(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147047
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 211/54 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
C07C211/54 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054581
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】522126305
【氏名又は名称】株式会社TSK
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 司
(72)【発明者】
【氏名】飯田 宏一朗
(72)【発明者】
【氏名】岡部 一毅
(72)【発明者】
【氏名】五郎丸 英貴
(72)【発明者】
【氏名】中村 正治
(72)【発明者】
【氏名】松田 博
(72)【発明者】
【氏名】アベナ ラモン フランシスコ ベルナルディノ
(72)【発明者】
【氏名】ソン ウンチョル
(72)【発明者】
【氏名】松浦 良介
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB92
(57)【要約】
【課題】正孔輸送性材料の有機電界発光素子材料として用いるのに適度なHOMO-LUMO準位、好適なEg値を有し、成膜後は優れた耐溶剤性を持つ化合物を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される芳香族化合物。
(式(1)中、R
1~R
5、n1~n5、a1~a5、A
1~A
5は、明細書に記載されるとおりである。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される芳香族化合物。
【化1】
(式(1)中、
R
1~R
5は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数6~60の2価の芳香族炭化水素基であり、
n1~n4は、各々独立に、0~5の整数であり、
n5は0~4の整数であり、
a1~a5は、各々独立に、0又は1であり、
A
1~A
5は、各々独立に、水素原子又は下記式(2)で表される。
但し、A
1~A
5の内、少なくとも1つは式(2)で表される。)
【化2】
(式(2)中、アスタリスク(*)は、式(1)との結合を表し、
R
11は、水素原子又はアルキル基を表す。)
【請求項2】
R1~R5において、炭素数6~60の2価の芳香族炭化水素基が有してもよい置換基が、アルキル基又はアルコキシ基から選択される、請求項1に記載の芳香族化合物。
【請求項3】
R1~R5が、各々独立に、1,3-フェニレン基又は1,4-フェニレン基である、請求項1又は2に記載の芳香族化合物。
【請求項4】
式(1)が下記式(2)~(5)のいずれか1つで表される、請求項1~3のいずれか1項に記載の芳香族化合物。
【化3】
【請求項5】
A1~A5の内、少なくとも4つは式(2)で表される、請求項1~4のいずれか1項に記載の芳香族化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子(以下、「OLED」又は「素子」と称す場合がある。)に用いることができる化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜型の電界発光素子としては、無機材料を用いたものに代わり、有機薄膜を用いた有機電界発光素子の開発が行われるようになっている。有機電界発光素子(OLED)は、通常、陽極と陰極の間に、電荷注入層、電荷輸送層、有機発光層、電子輸送層などを有し、この各層に適した材料が開発されつつあり、発光色も赤、緑、青と、それぞれに開発が進んでいる。
【0003】
有機電界発光素子の製造方法としては、有機材料を真空蒸着法により成膜し、積層する製造方法が一般的であるが、近年、より材料使用効率に優れた製造方法として、溶液化した有機材料をインクジェット法等により成膜し、積層する湿式成膜による製造方法の研究が盛んになってきている。
【0004】
複数の層を湿式成膜で積層して有機電界発光素子を形成するためには、塗布後の薄膜を、上層に塗布する組成物に対して不溶とする必要がある。一般的に、下層に塗布する組成物に架橋基や重合性官能基を持たせ、塗布後の処理によって結合を生成し不溶とする方式が、最も安定に用いられる。
【0005】
特許文献1には、正孔輸送性材料などの有機電界発光素子材料として用いるのに適度なHOMO-LUMO準位、殊に好適なEg(エネルギーギャップ)値を有する特定の非対称ビス(1,2-ジアリールアミノ)ベンゼン類が開示されている。
【0006】
特許文献1に開示されたジアミン誘導体を正孔注入層又は正孔輸送層に用いた場合、耐溶剤性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、正孔輸送性材料の有機電界発光素子材料として用いるのに適度なHOMO-LUMO準位、好適なEg値を有し、成膜後は優れた耐溶剤性を持つ化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の架橋基を有する特定の非対称ビス(1,2-ジアリールアミノ)ベンゼン化合物で、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、次の[1]~[5]のとおりである。
[1]
下記式(1)で表される芳香族化合物。
【0011】
【0012】
(式(1)中、
R1~R5は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数6~60の2価の芳香族炭化水素基であり、
n1~n4は、各々独立に、0~5の整数であり、
n5は0~4の整数であり、
a1~a5は、各々独立に、0又は1であり、
A1~A5は、各々独立に、水素原子又は下記式(2)で表される。
但し、A1~A5の内、少なくとも1つは式(2)で表される。)
【0013】
【0014】
(式(2)中、アスタリスク(*)は、式(1)との結合を表し、
R11は、水素原子又はアルキル基を表す。)
[2]
R1~R5において、炭素数6~60の2価の芳香族炭化水素基が有してもよい置換基が、アルキル基又はアルコキシ基から選択される、[1]に記載の芳香族化合物。
[3]
R1~R5が、各々独立に、1,3-フェニレン基又は1,4-フェニレン基である、[1]又は[2]に記載の芳香族化合物。
[4]
式(1)が下記式(2)~(5)のいずれか1つで表される、[1]~[3]のいずれか1つに記載の芳香族化合物。
【0015】
【0016】
[5]
