(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146985
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリエステル組成物、接着剤、樹脂フィルム、積層体、カバーレイフィルム、樹脂付き銅箔、金属張積層板及び回路基板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20231004BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20231004BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20231004BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20231004BHJP
C09J 167/02 20060101ALI20231004BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20231004BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20231004BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20231004BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H05K1/03 610M
C08L67/00
C08K3/22
C09J11/04
C09J167/02
B32B15/09 Z
B32B15/20
B32B27/20 Z
B32B27/36
H05K1/03 670
H05K1/03 610R
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054477
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 祥人
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AA17A
4F100AB17B
4F100AB33B
4F100AK41A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA23A
4F100DC22B
4F100DE01A
4F100GB43
4F100JA05
4F100JA07
4F100JB16A
4F100JG04A
4F100JG05
4F100JJ03A
4F100YY00A
4J002CF011
4J002CF031
4J002CF041
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF071
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4J002DE076
4J002FD010
4J002FD016
4J002GH01
4J002GJ01
4J002GQ01
4J040ED031
4J040HA156
4J040LA09
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】熱可塑性ポリエステルを用い、誘電特性を損なうことなく、半田耐熱性に優れた絶縁樹脂層を形成可能な熱可塑性ポリエステル組成物を提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性ポリエステル、及び、(B)平均粒子径が30nm~10μmの範囲内である酸化マグネシウムフィラー、を含有するとともに、(A)成分と(B)成分の合計量に対する(B)成分の含有量が1~50重量%の範囲内であり、前記(B)成分はX線回折測定において水酸化マグネシウムに由来するピークが検出されないことを特徴とする熱可塑性ポリエステル組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)熱可塑性ポリエステル、及び
(B)平均粒子径が30nm~10μmの範囲内である酸化マグネシウムフィラー、
を含有するとともに、前記(A)成分と前記(B)成分の合計量に対する前記(B)成分の含有量が1~50重量%の範囲内であり、
前記(B)成分は、X線回折測定において水酸化マグネシウムに由来するピークが検出されないことを特徴とする熱可塑性ポリエステル組成物。
【請求項2】
前記酸化マグネシウムフィラーは、酸化マグネシウムを95.0重量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル組成物。
【請求項3】
前記酸化マグネシウムフィラーは、熱重量分析測定において毎分10℃の昇温速度で30℃から450℃まで加熱したときの350℃での重量減少率が2%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性ポリエステル組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリエステルが脂肪族ジカルボン酸残基又は脂肪族ジオール残基を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル組成物。
【請求項5】
前記脂肪族ジカルボン酸残基がダイマー酸残基であり、前記脂肪族ジオール残基がダイマージオール残基であることを特徴とする請求項4に記載の熱可塑性ポリエステル組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル組成物を含むことを特徴とする接着剤。
【請求項7】
高周波信号を送受信もしくは伝送する電子機器に用いられることを特徴とする請求項6に記載の接着剤。
【請求項8】
フィラー含有熱可塑性樹脂層を含む樹脂フィルムであって、
前記フィラー含有熱可塑性樹脂層が、下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)熱可塑性ポリエステル、及び
(B)平均粒子径が30nm~10μmの範囲内である酸化マグネシウムフィラー、
を含有するとともに、前記(A)成分と前記(B)成分の合計量に対する前記(B)成分の含有量が1~50重量%の範囲内であり、
前記(B)成分は、X線回折測定において水酸化マグネシウムに由来するピークが検出されないことを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項9】
前記酸化マグネシウムフィラーは、酸化マグネシウムを95.0重量%以上含有することを特徴とする請求項8に記載の樹脂フィルム。
【請求項10】
前記酸化マグネシウムフィラーは、熱重量分析測定において毎分10℃の昇温速度で30℃から450℃まで加熱したときの350℃での重量減少率が2%以下であることを特徴とする請求項8又は9に記載の樹脂フィルム。
【請求項11】
前記熱可塑性ポリエステルが脂肪族ジカルボン酸残基又は脂肪族ジオール残基を含むことを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項12】
前記脂肪族ジカルボン酸残基がダイマー酸残基であり、前記脂肪族ジオール残基がダイマージオール残基であることを特徴とする請求項11に記載の樹脂フィルム。
【請求項13】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面に積層された接着剤層と、を有する積層体であって、
前記接着剤層が、請求項8から12のいずれか1項に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とする積層体。
【請求項14】
カバーレイ用フィルム材層と、該カバーレイ用フィルム材層に積層された接着剤層とを有するカバーレイフィルムであって、
前記接着剤層が、請求項8から12のいずれか1項に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とするカバーレイフィルム。
【請求項15】
接着剤層と銅箔とを積層した樹脂付き銅箔であって、
前記接着剤層が、請求項8から12のいずれか1項に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とする樹脂付き銅箔。
【請求項16】
絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を有する金属張積層板であって、
前記絶縁樹脂層の少なくとも1層が、請求項8から12のいずれか1項に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とする金属張積層板。
