(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147260
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 11/193 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
C08B11/193
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050094
(22)【出願日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2022054665
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】北村 彰
(72)【発明者】
【氏名】成田 光男
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA30
4C090BB65
4C090CA36
4C090DA03
4C090DA10
4C090DA31
(57)【要約】
【課題】高い貯蔵弾性率(熱ゲル強度)を有し、かつ未溶解繊維数が少ないヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造方法を提供する。
【解決手段】細孔体積が0.55ml/g以上で1.00ml/g未満であるシート状パルプ又は該シート状パルプを裁断したチップ状パルプと第一のアルカリ金属水酸化物溶液を接触させてアルカリセルロース混合物を得る工程と、前記アルカリセルロース混合物を脱液してアルカリセルロースを得る工程と、前記アルカリセルロースと、アルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤を反応させて第一の反応混合物を得る工程と、前記第一の反応混合物と第二のアルカリ金属水酸化物溶液を混合して第二の反応混合物を得る工程と、前記第二の反応混合物を精製してヒドロキシアルキルアルキルセルロースを得る工程とを少なくとも含んでなるヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔体積が0.55ml/g以上で1.00ml/g未満であるシート状パルプ又は該シート状パルプを裁断したチップ状パルプと第一のアルカリ金属水酸化物溶液を接触させてアルカリセルロース混合物を得る工程と、
前記アルカリセルロース混合物を脱液してアルカリセルロースを得る工程と、
前記アルカリセルロースと、アルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤を反応させて第一の反応混合物を得る工程と、
前記第一の反応混合物と第二のアルカリ金属水酸化物溶液を混合して第二の反応混合物を得る工程と、
前記第二の反応混合物を精製してヒドロキシアルキルアルキルセルロースを得る工程と
を少なくとも含んでなるヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造方法。
【請求項2】
前記シート状パルプのシート密度が0.55~0.80g/mLである請求項1に記載のヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造方法。
【請求項3】
前記シート状パルプの固有粘度が、3.0~15.0dL/gである請求項1又は請求項2に記載のヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造方法。
【請求項4】
前記第一の反応混合物と第二のアルカリ金属水酸化物溶液を混合する工程が、前記第一の反応混合物に前記第二のアルカリ金属水酸化物溶液を添加することを含み、前記第二のアルカリ金属水酸化物溶液の添加の開始から終了まで前記第一の反応混合物を昇温させる請求項1又は請求項2に記載のヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造方法。
【請求項5】
前記昇温の速度が、10.0~30.0℃/hrである請求項4に記載のヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造方法。
【請求項6】
前記第二のアルカリ金属水酸化物溶液中の第二のアルカリ金属水酸化物の添加速度が、無水グルコース単位を1モルとしたときの前記シート状パルプ又はチップ状パルプのモル数に対する第二のアルカリ金属水酸化物の単位時間当たりの添加モル数として表されると、2.76~7.50mol/mol・hrである請求項4に記載のヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハニカム形状セラミックの押出成形体は、自動車及び種々の産業の分野において、排ガス清浄触媒、フィルター及び熱交換体のための担体として使用されている。このセラミックの押出成形体は、例えば、セラミック主材を混合、仮焼、粉砕して非可塑性のセラミック粉体とし、この粉体に可塑性を持たせるために、バインダー、水及び必要に応じて可塑剤、潤滑剤等を添加し、ロールミル又は連続混練機等を用いて混練して坏土とし、これを用いて成形した後、焼成して素体とすることにより製造される。
【0003】
既知のバインダーとしては、セルロース誘導体、特にメチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。これらは高温で強いゲルを形成するため、坏土の保形性が向上し、薄壁ハニカム構造の押出が容易になる。
その中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、メチルセルロースに比べて高い熱ゲル化温度を有するため、高い押出温度への適用が可能であり、有用である。
【0004】
高い熱ゲル強度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースを得る方法として、アルカリ金属水酸化物溶液によるセルロースパルプのアルカリ化工程及び/又はエーテル化反応工程のそれぞれを複数の段階に分ける方法が提案されている。
例えば、セルロースパルプを1段階目のアルカリ金属水酸化物溶液によりアルカリ化後に、アルキル化剤及びヒドロキシプロポキシル化剤を添加してエーテル化反応させ、その後、2段階目のアルカリ金属水酸化物溶液をゆっくり添加してエーテル化反応を継続させ、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得る方法がある(特許文献1)。
一方、エーテル化反応の出発原料となるセルロースパルプとして、細孔体積が1.00ml/gより小さいシート状パルプは、未溶解繊維分の少ないセルロースエーテルの製造が困難であるとして使用を避けられてきた(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014-503004号公報
【特許文献2】特開2009-155534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で開示される製法で得られるヒドロキシプロピルメチルセルロースは、高い熱ゲル強度を有しているが、未溶解繊維が多い。このような未溶解繊維が多いヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた場合、セラミックの焼結後の成形体中に数μm程度の空孔(ポア)を形成し、セラミック焼結体の強度を低下させてしまう。また、この空孔はコンデンサー等の静電体用セラミック焼結体においても、耐電圧特性を低下させてしまう。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、高い貯蔵弾性率(熱ゲル強度)を有し、かつ未溶解繊維数が少ないヒドロキシアルキルアルキルセルロース及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、アルカリ金属水酸化物を複数回に分割し、従来は使用が避けられていた特定の細孔体積を有するシート状又はチップ状のパルプを原料に用いることにより、高い貯蔵弾性率G'(80℃)を有し、かつ未溶解繊維数が少ないヒドロキシアルキルアルキルセルロースを製造可能なことを見出し、本発明を成すに至った。
本発明の一つの態様によれば、細孔体積が0.55ml/g以上で1.00ml/g未満であるシート状パルプ又は該シート状パルプを裁断したチップ状パルプと第一のアルカリ金属水酸化物溶液を接触させてアルカリセルロース混合物を得る工程と、
前記アルカリセルロース混合物を脱液することによりアルカリセルロースを得る工程と
前記アルカリセルロースと、アルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤を反応させて第一の反応混合物を得る工程と、
前記第一の反応混合物と第二のアルカリ金属水酸化物溶液を混合して第二の反応混合物を得る工程と、
前記第二の反応混合物を精製してヒドロキシアルキルアルキルセルロースを得る工程とを少なくとも含んでなるヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い貯蔵弾性率G'(80℃)を有し、かつ未溶解繊維数が少ないヒドロキシアルキルアルキルセルロースを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
シート状パルプの原料としては、木材パルプ、コットンリンターパルプが挙げられるが、未溶解繊維数を減らす観点から、木材パルプが特に好ましい。木材の樹種としては、マツ、トウヒ、ツガ等の針葉樹;及びユーカリ、カエデ等の広葉樹を用いることができる。未溶解繊維数が少ないヒドロキシアルキルアルキルセルロースを製造する観点から、マツが好ましい。
【0010】
シート状パルプは、木材を水酸化ナトリウム及び硫化ナトリウムを主成分とする薬液を用いて蒸解して得られるクラフトパルプ、又は木材を酸性の亜硫酸塩溶液を用いて蒸解して得られるサルファイトパルプに分けられるが、いずれも使用可能である。未溶解繊維数が少ないヒドロキシアルキルアルキルセルロースを製造する観点から、クラフトパルプを用いることが好ましい。
【0011】
シート状パルプは、細孔体積が0.55ml/g以上1.00ml/g未満、好ましくは0.65~1.00ml/g、更に好ましくは0.65~0.95ml/gである。細孔体積が0.55ml/gより小さい場合、少ない未溶解繊維数を有するヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造が困難になる。また、細孔体積が1.0ml/g以上の場合、高い貯蔵弾性率G'(80℃)を有するヒドロキシアルキルアルキルセルロースの製造が困難になる。未溶解繊維分の少ないセルロースエーテルの製造が困難として従来は使用が避けられてきた細孔体積が1.00ml/g未満であるシート状パルプを用いて、未溶解繊維分の少ないヒドロキシアルキルアルキルセルロースを製造できたことは驚きである。
