(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146896
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/005 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
A23D7/005
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054326
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 佳輝
(72)【発明者】
【氏名】樋口 貴之
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 朋之
(72)【発明者】
【氏名】坂上 麻子
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DG02
4B026DG05
4B026DH01
4B026DK01
4B026DL01
4B026DL02
4B026DL08
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
4B026DX03
(57)【要約】
【課題】クリーム風味を向上させた油脂組成物を得ることを課題とする。
【解決手段】酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物、及びストロベリーフラノンから選択される少なくとも1つ以上の化合物を含有する油脂組成物により、前記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物類、及びストロベリーフラノンから選択される少なくとも1つ以上の化合物類を含有する油脂組成物。
【請求項2】
上記酸類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記エステル類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記ケトン類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記γ-ラクトン類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記δ-ラクトン類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記ピロール類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記含硫化合物類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記ストロベリーフラノンの含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであることを特徴とする請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物類、及びストロベリーフラノンから選択される少なくとも1つ以上の化合物類を、油脂組成物の原料、油脂組成物の原料混合物、又は油脂組成物に添加する工程
を含む、油脂組成物のクリーム風味の向上方法。
【請求項4】
原料及び/又は原料混合物に酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物類、及びストロベリーフラノンから選択される少なくとも1つ以上の化合物類を添加する添加工程
を含む、請求項1又は請求項2に記載の油脂組成物の製造方法。
【請求項5】
原料油脂を含む油相と水相とを混合する混合工程と、
混合工程によって得られた原料混合物を加熱する加熱工程と、
加熱工程後の混合物を急冷可塑化する急冷工程と
さらに含むことを特徴とする、請求項4に記載の油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーム風味を向上させた油脂組成物、油脂組成物のクリーム風味の向上方法に関する。本発明は、油脂組成物の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリンをはじめとする油脂組成物は、バター風味など任意の風味を付与し、パンの風味を豊かにすることができる。
【0003】
過去、油脂組成物のクリーム風味を向上させるために様々な方法が試されてきた。例えば特許文献1では、メチルケトン類、δ-ラクトン類、遊離の酪酸、乳脂肪を所定の重量ppmまたは重量比で含有することにより、乳風味を増強する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、乳脂肪を含み、香気成分中における酪酸、カプロン酸、ペンタナール等のアルデヒド類を所定の重量ppb含有することで風味豊かで後味の優れた油脂組成物を提供する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6575530号
