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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146838
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】津波抑制装置及び津波抑制方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
E02B3/06 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054244
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】東 克彦
(72)【発明者】
【氏名】堤 英伸
(72)【発明者】
【氏名】中尾 允哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博善
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA11
2D118AA12
2D118BA03
2D118BA07
2D118BA15
2D118JA05
2D118JA11
2D118JA17
(57)【要約】
【課題】筒体を簡易に膨張させられるようにすることを目的とする。
【解決手段】津波抑制装置10は、収縮した状態の柔軟な筒体20と、前記筒体20の内部空間又は前記筒体20の前記内部空間と連通する空間に保管され、化学反応によって気体を発生可能な固体又は液体の反応物質51と、前記反応物質51に前記化学反応を起こさせる反応発生部60とを含み、前記反応物質51の前記化学反応によって発生した前記気体による圧力で前記筒体20を膨張及び起立させる筒体膨張部50と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収縮した状態の柔軟な筒体と、
前記筒体の内部空間又は前記筒体の前記内部空間と連通する空間に保管され、化学反応によって気体を発生可能な固体又は液体の反応物質と、前記反応物質に前記化学反応を起こさせる反応発生部とを含み、前記反応物質の前記化学反応によって発生した前記気体による圧力で前記筒体を膨張及び起立させる筒体膨張部と、
を備える、津波抑制装置。
【請求項2】
請求項1に記載の津波抑制装置であって、
前記反応物質は、第1反応物質と、前記第1反応物質と混ざることによって前記化学反応を起こす第2反応物質とを有する、津波抑制装置。
【請求項3】
請求項2に記載の津波抑制装置であって、
前記第1反応物質が弱酸の塩であり、かつ、前記第2反応物質が前記弱酸よりも強い酸であるか、
又は、
前記第1反応物質が弱塩基の塩であり、かつ、前記第2反応物質が前記弱塩基よりも強い塩基である、津波抑制装置。
【請求項4】
請求項3に記載の津波抑制装置であって、
前記第1反応物質が炭酸又は重炭酸の塩であり、前記第2反応物質が前記炭酸又は重炭酸よりも強い有機酸であり、前記化学反応によって生じる前記気体が二酸化炭素である、津波抑制装置。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の津波抑制装置であって、
前記第1反応物質及び前記第2反応物質はいずれも固体であり、
前記反応発生部は、水を前記第1反応物質及び前記第2反応物質の保管された空間に引き込む配管を有し、
前記第1反応物質及び前記第2反応物質が前記配管から引き込まれた水に溶けることによって、前記化学反応が起こる、津波抑制装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の津波抑制装置であって、
前記筒体の一端部を支持する支持部材をさらに備え、
前記筒体のうち前記支持部材に支持された部分よりも他端部側の部分が、反転されることなくつづら折りされている、津波抑制装置。
【請求項7】
収縮した状態の筒体を津波の襲来が予測される地点に予め配置し、
津波の襲来が予測される異常時に、反応物質の化学反応によって気体を生じさせ、
