(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146471
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】固形油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20231004BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20231004BHJP
A23L 35/00 20160101ALN20231004BHJP
A23L 15/00 20160101ALN20231004BHJP
A23L 13/00 20160101ALN20231004BHJP
【FI】
A23D9/00
A23L27/00 D
A23L35/00
A23L15/00 Z
A23L13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053665
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大平 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】池田 円香
【テーマコード(参考)】
4B026
4B036
4B042
4B047
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG01
4B026DG04
4B026DK10
4B026DP01
4B026DP03
4B026DX02
4B036LF15
4B036LH08
4B036LH13
4B036LH22
4B036LH29
4B036LH38
4B036LH41
4B036LP02
4B042AD30
4B042AG02
4B042AH01
4B042AH09
4B042AK01
4B042AK05
4B042AK06
4B042AK07
4B042AK20
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4B042AP04
4B047LB08
4B047LB09
4B047LE05
4B047LG03
4B047LG08
4B047LG11
4B047LG27
4B047LG44
4B047LP02
4B047LP05
(57)【要約】
【課題】本発明は、非脂溶性成分を均質に含むことができるので製造しやすく、常温で固形なので使用しやすい固形油脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】油脂に添加した際の粘性挙動が異なるポリグリセリン脂肪酸エステル2種類以上を加熱しながら任意の油脂に溶解し、食塩、糖、アミノ酸、香辛料など任意の非脂溶性成分を分散させ、40~60℃で撹拌し非脂溶性成分の分散性を維持しながら充填、成形することで、固形の油脂組成物を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含む固形油脂組成物であって、ポリグリセリン脂肪酸エステルの少なくとも1種類が、当該ポリグリセリン脂肪酸エステル0.5gをオリーブオイル100gに添加した混合物の23℃における粘度が1000mPa・s以上となるポリグリセリン脂肪酸エステルである固形油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の23℃における粘度1000mPa・s以上のポリグリセリン脂肪酸エステルが、当該ポリグリセリン脂肪酸エステル2.5gを菜種サラダ油100gに添加した混合物の粘性挙動変化開始温度が40~60℃である請求項1に記載の固形油脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の23℃における粘度1000mPa・s以上のポリグリセリン脂肪酸エステルと組み合わせるポリグリセリン脂肪酸エステルが、当該ポリグリセリン脂肪酸エステル0.5gをオリーブオイル100gに添加した混合物の23℃での粘度が50mPa・s以上となる請求項1又は2に記載の固形油脂組成物。
【請求項4】
油脂100重量部に対してポリグリセリン脂肪酸エステルを9重量部以上含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の固形油脂組成物。
【請求項5】
2種類のポリグリセリン脂肪酸エステルを含む固形油脂組成物であって、当該ポリグリセリン脂肪酸エステル2.5gをそれぞれ菜種サラダ油100gに添加した混合物の粘性挙動変化開始温度が低い方の、高い方に対する重量比が3:4~6:1である請求項1~4いずれか1項に記載の固形油脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の固形油脂組成物が調味料である固形油脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の油脂組成物を加熱調理して得られる食品。
