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特開2023-147220金属有機フレームワーク、金属有機フレームワークを含む組成物、該組成物からなる膜及びガス分離膜、金属有機フレームワークの製造方法並びに二酸化炭素吸着材
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  • 特開-金属有機フレームワーク、金属有機フレームワークを含む組成物、該組成物からなる膜及びガス分離膜、金属有機フレームワークの製造方法並びに二酸化炭素吸着材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147220
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】金属有機フレームワーク、金属有機フレームワークを含む組成物、該組成物からなる膜及びガス分離膜、金属有機フレームワークの製造方法並びに二酸化炭素吸着材
(51)【国際特許分類】
   C07F 3/06 20060101AFI20231004BHJP
   C07C 55/07 20060101ALI20231004BHJP
   C07C 51/41 20060101ALI20231004BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20231004BHJP
   B01D 71/06 20060101ALI20231004BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C07F3/06
C07C55/07
C07C51/41
B01D53/22
B01D71/06
B01J20/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037599
(22)【出願日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2022054357
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100163234
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 順子
(72)【発明者】
【氏名】山田 美樹
(72)【発明者】
【氏名】武脇 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】森屋 早紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】北井 翔大
(72)【発明者】
【氏名】米津 駿平
【テーマコード(参考)】
4D006
4G066
4H006
4H048
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA01
4D006HA61
4D006HA71
4D006MA01
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA31
4D006MB03
4D006MC07X
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC39
4D006MC40
4D006MC45
4D006MC49
4D006MC54
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC65
4D006NA05
4D006NA10
4D006NA46
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB18
4D006PB19
4D006PB62
4D006PB63
4D006PB64
4D006PB65
4D006PB66
4D006PB67
4D006PB68
4G066AB10B
4G066AB24B
4G066BA26
4G066BA31
4G066BA36
4G066CA35
4G066DA01
4G066FA03
4G066FA11
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB80
4H006AC47
4H006BS70
4H048AA01
4H048AA02
4H048AA03
4H048AB80
4H048AC47
4H048AC90
4H048VA20
4H048VA66
4H048VB10
4H048VB20
(57)【要約】
【課題】耐水性に優れるとともに、水熱安定性に優れる金属有機フレームワーク、及び該金属有機フレームワークを含む組成物、該組成物からなる膜、金属有機フレームワークの製造方法並びに二酸化炭素吸着材を提供する。
【解決手段】置換基を有していてもよいトリアゾレート及びオキサレートが配位結合した亜鉛イオンを含む金属有機フレームワークであって、X線光電子分光法により求めた表面の亜鉛原子に対する酸素原子のモル比が5以上20以下である、金属有機フレームワーク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換基を有していてもよいトリアゾレート及びオキサレートが配位結合した亜鉛イオンを含む金属有機フレームワークであって、X線光電子分光法により求めた、前記金属有機フレームワークの亜鉛原子に対する酸素原子のモル比が5以上20以下である、金属有機フレームワーク。
【請求項2】
前記亜鉛イオンに配位したトリアゾレートは、下記一般式(1)の構造を有する、請求項1に記載の金属有機フレームワーク。
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ独立に、アミノ基、ニトロ基、メチル基、メルカプト基又は水素原子であり、Xは炭素原子である。)
【請求項3】
請求項1に記載の金属有機フレームワークと、樹脂とを含有する、組成物。
【請求項4】
金属有機フレームワークと、樹脂とを含有する組成物であって、
前記金属有機フレームワークが、置換基を有していてもよいトリアゾレート及びオキサレートが配位結合した亜鉛イオンを含む、組成物。
【請求項5】
前記樹脂のガラス転移温度が15℃以下である、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記金属有機フレームワークを5~95質量%含有する、請求項3~5の何れか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項3~5の何れか一項に記載の組成物からなる、膜。
【請求項8】
請求項7に記載の膜を有する、分離膜。
【請求項9】
混合ガスから、透過性の高いガスを分離する、請求項8に記載の分離膜。
【請求項10】
前記混合ガスが、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種類の気体を含む、請求項9に記載の分離膜。
【請求項11】
金属シュウ酸塩と、置換基を有していてもよいトリアゾールとを、メカノケミカル反応させる工程を有する、金属有機フレームワークの製造方法。
【請求項12】
亜鉛の塩を含む金属塩、置換基を有していてもよいトリアゾール、及びシュウ酸をメカノケミカル反応させる、金属有機フレームワークの製造方法。
【請求項13】
前記亜鉛の塩が水酸化炭酸亜鉛である、請求項12に記載の金属有機フレームワークの製造方法。
【請求項14】
さらに金属水酸化物を含有させる、請求項12又は13に記載の金属有機フレームワークの製造方法。
【請求項15】
金属有機フレームワークの含有量が20質量%以上100質量%未満である、組成物。
【請求項16】
請求項8に記載の分離膜を用いて、混合ガスから、透過性の高いガスを分離する方法。
【請求項17】
請求項1又は2に記載の金属有機フレームワークを含有する、二酸化炭素吸着材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属有機フレームワーク、金属有機フレームワークを含む組成物、該組成物からなる膜及びガス分離膜、金属有機フレームワークの製造方法並びに二酸化炭素吸着材に関する。
【0002】
有害な温室効果ガス、特に二酸化炭素(CO)を工業廃棄物から捕捉することは、地球規模の二酸化炭素量の抑制に貢献することができ、地球温暖化対策にとって重要な技術である。
ガスの分離方法には、膜分離法、吸着分離法、吸収分離法、深冷分離法がある。膜分離法は、圧力を駆動力として、膜を透過するガスの速度差によってガスを分離する手法であり、ガス分離の途中で相変化をほとんど伴わないため、他のガス分離方法に比べ消費エネルギーが小さい。世界的な気候変動から、温室効果ガスの削減が求められている昨今、消費エネルギーが少ない膜分離法は、従来の分離手法の代替や、温室効果ガスの分離回収の手段として注目を集めている。
【0003】
ガスを吸着することができる多孔質材料としては、従来、活性炭やゼオライトが代表的であったが、近年、金属と架橋配位子とで構築された配位高分子によるナノサイズ細孔を有する多孔質材料が注目されている。例えば、多孔質材料として、金属有機フレームワーク(以下、「MOF」と言う場合がある。)を用いた二酸化炭素の吸着が報告されている(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2016-516677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MOFは有機スペーサー連結金属イオンまたは金属イオンクラスターから構成されるネットワーク固体の一種であり、特定のガス分子を吸着する規則正しい(結晶性)構造を有するため、ガス吸着材としての使用が見込まれる。しかしながら、MOFの欠点として、耐水性が悪いことが挙げられる。MOFは、大気中に存在する少量の水分によってさえ、結晶構造が乱れ、多孔質性が損なわれる可能性がある。また、二酸化炭素の分離・回収を温度スイング法により行う場合、二酸化炭素の常温吸着・高温脱着を繰り返すため、吸着材の耐熱性が求められるが、MOFは、温度が高くなると、水安定性が低下し、二酸化炭素吸着材として実用化することは難しい。
本発明は上述の実情に鑑みて、耐水性に優れるとともに、水熱安定性に優れる金属有機フレームワーク、及び該金属有機フレームワークを含む組成物、該組成物からなる膜、金属有機フレームワークの製造方法並びに二酸化炭素吸着材を提供することを課題とする。
【0006】
本発明者等は、耐水性に優れ、実用的である金属有機フレームワークを製造すべく鋭意検討した。その結果、亜鉛イオンに、置換基を有していてもよいトリアゾールと、オキサレートとが配位した構造を有し、かつ、特定の表面状態を有する金属有機フレームワークが上記課題を解決することを見出した。
すなわち、本発明は下記[1]~[17]に関する。
【0007】
[1] 置換基を有していてもよいトリアゾレート及びオキサレートが配位結合した亜鉛イオンを含む金属有機フレームワークであって、X線光電子分光法により求めた、前記金属有機フレームワークの亜鉛原子に対する酸素原子のモル比が5以上20以下である、金属有機フレームワーク。
[2] 前記亜鉛イオンに配位したトリアゾレートは、下記一般式(1)の構造を有する、上記[1]に記載の金属有機フレームワーク。
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ独立に、アミノ基、ニトロ基、メチル基、メルカプト基又は水素原子であり、Xは炭素原子である。)
[3] 上記[1]又は[2]に記載の金属有機フレームワークと、樹脂とを含有する、組成物。
[4] 金属有機フレームワークと、樹脂とを含有する組成物であって、前記金属有機フレームワークが、置換基を有していてもよいトリアゾレート及びオキサレートが配位結合した亜鉛イオンを含む、組成物。
[5] 前記樹脂のガラス転移温度が15℃以下である、上記[3]又は[4]に記載の組成物。
[6] 前記金属有機フレームワークを5~95質量%含有する、上記[3]~[5]の何れか1つに記載の組成物。
[7] 上記[3]~[6]の何れか1つに記載の組成物からなる、膜。
[8] 上記[7]に記載の膜を有する、分離膜。
[9] 混合ガスから、透過性の高いガスを分離する、上記[8]に記載の分離膜。
[10] 前記混合ガスが、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種類の気体を含む、上記[9]に記載の分離膜。
[11] 金属シュウ酸塩と、置換基を有していてもよいトリアゾールとを、メカノケミカル反応させる工程を有する、金属有機フレームワークの製造方法。
[12]亜鉛の塩を含む金属塩、置換基を有していてもよいトリアゾール、及びシュウ酸をメカノケミカル反応させる、金属有機フレームワークの製造方法。
[13]前記亜鉛の塩が水酸化炭酸亜鉛である、上記[12]に記載の金属有機フレームワークの製造方法。
[14]さらに金属水酸化物を含有させる、上記[12]又は[13]に記載の金属有機フレームワークの製造方法。
[15]金属有機フレームワークの含有量が20質量%以上100質量%未満である、組成物。
