらに、結合部用原料に着目すると、
図6で説明した空隙介在長L3と接合長L2との比(L3/L2)の値が0.2を超えるセラミックス粒子の面積率を低く抑えること、すなわち結合部用原料の粉末の粒度分布を出来るだけシャープにすることが好ましく、結合部用原料の個数分布から求めた10%積算径Db10が0.05~1μmの範囲であり、90%積算径Db90が0.2~10μmの範囲であり、Db10とDb90との比、すなわちDb10/Db90の値は2~10の範囲であることが望ましい。
【0083】
また、多孔質体の原材料を構成する他の添加物として、造孔材を1~10質量部となるよう秤量する。造孔材は、
図2で説明した通気孔31を形成するために添加されるものであって、例えば内部が中空の樹脂シェルからなる粒子を用いる。造孔材のメジアン粒子径D50は10~50μmであることが望ましい。造孔材は300℃以下の温度で焼失する樹脂材料からなり、後述する焼成工程S6で焼失する。造孔材が消失した後には、
図2に示す通気孔31が形成されるので、適当な直径の造孔材を使用することにより、通気孔31の大きさを制御することができる。
【0084】
また、多孔質材の原材料を構成する他の添加物であるバインダとして、例えば、メチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースからなるバインダを4~10質量部となるよう秤量する。
【0085】
[混合工程S2]
次に、
図9に示す混合工程S2では、上記のように秤量した多孔質材の原材料を、ミキサで混合(例えば、日本コークス工業社製のヘンシェルミキサで混合時間25分)し、原料混合物を作製する。
【0086】
[混練工程S3]
次に、
図9に示す混練工程S3では、上記した原料混合物を混練し、可塑化したセラミックス杯土を作製する。本工程では、例えば、冷却機能付き減圧式の加圧型ニーダを利用することが望ましい。具体的には、原料混合物に、例えば、42質量部のイオン交換水を添加して、ニーダで混練物の温度を25℃以下、真空度を100Pa以下に保ちながら45分の混練処理を行い、セラミックス坏土を得る。
【0087】
[成形工程S4]
次に、
図9に示す成形工程S4では、
図7および
図8に示すようなフィルタ200(多孔質体100)のセル構造にセラミックス坏土を成形する。すなわち、
図11に示す金型400が組込まれた
図10に示す成形機401を用いて、セラミックス坏土を金型400から押し出すことにより成形体を作製する。本工程で用いる金型400は、複数の通気路40(
図8参照)に対応する部分の周囲に格子状に形成される、スリット405を備える。金型400のスリット幅405Wは、例えば210μmである。
【0088】
図10に示すように、成形機401のシリンダ402に上記したセラミックス坏土404を投入した後、シリンダ402内の真空度を100Pa以下に到達するまで減圧して脱気を行う。真空度が100Pa以下で維持された状態で、成形機401のピストン403を金型400側に押し込み、シリンダ402内にセラミックス坏土404を充填する。シリンダ402内にセラミックス坏土404を充填する充填処理は数回に分けて行う。シリンダ402内にセラミックス坏土404が十分に充填されると、ピストン403の押圧力により、セラミックス坏土404が金型400から押し出される。これにより、
図7および
図8に示すようなセル構造を備え、かつ、全体としての形状が円柱状のハニカム状の成形体100aが得られる。成形された成形体100aは予め所定の長さに切断された後、乾燥工程S5に移行する。なお、成形後の成形体100aが自重により変形することを防ぐため、切断後の成形体100aは、乾燥工程S5に直ちに移行される。
【0089】
[乾燥工程S5]
次に、
図10に示す乾燥工程S5では、成形体100a(
図10参照)が変形することを防止するため、加熱により強制的に乾燥させる。例えば、加熱時の成形体の温度が120~200℃程度となるよう設定されたマイクロ波乾燥機で20分加熱することで成形体の表面を乾燥させた後、熱風乾燥機で成形体の内部まで完全に乾燥させる。乾燥させた成形体100aの両端面をバンドソウにて切断し、所定の寸法に整える。
【0090】
[焼成工程S6]
次に、