前記気体によって前記筒体を膨張及び起立させる、津波抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、津波抑制装置及び津波抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、扁平に折り畳んだ筒体が収納された圧力容器を海底に埋設しておき、津波襲来時に筒体の近くに配置された空気ボンベから筒体に空気を圧入して筒体を起立させる津波抑制方法及び装置を開示している。津波が予想される異常時には当該筒体内に空気を圧入して海面に向かって起立させ、このようにして起立した筒体が撓むことにより、津波のエネルギーを軽減し、津波の被害を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-124025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の津波抑制方法及び装置では、圧力容器内に空気を圧入するため、圧力容器の数に応じた圧入装置が必要であり、構成が複雑で設置コストも大きくなる。このため、筒体を簡易に膨張させることが要請される。
【0005】
そこで、本開示は、筒体を簡易に膨張させられるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、津波抑制装置は、収縮した状態の柔軟な筒体と、前記筒体の内部空間又は前記筒体の前記内部空間と連通する空間に保管され、化学反応によって気体を発生可能な固体又は液体の反応物質と、前記反応物質に前記化学反応を起こさせる反応発生部とを含み、前記反応物質の前記化学反応によって発生した前記気体による圧力で前記筒体を膨張及び起立させる筒体膨張部と、を備える、津波抑制装置である。
【0007】
また津波抑制方法は、収縮した状態の筒体を津波の襲来が予測される地点に予め配置し、津波の襲来が予測される異常時に、反応物質の化学反応によって気体を生じさせ、前記気体によって前記筒体を膨張及び起立させる、津波抑制方法である。
【発明の効果】
【0008】
この津波抑制装置及び津波抑制方法によると、筒体を簡易に膨張させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る津波抑制装置を示す正面図である。
図2】筒体の端部、筐体、及び支持部材の位置関係を示す図である。
図3】津波抑制装置を示す断面図である。
図4】津波抑制装置が作動した様子を示す図である。
図5】第1反応物質及び第2反応物質の組み合わせの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に係る津波抑制装置及び津波抑制方法について説明する。
【0011】
<津波抑制装置>
図1は、実施形態に係る津波抑制装置10を示す正面図である。図2は、筒体20の端部、筐体40、及び支持部材30の位置関係を示す図である。図2は、上から見た図である。図3は、津波抑制装置を示す断面図である。図3図2のIII-III線に沿った位置での断面図である。図4は、津波抑制装置10が作動した様子を示す図である。
【0012】
ここでは、津波抑制装置10が海底90に設置される例で説明する。津波抑制装置10は、陸上に設置されてもよい。津波抑制装置10は、筒体20と支持部材30と筐体40と筒体膨張部50とを備える。
【0013】
筒体20は、内部空間の流体の量に応じて膨張収縮可能に形成されている。筒体20は、平時は、収縮した状態とされる。筒体20は、津波94の襲来が予測される異常時に膨張して、津波94を抑制する。筒体20は、例えば、膨張時に円筒状の形状となり、収縮時に内面同士が接する扁平な形状となる。
【0014】
例えば、筒体20は、筒状織布と皮膜とを有する複合物であってもよい。筒状織布は、環状に配置されたたて糸と、当該たて糸群に対して螺旋状に織り込まれたよこ糸とによって、筒状に織成される。筒状織布は、筒体20の強度を保つ部分である。皮膜は筒状織布の内面又は両面に設けられ、ここでは内面に設けられている。この皮膜は、筒体20の内外を気密状に仕切る部分である。皮膜は、例えば、柔軟なゴム又は合成樹脂によって形成される。例えば、皮膜は、ウレタンチューブなどであってもよい。
【0015】
筒体20の大きさは、特に限定されるものではなく、適宜設定可能である。例えば、筒体20の直径は0.6mから5m程度であってもよく、好ましくは1mから2mであってもよい。筒体20が設置される水深によっても異なるが、10mから50m程度の水深では、筒体20の直径が0.6m以上あることによって、筒体20に波力が作用しても、筒体20が折れにくくなる。また、筒体20の直径が5m以下であることによって、柔軟性を有し、且つ耐圧力を確保できる筒体20の製造が容易となる。また、ここでは収縮状態の筒体20が筐体40内に収容される。筒体20の直径が5m以下であることによって、筒体20が小さく畳まれやすくなり、筐体40サイズも小さくできる。
【0016】