[16]上記[8]に記載の分離膜を用いて、混合ガスから、透過性の高いガスを分離する方法。
[17]上記[1]又は[2]に記載の金属有機フレームワークを含有する、二酸化炭素吸着材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐水性に優れ、実用的である金属有機フレームワークを提供することができる。本発明の金属有機フレームワークは二酸化炭素吸着能を有し、本金属有機フレームワークと、樹脂とを含有する組成物からなる膜は、二酸化炭素分離膜として優れた機能を有する。また、本発明の金属有機フレームワークの製造方法は、簡便に製造することができ、工業的な価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】単成分ガス透過試験を行う装置を示す模式図。
図2】実施例1の金属有機フレームワークの構造を解析した、X線回折スペクトル。
図3】比較例1の金属有機フレームワークの構造を解析した、X線回折スペクトル。
図4】実施例1の金属有機フレームワークの水蒸気吸着等温線。
【0010】
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例である。本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
<金属有機フレームワーク(MOF)>
MOFとは、Metal Organic Frameworksの略で、金属イオンと有機配位子によって形成される規則的な細孔構造を有する結晶性の多孔性化合物である。
本発明の金属有機フレームワーク(MOF)は、置換基を有していてもよいトリアゾレート及びオキサレートが配位結合した亜鉛イオンを含む。本発明のMOFは、X線光電子分光法により求めた、亜鉛原子に対する酸素原子のモル比が5以上20以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明のMOFを構成する、置換基を有していてもよい亜鉛イオンに配位したトリアゾレートは、下記一般式(1)の構造を有することが好ましい。
【化2】
(式中、R及びRはそれぞれ独立に、アミノ基、ニトロ基、メチル基、メルカプト基又は水素原子である。Xは炭素原子である。)
【0013】
本発明のMOFを構成する、置換基を有していてもよい亜鉛イオンに配位したトリアゾレートとしては、式(2)で表される1,2,3-トリアゾレート化合物、式(3)で表される1,2,4-トリアゾレート化合物等を挙げることができ、中でも1,2,4-トリアゾレート化合物が好ましい。
【化3】
【0014】
式中、R及びRはそれぞれ独立に、アミノ基、ニトロ基、メチル基、メルカプト基、水素原子である。R及びRの少なくともいずれかが水素原子であることが好ましく、例えば、RとRが水素原子であってもよい。
【0015】
本発明のMOFをX線回折分析(XRD)法により構造解析すると、2個の亜鉛原子に対し、2個のトリアゾ―レートと、1個のオキサレートが配位している構造を有している。従って、本発明のMOFの化学量論比(モル比)は、基本的にZn:O:N=2:4:6である。
【0016】
本発明のMOFは、以下の特徴的な表面状態を有する。
本発明のMOFをX線光電子分光法(以下、「XPS」と言う場合がある。)により表面分析すると、酸素原子と亜鉛原子のモル比(以下、「表面O/Zn比」または「O/Zn比」と言う場合がある。)は、5以上20以下である。上述した通り、本発明のMOFの化学量論比(モル比)のZn:O=2:4から計算されるO/Zn比は2である。しかしながら、本発明のMOFをXPSにより分析すると、表面O/Zn比は5以上20以下になっている。これは、シュウ酸亜鉛に近い構造が、MOF表面に多いことを意味する。ここで、シュウ酸亜鉛は水への溶解度が低いため、シュウ酸亜鉛に近い構造がMOF表面に多く存在することから、本発明のMOFは高い耐水性(水熱安定性)を示すと推測できる。
【0017】
本発明のMOFの表面O/Zn比は、シュウ酸亜鉛に近い構造が表面に多く、耐水性に優れる点では高いことが好ましい。そこで、7以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。また、一方で、表面O/Zn比は、15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。MOFの表面O/Zn比が上述の範囲内にあると、規則的な細孔径を持つ構造を安定に維持しやすく、多量の二酸化炭素を吸着することができる。
XPSによるMOFの表面O/Zn比の測定は、以下の条件にて行う。X線源:単色化Mg-Kα、測定出力:100W(電圧10kV、電流10mV)、取り込み領域:C1s、O1s、N1s、Zn2p2/3、Pass-Energy:10eV、測定領域:スポット照射(照射面積<600μmφ)、取り出し角:45°(表面より)の条件で、4回測定し、得られたO原子とZn原子とのモル比の相加平均した値である。
【0018】
また、上述の条件でXPS分析した、本発明のMOF表面の窒素原子と亜鉛原子のモル比(以下、「表面N/Znモル比」または「N/Zn比」と言う場合がある。)は、通常、2.5以上、4.5以下の範囲にある。上述した通り、本発明のMOFの化学量論比(モル比)のZn:N=2:6から計算されるN/Zn比は3である。この範囲にあるとき、トリアゾレートは、オキサレートと異なり、表面偏析していないと考えられる。N/Zn比が1以上、2.5未満の範囲にあるとき、シュウ酸亜鉛に近い構造によってMOF粒子の表面の大半が覆われ、トリアゾレートの露出が少ない状態になっており、さらに、水熱耐性が高くなる傾向がある。
以上のことから、本発明のMOFは、その表面にオキサレートが偏析している特徴的な表面状態を有することがわかる。
【0019】
本発明のMOFは、通常孔を有する。本発明のMOFが孔を有する場合の孔のサイズは特に限定されないが、通常0.3~2nmの範囲である。孔サイズが当該範囲にあると、優れた二酸化炭素吸着能を発揮することができる。
本発明のMOFの孔サイズは、好ましくは0.4~1.9nm、より好ましくは0.5~1.8nm、さらに好ましくは0.6~1.7nm、特に好ましくは0.7~1nmである。より具体的な実施形態においては、本発明のMOFは約0.3nm、約0.4nm、約0.5nm、約0.6nm、約0.7nm、約0.8nm、約0.9nm、約1.0nm、約1.1nm、約1.2nm、約1.3nm、約1.4nm、約1.5nm、約1.6nm、約1.7nm、約1.8nm、約1.9nm及び約2.0nmの群から選択される少なくとも1つの孔サイズを有し得る。
【0020】
本発明のMOFは、上述した通り、高い二酸化炭素吸着能を有する。
具体的には、本発明のMOFの二酸化炭素吸着量は、真空状態で200℃で4時間以上加熱することにより前処理した後に、二酸化炭素を使用した定容量ガス吸着法により、温度298Kにおける吸着等温線を測定し、絶対圧P=102kPaにおける二酸化炭素吸着量の値である。
絶対圧102kPaにおける、本発明のMOFの二酸化炭素吸着量は、通常1.0mmol/g以上、好ましくは2.0mmol/g以上、より好ましくは3.0mmol/g以上、さらに好ましくは3.5mmol/g以上であり、また、一方で、通常100mmol/g以下、好ましくは50mmol/g以下、より好ましくは10mmol/g以下である。二酸化炭素吸着量が上記範囲にあると、二酸化炭素を多量に効率的に吸脱着することができる。
【0021】
本発明のMOFは、耐水性に優れている。上述した通り、本発明のMOF表面に、シュウ酸亜鉛に近い構造が多いことがその理由として考えられる。
【0022】
MOFの耐水性は、MOFを、(i)水蒸気に曝露させる、(ii)水中に浸漬させる、(iii)熱水に浸漬させる、又は(iv)水に浸漬させた状態で加熱することにより、その前後の結晶性や窒素吸着量の変化から判断することができる。これらの条件のうち、(i)水蒸気曝露<(ii)水中浸漬<(iii)熱水浸漬<(iv)水熱条件での保持の順に過酷な条件となるため、最も過酷な(iv)水熱条件保持での耐水性を判断することが、実用上十分な耐水性を有するか否かを、短時間で判断できるため好ましい。
ここで、MOFの窒素吸着量は、MOFの細孔構造に由来し、細孔が維持されている割合が高いほど、これらの処理後も、窒素吸着量が維持されることを意味する。
(iv)水中に浸漬させることによるMOFの耐水性の評価は、具体的には、例えば、耐圧容器内で、MOFを、50質量倍以上の水に浸漬させ、150℃で24時間加熱(水熱条件)した後に、冷却してから、ろ過することにより回収した場合の窒素吸着量を測定することにより行うことができる。
【0023】
耐水性の評価は、処理前後のXRDパターンのピーク幅を使って評価することもできる。ピーク幅としては、ベースラインの影響を受けにくいため、半値幅を用いる。耐水性が高い場合は、処理による結晶構造の変化が小さいため、ピーク強度およびピーク幅が処理前後で維持されやすい。一方、耐水性が低い場合は、ピーク強度は減少し、ピーク幅が増加してブロードになり、結晶性が低下しやすい。そこで、本発明のMOFのXRDパターンのうち、一番大きいピークの処理前後のピーク幅の比(処理後/処理前)は、通常0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上であり、通常1.0以下である。処理前後のピーク幅の比が上述の範囲内にあると、MOFの耐水性が高く、水存在下でも安定した物性を示しやすい。
【0024】
(iv)水熱処理前後の77Kでの窒素吸着等温線を測定して得られる、相対圧P/P=0.1における、本発明のMOFの窒素吸着量の処理前後の比(処理後/処理前)は、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上であり、通常100%以下である。処理前後の窒素吸着量の比が上述の範囲内にあると、吸着材や該吸着材を含む組成物として、長期にわたり実用的な性能が維持されやすい。
【0025】
本発明のMOFは、25℃における飽和水蒸気量に対する水蒸気量が10%すなわち相対湿度10%における水蒸気吸着量が通常8mmol/g以下、好ましくは6mmol/g以下、より好ましくは4mmol/g以下、特に好ましくは3mmol/g以下、最も好ましくは2.5mmol/g以下であり、相対湿度10%における水吸着量は少ないほど良いが通常0.1mmol/g以上である。
水蒸気吸着特性は、吸着ガスとして、水蒸気を使用した定容量ガス吸着法により、前処理後の粉末について、温度298Kにおいて測定する。得られた水蒸気の吸着等温線において相対湿度10%の時の吸着量を求める。本発明のMOFの25℃相対湿度10%における吸着量が上記範囲にあるとき、PSA(圧力スイング吸着)、TSA(温度スイング吸着)などの吸着材として利用する際に、燃焼排ガスなどの分離対象のガスの脱湿の前処理の負荷を低減することができる。また、本発明の組成物及び膜状に成形した組成物に含有されるMOFが上記範囲の水蒸気吸着量であるとき、組成物及び膜状に成形した組成物を、燃焼排ガスなど水蒸気を多量に含むガスの分離に用いる際、分離対象のガスの脱湿の前処理の負荷を低減することができる。
【0026】
本発明のMOFの一次粒子径は、通常10nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、また、一方で、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下、殊更に好ましくは500nm以下、特に好ましくは300nm以下、最も好ましくは200nm以下である。一次粒子径が上述の範囲内にあると、MOFの表面積が大きくなり、MOF表面から、主な吸着サイトである内部細孔へのアクセスが良好となるため、吸着速度が速くなり、吸着量も増加する。
ここで、「一次粒子径」とは、合成したMOFを分散させた試料を、走査電子顕微鏡を用いて撮影し、任意に選択した30個の一次粒子の粒子径を測定し、その相加平均を一次粒子径とする。
得られたMOFと、樹脂とを含有する組成物中のMOFの平均一次粒子径は、凍結破断によって得た組成物の断面を、走査電子顕微鏡をもちいて撮影し、断面に見える、任意に選択した30個のMOFの一次粒子の粒子径を測定し、その相加平均をもって一次粒子径とする。
なお、粒子径は粒子の投影面積と等しい面積を持つ、円の直径(円相当径)とする。
【0027】
本発明のMOFの二次粒子の形状は特に制限されるものではないが、円形度係数は通常平均円形度係数として好ましくは0.80以上、より好ましくは0.90以上、通常1.0以下となる形状である。平均円形度係数がこの範囲であるとき、粒子の流動性が高いため、吸着材として用いるペレット等の成型体中のMOFの充填率や本発明のMOFの樹脂組成物において、MOFの充填率を向上させることが可能となり、単位体積当たりの吸着量が大きな成形吸着材が得られるほか、組成物としてもガス透過、分離の性能が高くなる傾向がある。