シート状パルプの細孔体積は、水銀圧入法により測定される乾燥シート状パルプの単位質量当たりの微細な空隙の体積の合計である。シート状パルプの細孔体積の測定方法は、105℃にて2時間大気圧下にて試料を乾燥するステップと、乾燥後の試料を約1.2×2.4cmの短冊(短冊の厚さはシート状パルプの厚さと同じで良く、厚さが変化しても最終的に単位質量に換算できるからである)に切断するステップと、前記短冊の3枚を水銀圧入時に重なりが生じないように、セル(例えば、島津オートポア9520型に付属するセル)に三角形に配置するステップと、水銀圧力5.5kPa(細孔直径約220μm相当)~411MPa(細孔直径約0.003μm相当)の条件でポロシメータ(例えば、島津オートポア9520型)を用いて測定するステップとを少なくとも含む。
【0012】
シート状パルプの厚さは、脱液工程時の取り扱いの観点から、好ましくは0.1~5.0mm、より好ましくは0.5~2.0mmである。
シート状パルプの密度は、生産性及びアルカリセルロースの組成のばらつき抑制の観点並びに未溶解繊維数を低減する観点から、好ましくは0.80g/ml以下、より好ましくは0.55~0.80g/mlである。密度の測定は、JIS P8215に記載の方法を用いた。
シート状パルプのアルファセルロース分は、精製工程での収率低下を抑制する観点から、90質量%以上が好ましい。アルファセルロース分は、TAPPI(パルプ製紙業界技術協会)のTEST METHOD T429に記載の方法により測定できる。
【0013】
パルプの重合度の指標である固有粘度は、未溶解繊維数が少ないヒドロキシアルキルアルキルセルロースを製造する観点から、好ましくは15.0dl/g未満、より好ましくは14.0dl/g未満である。固有粘度の下限は、好ましくは3.0dl/gである。固有粘度は、JIS P8215に記載の粘度測定法により測定できる。
【0014】
また、シート状のパルプをそのまま用いる他、シート状パルプを裁断してチップ状として用いることもできる。
チップ状パルプは、好ましくは、厚み0.1~5.0mmのシート状パルプを裁断することにより得られるチップ状の形態を持つパルプである。チップ状パルプの製造方法は限定されないが、スリッターカッターの他、既存の裁断装置を利用することができる。使用する裁断装置は、連続的に処理できるものが投資コスト上有利である。
チップの形状は、浸漬操作における取り扱い及び未溶解繊維数を減らす観点から、通常一辺が好ましくは2~100mm、より好ましくは3~50mmである。
【0015】
次に、シート状パルプ又はチップ状パルプと、第一のアルカリ金属水酸化物溶液を接触させてアルカリセルロース混合物を得る工程と、得られたアルカリセルロース混合物を脱液してアルカリセルロースを得る工程に関して説明する。
【0016】
アルカリ金属水酸化物溶液は、高い貯蔵弾性率G'及び少ない未溶解繊維数を達成するために複数回に分割して配合し、好ましくは2段階又は3段階、操作の煩雑性を減らす観点から、より好ましくは2段階である。
【0017】
使用される第一のアルカリ金属水酸化物溶液は、アルカリセルロースが得られるものであれば、特に限定されないが、経済的理由から、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液である。
また、第一のアルカリ金属水酸化物溶液の濃度は、好ましくは23~60質量%、より好ましくは35~55質量%である。第一のアルカリ金属水酸化物溶液は、水溶液が好ましいが、エタノール等のアルコール溶液や、水溶性アルコールと水との混合溶液であってもよい。
【0018】
シート状パルプと第一のアルカリ金属水酸化物溶液との接触方法としては、シート状パルプをアルカリ金属水酸化物溶液に浸す方法が挙げられる。チップ状パルプについては、必要量のアルカリ水酸化物溶液をチップ状パルプに添加する方法が挙げられる。
【0019】
シート状又はチップ状パルプと第一のアルカリ金属水酸化物溶液とを接触させる温度は、第一のアルカリ金属水酸化物溶液の固化を抑制する観点及びアルカリセルロースの組成のばらつき抑制の観点から、好ましくは10~70℃、より好ましくは15~60℃である。
シート状又はチップ状パルプと過剰の第一のアルカリ金属水酸化物溶液とを接触させる時間は、所望の組成のアルカリセルロースを得る観点、アルカリセルロースの組成のばらつき抑制の観点及び接触時の操作面の観点から、好ましくは10~600秒間、より好ましくは15~120秒間である。
【0020】
シート状パルプ又はチップ状パルプと第一のアルカリ金属水酸化物溶液との接触における第一のアルカリ金属水酸化物溶液中の第一のアルカリ金属水酸化物と出発原料パルプ中の固体成分との質量比(第一のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)は、設備の規模及び未溶解繊維数を低減する観点から、好ましくは1.5~2,500、より好ましくは5~100、更に好ましくは10~30とする値である。
パルプ中の固体成分は、パルプ中の水分以外の成分を意味する。パルプ中の固体成分の質量は、JIS P8203:1998のパルプ-絶乾率の試験方法により求められた絶乾率より算出できる。絶乾率(dry matter content)は、試料を105±2℃にて乾燥し、恒量に達したときの質量と乾燥前の質量の比率であり、質量%で表示する。なお、パルプ中の固体成分には、主成分のセルロースの他、ごく少量の低重合度セルロース、ヘミセルロース、リグニン、樹脂分等の有機物、Si分、Fe分等の無機物が含まれる。また、木材を蒸解及び漂白した市販のパルプにおいては、低重合度セルロースの含量はごく少量であるので、パルプ中の固体成分のセルロース含有量とアルファセルロース含有量は、略同一として扱うことができる。
【0021】
第一のアルカリ金属水酸化物溶液中の第一アルカリ金属水酸化物の配合モル量は、高い貯蔵弾性率G'(80℃)及び未溶解繊維数の低減を両立する観点から、無水グルコース単位(anhydroglucose unit: AGU)の分子量を1モルとしたときの出発原料パルプ中の固形成分のモル数に対する第一のアルカリ金属水酸化物のモル数の比(第一のアルカリ金属水酸化物のモル数/パルプ中の固形成分のモル数)として、好ましくは2.43~3.65mol/mol、より好ましくは2.83~3.44mol/mol、更に好ましくは2.91~3.24mol/molであり、前記範囲となるように、接触工程に用いる第一のアルカリ金属水酸化物溶液の量を選択する。第一のアルカリ金属水酸化物成分の質量は、中和滴定法によって算出することができる。
【0022】
第一のアルカリ金属水酸化物溶液中の第一のアルカリ金属水酸化物と、後述の第二のアルカリ金属水酸化物溶液中の第二のアルカリ金属水酸化物の合計質量に対する第一のアルカリ金属水酸化物の質量の比(第一のアルカリ金属水酸化物/合計アルカリ金属水酸化物)は、好ましくは0.6~0.8であり、より好ましくは0.62~0.78である。第一と第二のアルカリ金属水酸化物の合計質量に対する第一のアルカリ金属水酸化物の質量の割合が0.6未満であると、少ない未溶解繊維数を有するヒドロキシアルキルアルキルセルロースは製造できない場合があり、一方、第一と第二のアルカリ金属水酸化物の合計質量に対する第一のアルカリ金属水酸化物の質量の割合が0.8を超えると、高い熱ゲル強度を与える高い貯蔵弾性率G'(80℃)を有するヒドロキシアルキルアルキルセルロースは製造できない場合がある。
【0023】
アルカリセルロースは、シート状又はチップ状パルプを、過剰の第一のアルカリ金属水酸化物の溶液に接触させてアルカリセルロース混合物を得た後に、得られたアルカリセルロース混合物を脱液し、余分な第一のアルカリ金属水酸化物溶液を除去することによって得られる。
脱液方法としては、シート状パルプを第一のアルカリ金属水酸化物溶液の入ったバスに浸漬させた後、ローラーその他の装置で加圧圧搾する方法や、チップ状パルプを第一のアルカリ金属水酸化物溶液の入ったバスに浸漬させた後、遠心分離や他の機械的方法により圧搾する方法が挙げられる。
【0024】
次に、得られたアルカリセルロースと、アルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤を反応させて、第一の反応混合物を得る工程について説明する。
得られたアルカリセルロースは、そのまま又は必要に応じて裁断して反応機に供給することができる。反応機としては、未溶解繊維数を低減する観点から、機械的な力によってアルカリセルロースのパルプ由来の繊維をほぐしながら、アルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤と反応するものが好ましい。このため、内部に撹拌機構を持つ反応機が好ましく、例えば、スキ型ショベル羽根式混合機が挙げられる。また、アルカリセルロースを反応機に投入するよりも前に、別の内部に撹拌機構を持つ別の装置を用いて予め解砕しておくことも可能である。また、アルカリセルロースを反応機に供給した後は、反応機内の酸素を真空ポンプ等によって除去し、不活性ガス、好ましくは窒素で置換することが好ましい。また、反応機は、内部の温度を測定できるような測定器具が装着されていることが好ましい。
【0025】
反応機内における局所的な発熱を抑制する目的で、アルカリセルロース添加後に、エーテル化反応に供さない有機溶媒、例えば、ジメチルエーテルを系内に添加することができる。
【0026】
アルキル化剤としては、例えば塩化メチル、硫酸ジメチル、ヨウ化メチル等のメチル化剤が挙げられるが、高い貯蔵弾性率G'(80℃)のヒドロキシアルキルアルキルセルロースを得る観点及び経済的な観点から、塩化メチルが好ましい。
ヒドロキシアルキル化剤としては、例えば、酸化エチレン、酸化プロピレン、酸化ブチレンが挙げられるが、の高い貯蔵弾性率G'(80℃)のヒドロキシアルキルアルキルセルロースを得る観点及び経済的な観点から、酸化プロピレンが好ましい。
【0027】
アルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤を反応させるときの反応機内温は、反応制御の観点から、好ましくは40~90℃、より好ましくは50~80℃である。
【0028】
アルキル化剤の配合モル量は、高い熱ゲル強度及び未溶解繊維数の低減を両立する観点及び経済的な観点から、無水グルコース単位(AGU)の分子量を1モルとしたときの出発原料パルプ中の固形成分のモル数に対するアルキル化剤のモル数(アルキル化剤のモル数/パルプ中の固形成分のモル数)は、好ましくは2.43~9.30mol/molであり、より好ましくは、3.04~7.89mol/molである。
ヒドロキシアルキルアルキル化剤の配合量は、高い熱ゲル強度と少ない未溶解繊維数を両立する観点から、無水グルコース単位(AGU)の分子量を1モルとしたときの出発原料パルプ中の固形成分のモル数に対するヒドロキシアルキルアルキル化剤のモル数の比は、好ましくは0.53~2.51mol/molであり、より好ましくは、0.55~2.09mol/molである。