【請求項17】
請求項16に記載の金属張積層板の前記金属層を配線加工してなる回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板等の回路基板において接着剤として有用な熱可塑性ポリエステル組成物、樹脂フィルム、積層体、カバーレイフィルム、樹脂付き銅箔、金属張積層板及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)の需要が増大している。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、例えば、HDD、DVD、携帯電話等の電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大しつつある。
【0003】
上述した高密度化に加えて、機器の高性能化が進んだことから、伝送信号の高周波化への対応も必要とされている。情報処理や情報通信においては、大容量情報を伝送・処理するために伝送周波数を高くする取り組みが行われており、プリント基板材料は絶縁層の薄化と絶縁樹脂層の誘電特性の改善による伝送損失の低下が求められている。今後は、高周波化に対応可能なFPCや接着剤が求められ、伝送損失の低減が重要となる。プリント基板材料の誘電特性の改善については、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体に、重合性不飽和結合を有する表面処理剤で表面処理された球状シリカを配合した樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
ところで、熱可塑性ポリエステルは、その優れた射出成形性や機械物性などの諸特性を生かし、機械機構部品、電気・電子部品および自動車部品などの幅広い分野に利用されており、超高速・大容量・超低遅延通信に対応する次世代高速通信アンテナや、自動車自動運転に対応する車載レーダーなどの高周波対応部材への適用が期待されている。そのため、熱可塑性ポリエステルの電気的特性として、誘電損失を抑制できる低誘電性(低比誘電率化、低誘電正接化)が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2019/026927号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、絶縁樹脂層へのフィラーの配合は、金属層や他の絶縁樹脂層との接着性を弱める方向に作用する。FPCなどの回路基板において、絶縁樹脂層と配線層との密着性が低いと、配線のずれや剥離などが生じて回路基板の信頼性の低下を招くおそれがある。したがって、回路基板においては、絶縁樹脂層と配線層との密着性を保つことが非常に重要であり、半田耐熱性を担保することが求められている。また、熱可塑性ポリエステルは、分子構造中の極性基に起因して高周波数帯での誘電損失が生じることから、低誘電化には限界があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、熱可塑性ポリエステルを用い、誘電特性を損なうことなく、半田耐熱性に優れた絶縁樹脂層を形成可能な樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱可塑性ポリエステル組成物は、下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)熱可塑性ポリエステル、及び
(B)平均粒子径が30nm~10μmの範囲内である酸化マグネシウムフィラー、
を含有するとともに、前記(A)成分と前記(B)成分の合計量に対する前記(B)成分の含有量が1~50重量%の範囲内であり、前記(B)成分はX線回折測定において水酸化マグネシウムに由来するピークが検出されないことを特徴とする。
【0009】
本発明の樹脂フィルムは、フィラー含有熱可塑性樹脂層を含む樹脂フィルムであって、
前記フィラー含有熱可塑性樹脂層が、下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)熱可塑性ポリエステル、及び
(B)平均粒子径が30nm~10μmの範囲内である酸化マグネシウムフィラー、
を含有するとともに、前記(A)成分と前記(B)成分の合計量に対する前記(B)成分の含有量が1~50重量%の範囲内であり、前記(B)成分はX線回折測定において水酸化マグネシウムに由来するピークが検出されないことを特徴とする。
【0010】
本発明の熱可塑性ポリエステル組成物及び樹脂フィルムにおいて、前記酸化マグネシウムフィラーは、酸化マグネシウムを95.0重量%以上含有するものであってもよい。
【0011】
本発明の熱可塑性ポリエステル組成物及び樹脂フィルムにおいて、前記酸化マグネシウムフィラーは、熱重量分析測定において毎分10℃の昇温速度で30℃から450℃まで加熱したときの350℃での重量減少率が2%以下であってもよい。
【0012】
本発明の熱可塑性ポリエステル組成物及び樹脂フィルムは、前記熱可塑性ポリエステルが脂肪族ジカルボン酸残基又は脂肪族ジオール残基を含むものであってもよく、前記脂肪族ジカルボン酸残基がダイマー酸残基であり、前記脂肪族ジオール残基がダイマージオール残基であってもよい。
【0013】
本発明の接着剤は、上記熱可塑性ポリエステル組成物を含むものであり、高周波信号を送受信もしくは伝送する電子機器で用いられることが好ましい。
【0014】
本発明の積層体は、基材と、前記基材の少なくとも一方の面に積層された接着剤層と、を有する積層体であって、前記接着剤層が、上記樹脂フィルムからなることを特徴とする。
【0015】
本発明のカバーレイフィルムは、カバーレイ用フィルム材層と、該カバーレイ用フィルム材層に積層された接着剤層とを有するカバーレイフィルムであって、前記接着剤層が、上記樹脂フィルムからなることを特徴とする。
【0016】
本発明の樹脂付き銅箔は、接着剤層と銅箔とを積層した樹脂付き銅箔であって、前記接着剤層が、上記樹脂フィルムからなることを特徴とする。
【0017】
本発明の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を有する金属張積層板であって、前記絶縁樹脂層の少なくとも1層が、上記樹脂フィルムからなることを特徴とする。
【0018】
本発明の回路基板は、上記金属張積層板の前記金属層を配線加工してなるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱可塑性ポリエステル組成物は、熱可塑性ポリエステルと平均粒子径が30nm~10μmの範囲内である酸化マグネシウムフィラーを含有しているので、低い誘電正接を維持しながら、実用上十分な半田耐熱性を有する接着性に優れた樹脂フィルムを形成することができる。従って、本発明の熱可塑性ポリエステル組成物及び樹脂フィルムは、例えば、高速信号伝送を必要とする電子機器において、FPC等の回路基板材料として特に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】試験例1の熱重量分析測定の結果を示すチャートである。
【
図2】試験例2のX線回折測定の結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
[熱可塑性ポリエステル組成物]
本発明の熱可塑性ポリエステル組成物(以下、単に「樹脂組成物」と記すことがある)は、下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)熱可塑性ポリエステル、及び
(B)平均粒子径が30nm~10μmの範囲内である酸化マグネシウムフィラー、
を含有する。
【0023】
<(A)成分:熱可塑性ポリエステル>
(A)成分の熱可塑性ポリエステルは、非液晶性のポリエステルが好ましく、非液晶性とは溶融時に異方性を示さないものを指す。また、熱可塑性ポリエステルは、ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体及びジオール若しくはそのエステル形成性誘導体、ヒドロキシカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体、並びにラクトンからなる群より選択される少なくとも1種の残基を主たる構造単位とする重合体又は共重合体である。ここで、主たる構造単位とは、全構造単位中、上記からなる群より選択される少なくとも1種の残基を50モル%以上含有することを意味し、好ましくはそれらの残基を80モル%以上有することを意味する。機械特性や耐熱性の観点から、ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体及びジオールもしくはそのエステル形成性誘導体の残基を主たる構造単位とする重合体又は共重合体が好ましい。
