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特開2023-147199被加工物への工具の接近を特定する装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147199
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】被加工物への工具の接近を特定する装置および方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/22 20060101AFI20231004BHJP
   B23B 25/06 20060101ALI20231004BHJP
   G01B 21/22 20060101ALI20231004BHJP
   G01B 21/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
B23Q17/22 B
B23B25/06
G01B21/22
G01B21/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023022187
(22)【出願日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】10 2022 203 088.5
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】390014281
【氏名又は名称】ドクトル・ヨハネス・ハイデンハイン・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】DR. JOHANNES HEIDENHAIN GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・ザイヒター
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ラーナー-プリンツ
【テーマコード(参考)】
2F069
3C029
3C045
【Fターム(参考)】
2F069AA21
2F069AA83
2F069BB01
2F069DD12
2F069DD19
2F069GG04
2F069GG06
2F069GG64
2F069HH14
2F069HH15
2F069JJ17
3C029AA02
3C029AA24
3C045HA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被加工物への工具の接近を特定する装置および方法において、工作機械内の被加工物の位置を決定できるより優れた装置および方法を提供する。
【解決手段】この装置は、シャフト(2)上に回転しないように配設された測定目盛りを備えた測定構造体(60)と、シャフト(2)とは対照的に位置が動かないように配設されている少なくとも一つの位置取得器と、計算機(40)とを有し、
少なくとも一つの位置取得器は、測定目盛りを走査して、そこからシャフト(2)の位置を示す位置値(P1)を生成するのに適した構成とされ、
工具(4)が被加工物(6)に近接して位置する接近位置に工具(4)が被加工物(6)に対して到達すると、被加工物に接触することなく接近信号(AS)により通知する手段を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械内の被加工物(6)への工具(4)の接近を特定する装置であって、前記工具(4)と前記被加工物(6)とは、互いに対して移動可能であり、前記工具(4)または前記被加工物(6)がシャフト(2)に回転しないように接続されており、前記工具(4)は、冷却剤路(16)を備え、前記工具(4)により前記被加工物(6)の加工が行なわれる加工領域に、前記冷却剤路を通して冷却剤(14)が供給可能であり、
前記シャフト(2)上に回転しないように配設された測定目盛り(61)を備えた測定構造体(60)と、前記シャフト(2)とは対照的に位置が動かないように配設されている少なくとも一つの位置取得器(64,65,66,67,68,69)と、計算機(40,240,340,440)とを有し、
- 少なくとも一つの前記位置取得器(64,65,66,67,68,69)は、前記測定目盛り(61)を走査して、そこから前記シャフト(2)の位置を示す位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)を生成するのに適した構成とされ、
- 前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)は、前記計算機(40,240,340,440)に供給され、当該計算機は、前記工具(4)が前記被加工物(6)に接近する際の前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)の推移を解析することにより前記被加工物(6)上に当たる冷却剤流のよどみ点圧に起因する前記シャフト(2)の変位が発生する接近領域(II)に前記工具(4)が前記被加工物(6)に対して位置していることを特定する手段であって、前記工具(4)が前記被加工物(6)に近接して位置する接近位置(ZA)に前記工具(4)が前記被加工物(6)に対して到達すると、当該被加工物に接触することなく接近信号(AS)により通知する手段を有する
装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、前記測定目盛り(61)は、第一の目盛トラック(62)を備え、そのコード要素が前記シャフト(2)の周方向に配設されている装置。
【請求項3】
請求項2に記載の装置であって、前記測定目盛り(61)は、第二の目盛トラック(62)を備え、そのコード要素が、前記シャフト(2)の周りに環状に配設されている装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の装置であって、前記計算機(40,140,240,340,440,540)内の前記手段は、変位計算機(41)を有し、当該変位計算機が、無負荷姿勢からの前記シャフト(2)の振れを示す変位値(VL)を前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)から決定する装置。
【請求項5】
請求項4に記載の装置であって、前記計算機(40,240,340,440)内の前記手段は、さらに:
- リアルタイムで入って来る変位値(VL)をしきい値(S)と比較することにより前記接近位置(ZA)に到達したことを特定可能にするのに用いられる比較器(43)を有しているか、或いは、
- 順次入って来る変位値(VL)の差分商(DQ)を形成するように作られた微分器(246)と、前記差分商(DQ)をしきい値(S)と比較することにより前記接近位置(ZA)に到達したことを特定可能にするのに用いられる比較器(243)とを有しているか、或いは、
- 前記変位値(VL)の推移を周波数領域で解析することにより前記接近位置(ZA)に到達したことを特定可能にするのに用いられる周波数分析器(347)を有しているか、或いは、
- 人工知能の手法を用いて、特にパターン認識により前記変位値(VL)の推移を解析することにより前記接近位置(ZA)に到達したことを特定可能にするのに用いられるAIモジュール(448)を有しているか、
の少なくともいずれかである装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の装置であって、前記計算機(340,440)内の前記手段は、