【0029】
アルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤の配合方法は、好ましくはアルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤をアルカリセルロースに添加する。アルキル化剤とヒドロキシアルキル化剤の添加順序は制限されず、アルキル化剤の添加開始時期は、ヒドロキシアルキル化剤の添加前、添加中、添加後とすることが可能だが、生産性の観点から、ヒドロキシアルキル化剤の添加前、添加中にアルキル化剤を添加開始することが好ましい。
アルキル化剤の添加時間は、反応制御及び生産性の観点から、好ましくは30~120分間、より好ましくは40~90分間である。
また、ヒドロキシアルキル化剤の添加時間は反応制御及び生産性の観点から、好ましくは5~30分間、より好ましくは10~30分間である。
【0030】
第一の反応混合物中におけるヒドロキシアルキルアルキルセルロースのアルコキシ基の置換度(DS)は、所望の熱ゲル強度を得る観点から、好ましくは0.75~1.68であり、より好ましくは0.81~1.68であり、更に好ましくは、0.99~1.37である。また、ヒドロキシアルコキシ基(MS)は、所望の熱ゲル強度及び熱ゲル化温度を得る観点から、好ましくは0.03~0.28であり、より好ましくは0.05~0.25である。
置換度(DS)とは、無水グルコース1単位当たりのアルコキシ基の平均個数であり、置換モル数(MS)は、無水グルコース1モル当たりのヒドロキシアルコキシ基の平均モル数である。DS及びMSは、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおいては、第17改正日本薬局方のヒプロメロースに関する分析方法に準じて測定して得られた値を換算することによって求めることができる。
【0031】
次に、得られた第一の反応混合物に、第二のアルカリ金属水酸化物溶液を混合して反応を継続させ第二の反応混合物を得る工程について説明する。
第二のアルカリ金属水酸化物溶液に特に制限はなく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の溶液が挙げられるが、経済的な観点から、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。第一のアルカリ金属水酸化物溶液中の第一のアルカリ金属水酸化物と、第二のアルカリ金属水酸化物溶液中の第二のアルカリ金属水酸化物は、同一種類であっても、異なる種類の組合せであっても良いが、操作性の観点から、同一種類とすることが好ましい。
【0032】
第二のアルカリ金属水酸化物溶液の配合方法は、好ましくは第二のアルカリ金属水酸化物溶液を第一の反応混合物に添加するものであり、例えば、第二のアルカリ金属水酸化物溶液を直接滴下する方法、第二のアルカリ金属水酸化物溶液をスプレー状に噴霧する方法があるが、得られた第一の反応混合物中の第二のアルカリ金属水酸化物の均一性が良い点から、スプレー状に噴霧する方法が好ましい。
【0033】
第二のアルカリ金属水酸化物溶液の濃度は、エーテル化反応効率及び取扱いの観点から、好ましくは10~60質量%、より好ましくは30~50質量%である。第一のアルカリ金属水酸化物溶液と第二のアルカリ金属水酸化物溶液は、同一濃度であることが好ましいが、異なる濃度とすることも可能である。
【0034】
第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合するとき、すなわち第二のアルカリ金属水酸化物溶液の配合を開始する時期は、好ましくは配合するアルキル化剤の全量の80質量%以上の添加が完了し、かつ配合するヒドロキシアルキル化剤の添加が完了した後、より好ましくはアルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤の添加が完了した後である。第二のアルカリ金属水酸化物溶液の添加を開始する時期が、配合するアルキル化剤の全量の80質量%以上の添加が完了する前であった場合、高い貯蔵弾性率G'(80℃)を有するヒドロキシアルキルアルキルセルロースが製造できない場合がある。
【0035】
第二のアルカリ金属水酸化物溶液中の第二のアルカリ金属水酸化物の配合量は、高い貯蔵弾性率G'(80℃)及び少ない未溶解繊維数を両立する観点から、無水グルコース単位の分子量を1モルとしたときの出発原料パルプ中の固形成分のモル数に対する第二のアルカリ金属水酸化物のモル数(モル比としての第二のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固形成分)が、好ましくは0.70~2.50であり、より好ましくは0.80~1.9である。
【0036】
第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を添加するときの添加開始時の反応機内温、即ち、第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を添加するときの添加開始時の第一の反応混合物の温度は、高い貯蔵弾性率G'(80℃)を有するヒドロキシアルキルアルキルセルロースを製造する観点及び反応制御の観点から、好ましくは65~90℃、より好ましくは70~85℃、更に好ましくは75~85℃である。
また、高い熱ゲル強度を有するヒドロキシアルキルアルキルセルロースを得る観点から、第二のアルカリ金属水酸化物溶液の添加が完了するときの反応機内温(第一の反応混合物と第二のアルカリ金属水酸化物溶液の混合物の温度)は、好ましくは80℃~100℃、より好ましくは85~95℃である。なお、反応機内温を昇温、好ましくは一定速度で昇温する観点から、好ましくは添加開始時を添加完了時よりも低い温度とし、その温度差は、好ましくは3~20℃、より好ましくは4~15℃である。
【0037】
第二のアルカリ金属水酸化物溶液中の第二のアルカリ金属水酸化物の添加速度は、無水グルコース単位(AGU)の分子量を1モルとしたときの出発原料パルプ中の固形成分のモル数に対する単位時間当たりに添加する第二のアルカリ金属水酸化物のモル量(モル比)として、好ましくは2.76~7.50mol/mol・hr、より好ましくは2.76~5.00mol/mol・hr、更に好ましくは2.76~4.50mol/mol・hrである。第二のアルカリ金属水酸化物の添加速度が2.76mol/mol・hr未満であると、高い熱ゲル強度及び未溶解繊維数の低減を両立するヒドロキシアルキルアルキルセルロースが製造できないおそれがある一方、第二のアルカリ金属水酸化物の添加速度が7.50mol/mol・hrを超えると、高い熱ゲル強度を有するヒドロキシアルキルアルキルセルロースが製造できない場合がある。
【0038】
第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合した後は、撹拌混合を行うことが好ましい。
【0039】
第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を添加する工程において、高いゲル強度を有するヒドロキシアルキルアルキルセルロースを得る観点から、第二のアルカリ金属水酸化物溶液の添加の開始から完了するまでの間、反応機内温を一定速度で昇温しながら配合することが好ましい。昇温速度は、好ましくは10.0~30.0℃/hr、より好ましくは、15.0~30.0℃/hrである。
【0040】
一般に、セルロースパルプとアルカリ金属水酸化物溶液と混合して得られるアルカリセルロースは、アルキル化剤及びヒドロキシアルキルアルキル化剤とエーテル化反応することによりヒドロキシアルキルアルキルセルロースとなる。
この場合、反応系内のアルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤は、このエーテル化反応に伴い徐々に消費されていく。反応機内温が一定である場合、反応系内のアルキル化剤及びヒドロキシアルキルアルキル化剤の消費に伴ってエーテル化反応の反応速度は徐々に低下する。そこで、反応機内温を一定速度で昇温しながら第二のアルカリ金属水酸化物溶液の配合を行うことにより、アルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤の消費に伴うエーテル化反応の反応速度の低下を抑えて、相対的に第二のアルカリ金属水酸化物溶液の配合に伴うエーテル化反応速度を高くする。これにより、高い熱ゲル強度のヒドロキシアルキルアルキルセルロースを得ることができる。
【0041】
上述した方法では、第一の反応混合物に、更にアルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤を配合することなく、第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合して、第二の反応混合物を得ている。効率良く未溶解繊維数を低減する見地からアルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤は分割しないことが特に好ましく、第一アルカリ金属水酸化物溶液を配合する第1段階においてアルキル化剤及びヒドロキシアルキル化剤を配合する。
【0042】
上述した方法以外にも、アルキル化剤を第一のアルキル化剤及び第二のアルキル化剤、ヒドロキシアルキル化剤を第一のヒドロキシアルキル化剤、第二のヒドロキシアルキル化剤のように分割して、第一のアルキル化剤と第一のヒドロキシアルキル化剤を配合して第一の反応混合物を得た後に、更に第二のアルキル化剤及び/又は第二のヒドロキシアルキル化剤を配合して、第二の反応混合物を得ることも可能である。
【0043】
アルキル化剤を2回に分割して配合する場合、第一の反応混合物に配合する第二のアルキル化剤の配合量は、高い熱ゲル強度及び未溶解繊維数の低減を両立する観点及び経済的な観点から、無水グルコース単位(AGU)の分子量を1モルとしたときの出発原料パルプ中の固形成分のモル数に対する第二のアルキル化剤のモル数の比(モル比として、第二のアルキル化剤/パルプ中の固形成分)として、好ましくは0.05~3.72であり、より好ましくは、0.05~2.50である。
また、第一のアルキル化剤と第二のアルキル化剤の合計モル量に対する第二のアルキル化剤のモル量比は、高い熱ゲル強度及び未溶解繊維数の低減を両立する観点及び経済的な観点から、好ましくは0.01~0.40であり、より好ましくは0.01~0.35である。アルキル化剤を2回に分割して配合する場合、第一のアルキル化剤の配合量は、好ましくは、第一のアルキル化剤と第二のアルキル化剤の合計モル量に対する第二のアルキル化剤のモル比が上記の範囲となるように選択する。
【0044】
