(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146249
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】保持装置及び搬送装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/677 20060101AFI20231004BHJP
B65G 49/07 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H01L21/68 B
B65G49/07 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053341
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】篠原 大也
(72)【発明者】
【氏名】清水 翼
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131BA52
5F131CA38
5F131CA70
5F131DA32
5F131DA42
5F131DB22
5F131DB34
5F131DB36
5F131DB62
5F131DB72
5F131DB76
(57)【要約】
【課題】ダイレクト搬送方式において、剛性が低いワークを保持する場合であっても、ワークを安定且つ確実に保持することが可能となる保持装置及び搬送装置を提供する。
【解決手段】保持装置10は、パッド12と、パッド支持体14と、パッド12に連通してパッド12とワーク100との間に負圧を発生させる吸引路40と、を備え、パッド12は、パッド支持体14に対して固定される固定領域12aと、パッド支持体14に対して固定されずに可撓変形可能な非固定領域12bと、を有する。搬送装置70は、複数の保持装置10を備え、複数の保持装置10によって保持されたワーク100を搬送する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被保持物を保持する保持装置であって、
前記被保持物と当接可能であり可撓性を有する平板状のパッドと、
前記パッドを支持するパッド支持体と、
前記パッドに連通して前記パッドと前記被保持物との間に負圧を作用させる吸引路と、
を備え、
前記パッドは、前記パッド支持体に対して固定される固定領域と、前記固定領域の周囲に設けられ前記パッド支持体に対して固定されずに可撓変形可能な非固定領域と、を有する、
保持装置。
【請求項2】
前記吸引路は吸引源に接続されており、
前記吸引源による排気速度は、前記被保持物に形成された溝の前記パッドでの管路抵抗の大きさに応じて前記パッドが前記被保持物を吸着可能な速度に設定される、
請求項1に記載の保持装置。
【請求項3】
前記被保持物は、前記パッドが当接する側の表面に溝が形成されたワークであり、前記ワークの前記表面とは反対側の裏面にシートが貼り付けられている、
請求項1又は2に記載の保持装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載される保持装置を複数備え、
複数の前記保持装置によって前記被保持物を保持した状態で前記被保持物の搬送を行う、
搬送装置。
【請求項5】
複数の前記保持装置が固定されるパッド連結ベースと、
前記パッド連結ベースを搬送する搬送ベースと、
前記搬送ベースと前記パッド連結ベースとの間に設けられ、前記搬送ベースと前記パッド連結ベースとの距離を変化させる方向に付勢する付勢部材と、
を備える、請求項4に記載の搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持装置及び搬送装置に係り、特にワーク(被保持物)を直接保持して搬送(ダイレクト搬送)するための技術である。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や電子部品が形成されたウェーハ等のワークを個々のチップに分割するダイシング装置においては、スピンドルによって高速に回転されるブレードと、ワークを吸着保持するワークテーブルと、ワークテーブルとブレードとの相対的位置を変化させるX、Y、Z、θ駆動部とを備えている。このダイシング装置では、各駆動部によりブレードとワークとを相対的に移動させながら、ブレードによってワークを切り込むことによりダイシング加工(切削加工)する。
