(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147076
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】量子ドット発光素子、表示装置及び照明装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/10 20230101AFI20231004BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20231004BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20231004BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20231004BHJP
C09K 11/88 20060101ALI20231004BHJP
C09K 11/56 20060101ALI20231004BHJP
C09K 11/70 20060101ALI20231004BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20231004BHJP
C07D 209/86 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H05B33/14 B
H05B33/14 Z ZNM
H01L27/32
C09K11/08 G
C09K11/88
C09K11/56
C09K11/70
C09K11/06 690
C07D209/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054628
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 有希子
(72)【発明者】
【氏名】本村 玄一
(72)【発明者】
【氏名】都築 俊満
【テーマコード(参考)】
3K107
4H001
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107AA05
3K107AA06
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC04
3K107CC12
3K107DD57
3K107DD59
3K107DD69
4H001CA02
4H001CC07
4H001CC13
4H001XA15
4H001XA16
4H001XA30
4H001XA34
4H001XA48
4H001XA49
4H001XA52
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低い駆動電圧と高い発光効率とを兼ね備えた量子ドット発光素子を提供する。
【解決手段】陽極3と発光層6と陰極9とを具え、発光層6が陽極3と陰極9との間に位置する量子ドット発光素子1であって、発光層6が、量子ドットと、下記一般式(1)[式中、R
1及びR
2は独立して水素原子又はアルキル基であり、R
3及びR
4は独立して置換若しくは非置換の二価の芳香族炭化水素基又は単結合であり、R
5及びR
6は独立して置換若しくは非置換の一価の芳香族炭化水素基又は置換若しくは非置換のカルバゾリル基である]で示される化合物を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、発光層と、陰極と、を具え、前記発光層が、前記陽極と前記陰極との間に位置する量子ドット発光素子であって、
前記発光層が、量子ドットと、下記一般式(1):
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基であり、
R
3及びR
4は、それぞれ独立して置換若しくは非置換の二価の芳香族炭化水素基又は単結合であり、
R
5及びR
6は、それぞれ独立して置換若しくは非置換の一価の芳香族炭化水素基又は置換若しくは非置換のカルバゾリル基であり、但し、R
5及びR
6の少なくとも一方は、置換若しくは非置換のカルバゾリル基であり、
R
7及びR
8は、それぞれ独立して一価の置換基であり、
nは、0~4の整数であり、mは、0~3の整数である。]で示される化合物と、を含有することを特徴とする、量子ドット発光素子。
【請求項2】
上記一般式(1)中のR
5及びR
6が、それぞれ独立して置換若しくは非置換の一価の芳香族炭化水素基又は下記一般式(2)又は(3):
【化2】
[一般式(2)又は(3)中、R
9、R
10、R
12及びR
13は、それぞれ独立して一価の置換基であり、pは、0~3の整数であり、q、r及びsは、それぞれ独立して0~4の整数であり、R
11は、置換若しくは非置換の一価の芳香族炭化水素基である。]で示される置換若しくは非置換のカルバゾリル基であり、但し、R
5及びR
6の少なくとも一方は、上記一般式(2)又は(3)で示される置換若しくは非置換のカルバゾリル基である、請求項1に記載の量子ドット発光素子。
【請求項3】
上記一般式(1)で示される化合物が、下記構造式(1-1):
【化3】
で示される化合物である、請求項1又は2に記載の量子ドット発光素子。
【請求項4】
前記量子ドットが、半導体結晶の微粒子であるコアと、前記コアの表面を被覆するシェルと、前記シェルの表面に形成されたリガンドと、を具え、
前記コアが、CdSe、CdS、InP、ZnSe、ZnTe、又はZnSeTeを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の量子ドット発光素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット発光素子、表示装置及び照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置に用いる発光素子として、高色純度発光のものが求められている。例えば、超高精細度テレビジョン(UHDTV)においては、赤・緑・青の三原色がスペクトル軌跡上に位置した広色域表色系を用いることが、ITU-R勧告BT.2020に規定されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、近年、電界発光素子の一つとして、半導体ナノ結晶からなる量子ドットを発光材料として用いた量子ドット発光素子が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献2参照)。量子ドットは、結晶粒径を変えることにより発光色を制御でき、粒径分布を均一にすることにより発光スペクトルの半値幅(FWHM)を小さくできる。量子ドットは、FWHMが小さい利点を生かして、表示装置用の色純度の高い発光材料として利用できる可能性がある。
