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特開2023-146629光ファイバ素線のスクリーニング方法および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146629
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】光ファイバ素線のスクリーニング方法および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/12 20060101AFI20231004BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20231004BHJP
   G01M 11/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C03B37/12 A
G02B6/02 466
G01M11/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053914
(22)【出願日】2022-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度 国立研究開発法人情報通信研究機構「革新的情報通信技術研究開発委託研究/ Beyond 5G 超大容量無線通信を支える空間多重光ネットワーク・ノード技術の研究開発 経済性と転送性能に優れた空間多重光ネットワーク基盤技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松野 佑亮
(72)【発明者】
【氏名】笠原 稔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正典
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 隆一
(72)【発明者】
【氏名】新子谷 悦宏
【テーマコード(参考)】
2H250
【Fターム(参考)】
2H250AA52
2H250AB04
2H250AB05
2H250AB10
2H250AC66
2H250AC83
2H250AC93
2H250AC96
2H250AD15
2H250AD36
2H250BB02
2H250BB19
2H250BB33
(57)【要約】
【課題】クラッド径に関わらず光ファイバ素線のスクリーニングをより正確に行うことができる光ファイバ素線のスクリーニング方法およびこれを用いた光ファイバ素線の製造方法を提供すること。
【解決手段】光ファイバ素線のスクリーニング方法は、光ファイバ素線を繰り出す繰り出し工程と、前記繰り出した光ファイバ素線に曲げ応力印加部にて曲げ応力を印加する曲げ応力印加工程と、前記曲げ応力を印加した光ファイバ素線を巻き取る巻き取り工程と、を備え、前記曲げ応力印加部は、複数のプーリーを備え、前記曲げ応力印加工程において、前記複数のプーリーの回転軸の向きをそれぞれ異ならせて、前記光ファイバ素線の側面の周方向における異なる位置に前記複数のプーリーの側面を接触させて前記曲げ応力を印加する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ素線を繰り出す繰り出し工程と、
前記繰り出した光ファイバ素線に曲げ応力印加部にて曲げ応力を印加する曲げ応力印加工程と、
前記曲げ応力を印加した光ファイバ素線を巻き取る巻き取り工程と、
を備え、
前記曲げ応力印加部は、複数のプーリーを備え、
前記曲げ応力印加工程において、前記複数のプーリーの回転軸の向きをそれぞれ異ならせて、前記光ファイバ素線の側面の周方向における異なる位置に前記複数のプーリーの側面を接触させて前記曲げ応力を印加する
光ファイバ素線のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記曲げ応力印加工程では、3つ以上のプーリーの回転軸の向きをそれぞれ異ならせて、前記光ファイバ素線の側面の周方向における3つ以上の異なる位置に前記3つ以上のプーリーの側面を接触させる
請求項1に記載の光ファイバ素線のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記光ファイバ素線は、コア部と、前記コア部を取り囲むクラッド部と、前記クラッド部を取り囲む樹脂被覆部と、を備え、前記クラッド部のクラッド径は125μmより大きく、
前記曲げ応力印加工程では、クラッド径が125μmで石英系ガラスの光ファイバ素線における所定のプルーフレベルでの破断率と同等の破断率が得られるように曲げ応力を与える
請求項1または2に記載の光ファイバ素線のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記複数のプーリーの外径は5.2mm以上12.4mm以下である
請求項1~3のいずれか一つに記載の光ファイバ素線のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記光ファイバ素線の側面に前記複数のプーリーのそれぞれの側面を接触させる時間は1秒以上である
請求項1~4のいずれか一つに記載の光ファイバ素線のスクリーニング方法。
【請求項6】
