(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146930
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】プロトンセラミック可逆セル、ならびにそれを含む水蒸気電解セル及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
C25B 11/077 20210101AFI20231004BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20231004BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20231004BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20231004BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20231004BHJP
C25B 13/07 20210101ALI20231004BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20231004BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20231004BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20231004BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20231004BHJP
C25B 11/067 20210101ALI20231004BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20231004BHJP
【FI】
C25B11/077
H01M8/12 101
H01M8/1213
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B13/07
C25B13/04 301
C25B9/23
C25B11/032
C25B11/052
C25B11/067
C25B11/081
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054376
(22)【出願日】2022-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】青木 芳尚
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA69
4K011BA07
4K011BA12
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB16
4K021DB18
4K021DB40
4K021DB43
4K021DB53
5H126AA02
5H126GG12
5H126GG13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】従来技術よりも良好な特性を示すことが可能な、プロトンセラミック可逆セルを提供する。
【解決手段】空気極、空気極界面機能層、プロトン伝導性セラミック層および燃料極をこの順に有し、前記空気極界面機能層は、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物及び/又はその水和物を含み、前記金属酸化物及び/又はその水和物は、下記式(1)を満たすプロトンセラミック可逆セル。
([Ba]+[R
1]+[R
2]+[Fe])/[A
1]≧0.75・・・(1)
式中、R
1はLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、EuおよびGdからなる群から選択されるいずれか一種以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極、空気極界面機能層、プロトン伝導性セラミック層および燃料極をこの順に有し、
前記空気極界面機能層は、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物及び/又はその水和物を含み、前記金属酸化物及び/又はその水和物は、下記式(1)を満たし、
下記式(2a)を満たすときは下記式(2b)をさらに満たし、下記式(3a)を満たすときは下記式(3b)をさらに満たす、プロトンセラミック可逆セル。
([Ba]+[R1]+[R2]+[Fe])/[A1]≧0.75 ・・・(1)
[Ba]+[R1]≦[Fe]+[M1]+[M2] ・・・(2a)
[Ba]:[R1]:[R2]:[Fe]:[M1]:[M2]=(1-xa-ya):xa:ya:c(1-la-ma):cla:cma ・・・(2b)
[Ba]+[R1]>[Fe]+[M1]+[M2] ・・・(3a)
[Ba]:[R1]:[Fe]:[M1]:[M2]:[R2]=(1-xb):xb:c(1-lb-mb-nb):clb:cmb:cnb ・・・(3b)
式(1)~(3b)において、R1はLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、EuおよびGdからなる群から選択されるいずれか一種以上であり、R2はSc、Y、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選択されるいずれか一種以上であり、A1は酸素及び水素を除くすべての元素であり、M1は、Li、Na、Mg、Al、Ca、Cu、Zn、Ga、Ag、Cd、In、HgおよびTlからなる群から選択されるいずれか一種以上であり、M2は周期表の4~6周期且つ4~10族の金属(ただしFeを除く)からなる群から選択されるいずれか一種以上であり、[Ba]、[R1]、[R2]、[Fe]、[A1]、[M1]及び[M2]はそれぞれ、モル%で示したBa、R1、R2、Fe、A1、M1及びM2の含有量を示し、0≦(xa+ya)<1.0、0<(la+ma)≦0.3、0≦ma<0.3、0.90≦c≦1.10、0≦xb<1.0、0<(lb+mb+nb)≦0.3、0≦mb<0.3の関係を満たす。
