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  • 特開-ニッケル酸化鉱石の製錬方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147089
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20231004BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20231004BHJP
   C22B 1/24 20060101ALI20231004BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20231004BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20231004BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B5/10
C22B1/24
C22B7/00 C
C22B1/02
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054650
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA02
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA04
4K001CA11
4K001CA18
4K001CA19
4K001CA20
4K001CA22
4K001DA05
4K001GA07
4K001HA01
4K001KA02
4K001KA06
5H031HH03
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】ニッケル酸化鉱石を含む混合物を還元することで有価メタルを製造する製錬方法において、高品質(高品位)の有価メタルを効率よく製造することができるニッケル酸化鉱石の製錬方法を提供する。
【解決手段】本発明のニッケル酸化鉱石の製錬方法は、ニッケル酸化鉱石と、銅および/または銅の酸化物を含有する処理物と、炭素質還元剤と、を含有する混合物を調製する混合物調製工程と、混合物からペレットを成形する混合物成形工程と、混合物成形工程で得られたペレットを加熱還元してニッケルを含有する有価メタルとスラグとを得る還元処理工程と、還元処理工程で得られる有価メタルとスラグとを分離し有価メタルを回収する回収工程と、を含み、混合物調製工程において、炭素質還元剤が、還元処理工程で過還元状態を抑制し得るように調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石と、銅および/または銅の酸化物を含有する処理物と、炭素質還元剤と、を含有する混合物を調製する混合物調製工程と、
該混合物からペレットを成形する混合物成形工程と、
該混合物成形工程で得られたペレットを加熱還元してニッケルを含有する有価メタルとスラグとを得る還元処理工程と、
該還元処理工程で得られる有価メタルとスラグとを分離し有価メタルを回収する回収工程と、を含み、
前記混合物調製工程において、
前記炭素質還元剤が、前記還元処理工程で過還元状態を抑制し得るように調整する
ことを特徴とするニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記混合物調製工程において、
前記ニッケル酸化鉱石中の酸化金属を過不足なく還元するのに必要な量を100%としたとき、前記炭素質還元剤を10%以上30%以下となるように混合する
ことを特徴とする請求項1記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
前記処理物が、原料に廃棄リチウム電池を含む
ことを特徴とする請求項1または2記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項4】
前記処理物が原料に廃棄リチウム電池を含む場合、該廃棄リチウム電池含有処理物を調製するLIBスクラップ処理物調製工程を含み、
該LIBスクラップ処理物調製工程は、
廃棄リチウム電池を焙焼する第一焙焼工程と、該第一焙焼工程後の焙焼物を粉砕する破砕工程と、該破砕工程後の粉砕物を磁着物と非磁着物に分別する磁選工程と、該磁選工程後の非磁着物を篩分けする篩工程と、該篩工程後の篩下物を焙焼する第二焙焼工程と、を含む
ことを特徴とする請求項3記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項5】
前記混合物調製工程において、
前記処理物と前記ニッケル酸化鉱石の合計を100質量%としたとき、前記処理物を0.01質量%以上10質量%以下となるように混合する
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法には、熔錬炉を使用して硫黄と共に硫化焙焼してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用し炭素質還元剤を用いて還元することによってニッケルを含有する合金を製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して硫酸でニッケルやコバルトを浸出して得た浸出液に硫化剤を添加して混合硫化物(ミックスサルファイド)を製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
上述した種々の製錬方法の中で、炭素源と共にキルンや炉に装入して還元処理することでニッケル酸化鉱石を製錬(乾式製錬方法)しようとする場合、還元で生成するニッケルを主成分とするニッケルメタルは粗大な方が生産性の観点から好ましい。これは、ニッケルメタルが、例えば数10μm程度の細かな大きさであった場合、同時に生成するスラグと分離することが困難となり、ニッケルの回収率(収率)が大きく低下するためである。
粗大なニッケルメタルを得るには、ニッケル品位の高い鉱石を処理することが最も簡単な方法ではある。しかし、近年は世界的に資源事情が厳しく、高ニッケル品位の鉱石を得ることは容易でない。
【0004】
