(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014621
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】複合銅ナノ粒子及び複合銅ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/0545 20220101AFI20230124BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20230124BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
B22F1/0545
B22F1/102
H01B5/00 E
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118673
(22)【出願日】2021-07-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 克則
(72)【発明者】
【氏名】山脇 直也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昇
【テーマコード(参考)】
4K018
5G307
【Fターム(参考)】
4K018BA02
4K018BB03
4K018BB05
4K018BC30
4K018KA37
5G307AA08
(57)【要約】
【課題】有機溶媒への分散性が高く、300℃以上で焼結しても熱収縮が少なく、平滑な電極膜を成膜が可能な複合銅ナノ粒子を提供する。
【解決手段】銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質された複合銅ナノ粒子であって、前記銅ナノ粒子は、表面の少なくとも一部に亜酸化銅及び炭酸銅を含む皮膜を有し、前記複合銅ナノ粒子の全体を100質量%とした際、質量炭素濃度が0.5~1.5質量%であり、前記質量炭素濃度のうち、前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が0.5~1.2質量%であり、前記複合銅ナノ粒子の全体を100質量%とした際、質量ケイ素濃度が0.05~0.11質量%である、複合銅ナノ粒子を選択する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質された複合銅ナノ粒子であって、
前記銅ナノ粒子は、表面の少なくとも一部に亜酸化銅及び炭酸銅を含む皮膜を有し、
前記複合銅ナノ粒子の全体を100質量%とした際、質量炭素濃度が0.5~1.5質量%であり、
前記質量炭素濃度のうち、前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が0.5~1.2質量%であり、
前記複合銅ナノ粒子の全体を100質量%とした際、質量ケイ素濃度が0.05~0.11質量%である、複合銅ナノ粒子。
【請求項2】
前記質量炭素濃度のうち、前記銅ナノ粒子に起因する質量炭素濃度が0.3質量%以下である、請求項1に記載の複合銅ナノ粒子。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、炭素数10以上のアルキル鎖を有する、請求項1又は2に記載の複合銅ナノ粒子。
【請求項4】
前記銅ナノ粒子の平均粒子径が、200nm以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の複合銅ナノ粒子。
【請求項5】
銅ナノ粒子の表面をシランカップリング剤で改質して複合銅ナノ粒子を製造する方法であって、
表面の少なくとも一部に亜酸化銅及び炭酸銅を含む皮膜を有する銅ナノ粒子を準備し、
前記銅ナノ粒子を有機溶媒に分散させた分散液にシランカップリング剤を添加する、複合銅ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記シランカップリング剤の添加量が、前記銅ナノ粒子の表面への単分子膜形成相当量の0.6~1.25倍である、請求項5に記載の複合銅ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合銅ナノ粒子及び複合銅ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ビニル基を持つシランカップリング剤で銅ナノ粒子の表面を改質した後、モノマーと反応させてグラフト高分子鎖を形成し、銅ナノ粒子の分散性を改善する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の実施例では、高分子鎖の割合が2.8~7.0wt%と高く、電極膜の成膜時に炭素残渣が残りやすいため、電極膜の密着性の阻害や導電不良が懸念される。