【0003】
ダイシング装置においては、ワークの搬送時にダイシングフレームを吸着保持して搬送することが一般的に行われている(例えば、特許文献1参照)。ダイシングフレームを吸着保持することで、加工後のワークを安定して搬送することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ダイシングフレームを吸着保持してワークを搬送する方式の場合、次のような問題がある。すなわち、ダイシング装置内の加工や搬送を行う空間はダイシングフレームのフレームサイズに合わせて設計する必要がある。そのため、装置内部の空間に対してフレームサイズよりも小さなワークしか加工することができず、装置面積に対する加工可能なワーク面積が小さく生産性が低くなる要因となる。一方、生産性を高めるためにはフレームサイズを大きくする必要がある。そのため、更なるコストアップや装置の大型化を招いてしまうことになる。
【0006】
これに対して、ダイシングフレームを使用することなく、ワークを直接保持して搬送(ダイレクト搬送)することにより装置内の空間を最大限に活用可能にすることが考えられる。ダイレクト搬送では、ダイシングフレームを使用しないため、従来と同じ装置でフレームサイズまでワークサイズを拡張することが可能となり、より大きなワークの処理が可能となる。また、大きなワークではチップ取り数が増えるので、チップの低廉化につながるというメリットもある。
【0007】
例えば、ダイシングフレームを使用する代わりに、剛性の高い基板上にワークを貼り付けた状態でワークのダイレクト搬送を行うことが考えられる。しかし、剛性の高い基板は高価であり、チップ低廉化が困難となる。
【0008】
また、ダイシングフレームを使用せずに、ワーク裏面(デバイスが形成される表面とは反対側の面)のみにテープ(ダイシングテープ)を貼り付けることでワークのダイレクト搬送を行うことが考えられる。しかし、このような状態でワークに対する加工が行われた場合、分割後のデバイス(チップ)はワーク裏面のテープを介してのみ繋がっているため剛性がなく、いわゆる「ペラペラ」の状態となる。そのため、ワークをダイレクト搬送する際に、ワークの変形によってワークに対する吸着部が剥離しやすく、ワークを安定した状態で保持することができない問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みて成されたものであり、ダイレクト搬送方式において、剛性が低いワークを保持する場合であっても、ワークを安定且つ確実に保持することが可能となる保持装置及び搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の保持装置は、本発明の目的を達成するために、被保持物を保持する保持装置であって、被保持物と当接可能であり可撓性を有する平板状のパッドと、パッドを支持するパッド支持体と、パッドに連通してパッドと被保持物との間に負圧を作用させる吸引路と、を備え、パッドは、パッド支持体に対して固定される固定領域と、固定領域の周囲に設けられパッド支持体に対して固定されずに可撓変形可能な非固定領域と、を有する。
【0011】
本発明の一形態は、吸引路は吸引源に接続されており、吸引源による排気速度は、被保持物に形成された溝のパッドでの管路抵抗の大きさに応じてパッドが被保持物を吸着可能な速度に設定されることが好ましい。
【0012】
本発明の一形態は、被保持物は、パッドが当接する側の表面に溝が形成されたワークであり、ワークの表面とは反対側の裏面にシートが貼り付けられていることが好ましい。
【0013】
本発明の搬送装置は、本発明の目的を達成するために、本発明の保持装置を複数備え、複数の保持装置によって被保持物を保持した状態で被保持物の搬送を行う。
【0014】
本発明の一形態は、複数の保持装置が固定されるパッド連結ベースと、パッド連結ベースを搬送する搬送ベースと、搬送ベースとパッド連結ベースとの間に設けられ、搬送ベースとパッド連結ベースとの距離を変化させる方向に付勢する付勢部材と、備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ダイレクト搬送方式において、剛性が低いワークを保持する場合であっても、ワークを安定且つ確実に保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】IVAはワークの断面図であり、IVBはワークの撓んだ状態を模式的に示した説明図である。