ヒドロキシアルキル化剤を2回に分割して配合する場合、第一の反応混合物に配合する第二のヒドロキシアルキル化剤の配合量は、高い熱ゲル強度及び未溶解繊維数の低減を両立する観点及び経済的な観点から、無水グルコース単位(AGU)の分子量を1モルとしたときの出発原料パルプ中の固形成分のモル数に対する第二のヒドロキシアルキル化剤のモル数の比(第二のヒドロキシアルキル化剤/パルプ中の固形成分)として、好ましくは0.05~1.00であり、より好ましくは、0.05~0.80である。
また、第一のヒドロキシアルキル化剤と第二のヒドロキシアルキル化剤の合計モル量に対する第二のヒドロキシアルキル化剤のモル比(第二のヒドロキシアルキル化剤/合計のヒドロキシアルキル化剤)は、高い熱ゲル強度及び未溶解繊維数の低減を両立する観点及び経済的な観点から、好ましくは0.01~0.40であり、より好ましくは、0.01~0.35である。ヒドロキシアルキル化剤を2回に分割して配合する場合、第一のヒドロキシアルキル化剤の配合量は、好ましくは、第一のヒドロキシアルキル化剤と第二のヒドロキシアルキル化剤の合計モル量に対する第二のヒドロキシアルキル化剤のモル比が上記の範囲となるように選択する。
【0045】
第一の反応混合物に、更に第二のアルキル化剤及び/又は第二のヒドロキシアルキル化剤を配合する場合の配合開始時の反応機内温、好ましくは第一の反応混合物に第二のアルキル化剤及び/又は第二のヒドロキシアルキル化剤を添加するときの添加開始時の反応機内温は、好ましくは65~90℃、より好ましくは70~85℃、更に好ましくは75~85℃である。
第一の反応混合物に、更に第二のアルキル化剤及び/又は第二のヒドロキシアルキル化剤を配合する場合の配合時間、好ましくは第一の反応混合物に更に、第二のアルキル化剤及び/又は第二のヒドロキシアルキル化剤を添加するときの添加時間は、生産性の観点から、好ましくは3~60分間であり、より好ましくは5~40分間である。
【0046】
第二のエーテル化剤を使用しない場合は、第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合した後、第二のエーテル化剤(第二のアルキル化剤及び/又は第二のヒドロキシアルキル化剤)を使用する場合は、第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液及び当該エーテル化剤の配合後は、エーテル化反応を完了させるために、撹拌混合を続けることにより、第二の反応混合物を得る。反応を終了させるためには、それぞれの配合後に加熱することが好ましい。それぞれの場合の配合後における撹拌混合時の反応機内温は、反応制御性の点から、好ましくは80~120℃、より好ましくは85~100℃である。それぞれの場合の配合後における撹拌混合時間は、生産性の点から、好ましくは10~60分間、より好ましくは20~40分間である。
【0047】
第一の反応混合物と、第二のアルカリ金属水酸化物溶液、第二のアルキル化剤及び第二のヒドロキシアルキル化剤との配合の態様としては、
(1)第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合して第二の反応混合物を得る態様;
(2)第一の反応混合物に第二のアルキル化剤及び第二のヒドロキシアルキル化剤のいずれか一方又は両方を配合した後、第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合して第二の反応混合物を得る態様;
(3)第一の反応混合物に第二のアルキル化剤を配合した後に、第二のヒドロキシアルキル化剤を配合し、次に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合して第二の反応混合物を得る態様;
(4)第一の反応混合物に第二のヒドロキシアルキル化剤を配合した後に、第二のアルキル化剤を配合し、次に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合して第二の反応混合物を得る態様;
(5)第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合した後、第二のアルキル化剤及び第二のヒドロキシアルキル化剤のいずれか一方又は両方を配合して第二の反応混合物を得る態様;
(6)第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合した後、第二のアルキル化剤を配合し、次に第二のヒドロキシアルキル化剤を配合して第二の反応混合物を得る態様;
(7)第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合した後、第二のヒドロキシアルキル化剤を配合し、次に第二のアルキル化剤を配合して第二の反応混合物を得る態様;
(8)第一の反応混合物に第二のアルキル化剤を配合した後に、第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合し、次に第二のヒドロキシアルキル化剤を配合して第二の反応混合物を得る態様;
(9)第一の反応混合物に第二のヒドロキシアルキル化剤を配合した後に、第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合し、次に第二のアルキル化剤を配合して第二の反応混合物を得る態様;
(10)第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液と、第二のアルキル化剤又は第二のヒドロキシアルキル化剤とを配合して第二の反応混合物を得る態様;
(11)第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液及び第二のアルキル化剤を配合した後に、第二のヒドロキシアルキル化剤を配合して第二の反応混合物を得る態様;
(12)第一の反応混合物に、第二のアルカリ金属水酸化物溶液及び第二のヒドロキシアルキル化剤を配合した後に、第二のアルキル化剤を配合して第二の反応混合物を得る態様;
(13)第一の反応混合物に、第二のアルカリ金属水酸化物溶液及び第二のヒドロキシアルキル化剤の両方と、第二のアルキル化剤とを配合して第二の反応混合物を得る態様が挙げられる。
高い貯蔵弾性率G'(80℃)のヒドロキシアルキルアルキルセルロースを得る観点及び操作の煩雑性を減らす観点から、(1)第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合した後、第二の反応混合物を得る態様と、(13)第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液及び第二のヒドロキシアルキル化剤の両方と、第二のアルキル化剤とを配合して第二の反応混合物を得る態様が好ましく、(1)第一の反応混合物に第二のアルカリ金属水酸化物溶液を配合した後、第二の反応混合物を得る態様が特に好ましい。
【0048】
次に、得られた第二の反応混合物を精製してヒドロキシアルキルアルキルセルロースを得る工程を説明する。
得られた第二の反応混合物は、通常の粗ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの精製方法と同様に精製して、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとすることができる。精製方法は、例えば、第二の反応混合物と60~100℃の水を撹拌容器で混合してスラリーとし、撹拌容器中で反応の際に副反応物として発生した塩を溶解し、次いで所望の精製されたセルロースエーテルを得るため、スラリーを分離操作にかけ、塩を除去する方法で行われる。分離操作には、例えば、加圧回転式フィルターを使用することができる。
分離操作後は、乾燥機を用いて乾燥を行う。乾燥機には、例えば、伝導伝熱式溝型撹拌乾燥機を使用することができる。
【0049】
得られたヒドロキシアルキルアルキルセルロースは、必要であれば、例えば、ボールミル、ローラーミル、衝撃粉砕機のような通常の粉砕装置を用いて所望の粒子径に粉砕することができ、続いて篩で分級することで、粒度を調整することができる。
【0050】
得られたヒドロキシアルキルアルキルセルロースのアルキルコキシ基の置換度(DS)は、高い熱ゲル強度と未溶解繊維数の低減を両立する観点から、好ましくは1.60~2.00であり、より好ましくは1.65~1.95であり、更に好ましくは、1.70~1.95、特に好ましくは1.80~1.95である。また、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのヒドロキシアルコキシ基のモル置換度(MS)は、所望の熱ゲル強度及び熱ゲル化温度を得る観点から、好ましくは0.03~0.35であり、より好ましくは0.05~0.30、更に好ましくは0.15~0.30、特に好ましくは0.15~0.27である。
なお、第一の反応混合物と第二のアルカリ金属水酸化物溶液を混合することによって、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのアルコキシ基の置換度(DS)は上昇するが、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのヒドロキシアルコキシ基(MS)は、第一の反応混合物と第二のアルカリ金属水酸化物溶液を混合以降、アルコキシ基の置換度(DS)に比べて上昇幅は小さい。
【0051】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースが挙げられる。
ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、メトキシ基の置換度(DS)が好ましくは1.60~2.00であり、より好ましくは1.65~1.95であり、更に好ましくは、1.70~1.95、特に好ましくは1.80~1.95であり、かつ、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)が好ましくは0.03~0.35、より好ましくは0.05~0.30、更に好ましくは0.15~0.30、特に好ましくは0.15~0.27である。
ヒドロキシエチルメチルセルロースは、メトキシ基の置換度(DS)が好ましくは1.60~2.00であり、より好ましくは1.65~1.95であり、更に好ましくは、1.70~1.95、特に好ましくは1.80~1.95であり、かつ、ヒドロキシエトキシ基のモル置換度(MS)が好ましくは0.03~0.35、より好ましくは0.05~0.30、更に好ましくは0.15~0.30、特に好ましくは0.15~0.27である。