【0003】
特許文献2には、湿式法により合成した水素化銅微粒子をシランカップリング剤によって表面を改質する方法が開示されている。しかしながら、湿式法により合成した銅微粒子は、粒子径に対する結晶子径が小さいため、電極膜の成膜時に熱収縮による電極膜のゆがみや、剥がれの発生が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6686567号公報
【特許文献2】特開2015-110682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、有機溶媒への分散性が高く、300℃以上で焼結しても熱収縮が少なく、平滑な電極膜を成膜が可能な複合銅ナノ粒子及び複合銅ナノ粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質された複合銅ナノ粒子であって、
前記銅ナノ粒子は、表面の少なくとも一部に亜酸化銅及び炭酸銅を含む皮膜を有し、
前記複合銅ナノ粒子の全体を100質量%とした際、質量炭素濃度が0.5~1.5質量%であり、
前記質量炭素濃度のうち、前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が0.5~1.2質量%であり、
前記複合銅ナノ粒子の全体を100質量%とした際、質量ケイ素濃度が0.05~0.11質量%である、複合銅ナノ粒子。
[2] 前記質量炭素濃度のうち、前記銅ナノ粒子に起因する質量炭素濃度が0.3質量%以下である、[1]に記載の複合銅ナノ粒子。
[3] 前記シランカップリング剤が、炭素数10以上のアルキル鎖を有する、[1]又は[2]に記載の複合銅ナノ粒子。
[4] 前記銅ナノ粒子の平均粒子径が、200nm以下である、[1]乃至[3]のいずれかに記載の複合銅ナノ粒子。
[5] 銅ナノ粒子の表面をシランカップリング剤で改質して複合銅ナノ粒子を製造する方法であって、
表面の少なくとも一部に亜酸化銅及び炭酸銅を含む皮膜を有する銅ナノ粒子を準備し、
前記銅ナノ粒子を有機溶媒に分散させた分散液にシランカップリング剤を添加する、複合銅ナノ粒子の製造方法。
[6] 前記シランカップリング剤の添加量が、前記銅ナノ粒子の表面への単分子膜形成相当量の0.6~1.25倍である、[5]に記載の複合銅ナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合銅ナノ粒子は、有機溶媒への分散性が高く、300℃以上で焼結しても熱収縮が少なく、平滑な電極膜を成膜が可能である。
本発明の複合銅ナノ粒子の製造方法は、有機溶媒への分散性が高く、300℃以上で焼結しても熱収縮が少なく、平滑な電極膜を成膜が可能な複合銅ナノ粒子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例における、シランカップリング剤の添加量と表面粗さRzとの関係を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例における、シランカップリング剤のアルキル鎖の炭素数と表面粗さRzとの関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例における、銅ナノ粒子の質量炭素濃度と、表面粗さRzとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書における用語の意味及び定義は、以下のとおりである。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質されるとは、粒子の表面上に存在する水酸基とシランカップリング剤が脱水縮合反応をおこし、シラノールが表面に結合されることを意味する。あるいは、水酸基が存在しない場合でも、静電的相互作用によりシランカップリング剤のアルコキシ基が加水分解されて形成されたシラノール基が粒子表面に吸着し、その後のシランカップリング剤同士の脱水縮合により表面に単分子膜が形成されることを意味する。
【0010】
<複合銅ナノ粒子>
本発明の複合銅ナノ粒子は、銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質された複合銅ナノ粒子であって、前記銅ナノ粒子は、表面の少なくとも一部に亜酸化銅及び炭酸銅を含む皮膜を有し、前記複合銅ナノ粒子の全体を100質量%とした際、質量炭素濃度が0.5~1.5質量%であり、前記質量炭素濃度のうち、前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が0.5~1.2質量%であり、前記複合銅ナノ粒子の全体を100質量%とした際、質量ケイ素濃度が0.05~0.11質量%である。
