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特開2023-146362新規ケトン類化合物、ラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE2産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146362
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】新規ケトン類化合物、ラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE2産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/58 20060101AFI20231004BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231004BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20231004BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C07D311/58 CSP
A61Q19/00
A61Q19/02
A61K8/49
A61Q7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053506
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 豪紀
(72)【発明者】
【氏名】エン チグン
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC841
4C083AC842
4C083CC02
4C083CC37
4C083EE12
4C083EE16
4C083EE22
4C083FF01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】天然由来の抽出物から得られる、ラジカル消去作用、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用、PGE産生抑制作用、チロシナーゼ活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、I型コラーゲン産生促進作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用を有する化合物を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるケトン類化合物による。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表されるケトン類化合物。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の前記ケトン類化合物を有効成分として含有するラジカル消去剤。
【請求項3】
請求項1に記載の前記ケトン類化合物を有効成分として含有するヒアルロニダーゼ活性阻害剤。
【請求項4】
請求項1に記載の前記ケトン類化合物を有効成分として含有するPGE産生抑制剤。
【請求項5】
請求項1に記載の前記ケトン類化合物を有効成分として含有するチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項6】
請求項1に記載の前記ケトン類化合物を有効成分として含有するエラスターゼ活性阻害剤。
【請求項7】
請求項1に記載の前記ケトン類化合物を有効成分として含有するI型コラーゲン産生促進剤。
【請求項8】
請求項1に記載の前記ケトン類化合物を有効成分として含有する毛乳頭細胞増殖促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ケトン類化合物、ラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤、及び毛乳頭細胞増殖促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に生体成分を酸化させる要因として、活性酸素や生体内ラジカルが注目されており、その生体への悪影響が問題となっている。活性酸素は、生体細胞内のエネルギー代謝過程で生じるものであり、例えば、酸素分子の一電子還元で生じるスーパーオキシドアニオン(・O )、過酸化水素(H)、一重項酸素()、ヒドロキシラジカル(・OH)等のスーパーオキサイドがある。これら活性酸素は食細胞の殺菌機構にとって必須であり、ウイルスや癌細胞の除去に重要な働きを果たしている。
【0003】
しかし、活性酸素の過剰な生成は生体内の膜や組織を構成する生体内分子を攻撃し、各種疾患を誘発する。生体内で生産され、他の活性酸素の出発物質ともなっているスーパーオキサイドは、通常、細胞内に含まれているスーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)の触媒作用により逐次消去されている。しかし、スーパーオキサイドの産生が過剰な場合、あるいはSODの作用が低下している場合には、スーパーオキサイドの消去が不十分になってスーパーオキサイドの濃度が高くなる。このことが、関節リウマチ、ベーチェット病等の組織障害、心筋梗塞、脳卒中、白内障、シミ、ソバカス、しわ、糖尿病、動脈硬化、肩凝り、冷え性、皮膚の老化等を引き起こす原因の一つであると考えられている。
【0004】
これらの中でも、皮膚は、紫外線等の環境因子の刺激を直接受けることから、スーパーオキサイドが生成されやすい器官であるため、スーパーオキサイドの濃度が上昇すると、例えば、コラーゲン等の生体組織を分解、変性、又は架橋したり、油脂類を酸化して細胞に障害を与える過酸化脂質を生成して、皮膚のしわを形成したり、皮膚の弾力性低下等の老化、炎症、肌の色素沈着を引き起こすという問題がある(非特許文献1参照)。したがって、活性酸素や生体内ラジカルの生成を阻害・抑制することにより、しわの形成や弾力性低下等の皮膚の老化や、関節リウマチやベーチェット病等の組織障害、心筋梗塞、脳卒中、白内障、糖尿病、動脈硬化、肩凝り、冷え性等の活性酸素が関与する各種疾患を予防、治療又は改善できるものと考えられている。
【0005】
従来、活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、又は過酸化水素消去作用等を有するものとして、例えば、ラン科カトレヤ(Laeliocattleya drumbeat)の抽出物(特許文献1参照)、ヒトリシズカ抽出物(特許文献2参照)等が知られている。
【0006】
炎症性疾患、例えば、接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患等の原因及び発症機構は、多種多様である。その原因として、ヒアルロニダーゼの活性の亢進によるもの、プロスタグランジンE(PGE)の産生量の増加によるもの等が知られている。