【請求項8】
固形油脂組成物を成形する際の温度が40~60℃である請求項1~6のいずれか1項に記載の油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上昇融点が28℃以上75℃以下で20℃における固体脂指数が概ね25以上である油脂を、糖類と、アミノ酸および水とを加熱混合処理することにより、ベタツキのない固形香味油を製造する方法が記載されている。得られた固形香味油は容易に粉末、粒状物あるいは薄片状物にできるので、食品にフレーバーを与える目的で肉類の加工食品の製造時に素材中に練り込まれ、冷凍食品、缶詰や菓子類に添加され、さらにはインスタントラーメンの別添油等に使用される。また、加熱により溶解した状態で型に流し込み冷却して、任意の型に成形した最終製品としての固形香味油を得ることができる。
【0003】
特定のポリグリセリン脂肪酸エステルは、少量の添加で油脂を増粘、ゲル化することが可能であり、油脂の分離を長期間抑えることができることが特許文献2に記載されている。化粧料としてエモリエントクリーム、口紅、スティックファンデーション、食品としてホイップクリーム、パスタソースが実施例として記載されている。
【0004】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを組み合わせた先行技術として、常温で固体状のポリグリセリン脂肪酸エステルと常温で液状のポリグリセリン脂肪酸エステルを混合して得られる、高温安定性に優れ、常温から高温まで物性変化の小さい半固形状の油脂組成物が特許文献3に記載されている。口紅、ポマードなどの化粧料組成物、クリーム、軟膏の基剤などの医薬品組成物、接着剤、潤滑剤などの工業用材料としての用途が記載されている。
【0005】
調味料として固形油脂組成物を製造する場合は、食塩、砂糖、グルタミン酸ナトリウムなど油脂に溶解しない水溶性の粉末の調味成分や、油脂だけでなく水にも溶解しない澱粉、胡椒などの香辛料などの非脂溶性成分が調味料の材料として使用される。そしてこれらの非脂溶性成分を油脂と共に加熱溶解した状態で任意の型に充填して形成する。これらの油脂よりも比重の高い調味料の原料成分は、型に充填する前にタンク内に沈殿してしまい、成分にばらつきのある製品になったり、型の中で沈殿したりして、均質に分散させることは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-183441号公報
【特許文献2】特開2012-082236号公報
【特許文献3】特開2010-077027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、非脂溶性成分を均質に含むことができるので製造しやすく、常温で固形なので使用しやすい固形油脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、油脂に添加した際の粘性挙動が異なるポリグリセリン脂肪酸エステル2種類以上を加熱しながら任意の油脂に溶解し、食塩、糖、アミノ酸、香辛料など任意の非脂溶性成分を分散させ、40~60℃で撹拌し非脂溶性成分の分散性を維持しながら充填、成形することで、固形の油脂組成物を得られることを知り、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下に示す固形油脂組成物である。
(1)2種類以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含む固形油脂組成物であって、ポリグリセリン脂肪酸エステルの少なくとも1種類が、当該ポリグリセリン脂肪酸エステル0.5gをオリーブオイル100gに添加した混合物の23℃における粘度が1000mPa・s以上となるポリグリセリン脂肪酸エステルである固形油脂組成物。
(2)上記(1)に記載の23℃における粘度1000mPa・s以上のポリグリセリン脂肪酸エステルが、当該ポリグリセリン脂肪酸エステル2.5gを菜種サラダ油100gに添加した混合物の粘性挙動変化開始温度が40~60℃である上記(1)に記載の固形油脂組成物。
(3)上記(1)又は(2)に記載の23℃における粘度1000mPa・s以上のポリグリセリン脂肪酸エステルと組み合わせるポリグリセリン脂肪酸エステルが、当該ポリグリセリン脂肪酸エステル0.5gをオリーブオイル100gに添加した混合物の23℃での粘度が50mPa・s以上となる上記(1)又は(2)に記載の固形油脂組成物。