【請求項2】
R1は、La、Ce、Pr、Nd、PmおよびSmからなる群から選択されるいずれか一種以上である、請求項1に記載のプロトンセラミック可逆セル。
【請求項3】
M1は、Li、Mg、Al、Cu、Zn、Ga、Cd、InおよびTlからなる群から選択されるいずれか一種以上である、請求項1または2に記載のプロトンセラミック可逆セル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のプロトンセラミック可逆セルを含む水蒸気電解セル。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のプロトンセラミック可逆セルを含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プロトンセラミック可逆セル、ならびにそれを含む水蒸気電解セル及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン伝導性のセラミック層を含む電気化学セル(以下「プロトンセラミック可逆セル」と称する)は、例えば水蒸気電解セルとして用いた場合、再生可能電力から水素を製造するための最も効率的なデバイスの1つである。またプロトンセラミック可逆セルは、燃料電池としても有用である。
【0003】
特許文献1は、プロトン伝導性固体酸化物を用い、アノードとして、遷移金属を含むペロブスカイト型酸化物を用いてなる、水蒸気電解用電気化学セルを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるようなプロトンセラミック可逆セルは、十分な特性を有しておらず、更なる改善が求められている。
【0006】
本開示はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、従来技術よりも良好な特性(例えば、水蒸気電解セルとしては、600℃、1.3Vでの電解電流密度が高く、燃料電池としては、600℃における電流密度増大に伴う電圧降下が低い等)を示すことが可能な、プロトンセラミック可逆セル、ならびにそれを含む水蒸気電解セル及び燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、
空気極、空気極界面機能層、プロトン伝導性セラミック層および燃料極をこの順に有し、
前記空気極界面機能層は、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物及び/又はその水和物を含み、前記金属酸化物及び/又はその水和物は下記式(1)を満たし、
下記式(2a)を満たすときは下記式(2b)をさらに満たし、下記式(3a)を満たすときは下記式(3b)をさらに満たす、プロトンセラミック可逆セルである。
([Ba]+[R1] +[R2]+[Fe])/[A1]≧0.75 ・・・(1)
[Ba]+[R1]≦[Fe]+[M1]+[M2] ・・・(2a)
[Ba]:[R1]:[R2]:[Fe]:[M1]:[M2]=(1-xa-ya):xa:ya:c(1-la-ma):cla:cma ・・・(2b)
[Ba]+[R1]>[Fe]+[M1]+[M2] ・・・(3a)
[Ba]:[R1]:[Fe]:[M1]:[M2]:[R2]=(1-xb):xb:c(1-lb-mb-nb):clb:cmb:cnb ・・・(3b)
式(1)~(3b)において、R1はLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、EuおよびGdからなる群から選択されるいずれか一種以上であり、R2はSc、Y、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選択されるいずれか一種以上であり、A1は酸素及び水素を除くすべての元素であり、M1は、Li、Na、Mg、Al、Ca、Cu、Zn、Ga、Ag、Cd、In、HgおよびTlからなる群から選択されるいずれか一種以上であり、M2は周期表の4~6周期且つ4~10族の金属(ただしFeを除く)からなる群から選択されるいずれか一種以上であり、[Ba]、[R1]、[R2]、[Fe]、[A1]、[M1]及び[M2]はそれぞれ、モル%で示したBa、R1、R2、Fe、A1、M1及びM2の含有量を示し、0≦(xa+ya)<1.0、0<(la+ma)≦0.3、0≦ma<0.3、0.90≦c≦1.10、0≦xb<1.0、0<(lb+mb+nb)≦0.3、0≦mb<0.3の関係を満たす。
【0008】
本発明の態様2は、
R1は、La、Ce、Pr、Nd、PmおよびSmからなる群から選択されるいずれか一種以上である、態様1に記載のプロトンセラミック可逆セルである。
【0009】
本発明の態様3は、
M1は、Li、Mg、Al、Cu、Zn、Ga、Cd、InおよびTlからなる群から選択されるいずれか一種以上である、態様1または2に記載のプロトンセラミック可逆セルである。
【0010】
本発明の態様4は、
態様1~3のいずれか1つに記載のプロトンセラミック可逆セルを含む水蒸気電解セルである。
【0011】
本発明の態様5は、
請求項1~3のいずれか1つに記載のプロトンセラミック可逆セルを含む燃料電池である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、従来技術よりも良好な特性(例えば、水蒸気電解セルとしては、600℃、1.3Vでの電解電流密度が高く、燃料電池としては、600℃における電流密度増大に伴う電圧降下が低い等)を示すことが可能な、プロトンセラミック可逆セル、ならびにそれを含む水蒸気電解セル及び燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1Aは、Si基板上に形成した実施例1の空気極界面機能層(BLFZ)の表面SEM像である。
【
図1B】
図1Bは、Si基板上に形成した実施例1の空気極界面機能層(BLFZ)のXRDパターンである。
【
図2】
図2は、実施例1の断面SEM像(左)およびその拡大像(右)である。
【
図3A】
図3Aは、実施例1(空気極形成前)のHRTEM像である。
【
図3C】
図3Cは、実施例1(空気極形成前)のEDXマッピングである。
【
図4】
図4は、実施例1、比較例1および参考例1~6の、各温度における開回路電圧(OCV)を示す。