【0024】
ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、1,4-アントラセンジカルボン酸、1,5-アントラセンジカルボン酸、1,8-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸(水添ダイマー酸を含む)などの脂肪族ジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。また、エステル形成が可能であれば、これらの誘導体(エステル形成性誘導体)であってもよい。これらは、単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0025】
また、上記のジオールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオール(水添ダイマージオールを含む)などの炭素数2~20の脂肪族または脂環式グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200~100,000の長鎖グリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの芳香族ジオキシ化合物などが挙げられる。また、エステル形成が可能であれば、これらの誘導体(エステル形成性誘導体)であってもよい。単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0026】
熱可塑性ポリエステルは、脂肪族ジカルボン酸残基及び脂肪族ジオール残基の少なくとも1種を熱可塑性ポリエステルの主たる構造単位とすることで、熱可塑性ポリエステルの誘電特性を改善させるとともに、ガラス転移温度の低温化(低Tg化)による熱圧着特性の改善及び低弾性率化により内部応力の緩和を図ることができる。このような観点から、脂肪族ジカルボン酸残基としてはダイマー酸残基が好ましく、脂肪族ジオール残基としてはダイマージオール残基が好ましい。
【0027】
ダイマー酸とは、炭素数10~26の不飽和脂肪酸の二量体を主成分とするものであり、好ましくは炭素数12~24の不飽和脂肪酸の二量体、さらに好ましくは炭素数14~22の不飽和脂肪酸の二量体である。具体的には、例えばオレイン酸やリノール酸、リノレン酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸から誘導されるジカルボン酸である。なお、ここで「主成分」とは、その成分の含有量が90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%である成分を意味する。
【0028】
ダイマー酸由来の骨格は、巨大分子の脂肪族であるので、分子のモル体積を大きくし、熱可塑性ポリエステルの極性基を相対的に減らすことができる。このようなダイマー酸の特徴は、熱可塑性ポリエステルの耐熱性の低下を抑制しつつ、比誘電率と誘電正接を小さくして誘電特性を向上させることに寄与すると考えられる。また、2つの自由に動く炭素数7~9の疎水鎖と、炭素数18に近い長さを持つ2つの鎖状の脂肪族基とを有するので、熱可塑性ポリエステルに柔軟性を与えるのみならず、熱可塑性ポリエステルを非対称的な化学構造や非平面的な化学構造とすることができるので、熱可塑性ポリエステルの低誘電率化を図ることができると考えられる。
【0029】
熱可塑性ポリエステルの共重合成分として、ダイマー酸を用いる場合の含有量は、ジカルボン酸を含む多価カルボン酸全体に対して10~100モル%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは20~99モル%の範囲内、さらに好ましくは35~90モル%の範囲内、最も好ましくは50~80モル%の範囲内である。ダイマー酸の含有量が10モル%未満であると柔軟性が低下する傾向になる。
【0030】
ダイマージオールは、一般的にダイマー酸から誘導されるジオールであり、熱可塑性ポリエステルの共重合成分としてダイマージオールを用いる場合の含有量は、ジオールを含む多価アルコール全体に対して5~100モル%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10~80モル%範囲内、さらに好ましくは15~50モル%の範囲内である。ダイマージオールの含有量が5モル%未満であると柔軟性が低下する傾向になる。
【0031】
全ジカルボン酸残基及び全ジオール残基の合計に対するダイマー酸残基及びダイマージオール残基の合計の含有量は、5~100モル%の範囲内が好ましく、より好ましくは10~80モル%の範囲内、更に好ましくは20~70モル%の範囲内がよい。ダイマー酸残基及びダイマージオール残基の合計の含有量が5モル%未満であると、吸湿性が高くなったり、誘電特性が悪化したりする傾向となる。
【0032】
また、ダイマー酸残基及びダイマージオール残基の合計の含有量に対するダイマージオール残基の含有量のモル比率は、0.6以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上、最も好ましくは1がよい。このようなモル比率とすることで、湿熱環境下での長期耐久性が向上する。
【0033】
熱可塑性ポリエステル全体に対するダイマー酸残基及びダイマージオール残基の合計の含有量は、10~80重量%の範囲内が好ましく、より好ましくは20~70重量%の範囲内、更に好ましくは30~60重量%の範囲内がよい。ダイマー酸残基及びダイマージオール残基の合計の含有量が10重量%未満であると、吸湿性が高くなったり、誘電特性が悪化したりする傾向となる。
【0034】
また、機械物性及び耐熱性をより向上させる観点から、熱可塑性ポリエステルの構造単位として芳香族ジカルボン酸残基及び芳香族ジオール残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基、フランジカルボン酸残基を含むことがより好ましく、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基を含むことが特に好ましい。
【0035】
熱可塑性ポリエステルの共重合成分として、芳香族ジカルボン酸を用いる場合の含有量は、多価カルボン酸全体に対して、1モル%以上50モル%未満の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5~45モル%の範囲内、さらに好ましくは10~40モル%の範囲内、特に好ましくは20~40モル%の範囲内がよい。芳香族ジカルボン酸の含有量が1モル%未満であると凝集力が低下することで、接着力が低下して十分な接着性能が得られなくなる傾向となる。一方、芳香族ジカルボン酸の含有量が50モル%以上であると初期接着性(タック性)が低下する傾向となる。
【0036】
熱可塑性ポリエステルの共重合成分として、芳香族ジオールを用いる場合の含有量は、多価アルコール全体に対して、1~50モル%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5~40モル%の範囲内、さらに好ましくは10~30モル%の範囲内がよい。芳香族ジオールの含有量が1モル%未満であると凝集力が低下することで、接着力が低下して十分な接着性能が得られなくなる傾向となる。一方、芳香族ジカルボン酸の含有量が50モル%を超えると初期接着性が低下する傾向となる。
【0037】
また、分岐骨格を導入する目的で、熱可塑性ポリエステルの構造単位として3官能以上の多価カルボン酸残基及び3官能以上の多価アルコール残基からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましい。特に、硬化剤と反応させて硬化塗膜を得る場合、分岐骨格を導入することによって、樹脂の末端基濃度(反応点)が増え、架橋密度が高い、強度な塗膜を得ることができる。
【0038】
多価カルボン酸残基全体に対する3官能以上の多価カルボン酸残基の含有量、又は多価アルコール残基全体に対する3官能以上の多価アルコール残基の含有量は、それぞれ好ましくは0.1~5モル%の範囲内、より好ましくは0.3~3モル%の範囲内、さらに好ましくは0.5~2モル%の範囲内がよい。これらを上記範囲内とすることで、塗膜の破断点伸度等の力学物性を向上させ接着力を向上させることができる。
【0039】
熱可塑性ポリエステルの共重合成分として用いることができる3官能以上の多価カルボン酸としては、例えばトリメリット酸、トリメシン酸、エチレングルコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、2,2’-ビス[ (ジカルボキシフェノキシ)フェニル] プロパン二無水物等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