ここでいう円形度係数とは、用いるMOFの粒子の二次元投影像の面積をS、粒子の周囲長をLとしたときに、4πS/Lで表され、粒子が真球であるときに1.0となり、真球に近いほど値が大きくなる。したがって、平均円形度係数が0.80以上の形状は、例えば、球状、ラグビーボール状の形状となる。なお、ここでいう平均円形度係数の算出方法は、具体的には下記の通りである。
【0028】
[平均円形度係数の算出方法]
本発明のMOF粒子の粉末をよく分散させて試料を作成し、走査電子顕微鏡をもちいて撮影し、任意に選択した30個の粒子について円形度係数を算出し、その相加平均をもって平均円形度係数とする。小さな結晶粒子が凝集してなる二次粒子においては二次粒子について円形度係数を算出し、その平均値をとる。
得られたMOFと樹脂とを含有する組成物中のMOFの平均円形度係数は、凍結破断によって得た組成物の断面を、走査電子顕微鏡をもちいて撮影し、断面に見えるMOFについて、任意に選択した30個の粒子の円形度係数を算出し、その相加平均をもって平均円形度係数とする。
【0029】
<MOFの製造方法>
本発明のMOFの製造方法は特に限定されないが、メカノケミカル法を用いて製造すると、表面O/Zn比が大きいMOFを、短時間で高温条件を要することなく製造することができるため好ましい。すなわち、本発明のMOFの製造方法は、金属シュウ酸塩と、置換基を有していてもよいトリアゾールとを、メカノケミカル反応させる工程を有する。
【0030】
メカノケミカル法とは、複数の異なる素材の粒子に摩擦、圧縮等の機械的エネルギーを加えることにより、局所的に生じる高いエネルギーを利用して、粒子同士を分子レベルで結合させ、複合微粒子を創出する反応方法をいう。
【0031】
メカノケミカル法の反応方式は、特に制限されないが、例えば、圧縮せん断処理方式、高速衝撃処理方式、混合せん断摩擦方式等が挙げられ、中でも高速衝撃処理方式が好ましい。
高速衝撃処理方式としては、ボールミルを用いる方法が挙げられる。ボールミルにおいて、原料の反応に用いる容器は、衝撃に耐え得る硬さを有し、反応に不活性であれば特に制限されないが、セラミックス製の容器が好ましく、特にジルコニア製の容器が好ましい。セラミックス製、とりわけジルコニア製の容器を用いることにより、容器由来の不純物の混入を抑えて、高純度のMOFを製造しやすい。
容器の容量は、原料の量に対し、十分大きいことが好ましい。容器の内容積は、原料の容積の通常5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上であり、また、一方で、通常300倍以下、好ましくは100倍以下、より好ましくは50倍以下である。
【0032】
反応に用いるボールの材質は特に制限されないが、セラミックス製のボールが好ましく、好ましくはジルコニア製ボールである。ジルコニア製ボールを用いると、比重が大きく、硬いため、原料に与える衝撃が大きく、短時間で反応を進めることができる。ジルコニア製ボールとしては、通常、安定化されたYSZやニッカトー社製YTZなどを用いることができる。
ボールのサイズは、通常直径30mm以下、好ましくは20mm以下、より好ましくは15mm以下であり、また、一方で、通常1mm以上、好ましくは5mm以上である。ボールのサイズが上述の範囲内であると、反応に十分なエネルギーを効率的に与えることができ、短時間で結晶性の高いMOFを得ることができる。
容器の容積に対する、ボールの総体積の割合は、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上、より好ましくは8体積%以上、さらに好ましくは10体積%以上であり、また、一方で、通常50体積%以下、好ましくは30体積%以下、より好ましくは20体積%以下、さらに好ましくは15体積%以下である。用いるボールの総体積が上述の範囲内であると、ボールの衝撃エネルギーが効率よく原料に伝わり、MOFを効率的に合成することができる。
【0033】
ボールミルの回転方式としては、一軸回転や遊星回転が挙げられる。ボールのエネルギーを原料混合物全体に効率よく与えることができるため、遊星回転が好ましい。遊星ボールミルにおける回転数は、通常50rpm以上、好ましくは100rpm以上であり、また、一方で、通常300rpm以下、好ましくは200rpm以下である。回転数がこの範囲にあると、生成したMOFを壊すことなく、MOFを効率的に合成することができる。
【0034】
ボールミルを用いた反応時間は、通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、また、一方で、通常12時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは4時間以下である。処理時間がこの範囲内であると、生成したMOFを壊すことなく、MOFを効率的に合成することができる。
ボールミルを用いた反応を行う温度は、通常100℃以下、好ましくは50℃以下、より好ましくは35℃以下であり、また、一方で、通常0℃以上、好ましくは10℃以上である。この温度範囲にあると、副反応が起こり難く、高純度なMOFを効率的に合成することができる。
ボールミル容器内は、ガスで満たしてもよい。通常、窒素等の不活性ガス又は空気が好ましく、簡便さから空気が特に好ましい。
【0035】
本発明で用いる金属シュウ酸塩としては、亜鉛のシュウ酸塩を必須成分として含み、その他の金属シュウ酸塩の金属として、Fe、Ni、Co、Cuを含有する金属シュウ酸塩、を含んでいてもよい。Znと同程度の大きさである観点と、安全性の観点から、亜鉛のシュウ酸塩以外の金属シュウ酸塩の金属としては、Co、Cuがより好ましい。
【0036】
一例として、メカノケミカル法によるMOFの製造は、以下の工程を有する。
まず、置換基を有していてもよいトリアゾールとして、トリアゾールまたはその誘導体(以下、「トリアゾール類」と言う場合がある。)と、金属シュウ酸塩として、シュウ酸亜鉛二水和物とを、適当な反応容器などの容器中で配合、混合する。このとき、トリアゾール類と、シュウ酸亜鉛二水和物とのモル比は、トリアゾール類/シュウ酸亜鉛二水和物として、通常2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、また、一方で、通常8以下、好ましくは6以下、より好ましくは5以下である。トリアゾール類/シュウ酸亜鉛二水和物のモル比が上述の範囲内にあると、得られるMOFの結晶性が高くなり、未反応物が少なくなるため好ましい。
【0037】
トリアゾール類としては1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、および、1,2,3-トリアゾールあるいは1,2,4-トリアゾールの炭素に結合した水素原子が置換された化合物があげられる。置換基としては、アミノ基、ニトロ基、メチル基、メルカプト基があげられ、置換基は1つであっても2つであってもよい。1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾールがより好ましく、1,2,4-トリアゾールが特に好ましい。
【0038】
用いるトリアゾール類の二次粒径は、通常10mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下、さらに好ましくは1mm以下であり、また、一方で、通常1μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上である。
用いるシュウ酸亜鉛二水和物の二次粒径は、通常10mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下、さらに好ましくは1mm以下であり、また、一方で、通常1μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上である。
原料サイズが上述の範囲内にあると、効率的に粉砕が行われやすく、不純物の少ないMOFを短時間で得ることができる。
【0039】
メカノケミカル法は、無溶媒で行ってもよいし、少量の水または溶媒(以下、「液体類」と言う場合がある。)の存在下で行ってもよい。液体類としては、有機溶媒が好ましく、アルコール類、エーテル類、ケトン類、カルボン類がより好ましく、アルコール類がさらに好ましい。アルコール類としては1-プロパノール、2-プロパノール、エタノール、メタノールなどが好ましく、エタノール、メタノールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。
少量の液体類を用いる場合は、液体類の、シュウ酸亜鉛二水和物に対する割合は、液体類/シュウ酸亜鉛のモル比で、通常1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上であり、また、一方で、通常100以下、好ましくは50以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは7以下、特に好ましくは5以下である。
【0040】
本発明のMOFの製造方法は、亜鉛の塩を含む金属塩、置換基を有していてもよいトリアゾール、及びシュウ酸をメカノケミカル反応させる方法をも包含する。この方法では、置換基を有していてもよいトリアゾール、及びシュウ酸が配位子となり、これに金属源である亜鉛の塩が反応して、MOFが製造されるものと考えられる。
また、この方法では、高価な金属シュウ酸塩を用いる必要がないため、より安価に金属有機フレームワークを製造することができる。なお、該メカノケミカル反応過程において、上記材料は一度に混合してもいいし、材料を分けて混合してもよい。材料を分けて混合する場合は、置換基を有していてもよいトリアゾールのみ、後から添加してもよく、シュウ酸を後から添加してもよいが、置換基を有していてもよいトリアゾールのみ後から入れる方が好ましい。一段階で簡便にメカノケミカル反応をさせるとの観点からは、一度に全ての材料を混合させることが好ましい。また、一度にすべての材料を混合させることで不純物が生成しにくくなる。
上記亜鉛の塩としては特に限定されず、例えば、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、水酸化炭酸亜鉛、亜鉛のアンモニウム塩、硝酸亜鉛等が挙げられる。これらの化合物は、金属有機フレームワークの製造過程、若しくは製造後に不純物が残存しにくく、好ましい。これらの金属塩のうち、効率的に金属有機フレームワークを製造することができる観点から、水酸化炭酸亜鉛が好ましい。
また、金属有機フレームワークの製造に際し、金属水酸化物を含有させることが好ましい。金属水酸化物としては、1価金属の水酸化物、2価金属の水酸化物、3価金属の水酸化物のいずれでもよい。入手容易である観点から、1価金属の水酸化物が好ましく、その中でも、アルカリ金属の水酸化物がより好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好適に例示される。
【0041】
<組成物>
本発明によれば、置換基を有していてもよいトリアゾレート及びオキサレートが配位結合した亜鉛イオンを含むMOFと、樹脂とを含む組成物が提供される。
本発明の組成物は、少なくとも、置換基を有していてもよいトリアゾレート及びオキサレートが配位結合した亜鉛イオンを含むMOFと、樹脂とを含む。組成物の形態としては、少なくともMOFと樹脂を含む混合物の流体であっても固体であってもよく、固体の場合は、膜状に成形されていてもよい。
【0042】
(MOF)
本発明の組成物に含まれるMOFは、前述の通りであり、置換基を有していてもよいトリアゾレート及びオキサレートが配位結合した亜鉛イオンを含む。
置換基を有していてもよいトリアゾレートとしては、1,2,3-トリアゾレート化合物、1,2,4-トリアゾレート化合物を挙げることができ、中でも1,2,4-トリアゾレート化合物が好ましい。
本発明の組成物に含まれるMOFを構成する、置換基を有していてもよいトリアゾレートは、亜鉛イオンに配位した状態で、下記一般式(1)の構造を有することが好ましい。
【0043】
【化4】
【0044】
本発明のMOFを構成する、置換基を有していてもよい亜鉛イオンに配位したトリアゾレートとしては、式(2)で表される1,2,3-トリアゾレート化合物、式(3)で表される1,2,4-トリアゾレート化合物等を挙げることができ、中でも1,2,4-トリアゾレート化合物が好ましい。
【0045】
【化5】
【0046】
式中、R及びRはそれぞれ独立に、アミノ基、ニトロ基、メチル基、メルカプト基、水素原子である。R及びRの少なくともいずれかが水素原子であることが好ましく、例えば、RとRが水素原子であってもよい。
【0047】
本発明の組成物に含まれるMOFは、通常、孔を有する。本発明の組成物に含まれるMOFが孔を有する場合の孔のサイズは特に限定されないが、通常0.3~2nmの範囲である。孔サイズが当該範囲にあると、優れた二酸化炭素吸着能を発揮することができる。
本発明の組成物に含まれるMOFの孔サイズは、好ましくは0.4~1.9nm、より好ましくは0.5~1.8nm、さらに好ましくは0.6~1.7nm、よりさらに好ましくは0.7~1nmの範囲である。より具体的な実施形態においては、本発明のMOFは約0.3nm、約0.4nm、約0.5nm、約0.6nm、約0.7nm、約0.8nm、約0.9nm、約1.0nm、約1.1nm、約1.2nm、約1.3nm、約1.4nm、約1.5nm、約1.6nm、約1.7nm、約1.8nm、約1.9nm及び約2.0nmの群から選択される少なくとも1つの孔サイズを有し得る。