(4)油脂100重量部に対してポリグリセリン脂肪酸エステルを9重量部以上含有する上記(1)~(3)のいずれかに記載の固形油脂組成物。
(5)2種類のポリグリセリン脂肪酸エステルを含む固形油脂組成物であって、当該ポリグリセリン脂肪酸エステル2.5gをそれぞれ菜種サラダ油100gに添加した混合物の粘性挙動変化開始温度が低い方の、高い方に対する重量比が3:4~6:1である上記(1)~(4)のいずれかに記載の固形油脂組成物。
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載の固形油脂組成物が調味料である固形油脂組成物。
(7)上記(6)に記載の油脂組成物を加熱調理して得られる食品。
(8)固形油脂組成物を成形する際の温度が40~60℃である上記(1)~(6)のいずれかに記載の油脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の固形油脂組成物は、常温でも持ち運びが容易で、使用状況に合わせてあらかじめ必要な分量に固めておけば、その都度計量する必要がないので便利である。また比重の高い非脂溶性成分を油脂内で均質に分散させることができ、工業化にも適する。さらに調味油として使用する際には、加熱時に溶解し、食材に均質に混ぜることができる。規定量の調味料が混合されているため、簡便に調理できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】固形油脂組成物の流動性を評価する基準の例。
【
図2】固形油脂組成物の保形性を評価する基準の例。
【
図3】固形油脂組成物中の非脂溶性成分の分散性を評価する基準の例。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するには、ポリグリセリン脂肪酸エステル2種類以上を加熱しながら任意の油脂に溶解し、食塩、糖、アミノ酸、香辛料などの任意の非脂溶性成分を分散させ、40~60℃で撹拌して非脂溶性成分の分散性を維持しながら充填・成形することで、固形の油脂組成物を得られる。
【0013】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリンの重合体であるポリグリセリンと脂肪酸がエステル結合した化合物である。エステル化度の高いポリグリセリン脂肪酸エステルは親油性が高く、油脂の改質剤として使うことができるものがある。
【0014】
本発明における油脂は食品に使用する場合、食用油脂を使用する。食用油脂としては、例えば、菜種油、ゴマ油、オリーブオイル、ピーナツ油、アーモンド油、クルミ油、ピスタチオ油、パーム油、パーム核油、綿実油、大豆油、コーン油、サフラワー油、ヒマワリ油、米ぬか油、からし油等の植物油脂、バター、ラード、牛脂、豚脂、鶏油等の動物油脂、またこれら油脂に香味を人工的に付与した香味油等も挙げられるが、これらに限定されるものではない。油脂はいずれか単独で用いてもよいし、異なる油脂を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明では、油脂に添加した際の粘性挙動が異なる2種類以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを組み合わせることで、非脂溶性成分の分散性を確保しながら油脂を固形にできる。なお、本発明に用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、常法に従って製造されたものでも一般に市販されているものでもよい。
【0016】
本発明において、ポリグリセリン脂肪酸エステルを油脂に添加した際の粘度は、次の方法で確認することができる。オリーブオイル(日清オイリオ社製、BOSCO)100gにポリグリセリン脂肪酸エステル0.5gを添加し加熱溶解し放冷して、23℃に静置した際の粘度を、B型粘度計(東機産業社製、TVB―10)を用いて測定する。以下、この粘度のことを「オリーブオイル粘度」とも言う。
【0017】
本発明において、「油脂の粘性挙動変化開始温度」とは、菜種サラダ油(ボーソー油脂社製)100gにポリグリセリン脂肪酸エステルを2.5g添加し加熱溶解した試料を、粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、ARES―G2)を用いて、せん断速度25/秒でせん断しながら、80℃から15℃までマイナス1℃/分の冷却速度で冷却して得られた粘度が上昇開始する温度を、TRIOSソフトウェア(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)でOnset pointを解析することで得られる。
【0018】