筒体20は、津波94が作用したときにそのエネルギーを減衰させることが可能な撓み量を保持する。筒体20の撓み量は、片持ち梁に荷重が作用したときの式から、筒体20の曲げ剛性EIに反比例する。曲げ剛性EIは、筒体20の内圧及び直径と正の相関関係を有する。このため、筒体20の内圧及び直径の数値を適宜設定して曲げ剛性EIを高くすることによって、津波94のエネルギーを減衰させることが可能な撓み量を保持できる筒体20を得ることができる。
【0017】
支持部材30は、筒体20の一端部21を支持する。筒体20の一端部21が支持部材30に支持されることによって、筒体20の膨張する方向が規制される。ここでは支持部材30は、円環パイプ30である。支持部材30は円環パイプ30以外の部材であってもよい。円環パイプ30は、筒体20の一端部21において、筒体20の外周を覆う。円環パイプ30の内径は、筒体20の外径と同程度とされてもよい。筒体20の軸方向と、円環パイプ30の軸方向とが沿うように、筒体20の一端部21が円環パイプ30の内部に収まっている。筒体20のうち円環パイプ30に支持される部分よりも他端部23側の部分は、円環パイプ30から延び出ている。筒体20のうち円環パイプ30から延び出た部分は、収縮した状態で畳まれている。ここでは、筒体20のうち円環パイプ30に支持された部分よりも他端部23側の部分が、生地の裏表が反転されることなく、つづら折りされている。このつづら折り部分22が円環パイプ30上に載置されている。筒体20の他端部23は縛られるなどして閉塞されて、つづら折り部分22の一番上に重なっている。筒体20のうち円環パイプ30から延び出た部分は、特につづら折りでの載置に限定されるものではなく、例えば扁平に折り畳んだ状態でコイル状に巻回して円環パイプ30上に載置してもよい。
【0018】
筒体20の一端部21は縛られるなどして閉塞されている。筒体20の一端部21における閉塞部は円環パイプ30内に位置する。筒体20の一端部21のうち円環パイプ30内に位置する部分であって閉塞部よりも他端側の部分が、円環パイプ30に支持されている。ここでは、固定部材32が筒体20と円環パイプ30とを挟んで支持している。固定部材32は、筒体20の内面を押える内側押え部材33と、円環パイプ30の外面を押える外側押え部材34と、内側押え部材33と外側押え部材34とを連結する連結部材35とを含む。筒体20と円環パイプ30とは、内側押え部材33と外側押え部材34とによって、径方向に挟まれている。例えば、筒体20の一端部21が閉塞されていない状態で筒体20と円環パイプ30とが固定部材32によって挟まれた後、筒体20の一端部21が閉塞されてもよい。連結部材35は筒体20と円環パイプ30とを貫通していてもよい。
【0019】
固定部材32は円環パイプ30の周方向に沿って複数箇所に設けられているとよい。ここでは、円環パイプ30の周方向に沿って180度離れた2箇所に固定部材32が設けられている。ここでは2箇所の固定部材32を結ぶ方向(図2の左右方向)に沿って、筒体20が交互に折り返されてつづら折りされている。2つの固定部材32は円環パイプ30の軸方向に互いに離れている。
【0020】
また内側押え部材33と筒体20との間に、湾曲面を有する介在部材36が介在している。湾曲面は、筒体20の内面に接している。湾曲面の曲率半径は、筒体20の内面の曲率半径と同程度の曲率半径を有する。介在部材36が設けられることによって、筒体20が収縮した状態でも、筒体20のうち固定部材32に保持される部分が、環状を保つことができる。
【0021】
筐体40は、本体41と蓋体42とを含む。本体41は、少なくとも一面が開口した直方体箱状に形成されている。本体41の内部に円環パイプ30及び収縮した状態の筒体20が収容されている。円環パイプ30及び筒体20の一端部21は本体41の底面上に支持されている。円環パイプ30の軸方向と直交する本体41の断面が長方形状を呈している。当該長方形の短辺の長さは、円環パイプ30の外径の直径と同程度とされる。固定部材32は、短辺に位置する。ここでは固定部材32の外側押え部材34は筐体40の本体41も併せて押さえている。本体41の長方形の長辺の長さは、円環パイプ30の外径の直径よりも長く、円環パイプ30の内面の半周と同程度とされる。長辺の長さは、内面同士が接するように筒体20が扁平に畳まれた時の筒体20の幅寸法と同程度とされる。筒体20のつづら折り部は、幅方向に沿った端部が長辺に沿って延びつつ、短辺に対向する部分で折り返される。
【0022】