【0004】
量子ドットを発光素子に応用する研究開発として、FWHMが30nm以下、外部量子効率で約15%を実現した例がある(例えば、非特許文献3参照)。また、InPやCuInZnSを主成分として用いた量子ドットを、発光素子の発光材料として用いることが報告されている(例えば、非特許文献4、5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Recommendation ITU-R BT.2020-2(2015)
【非特許文献2】シラサキら(Y.Shirasaki et.al),ネイチャー・フォトニクス(Nature Photonics),7,13(2013)
【非特許文献3】Y.ヤンら(Y.Yang et al.),ネイチャー・フォトニクス(Nature Photonics),9,259(2015)
【非特許文献4】J.リムら(J.Lim et al.),ケミストリー・オブ・マテリアルズ(CHEMISTRY OF MATERIALS),23,4459(2011)
【非特許文献5】Z.リウら(Z.Liu et al.),オーガニック・エレクトロニクス(Organic Electronics),36,97(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、量子ドットを電界発光素子に応用する研究開発が進められているが、従来の量子ドットを用いた電界発光素子においては、発光性能に改善の余地があり、駆動電圧を低く保ちつつ発光効率を向上させることが要求されている。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、低い駆動電圧と高い発光効率とを兼ね備えた量子ドット発光素子を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかる量子ドット発光素子を具え、発光特性に優れた表示装置及び照明装置を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、量子ドット発光素子の発光層に、3級アミン構造とカルバゾール構造とフルオレン構造を有する特定構造の化合物を含有させることで、駆動電圧を低く保ちつつ高い発光効率を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0010】
本発明の量子ドット発光素子は、陽極と、発光層と、陰極と、を具え、前記発光層が、前記陽極と前記陰極との間に位置する量子ドット発光素子であって、
前記発光層が、量子ドットと、下記一般式(1):
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基であり、
R
3及びR
4は、それぞれ独立して置換若しくは非置換の二価の芳香族炭化水素基又は単結合であり、
R
5及びR
6は、それぞれ独立して置換若しくは非置換の一価の芳香族炭化水素基又は置換若しくは非置換のカルバゾリル基であり、但し、R
5及びR
6の少なくとも一方は、置換若しくは非置換のカルバゾリル基であり、
R
7及びR
8は、それぞれ独立して一価の置換基であり、
nは、0~4の整数であり、mは、0~3の整数である。]で示される化合物と、を含有することを特徴とする。
かかる本発明の量子ドット発光素子は、低い駆動電圧かつ高い発光効率を示す。
【0011】
本発明の量子ドット発光素子の好適例においては、上記一般式(1)中のR
5及びR
6が、それぞれ独立して置換若しくは非置換の一価の芳香族炭化水素基又は下記一般式(2)又は(3):
【化2】
[一般式(2)又は(3)中、R
9、R
10、R
12及びR
13は、それぞれ独立して一価の置換基であり、pは、0~3の整数であり、q、r及びsは、それぞれ独立して0~4の整数であり、R
11は、置換若しくは非置換の一価の芳香族炭化水素基である。]で示される置換若しくは非置換のカルバゾリル基であり、但し、R
5及びR
6の少なくとも一方は、上記一般式(2)又は(3)で示される置換若しくは非置換のカルバゾリル基である。この場合、量子ドット発光素子の発光効率をより一層向上させることができる。
【0012】
本発明の量子ドット発光素子においては、上記一般式(1)で示される化合物が、下記構造式(1-1):
【化3】
で示される化合物であることが好ましい。この場合、量子ドット発光素子の発光効率をより一層向上させることができる。
【0013】
本発明の量子ドット発光素子の他の好適例においては、前記量子ドットが、半導体結晶の微粒子であるコアと、前記コアの表面を被覆するシェルと、前記シェルの表面に形成されたリガンドと、を具え、
前記コアが、CdSe、CdS、InP、ZnSe、ZnTe、又はZnSeTeを含む。この場合、量子ドット発光素子の発光効率をより一層向上させることができる。
【0014】
また、本発明の表示装置は、上記の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。かかる本発明の表示装置は、駆動電圧が低く、また、発光効率に優れる。
【0015】
また、本発明の照明装置は、上記の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。かかる本発明の照明装置は、駆動電圧が低く、また、発光効率に優れる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低電圧駆動かつ高効率を示す量子ドット発光素子を提供することができる。
また、本発明によれば、かかる量子ドット発光素子を具え、発光特性に優れた表示装置及び照明装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態の量子ドット発光素子の一例を説明するための断面模式図である。
【
図2】量子ドットの構造の一例を示した模式図である。
【
図3】実施例1、比較例1の量子ドット発光素子における印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
【
図4】実施例1、比較例1の量子ドット発光素子における電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の量子ドット発光素子、表示装置及び照明装置を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0019】