【0048】
本発明の組成物に含まれるMOFは、上述した通り、高い二酸化炭素吸着能を有する。
具体的には、本発明の組成物に含まれるMOFの二酸化炭素吸着量は、真空状態で200℃で4時間以上加熱することにより前処理した後に、二酸化炭素を使用した定容量ガス吸着法により、温度298Kにおける吸着等温線を測定し、絶対圧P=102kPaにおける二酸化炭素吸着量の値である。
絶対圧102kPaにおける、本発明の組成物に含まれるMOFの二酸化炭素吸着量は、通常1.0mmol/g以上、好ましくは2.0mmol/g以上、より好ましくは3.0mmol/g以上、さらに好ましくは3.5mmol/g以上であり、また、一方で、通常100mmol/g以下、好ましくは50mmol/g以下、より好ましくは10mmol/g以下である。二酸化炭素吸着量が上記範囲にあると、二酸化炭素を多量に効率的に吸脱着することができる。
【0049】
本発明の組成物に含まれるMOFは、メカノケミカル法により製造されたものを好ましくは用いることができる。メカノケミカル法及びその具体的な工程については、前述した通りである。
本発明の組成物に含まれるMOFの一次粒子径は、通常10nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、また、一方で、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下、殊更に好ましくは500nm以下、特に好ましくは300nm以下、最も好ましくは200nm以下である。一次粒子径が上述の範囲内にあると、MOFの表面積が大きくなり、MOF表面から、主な吸着サイトである内部細孔へのアクセスが良好となるため、吸着速度が速くなり、吸着量も増加する。
なお、MOFの「一次粒子径」については、前述したとおりである。
【0050】
本発明の組成物に含まれるMOFの二次粒子の形状は特に制限されるものではないが、円形度係数は通常平均円形度係数として好ましくは0.80以上、より好ましくは0.90以上、通常1.0以下となる形状である。平均円形度係数がこの範囲であるとき、粒子の流動性が高いため、吸着材として用いるペレット等の成型体中のMOFの充填率や本発明のMOFの樹脂組成物において、MOFの充填率を向上させることが可能となり、単位体積当たりの吸着量が大きな成型吸着材が得られるほか、組成物としてもガス透過、分離の性能が高くなる傾向がある。
ここでいう「円形度係数」については前述したとおりである。
【0051】
本発明の組成物に含まれるMOFの表面組成は、特に限定されないが、本発明の組成物に含まれるMOFとしては、前述の本発明のMOF、すなわち、X線光電子分光法により求めた、表面O/Zn比が特定の範囲であるMOFをより好ましく用いることができ、表面O/Zn比及び表面N/Zn比が特定の範囲であるMOFをさらに好ましく用いることができる。表面N/Zn比が特定の範囲であるMOFを用いてもよい。
【0052】
(樹脂)
本発明の組成物に含まれる樹脂としては、特に限定されないが、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリビニルピロリドン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキシエチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、テトラフルオロエチレンアモルファスポリマー、マクロポーラスポリマー(PIM)、ポリエーテルブロックアミド、ポリジメチルシロキサン(以下、PDMSということがある)などのポリオルガノシロキサンからなるシリコーンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、天然ゴム、アクリルゴム、エチレン・酸化ビニルゴムなどのゴム類及びポリ(4-メチル-1-ペンチン)などのポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種類が好ましい。
【0053】
本発明の組成物に含まれる樹脂は、MOFの金属イオンに配位結合していてもよい。樹脂が配位している場合、樹脂はアミノ基、イミダゾリウム基、カルボキシ基(-COOH)、フェノール性ヒドロキシ基(-PhOH)、チオール基(-SH)、スルホ基(-SOH)、ホスホン酸基(-PO)及びリン酸基(-OPO)からなる群から選択される少なくとも1種類の官能基を有していることが好ましい。これらのうち、MOFの金属イオンと配位結合しやすいことから、カルボキシ基及びイミダゾール基が好ましい。
【0054】
本発明の組成物に含まれる樹脂は、MOFと化学結合していてもよい。樹脂が化学結合している場合、樹脂は、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、シアノ基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、チオール基、カルボニル基、カルボン酸無水物及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種類の官能基を有していることが好ましい。
【0055】
本発明の組成物に含まれる樹脂の重量平均分子量(Mw)は、本発明の組成物を基材に塗布する場合における基材への浸み込みが起こり難く、欠陥が発生し難い点では高いことが好ましく、また、一方で、溶媒により希釈しやすく、製膜性に優れる点では低いことが好ましい。そこで、重量平均分子量は、好ましくは1,000~500,000、より好ましくは1,500~100,000、さらに好ましくは3,000~50,000である。
【0056】
二酸化炭素の分離吸着を効率的に行う観点から、組成物中におけるMOFの含有量は多いことが好ましい。そこで、本発明の組成物に含まれる樹脂の、硬化又は固化した状態でのガラス転移温度(Tg)は、高濃度でMOFを含有させやすく、成膜性と柔軟性に優れる点では低いことが好ましい。
【0057】
すなわち、樹脂のガラス転移温度が低いと、本発明の組成物からなる膜をガス分離に使用する際、MOFの含有量を多くしても、マトリックスである樹脂が柔軟性を有するため、MOFと樹脂との間に隙間が生じることなく、高い透過・分離性能を示す膜を得ることができる。また、樹脂のガラス転移温度が低いと、高圧条件下や長期間の使用により、マトリックス樹脂とMOFとの界面に歪が生じても樹脂の柔軟性により吸収することができ、隙間が生じにくい。さらに、樹脂が柔軟性を有することにより、膜をスパイラル等の形状に加工してモジュール化しても、マトリックス樹脂とMOFとの間に隙間が生じず、良好な膜性能が得られる。
そこで、樹脂のガラス転移温度は、好ましくは15℃以下、より好ましくは0℃以下、さらに好ましくは-20℃以下、特に好ましくは-50℃以下、殊更に好ましくは-70℃以下、最も好ましくは-100℃以下である。樹脂のガラス転移温度の下限は特に制限されるものではないが、-250℃が好ましく、-200℃がより好ましい。
【0058】
本発明の組成物に含まれる樹脂の35℃におけるCOのガス透過係数は、本発明の組成物を膜とした場合におけるガス透過係数が高くなりやすい点から高いことが好ましい。具体的には、樹脂のガス透過係数は、200Barrer以上であることが好ましく、より好ましくは500Barrer以上、さらに好ましくは1000Barrer以上、特に好ましくは1500Barrer以上、最も好ましくは2000Barrer以上である。
ここで、35℃におけるCOの透過係数は、樹脂のみで作製した膜(以下、「樹脂膜」と言う場合がある。)のCOの透過係数を0.1MPaの差圧で測定した値とする。なお、樹脂の透過係数、分離係数及び透過度は、樹脂膜を作製し、後述する本発明の膜の透過係数、分離係数及び透過度の測定方法と同じ方法により、35℃で0.1MPaの差圧で測定した値とする。
【0059】
好ましいガラス転移温度とCOのガス透過係数を有する樹脂としては、ポリエーテルブロックアミド、PDMSなどのポリオルガノシロキサンからなるシリコーンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、天然ゴム、アクリルゴム、エチレン・酸化ビニルゴムなどのゴム類、ポリ(4-メチル-1-ペンチン)などのポリオレフィンが好ましく、ポリエーテルブロックアミド、PDMSなどのポリオルガノシロキサンからなるシリコーンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、天然ゴム、アクリルゴム、エチレン・酸化ビニルゴムなどのゴム類がより好ましく、PDMSなどのポリオルガノシロキサンからなるシリコーンゴムが特に好ましい。これらの樹脂を含む組成物を用いて膜を作製することにより、ガス透過性能と分離性能に優れたガス分離膜を得ることができる。
【0060】
上述の好ましいシリコーンゴムは、特に限定されるものではないが、下記式(4)であらわされるシロキサン骨格を有するポリオルガノシロキサン、または市販のシリコーンゴム前駆体を架橋反応して硬化させたものが好ましい。市販のシリコーンゴム前駆体としては、SILPOTTM 184 Silicone Elastomer Base(ダウ・東レ株式会社製)などが挙げられる。
【0061】
【化6】
【0062】
式(4)中、nは2以上の整数であり、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;ポリエーテル基;ビニル基やアリル基などのアルケニル基;フェニル基、フルオレニル基などのアリール基;フルオロアルキル基などのヘテロアルキル基;又はオキシラニル基、オキセタニル基などのヘテロ元素を含む飽和及び不飽和脂環式基であり、アルコシ基、ケトキシム基、アセトキシ基、アミノキシ基などの縮合反応する置換基や、アミノ基、カルボキシ基、カルビノール基、エポキシ基などの置換基を有していてもよい。
なお、式(4)のポリオルガノシロキサンの置換の形態としては、側鎖のR11、R12が置換されていてもよく、両末端が置換されていてもよく、両末端及び側鎖が置換されていてもよい。R11とR12は互いに同一でも、異なっていてもよく、ポリオルガノシロキサンの一部のR11、R12のみ置換されていてもよい。
【0063】
式(4)のポリオルガノシロキサンを架橋反応によって重合あるいは縮合し、シリコーンゴムとする点で、式(4)のポリオルガノシロキサンは、ビニル基を始めとするアルケニル基、ケイ素-水素結合、オキセタニル基、アルコシ基、ケトキシム基、アセトキシ基、アミノキシ基などの縮合反応する置換基などの架橋性基を有することが好ましく、付加反応を利用できるという点でアルケニル基を有することが特に好ましい。
【0064】
上述のポリオルガノシロキサンを架橋して硬化させ、シリコーンゴムとする際の架橋反応の機構は特に限定されず、従来公知の有機過酸化物による硬化反応や縮合反応、付加反応、紫外線、放射線、電子線照射による硬化反応を利用できる。生産性の観点から、MOFと混合しやすく、MOFと混合後に大気中で安定して保存しやすいことから、付加反応や紫外線、放射線、電子線照射によって硬化するタイプが好ましく、硬化時の雰囲気制御が不要で簡便であるという点で付加反応により硬化するタイプが特に好ましい。
【0065】
ポリオルガノシロキサンを用いる場合における重量平均分子量(Mw)は、通常5,000以上、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、さらに好ましくは25,000以上であり、また、一方で、通常100,000以下である。本発明の組成物に含まれるポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が上述の範囲内であることにより、MOFとの混合が容易となり、本発明の組成物中におけるMOFの含有量を多くすることができ、製膜性にも優れる。
本発明で好適に使用し得る、ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、ダウ・東レ株式会社製のSILPOTTM184、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製のELASTOSIL RT601、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のTSE382-C等が挙げられる。
【0066】
(組成)