光ファイバ母材を加熱溶融して、複数のコア部と前記複数のコア部を取り囲むクラッド部とを有するマルチコアファイバを線引きする線引工程と、
前記マルチコアファイバに樹脂被覆部を形成してマルチコアファイバ素線とする被覆工程と、
前記マルチコアファイバ素線に、請求項1~5のいずれか一つに記載の光ファイバ素線のスクリーニング方法を行うスクリーニング工程と、
を備える
光ファイバ素線の製造方法。
【請求項7】
前記マルチコアファイバ素線は、7つ以上の前記コア部を有し、前記クラッド部の外径は、135μm以上250μm以下であり、前記樹脂被覆部は、プライマリ層と前記プライマリ層を取り囲むセカンダリ層とを有し、前記プライマリ層の破断伸びが、50%以上300%以下であり、前記セカンダリ層の破断伸びは、2.5%以上50%以下である
請求項6に記載の光ファイバ素線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ素線のスクリーニング方法および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ素線は、通常、コア部と、コア部を取り囲むクラッド部と、クラッド部を取り囲む樹脂被覆部と、を備える(特許文献1、2)。このような樹脂被覆層を有する光ファイバ素線の長期間にわたる機械的信頼性を担保するためのスクリーニング方法として、光ファイバ素線に対して引っ張り張力を印加して引張り歪みを与える方法がある。光ファイバ素線に対して引張り歪みを与えると、機械的強度の弱い部分は断線するので、製品となる光ファイバ素線から予め除去することができる。このようなスクリーニング方法は、プルーフテストとも呼ばれる。光ファイバ素線に引張り張力を印加する方法としては、たとえば、国際通信連合(ITU)のITU-T G.650.1に示されるように、キャプスタンローラなどで光ファイバ素線の一部の両端を抑えて、その両端の間に荷重を掛ける方法がある。
【0003】
一方、装置内配線に用いる光ファイバとして、空間多重による大容量伝送が可能なマルチコアファイバが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2020-513469号公報
【特許文献2】国際公開第2020/250838号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
装置内配線に用いる光ファイバは、曲げ径を小径にされることから、破断に強く機械的信頼性の高いことが要求される。
【0006】
しかしながら、マルチコアファイバ素線は、複数のコア部を含むので、そのクラッド部のクラッド径が、標準的な光ファイバ素線のクラッド径である125μmよりも大きい場合がある。特に、コア部の数が7以上の場合は、クラッド径が125μmよりも大きい場合が多い。マルチコアファイバ素線などのクラッド径が大きい光ファイバ素線の場合、同じ機械的信頼性を担保するために印加すべき引張り張力が大きくなるので、引張り張力を印加するために抑えている部分の樹脂被覆部が損傷してしまい、光ファイバ素線のスクリーニングを正確に行うことができないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、クラッド径に関わらず光ファイバ素線のスクリーニングをより正確に行うことができる光ファイバ素線のスクリーニング方法およびこれを用いた光ファイバ素線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、光ファイバ素線を繰り出す繰り出し工程と、前記繰り出した光ファイバ素線に曲げ応力印加部にて曲げ応力を印加する曲げ応力印加工程と、前記曲げ応力を印加した光ファイバ素線を巻き取る巻き取り工程と、を備え、前記曲げ応力印加部は、複数のプーリーを備え、前記曲げ応力印加工程において、前記複数のプーリーの回転軸の向きをそれぞれ異ならせて、前記光ファイバ素線の側面の周方向における異なる位置に前記複数のプーリーの側面を接触させて前記曲げ応力を印加する光ファイバ素線のスクリーニング方法である。
【0009】
前記曲げ応力印加工程では、3つ以上のプーリーの回転軸の向きをそれぞれ異ならせて、前記光ファイバ素線の側面の周方向における3つ以上の異なる位置に前記3つ以上のプーリーの側面を接触させるものでもよい。
【0010】
前記光ファイバ素線は、コア部と、前記コア部を取り囲むクラッド部と、前記クラッド部を取り囲む樹脂被覆部と、を備え、前記クラッド部のクラッド径は125μmより大きく、前記曲げ応力印加工程では、クラッド径が125μmで石英系ガラスの光ファイバ素線における所定のプルーフレベルでの破断率と同等の破断率が得られるように曲げ応力を与えるものでもよい。
【0011】
前記複数のプーリーの外径は5.2mm以上12.4mm以下であるものでもよい。
【0012】
前記光ファイバ素線の側面に前記複数のプーリーのそれぞれの側面を接触させる時間は1秒以上であるものでもよい。
【0013】
本発明の一態様は、光ファイバ母材を加熱溶融して、複数のコア部と前記複数のコア部を取り囲むクラッド部とを有するマルチコアファイバを線引きする線引工程と、前記マルチコアファイバに樹脂被覆部を形成してマルチコアファイバ素線とする被覆工程と、前記マルチコアファイバ素線に、前記光ファイバ素線のスクリーニング方法を行うスクリーニング工程と、を備える光ファイバの製造方法である。