【0007】
ヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸の加水分解酵素である。体組織への親和性を保つヒアルロン酸塩は、含水系の中では紫外線、酸素等によって分解され、分子量の低下に伴って保水効果も減少する。また、ヒアルロン酸は、生体内において細胞間組織として存在し、血管透過性にも関与している。さらに、ヒアルロニダーゼは、肥満細胞中に存在するが、その活性化により起こる脱顆粒により遊離され、炎症系ケミカルメディエーターとして作用する。したがって、ヒアルロニダーゼの活性を阻害することで、保湿の強化及び炎症の予防及び改善が期待される。
【0008】
従来、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用を有するものとして、例えば、ヒノキチオールと、スギナ、セイヨウサンザシ及びハマメリスの抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物(特許文献3参照)、セイヨウシロヤナギ、ビワ、ライム、カキ、タマネギから選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物(特許文献4参照)等が知られている。
【0009】
また、炎症は、発赤、浮腫、発熱、痛み、痒み、機能障害等の症状を示す複雑な反応である。例えば、皮膚においては、紫外線が曝露されたり、刺激性物質と接触したりすると、皮膚内で炎症性サイトカイン等が生成され、皮膚炎症が引き起こされる。その結果、皮膚組織がダメージを受け、肌荒れ、発赤、浮腫、色素沈着等の諸症状が生じるようになる。
【0010】
炎症性サイトカインの一つとして、プロスタグランジンE(PGE)が挙げられる。PGEは、皮膚においては、例えば、角化細胞(ケラチノサイト)等で産生され、皮膚炎症を誘発する原因となる。このため、皮膚炎症を予防、治療又は改善する方法として、角化細胞でのPGEの産生を抑制することが考えられる。
【0011】
従来、角化細胞に対しPGE産生抑制作用を有するものとして、クービ、ハイビスカス、シモン芋、ベニバナからなる群から選択される少なくとも1種の原料素材の抽出物(特許文献5参照)、フトモモ科に属する植物であるピメント(Pimenta dioica)およびその抽出物(特許文献6参照)等が知られている。
【0012】
皮膚においてメラニンは紫外線から生体を保護する役目も果たしているが、過剰生成や不均一な蓄積は、皮膚の黒化やシミの原因となる。一般に、メラニンは色素細胞の中で生合成される酵素チロシナーゼの働きによってチロシンからドーパ、ドーパからドーパキノンに変化し、次いで、5,6-ジヒドロキシインドフェノール等の中間体を経て形成される。したがって、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)を予防又は改善するためには、メラニン産生過程を阻害すること、即ちチロシナーゼの活性を阻害することが有効であると考えられる。
【0013】
従来、チロシナーゼ活性阻害作用を有するものとして、例えば、サマエサーン(Cassia garrettiana)の抽出物(特許文献7参照)、シロウリ(Cucumis melo ver. conomon)を被抽出材料として抽出されたエタノール可溶性成分もしくは前記シロウリの果実の搾汁液またはそれらの加水分解物(特許文献8参照)等が知られている。
【0014】
皮膚の真皮及び表皮は、表皮細胞、線維芽細胞及びこれらの細胞の外にあって皮膚構造を支持するエラスチン、I型コラーゲン等の真皮細胞外マトリックスによって構成されており、若い皮膚においてはこれらの皮膚組織が恒常性を維持することにより保湿機能、柔軟性及び弾力性等が確保され、肌は外見的にも張りや艶があってみずみずしい状態に維持される。
【0015】
ところが、紫外線の照射、空気の著しい乾燥、過度の皮膚洗浄等の外的因子であったり、加齢が進んだりすることによって、真皮細胞外マトリックスの主要構成成分であるエラスチン、I型コラーゲン等の産生量が減少するとともに、変性や分解を引き起こす。その結果、角質は異常剥離を始め、肌は張りや艶を失い、肌荒れやシワ等の老化症状を呈するようになる。このような皮膚の老化に伴う変化、すなわち、シワの形成、張りの消失、弾力性の低下等には、エラスチン、I型コラーゲン等の真皮細胞外マトリックス成分の減少及び変性が関与している。
【0016】
エラスチンを分解する酵素であるエラスターゼは、紫外線の照射により活性化され、これによりエラスチンの分解が加速され、皮膚の張りが失われるとともに弾力性が低下することが知られている。そのため、エラスターゼの活性を阻害することによりエラスチンの分解が抑制され、張りの消失、弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防及び改善できると考えられる。
【0017】
また、喫煙等によって生体内でのエラスターゼの活性が亢進することが知られている。そして、肺の基質は、コラーゲンとエラスチンとから構成されているため、喫煙等によってエラスターゼの活性が亢進すると、肺胞壁を破壊して肺気腫等を発症するおそれがある。さらにエラスターゼの活性が亢進されることにより、肺毛血管が破壊され、肺水腫等の急性呼吸促進症候群(ARDS)を発症するおそれがあると考えられる。そのため、生体内でのエラスターゼの活性を阻害することができれば、肺気腫、肺水腫等の呼吸器系疾患を予防及び改善することができるものと考えられる。
【0018】
従来、エラスターゼ活性阻害作用を有するものとして、例えば、マタタビ科マタタビ属マタタビ(Actinidiaceae Actinidia polygama)の果実より抽出されたマタタビ抽出物(特許文献9参照)、オクラ(abelmoschus esculentus)の完熟した種子の酵素分解物、抽出物、抽出残渣又はスプラウト(特許文献10参照)等が知られている。
【0019】
コラーゲンの中でもI型コラーゲンは、最も多く体内に含まれるコラーゲンであり、皮膚の真皮にも多く含まれ、皮膚の保湿機能、柔軟性及び弾力性等を確保する役割を果たしていることが知られている。しかし、加齢等に伴ってI型コラーゲンの産生量が減少すると、皮膚は保湿機能や弾力性が低下し、シワの形成、張りの消失等の皮膚の老化症状が生じる。そのため、I型コラーゲンの産生を促進することで、シワの形成、張りの消失、弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防又は改善できると考えられる。
【0020】
従来、I型コラーゲン産生促進作用を有するものとして、例えば、リュウキュウチク、オオイタビ及びツルナの植物体又はその抽出物(特許文献11参照)、セネデスムス属である植物プランクトン(微細藻類)の水含有溶媒による抽出物(特許文献12参照)等が知られている。
【0021】