【
図5】
図5は、比較例1の各温度におけるI-V特性を示す。
【
図6】
図6は、実施例1の各温度におけるI-V特性を示す。
【
図7】
図7は、実施例1、比較例1および参考例1~6の、各温度における、1.3Vで測定した電解電流密度を示す。
【
図8】
図8は、実施例2の各温度におけるI-V特性を示す。
【
図9】
図9は、実施例3の各温度におけるI-V特性を示す。
【
図10】
図10は、実施例4の各温度におけるI-V特性を示す。
【
図11A】
図11Aは、600℃、314mA/cm
2における比較例1の電圧、水素放出速度及びファラデー効率の時間変化を示す。
【
図11B】
図11Bは、500℃、70mA/cm
2における比較例1の電圧、水素放出速度及びファラデー効率の時間変化を示す。
【
図12A】
図12Aは、600℃、570mA/cm
2における実施例1の電圧、水素放出速度及びファラデー効率の時間変化を示す。
【
図12B】
図12Bは、500℃、214mA/cm
2における実施例1の電圧、水素放出速度及びファラデー効率の時間変化を示す。
【
図13】
図13は、参考例6の電圧、水素放出速度及びファラデー効率の時間変化を示す。
【
図14】
図14は、参考例5の電圧、水素放出速度及びファラデー効率の時間変化を示す。
【
図15A】
図15Aは、600℃、743mA/cm
2における実施例4の電圧、水素放出速度及びファラデー効率の時間変化を示す。
【
図15B】
図15Bは、600℃、1143mA/cm
2における実施例4の電圧、水素放出速度及びファラデー効率の時間変化を示す。
【
図15C】
図15Cは、500℃、214mA/cm
2における実施例4の電圧、水素放出速度及びファラデー効率の時間変化を示す。
【
図16】
図16は、実施例1および4、比較例1ならびに参考例2、5および6の電解電流密度とファラデー効率の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、従来技術よりも良好な特性を示すことが可能な、プロトンセラミック可逆セルを実現するべく、様々な角度から検討した。
【0015】
プロトンセラミック可逆セルを水蒸気電解セルとして用いた場合、空気極(又は酸素極とも称する)では以下の反応が起きる。
H2O+2h+ → 2H++1/2O2 ・・・(4)
式(4)においてh+は正孔であり、H+はプロトンである。この、空気極で発生したプロトンが、プロトン伝導性セラミック層を介して燃料極(又は水素極とも称する)に伝導し、燃料極で還元され水素となる。
なお、プロトンセラミック可逆セルを燃料電池として用いた場合は、上述の反応とは逆の反応が起こる。
【0016】
本発明者らは、式(4)の反応が、以下のステップ1~8を介して起こっていると考えた。
(ステップ1) H2O(g)→ H2O(TPB)
(ステップ2) H2O(TPB)→OH-(TPB)+H+(TPB)
(ステップ3) OH-(TPB)→O2-(TPB)+H+(TPB)
(ステップ4) H+(TPB)→H+(ele)
(ステップ5) O2(TPB)+h+→O-(TPB)
(ステップ6) O-(TPB)→O-(air)
(ステップ7) O-(air)+h+ → O(air)
(ステップ8) 2O(air)→ O2(g)
ここで、(g)は気体を意味し、例えばH2O(g)は水蒸気を意味する。(TPB)は、気相/電子伝導層/プロトン伝導層の三相境界(すなわち反応場)を意味し、例えばH2O(TPB)は反応場に存在する(又は吸着した)水分子を意味する。(ele)は、電解質層を意味し、例えば、H+(ele)は電解質層に存在するプロトンを意味する。(air)は、空気極を意味し、例えば、O-(air)は、空気極に存在するO-イオンを意味する。
【0017】
本発明者らは、上記ステップ1~8の反応を促進するために、空気極とプロトン伝導性セラミック層との間に、それらとは異なる別の層(以下「空気極界面機能層」と称する)を挿入することを考えた。そして、空気極界面機能層として、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物(及び/又はその水和物)を含み、該金属酸化物として、上述の態様1に記載の式(1)~(3b)を満たす層(以下「Ba1-xa-yaR1
xaR2
yaFec(1-la-ma)M1
claM2
cmaO3-δ層」又は「Ba1-xbR1
xbFec(1-lb-mb-nb)M1
clbM2
cmbR2
cnbO3-δ層」とも称する)を選択することにより、従来技術よりも良好な特性を示すプロトンセラミック可逆セルを実現できた。
【0018】
上記セルを実現できた理由として、「Ba1-xa-yaR1
xaR2
yaFec(1-la-ma)M1
claM2
cmaO3-δ層」又は「Ba1-xbR1
xbFec(1-lb-mb-nb)M1
clbM2
cmbR2
cnbO3-δ層」が以下の機能を有するためであると考えられる。
(i)プロトン、酸化物イオンおよび電子(正孔)の全てを伝導し得、上記ステップ1~6における反応場を拡張させること。
(ii)Baを含むことにより、水分子の反応場への吸着を促進し(すなわちステップ1を促進すること)、かつプロトン伝導性を向上させること(すなわちステップ3および4を促進すること)。
(iii)Feを多く含むことに起因して、下記式(5)で示される酸化平衡定数Koxに対し水和平衡定数Khydを大きくでき、リーク電流を抑制できること。
【0019】
【0020】
上記(i)~(iii)により、本発明の実施形態に係るプロトンセラミック可逆セルを水蒸気電解セルとして用いた場合、電解電流密度を高くでき、さらにはファラデー効率を向上させることも可能となる。同様に、本発明の実施形態に係るプロトンセラミック可逆セルを燃料電池として用いた場合、電流密度増大に伴う電圧降下を低くでき、さらには開回路電圧(開放電圧)も高くできる。
なお、上記メカニズムは、本発明の実施形態の技術的範囲を制限するものではない。
【0021】
以下に、本発明の実施形態が規定する各要件の詳細を示す。
【0022】
