(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146618
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ポリシラン化合物の金属除去方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/60 20060101AFI20231004BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20231004BHJP
B01J 39/20 20060101ALI20231004BHJP
B01J 41/05 20170101ALI20231004BHJP
B01J 41/14 20060101ALI20231004BHJP
B01J 45/00 20060101ALI20231004BHJP
B01J 47/011 20170101ALI20231004BHJP
B01J 47/04 20060101ALI20231004BHJP
B01J 47/10 20170101ALI20231004BHJP
【FI】
C08G77/60
B01J39/05
B01J39/20
B01J41/05
B01J41/14
B01J45/00
B01J47/011
B01J47/04
B01J47/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053884
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】香西 純
(72)【発明者】
【氏名】谷口 博昭
【テーマコード(参考)】
4J246
【Fターム(参考)】
4J246AA06
4J246BB451
4J246BB45X
4J246FE04
4J246FE24
4J246FE32
4J246FE36
4J246GA01
4J246GA02
4J246GA08
4J246GB04
(57)【要約】
【課題】本発明は新しい金属のコンタミネーションを生じることなく、ポリシラン化合物から効率よく金属除去できるポリシラン化合物の精製方法を提供する。また、従来方法で金属成分が除去されたポリシラン化合物から、金属成分の含有量をさらに著しく低減できるポリシラン化合物の精製方法を提供する。さらに、金属成分の含有量が著しく低減された高純度のポリシラン化合物を提供する。
【解決手段】金属不純物を含むポリシラン化合物を、少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物で希釈する準備工程と、希釈されたポリシラン化合物に対する金属除去処理により、該金属不純物を系外に除去する金属除去工程とを少なくとも有する、ポリシラン化合物の精製法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属不純物を含むポリシラン化合物を、少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物で希釈する準備工程と、希釈されたポリシラン化合物に対する金属除去処理により、該金属不純物を系外に除去する金属除去工程とを少なくとも有する、ポリシラン化合物の精製法。
【請求項2】
前記ポリシラン化合物は、下記式(1)乃至式(3)で表される構造単位のうち少なくとも1つの構造単位を有する化合物であり、重量平均分子量が50乃至30,000である、請求項1に記載されるポリシラン化合物の精製法。
【化1】
(式中、Rは水素原子、ヒドロキシ基、シリル基、又は有機基であり、nは1以上の整数である。)
【請求項3】
前記シリル基は、ケイ素数1乃至6のシラニル基であり、前記有機基は、炭素数1乃至4のアルキル基又は炭素数6乃至10のアリール基である、請求項2に記載されるポリシラン化合物の精製法。
【請求項4】
前記アミド基骨格を有する化合物は、下記式(4)で表される構造を有する化合物である、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載されるポリシラン化合物の精製法。
【化2】
(式中、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1乃至10のアルキル基、炭素数2乃至10のアルケニル基、炭素数5乃至10のシクロアルキル基、炭素数1乃至10のエーテル基又は炭素数1乃至10のアルコキシ基を示し、或いは、R
1及びR
2は結合して環を形成してもよく、その場合、R
1は炭素数1乃至10のアルキル基で置換されてもよいアミノ基を示すことができる。)
【請求項5】
前記R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1乃至5のアルキル基又は炭素数1乃至5のエーテル基を示し、或いは、R1及びR2は結合して環を形成してもよく、その場合、R1は炭素数1乃至5のアルキル基で置換されてもよいアミノ基を示すことができる、請求項4に記載されるポリシラン化合物の精製法。
【請求項6】
前記アミド基骨格を有する化合物は、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、
1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド又はN,N-ジメチルイソブチルアミドである、請求項4に記載されるポリシラン化合物の精製法。
【請求項7】
前記金属除去処理は、イオン交換樹脂又はキレート樹脂を使用して金属不純物を除去する処理である、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載されるポリシラン化合物の精製法。
【請求項8】
前記イオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂の混合物である、請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載されるポリシラン化合物の精製法。
【請求項9】
前記カチオン交換樹脂は下記式(6)の構造を有する樹脂であり、前記アニオン交換樹脂は下記式(7)の構造、又は式(8)の構造を有する樹脂である、請求項8に記載されるポリシラン化合物の精製法。
【化3】
【請求項10】
前記キレート樹脂は、下記式(A-1)で表される単位構造を有する高分子物質、又は下記式(B-1)乃至式(B-4)の単位構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の単位構造を有する高分子物質である、請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載されるポリシラン化合物の精製法。
【化4】
(式中、nは1乃至10の整数を表し、A
1は担体としてのシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンを構成する単位構造であり、A
2は単結合又はA
1と官能基を結びつける連結基であり、該連結基は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素原子数1乃至10のアルキレン基を表す。)
【化5】
(式中、B
1は担体としてのシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンを構成する単位構造であり、B
2は単結合又はB
1とチオウレア基又はチオウロニウム基を結びつける連結基であり、該連結基は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1乃至10のアルキレン基であり、B
3はヒドロキシル基及び/又は炭素数1乃至3のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基である。)
【請求項11】
前記金属不純物がMg、Cu、Zn、Cr及びFeからなる群の少なくとも一種である、請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載されるポリシラン化合物の精製法。
【請求項12】
前記金属不純物の量をポリシラン化合物100質量%換算で2ppm以下に低減する、請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載されるポリシラン化合物の精製法。
【請求項13】