【
図5】保持装置によってワークが吸着保持された状態を示した説明図である。
【
図6】保持装置の第1変形例を示した外観図である。
【
図7】VIIAは保持装置の第2変形例を示した側面図であり、VIIBはパッドの動作を示した説明図である。
【
図8】実施形態の搬送装置を上方から見た斜視図である。
【
図9】
図8に示した搬送装置を側方から見た斜視図である。
【
図10】保持装置の別形態の一例を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に従って本発明に係る保持装置及び搬送装置の実施形態について説明する。
[保持装置]
図1は、実施形態に係る保持装置10の要部斜視図であり、
図2は、
図1に示した保持装置10の要部断面図である。実施形態の保持装置10は、ワークを直接保持するための装置である。この保持装置10は、
図1及び
図2に示すように、パッド12と、パッド支持体14と、吸引ポンプ16と、を備える。パッド12は、本発明のパッドの一例であり、パッド支持体14は、本発明のパッド支持体の一例であり、吸引ポンプ16は、本発明の吸引源の一例である。
【0018】
ここで、実施形態の保持装置10によって保持されるワークについて
図3及び
図4を参照して説明する。
【0019】
図3は、ワーク100の斜視図である。また、
図4のIVAは、
図3に示したワーク100の断面図であり、
図4のIVBは、
図4のIVAで示したワーク100が撓んだ状態(ペラペラの状態)を模式的に示した説明図である。
【0020】
図3に示すように、実施形態の保持装置10によって保持されるワーク100は、ダイシングフレームを使用せずに、ワーク100の裏面(デバイスが形成される表面とは反対側の面)のみにダイシングテープ106が貼り付けられたものである。ワーク100は、本発明のワークの一例であり、ダイシングテープ106は、本発明のシートの一例である。
【0021】
本例のワーク100は平面視で矩形状に構成されている。このワーク100には、互いに交差する複数の分割予定ラインに沿って形成された複数の溝102が碁盤目状に形成されている。溝102は、一例としてダイシング装置(不図示)の高速回転するブレードによって加工されたものであり、
図4のIVA及びIVBに示すように、ワーク100を貫通してダイシングテープ106まで切り込まれている(いわゆるフルカット加工。)。なお、ワーク100の形状は矩形状に限定されるものではなく、例えば、円形であってもよい。また、溝102の形態は碁盤目状に限定されるものではなく、例えば、複数本の溝が一方向にのみ形成された形態でもよく、また、1本の溝のみが形成された形態であってもよい。また、溝102の加工形態は、フルカット加工に限定されるものではなく、例えば、ハーフカット加工或いはセミフルカット加工であってもよい。
【0022】
ダイシングテープ106としては、例えばPVC(polyvinyl chloride:ポリ塩化ビニール)系のテープが使用される。ワーク100は、例えばDAF(Die Attach Film)等のフィルム状接着材を介してダイシングテープ106に貼り付けられていてもよい。その場合、フィルム状接着材としては、例えばPO(polyolefin:ポリオレフィン)系のものを使用することができる。
【0023】
図1及び
図2に戻って、実施形態の保持装置10について引き続き説明を行う。
【0024】
実施形態の保持装置10は、既述のとおり、パッド12を備えている。
図1及び
図2に示すように、パッド12は薄板状に構成されたものであり、一例として平面視で矩形状に形成されている。なお、パッド12の形状は矩形状に限定されるものではなく、例えば、円形(
図6参照)であってもよい。
【0025】
また、パッド12の中央部には、後述する開口部42及び吸引路40を介して吸引ポンプ16に連通する吸引孔22が形成されている(
図2参照)。吸引孔22には、吸引ポンプ16により開口部42及び吸引路40を介して負圧が付与される。これにより、パッド12の吸引孔開口面18(