- 前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)の推移を周波数領域で解析することにより前記接近位置(ZA)に到達したことを特定可能にするのに用いられる周波数分析器(347)を有しているか、或いは、
- 人工知能の手法を用いて、特にパターン認識により前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)の推移を解析することにより前記接近位置(ZA)に到達したことを特定可能にするのに用いられるAIモジュール(448)を有しているか、
の少なくともいずれかである装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の装置であって、前記計算機(40,240)内の前記手段は、しきい値決定器(42,242)をさらに有し、当該しきい値決定器は、前記被加工物(6)に前記工具(4)が接近すると、前記被加工物(6)の切削加工が行なわれることになる前記加工領域(III)へ前記接近領域(II)から移行したことを認識し、それに基づいてしきい値(S)を決定する装置。
【請求項8】
工作機械内の被加工物(6)への工具(4)の接近を特定する方法であって、前記工具(4)と前記被加工物(6)とは、互いに対して移動可能であり、前記工具(4)または前記被加工物(6)がシャフト(2)に回転しないように接続されており、前記工具(4)は、冷却剤路(16)を備え、前記工具(4)により前記被加工物(6)の加工が行われる加工領域に、前記冷却剤路を通して冷却剤(14)が供給可能であり、前記工作機械は、前記シャフト(2)上に回転しないように配設された測定目盛り(61)を備えた測定構造体(60)と、前記シャフト(2)とは対照的に位置が動かないように配設されている少なくとも一つの位置取得器(64,65,66,67,68,69)と、計算機(40,240,340,440)とを有しており、
- 少なくとも一つの前記位置取得器(64,65,66,67,68,69)によって、前記測定目盛り(61)が走査され、そこから前記シャフト(2)の位置を示す位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)が生成され、
- 前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)は、前記計算機(40,240,340,440)に供給され、当該計算機は、前記工具(4)が前記被加工物(6)に接近する際の前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)の推移を解析することにより前記被加工物(6)上に当たる冷却剤流のよどみ点圧に起因する前記シャフト(2)の変位が発生する接近領域(II)に前記工具(4)が前記被加工物(6)に対して位置していることを特定するのに用いられる手段を有し、前記手段は、前記工具(4)が前記被加工物(6)に近接して位置する接近位置(ZA)に前記工具(4)が前記被加工物(6)に対して到達すると、被加工物に接触することなく接近信号(AS)により通知する
方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記計算機(40,140,240,340,440,540)内の前記手段は、変位計算機(41)を有し、当該変位計算機により、無負荷姿勢からの前記シャフト(2)の振れを示す変位値(VL)が前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)から決定される方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、前記計算機(40,240,340,440)内の前記手段は、さらに:
- リアルタイムで入って来る変位値(VL)をしきい値(S)と比較することにより前記接近位置(ZA)に到達したことを特定するのに用いられる比較器(43)を有しているか、或いは、
- 順次入って来る変位値(VL)の差分商(DQ)を形成するのに用いられる微分器(246)と、前記差分商(DQ)をしきい値(S)と比較することにより前記接近位置(ZA)に到達したことを特定するのに用いられる比較器(243)とを有しているか、或いは、
- 前記変位値(VL)の推移を周波数領域で解析することにより前記接近位置(ZA)に到達したことを特定するのに用いられる周波数分析器(347)を有しているか、或いは、
- 人工知能の手法を用いて、特にパターン認識により前記前記変位値(VL)の推移を解析することにより前記接近位置(ZA)に到達したことを特定するのに用いられるAIモジュール(448)を有しているか、
の少なくともいずれかである方法。
【請求項11】
請求項8または9に記載の方法であって、前記計算機(340,440)内の前記手段は、
- 前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)の推移を周波数領域で解析することにより前記接近位置(ZA)に到達したことを特定するのに用いられる周波数分析器(347)を有しているか、或いは、
- 人工知能の手法を用いて、特にパターン認識により前記位置値(P1,P2,P3,P4,P5,P6)の推移を解析することにより前記接近位置(ZA)に到達したことを特定するのに用いられるAIモジュール(448)を有しているか、
の少なくともいずれかである方法。
【請求項12】
請求項8から11のいずれかに記載の方法であって、コマンド・チャンネル(52)を介して前記計算機(40,240)に供給される開始コマンド(START)により開始させる方法。
【請求項13】
請求項8から12のいずれかに記載の方法であって、前記計算機(40,240)内の前記手段は、テストランにおいて前記被加工物(6)に前記工具(4)が接近すると、前記被加工物(6)の切削加工が行なわれることになる前記加工領域(III)に接近領域(II)から移行したことを認識し、それに基づいてしきい値(S)を決定するのに用いられるしきい値決定器(42,242)をさらに有している方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記コマンド・チャンネル(52)を介して前記計算機(40,240)に供給されるテスト開始コマンド(TEST)により前記テストランを開始させる方法。
【請求項15】
請求項1から7のいずれかに記載の装置が装備された工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の工作機械内の被加工物(ワークピース)への工具の接近を特定する装置および対応する請求項8に記載の方法に関する。本発明は、切削を行なう加工、特にフライス加工、旋削加工および研削加工により被加工物(ワークピース)を成形する数値制御工作機械において有利に利用可能である。
【背景技術】
【0002】
機械工作物の最も一般的な製造方法は、切削による加工、つまり材料の削り出しを基本とする。この場合、いわゆるブランクから工具を用いて材料が的確に取り除かれ、最終的に所望の形状と機能を備えた製品が出来上がる。材料を取り除くために、被加工物を工具に接触させる。工具は、幾何学形状が定まった刃か或いは定まっていない刃を備えている。幾何学形状が定まった刃を備えた工具の例は、フライス、ドリルまたはバイトであり、定まっていない刃を備えた工具は、砥石車である。切削プロセスでは、物体(工具または被加工物)の一つを他の物体に接触させる前に回転させることが多い。