本発明で使用するポリグリセリン脂肪酸エステルのうち少なくとも1種類は、オリーブオイル粘度が1000mPa・s以上であることが好ましく、さらに油脂の粘性挙動変化開始温度が40~60℃であることがより好ましい。市販のポリグリセリン脂肪酸エステルとして例えば、太陽化学社製TAISET ADやTAISET ADRが挙げられる。
【0019】
また、上記オリーブオイル粘度1000mPa・s以上のポリグリセリン脂肪酸エステルに組み合わせて使用するポリグリセリン脂肪酸エステルの少なくとも1種類のオリーブオイル粘度は50mPa・s以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の固形油脂組成物には、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び油脂以外に食塩、糖、アミノ酸、香辛料などの非脂溶性成分を分散させることができる。その際、固形油脂組成物の形状を保つために、油脂100重量部に対するポリグリセリン脂肪酸エステルの総添加量は9重量部以上が好ましく、12.7重量部以上がより好ましい。
【0021】
本発明において2種類のポリグリセリン脂肪酸エステルを混合する際に、その割合は重要である。当該2種類のポリグリセリン脂肪酸エステルのうち、油脂の粘性挙動変化開始温度が低い方のポリグリセリン脂肪酸エステルの、高い方のポリグリセリン脂肪酸エステルに対する重量比が3:4~6:1の範囲で本発明の効果が得られる。
【0022】
本発明の固形油脂組成物を調製するには、油脂添加時の粘性挙動が異なるポリグリセリン脂肪酸エステル2種類以上を加熱しながら任意の油脂に溶解し、食塩、糖、アミノ酸、香辛料などの任意の非脂溶性成分を分散させ、40~60℃で撹拌し非脂溶性成分の分散性を維持しながら充填、成形する。
【0023】
本発明における非脂溶性成分としては、食塩、糖、アミノ酸など油脂に溶解しない水溶性の成分が挙げられる。また、油脂だけでなく水にも溶解しない澱粉、香辛料なども非脂溶性成分として挙げられる。非脂溶性成分は油脂100重量部に対して200重量部未満が好ましく、200重量部を超えて非脂溶性成分を含有させると形状が保てなくなるため好ましくない。
【0024】
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステル及び油脂以外の原料としては、醤油、砂糖や果糖ぶどう糖液糖などの糖類、みりんや酒精含有調味料などの酒類調味料、たん白加水分解物、酵母エキス、昆布エキス、魚介エキス、野菜エキス、畜肉エキスなどのうまみ原料、キサンタンガムなどの増粘剤、香辛料、食塩などが挙げられる。また、ネギ、ショウガやニンニクなどの具材を加えてもよい。
【0025】
以下、実施例を示して本発明の効果をより具体的に説明する。
【実施例0026】
(評価基準)
固形油脂組成物は、流動性、保形性、分散性及び総合評価について評価し、次の方法で評価した。
【0027】
固形油脂組成物の流動性は、90mlプラスチックカップに15gの試料を流し込み、試料とプラスチックカップとの隙間、充填物の形状で評価した。次のように〇、△、×の三段階の評価基準とした。
図1に例を示した。
〇:プラスチックカップにすき間なく充填できる。
△:プラスチックカップにややすき間が見られたり、上面部にやや凸凹が見られたりする。
×:プラスチックカップに明確なすき間が見られる。
【0028】
固形油脂組成物の保形性については、上記流動性と同様にプラスチックカップに試料を充填し、固まった試料をプラスチックカップの底面を押して取り出せるかを評価した。次のように〇、△、×の三段階の判定基準とした。
図2に例を示した。
〇:形を保持して取り出せる。
△:やや形が崩れるが取り出せる。
×:明確な割れが発生する、またはジェル状のため底面を押しても取り出せない。
【0029】
固形油脂組成物中の非脂溶性成分の分散性については、上記保形性と同様にプラスチックカップに試料を充填し、固まった試料をプラスチックカップの底面を押して取り出して、試料を切断して断面を観察し、あらびき黒胡椒の分散状態を評価した。次のように〇、△、×及び-の4段階の判定基準とした。
図3に例を示した。図の上部がカップ底面側である。
〇:充分分散している。
△:カップ底面側にやや沈殿が見られる。
×:カップ底面側に明確な沈殿が見られる。
―:保形性が悪く評価できない。
【0030】
総合評価は、流動性、保形性及び分散性の評価から次のように〇、△、×の三段階で評価した。
〇:流動性、保形性及び分散性すべての項目が〇である。
△:流動性、保形性及び分散性のいずれの項目にも×がなく、かついずれかの項目が△である。
×:流動性、保形性及び分散性いずれかの項目に×がある。
【0031】
(比較試験:単一のポリグリセリン脂肪酸エステルによる試験)