蓋体42は、筐体40の開口を覆う。蓋体42は、平時に筐体40の開口を覆った状態を維持しつつ、筒体20の膨張時に膨張した筒体20に押されて筐体40の開口を開放可能に留められている。例えば、蓋体42は、図4に示すように、筐体40の開口周縁部にヒンジを介して連結された一対の蓋片を含んでもよい。図4に示す例では、各蓋片は、筐体40と連結される部分と反対側で相手の蓋片と突き合わされており、観音開き構造のようになっている。一対の蓋片の突き合う部分が、平時に筐体40の開口を覆った状態を維持しつつ、筒体20の膨張時に膨張した筒体20に押されて筐体40の開口を開放可能な力で留められている。一対の蓋片は、留め具によって留められていてもよい。このほか、例えば、蓋体42は、筒体20の膨張時に膨張した筒体20に押されて裂けるように構成されていてもよい。
【0023】
筐体40は、海底90に固定される。海底90への筐体40の固定態様は特に限定されるものではなく、適宜設定可能である。例えば、筐体40は、アンカーによって海底90に固定されてもよいし、コンクリートによって埋められるなどして固定されてもよい。筐体40の下部は、海底90に埋まっていてもよい。筐体40は、海底90に埋まっていなくてもよい。本実施形態では、筒体膨張部50で発生した気体が筐体40内部に満ちることはなく、筐体40内部の内圧が当該気体によって高まることはない。従って、筐体40は、圧力容器である必要は無く、水圧に耐えられる程度の剛性を有していればよい。津波抑制装置10が海底90に設置される場合、筐体40内部に海水が満ちてもよい。もっとも、筐体40は、圧力容器であってもよく、津波抑制装置10が海底90に設置される場合、筐体40内部に海水が浸入しないように構成されていてもよい。
【0024】
筒体膨張部50は、収縮した筒体20を膨張させる部分である。筒体膨張部50は、反応物質51と反応発生部60とを含む。筒体膨張部50は、反応発生部60によって反応物質51に化学反応を発生させ、当該化学反応によって生じた気体によって筒体20を膨張させる。
【0025】
反応物質51は、筒体20の内部空間又は筒体20の内部空間と連通する空間に保管される。ここでは反応物質51は、筒体20の内部空間に保管されている。ここでは筒体20の外面に円環パイプ30が設けられることによって、筒体20が収縮した状態でも反応物質51の保管される空間が確保されやすい。反応物質51は、円環パイプ30内に位置する筒体20の一端部21の内部空間に保管されている。反応物質51は、化学反応によって気体を発生可能である。反応物質51は、固体又は液体である。
【0026】
化学反応は、気体が発生するものであればよく、例えば、酸塩基反応又は酸化還元反応である。化学反応は、反応物質51を構成する複数の物質の混合によって生じるものであってもよいし、反応物質51の加熱によって生じるものであってもよく、反応物質51に電気が流れることによって生じるものであってもよい。
【0027】
ここでは、反応物質51は、複数の物質で構成され、第1反応物質51Aと第2反応物質51Bとを有する。第1反応物質51Aと第2反応物質51Bとは別に保管されており、第1反応物質51Aと第2反応物質51Bとが混合することによって化学反応が生じる。ここで、第1反応物質51Aと第2反応物質51Bとが別に保管されているとは、平時に化学反応を起こさないように保管されていることを言う。例えば、第1反応物質51Aと第2反応物質51Bとが共に固体であり、第1反応物質51Aの固体と第2反応物質51Bの固体とが混ざっても化学反応を起こさない場合は、第1反応物質51Aの固体と第2反応物質51Bの固体とが混ざっている状態も、第1反応物質51Aと第2反応物質51Bとが別に保管されている状態に含む。
【0028】
ここでは、第1反応物質51A及び第2反応物質51Bはいずれも固体である。これにより、反応物質51が液体である場合と比べて、化学反応が起きるまでの保管が容易となる。なお、第1反応物質51Aと第2反応物質51Bとは、互いに仕切られた別々の空間に保管されていてもよいし、互いに仕切られていない1つの空間に保管されていてもよい。
【0029】
また、第1反応物質51A及び第2反応物質51Bが固体の場合、いずれも水に溶けることが可能であることが好ましい。これにより、水に溶けて水溶液となった状態で、第1反応物質51A及び第2反応物質51Bが化学反応を起こすことができる。この場合、図4に示すように、筒体20の内部には、反応後の水溶液52が残る。
【0030】
図5を参照しつつ、第1反応物質51A及び第2反応物質51Bの組み合わせの例について説明する。図5は、第1反応物質51A及び第2反応物質51Bの組み合わせの例を示す図である。