【0052】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%水溶液の粘度は、用途に適した粘性又は高い熱ゲル強度と少ない未溶解繊維数を両立する観点から、好ましくは1000~200,000mPa・s、より好ましくは1000~100,000mPa・s、更に好ましくは1000~20,000mPa・s、特に好ましくは1000~10,000mPa・sである。ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%水溶液の粘度は、第17改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計法に従い単一円筒型回転粘度計を用いて測定することができる。
【0053】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの80℃における2.0質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)は、バインダーとして、坏土の保形性を向上させる観点から、好ましくは5~200Pa、より好ましくは8~150Pa、更に好ましくは10~100Pa、特に好ましくは、10~30Paである。一般に貯蔵弾性率は、溶液の弾性成分、つまり物体に力を加えているときに生じた変形が、力を除くと元に戻る性質の成分を表し、熱ゲル強度の指標となる。
【0054】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロース2.0質量%水溶液の調製は、以下のようにして行う。ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの換算した乾燥物6.00gに対応する量を広口瓶(直径65mm及び高さ120mmの350ml用容器)に正確に量り、熱湯(98℃)を加えて300.0gとし、容器に蓋をした後、かき混ぜ機を用いて均一な分散液となるまで毎分350~450回転で20分間かき混ぜる。その後、5℃以下の水浴中で40分間かき混ぜながら溶解し、試料溶液とする。
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの80℃における2.0質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)は、例えば、Anton Paar社のレオメータであるMCR500、MCR501、MCR502を用いて測定できる。
レオメータの試料測定部を、予め30℃に温調しておき、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース2.0質量%水溶液をCC27測定カップ(直径30mm及び高さ80mmの円筒状容器)の標線(25ml)まで注ぎ入れ、周波数を1Hzとし、振幅0.5%のひずみをかけ測定を開始する。試料測定部は毎分2℃ずつ80℃まで昇温させる。データは毎分2点収集する。この測定で得られる貯蔵弾性率G'は測定系の温度が上昇するに従い値が変化し、測定系の温度が80℃となったときの貯蔵弾性率を本発明の貯蔵弾性率G'(80℃)とした。
【0055】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの25℃における0.1質量%水溶液2ml中でコールターカウンター法により測定した時の8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数は、製品の品質の観点から、好ましくは2500個以下、より好ましくは500~1800個、更に好ましくは500~1600個である。
コールターカウンター法による未溶解繊維数は、具体的には、まず、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースを0.1質量%水溶液となるようにコールターカウンター用電解質水溶液ISOTON II(ベックマン・コールター社製)の恒温槽内に、25℃で溶解する。次に、この水溶液2ml中に存在する8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、コールターカウンターTA II型(ベックマン・コールター社製)により測定する。
【実施例0056】
以下に、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
パインを樹種としたパルプで細孔体積が0.84ml/g、パルプ密度が0.58g/ml、パルプの固有粘度が5.9dl/g、シート状パルプを、第一のアルカリ金属水酸化物溶液として20℃の49質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後、圧搾することにより余剰の49質量%水酸化ナトリウム水溶液を除去し、アルカリセルロース(以下、「出発アルカリセルロース」とも称する。)を得た。シート状パルプと49質量%水酸化ナトリウム水溶液との接触時間は30秒であり、浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液とパルプ中の固体成分との質量比(水酸化ナトリウム溶液/パルプ中の固体成分)は、20[kg/kg]であった。また、得られたアルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は、2.95[mol/mol]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.66であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を複数回行い、十分に反応機内の酸素を除去した。次に、反応機内温を60℃となるように、温調しながら内部を撹拌し、続いて、ジメチルエーテルを2.2kg添加し、反応機内温が60℃を保持するように温調した。ジメチルエーテル添加後、反応機内温を60℃から80℃に昇温しながら、第一のアルキル化剤である塩化メチルを用い、出発アルカリセルロースにおけるセルロースの無水グルコース単位1モルあたりの第一の塩化メチルのモル量が5.81[mol/mol]となるように、60分間かけて添加した。塩化メチルの添加開始と同時に、第一のヒドロキシアルキル化剤である酸化プロピレンを用い、出発アルカリセルロースにおけるセルロースの無水グルコース単位1モルあたりの第一の酸化プロピレンのモル量が1.34[mol/mol]となるように、10分間かけてそれぞれ添加し、第一の反応混合物とした。
第一の塩化メチルの添加完了に続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が1.52[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度3.04[mol/mol・hr]で第二の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の反応混合物とした。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加開始時の反応機内温は80℃であり、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を18.0℃/hrにて昇温させた。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は89℃であった。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了後、撹拌を30分間継続して行って、エーテル化反応を完了させた。
得られた第二の反応混合物を95℃の熱水を添加してスラリー化した後、ロータリープレッシャーフィルターを用いて洗浄し、続いて、送風乾燥機で乾燥し、更に衝撃粉砕機であるビクトリーミルで粉砕し、篩で分級を行った後、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、20℃における2質量%水溶液の粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。
【0057】
実施例2
ヘムロックを樹種としたパルプで細孔体積が0.70ml/g、パルプ密度が0.72g/ml、パルプの固有粘度が13.0dl/g、のチップ状パルプを用いた以外は実施例1と同様の方法でアルカリセルロースを得た。パルプと49質量%水酸化ナトリウム水溶液との接触時間は48秒であり、浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液とパルプ中の固体成分との質量比(水酸化ナトリウム溶液/パルプ中の固体成分)は、180[kg/kg]であった。また、得られたアルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は3.04[mol/mol]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.66であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を1回行い、反応機内の酸素を除去した。その後は、第一のメチル化剤として塩化メチルを出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一のアルキル化剤のモル量(モル比)を6.00[mol/mol]とする以外は、実施例1と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が1.57[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度3.14[mol/mol・hr]で水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を16.1℃/hrにて昇温させ、第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は90.7℃とした以外は実施例1と同様に行った。
得られた第二の反応混合物は実施例1の方法と同様に精製、粉砕してヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。
【0058】
実施例3
ヘムロックを樹種としたパルプで細孔体積が0.70ml/g、パルプ密度が0.72g/ml、パルプの固有粘度が13.0dl/gのシート状パルプを用いた以外は実施例1と同様の方法でアルカリセルロースを得た。パルプと49質量%水酸化ナトリウム水溶液との接触時間は55秒であり、浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液とパルプ中の固体成分との質量比(水酸化ナトリウム溶液/パルプ中の固体成分)は、20[kg/kg]であった。また、得られたアルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は3.35[mol/mol]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.740であった。