【0003】
この加工は、コンピュータによって制御され、そのコンピュータは、製造プログラムを実行しながら電気駆動部を制御して物体の少なくとも一つを移動させる。移動させる物体の実際位置を特定するために、位置測定機(ロータリーエンコーダまたは長さ測定機)が備えられており、その測定値がさらにコンピュータに供給される。このコンピュータは、CNCコントローラと呼ばれ、加工を行なう工作機械は、CNC加工機と呼ばれる。
【0004】
物体に回転を生じさせるために、いわゆるスピンドルが備えられている。これは、シャフトを直接的または間接的に駆動する電気モータであり、そのシャフトに物体も取り付けられている。この場合、スピンドルの回転角および/または回転速度を測定するために、ロータリーエンコーダが備えられている。さらに、目標位置からのシャフトのずれを測定できる測定装置も知られている。特許文献1には、そのような測定装置が記載されている。
【0005】
加工の目的で被加工物を固定するために、クランプ手段が備えられている。新たな被加工物(ブランク)のクランプは公差が大きく、ブランクの寸法もバラツキがあり得るので、加工を始める前には、新たにクランプしたブランクの正確な位置とその寸法を決定する必要がある。その目的のために、工具に代えてプローブが使用され、このプローブが被加工物の方に動かされ、被加工物に接触するとスイッチ信号を出力する。CNCコントローラは、スイッチ信号を解析し、ブランク上の複数の位置にアプローチしていくこと(触診)で被加工物の位置と寸法を特定する。こうして初めて、本来の加工を始めることができる。
【0006】
このやり方の欠点は、最初に工具をプローブに交換し、測定プロセス後に再び交換し直さなければならないため、それに結び付いた時間を必要とすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3591344号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、工作機械内の被加工物の位置を決定できる改善された装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1に記載の装置により解決される。
【0010】
工作機械内の被加工物への工具の接近を特定する装置であって、工具と被加工物とは、互いに対して移動可能であり、工具または被加工物がシャフトに回転しないように接続されている装置が提案され、ここで、工具は、冷却剤路を備え、工具により被加工物の加工が行なわれる加工領域に、冷却剤路を通して冷却剤が供給可能である。この装置は、シャフト上に回転しないように配設された測定目盛りを備えた測定構造体(測定セットアップ)と、シャフトとは対照的に位置が動かないように配設されている少なくとも一つの位置取得器と、計算機とを有しており、
- 少なくとも一つの位置取得器は、測定目盛りを走査して、そこからシャフトの位置を示す位置値を生成するのに適した構成とされ、
- 位置値は、計算機に供給され、この計算機が手段(複数)を有しており、これらの手段が、工具が被加工物に接近する際の位置値の推移を解析することにより被加工物上に当たる冷却剤流のよどみ点圧に起因するシャフトの変位が発生する接近領域に工具が被加工物に対して位置していることをを特定するとともに、工具が被加工物に近接して位置する接近位置に工具が被加工物に対して到達すると、被加工物に接触することなく接近信号により通知する。
【0011】
また、本発明の課題は、工作機械内の被加工物の位置を決定することができる改善された方法を提供することである。
【0012】
この課題は、請求項8に記載の方法により解決される。
【0013】
そこで、工作機械内の被加工物への工具の接近を特定する方法であって、工具と被加工物とは、互いに対して移動可能であり、工具または被加工物がシャフトに回転しないように接続されている方法が提案され、工具は、冷却剤路を備え、工具により被加工物の加工が行なわれる加工領域に、冷却剤路を通して冷却剤が供給可能である。この工作機械は、シャフト上に回転しないように配設された測定目盛りを備えた測定構造体(測定セットアップ)と、シャフトとは対照的に位置が動かないように配設されている少なくとも一つの位置取得器と、計算機とを有しており、この方法によれば、
- 少なくとも一つの位置取得器によって、測定目盛りが走査され、そこからシャフトの位置を示す位置値が生成され、
- 位置値は、計算機に供給され、この計算機が手段(複数)を有しており、これらの手段が、工具が被加工物に接近する際の位置値の推移を解析することにより被加工物上に当たる冷却剤流のよどみ点圧に起因するシャフトの変位が発生する接近領域に工具が被加工物に対して位置していることを特定するのに用いられるとともに、工具が被加工物に近接して位置する接近位置に工具が被加工物に対して到達すると、被加工物に接触することなく接近信号により通知する。
【0014】
有利には、測定目盛りは、目盛トラックを備え、そのコード要素がシャフトの周方向に配設されており、そのコード要素を位置取得器により走査することにより、シャフトの角度位置を示す位置値を測定することができる。有利な一態様において、三つの位置取得器が、目盛トラックを走査するために備えられており、これらの位置取得器が、シャフトの周方向に均等な間隔を開けて配設されている。シャフトが振れる(偏向する)と、その振れの方向に応じて、位置取得器により測定される角度位置が影響を受け、それが、位置取得器の配置により特定される角度差の変化として現れる。このことから再び、シャフトの振れの大きさと方向を割り出すことができる。
【0015】
この目盛トラックに加えて、測定目盛りは、第二の目盛トラックを備えていてもよく、そのコード要素は、シャフトの周りに環状に配設されている。その走査のために、ここでもまた三つの位置取得器が備えられていてもよく、これらの位置取得器が、同じくシャフトの周方向に均等な間隔を開けて配設されている。第二の測定目盛りの走査から、シャフトの軸線方向における振れを測定することができる。特に、軸線方向にある軸の回転、すなわち、シャフトの無負荷姿勢に対する軸の傾いた姿勢(これが、位置取得器に対する環状のコード要素の傾きに影響を及ぼす)を測定することができる。
【0016】
位置取得器の位置値は、計算機内で変位計算機に供給され、この変位計算機が、シャフトに作用する力によって引き起こされるシャフトの振れの尺度である少なくとも一つの変位値を継続的に生成する。変位値の推移を解析するために、計算機内に適した手段が備えられている。特に有利な実施形態は、以下の手段から得られる:
【0017】
第一の有利な実施形態において、上記手段は、比較器を有し、この比較器を用いることで、リアルタイムで入って来る変位値をしきい値と比較することにより上記接近位置に到達したことを特定できる。
【0018】
第二の有利な実施形態において、上記手段は、順次入って来る変位値とそれらが入って来る時間間隔とから差分商を形成するように構成された微分器を有するとともに、その差分商を予め記憶されたしきい値と比較することにより接近位置に到達したことを特定可能にするのに用いられる比較器を有している。
【0019】
さらに他の有利な実施形態において、上記手段は、周波数分析器(スペクトラムアナライザ)を有し、この分析器が、変位値の推移を周波数領域で解析する。工具における冷却剤開口部の数とシャフトの回転数とにより決まる周波数帯のスペクトル出力密度を的確に監視することにより、上記接近位置に到達したことを推定することができる。
【0020】