本発明の組成物は、MOFを5~95質量%含有することが好ましい。本発明の組成物中におけるMOFの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、特に好ましくは30質量%以上、殊更に好ましくは40質量%以上、最も好ましくは50質量%以上であり、また、一方で、通常100質量%未満、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下、特に好ましくは80質量%以下である。本発明の組成物中におけるMOFの含有量が上述の範囲内にあると、本発明の組成物が柔軟性や加工性に優れ、種々の用途に好適となる。本発明では、上述のようにメカノケミカル法により、MOFを製造することが好ましく、この方法を用いるとMOFの粒径を小さくすることができる。したがって、樹脂中にMOFを高分散させることができる。
【0067】
本発明の組成物は、MOFを含有することにより、粘度が高くなる。そこで、製膜しやすいように、有機変性シリコーン樹脂や有機変性シリコーンオイルを含有させることにより、粘度を調整してもよい。有機変性シリコーン樹脂や有機変性シリコーンオイルについては、特開2017-66364号公報に記載されている、有機変性シリコーン樹脂や有機変性シリコーンオイルを用いることができる。
【0068】
有機変性シリコーン樹脂や有機変性シリコーンオイルが有する有機基としては、エポキシ基、アルコール基、カルボキシ基、アクリル基、メタクリル基、チオール基、アミノ基、エーテル基、アラルキル基、アルキル基等が挙げられる。中でも、エポキシ基、アルコール基及びカルボキシ基が好ましく、エポキシ基が特に好ましい。
【0069】
有機変性シリコーン樹脂及び有機変性シリコーンオイルは、適度な極性の有機基を有することから、MOFに吸着しやすい。そこで、これらの成分を含有することにより、MOF含有による高粘度化が緩和される。具体的には、有機基変性シリコーン樹脂及び有機変性シリコーンオイルの-Si-O-Si-結合部分であるシリコーン部分がMOFの低極性部位に、又は有機基部分がMOFの極性部位に接触することにより、組成物内の相分離構造を解消する界面活性剤として機能することにより、組成物中におけるMOFの分散性が向上し、製膜性を損なうことなく、MOFを高濃度で含有することができる。
【0070】
本発明の組成物中における有機変性シリコーン樹脂と有機変性シリコーンオイルの含有量(両成分を含む場合はその合計量)は、通常1質量%以上、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、また、一方で、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。有機基変性シリコーン樹脂や有機変性シリコーンオイルの含有量が上述の範囲内であると、本発明の組成物の粘度を下げることができ、また、MOFの分散性が向上し、長期安定性に優れる膜を得ることができる。
【0071】
<膜>
本発明においては、上述した本発明の組成物からなる膜を提供する。膜は、本発明の組成物に加え、後述する基材、下地層、保護層を含んでいてもよい。
本発明の組成物からなる膜は、分離膜として、特に、ガス分離、とりわけ二酸化炭素ガス分離に好適に用いることができる。
【0072】
本発明の膜におけるMOFの含有量は、通常5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上、殊更に好ましくは30質量%以上、最も好ましくは40質量%以上であり、また、一方で、通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。MOFの含有量が上述の範囲内にあると、柔軟性や加工性に優れた膜となりやすい。
【0073】
(基材)
本発明の膜は、本発明の膜のみで用いてもよいが、基材の上に本発明の膜を積層(以下、この積層体も含めて「本発明の膜」又は単に「膜」と言う場合がある。)してもよい。基材上に本発明の組成物からなる膜を積層することにより、本発明の組成物からなる膜のみでる場合に比べ、膜の耐久性や強度が増し、本発明の組成物からなる膜を薄くできる点で好ましい。
【0074】
基材としては、本発明の膜の透過性能に優れる観点から、多孔質基材が好ましい。多孔質基材の形状は特に制限されないが、多孔質膜、多孔質中空糸膜、不織布などが挙げられ、多孔質中空糸膜が単位体積当たりの膜面積を大きくできるため好ましい。
多孔質基材の細孔径は、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.5μm以下であり、また、一方で、通常0.01μm以上、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上である。基材の細孔径が上述の範囲内であると、膜をガスが透過しやすく、強度に優れる。
基材の多孔質基材の構造は、均一でも、表面緻密層の下に荒い層を有する非対称構造でもよい。但し、ガス透過時の抵抗を軽減しやすいことから、非対称構造であることが好ましい。
【0075】
多孔質基材の厚みは、膜強度の点では厚いことが好ましいが、また、一方でガスの透過性の点では薄いことが好ましい。そこで、多孔質基材の厚みは、通常10μm以上、好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは70μm以上、特に好ましくは100μm以上であり、また、一方で、通常2mm以下、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは200μm以下、特に好ましくは150μm以下である。
【0076】
多孔質基材の材質は特に限定されないが、通常、ポリマーであり、好ましくはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリサルフォン(PSU)、酢酸セルロース(CA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリアクリロニトリル(PAN)、及びポリアミドからなる群から選択される少なくとも1種類であり、より好ましくはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルサルフォン(PES)、酢酸セルロース(CA)及びポリアクリロニトリル(PAN)からなる群から選択される少なくとも1種類であり、特に好ましくはポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。多孔質基材がこれらの材質であると、柔軟性や強度に優れ、本発明の組成物からなる膜を積層する際の積層方法や条件の制限が少ない。そのため、強度、柔軟性、加工性に優れた膜とすることができる。
【0077】
(下地層)
基材は多層構造であっても構わない。基材が多層構造である場合、本発明の組成物からなる膜と上述の好ましい材質の基材との間に、さらに下地層(=Gutter layer)を有していてもよい。
下地層の材質は特に限定されないが、シリコーン樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリサルフォン(PSU)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン](PTMSP)などが挙げられる。これらのうち、溶媒耐性が高く、下地層上に製膜する際の製膜方法の制限が少なくため、好ましくはシリコーン樹脂、ポリエチレンオキシド(PEO)、特に好ましくはシリコーン樹脂が用いられる。
下地層の厚みは、分離膜としての透過抵抗を少なくする点で、薄いことが好ましい。具体的には、通常1nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、一方で、通常3μm以下、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下である。
【0078】
(保護層)
本発明の膜は、保護層を有していてもよい。
保護層の材質は特に限定されないが、シリコーン樹脂、ポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン](PTMSP)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリサルフォン(PSU)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。これらのうち、シリコーン樹脂、ポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン](PTMSP)、ポリエチレンオキシド(PEO)が好ましく、ガス透過性が高く、本発明の組成物からなる膜への影響が少ない点から、シリコーン樹脂が特に好ましい。
保護層を設ける場合、膜のガス透過性の点では薄いことが好ましいが、また、一方で、膜強度や膜の耐傷擦性の点では厚いことが好ましい。そこで、保護層を設ける場合における厚みは、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは100nm以上であり、また、一方で、通常100μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0079】
(膜の厚み)
本発明の膜の厚みは、ガス透過性や柔軟性に優れる点では薄いことが好ましく、また、一方で、耐水性、水熱安定性、屈曲性及び加工性に優れ、亀裂やピンホールが生じ難く、モジュール化しやすい点では厚いことが好ましい。
そこで、本発明の組成物からなる膜のみで用いる場合は、通常1μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上がよく、また、一方で、通常1,000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは250μm以下、特に好ましくは200μm以下がよい。
【0080】
また、本発明の組成物からなる膜以外の層を有する場合の膜の厚みは、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2μm以上がよく、また、一方で、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下がよい。
また、本発明の組成物からなる膜が多孔質基材や多孔質の保護膜の上に形成される場合、これらの基材や保護層も合わせた厚みは、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2μm以上がよく、また、一方で、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下がよい。
【0081】
(曲げ戻し試験)
本発明の膜は、屈曲性に優れる。具体的には、本発明の膜は、曲げ戻し試験(屈曲半径(曲率半径)5mmの曲面に沿って180°、1回折り曲げて伸ばす試験)後のガス透過係数、ガス透過度及び分離係数が、折り曲げ試験前と比較して、10%以内であることが好ましい。ここで、上述の曲げ戻し試験を行う際の屈曲半径(曲率半径)は、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下、さらに好ましくは2mm以下であり、また、一方で、通常0.1mm以上、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上である。
本発明の膜が、屈曲性に優れることにより、本発明の膜を曲げて使用することが可能となり、加工性に優れ、亀裂やピンホールが生じさせずに、スパイラル型モジュールやプリーツ型モジュールに加工しやすくなる。また、中空糸状に製膜する際も、膜に亀裂やピンホールが生じることがなく製膜しやすくなる。
【0082】
(膜の製造方法)
本発明の膜は、公知の樹脂膜の製膜方法により製造することができる。例えば、MOFを溶媒に溶解させた樹脂と混合する、又は樹脂と混合して製膜すればよい。硬化工程が必要な樹脂の場合は、硬化前の樹脂と混合して製膜した後に硬化すればよい。
具体的には、MOFを乾燥させた後に、溶媒に溶解させた樹脂等又は無溶媒の樹脂原料等と混合し、分散させた後、硬化剤が必要な樹脂を用いる場合には、更に硬化剤を添加して、混合することによりMOFを分散させる。
【0083】
MOFを樹脂中に分散させる方法としては、通常の撹拌、混錬に加え、超音波による解砕、分散、自転・公転ミキサーなどを使用する方法などが挙げられる。MOF、樹脂又は樹脂原料、更に硬化剤等の任意成分と溶媒とを混合したスラリーを、テフロン(登録商標)等のシャーレに入れた後又は離型フィルム上に塗布した後に、乾燥機に入れて溶媒を除去してから所定の温度と時間で硬化させる、或いはイナートオーブンを用いて窒素気流下で溶媒を揮発させながら樹脂を硬化させることにより、本発明の膜を得ることができる。ここで、乾燥機の温度や真空度は、使用する溶媒に応じて適宜設定する。硬化温度や硬化時間も用いる樹脂に適した条件で行えばよい。
【0084】
基材として多孔質の平膜を用いる場合は、基材上にブレードを用いて、本発明の組成物からなる膜を一定の厚みで製膜することにより、本発明の膜を製造することができる。ここで、多孔質基材上に予め本発明の組成物を作製した後に、その上に保護層を製膜してもよい。また、下地層を有する基材上に製膜してもよい。保護層や下地層の製膜方法は、本発明の膜の製造方法に準じて行えばよい。あるいは、基材上に上述の混合スラリーを含浸や吸引、加圧等の方法により担持させて製膜することもできる。その後、乾燥機を用いて溶媒を除去した後に硬化させるか、イナートオーブンを用いて窒素気流下で溶媒を揮発させながら、樹脂を硬化させることにより、本発明の膜を得ることができる。