【0031】
例えば、第1反応物質51Aが弱酸の塩であり、かつ、第2反応物質51Bが第1反応物質51Aに用いられる弱酸よりも強い酸であるか、又は、第1反応物質51Aが弱塩基の塩であり、かつ、第2反応物質51Bが第1反応物質51Aに用いられる弱塩基よりも強い塩基であることが考えられる。これにより、酸塩基反応を用いた化学反応を起こすことができる。これにより、反応物質51を加熱したり、反応物質51に電流を流したりせずに、化学反応を起こしやすい。なお、酸及び塩基の強弱は、水に溶解した際の、電離度の大小を表している。前記の第1反応物質51Aと第2反応物質51Bの場合、第1反応物質51Aの酸は第2反応物質51Bの酸よりも電離度が小さいことを示す。
【0032】
第1反応物質51Aが弱酸の塩であり、かつ、第2反応物質51Bが第1反応物質51Aに用いられる弱酸よりも強い酸である場合として、例えば、弱酸の塩が、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩であり、強酸が塩酸、硫酸、及び有機酸などであることが考えられる。この場合、発生する気体は、二酸化炭素である。
【0033】
また例えば、弱酸の塩が、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸カルシウム、重炭酸マグネシウムなどの重炭酸塩などであり、強酸が塩酸、硫酸、及び有機酸などであることが考えられる。この場合も、発生する気体は、二酸化炭素である。
【0034】
また例えば、弱酸の塩が、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどであり、強酸が、塩酸、硫酸、硝酸及び有機酸などであることが考えられる。この場合、発生する気体は、二酸化硫黄である。
【0035】
また第1反応物質51Aが弱塩基の塩であり、かつ、第2反応物質51Bが第1反応物質51Aに用いられる弱塩基よりも強い塩基である場合として、例えば、弱塩基の塩が、塩化アンモニウムであり、強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどであることが考えられる。この場合、発生する気体は、アンモニアである。
【0036】
なお、上記の有機酸としては、酢酸、シュウ酸、クエン酸、マロン酸、ギ酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、ソルビン酸、グルコン酸などを用いることができる。
【0037】
第1反応物質51Aが炭酸塩又は重炭酸塩などの炭酸の塩であり、第2反応物質51Bが炭酸よりも強い有機酸であり、化学反応によって生じる気体が二酸化炭素であることが好ましい。第1反応物質51Aが炭酸塩又は重炭酸塩などの炭酸の塩であり、第2反応物質51Bが炭酸よりも強い有機酸であると、第1反応物質51A及び第2反応物質51Bを固体で用意しやすい。また、化学反応によって生じる気体が二酸化炭素であると、津波抑制装置10の使用後の後処理も容易である。
【0038】
例えば、第1反応物質51Aが重炭酸ナトリウム(NaHCO)であり、第2反応物質51Bがクエン酸(CO(COOH))の場合、その化学反応式は以下の通りである。この化学反応の場合、クエン酸ナトリウム(NaO(COO))と、水と、二酸化炭素が生じる。この化学反応によって生じた二酸化炭素が筒体20を膨張させる。また、この化学反応で生じたクエン酸ナトリウム水溶液52が、反応物質51が保管されていた空間(ここでは筒体20の一端部21の内部空間)に残る。
【0039】
化学反応式:
3NaHCO + CO(COOH)
→ NaO(COO) + 3CO + 3H
【0040】
反応発生部60は、反応物質51に化学反応を起こさせる部分である。反応発生部60は、反応物質51の種類及び化学反応の種類に応じて設定される。ここでは、反応発生部60は、第1反応物質51Aと第2反応物質51Bとを化学反応が起きるように混合することが可能に設けられる。具体的には、反応発生部60は、配管61を有する。配管61は、第1反応物質51A及び第2反応物質51Bの保管された空間に水を引き込む。第1反応物質51A及び第2反応物質51Bが配管61から引き込まれた水に溶けることによって、化学反応が起こる。
【0041】