【0011】
(銅ナノ粒子)
銅ナノ粒子は、表面の少なくとも一部に亜酸化銅及び炭酸銅を含む皮膜を有する。このような銅ナノ粒子としては、還元火炎による乾式法によって製造されたものが挙げられる。乾式法によって製造された銅ナノ粒子は、300℃以上で焼結しても熱収縮が少ない。これに対して、湿式法によって合成された銅ナノ粒子は、熱収縮が大きい。
【0012】
銅ナノ粒子は、平均粒子径が10nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上150nm以下であることがより好ましい。銅ナノ粒子の平均分子径が200nm以下であると、複合銅ナノ粒子をペースト化した際の分散性に優れ、150nm以下であると分散性がより良好に発揮される。これに対して、銅ナノ粒子の平均分子径が200nmを超えると、一粒子当たりの重量が増加するため、シランカップリング剤のアルキル鎖による立体作用が十分に機能しなくなり、複合銅ナノ粒子をペースト化した際の分散性が低下する傾向となる。
【0013】
「平均粒子径」
銅ナノ粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して測定できる。例えば、電子顕微鏡像において1視野に存在する250個の銅ナノ粒子について、銅ナノ粒子の粒子径を測定し、その個数平均値を算出して銅ナノ粒子の平均粒子径とする。
ここで、走査型電子顕微鏡の画像(写真)上に映っている粒子のうち、測定する粒子の選定基準は、以下の(1)~(6)のとおりである。
(1)粒子の一部が写真の視野の外にはみだしている粒子は測定しない。
(2)輪郭がはっきりしており、孤立して存在している粒子は測定する。
(3)平均的な粒子形状から外れている場合でも、独立しており、単独粒子として測定が可能な粒子は測定する。
(4)粒子同士に重なりがあるが、両者の境界が明瞭で、粒子全体の形状も判断可能な粒子は、それぞれの粒子を単独粒子として測定する。
(5)重なり合っている粒子で、境界がはっきりせず、粒子の全形も判らない粒子は、粒子の形状が判断できないものとして測定しない。
(6)楕円など真円ではない粒子については、長径を粒子径とした。
【0014】
銅ナノ粒子の表面は、亜酸化銅及び炭酸銅を含む皮膜に覆われている。これのうち、亜酸化銅の部分は、シランカップリング剤との反応サイトとして機能する。
これに対して、炭酸銅の部分は、シランカップリング剤と反応しない。
したがって、銅ナノ粒子に起因する質量炭素濃度が0.3質量%以下であることが好ましい。
【0015】
「質量炭素濃度」
銅ナノ粒子、及び後述する複合銅ナノ粒子中の質量炭素濃度は、炭素硫黄分析装置(例えば、株式会社堀場製作所製「EMIA-920V」)を使用して測定できる。銅ナノ粒子及び複合銅ナノ粒子中の質量炭素濃度は、3サンプルの個数平均値である。
【0016】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤は、銅ナノ粒子の表面にシランカップリング反応によって化学結合可能であって、溶媒への分散性を向上するものであれば、特に限定されない。このようなシランカップリング剤としては、例えば、アルキル鎖を有するアルキルシラン、アクロイルオキシアルキルシラン、アミノアルキルシラン、グリシジルオキシアルキルシランが挙げられる。
【0017】
シランカップリング剤が有するアルキル鎖は、炭素数10以上のアルキル鎖であることが好ましい。アルキル鎖の炭素数10以上であれば、銅ナノ粒子の表面に単分子膜形成相当量のシランカップリング剤が結合することで、アルキル鎖が立体作用を発揮できる。
一方で、アルキル鎖が必要以上に長いと、複合銅ナノ粒子を焼結して電極用途に適用する際、炭素残渣が増える要因となる。したがって、シランカップリング剤が有するアルキル鎖は、炭素数18以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の複合銅ナノ粒子は、複合銅ナノ粒子の全体を100質量%とした際の質量炭素濃度のうち、シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が0.5~1.2質量%であり、複合銅ナノ粒子の全体を100質量%とした際、質量ケイ素濃度が0.05~0.11質量%である。シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度及び質量ケイ素濃度が上記範囲であると、銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤によって充分に改質されるため、溶媒への分散性に優れ、電極用途に適用できる。
【0019】
