(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147298
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法および磁性粉
(51)【国際特許分類】
H01F 1/11 20060101AFI20231005BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20231005BHJP
G11B 5/706 20060101ALI20231005BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01F1/11
C01G49/00 C
C01G49/00 E
C01G49/00 D
G11B5/706
G11B5/84 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054711
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】越湖 将貴
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 暁史
(72)【発明者】
【氏名】宮本 靖人
【テーマコード(参考)】
4G002
5D006
5D112
5E040
【Fターム(参考)】
4G002AA06
4G002AA08
4G002AA09
4G002AA10
4G002AB02
4G002AD04
4G002AE03
5D006BA06
5D006BA08
5D006EA01
5D006FA09
5D112AA05
5D112AA22
5D112BB04
5D112BB06
5D112BB11
5E040AB05
5E040AB09
5E040CA06
5E040HB09
5E040HB11
5E040HB15
5E040HB17
5E040NN02
5E040NN06
5E040NN12
5E040NN13
5E040NN15
5E040NN17
5E040NN18
(57)【要約】
【課題】微細化された六方晶バリウムフェライト磁性粉において、保磁力Hcと結晶磁気異方性定数Kuとを同時に向上させる。
【解決手段】六方晶バリウムフェライト磁性粉の構成元素を含む前駆物質に結晶化熱処理を施すことによって六方晶バリウムフェライト結晶を合成する結晶化工程を含む、六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法において、
前記前駆物質として、大気雰囲気中で常温から700℃以上の温度まで昇温速度10℃/分で昇温させる熱重量測定に供したときの300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率が0.08%以下であり、かつ飽和磁化σsが5.0Am
2/kg以下であるものを用いる、六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶バリウムフェライト磁性粉の構成元素を含む前駆物質に結晶化熱処理を施すことによって六方晶バリウムフェライト結晶を合成する結晶化工程を含む、六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法において、
前記前駆物質として、大気雰囲気中で常温から700℃以上の温度まで昇温速度10℃/分で昇温させる熱重量測定に供したときの300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率が0.08%以下であり、かつ飽和磁化σsが5.0Am2/kg以下であるものを用いる、六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法。
【請求項2】
前記前駆物質は、六方晶バリウムフェライト磁性粉の構成元素を含む溶融物を急冷する方法で得られた非晶質体に、酸化性雰囲気中で450~560℃の温度範囲に保持する予備熱処理を施すことによって得られた物質である、請求項1に記載の六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法。
【請求項3】