この実施形態の変形例において、この周波数分析器には、少なくとも一つの位置取得器の位置値をそのまま供給することもできるので、変位計算機は省くことができる。
【0021】
さらに他の有利な実施形態において、上記手段は、人工知能の手法を用いて、特にパターン認識により、変位値の推移を解析するAIモジュールを有している。これは、変位値が大きな統計的変動を示す場合に特に有利である。
【0022】
この実施形態は、少なくとも一つの位置取得器の位置値をそのままAIモジュールに供給するように変更することもできるので、変位計算機は必要とされない。
【0023】
計算機が、他のコンポーネント、例えば、工作機械の制御部と協働できるようにするために、計算機がコマンド・チャンネルを具備してなることが有利であることが判明しており、このチャンネルを介して、例えば、本発明による方法を開始させる開始コマンドなどのコマンドおよび必要に応じてデータを計算機に供給できる。
【0024】
コマンド・チャンネルは、応答データ・チャンネルと一緒にして、デジタルインターフェース、有利にはシリアルインターフェースとして構成することができる。
【0025】
しきい値を決定するために、有利には、しきい値決定器が備えられており、このしきい値決定器は、被加工物に工具が接近すると、被加工物の切削加工が行なわれることになる加工領域に接近領域から移行したことを認識し、それに基づいてしきい値を決定する。しきい値の決定は、有利にも、テストワークピースを用いたテストランにおいて行われる。このテストランは、制御装置によって、テスト開始コマンドを計算機に送ることにより開始することができる。
【0026】
しきい値は、有利には、計算機に保存することができ、例えば、比較器に、周波数分析器に或いはAIモジュールに保存することができる。
【0027】
本発明による装置若しくは本発明による方法のさらに他の有利な態様は、それぞれ従属請求項並びに以下に説明する実施例から理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】工作機械の構成要素に関係した本発明の装置を示す図である。
図2】本発明による測定セットアップの実施例を示す図である。
図3図2による測定セットアップに適した測定目盛りを示す図である。
図4】本発明による装置の計算機の第一の実施形態を示す図である。
図5図4によるしきい値Sとの関係で変位値VLの推移を示す信号図である。
図6】本発明による装置の計算機のさらに他の実施形態を示す図である。
図7図6によるしきい値Sとの関係で変位値VLの推移を示す信号図である。
図8】本発明による装置の計算機のさらに他の実施形態を示す図である。
図9】本発明による装置の計算機のさらに他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の有利な実施形態の以下の説明において、一つの図に記載されている構成要素および機能群の符号は、それ以降の図においても維持される。
【0030】
図1は、工作機械の構成要素、この場合は5軸フライス盤の構成要素に関係した本発明による装置を示している。この機械は、モータスピンドル10を備え、さらに、動きの軸線ごとに一つの駆動部と一つの位置測定装置を備えている。移動シーケンスを制御するために、特に被加工物6を加工するために、制御装置100が備えられている。
【0031】
モータスピンドル10の中心的な構成要素は、シャフト2を備えたスピンドルモータ1である。シャフト2の端部には、工具4(例えば、フライス工具)が、シャフト2に回転しないように(回転が拘束された状態で)接続され、工具がシャフトとともに回転するようになっている。工具4をシャフト2に取り付けるために、(不図示の)ツールホルダ、例えば、中空テーパシャンクが備えられている。また、角度測定器5(ロータリーエンコーダ)もシャフト2に機械的に連結されている。この連結は、角度測定器5の回転可能なシャフトをシャフト2に接続する(不図示の)機械的な連結部を介して行なわれる。このようにして、シャフト2の角度位置および/または累積回転数を角度測定器5で測定できる。シャフト2は、例えば、ころ軸受によって、スピンドルモータ1のケーシング内に支承される。
【0032】
被加工物6を加工するために、スピンドルモータ1のシャフト2は、回されて回転数Nで回転する。角度測定器5によって測定された角度位置は、回転速度制御のために用いられる。工具4は、被加工物6に対するモータスピンドル10の相対運動によって、被加工物6に接触させられる。こうして例えば、フライス加工時に、被加工物6から所望の輪郭がフライスで削り出される。相対運動は、直線的な駆動軸線X,Y,Zに沿って行うことができ、加えて、いわゆる旋回軸線A,Bを備えることもできるので、図示された例では、五つの運動軸線X,Y,Z,A,Bにおける動きが可能となる。個々の軸線の動きは、ここでもまた、対応する機械的な構成要素(不図示)を駆動する(象徴的にのみ示された)駆動部30X,30Y,30Z,30A,30Bにより制御される。各運動軸線X,Y,Z,A,Bの位置を特定するために、工作機械内には、さらに位置測定装置20X,20Y,20Z,20A,20Bが備えられている。
【0033】
ここで、軸線の動きというのは、相対運動であり、従って、駆動部がモータスピンドル10を動かし、それに伴って工具4を動かすのか、或いは、被加工物6を動かすのかは、対等であるとみなされることを指摘しておきたい。
【0034】
また、本発明は、工具ではなく被加工物が、シャフトに回転しないように接続され、シャフトとともに回転する工作機械にも利用できることを指摘しておきたい。典型的な例は、旋盤や研削盤である。
【0035】
モータスピンドル10は、内部冷却供給機(IKZ)が装備されている。これに関して、工作機械には、モータスピンドル10に冷却剤管13を介して冷却剤14を供給する冷却剤ポンプ12が備えられている。
シャフト2上には、冷却剤14を冷却剤路16内に導入する冷却剤カプラ15が配設され、冷却剤路は、シャフト2を通し、工具ホルダと工具4を介して、冷却剤を加工領域へと導く。加工領域は、(切削による)被加工物6の加工が行なわれる工作機械の領域である。冷却剤14はここで、高圧で供給され、加工領域、特に工具4の切刃を冷却するのに用いられる。切刃は、加工に応じて定形の刃(例えばフライス加工)か或いは不定形の刃(例えば研削加工)である。
【0036】
冷却剤14が被加工物6に当たると、動圧(よどみ点圧)が形成され、これがさらに、工具4に作用し、ひいてはモータスピンドル10のシャフト2に作用する力Fを生じさせる。この力Fは、工具4が被加工物6に近づくにつれて大きくなる。その方向は、冷却剤14が被加工物6に当たる角度、被加工物の幾何学的形状、シャフト2の回転数N、工具4の幾何学的形状などに依存する。従って、力Fは、シャフト2の軸線方向に作用する成分と、それに対して垂直な力の成分の両方を有し得る。
【0037】
図示された例では、工具4は、工具4の前面で加工が行なわれる略円筒形の研削工具である。これに対応して、冷却剤14もまた、移動方向Zにおける前面側で被加工物6に向かって出て来る。しかし、本発明は、工具の特定の種類や形状に限定されない。例えば、内部冷却供給機を備え、例えばフライス工具などの外周面上に配設された切刃により加工が行なわれる工具も知られている。この例では、冷却剤14は、図1におけるように、工具の外周面における然るべき開口部(ノズル)を介して出て来る。この場合には、冷却剤の一定した供給を達成するために、周囲に亘って配分された複数の冷却剤開口部が配設され、有利には、フライスの切刃ごとにそれぞれ一つの開口部が配設されている。