ここで、シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度は、上述した方法によって複合銅ナノ粒子の質量炭素濃度と、シランカップリング剤との反応前の、原料状態の銅ナノ粒子の質量炭素濃度とをそれぞれ測定し、複合銅ナノ粒子の測定値と銅ナノ粒子の測定値との差分によって求める。
【0020】
「質量ケイ素濃度」
複合銅ナノ粒子中の質量ケイ素濃度は、複合銅ナノ粒子を硝酸及びフッ酸に浸漬して、粒子の表面を溶解し、当該溶液からICP発光分光装置(例えば、日立ハイテク製「卓上型ICP発光分光分析装置 PS7800」)を使用して測定できる。
【0021】
具体的には、希フッ酸(濃度1.5%)に複合銅ナノ粒子を浸漬させて、室温にて10分攪拌し、上澄み液の一部を分取する。その後、希硝酸(濃度30%)を加え、室温にて10分間攪拌し、上澄み液の一部を分取する。前者の上澄み液にはSiO2由来のSiが遊離し、後者の上澄み液にはSi由来のSiが遊離している。それぞれ液を必要に応じて希釈したうえで、ICP-AESにて251.6nmの波長を測定することで、質量ケイ素濃度を測定できる。検量線は、市販のケイ素標準溶液で作成できる。
【0022】
(用途)
本発明の複合銅ナノ粒子は、各種電子部品等の電極膜材料に適用できる。特に、酸化物やセラミックスを基材とし、300℃以上で焼結させて成膜する電極膜材料に適用することが好ましい。具体的には、例えば、センサー、電池、コンデンサー、抵抗等の電子部品をプリント基板に実装する部分の電極の材料に適用できる。
【0023】
<複合銅ナノ粒子の製造方法>
本発明の複合銅ナノ粒子の製造方法は、銅ナノ粒子の表面をシランカップリング剤で改質して複合銅ナノ粒子を製造する方法であって、表面の少なくとも一部に亜酸化銅及び炭酸銅を含む皮膜を有する銅ナノ粒子を準備し、前記銅ナノ粒子を有機溶媒に分散させた分散液にシランカップリング剤を添加する。
【0024】
(準備工程)
先ず、準備工程として、表面の少なくとも一部に亜酸化銅及び炭酸銅を含む皮膜を有する銅ナノ粒子、すなわち、還元火炎による乾式法で製造された銅ナノ粒子を準備する。
銅ナノ粒子は、例えば特許第6130616号に記載の方法により製造できる。また、銅ナノ粒子が市販されている場合は、それを用いてもよい。
【0025】
(分散工程)
次に、分散工程として、銅ナノ粒子を有機溶媒に分散させて、銅ナノ粒子の分散液を調製する。
具体的には、例えば、銅ナノ粒子と有機溶媒との混合物を、加圧して細菅流路に送り込み混合物に衝突、せん断力を掛けて分散させて分散液を得る。
有機溶媒中の銅ナノ粒子を加圧して細菅流路に送り込み、衝突、せん断力を掛けて分散する場合、湿式ジェットミル(例えば、吉田機械興業製「ナノヴェイタB-ED」、常光製「JN1000」)を適用できる。
【0026】
銅ナノ粒子の分散方法は、上記の方法に限定されず、自公転式ミキサーを用いて分散させる方法や、ブレードやロールを用いて分散させる方法が挙げられる。
【0027】
有機溶媒は、銅ナノ粒子を分散させることが可能な溶媒であれば特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、テルピネオール等のアルコール;エチレングリコール、ジメチレングリコール、トリエチレングリコール等のポリオール;ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の極性溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒のうち、テルピネオール等のアルコール系溶媒が好ましい。
【0028】
(反応工程)
次に、反応工程として、得られた銅ナノ粒子の分散液に、シランカップリング剤を添加して反応させる。
具体的には、銅ナノ粒子の分散液にシランカップリング剤を添加し、マグネチックスターラ等で混合攪拌する。
【0029】
分散液へのシランカップリング剤の添加量は、分散液中の銅ナノ粒子の表面への単分子膜形成相当量の0.6~1.25倍とすることが好ましい。
シランカップリング剤の添加量が、銅ナノ粒子の表面への単分子膜形成相当量の0.6倍以上であれば、銅ナノ粒子の表面に十分なシランカップリング剤の付着させることができる。
【0030】
ところで、従来技術では、複合銅ナノ粒子を製造する際、銅ナノ粒子の表面に十分なシランカップリング剤を付着させるために、銅ナノ粒子の分散液に対して過剰のシランカップリング剤を添加することが一般的であった。しかしながら、分散液に過剰のシランカップリング剤を添加すると、シランカップリング剤同士が反応して凝集が発生していた。
【0031】
これに対して、本発明の複合銅ナノ粒子の製造方法では、シランカップリング剤の添加量が、銅ナノ粒子の表面への単分子膜形成相当量の1.25倍以下であるため、シランカップリング剤同士の反応による凝集の発生を抑制できる。さらには、未反応のシランカップリング剤を除去しやすくなるという効果が得られる。