<<量子ドット発光素子>>
本発明の量子ドット発光素子は、陽極と、発光層と、陰極と、を具え、前記発光層が、前記陽極と前記陰極との間に位置する量子ドット発光素子であって、前記発光層が、量子ドットと、上記一般式(1)で示される化合物と、を含有することを特徴とする。
なお、前記発光層において、量子ドットと、一般式(1)で示される化合物とは、均一に分布していても、均一に分布していなくてもよく、量子ドットからなる層と、一般式(1)で示される化合物からなる層とに分離していてもよい。ここで、量子ドットからなる層と、一般式(1)で示される化合物からなる層とに分離している場合、量子ドットからなる層と、一般式(1)で示される化合物からなる層との積層構造が発光層に相当する。
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決し、駆動電圧が低く、高い発光効率を示す量子ドット発光素子を実現するために、量子ドット発光素子の発光層に着目して、鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、量子ドット発光素子の陽極と陰極との間に、量子ドットと、一般式(1)で示される化合物とを含む発光層を具えていればよいことを見出した。
より具体的には、本発明の量子ドット発光素子において、一般式(1)で示される化合物は、フルオレン構造とカルバゾール構造とを有し、正孔輸送性に優れるため、陽極側(例えば、正孔注入層)から量子ドットへの正孔注入性を向上させることができる。従って、量子ドットと、一般式(1)で示される化合物とを含有する発光層を有する本発明の量子ドット発光素子は、駆動電圧が低くなり、高い発光効率を実現できる。
【0021】
次に、本発明の量子ドット発光素子の一態様を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の量子ドット発光素子の構造の一例を示した概略図である。
図1に示す量子ドット発光素子1は、基板2上に、陽極3、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8及び陰極9を、この順に積層した構成を有する。なお、
図1に示す量子ドット発光素子1は、下部に配置した陽極3側より正孔を注入し、上部に配置した陰極9より電子を注入する構成となっているが、本発明の量子ドット発光素子は、これに限定されるものではなく、上下を逆転した構造であってもよい。
【0022】
<基板>
前記基板2は、当該基板2側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明な材料からなることが好ましい。かかる透明な材料としては、ガラス、プラスチックフィルム等を例示することができる。ここで、プラスチックフィルムの材質としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、基板2の材料は、必ずしも透明な材料である必要はない。基板2として、不透明基板を用いる場合、該不透明基板としては、例えば、着色したプラスチックフィルム基板、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板等が挙げられる。
また、基板2として、例えば、プラスチックフィルム等の可撓性基板を用い、その上に量子ドット発光素子を形成した場合には、画像表示部を容易に変形することのできるフレキシブル量子ドット発光素子とすることができる。
前記基板2の平均厚さは、特に限定されるものではないが、0.01~30mmが好ましく、0.01~10mmがより好ましい。
【0023】
<陽極>
前記陽極3の材料としては、仕事関数が比較的大きい金属が好ましい。仕事関数の大きい金属を用いることにより、陽極から有機層への正孔注入障壁を低くすることができ、正孔を注入させ易くすることができる。陽極3に用いる金属としては、例えば、Al、Au、Pt、Ni、W、Cr、Mo、Fe、Co、Cu等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、陽極3に透明な材料を用いると、基板2側より光を取り出すボトムエミッション型素子とすることができる。
前記陽極3の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、30~150nmが更に好ましい。
【0024】
<正孔注入層>
前記正孔注入層4は、陽極3からの正孔注入を容易にするために形成する。正孔注入層4には、有機材料、無機材料いずれも用いることができる。正孔注入層4に用いる代表的な材料としては、三酸化モリブデン(MoO3)、酸化バナジウム(V2O5)、酸化ルテニウム(RuO2)、酸化レニウム、酸化タングステン、酸化マンガン等の金属酸化物が挙げられる。また、正孔注入層4に用いる有機材料としては、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)、ヘキサフルオロテトラシアノナフトキノジメタン(F6-TNAP)、2,3,6,7,10,11-ヘキサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン(HAT-CN)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホネート)(PEDOT:PSS)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、銅フタロシアニン(CuPc)等が挙げられ、これらの中でも、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホネート)(PEDOT:PSS)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、銅フタロシアニン(CuPc)が好ましく、PEDOTが特に好ましい。正孔注入層4には、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔注入層4に用いる材料としては、正孔注入性の観点から、三酸化モリブデンが好ましい。
前記正孔注入層4の平均厚さは、特に限定されるものではないが、1~500nmが好ましく、3~50nmが更に好ましい。
【0025】
<正孔輸送層>