金属不純物の残存量がポリシラン化合物100質量%換算で2ppm以下である精製ポリシラン化合物であって、該精製ポリシラン化合物は、下記式(1)乃至式(3)で表される構造のうち少なくとも1つの構造単位を有し、重量平均分子量が50乃至30,000である精製ポリシラン化合物。
【化6】
(式中、Rは水素原子、ヒドロキシ基、シリル基、又は有機基であり、nは1以上の整数である。)
【請求項14】
前記シリル基は、ケイ素数1乃至6のシラニル基であり、前記有機基は、炭素数1乃至4のアルキル基又は炭素数6乃至10のアリール基である、請求項13に記載される精製ポリシラン化合物。
【請求項15】
前記金属不純物がMg、Cu、Zn、Cr及びFeからなる群の少なくとも一種である、請求項13又は請求項14に記載される精製ポリシラン化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシラン化合物に予め含有されている金属成分を除去する精製法、およびこの精製法により金属成分を除去して得られたポリシランに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリシラン化合物は、ケイ素を主鎖とする材料で撥水性、防錆性、酸化防止性、高耐熱性、高屈折率、光反応性を有し、セラミックス前駆体、光電子材料(例えば、フォトレジスト、有機感光体などの光電子写真材料、光導波路などの光伝送材料、光メモリなどの光記録材料・エレクトロルミネッセンス素子用材料など)などとして注目されている。
【0003】
ポリシラン化合物の代表的な合成方法として、金属ナトリウムなどのアルカリ金属を用いてトルエン溶媒中のジアルキルジハロシランあるいはジハロテトラアルキルジシランを100℃以上の温度で強力に撹拌し、還元的にカップリングさせる方法[非特許文献1、通称「Kipping法」]が知られている。しかし、この方法は、空気中で発火するアルカリ金属を加熱し、強力に攪拌・分散させる必要があるため、工業的規模での生産での安全性が懸念され、また、分子量分布が多峰性となり、用途によっては品質的にも十分でない場合がある。
【0004】
これらの問題を解決する方法として、例えば、特許文献1及び特許文献2には、マグネシウム成分を用いてハロシラン類を重合してポリシランを得る方法が開示されている。これらの文献に記載の方法は、マグネシウム成分単独、又はマグネシウム成分及び金属ハロゲン化物を触媒として用いることによって重合を行う方法であり、(1)汎用の化学合成装置を用いて安定で安価な原料を用いて合成でき、安全性、コスト面で優位性がある、(2)光電子材料用途として不適当な不純物(ナトリウムや有機溶媒に対する不溶物など)が混入しない、(3)分子量のばらつきが少なく、有機溶媒に対する溶解性や透明性の高いポリシランが得られる、(4)高収率であるなどの優れた特徴を有する。
【0005】
しかし、上記2つの方法、さらには、従来開発されてきた他のいずれのポリシラン化合物の製造方法においても、通常、金属もしくは金属塩を必ず用いるため、ポリシラン化合物中に金属成分が残留し、光電子材料用途として適さない場合がある。
【0006】
また、特許文献3にCuCl2水溶液洗浄又はFeCl3水溶液洗浄による金属除去処理が行われる。しかし、イオン化傾向の高いZnが効率よく除去されるものの、Cuコンタミネーションが生じる原因にもなる。
【0007】
なお、トリハロシラン化合物やテトラハロシラン化合物を原料として用いた末端構造が多いポリシラン化合物は、機構の詳細は不明であるが、特に、金属成分を構造中に取り込みやすい傾向を示すようである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開98/29476号公報
【特許文献2】特開2003-277507号公報
【特許文献3】特開2011-162792号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,103(1981)7352
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、新しい金属のコンタミネーションを生じることなく、ポリシラン化合物から効率よく金属除去できるポリシラン化合物の精製方法を提供する。
本発明はまた、従来方法で金属成分が除去されたポリシラン化合物から、金属成分の含有量をさらに著しく低減できるポリシラン化合物の精製方法を提供する。
本発明はさらに、金属成分の含有量が著しく低減された高純度のポリシラン化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、第1観点として、金属不純物を含むポリシラン化合物を、少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物で希釈する準備工程と、希釈されたポリシラン化合物に対する金属除去処理により、該金属不純物を系外に除去する金属除去工程とを少なくとも有する、ポリシラン化合物の精製法に関する。
第2観点として、前記ポリシラン化合物は、下記式(1)乃至式(3)で表される構造単位のうち少なくとも1つの構造単位を有する化合物であり、重量平均分子量が50乃至30,000である、第1観点に記載されるポリシラン化合物の精製法に関する。
【化1】
(式中、Rは水素原子、ヒドロキシ基、シリル基、又は有機基であり、nは1以上の整数である。)
第3観点として、前記シリル基は、ケイ素数1乃至6のシラニル基であり、前記有機基は、炭素数1乃至4のアルキル基又は炭素数6乃至10のアリール基である、第2観点に記載されるポリシラン化合物の精製法に関する。
第4観点として、前記アミド基骨格を有する化合物は、下記式(4)で表される構造を有する化合物である、第1観点乃至第3観点のいずれか一項に記載されるポリシラン化合物の精製法に関する。
【化2】
(式中、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1乃至10のアルキル基、炭素数2乃至10のアルケニル基、炭素数5乃至10のシクロアルキル基、炭素数1乃至10のエーテル基又は炭素数1乃至10のアルコキシ基を示し、或いは、R
1及びR
2は結合して環を形成してもよく、その場合、R
1は炭素数1乃至10のアルキル基で置換されてもよいアミノ基を示すことができる。)
第5観点として、前記R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1
乃至5のアルキル基又は炭素数1乃至5のエーテル基を示し、或いは、R
1及びR
2は結合して環を形成してもよく、その場合、R
1は炭素数1乃至5のアルキル基で置換されてもよいアミノ基を示すことができる、第4観点に記載されるポリシラン化合物の精製法に関する。
第6観点として、前記アミド基骨格を有する化合物は、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド又はN,N-ジメチルイソブチルアミドである、第4観点に記載されるポリシラン化合物の精製法に関する。
第7観点として、前記金属除去処理は、イオン交換樹脂又はキレート樹脂を使用して金属不純物を除去する処理である、第1観点乃至第6観点のいずれか一項に記載されるポリシラン化合物の精製法に関する。
第8観点として、前記イオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂の混合物である、第1観点乃至第7観点のいずれか一項に記載されるポリシラン化合物の精製法に関する。
第9観点として、前記カチオン交換樹脂は下記式(6)の構造を有する樹脂であり、前記アニオン交換樹脂は下記式(7)の構造、又は式(8)の構造を有する樹脂である、第8観点に記載されるポリシラン化合物の精製法に関する。
【化3】
第10観点として、前記キレート樹脂は、下記式(A-1)で表される単位構造を有する高分子物質、又は下記式(B-1)乃至式(B-4)の単位構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の単位構造を有する高分子物質である、第1観点乃至第9観点のいずれか一項に記載されるポリシラン化合物の精製法に関する。
【化4】
(式中、nは1乃至10の整数を表し、A
1は担体としてのシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンを構成する単位構造であり、A
2は単結合又はA
1と官能基を結びつける連結基であり、該連結基は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素原子数1乃至10のアルキレン基を表す。)
【化5】