ここでは、固定部材32の位置に配管61が設けられている。2つの固定部材32の位置にそれぞれ配管61が設けられる。各配管61の一端部が固定部材32を介して、筒体20の内部空間と連通している。配管61を通じて直接筒体20の内部空間に流体を引き込むことができる。また配管61を通じて筒体20の内部から流体を抜くことができる。また、一方の配管61の他端部には、電磁弁62が設けられている。電磁弁62が開くことによって、津波抑制装置10の周囲の海水が配管61を通じて、筒体20の内部空間に引き込まれる。
【0042】
またここでは他方の配管61にはリリーフ弁63が設けられている。これにより、化学反応によって生じた気体によって、筒体20の内圧が規定の値よりも高くなった場合に、リリーフ弁63を通じて気体の一部を逃がすことができる。これにより、筒体20の内圧が高まりすぎることを抑制でき、膨張した筒体20が適度な弾性を有する状態を保つことができる。なお、ここでは、一方の配管61及び他方の配管61は、円環パイプ30から円環パイプ30の軸方向に沿って互いに逆向きに延びるL字状の配管部分を有している。
【0043】
津波抑制装置10が海底90に設置される場合、反応発生部60は陸上などから遠隔操作可能に構成されると良い。ここでは、反応発生部60は海底90に設置された電磁弁62などの電気機器から陸上まで延びるケーブル64を有する。当該ケーブル64を介して、電磁弁62などの電気機器を陸上などから遠隔操作可能である。
【0044】
津波抑制装置10は、水中以外の位置に配置されることもあり得る。このような場合、反応発生部60は、ポンプによって水を筒体20の内部に引き込んでもよい。また、筒体20の内部に水を引き込む配管61には逆止弁が設けられていてもよい。これにより、配管61を通じて水等の逆流が抑制される。
【0045】
<津波抑制方法>
次に本開示の津波抑制方法について説明する。本開示の津波抑制方法は、収縮した状態の筒体20を津波94の襲来が予測される地点に予め配置し、津波94の襲来が予測される異常時に、反応物質51の化学反応によって気体を生じさせ、気体によって筒体20を膨張させるものである。これについて、上記津波抑制装置10を用いた例で説明する。
【0046】
まず、収縮した状態の筒体20を津波94の襲来が予測される地点に予め配置する。ここでは、津波抑制装置10を予め海底90などに設置しておくことによって、筒体20を設置する。
【0047】
津波抑制装置10は、海岸線に沿って1列又は複数列配置される。津波抑制装置10が海岸線に沿って複数列配置される場合、その列数は任意であり、例えば、津波94から特に保護したい範囲(津波94から特に保護したい施設の数、大きさ等)に応じて適宜設定される。津波抑制装置10が海岸線に沿って複数列配置される場合、その間隔は任意であるが、例えば、筒体20の径の1倍から5倍程度であってもよく、1倍から3倍程度であってもよい。また、津波抑制装置10は、海岸線と交差する方向、つまり、通常の波の進行方向に沿って、1段又は複数段配置される。津波抑制装置10が海岸線と交差する方向に沿って複数段配置される場合、その段数は任意であるが、例えば、3段から20段であってもよく、5段から10段であってもよい。津波抑制装置10が海岸線と交差する方向に沿って複数段配置される場合、その間隔は任意であるが、例えば、筒体20の径の1倍から10倍程度であってもよく、1倍から5倍程度であってもよい。津波抑制装置10が設置される位置の水深も任意であるが、例えば、10mから50m程度であってもよい。
【0048】
次に津波94の襲来が予測される異常時に、反応物質51の化学反応によって気体を生じさせ、気体によって筒体20を膨張させる。例えば、津波警報が発令され、津波94の襲来が予測されるような場合には、陸上から遠隔操作により電磁弁62を作動させて、配管61を通じて筒体20内に海水を導入する。筒体20内の第1反応物質51A及び第2反応物質51Bがこの海水に溶けることによって、第1反応物質51A及び第2反応物質51Bの化学反応が起き、気体が生じる。例えば、いずれも固体の重炭酸ナトリウムとクエン酸とが海水に溶けることによって、これらが反応し、二酸化炭素が生じる。
【0049】
化学反応が進んで、発生した気体の量が多くなるにつれて、筒体20の内圧が高まり、筒体20が膨張していく。筒体20が膨張していくと、つづら折りされていた筒体20が展開していき、やがて、筒体20の先端が蓋体42を押しあけて筐体40の外に延び出て、海水中に進出する。そして、筒体20が完全に膨張すると、図4に示すように、筒体20の先端が海面92より上に突出する。このときの筒体20の内圧は、海面92付近において0.05MPaから1MPaであってもよく、0.1MPaから1MPaであってもよい。
【0050】