図9に示す焼成工程S6では、乾燥した成形体100aを酸素(酸化)雰囲気で焼成することを必須とする。このことにより、結合部用原料である酸化珪素粉末を焼成し結合(焼結)させることができ、
図7に示す多孔質体100の素材である焼成体が得られる。本工程では、乾燥した成形体を、例えば台車式ガス炉の中に装入する。その後、炉内温度を1時間あたり100℃以下の速度で1150℃まで上昇させ、所定の温度範囲(焼成温度)で所定の時間保持したのち、炉内で200℃以下まで冷却して取り出す。焼成温度の上限値は1250℃である。また、炉内温度が1150℃に到達した後における焼成温度の下限値は1000℃である。なお、上記した「酸素(酸化)雰囲気で焼成」とは、酸素を含む気体の雰囲気中で焼成工程を行う意味であり、ガス炉内に積極的に酸素ガスを供給する場合の他、大気雰囲気中で焼成する場合を含み、雰囲気中の酸素分圧は2KPa以上であることが好ましい。
【0091】
本工程において、結合部用原料の原料粒子同士および結合部用原料の原料粒子とセラミックス原料の複数のセラミックス粒子を確実に結合させて所望の破壊強度を有する多孔質体を得るためには、焼成温度は1000℃以上とする必要がある。また、焼成温度を1250℃以下にすることで、非晶質の酸化珪素を主成分として含む結合部用原料のクリストバライト(結晶質)化を防止し、結合部に含まれるクリストバライト(結晶質)の含有量を抑制し、熱膨張係数が過大となることを防止することができる。なお、焼成温度での所定の保持時間は、多孔質体の原料の組成や、多孔質体100の所望の機械的特性により適宜設定すればよいが、1~100時間程度であり、好ましくは12時間以上、より好ましくは24時間以上である。
【0092】
また、多孔質材の原材料を構成する金属元素は、低温での焼成であっても結合部用原料の原料粒子同士、および結合部用原料の原料粒子とセラミックス原料のセラミックス粒子との結合(焼結)性を高めるものである。しかしながら、この金属元素の含有率が、セラミックス原料と結合部用原料との合計の質量に対して、質量基準で20~500ppmの範囲にある場合であっても、焼成温度が異なると、結合部用原料のクリストバライト(結晶質)化の度合いが異なることがあることを本発明者は知見した。本発明者の研究によれば、第1族元素および第2族元素のうちの特定の金属元素の含有量に応じて焼成温度を決定することにより、結合部における空隙の発生を抑制しつつ、結合部のクリストバライトの含有量を適切に抑制でき、多孔質体の熱膨張係数αを抑制できることがわかった。すなわち、クリストバライト化に大きな影響を及ぼす金属元素は、第1族元素のなかではナトリウム(Na)またはカリウム(K)であり、第2族元素のなかではマグネシウム(Mg)またはカルシウム(Ca)であり、Naを含む酸化物の含有率をfNa[ppm]、Kを含む酸化物の含有率をfK[ppm]、Mgを含む酸化物の含有率をfMg[ppm]およびCaを含む酸化物の含有率をfCa[ppm]とし、焼成工程における焼成温度の上限値をTmax[℃]とすると、Tの値は、下記の式(2)で計算された値であることが、結合部用原料のクリストバライト化を抑制する点で好ましい。
Tmax=1250-0.8×fNa-3.24×fK-0.71×fMg-0.23×fCa・・・式(2)
【0093】
上記したように、本実施形態の場合、焼成温度の上限を1250℃以下として焼成することにより焼成体を製造する。例えば、石英ガラスの軟化点は、本来、約1700℃程度であり、本実施形態の焼成温度の上限値は、本来の石英ガラスの軟化点より低い。このように、低い温度で焼成する場合、ガラスの軟化点より高い温度で焼成する場合と比較して、設定された焼成温度までの昇温時間を短縮することができる。また、低温焼成の場合、冷却時間を短縮することができる。本実施形態の場合、焼成温度までの昇温時間、および焼成温度からの冷却時間を短縮できるので、焼成工程S6を効率化することができる。
【0094】
[加工工程S7]
焼成工程S6で得られた多孔質の焼成体に対し、以下説明する加工工程S7~外皮形成工程S11を施し、フィルタ200(DPF)を完成させる。まず、
図10に示す加工工程S7では、焼成工程S6により得られた焼成体の両端面を例えば砥石を使用した研削加工で、その外周面を例えば切削工具を使用した切削加工で、製品形状に合わせて加工する。