(式中、B
1は担体としてのシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンを構成する単位構造であり、B
2は単結合又はB
1とチオウレア基又はチオウロニウム基を結びつける連結基であり、該連結基は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1乃至10のアルキレン基であり、B
3はヒドロキシル基及び/又は炭素数1乃至3のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基である。)
第11観点として、前記金属不純物がMg、Cu、Zn、Cr及びFeからなる群の少なくとも一種である、第1観点乃至第10観点のいずれか一項に記載されるポリシラン化合物の精製法に関する。
第12観点として、前記金属不純物の量をポリシラン化合物100質量%換算で2ppm以下に低減する、第1観点乃至第11観点のいずれか一項に記載されるポリシラン化合物の精製法に関する。
第13観点として、金属不純物の残存量がポリシラン化合物100質量%換算で2ppm以下である精製ポリシラン化合物であって、該ポリシラン化合物は、下記式(1)乃至式(3)で表される構造のうち少なくとも1つの構造単位を有し、重量平均分子量が50乃至30,000である精製ポリシラン化合物に関する。
【化6】
(式中、Rは水素原子、ヒドロキシ基、シリル基、又は有機基であり、nは1以上の整数である。)
第14観点として、前記シリル基は、ケイ素数1乃至6のシラニル基であり、前記有機基は、炭素数1乃至4のアルキル基又は炭素数6乃至10のアリール基である、第13観点に記載される精製ポリシラン化合物に関する。
第15観点として、前記金属不純物がMg、Cu、Zn、Cr及びFeからなる群の少なくとも一種である、第13観点又は第14観点に記載される精製ポリシラン化合物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリシラン化合物の精製方法によると、新しい金属成分を使用しないことで、新しい金属成分のコンタミネーションを起こすことがない。さらに、本発明のポリシラン化合物の精製方法はポリシラン化合物を、アミド基骨格を有する化合物で希釈してから、キレート樹脂又はイオン交換樹脂と接触させることで、被精製ポリシラン化合物の分子量が大きく変化することなく予め含まれる金属成分を効率よく除去でき、従来ポリシラン化
合物の精製方法より除去性が向上する。また、本発明の方法によれば、慣用の方法(例えば、溶媒による洗浄など)では、亜鉛などの金属成分の除去が困難なポリシランであっても、簡便にかつ効率よく金属成分を除去できる。また、本発明の方法によれば、従来方法(例えば、CuCl2水溶液又はFeCl3水溶液による洗浄)で金属成分が除去されたポリシラン化合物から、金属成分の含有量をさらに著しく低減できる。このような方法で得られるポリシラン化合物は、金属成分の含有量が著しく低減された高純度のポリシランであるため、金属成分の低減が要求される用途、例えば、光電子材料用途などとして好適に利用できる。また、金属成分の含有量が著しく高いレベルで低減されているため、長期に亘って、ポリシランの変質を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、金属不純物を含むポリシラン化合物を、少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物で希釈する準備工程と、希釈されたポリシラン化合物に対する金属除去処理により、該金属不純物を系外に除去する金属除去工程とを少なくとも有する、ポリシラン化合物の精製法である。
【0014】
[ポリシラン化合物]
ポリシランとしては、Si-Si結合を有する直鎖状、環状、分岐状、又は網目状の化合物であれば特に限定されないが、通常、前記ポリシランは、下記式(1)乃至式(3)で表された構造単位のうち少なくとも1つの構造単位を有するポリシランで構成されている場合が多い。
【0015】
【化7】
(式中、Rは水素原子、ヒドロキシ基、シリル基、又は有機基であり、nは1以上の整数である。)
【0016】
前記式(1)及び式(2)において、Rで表される有機基としては、炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アラルキル基)など、これらの炭化水素基に対応するエーテル基(アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基など)、ヒドロキシル基、置換されていてもよいアミノ基[例えば、アミノ基(-NH2)、置換アミノ基(前記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基などで置換されたN-モノ又はN,N-ジ置換アミノ基など)など]などが挙げられる。なお、これらの置換基は、さらに1又は複数の他の置換基[例えば、アルキル基(例えば、炭素数1乃至10のアルキル基、好ましくは炭素数1乃至6のアルキル基、さらに好ましくは炭素数1乃至4のアルキル基)などの炭化水素基、アルコキシ基(例えば、炭素数1乃至10のアルコキシ基、好ましくは炭素数1乃至6のアルコキシ基、さらに好ましくは炭素数1乃至4のアルコキシ基)などの上記例示の置換基、アシル基(例えば、アセチル基などの炭素数1乃至10のアルキル-カルボニル基、好ましくは炭素数1乃至6のアルキル-カルボニル基、さらに好ましくは炭素数1乃至4のアルキル-カルボニル基など)など]で置換されていてもよい。
【0017】
前記式(1)及び式(2)のRにおいて、アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシルなどの炭素数1乃至14のアルキル基(好ましくは炭素数1乃至10のアルキル基、さらに好ましくは炭素数1乃至6のアルキル基)が挙げられる。
【0018】
アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t-ブトキシ、ペンチルオキシなどの炭素数1乃至14のアルコキシ基(好ましくは炭素数1乃至10のアルコキシ基、さらに好ましくは炭素数1乃至6のアルコキシ基)が挙げられる。
【0019】
アルケニル基としては、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニルなどの炭素数2乃至14のアルケニル基(好ましくは炭素数2乃至10のアルケニル基、さらに好ましくは炭素数2乃至6のアルケニル基)が挙げられる。
【0020】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシルなどの炭素数5乃至14のシクロアルキル基(好ましくは炭素数5乃至10のシクロアルキル基、さらに好ましくは炭素数5乃至8のシクロアルキル基)などが挙げられる。シクロアルキルオキシ基としては、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシなどの炭素数5乃至14のシクロアルキルオキシ基(好ましくは炭素数5乃至10のシクロアルキルオキシ基、さらに好ましくは炭素数5乃至8のシクロアルキルオキシ基)などが挙げられる。シクロアルケニル基としては、シクロペンテニル、シクロヘキセニルなどの炭素数5乃至14のシクロアルケニル基(好ましくは炭素数5乃至10のシクロアルケニル基、さらに好ましくは炭素数5乃至8のシクロアルケニル基)などが挙げられる。
【0021】
アリール基としては、フェニル、メチルフェニル(トリル)、ジメチルフェニル(キシリル)、ナフチルなどの炭素数6乃至20のアリール基(好ましくは炭素数6乃至15のアリール基、さらに好ましくは炭素数6乃至12のアリール基)などが挙げられる。アリールオキシ基としては、フェノキシ、ナフチルオキシなどの炭素数6乃至20のアリールオキシ基(好ましくは炭素数6乃至15のアリールオキシ基、さらに好ましくは炭素数6乃至12のアリールオキシ基)などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピルなどの炭素数6乃至20のアリール-炭素数1乃至4のアルキル基(好ましくは炭素数6乃至10のアリール-炭素数1乃至2のアルキル基)などが挙げられる。アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ、フェネチルオキシ、フェニルプロピルオキシなどの炭素数6乃至20のアリール-炭素数1乃至4のアルキルオキシ基(好ましくは炭素数6乃至10のアリール-炭素数1乃至2のアルキルオキシ基)などが挙げられる。