また、熱可塑性ポリエステルの共重合成分として用いることができる3官能以上の多価アルコール類としては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
熱可塑性ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは8,000~300,000の範囲内、より好ましくは20,000~200,000の範囲内、さらに好ましくは30,000~100,000の範囲内がよい。重量平均分子量が8,000未満であると、低吸湿性、タックフリー性、湿熱環境下での長期耐久性が不十分となり、例えば金属張積層板や配線基板等の積層板を作製する際のプレス加工時に接着剤層が流動し染み出してしまう等の不具合が生じる傾向となる。一方、重量平均分子量が300,000を超えると、初期接着性が不十分となり、塗布時の溶液粘度が高すぎて、均一な塗膜が得られ難くなる傾向となる。このような観点から、熱可塑性ポリエステルのピークトップ分子量(Mp)は、5,000~150,000の範囲内が好ましく、より好ましくは10,000~100,000の範囲内、さらに好ましくは20,000~70,000の範囲内がよい。
【0042】
熱可塑性ポリエステルの吸水率は、2重量%以下が好ましく、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.8重量%以下がよい。吸水率が高すぎると湿熱耐久性や絶縁信頼性が低下し、また誘電特性が低下する傾向になる。
【0043】
また、低吸湿性や湿熱環境下での長期耐久性の観点から、熱可塑性ポリエステルのエステル結合濃度は、2~7ミリモル/gの範囲内が好ましく、より好ましくは2~6ミリモル/gの範囲内、さらに好ましくは3~5ミリモル/gの範囲内がよい。エステル結合濃度が低すぎると、初期接着性が不十分となる。なお、例えば、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、エーテル基、カーボネート基等の極性基の濃度は、低吸湿性、湿熱環境下での長期耐久性及び誘電特性を低下させるので低い方が好ましく、これらの極性基の合計の濃度が3ミリモル/g以下が好ましく、より好ましくは2ミリモル/g以下、更に好ましくは1ミリモル/g以下がよい。
【0044】
熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度は、10~130℃の範囲内が好ましい。ガラス転移温度が低すぎると、初期接着性やタックフリー性が不十分となる傾向となり、ガラス転移温度高すぎると、初期接着性や屈曲性が不十分となる傾向になる。
【0045】
熱可塑性ポリエステルは周知の方法により製造することができる。例えば多価カルボン酸類と多価アルコール類とを、必要に応じて触媒の存在下で、エステル化反応に付してプレポリマーを得た後、重縮合を行い、更に解重合を行うことにより製造することができる。エステル化の反応温度は、例えば180~280℃の範囲内であり、反応時間は60分~8時間の範囲内である。また、重縮合における温度は、例えば220~280℃の範囲内であり、反応時間は20分~4時間の範囲内である。なお、重縮合は減圧下で行うことが好ましい。
【0046】
また、接着性向上の観点から、解重合は、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸を用いることが好ましい。このような多価カルボン酸としては、例えばトリメリット酸、トリメリット酸無水物、水添トリメリット酸無水物、トリメシン酸等が挙げられる。これらの中でも、酸無水物基数が1である3価以上の多価カルボン酸が好ましく、例えばトリメリット酸無水物、水添トリメリット酸無水物等が挙げられ、トリメリット酸無水物が特に好ましい。解重合の温度は、例えば200~260℃の範囲内であり、反応時間は10分~3時間の範囲内である。また、熱可塑性ポリエステルを構成する全多価カルボン酸100モル部に対し、3価以上の多価カルボン酸を20モル部以上用いると、分子量が大きく低下することがあるため、20モル部未満とすることが好ましく、より好ましくは1~15モル部の範囲内、さらに好ましくは2~10モル部の範囲内がよい。
【0047】
<(B)成分:酸化マグネシウムフィラー>
(B)成分の酸化マグネシウムフィラーは、酸化マグネシウム(MgO;マグネシア)を主成分とするフィラーであり、酸化マグネシウムを95.0重量%以上、好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上、最も好ましくは99.9重量%以上含有する。フィラーを構成する酸化マグネシウムの純度が高いほど、平均粒子径が小さくても分散性に優れ、低い誘電正接を維持しながら、半田耐熱性を向上させる効果が得られやすい。フィラーを形成している酸化マグネシウムは、単結晶でも多結晶でもよいが、平均粒子径が小さくても優れた分散性が得られる点で単結晶が好ましい。樹脂組成物に酸化マグネシウムフィラーを配合することによって、樹脂フィルムを形成したときの誘電正接を悪化させることなく、半田耐熱性を増強させることができる。
【0048】
また、酸化マグネシウムフィラーは、平均粒子径が、30nm~10μmの範囲内であり、好ましくは30nm~10μm未満の範囲内、より好ましくは30nm~5μmの範囲内、さらに好ましくは30nm~1μmの範囲内、最も好ましくは40nm~300nmの範囲内である。この範囲内であれば、樹脂フィルムを形成したときに誘電特性を悪化させずに、半田耐熱性を効果的に向上させることが可能となる。平均粒子径が30nm未満であると、分散性が低下し、樹脂フィルムの形成が困難となる場合や、樹脂フィルムを形成したときに均一に分散させることが困難になって、誘電特性の悪化や、半田耐熱性の低下を引き起こすおそれがある。平均粒子径が10μmを超えると、フィルムを形成したときに周辺の樹脂収縮による応力の増加で空隙が生じ、またフィルムの表面の凹凸として現れフィルム表面の平滑性を悪化させることがある。ここで、粒子径が0.4μm未満の酸化マグネシウムフィラーに対してはBET換算粒子径を適用し、粒子径が0.4μm以上の酸化マグネシウムフィラーに対してはレーザー回折法による体積基準の粒度分布測定によって得られる粒子径を適用する。
【0049】
特に、平均粒子径(ここでの平均粒子径はBET換算粒子径を意味し、以下「BET換算粒子径」という。)が30nm~300nmの範囲内の酸化マグネシウムフィラーは、小さな粒子径であるにも関わらず、樹脂組成物(樹脂溶液)中及び樹脂フィルム中での分散性に優れており、半田耐熱性を向上させる効果が大きいので最も好ましい。BET換算粒子径が30nm~300nmの範囲内の酸化マグネシウムフィラーが半田耐熱性の向上に有効である理由は未だ明らかではないが、以下の(1)~(3)のような推測が可能である。
(1)粒子径が小さいためにマトリックス樹脂である熱可塑性ポリエステル中に分散した状態で応力の過度な集中が起きず、クレーズ(細かいひび割れ)は生じるが、大きなクラックが発生し難いこと。
(2)マトリックス樹脂が変形したとき、フィラー粒子の周囲に多数の小さな空孔が形成され、これら多数の空孔によって伸度が向上し、その結果、応力の集中が緩和され、クレーズも安定化されること。
(3)酸化マグネシウムフィラーは熱膨張係数(CTE)が約13ppm/Kと低いため、高温下で樹脂フィルムの熱膨張を抑制して金属層との界面の応力を緩和できること。
【0050】
BET換算粒子径が30nm~300nmの範囲内の酸化マグネシウムフィラーは、高純度の金属マグネシウム蒸気と酸素とを気相酸化反応させて結晶核を生成させ、この結晶核を成長させることによって製造される。そのため、単結晶で酸化マグネシウムの純度が高いことから、上記特性を有するものと考えられる。
【0051】
一方、電子材料分野で汎用されている酸化アルミニウム(アルミナ)フィラーの場合、酸化マグネシウムフィラーに比べて界面エネルギーが高いため、BET換算粒子径が30nm~300nmの範囲内の粒子径ではハンドリング性が悪く、ポリイミドへの適用が困難であることや、樹脂とのぬれ性が悪く、空孔が存在しても安定していないため、酸化マグネシウムフィラーのような半田耐熱性の向上効果が得られないと考えられる。
【0052】
なお、酸化マグネシウムフィラーの平均粒子径は、目的によっては200nm~10μmの範囲内であってもよい。また、酸化マグネシウムフィラーの「粒子径」は、球状の場合はその直径に基づいて算出することが可能であり、板状など他の形状の場合は、フィラー粒子の長径に基づいて算出することができる。
【0053】