【特許文献2】特許第6622576号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Multi―volatile method for aroma analysis using sequential dynamicheadspace sampling with an application to brewed coffee. Journal of Chromatography A, 1371 (2014) 65-73.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、乳脂肪の含有量に左右されず純生クリームのような本格的なクリーム風味を向上させた油脂組成物に関するものはなく、その開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、乳脂肪の含有量に左右されずクリーム風味を向上させた油脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題の解決を目指し鋭意研究を進めたところ、油脂組成物中に酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物、及びストロベリーフラノンから選択される少なくとも1つ以上の化合物を含有させることで、純生クリームのような本格的なクリーム風味を向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明とは下記の酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物、及びストロベリーフラノンから選択される少なくとも1つ以上の化合物類(以下、単に化合物類と呼ぶことがある)を含有するものであり、本発明には、以下の構成が含まれる。
<1>酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物類、及びストロベリーフラノンから選択される少なくとも1つ以上の化合物類を含有する油脂組成物。
<2>上記酸類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記エステル類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記ケトン類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記γ-ラクトン類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記δ-ラクトン類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記ピロール類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記含硫化合物類の含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであり、上記ストロベリーフラノンの含有量が、油脂組成物全量基準で、0.1重量ppq~1,000重量ppmであることを特徴とする<1>に記載の油脂組成物。
<3>酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物類、及びストロベリーフラノンから選択される少なくとも1つ以上の化合物類を、油脂組成物の原料、油脂組成物の原料混合物、又は油脂組成物に添加する工程
を含む、油脂組成物のクリーム風味の向上方法。
<4>原料及び/又は原料混合物に酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物類、及びストロベリーフラノンから選択される少なくとも1つ以上の化合物類を添加する添加工程
を含む、<1>~<2>のいずれかに記載の油脂組成物の製造方法。
<5>原料油脂を含む油相と水相とを混合する混合工程と、
混合工程によって得られた原料混合物を加熱する加熱工程と、
加熱工程後の混合物を急冷可塑化する急冷工程と
さらに含むことを特徴とする、<4>に記載の油脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クリーム風味を向上させた油脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書においては、発明の態様に分けて説明をしているが、それぞれの態様に記載の事項、語句の定義、及び実施形態は、他の態様においても適用可能である。
【0013】
1.油脂組成物
(油脂組成物)