【0022】
シリル基としては、シリル基、ジシラニル基、トリシラニル基などのケイ素数1乃至10のシラニル基(好ましくはケイ素数1乃至6のシラニル基)などが挙げられる。
【0023】
通常、基Rは、炭化水素基(置換基を有していてもよい炭化水素基)又は炭化水素基に対応するエーテル基(置換基を有していてもよい炭化水素基が結合又は置換したエーテル基)であってもよい。好ましい基Rには、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などの炭化水素基が含まれ、特にアルキル基(例えば、メチル基などの炭素数1乃至4のアルキル基など)又はアリール基(例えば、フェニル基などの炭素数6乃至10のアリール基)が好ましい。なお、置換基Rは、同一又は異なっていてもよい。
【0024】
ポリシランが非環状構造(直鎖状、分岐鎖状、網目状)の場合、末端基(末端置換基)は、通常、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(塩素原子など)、アルキル基、ア
ルコキシ基、シリル基などであってもよい。
【0025】
具体的なポリシランとしては、例えば、前記式(1)で表される構造単位を有する分岐鎖状ポリシラン(又は網目状ポリシラン)、前記式(2)で表される構造単位を有する直鎖状ポリシラン、式(3)で表される構造単位を有する環状ポリシラン、前記式(1)乃至式(3)で表される構造単位を組み合わせて有する分岐状ポリシランなどが挙げられる。また、ポリシランがコポリマーである場合、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーのいずれであってもよい。さらに、前記ポリシランは、前記式(1)乃至式(3)で表される構造単位のそれぞれを単独で又は2種以上組み合わせて有するポリシランであってもよい。
【0026】
なお、前記式(2)で表される構造単位を有する直鎖状ポリシランは、前記式(1)で表される構造単位を有する分岐状ポリシラン又は前記式(3)で表される構造単位を有する環状ポリシランなどに比べて、溶媒溶解性に優れるなどの特性を有しており、幅広い用途に適用するのに好適なポリシランである。また前記式(1)で表される構造単位を有するポリシランは分岐状構造を有しているためか、金属成分を取り込みやすく、金属成分を除去することが困難である。本発明では、このような直鎖状、分岐状いずれの構造を有するポリシランであっても、効率よく含有する金属成分を除去できる。
【0027】
分岐状ポリシランにおいて、前記分岐状構造単位の割合は、ポリシランを構成するケイ素原子換算(モル換算)で、例えば、ポリシラン全体の1モル%以上(例えば、3~100モル%)、好ましくは5モル%以上(例えば、10~95モル%程度)、さらに好ましくは15モル%以上(例えば、20~90モル%程度)であってもよい。
【0028】
代表的なポリシランとしては、例えば、ポリジアルキルシラン[例えば、ポリジメチルシラン、ポリメチルプロピルシラン、ポリメチルブチルシラン、ポリメチルペンチルシラン、ポリジブチルシラン、ポリジヘキシルシラン、ジメチルシラン-メチルへキシルシラン共重合体などのポリジ炭素数1乃至6のアルキルシラン、好ましくはポリジ炭素数1乃至4のアルキルシラン]、ポリアルキルアリールシラン[例えば、ポリメチルフェニルシラン、メチルフェニルシラン-フェニルヘキシルシラン共重合体などのポリ炭素数1乃至6のアルキル炭素数6乃至15のアリールシラン、好ましくはポリ炭素数1乃至4のアルキル炭素数6乃至10のアリールシラン]、ポリジアリールシラン(例えば、ポリジフェニルシランなどのポリジ炭素数6乃至15のアリールシラン、好ましくはポリジ炭素数6乃至10のアリールシラン)、ジアルキルシラン-アルキルアリールシラン共重合体(例えば、ジメチルシラン-メチルフェニルシラン共重合体、ジメチルシラン-フェニルヘキシルシラン共重合体、ジメチルシラン-メチルナフチルシラン共重合体などのジ炭素数1乃至6のアルキルシラン-炭素数1乃至6のアルキル炭素数6乃至15のアリールシラン共重合体、好ましくはジ炭素数1乃至6のアルキルシラン-炭素数1乃至4のアルキル炭素数6乃至10のアリールシラン共重合体)などの前記式(1)で表される構造単位を有するポリシラン;ポリアリールシラン[例えば、ポリフェニルシラン(ポリフェニルシリン)などのポリ炭素数6乃至15のアリールシラン、好ましくはポリ炭素数6乃至10のアリールシラン]などの前記式(2)で表される構造単位又は前記式(3)で表される構造単位を有する分岐状ポリシラン;ジアルキルシラン-アリールシラン共重合体(例えば、ジメチルシラン-フェニルシラン共重合体などのジ炭素数1乃至6のアルキルシラン-炭素数6乃至15のアリールシラン共重合体、好ましくはジ炭素数1乃至6のアルキルシラン-炭素数6乃至10のアリールシラン共重合体)、アルキルアリールシラン-アリールシラン共重合体(例えば、メチルフェニルシラン-フェニルシラン共重合体などの炭素数1乃至6のアルキル炭素数6乃至15のアリールシラン-炭素数6乃至15のアリールシラン共重合体、好ましくは炭素数1乃至6のアルキル炭素数6乃至15のアリールシラン-炭素数6乃至10のアリールシラン共重合体)などの前記式(1)で表される構造単
位と前記式(2)で表される構造単位又は前記式(3)で表される構造単位を有する分岐状ポリシランなどが挙げられる。このようなポリシランの詳細は、例えば、R.D.Miller、J.Michl;Chemical Review、第89巻、1359頁(1989)、N.Matsumoto;Japanese Journal of Physics、第37巻、5425頁(1998)などに例示されている。また、ポリシランは、ポリシラン原料(ハロシラン類など)とビニル化合物とのコポリマーであってもよい。このような共重合体の詳細は、例えば、特開2002-128897号公報に開示されている。
【0029】
これらのポリシランは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0030】
ポリシランの分子量は、重量平均分子量で50~30000、好ましくは300~20000、さらに好ましくは400~10000程度であってもよい。なお、ポリシランが環状である場合、環状ポリシランの環の員数は、通常、4~12程度であってもよく、好ましくは4~10、さらに好ましくは5~10(特に5~8)程度であってもよい。
【0031】
ポリシランは、市販品を用いてもよく、種々の公知の方法を用いて調製してもよい。ポリシランの代表的な合成方法としては、金属ナトリウムなどのアルカリ金属を用いてトルエン溶媒中のジアルキルジハロシランあるいはジハロテトラアルキルジシランを100℃以上の温度で強力に撹拌し、還元的にカップリングさせる方法[J.Am.Chem.Soc.,103(1981)7352]が知られている。しかし、この方法は、空気中で発火するアルカリ金属を加熱し、強力に攪拌・分散させる必要があるため、工業的規模での生産における安全性が懸念され、また、得られるポリシランの分子量分布が多峰性となり、用途によっては品質的にも十分でない場合がある。
【0032】
ポリシランの製造方法として、他にも(a)ビフェニルなどでマスクしたジシレンをアニオン重合させる方法(特開平1-23063号公報)、(b)環状シラン類を開環重合させる方法(特開平5-170913号公報)、(c)ヒドロシラン類を遷移金属錯体触媒により脱水素縮重合させる方法(特公平7-17753号公報)、(d)ジハロシラン類を室温以下の温度で電極還元してポリシランを製造する方法(特開平7-309953号公報)、(e)マグネシウムを還元剤としてハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(いわゆる「マグネシウム還元法」、例えば、WO98/29476号公報、特開2003-277507号公報、特開2005-36139号公報に記載の方法など)が挙げられる。
【0033】
特に、マグネシウム還元法では、(1)汎用の化学合成装置により安定で安価な原料を用いて合成でき、安全性、コスト面で優位性がある、(2)ナトリウムや有機溶媒への不溶物等、光・電子材料などの用途として不適当な不純物が混入しない、(3)分子量のばらつきが少なく、有機溶媒に対する溶解性や透明性の高いポリシランが得られる、(4)ポリシランが高収率で得られるなどの優れた特徴を有する。
【0034】