A1~A5の内、少なくとも4つは式(2)で表される、[1]~[4]のいずれか1つに記載の芳香族化合物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、正孔輸送性材料の有機電界発光素子材料として用いるのに適度なHOMO-LUMO準位、好適なEg値を有し、成膜後は優れた耐溶剤性を持つ化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0020】
本発明において、「置換基を有していてもよい」とは、置換基を1以上有していてもよいことを意味するものとする。
【0021】
<式(1)で表される芳香族化合物>
本発明の化合物は、下記式(1)で表される。
【0022】
【0023】
(式(1)中、
R1~R5は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数6~60の2価の芳香族炭化水素基であり、
n1~n4は、各々独立に、0~5の整数であり、
n5は0~4の整数であり、
a1~a5は、各々独立に、0又は1であり、
A1~A5は、各々独立に、水素原子又は下記式(2)で表される。
但し、A1~A5の内、少なくとも1つは式(2)で表される。)
【0024】
【0025】
(式(2)中、アスタリスク(*)は、式(1)との結合を表し、
R11は、水素原子又はアルキル基を表す。)
【0026】
なお、「式(2)中、アスタリスク(*)は、式(1)との結合を表す」とは、より詳細には、A1が式(2)で表される場合、a1が0のとき、アスタリスク(*)は、式(1)中のR1と結合で結ばれるベンゼン環との結合を表し、a1が0以外のとき、アスタリスク(*)は、R1との結合を表す。A2~A5が式(2)で表される場合は、A1についてのa1及びR1をa2~a5及びR2~R5にそれぞれ置き換えて同様に解釈することができる。
【0027】
本発明の化合物は電荷輸送材料として機能する。即ち、本発明の化合物はジアミン構造を有するため、正孔輸送性材料として機能させることができる。
従って、本発明の化合物は、電荷輸送化合物であることが好ましく、有機電界発光素子における正孔注入層材料又は正孔輸送層材料として用いることが好ましい。
【0028】
上記式(1)中、R1~R5における炭素数6~60の2価の芳香族炭化水素基が有してもよい置換基は、後述の置換基群Zから選択されることが好ましい。
【0029】
上記式(1)は、下記式(2)~(5)のいずれか1つで表されることが好ましい。
【0030】
【0031】
<R1~R5>
上記式(1)におけるR1~R5は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数6~60の2価の芳香族炭化水素基を表す。
【0032】
2価の炭素数6以上、60以下の芳香族炭化水素基の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、テトラフェニレン環、クリセン環、ピレン環、ベンゾアントラセン環、ペリレン環、ビフェニル環、又はターフェニル環の2価の基が挙げられる。
【0033】
R1~R5は、化合物の溶解性及び耐久性の観点から、各々独立に、ベンゼン環の2価の基、ナフタレン環の2価の基が好ましく、ベンゼン環の2価の基がより好ましく、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基がさらに好ましい。
【0034】
<n1~n5>
n1~n4は、各々独立に、0~5の整数を表し、
n5は0~4の整数を表す。
【0035】
n1~n5は、化合物の溶解性及び耐久性の観点から、4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましく、1以下が特に好ましい。
【0036】
n1が2以上の場合、複数のR1は同一であっても異なってもよい。n2が2以上の場合、複数のR2は同一であっても異なってもよい。n3が2以上の場合、複数のR3は同一であっても異なってもよい。n4が2以上の場合、複数のR4は同一であっても異なってもよい。n5が2以上の場合、複数のR5は同一であっても異なってもよい。
【0037】
<a1~a5>
a1~a5は、各々独立に、0又は1を表す。a1~a5は、化合物の溶解性及び耐久性の観点から、1が好ましい。
【0038】
<A1~A5>
A1~A5は、各々独立に、水素原子又は下記式(2)で表される。但し、A1~A5の内、少なくとも1つは式(2)で表される。耐溶剤性の観点から、A1~A5の内、少なくとも4つは式(2)で表される構造であることが好ましい。
【0039】
【0040】
(式(2)中、アスタリスク(*)は、式(1)との結合を表し、
R11は、水素原子又はアルキル基を表す。)
【0041】
上記式(2)で表される構造は、式(1)で表される化合物に架橋基を与える。この架橋基により、式(1)で表される化合物は、正孔輸送性材料の有機電界発光素子材料として用いるのに適度なHOMO-LUMO準位、好適なEg値を保ちつつ、成膜後の優れた耐溶剤性を発揮することが可能となる。
【0042】
<R11>
上記式中、R11は、水素原子又はアルキル基を表す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、分岐、直鎖又は環状のプロピル基、分岐、直鎖又は環状のブチル基、分岐、直鎖又は環状のペンチル基、分岐、直鎖又は環状のヘキシル基、分岐、直鎖又は環状のオクチル基、分岐、直鎖又は環状のノニル基、分岐、直鎖又は環状のドデシル基等の、炭素数が通常1以上、好ましくは4以上であり、通常24以下、好ましくは10以下である、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基が挙げられる。R11は、耐久性の観点から水素原子、メチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0043】
<置換基>
R1~R5が有していてもよい置換基としては、下記置換基群Zの中から選択することができる。
【0044】
<置換基群Z>
置換基群Zとしては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、アラルキル基、又は芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0045】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、分岐、直鎖又は環状のプロピル基、分岐、直鎖又は環状のブチル基、分岐、直鎖又は環状のペンチル基、分岐、直鎖又は環状のヘキシル基、分岐、直鎖又は環状のオクチル基、分岐、直鎖又は環状のノニル基、分岐、直鎖又は環状のドデシル基等の、炭素数が通常1以上、好ましくは4以上であり、通常24以下、好ましくは10以下である、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基が挙げられる。化合物の安定性の観点から、メチル基、エチル基、分岐、直鎖又は環状のプロピル基、分岐、直鎖又は環状のブチル基が好ましく、特に好ましくは分岐のプロピル基である。
【0046】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルケニル基が挙げられる。