【0095】
[フィルム貼付工程S8]
次に、
図10に示すフィルム貼付工程S8では、研削加工された焼成体の両端面にマスキングフィルムを貼りつける。マスキングフィルムは、例えば厚さ0.09mmの樹脂製フィルムである。
【0096】
[フィルム孔開け工程S9]
次に、
図10に示すフィルム孔開け工程S9では、焼成体に貼り付けられた樹脂製フィルムに選択的に孔開け加工を施す。本工程では、次の栓付工程S10において、栓を形成すべきハニカムの通気路40(
図9参照)を覆う部分に選択的に孔を形成する。孔を形成すべき位置は、画像解析を利用して決定される。孔開け加工は、例えばレーザ加工装置を用いて、レーザをマスキングフィルムの一部分に局所的に照射することで実施される。マスキングフィルムの複数の位置に順次レーザを照射することにより、マスキングフィルムを貫通する複数の貫通孔が形成される。マスキングフィルムに選択的に複数の貫通孔を形成すると、焼成体が備える複数の通気路のうちの一部が露出する。
【0097】
[栓付工程S10]
次に、
図9に示す栓付工程S10では、
図8に示すように、複数の通気路40のうちの端面(供給面200A、または排出面200B)の近傍に、選択的に栓41を形成する。本工程では、まず、栓41の原料を調製し、スラリー状の目封止材を作製する。スラリー状の目封止材は、例えば以下のように調製される。まず、セラミックス粒子(例えば炭化珪素粒子)にメチルセルロースを配合してミキサで乾式混合を行う。乾式混合後にコロイダルシリカ(固形分量40質量%)およびイオン交換水を添加して、減圧混練ミキサで30分間混練を行う。これらの処理により、スラリー状の目封止材が得られる。
【0098】
次に、焼成体の一方の端面を目封止材に浸漬し、マスキングフィルムに形成した貫通孔から通気路内に例えば10mmの深さまで目封止材を導入する。目封止材を導入した後、目封止材を導入した側の端面に高周波誘導加熱(例えば出力7kW)を30秒間実施して目封止材を乾燥させた後、一方の端面側に貼り付けられたフィルムマスキングを剥がす。続いて、焼成体の他方の端面側も同様に、目封止材に浸漬し、マスキングフィルムに形成した貫通孔から、目封止材を流路内に10mmの深さまで導入する。その後、先に栓付した面と同様の処理で目封止材を乾燥させた後、マスキングフィルムを剥がす。以上により、
図7に示すフィルタ200に組み込まれる多孔質体100の作製が完了する。
【0099】
[外皮形成工程S11]
次に、
図9に示す外皮形成工程S11では、
図7に示す多孔質体100の周囲を覆うように、外皮101を形成する。本工程では、上記した栓付工程S10で利用した目封止材と同様の原料を用いることができる。すなわち、セラミックス粒子(例えば炭化珪素粒子)にメチルセルロースを配合してミキサで乾式混合を行う。乾式混合後にコロイダルシリカ(固形分量40質量%)およびイオン交換水を添加して、減圧混練ミキサで30分間混練を行う。これらの処理によりスラリー状の外皮材が得られる。なお、本工程では、多孔質体100の側面に付着した外皮材を乾燥させるまで、側面に保持するため、上記した目封止材の粘度よりも粘性が高いペースト状の原料を準備する。
【0100】
次に、栓が形成されたハニカム焼成体の両端面を抑えた状態でハニカムの通気路の延在方向を回転軸としてハニカム焼成体を回転させる。ハニカム焼成体の側面にペースト状の外皮材を押し付け、予め設定された厚さになるまで外皮材を付着させる。外皮材を付着させた後、例えば、120℃の熱風乾燥炉内で5時間以上保持し、外皮を乾燥させる。
【0101】
[仕上工程S12]
次に、
図9に示す仕上工程S12では、乾燥した外皮が所定の外形寸法および形状となるように研削砥石などで加工を行う。加工後の外皮に表面硬化剤を塗布し、湿度50%以下、気温20℃の室内にて2時間以上放置する。以上の各工程S1~S12により、
図7および
図8に示すフィルタ200が得られる。
【実施例0102】
以下、本発明に係る実施例および比較例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。また、実施例1~16および比較例1~6では、
図7および