そのため、ポリシランは、マグネシウム還元法により得られるポリシランを好適に使用してもよい。このようなマグネシウム還元法では、少なくともマグネシウム金属成分の存在下で、ハロシラン類を重合させることによりポリシランを合成できる。特に、マグネシウム還元法では、より効率よく高性能のポリシランを得るため、触媒として、マグネシウム金属成分と他の金属成分[例えば、リチウム化合物、金属ハロゲン化物(リチウム化合物(リチウムハロゲン化物、ハロゲン化リチウム)ではない金属ハロゲン化物)]とを併用する場合が多い。
【0035】
そして、このような種々の方法で得られるポリシラン(特にマグネシウム還元法により
得られるポリシラン)は、種々の金属成分を触媒として使用しており、このような触媒がポリシランに金属成分を含有させる要因となることが多い。
【0036】
[アミド基骨格を有する化合物]
上記ポリシラン化合物は本発明の精製法で金属除去処理する前に、少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物で希釈する。
【0037】
アミド基骨格を有する化合物は、下記式(4)で表される構造を有する化合物である
【化8】
(式中、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1乃至10のアルキル基、炭素数2乃至10のアルケニル基、炭素数5乃至10のシクロアルキル基、炭素数1乃至10のエーテル基又は炭素数1乃至10のアルコキシ基を示し、或いは、R
1及びR
2は結合して環を形成してもよく、その場合、R
1は炭素数1乃至10のアルキル基で置換されてもよいアミノ基を示すことができる。)
【0038】
好ましくは、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1乃至5のアルキル基又は炭素数1乃至5のエーテル基を示し、或いは、R1及びR2は結合して環を形成してもよく、その場合、R1は炭素数1乃至5のアルキル基で置換されてもよいアミノ基を示すことができる。
【0039】
アミド基骨格を有する化合物は、より具体的に例えば下記のような化合物を挙げることができる。
【化9】
【0040】
[金属不純物]
金属不純物は、いかなる経緯でポリシランに含有されていてもよいが、通常、ポリシランを合成する過程においてポリシランに取り込まれるようである。このような金属不純物としては、例えば、(i)金属触媒の存在下で、ポリシラン類の原料を重合させることによりポリシランに取り込まれる金属触媒由来の金属成分(Mg、Cu、Zn等)、(ii
)ポリシラン類の原料に含まれる金属成分などが挙げられる。通常、ポリシランに含まれる金属不純物の大部分が、金属触媒由来の金属成分である場合が多い。
【0041】
金属不純物としては、特に限定されず、種々の金属原子(又は金属イオン)、例えば、アルカリ又はアルカリ土類金属(例えば、Na、Mgなど)、遷移金属(例えば、Smなどの周期表第3A族元素、Tiなどの周期表第4A族元素、Vなどの周期表第5A族元素、Crなどの周期表第6A族元素、Fe、Ni、Co、Pdなどの周期表第8族元素、Cuなどの周期表第1B族元素など)、周期表第2B族元素(例えば、Znなど)、周期表第3B族金属(例えば、Alなど)、周期表第4B族金属(例えば、Snなど)などが挙げられる。金属不純物は、単独の金属であってもよく、異種の金属で構成されていてもよい。
【0042】
これらの金属不純物のうち、特に、周期表第8属元素(特にFe)、周期表第2B族元素(Znなど)などの金属は、ハロシラン類の重合触媒を構成する金属などとして有効である一方で、ポリシランに取り込まれやすく、慣用の精製方法(例えば、有機溶媒、水などによる洗浄など)のみならず、酸、アルカリなどによる洗浄によっても、ポリシランから除去することは困難である。本発明の方法では、このような極めて除去が困難な金属であっても、高いレベルでポリシランから除去可能である。
【0043】
金属不純物の含有形態は、特に限定されず、例えば、ポリシランのポリマー構造に金属化合物などの形態で取り込まれていてもよく、ポリシランの構成原子(例えば、ケイ素原子など)に対する配位などによりポリシランに結合していてもよい。
【0044】
金属不純物含有ポリシランにおいて、金属不純物の割合は、特に限定されるものではないが、その金属の重量換算で、全体に対して、3~100000ppm程度の範囲から選択でき、好ましくは3~10000ppm程度、さらに好ましくは3~5000ppm程度、特に好ましくは3~2000ppm程度である。本発明では、このような多量の金属不純物を予め含むポリシランであっても、効率よく除去可能である。
【0045】
なお、金属不純物がポリシラン化合物に取り込まれる理由は定かではないが、金属不純物がポリシランに対して何らかの親和性を有しているものと思われる。しかも、ポリシランの合成において用いられる触媒としての金属成分(特に、Fe、Zn成分など)は、重合に関与するためか、ポリシランに対する親和性(又は残留性)が高く、ポリシランに一旦取り込まれて残留すると、洗浄(溶媒による洗浄、酸、アルカリによる洗浄)などの方法では、わずかに除去することができても、高いレベルで除去するのが困難である。
【0046】
そこで、本発明では、金属不純物を含むポリシラン化合物を少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物で希釈し、希釈されたポリシラン化合物に対する金属除去処理により、該金属不純物を系外に効率よく除去する。
【0047】
[金属除去処理]
金属除去処理方法として、例えば、金属成分を含むポリシラン化合物とイオン化傾向において小さい別の金属成分とを溶媒の存在下で接触させることにより行う金属除去処理がある。本発明の金属除去処理は、主に上記希釈されたポリシラン化合物をイオン交換樹脂又はキレート樹脂と接触させることで、金属不純物を系外に除去する処理である。
【0048】
[イオン交換樹脂]
本発明に使用されるイオン交換樹脂の一例としては、スチレン・ジビニルベンゼンの共重合体からなる多孔質担体の表面にイオン交換基を固定化させたものである。樹脂のもつ固定交換基の種類によって強酸性、弱酸性などに分類される。強酸性のものとしては、ス
ルホン基が挙げられる。弱酸性のものとしては、カルボキシル基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、亜砒酸基およびフェノキシド基が挙げられる。また、担体の物理的性質からゲル型、ゲル型樹脂体に細孔を形成させ、多孔質化した巨大網目(MR[Micro-Reticular])型等に分類される。
【0049】
イオン交換樹脂の触媒作用は、反応物とイオン交換樹脂表面との接触面積およびイオン交換樹脂表面上の官能基種類に依存する。理論に拘束されるものではないが、ゲル型イオン交換樹脂は、一般にミクロ孔(細孔径:~数十Å)のみを有するために反応物がポリマー等の大きな分子量を有するものである場合、樹脂細孔内へ侵入しづらいことが想定される。MR型イオン交換樹脂は、メソ孔-マクロ孔(細孔径:数百Å~)を有するために反応物がポリマー等の大きな分子量を有するものである場合でも細孔内に侵入可能であり、相対的にポリマー等とイオン交換樹脂表面との接触面積が大きくなることが想定できる。本発明において用いるイオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂の混合物であることが好ましい。
【0050】
本発明のイオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂の混合物であれば特に限定はされず、市販されているものを用いることができる。好ましくは、カチオン交換樹脂は下記式(6)の構造を有するスチレン系ゲル型強酸性カチオン交換樹脂であり、前記アニオン交換樹脂は下記式(7)の構造、又は式(8)の構造を有するスチレン系マクロポーラス型強塩基性アニオン交換樹脂である。
【化10】
【0051】
市販されるイオン交換樹脂において、例えば、母体はスチレン系ゲル型強酸性カチオン交換樹脂DS-1(商品名、オルガノ社製)、母体はスチレン系マクロポーラス型強酸性カチオン交換樹脂DS-4(商品名、オルガノ社製)、母体はスチレン系ゲル型強塩基性アニオン交換樹脂DS-2(商品名、オルガノ社製)、母体はスチレン系マクロポーラス型強塩基性I型アニオン交換樹脂DS-5(商品名、オルガノ社製)、及びスチレン系マクロポーラス型強塩基性II型アニオン交換樹脂(室町ケミカル社製)などが挙げられる。
【0052】
イオン交換樹脂による金属不純物の除去は、具体的に希釈した金属不純物を含むポリシラン化合物を回分式またはカラム流通式によりイオン交換樹脂で処理することで行うことができる。