前記前駆物質は、六方晶バリウムフェライト磁性粉の構成元素を含む溶融物を急冷する方法で得られた非晶質体に、酸化性雰囲気中で450~560℃の温度範囲に保持する予備熱処理を、450~560℃での平均保持温度Tm(℃)と保持時間t(h)の関係が下記(1)式を満たす条件で施すことによって得られた物質である、請求項1に記載の六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法。
t(h)≧0.0005×exp[8720/(273+Tm(℃))] …(1)
【請求項4】
前記溶融物は、非晶質形成成分としてBaおよびBを含有するものである、請求項2または3に記載の六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法。
【請求項5】
前記結晶化工程において、結晶化熱処理を600~700℃で行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法。
【請求項6】
前記六方晶バリウムフェライト磁性粉は、Bi/Feモル比0.005~0.05の範囲でBiを含有するものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法。
【請求項7】
化学式AO・6Fe2O3を基本構造とする六方晶フェライトのA元素がBaであり、Co/Feモル比が0.005以上であり、[Feサイト置換元素の総含有量(モル)]/[Fe含有量(モル)]の比が0~0.06である六方晶フェライト粒子で構成される磁性粉であって、下記(2)式で表されるDx体積が1100~2000nm3であり、保磁力Hc(kA/m)とDx体積(nm3)の関係が下記(3)式を満たし、結晶磁気異方性定数Ku(MJ/m3)とDx体積(nm3)の関係が下記(4)式を満たす、六方晶バリウムフェライト磁性粉。
Dx体積(nm3)=Dxc×π×(Dxa/2)2 …(2)
ここで、Dxcは六方晶フェライト結晶格子のc軸方向の結晶子径(nm)、Dxaは同結晶格子のa軸方向の結晶子径(nm)、πは円周率である。
Hc(kA/m)>0.11×Dx体積(nm3)-20 …(3)
Ku(MJ/m3)>3.083×10-5×Dx体積(nm3)+0.079 …(4)
【請求項8】
化学式AO・6Fe2O3を基本構造とする六方晶フェライトのA元素がBaであり、Co/Feモル比が0.005以上であり、[Feサイト置換元素の総含有量(モル)]/[Fe含有量(モル)]の比が0~0.06である六方晶フェライト粒子で構成される磁性粉であって、下記(2)式で表されるDx体積が1100~2000nm3であり、保磁力Hc(kA/m)とDx体積(nm3)の関係が下記(3)式を満たし、結晶磁気異方性定数Ku(MJ/m3)とDx体積(nm3)の関係が下記(5)式を満たす、六方晶バリウムフェライト磁性粉。
Dx体積(nm3)=Dxc×π×(Dxa/2)2 …(2)
ここで、Dxcは六方晶フェライト結晶格子のc軸方向の結晶子径(nm)、Dxaは同結晶格子のa軸方向の結晶子径(nm)、πは円周率である。
Hc(kA/m)>0.11×Dx体積(nm3)-20 …(3)
Ku(MJ/m3)>3.083×10-5×Dx体積(nm3)+0.083 …(5)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の高密度記録に適したマグネトプランバイト型(M型)六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法に関する。また、保磁力Hcと結晶磁気異方性定数Kuが同時に改善されたマグネトプランバイト型(M型)六方晶バリウムフェライト磁性粉に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体に用いる高密度記録に適した磁性粉として、M型六方晶バリウムフェライト磁性粉が知られている。記録密度向上の観点からは、磁性粒子の微細化(後述Dx体積の微小化)が有利となる。しかし、一般に磁性粒子のサイズが小さくなると保磁力Hcは低下する。すなわち、磁性粒子の微細化と高保磁力化とはトレードオフの関係にある。
【0003】