図8を参照して説明したフィルタ200の形態であるハニカム状の多孔質体100ではなく、長さ:65mm、幅:45mm、厚み:5mmのバルク形状の多孔質体を作製し、各種試験に供した。また、実施例1~16および比較例1~6の多孔質体は、
図9を参照し説明した工程のうち、秤量工程S1~焼成工程S6のみを基本的には同様に実施し、作製した。また、実施例17では、
図7および
図8を参照して説明したフィルタ200に組み込まれるハニカム状の多孔質体100を作製した。表1~表6は、実施例1~17および比較例1~6の多孔質体の原材料、製造条件、多孔質体の組織特性および物理特性のそれぞれを示す表である。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
<実施例1>
表1~表3に示すように、セラミックス原料として炭化珪素粉末を使用し、炭化珪素粉末100質量部に対し、結合部用原料として非晶質の酸化珪素を主成分とする酸化珪素粉末を7.8質量部、造孔材としてメジアン粒子径D50が30~60μmのVCl2-AN系コポリマーからなるプラスチックマイクロバルーンを5質量部、バインダとしてメチルセルロースを9質量部となるよう秤量した(バインダは、下記する他の実施例および比較例について同様)(秤量工程S1)。なお、以下で説明する他の実施例および比較例では、純度(99.9質量%以上)および非晶質のガラス含有率(99.9質量%以上)は実施例1と同様の酸化珪素粉末を使用し、その粒度分布のみを変更した。そして、これらをヘンシェルミキサ(日本コークス工業社製、型式:FM150L)にて、回転数30rpmで6.5分間混合して25kgの原料混合物を作製した(混合工程S2)。そして、この原料混合物に、分散剤としてポリアルキレングリコール誘導体0.4質量部、イオン交換水(抵抗率:0.2MΩ・cm)を40質量部加え、冷却機能付き減圧式加圧型ニーダ(モリヤマ製)にて圧力2MPa、回転数2rpmで109.5分間混練し、可塑性のセラミックス坏土を作製した(混練工程S3)。
【0110】
表1に示すように、炭化珪素粉末の個数分布の10%積算径Da10は9.0μm、50%積算径Da50は13.8μm、90%積算径Da90は24.0μmであり、Da10の常用対数B1、Da50の常用対数B2、Da90の常用対数B3としたときの(B3-B2)/(B2-B1)の値は1.29であった。また、酸化珪素粉末の個数分布の10%積算径Db10は0.34μm、50%積算径Db50は0.56μm、90%積算径Db90は1.02μmであり、Da50/Db50の値は24.6、Db90/Db10の値は3.0であった。炭化珪素粉末の個数分布の10%積算径Da10、50%積算径Da50および90%積算径Da90、並びに酸化珪素粉末の個数分布の10%積算径Db10、50%積算径Db50および90%積算径Db90は、JIS Z 8825に準拠して、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル製、型式:MT3000II)を用いてマイクロトラック法により測定して確認した。
【0111】
また、表2に示すように、原料混合物に含まれる金属元素であるNa、K、Mg、およびCaの含有率(それぞれfNa、fK、fMg、およびfCa)は、セラミックス原料と結合部用原料との合計の質量に対して、質量基準でそれぞれ34、6.7、30、および130ppmであり、その合計の質量は200.7ppmであり、そのうちKの割合は3.34%であった。金属元素の含有率は、グロー放電質量分析装置(V.G.Scientific社製、型式:VG-9000)で測定した。
【0112】
長さ:65mm、幅:45mm、厚み:5mmの立方体の内部空間を有する金型の内表面に離型剤(信越シリコーン製、型式:KM-244F)を塗布し、この内部空間にセラミックス坏土を装入し、平板でセラミックス坏土を5.7MPaの加圧力にて速度5mm/秒で加圧充填して、上記寸法のバルク形状の成形体を得た(成形工程S4)。そして、金型に充填されたままの状態で成形体を電気炉に装入し、150℃で6時間加熱することにより成形体を乾燥させた(乾燥工程S5)。なお、以下説明する他の実施例および比較例では、混合工程S2~乾燥工程S5は、実施例1と同様な条件で実施した。
【0113】