【0047】
アルキニル基としては、例えば、エチニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルキニル基が挙げられる。
【0048】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルコキシ基が挙げられる。
【0049】
アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるアリールオキシ基若しくはヘテロアリールオキシ基が挙げられる。
【0050】
アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0051】
アシル基としては、例えば、アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアシル基が挙げられる。
【0052】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子が挙げられる。
【0053】
ハロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基等の、炭素数が通常1以上であり、通常12以下、好ましくは6以下のハロアルキル基が挙げられる。
【0054】
アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下、好ましくは12以下のアルキルチオ基が挙げられる。
【0055】
アリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるアリールチオ基若しくはヘテロアリールチオ基が挙げられる。
【0056】
シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるシリル基が挙げられる。
【0057】
シロキシ基としては、例えば、トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるシロキシ基が挙げられる。
【0058】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル-2-イル基、2-フェニルブチル-2-イル基、3-フェニルペンチル-3-イル基、3-フェニル-1-プロピル基、4-フェニル-1-ブチル基、5-フェニル-1-ペンチル基、6-フェニル-1-ヘキシル基、7-フェニル-1-ヘプチル基、8-フェニル-1-オクチル基等の、炭素数が通常7以上、好ましくは9以上であり、通常30以下、好ましくは18以下、さらに好ましくは10以下であるアラルキル基が挙げられる。
【0059】
芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラフェニレン環、フェナントレン環、クリセン環、ピレン環、ベンゾアントラセン環、又はペリレン環等の、炭素数が通常6以上、通常30以下、好ましくは18以下、さらに好ましくは10以下である芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0060】
上記置換基群Zの中でも、好ましくは、アルキル基、アルコキシ基であり、より好ましくは、炭素数10以下のアルキル基、炭素数10以下のアルコキシ基であり、さらに好ましくは、炭素数10以下のアルキル基である。
【0061】
また、上記置換基群Zの各置換基は更に置換基を有していてもよい。それらの更なる置換基としては、上記置換基(置換基群Z)と同じのものを用いることができる。
【0062】
<具体例>
以下に、本発明の架橋基を有する化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
<ジアミン化合物の製造方法>
本発明のジアミン化合物は、例えば、実施例に記載する方法に準じて製造できる。
【0072】
<ジアミン化合物の用途>
本発明のジアミン化合物は、有機電界発光素子の有機層に用いることが好ましく、この有機層としては正孔注入層又は正孔輸送層であることが好ましい。
【0073】
本発明のジアミン化合物を含む有機層は蒸着法で形成してもよいし、湿式成膜法で形成してもよい。本発明のジアミン化合物を含む有機層は、より均一な膜を形成することが出来るため、湿式成膜法で形成することが特に好ましい。
【0074】
<有機溶剤>
有機溶剤は、湿式成膜により本発明の化合物を含む層を形成するために用いる、揮発性を有する液体成分である。
【0075】
該有機溶剤は、溶質である本発明の化合物が良好に溶解する有機溶剤であれば特に限定されない。
【0076】
好ましい有機溶剤としては、例えば、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒及びエステル系溶媒が挙げられる。
【0077】
[本発明の化合物を用いた成膜方法]
本発明の化合物を用いて膜を形成する場合、本発明の化合物は有機溶剤を含む溶液であることが好ましく、本発明の組成物を湿式成膜することが好ましい。
湿式成膜法とは、基板上に溶媒を含む組成物を塗布し、溶媒を乾燥除去して膜を形成する方法をいう。塗布方法としては、特に限定はされないが、例えばスピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等が挙げられる。
【0078】
溶媒を乾燥除去する方法としては、通常、加熱乾燥を行う。加熱工程において使用する加熱手段の例としては、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線加熱が挙げられる。赤外線加熱としては、ハロゲンヒーターやセラミックコートしたハロゲンヒーター、セラミックヒーター等が使用できる。
【0079】
本発明の化合物を湿式成膜法にて成膜した有機層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、さらに好ましくは20nm以上である。また、膜厚は、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nm以下である。
【0080】
[有機電界発光素子]
本発明の化合物を用いた膜は、電荷輸送層として好適に用いることができる。この電荷輸送層は、特に好ましくは、有機電界発光素子の電荷輸送膜として用いられる。
【0081】
本発明の有機電界発光素子の構造の一例として、
図1に有機電界発光素子8の構造例の模式図(断面)を示す。
図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を各々表す。
【0082】
[基板]