本発明の実施形態に係るプロトンセラミック可逆セルは、空気極、空気極界面機能層、プロトン伝導性セラミック層および燃料極をこの順に有し、前記空気極界面機能層は、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物及び/又はその水和物を含み、前記金属酸化物及び/又はその水和物は下記式(1)と、下記式(2a)および(3a)のいずれか一方とを満たし、下記式(2a)を満たすときは下記式(2b)をさらに満たし、下記式(3a)を満たすときは下記式(3b)をさらに満たす、プロトンセラミック可逆セルである。
([Ba]+[R1] +[R2]+[Fe])/[A1]≧0.75 ・・・(1)
[Ba]+[R1]≦[Fe]+[M1]+[M2] ・・・(2a)
[Ba]:[R1]:[R2]:[Fe]:[M1]:[M2]=(1-xa-ya):xa:ya:c(1-la-ma):cla:cma ・・・(2b)
[Ba]+[R1]>[Fe]+[M1]+[M2] ・・・(3a)
[Ba]:[R1]:[Fe]:[M1]:[M2]:[R2]=(1-xb):xb:c(1-lb-mb-nb):clb:cmb:cnb ・・・(3b)
式(1)~(3b)において、R1はLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、EuおよびGdからなる群から選択されるいずれか一種以上であり、R2はSc、Y、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選択されるいずれか一種以上であり、A1は酸素及び水素を除くすべての元素であり、M1は、Li、Na、Mg、Al、Ca、Cu、Zn、Ga、Ag、Cd、In、HgおよびTlからなる群から選択されるいずれか一種以上であり、M2は周期表の4~6周期且つ4~10族の金属(ただしFeを除く)からなる群から選択されるいずれか一種以上であり、[Ba]、[R1]、[R2]、[Fe]、[A1]、[M1]及び[M2]はそれぞれ、モル%で示したBa、R1、R2、Fe、A1、M1及びM2の含有量を示し、0≦(xa+ya)<1.0、0<(la+ma)≦0.3、0≦ma<0.3、0.90≦c≦1.10、0≦xb<1.0、0<(lb+mb+nb)≦0.3、0≦mb<0.3の関係を満たす。
以下、上記空気極界面機能層を「Ba1-xa-yaR1
xaR2
yaFec(1-la-ma)M1
claM2
cmaO3-δ層」又は「Ba1-xbR1
xbFec(1-lb-mb-nb)M1
clbM2
cmbR2
cnbO3-δ層」と称することがある。
【0023】
本発明の実施形態に係るプロトンセラミック可逆セルは、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物及び/又はその水和物を含む。当該ペロブスカイト構造としては、立方晶、六方晶、斜方晶、単斜晶、正方晶等があり、特に限定されないが、立方晶ペロブスカイトが安定であり得、好ましい。これらのペロブスカイト構造を含むか否かは、電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)を用いて電子線回折パターンを取得すること等により確認できる。
【0024】
一実施形態において、空気極界面機能層は、積層方向に平行な断面視において、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物及び/又はその水和物を、50面積%以上、75面積%以上、または90面積%以上含み得る。また、空気極界面機能層は、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物及び/又はその水和物が積層方向の一方の表面からもう一方の表面まで連続した部分を有し得る。これらは断面TEM観察を行うことにより確認できる。
【0025】
式(1)の左辺は、例えば不純物元素が少ないと増加する。不純物を少なくする観点では、式(1)の左辺が0.80以上であることが好ましい。また、以下の式(6)を満たすことが好ましい。
([Ba]+[R1]+[R2]+[Fe])/[A2]≧0.60 ・・・(6)
ここで、A2は、酸素を除くすべての元素である。
式(6)の左辺も、例えば不純物元素が少ないと増加する。不純物を少なくする観点では、式(6)の左辺は、0.65以上であることがより好ましい。
【0026】
式(2a)を満たす場合(すなわちBa1-xa-yaR1
xaR2
yaFec(1-la-ma)M1
claM2
cmaO3-δ層の場合)、2価の陽イオンを形成するBaを、3価の陽イオンを形成するR1及び/又はR2で置換することにより、不安定なFe4+をFe3+にすることができ、ペロブスカイト構造をより安定にすることができ好ましい。ペロブスカイト構造を安定にする観点で、好ましくは0<(xa+ya)<1.0であり、より好ましくは0.5≦(xa+ya)<1.0であり、さらに好ましくは0.7≦(xa+ya)<1.0である。同様に、式(3a)を満たす場合(すなわちBa1-xbR1
xbFec(1-lb-mb-nb)M1
clbM2
cmbR2
cnbO3-δ層の場合)、2価の陽イオンを形成するBaを、3価の陽イオンを形成するR1で置換することにより、不安定なFe4+をFe3+にすることができ、ペロブスカイト構造をより安定にすることができ好ましい。ペロブスカイト構造を安定にする観点で、好ましくは0<xb<1.0であり、より好ましくは0.5≦xb<1.0であり、さらに好ましくは0.7≦xb<1.0である。
また、R1を、La、Ce、Pr、Nd、PmおよびSmからなる群から選択されるいずれか一種以上とすることにより、ペロブスカイト構造をより安定にすることができる。
一方、置換量を減らしてBaを多くすることにより、より水分子が吸着し、プロトン伝導性が向上し得る。水の吸着性等の観点で、式(2a)を満たす場合、好ましくは0≦(xa+ya)≦0.5であり、より好ましくは0≦(xa+ya)≦0.3である。同様に式(3a)を満たす場合、好ましくは0≦xb≦0.5であり、より好ましくは0≦xb≦0.3である。
【0027】
式(2a)を満たす場合(すなわちBa1-xa-yaR1
xaR2
yaFec(1-la-ma)M1
claM2
cmaO3-δ層の場合)、FeをM1(Li、Na、Mg、Al、Ca、Cu、Zn、Ga、Ag、Cd、In、HgおよびTlからなる群から選択されるいずれか一種以上)または、M1およびM2(周期表の4~6周期且つ4~10族の金属からなる群から選択されるいずれか一種以上)で置換できる。同様に、式(3a)を満たす場合(すなわちBa1-xbR1