【0038】
このように構成された工作機械の制御は、制御装置100によりプログラム制御されながら行われる。この制御装置は、適切なオペレーティングシステムを備えたコンピュータを有し、そのコンピュータ上で然るべきプログラムが実行される。このコンピュータは、モニタ、入力デバイス、メモリなどの通常の周辺機器を備えている。制御装置100は、いわゆる数値制御であってもよい。
【0039】
位置測定装置20X,20Y,20Z,20A,20Bの測定値および角度測定器5の測定値は、適した信号伝送チャンネルを介して制御装置100に供給される。制御装置100による駆動部30X,30Y,30Z,30A,30Bの制御およびスピンドルモータ1の制御のためにも、同じように適した信号伝送チャンネルが備えられている。これらの信号伝送チャンネルは、仕様に応じてアナログまたはデジタルの信号を送るように設計することができる。特に、信号伝送チャンネルには、デジタルデータインターフェース、有利にはシリアルデータインターフェースが含まれていてもよい。
【0040】
冷却剤ポンプ12の制御も同様に、制御装置100により行われる。
【0041】
こうして、工作機械は、計算機40と測定セットアップ(測定構造体)60を有する本発明による装置が装備されている。
【0042】
測定セットアップ60は、シャフト2の変位(振れ)を特定するように適切に構成されている。変位は、直接的または間接的にシャフト2に力が働くときには常に生じ、例えば、工具4により被加工物6を加工している間、或いは、上述したように、冷却材が通流している工具4が被加工物6に接近する際など、シャフト2に力が働くときには常に生じる。
【0043】
測定セットアップ60は、シャフト2上に配設されている。シャフト2の変位(振れ)は、シャフト2の周囲に亘って配設され且つシャフトとともに回転する少なくとも一つの測定目盛りを、シャフト2とは対照的に位置が動かないように配設されている少なくとも一つの位置取得器で走査することによりシャフト2の位置を示す位置値が生成されることで特定することができる。シャフト2の変位が位置値の変化をもたらすので、生成された位置値を解析することにより、シャフト2の変位を推定することができる。
【0044】
シャフト2の振れは、力がシャフトに作用する方向に依存して位置値に影響するので、シャフト2の周方向に位置を変えて配設されている複数の位置取得器がある場合、特に二つまたは三つの位置取得器がある場合に、測定セットアップ60の特に有利な実施形態になる。二つの位置取得器がある場合、それらは、有利には180°角度を離して配設され、三つの位置取得器の場合には、シャフト2の周囲に亘る均一な分散配置、つまり、位置取得器同士の間がそれぞれ120°の角度で離されていることが特に有利である。
【0045】
測定セットアップの適切な実施形態を図2および図3に基づいて以下に説明する。
【0046】
測定セットアップ60は、ここで明示的に参照される特許文献1より公知の測定セットアップとすることができる。
【0047】
この例では、位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6を生成する6個の位置取得器を備えた測定セットアップ60を想定している。
【0048】
測定セットアップ60の位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6は、解析のために、信号伝送チャンネル50を介して計算機40に供給される。本明細書の範囲では、“位置値”という用語は、シャフト2の位置を表す任意の信号の類を意味することに留意されたい。従って、位置値は、アナログまたはデジタルの信号とすることができる。いずれの場合にも、計算機40における位置値の処理は、デジタル式に行なわれる。デジタル化若しくはデジタル式のデータ・ワードへの転換がどこで行われるか(既に位置取得器の中でなのか或いは計算機の中でなのか)は重要ではない。従って、計算機への位置値P1,P2,P3,P4P5,P6の伝送は、アナログまたはデジタルで行うことができる。特に有利なのは、位置取得器が既にデジタルの位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6を生成し、これらデジタルのデータ・ワードの伝送が、デジタルインターフェース、特にシリアルインターフェースを介して行われる場合である。
【0049】
計算機40は、測定セットアップ60から入って来る位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6の推移を解析することにより、シャフト2の変位を特定し、被加工物6への工具4の接近に関して評価する手段を有している。評価の結果は、接近信号ASにより通知され、この信号は、例えば出力データ・チャンネル51を介して制御装置100に出力される。
【0050】
有利には、計算機40の機能は、例えば、コマンド・チャンネル52を介して外部ユニットから入って来るコマンド、この場合は制御装置100から入って来るコマンドによって制御可能である。この例では、計算機40の機能は、開始コマンドSTARTによって開始することができる。さらに、計算機が位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6を解析するのに必要なパラメータPAR、例えば、シャフト2の回転数、内部冷却供給機のパラメータ、モータスピンドル10の送り速度或いは工具4に関する情報(種類、直径、切刃の数など)をコマンド・チャンネル52を介して計算機40に供給するように設けられているのでもよい。
【0051】
図示されているように、計算機40は、スタンドアローン型の装置とすることができるが、制御装置100内に設けられたモジュール(破線で示す)として構成することもできる。計算機40の機能を実行する機能モジュールは、例えば、制御装置100または計算機40自体に含まれているコンピュータ(PC)上で走らせることができるコンピュータプログラムにより一部または全部が実装されていてもよい。これは、本明細書で述べられている計算機の全ての実施例についても言える。
【0052】
出力データ・チャンネル51およびコマンド・チャンネル52は、双方向インターフェースとして、有利にはシリアルインターフェースとして一緒にして形成することができる。
【0053】
図2は、測定セットアップ60の一実施例を示す。この測定セットアップは、二つの目盛トラックを備えた測定目盛り61並びに全部で6個の位置取得器64,65,66,67,68,69を有している。
【0054】
測定目盛り61は、シャフト2上に回転しないように配設されて、シャフトとともに回転するようになっている。このとき、測定目盛り61をなすコード要素は、例えば、磁気的な走査原理が用いられる場合は磁化によって、或いは、光学的な走査原理であれば反射領域と非反射領域を形成することによって、シャフト2上に直に設けることができる。代替的に、測定目盛り61は、やはりシャフト2に回転しないようにつながっている目盛キャリア上に配設することもできる。
【0055】
図3は、目盛トラック62,63を備えた適切な測定目盛り61を示している。ここで、第一の目盛トラック62は、一方では、シャフト2の角度測定、つまり回転角度を特定するために用いられ、他方では、軸線方向に対して垂直なシャフト2の変位を特定するために用いられる。この変位は、図2に示された紙面内の測定目盛り61の変位に対応する。これに対して、第二の目盛トラック62は、軸線方向におけるシャフト2の変位を特定するのに使用される。