また、後記試験例に示すように、酸化マグネシウムフィラーは、X線回折(XRD)測定において、酸化マグネシウムに由来するピークが検出され、水酸化マグネシウムに由来するピークが検出されないものである。X線回折法によって酸化マグネシウムフィラーを測定した場合、水酸化マグネシウムに由来するピークが検出されないことで、酸化マグネシウムフィラーが実質的に水酸化マグネシウムを含有しない、と判断できる。ここで、「実質的に水酸化マグネシウムを含有しない」とは、酸化マグネシウムフィラー中の水酸化マグネシウムの含有量が0.1重量%以下であることを意味する。
【0054】
さらに、後記試験例に示すように、酸化マグネシウムフィラーは、熱重量分析測定において毎分10℃の昇温速度で30℃から450℃まで加熱したときの350℃での重量減少率が2%以下であることが好ましく、1.8%以下であることがより好ましい。この温度範囲の重量減少率が2%以下であるということは、水酸化マグネシウム[Mg(OH)2]の脱水分解がほとんど生じていないことを意味し、酸化マグネシウムフィラー中の水酸化マグネシウムの含有量がごく僅かであることを意味する。ここで、水酸化マグネシウムは、その製造過程で混入したり、製造後の保管中に環境湿度の影響で酸化マグネシウムの表面が水和して生じたりするものであるが、本発明では、水酸化マグネシウム含有量を極力低減させた酸化マグネシウムフィラーを用いることが好ましい。
【0055】
また、酸化マグネシウムフィラーの形状は、特に限定されるものではなく、例えば、板状、球状、立方体に代表される多面体状などであってよい。ここで「板状」とは、例えば、扁平状、平板状、薄片状、鱗片状等を含む意味で用い、フィラーの厚みが、平面部分の長径又は短径より十分に小さいもの、好ましくは1/2以下であるものをいう。
【0056】
酸化マグネシウムフィラーは表面処理を施しても良い。表面処理には公知の技術を用いることができ、例えばコロナ処理、プラズマ処理、UV処理などによる改質や、シランカップリング剤等を用いた官能基化処理などが好ましい。酸化マグネシウムフィラーを表面処理することによって、溶剤もしくはポリアミド酸との親和性を向上させたり、フィラー粒子どうしの反発力を向上させたりすることが可能になり、酸化マグネシウムフィラーの分散性、ワニスの長期安定性が向上する。
【0057】
酸化マグネシウムフィラーは、市販品を適宜選定して用いることができる。市販の酸化マグネシウムフィラーとして、例えば、宇部マテリアルズ社製の高純度超微粉マグネシア2000A(商品名)、同500A(商品名)、RF-10CS(商品名)、RF-10CS―SC(商品名)などを使用することができる。
【0058】
[配合量]
樹脂組成物における(A)成分と(B)成分の合計量に対する(B)成分の重量比率は、1~50重量%の範囲内であり、10~45重量%の範囲内が好ましく、15~40重量%の範囲内がより好ましい。(A)成分と(B)成分の合計量に対する(B)成分の重量比率が1重量%未満では、半田耐熱性の改善が不十分となる場合がある。一方、(B)成分の重量比率が50重量%を超えると、樹脂フィルムを形成したときの接着性が低下したり、樹脂フィルムが脆くなって折り曲げ性が低下したりする。また、(B)成分の重量比率が50重量%を超えると、樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性が低下する。また、BET換算粒子径が30nm~60nmの範囲内にある酸化マグネシウムフィラーを含有する場合は、酸化マグネシウムフィラーの凝集を抑制する観点から、(A)成分と(B)成分の合計量に対する(B)成分の重量比率は、10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましい。
【0059】
本実施の形態の樹脂組成物には、さらに必要に応じて任意成分として、発明の効果を損なわない範囲で、酸化マグネシウム以外の無機フィラー、有機フィラー、可塑剤、硬化促進剤、カップリング剤、顔料、難燃剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、可塑剤、フラックス、分散剤、乳化剤、低弾性化剤、希釈剤、消泡剤、イオントラップ剤、レベリング剤、触媒などを適宜配合することができる。ここで、酸化マグネシウム以外の無機フィラーとしては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ベリリウム、酸化ニオブ、酸化チタン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、ケイフッ化カリウム、ホスフィン酸金属塩等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、任意成分として、例えばエポキシ樹脂、フッ素樹脂、オレフィン系樹脂などの他の樹脂成分を配合してもよい。
【0060】
さらに、本実施の形態の樹脂組成物は、粘度を適度に調整し、塗膜を形成する際の取り扱いを容易にするために、有機溶剤を配合してもよい。有機溶剤は、樹脂組成物の成形における取り扱い性、作業性を確保するために用いられ、その使用量には特に制限がない。有機溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶剤を2種以上併用することもでき、更にはヘキサン、シクロヘキサンのような飽和炭化水素、キシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。これらは1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0061】
[粘度]
樹脂組成物の粘度は、樹脂組成物を塗工する際のハンドリング性を高め、均一な厚みの塗膜を形成しやすい粘度範囲として、例えば3,000cps~100,000cpsの範囲内とすることが好ましく、5,000cps~50,000cpsの範囲内とすることがより好ましい。上記の粘度範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0062】
[樹脂組成物の調製]
樹脂組成物の調製に際しては、例えば、任意の溶剤を用いて作製した熱可塑性ポリエステルの樹脂溶液に酸化マグネシウムフィラーを直接配合してもよく、一回で酸化マグネシウムフィラーを全量投入してもよいし、数回分けて少しずつ添加してもよい。また、原料も一括で入れてもよいし、数回に分けて少しずつ混合してもよい。
【0063】
[接着剤]
本実施の形態の樹脂組成物は、接着剤(接着用組成物)として有用であり、これを用いて接着剤層を形成した場合に優れた柔軟性と熱可塑性を有するものとなる。したがって、樹脂組成物は、例えばFPC、リジッド・フレックス回路基板などにおいて、接着剤層の材料や、配線部を保護するカバーレイフィルム用接着剤などの用途に好ましい特性を有している。
本発明の接着剤は、高周波信号を送受信もしくは伝送する電子機器で用いられることが好ましく、例えば周波数が1~60GHzの範囲内の高周波信号を送受信もしくは伝送する電子機器において、回路基板材料等の用途に適用できる。
【0064】
また、本実施の形態の樹脂組成物は熱又は光により意図的に硬化させることも可能であり、その硬化の程度は所望の物性、用途に応じて制御することができる。熱により硬化させる場合、例えばエポキシ樹脂を更に含有することが好ましく、エポキシ樹脂中のエポキシ基とポリエステル中のカルボキシ基とを反応させ硬化させることで耐熱性に優れ、接着力だけでなく、半田耐熱性に優れた接着剤層を得ることができる。
【0065】
本実施の形態の樹脂組成物が、エポキシ樹脂を含有する接着剤として適用される場合、熱可塑性ポリエステルの酸価は、3mgKOH/g以上とすることが好ましく、より好ましくは4~60mgKOH/gの範囲内、さらに好ましくは5~40mgKOH/gの範囲内がよい。このような範囲内に制御することで、エポキシ樹脂との架橋点を充足し架橋度が高くできるので、耐熱性を向上させることができる。一方で、酸価を高くしすぎると、誘電特性の低下を生じるため好ましくない。
【0066】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル等の2官能グリシジルエーテルタイプ;フェノールノボラックグリシジルエーテル、クレゾールノボラックグリシジルエーテル等の多官能グリシジルエーテルタイプ;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルタイプ;トリグリシジルイソシアヌレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族又は脂肪族エポキサイド等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0067】