xbFec(1-lb-mb-nb)M1
clbM2
cmbR2
cnbO3-δ層の場合)、FeをM1、M2およびR2からなる群から選択されるいずれか一種以上で置換できる(ただし、M2のみでは置換できない)。
M1およびR2は、Feよりもイオン価数が小さい。そのため、FeをM1及び/又はR2で置換することによりBa1-xa-yaR1
xaR2
yaFec(1-la-ma)M1
claM2
cmaO3-δ層又はBa1-xbR1
xbFec(1-lb-mb-nb)M1
clbM2
cmbR2
cnbO3-δ層中に酸素欠損が生じ得る(すなわちδ>0にできる)。これらの層が酸素欠損を有することにより、種々(酸化物イオン、プロトン等)の伝導が可能となる。なお、M1及び/又はR2に加えて、Feとイオン価数が同程度のM2でFeを置換してもよい。
【0028】
上述したように、Feを多く含むことに起因して、式(5)で示される酸化平衡定数Koxに対し水和平衡定数Khydを大きくでき、リーク電流を抑制できる。以下、式(5)について詳述する。
後述するプロトン伝導性セラミック層の可動プロトン欠陥は、下記式(7)で示される、酸素空孔と水蒸気の会合による水和平衡によって生じると考えられる。
【0029】
【0030】
式(7)と同時に、下記式(8)で示される酸素空孔と酸素の会合も平衡が成り立つ。
【0031】
【0032】
式 (7)および(8)の欠陥平衡により、電解質中には電子正孔が生成し、これが空気極から燃料極へ移動することで電子リークを引き起こし、その結果水蒸気電解セルの性能(例えばファラデー効率等)が低下し得る。なお、水蒸気電解セルとは逆の反応が起こる燃料電池の性能(例えば開回路電圧及び/又は水素利用率等)も、同様に低下し得る。
以上の性質にもとづき、水蒸気電解中の電解質における電子正孔濃度は式(5)で表される。
【0033】
【0034】
Khyd
-1/2Kox
1/2項が大きいほど、つまりKoxが大きくかつKhydが小さいほど、相対的に電解質への電子正孔注入率が高くなり、結果的に電解質中の電子正孔濃度が増加する。一方、Khyd
-1/2Kox
1/2項が小さい、つまりKoxが小さくかつKhyが大きいほど、電解質へのプロトン注入率が高くなり、電子正孔濃度が減少し、性能(例えばファラデー効率等)が向上する。
Ba1-xa-yaR1
xaR2
yaFec(1-la-ma)M1
claM2
cmaO3-δ層又はBa1-xbR1
xbFec(1-lb-mb-nb)M1
clbM2
cmbR2
cnbO3-δ層は、Feを多く含むことに起因して、酸化平衡定数Koxに対し水和平衡定数Khydが非常に大きいため、ファラデー効率、開回路電圧等の性能を向上させることができる。
【0035】
セルの性能を向上させる観点でFeの置換量をある程度低くしておく必要がある。そのため、0<(la+ma)≦0.3、0≦ma<0.3、0<(lb+mb+nb)≦0.3、0≦ma<0.3とする。好ましくは0.05≦(la+ma)≦0.25、0≦ma<0.25、0.05≦(lb+mb+nb)≦0.25、0≦mb<0.25である。
【0036】
M1は、Li、Mg、Al、Cu、Zn、Ga、Cd、InおよびTlからなる群から選択されるいずれか一種以上であることが、イオン半径の観点でペロブスカイト構造を安定にすることができ好ましい。M1は、Mg、Al、Cu、ZnおよびGaからなる群から選択されるいずれか一種以上であることが、イオン半径の観点でペロブスカイト構造をより安定にすることができ、より好ましい。
【0037】
M2は、Ti、V、Crおよび周期表の5~6周期且つ4~10族の金属から選択されるいずれか一種以上であることが、イオン半径の観点でペロブスカイト構造を安定にすることができ好ましい。
【0038】
本発明の実施形態において、式(1)~(3b)を満たすかどうかは、例えば一般的な組成分析(FE-TEM/EDS等)により調べることができる。なお組成分析において上記で特定した元素以外の不純物も検出され得るが、式(1)、(2a)および(2b)、または式(1)、(3a)および(3b)を満たす限り、本発明の実施形態に包含される。また、組成分析において測定誤差も生じ得るが、それを考慮してc値を設定しており、0.90≦c≦1.10であれば本発明の実施形態に包含される。
【0039】
本発明の実施形態において、空気極界面機能層は公知の方法で成膜することができる。空気極界面機能層の厚みは、特に限定されない。一実施形態において、空気極界面機能層の厚みは、例えば5~500nm、10~200nmまたは30~170nm等であり得る。
【0040】
本発明の実施形態において、空気極および燃料極は特に限定されず、公知の材料を用いることができ、公知の方法で形成できる。例えば、空気極については、導体材料、半導体材料、酸化物イオンおよび電子(正孔)を伝導させる二重伝導性材料(La1-xSrxCoO3-δ(LSC)、LaSrCoO4+δ(LSC4)、LaNiO3-δ(LNO)、La1-xSrxCo1-yFeyO3-δ(LSCF)、La1-xSrxMnO3-δ(LSM)、SmxSr1-xCoO3-δ(SSC)等)、又はプロトン、酸化物イオンおよび電子(正孔)を伝導させる三重伝導性材料(BaCo1-x-y-zFexZryYzO3-δ(BCFZY)、BaPr1-xYxO3-δ(BPY)、PrNi1-xCoxO3-δ(PNC)、PrBa1-xSrxCo2-yFeyO5+δ(PBSCF)、NdBa1-xSrxCo2-yFeyO5+δ(NBSCF)、PrBa1-xCaxCo2O5+δ(PBCC)、Ba1-xGd0.8La0.2+xCo2O6-δ(BGLC)等)を用いることができる。より良い特性のプロトンセラミック可逆セルを得るためには、空気極が二重伝導性材料のうちいずれか一種以上及び/又は三重伝導性材料のうちいずれか一種以上を含むことが好ましく、より好ましくは、三重伝導性材料のうちいずれか一種以上を含むことである。
【0041】
本発明の実施形態において、プロトン伝導性セラミック層は、特に限定されず、プロトンを伝導させる公知のセラミック材料を用いることができ、公知の方法で形成できる。
【0042】