【0056】
第一の目盛トラック62のコード要素は、シャフト2の周方向Uに順番に並べて配設されている。図示された例では、第一の目盛トラック62は、インクリメンタルな目盛トラックとして実装され且つ特に磁気的な走査原理を備え、つまりは、目盛トラックがシャフト2の周方向Uに配設された磁気的な正極と負極の規則的な並びからなる。測定目盛り61は、さらに基準トラック162を備え、この基準トラックを用いることで、原理的な制約から相対的となるインクリメンタル式目盛トラックの角度測定のための基準位置が、或る決められた角度位置に、磁気的な正極と負極(基準マーク)の短い並びにより設定される。このようにして、絶対的な角度測定が可能になる。基準トラック162の代わりに、基準マークを目盛トラック62内に組み込んでもよい。
【0057】
代替的に、第一の目盛トラック62は、デジタル式に符号化することで、基準トラック162がなくても、いつでも絶対的な角度測定が可能となるようにしてもよい。特に有利なのは、第一の目盛トラック62のコード要素が、逐次の擬似ランダムシーケンス(擬似ランダムコード,PRC)の形で配設されている場合である。
【0058】
第二の目盛トラック63のコード要素は、シャフト2の周囲に環状に配設されている。これらのコード要素の位置の測定若しくは位置変化の測定により、シャフトの軸線方向WZにおけるシャフト2の変位と、軸線方向に交差する方向のシャフト2の回転(図2に示された紙面から飛び出すような傾き)とを推定することができる。
【0059】
図2の実施例では、目盛トラック62および必要に応じて基準トラック162を走査するための位置取得器64,65,66の第一のグループ並びに第二の目盛トラック63を走査するための位置取得器67,68,69の第二のグループが備えられている。位置取得器の二つのグループは、それぞれ、シャフト2の周方向に一定の角度間隔で、すなわち120°の角度間隔で配設されている。
【0060】
位置取得器64,65,66により目盛トラック62を走査することで、シャフト2の角度位置を測定することができる。ここで、力Fがシャフト2に作用すると、シャフトが振れる(偏向する)、つまり、回転中心点Mがずれる(図2では、位置がずれた回転中心点にM’の符号が付されている。)。破線で示された円に表されているように、シャフト2とともに測定目盛り61も位置がずれる。これが、第一のグループの位置取得器64,65,66の角度測定に影響を与えるので、個々の位置取得器64,65,66の位置値P1,P2,P3の推移を解析するか或いは位置取得器64,65,66の位置値P1,P2,P3同士の間の角度差の変化を解析するかのいずれかにより、シャフト2に作用する力Fの大きさと、場合によっては方向とを推定することができる。
【0061】
力Fが、シャフト2(およびそれに伴って目盛トラック62)の位置を軸線方向に対して垂直にずらす(第一のグループの位置取得器64,65,66により目盛トラック62を走査することで測定可能)作用を及ぼし、さらにまた、シャフト2を傾かせる作用、つまり、軸線方向に交差する方向に回転させる作用を及ぼす場合、この力は、第二のグループの位置取得器67,68,69により第二の目盛トラック63を走査することで測定できる。
【0062】
第二の目盛トラック162を走査するための第二のグループの位置取得器67,68,69の図示された配置は、三つの位置値P4,P5,P6を解析することにより軸線方向WZにおけるシャフト2の純然たる動きとシャフト2の傾きとを一義的に区別可能に評価でき、従って互いを分離して評価できることから、とりわけ有利であると考えられる。例えば、軸線方向WZにおけるシャフト2の動き(変位)だけを捕捉する必要がある場合であれば、位置取得器67,68,69のうちの一つを周上の任意の位置に配置するだけで十分である。
【0063】
シャフト2に加わる力Fは、軸線方向に対して垂直に変位(第一のグループの位置取得器64,65,66により測定可能)させる作用と、傾け(図2に示された円の、紙面から飛び出るような回転)(第二のグループの位置取得器67,68,69により測定可能)させる作用のいずれをも及ぼすことが多い。6個の位置取得器64,65,66,67,68,69により測定された位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6を処理することで、シャフト2に加わる力Fにより引き起こされるシャフト2の複雑な変位を包括的に決定することが可能になる。
【0064】
位置取得器64,65,66,67,68,69によって生成された位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6は、解析のために信号伝送チャンネル50を介して計算機40に供給することができる。
【0065】
図4は、計算機40の一実施形態を示す。計算機40は、変位計算機41、比較器43およびシーケンシャル制御部44を有している。
【0066】
変位計算機41は、作業を行っている間、入って来る位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6から、無負荷姿勢からのシャフト2の振れの量を表す変位値VLを継続して特定し続け、その変位値を比較器43に出力するのに適した構成とされている。有利には、変位値VLは、一定時間おきに形成される。この間隔は、シャフト2の各回転に少なくとも一つの変位値VLが、例えば、一回転する間のシャフト2の変位の平均値を形成することで生成されるように選択されている。
【0067】
変位値VLは、既に述べたように、個々の位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6の推移の解析および/または複数の位置取得器64,65,66,67,68,69の位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6の差の解析に基づいて生成することができる。
【0068】
変位値VLの可能な一つの推移が図5に示されている。これは、一つの理想化された推移であり、ここでは、シャフト2の振れが回転に依存して変動することは考慮されていない。このような推移は例えば、図1により工具4を備えたモータスピンドル10が、実際に冷却剤を供給した状態で一定の送り速度で被加工物6に向けて移動方向Zに動かされているときに現れる。この場合、軸線方向WZに力Fが作用することから、変位値VLは、第二のグループの位置取得器67,68,69により測定された位置値P4,P5,P6に基づいて割り出される。
【0069】
これとは対照的に、図1に示された移動方向Xに沿って接近させていくとき、変位値VLは、第一のグループの位置取得器64,65,66により測定された位置値P1,P2,P3の解析に基づいて割り出すことができる。これは、冷却剤を供給することで生じる力は、主に軸線方向WZに対して垂直なシャフト2の変位を引き起こすからである。
【0070】
一般的に考えれば、変位値VLを割り出すために、接近の境界条件(接近の方向、被加工物の幾何学的形状、内部冷却供給機の構成…など)に応じて、位置取得器64,65,66,67,68,69の位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6のそれぞれ適した組み合わせを選択することができる。
【0071】
図5に示されているように、工具4の被加工物6への接近は、空転領域I、接近領域IIおよび加工領域IIIの三つの領域に分けることができる。この接近は、内部冷却供給機を動かしている状態で行われる。