本発明における油脂組成物とは、油脂および必要に応じた油溶性副原料からなる油脂組成物、並びに、油脂および必要に応じた油溶性副原料からなる油相と水および必要に応じた水溶性副原料からなる水相を混合し、乳化させた油脂組成物である。乳化させた油脂組成物には、上記油相を連続相とする油中水型と上記水相を連続相とする水中油型とがある。特に制限はないが、油中水型油脂組成物ではバター、マーガリン、乳又は乳製品を主要原料とする食品などが例示され、水中油型油脂組成物ではクリーム、乳飲料、乳又は乳製品を主要原料とする食品、ドレッシング(マヨネーズを含む)などが例示される。上記油脂組成物は特に形態は問わず、固体、液体、粉体、或いはこれらの混合体であってもよい。本発明における油脂組成物は、好ましくは、クリーム、バター、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、又は乳又は乳製品を主要原料とする食品である。
【0014】
本発明で使用する油脂としては、通常食用として用いられているものであれば植物油脂、動物油脂のいずれでもよく、例えば乳脂、牛脂、豚脂、大豆油、綿実油、米油、コーン油、ヤシ油、パーム油、カカオ脂等が挙げられ、これら或いはこれらを混合、硬化、分別、エステル交換したものを単独或いは2種以上を混合して用いることが出来る。
【0015】
本発明の油脂組成物を調製するための油相および水相には必要に応じて副原料を混合することができる。上記副原料は、通常食品に使用されるものであれば特に制限はないが、例えば、食塩や全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルク粉、ホエーパウダー、練乳、チーズ、食物繊維、ゼラチン、コーヒー、チョコレート、果汁などが挙げられる。
副原料としては、全脂粉乳又は脱脂粉乳を、油脂組成物全量基準で、0~2重量%含むことが好ましい。また、全脂粉乳又は脱脂粉乳に変えて、クリームパウダー、ホエーパウダー、たんぱく質濃縮ホエーパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳および調製粉乳を、油脂組成物全量基準で、0~2重量%含んでもよい。これらの用語の定義は、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の第二条において規定されるとおりである。
【0016】
また、本発明の油脂組成物には風味や物性を損なわない限りにおいて乳化剤、色素、安定剤、調味料、酸味料、甘味料、pH調整剤、ビタミン類、香料、スパイス等を適宜添加し用いることができる。乳化剤、色素、安定剤、調味料、酸味料、甘味料、pH調整剤、ビタミン類、香料、スパイス等は、入手可能な市販のものを制限なく使用することができる。
【0017】
乳化剤としては、レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、グリセリン脂肪酸エステル、サポニン等が挙げられる。乳化剤の添加量は、油脂組成物全量基準で、0.01重量%~3重量%、或いは添加しなくてもよい。
【0018】
安定剤としては、例えば、寒天、ゼラチン、アラビアガム、ローカストビーンガム、グアガム、カラギーナン、メチルセルロース、デキストリン、加工デンプン、食物繊維等が挙げられる。安定剤の添加量は、油脂組成物全量基準で、0.001重量%~3重量%、或いは添加しなくてもよい。
調味料としては、例えば、砂糖、塩、各種アミノ酸等が挙げられる。調味料の添加量は、油脂組成物全量基準で、0.1重量%~5重量%、或いは添加しなくてもよい。
調味料として、塩を油脂組成物全量基準で、0~2重量%含むことが好ましい。
【0019】
香料としては、ミルクフレーバー、バターフレーバー、クリームフレーバー、乳製品抽出物、バニラ抽出物、コーヒーフレーバー、フルーツフレーバーなどが挙げられる。香料の添加量は、油脂組成物全量基準で、0.001重量%~3重量%、或いは添加しなくてもよい。
【0020】
本発明の油脂組成物において、水分は、限定されるものではないが、組成物全量基準において、0重量%、1重量%以下、5重量%以下、10重量%以下、30重量%以下、50重量%以下、70重量%以下、90重量%、99重量%以下であることができる。なお、前記「水分」とは、油脂組成物において、水が占める割合(重量%)を意味する。
本発明の油脂組成物において、油脂の含有量は、限定されるものではないが、組成物全量基準において、下限は、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、38重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、70重量%以上、90重量%以上、又は95重量%以上であることができ、上限は、100重量%、99重量%以下、95重量%以下、92重量%以下、90重量%以下、88重量%以下、85重量%以下、83重量%以下であることができ、具体的な範囲としては、100重量%、20重量%~99重量%、25重量%~95重量%、30重量%~90重量%、35重量%~85重量%、又は38重量%~83重量%である。