基板1は、有機電界発光素子の支持体となるものであり、通常、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。これらのうち、ガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。基板は、外気による有機電界発光素子の劣化が起こり難いことからガスバリア性の高い材質とするのが好ましい。このため、特に合成樹脂製の基板等のようにガスバリア性の低い材質を用いる場合は、基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を上げるのが好ましい。
【0083】
[陽極]
陽極2は、発光層5側の層に正孔を注入する機能を担う。
【0084】
陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック及びポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0085】
陽極2の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式法により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより形成することもできる。また、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0086】
陽極2は、通常、単層構造であるが、適宜、積層構造としてもよい。陽極2が積層構造である場合、1層目の陽極上に異なる導電材料を積層してもよい。
【0087】
陽極2の厚みは、必要とされる透明性と材質等に応じて決めればよい。特に高い透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率が60%以上となる厚みが好ましく、可視光の透過率が80%以上となる厚みが更に好ましい。陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。一方、透明性が不要な場合は、陽極2の厚みは必要な強度等に応じて任意に厚みとすればよく、この場合、陽極2は基板と同一の厚みでもよい。
【0088】
陽極2の表面に他の層を成膜する場合は、成膜前に、紫外線/オゾン、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ等の処理を施すことにより、陽極2上の不純物を除去すると共に、そのイオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させておくことが好ましい。
【0089】
[正孔注入層]
陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層は、通常、正孔注入輸送層又は正孔輸送層と呼ばれる。そして、陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層が2層以上ある場合に、より陽極側に近い方の層を正孔注入層3と呼ぶことがある。正孔注入層3は、陽極2から発光層5側に正孔を輸送する機能を強化する点で、形成されることが好ましい。正孔注入層3を形成する場合、通常、正孔注入層3は、陽極2上に形成される。
【0090】
正孔注入層3は、本発明のジアミン化合物を含む。
【0091】
正孔注入層3の形成方法は特に制限されず、真空蒸着法、湿式成膜法等が挙げられる。湿式成膜法による層形成の場合は、本発明の組成物を調製し、スピンコート法やディップコート法等の湿式成膜法により陽極2上に塗布し、乾燥して、正孔注入層3を形成させる。
【0092】
このようにして形成される正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0093】
正孔注入層の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられる。
【0094】
正孔注入層3の湿式成膜法による形成は、通常、正孔注入層形成用組成物を調製後に、これを、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより行われる。
【0095】
正孔注入層3は、通常、成膜後に、加熱や減圧乾燥等により塗布膜を乾燥させる。
【0096】
[正孔輸送層]
正孔輸送層4は、陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層である。正孔輸送層4は、本発明の有機電界発光素子では、必須の層では無いが、陽極2から発光層5に正孔を輸送する機能を強化する点では、この層を形成することが好ましい。正孔輸送層4を形成する場合、通常、正孔輸送層4は、陽極2と発光層5の間に形成される。また、上述の正孔注入層3がある場合は、正孔注入層3と発光層5の間に形成される。
【0097】
正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、一方、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0098】
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、正孔輸送層4は、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0099】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前記の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
【0100】
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p-フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
【0101】
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
ポリアリールアミン誘導体としては、重合体が好ましい。
【0102】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
【0103】
正孔輸送層形成用組成物は、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0104】
真空蒸着法により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0105】
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
【0106】
また、正孔輸送層4は、架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。架橋性化合物は、架橋性基を有する化合物であって、架橋することにより網目状高分子化合物を形成する。
【0107】
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブテン由来の基などが挙げられる。
【0108】
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で有していてもよい。