特許文献1には、六方晶フェライト磁性粉の微粒子化に伴いSFD(保磁力分布)が増大するという問題に鑑み(段落0004)、過度に微細な粒子の少ない粒度分布を有する六方晶フェライト磁性粉の製造技術が開示されている。それによると、核を析出させる第一の熱処理工程と、析出した核を成長させる第二の熱処理工程の2段階の熱処理が有効であるという(段落0021~0022)。具体的には、ガラス結晶化法において、第一の熱処理工程を500℃×30時間とし、第二の熱処理工程を780℃×2時間(実施例1)あるいは850℃×2時間(実施例2)とした例や、第一の熱処理工程を400℃×10時間とし、第二の熱処理工程を780℃×2時間とした例(実施例3)が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気記録媒体の信頼性を向上させる観点からは、保磁力の高い磁性体を適用することが有利となる。ただし、磁性体の保磁力が磁気ヘッドの能力を超えて過度に高いと消磁が困難となり、記録内容の書き換えができなくなる。磁気記録媒体には、使用条件に応じて、できるだけ高い保磁力に調整された磁性体が適用される。一方、磁気記録媒体の性能向上には高記録密度化が重要である。上述のように、高記録密度化には磁性粒子の微細化(後述Dx体積の微小化)が有効であるが、一般に磁性粒子を微細化すると保磁力が低下してしまう。磁性粒子を微細化した場合でも、保磁力ができるだけ高く維持されるような磁性粉の製造技術の確立が望まれる。
【0006】
特許文献1には、昨今の高記録密度化の要求に十分に応えることができるような微細な六方晶フェライト粒子を合成した例は示されていない。また、特許文献1に開示される2段階の熱処理工程による結晶化プロセスを利用して磁性粉の微細化を試みても、微細化に伴う保磁力低下への影響を改善することは困難である。
【0007】
磁気記録媒体の信頼性を向上させるためには、熱的安定性の指標となる結晶磁気異方性定数Kuが高い磁性粉を用いることも重要である。磁性粒子を微細化すると、通常、結晶磁気異方性定数Kuも低下する。磁性粒子を微細化した場合に、微細化の程度が同等(すなわちDx体積が同等)であれば、保磁力Hcと結晶磁気異方性定数Kuが高い磁性粉ほど磁気記録媒体の高記録密度化と信頼性向上の両立に有利となる。本発明は、微細化された六方晶バリウムフェライト磁性粉において、保磁力Hcと結晶磁気異方性定数Kuとを同時に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、六方晶バリウムフェライト磁性粉の構成元素を含む前駆物質に結晶化熱処理を施すことによって六方晶バリウムフェライト結晶を合成する結晶化工程を含む、六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法において、
前記前駆物質として、大気雰囲気中で常温から700℃以上の温度まで昇温速度10℃/分で昇温させる熱重量測定に供したときの300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率が0.08%以下であり、かつ飽和磁化σsが5.0Am2/kg以下であるものを用いる、六方晶バリウムフェライト磁性粉の製造方法によって達成される。
【0009】
前記前駆物質としては、六方晶バリウムフェライト磁性粉の構成元素を含む溶融物、より具体的には非晶質形成成分としてBaおよびBを含有する溶融物を、急冷する方法で得られた非晶質体に、酸化性雰囲気中で450~560℃の温度範囲に保持する予備熱処理を施すことによって得られた物質を適用することができる。前記予備熱処理は、例えば450~560℃での平均保持温度Tm(℃)と保持時間t(h)の関係が下記(1)式を満たす条件で施すことがより効果的である。
t(h)≧0.0005×exp[8720/(273+Tm(℃))] …(1)
【0010】
前記結晶化工程において、結晶化熱処理は例えば600~700℃で行うことができる。前記六方晶バリウムフェライト磁性粉は、Bi/Feモル比0.005~0.05の範囲でBiを含有するものであっても構わない。
【0011】