毛髪は、成長期、退行期及び休止期からなる周期的なヘアサイクル(毛周期)に従って成長及び脱落を繰り返している。このヘアサイクルのうち、休止期から成長期にかけて新たな毛包が形成されるステージが、発毛に最も重要であると考えられており、このステージにおける毛包上皮系細胞の増殖・分化に重要な役割を果たしているのが、毛乳頭細胞であると考えられている。毛乳頭細胞は、毛根近傍にある外毛根鞘細胞とマトリックス細胞とからなる毛包上皮系細胞の内側にあって、基底膜に包まれている毛根の根幹部分に位置する細胞であり、毛包上皮系細胞に働きかけてその増殖を促進する等、毛包上皮系細胞の増殖・分化及び毛髪の形成において重要な役割を担っている(非特許文献2参照)。
【0022】
このように、毛乳頭細胞は、毛包上皮系細胞の増殖・分化及び毛髪の形成において最も重要な役割を果たしており、従来、培養毛乳頭細胞に対象物質を接触させて、その細胞の増殖活性の有無及び/又は強弱を特定することで、その対象物質の育毛効果を検定する方法が提案されている(特許文献13参照)。
【0023】
従来、毛乳頭細胞増殖促進作用を有するものとしてコンブ科、チガイソ科、レッソニア科、ヒバマタ科、ホンダワラ科、ミリン科、スギノリ科、ムカデノリ科、テングサ科、オゴノリ科、アオサ科から選ばれる3種以上の海藻抽出物(特許文献14参照)、オオバモクの抽出物(特許文献15参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2006-282536号公報
【特許文献2】特開2008-088072号公報
【特許文献3】特開2021-187849号公報
【特許文献4】特開2006-104098号公報
【特許文献5】特開2018-065763号公報
【特許文献6】特開2014-118349号公報
【特許文献7】特開2013-184952号公報
【特許文献8】特開2011-256147号公報
【特許文献9】特開2011-195542号公報
【特許文献10】特開2020-050601号公報
【特許文献11】特開2011-195505号公報
【特許文献12】特開2007-186471号公報
【特許文献13】特開平10-229978号公報
【特許文献14】特開2007-131571号公報
【特許文献15】特開2008-247784号公報
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】「フレグランスジャーナル」臨時増刊No.14、p156、1995年
【非特許文献2】「Trends Genet」,1992年,第8巻,p.56-61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、安全性の高い天然由来の抽出物から得られるラジカル消去作用、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用、PGE産生抑制作用、チロシナーゼ活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、I型コラーゲン産生促進作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用を有する化合物、並びに当該化合物を含有する新PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、甘草抽出物からラジカル消去作用、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用、PGE産生抑制作用、チロシナーゼ活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、I型コラーゲン産生促進作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用を有する新規ケトン類化合物を単離及び同定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0028】
すなわち、本発明は、下記構造式(1)で表されるケトン類化合物、当該ケトン類化合物を有効成分として含有するラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤を提供する。
【0029】
【化1】
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、安全性の高い天然由来の抽出物からラジカル消去作用、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用、PGE産生抑制作用、チロシナーゼ活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、I型コラーゲン産生促進作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用を有する化合物、当該化合物を含有するラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態に係るケトン類化合物は、下記構造式(1)で表されるものである。
【0032】
【化2】
【0033】
ケトン類化合物が上記構造式(1)で表される1-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2-(5-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-2H-クロメン-6-イル)エタノンの構造をとることは後述する実施例において確認されており、甘草から単離することができる新規ケトン類化合物である。なお、上記ケトン類化合物は、甘草から単離することができるが、甘草以外の植物にも存在する可能性がある。したがって、上記ケトン類化合物の単離源は、甘草に限定されるものではなく、上記ケトン類化合物を含有するいずれの植物を用いてもよい。
【0034】
上記ケトン類化合物は、例えば、油溶性甘草抽出物に、液-液分配抽出、各種クロマトグラフィー、膜分離等の精製操作を施した後、上記ケトン類化合物を含む画分を分取HPLC及びリサイクルHPLC等により処理することで得ることができる。
【0035】
甘草は、マメ科グリチルリーザ(Glycyrrhiza)属に属する多年生草本である。甘草には、グリチルリーザ・グラブラ(Glychyrrhiza glabra)、グリチルリーザ・インフラータ(Glychyrrhiza inflata)、グリチルリーザ・ウラレンシス(Glychyrrhiza uralensis)、グリチルリーザ・アスペラ(Glychyrrhiza aspera)、グリチルリーザ・ユーリカルパ(Glychyrrhiza eurycarpa)、グリチルリーザ・パリディフロラ(Glychyrrhiza pallidiflora)、グリチルリーザ・ユンナネンシス(Glychyrrhiza yunnanensis)、グリチルリーザ・レピドタ(Glychyrrhiza lepidota)、グリチルリーザ・エキナタ(Glychyrrhiza echinata)、グリチルリーザ・アカンソカルパ(Glychyrrhiza acanthocarpa)等、様々な種類のものがあり、これらのうち、いずれの種類の甘草を抽出原料として使用してもよいが、特にグリチルリーザ・グラブラ(Glychyrrhiza glabra)を抽出原料として使用することが好ましい。抽出原料として使用し得る甘草の構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、種子部、花部、根部又はこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは根部である。