【0109】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物としては、上記の例示したものが挙げられ、架橋性化合物としては、これら正孔輸送性化合物に対して、架橋性基が主鎖又は側鎖に結合しているものが挙げられる。特に架橋性基は、アルキレン基等の連結基を介して、主鎖に結合していることが好ましい。また、特に正孔輸送性化合物としては、架橋性基を有する繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。
【0110】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層4を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解又は分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜により成膜して架橋させる。
【0111】
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常300nm以下、好ましくは150nm以下である。
【0112】
[発光層]
発光層5は、一対の電極間に電界が与えられた時に、陽極2から注入される正孔と陰極7から注入される電子が再結合することにより励起され、発光する機能を担う層である。発光層5は、陽極2と陰極7の間に形成される層であり、発光層は、陽極の上に正孔注入層がある場合は、正孔注入層と陰極の間に形成され、陽極の上に正孔輸送層がある場合は、正孔輸送層と陰極の間に形成される。
本発明における有機電界発光素子は、前記の通り、発光層として好適な発光層形成材料を含むことが好ましい。
【0113】
発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜に欠陥が生じ難い点では厚い方が好ましく、また、一方、薄い方が低駆動電圧としやすい点で好ましい。このため、3nm以上であるのが好ましく、5nm以上であるのが更に好ましく、また、一方、通常200nm以下であるのが好ましく、100nm以下であるのが更に好ましい。
【0114】
発光層5は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含み、好ましくは、1つまたは複数のホスト材料を含む。
【0115】
[好適な発光層形成材料]
本発明の発光層は、発光材料と電荷輸送材料を含む。発光材料は燐光発光材料でもよいし、蛍光発光材料でもよい。好ましくは、赤発光材料と緑発光材料は燐光発光材料であり、青発光材料は蛍光発光材料である。
【0116】
(発光材料)
発光材料は、所望の発光波長で発光し、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、公知の発光材料を適用可能である。発光材料は、蛍光発光材料でも、燐光発光材料でもよいが、発光効率が良好である材料が好ましく、内部量子効率の観点から燐光発光材料が好ましい。
【0117】
蛍光発光材料としては、例えば、以下の材料が挙げられる。
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光発光材料)としては、例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、クリセン、p-ビス(2-フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0118】
緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光発光材料)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(C9H6NO)3等のアルミニウム錯体等が挙げられる。
【0119】
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光発光材料)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
【0120】
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光発光材料)としては、例えば、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0121】
また、燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)の第7~11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体等が挙げられる。周期表の第7~11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。
【0122】
有機金属錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子等の(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリン等が連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0123】
好ましい燐光発光材料として、具体的には、例えば、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2-フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2-フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2-フェニルピリジン)白金、トリス(2-フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2-フェニルピリジン)レニウム等のフェニルピリジン錯体及びオクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等のポルフィリン錯体等が挙げられる。
【0124】
高分子系の発光材料としては、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(4-sec-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(1,4-ベンゾ-2{2,1’-3}-トリアゾール)]等のポリフルオレン系材料、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]等のポリフェニレンビニレン系材料が挙げられる。
【0125】
(電荷輸送性材料)
電荷輸送性材料は、正電荷(正孔)又は負電荷(電子)輸送性を有する材料であり、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、公知の材料を適用可能である。
【0126】
電荷輸送性材料は、従来、有機電界発光素子の発光層5に用いられている化合物等を用いることができ、特に、発光層5のホスト材料として使用されている化合物が好ましい。