前記正孔輸送層5は、陽極3から注入した正孔を発光層6まで輸送するために用いる。正孔輸送層5を構成する材料としては、正孔輸送性の無機材料あるいは有機材料を用いることができる。正孔輸送層5を構成する材料は、好ましくは正孔輸送性の有機材料であり、例えば、2,2’-ビス(N-カルバゾイル)-9,9’-スピロビフルオレン(CFL)、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)、4,4’,4”-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔輸送性の観点から、2,2’-ビス(N-カルバゾイル)-9,9’-スピロビフルオレン(CFL)、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)が好ましい。また、正孔輸送層5を構成する材料としては、後述する一般式(1)で示される化合物を用いることもでき、構造式(1-1)で示される化合物が好ましい。
前記正孔輸送層5の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmであることが好ましく、20~100nmが更に好ましい。
【0026】
<発光層>
前記発光層6は、量子ドットと、一般式(1)で示される化合物と、を含む。なお、発光層6は、必要に応じて、他の化合物を含んでもよいし、量子ドットと、一般式(1)で示される化合物のみから形成されていてもよい。
【0027】
「量子ドット」
該発光層6では、陽極3から注入された正孔と陰極9から注入された電子とが再結合し、量子ドットからの発光が得られる。発光層6の発光色は、発光層6に含まれる量子ドットの結晶粒径や種類(材質)によって変化させることができる。ここで、量子ドットの結晶粒径は、所望の発光色に応じて選択でき、例えば、1~10nmが好ましい。該量子ドットは、半導体微粒子からなるコアと呼ばれる中心部分と、コアの表面(又は後述するシェルの表面)を覆うリガンドと呼ばれる有機物と、からなることが好ましい。
【0028】
前記量子ドットのコア部分を構成する半導体の例としては、II-VI族の化合物、II-V族の化合物、III-VI族の化合物、III-V族の化合物、IV-VI族の化合物、I-III-VI族の化合物、II-IV-VI族の化合物、及びII-IV-V族の化合物、例えば、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnSeTe、CdS、CdSe、CdTe、InN、InP、InAs、InSb、CuInS等が挙げられる。これらの中でも、量子ドットのコアとしては、合成の容易さ、所望の波長の発光を得るための粒径及び/又は粒径分布の制御のし易さ、発光の量子収率の観点から、CdSe、CdS、InP、ZnSe、ZnSeTeが好ましい。なお、コア部分を構成する半導体において、各元素の比率は、化学量論的であってもよいし、化学量論的でなくてもよい。
【0029】
前記量子ドットは、コアの周りを取り囲むようにシェルと呼ばれる一層または複数層の半導体層を有してもよい。ここで、シェル部分を構成する半導体も、コア部分を構成する半導体と同様の組成の半導体を用いることができる。量子ドットのシェルは、被覆するコアに用いられる半導体に応じて選択することが好ましく、シェルとしては、コアよりも大きなバンドギャップを有する半導体を用いることが好ましい。この場合、コアの励起エネルギーが、シェルによって効率よくコア内に閉じ込められる。具体的には、例えば、コアがCdSe、CdS、InPからなる場合、シェルには、より大きなバンドギャップを有するZnS、ZnSeを用いることが好ましい。なお、シェル部分を構成する半導体において、各元素の比率は、化学量論的であってもよいし、化学量論的でなくてもよい。
【0030】
前記量子ドットにおいては、半導体表面を安定化すると共に、半導体微粒子の凝集を抑制するため、半導体微粒子表面をリガンドとよばれる有機配位子によりキャッピングを行うことが好ましい。キャッピングするためのリガンド部分に親油性の長鎖アルキル基等が含まれると有機溶剤に対しての溶解性が向上し、量子ドットを有機溶媒に溶解させた量子ドット溶液を調製することができる。前記リガンド(有機配位子)としては、炭化水素基の結合したアミン、炭化水素基の結合したカルボン酸、炭化水素基の結合したホスフィン、炭化水素基の結合した酸化ホスフィン、炭化水素基の結合したチオール等が挙げられる。前記炭化水素基は、親油性の鎖状炭化水素基であることが好ましい。親油性の鎖状炭化水素基の結合したアミンとしては、ヘキサデシルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合したカルボン酸としては、オレイン酸等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合したホスフィンとしては、トリオクチルホスフィン等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合した酸化ホスフィンとしては、トリ-n-オクチルホスフィンオキシド等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合したチオールとしては、ドデカンチオール等が挙げられる。
【0031】
図2に、本発明の量子ドット発光素子に好適に用いることができる量子ドットの構造の一例を示す。
図2に示す量子ドット10は、コア11と、コア11の周りを取り囲むシェル12と、シェル12の表面を覆うリガンド13と、を具える。該量子ドット10は、化学的安定性が高く、凝集が生じ難い。また、該量子ドット10は、溶液として調製し易く、スピンコート法等によって成膜し易いという利点がある。
【0032】
「一般式(1)で示される化合物」
本実施形態では、前記量子ドットと、一般式(1)で示される化合物とを含有する発光層6を用いる。該一般式(1)で示される化合物は、正孔注入層4から(正孔輸送層5を有する場合は、正孔輸送層5から)量子ドットへの正孔注入性の向上に寄与する。
【化4】
【0033】
一般式(1)で示される化合物は、正孔移動度が高く、量子ドットへの高い正孔注入性を有し、また、量子ドットを発光層6中に分散させるのに適している。そのため、発光層6に一般式(1)で示される化合物を用いることで、量子ドット発光素子の駆動電圧を低下させ、発光効率を向上させることができる。
【0034】
一般式(1)中のR1及びR2は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基である。ここで、アルキル基の炭素数は、1~10が好ましく、1~4が更に好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基等が挙げられる。R1及びR2としては、アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0035】