例えば、第1反応物質51Aが上記重炭酸ナトリウムであり、第2反応物質51Bが上記クエン酸の場合、酸塩基反応が起きて、二酸化炭素が発生する。このとき、筒体20の径が1.5m、長さが15mの場合に、235kgの重炭酸ナトリウム及びクエン酸を用いることによって、内圧を0.25MPa程度とすることができる。なお、このとき、反応物質51を溶かすのに必要な海水は、1.5m程度である。また、このとき、重炭酸ナトリウムの大きさ、及び、クエン酸の大きさは、それぞれ0.3m程度である。
【0051】
この状態で図4の左方から津波94が押し寄せてくると、棒状になった筒体20は津波94に押し流され、図4の仮想線に示されるように津波94の進行方向に大きく撓む。この筒体20が撓むときの弾力によって、津波94のエネルギーを吸収することができる。このとき、津波抑制装置10が津波94の進行方向に沿って複数段設けられていると、津波94の進行方向に沿って最も津波94に近い第1段目の筒体20は津波94によって大きく撓められるものの、これによって津波94のエネルギーが吸収されて津波94が弱まる。この弱まった津波94により第2段目の筒体20が撓められるので、その撓められる程度は第1段目の筒体20よりも少なくなる。同様にして各段の筒体20が撓むによって津波94のエネルギーが吸収されてはさらに弱められ、津波94の威力は軽減される。
【0052】
<効果等>
このように構成された津波抑制装置10によると、筒体20の内部空間又は筒体20の内部空間と連通する空間に保管された反応物質51の化学反応で発生した気体による圧力で筒体20が膨張するため、筒体20を容易に膨張させることができる。そして、膨張した筒体20が撓むことにより津波94のエネルギーが吸収されるため、津波94の威力が軽減される。また筒体20は津波94によって撓められるため、鋼鉄やコンクリートの防波堤のような剛性によって津波94を遮るのとは異なり、津波94により破壊されにくい。また、津波94の襲来により内陸部で発生するがれき等の漂流物を沖合に流出することを防ぐ役割も筒体20には期待される。
【0053】
また、反応物質51は、第1反応物質51Aと、第1反応物質51Aと混ざることによって化学反応を起こす第2反応物質51Bとを有する。これにより、気体の発生する化学反応を簡易に起こすことができる。また、単位時間当たりに多くの気体を発生させやすくなり、津波94の到来までの短時間に筒体20をしっかりと膨張させやすい。
【0054】
また、第1反応物質51Aが弱酸の塩であり、かつ、第2反応物質51Bが前記弱酸よりも強い酸であるか、又は、第1反応物質51Aが弱塩基の塩であり、かつ、第2反応物質51Bが前記弱塩基よりも強い塩基である。これにより、酸塩基反応によって気体を発生させることができる。
【0055】
第1反応物質51Aが炭酸又は重炭酸の塩であり、第2反応物質51Bが炭酸又は重炭酸よりも強い有機酸であり、化学反応によって生じる気体が二酸化炭素である。これにより、化学反応によって発生する気体が二酸化炭素であるため、使用後の処理も容易となる。
【0056】
また、第1反応物質51A及び第2反応物質51Bはいずれも固体であり、反応発生部60は、水を第1反応物質51A及び第2反応物質51Bの保管された空間に引き込む配管61を有し、第1反応物質51A及び第2反応物質51Bが配管61から引き込まれた水に溶けることによって、化学反応が起こる。これにより、第1反応物質51A及び第2反応物質51Bの保管が容易となる。また、水を利用して簡易に化学反応を起こすことができる。
【0057】
また、筒体20の一端部21を支持する支持部材30をさらに備え、筒体20のうち支持部材30に支持された部分よりも他端部23側の部分が、反転されることなくつづら折りされている。筒体20がつづら折りされているため、筒体20が膨張する際、筒体20が反転する必要がなくなる。また、津波抑制装置10の設置面積を小さくでき、複数の装置をより近い位置に配置しやすくなる。
【0058】
また、このように構成された津波抑制方法によると、反応物質51の化学反応によって生じる気体によって筒体20が膨張するため、筒体20を容易に膨張させることができる。
【0059】
{変形例}
上記例では、筒体20内に反応物質51が保管されるものとして説明されたが、このことは必須の構成ではない。例えば、支持部材30内に反応物質51が保管されていてもよい。この場合、筒体20の一端部21が閉塞されずに、筒体20の内部空間と支持部材30の内部空間とが連通するように、筒体20の一端部21が支持部材30に接続されていると良い。
【0060】