次に、乾燥した成形体を大気(酸素)雰囲気で昇温速度90℃/時間で昇温し、1100℃の焼成温度で24時間保持し、その後炉冷し、実施例1の多孔質体を得た(焼成工程S6)。
【0114】
得られた多孔質体100の組織特性および物理特性について、以下の各項目の測定を行った。結果を表4~表6に示す。多孔質体の組織特性のうちセラミックス粒子の粒度分布として、各個数分布積算径Dc10、Dc50およびDc90については、上記したセラミックス粒子の観察方法でのEPMA観察と画像解析により算出した円相当径から、個数基準の積算粒子径分布曲線を得て、粒子径が小さい側から順に積算(累積)したときの個数が、それぞれ10%、50%および90%となる点の粒子径を測定した。表4に示すように、セラミックス粒子の各個数分布積算径はDc10が7.2μm、Dc50が11.0μm、Dc90が19.2μmであった。また、多孔質体のセラミックス粒子の個数分布積算径Dc10の常用対数をA1、Dc50の常用対数をA2、個数分布積算径Dc90の常用対数をA3としたときの(A3-A2)/(A2-A1)の値は、1.3であった。EPMA観察には電子プローブマイクロアナライザ(島津製作所製、EPMA-1720)を使用した。
【0115】
なお、後述する他の実施例および比較例を含めて、実施例1~17および比較例1~6の多孔質体におけるセラミックス粒子の分散状態を確認するため、上記したセラミックス粒子の観察方法と同様の視野と領域についてEPMAで元素マッピングを行い、得られた炭化珪素の粒子のみの画像をJIS R 1670に準拠して画像解析した。その結果、全ての視野において、円相当径4~27μmのセラミックス粒子の粒子数は85~230個/mm2であり、かつ観察視野に対するセラミックス粒子の面積率は35~55%であることが確認され、多孔質体のセラミックス粒子の分散状態に極端な偏りや凝集等は見られなかった。
【0116】
実施例1の多孔質体の組織特性は、クリストバライトのピーク強度比が0.03、結合部の接合長L2とセラミックス粒子の外周縁の周長L1との比(L2/L1)の値が0.3~0.95であるセラミックス粒子の面積率(表4では面積率Aと表示)は90.5%、空隙介在長L3と結合部の接合長L2との比(L3/L2)が0.2以下であるセラミックス粒子の面積率(表4では面積率Bと表示)は92.2%、結合部の面積率(平均値)は10.3%、そして成形体の外形寸法から求めた実施例1の見かけの体積に対する気孔の体積率(気孔体積率)は45%であった。なお、クリストバライトのピーク強度比の測定は、全自動多目的水平型エックス線回折装置(Rigaku製、Smartlab)を使用した。
【0117】
ここで、実施例1で得られた多孔質体100の断面のEPMAによる元素マッピングの一例を
図12に示す。
図12はEPMAで得られたSi(珪素)およびO(酸素)の元素マッピングを重ね合わせたマッピングであり、SiとOが多い領域ほど明度(白色調)が大きい。
図12(a)は、空隙32であると判断した気孔30近傍の元素マッピングである。
図13(a)における空隙32は、その外周縁から外側に0.5μmまでの領域(図中の符号Nで示す点線から内側であって空隙32の外周縁までの範囲内)の面積の98%がSiとOとの共存領域(つまり酸化珪素)で占められていた。一方で、
図13(b)は、通気孔31であると判断した気孔30近傍の元素マッピングである。この通気孔31では、
図13(b)における通気孔31は、その外周縁から外側に0.5μmまでの領域(図中において符号Mで示す点線から内側であって通気孔31の外周縁までの範囲内)の面積に占めるSiとOとの共存領域(酸化珪素)は57%であった。
【0118】
気孔径は、Micromeritics社製オートポアIIIにて水銀圧入法(JIS R 1655準拠)で測定した。実施例1の多孔質体において気孔径が1.0μm未満の微小な気孔の気孔体積率(微小気孔体積率)は3.8体積%、100μmを超える粗大な気孔の気孔体積率(粗大気孔体積率)は2.4体積%であった。
【0119】
熱膨張係数は、JIS R 1618に準拠する方法で測定した。試験に供した試験片は、全長50mm、一辺が5mmの角柱状の試験片を使用した。また、測定には、リガク社製示差式TMAサーモプラスを使用し、温度を室温から800℃まで昇温速度10℃/分で昇温させて熱膨張係数を測定した。実施例1の多孔質体の熱膨張係数は、3.7×10-6/Kであった。