【0021】
(酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物類、及びストロベリーフラノンから選択される少なくとも1つ以上の化合物類)
本発明における油脂組成物は、上記化合物類を上記油相及び/又は上記水相に化合物を添加することで調製することができる。上記化合物とは酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物類、及びストロベリーフラノンから選択される少なくとも1つ以上の化合物類である。化合物類は、限定されるものではないが、以下の化合物類を用いることができる。
酸類:酪酸(CAS番号:107-92-6)、カプロン酸(CAS番号:142-62-1)、カプリル酸(CAS番号:124-07-2)から選ばれる少なくとも1種類以上。
エステル類:カプリル酸エチル(CAS番号:106-32-1)、カプリン酸エチル(CAS番号:110-38-3)、ラウリン酸エチル(CAS番号:106-33-2)
ケトン類:2-ブタノン(CAS番号:78-93-3)2-ペンタノン(CAS番号:107-87-9)、2-ヘプタノン(CAS番号:110-43-0)、2-ノナノン(CAS番号:821-55-6)、2-ウンデカノン(CAS番号:112-12-9)から選ばれる少なくとも1種類以上。
γ-ラクトン類:γ-ヘキサラクトン(CAS番号:695-06-7)、γ-オクタラクトン(CAS番号:104-50-7)、γ-デカラクトン(CAS番号:706-14-9)
δ-ラクトン類:δ-オクタラクトン(CAS番号:698-76-0)、δ-デカラクトン(CAS番号:705-86-2)、δ-ウンデカラクトン(CAS番号:710-04-3)、δ-ドデカラクトン(CAS番号:713-95-1)
ピロール類、:1-メチルピロール(CAS番号:96-54-8)、2-アセチルピロール(CAS番号:1072-83-9)から選ばれる少なくとも1種類以上。
含硫化合物類:ジメチルスルフィド(CAS番号:75-18-3)、ジメチルジスルフィド(CAS番号:624-92-0)から選ばれる少なくとも1種類以上。
ストロベリーフラノン(CAS番号:3658-77-3)
【0022】
酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物類、及びストロベリーフラノンの含有量は、油脂組成物全量基準で、独立して、下限として0.1重量ppq以上、1重量ppq以上、10重量ppq以上、100重量ppq以上、1重量ppt以上、10重量ppt以上、100重量ppt以上、1重量ppb以上、10重量ppb以上、100重量ppb以上又は1重量ppm以上、上限として、1000重量ppm以下、100重量ppm以下、10重量ppm以下、又は1重量ppm以下であってもよい。
酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物類、及びストロベリーフラノンの含有量は、油脂組成物全量基準で、独立して、好ましくは、10重量ppb~10重量ppmであり、さらに好ましくは100重量ppb~1重量ppmである。
【0023】
化合物類は、通常のガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)を用いて測定することができる。油脂組成物中の化合物類を定量するためには、標準添加法或いは絶対検量線法を用いることができる。標準添加法においては、油脂組成物に既知濃度の化合物類を段階的に添加し、或いは添加せず検体とすることができる。上記検体をGC-MSを用いて測定し、各検体の測定値から油脂組成物中の化合物類を定量することができる。
絶対検量線法においては、既知濃度の化合物類を含む標準検体を用いることができる。上記標準検体をGC-MSを用いて測定した結果によって検量線を描く。上記検量線および油脂組成物をGC-MSで測定した結果を用いて油脂組成物中の化合物類を定量することができる。
含有量が高濃度(例えば、1重量ppm以上)の油脂組成物においては、化合物類の捕集方法としてDHS-MVM(ゲステル株式会社)を使用することができる。10mLバイアルに上記検体を0.1g量り採る。その後、非特許文献1に記載の方法で上記化合物類を測定することができる。
含有量が低濃度(例えば、1重量ppm未満)の油脂組成物においては、油脂組成物に含有される化合物類を溶媒で抽出することができる。化合物類を抽出した溶媒を0.1~1mL程度まで濃縮する。化合物の抽出に用いる油脂組成物の重量および溶媒の重量はGC-MSで検出できる濃度まで濃縮できれば特に制限なく使用することができる。濃縮した溶媒は、例えば濃縮した溶媒をゲステル株式会社が提案するSE-FEDHS法によって捕集することができる。SE-FEDHS法の条件はゲステル株式会社のマニュアルに沿って設定することができる。捕集した化合物類は非特許文献1に記載のGC-MS条件によって測定することができる。