また本発明では、上記の製造方法によって得られる好ましい磁性粉として、化学式AO・6Fe2O3を基本構造とする六方晶フェライトのA元素がBaであり、Co/Feモル比が0.005以上であり、[Feサイト置換元素の総含有量(モル)]/[Fe含有量(モル)]の比が0~0.06である六方晶フェライト粒子で構成される磁性粉であって、下記(2)式で表されるDx体積が1100~2000nm3であり、保磁力Hc(kA/m)とDx体積(nm3)の関係が下記(3)式を満たし、結晶磁気異方性定数Ku(MJ/m3)とDx体積(nm3)の関係が下記(4)式を満たす、六方晶バリウムフェライト磁性粉が提供される。その(4)式に代えて、下記(5)式を満たす六方晶バリウムフェライト磁性粉がより好適な対象となる。
Dx体積(nm3)=Dxc×π×(Dxa/2)2 …(2)
ここで、Dxcは六方晶フェライト結晶格子のc軸方向の結晶子径(nm)、Dxaは同結晶格子のa軸方向の結晶子径(nm)、πは円周率である。
Hc(kA/m)>0.11×Dx体積(nm3)-20 …(3)
Ku(MJ/m3)>3.083×10-5×Dx体積(nm3)+0.079 …(4)
Ku(MJ/m3)>3.083×10-5×Dx体積(nm3)+0.083 …(5)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Dx体積が例えば2400nm3以下、より好ましくは2000nm3以下であるような微細化された磁性粒子からなる六方晶バリウムフェライト磁性粉において、保磁力Hcと結晶磁気異方性定数Kuの両方を向上させることができた。すなわち、組成および粒子径(Dx体積)が同等である従来の六方晶バリウムフェライト磁性粉と比べ、保磁力Hcと結晶磁気異方性定数Kuの両方を引き上げることができるので、磁気記録媒体の信頼性向上につながる。また、保磁力Hcあるいは結晶磁気異方性定数Kuを所定の特性値に調整する場合には、粒子径を従来よりも微細側に振ることができるので、磁気記録媒体の記録密度向上につながる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】非晶質体(Ref.)およびそれに適正条件の予備熱処理を施して得られた前駆物質について大気雰囲気中で10℃/分で昇温した場合のTG曲線を例示したグラフ。
【
図2】各前駆物質について大気雰囲気中で10℃/分で昇温した場合のTG曲線を例示したグラフ。
【
図3】結晶化熱処理温度と得られた六方晶フェライト磁性粉のDx体積の関係を、使用した前駆物質が区別できるようにプロットしたグラフ。
【
図4】六方晶フェライト磁性粉のDx体積と保磁力Hcの関係を、使用した前駆物質が区別できるようにプロットしたグラフ。
【
図5】六方晶フェライト磁性粉のDx体積と結晶磁気異方性定数Kuの関係を、使用した前駆物質が区別できるようにプロットしたグラフ。
【
図6】予備熱処理の温度と時間の関係をプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[前駆物質]
本発明では、六方晶バリウムフェライト磁性粉の構成元素を含む前駆物質に結晶化熱処理を施すことによって六方晶バリウムフェライト結晶を合成する製造プロセスを採用する。「前駆物質」は、非晶質体に後述の予備熱処理を施すことによって得られる、六方晶フェライトへの結晶化が未完了である物質である。ここでは、飽和磁化σsが5.0Am2/kg以下であることによって特定される前駆物質を適用する。飽和磁化σsが5.0Am2/kg以下であものは六方晶フェライトへの結晶化がほとんど生じていないか、部分的に生じていてもその量は極めて僅かであると考えられる。飽和磁化σsが5.0Am2/kgを超えるような前駆物質を用いると、保磁力Hcの上昇効果を安定して得ることが難しくなる。前駆物質の飽和磁化σsの下限については特に限定されないが、例えば0.1Am2/kg以上の範囲で調整されていればよい。
【0015】
上記のように飽和磁化σsが十分に小さい前駆物質のなかでも、特に、大気雰囲気(空気)中で常温から700℃以上の温度まで昇温速度10℃/分で昇温させる熱重量測定に供したときの300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率が0.08%以下であるものを適用する。ここで、300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率(%)は、100×(700℃の質量(g)-300℃の質量(g))/300℃の質量(g)により算出される。
【0016】