そこで、品位の低い鉱石(例えば、ニッケルの品位が1.0質量%以下の鉱石)から粗大なニッケルメタルを得るための研究が行われている。例えば、特許文献1には、金属酸化物と炭素質還元剤とを含むペレットを還元溶融炉で加熱して金属酸化物を還元溶融してニッケルを主成分とするニッケルメタル(粒状金属)を製造するにあたり、炉床上に供給するペレットの平均直径を19.5mm以上、32mm以下とし、炉床上でペレットを加熱するときのペレットの炉床への投影面積率から算出される敷密度を0.5以上、0.8以下に制御することにより、ニッケルメタルの生産性を向上させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-256414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、ペレットの作製にコストがかかったり、炉内におけるペレットの敷密度を所定の値に調整する必要があることなどから、結果的に生産性が向上しないためニッケルメタルの製造コストが高くなるという問題が生じている。
また、従来の技術では、ニッケル品位(ニッケル含有率)の低いニッケル酸化鉱石等から製錬されるニッケルメタルには、ニッケル以外に鉄が高い品位で含まれる。このため、このようなニッケルメタルから純水なメタルを精製する場合には、他の金属成分を湿式処理によって除去する処理が必要となる。しかし、この精製過程において、鉄の含有率が高ければ鉄を溶解するために多量の酸などの薬液が必要になり、また薬液の後処理も煩雑となることから、精製コストが増加してしまうという問題も生じている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を還元することで有価メタルを製造する製錬方法において、高品質(高品位)の有価メタルを効率よく製造することができるニッケル酸化鉱石の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべき鋭意検討を重ねた結果、銅成分を含有し、炭素質還元剤を調整することにより、鉄含有率が低い有価メタルを効率的に得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
第1発明のニッケル酸化鉱石の製錬方法は、ニッケル酸化鉱石と、銅および/または銅の酸化物を含有する処理物と、炭素質還元剤と、を含有する混合物を調製する混合物調製工程と、該混合物からペレットを成形する混合物成形工程と、該混合物成形工程で得られたペレットを加熱還元してニッケルを含有する有価メタルとスラグとを得る還元処理工程と、該還元処理工程で得られる有価メタルとスラグとを分離し有価メタルを回収する回収工程と、を含み、前記混合物調製工程において、前記炭素質還元剤が、前記還元処理工程で過還元状態を抑制し得るように調整することを特徴とする。
第2発明のニッケル酸化鉱石の製錬方法は、第1発明において、前記混合物調製工程において、前記ニッケル酸化鉱石中の酸化金属を過不足なく還元するのに必要な量を100%としたとき、前記炭素質還元剤を10%以上30%以下となるように混合することを特徴とする。
第3発明のニッケル酸化鉱石の製錬方法は、第1発明または第2発明において、前記処理物が、原料に廃棄リチウム電池を含むことを特徴とする。
第4発明のニッケル酸化鉱石の製錬方法は、第3発明において、前記処理物が原料に廃棄リチウム電池を含む場合、該廃棄リチウム電池含有処理物を調製するLIBスクラップ処理物調製工程を含み、該LIBスクラップ処理物調製工程は、廃棄リチウム電池を焙焼する第一焙焼工程と、該第一焙焼工程後の焙焼物を粉砕する破砕工程と、該破砕工程後の粉砕物を磁着物と非磁着物に分別する磁選工程と、該磁選工程後の非磁着物を篩分けする篩工程と、該篩工程後の篩下物を焙焼する第二焙焼工程と、を含むことを特徴とする。
第5発明のニッケル酸化鉱石の製錬方法は、第1発明、第2発明、第3発明または第4発明のいずれかの発明において、前記混合物調製工程において、前記処理物と前記ニッケル酸化鉱石の合計を100質量%としたとき、前記処理物を0.01質量%以上10質量%以下となるように混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のニッケル酸化鉱石の製錬方法は、ニッケル酸化鉱石とともに、銅成分と所定量の炭素質還元剤を含有させることにより、鉄含有率が低い高品質(高品位)の有価メタルを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のニッケル酸化鉱石の製錬方法の概略フロー図ある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態のニッケル酸化鉱石の製錬方法は、ニッケル酸化鉱石からニッケルを含む有価メタルを得る乾式製錬方法であり、鉄含有率が低く、平均粒径が大きな有価メタルを製造できるようにしたことに特徴を有している。
【0013】
以下、本実施形態のニッケル酸化鉱石の製錬方法を図面に基づいて説明する。
まず、本実施形態のニッケル酸化鉱石の製錬方法(以下、本製錬方法という)の概略について説明する。
【0014】
図1に示すように、本製錬方法は、混合物を調製する混合物調製工程S1と、ペレットを成形する混合物成形工程S2と、ペレットを加熱還元する還元処理工程S3と、還元処理工程後の還元物から有価メタルを回収する回収工程S4と、を含む。
具体的には、本製錬方法では、混合物調製工程S1において、ニッケル酸化鉱石と、銅および/またはその酸化物(以下、銅成分という)を含有する処理物と、所定量の炭素質還元剤と、を適量の水を添加しながら混合して混合物を調製する。このとき、炭素質還元剤を、還元処理工程S3において、鉄酸化物の還元度が過還元にならないような割合で混合する。そして、このように調製した混合物を次工程の混合物成形工程S2に供給してペレット状に成形する。成形したペレットは、加熱還元処理する還元処理工程S3に供給されて、還元処理工程S3において、有価メタルとスラグを含む還元物を生成させる。この還元物は、回収工程S4において、有価メタルとスラグを分離されて、有価メタルを回収する。
【0015】
ここで、一般的に、ニッケル酸化鉱石からニッケルを含む有価メタルを得る乾式製錬方法では、ニッケル酸化鉱石に含まれる金属酸化物を還元処理して金属メタルが生成される。この還元処理では、炭素質還元剤が使用されており、添加する炭素質還元剤は、金属酸化物を十分に還元し得るだけの量が添加されている。とくに、ニッケル品位の低い鉱石などを使用する場合には、少量のニッケル酸化物のメタル化率を高めるため、還元処理工程において、過還元状態の雰囲気下を形成する量の炭素質還元剤を添加する必要がある。
一方、本製錬方法では、上記のように、炭素質還元剤は、還元処理工程S3において、過還元状態の雰囲気を形成しない量(つまり、過還元状態を抑制し得る量)となるように調整されている。
【0016】
以上のごとく、本製錬方法では、ニッケル酸化鉱石とともに、所定量に調整された炭素質還元剤をペレットに含有させることにより、ニッケル品位の低い鉱石などを使用する場合であっても、酸化鉄が過還元により鉄メタルとなって有価メタル中に取り込まれるのを抑制することができる。例えば、有価メタル中の鉄含有率は、一般的な製錬方法で製造されるメタルと比べて鉄含有率が低くなるように調整されている。例えば、有価メタル中の鉄含有率は、50質量%以下であり、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