【0072】
空転領域I(位置Z1若しくは時間t1まで)では、冷却剤の供給はまだ作用を及ぼさないので、シャフト2の変位は生じないか若しくは無視できるほど僅かな略一定の変位しか生じない。
【0073】
接近領域II(位置Z1と位置Z2の間若しくは時刻t1と時刻t2の間)では、シャフト2の変位が増加するようになるが、その原因は、被加工物6からの冷却剤14の跳ね返り若しくは衝突の際に生じるよどみ点圧によるものである。その際に工具4に作用する力Fは、工具4が被加工物6に近づくほど大きくなる。
【0074】
加工領域III(位置Z2以降若しくは時刻t2以降)では、最終的に工具4と被加工物6とが接触して、切削加工が行なわれることになる。このとき、力Fと、被加工物6の加工の際に生じる力とが重なり合うので、図示された変位値VLの推移は、接近領域IIと加工領域IIIの間の変わり目で急激に変化する場所がある。別の言い方をすれば、工具4が被加工物6にぶつかることが、変位値VLの推移の急激な増加をもたらす。
【0075】
選択的に、変位計算機41は、位置値P1,P2,P3からさらに角度位置POSを計算し、比較器43に出力することができ、それにより、シャフト2の振れ量以外に方向を求めることができる。さらに、角度位置POSを出力データ・チャンネル51を介して制御装置100に出力して、場合によっては、角度測定器5を省くことができるように設けられていてもよい。
【0076】
変位値VLは、比較器43に供給されている。この比較器は、変位計算機41から入って来る変位値VLをしきい値Sと比較することにより、しきい値Sに達したかどうか若しくはそれを超えたかどうかを示す接近信号ASを形成し、この接近信号ASを出力データ・チャンネル51を介して制御装置100に出力する。
【0077】
ここで、しきい値Sは、接近領域IIにおいて、具体的には、工具4が被加工物に触れずに被加工物6のかなり近くにある接近位置ZAにおいて-つまり加工領域IIIに達する前に-しきい値に達するか若しくはそれを超えるように選択されている。しきい値Sは、比較器43に格納されているか或いは計算機40にコマンド・チャンネル52を介して供給されるのでもよい。
【0078】
しきい値Sは、三つ全ての領域を通過させるテストランにおいて求めることができる。このとき、切削加工が行なわれることになるので、被加工物6として有利にはテストワークピースが使用される。
【0079】
好ましい実施形態では、計算機40は、しきい値Sを決定するために、さらに他のしきい値決定器42を有している。このしきい値決定器には、変位値VLが供給され、さらに、ここでもまた制御装置100からコマンド・チャンネル52を介して計算機に供給されているテスト開始コマンドTESTが供給されている。ここで、しきい値決定器42は、変位値VLの推移から、工具4が空転領域Iにあるのか、接近領域IIにあるのか、それとも加工領域IIIにあるのかを認識するように適切に構成されている。特に、しきい値決定器42は、接近領域IIから加工領域IIIに移行したこと(ジャンプ)を認識し、この移行から、接近位置ZAおよびそれに対応するしきい値Sとしての変位値VLを決定する。しきい値Sが決定された後、しきい値決定器42は、出力データ・チャンネル51を介してテスト停止信号STPを制御装置100に出力し、この制御装置は、被加工物6に向かう(移動方向Zに沿った)工具4の移動と、それに伴う切削加工を直ぐに停止することができる。
【0080】
計算機40内のシーケンスは、コマンド・チャンネル52を介して開始コマンドSTART、テスト開始コマンドTESTおよび場合によってはパラメータPARが供給されているシーケンシャル制御部44により制御される。この制御は、機能モジュール(変位計算機41、しきい値決定器42、比較器43)に出力される制御信号STRGにより行われる。制御信号STRGには、機能モジュールからシーケンシャル制御部44へのフィードバックが含まれていてもよい。
【0081】
開始コマンドSTARTが入って来た後、シーケンシャル制御部44は、以下の方法ステップを開始する:
- 変位計算機41において位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6から変位値VLを一定の時間間隔で継続的に求め、その変位値VLを比較器43に出力する。
- 変位計算機41から入って来る変位値VLを比較器43においてしきい値Sと比較し、そこから接近信号ASを形成して出力する。
【0082】
開始コマンドSTARTの代わりに、例えば、計算機40の供給電圧をオンにすることも開始コマンドとして解釈することができる。
【0083】
しきい値Sがまだ利用できる状態にないときは、しきい値を決定するために、テスト開始コマンドTESTにより開始される以下の方法を事前に実行することができる:
- 変位計算機41において位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6から変位値VLを一定の時間間隔で継続的に求め、その変位値VLをしきい値決定器42に出力する。
- そのしきい値決定器42において、接近領域IIから加工領域IIIへの移行を特定し、その移行に基づいて接近位置ZAとそれに対応するしきい値Sとしての変位値VLを決定することによりシャフト2の変位のしきい値Sを形成する。そのしきい値Sを比較器43に出力する。
【0084】
単純化された実施形態では、しきい値Sは、比較器43に格納されている一定値である。
【0085】
上述の方法を実施するために必要な駆動部の動き、シャフト2の回転、内部冷却供給機の起動並びに計算機40との相互作用は、制御装置100上で実行可能なコンピュータプログラムにより制御可能である。
【0086】
冒頭で既に説明したように、モータスピンドル10の作業領域においてクランプ手段によりクランプされる新たに加工される被加工物6の正確な位置は、まだ分からない。分かっているのは、クランプ手段によって決まる被加工物の大まかな位置と向きだけである。被加工物6(被加工物のブランク)の寸法も分かっている。被加工物の輪郭を加工する前に、被加工物6の正確な位置を決定する必要がある。以下に、好ましい方法を、図4に示された計算機40に関連する図5に示された信号図に基づいて以下に説明する:
【0087】
開始位置では、モータスピンドル10は、空転領域I内の所定の位置にある。最初に、制御装置100は、モータが回転し内部冷却供給機を起動するようにスピンドルモータ1を制御する。次に、制御装置100は、所望の移動方向に必要な駆動部20X,20Y,20Z,20A,20Bに信号を送り、モータスピンドル10を被加工物6に向けて移動させ、開始コマンドSTARTを計算機40に送信する。この移動は、一定の送り速度で行われる。
【0088】
ここで、計算機40は、図4に関連して説明した方法を実行する。すなわち、変位計算機41が継続的に変位値VLを求めて比較器43がそれをしきい値Sと比較する。変位値VLが変化していき、しきい値Sに達するかまたはそれを超える場合、接近信号ASが制御装置100に送信される。
【0089】
接近信号ASが入って来たら、制御装置100は、駆動部20X,20Y,20Z,20A,20Bによるモータスピンドルの動きによって影響を受ける少なくとも位置測定装置30X,30Y,30Z,30A,30Bの実際の位置値を、選択された接近点における被加工物6の位置として記憶し、駆動部を停止若しくは移動方向を反転して、モータスピンドル10若しくは工具4が再び空転領域Iに位置するまで工具4および被加工物6が再び互いに離されるようにする。