本発明の実施形態の目的を逸脱しない限り、プロトンセラミック可逆セルは他の層を含んでいてもよい。例えば、空気極と空気極界面機能層とは直接接していてもよいが、接していなくてもよく、すなわち空気極と空気極界面機能層との間に他の層を有していてもよい。空気極界面機能層とプロトン伝導性セラミック層とは直接接していてもよいが、接していなくてもよく、すなわち空気極界面機能層とプロトン伝導性セラミック層との間に他の層を有していてもよい。プロトン伝導性セラミック層と燃料極とは直接接していてもよいが、接していなくてもよく、すなわちプロトン伝導性セラミック層と燃料極との間に他の層を有していてもよい。
【0043】
本発明の実施形態に係るプロトンセラミック可逆セルは、水蒸気電解セルとして使用できる。また、本発明の実施形態に係るプロトンセラミック可逆セルは、燃料電池としても使用できる。すなわち、本発明の実施形態に係る水蒸気電解セル(又は燃料電池)は、本発明の実施形態に係るプロトンセラミック可逆セルを含む。
【実施例0044】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【0045】
表1に実施例1~4、比較例1および参考例1~6のプロトンセラミック可逆セルの層構成を示す。表1において「←」は「同左」を意味し、「-」は該当する層が無いことを意味する。また、表1を含む以下の記載において、「LSCF」は「La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ」であり、「BLFZ」は「Ba0.95La0.05Fe0.8Zn0.2O3-δ」であり、「BZCYYb」(又は「BZCYYb6211」)は「BaZr0.6Ce0.2Y0.1Yb0.1O3-δ」であり、「BCFZY」は「BaCo0.4Fe0.4Zr0.1Y0.1O3-δ」であり、「BPY」は「BaPr0.8Y0.2O3-δ」であり、「LNO」は「LaNiO3-δ」であり、「LSC」は「La0.5Sr0.5CoO3-δ」であり、「PBSCF」は「PrBa0.5Sr0.5Co1.5Fe0.5O5+δ」であり、「LSC4」は「LaSrCoO4+δ」であり、「SSC」は「Sm0.5Sr0.5CoO3-δ」であり、「ATO」は「Sb0.1SnO2」であり、「AFL」は「空気極界面機能層」であり、「NoAFL」は、空気極界面機能層が無い比較例1を指している。
【0046】
【0047】
以下実施例1~4、比較例1および参考例1~6のプロトンセラミック可逆セルの作製方法について説明する。
【0048】
<燃料極の作製>
まず多孔質NiOとBaZr0.6Ce0.2Y0.1Yb0.1O3-δ(BZCYYb)との混合ペレットを作製した。BZCYYb粉末は、以下の方法で作製した。まず、以下の材料を所定の比で混合した:BaCO3(純度99.95%、高純度化学研究所製);ZrO2(純度98%、高純度化学研究所製);CeO2(純度99.99%、高純度化学研究所製);Y2O3(純度99.99%、高純度化学研究所製);およびYb2O3(純度99.9%、高純度化学研究所製)。混合した材料を10時間ボールミル粉砕した後、空気中1300℃で10時間焼成し、この粉砕と焼成を2回繰り返すことで、BZCYYb粉末を得た。
【0049】
NiO(純度99.97%、高純度化学研究所製)と、上述の方法で得たBZCYYb粉末と、デンプン(関東化学製)とを、60:40:10の重量比でエタノール中にて10時間ボールミルで混合した。この混合粉末を、一軸プレス(20MPa、1分間)および静水間プレス(100MPa、1分間)し、直径15mm、厚さ約1mmのNiO-BZCYYbグリーンペレットを得た。後述するように、全ての層を形成した後に、NiOを還元してNi-BZCYYb燃料極とした。
【0050】
<プロトン伝導性セラミック層の形成>
プロトン伝導性セラミック層材料には、高いH2O分圧下での熱力学的安定性が優れているBaZr0.6Ce0.2Y0.1Yb0.1O3-δ(BZCYYb)を選択した。BZCYYb粉末は、上述の方法で得た。1wt%NiOを含むBZCYYb粉末を、バインダー(α-テルピネオールに溶解した5wt%ステアリン酸アンモニウム)溶液とポリエチレンイミン溶液(20wt%ポリエチレンイミン(Mw:28000)をα-テルピネオールに溶解した液)との1:1混合溶液に分散させてスラリーを調整した。それを上述のグリーンペレットの両面にスピンコートした。これを1500℃で10分間、続いて1450℃で8時間焼結してプロトン伝導性セラミック層を形成した。最後に裏面をSiC紙で研磨した。
【0051】
<空気極界面機能層の形成>
空気極界面機能層は、パルスレーザー堆積(PLD)法によって形成した。PLD法に用いる各種ターゲット材料を以下のように準備した。
まず空気極界面機能層材料(BLFZ、BCFZY、BPY、LNO、LSC、PBSCFおよびLSC4)の粉末を、クエン酸前駆体法によって合成した。具体的には、クエン酸(C6H7O・H2O、純度99.5%、関東化学製、以下「CA」と称する)をキレート剤として、CAと金属原子の総モル数が 2:1になるように、かつ金属原子の濃度が2mol/dm2となるよう前駆体溶液を調整した。前駆体溶液は、以下の材料を必要な化学量論量比となるようにMilli-Q(登録商標)水の中に添加・溶解した:La(NO3)3・1.5H2O(純度99.99%、関東化学製);Sr(NO3)2(純度98%、関東化学製);Co(NO3)2・6H2O(純度98%、関東化学製);Ba(NO3)2(純度99%、関東化学製);Pr(NO3)3・3H2O(純度99.5%、富士フイルム和光純薬製);Ni(NO3)2・6H2O(純度98%、関東化学製);Fe(NO3)3・9H2O(純度99.9%、富士フイルム和光純薬製);Y(NO3)3・6H2O(純度99.99%、関東化学製);ZrO(NO3)2・2H2O(純度99%、関東化学製);およびZn(NO3)2・6H2O(純度99.9%、富士フイルム和光純薬製)。さらに、前駆体溶液にCAを所定量添加して調整した。この前駆体溶液を80℃で撹拌加熱し、H2Oを蒸発させ、重合を促進して前駆体ゲルを得た。ゲルを500℃で1時間か焼した後、粉砕した前駆体粉末を空気中1000℃で8時間焼成し、各空気極界面機能層材料粉末を得た。
得られた各材料粉末を直径25mm、厚さ5mmのペレットに成形し、続いて1100℃で6時間焼結して、PLD法に用いるターゲットを得た。
【0052】