そして、本製錬方法を用いて製造される有価メタルは、上記のように鉄含有率が低くなるように調整されているので、純金属の精製コストを大幅に抑制することができる。例えば、有価メタルからニッケルなどのそれぞれの純金属を湿式処理によって精製する場合、使用する薬液量を大幅に抑制することができる。つまり、本製錬方法で得られる有価メタル中の鉄含有率は低くなるように調整されているので、一般的な乾式製錬方法で得られる有価メタルを処理する場合と比べて、鉄を溶かすための酸などの薬液の使用量を少なくすることができる。しかも薬液の使用量を少なくできるので、後処理にかかる工数や処理費用も抑制することができる。したがって、本製錬方法を用いて製造される有価メタルを用いれば、純金属の精製コストを大幅に抑制することができる。
【0017】
また、本製錬方法では、ニッケル酸化鉱石とともに、銅成分を含有させている。この銅成分は、ニッケルと合金を形成し、形成した合金の融点をニッケルの融点よりも低くすることができる。
このため、還元処理工程S3において、ニッケルを含有する有価メタルとスラグに融点の差を拡大させることができる。すると、スラグが固まった時点でも有価メタルが流動性を有する状態として存在させることができるので、ペレット内のスラグの隙間を流れ伝わって凝集し、平均粒径が大きな粗大な有価メタルを形成させることができる。
具体的には、還元処理工程S3において、ペレット中のニッケル(酸化ニッケル)と一部の鉄(酸化鉄)、さらにはコバルト(酸化コバルト)を還元し、そして銅メタルとともに、主にニッケル-銅系合金(あるいはニッケル-コバルト-銅系合金)である有価メタルとスラグを生成させ、その有価メタルをスラグと分離することで有価メタルが得られる。このとき、銅を含有するニッケル合金(あるいは銅を含有するニッケル-コバルト合金)を生成するが、銅とニッケルあるいはコバルトとの合金は銅を含まない場合と比べて合金の融点が低下するので、溶体状態で合金が凝集し易くなるから、粗大な有価メタルを生成することができる。
したがって、本製錬方法を用いれば、スラグとの分離性を向上させた粗大な有価メタルを生成できるので、有価メタルの回収率を向上させることができる。
【0018】
よって、本製錬方法を用いれば、炭素質還元剤の混合割合(混合量)を調整することにより有価メタル中の鉄含有率を低下させることがき、かつ銅成分を混合させることにより粗大なニッケルを含有する有価メタルを効率よく生産することができる。つまり、本製錬方法を用いれば、炭素質還元剤を抑制することで有価メタル中の鉄含有率を抑制する一方、銅成分を含有する処理物を併用することにより、ニッケルと銅との合金を生成して融点を低下させ流動性を増加させて粗大な有価メタルを生成させる。また、還元処理工程S3で生成される銅メタルは鉄を還元することはないので、鉄が過剰に還元されて有価メタル中の鉄品位が上昇することも抑制できる。
【0019】
以下、本製錬方法の各工程について具体的に説明する。
【0020】
(混合物調製工程S1)
本製錬方法の混合物調製工程S1は、ニッケル酸化鉱石と、処理物と、炭素質還元剤と、を適量の水を添加しながら混合して混合物を調製する工程である。
【0021】
ニッケル酸化鉱石等を混合する方法は、とくに限定されず、例えば、市販の混合機を用いることができる。
混合に際しては、混合性を高めるために混練を同時に行ってもよく、混合後に混練を行ってもよい。また、混練には、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸混練機、二軸混練機等を用いて行うことができる。混合物を混練することによって、その混合物にせん断力を加え、炭素質還元剤や粉状のニッケル酸化鉱石等の凝集を解いて均一に混合できるとともに、各々の粒子の密着性を向上させ、また空隙を減少させることができる。これにより、その混合物において還元反応が起りやすくなるとともに均一に反応させることができ、還元反応の反応時間を短縮することができる。また、品質のばらつきを抑えることができる。
【0022】
表1には、混合物の調製に用いられるニッケル酸化鉱石、処理物、炭素質還元剤の組成(質量%)の一例を示す。ただし、ニッケル酸化鉱石等の組成は、これに限定されない。
なお、LIBスクラップ処理物についての詳細は後述する。
【0023】
【表1】
【0024】
(ニッケル酸化鉱石)
ニッケル酸化鉱石は、ニッケルを酸化ニッケル(NiO)として含有する鉱石であれば、とくに限定されない。例えば、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、代表的な構成成分として酸化鉄(Fe)を含有する。
【0025】
(処理物)
処理物は、銅成分(銅および/またはその酸化物)を含有することにより、上記機能を発揮させるものである。具体的には、処理物中の銅成分は、上述したように銅および/またはその酸化物であり、ニッケルと全率固溶して均一に合金を生成させることができる。また、合金中の銅の含有を増加させることにより合金の融点をより低下させることができる。
【0026】
処理物中の銅成分の含有量(混合割合)は、上記機能を発揮することができれば、とくに限定されない。例えば、銅成分の含有量は、処理物の組成比において、5質量%程度以上あればよい。この銅成分の含有量は、処理物の原料に応じ適宜調整することができる。例えば、後述する銅成分そのものを原料とする処理物の場合、銅成分の含有量が80質量%~100質量%程度のものを用いることができる。一方、後述するLIBスクラップを原料とする処理物の場合、銅成分の含有量が10質量%~50質量%程度のものを用いることができる。とくに、後述するLIBスクラップを原料とする処理物の場合、銅成分の含有量が5質量%~40質量%程度のものを用いるのが好ましい。
【0027】
なお、「~」の表記は、「以上以下」を意味し、例えば、5質量%~40質量%は、5質量%以上40質量%以下を意味する。
【0028】
処理物の原料は、銅成分を含有していれば、とくに限定されない。
例えば、銅成分をそのまま原料として処理物を調製してもよいし、銅成分を含有する原料を処理したものを用いて処理物を調製してもよい。
【0029】
後者の原料としては、例えば、銅成分を含有する金属スクラップや、ニッケルなどの有価金属を使った電池(例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池)などを挙げることができる。