図2において下側の面)は、被保持物であるワーク100を吸着する吸着面として機能する。なお、本例では、ワーク100(
図3参照)の表面(ダイシングテープ106が貼り付けられる側とは反対側の面)にパッド12を接触させた状態でワーク100が吸着保持される。ワーク100は、本発明の被保持物の一例である。
【0026】
図1及び
図2に示すように、パッド支持体14は、支持部本体28と、板金30と、を備えている。支持部本体28は、配管32に連結される口金部34と、口金部34の下部に一体に構成された平板状の座部36と、を有し、例えば剛性の高い金属によって構成されている。座部36は、平面視で矩形状に構成される。この座部36の板金固定面38(板金30が配置される側の面)は平面状に構成されている。そして、座部36の板金固定面38に板金30が固定される。口金部34及び座部36には、配管32に連通される吸引路40が形成されている。なお、座部36の形状は矩形状に限定されるものではなく、例えば円形(
図6参照)であってもよい。
【0027】
図1及び
図2に示すように、配管32は、一端が口金部34に固定され、他端が吸引ポンプ16に接続される。吸引ポンプ16は、配管32、吸引路40、及び開口部42を介して吸引孔22に連通している。これにより、吸引ポンプ16の駆動に応じて吸引孔22には負圧が付与されるので、パッド12の吸引孔開口面(吸着面)18に対して被保持物(ワーク100)を吸着保持することが可能となる。
【0028】
板金30は、座部36の板金固定面38に対してネジ等の締結部材によって取り外し可能に固定される。また、板金30には、吸引路40と連通した開口部42が形成されている。本例の開口部42と吸引路40とによって、本発明の吸引路が構成されている。また、板金30と座部36との間にはOリング(不図示)が配置されている。このOリングは、吸引路40を囲繞する位置に配置されており、Oリングによって吸引路40内の空気の漏れが防止されている。
【0029】
板金30のパッド固定面44(座部36とは反対側の面)には、パッド12が接着剤により固定される。板金30のパッド固定面44に対するパッド12の固定形態は特に限定されるものではないが、後述するようにパッド12としてゴム製のものが採用された場合には、ネジ等の締結部材よりも接着剤による固定形態であることが好ましい。なお、上述したように、パッド12が固定される板金30は座部36から取り外し可能(着脱自在)に構成されているので、例えばパッド12が摩耗した場合には、パッド12は板金30と共に座部36から取り外されて新たなパッド12(板金30を含む)に交換することが可能となっている。
【0030】
ここで、実施形態のパッド12の構成について詳しく説明する。
【0031】
パッド12は、可撓性部材によって構成されている。可撓性部材としては、ゴムを例示することができる。ゴムとしては、クロロプレンゴム及びシリコンゴム等の柔軟性のある軟質ゴムを例示することができる。なお、可撓性部材としては、ゴムに限定されるものではなく、例えば、PVC等の柔軟性のある軟質プラスチックを採用してもよい。但し、後述するように、パッド12の非固定領域12bを、ワーク100の形状に倣って変形させる観点から、軟質プラスチックよりもゴムが好ましい。
【0032】
上記のように可撓性部材により構成されるパッド12は、平面視で矩形状に構成される平面領域(パッド領域)のうち、その外縁部を除く中央領域がパッド支持体14に固定される領域であり、その中央領域の周辺領域がパッド支持体14に固定されない領域である。すなわち、パッド12を構成するパッド領域(平面視矩形状領域)のうち、中央部を含む所定範囲の中央領域がパッド支持体14(板金30のパッド固定面44)に対して固定された固定領域12aとなり、この固定領域12aよりも面外方に位置する周辺領域がパッド支持体14(板金30のパッド固定面44)に対して固定されない非固定領域12bとなっている。なお、固定領域12aの中央部には吸引孔22が形成されており、その吸引孔22には開口部42及び吸引路40を介して吸引ポンプ16が連通されている。固定領域12aは、本発明の固定領域の一例である。非固定領域12bは、本発明の非固定領域の一例である。
【0033】
次に、実施形態の保持装置10の作用について説明する。
【0034】