【0014】
前記マルチコアファイバ素線は、7つ以上の前記コア部を有し、前記クラッド部の外径は、135μm以上250μm以下であり、前記樹脂被覆部は、プライマリ層と前記プライマリ層を取り囲むセカンダリ層とを有し、前記プライマリ層の破断伸びが、50%以上300%以下であり、前記セカンダリ層の破断伸びは、2.5%以上50%以下であるものでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれは、クラッド径に関わらず光ファイバ素線のスクリーニングをより正確に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、光ファイバ素線の製造方法のフロー図である。
図2図2は、光ファイバの線引および被覆装置の模式図である。
図3図3は、光ファイバ素線の模式的な断面図である。
図4図4は、コアの屈折率プロファイルを一例として示す図である。
図5図5は、光ファイバ素線のスクリーニング装置の模式図である。
図6図6は、光ファイバ素線とプーリーとの位置関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付し、重複説明を適宜省略している。
【0018】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る光ファイバ素線の製造方法のフロー図である。本製造方法では、ステップS101において線引および被覆工程を行う。線引工程は、光ファイバ母材から光ファイバを線引きする工程である。被覆工程は、線引きした光ファイバに樹脂被覆層を形成する工程である。これにより、光ファイバ素線が形成される。つづいて、ステップS102において、形成した光ファイバ素線にスクリーニング工程を行う。これにより、製品となる光ファイバ素線が製造される。
【0019】
図2は、実施形態に係る光ファイバ素線の製造方法の実施に用いる光ファイバの線引および被覆装置100の模式図である。図2に示すように、光ファイバ線引炉101のヒータ101aで光ファイバ母材Pの下端を加熱して溶融し、光ファイバ1を線引きする。その後、被覆工程として、線引きされた光ファイバ1の外周に、被覆形成装置102にて樹脂被覆層を形成し、光ファイバ素線2を形成する。光ファイバ素線2は、キャプスタンローラ103によって引き取られ、ガイドロール104を介して巻取ボビン105によって巻き取られる。
【0020】
図3は、光ファイバ素線2の模式的な断面図である。光ファイバ素線2は、マルチコアファイバ素線であって、複数のコア部である7つのコア部21とコア部21を取り囲むクラッド部22とを備えるマルチコアファイバと、このマルチコアファイバを取り囲む樹脂被覆部23と、を備える。なお、コア部21の数は7つには限定されない。
【0021】
図4は、コア部の屈折率プロファイルを一例として示す図である。コア部21は、センタコアと、センタコアを取り囲む中間層と、中間層を取り囲むトレンチ層とを備えている。たとえば、センタコアのコア径は2aであり、中間層の外径は2b=2a×1.8であり、トレンチ層の外径は2c=2a×2.8である。たとえば、センタコアはゲルマニウム(Ge)を添加して屈折率を高めた石英系ガラスからなる。たとえば、中間層は、純石英ガラスからなる。純石英ガラスとは、屈折率を変化させるドーパントを実質的に含まず、波長1550nmにおける屈折率が約1.444である、きわめて高純度の石英ガラスである。たとえば、トレンチ層はフッ素(F)をドープして屈折率を低下させた石英系ガラスからなる。たとえば、クラッド部22は純石英ガラスからなる。クラッド部22の外径(クラッド径)は125μmより大きく、たとえば135μm以上であり、たとえば250μm以下である。なお、コア部の屈折率プロファイルは、図4のものに限定されない。
【0022】
樹脂被覆部23は、プライマリ層23aとプライマリ層23aを取り囲むセカンダリ層23bとを有する。樹脂被覆部23を構成する樹脂は、たとえば、紫外線硬化樹脂である。紫外線硬化樹脂は、たとえば、オリゴマー、希釈モノマー、光重合開始剤、シランカップリング剤、増感剤、滑剤等、各種の樹脂材料と添加剤とを配合したものである。オリゴマーとしては、ポリエーテル系ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、シリコーンアクリレート等、従来公知の材料を用いることができる。希釈モノマーとしては、単官能モノマー、多官能モノマー等、従来公知の材料を用いることができる。また、添加剤は、上記したものに限定されず、紫外線硬化樹脂等に対して使用される従来公知の添加剤等を広く用いることができる。
【0023】
樹脂被覆部23では、たとえば、プライマリ層23aは破断伸びが50%以上300%以下であり、セカンダリ層23bの破断伸びが2.5%以上50%以下である。
【0024】
つづいて、光ファイバ素線2のスクリーニング方法について説明する。
【0025】
図5は、光ファイバ素線のスクリーニング装置の模式図である。このスクリーニング装置200は、繰り出しボビン10と、キャプスタンローラ20と、プーリー群30、40、50と、キャプスタンローラ60と、巻取ボビン70とを備えている。プーリー群30、40、50は、曲げ応力印加部の一例である。