一般式(1)中のR3及びR4は、それぞれ独立して置換若しくは非置換の二価の芳香族炭化水素基又は単結合である。二価の芳香族炭化水素基としては、アリーレン基、アラルキレン基(アリールアルキレン基)等が挙げられる。ここで、アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基等が挙げられる。また、アラルキレン基としては、キシリレン基等が挙げられる。R3及びR4としては、置換若しくは非置換の二価の芳香族炭化水素基が好ましく、置換若しくは非置換のアリーレン基が更に好ましく、フェニレン基が特に好ましい。
前記二価の芳香族炭化水素基は、置換基で置換されていてもよいし、非置換でもよい。該置換基は、一価の置換基であり、一価の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のハロゲン原子;塩化メチル基、臭化メチル基、ヨウ化メチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基;ヒドロキシ基;チオール基;ニトロ基;シアノ基;アミノ基;アゾ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~40のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基等のアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、ブテニル基、スチリル基等の炭素数2~20のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基、フェニルアセチニル等の炭素数2~20のアルキニル基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等のアルケニルオキシ基;エチニルオキシ基、フェニルアセチルオキシ基等のアルキニルオキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基、ピレニルオキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロフェニル基等のパーフルオロ基及び更に長鎖のパーフルオロ基;ジフェニルボリル基、ジメシチルボリル基、ビス(パーフルオロフェニル)ボリル基、4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラニル基等のボリル基;アセチル基、ベンゾイル基等のカルボニル基;アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等のカルボニルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基等のスルフィニル基;メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等のスルホニル基;アルキルスルホニルオキシ基;アリールスルホニルオキシ基;ホスフィノ基;ジエチルホスフィニル基、ジフェニルホスフィニル基等のホスフィニル基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチル-tert-ブチルシリル基、トリメトキシシリル基、トリフェニルシリル基等のシリル基;シリルオキシ基;スタニル基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよいフェニル基、2,6-キシリル基、メシチル基、デュリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、トルイル基、アニシル基、フルオロフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、フェナンスレニル基等のアリール基(置換されていてもよい芳香族炭化水素環基);ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよい、チエニル基、フリル基、シラシクロペンタジエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、アクリジニル基、キノリル基、キノキサロイル基、フェナンスロリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリミジル基、イミダゾリル基等のヘテロ環基(置換されていてもよい芳香族複素環基);カルボキシル基;カルボン酸エステル;エポキシ基;イソシアノ基;シアネート基;イソシアネート基;チオシアネート基;イソチオシアネート基;カルバモイル基;N,N-ジメチルカルバモイル基、N,N-ジエチルカルバモイル基等のN,N-ジアルキルカルバモイル基;ホルミル基;ニトロソ基;ホルミルオキシ基;等が挙げられる。
【0036】
一般式(1)中のR5及びR6は、それぞれ独立して置換若しくは非置換の一価の芳香族炭化水素基又は置換若しくは非置換のカルバゾリル基であり、但し、R5及びR6の少なくとも一方は、置換若しくは非置換のカルバゾリル基である。
【0037】
R5及びR6に関して、前記一価の芳香族炭化水素基としては、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。ここで、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、フェナンスレニル基等が挙げられる。また、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、クミル基等が挙げられる。R5及びR6に関して、前記一価の芳香族炭化水素基としては、アリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
また、前記カルバゾリル基としては、3-カルバゾリル基、9-カルバゾリル基等が挙げられる。
前記一価の芳香族炭化水素基及び前記カルバゾリル基は、置換基で置換されていてもよいし、非置換でもよい。該置換基は、一価の置換基であり、一価の置換基としては、R3及びR4に関して上述した二価の芳香族炭化水素基の置換基を同様に挙げることができる。
【0038】
一般式(1)中のR
5及びR
6は、それぞれ独立して置換若しくは非置換の一価の芳香族炭化水素基又は下記一般式(2)又は(3)で示される置換若しくは非置換のカルバゾリル基であることが好ましい。ここで、R
5及びR