一般的にリチウムイオン電池は、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶内に、銅箔からなる負極集電体に黒鉛等の負極活物質を固着した負極材、アルミニウム箔からなる正極集電体にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着した正極材、ポリプロピレン等の多孔質樹脂フィルムからなるセパレータ、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質を含む電解液等を封入した構造である。つまり、リチウムを含有する電池には、ニッケルの他に銅やコバルトなどの有価金属を含有しているので、このような使用済みの電池(以下、廃棄リチウム電池(LIBスクラップまたは廃LIBともいう)という)を処理物の原料として用いれば廃棄物を有効活用できるほか、有価金属を回収できるという利点も得られる。
【0030】
なお、廃棄リチウム電池を原料の一部または全部に含む処理物(LIBスクラップ処理物ともいう、特許請求の範囲の「廃棄リチウム電池含有処理物」に相当する)の調製方法の詳細は後述する。
【0031】
混合物調製工程S1において、処理物の混合割合はとくに限定されない。
例えば、混合物調製工程S1において、処理物とニッケル酸化鉱石の合計を100質量%としたとき、処理物が0.01質量%以上の割合となるように混合する。処理物の混合割合が0.01質量%よりも低くなると有価メタルの粗大化に対する効果が小さくなる傾向にある。一方、処理物の混合割合の上限はとくに限定されない。例えば、処理物の原料として廃棄リチウム電池を用いる場合(LIBスクラップ処理物の場合)、混合割合の上限は、20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下とする。LIBスクラップ処理物の場合、混合割合が20質量%を超えると、LIBスクラップに残留するリンなどの不純物の総量が多すぎて、有価メタル中に許容値以上分配される可能性がある。
【0032】
したがって、混合物を調製する際の処理物の混合割合は、不純物の少ない金属スクラップ等を原料とする場合、0.01質量%以上であれば、上限はとくに限定されない。一方、LIBスクラップ処理物の場合には、0.01質量%以上20質量%以下となるように混合するのが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以上12質量%以下であり、さらにより好ましくは0.01質量%以上10質量%以下である。
【0033】
なお、処理物の混合割合は、混合物における、処理物由来の上記銅成分の含有率に基づいて調整してもよい。例えば、処理物中の銅成分の含有率が、組成比で、30質量%の場合、処理物の混合割合は、10質量%となるように混合してよい。また、処理物中の銅成分の含有率が、組成比で、20質量%の場合、処理物の混合割合は、15質量%となるように混合してよい。
【0034】
(炭素質還元剤)
炭素質還元剤としては、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、その一部または全てを植物由来成分、例えば澱粉等で構成してもよい。
この炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石の粒度や粒度分布と同等の大きさのものを用いるのが好ましい。このような大きさであると、混合する際に均一に混合し易く、還元反応も均一に進みやすくなる。
【0035】
混合物調製工程1における炭素質還元剤の混合割合は、上述したように、還元処理工程S3において、酸化鉄の還元度が過還元にならないように調整されている。例えば、本製錬方法により生成される有価メタル中の鉄含有率が20質量%以下となるように調整されている。この調整量は、10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、さらにより好ましくは0.5質量%以下である。
より具体的には、混合物調製工程1における炭素質還元剤の混合割合は、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケル、酸化コバルト、及び酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量を100%としたとき、30%以下となるように混合する。好ましくは28%以下となるように混合する。一方、炭素質還元剤の混合量の下限値は、とくに限定されないが、例えば、以下に説明する化学当量の合計値を100%としたときに、10%以上とすることが好ましく、より好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは20%以上であり、よりさらに好ましくは23%以上である。炭素質還元剤の量を40%よりも高くすると、還元処理工程S3において、過還元状態の雰囲気下を形成し易くなる傾向にあり、有価メタル中の鉄含有率が10質量%よりも高くなる傾向にある。一方、炭素質還元剤の量を10%よりも少なくすると、還元処理工程S3における還元反応の進行が低下する傾向にある。例えば、酸化ニッケル、酸化コバルトの還元が不十分となり、有価メタルの回収率が低下してしまう可能性が生じる。
【0036】
したがって、混合物調製工程S1において、炭素質還元剤を混合する割合(混合割合)は、化学当量の合計値を100重量%としたときに上記範囲内となるように調整する。炭素質還元剤の混合割合を上記範囲内となるように調整することにより、還元処理工程S3における還元反応を適切に進行させつつ、鉄含有率が低い有価メタルを製造することができる。
【0037】
なお、炭素質還元剤の混合割合(%)の単位は、モル比であっても質量比であってもよい。つまり、炭素質還元剤の混合割合(%)は、モル比または質量比において、上記範囲内であればよい。
また、酸化ニッケル、酸化コバルト、及び酸化鉄と、を過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量とは、還元処理工程S3において、混合物を成形して得られたペレットに含まれる酸化ニッケルの全量をニッケルメタルに還元するのに必要な化学当量と、ペレットに含まれる酸化鉄を鉄メタルに還元するのに必要な化学当量との合計値(以下、「化学当量の合計値」ともいう)と定義する。
【0038】
なお、混合物には、鉄鉱石や、フラックス成分、バインダー、適量の水を含有させてもよい。
鉄鉱石としては、例えば、鉄品位が50.0質量%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。
フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。
バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。
【0039】
また、混合物に含有させるニッケル酸化鉱石、処理物、鉄鉱石、フラックス成分などの大きさは、混合物の成形に影響を与えない程度の大きさであれば、とくに限定されない。例えば、粒径が0.01mm~20mmのものが好ましく、より好ましくは0.01mm~10mmであり、さらに好ましくは0.02mm~5mmである。
【0040】
ニッケル酸化鉱石等の粒径は、単一粒子の粒子径であってもよいし、単一粒子が凝集した凝集粒子の粒子径であってもよい。例えば、ニッケル酸化鉱石を粉砕したものを篩(目開き0.1mm)にかければ、篩を通過した粉状のニッケル酸化鉱石(粒子の長径がおおよそ0.03mm~0.3mm)を得ることができる。
【0041】
(混合物成形工程S2)
混合物調製工程S1で調製した混合物は、次工程の混合物成形工程S2に供される。
本製錬方法の混合物成形工程S2は、供給された混合物を成形してペレットを形成する工程である。
【0042】
ペレットの形状としては、還元炉の炉床に積層できる形状であれば、とくに限定されない。
例えば、楕円状、立方体状、直方体状、円柱状、又は球状等とすることができる。このような形状は、簡易な形状であって複雑なものではないため、成形コストを抑制することができる。しかも、不良品の発生を抑制することができ、得られる成形物の品質も均一にできるので、歩留り低下を抑制することができる。さらに、強度も維持し易くなる。
とくに、ペレットの形状としは、球状が好ましい。ペレットが球状であることにより還元処理が均一に施され、ばらつきが少なく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。ペレットの形状を球状とする場合には、直径が10mm以上30mm以下程度となるように成形することができる。また、直方体状、立方体状、円柱状等とする場合には、概ね、縦、横の内寸が500mm以下程度となるように成形することができる。
ペレットの大きさとしては、とくに限定されない。例えば、ペレットの体積が8000mm以上であることが好ましい。ペレットの体積が8000mm以上であることにより、成形コストが抑制され、さらに、ペレット全体に占める表面積の割合が低くなるため、加熱還元処理が均一に施され、ばらつきが少なく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。
【0043】
混合物成形工程S2において、混合物からペレットを成形することができれば、手段はとくに限定されない。例えば、ブリケット装置、ペレタイザーや押出機などの成形装置を用いて混合物から成形物を成形することができる。成形装置としては、例えば、高圧、高せん断力で混合物を混練して成形できる装置が好ましい。高圧、高せん断で混合物を混練することにより、混合物の凝集を解くことができ、また効果的に混練することができるうえ、得られる成形物の強度を高めることができる。
また、ブリケットプレスを用いて成形することも可能である。設備や成形物強度、収率等を考慮して適宜、装置選定を行えばよい。
【0044】
なお、混合物成形工程S2は、成形したペレットを乾燥する乾燥工程を含んでもよい。
ペレットに含まれる水分は、例えば50質量%程度と過剰に含まれることがある。このようにペレットが過剰の水分を含む場合、急激に加熱すると、内部の水分が一気に気化し、膨張して破壊することがある。そこで、成形したペレットを乾燥工程に供給して乾燥処理を施す。乾燥工程では、固形分が60質量%程度、水分が40質量%程度以下となるようにペレットを乾燥処理する。より好ましくは、水分が30質量%程度もしくはそれ以下となるように乾燥する。
ペレットの水分含有量を低減することにより、次工程の還元処理工程S3における還元加熱処理においてペレットが崩壊することを抑制することができるので、還元炉から取り出し易くなる。
また、ペレットは、過剰な水分によりベタベタした状態となっていることが多いため、乾燥処理を施すことで、取り扱いを容易にできる。
さらに、次工程の還元処理工程S3において、還元炉内におけるペレットに起因する水分混入を抑制することができる。これにより、還元炉内の雰囲気気体に含まれる水分量をより効果的に減らすことができ、還元物に含まれるメタルの酸化をより効果的に抑制することができる。
【0045】
乾燥工程における乾燥処理は、ペレットの水分含有量が30質量%程度以下となるように処理できれば、とく限定されない。例えば、70~400℃の熱風をペレットに対して吹き付けて乾燥させることができる。
とくに、乾燥処理を行う際のペレットの温度を100℃未満に維持すれば、乾燥処理中のペレットの破壊を抑制することができる。
また、体積の大きなペレットを乾燥させる場合には、乾燥前や乾燥後にひびや割れが入っていてもよい。ペレットの体積が大きい場合には、還元時に溶融して収縮するため、ひびや割れが生じることが多いが、ひびや割れによって生じる表面積の増加等の影響は僅かであるため大きな問題は生じ難い。一方、ペレットに破壊が生じない態様となっていれば、乾燥処理を省略してもよいのはいうまでもない。
【0046】
乾燥処理は連続して一度に行ってもよいし複数回に分けて行ってもよい。乾燥処理を複数回に分けて行うことによりペレットの破裂をより効果的に抑制することができる。なお、乾燥処理を複数回に分けて行った場合において、2回目以降の乾燥温度としては、150℃以上400℃以下が好ましい。この範囲で乾燥することにより、還元反応が進むことなく乾燥することが可能となる。
【0047】
下記表2には、乾燥処理後のペレットにおける固形分中組成(質量部)の一例を示す。なお、ペレット中の組成は、表2に示す値に限定されない。
【0048】
【表2】
【0049】
(還元処理工程S3)
本製錬方法の還元処理工程S3は、混合物成形工程S2で得られたペレットを還元炉(精錬炉)に装入し、所定の温度まで昇温することによって加熱して還元処理(還元加熱処理)する工程である。この還元加熱処理により、ニッケルを含有するニッケル系合金である有価メタルとスラグとを含む還元物を得る。
【0050】
還元処理工程S3において、還元炉に装入したペレットを加熱する方法はとくに限定されない。例えば、ニッケル酸化鉱石などを含むペレットを還元炉の床敷材を敷いた炉床上に積層し、そのペレットの積層体を加熱する。なお、ペレットと炉床との反応を抑制するために炉床にアルミナ粒等を敷いた上にペレットを配置するようにしてもよい。
加熱温度は、とくに限定されない。例えば、1250℃~1450℃の温度、より好ましくは1300℃~1400℃程度とする。
【0051】
還元加熱処理の時間(処理時間)は、とくに限定されない。