図5は、保持装置10によってワーク100が吸着保持された状態を示した概略説明図である。
図5に示すように、パッド12の吸引孔開口面(吸着面)18をワーク100の表面に当接させた状態にする。そして、この状態で吸引ポンプ16(
図2参照)を駆動すると、吸引孔22には負圧が付与される。これにより、パッド12の吸引孔開口面18とワーク100の表面との間に負圧が作用して、パッド12に対してワーク100が吸着保持された状態となる。
【0035】
このようにしてパッド12による吸着保持が行われる際、パッド12の中央領域に形成される固定領域12aはパッド支持体14(板金30のパッド固定面44)に対して固定されているため、固定領域12aに接するワーク100の中央領域は、平坦な状態で維持しながらパッド12に対して吸着保持される。一方、パッド12の周辺領域に形成される非固定領域12bはパッド支持体14(板金30のパッド固定面44)に対して固定されずにワーク100の変形に倣って柔軟に変形可能(可撓変形が可能な領域)となっている。そのため、パッド12の非固定領域12bに接した部分であるワーク100の周辺部が自重により撓み変形したとしても、その撓み変形に倣ってパッド12の非固定領域12bが追従して変形してワーク100の周辺部を吸着保持することが可能となる。
【0036】
ここで、パッド12による吸着保持が行われる際に、吸引ポンプ16の吸引量(送風量)について説明する。吸引ポンプ16は、パッド12によってワーク100(
図3参照)を吸着保持した場合、
図3に示す溝102から吸引孔22を介して吸引路40に流入する空気量(外気量)よりも大きな風量を吸引可能な吸引量に設定される。具体的に説明すると、吸引ポンプ16のモータの回転数が上記の風量となるように吸引量が設定される。つまり、吸引ポンプ16のモータの回転数は、溝102を介して吸引路40に流入する空気量よりも大きな排気速度で吸引する回転数に設定される。なお、吸引ポンプ16による上記の排気速度は、ワーク100に形成された溝102のパッド12での管路抵抗の大きさに応じてパッド12がワーク100を吸着可能な速度に設定される。上記の管路抵抗は、溝102の幅、深さ、本数、形状等により定められる。また、
図2に示した矢印Aは、吸引ポンプ16が駆動された場合の空気流れ方向を示している。
【0037】
吸引ポンプ16のモータの回転数を上記のように設定して吸引ポンプ16を駆動し、パッド12の吸引孔開口面18をワーク100の表面に当接させた場合、外気は溝102からワーク100とパッド12との間に流入(リーク)する。その際、吸引ポンプ16は、吸引路40に流入する空気量(外気量)よりも大きな風量を吸引する回転数で駆動される。その結果、溝102による管路抵抗の作用とも相まって、パッド12の吸引孔開口面18とワーク100の表面との間に負圧が発生し、ワーク100の表面がパッド12の吸引孔開口面18に吸着保持される。
【0038】
したがって、実施形態の保持装置10によれば、パッド12の固定領域12aがワーク100を平坦な状態で吸着保持しつつ、その周辺領域に形成される非固定領域12bがワーク100の撓み変形に倣って吸着保持する構成を備えたので、剛性が低い、いわゆる「ペラペラの状態」のワーク100を吸着保持する場合であっても、ワーク100の変形状態に倣ってパッド12が変形するので、パッド12がワーク100から剥離することなく強固に吸着する。したがって、ワーク100を安定且つ確実に保持することが可能となる。
【0039】
また、実施形態の保持装置10によれば、パッド12は、ワーク100を平坦な状態で吸着保持することが可能な固定領域12aを備えたことにより、パッド12によりワーク100を吸着保持する際にワーク100の変形が全体的に抑制されるので、ワーク100に形成されるチップ(デバイス)間の接触等の不具合を防止することが可能となる。
【0040】
また、実施形態の保持装置10によれば、従来と同じサイズの装置(例えば、ダイシング装置)において、ワークサイズをフレームサイズまで拡張することが可能となるので、より大きなサイズのワークの処理が可能となる。また、サイズの大きなワークではチップ取り数が増えるので、チップの低廉化につながるというメリットもある。
【0041】