6の少なくとも一方は、下記一般式(2)又は(3)で示される置換若しくは非置換のカルバゾリル基であることが好ましい。
【化5】
【0039】
一般式(2)又は(3)中、R9、R10、R12及びR13は、それぞれ独立して一価の置換基であり、pは、0~3の整数であり、q、r及びsは、それぞれ独立して0~4の整数であり、R11は、置換若しくは非置換の一価の芳香族炭化水素基である。
R9は、カルバゾール環の一方のベンゼン環を構成する炭素原子に結合する置換基であり、最大3つまでの置換基を導入することができる。また、R10、R12及びR13は、カルバゾール環の2つのベンゼン環を構成する炭素原子に結合する置換基であり、各ベンゼン環において、最大4つまでの置換基を導入することができる。
ここで、一価の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のハロゲン原子;塩化メチル基、臭化メチル基、ヨウ化メチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基;ヒドロキシ基;チオール基;ニトロ基;シアノ基;アミノ基;アゾ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~40のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基等のアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、ブテニル基、スチリル基等の炭素数2~20のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基、フェニルアセチニル等の炭素数2~20のアルキニル基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等のアルケニルオキシ基;エチニルオキシ基、フェニルアセチルオキシ基等のアルキニルオキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基、ピレニルオキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロフェニル基等のパーフルオロ基及び更に長鎖のパーフルオロ基;ジフェニルボリル基、ジメシチルボリル基、ビス(パーフルオロフェニル)ボリル基、4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラニル基等のボリル基;アセチル基、ベンゾイル基等のカルボニル基;アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等のカルボニルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基等のスルフィニル基;メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等のスルホニル基;アルキルスルホニルオキシ基;アリールスルホニルオキシ基;ホスフィノ基;ジエチルホスフィニル基、ジフェニルホスフィニル基等のホスフィニル基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチル-tert-ブチルシリル基、トリメトキシシリル基、トリフェニルシリル基等のシリル基;シリルオキシ基;スタニル基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよいフェニル基、2,6-キシリル基、メシチル基、デュリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、トルイル基、アニシル基、フルオロフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、フェナンスレニル基等のアリール基(置換されていてもよい芳香族炭化水素環基);ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよい、チエニル基、フリル基、シラシクロペンタジエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、アクリジニル基、キノリル基、キノキサロイル基、フェナンスロリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリミジル基、イミダゾリル基等のヘテロ環基(置換されていてもよい芳香族複素環基);カルボキシル基;カルボン酸エステル;エポキシ基;イソシアノ基;シアネート基;イソシアネート基;チオシアネート基;イソチオシアネート基;カルバモイル基;N,N-ジメチルカルバモイル基、N,N-ジエチルカルバモイル基等のN,N-ジアルキルカルバモイル基;ホルミル基;ニトロソ基;ホルミルオキシ基;等が挙げられる。
【0040】
R11に関して、置換若しくは非置換の一価の芳香族炭化水素基としては、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。ここで、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、フェナンスレニル基等が挙げられる。また、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、クミル基等が挙げられる。R11としては、アリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
前記一価の芳香族炭化水素基は、置換基で置換されていてもよいし、非置換でもよい。該置換基は、一価の置換基であり、一価の置換基としては、R3及びR4に関して上述した二価の芳香族炭化水素基の置換基を同様に挙げることができる。
【0041】
一般式(1)中のR7及びR8は、それぞれ独立して一価の置換基であり、nは、0~4の整数であり、mは、0~3の整数である。R7は、フルオレン環の一方のベンゼン環を構成する炭素原子に結合する置換基であり、最大4つまでの置換基を導入することができる。また、R8は、フルオレン環のもう一方のベンゼン環を構成する炭素原子に結合する置換基であり、最大3つまでの置換基を導入することができる。
ここで、一価の置換基としては、一般式(2)又は(3)中のR9、R10、R12及びR13に関して上述した一価の置換基を同様に挙げることができる。
【0042】