【0127】
電荷輸送性材料としては、具体的には、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物等の正孔注入層3の正孔輸送性化合物として例示した化合物等が挙げられる他、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、フェナントロリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等の電子輸送性化合物等が挙げられる。
【0128】
また、例えば、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(日本国特開平5-234681号公報)、4,4’,4’’-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニル等のカルバゾール系化合物等の正孔輸送層4の正孔輸送性化合物として例示した化合物等も好ましく用いることができる。また、この他、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-ターシャルブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール(BND)等のオキサジアゾール系化合物、2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール系化合物、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)等のフェナントロリン系化合物等も挙げられる。
【0129】
湿式成膜法で発光層5を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、発光層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
【0130】
発光層形成用組成物は、上述の発光層形成材料の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0131】
真空蒸着法により発光層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0132】
[正孔阻止層]
発光層5と後述の電子注入層との間に、正孔阻止層を設けてもよい。正孔阻止層は、発光層5の上に、発光層5の陰極7側の界面に接するように積層される層である。
【0133】
この正孔阻止層は、陽極2から移動してくる正孔を陰極7に到達するのを阻止する役割と、陰極7から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。正孔阻止層を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0134】
このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2-メチル-8-キノラト)アルミニウム-μ-オキソ-ビス-(2-メチル-8-キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11-242996号公報)、3-(4-ビフェニルイル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7-41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10-79297号公報)等が挙げられる。更に、国際公開第2005/022962号に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層の材料として好ましい。
【0135】
正孔阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
【0136】
正孔阻止層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上であり、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0137】
[電子輸送層]
電子輸送層6は素子の電流効率をさらに向上させることを目的として、発光層5と陰極7との間に設けられる。
【0138】
電子輸送層6は、電界を与えられた電極間において陰極7から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層6に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極7からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し、注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0139】
電子輸送層に用いる電子輸送性化合物としては、具体的には、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体(特開昭59-194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3-ヒドロキシフラボン金属錯体、5-ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6-207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5-331459号公報)、2-tert-ブチル-9,10-N,N’-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。
【0140】
電子輸送層6の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上であり、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0141】
電子輸送層6は、前記と同様にして湿式成膜法、或いは真空蒸着法により正孔阻止層上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
本発明においては、前記のように、好適な発光層形成材料を含む発光層上に、湿式成膜法にて電子輸送層を形成することが出来る。
【0142】
[電子注入層]
電子注入層は、陰極7から注入された電子を効率よく、電子輸送層6又は発光層5へ注入するために設けられてもよい。
【0143】
電子注入を効率よく行うには、電子注入層を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウム等のアルカリ土類金属等が用いられる。その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0144】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10-270171号公報、特開2002-100478号公報、特開2002-100482号公報等に記載)ことも、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。