本発明の津波抑制装置10及び津波抑制方法は、津波抑制以外の用途、例えば、高潮での減災装置やその方法として、また河川の増水による堤防決壊時の瓦礫流入防止柵としてなど、水に関わる災害を低減することへの利用も期待される。
【0061】
なお、上記実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせることができる。
【0062】
本明細書及び図面は、下記の各態様を開示する。
【0063】
第1の態様は、収縮した状態の柔軟な筒体と、前記筒体の内部空間又は前記筒体の前記内部空間と連通する空間に保管され、化学反応によって気体を発生可能な固体又は液体の反応物質と、前記反応物質に前記化学反応を起こさせる反応発生部とを含み、前記反応物質の前記化学反応によって発生した前記気体による圧力で前記筒体を膨張及び起立させる筒体膨張部と、を備える、津波抑制装置である。
【0064】
この津波抑制装置によると、筒体の内部空間又は筒体の内部空間と連通する空間に保管された反応物質の化学反応によって生じる気体によって筒体が膨張するため、筒体を容易に膨張させることができる。
【0065】
第2の態様は、第1の態様に係る津波抑制装置であって、前記反応物質は、第1反応物質と、前記第1反応物質と混ざることによって前記化学反応を起こす第2反応物質とを有する、津波抑制装置である。この場合、気体の発生する化学反応を簡易に起こすことができる。また、単位時間当たりに多くの気体を発生させやすくなり、津波到来までの短時間に筒体をしっかりと膨張させやすい。
【0066】
第3の態様は、第2の態様に係る津波抑制装置であって、前記第1反応物質が弱酸の塩であり、かつ、前記第2反応物質が前記弱酸よりも強い酸であるか、又は、前記第1反応物質が弱塩基の塩であり、かつ、前記第2反応物質が前記弱塩基よりも強い塩基である、津波抑制装置である。この場合、酸塩基反応によって気体を発生させることができる。
【0067】
第4の態様は、第3の態様に係る津波抑制装置であって、前記第1反応物質が炭酸又は重炭酸の塩であり、前記第2反応物質が前記炭酸又は重炭酸よりも強い有機酸であり、前記化学反応によって生じる前記気体が二酸化炭素である、津波抑制装置である。この場合、化学反応によって発生する気体が二酸化炭素であるため、使用後の処理も容易となる。
【0068】
第5の態様は、第2から第4のいずれか1つの態様に係る津波抑制装置であって、前記第1反応物質及び前記第2反応物質はいずれも固体であり、前記反応発生部は、水を前記第1反応物質及び前記第2反応物質の保管された空間に引き込む配管を有し、前記第1反応物質及び前記第2反応物質が前記配管から引き込まれた水に溶けることによって、前記化学反応が起こる、津波抑制装置である。この場合、第1反応物質及び第2反応物質がいずれも固体であることによって、第1反応物質及び第2反応物質の保管が容易となる。また、第1反応物質及び第2反応物質が配管から引き込まれた水に溶けることによって化学反応が起こるため、水を利用して簡易に化学反応を起こすことができる。例えば、津波抑制装置が海底に設置される場合、周囲の海水を利用して簡易に化学反応を起こすこともできる。
【0069】
第6の態様は、第1から第5のいずれか1つの態様に係る津波抑制装置であって、前記筒体の一端部を支持する支持部材をさらに備え、前記筒体のうち前記支持部材に支持された部分よりも他端部側の部分が、反転されることなくつづら折りされている、津波抑制装置である。この場合、筒体がつづら折りされているため、筒体が膨張する際、筒体が反転する必要がなくなる。また、津波抑制装置の設置面積を小さくでき、複数の装置をより近い位置に配置しやすくなる。
【0070】
第7の態様は、収縮した状態の筒体を津波の襲来が予測される地点に予め配置し、津波の襲来が予測される異常時に、反応物質の化学反応によって気体を生じさせ、前記気体によって前記筒体を膨張及び起立させる、津波抑制方法である。
【0071】
この津波抑制方法によると、反応物質の化学反応によって生じる気体によって筒体が膨張するため、筒体を容易に膨張させることができる。
【0072】
上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0073】
10 津波抑制装置
20 筒体
21 一端部
22 つづら折り部
23 他端部
30 支持部材
32 固定部材
40 筐体
41 本体
42 蓋体
50 筒体膨張部
51 反応物質
51A 第1反応物質
51B 第2反応物質
60 反応発生部
61 配管
62 電磁弁
64 ケーブル
90 海底
92 海面
94 津波
図1
図2
図3
図4
図5