得られたアルカリセルロースは、第一のメチル化剤として塩化メチルを出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたり第一のメチル化剤のモル比を6.00[mol/mol]とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
第一の塩化メチルの添加完了に続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が1.18[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度2.83[mol/mol・hr]で水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を18.0℃/hrにて昇温させ、第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加開始時の反応機内温は79℃、第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は91℃とした以外は実施例1と同様に行った。
得られた第二の反応混合物を実施例1の方法と同様に精製、粉砕して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。
【0059】
実施例4
スプルースを樹種としたパルプで細孔体積が0.56ml/g、パルプ密度が0.76g/ml、パルプの固有粘度が13.5dl/g、のチップ状パルプを用いた以外は実施例1と同様の方法でアルカリセルロースを得た。パルプと49質量%水酸化ナトリウム水溶液との接触時間は68秒であり、浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液とパルプ中の固体成分との質量比(水酸化ナトリウム溶液/パルプ中の固体成分)は、180[kg/kg]であった。また、得られたアルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は2.95[mol/mol]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.66であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を1回行い、反応機内の酸素を除去した。その後は実施例1と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が1.54[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度3.08[mol/mol・hr]で水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を18.0℃/hrにて昇温させ、第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は90.5℃とした以外は実施例1と同様に行った。
得られた第二の反応混合物は実施例1の方法と同様に精製、粉砕してヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。
【0060】
実施例5
スプルースを樹種としたパルプで細孔体積が0.56ml/g、パルプ密度が0.76g/ml、パルプの固有粘度が13.5dl/g、のシート状パルプを用いた以外は実施例1と同様の方法でアルカリセルロースを得た。パルプと49質量%水酸化ナトリウム水溶液との接触時間は73秒であり、浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液とパルプ中の固体成分との質量比(水酸化ナトリウム溶液/パルプ中の固体成分)は、20[kg/kg]であった。また、得られたアルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は2.95[mol/mol]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.66であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を1回行い、反応機内の酸素を除去した。その後は実施例1と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が1.54[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度3.08[mol/mol・hr]で水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を19.0℃/hrにて昇温させ、第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は91.0℃とした以外は実施例1と同様に行った。
得られた第二の反応混合物は実施例1の方法と同様に精製、粉砕してヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。
【0061】
実施例6
パインを樹種としたパルプで細孔体積が0.84ml/g、パルプ密度が0.58g/ml、パルプの固有粘度が5.9dl/g、のチップ状パルプを用いた以外は、実施例1と同様の方法によってアルカリセルロースを得た。チップ状パルプと49質量%水酸化ナトリウム水溶液との接触時間は35秒であり、浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液とパルプ中の固体成分との質量比(水酸化ナトリウム溶液/パルプ中の固体成分)は、180[kg/kg]であった。また、得られたアルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は3.20[mol/mol]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.75であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を複数回行い、十分に反応機内の酸素を除去した。その後は、第一のメチル化剤として塩化メチルを出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一のアルキル化剤のモル量(モル比)を5.55[mol/mol]とし、第一のヒドロキシアルキル化剤として酸化プロピレンを用い、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一の酸化プロピレンのモル量(モル比)を0.67[mol/mol]とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が1.07[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度2.92[mol/mol・hr]で水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を15.9℃/hrにて昇温させ、第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は89.3℃とした以外は実施例1と同様に行った。
得られた第二の反応混合物は実施例1の方法と同様に精製、粉砕してヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。
【0062】
実施例7
パインを樹種としたパルプで細孔体積が0.93ml/g、パルプ密度が0.61g/ml、パルプの固有粘度が8.2dl/g、のシート状パルプを用いた以外は、実施例1と同様の方法によってアルカリセルロースを得た。パルプと49質量%水酸化ナトリウム水溶液との接触時間は25秒であり、浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液とパルプ中の固体成分との質量比(水酸化ナトリウム溶液/パルプ中の固体成分)は、20[kg/kg]であった。また、得られたアルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は2.95[mol/mol]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.66であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を複数回行い、十分に反応機内の酸素を除去した。その後は実施例1と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
続いて、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が1.52[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度3.04[mol/mol・hr]で第二の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を21.4℃/hrで昇温させ、第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は90.7℃とした以外は、実施例1と同様に行った。
得られた第二の反応混合物を実施例1の方法と同様に精製、粉砕しての処理を行い、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。
【0063】
比較例1
パルプ密度が0.58g/ml、固有粘度が5.9dl/gであるウッドパルプを粉砕機で粉砕し、粉末状セルロースパルプを得た。この粉末セルロースパルプのうち、セルロース分で6.0kgに相当する量のセルロースパルプを、ジャケット付き内部撹拌式耐圧反応機に仕込み、真空窒素置換1回を行い、反応機内の酸素を除去した。次に、反応機内温を60℃となるように、温調しながら内部を撹拌し、第一のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が2.68[mol/mol]となるように、出発セルロースパルプにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度10.72[mol/mol・hr]で第一の水酸化ナトリウム水溶液を添加して、第一のアルカリセルロース(以下、「出発アルカリセルロース」とも称する。)とした。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.60であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を複数回行い、十分に反応機内の酸素を除去した。その後は実施例1と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