【0145】
電子注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0146】
電子注入層は、湿式成膜法或いは真空蒸着法により、発光層5又はその上の正孔阻止層や電子輸送層6上に積層することにより形成される。
湿式成膜法の場合の詳細は、前述の発光層の場合と同様である。
【0147】
正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層を電子輸送材料とリチウム錯体共ドープの操作で一層にする場合にもある。
【0148】
[陰極]
陰極7は、発光層5側の層(電子注入層又は発光層など)に電子を注入する役割を果たす。
【0149】
陰極7の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なう上では、仕事関数の低い金属を用いることが好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金等が用いられる。具体例としては、例えば、マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、アルミニウム-リチウム合金等の低仕事関数の合金電極等が挙げられる。
【0150】
有機電界発光素子の安定性の点では、陰極の上に、仕事関数が高く、大気に対して安定な金属層を積層して、低仕事関数の金属からなる陰極を保護することが好ましい。積層する金属としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が挙げられる。
【0151】
陰極の膜厚は通常、陽極と同様である。
【0152】
[その他の層]
本発明の有機電界発光素子は、本発明の効果を著しく損なわなければ、更に他の層を有していてもよい。すなわち、陽極と陰極との間に、上述の他の任意の層を有していてもよい。
【0153】
[その他の素子構成]
本発明の有機電界発光素子は、上述の説明とは逆の構造、即ち、例えば、基板上に陰極、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に積層することも可能である。
【0154】
本発明の有機電界発光素子を有機電界発光装置に適用する場合は、単一の有機電界発光素子として用いても、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成にして用いても、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構成にして用いてもよい。
【実施例0155】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例における各種の条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と下記実施例の値又は実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
【0156】
なお、本明細書では、Acはアセチル基を意味し、Phはフェニル基を意味し、dbaはジベンジリデンアセトンを意味し、Amphosは[4-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル]ジ-tert-ブチルホスフィンを意味し、tBuはターシャリーブチル基を意味する。
【0157】
<実施例1>
(中間体1-3の合成)
【0158】
【0159】
中間体1-1(0.50g、0.77mmol)、中間体1-2(1.23g、3.83mmol)に窒素バブリングを行ったトルエン(20mL)、エタノール(10mL)、リン酸三カリウム水溶液(2.0mol/L、10mL)を順に加え、50℃に加熱した。その後、Pd(PPh3)4(44mg、0.038mmol)を加え、90℃で6時間撹拌した。室温まで冷却後、飽和塩化ナトリウム水溶液を加え、トルエンを用いて抽出を行った。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、中間体1-3(収量0.62g、収率73%)を得た。
【0160】
(化合物1の合成)
【0161】
【0162】
中間体1-3(0.62g、0.56mmol)、ブロモベンゼン(0.18g、1.12mmol)、tert-ブトキシナトリウム(0.15g、1.51mmol)に窒素バブリングを行ったトルエン(20mL)を加えた(溶液A1)。Pd2(dba)3(51mg、0.056mmol)のトルエン(5ml)溶液に、Amphos(0.12g、0.45mmol)を加え、50℃に加熱した(溶液B1)。窒素気流中、溶液A1に溶液B1を添加し、7.5時間加熱還流した。室温まで冷却後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、化合物1(収量0.21g、収率32%)を得た。
【0163】
【0164】
(耐溶剤性の評価)
得られた化合物1の成膜後の耐溶剤性を以下のようにして評価した。
まず、化合物1を2.0質量%、下記の構造を有する化合物(P-1)を0.4質量%で安息香酸エチルに溶解させた溶液を調製した。
【0165】
【0166】
大気中にて、この溶液をITO基板上に滴下してスピンコートを行い、100℃のホットプレート上で1分間乾燥させた。次いで、浜松ホトニクス製のスポット光源LC8を用いて紫外線照射を実施した。紫外線照射は46mW/cm2の強度で90秒間実施した。この基板を230℃のホットプレート上で10分間乾燥させて化合物1膜を形成した。形成した化合物1膜の膜厚は表1に示す通りである。
次いで、化合物1膜を成膜した基板をスピンコーターにセットし、試験溶媒であるトルエンを150μL基板上に滴下し、滴下後90秒間静置して耐溶剤性試験とした。
その後、基板を1500rpmで30秒間、ついで4000rpmで30秒間回転させて滴下した溶媒をスピンアウトさせた。この基板を145℃のホットプレート上で15分間乾燥させた。耐溶剤性試験前後での膜厚変化から耐溶剤性を見積もった。
【0167】
成膜後の化合物の耐溶剤性は以下の基準に基づき評価した。
○:膜厚減少は認められなかった。
××:膜が溶けて消失した。
【0168】
<実施例2>
トルエンの代わりにアニソールを用いた以外は実施例1と同様にして耐溶剤性の評価を行った。
【0169】
<比較例1>
化合物1の代わりに下記の比較化合物1を用いた以外は実施例1と同様にして耐溶剤性の評価を行った。
【0170】
【0171】
<比較例2>
トルエンの代わりにアニソールを用いた以外は比較例1と同様にして耐溶剤性の評価を行った。
実施例1、2及び比較例1、2の耐溶剤性の評価結果を表1に示す。
【0172】