【0053】
回分式とは、被精製溶液とイオン交換樹脂を一定時間撹拌混合した後、ろ過等により樹脂を除去する方法である。又カラム流通式とは、イオン交換樹脂を充填したカラムや充填塔などの固定層に被精製溶液を通液することで金属不純物を被精製溶液から除去する方法である。
【0054】
上記回分式とカラム流通式とを比較すると、一般的に被精製溶液とイオン交換樹脂の接
触効率の観点から、カラム流通式の方が短時間でイオン交換樹脂での処理が可能なため、重量平均分子量変化(ΔMw)の低減効果が大きい。
【0055】
処理の回数は通常1回であるが、2回以上行ってもよい。回分式による処理時間は、被精製ポリシラン化合物やイオン交換樹脂の種類や量、使用する溶媒の種類や量により異なる。同様に、カラム流通式における通液速度は、被精製ポリシラン化合物やイオン交換樹脂の種類や量、使用する溶媒の種類や量により異なる。これらの諸条件は、当業者がルーチン実験によって容易に最適化することができる。
【0056】
本発明において用いるイオン交換樹脂の使用量は被精製ポリシラン化合物の種類や使用する有機溶媒の種類にもよるが、被精製ポリシラン化合物の量に対して通常0.01~1000質量%程度であり、0.1~500質量%が好ましく、1質量%~100質量%がより好ましい。
【0057】
[キレート樹脂]
本発明に使用されるキレート樹脂は、好ましくは下記式(A-1)で表される単位構造を有する高分子物質又は下記式(B-1)乃至式(B-4)の単位構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の単位構造を有する高分子物質である(以下、式(A-1)のキレート剤(キレート樹脂)、式(B-1)乃至式(B-4)のキレート剤(キレート樹脂)、さらには単に式(A-1)、式(B-1)乃至式(B-4)などとも称する)。
【0058】
【0059】
式(A-1)の単位構造において、A1は担体としてのシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンを構成する単位構造であり、グルカミン型官能基がA2を介してA1に結合している。グルカミン型官能基中のnは1乃至10の整数を有する。特にnが2乃至5、又は3乃至5、特にはn=4の構造が好ましい。
A2は単結合を表すか、又はA1と官能基を結びつける連結基を表し、該連結基は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい、炭素数1乃至10のアルキレン基を挙げることができる。特にA2として炭素数1乃至5、又は1乃至3、特には炭素原子数1のアルキレン基を介して、単位構造A1に連結している構造が挙げられる。
【0060】
式(A-1)のキレート樹脂において、担体としてはポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンであることが好ましい。従って、A1としてポリスチレンの単位構造を挙げることができる。
式(A-1)のキレート樹脂は、価数の大きな金属イオンほど選択性が高くなる。式(A-1)のキレート剤は、例えば三菱化学(株)製、商品名CRB03、CRB05として入手することができる。
【0061】
また、式(B-1)乃至式(B-4)の単位構造において、B1は担体としてのシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンを構成する単位構造であり、B2は単結合を表すか、又はB1と官能基を結びつける連結基を表し、該連結基は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1乃至10のアルキレン基であり、B3はヒドロキシル基及び/又は炭素数1乃至3のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を挙げることができる。特にB2として炭素原子数1乃至10、又は1乃至5、特には炭素原子数3の炭化水素基が挙げられる。B1はポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンが好ましく、架橋化多孔質ポリスチレンが特に好ましい。
【0062】
式(B-1)と式(B-2)の単位構造を有する高分子物質を含むキレート剤は、種々の条件下で多くの金属を捕捉することができ、例えばCa、Cd、Cr、Cs、Cu、Fe、Ir、La、Mg、Os、Pd、Pt、Rh、Ru、Sc、Sn、Zn等の金属、金属イオンや、それらの金属水酸化物コロイド、金属酸化物コロイドの捕捉に有効である。特にSn、そのイオン、その金属水酸化物コロイド、金属酸化物コロイドの捕捉に最適である。官能基量は金属吸着剤1g当たり、0.1ミリモル乃至5ミリモル程度の割合で含有することができる。式(B-1)のキレート剤は室町ケミカル社からキレート剤、商品名MuromacXMS-5418として入手することができる。式(B-2)のキレート樹脂はピュロライト社からキレート剤、商品名S920として入手することができる。
【0063】
式(B-3)と式(B-4)の単位構造を有する高分子物質を含むキレート剤は、例えばAg、Cu、Fe、Os、Pd、Rh、Sc、Sn等の金属、金属イオンや、それらの金属水酸化物コロイド、金属酸化物コロイドの捕捉に有効である。特に有機溶剤中のパラジウムイオンの捕捉に有効である。官能基量は金属吸着剤1g当たり、0.1ミリモル乃至5ミリモル程度の割合で含有することができる。式(B-3)はピュロライト社からキレート剤、商品名S914として入手することができる。また、式(B-4)のキレート樹脂は室町ケミカル社からキレート剤、商品名MuromacXMS-5812として入手することができる。
【0064】
本発明において用いるキレート樹脂の使用量はキレート樹脂の種類と金属イオンの量によって調整するが、被精製ポリシラン化合物の量に対して通常0.01~1000質量%程度であり、0.1~500質量%が好ましく、1質量%~100質量%がより好ましい。
【0065】
本発明において、イオン交換樹脂とキレート樹脂は混合して使用しても良く、また、キレート樹脂は数種混合して使用しても良い。
【0066】
[ポリシラン化合物の精製法]
本発明のポリシラン化合物の精製法は、金属不純物を含むポリシラン化合物を、少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物で希釈する準備工程と、希釈されたポリシラン化合物に対する金属除去処理により、該金属不純物を系外に除去する金属除去工程とを少なくとも有する。また、本発明は、精製すべき被精製材料(被精製ポリシラン化合物)を前記少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物に溶解した被精製材料溶液を準備する工程、上記のイオン交換樹脂又はキレート樹脂(以下、金属吸着剤とも称する)と共にポリ
エチレン容器に上記被精製材料溶液及び該金属吸着剤を充填する工程、被精製材料及び金属吸着剤を含む溶液を撹拌する工程、及び被精製材料及び金属吸着剤を含む溶液から金属吸着剤を除去して精製溶液を得る工程を含む、材料溶液の精製方法も対象とする。
また、上記の全ての精製する工程がバッチ式で処理される材料溶液の精製方法も対象とする。
また、精製すべき被精製材料を前記少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物に溶解した被精製材料溶液を準備する工程、及び上記の金属吸着剤を充填したカラムに上記被精製材料溶液を通液して精製溶液を得る工程を含む、材料溶液の精製方法も対象とする。
【0067】
精製すべき被精製材料を前記少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物に溶解した被精製材料溶液には、被精製材料に由来する金属不純物がその溶液中に数ppm乃至数百ppm程度含有されており、本発明の精製法により、その溶液中の金属不純物を100質量%で2ppm以下まで低減することが可能である。
また、すでに別方法で精製される材料を本発明の精製法で再度金属処理し、金属成分の含有量をさらに著しく低減できるポリシラン化合物の精製方法として提供できる。
【0068】