なお、ワーク100を吸着保持する他の方式として、(1)静電チャックによる吸着保持、(2)ベルヌーイチャックによる吸着保持、(3)高吸着力パッドによる吸着保持、(4)ワーク裏面側を吸着保持、が挙げられる。
【0042】
しかしながら、(1)静電チャックによる吸着保持は、切削後の水が溝(カーフ)102に残ることにより保持力の制御が難しいという問題がある。また、(2)ベルヌーイチャックによる吸着保持は、ワーク100の剛性が低い場合には剥離して落下しやすいという問題がある。また、(3)高吸着力パッドによる吸着保持は、吸着面が凹形状となっているため、吸着したワーク100が凹状に撓んでチップ同士が接触しやすい問題がある。また、(4)ワーク裏面側を吸着保持は、ワーク100をチャックテーブルにマウントする際に、ワーク100を保持するための別の機構が必要になるという問題がある。
【0043】
これに対して、実施形態の保持装置10は、剛性が低いワーク100の場合であっても、(1)から(4)に示した各方式に比べて、上記問題を生じさせることなく、簡易な構成で、ワーク100を安定且つ確実に吸着保持することが可能となる。
【0044】
なお、上述した実施形態では、保持装置10が吸着保持する被保持物として、
図3に示したワーク100を一例として示したが、これに限らず、例えば、溝が形成されていない加工前のワークであってもよいし、ダイシングテープが裏面に貼り付けられていないワークであってもよい。
【0045】
次に、実施形態の保持装置10の変形例について説明する。
[第1変形例]
図6は、保持装置の第1変形例を示した外観図である。
図6に示す保持装置50は、円形のパッド12と円形の座部36が適用された構成を有している。保持装置50は、例えば、円形のワークに好ましく適用される。
【0046】
[第2変形例]
図7のVIIAは、保持装置の第2変形例を示した側面図であり、
図7のVIIBは、パッド12の動作を示した説明図である。
図7に示す保持装置60は、パッド12と座部36のそれぞれの表面形状(平面視での形状)が同一である構成を有している。この場合の表面形状としては、例えば、矩形でもよく円形でもよい。また、本例の保持装置60は、
図2に示した板金30を有しておらず、座部36の下面にパッド12が直接固定されている。パッド12を構成するパッド領域のうち、中央部を含む所定範囲の中央領域が座部36に対して固定された固定領域12aとなり、この固定領域12aよりも面外方に位置する周辺領域が座部36に対して固定されない非固定領域12bとなっている。その結果、保持装置60は、実施形態の保持装置10(
図1参照)と同様の効果を得ることができる。なお、
図7では、パッド12と座部36のそれぞれの表面形状が同一である構成を例示したが、これに限定されるものではなく、パッド12の表面形状が座部36の表面形状よりも小さい形態であってもよい。
【0047】
次に、実施形態の保持装置10を用いた搬送装置の一例を説明する。
【0048】
図8は、実施形態の搬送装置70を上方から見た斜視図であり、
図9は、
図8に示した搬送装置70を側方から見た斜視図である。
【0049】
図8及び
図9に示すように、搬送装置70は、複数台(本例では5台)の保持装置10(10A)を備え、これらの保持装置10(10A)によって1つのワーク100を保持した状態で搬送するものである。
【0050】
この搬送装置70は、パッド連結ベース72と、搬送ベース74と、スプリング80と、を備えている。パッド連結ベース72は、本発明のパッド連結ベースの一例であり、搬送ベースは、本発明の搬送ベースの一例であり、スプリング80は、本発明の付勢部材の一例である。
【0051】
図8及び
図9に示すように、パッド連結ベース72は、平面視において略X字状に構成されている。パッド連結ベース72は、4箇所の端部72Aを有し、これらの端部72Aに保持装置10がそれぞれ固定されている。また、パッド連結ベース72は、中央部72Bを有し、中央部72Bに保持装置10Aが取り付けられている。
【0052】
図10は、保持装置10Aの斜視図である。保持装置10Aは、パッド12A及び座部36Aの形状が平面視において長方形に構成されているが、基本的な構造は保持装置10と同一であるので、ここでは説明を省略する。
【0053】