【0036】
上記の抽出原料として使用し得る甘草は、乾燥した後、そのまま、又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、工業的に製造されているグリチルリチンの抽出原料となっている乾燥根部又は乾燥根茎部、又はグリチルリチン等を得るために水で抽出した後の水抽出残渣を原料として使用することもできる。
【0037】
甘草の抽出方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料である甘草を投入し、必要に応じて撹拌しながら、可溶性成分を溶出した後、濾過して固形物を除去することにより抽出物を得る方法等が挙げられる。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0038】
抽出に用いられる溶媒としては、有機溶媒を室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0039】
抽出溶媒として使用し得る有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、含水メタノール、含水エタノール、含水プロパノール等が挙げられる。さらには、超臨界流体として二酸化炭素を用いることもできる。
【0040】
抽出原料として水抽出残渣から上述した有機溶媒で甘草抽出物を得るための方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、抽出原料である水抽出残渣に対し、2~10倍量の有機溶媒を加え、撹拌しながら常温で抽出する方法、加熱還流して抽出する方法等が挙げられる。
【0041】
精製は、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等により行うことができる。上記甘草抽出物は、特有の匂いと味とを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことができる。
【0042】
以上のようにして得られた抽出液は、遠心分離、濾過等の固液分離手段により不溶物を除去した後、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物もしくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0043】
以上のようにして得られた甘草抽出物は、吸着剤に吸着させた後、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒で溶出する。なお、甘草抽出物に含まれ得る親水性有機溶媒は、吸着剤に吸着させる前に必要に応じて留去する。親水性有機溶媒を留去した甘草抽出物は、例えば、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒に溶解又は懸濁させた後、吸着剤に吸着させる。吸着剤に甘草抽出物を吸着させた後、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒に溶出させる。
【0044】
溶解、懸濁又は溶出に使用し得る親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられるが、炭素数1~5の低級脂肪族アルコールを溶解液、懸濁液又は溶出液として使用するのが好ましく、メタノール又はエタノールを溶解液、懸濁液又は溶出液として使用するのがより好ましい。また、水と水溶性溶媒との混合溶媒を使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1~90容量部を混合することが好ましい。
【0045】
吸着剤は、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物を吸着し得る限り、特に限定されるものではないが、イオン交換樹脂、合成吸着樹脂、活性炭、キレート樹脂、シリカゲル、アルミナゲル系吸着剤、多孔質ガラス等の公知の吸着剤を単独で又は組み合わせて用いることができるが、多孔性合成吸着樹脂であるダイヤイオンHP-20(三菱化学社製)等の多孔性合成吸着剤を使用し、当該多孔性合成吸着剤を充填剤としたカラムクロマトグラフィーに甘草抽出物を付し、溶出液により溶出させる。
【0046】
以上のようにして得られた溶出液から上記構造式(1)で表されるケトン類化合物を単離することができる。溶出液から上記構造式(1)で表されるケトン類化合物を単離する方法としては、例えば、逆相カラムクロマトグラフィー、順相カラムクロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種クロマトグラフィーによる処理を組み合わせて行うことができる。なお、各種クロマトグラフィーによる処理の順番は特に限定されるものではない。
【0047】
各種クロマトグラフィーにおける展開溶媒又は移動相としては、水、水溶性溶媒、低極性溶媒もしくはこれらの混合溶媒、又は無極性溶媒を使用することができる。水溶性溶媒としては、上記親水性溶媒やアセトニトリル等を使用することができるが、炭素数1~5の低級アルコール又は炭素数1~5の低級ケトンを使用するのが好ましく、メタノール、エタノール又はアセトンを使用することがより好ましい。
【0048】
各種クロマトグラフィーにおける充填剤としては、例えば、オクタデシル化シリカゲル(ODS)、フェニル化シリカゲル、シリカゲル、ヒドロキシプロピル化デキストラン、ポリビニルアルコール(PVA)系ポリマ等を使用することができる。なお、逆相カラムクロマトグラフィーにおいては、ODS又はフェニル化シリカゲルを使用するのが好ましく、順相カラムクロマトグラフィーにおいては、シリカゲルを使用するのが好ましく、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)においては、ヒドロキシプロピル化デキストラン又はPVA系ポリマを使用するのが好ましい。
【0049】
各種クロマトグラフィーを利用して上記構造式(1)で表されるケトン類化合物を含有する画分を分画することにより、精製された当該ケトン類化合物を単離することができる。
【0050】