また、本実施の形態の樹脂組成物が、エポキシ樹脂を含有する接着剤として適用される場合、熱可塑性ポリエステルの100重量部に対して、エポキシ樹脂の含有量は、好ましくは1~30重量部の範囲内、より好ましくは2~20重量部の範囲内、さらに好ましくは3~10重量部の範囲内がよい。このような範囲にすることで、耐熱性、湿熱環境下での長期耐久性、初期接着性及び低吸湿性を向上させることができる。なお、エポキシ樹脂の含有量が多くなると誘電特性が低下する傾向になるので好ましくない。
【0068】
本発明の接着剤を硬化又は半硬化させる際の硬化方法は、樹脂組成物中の配合成分や配合量によって適宜調整することが可能であり、通常80~200℃で1分~10時間の加熱条件が挙げられる。
【0069】
また、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物を硬化するに際しては触媒を用いてもよい。このような触媒としては、例えば、2-メチルイミダゾールや1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物;トリエチルアミンやトリエチレンジアミン、N’-メチル-N-(2-ジメチルアミノエチル)ピペラジン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7等の三級アミン類;及びこれらの三級アミン類をフェノールやオクチル酸、四級化テトラフェニルボレート塩等でアミン塩にした化合物;トリアリルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネートやジアリルヨードニウムヘキサフルオロアンチモナート等のカチオン触媒;トリフェニルフォスフィン等が挙げられる。これらのうち、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7や1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7等の三級アミン類;及びこれらの三級アミン類をフェノールやオクチル酸、四級化テトラフェニルボレート塩等でアミン塩にした化合物が、熱硬化性及び耐熱性、金属への接着性、配合後の保存安定性の点で好ましい。その際の配合量は、熱可塑性ポリエステル100重量部に対して0.01~1重量部であることが好ましい。この範囲であれば熱可塑性ポリエステルとエポキシ樹脂との反応に対する触媒効果が一段と増し、強固な接着性能を得ることができる。
【0070】
[樹脂フィルム]
本実施の形態の樹脂フィルムは、フィラー含有熱可塑性樹脂層を含む単層もしくは複数層からなる樹脂フィルムであり、該フィラー含有熱可塑性樹脂層が、上記樹脂組成物の固形分(溶剤を除いた残部)を主要成分としてフィルム化してなるものである。つまり、フィラー含有熱可塑性樹脂層は、(A)成分及び(B)成分;
(A)熱可塑性ポリエステル、及び
(B)平均粒子径が30nm~10μmの範囲内である酸化マグネシウムフィラー、
を含有するとともに、(A)成分と(B)成分の合計量に対する(B)成分の含有量が1~50重量%の範囲内である。本実施の形態の樹脂フィルムは、優れた高周波特性と、優れた接着性(特に半田耐熱性)を有するものであり、FPCなどの回路基板の絶縁樹脂層として好ましく使用できる。なお、回路基板の絶縁樹脂層には、絶縁基材のほかに、接着剤層やカバーレイフィルム材料も含まれる。
【0071】
本実施の形態の樹脂フィルムは、上記のフィラー含有熱可塑性樹脂層を含む絶縁樹脂のフィルムであれば特に限定されるものではなく、絶縁樹脂からなるフィルム(シート)であってもよく、銅箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂シート等の基材に積層された状態の絶縁樹脂のフィルムであってもよい。
【0072】
(厚み)
本実施の形態の樹脂フィルムは、厚みが、例えば5μm以上125μm以下の範囲内が好ましく、8μm以上100μm以下の範囲内であることがより好ましい。樹脂フィルムの厚みが5μmに満たないと、樹脂フィルムの製造等における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがあり、一方、樹脂フィルムの厚みが125μmを超えると樹脂フィルムの生産性低下の虞がある。
【0073】
本実施の形態の樹脂フィルムは、低い誘電正接と優れた接着性を有することから、カバーレイにおける接着剤層、回路基板、多層回路基板、樹脂付き銅箔などにおける接着剤層、ボンドプライ、ボンディングシートなどとして有用である。
【0074】
[積層体]
本発明の一実施の形態に係る積層体は、基材と、この基材の少なくとも一方の面に積層された接着剤層と、を有し、接着剤層が上記樹脂フィルムからなるものである。なお、積層体は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。積層体における基材としては、例えば、銅箔、ガラス板などの無機材料の基材や、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂材料の基材を挙げることができる。
積層体の好ましい態様として、カバーレイフィルム、樹脂付き銅箔などを挙げることができる。
【0075】
[カバーレイフィルム]
積層体の一態様であるカバーレイフィルムは、基材としてのカバーレイ用フィルム材層と、該カバーレイ用フィルム材層の片側の面に積層された接着剤層とを有し、接着剤層が上記樹脂フィルムからなるものである。なお、カバーレイフィルムは、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【0076】
カバーレイ用フィルム材層の材質は、特に限定されないが、例えばポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等のポリイミド系フィルムや、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどを用いることができる。これらの中でも、優れた耐熱性を持つポリイミド系フィルムを用いることが好ましい。また、カバーレイ用フィルム材層は、遮光性、隠蔽性、意匠性等を効果的に発現させるために、黒色顔料を含有することもでき、また誘電特性の改善効果を損なわない範囲で、表面の光沢を抑制するつや消し顔料などの任意成分を含むことができる。
【0077】
カバーレイ用フィルム材層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば5μm以上100μm以下の範囲内が好ましい。
また、接着剤層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば10μm以上75μm以下の範囲内が好ましい。
【0078】
本実施の形態のカバーレイフィルムは、以下に例示する方法で製造できる。
まず、第1の方法として、カバーレイ用のフィルム材層の片面に、溶剤を含有するワニス状の樹脂組成物を塗布した後、例えば80~180℃の温度で乾燥させて接着剤層を形成することにより、カバーレイ用フィルム材層と接着剤層を有するカバーレイフィルムを形成できる。
【0079】
また、第2の方法として、任意の基材上に、溶剤を含有するワニス状の樹脂組成物を塗布し、例えば80~180℃の温度で乾燥した後、剥離することにより、接着剤層用の樹脂フィルムを形成し、この樹脂フィルムを、カバーレイ用のフィルム材層と例えば60~220℃の温度で熱圧着させることによってカバーレイフィルムを形成できる。
【0080】
[樹脂付き銅箔]
積層体の別の態様である樹脂付き銅箔は、基材としての銅箔の少なくとも片側に接着剤層を積層したものであり、接着剤層が上記樹脂フィルムからなるものである。なお、本実施の形態の樹脂付き銅箔は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【0081】
樹脂付き銅箔における接着剤層の厚みは、例えば2~125μmの範囲内にあることが好ましく、2~100μmの範囲内がより好ましい。接着剤層の厚みが上記下限値に満たないと、十分な接着性が担保出来なかったりするなどの問題が生じることがある。一方、接着剤層の厚みが上記上限値を超えると、寸法安定性が低下するなどの不具合が生じる。また、低誘電率化及び低誘電正接化の観点から、接着剤層の厚みを3μm以上とすることが好ましい。
【0082】
樹脂付き銅箔における銅箔の材質は、銅又は銅合金を主成分とするものが好ましい。銅箔の厚みは、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5~25μmの範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から、銅箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。なお、銅箔は圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。