例えば、還元炉の温度に応じて設定することができる。例えば、10分以上が好ましく、より好ましくは15分以上とする。一方で、処理時間の上限としては、製造コストの上昇を抑える観点から、50分以下が好ましく、より好ましくは40分以下である。
【0052】
なお、還元処理工程S3において、還元加熱処理が施されたペレット積層体は、大きな塊のメタルとスラグとの混成物(還元物)になる。見かけ上の体積の大きなペレットに対して還元加熱処理を行うことで、大きな塊のメタルが形成され易くなる。このため、還元炉から回収する際における回収の手間を低減させることができるので、メタル回収率の低下を有効に抑えることができる。なお、得られる混成物の体積は、装入するペレット積層体と比較すると、50体積%~60体積%程度に収縮する。
【0053】
また、還元処理工程S3において、還元剤である炭素質還元剤を追加的に添加してもよい。この追加的に添加する炭素質還元剤の割合は、とくに限定されない。
例えば、加熱還元処理に供するペレットに含まれる炭素質還元剤を100質量%としたとき、1質量%以上30質量%以下程度の範囲とすることが好ましい。このような範囲で追加添加することで、効率的に酸化の抑制をできるとともに過還元となることも防ぐことができる。
【0054】
また、還元処理工程S3に用いられる還元炉は、上記機能を有するものであれば、とくに限定されない。例えば、回転炉床炉や移動炉床炉などを還元炉として用いることができる。
【0055】
(回収工程S4)
本製錬方法の回収工程S4は、還元処理工程S3にて生成した有価メタルとスラグとを分離して有価メタルを回収する工程である。具体的には、ペレットに対する還元加熱処理によって得られた、有価メタル相(有価メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混在物(還元物)から、有価メタル相を分離して回収する。
【0056】
回収工程S4において、還元物から有価メタルを分離し回収することができれば、その回収方法は、とくに限定されない。
例えば、固体として得られた有価メタル相とスラグ相との混在物から有価メタル相とスラグ相とを分離する方法としては、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。とくに、本製錬方法では、平均粒径が大きな有価メタルを得ることができるので、還元物に対して、衝撃を付与することにより、有価メタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。しかも、得られる有価メタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから両者を容易に分離することができる。このような振動付与方法としては、例えば、所定の落差を設けて還元物を落下させたり、篩い分けの際に所定の振動を与える等の方法を採用することができる。
【0057】
ここで、一般的な乾式製錬方法を用いたニッケル酸化鉱石の製錬方法において、ニッケルメタルとスラグとの融点差はそれほど大きくない。このため、従来の技術では、ニッケルメタルの平均粒径もある程度の大きさ以上(例えば、50μm以上)にすることはできないとされている。しかしながら、本製錬方法を用いれば、上述したように有価メタルとスラグとの融点差を大きくすることができるので、平均粒径が50μm以上の有価メタルを適切に製造することができる。なお、有価メタルの平均粒径は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0058】
本製錬方法における粗大な有価メタルの生成メカニズムの概略を説明する。
本製錬方法の還元加熱処理工程S3において還元加熱処理を行った際、ペレットの表層部では、ニッケル酸化物(酸化ニッケル)の還元反応とともに鉄酸化物(酸化鉄)の還元反応が進行していく。そして、反応開始から僅か1分~数分程度の処理時間で、ペレット表層部において、ペレットに含まれる酸化ニッケル及び一部の酸化鉄が還元されメタル化が進んでニッケルメタルあるいは鉄とニッケルの合金であるシェル(以下、「殻」ともいう)が形成される。しかも、このペレットには、銅成分を含有している。
このため、ペレット内部(つまり、殻の中)では、その殻の形成に伴って、ニッケルと銅成分の有価メタル(例えば、ニッケル-銅などの合金)を形成する。そして、この有価メタルの融点は、ニッケル合金の融点よりも低くなっているので、温度上昇に伴い溶融状態となりスラグの隙間を流れて伝わって凝集し、粒径の大きな有価メタルを形成する。一方、処置時間が進むにつれて、スラグ成分も徐々に熔融して液相のスラグが生成する。そして、例えば、反応開始から10分程度を経過すると、ペレットの殻の中では、液相のニッケル-銅などの有価メタルと液相のスラグが存在する状態になる。つまり、還元加熱処理工程S3における還元加熱処理により、ペレット中には、合金の融点降下に伴う凝集により、一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法と比べて、より大きな粒径を有する有価メタルを形成させることができる。
なお、コバルトは、上記還元反応条件下でニッケルと同じ挙動をとる。
【0059】
また、本製錬方法では、LIBスクラップを原料とした処理物を用いれば、得られる有価メタルは、純度の高いニッケル-コバルト-銅の合金となる。このため、かかる合金を酸等で溶解して溶媒抽出等の公知の湿式処理に付すれば、ニッケルやコバルトや銅をそれぞれ効率よく回収し、新たなリチウムイオン電池の原料として利用することも可能となる。
【0060】
(LIBスクラップ処理物調製工程PS)
次に、原料の一部または全部に廃棄リチウム電池(LIBスクラップ)を含む処理物(LIBスクラップ処理物)を調製する方法について説明する。
LIBスクラップは、ニッケル酸化鉱石と混合してペレット化するのに先立って、乾式工程で前処理することが望ましい。LIBスクラップそのままではサイズ的にペレット化することが困難であり、同時にLIBスクラップに含まれるリンやフッ素などの不純物を予め除去しておくことが好ましい。
具体的には、LIBスクラップは、上述したように有価金属の他にも、炭素、アルミニウム、フッ素、リンなどの不純物も多量に含まれる。そして、これらの不純物は、有価メタルの製造においても不純物となる。このため、処理物の原料にLIBスクラップを用いる場合には、以下の工程により、このような不純物をあらかじめ除去しておくことが望ましい。とくに、リンやフッ素を除去することにより、還元処理工程S3において、LIBスクラップ処理物とニッケル酸化鉱石との反応を適切に進行させ易くなる。
【0061】
なお、ニッケル水素電池のスクラップを原料とする場合もLIBスクラップと同様の処理を行うことができる。一方、原料として銅を含むスクラップを用いる場合には、以下のLIBスクラップ処理物調製工程PSのうち、焙焼工程(第一焙焼工程PS1、第二焙焼工程PS5)は行わなくてもよい。