【0026】
繰り出しボビン10には、光ファイバ素線2が巻かれている。キャプスタンローラ20は、繰り出しボビン10に巻かれた光ファイバ素線2を繰り出し(繰り出し工程)、プーリー群30に送り出す。
【0027】
プーリー群30は、本実施形態では3つのプーリー31、32、33を備えている。プーリー31、32、33は、その側面を接触させることによって、光ファイバ素線2に曲げ応力を印加する(曲げ応力印加工程)。
【0028】
プーリー群40は、本実施形態では3つのプーリー41、42、43を備えている。プーリー41、42、43は、その側面を接触させることによって、光ファイバ素線2に曲げ応力を印加する(曲げ応力印加工程)。
【0029】
プーリー群50は、本実施形態では3つのプーリー51、52、53を備えている。プーリー51、52、53は、その側面を接触させることによって、光ファイバ素線2に曲げ応力を印加する(曲げ応力印加工程)。
【0030】
キャプスタンローラ60は、プーリー群30、40、50において曲げ応力を印加された光ファイバ素線2を引き取る。巻取ボビン70は、キャプスタンローラ60で引き取られた光ファイバ素線2を巻き取る(巻き取り工程)。
【0031】
(曲げ応力の印加によるスクリーニング)
プーリー群30、40、50を用いた曲げ応力の印加によるスクリーニングについて説明する。
【0032】
上述したように、クラッド径が大きい光ファイバ素線の場合、同じ機械的信頼性を担保するために印加すべき引張り張力が大きくなるので、引張り張力を印加するために抑えている部分の樹脂被覆部が損傷してしまい、光ファイバ素線のスクリーニングを正しく行うことができないおそれがある。
【0033】
これに対して、スクリーニング装置200では、曲げ応力を印加して曲げ歪みを与えてスクリーニングを行うことで、樹脂被覆部を強く抑えなくても曲げ歪みを与えられるので、意図しない樹脂被覆部の損傷無く、光ファイバ素線のスクリーニングをより正確に行うことができる。
【0034】
印加する曲げ応力または曲げ歪みの大きさは、プーリー群30、40、50の各プーリーの外径を調整することで調整することができる。
【0035】
ここで、光ファイバ素線のクラッド部の或る箇所に傷が在る場合、その光ファイバ素線を、その傷が在る箇所が外周側になるように曲げた時には光ファイバ素線は破断し易いが、その傷が在る箇所が内周側になるように曲げた時には光ファイバ素線は破断しにくい。
そこで、スクリーニング装置200では、上記の曲げ応力印加工程において、複数のプーリーの回転軸の向きをそれぞれ異ならせて、光ファイバ素線2の側面の周方向における異なる位置に複数のプーリーの側面を接触させて曲げ応力を印加する。これによって、光ファイバ素線2の周方向の様々な位置において、その箇所が外周側になるように曲げることができるので、より正確にスクリーニングを行うことができる。
【0036】
図5を参照して説明すると、プーリー群30のプーリー31、32、33において光ファイバ素線2の進行経路の成す平面P3の法線N3は、プーリー31、32、33のそれぞれの回転軸に平行である。同様に、プーリー群40のプーリー41、42、43において光ファイバ素線2の進行経路の成す平面P4の法線N4は、プーリー41、42、43のそれぞれの回転軸に平行である。同様に、プーリー群50のプーリー51、52、53において光ファイバ素線2の進行経路の成す平面P5の法線N5は、プーリー51、52、53のそれぞれの回転軸に平行である。この場合、たとえばプーリー群30のプーリー31、32、33の回転軸は、その他のプーリー群40、50の各プーリーとは、回転軸の向きがそれぞれ異なっている。
【0037】
図6は、光ファイバ素線とプーリーとの位置関係の一例を説明する図である。図6では、光ファイバ素線2を進行方向に見た場合に、その周方向において各プーリーが当たる位置、すなわち光ファイバ素線2が曲げられた場合に内周側となる位置を示している。
【0038】
図6に示すように、たとえば3つのプーリー31、42、51は、図中に一点鎖線で示している回転軸の向きをそれぞれ異なるように配置されており、光ファイバ素線2の側面の周方向における3つの異なる位置PO1、PO2、PO3にそれぞれの側面を接触させている。
【0039】
また、プーリー33はプーリー31と同様に光ファイバ素線2の側面の周方向における位置PO1に側面を接触させている。また、プーリー53はプーリー51と同様に光ファイバ素線2の側面の周方向における位置PO3に側面を接触させている。
【0040】
また、プーリー32はプーリー31とは異なり、光ファイバ素線2の側面の周方向における位置PO4(位置PO1と対向する位置)に側面を接触させている。また、プーリー41、43はプーリー42とは異なり、光ファイバ素線2の側面の周方向における位置PO5(位置PO2と対向する位置)に側面を接触させている。また、プーリー52はプーリー51とは異なり、光ファイバ素線2の側面の周方向における位置PO6(位置PO3と対向する位置)に側面を接触させている。
【0041】
すなわち、スクリーニング装置200では、光ファイバ素線2の側面の周方向における6つの異なる位置PO1~PO6にプーリー31~33、41~43、51~53のそれぞれの側面を接触させている。
【0042】