【0085】
基材として多孔質の中空糸を用いる場合は、基材上に本発明の組成物を含浸や吸引、加圧等の方法により担持させて製膜すればよい。
【0086】
樹脂として、ポリオルガノシロキサンを硬化させたシリコーンゴムを用いる場合、MOFは、通常、硬化前のポリオルガノシロキサンと混合させる。
硬化型のポリオルガノシロキサンを硬化する手段は特に限定されず、従来公知の方法を採用できる。生産性の観点から、MOFの混合や、MOF混合後の保管を大気中で安定して行えるタイプの硬化法により硬化するものが好ましい。その点で、付加反応や紫外線、放射線、電子線照射によって硬化するタイプが好ましく、硬化時の雰囲気制御が不要で簡便であるという点で付加反応を利用することが特に好ましい。
【0087】
樹脂とMOFとを混合する前に、MOFは乾燥させておくことが好ましい。MOFを加熱乾燥させる場合における温度は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上であり、また、一方で、通常200℃以下、好ましくは170℃以下である。乾燥時間は、通常3時間以上、好ましくは5時間以上、より好ましくは8時間以上、さらに好ましくは12時間以上であり、また、一方で、通常48時間以下、好ましくは30時間以下、より好ましくは20時間以下である。乾燥温度と時間がこれらの範囲内であると、MOF中の水分を、短時間で十分に除去しやすい。
【0088】
製膜に用いる溶媒は、樹脂あるいは樹脂原料が可溶な溶媒であれば特に制限されない。例えば、トルエン、ヘキサン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、N-メチルピロリドンなどを用いることができる。溶媒は、MOFの分散性がよい溶媒が好ましい。樹脂又は樹脂の原料は多くが疎水的である一方で、MOF表面は親水的であるので、酢酸エチルやメチルエチルケトンなどの中程度の極性を有する溶媒が好ましい。
【0089】
溶媒量は、MOFの量や樹脂の種類によって異なるが、製膜方法に応じて、製膜しやすい粘度になるよう、溶媒量を調整することが好ましい。
【0090】
製膜においては、加圧しながら、樹脂を硬化させることが好適に行われる。圧力をかけながら樹脂を硬化させることにより、MOFの量が多くても、空隙の無い膜を作製しやすい。
【0091】
加圧方法は特に限定されないが、熱プレス機や真空熱プレス機を用いて膜に圧力をかけながら、加温して硬化させることが好ましい。
圧力の大きさは、通常1MPa以上、好ましくは2MPa以上、より好ましくは3MPa以上、さらに好ましくは4MPa以上、特に好ましくは5MPa以上であり、また、一方で、通常30MPa以下、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下、さらに好ましくは8MPa以下である。圧力が上述の範囲内であると、膜中のMOFの細孔を破壊することなく、MOF同士やMOFと樹脂との間に空隙が無く、MOF量の多い膜を得ることができる。
加熱温度や加熱時間は、用いる樹脂の硬化条件に応じて適宜定めればよいが、圧力をかけながら加熱する時間は、通常1分間以上、好ましくは5分間以上、より好ましくは10分間以上であり、また、一方で、通常2時間以下、好ましくは1時間以下である。この範囲内で加熱することにより、空隙の無い膜を効率的に作製しやすい。
【0092】
<ガス分離・濃縮方法>
本発明の膜は、ガス混合物を分離・濃縮することができ、ガス分離膜として用いることができる。本発明の分離膜によれば、混合ガスから、透過性の高いガスを分離することができる。本発明の分離膜により分離される混合ガスは、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、六フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素、および水蒸気などから選ばれる少なくとも1種類の成分を含むものが挙げられ、これらのうち、混合ガスから、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種類の気体を分離するのに好適である。上述の混合ガス成分のうち、パーミエンス(以下、「ガス透過度」と言う場合もある。)の高いガス成分は、本発明の膜を透過させることにより、分離・濃縮され、ガス透過度の低いガス成分は供給ガス側に濃縮される。
【0093】
混合ガスとしては、上述の成分の少なくとも2種類の成分を含むガスがより好ましい。この場合、2種類の成分としては、ガス透過度の高い成分とガス透過度の低い成分の組合せが好ましい。
【0094】
ガス分離用途としてはCOの分離・濃縮、Hの分離・濃縮、酸素の分離・濃縮、窒素の分離・濃縮等の用途に用いることが好ましく、COの分離・濃縮、Hの分離・濃縮に用いることが特に好ましい。
【0095】
COの分離・濃縮としては、天然ガスからの二酸化炭素の除去(CO、CH混合物)、ランドフィルガス(CO、CH混合物)からのCO回収、人工発酵ガス(CO、CH混合物)からのCO回収、火力発電所等の燃焼排ガス(CO、N混合物)からのCO回収などが挙げられる。
【0096】
水素の分離・濃縮としては、石油精製工業における水素回収、化学工業の各種反応プロセスにおける水素回収および精製(H、CO、CO、炭化水素類混合物)、燃料電池用の高純度水素の製造等が挙げられる。燃料電池用の水素製造は、メタンの水蒸気改質反応により得られ、水素、一酸化炭素、メタン、水の混合ガスから水素の分離が必要とされている。
【0097】
その他、酸素の分離・濃縮として空気からの酸素富化ガスの製造(医療用、燃焼用酸素富化空気等)が挙げられるほか、窒素分離・濃縮による空気からの窒素富化ガスの製造(防爆用、酸化防止等)にも好適に用いられる。
ガスの分離方法は公知の方法を用いることができる。例えば、膜のガス供給側とガス透過側に圧力差として分圧差をつけて供給側の混合ガスから透過しやすいガスを透過側に透過させればよい。この時、ガス供給側の混合ガスを加圧してもよいし、透過側を、真空ポンプなどを用いて減圧してもよく、また、その両方を用いてもよい。
【0098】
ガス供給側と透過側の圧力差を適用するガス分離方法においては、適宜最適な圧力差で行うことが好ましいが、通常0.01MPa以上、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.08MPa以上、さらに好ましくは0.1MPa以上であり、また、一方で、通常20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下、さらに好ましくは1MPa以下、特に好ましくは0.5MPa以下、最も好ましくは0.2MPa以下である。
【0099】
ガス分離方法におけるガス供給側の圧力は特に制限はないが、適宜最適な供給圧を用いることが好ましい。通常0.05MPaG以上、好ましくは0.1MPaG以上であり、通常20MPaG以下、好ましくは10MPaG以下、より好ましくは5MPaG以下、さらに好ましくは0.9MPaG以下、特に好ましくは0.5MPaG以下、最も好ましくは0.2MPaG以下である。差圧を大きく取れることが望ましいが、高圧では高圧に耐えうる設備にしたり、関係法令を満たしたりするためのコストが高くなる。
【0100】
本発明の分離膜を用いるガス分離・濃縮方法においては、スイープガスを用いてもよい。スイープガスを用いた方法とは、透過側に何らかのガスを流し、膜を透過したガスを回収する方法である。
スイープガスの圧力は、通常大気圧であるが特に制限はなく、通常10MPaG以下、好ましくは5MPaG以下、より好ましくは1MPaG以下、さらに好ましくは0.5MPaG以下、特に好ましくは0.1MPaG以下、最も好ましくは0.05MPaG以下であり、下限は通常0.0MPaGである。
【0101】
<吸着材>
本発明によれば、本発明のMOFを含有する二酸化炭素吸着材(以下、「本発明のCO吸着材」又は単に「CO吸着材」と言う場合がある。)を提供することができる。すなわち、本発明のMOFは、CO吸着材として好適に用いることができる。本発明のCO吸着材は、本発明のMOFを含むため、二酸化炭素を十分に吸着できると共に、窒素吸着に対する二酸化炭素吸着の選択性が高い。そのため、例えば、発電所や工場、自動車からの排ガス中の二酸化炭素の選択的除去等の目的に好ましく用いることができる。
【0102】
本発明のCO吸着材は、使用前に活性化処理を行ってもよい。吸着材を活性化する方法は、当該技術分野で公知の方法を採用すればよい。
具体的な実施形態においては、減圧下で加熱することによって、吸着材に含まれるMOFを活性化する。活性化により、吸着物質の除去を行うことができる。さらに具体的には、減圧、例えば、10-3mbarまたはそれ未満、好ましくは10-6mbarで、約100~約150℃の温度に加熱することによって、吸着材に含まれる、本発明のMOFを活性化することができる。
別の実施形態では、2ステップ加熱過程において、減圧下(好ましくは10-6mbar)で60℃に2時間加熱する第1ステップと、続く、100℃に12時間加熱する第2ステップにより、吸着材に含まれるMOFを活性化することができる。活性化は、制御された速度(例えば、1℃/分)で加熱することによって行ってもよい。例えば、MOFは、60℃に1℃/分で2時間加熱し、続いて1℃/分の昇温速度で100℃に12時間加熱することによって活性化することができる。別の実施形態において、吸着材に含まれるMOFを、減圧下で加熱する前に、アセトンなどの有機溶媒で処理または洗浄してもよい。
【0103】
本発明のCO吸着材は、本発明のMOFを含有する限り、その構成としては特に限定されない。本発明の吸着材の使用形態としては特に制限はなく、吸着材を、例えば、粉末状の吸着材をそのまま使用してもよく、或いは、各種基材(例えば、アルミニウム製ハニカム等)に担持させて使用しても、必要に応じて各種形状に成形して使用してもよい。
【0104】
本発明の吸着材は、MOFの他に、バインダを含んでいてもよい。バインダとしては、無機バインダも有機バインダも用いることができる。
無機バインダとしては、シリカバインダ等を挙げることができる。
有機バインダとしては、ポリスルホン、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、及びポリビニルピロリドン等を用いることができる。
【0105】
本発明の吸着材は、例えば、処理容器内の入り口側と出口側やその間に配されたフィルターに配してもよい。フィルターとしては、例えば、石英製フィルターなどを使用することができる。本発明の吸着材を発電所や工場、自動車からの排ガスから、二酸化炭素を除去するために使用する場合、上方のラインから排ガス等を導入し、フィルターで不純物を除去した後、さらに本発明のMOFにより、選択的に二酸化炭素を吸着除去し、下方のラインから窒素リッチガスを取り出すことができる。
【0106】
(分離方法)
本発明のCO吸着材を用いたガスの分離方法は、本発明の吸着材を用いて、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種類を含む混合ガスから、ヘリウム、水素、二酸化炭素、窒素及びメタンからなる群より選択される1種類以上のガスを分離することができる。本実施形態においては、窒素、二酸化炭素及び炭化水素からなる群より選択される1種類以上の気体から、二酸化炭素及び/又は窒素を分離することが好ましい。なお、炭化水素としては、特に限定されないが、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、2-メチルプロペン、ジメチルエーテル、アセチレン等が挙げられる。
【0107】
本発明のCO吸着材の用途としては特に制限はなく、例えば、発電所や工場からの排ガス(排ガス中のCOの割合は一般に5~16容量%程度であり、排ガス温度は、一般的に50~75℃程度であり、圧力は100kPa程度である。)や、自動車からの排ガス(排ガス中のCOの割合は一般的に10容量%程度であり、排ガス温度は一般的に70~90℃程度であり、圧力は100kPa程度である。)中のCOを吸着して、分離回収するためのCO吸着材としての用途等が挙げられる。
【実施例0108】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
本発明におけるサンプルの作成方法、測定・評価方法は、以下に示すとおりである。
【0109】
(1)XPSの測定方法
MOFのXPS(X線光電子分光法)測定は、以下の条件で行った。
装置:日本電子株式会社製 JPS-9010MX
X線源:単色化Mg-Kα
測定出力 100W(電圧10kV、電流10mV)
取り込み領域:C1s、O1s、N1s、Zn2p2/3
Pass-Energy:10eV
測定領域:スポット照射(照射面積<600μmφ)
取り出し角:45°(表面より)