【0032】
なお、単分子膜形成相当量とは、銅ナノ粒子のすべての表面にシランカップリング剤が付着した状態となる添加量をいう。
具体的には、「銅ナノ粒子の表面積/シランカップリング剤一分子の専有面積=シランカップリング剤の分子数」を算出し、この分子数とシランカップリング剤一分子あたりの質量とから、単分子膜形成相当量を算出する。
【0033】
本発明の複合銅ナノ粒子の製造方法は、上述した分散工程と反応工程とを行った後、ロータリーエバポレータで加熱撹拌しながら有機溶媒を減圧留去することで、本発明の複合銅ナノ粒子の粉末が得られる。
【0034】
本発明の複合銅ナノ粒子の製造方法は、上述したように、分散工程の後に反応工程を行ってもよいし、同時に行ってもよい。
【0035】
分散工程と反応工程とを同時に実施する場合、銅ナノ粒子と有機溶媒との混合物にシランカップリング剤を添加し、これらの混合物を加圧して細菅流路に送り込み、衝突、せん断力を掛けて分散させることで、分散工程と反応工程とを同時に行うことができる。
【0036】
本発明の複合銅ナノ粒子の製造方法では、乾式法によって製造された銅ナノ粒子を用いるため、分散工程の後に反応工程を実施することが好ましい。すなわち、乾式法によって製造された銅ナノ粒子の表面は、その多くが亜酸化銅で被膜されているため、極性の低い有機溶媒中では凝集粒子が発生しやすい。そのため、銅ナノ粒子の凝集粒子を解砕し、粒子の表面を露出させてから、シランカップリング剤を添加して接触させることで、効率的に表面を改質できる。
【0037】
以上説明したように、本発明の複合銅ナノ粒子によれば、銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質されているため、有機溶媒への分散性が高い。また、本発明の複合銅ナノ粒子は、乾式法によって製造された銅ナノ粒子を用いるため、その後、300℃以上で焼結しても熱収縮が少なく、平滑な電極膜を成膜が可能である。
本発明の複合銅ナノ粒子の製造方法によれば、有機溶媒への分散性が高く、300℃以上で焼結しても熱収縮が少なく、平滑な電極膜を成膜が可能な複合銅ナノ粒子が得られる。
【0038】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例0039】
以下、実施例によって本発明の効果を説明するが、本発明は実施例の構成に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
「銅ナノ粒子」
銅ナノ粒子は、特許第6130616号公報に記載の製造方法によって製造した。製造条件は、以下のとおりとした。
・粉体原料:銅粉酸化銅(I)(日本アトマイズ加工社製、平均粒径10μm)
・バーナに供給する燃料ガス:液化天然ガス
・支燃性ガス:酸素
・炉内に旋回流を形成する第1冷却ガス:窒素
・酸素比:0.9
・原料供給速度:0.36kg/h
【0041】
「複合銅ナノ粒子」
ビーカーに、平均粒径110nm、質量炭素濃度0.15質量%の銅ナノ粒子20g、エタノール55g、シランカップリング(SC)剤としてオクタデシルトリエトキシシラン(ODTES)0.28g(=単分子膜形成相当量)を添加した。
これらの混合物を10分間マグネチックスターラで分散した後、吉田機械興業製「ナノヴェイタB-ED」を用いて混合物を圧力100MPaに加圧して、細菅流路に送り込み混合物に衝突、せん断力を掛けて分散する処理を10回行った。
その後、60℃の水浴に浸けたロータリーエバポレータでエタノールを減圧留去し、複合銅ナノ粒子の粉末を得た。
得られた複合銅ナノ粒子の粉末は、上述した手法を用いて質量炭素濃度を測定し、以下に示すように乾燥膜を調製し、乾燥膜の表面粗さを測定した。
なお、オクタデシルトリエトキシシランの単分子膜形成相当量は、以下の計算式(A)により、0.28gと算出された。
【0042】
【0043】
なお、計算式(A)中、オクタデシルトリエトキシシラン1分子の専有面積を0.3nm2、分子量を416g/mol、アボガドロ定数を6.02個/molとした。
【0044】
「表面粗さ」
複合銅ナノ粒子65部とαテルピネオール35部とをビーズミル(実際に用いたビーズを補充)にて2分間混合し、得られたペーストを、バーコーターを用いてガラス基板上に1cm角に塗膜して乾燥し、厚さ15μmの乾燥膜を調製した。
この乾燥膜の表面粗さは、レーザーマイクロスコープ(例えばキーエンス製「VK-110」)を用いて、表面粗さRz(JIS規格を補充)を10点(N数を補充)測定し、その10平均値を評価指標とした。
なお、Rz<1.0μmであることは、当該複合銅ナノ粒子を各種電子部品等に適用される電極膜の成膜において、10μm以下の薄膜を製膜するためには必要な指標である。
【0045】