【0090】
この方法は、実際には、被加工物6若しくは被加工物のブランクの正確な位置を知って本来の加工を始めることができるようにするのに十分に多くの接近点(被加工物座標)が得られるまで、被加工物6の様々な位置で繰返し実行される。
【0091】
代替的に、制御装置100は、一つの接近点に達したら、そのまま被加工物6の加工に進んでもよい。この目的のために、必要に応じて、送り速度が調整され、特には減速される。
【0092】
例えば、連続生産の開始時など、しきい値Sがまだ利用できる状態にないときは、制御装置100は、しきい値を決定するための上記の方法を用いて、しきい値を決定することができる。
【0093】
この場合も、モータスピンドル10は、開始時に、空転領域I内の所定の位置にある。制御装置100は、モータが回転し内部冷却供給機を起動するようにスピンドルモータ1を制御する。次に、制御装置100は、所望の移動方向に必要な駆動部20X,20Y,20Z,20A,20Bに信号を送り、モータスピンドル10を被加工物6に向けて移動させ、テスト開始コマンドTESTを計算機40に送信する。
【0094】
ここで、計算機40は、図4に関連して説明した、しきい値を決定するための方法を実行する。すなわち、変位計算機41が継続的に変位値VLを求めて、しきい値決定器42に供給する。しきい値決定器は、変位値VLの推移から、実際のしきい値Sを求め、それを比較器43に出力する。最後に、しきい値決定器42は、テスト停止コマンドSTPを制御装置100に送信する。
【0095】
テスト停止コマンドSTPが入って来たら、制御装置100は、駆動部を停止するか若しくは移動方向を反転し、モータスピンドル10若しくは工具4が再び空転領域Iに位置するまで工具4および被加工物6が再び互いに離されるようにする。
【0096】
この方法は、被加工物6若しくは被加工物のブランクの正確な位置を決定することができるようにするのに十分に多くの接近点(被加工物座標)のためのしきい値Sが得られるまで、被加工物6の様々な位置で繰返し実行される。
【0097】
図6は、計算機240のさらに他の実施例を示す。この計算機は、変位計算機41とシーケンシャル制御部44を依然として有している。前述の実施形態とは異なり、計算機240はここで、微分器246を備え、その微分器は、例えば、微分器が、順次入って来る変位値VLと、微分器246にそれら変位値が入って来る時間間隔とから差分商DQを計算することにより、変位値VLの推移を微分し、比較器243に出力する。
【0098】
比較器243は、入って来る差分商DQを、比較器243にそれ専用に備えられているメモリに格納された適切なしきい値Sと比較する。差分商DQがしきい値Sを超えると、比較器243が接近信号ASを出力することによってそのことを通知する。
【0099】
図7は、しきい値Sとの関係で変位値VLの推移を示し、しきい値は、この例では、接近位置ZAにおける変位値VLの推移の傾き(若しくは差分商DQ)を与えている。
【0100】
計算機240は、制御装置100との関連でしきい値Sを決定するために、計算機40と同様、しきい値決定器242を有していてもよい。しきい値決定器242には、そのために変位値VLおよび/または差分商DQが供給されている。一連の変位値VL若しくは差分商DQによって形成されるグラフは、いずれも、接近領域IIから加工領域IIIに移行する際に、しきい値決定器242により認識される急激な増加がある。この位置を基準にして、接近位置ZA(差分商)における変位値VLの推移の傾きがしきい値Sとして決定される。
【0101】
しきい値Sを求める制御は、ここでもテスト開始コマンドTESTおよびテスト停止信号STPにより行われる。
【0102】
従って、計算機240は、計算機40の代わりにすることができる。
【0103】
図8は、計算機340のさらに他の実施例を示す。この計算機は、(この例ではオプションである)変位計算機41およびシーケンシャル制御部44に加えて、周波数分析器347を有している。
【0104】
周波数分析器347は、変位計算機41から入って来る変位値VLの推移を周波数領域において解析するように適切に構成されている。ここで、フーリエ解析(FFT、DFT、Goertzel解析など)、次数解析または適応フィルタリングといった数学的な方法を使用することができる。
【0105】
周波数領域における変位値VLの解析は、工具4が用いられて、例えばフライス盤の場合などに、工具4の外周面における相応の開口部(ノズル)を介して冷却剤14を出す場合には特に有利である。シャフト2が回転しているときに工具4が被加工物6に接近すると、各ノズルの冷却剤流により、回転周期によるシャフト2の振れがもたらされる。シャフト2の回転数とノズル数に依存する周波数帯のスペクトルパワー密度を注視することにより、工具4と被加工物6の間の接近を検出できる。この監視は、ここでもまた適切なしきい値Sとの比較により行なうことができる。解析の結果は、再び接近信号ASとして出力することができる。
【0106】
この実施例については、個々のノズルに起因するシャフト2の振れの最大値を確実に捕捉するために、シャフト2が回転するたびに複数の変位値VLが生成されると有利である。
【0107】
選択的に、この実施例では、変位計算機41を省略することもできるので、位置値P1,P2,P3は、周波数分析器347にそのまま供給されている。これは、シャフト2が回転しているときに同一の時間間隔で測定される位置取得器64,65,66,67,68,69の位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6の結果として、シャフト2の振れが、順次測定される位置値の位置差の変化の形で現れるという知見に基づいている。この位置値の変化は、再び周波数スペクトルで検出できる。
【0108】
いずれにしろ、周波数分析器347は、ここでもまた、接近領域IIから加工領域IIIへの移行を特定することに基づいてしきい値Sを求めるように、適切に構成することができる。
【0109】
従って、計算機340は、計算機40の代わりになることもできる。
【0110】
図9は、計算機440のさらに他の実施例を示す。この計算機は、(オプションの)変位計算機41とシーケンシャル制御部44に加えて、AIモジュール448を有している。
【0111】
AIモジュール448は、人工知能の方法を用いて、例えば、予め求められたパターン(“機械教示”)との比較により変位計算機41から入って来る変位値VLの推移を解析し、それにより、被加工物6への工具4の接近を認識するように適切に構成されている。これらのパターンは、これまでの例のしきい値Sに対応し、テストランにおける制御装置100との連携で求めることができる。有利には、AIモジュールは自己学習型であり、接近プロセスの認識が継続的に改善されるようになっている。
【0112】
この実施例の一変形例では、変位計算機41を省略することができ、この場合もまた、これまでの例のように、位置値P1,P2,P3,P4,P5,P6がそのままAIモジュール448に供給されていて、それらの時間的な推移が解析されるようになっている。
【0113】
接近位置ZAに到達したことが認識されると、そのことが再び接近信号ASにより通知される。
【0114】
この計算機440も、計算機40の代わりになることができる。
【0115】
本発明は、説明した実施例に限定されず、当業者によって請求項の範囲内で代替的に実施することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【外国語明細書】