本発明はまた、金属不純物が低減されたポリシラン化合物溶液の製造方法も対象とする。本製造方法は、詳細には、精製すべき被精製ポリシラン化合物を前記少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物に溶解した被精製材料溶液が入ったタンクと、上記のイオン交換樹脂又はキレート樹脂が充填されたカラムとを配管で連結した系内で、被精製材料溶液を循環し被精製材料溶液中の金属イオン又はそれら金属のコロイド物質を吸着して除去し、不純物が低減された精製材料溶液を得る工程を含む、不純物が低減されたポリシラン化合物溶液の精製方法に関する。このタンクとカラムとを配管で結ぶ流路の一部に精製された材料を含む精製材料溶液の取り出し口が設けられ、バルブで開閉する事が可能であり、精製材料溶液を配管で結ばれた流路から取り出すことが可能である。また、配管の一部にはポンプを設置し、そのポンプを通じて被精製材料溶液を循環する事が可能である。被精製材料溶液の循環は外部からの不純物の混入を避けるために閉鎖系で行われることが好ましい。
【0069】
本発明では精製すべきポリシラン化合物を前記少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物で溶解する液体が、予め精製された液体(または前処理液体と称する)とすることができる。前処理液体を用いることで被精製材料溶液(精製前の組成物溶液)とした場合に、より効率的に高度に不純物が低減された材料溶液(精製後の組成物溶液)が得られる。
【0070】
不純物が低減された材料溶液は、その材料溶液から溶液を取り除き不純物が低減された材料を得ることが可能である。また、不純物が低減された材料溶液をそのまま材料が含有された組成物溶液とすることが可能である。
【0071】
前処理液体を用いる場合に、精製された液体の精製が、精製すべき材料の被精製材料溶液を精製する閉鎖系で予め行われる方法(1)、又は上記閉鎖系とは別の閉鎖系で予め行われ精製すべき材料の被精製材料溶液を精製する閉鎖系にパイプで送られる方法(2)が挙げられる。
前記方法(1)は液体の精製と精製すべき材料の被精製材料溶液とを、同一の装置で行う場合であり、液体の精製を行った後に材料を仕込み、被精製材料溶液とした後に、再びその装置で被精製材料溶液の精製が行われる方法である。
前記方法(2)は液体の精製と精製すべき材料の被精製材料溶液とを、別の装置で行う方法である。液体の精製を別の精製系で行った後、一旦タンクに液体を保管するか、又は直接に配管(パイプ)で精製すべき材料の被精製材料溶液の精製を行う精製系に送液する方法である。
【0072】
被精製ポリシラン化合物を前記少なくとも1種のアミド基骨格を有する化合物に溶解した被精製材料溶液のポリシラン化合物の濃度は、3質量%乃至50質量%である。好ましくは5質量%乃至30質量%である。より好ましくは、5質量%乃至15質量%である。
【0073】
本発明では、酸洗浄、CuCl2水溶液洗浄、分液洗浄、再沈殿精製、金属除去フィルターによる金属除去方法と今回の手法を組み合わせることもできる。
【実施例0074】
実施例に用いられる溶媒の略号は次のとおりである。
NEP:N-エチル-2-ピロリドン
DMIB:N,N-ジメチルイソブチルアミン
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
CPME:シクロペンチルメチルエーテル
【0075】
[実施例1]
全容100mLのポリエチレン製ボトルに、大阪ガスケミカル社製ポリシラン(OGSOL SI-20-10、5.0g)を加え、45.1gのNEPで溶解し、10質量%のNEP溶液を50.1g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.1gに三菱ケミカル社製キレート樹脂CRB03(商品名)10.0g(調整した被精製溶液に対し、20質量%)を添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりCRB03を濾別し、精製溶液を45.6g得た。得られた精製溶液について、GPCにより分子量を測定したところ、Mw=1,442であり、金属除去処理前後での変化率が10%未満であったため、変性なく処理できていることを確認した。また、金属残存量に関しては誘導結合プラズマ質量分析法(アジレント・テクノロジー製ICP-MS
7500)にて測定した。ポリシランの合成工程にてコンタミするMg、Cu、Znが各2.0ppm以下まで低減した場合に金属除去能が良好と評価した。
【0076】
GPC評価条件
分岐鎖状ポリシランの重量平均分子量及び数平均分子量並びに分散度は、GPC装置(東ソー(株)製EcoSEC,HLC-8420GPC)及びGPCカラム(東ソー(株)TSKgel SuperMultiporeHZ-N, TSKgel SuperMultiporeHZ-H)を用い、カラム温度を40℃とし、溶離液(溶出溶媒)としてテトラヒドロフランを用い、流量(流速)を0.35mL/分とし、標準試料としてポリスチレン(シグマアルドリッチ社製)を用いて、測定した。
【0077】
[実施例2]
OGSOL SI-20-10(5.0g)をDMIB45.2gで希釈し、10質量%のDMIB溶液を50.2g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.2gに対し、CRB03を10.2g(被精製溶液に対し、20質量%)添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりCRB03を濾別し、精製溶液を44.3g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表1に示した。
【0078】
[実施例3]
OGSOL SI-20-10(5.0g)をDMF45.1gで希釈し、10質量%のDMF溶液を50.1g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.1gに対し、オルガノ社製強酸性陽イオン交換樹脂ORLITETM DS-4を10.5g(被精製溶液に対し、20質量%)、及びオルガノ社製強塩基性陰イオン交換樹脂ORLITETM DS-2を10.3g(被精製溶液に対し、20質量%)それぞれ添加し、ミックス
ローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりDS-4とDS-2を濾別し、精製溶液45.6gを得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表1に示した。
【0079】
[実施例4]
大阪ガスケミカル社製ポリシラン(OGSOL SI-20-14、5.0g)をNEP45.0gで希釈し、10質量%のNEP溶液を50.0g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.0gに対し、CRB03を10.2g(被精製溶液に対し、20質量%)添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりCRB03を濾別し、精製溶液を45.7g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表2に示した。
【0080】
[実施例5]
OGSOL SI-20-14(5.0g)をNEP45.2gで希釈し、10質量%のNEP溶液を50.2g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.2gに対し、DS-4を10.2g(被精製溶液に対し、20質量%)、及びDS-2を10.1g(被精製溶液に対し、20質量%)それぞれ添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりDS-4とDS-2を濾別し、精製溶液を44.8g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表2に示した。
【0081】
[実施例6]
大阪ガスケミカル社製ポリシラン(OGSOL SI-10-20、5.0g)をNEP45.1gで希釈し、10質量%のNEP溶液を50.1g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.1gに対し、CRB03を10.0g(被精製溶液に対し、20質量%)添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりCRB03を濾別し、精製溶液を45.3g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表4に示した。
【0082】
GPC評価条件