なお、光ファイバ素線2の側面にプーリーのそれぞれの側面を接触させる時間は1秒以上であることが好ましい。これにより、より正確にスクリーニングを行うことができる。ただし、スクリーニングによる光ファイバ素線2の疲労を考慮すると、接触させる時間は短い方がよい。
【0043】
(スクリーニングレベルの設定)
スクリーニング装置200におけるスクリーニングレベルの設定について説明する。たとえば、従来のように、光ファイバ素線に引張り張力を印加する方法では、スクリーニングのレベルとして、光ファイバ素線が一定の割合で伸長する程度の引張応力を加える場合の割合で規定する方法がある。たとえば伸長の割合が1%の場合、1%スクリーニングと呼ばれる。このようなスクリーニングに対して、光ファイバ素線は所定の破断率にて破断することが知られている。破断率は、たとえば、以下の式(1)によって導出することができる(Griffioen, W., Greven, W., Jonker, J., Zandberg, S., Kuyt, G., and Overton, B., “Reliability of bend insensitive fibers”, Proceedings of the 58th International Wire and Cable Symposium, (2009-11), pp.251-257.参照)。
【0044】
【数1】
式(1)において、各パラメータは以下の通りである。
L :ファイバ長
p0 :プルーフテスト時破断回数
:ワイブル分布係数(弱強度分布)
n :ファイバ実使用時の疲労係数
:プルーフテスト時印加時間
:ファイバ実使用時間
σ:敷設時のファイバ曲げ応力
σ:プルーフ印加応力
σp0 :スケーリング係数
【0045】
たとえば、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバでは、1%スクリーニングを行うには引張応力を100kpsiだけ印加し、2%スクリーニングを行うには引張応力を200kpsiだけ印加する。なお、1psi(重量ポンド毎平方インチ)は6894.76Pa(パスカル)である。
【0046】
従来の方法では、クラッド径が125μmとは異なる石英系ガラスの光ファイバに対して、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバに100kpsiの引張応力でスクリーニングを行ったときと同じ機械的信頼性を担保するには、以下のように行っていた。すなわち、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバに100kpsiの引張応力でスクリーニングを行ったときの破断率と同等の破断率が得られるように、クラッド径が125μmとは異なる石英系ガラスの光ファイバに引張応力を印加して、スクリーニングを行っていた。
【0047】
一方、スクリーニング装置200においては、クラッド径が125μmとは異なる石英系ガラスの光ファイバに対して、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバに100kpsiの引張応力でスクリーニングを行ったときと同じ機械的信頼性を担保するには、以下のように行えばよい。すなわち、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバに、100kpsiの引張応力でスクリーニングを行ったときの破断率と同等の破断率が得られるように、クラッド径が125μmとは異なる石英系ガラスの光ファイバに曲げ応力を印加して、スクリーニングを行えばよい。1%スクリーニング(100kpsiの引張応力でのスクリーニング)は、所定のプルーフレベルの一例である。
【0048】
以下では、図2、3に示す光ファイバ素線2の様々なクラッド径におけるスクリーニング条件の例について説明する。
【0049】
(クラッド径が150μm、敷設時曲げ半径が10mmの例)
図2、3に示す光ファイバ素線2のクラッド径が150μmの場合は、引張応力を印加して、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバに100kpsiの引張応力でスクリーニングを行ったときの破断率と同じ破断率が得られるようにするには、引張応力を180kpsiも印加しなければならない。
【0050】
これに対して、スクリーニング装置200においては、光ファイバ素線2のクラッド径が150μmの場合は、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を8.8mmとしてプーリーで曲げ応力を印加すれば、180kpsiの引張応力を印加してスクリーニングを行った場合と同等のスクリーニングを行うことができる。
【0051】
比較例として、図2、3に示す構造でクラッド径が150μmの光ファイバ素線を製造し、従来のスクリーニング装置を用いて、引張応力を180kpsi印加するスクリーニングを1000kmの長さにわたって行ったところ、樹脂被覆部の損傷による破断が発生した。
【0052】
一方実施例1として、図2、3に示す構造でクラッド径が150μmの光ファイバ素線2を製造し、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を8.8mmとして曲げ応力を印加するスクリーニング装置200を用いてスクリーニングを1000kmの長さにわたって行ったところ、破断が発生せず、機械的信頼性が担保されることを確認できた。