【0024】
本発明では、合成又は分離された化合物類を油脂組成物に添加することもでき、化合物類を含む原料を油脂組成物に添加することもでき、その両方であることもできる。本発明では、合成により合成された化合物類又は上記原料より任意の手段で分離された化合物類を油脂組成物に添加することが好ましい。上記の合成又は分離された化合物類は、自ら合成又は分離したものを使用してもよく、市販のものを購入してもよい。例えば、シグマアルドリッチ社製造のものを使用することができる。合成又は分離した化合物類を油脂組成物に添加する場合、合成又は分離した化合物類のみを添加してもよく、後述するように、他の添加剤、例えば、賦形剤、結合剤等とともに油脂組成物に添加してもよい。また、合成又は分離した化合物類は、他の成分を含んだ香料組成物の形態として油脂組成物に添加してもよい。前記の分離の手段としては動物又は植物組織に由来する成分の分離に用いられる通常の方法、例えばこれらに限定されるものではないが、水蒸気蒸留法、溶剤抽出法、圧搾法(直接、高温、若しくは低温)、又は超臨界抽出法等を用いることができる。
合成又は分離された化合物類は、化合物類と他の化合物との混合物の状態で使用してもよい。例えば、化学合成して、純度を高くするための精製を行っていないものを用いてもよい。
【0025】
2.油脂組成物の製造方法
(油脂組成物の製造方法)
本発明の油脂組成物の製造方法は、原料及び/又は原料混合物に酸類、エステル類、ケトン類、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ピロール類、含硫化合物類、及びストロベリーフラノンから選択される少なくとも1つ以上の化合物類を添加する添加工程を含む。本発明の油脂組成物は、上記添加工程に、従来公知の工程・方法を組み合わせて調製することができる。
以下に本発明の油脂組成物の製造方法を例示するが、本発明は特にこれらに限定されることはない。
油脂および必要に応じた油溶性副原料からなる油相に化合物類を添加し、かきとり式冷却器で急冷可塑化するなど常法で用いられる工程を経て、油相のみを含む油脂組成物を得ることができる。
油中水型油脂組成物は、上記油相と水および必要に応じた水溶性副原料からなる水相を徐々に混合し、原料混合物を調製し、加熱し、乳化する。このとき、油脂組成物の目標とする風味や物性を損なわない限りにおいて、乳化剤、色素、安定剤、調味料、香料等を添加することができる。上記原料混合物に化合物類を添加し、かきとり式冷却器で急冷可塑化するなど常法で用いられる工程を経て上記油中水型油脂組成物を得ることができる。
水中油型油脂組成物は、上記水相と上記油相を混合し、原料混合物を調製し、化合物類を添加する。このとき、油脂組成物の目標とする風味や物性を損なわない限りにおいて、乳化剤、色素、安定剤、調味料、香料等を添加することができる。その後、均質、殺菌、冷却など常法で用いられる工程を経て上記水中油型油脂組成物を得ることができる。
バターの製造方法は、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に規定される成分規格等に当てはまる方法であればいずれでもよく、生乳、牛乳、特別牛乳又は生水牛乳から得られた脂肪粒を練圧することで得ることができる。そして、かかるバターの製造工程中の任意の箇所あるいは製造後に化合物類を添加し、油脂組成物を得ることができる。
クリームの製造方法は、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に規定される成分規格等に当てはまる方法であればいずれでもよく、生乳、牛乳、特別牛乳又は生水牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去することで得ることができる。そして、かかるクリームの製造工程中の任意の箇所あるいは製造後に化合物類を添加し、油脂組成物を得ることができる。
【0026】
化合物類は、加熱後または加熱前に添加しておいてもよく、原料及び/又は加熱前の原料混合物に添加しておいてもよい。
【0027】
本発明の油脂組成物の製造方法は、適切な容器に油脂組成物を充填する充填工程、及び/又は適切な包装材料で油脂組成物を包装する包装工程を含むことができる。
本明細書において、「クリーム風味を向上させた」とは、油脂組成物を食べた時に、化合物類を含まない標準品に比べて、油脂組成物のクリーム風味が向上していることを意味する。油脂組成物のクリーム風味が向上したかどうかは、パネルによる官能評価により評価することができる。具体的には、例えば、化合物類を含まない標準品をコントロール(0点)として、油脂組成物のクリーム風味がどの程度向上しているかを点数付けし、パネルの平均値を算出し、上記平均値がコントロールよりも高い値であればクリーム風味が向上していると評価することを意味する。