以上のようにして得られる上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、ラジカル消去作用、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用、PGE産生抑制作用、チロシナーゼ活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、I型コラーゲン産生促進作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用を有しているため、その作用を利用してラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤の有効成分として用いられ得る。
【0051】
本実施形態に係るラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。製剤化したラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤の形態としては、例えば、軟膏剤、外用液剤等が挙げられる。
【0052】
本実施形態に係るラジカル消去剤は、有効成分である上記構造式(1)で表されるケトン類化合物が有するラジカル消去作用を通じて、しわ形成や弾力性低下等の皮膚の老化症状を予防及び改善できるとともに、皮膚の黒化、シミ、ソバカス等の色素沈着を予防及び改善することができる。また、本実施形態に係るラジカル消去剤は、有効成分である上記構造式(1)で表されるケトン類化合物が有するラジカル消去作用を通じて、関節リウマチやベーチェット病等の組織障害、各種動脈硬化症(虚血性心疾患、心筋梗塞、脳虚血等)、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病等)、癌、喫煙等が原因の肺疾患、白内障、糖尿病、肩凝り、冷え性等の各種疾患を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態に係るラジカル消去剤は、これらの用途以外にもラジカル消去作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。なお、ラジカルとは、不対電子を1つ又は2個以上有する分子又は原子を意味し、スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル、DPPH(diphenyl-p-picrylhydrazyl)等が含まれる。
【0053】
本実施形態に係るヒアルロニダーゼ活性阻害剤は、有効成分である上記構造式(1)で表されるケトン類化合物が有するヒアルロニダーゼ活性阻害作用を通じて、保湿機能の強化及び炎症系疾患(接触性皮膚炎、乾癬、尋常性天疱瘡、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患等)の予防、治療及び改善をすることができる。ただし、本実施形態に係るヒアルロニダーゼ活性阻害剤は、これらの用途以外にもヒアルロニダーゼ活性阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0054】
本実施形態に係るPGE産生抑制剤は、有効成分である上記構造式(1)で表されるケトン類化合物が有するPGE産生抑制作用を通じて、炎症系疾患(接触性皮膚炎、乾癬、尋常性天疱瘡、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患等)を予防、治療又は改善することができる。また、本実施形態に係るPGE産生抑制剤は、有効成分である上記構造式(1)で表されるケトン類化合物が有するPGE産生抑制作用を通じて、紫外線曝露による発赤、紅斑、色素沈着等の皮膚炎症等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態に係るPGE産生抑制剤は、これらの用途以外にもPGE産生抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0055】
本実施形態に係るチロシナーゼ活性阻害剤は、有効成分である上記構造式(1)で表されるケトン類化合物が有するチロシナーゼ活性阻害作用を通じて、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)等の予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態に係るチロシナーゼ活性阻害剤は、これらの用途以外にもチロシナーゼ活性阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0056】
本実施形態に係るエラスターゼ活性阻害剤は、有効成分である上記構造式(1)で表されるケトン類化合物が有するエラスターゼ活性阻害作用を通じて、張りの消失、弾力性の低下等の皮膚の老化症状等を予防、治療又は改善することができる。また、本実施形態に係るエラスターゼ活性阻害剤は、有効成分である上記構造式(1)で表されるケトン類化合物が有するエラスターゼ活性阻害作用を通じて、肺気腫、肺水腫等の呼吸器系疾患等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態に係るエラスターゼ活性阻害剤は、これらの用途以外にもエラスターゼ活性阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0057】
本実施形態に係るI型コラーゲン産生促進剤は、有効成分である上記構造式(1)で表されるケトン類化合物が有するI型コラーゲン産生促進作用を通じて、シワの形成、張りの消失、弾力性の低下等の皮膚の老化症状等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態に係るI型コラーゲン産生促進剤は、これらの用途以外にもI型コラーゲン産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0058】
本実施形態に係る毛乳頭細胞増殖促進剤は、有効成分である上記構造式(1)で表されるケトン類化合物が有する毛乳頭細胞増殖促進作用を通じて、毛乳頭細胞を活性化し、毛包上皮系細胞の増殖・分化及び毛髪の形成を促進することができる。これにより、育毛及び/又は養毛を促進することができ、種々の脱毛症(例えば、男性型脱毛症、円形脱毛症等)を予防・改善することができる。ただし、本実施形態に係る毛乳頭細胞増殖促進剤は、これらの用途以外にも毛乳頭細胞増殖促進作用を発揮する意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0059】
本実施形態に係るラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤の患者に対する投与方法としては、皮下組織内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経口投与、経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態に係るラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0060】