(実施例2)
オクタデシルトリエトキシシランの添加量を、実施例1の0.7倍に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
(実施例3)
オクタデシルトリエトキシシランの添加量を、実施例1の1.2倍に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
(実施例4)
シランカップリング剤として、オクタデシルトリエトキシシランに代えてデシルトリメトキシシラン(DTES)を用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
(実施例5)
銅ナノ粒子として、質量炭素濃度0.29質量%の銅ナノ粒子を用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
(実施例6)
銅ナノ粒子として、平均粒子径200nmの銅ナノ粒子を用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0046】
(比較例1)
オクタデシルトリエトキシシランの添加量を、実施例1の0.5倍に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
(比較例2)
オクタデシルトリエトキシシランの添加量を、実施例1の1.5倍に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
(比較例3)
シランカップリング剤として、オクタデシルトリエトキシシランに代えてオクチルトリメトキシシラン(OTMS)を用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
(比較例4)
銅ナノ粒子として、質量炭素濃度0.36質量%の銅ナノ粒子を用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
(比較例5)
銅ナノ粒子として、平均粒子径250nmの銅ナノ粒子を用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
(比較例6)
銅ナノ粒子として、湿式法で作成したもの(シグマアルドリッチ社製)を用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0047】
実施例1~6の結果を、以下の表1に示す。また、比較例1~6の結果を、以下の表2に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
<評価1>
図1は、上述した実施例1~3、及び比較例1~2について、シランカップリング剤の添加量と表面粗さRzとの関係を示すグラフである。
図1中、X軸は、単分子膜形成相当量に換算したシランカップリング剤の添加量であり、Y軸は調製した乾燥膜の表面粗さRzである。
【0051】
図1に示すように、実施例1~3、及び比較例1~2の結果から導かれる近似曲線と、表面粗さRz=1.0μmの直線との交点より、シランカップリング剤の添加量が0.6~1.25倍の範囲で表面粗さRzが1.0μm未満となり、0.6倍未満及び1.25倍を超える範囲で表面粗さRzが1.0μm以上となることを確認できた。
【0052】
<評価2>
図2は、上述した実施例1,4、及び比較例3について、シランカップリング剤のアルキル鎖の炭素数と表面粗さRzとの関係を示すグラフである。
図2中、X軸は、シランカップリング剤のアルキル鎖の炭素数であり、Y軸は調製した乾燥膜の表面粗さRzである。
【0053】
図2に示すように、実施例1,4、及び比較例3の結果から導かれる近似曲線と、表面粗さRz=1.0μmの直線との交点より、シランカップリング剤のアルキル鎖の炭素数9.7が、表面粗さRzが1.0μm未満に到達できるか否かの境界であることを確認した。すなわち、アルキル鎖の炭素数が10以上のシランカップリング剤を用いると、表面粗さRzが1.0μm未満を達成できる。一方、アルキル鎖の炭素数が9以下のシランカップリング剤を用いると、表面粗さRzが1.0μm以上となることが示唆された。
【0054】
<評価3>
図3は、上述した実施例1,5、及び比較例4について、銅ナノ粒子の質量炭素濃度と、表面粗さRzとの関係を示すグラフである。
図3中、X軸は、銅ナノ粒子の質量炭素濃度であり、Y軸は調製した乾燥膜の表面粗さRzである。
【0055】
図3に示すように、実施例1,5、及び比較例4の結果から導かれる近似曲線と、表面粗さRz=1.0μmの直線との交点より、銅ナノ粒子の質量炭素濃度が0.3質量%以下の範囲で表面粗さRzが1.0μm未満となり、銅ナノ粒子の質量炭素濃度が0.3質量%を超える範囲で表面粗さRzが1.0μm以上となることを確認できた。