【0028】
本発明の油脂組成物を使用するパンには、食パン、ロールパン、フランスパン、菓子パン、デニッシュペストリー、バラエティブレッド、調理パン、イーストドーナツ、ホットケーキ、蒸しパン、クロワッサン、及びカレーパンなどが含まれる。パンは、好ましくは食パンである。本発明の油脂組成物を使用するパンの主原料は、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、麦芽粉、トウモロコシ粉、エンバク粉、米粉、片栗粉、くず粉、タピオカ粉、緑豆粉等の穀物粉糖であることができる。本発明の油脂組成物を使用するパンには、必要に応じて、油脂、糖類、乳成分、卵成分、増粘多糖類、乳化剤、酵素製剤、食塩、カルシウム塩、ビタミン類、イースト、イーストフード、膨張剤などが添加されてもよい。
【実施例0029】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に説明がない場合、%は、重量%を示す。
【0030】
(実施例1)
融点38℃に調合したエステル交換油を13.2kg、パーム油を8.8kg、大豆白絞油を35.1kg、モノグリセリド脂肪酸エステルを1.5kgを配合して油相を調製した。これに、全脂粉乳0.8kg、食塩3.0kg、水87.8kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに、ラウリン酸エチルを0.1重量ppmとなるように添加した後、かきとり式冷却機にて急冷可塑化し油脂組成物(実施例品1)を得た。また、上記油脂組成物と同じ混合物にラウリン酸エチルを添加しない油脂組成物(標準品1)を別途作製した。
【0031】
(実施例2)
融点38℃に調合したエステル交換油を18kg、パーム油を12kg、大豆白絞油を48kg、モノグリセリド脂肪酸エステルを0.4kgを配合して油相を調製した。これに、食塩1.8kg、水39.8kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに、2-ブタノンを0.1重量ppmとなるように添加した後、かきとり式冷却機にて急冷可塑化し油脂組成物(実施例品2)を得た。また、上記油脂組成物と同じ混合物に2-ブタノンを添加しない油脂組成物(標準品2)を別途作製した。
【0032】
(実施例3)
融点38℃に調合したエステル交換油を19.6kg、パーム油を13.1kg、大豆白絞油を52.3kg、モノグリセリド脂肪酸エステルを0.3kgを配合して油相を調製した。これに、全脂粉乳1kg、食塩2kg、水11.7kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに、γ-ヘキサラクトンを0.1重量ppmとなるように添加した後、かきとり式冷却機にて急冷可塑化し油脂組成物(実施例品3)を得た。また、上記油脂組成物と同じ混合物にγ-ヘキサラクトンを添加しない油脂組成物(標準品3)を別途作製した。
【0033】
(実施例4)
融点38℃に調合したエステル交換油を27.7kg、パーム油を18.5kg、大豆白絞油を73.8kgを配合して油相を調製し、80℃で10分間加熱した。これに、δ-ドデカラクトンを0.1重量ppmとなるように添加した後、かきとり式冷却機にて急冷可塑化し油脂組成物(実施例品4)を得た。また、上記油脂組成物と同じ混合物に、δ-ドデカラクトンを添加しない油脂組成物(標準品4)を別途作製した。
【0034】
(実施例5)
融点38℃に調合したエステル交換油を22.5kg、パーム油を15kg、大豆白絞油を60kg、モノグリセリド脂肪酸エステルを0.5kgを配合して油相を調製した。これに、全脂粉乳1.5kg、食塩3kg、水47.6kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに、2-アセチルピロールを0.1重量ppmとなるように添加した後、かきとり式冷却機にて急冷可塑化し油脂組成物(実施例品5)を得た。また、上記油脂組成物と同じ混合物に2-アセチルピロールを添加しない油脂組成物(標準品5)を別途作製した。
【0035】
(実施例6)
融点38℃に調合したエステル交換油を15kg、パーム油を10kg、大豆白絞油を40kg、モノグリセリド脂肪酸エステルを0.3kgを配合して油相を調製した。これに、全脂粉乳1kg、食塩1.5kg、水32.2kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに、ジメチルスルフィドを0.1重量ppmとなるように添加した後、かきとり式冷却機にて急冷可塑化し油脂組成物(実施例品6)を得た。また、上記油脂組成物と同じ混合物にジメチルスルフィドを添加しない油脂組成物(標準品6)を別途作製した。
【0036】
(実施例7)