この条件にて、4回測定し、得られたO/Znモル比の平均値を、生成したMOF表面のO/Znモル比とした。また、同様にして得られたN/Znモル比の平均値を、生成したMOF表面のN/Znモル比とした。
【0110】
(2)粉末X線回折(XRD)測定方法
MOFのXRD測定は、以下の条件で行った。
装置:RIGAKU社製 MiniFlex600
X線源:Cu-Kα線
出力設定:40kV・15mA
発散スリット:1.25°
入射側ソラースリット:2.5°
受光側ソラースリット:2.5°
X線取り出し角:6°
Niフィルター:厚さ0.015mm
回折ピークの位置:2θ(回折角)
測定範囲:2θ=3~40°
スキャン速度:5°(2θ/min)
【0111】
(3)二酸化炭素吸着量の測定
二酸化炭素吸着量の測定は、以下の条件で行った。
(前処理)
二酸化炭素窒素の吸着量の測定に先立ち、測定対象粉末を、測定セルに50mg充填し、前処理装置(BELPREP vacII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、測定セル内を10Paで、200℃で、4時間加熱真空脱気処理した。
(吸着量の測定)
吸着ガスとして、二酸化炭素を使用した定容量ガス吸着法により、前処理後の粉末について、温度298Kにおける吸着等温線を測定した。測定には、ガス吸着装置(Belsorp max、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、平衡圧力0kPaから102kPaまでの各平衡圧力における二酸化炭素吸着量を測定した。
(4)水蒸気吸着量の測定
水蒸気吸着量の測定は、吸着質として水蒸気を用いて、相対湿度2.7%から92.0%まで測定した以外は二酸化炭素吸着量と同様にBelsorp max、マイクロトラック・ベル株式会社製を用いて298Kで行った。前処理も同様に行った。
【0112】
(5)窒素吸着量の測定
窒素吸着量の測定は、以下の条件で行った。
(前処理)
窒素の吸着量の測定に先立ち、測定対象粉末を、測定セルに50mg充填し、前処理装置(BELPREP vacII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、測定セル内を10Paで、200℃で、4時間加熱真空脱気処理した。
(吸着量の測定)
吸着ガスとして窒素を使用した定容量ガス吸着法により、前処理後の粉末について、温度77Kにおける吸着等温線を測定した。測定には、ガス吸着装置(Belsorp max、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、平衡圧力0kPaから102kPaまでの各平衡圧力における窒素吸着量を測定した。
【0113】
(6)単成分ガス透過試験
単成分ガス透過試験は、図1に模式的に示す装置を用いて、constant volume/valuable pressure法を用いて行った。膜の透過側(図1の膜1の下側)を13Pa(絶対圧)以下まで減圧し、35kPa(G)でガスを供給し、膜の供給側と透過側の差圧を0.1MPaとした際の透過側の圧力増加の速度から、透過係数を求めた。恒温槽16の温度は35℃とし、35℃における膜の透過係数を求めた。ガスAの透過係数とガスBの透過係数の比から、理想分離係数αA/Bを求めた。式で表せば、理想分離係数αA/B=ガスA透過係数/ガスB透過係数である。
【0114】
ガスボンベ18からガスを供給し、手元バルブ17、およびマスフローコントローラー5の二次側にあるバルブ13を開けてマスフローコントローラー5を通じてガスを供給し、供給ガス保温用ガス溜め3に35kPa(G)、透過試験を行うガスをためた後、バルブ12を閉とすると同時にバルブ11を開にして膜にガスを供給した。このとき、バルブ14は開で、バルブ15は閉とする。供給ガスの圧力は常に一定になるよう、バルブ13を開にしたままマスフローコントローラー5を通じてガスを一定量供給し、排圧弁6によって圧力を一定に保った。
【0115】
圧力計7で測定する圧力増加速度が定常となった後の圧力増加速度と膜の下側からバルブ12でまでの体積、厚み、膜面積から透過係数を算出した。透過ガス用ガス溜め8については水を満たして内容積を水の量から測定し、配管部分については配管長さと内径から体積を算出することで、膜の下側からバルブ12までの体積を予め算出した。圧力計は絶対圧力トランスデューサー(MKS社製バラトロン(Baratron)(登録商標名)0~10トール用(626C11TBE))を用いた。
【0116】
厚みはデジマチック標準外側マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製 MDC-25M)を用いて、測定する膜の中央と、膜の辺縁部からやや内側に入った場所を3か所、円周上均等になるように選んで、合計4か所の平均から算出した。ガスが透過する部分の面積を膜面積とした。
用いたガスは、二酸化炭素(純度99.9%、東邦酸素工業社製)、メタン(純度99.999%、ジャパンファインプロダクツ製)、水素(純度99.99%、昭和電工ガスプロダクツ社製)である。
【0117】
(膜の前処理)
ガス透過試験に、供給側ライン、透過側ラインの両方を減圧しながら、膜モジュール2にセットした膜1を恒温槽を用いて80℃以上で2時間加熱した。2時間経過後に35℃に恒温槽の温度を下げ、1時間保持することにより膜に溶解・吸着された水やガスを除去した。
【0118】
(7)ガラス転移温度の測定
樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した。
DSCによるガラス転移温度の測定は、ガラス転移温度以上の高温まで十分昇温したのち、急冷し、その後昇温して得られたDSCデータの変曲点をガラス転移温度とした。昇温速度は10℃/min、樹脂試料量は約10mgとした。2回目の昇温におけるベースラインシフトの読み取り方はオンセットとした。
測定装置は、株式会社日立ハイテクサイエンス社製示差走査熱量計DSC6220あるいは株式会社日立ハイテクサイエンス社製示差走査熱量計DSC600を用いて測定した。
【0119】
(8)平均粒子径の測定方法
MOFの平均粒径の測定は次のように行った。合成した粉末をよく分散させて試料を作成し、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製走査電子顕微鏡S-4800を もちいて、加速電圧15kVで撮影し、任意に選択した30個の一次粒子について株式会社マウンテック社製画像解析式粒度分布測定ソフトウェアMac-Viewで画像解析して、粒子径を求め、その粒子径の相加平均をもって平均粒子径とした。なお、粒子径は、いずれの方法でも、粒子の投影面積と等しい面積を持つ、円の直径(円相当径)とする。
【0120】
(9)平均円形度係数の測定方法
MOFの平均円形度係数は、一次粒径の測定と同様にして撮影した走査電子顕微鏡像から、任意に選択した30個の粒子について株式会社マウンテック社製画像解析式粒度分布測定ソフトウェアMac-Viewで画像解析して、円形度係数を求め、その円形度係数の相加平均をもって平均円形度係数とした。小さな結晶粒子が凝集してなる二次粒子においては二次粒子の円形度係数の平均を平均円形度係数とした。なお、ここでいう円形度係数は、MOF粒子の二次元投影像の面積をS、粒子の周囲長をLとしたときに、4πS/Lで表される値である。
【0121】
[実施例1]
MOFをメカノケミカル法で作製した。具体的には、以下の方法で行った。
シュウ酸亜鉛2水和物(Alfa Aesar社製)6mmolと、1,2,4-トリアゾール24.4mmolと、メタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)10mlと、直径10mmのジルコニア製ボール50個とを、ジルコニア製の容量250mlのボールミル容器に入れて蓋をした後、遊星ボールミルP-6(フリッチュ・ジャパン株式会社社製)により回転速度150rpmで2時間混錬した。ボールミルによる混錬は室温(25℃)で行い、加熱や冷却は行わなかった。
混錬後の粉末を40mlの純水で3回洗浄し、メタノール40mlで1回洗浄した後、40℃で減圧乾燥させ、MOFの粉末(MOF1)を得た。MOF1について、粉末X線回折(XRD)を行ったところ、図2に示すピークパターンであった。MOF1の最大ピーク位置は2θ=15.1°であった。
MOF1についてXPS測定を行った結果、O/Znモル比は8.49であり、N/Znモル比は3.39であった。298Kで二酸化炭素吸着量を測定したところ、絶対圧P=102kPaにおける二酸化炭素吸着量は4.2mmol/gであった。これらの結果を表1に示す。
77Kにて、MOF1の窒素吸着量を測定したところ、相対圧P/P=0.1における窒素吸着量は138ml(STP)/gであった。結果を表2に示す。
MOF1について298Kで水蒸気吸着を測定したところ、図4のような水蒸気吸着等温線を得た。相対湿度10%における、水蒸気吸着量は2.2mmol/gであった。
【0122】
[実施例2]
0.15gのMOF1と、10gの脱塩水とを耐圧容器に入れて、150℃で24時間加熱することにより水熱処理を行った後、ろ過することにより水熱処理後のMOF1を得た。この水熱処理後のMOF1について、77Kで窒素吸着等温線を測定した結果を表2に示す。水熱処理後のMOF1のP/P=0.1における窒素吸着量は118ml(STP)/gであった。また、その窒素吸着量は、水熱処理前の86%であり、本発明のMOFが150℃、24時間という過酷な水熱処理に対して耐久性が高いことが確認された。
【0123】
[実施例3]
MOF1を120℃で4時間乾燥させ、その0.083gを、ヘキサン(富士フィルム和光純薬株式会社製)0.908gと混合し、超音波洗浄機を用いて、分散させた後、シリコーンゴム前駆体(SILPOTTM 184 Silicone Elastomer Base(ダウ・東レ株式会社製))(以下、「Silpot主剤」と言う場合がある。)を0.314g加えてさらに撹拌し、超音波洗浄機を用いてMOF1を分散させた。その後、硬化剤(SILPOTTM 184 Silicone Elastomer Curing Agent、ダウ・東レ株式会社製)(以下、「Silpot硬化剤」と言う場合がある。)0.033gを加え、撹拌して混合させた。混合して得た液を、内径30mmのテフロンシャーレに0.64g滴下し、真空乾燥機にテフロンシャーレを入れ、ヘキサンを揮発させた後、80℃に昇温して30分間保持した。その後、循環恒温槽にテフロンシャーレを入れ、80℃で5時間保持してシリコーン樹脂を硬化させた。テフロンシャーレから硬化した膜をはがし、樹脂(SILPOTTM 184由来シリコーン樹脂:P-1)とMOF1とからなる膜1が得られた。膜1の厚みは161.5μmであった。膜1中のMOF1の含有量は、19.2質量%であった。膜1の35℃における各種ガスの透過係数および理想分離係数を測定した結果を表3に示す。
比較例3の膜3についてDSC6220を用いて測定した樹脂P-1のガラス転移温度(Tg)は-126℃であった。
【0124】
[実施例4]
MOF1を120℃で4時間乾燥させ、その0.225gを、トルエン(富士フィルム和光純薬株式会社製)1.661gに混合し、超音波洗浄機を用いて、分散させた後、シリコーンゴム前駆体(TSE382-C(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製))(以下、「TSE382」と言う場合がある。)を0.330g加え、撹拌して混合させた。得られた液を、内径30mmのテフロンシャーレに1.0g滴下し、真空乾燥機にテフロンシャーレを入れ、トルエンを揮発させた後に、80℃に昇温して30分間保持した。その後、循環恒温槽にテフロンシャーレを入れ、80℃で5時間保持して、シリコーン樹脂を硬化させた。テフロンシャーレから硬化した膜をはがしてマトリックス樹脂(TSE382由来シリコーン樹脂:P-2)とMOF1とからなる膜2が得られた。膜2の厚みは184.3μmであった。膜2中におけるMOF1の含有量は40.5質量%であった。膜2の35℃における各種ガスの透過係数および理想分離係数を測定した結果を表3に示す。
MOF1を混合しない以外は同様に作製したシリコーン樹脂P-2についてDSC600を用いて測定したP-2のガラス転移温度(Tg)は-126℃であった。
【0125】
[比較例1]
MOFをソルボサーマル法(水熱合成法)で作製した。具体的には、以下の方法で行った。
シュウ酸亜鉛に水和物6mmolと、1,2,4-トリアゾール24.4mmolとを、メタノール水溶液(脱塩水20ml、メタノール30ml)に加え、1時間撹拌した。得られた混合物を耐圧容器に入れ、180℃のオーブン内で62時間水熱合成反応を行った。反応終了後、得られた固体を40mlの純水で3回洗浄し、メタノール40mlで1回洗浄した後、40℃で減圧乾燥させ、MOFの粉末(MOF2)を得た。
MOF2について、XRDを測定したところ、図3に示すXRDパターンであった。MOF2の最大ピーク位置は2θ=14.0°であった。