上記一般式(1)で示される化合物の中でも、下記構造式(1-1)で示される化合物が特に好ましい。下記構造式(1-1)で示される化合物は、正孔移動度が高く、量子ドットへの高い正孔注入性を有し、量子ドットを発光層6中に分散させるのに適している。そのため、発光層6に構造式(1-1)で示される化合物を用いることで、量子ドット発光素子の駆動電圧を低減させ、発光効率を更に向上させることができる。
【化6】
【0043】
上述のように、前記発光層6において、量子ドットと、一般式(1)で示される化合物とは、均一に分布していても、均一に分布していなくてもよく、量子ドットからなる層と、一般式(1)で示される化合物からなる層とに分離していてもよい。
また、発光層6を形成する際には、量子ドットと一般式(1)で示される化合物とを一括で成膜した混合層としてもよいし、別々に積層して、2層構成としてもよい。また、発光層6は量子ドットと一般式(1)で示される化合物とを一括で成膜した混合層と、量子ドット層と、を積層した構成としてもよいし、量子ドットと一般式(1)で示される化合物とを一括で成膜した混合層を複数積層した構成としてもよい。
【0044】
前記発光層6における、量子ドットと、一般式(1)で示される化合物と、の質量比(量子ドット/一般式(1)で示される化合物)は、特に限定されるものではないが、50/1~1/3の範囲が好ましく、20/1~1/1の範囲が更に好ましい。量子ドットと一般式(1)で示される化合物との質量比が上記の範囲内であれば、量子ドット発光素子の発光効率を向上させる効果が更に向上する。
【0045】
前記発光層6の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0046】
<電子輸送層>
前記電子輸送層7は、陰極9から注入した電子を発光層6まで輸送するために用いる。適切なLUMOレベルを有する電子輸送層7を、陰極9又は電子注入層8と、発光層6との間に設けると、陰極9又は電子注入層8から電子輸送層7への電子注入障壁が緩和され、電子輸送層7から発光層6への電子注入障壁が緩和される。また、電子輸送層7に用いられる材料が適切な最高被占有分子軌道(HOMO)レベルを有する場合、発光層6で再結合せずに対極へ流出する正孔が阻止される。その結果、発光層6内に正孔が閉じ込められて、発光層6内での再結合効率が高められる。
なお、電子輸送層7は、電子注入障壁が問題とならず、発光層6の電子輸送能が十分に高い場合には、省略される場合がある。
【0047】
前記電子輸送層7の材料としては、例えば、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3”-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4,6-トリス(3’-(ピリジン-3-イル))-1,3,5-トリアジン(TmPPPyTz)、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2”-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBi)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2’-ヒドロキシフェニル)ピリジン]ベリリウム(Bepp2)、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)等に代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、ホウ素含有化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも電子輸送層7の材料として、TmPyPBのようなピリジン誘導体やTmPPPyTzのようなトリアジン誘導体を用いることが好ましい。
前記電子輸送層7の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0048】
<電子注入層>
前記電子注入層8は、陰極9からの電子注入を容易にする目的で用いる。該電子注入層8の材料としては、無機材料、或いは電子注入性の低分子材料又は高分子材料からなる有機材料を用いることができる。電子注入層8の材料として、より具体的には、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化タングステン(WO3)、酸化タンタル(Ta2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化リチウム(Li2O)、酸化イットリウム(Y2O3)、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、炭酸セシウム等を用いることができ、これらの中でも、電子注入性の観点から、酸化亜鉛、フッ化リチウム、マグネシウムを添加した酸化亜鉛が好ましい。
【0049】
<陰極>
前記陰極9は、電子注入層8又は電子輸送層7に電子を注入する。このため、陰極9の材料としては、仕事関数の比較的小さな各種金属材料、各種合金等が用いられる。陰極9の材料としては、例えば、アルミニウム、銀、マグネシウム、カルシウム、金、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、マグネシウムインジウム合金(MgIn)、銀合金等が挙げられる。
【0050】
量子ドット発光素子1がボトムエミッション型のものである場合、陰極9の材料として、金属からなる不透明電極を用いることができ、反射性の材料を用いてもよい。
一方、量子ドット発光素子1がトップエミッション型のものである場合、陰極9の材料として、透明導電材料が用いられる。なお、陰極9の材料としてITOを用いた場合、ITOの仕事関数が大きいため、電子注入が困難となる。また、ITO膜は、スパッタ法やイオンビーム蒸着法を用いて成膜するため、成膜時に電子注入層8等にダメージが与えられる可能性がある。このため、陰極9の材料としてITOを用いる場合には、電子注入層8とITOとの間に、マグネシウム層や銅フタロシアニン層を設けることが好ましい。
【0051】
前記陰極9の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、50~200nmが更に好ましい。
【0052】
上述した実施形態においては、基板2と発光層6との間に陽極3が配置された順構造の電界発光素子1を例に挙げて説明したが、本発明の電界発光素子は、基板と発光層との間に陰極が配置された逆構造のものであってもよい。