融点38℃に調合したエステル交換油を10.5kg、パーム油を7kg、大豆白絞油を28.1kg、モノグリセリド脂肪酸エステルを1.2kgを配合して油相を調製した。これに、全脂粉乳2.4kg、食塩1.2kg、水69.6kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに、ストロベリーフラノンを0.1重量ppmとなるように添加した後、かきとり式冷却機にて急冷可塑化し油脂組成物(実施例品7)を得た。また、上記油脂組成物と同じ混合物にストロベリーフラノンを添加しない油脂組成物(標準品7)を別途作製した。
【0037】
(実施例8)
融点38℃に調合したエステル交換油を27.7kg、パーム油を18.5kg、大豆白絞油を73.8kgを配合して油相を調製し、80℃で10分間加熱した。これに、ラウリン酸エチルを1,000重量ppmとなるように添加した後、かきとり式冷却機にて急冷可塑化し油脂組成物(実施例品8)を得た。また、上記油脂組成物と同じ混合物にラウリン酸エチルを添加しない油脂組成物(標準品8)を別途作製した。
【0038】
(実施例9)
融点38℃に調合したエステル交換油を19.6kg、パーム油を13.1kg、大豆白絞油を52.3kg、モノグリセリド脂肪酸エステルを0.3kgを配合して油相を調製した。これに、全脂粉乳1kg、食塩2kg、水11.7kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに、2-ブタノンを1,000重量ppmとなるように添加した後、かきとり式冷却機にて急冷可塑化し油脂組成物(実施例品9)を得た。また、上記油脂組成物と同じ混合物に2-ブタノンを添加しない油脂組成物(標準品9)を別途作製した。
【0039】
(比較例1)
融点38℃に調合したエステル交換油を18kg、パーム油を12kg、大豆白絞油を48kg、モノグリセリド脂肪酸エステルを0.4kgを配合して油相を調製した。これに、全脂粉乳1.2kg、食塩2.4kg、水38kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに、カプリン酸を0.1重量ppmとなるように添加した後、かきとり式冷却機にて急冷可塑化し油脂組成物(比較例品1)を得た。また、上記油脂組成物と同じ混合物にカプリン酸を添加しない油脂組成物(標準品10)を別途作製した。
【0040】
(比較例2)
融点38℃に調合したエステル交換油を8.8kg、パーム油を5.8kg、大豆白絞油を23.4kg、モノグリセリド脂肪酸エステルを1kgを配合して油相を調製した。これに、全脂粉乳1kg、食塩2kg、水58kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに、デカナールを0.1重量ppmとなるように添加した後、かきとり式冷却機にて急冷可塑化し油脂組成物(比較例品2)を得た。また、上記油脂組成物と同じ混合物にデカナールを添加しない油脂組成物(標準品11)を別途作製した。
【0041】
表1に実施例品1~9、比較例品1~2および標準品1~11の原料配合を記載する。
【0042】
【0043】
表2に実施例品1~9と比較例品1~2の各化合物の濃度を記す。
【0044】
【0045】
(試験例)
実施例品1~9および比較例品1~2について、訓練されたパネル3名により、「クリーム風味の有無」を評価項目として、各実施例品および比較例品と同じ油脂組成物配合の標準品との比較評価を行った。評点範囲は0点~+3点とし、0.1点刻みで評価した。「クリーム風味」の定義および評点の大まかな基準は以下の通りとした。またパネル4名の中で「クリーム風味を感じる」と選んだ人数と「クリーム風味を感じない」と選んだ人数から、記号による判定を行った。記号の定義は以下の通りとした。パンは市販の食パンを用い、評価の際はトースターで焼成した。焼成した食パンに実施例品1~9、比較例品1~2または標準品1~11を塗布し、評価した。
【0046】
(定義)
純生クリームのような風味。特にホイップした純生クリームにある含硫化合物の風味、甘い風味や乳の甘さ。
【0047】
(評点基準)
+3:標準品に比べてともてクリーム風味がある
+2:標準品に比べてややクリーム風味がある
+1:標準品に比べてわずかにクリーム風味がある
0:標準品に比べてクリーム風味が変わらない
【0048】
(記号による判定)
◎:パネル全員が「クリーム風味」の向上効果を認めた
〇:パネル4名中2名以上が「クリーム風味」の向上効果を認めた
×:パネル全員が「クリーム風味」の向上効果を認めなかった
【0049】
表3に実施例品1~8および比較例品1~2の評点平均および判定結果を記す。
【表3】
【0050】
表2~表3より、実施例品1~9はそれぞれに対応する標準品1~9に比べて「クリーム風味」が向上していた。特に、実施例品1~3は顕著に「クリーム風味」が向上していた。一方、カプリン酸を含む比較例品1およびデカナールを含む比較例品2はそれぞれに対応する標準品9~10に比べて「クリーム風味」が向上していなかった。