市販の菜種サラダ油100gに対して、ポリグリセリン脂肪酸エステル(太陽化学社製、TAISET AD)をそれぞれ3g、6g、9g、12.7g、15g、18g及び21g加えて90℃に加熱し、加工澱粉(松谷化学工業社製、リン酸架橋澱粉)36.4g、食塩20g、あらびき黒胡椒12.7gを混合して、撹拌しながら徐々に冷却し、65℃、60℃、55℃、50℃、45℃の各温度になったところで、それぞれ容量90mlプラスチックカップ(高さ約4.8cm、底面の直径約4cm、開口部の直径約5cm)に15gずつ充填した。あらびき黒胡椒は、粒度0.8~1.4mm程度のものを使用した。
【0032】
【0033】
表1に示したように、充填温度を50℃以上にすれば、流動性についてはどの試験区でも良好であった。しかし、固形油脂組成物の形を保持するためには、菜種サラダ油100gに対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを9g、好ましくは12.7g以上添加する必要があった。流動性と保形性に問題のない試験区で分散性についても満足のいく試験区は無かった。単一のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用して固形油脂組成物を調製した場合、流動性、保形性及び分散性すべてを満たし総合評価が〇となる油脂組成物を得ることはできなかった。
【0034】
(市販の各種ポリグリセリン脂肪酸エステルの特性評価)
市販の各種ポリグリセリン脂肪酸エステルの特性評価として、油脂にポリグリセリン脂肪酸エステルを混合したときの粘度、及び粘性挙動変化開始温度を測定した。試料として、太陽化学社製 TAISET AD、太陽化学社製 TAISET ADR、阪本薬品工業社製 SY-Glyster CV-1L、阪本薬品工業社製 SY-Glyster CV-23、三菱ケミカル社製 B-70D及び三菱ケミカル社製 B-100Dの6種類を用いた。
【0035】
(オリーブオイル粘度)
オリーブオイル(日清オイリオ社製、BOSCO)100gに各種ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.5g添加して加熱溶解したのち、放冷して23℃に静置した際の粘度を表2に示した。粘度の測定はB型粘度計(東機産業社製、TVB―10)を用いて測定した。
【0036】
(粘性挙動変化開始温度)
菜種サラダ油(ボーソー油脂社製)100gにポリグリセリン脂肪酸エステルを2.5g添加し加熱溶解した試料を、粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、ARES―G2)を用いて、せん断速度25/秒でせん断しながら、80℃から15℃までマイナス1℃/分の冷却速度で冷却して得られた粘度が上昇開始する温度を、TRIOSソフトウェア(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)でOnset pointを解析し「粘性挙動変化開始温度」とした。測定結果を表2に示した
【0037】
【0038】
(2種類のポリグリセリン脂肪酸エステル組合せ効果)
市販の菜種サラダ油100gに対し、特性を評価したポリグリセリン脂肪酸エステル6種類のうち任意の2種類を各6.4gずつ加えて90℃に加熱し、食塩20g、あらびき黒胡椒12.7g、加工澱粉36.4gを混合して、撹拌しながら徐々に冷却し、65℃、60℃、55℃、50℃、45℃の各温度でそれぞれ90mlプラスチックカップに15gずつ充填した。
【0039】
固形油脂組成物の評価は前記比較試験と同様の評価基準で行った。油脂に混合したときに特性の異なるポリグリセリン脂肪酸エステルを混合して使用した場合の結果を表3~7に示した。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
上記表3~7に示したように、TAISET AD(オリーブオイル粘度:1635.3mPa・s、粘性挙動変化開始温度:44.5℃)、又は、TAISET ADR(オリーブオイル粘度:2182.7mPa・s、粘性挙動変化開始温度:53.7℃)を少なくとも1種類使用し、2種類のポリグリセリン脂肪酸エステルを組み合わせれば、充填温度が60~45℃の範囲で流動性、保形性、分散性のすべての項目を満たして総合評価が〇となる本発明の固形油脂組成物を得られることがわかる。
実施例2の評価は比較試験と同様の評価基準で行った。表9に示した結果の通り、TAISET AD(オリーブオイル粘度:1635.3mPa・s、粘性挙動変化開始温度:44.5℃)の、TAISET ADR(オリーブオイル粘度:2182.7mPa・s、粘性挙動変化開始温度:53.7℃)に対する重量配合比率が3:4~6:1の範囲で、充填温度が55又は50℃のとき、流動性、保形性及び分散性のすべてを満たして総合評価が〇となる本発明の固形油脂組成物を得ることができた。