第一の塩化メチルの添加完了に続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が1.79[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度3.58[mol/mol・hr]で第二の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の反応混合物とした。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加開始時の反応機内温は80.5℃であり、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を19.0℃/hrで昇温させた。第二の水酸化ナトリウム水溶液の仕込み完了時の反応機内温は90℃であった。第二の水酸化ナトリウム水溶液の仕込み完了後、撹拌を30分間継続して行ってエーテル化反応を完了させた。第一と第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第一と第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量の比は0.6であった。
得られた第二の反応混合物を実施例1の方法と同様に精製、粉砕して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。実施例1と比較して、貯蔵弾性率G'(80℃)は大きくなったものの、未溶解繊維数も多いものとなった。
【0064】
比較例2
アルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が3.66[mol/mol]となるように、出発セルロースパルプにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度14.64[mol/mol・hr]で第一の水酸化ナトリウム水溶液を添加する以外は、比較例1と同様の方法で第一のアルカリセルロースとした。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.80であった。
得られたアルカリセルロースは、第一のアルキル化剤として塩化メチルを用い、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一の塩化メチルのモル量(モル比)を5.93[mol/mol]とし、第一のヒドロキシアルキル化剤として酸化プロピレンを用い、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一の酸化プロピレンのモル量(モル比)を1.35[mol/mol]とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
第一の塩化メチルの添加完了に続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が0.92[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度1.82[mol/mol・hr]で第二の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の反応混合物とした。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加開始時の反応機内温は79.5℃であり、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を25.0℃/hrにて昇温させた。第二の水酸化ナトリウム水溶液の仕込み完了時の反応機内温は92.0℃であった。第二の水酸化ナトリウム水溶液の仕込み完了後、撹拌を30分間継続して行ってエーテル化反応を完了させた。
得られた第二の反応混合物を実施例1の方法と同様に精製、粉砕して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。実施例1と比較して、貯蔵弾性率G'(80℃)は同程度であったものの、未溶解繊維数は多いものとなった。
【0065】
比較例3
スプルースを樹種としたパルプで細孔体積が1.25ml/g、パルプ密度が0.47g/ml、パルプの固有粘度が13.5dl/gのシート状パルプを、第一のアルカリ金属水酸化物溶液として20℃の49質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後、圧搾することにより余剰の49質量%水酸化ナトリウム水溶液を除去し、アルカリセルロースを得た。パルプと49質量%水酸化ナトリウム水溶液との接触時間は10秒であり、これ以上酸化ナトリウム水溶液を接触させてから圧搾により脱液されるまでの時間を短くすることは困難であった。浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液/パルプ中の固体成分質量比は、20[kg/kg]であった。得られたアルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は3.70[mol/mol]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.85であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を1回行い、反応機内の酸素を除去した。以降は、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一の塩化メチルのモル量(モル比)を5.65[mol/mol]とし、第一のヒドロキシアルキル化剤として酸化プロピレンを出発アルカリセルロースにおける、セルロースの無水グルコース単位1モルあたりの第一の酸化プロピレンのモル量(モル比)を1.38[mol/mol]とする以外は、実施例1と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
第一の塩化メチルの添加完了に続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が0.65[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度1.30[mol/mol・hr]で第二の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の反応混合物とした。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加開始時の反応機内温は80.5℃であり、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を18.0℃/hrにて昇温させた。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は89.5℃であった。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了後、撹拌を30分間継続して行ってエーテル化反応を完了させた。
得られた第二の反応混合物を実施例1の方法と同様に精製、粉砕して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。実施例3と比較して、未溶解繊維数は少ないものの、貯蔵弾性率G'(80℃)が低いものとなった。
【0066】
比較例4
スプルースを樹種としたパルプで細孔体積が1.12ml/g、パルプ密度が0.55g/ml、パルプの固有粘度が7.0dl/gのチップ状パルプを用いること以外は比較例3と同様の方法でアルカリセルロースを得た。浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液/パルプ中の固体成分質量比は、180[kg/kg]であった。得られたアルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は3.66[mol/mol]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.849であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を1回行い、反応機内の酸素を除去した。出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一の塩化メチルのモル量(モル比)を4.44[mol/mol]とし、出発アルカリセルロースにおける、セルロースの無水グルコース単位1モルあたりの第一の酸化プロピレンのモル量(モル比)が0.67[mol/mol]とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
第一の塩化メチルの添加完了に続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける、セルロースの無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が0.65[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度1.30[mol/mol・hr]で第二の水酸化ナトリウム水溶液を添加した。第二のアルカリ金属水酸化物溶液の添加と同時に、第二のアルキル化剤として塩化メチルを用いて、出発アルカリセルロースにおける、セルロースの無水グルコース単位1モルあたりの第二の塩化メチルのモル量(モル比)が1.16[mol/mol]となるように15分間かけて添加し、第二の反応混合物とした。ここで、第一と第二のアルキル化剤の合計モル量に対する第二のアルキル化剤のモル量(モル比)は0.2であった。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加開始時の反応機内温は80.5℃であり、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を18.0℃/hrにて昇温させた。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は89.5℃であった。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了後実施例1と同様の方法によってエーテル化反応を完了させた。第一と第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第一と第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量の比は0.85であった。