直鎖状ポリシランの重量平均分子量及び数平均分子量並びに分散度は、GPC装置(東ソー(株)製EcoSEC,HLC-8420GPC)及びGPCカラム(東ソー(株)TSKgel SuperMultiporeHZ-N, TSKgel SuperMultiporeHZ-H)を用い、カラム温度を40℃とし、溶離液(溶出溶媒)としてテトラヒドロフランを用い、流量(流速)を0.35mL/分とし、標準試料としてポリスチレン(シグマアルドリッチ社製)を用いて、測定した。
【0083】
[実施例7]
OGSOL SI-10-20(5.0g)をDMIB45.0gで希釈し、10質量%のDMIB溶液を50.0g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.0gに対し、CRB03を10.1g(被精製溶液に対し、20質量%)添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりCRB03を濾別し、精製溶液を45.1g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表4に示した。
【0084】
[実施例8]
OGSOL SI-10-20(5.0g)をNEP45.0gで希釈し、10質量%のNEP溶液を50.0g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.0gに対し、DS-4を10.0g(被精製溶液に対し、20質量%)、及びDS-2を10.0g(被精製溶液に対し、20質量%)それぞれ添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりDS-4とDS-2を濾別し、精製溶液を44.8g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表4に示した。
【0085】
[実施例9]
OGSOL SI-10-20(5.0g)をNEP45.2gで希釈し、10質量%のNEP溶液を50.2g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.2gに対し、室町ケミカル社製キレート樹脂XMS-5418(商品名)を10.1g(被精製溶液に対し、20質量%)添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりXMS-5418を濾別し、精製溶液を45.8g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表4に示した。
【0086】
[比較例1]
OGSOL SI-20-10(5.1g)をPGMEA45.2gで希釈し、10質量%のPGMEA溶液を50.3g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.3gに対し、CRB03を10.2g(被精製溶液に対し、20質量%)添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりCRB03を濾別し、精製溶液を44.3g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表1に示した。
【0087】
[比較例2]
OGSOL SI-20-10(5.0g)をCPME45.1gで希釈し、10質量%のCPME溶液を50.1g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.1gに対し、CRB03を10.1g(被精製溶液に対し、20質量%)添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりCRB03を濾別し、精製溶液を42.6g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表1に示した。
【0088】
[比較例3]
OGSOL SI-20-10(5.0g)をPGMEA45.0gで希釈し、10質量%のPGMEA溶液を50.0g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.0gに対し、DS-4を10.2g(被精製溶液に対し、20質量%)、及びDS-2を10.2g(被精製溶液に対し、20質量%)それぞれ添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりDS-4とDS-2を濾別し、精製溶液を44.8g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表1に示した。
【0089】
[比較例4]
OGSOL SI-20-14(5.0g)をPGMEA45.1gで希釈し、10質量%のPGMEA溶液を50.1g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.1gに対し、CRB03を10.1g(被精製溶液に対し、20質量%)添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりCRB03を濾別し、精製溶液を40.9g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表2に示した。
【0090】
[比較例5]
OGSOL SI-20-14(5.1g)をCPME45.1gで希釈し、10質量%のCPME溶液を50.2g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.2gに対し、CRB03を10.1g(被精製溶液に対し、20質量%)添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりCRB03を濾別し、精製溶液を42.6g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表2に示した。
【0091】
[比較例6]
OGSOL SI-20-14(5.0g)をPGMEA45.1gで希釈し、10質量%のPGMEA溶液を50.1g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.1gに対し、DS-4を10.1g(被精製溶液に対し、20質量%)、及びDS-2を10.3g(被精製溶液に対し、20質量%)それぞれ添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりDS-4とDS-2を濾別し、精製溶液を
47.2g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表2に示した。
【0092】
[比較例7]
OGSOL SI-20-14(5.0g)をCPME45.0gで希釈し、10質量%のCPME溶液を50.0g調整し被精製溶液とした。調整した被精製溶液50.0gに対し、DS-4を10.2g(被精製溶液に対し、20質量%)、及びDS-2を10.0g(被精製溶液に対し、20質量%)それぞれ添加し、ミックスローターで室温下、24時間撹拌させた。その後、濾過によりDS-4とDS-2を濾別し、精製溶液を47.1g得た。精製溶液の分子量、及び金属残存量は表2に示した。
【0093】
表1にポリシラン化合物SI-20-10の精製前後での分子量、及び、金属残存量をそれぞれ示した。表2にポリシラン化合物SI-20-14の精製前後での分子量、及び、金属残存量をそれぞれ示した。表3にポリシラン化合物SI-10-20の精製前後での分子量、及び、金属残存量をそれぞれ示した。なお、記載した金属残存量の値はポリシラン化合物を100質量%に換算した値とした。金属残存量の目標値は特開2011-162792に記載されている、「亜鉛(Zn)などの金属を含むポリシラン化合物に対して、イオン化傾向の低い金属を含んだ水溶液を用いて洗浄することにより、2.0ppmまで除去した」先行文献中の実施例を踏まえ、2.0ppm以下とした。また、分岐鎖状ポリシラン化合物の対象金属は合成工程にてコンタミするMg、Cu、Znとした。一方で、直鎖状ポリシラン化合物の対象金属は合成工程にてコンタミするCr、Fe、Znとした。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
表1~3に示すように実施例1~9のアミド溶媒を用いた金属除去方法においては、被精製ポリシラン化合物の分子量が大きく変化することなく金属をターゲット以下まで除去することができたのに対して、比較例1~7の非アミド溶媒を用いた金属除去方法においては金属の除去性が低く実用的でないことが分かった。