いわゆるガラス結晶化法により非晶質物質を焼成して六方晶フェライトを合成する際、非晶質物質に含まれている2価のFeは、結晶化が達成するまでの過程で3価のFeに酸化される必要がある。上記の700℃まで昇温する熱重量測定で質量増加率が0.08%以下である前駆物質は、2価のFeのほとんどが既に3価にまで酸化されている状態のものであると考えられる。発明者らは、このような前駆物質を六方晶フェライト結晶が生成する温度域に加熱して結晶化させると、2価のFeを含む非晶質体から直接六方晶フェライトを合成していた従来のガラス結晶化法による場合と比べ、得られる磁性粉の粒子径(Dx体積)が同等となる条件において、保磁力Hcと結晶磁気異方性定数Kuの両方を向上させることが可能となることを見出した。
【0017】
[予備熱処理]
上記の前駆物質は、例えば、六方晶バリウムフェライト磁性粉の構成元素を含む非晶質体に、空気などの酸化性雰囲気中で450~560℃の温度範囲に保持する熱処理を施すことによって得ることができる。本明細書ではこの熱処理を「予備熱処理」と呼んでいる。予備熱処理の温度が560℃より高くなると、得られる先駆物質の飽和磁化σsが5.0Am2/kgを超える恐れがある。その場合には保磁力Hcの向上効果が十分に得られない。また、予備熱処理の温度が450℃未満である場合は、非晶質成分に含まれている2価のFeの酸化が不十分となり、保磁力Hcの向上効果が十分に得られない。上記の非晶質体は、従来公知のガラス結晶化法で採用されている非晶質化の手法によって得ることができる。具体的には、非晶質形成成分としてBaおよびBを含有する溶融物を急冷する方法で非晶質化させればよい。
【0018】
予備熱処理においては、上述した熱重量測定での質量増加率が0.08%以下、より好ましくは0.05%以下となる前駆物質が得られるように、450~560℃の温度範囲に保持する時間を調整する。その適正条件は予備実験により設定することができるが、例えば450~560℃での平均保持温度Tm(℃)と保持時間t(h)の関係が下記(1)式を満たす条件を採用することが特に効果的である。
t(h)≧0.0005×exp[8720/(273+Tm(℃))] …(1)
ここで、平均保持温度Tm(℃)は、横軸に時間(h)、縦軸に温度(℃)をとったグラフに表されるヒートカーブおいて温度が450~560℃の範囲にあるときの時間平均温度として捉えることができる。後述の実施例など、一定温度の炉内で保持する場合は、その保持温度を平均保持温度Tmとみなすことができる。
【0019】
図1に、後述の実施例と類似組成の非晶質体(Ref.)、およびその非晶質体に適正条件の予備熱処理(490℃×72h、510℃×72h)を施して得られた前駆物質について大気雰囲気中で10℃/分で昇温した場合のTG曲線を例示する。非晶質体(Ref.)では300~700℃の間で大幅な質量増加が見られる。これは、非晶質体(Ref.)には2価のFeが存在しており、その2価のFeが3価に酸化されたことに伴う質量増加であると考えられる。一方、適正条件で予備熱処理を受けた前駆物質では、300~700℃の間での質量増加は、見られないか、あるいは僅かである。予備熱処理によって2価のFeの大部分は既に3価のFeに変化しているものと推察される。なお、
図1の縦軸数値は昇温開始時の温度(35℃)の質量を基準として表示してある。本発明では水分その他の揮発成分の存在を考慮して、300℃に昇温した時点の質量を基準とする。
【0020】
[結晶化熱処理]
上記の前駆物質を焼成することにより結晶化させ、六方晶バリウムフェライトを合成する。本明細書ではこの焼成を「結晶化熱処理」と呼んでいる。結晶化熱処理は例えば600~700℃で行うことができる。できるだけ微細化した磁性粒子を得る観点からは600~650℃で行うことが好ましい。600℃から最高到達温度Tmax(℃)までの温度域(ただし600℃≦Tmax≦700℃)での保持時間は、例えば50~240分の範囲で設定することができる。
【0021】
[六方晶バリウムフェライト磁性粉]