得られた第二の反応混合物を実施例1の方法と同様に精製、粉砕して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。実施例2と比較して、未溶解繊維数は少ないものの、貯蔵弾性率G'(80℃)が低いものとなった。
【0067】
比較例5
スプルースを樹種としたパルプで細孔体積が1.15ml/g、パルプ密度が0.50g/ml、パルプの固有粘度が10.0dl/gのチップ状パルプを用いること以外は、比較例3と同様の方法でアルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は3.68[mol/mol]であった。浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液/パルプ中の固体成分質量比は、180[kg/kg]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.850であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を複数回行い、十分に反応機内の酸素を除去した。その後比較例3と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
第一の塩化メチルの添加完了に続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける、セルロースの無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が0.65[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度1.30[mol/mol・hr]で第二の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の反応混合物とした。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加開始時の反応機内温は80.5℃であり、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を18.0℃/hrで昇温させた。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は89.5℃であった。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了後実施例1と同様の方法によってエーテル化反応を完了させた。第一と第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第一と第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量の比は0.85であった。
得られた第二の反応混合物を実施例1の方法と同様に精製、粉砕して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。実施例2と比較して、未溶解繊維数は少ないものの、貯蔵弾性率G'(80℃)が低いものとなった。
【0068】
比較例6
スプルースを樹種としたパルプで細孔体積が1.15ml/g、パルプ密度が0.50g/ml、パルプの固有粘度が10.0dl/gのシート状パルプを用いること以外は、比較例3と同様の方法でアルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は3.68[mol/mol]であった。浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液/パルプ中の固体成分質量比は、180[kg/kg]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.850であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を複数回行い、十分に反応機内の酸素を除去した。その後比較例3と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
第一の塩化メチルの添加完了に続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける、セルロースの無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が0.65[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度1.30[mol/mol・hr]で第二の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の反応混合物とした。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加開始時の反応機内温は80.5℃であり、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を19.0℃/hrで昇温させた。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は90.5℃であった。第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了後実施例1と同様の方法によってエーテル化反応を完了させた。第一と第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第一と第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量の比は0.85であった。
得られた第二の反応混合物を実施例1の方法と同様に精製、粉砕して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。実施例3と比較して、未溶解繊維数は少ないものの、貯蔵弾性率G'(80℃)が低いものとなった。
【0069】
比較例7
スプルースを樹種としたパルプで細孔体積が0.49ml/g、パルプ密度が0.76g/ml、パルプの固有粘度が15.0dl/g、のチップ状パルプを用いた以外は実施例1と同様の方法でアルカリセルロースを得た。パルプと49質量%水酸化ナトリウム水溶液との接触時間は80秒であり、浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液とパルプ中の固体成分との質量比(水酸化ナトリウム溶液/パルプ中の固体成分)は、20[kg/kg]であった。また、得られたアルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は2.95[mol/mol]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.66であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を1回行い、反応機内の酸素を除去した。その後は実施例1と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が1.54[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度3.04[mol/mol・hr]で水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を19.0℃/hrにて昇温させ、第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は90.0℃とした以外は実施例1と同様に行った。
得られた第二の反応混合物は実施例1の方法と同様に精製、粉砕してヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。実施例4と比較して未溶解繊維数は多いものとなった。
【0070】
比較例8
スプルースを樹種としたパルプで細孔体積が0.49ml/g、パルプ密度が0.76g/ml、パルプの固有粘度が15.0dl/g、のチップ状パルプを用いた以外は実施例1と同様の方法でアルカリセルロースを得た。パルプと49質量%水酸化ナトリウム水溶液との接触時間は85秒であり、浸漬工程における49質量%水酸化ナトリウム水溶液とパルプ中の固体成分との質量比(水酸化ナトリウム溶液/パルプ中の固体成分)は、180[kg/kg]であった。また、得られたアルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第一の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)は2.95[mol/mol]であった。第一の水酸化ナトリウム水溶液中の第一の水酸化ナトリウムと、後述の第二の水酸化ナトリウム水溶液中の第二の水酸化ナトリウムの合計質量に対する第一の水酸化ナトリウムの質量比は0.66であった。
得られたアルカリセルロース11.6kgをジャケット付内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空窒素置換を1回行い、反応機内の酸素を除去した。その後は実施例1と同様の方法を用いて第一の反応混合物とした。
続いて、第二のアルカリ金属水酸化物溶液として49質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い、出発アルカリセルロースにおける、無水グルコース単位1モルあたりの第二の水酸化ナトリウムのモル量(モル比)が1.54[mol/mol]となるように、出発アルカリセルロースにおける無水グルコース単位1モルあたりの添加速度3.04[mol/mol・hr]で水酸化ナトリウム水溶液を添加し、第二の水酸化ナトリウム水溶液添加開始から完了までの間、反応機内温を18.0℃/hrにて昇温させ、第二の水酸化ナトリウム水溶液の添加完了時の反応機内温は90.5℃とした以外は実施例1と同様に行った。
得られた第二の反応混合物は実施例1の方法と同様に精製、粉砕してヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実験条件を表1に示す。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基(DS)、ヒドロキシプロポキシ基(MS)、2質量%水溶液の20℃における粘度、80℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%水溶液の貯蔵弾性率G'(80℃)、直径400μmのアパーチャーチューブを用いて、25℃における0.1質量%水溶液2ml中で測定したときの8~200μmのサイズを有する未溶解繊維数を表2に示す。実施例5と比較して未溶解繊維数は多いものとなった。
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