また、本実施形態に係るラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤は、優れたラジカル消去作用、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用、PGE産生抑制作用、チロシナーゼ活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、I型コラーゲン産生促進作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用を有するため、頭皮化粧料や頭髪化粧料等の化粧料等に配合するのに好適である。
【0061】
上記構造式(1)で表されるケトン類化合物を有効成分として含有するラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤を配合可能な化粧料としては、例えば、ヘアトニック、ヘアローション、ヘアクリーム、ヘアリキッド、シャンプー、リンス、ポマード等が挙げられる。ラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤を化粧料に配合する場合、その配合量は、化粧料の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.0001~10質量%であり、特に好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.001~1質量%である。化粧料は、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物が有するラジカル消去作用、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用、PGE産生抑制作用、チロシナーゼ活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、I型コラーゲン産生促進作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用を妨げない限り、通常の化粧料の製造に用いられる主剤、助剤またはその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0062】
なお、本実施形態に係るラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤はヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することも可能である。
【実施例0063】
以下、製造例、試験例等を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、下記製造例、試験例等に何ら制限されるものではない。
【0064】
〔製造例1〕甘草抽出物の製造
甘草の根部を粉砕した粉砕物1.0kgをクロロホルム2.5Lに加え、60℃の温度条件下にて30分で還流抽出を行い熱時濾過をして抽出液を得た。その後抽出残渣にクロロホルム2.5Lを加えて同様の操作を行って抽出液を得た。得られた各抽出液を合わせて減圧濃縮した後、減圧乾燥させて甘草抽出物(14g)を得た。
【0065】
〔製造例2〕新規ケトン類化合物の製造
製造例1で得られた甘草抽出物14gを多孔性合成吸着樹脂(製品名;ダイヤイオンHP-20、三菱化学社製)に付し、蒸留水(0.5L),80%メタノール(1.5L,v/v),メタノール(1.5L),アセトン(1.5L)の順に通液し、水溶出部(233.7mg)、80%メタノール溶出部(1.6g)、メタノール溶出部(6.0g)、アセトン溶出部(5.1g)を得た。このうち、メタノール溶出部(6.0g)をシリカゲル(製品名;Silica gel 60、メルクミリポア社製)を充填剤としたカラムクロマトグラフィー(移動相;n-ヘキサン:酢酸エチル=2:1→1:1→メタノール)により分画し、Fr.1(306mg)、Fr.2(1.0g)、Fr.3(1.6g)、Fr.4(1.0g)、Fr.5(1.0g)、及びFr.6(1.2g)を得た。
【0066】
Fr.2(1.0g)について、ODS(製品名;CHROMATREX ODS-DM1020T、富士シリシア社製)を充填剤としたカラムクロマトグラフィー(移動相;メタノール:水=60:40)、次いでリサイクル分取HPLC(固定相;JAIGEL-GS310×2本(日本分析工業社製)、移動相;メタノール)により精製し、精製物(5mg)を得た(試料1)。
【0067】
Fr.3(1.6g)について、ODS(製品名;CHROMATREX ODS-DM1020T、富士シリシア社製)を充填剤としたカラムクロマトグラフィーを行い(移動相;メタノール:水=60:40→メタノール)、Fr.3-1(167mg),Fr.3-2(316mg)、Fr.3-3(227mg)、Fr.3-4(76mg)、Fr.3-5(63mg)、Fr.3-6(217mg)、及びFr.3-7(514mg)を得た。
【0068】
Fr.3-1(167mg)について、分取HPLC(固定相;YMC-Actus TriartC18(YMC社製)、移動相;アセトニトリル:水=50:50)、次いでリサイクル分取HPLC(固定相;JAIGEL-GS310×2本(日本分析工業社製)、移動相;メタノール)により精製し、精製物(3mg)を得た(試料2)。
【0069】
得られた被験試料(試料1及び試料2)の質量分析、H-NMR分析及び13C-NMR分析等を行い、構造を決定した。
【0070】
<マススペクトル>
HR negaive-ion ESI-MS:calculated for C1917:m/z 325.1076 [M-H],found:325.1059
【0071】
H-NMR(400MHz、CDCl)δ
1.38(3H,s,11′-H,12′-H),4.04(2H,s,2-H),5.57(1H,d,J=10.4,3′-H),6.33(1H,d,J=8.0,8′-H),6.35(1H,d,J=2.0,3″-H),6.43(1H,d,J-9.2,5″-H),6.72(1H,d,J=9.6,4′-H),6.86(1H,d,J=8.4,7′-H),7.85(1H,d,J=7.2,6″-H)
【0072】
13C-NMR(100MHz、CDCl)δ
27.8(C-11′,C-12′),40.1(C-2),76.0(C-2′),103.9(C-3″),108.5(C-5″),109.0(C-8′),111.5(C-10′),112.7(C-6′,C-1″),117.0(C-4′),129.3(C-3′),130.1(C-7′),133.5(C-6″),151.7(C-5′),153.5(C-9′),164.0(C-4″),166.6(C-2″),204.3(C-1)