【0120】
曲げ強度およびヤング率は、JIS R 1601に準拠した固定型4点曲げ試験により測定した。試験に供した試験片は、全長Ltが45.0±0.1mm、幅wが4.0±0.1mm、厚さtが3.0±0.1mmのサイズの試験片を使用した。また、試験には、インストロン社製万能試験機5565型を使用し、支点間距離lが10±0.1mm、Lが30±0.1mmにて、クロスヘッド移動速度0.5mm/分で試験片に負荷をかけ曲げ強度を確認した。実施例1の多孔質体の曲げ強度は15.4MPa、ヤング率は5.6GPaであり、曲げ強度のヤング率に対する比は、2.8×10-3であった。
【0121】
<実施例2~16、比較例1~6>
表1~表3に示すように原料および製造条件を変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~16、および比較例1~6の多孔質体を作製した。作製した多孔質体について実施例1と同様にして上記各項目の測定を行った。表1~表3では、複数の実施例および比較例の原料および製造条件のうち、異なるものだけを示している。このため、例えば、表1で省略した酸化珪素原料の純度や非晶質のガラス含有率の条件、表3で省略した混合工程S2、混練工程S3、成形工程S4、および乾燥工程S5の各条件は、各実施例および各比較例において共通する。また、これらの実施例および比較例の多孔質体の組織特性を表4および表5に、物理特性の測定結果を表6に示す。
【0122】
<実施例17:フィルタの例>
基本的には、実施例1と同一条件で、秤量工程S1~混練工程S3を実施し、得られたセラミックス坏土を押出成形し(成形工程S4)、その後、実施例1と同一条件で、乾燥工程S5~焼成工程S6を行い、
図8に示すように、隔壁の厚さが300μm、セル密度が46.5セル/cm
2で直径が270mmで長さが305mmの円柱状のハニカム形状の多孔質体100を作製した。そして、上記した加工工程S7~栓付工程S10を行い、各通気路40において一方端のみが塞がれるように、多孔質体100の両端面に千鳥状(市松模様状)に栓41を形成した。その後、外皮形成工程S11で、多孔質体100の外周に厚さが2.5mmの外皮101を形成し、仕上工程S12を行い、
図8に示すような実施例17のフィルタ200を得た。得られた実施例17のフィルタ200の多孔質体100の任意の位置から10×10×50mmの直方体形状の試験片を5個採取し、実施例1と同様にして上記各項目の組織特性および物理特性の測定を行った。5個の試験片の平均値は表4~表6に示すとおりである。
【0123】
上記したように本発明の範囲である実施例1~17の多孔質体の、セラミックス粒子の個数分布の10%積算径Dc10、50%積算径Dc50、および90%積算径Dc90は所定の範囲にあるので良好な曲げ強度を有している。また、実施例1~17の多孔質体は、式(1)における破壊係数Sが大きく、熱膨張係数αもしくはヤング率Eを小さくすることができたので耐熱衝撃性が高い多孔質体を得られることが確認された。
【0124】
一方で、本発明の範囲外である比較例によれば、比較例1~3の多孔質体のセラミックス粒子の個数分布の10%積算径Dc10、50%積算径Dc50および90%積算径Dc90が所定の値の範囲外にあり、また比較例4の多孔質体の、Dc90の常用対数A3とDc50の常用対数A2との差(A3-A2)と、Dc50の常用対数A2とDc10の常用対数との差(A2-A1)との比、すなわち(A3-A2)/(A2-A1)の値は0.70未満のため、比較例1~4はいずれも曲げ強度が低く、耐熱衝撃性が低い多孔質体であった。さらに、比較例5の多孔質体は、(A3-A2)/(A2-A1)の値が2.00を超えており、かつ気孔体積率が35%未満であるため、圧力損失が大き過ぎるためフィルタとして使用するには適さないと判断された。加えて、アルゴン雰囲気(非酸化雰囲気)で焼成した比較例6は、結合部用原料である酸化珪素粉末が焼成工程において結合(焼結)せず、多孔質体を作製することができなかった。
【0125】
本発明は前記した実施形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。