【0083】
樹脂付き銅箔は、例えば、樹脂フィルムに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えば銅メッキによって銅層を形成することによって調製してもよく、あるいは、樹脂フィルムと銅箔とを熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。さらに、樹脂付き銅箔は、銅箔の上に接着剤層を形成するため、樹脂組成物の塗布液をキャストし、乾燥して塗布膜とした後、必要な熱処理を行って調製してもよい。
【0084】
[金属張積層板]
(第1の態様)
本発明の一実施の形態に係る金属張積層板は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を備え、絶縁樹脂層の少なくとも1層が、上記樹脂フィルムからなるものである。なお、本実施の形態の金属張積層板は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【0085】
(第2の態様)
本発明の別の実施の形態に係る金属張積層板は、例えば絶縁樹脂層と、絶縁樹脂層の少なくとも片側の面に積層された接着剤層と、この接着剤層を介して絶縁樹脂層に積層された金属層と、を備えた、いわゆる3層金属張積層板であり、接着剤層が、上記樹脂フィルムからなるものである。なお、3層金属張積層板は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。3層金属張積層板は、接着剤層が、絶縁樹脂層の片面又は両面に設けられていればよく、金属層は、接着剤層を介して絶縁樹脂層の片面又は両面に設けられていればよい。つまり、3層金属張積層板は、片面金属張積層板でもよいし、両面金属張積層板でもよい。3層金属張積層板の金属層をエッチングするなどして配線回路加工することによって、片面FPC又は両面FPCを製造することができる。
【0086】
3層金属張積層板における絶縁樹脂層としては、電気的絶縁性を有する樹脂により構成されるものであれば特に限定はなく、例えばポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ETFEなどを挙げることができる。
【0087】
3層金属張積層板における絶縁樹脂層の厚みは、例えば1~125μmの範囲内にあることが好ましく、5~100μmの範囲内がより好ましい。絶縁樹脂層の厚みが上記下限値に満たないと、十分な電気絶縁性が担保出来ないなどの問題が生じることがある。一方、絶縁樹脂層の厚みが上記上限値を超えると、3層金属張積層板の反りが生じやすくなるなどの不具合が生じる。
【0088】
3層金属張積層板における接着剤層の厚みは、例えば0.1~125μmの範囲内にあることが好ましく、0.3~100μmの範囲内がより好ましい。本実施の形態の3層金属張積層板において、接着剤層の厚みが上記下限値に満たないと、十分な接着性が担保出来なかったりするなどの問題が生じることがある。一方、接着剤層の厚みが上記上限値を超えると、寸法安定性が低下するなどの不具合が生じる。また、絶縁樹脂層と接着剤層との積層体である絶縁層全体の低誘電率化及び低誘電正接化の観点から、接着剤層の厚みは、3μm以上とすることが好ましい。
【0089】
また、絶縁樹脂層の厚みと接着剤層との厚みの比(絶縁樹脂層の厚み/接着剤層の厚み)は、例えば0.1~3.0の範囲内が好ましく、0.15~2.0の範囲内がより好ましい。このような比率にすることで、3層金属張積層板の反りを抑制することができる。また、絶縁樹脂層は、必要に応じて、フィラーを含有してもよい。フィラーとしては、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、有機ホスフィン酸の金属塩等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0090】
[回路基板]
本発明の実施の形態に係る回路基板は、上記いずれかの実施の形態の金属張積層板の金属層を配線加工してなるものである。金属張積層板の一つ以上の金属層を、常法によってパターン状に加工して配線層(導体回路層)を形成することによって、FPCなどの回路基板を製造できる。なお、回路基板は、配線層を被覆するカバーレイフィルムを備えていてもよい。
【実施例0091】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0092】
[エステル結合濃度の測定方法]
エステル結合濃度(ミリモル/g)は、下記の計算式により求めた。なお、多価カルボン酸類と多価アルコール類の各仕込み量が同モル量の場合には、下記の計算式のいずれでもよい。
1)多価カルボン酸類が多価アルコール類よりも少ない場合
エステル基濃度(ミリモル/g)=〔(A1/a1×m1+A2/a2×m2+A3/a3×m3+・・・)/Z〕×1000
A:多価カルボン酸類の仕込み量(g)
a:多価カルボン酸類の分子量
m:多価カルボン酸類の1分子あたりのカルボン酸基の数
Z:出来上がり重量(g)
[なお、A1、A2、・・・、a1、a2、・・・、m1、m2、・・・等における数字は複数種類の多価カルボン酸類を用いる場合の区別のために付している。]
2)多価アルコール類が多価カルボン酸類よりも少ない場合
エステル基濃度(ミリモル/g)=〔(B1/b1×n1+B2/b2×n2+B3/b3×n3+・・・)/Z〕×1000
B:多価アルコール類の仕込み量(g)
b:多価アルコール類の分子量
n:多価アルコール類の1分子あたりの水酸基の数
Z:出来上がり重量(g)
[なお、B1、B2、・・・、b1、b2、・・・、n1、n2、・・・等における数字は複数種類の多価アルコール類を用いる場合の区別のために付している。]
【0093】
[ガラス転移温度(Tg)の測定方法]
示差走査熱量計を用いて、測定温度範囲-70~140℃、温度上昇速度10℃/分の測定条件で測定した。
【0094】
[重量平均分子量(Mw)及びピークトップ分子量(Mp)の測定方法]
高速液体クロマトグラフィー(東ソー社製、商品名;HLC-8320GPC)を用いて、カラム[TSKgel SuperMultipore HZ-M(排除限界分子量;2×106、理論段数;16000段/本、充填剤材質;スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:4μm)]の2本直列を用いて測定し、標準ポリスチレン分子量換算により求めた。
【0095】
[半田耐熱試験(乾燥)]
両面銅張積層板(日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名;エスパネックスMB12-25-12UEG)の片方の銅箔をエッチング除去して、もう一方の銅箔面と樹脂シートを銅箔で挟む形で積層し、温度;160℃、圧力;3.5MPa、時間;60分間の条件でプレスした。この銅箔付きの試験片を135℃/60分で乾燥した後、260℃から10℃きざみで300℃までの各評価温度に設定した半田浴中に10秒間浸漬し、その接着状態を観察して、発泡、ふくれ、剥離等の不具合の有無を確認した。判定として260℃にて不具合が認められない場合は〇(良好)、不具合が認められた場合は×(不良)とした。
【0096】
[フィラーの粒子径の測定方法]
粒子径が0.4μm未満のフィラーに対してはBET換算粒子径を適用した。
また、粒子径が0.4μm以上のフィラーに対してはレーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製、商品名;Master Sizer 3000)を用いて、水を分散媒とし、粒子屈折率1.54の条件で、レーザー回折・散乱式測定方式による粒子径の測定を行った。レーザー回折法による体積基準の粒度分布測定によって得られる頻度分布曲線における累積値が50%となる値を平均粒子径D50とした。
【0097】
[誘電特性の評価]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)およびスプリットポスト誘電体共振器(SPDR共振器)を用いて樹脂シートを温度;23℃、湿度;50%RHの条件下で、24時間放置した後、周波数10GHzにおける誘電正接(Tanδ)を測定した。判定として測定結果が0.003以下の場合を〇、0.003よりも大きい場合を×とした。
【0098】
[吸水率の測定]