【0053】
(クラッド径が200μm、敷設時曲げ半径が10mmの例)
光ファイバ素線2のクラッド径が200μmの場合は、引張応力を印加して、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバに100kpsiの引張応力でスクリーニングを行ったときの破断率と同じ破断率が得られるようにするには、引張応力を220kpsiも印加しなければならない。
【0054】
これに対して、スクリーニング装置200においては、光ファイバ素線2のクラッド径が200μmの場合は、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を9.6mmとしてプーリーで曲げ応力を印加すれば、220kpsiの引張応力を印加してスクリーニングを行った場合と同等のスクリーニングを行うことができる。
【0055】
実施例2として、図2、3に示す構造でクラッド径が200μmの光ファイバ素線を製造し、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を9.6mmとして曲げ応力を印加するスクリーニング装置200を用いてスクリーニングを1000kmの長さにわたって行ったところ、破断が発生せず、機械的信頼性が担保されることを確認できた。
【0056】
(クラッド径が250μm、敷設時曲げ半径が10mmの例)
光ファイバ素線2のクラッド径が250μmの場合は、引張応力を印加して、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバに100kpsiの引張応力でスクリーニングを行ったときの破断率と同じ破断率が得られるようにするには、引張応力を341kpsi印加しなければならない。
【0057】
これに対して、スクリーニング装置200においては、光ファイバ素線2のクラッド径が250μmの場合は、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を7.7mmとしてプーリーで曲げ応力を印加すれば、341kpsiの引張応力を印加してスクリーニングを行った場合と同等のスクリーニングを行うことができる。
【0058】
実施例3として、図2、3に示す構造でクラッド径が250μmの光ファイバ素線を製造し、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を7.7mmとして曲げ応力を印加するスクリーニング装置200を用いてスクリーニングを1000kmの長さにわたって行ったところ、破断が発生せず、機械的信頼性が担保されることを確認できた。
【0059】
(クラッド径が150μm、敷設時曲げ半径が20mmの例)
光ファイバ素線2のクラッド径が150μmの場合は、引張応力を印加して、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバに100kpsiの引張応力でスクリーニングを行ったときの破断率と同じ破断率が得られるようにするには、引張応力を150kpsiも印加しなければならない。
【0060】
これに対して、スクリーニング装置200においては、光ファイバ素線2のクラッド径が150μmの場合は、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を10.5mmとしてプーリーで曲げ応力を印加すれば、150kpsiの引張応力を印加してスクリーニングを行った場合と同等のスクリーニングを行うことができる。
【0061】
実施例4として、図2、3に示す構造でクラッド径が150μmの光ファイバ素線を製造し、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を10.5mmとして曲げ応力を印加するスクリーニング装置200を用いてスクリーニングを1000kmの長さにわたって行ったところ、破断が発生せず、機械的信頼性が担保されることを確認できた。
【0062】
(クラッド径が200μm、敷設時曲げ半径が20mmの例)
光ファイバ素線2のクラッド径が200μmの場合は、引張応力を印加して、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバに100kpsiの引張応力でスクリーニングを行ったときの破断率と同じ破断率が得られるようにするには、引張応力を170kpsiも印加しなければならない。
【0063】
これに対して、スクリーニング装置200においては、光ファイバ素線2のクラッド径が200μmの場合は、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を12.4mmとしてプーリーで曲げ応力を印加すれば、170kpsiの引張応力を印加してスクリーニングを行った場合と同等のスクリーニングを行うことができる。
【0064】
実施例5として、図2、3に示す構造でクラッド径が200μmの光ファイバ素線を製造し、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を12.4mmとして曲げ応力を印加するスクリーニング装置200を用いてスクリーニングを1000kmの長さにわたって行ったところ、破断が発生せず、機械的信頼性が担保されることを確認できた。