【0062】
LIBスクラップ処理物の調製工程(LIBスクラップ処理物調製工程PS)は、第一焙焼工程PS1と、破砕工程PS2と、磁選工程PS3と、篩工程PS4と、第二焙焼工程PS5と、を含む。
【0063】
(第一焙焼工程PS1)
第一焙焼工程PS1は、LIBスクラップに残留する電荷を解消し、同時にリンやフッ素などの電解液成分を除去する無害化や次工程で破砕しやすく処理することを主な目的とする。焙焼時の加熱方式は、とくに限定されない。例えば、電熱式でもバーナー式でもよい。
【0064】
焙焼条件は、電解液成分を除去できれば、とくに限定されない。例えば、酸素を含有する大気を供給しながら、焙焼温度500℃以上で酸化焙焼する。つまり、酸素含有雰囲気下において、上記温度以上で焙焼する。焙焼温度は、より好ましくは600℃以上であり、さらに好ましくは700℃以上である。500℃以上で加熱すれば、確実に無害化することができる。しかも焙焼後のLIBスクラップを脆くできるので、次工程で破砕しやすくすることができる。
焙焼時間は、焙焼対象のLIBスクラップの量に応じ適宜調整することができる。例えば、焙焼時間は、1時間以上が好ましく、より好ましくは2時間以上である。
【0065】
なお、LIBスクラップを積み重ねすぎると内部まで十分に焙焼できず焼きムラが生じることがあるので、均一に焙焼できるように処理量や炉の加熱能力に応じて適宜調整する。
また、第一焙焼工程PS1に用いられる炉は、上記機能を有するものであれば、とくに限定されない。例えば、箱形炉や移動炉床炉などを用いることができ、またロータリーキルや流動焙焼炉などのように試料が動いて混ざりあうような炉であってよい。
【0066】
(破砕工程PS2)
第一焙焼工程PS1で得られた焙焼物は、次工程の破砕工程PS2に供される。
破砕工程PS2は、第一焙焼工程PS1で焙焼された焙焼物を細かく破砕してLIBスクラップ内の各部材を分離する工程である。
破砕工程PS2で用いられる破砕機はとくに限定されない。例えば、ロッドミルや振動ミル、チェーンミルなど公知の破砕機を用いることができる。
【0067】
(磁選工程PS3)
破砕工程PS2で処理された破砕物は、次工程の磁選工程PS3に供される。
磁選工程PS3は、破砕物に含まれる磁着物と非磁着物とに磁選により選別する工程である。磁選工程PS3により処理物から磁着物として鉄を除去することにより、スラグの融点や粘性等の設計が簡単になる。
破砕工程PS2で用いられる磁選機は、とくに限定されない。例えば、公知の吊下げ磁選機を用いることができる。
【0068】
なお、この磁選工程PS3は、破砕工程PS2の後の工程に限定されず、後述する篩工程PS4の後に行ってもよいし、破砕工程PS2と後述する篩工程PS4のそれぞれの後に行ってもよい。
【0069】
また、後工程で湿式工程を行う場合には、鉄を除去することにより、処理費用を抑制することができる。
【0070】
(篩工程PS4)
磁選工程PS3で処理された非磁着物は、次工程の篩工程PS4に供される。
篩工程PS4は、破砕工程PS2で得られた破砕物のうち非磁着物を篩別して篩上物と篩下物に分ける工程である。
磁選工程PS3で用いられる篩機は、とくに限定されない。例えば、公知の振動篩機を用いることができる。
【0071】
篩工程PS4で用いられる篩の目開きは、原料となるLIBスクラップの種類や形状に合わせて適宜調整することができる。目開きが大きすぎると、篩下に有価金属とともに非有価金属が多く回収されてしまうため好ましくない。一方、目開きが小さすぎると、篩上に多く有価金属が含まれてしまい好ましくない。
したがって、篩の目開きは、0.5mm以上5mm以下が好ましい。かかる範囲の目開きとすることで、有価金属を効率的に回収することができる。
【0072】
なお、ニッケルやコバルト等の有価金属は、LIBスクラップ中の主に粉末の形態をした正極活物質に含まれるため、粉末状で回収され篩下物に含まれる。
つまり、篩工程PS4における篩下物は、第一焙焼工程PS1でLIBスクラップを無害化処理し、破砕工程P2でバラバラの状態にし、磁選工程PS3で缶体等を構成する鉄などを除去し、さらに篩工程PS4でアルミフィルム等を除去した後の、粉状のものと小さな破砕物が混ざったものとなる。
【0073】
(第二焙焼工程PS5)
篩工程PS4で得られた篩下物は、次工程の第二焙焼工程PS5に供される。
第二焙焼工程PS5は、篩下物を第一焙焼工程PS1と同様に焙焼して、酸化焙焼物であるLIBスクラップ処理物を得る工程である。
篩工程PS4で得られた篩下物を酸化焙焼することにより、後工程の還元処理工程PS3において、LIBスクラップ中の還元剤になり得る成分を酸化することができる。この処理を行うことにより、LIBスクラップ処理物の品質を均一化できる。また、酸化焙焼によって、残留還元剤の量を安定して低く制御することができるので、後工程の還元処理工程PS3における還元度を制御し易くなる。
【0074】
なお、第二焙焼工程PS5の後に、さらに篩工程PS4と同様の篩工程を設けてもよい。
【実施例0075】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0076】
<LIBスクラップ処理物調製工程>
原料を以下の処理物調製工程に供することにより処理物を調製した。
処理物の原料として、廃棄リチウム電池(以下、廃LIBという)を使用した。この廃LIBには、自動車車載用の一般に角形電池と称せられるものの使用済み品を用いた。
【0077】
(第一焙焼工程)
原料の廃LIBを900℃の温度で5時間、大気中で焙焼して焙焼物を得た。得られた焙焼物を次工程の破砕工程に供して粉砕処理した。
【0078】
(破砕工程)
破砕工程では、供給された焙焼物をチェーンミルを用いて12kg/バッチずつ35秒間の破砕処理を行った。破砕処理で得た破砕物を回収し、次工程の磁選工程に供して磁選を行った。
【0079】
(磁選工程)
磁選工程では、市販の吊下げ磁選機を用いた。4.5kg/分の供給速度で供給した破砕物を3000Gで磁力選別を行い鉄などの磁着物と、ニッケルなどの有価成分を含む非磁着物と、に選別した。
【0080】
(篩工程)
磁選工程で選別した非磁着物を連続式の振動篩に供給して篩別した。
篩の目開きは1.0mmとし、供給速度は2.5kg/分とした。
篩工程において、目開き1.0mmの篩を通過したもの(篩下物)を次工程の第二焙焼工程に供した。
【0081】
(第二焙焼工程)
第二焙焼工程では、炉内直径20cmで炉の有効長さ100cmのキルンを用いた。試料の供給速度は2.0kg/分とし、炉内温度を750℃に維持しながら3時間大気を流しながら焙焼して酸化焙焼物である処理物(以下、LIBスクラップ処理物という)を調製した。