上述した正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8は、それぞれ1層ずつでもよいし、それぞれの層が複数の役割を受け持つ構造となっていてもよい。また、例えば、一つの層で、正孔注入層と正孔輸送層を兼用したりすることも可能である。また、陽極3、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極9の各層の間に、他の層を有する構造となっていてもよい。
【0053】
<各層の形成方法>
前記陽極3、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極9の形成方法は、特に限定されるものではなく、真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等の方法を用いることができる。また、これらの方法を用いて、前記陽極3、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極9の厚さを、目的に応じて適宜調整することができる。また、これらの方法は、各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層ごとに作製方法が異なっていてもよい。
以上により、
図1に示される量子ドット発光素子1が完成する。
【0054】
<<表示装置>>
本発明の表示装置は、上述の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。本発明の表示装置は、上述した駆動電圧が低く、発光効率の高い量子ドット発光素子を具えるため、発光特性に優れる。本発明の表示装置は、上述した量子ドット発光素子の他に、表示装置に一般に用いられる他の部品を具えることができる。
【0055】
<<照明装置>>
本発明の照明装置は、上述の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。本発明の照明装置は、上述した駆動電圧が低く、発光効率の高い量子ドット発光素子を具えるため、発光特性に優れる。本発明の照明装置は、上述した量子ドット発光素子の他に、照明装置に一般に用いられる他の部品を具えることができる。
【実施例0056】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
<量子ドットの合成>
J.カクら(J.Kwak et al.),ナノ・レターズ(Nano Letters),12,2362-2366(2012)に開示されている方法に従って、緑色発光を示す量子ドットCdSe/ZnS(コア/シェル型の量子ドット)を合成した。具体的な合成方法を以下に示す。
0.257gの酸化カドミウム、7.34gの酢酸亜鉛、30.13gのオレイン酸、150mlのオクタデセンをフラスコに投入した。減圧下、150℃で30分加熱後、アルゴンにてリークし、アルゴンフロー下で280℃まで昇温した(溶液1)。0.079gのセレン、1.122gの硫黄を20mlのトリオクチルホスフィンに溶解させた溶液を用意し、溶液1に投入した。280℃で10分間混合した後、室温まで冷やした(溶液2)。この溶液2にエタノールを加えて、析出物を遠心分離で回収した。回収物をクロロホルムに分散させて、濃度を20mg/mlとなるように調整した。
【0058】
<量子ドット発光素子の作製>
正孔輸送層5を省略した以外は、
図1に示す構造と同様の構造の量子ドット発光素子を次のようにして作製した。
まず、ガラス基板にITOからなる透明電極(陽極、厚さ:100nm)を形成し、これをライン状にパターニングした。
次に、正孔注入層としてPEDOT:PSS(ヘレウス社製、CH8000)の層をスピンコート法によって成膜し、180℃で60分間加熱した(正孔注入層、厚さ:30nm)。
次に、前項にて合成した量子ドットCdSe/ZnSと、下記構造式(1-1):
【化7】
示される化合物と、を質量比3:2で、クロロホルムに溶解させたクロロホルム溶液を調製し、スピンコート法によって成膜した(発光層、厚さ:20nm)。窒素雰囲気下、100℃にて30分間加熱した。
次に、基板を真空蒸着成膜装置に入れ、真空蒸着法によって、下記式(7-1):
【化8】
で示される構造式を有するTmPPPyTzからなる電子輸送層を成膜した(厚さ:35nm)。
続いて、真空蒸着により、フッ化リチウムからなる電子注入層(厚さ:1nm)、アルミニウムからなる電極(陰極、厚さ:70nm)を成膜した。
なお、
図1には示していないが、量子ドット発光素子は、窒素ガスで満たされたグローブボックス中で、封止用ガラスの周縁部に紫外線硬化樹脂を塗布した後、量子ドット発光素子を形成した前記基板の周縁部に貼り合せて、封止を行った。
【0059】
(比較例1)
上記実施例1と同様に量子ドットの合成を実施した。この量子ドットを用いて実施例1と同様に量子ドット発光素子を作製した。このときに、発光層として、前項にて合成した量子ドットを実施例1と同量、クロロホルムに溶解させたクロロホルム溶液をスピンコート法によって成膜したものを用いた。
【0060】
<素子特性の評価>
(電圧-輝度特性の測定)
実施例1及び比較例1の量子ドット発光素子について、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、電圧-輝度特性を測定した。その結果を
図3に示す。
【0061】
図3から分かるように、実施例1の量子ドット発光素子の駆動電圧は、比較例1よりも低い値を示した。これは、比較例1で使用した量子ドットのみからなる発光層よりも、実施例1で使用した、構造式(1-1)で示される化合物を混合した発光層の方が、正孔輸送性及び量子ドットへの正孔注入性が高いためである。
【0062】
(電流密度-外部量子効率特性の測定)
実施例1及び比較例1の量子ドット発光素子について、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、電流を測定した。また、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定した。以上の測定値より、外部量子効率を算出し、電流密度-外部量子効率特性をプロットした。その結果を
図4に示す。
【0063】
図4から分かるように、外部量子効率は、実施例1の方が比較例1よりも高い値を示した。これは、比較例1で使用した量子ドットのみからなる発光層よりも、実施例1で使用した、構造式(1-1)で示される化合物を混合した発光層の方が、正孔輸送性及び量子ドットへの正孔注入性が高く、発光層に注入された電荷を効率よく発光に寄与させることができるためである。
【0064】
以上の結果から、量子ドットと一般式(1)で示される化合物とを含む発光層を用いた量子ドット発光素子が、高い発光効率と低い駆動電圧兼ね備えることが分かる。