【0073】
上記の結果より、甘草抽出物から単離して得られた化合物は、下記構造式(1)で表される1-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2-(5-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-2H-クロメン-6-イル)エタノンであることが確認された。
【0074】
【化3】
【0075】
〔試験例1〕DPPHラジカル消去作用試験
150μmol/L DPPH(diphenyl-p-picrylhydrazyl)エタノール溶液3mLに上記製造例で得られた被験試料溶液3mLを加え密栓した後、振り混ぜて30分間放置した。放置後、波長520nmにおける吸光度を測定した。ブランクとして、エタノール3mLに被験試料溶液3mLを加えた後、直ちに波長520nmにおける吸光度を測定した。また、コントロールとして、被験試料無添加のDPPHエタノール溶液を同様に測定した。得られた測定結果から下記式によりDPPHラジカル消去率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0076】
DPPHラジカル消去率(%)={A-(B-C)}/A×100
式中の「A」は、コントロールの吸光度を表し、「B」は、被験試料を添加した溶液の吸光度を表し、「C」は、ブランクの吸光度を表す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、高いDPPHラジカル消去率を示した。この結果から、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、優れたラジカル消去作用を有することが確認された。
【0079】
〔試験例2〕ヒアルロニダーゼ活性阻害作用試験
上記製造例で得られた被験試料を溶解した0.1mol/L酢酸緩衝液(pH3.5)0.2mLにヒアルロニダーゼ溶液(Type IV-S(from bovine testis)、400 NF units/mL、SIGMA社製)0.1mLを加え、37℃で20分間反応させた。さらに、活性剤として2.5mmol/L塩化カルシウム溶液0.2mLを加え、37℃で20分間反応させた。これに0.8mg/mLヒアルロン酸ナトリウム溶液(from rooster comb)0.5mLを加え、37℃で40分間反応させた。その後、0.4mol/L水酸化ナトリウム溶液0.2mLを加えて反応を止め、冷却した後、反応溶液にホウ酸溶液0.2mLを加え、3分間煮沸した。氷冷後、p-DABA試薬6mLを加え、37℃で20分間反応させた。その後、波長585nmにおける吸光度を測定した。
【0080】
また、コントロール溶液として、被験試料溶液の代わりに蒸留水を添加した場合についても同様の測定を行った。さらに、被験試料溶液のブランク及びコントロール溶液のブランクとして、被験試料溶液及びコントロール溶液それぞれにヒアルロニダーゼ溶液を添加しない場合についても同様に測定を行った。得られた測定結果から下記式によりヒアルロニダーゼ活性阻害率(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0081】
ヒアルロニダーゼ活性阻害率(%)={1-(D-E)/(F-G)}×100
式中の「D」は、被験試料溶液の吸光度を表し、「E」は、被験試料溶液ブランクの吸光度を表し、「F」は、コントロール溶液の吸光度を表し、「G」は、コントロール溶液ブランクの吸光度を表す。
【0082】
【表2】
【0083】
表2に示すように、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、高いヒアルロニダーゼ活性阻害率を示した。この結果から、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、優れたヒアルロニダーゼ活性阻害作用を有することが確認された。
【0084】
〔試験例3〕PGE産生抑制作用試験
正常ヒト新生児表皮角化細胞(NHEK)を正常ヒト表皮角化細胞増殖培地(KGM)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、KGMを用いて1.0×10cells/mLの細胞密度になるように希釈した後、コラーゲンコートした48ウェルプレートに1ウェルあたり200μLずつ播種し(2.0×10cells/mL)、一晩培養した。細胞が定着したことを確認した後、培地を基礎培地(KBM)200μLに交換し、さらに24時間培養した。
【0085】
培養終了後、培地を除去し、既に存在するCOX-1及び少量発現しているCOX-2をアセチル化して失活させるため、500μmol/Lアスピリン含有KBMを200μL添加し、4時間培養した。4時間後に、細胞をPBS(-)緩衝液で3回洗浄し、100μLのPBS(-)緩衝液を加えUVB照射(60mJ/cm)を行い、その後KBMで必要濃度に溶解した上記製造例で得られた被験試料を各ウェルに400μLずつ添加し、37℃、5%CO下で24時間培養した。なお、コントロールとして、被験試料無添加のKBMを同様に測定した。
【0086】
培養終了後、各ウェルの培養上清中のプロスタグランジンE(PGE)量をPGEEIA Kit(Cayman Chemical社製)を用いて定量した。定量結果から下記式によりPGE産生抑制率(%)を算出した。結果を表3に示す。
【0087】
ヒアルロニダーゼ活性阻害率(%)={1-(H-J)/(I-J)}×100
式中の「H」は、被験試料を添加した細胞の紫外線照射時のPGE量を表し、「I」は、被験試料無添加の細胞の紫外線照射時のPGE量を表し、「J」は、被験試料無添加の細胞の紫外線未照射時のPGE量を表す。
【0088】
【表3】
【0089】
表3に示すように、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、高いPGE産生抑制率を示した。この結果から、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、優れたPGE産生抑制作用を有することが確認された。
【0090】
〔試験例4〕チロシナーゼ活性阻害作用試験
48ウェルプレートに、Mcllvaine緩衝液(pH6.8)0.2mL、0.3mg/mLチロシン溶液0.06mL及び上記製造例で得られた被験試料を溶解した25%DMSO溶液0.18mLを加え、37℃で10分間静置した。これに800units/mLチロシナーゼ溶液0.02mLを加え、引き続き37℃で15分間反応させた。反応終了後、波長475nmにおける吸光度を測定した。
【0091】
また、コントロール溶液として、被験試料溶液の代わりに蒸留水を添加した場合についても同様の測定を行った。さらに、被験試料溶液のブランク及びコントロール溶液のブランクとして、被験試料溶液及びコントロール溶液それぞれにヒアルロニダーゼ溶液を添加しない場合についても同様に測定を行った。得られた測定結果から下記式によりチロシナーゼ活性阻害率(%)を算出した。結果を表4に示す。