調製したLIBスクラップ処理物の平均粒径は、0.05mm以上0.5mm以下であった。平均粒径の測定には、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いた。
LIBスクラップ処理物は、ニッケル品位が5±1質量%、コバルト品位が5±1質量%、銅品位が10±2質量%であった。各成分の分析はハンドヘルド蛍光X線分析計(オリンパス製)を用いて行った。
【0082】
<混合物調製工程>
調製したLIBスクラップ処理物を混合物調製工程に供した。
混合物調製工程は、LIBスクラップ処理物とニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを含有する混合物を調製する工程である。
混合物調製工程では、原料鉱石としてニッケル酸化鉱石と、LIBスクラップ処理物と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石と、バインダー(ベントナイト)と、炭素質還元剤と、を適量の水を添加しながら混合機を用いて混合し混合物を調製した。
【0083】
ニッケル酸化鉱石には、平均粒径が0.085mm、ニッケル品位が1±0.1質量%のものを使用した。
なお、ニッケル酸化鉱石の平均粒径の測定には、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いた。
【0084】
鉄鉱石は、平均粒径が0.75mmのものを使用した。
なお、鉄鉱石の平均粒径の測定には、ニッケル酸化鉱石と同様の装置を用いた。
【0085】
炭素質還元剤には、平均粒径が約153μmの石炭粉(炭素含有量:55重量%)を用いた。
なお、炭素質還元剤の平均粒径の測定方法には、ニッケル酸化鉱石と同様の装置を用いた。
【0086】
(LIBスクラップ処理物の混合割合)
LIBスクラップ処理物は、LIBスクラップ処理物とニッケル酸化鉱石との合計を100質量%としたときに以下の値となるように混合した(試料No.1~6)。
試料No.1:0.06質量%
試料No.2:0.9質量%
試料No.3:3.1質量%
試料No.4:6.4質量%
試料No.5:9.6質量%
試料No.6:12.5質量%
【0087】
(炭素質還元剤の混合割合)
炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石とLIBスクラップ処理物に含まれる酸化ニッケル(NiO)と酸化鉄(Fe)とを過不足なく還元するのに必要な量を100%としたときに、30%以下(25.9%~27.5%)の割合となるように混合した。
【0088】
<混合物成形工程>
調製した混合物を混合物成形工程に供して、円柱形状のペレットを成形した。
成形には、ペレタイザーを用いた。得られたペレットは篩別処理に供して直径が15±2mmのペレットを調製した。
【0089】
調製したペレットは、固形分が70質量%程度、水分が25質量%程度となるように、150℃~200℃の窒素の熱風を吹き付けて乾燥処理した。
【0090】
比較例は、LIBスクラップ処理物を混合せず、混合物中における炭素質還元剤の含有量(混合割合)が30%よりも多くなるように調整した以外は実施例と同様にペレットを調製した。
【0091】
<還元処理工程>
調製したペレットを還元処理工程に供した。
乾燥処理後のペレットを、窒素雰囲気にした還元炉に装入した。なお、還元炉内の装入時の温度は500±20℃とした。
次に、炉床にアルミナ粒を敷き詰め、その上にペレットを載置して、1380℃で85分間、ペレットに対して還元加熱処理を施した。アルミナ粒を敷き詰めることによりペレットと炉床の反応を抑制することができる。
還元処理後は、窒素雰囲気中で速やかに室温まで冷却して、炉から取り出した。
【0092】
炉から取り出した還元処理物のニッケルメタル化率、有価メタル中のニッケル・コバルト・銅の合計含有率を測定した。
測定には、ICP発光分光分析装置(SHIMAZU S-8100型)を用いた。
【0093】
測定値に基づいて下記式より、ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル・コバルト・銅の合計含有率を算出した。
【0094】
(ニッケルメタル化率)

ニッケルメタル化率(%)=(混合物中の有価メタルのNi量/混合物中の全てのNi量)×100
【0095】
(有価メタル中のニッケル・コバルト・銅の合計含有率)

有価メタル中のニッケル・コバルト・銅の合計含有率(%)=(混合物中の有価メタルのNi、Co、Cuの合計量/混合物中の有価メタルの合計量)×100
【0096】
(有価メタルの回収工程)
還元処理物には、有価メタルとスラグが含まれている。このため、還元処理物から有価メタルを分離選別し回収するため、還元処理物を有価メタルの回収工程に供した。
この回収工程では、還元処理物を粉砕処理工程に供した後、得られた粉砕物を上述した磁選工程と同様の装置を用いた工程に供して、鉄などを含むスラグを磁着物として、ニッケルなどの有価成分を含む有価メタルを非磁着物として、選別し回収した。
【0097】
還元炉に装入したペレット積層体における原料の含有量と、原料におけるNi、Co、Cuの含有率と、回収された有価メタル量から有価メタル回収率を算出した。なお、メタル回収率は、以下の式により算出した。

有価メタル回収率(%)={ 回収された有価メタル量/(装入した原料の量×酸化鉱石中のNi、Co、Cuの合計含有率) }×100(%)
【0098】
(有価メタルの平均粒径)
回収した有価メタルの平均粒径は、X線CT(株式会社リガク製)を用いて測定した。
【0099】
(実験結果)
表3に示すように、試料No.1~No.6では、混合物中の炭素質還元剤の量を調整することにより、有価メタル中の鉄含有率が0.5%質量%以下となるように抑制できる一方、銅成分を含有するLIBスクラップ処理物を混合したことにより、生成した有価メタルの平均粒径が比較例と比べて大きくできることが確認できた。しかも、本実施例では、比較例と比べて有価メタルの回収率が向上することが確認できた。
これに対して、LIBスクラップを使わずに炭素質還元剤を過剰に加えて過還元の状態を形成させた比較例では、有価メタル中の鉄品位(質量%)が12.5質量%になるなど大幅に増加した。また、有価メタルの粒径が小さくなり、回収率も低下するなど本実施例に比べて劣る結果となった
【0100】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のニッケル酸化鉱石の製錬方法は、ニッケル酸化鉱石から有価メタルを製造する方法として適している。
【符号の説明】
【0102】
S1 混合物調製工程
S2 混合物成形工程
S3 還元処理工程
S4 回収工程
図1