なお、本例の5台の保持装置10(10A)は、それぞれのパッド12(12A)の吸引孔開口面18が同一の水平面上に位置するようにパッド連結ベース72にそれぞれ固定されている。また、本例では、5台の保持装置10(10A)を有する搬送装置70を例示したが、これに限定されるものではなく、少なくとも2台の保持装置10を有する構成の搬送装置であってもよい。
【0054】
図8及び
図9に示すように、搬送ベース74は、パッド連結ベース72の上方に配置される。すなわち、搬送ベース74は、パッド連結ベース72に対して複数の保持装置10(10A)とは反対側に設けられている、搬送ベース74は、平面視において略十字状に構成されている。搬送ベース74は、4箇所の端部74Aを有している。搬送ベース74の下方に配置されたパッド連結ベース72は、搬送ベース74の各端部74Aに設けられたスプリング80を介して搬送ベース74に上下動自在(フローティング)に支持されている。すなわち、スプリング80は、搬送ベース74とパッド連結ベース72との間に設けられることで、搬送ベース74とパッド連結ベース72との距離を変化させる方向に付勢する機能を有している。
【0055】
図8及び
図9に示すように、搬送機構76においては具体的な構成を省略しているが、搬送機構76として、例えばロボットアームを適用することができる。ロボットアームを適用した場合、ロボットアームの先端部を搬送ベース74の中央部74Bに連結することが好ましい。これにより、保持装置10(10A)に吸着保持されたワーク100を上記のロボットアームによって搬送することができる。
【0056】
また、搬送機構76は、搬送ベース74とパッド連結ベース72との間に配置された複数(本例では4つの)のスプリング80を含むフローティング機構を備えているので、このフローティング機構により、パッド連結ベース72に連結固定される各保持装置10(10A)の吸引孔開口面18が、搬送ベース74に対して可動になっている。そのため、ロボットアームによって各保持装置10(10A)の吸引孔開口面18をワーク100の表面に接触させる際の衝撃を少なくし、各保持装置10(10A)の吸引孔開口面18への吸着保持の動作をスムーズに行うことが可能となる。
【0057】
ダイシング装置の場合を例に挙げて説明すると、ロードポートにセットされた溝加工前のワーク100を保持装置10(10A)によって吸着保持し、ロボットアームを駆動して加工部(チャックテーブル)に搬入する。そして、溝加工後のワーク100を保持装置10(10A)によって吸着保持し、ロボットアームを駆動して加工部から搬出する。ここで、搬送装置70に複数台の保持装置10(10A)を搭載することにより、大面積のワーク100であっても平面形状を保持したまま吸着搬送することが可能となる。なお、
図8及び
図9に示したワーク100は、一例として、230mm×200mmサイズのものである。また、保持装置10のパッド12は、一例として、35mm×35mmサイズのものである。
【0058】
なお、本例の搬送装置70は、パッド連結ベース72の上方に搬送ベース74を配置した構成であるが、この構成に限定されるものではなく、パッド連結ベース72の下方に搬送ベース74を配置した構成であってもよい。
【0059】
また、本発明に係る保持装置及び搬送装置は、上述したダイシング装置に限らず、レーザーダイシング装置等にも適用可能である。また、これらの加工装置(ダイシング装置、レーザーダイシング装置等)とは別体に構成される専用の保持装置及び搬送装置にも適用可能である。
【0060】
以上、本発明に係る保持装置及び搬送装置の一例について説明したが、本発明の技術は実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、いくつかの改良又は変形を行ってもよい。
【符号の説明】
【0061】
10…保持装置、10A…保持装置、12…パッド、12a…固定領域、12b…非固定領域、12A…パッド、14…パッド支持体、16…吸引ポンプ、18…吸引孔開口面、22…吸引孔、28…支持部本体、30…板金、32…配管、34…口金部、36…座部、36A…座部、38…板金固定面、40…吸引路、42…開口部、44…パッド固定面、50…保持装置、60…保持装置、70…搬送装置、72…パッド連結ベース、72A…端部、72B…中央部、74…搬送ベース、74A…端部、74B…中央部、76…搬送機構、80…スプリング、100…ワーク、102…溝、106…ダイシングテープ