【0092】
チロシナーゼ活性阻害率(%)={1-(K-L)/(M-N)}×100
式中の「K」は、被験試料溶液の吸光度を表し、「L」は、被験試料溶液ブランクの吸光度を表し、「M」は、コントロール溶液の吸光度を表し、「N」は、コントロール溶液ブランクの吸光度を表す。
【0093】
【表4】
【0094】
表4に示すように、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、高いチロシナーゼ活性阻害率を示した。この結果から、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、優れたチロシナーゼ活性阻害作用を有することが確認された。
【0095】
〔試験例5〕エラスターゼ活性阻害作用試験
96ウェルプレートに、0.1mol/L HEPES緩衝液(pH7.5)で調製した被験試料溶液50μLと6μg/mLエラスターゼ(Human Leukocyte)溶液25μLとを混合した。その後、上記緩衝液にて2mmol/Lとなるように調製したN-METHOXYSUCCINYL-ALA-ALA-PRO-VAL-p-NITRO-ANILIDE溶液25μLを添加し、25℃で15分間反応させた。反応終了後、波長415nmにおける吸光度を測定した。
【0096】
また、コントロール溶液として、被験試料溶液無添加のエラスターゼ溶液を同様の測定を行った。さらに、被験試料溶液のブランク及びコントロール溶液のブランクとして、被験試料溶液及びコントロール溶液それぞれにエラスターゼ溶液を添加しない場合についても同様に測定を行った。得られた測定結果から下記式によりエラスターゼ活性阻害率(%)を算出した。結果を表5に示す。
【0097】
エラスターゼ活性阻害率(%)={1-(O-P)/(Q-R)}×100
式中の「O」は、被験試料溶液の吸光度を表し、「P」は、被験試料溶液ブランクの吸光度を表し、「Q」は、コントロール溶液の吸光度を表し、「R」は、コントロール溶液ブランクの吸光度を表す。
【0098】
【表5】
【0099】
表5に示すように、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、高いエラスターゼ活性阻害率を示した。この結果から、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、優れたエラスターゼ活性阻害作用を有することが確認された。
【0100】
〔試験例6〕I型コラーゲン産生促進作用試験
正常ヒト皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を10%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を0.25%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて1.6×10cells/mLの細胞密度になるように希釈した後、96ウェルマイクロプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0101】
培養終了後、培地を除去し、0.25%FBS含有ダルベッコMEM培地に溶解した被験試料を各ウェルに100μLずつ添加し、3日間培養した。培養後、各ウェルの培地中のI型コラーゲン量をELISA法により測定した。なお、コントロールとして、被験試料無添加のFBS含有ダルベッコMEMを同様に測定した。
【0102】
測定結果から下記式によりI型コラーゲン産生促進率(%)を算出した。結果を表6に示す。
【0103】
I型コラーゲン産生促進率(%)=S/T×100
式中の「S」は、被験試料添加時のI型コラーゲン量を表し、「T」は、被験試料無添加時のI型コラーゲン量を表す。
【0104】
【表6】
【0105】
表6に示すように、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、高いI型コラーゲン産生促進率を示した。この結果から、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、優れたI型コラーゲン産生促進作用を有することが確認された。
【0106】
〔試験例7〕毛乳頭細胞増殖促進作用試験
正常ヒト頭髪毛乳頭細胞を、1%FCS及び増殖添加剤を含有する毛乳頭細胞用増殖培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を10%FBS含有DMEM(Dulbecco’s modified minimal essential medium)培地を用いて1.0×10cells/mLの細胞密度になるように希釈した後、コラーゲンコートした96ウェルプレートに1ウェルあたり200μLずつ播種し、3日間培養した。
【0107】
培養終了後、培地を除去し、無血清DMEMに溶解した被験試料を各ウェルに200μLずつ添加し、さらに4日間培養した。なお、コントロールとして、試料無添加の無血清DMEMを同様に培養した。
【0108】
毛乳頭細胞増殖作用はMTTアッセイを用いて測定した。具体的には、培養終了後、培地を除去し、終濃度0.4mg/mLで無血清のDMEMに溶解したMTT((3-(4,5-Dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyltetrazolium Bromide)100μLを各ウェルに添加した。2時間培養した後に、細胞内に生成したブルーホルマザンを2-プロパノール100μLで抽出した。抽出後、波長570nmにおける吸光度を測定した。同時に濁度として波長650nmにおける吸光度を測定し、両者の差をもってブルーホルマザン生成量とした。そして、下記式に従い毛乳頭細胞増殖促進率を算出した。
【0109】
毛乳頭細胞増殖促進率(%)=(U/V)×100
式中の「U」は、被験試料を添加時のブルーホルマザン生成量を表し、「V」は、被験試料無添加時のブルーホルマザン生成量を表す。
【0110】
【表7】
【0111】
表7に示すように、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、高い毛乳頭細胞増殖促進率を示した。この結果から、上記構造式(1)で表されるケトン類化合物は、優れた毛乳頭細胞増殖促進作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の新規ケトン類化合物、ラジカル消去剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、PGE産生抑制剤、チロシナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、I型コラーゲン産生促進剤及び毛乳頭細胞増殖促進剤は、化粧料等の一成分として、更には研究用の試薬として好適に利用され得る。