MOF2についてXPS測定を行った結果、O/Znモル比は3.27であり、実施例1のMOF1の1/2以下であった。
MOF2について、298Kで二酸化炭素吸着量を測定したところ、絶対圧P=102kPaにおける二酸化炭素吸着量は、4.3mmol/gであった。これらの結果を表1に示す。
MOF2について、77Kで窒素吸着等温線を測定したところ、相対圧P/P=0.1における窒素吸着量は、130ml(STP)/gであった。結果を表2に示す。
【0126】
[比較例2]
0.15gのMOF2と、10gの脱塩水とを耐圧容器に入れて、150℃で24時間加熱することにより水熱処理を行った後、ろ過することにより水熱処理後のMOF2を得た。この水熱処理後のMOF2について、77Kで窒素吸着等温線を測定した結果を表2に示す。水熱処理後のMOF2のP/P=0.1における窒素吸着量は77ml(STP)/gであった。また、その窒素吸着量は、水熱処理前の59%であり、MOF1に比べ、水熱安定性が低かった。
【0127】
[比較例3]
ヘキサン(富士フィルム和光純薬株式会社製)5.4gと、Silpot主剤1.04gとを、撹拌子を用いて均一に混合した後、Silpot硬化剤0.10gを加えて、混合した。得られた液を、内径30mmのテフロンシャーレに1.0g滴下し、真空乾燥機にテフロンシャーレを入れて、ヘキサンを揮発させた後に80℃に昇温して、30分間保持した。その後、循環恒温槽にテフロンシャーレを入れて、80℃で5時間保持することにより、シリコーン樹脂を硬化させた。
テフロンシャーレから硬化した膜をはがし、Silpot由来のシリコーン樹脂膜(膜3)を得た。膜3の厚みは135μmであった。膜3の35℃における各種ガスの透過係数および理想分離係数を測定した結果を表3に示す。
膜3を用いてDSC6220によって測定した、樹脂P-1のガラス転移温度(Tg)は-126℃であった。
【0128】
[比較例4]
2.0gのTSE382を、トルエン(富士フィルム和光純薬株式会社製)2.0gに、THINKY社製「AR-250」を用いて混合して溶解させた。細孔径0.45μmの酢酸セルロースメンブレンフィルター上に、得られた溶液をたらして、ギャップ幅6milのアプリケーターで引いてキャストした後、窒素気流下で、50℃で5時間乾燥させることにより、TSE382由来シリコーン樹脂:P-2からなる膜(膜4)を得た。膜4の断面SEM画像から算出したシリコーン樹脂部分の厚みは8.7μmであった。膜4の35℃における各種ガスの透過係数および理想分離係数を測定した結果を表3に示す。
【0129】
[実施例5]
実施例1において、シュウ酸亜鉛2水和物に代えて、水酸化炭酸亜鉛(Strem Chemicals社製)0.774mmol及びシュウ酸4.72mmol(富士フィルム和光純薬株式会社製)を使用し、5Mの水酸化ナトリウム水溶液(富士フィルム和光純薬株式会社製)1mLを加えたこと、および純粋洗浄後のメタノール洗浄を行わったこと以外は、実施例1と同様にして、メカノケミカル法によりMOF3を得た。
MOF3についてXPS測定を行った結果、O/Znモル比は11.5であり、N/Znモル比は1.46であった。298Kで二酸化炭素吸着量を測定したところ、絶対圧P=102kPaにおける二酸化炭素吸着量は4.0mmol/gであった。これらの結果を表4に示す。
77Kにて、MOF3の窒素吸着量を測定したところ、相対圧P/P=0.1における窒素吸着量は120ml(STP)/gであった。結果を表4に示す。
【0130】
[実施例6]
実施例2において、MOF1に代えて、MOF3を用いたこと以外は実施例2と同様にして、水熱処理後のMOF3を得た。この水熱処理後のMOF3について、77Kで窒素吸着等温線を測定した結果を表4に示す。水熱処理後のMOF3のP/P=0.1における窒素吸着量は121ml(STP)/gであった。すなわち、窒素吸着量は、水熱処理前と同等であり、本発明のMOFが150℃、24時間という過酷な水熱処理に対して耐久性が高いことが確認された。
【0131】
[実施例7]
実施例5において、5Mの水酸化ナトリウム水溶液に代えて、5Mの水酸化カリウム水溶液(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)を用いたこと以外、実施例5同様にしてメカノケミカル法によりMOF4を得た。MOF4の一次粒子径は0.27μmであり、平均円形度係数は0.88であった。
MOF4についてXPS測定を行った結果、O/Znモル比は15.0であり、N/Znモル比は2.81であった。298Kで二酸化炭素吸着量を測定したところ、絶対圧P=102kPaにおける二酸化炭素吸着量は4.1mmol/gであった。これらの結果を表4に示す。
77Kにて、MOF4の窒素吸着量を測定したところ、相対圧P/P=0.1における窒素吸着量は128ml(STP)/gであった。結果を表4に示す。
【0132】
[実施例8]
実施例2において、MOF1に代えて、MOF4を用いたこと以外は実施例2と同様にして、水熱処理後のMOF4を得た。この水熱処理後のMOF4について、77Kで窒素吸着等温線を測定した結果を表4に示す。水熱処理後のMOF4のP/P=0.1における窒素吸着量は126ml(STP)/gであった。すなわち、窒素吸着量は、水熱処理前と同等であり、本発明のMOFが150℃、24時間という過酷な水熱処理に対して耐久性が高いことが確認された。
【0133】
[実施例9]
実施例4において、MOF1に代えて、MOF3を用いたことと、テフロンシャーレに混合液を滴下したのち、室温で24時間放置して、溶媒を飛ばし、樹脂を硬化させたこと以外は、実施例4と同様にして、マトリックス樹脂(TSE382由来シリコーン樹脂:P-2)とMOF3とからなる膜5が得られた。膜5の厚みは201μmであった。膜5中のMOF3の含有量は、41.5質量%であった。膜5の35℃における各種ガスの透過係数および理想分離係数を測定した結果を表4に示す。
【0134】
[実施例10]
実施例4において、MOF3に代えて、MOF4を用いたこと以外は、実施例9と同様にして、マトリックス樹脂(TSE382由来シリコーン樹脂:P-2)とMOF4とからなる膜6が得られた。膜6の厚みは211μmであった。膜6中のMOF4の含有量は、40.0質量%であった。膜6の35℃における各種ガスの透過係数および理想分離係数を測定した結果を表4に示す。
【0135】
[実施例11]
N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)(富士フィルム和光純薬社製)21.0gにポリスルホン(PSF)(シグマアルドリッチ社製)2.7gとポリビニルピロリドン(PVP)(富士フィルム和光純薬社製)1.1gを加えて攪拌し、均一なPSF・PVP/DMA溶液を得た。PSF・PVP/DMA溶液に130℃で一晩真空乾燥したMOF4を0.95gを加え、超音波ホモジナイザーによる超音波処理と撹拌を行って分散させた。三井電機精器株式会社製Smart卓上コーターTC―100S5に加熱塗工盤 SHY-100をセットし100℃に加熱した。その上にMOF4が分散したPSF・PVP/DMA溶液を滴下し、ギャップ幅250μmのアプリケーターで0.035m/sでコートした。コートした分散液を塗工盤上で加熱して溶媒を蒸発させることでMOFが分散した膜を得た。脱塩水を滴下して、膜を剥離、回収したのち、膜を脱塩水に5時間浸漬し、一晩室温、大気圧下で乾燥することで、樹脂(PSF:PVA=7:3(質量比)からなる樹脂:P-3)とMOF4とからなる膜7を得た。膜7の厚みは11μmであった。膜7中のMOF4の含有量は、20.0質量%であった。膜7の35℃における各種ガスの透過係数および理想分離係数を測定した結果を表4に示す。
【0136】
[比較例5]
実施例11において、MOF4を用いず、PSF・PVP/DMA溶液のみを、加熱塗工盤上にキャスト、コートし、実施例11と同様にして、100℃で溶媒を蒸発させ、水で洗浄して乾燥することでPSF:PVA=7:3(質量比)からなる樹脂:P-3の膜、膜8を得た。膜8の膜厚は15μmであった。
膜8を用いてDSC600により樹脂P-3のガラス転移温度(Tg)を測定したところTg=184℃であった。膜8の35℃における各種ガスの透過係数および理想分離係数を測定した結果を表4に示す。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
【表4】
【0141】
【表5】
【0142】
表2及び表4より、本発明のMOF1、MOF3及びMOF4は、高い耐水性(水熱安定性)を有していることが裏付けられた。また、表1に示す通り、本発明のMOF1は、比較例(水熱合成)のMOF2と比べて、MOF表面のO/Znモル比が高く、N/Znモル比は同程度であった。MOF3及びMOF4においてはMOF1よりもさらにMOF表面のO/Znモル比が大きく、MOF4においてはN/Znモル比も3より大幅に小さくなっている。O/Znが大きくなるほど表面にシュウ酸亜鉛に近い構造が偏析しており、N/Znが3より大幅に小さい場合には、シュウ酸亜鉛に近い構造が表面に偏析してトリアゾレートを覆っていると推定される。表2及び表4から水熱処理後の窒素吸着量の変化量はMOF4<MOF3<MOF1<<MOF2であり、表面にシュウ酸亜鉛に近い構造が偏析するほど耐水熱性が向上したと考えられる。
表3及び表5に示す通り、本発明のMOF1を含む樹脂組成物である実施例3は、樹脂P-1の膜(膜3)である比較例3に比べ、Hのガス透過係数が上昇しており、Hの透過性が向上していた。また、H/N,H/CH,CO/N,CO/CH,He/Nの理想分離係数も向上していた。
同様に、本発明のMOF1を含む樹脂組成物である実施例4および、MOF3、MOF4を含む樹脂組成物である実施例6、8についても、樹脂P-2の膜(膜4)である比較例4に比べ、Hのガス透過係数が上昇しており、Hの透過性が向上していた。また、H/N,H/CH,CO/N,CO/CH,He/Nの理想分離係数も向上していた。
同様に、本発明のMOF4を含む樹脂組成物である実施例11の膜7についても、樹脂P-3の膜(膜8)である比較例5にくらべCOの透過係数が上昇しており、CO/N,CO/CHの理想分離係数も向上していた。
【0143】
また、本実施例では、樹脂に対してMOFを40質量%以上の高充填率で含有させることができた。すなわち、本発明のMOFに限らず、構造に関わらず、MOFを高充填率で導入できる手法も提供している。構造限定しないMOFの含有量は、40質量%以上であり、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、また、一方で、通常100質量%未満、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下、特に好ましくは80質量%以下である。本発明の組成物中におけるMOFの含有量が上述の範囲内にあると、本発明の組成物が柔軟性や加工性に優れ、種々の用途に好適となる。
構造限定しないMOFを含む組成物の樹脂としては、Tgが15℃以下の樹脂が好ましい。樹脂のガラス転移温度については、前述のとおりである。
また、構造限定しないMOFの一次粒子径としては、高充填率化できることから、小さいことが好ましく、通常10nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、また、一方で、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下、特に好ましくは300nm以下、最も好ましくは200nm以下である。
さらに、構造限定しないMOFの二次粒子の形状は特に制限させるものではないが、円形度係数は通常平均円形度係数として好ましくは0.80以上、より好ましくは0.90以上、通常1.0以下となる形状である。平均円形度係数がこの範囲であるとき、粒子の流動性が高いため、吸着材として用いるペレット等の成型体中のMOFの充填率や本発明のMOFの樹脂組成物において、MOFの充填率を向上させることが可能となり、単位体積当たりの吸着量が大きな成型吸着材がえらえるほか、組成物としてもガス透過、分離の性能が高くなる傾向がある。
【0144】
このように本発明のMOFは、表面のO/Znモル比が高いことにより、水熱安定性に優れ、二酸化炭素吸着材として好適であり、また、本発明のMOFを含む樹脂組成物を用いた膜は、ガス分離膜に好適であることが裏付けられた。
また、本発明のMOFは、メカノケミカル法により、高温高圧などの通常の化学反応に比べて簡便で安全性の高い方法により製造することができる。
さらに、メカノケミカル法を用いることで、金属シュウ酸塩などの金属錯体、ではない安価原料を用いてMOFを合成することができる。
ガラス転移温度(Tg)が低い樹脂を用いてMOFの充填率が高い分離膜を作製することができた。
【符号の説明】
【0145】
1 膜
2 分離膜モジュール
3 供給ガス保温用ガス溜め
4 圧力計
5 マスフローコントローラー
6 排圧弁
7 バラトロン圧力計
8 透過ガス用ガス溜め
9 液体窒素トラップ
10 真空ポンプ
11、12、13、14、15 バルブ
16 恒温槽
17 バルブ (手元バルブ)
18 ガスボンベ
図1
図2
図3
図4