PLD装置(ULVAC UPS-10000S超真空チャンバーシステム)により、プロトン伝導性セラミック層表面に各空気極界面機能層を形成した。成膜条件として、上記で得た各ターゲットを用いて、基板温度700℃とし、KrFエキシマレーザー(248nm、Coherence Comp109)、102mJ/パルスのエネルギー、21Paの酸素圧、5Hzの繰り返し率で10分間アブレーションした。別途構造解析用に、Si基板表面にも同様の条件で各空気極界面機能層を形成した。
【0053】
<空気極の形成>
実施例1、比較例1および参考例1~6については、市販のLSCFインク(Fuelcellmaterials製)を空気極界面機能層表面(比較例1ではプロトン伝導性セラミック層表面)にスクリーン印刷して空気極を形成した。実施例2~4については、上述のようにして得たPBSCF粉末、SSC粉末(市販品)又はATO粉末(市販品)を、バインダー(α-テルピネオールに溶解した5wt%ステアリン酸アンモニウム)溶液とポリエチレンイミン溶液(20wt%ポリエチレンイミン(Mw:28000)をα-テルピネオールに溶解した液)との1:1混合溶液に分散させることによって、スラリーを調整し、それを空気極界面機能層表面にスクリーン印刷して空気極を形成した。
【0054】
その後、上述の積層体を800℃で焼き付け、さらに700℃で燃料極側と空気極側を、それぞれ60%のH2/Ar=60/40と3%のH2O/Ar=3/97のガスにさらして燃料極のNiOを還元し、実施例1~4、比較例1および参考例1~6のプロトンセラミック可逆セルを得た。
【0055】
<構造解析>
図1Aは、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、SIGMA500、ZEISS)を使用して取得した、Si基板上に形成した実施例1の空気極界面機能層(BLFZ)の表面SEM像である。
図1Aより、実施例1の空気極界面機能層(BLFZ)は、粒子サイズが数十ナノメートルの緻密膜であった。
図1Bの上は、薄膜XRD(Rigaku、RINT-2000)を使用して取得した、Si基板上に形成した実施例1の空気極界面機能層(BLFZ)のXRDパターンであり、
図1Bの下は、文献値のXRDパターン(BaFeO
3-δ PDF#75-0426)である。
図1Bより、実施例1のBLFZ膜のXRDパターンは文献値とよく一致しており、実施例1のBLFZ膜は単相であることがわかった。同様に、参考例1~6の空気極界面機能層も、単相および緻密膜であることを確認した。
【0056】
図2の左は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、SIGMA500、ZEISS)を使用して取得した、実施例1の断面SEM像であり、
図2の右はその拡大像である。
図2の左より、プロトン伝導性セラミック層である高密度のBZCYYb6211電解質膜(厚さ14μm)が、燃料極である多孔質のNi-BZCYYb6211上に均一に形成されていた。また、空気極であるLSCFは、サブ100μmの多孔質層であった。比較例1および参考例1~6の断面SEM像も取得し、同様に空気極、プロトン伝導性セラミック層および燃料極が形成されていることを確認した。
図2の右より、空気極界面機能層であるBLFZ膜は、約140nmの厚さの緻密膜であり、BZCYYb6211電解質膜表面を覆っていた。同様に、参考例1~6の空気極界面機能層も均一膜であることを確認した。
【0057】
図3Aは、電界放出型透過型電子顕微鏡(FE-TEM、Titan3TM G2 60-300)を用いて取得した、実施例1(空気極形成前)の高分解能TEM(HRTEM)像である。
図3Aより、空気極界面機能層(BLFZ膜)とプロトン伝導性セラミック層(BZCYYB6211膜)との界面は非常にシャープであり、相互拡散は起こっていないことがわかった。
図3Bの左上および左下は、
図3Aの異なる2か所の拡大像であり、右上および右下は、それぞれ左上および左下の図に見られる格子縞とは垂直方向の線上におけるコントラストを示す。
図3Bより、BLFZの(110)および(100)結晶面間隔にそれぞれ相当する0.29nmおよび0.40nm間隔の格子縞が確認され、実施例1のBLFZ膜の結晶性は高いことがわかった。これらの格子縞はほぼ全面にわたって確認され、実施例1の空気極界面機能層は、積層方向に平行な断面視において、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物(BLFZ)の面積率が少なくとも90面積%以上であった。また、実施例1の空気極界面機能層は、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物(BLFZ)が積層方向の一方の表面からもう一方の表面まで連続した部分を有していた。
図3Cは、上記FE-TEMに付属のEDS装置を用いて取得した、実施例1(空気極形成前)のエネルギー分散型X線分光法(EDX)マッピングである。実施例1の空気極界面機能層はBa
0.95La
0.05Fe
0.8Zn
0.2O
3-δ膜であり、その金属原子(Ba、La、FeおよびZn)は均一に分布しており、編組偏析などは起こっていないことがわかった。
【0058】
<プロトンセラミック可逆セル特性評価>
実施例、比較例および参考例のプロトンセラミック可逆セル特性は、電気化学評価装置を備えたテストステーション(Solartron 1260A/1287)を用いて評価した。なお、いずれの測定においても、20%O2/Ar=20/80混合ガスを総流量40sccmで70℃水に通し、30%H2Oガスを含んだ空気に調製して空気極に導入し、25℃水中で10%H2/Ar=10/90混合ガスを総流量30sccmでバブリングすることによって調製した加湿水素ガスを燃料極側に供給して、測定した。
【0059】
図4は、実施例1(BLFZ)、比較例1(NoAFL)、参考例1(BCFZY)、参考例2(BPY)、参考例3(LNO)、参考例4(LSC)、参考例5(PBSCF)および参考例6(LSC4)の、各温度における開回路電圧(OCV)を示す。
図4に示すように、実施例1は、各温度において、比較例1(すなわち空気極界面機能層が無く、従来技術に相当する例)よりも高いOCVを示し、燃料電池としての特性が良好であった(例えば、600℃において、比較例1のOCVは0.91Vであるのに対し実施例1のOCVは0.94Vであった)。これは実施例1が比較例1よりも電子リークが少ないことに起因する。