【0065】
(クラッド径が250μm、敷設時曲げ半径が20mmの例)
光ファイバ素線2のクラッド径が250μmの場合は、引張応力を印加して、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバに100kpsiの引張応力でスクリーニングを行ったときの破断率と同じ破断率が得られるようにするには、引張応力を251kpsiも印加しなければならない。
【0066】
これに対して、スクリーニング装置200においては、光ファイバ素線2のクラッド径が250μmの場合は、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を10.5mmとしてプーリーで曲げ応力を印加すれば、251kpsiの引張応力を印加してスクリーニングを行った場合と同等のスクリーニングを行うことができる。
【0067】
実施例6として、図2、3に示す構造でクラッド径が250μmの光ファイバ素線を製造し、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を10.5mmとして曲げ応力を印加するスクリーニング装置200を用いてスクリーニングを1000kmの長さにわたって行ったところ、破断が発生せず、機械的信頼性が担保されることを確認できた。
【0068】
(クラッド径が135μm、敷設時曲げ半径が10mmの例)
光ファイバ素線2のクラッド径が135μmの場合は、引張応力を印加して、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバに200kpsiの引張応力でスクリーニングを行ったときの破断率と同じ破断率が得られるようにするには、引張応力を220kpsiも印加しなければならない。
【0069】
これに対して、スクリーニング装置200においては、光ファイバ素線2のクラッド径が135μmの場合は、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を6.5mmとしてプーリーで曲げ応力を印加すれば、220kpsiの引張応力を印加して行った場合と同等のスクリーニングを行うことができる。
【0070】
実施例7として、図2、3に示す構造でクラッド径が135μmの光ファイバ素線を製造し、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を6.5mmとして曲げ応力を印加するスクリーニング装置200を用いてスクリーニングを1000kmの長さにわたって行ったところ、破断が発生せず、機械的信頼性が担保されることを確認できた。
【0071】
(クラッド径が150μm、敷設時曲げ半径が10mmの例)
光ファイバ素線2のクラッド径が150μmの場合は、引張応力を印加して、クラッド径が125μmの石英系ガラスの光ファイバに200kpsiの引張応力でスクリーニングを行ったときの破断率と同じ破断率が得られるようにするには、引張応力を301kpsiも印加しなければならない。
【0072】
これに対して、スクリーニング装置200においては、光ファイバ素線2のクラッド径が150μmの場合は、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を5.2mmとしてプーリーで曲げ応力を印加すれば、301kpsiの引張応力を印加してスクリーニングを行った場合と同等のスクリーニングを行うことができる。
【0073】
実施例8として、図2、3に示す構造でクラッド径が150μmの光ファイバ素線を製造し、プーリー31~33、41~43、51~53の外径を5.2mmとして曲げ応力を印加するスクリーニング装置200を用いてスクリーニングを1000kmの長さにわたって行ったところ、破断が発生せず、機械的信頼性が担保されることを確認できた。
【0074】
なお、上記実施形態および実施例では、スクリーニング装置200を用いたスクリーニングは、クラッド径が125μmより大きい光ファイバ素線に対して実施しているが、クラッド径が125μm以下の光ファイバ素線に対して実施してもよい。
【0075】
また、上記実施形態および実施例では、光ファイバ素線2の側面の周方向における6つの位置にプーリーの側面を接触させているが、接触させる位置は2以上であればよい。
【0076】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 :光ファイバ
2 :光ファイバ素線
10 :繰り出しボビン
20、60:キャプスタンローラ
21 :コア部
22 :クラッド部
23 :樹脂被覆部
23a :プライマリ層
23b :セカンダリ層
30、40、50:プーリー群
31、32、33、41、42、43、51、52、53:プーリー
70、105 :巻取ボビン
100 :線引および被覆装置
101 :光ファイバ線引炉
101a :ヒータ
102 :被覆形成装置
103 :キャプスタンローラ
104 :ガイドロール
200 :スクリーニング装置
N3、N4、N5:法線
P :光ファイバ母材
P3、P4、P5:平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6