ポリエステル組成物の樹脂溶液を離型フィルム上にアプリケーターで塗布、120℃で10分間乾燥し、樹脂層の乾燥膜厚が65μmのシートを作製した。このシートを7.5cm×11cmのサイズに切り出し、シートの樹脂層面をガラス板上にラミネートした後、離型フィルムを剥がした。この作業を6回繰り返すことで、ガラス板上に厚み390μmの樹脂層を有する試験板を得た。
このようにして得られた試験板を23℃の精製水に24時間浸漬させた後、取り出して表面の水気をふき取り、70℃で2時間乾燥させた。これらの各工程において必要な重量を測定して、下記式に従って重量変化から吸水率(重量%)を算出した。
(c-d)×100/(b-a)
a:ガラス板単独の重量
b:初期の試験板の重量
c:精製水から取り出して水気をふき取った直後の試験板の重量
d:70℃で2時間乾燥させた後の試験板の重量
【0099】
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
TMAn:トリメリット酸無水物
EG:エチレングリコール
BPE-20:多価アルコール、三洋化成工業社製、ビスフェノールAのエチレンオキサイド約2モル付加物、商品名;ニューポールBPE-20
P2033:ダイマージオール、クローダ社製、商品名;「プリポール2033」
フィラー1:宇部マテリアルズ社製、商品名;高純度超微粉マグネシア2000A(酸化マグネシウム、一次粒子;単結晶、立方体形状、純度;酸化マグネシウム>99.98%、比重;3.58、BET換算粒子径;200nm、熱膨張係数;13ppm/K)
YDPN-638:日鉄ケミカル&マテリアル社製、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、商品名;YDPN-638
【0100】
〔合成例1:ポリエステル(A-1)の製造〕
温度計、撹拌機、精留塔、窒素導入管の付いた反応缶に、多価カルボン酸類として、イソフタル酸(IPA)231.1部(1.3910モル)、トリメリット酸無水物(TMAn)2.7部(0.0141モル)、多価アルコール類として、ビスフェノールAのエチレンオキサイド約2モル付加物(BPE-20)230.1部(0.7058モル)、エチレングリコール(EG)57.0部(0.9183モル)、ダイマージオール(P2033)261.5部(0.4941モル)、触媒としてテトラブチルチタネート0.1部を仕込み、内温が270℃となるまで2.5時間かけて昇温し、270℃で1.5時間、エステル化反応を行った。
次いで、触媒としてテトラブチルチタネート0.1部を追加し、系内を2.5hPaまで減圧し、3時間かけて重合反応を行った。その後、内温を240℃まで下げ、トリメリット酸無水物(TMAn)17.6部(0.0916モル)を添加し240℃で1時間解重合反応を行い、ポリエステル(A-1)を得た。
【0101】
合成例2~4:ポリエステル(A-2)~(A-4)
樹脂組成を表1に記載のとおりになるよう変更した以外はA-1と同様にしてポリエステル(A-2)~(A-4)を得た。エステル結合濃度、吸水率、ガラス転移温度(Tg)、重量平均分子量(Mw)及びピークトップ分子量(Mp)の測定結果も表1に示した。
【0102】
【0103】
[実施例1~4]
合成例1~4で調製したポリエステルA-1~A-4の87gに、4gの酸化マグネシウムフィラー(フィラー1)及び9gのフェノールノボラック型エポキシ樹脂(YDPN-638)を配合し、トルエン/メチルエチルケトン=5/1(重量比)混合溶媒を添加することで固形分50%になるように攪拌、混合することにより、樹脂ワニス1a~4aを調製した。なお、フィラー1としては、後記試験例1,2における「サンプル(1)」を使用した。
【0104】
[実施例5]
実施例1で調製した樹脂ワニス1aを離型処理されたPETフィルムの片面に塗布し、100℃で5分間乾燥した後、120℃で10分間乾燥を行い、剥離することによって、樹脂シート1b(厚さ;25μm)を調製した。
樹脂シート1bの評価結果は以下のとおりである。
誘電正接;〇、半田耐熱試験(乾燥);〇
【0105】
[実施例6]
樹脂ワニス2aを使用し、実施例5と同様にして樹脂シート2bを調製した。
樹脂シート2bの評価結果は以下のとおりである。
誘電正接;〇、半田耐熱試験(乾燥);〇
【0106】
[実施例7]
樹脂ワニス3aを使用し、実施例5と同様にして樹脂シート3bを調製した。
樹脂シート3bの評価結果は以下のとおりである。
誘電正接;〇、半田耐熱試験(乾燥);〇
【0107】
[実施例8]
樹脂ワニス4aを使用し、実施例5と同様にして樹脂シート4bを調製した。
樹脂シート4bの評価結果は以下のとおりである。
誘電正接;〇、半田耐熱試験(乾燥);〇
【0108】
比較例1
合成例1で調製したポリエステルA-1の87gに、9gのフェノールノボラック型エポキシ樹脂(YDPN-638)を配合し、トルエン/メチルエチルケトン=5/1(重量比)混合溶媒を添加することで固形分50%になるように攪拌、混合することにより、樹脂ワニス5aを調製した。
樹脂ワニス5aを離型処理されたPETフィルムの片面に塗布し、100℃で5分間乾燥した後、120℃で10分間乾燥を行い、剥離することによって、樹脂シート5b(厚さ;25μm)を調製した。
樹脂シート5bの評価結果は以下のとおりである。
誘電正接;〇、半田耐熱試験(乾燥);×
【0109】
以上の結果をまとめて表2に示す。
【0110】
【0111】
表2より、ポリエステルに酸化マグネシウムフィラーを配合することによって、誘電正接を悪化させることなく、高い半田耐熱性を発現できることが示された。
【0112】
[試験例1]
重量減少率の測定:
酸化マグネシウムの水和によって生じる水酸化マグネシウムの生成状態を調べるために、熱重量分析測定を実施した。下記に示す酸化マグネシウムのサンプル(1)~(5)について、窒素雰囲気下で熱重量分析装置(TG:株式会社日立ハイテクサイエンス社製、商品名:TG/DTA7220)を用い、10℃/分の昇温速度で30℃から450℃まで加熱したときの350℃での重量減少を測定し、水酸化マグネシウムの熱分解に伴う重量減少率を求めた。
【0113】
サンプル(1)~(5)として、いずれも上記「フィラー1」を使用した。
サンプル(1):開封直後のもの
サンプル(2):開封後、試薬瓶に入れ、常温・常湿の実験室で1年間保存したもの(使用の都度、蓋を開閉した)
サンプル(3):開封後、温度40℃・湿度90%の環境中に24時間暴露したもの
サンプル(4):開封後、温度40℃・湿度90%の環境中に48時間暴露したもの
サンプル(5):開封後、温度40℃・湿度90%の環境中に72時間暴露したもの
【0114】
熱重量分析測定の結果を
図1に示した。
図1から、サンプル(1)~(5)は、350℃での重量減少率がそれぞれ、0.36%、1.46%、0.85%、1.59%、1.85%であり、いずれも2%以下であったが、サンプル(1)が最も重量減少率が小さく、サンプル(3)、サンプル(2)、サンプル(4)、サンプル(5)の順に重量減少率が増加していることがわかる。この結果から、環境湿度によって、酸化マグネシウムが水和して水酸化マグネシウムの生成が進行していくことが確認できた。
【0115】
[試験例2]
試験例1で使用したサンプル(1)について、X線回折装置[リガク社製SmartLab(回転対陰極)]を使用し、以下の条件で広角X線回析法によりX線回析測定を行った。
X線源:MoKα線(Kβフィルター使用)
出力:60kV、150mA
スリット系:CBO集光ミラー
検出器:Hypix-3000(1Dモード)
スキャン方式:2θ/θ連続スキャン
測定範囲(2θ):5~50°
ステップ幅(2θ):0.01°
スキャン速度:4°/min
【0116】
X線回析測定の結果を
図2(a)に示すとともに、参照用としてX線回析測定におけるMg(OH)
2のピーク位置を
図2(b)に示した。また、
図2(a)の結果に基づき、リートベルト解析により水酸化マグネシウムの比率を算出したところ、MgOが100重量%、Mg(OH)
2が0重量%であった。
【0117】
以上より、サンプル(1)は、X線回折測定において、酸化マグネシウムに由来するピークが検出されたが、水酸化マグネシウムに由来するピークが検出されないことが確認された。具体的には、2θが16.8°、19.4°、27.6°、32.5°及び34.0°の位置に酸化マグネシウムに由来するピークが検出されたが、2θが8.5°、17.3°、22.8°及び26.1°の位置に水酸化マグネシウムに由来するピークが検出されておらず、サンプル(1)は実質的に水酸化マグネシウムを含有しないことが確認された。
【0118】
以上のような結果から、本実施の形態に係る樹脂フィルムは、高周波対応FPCなどの回路基板用材料として好適に使用されることが確認された。
【0119】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。