【0060】
図5は、比較例1の電流-電圧(I-V)特性を示し、
図6は実施例1の電流-電圧(I-V)特性を示す。なお、燃料電池としてのI-V特性は、負の電流密度側で示され、水蒸気電解セルとしてのI-V特性は正の電流密度側で示される。
【0061】
まず、負の電流密度側(燃料電池)についてみると、実施例1(
図6)は、500~700℃の各温度において、比較例1(
図5)よりも、電流密度増大(図中左方向)に伴う電圧降下が小さく、燃料電池としての特性が良好であった。
【0062】
次に正の電流密度側(水蒸気電解セル)についてみると、実施例1(
図6)は、500~700℃の各温度において、比較例1(
図5)よりも電解電流密度が高く、水蒸気電解セルとしての特性が良好であった(例えば、600℃において、実施例1の1.3Vでの電解電流密度は570mA/cm
2であり、比較例1の対応する電解電流密度よりも高い値であった)。
【0063】
図7は、実施例1(BLFZ)、比較例1(NoAFL)、参考例1(BCFZY)、参考例2(BPY)、参考例3(LNO)、参考例4(LSC)、参考例5(PBSCF)および参考例6(LSC4)の1.3Vでの電解電流密度の比較である。実施例1(BLFZ)は、参考例も含めて、550℃以下で最大の電解電流密度を示した。600℃以上では、実施例1(BLFZ)よりも、参考例5(PBSCF)および参考例6(LSC4)の方が高い電解電流密度を示した。ただし、後述するように、参考例5および6はファラデー効率が低く、ファラデー効率を考慮すると、実施例1が水蒸気電解セルとしてより良好な特性を示していた。なお、比較例1において、空気極(LSCF)をBLFZに変更しても、良好な特性は得られなかった。
【0064】
次に、実施例1の空気極(二重伝導性材料LSCF)を、n型半導体であるATO(実施例2)、二重伝導性材料であるSSC(実施例3)および三重伝導性材料であるPBSCF(実施例4)に変更して、水蒸気電解セルとしてのI-V特性を評価した。
図8は、実施例2(空気極:ATO)のI-V特性である。実施例1と比較して、電解電流密度は低い結果となった。
図9は、実施例3(空気極:SSC)のI-V特性である。実施例1と比較して、電解電流密度は略同等の結果となった。
図10は、実施例4(空気極:PBSCF)のI-V特性である。実施例1と比較して、電解電流密度は高い結果となった。これらの結果から、空気極が二重伝導性材料のうちいずれか一種以上及び/又は三重伝導性材料のうちいずれか一種以上を含むことが好ましく、三重伝導性材料のうちいずれか一種以上を含むことがより好ましいことが分かった。
【0065】
次に、500及び/又は600°Cの定電流条件下で水素発生量(水素放出速度)を定量することによってファラデー効率(η)を評価した。
図11Aは、比較例1の600℃、314mA/cm
2における水素放出速度(2つの右軸のうち左側、「+」のプロット)およびファラデー効率(2つの右軸のうち右側、「〇」のプロット)の時間変化を示し、
図11Bは、500℃、70mA/cm
2における水素放出速度およびファラデー効率の時間変化を示している。なお、電流値は、実線で示す電圧値(左軸)が1.3Vとなるように設定した。
図11Aおよび
図11Bから分かるように、比較例1は、600℃においてファラデー効率が31%であり、500℃において46%であった。
図12Aは、実施例1の600℃、570mA/cm
2における水素放出速度およびファラデー効率の時間変化を示し、
図12Bは、500℃、214mA/cm
2における水素放出速度およびファラデー効率の時間変化を示している。なお、電流値は、実線で示す電圧値が1.3Vとなるように設定した。
図12Aおよび
図12Bから分かるように、実施例1は、600℃においてファラデー効率が45%であり、500℃において75%であり、比較例1よりも良好な特性を示した。
【0066】
図13は、参考例6(LSC4)の500℃、128mA/cm
2における水素放出速度およびファラデー効率の時間変化を示し、
図14は、参考例5(PBSCF)の500℃、142mA/cm
2における水素放出速度およびファラデー効率の時間変化を示している。上述したように、600℃以上のI-V特性評価において、実施例1(BLFZ)よりも、参考例5(PBSCF)および参考例6(LSC4)の方が高い電解電流密度を示した。しかし、
図13および
図14からわかるように、ファラデー効率は30%(参考例6)および27%(参考例5)と、実施例1よりも低い値を示した。よって、ファラデー効率を考慮すると、実施例1が水蒸気電解セルとしてより良好な特性を示したといえる。
【0067】
図15A~
図15Cは、実施例4(空気極:PBSCF、空気極界面機能層:BLFZ))の600℃、743mA/cm
2(
図15A)、600℃、1143mA/cm
2(
図15B)ならびに500℃、214mA/cm
2(
図15C)における水素放出速度およびファラデー効率の時間変化を示している。実施例4は、
図12Aおよび
図12Bで示される実施例1(空気極:LSCF、空気極界面機能層:BLFZ)のファラデー効率よりも高いファラデー効率を示しており、水蒸気電解セルとしてさらに良好な特性を示した。
【0068】
図16は、実施例1(BLFZ-AFL)、実施例4(PBSCF/BLFZ-AFL)、比較例1(NoAFL)、参考例2(BPY-AFL)、参考例5(PBSCF-AFL)および参考例6(LSC4-AFL)の電解電流密度とファラデー効率の関係を示す。電解電流密度が高く、且つファラデー効率が高い方(すなわち図中右上の方にプロットがある方)が水蒸気電解セルとしての性能が優れているといえる。一般に、電解電流密度の増大に伴い、リーク電流が発生しやすくなり、ファラデー効率が低下し得るところ、黒丸で示す実施例1は、黒菱形で示す比較例1よりも高電解電流密度・高ファラデー効率を示した。また、参考例の中では参考例2が良好な特性であったが、実施例1はそれよりも高電解電流密度・高ファラデー効率を示した。さらに、空気極を二重伝導性材料(LSCF)から三重伝導性材料(PBSCF)に変更した実施例4は、実施例1よりもさらに高電解電流密度・高ファラデー効率を示した。