上述の予備熱処理および結晶化熱処理を経て得られる六方晶バリウムフェライト磁性粉は、化学式AO・6Fe2O3を基本構造とする六方晶フェライトのA元素がBaである六方晶フェライト粒子で構成される。Feサイトの一部は2価、4価または5価の金属元素の1種以上で置換されていてもよい。上記2価の金属元素としてはCo、Zn等が挙げられ、上記4価の金属元素としてはTi、Sn等が挙げられ、上記5価の金属元素としてはNb、V等が挙げられる。このようなFeサイトの一部を置換する金属元素を「Feサイト置換元素」と呼ぶ。置換量については、例えば[Feサイト置換元素の総含有量(モル)]/[Fe含有量(モル)]の比が0~0.06である範囲、より好ましくは0.001~0.04である範囲を例示することができる。Feサイト置換元素の中で、例えばCoは磁気記録媒体のSNRを向上させる上で有効である。Coを含有させる場合、Co/Feモル比は0.005以上とすることが効果的である。
【0022】
本発明で対象とする六方晶バリウムフェライト磁性粉は、Biを含有していても構わない。Biは六方晶フェライトの結晶構造を構成する元素(化学式AO・6Fe2O3のいずれかの原子サイトに入る元素)ではないが、六方晶フェライト結晶粒子の微細化や、当該磁性粉を使用した磁気記録媒体の電磁変換特性の向上に有効な添加元素である。特に、焼成温度を低くして結晶粒子の微細化を狙った場合でも磁気特性の低下を小さくする効果を有する。Biを含有させる場合、Bi/Feモル比は0.005~0.05の範囲とすることが効果的である。
【0023】
また、要求特性に応じて、Nd、Y、Sm、Y、Er、Ho等の希土類元素の1種以上や、Alを含有していても構わない。これらの元素も六方晶フェライトの結晶構造を構成するものではない。希土類元素の1種以上を含有させる場合は、希土類元素をRと表記するとき、R/Feモル比を0.001~0.010とすることが好ましい。Alを含有させる場合は、Al/Feモル比を0.001~0.050とすることが好ましい。
【0024】
本発明で対象とする六方晶バリウムフェライト磁性粉は、下記(2)式で表されるDx体積が例えば1100~2400nm3であり、より好ましくは1300~2000nm3である。Dx体積は結晶加熱処理の温度などによって調整できる。特性としては、保磁力Hc(kA/m)とDx体積(nm3)の関係が下記(3)式を満たし、結晶磁気異方性定数Ku(MJ/m3)とDx体積(nm3)の関係が下記(4)式を満たすものが好適な対象として例示できる。上記(4)式に代えて、下記(5)式を満たす六方晶バリウムフェライト磁性粉がより好適な対象となる。
Dx体積(nm3)=Dxc×π×(Dxa/2)2 …(2)
ここで、Dxcは六方晶フェライト結晶格子のc軸方向の結晶子径(nm)、Dxaは同結晶格子のa軸方向の結晶子径(nm)、πは円周率である。
Hc(kA/m)>0.11×Dx体積(nm3)-20 …(3)
Ku(MJ/m3)>3.083×10-5×Dx体積(nm3)+0.079 …(4)
Ku(MJ/m3)>3.083×10-5×Dx体積(nm3)+0.083 …(5)
【実施例0025】
[実施例1]
ホウ酸H3BO3(工業用)、炭酸バリウムBaCO3(工業用)、酸化鉄α-Fe2O3(工業用)、酸化コバルトCoO(試薬、純度90%以上)、酸化チタンTiO2(試薬、純度98.5%)、酸化ビスマスBi2O3(工業用、純度99%以上)、酸化ネオジムNd2O3(工業用、純度99%以上)、水酸化アルミニウムAl(OH)3(工業用、純度99%以上)を秤量して表1に示す原料配合とし、三井三池製FMミキサーを用いて混合し、原料混合物を得た。上記原料混合物をペレタイザーに入れ、水を噴霧しながら球状に成形して造粒し、その後270℃で14時間乾燥させ、粒径1~50mmの造粒品を得た。
【0026】
上記造粒品を、白金るつぼを用いて溶融炉により溶融させた。1400℃まで昇温して60分撹拌しながら保持し、各原料物質を完全に溶融状態としたのち、その溶融物(溶湯)をノズルから出湯させて、ガスアトマイズ法にて急冷し、非晶質体を得た。
【0027】
得られた非晶質体に、大気雰囲気中490℃で72時間保持する条件で予備熱処理を施し、前駆物質を得た。この前駆物質について、以下の方法で熱重量(TG)測定を行った。
(前駆物質の熱重量(TG)測定)
前駆物質20mgをφ5mmのアルミナ(Al2O3)製容器に詰め、株式会社日立ハイテクサイエンス製の示差熱熱重量同時測定装置(NEXTA STA300)を使用して、大気雰囲気において0.2SL/minの流量で乾燥空気を導入しながら、10℃/minの昇温速度で35℃~1000℃の範囲におけるサンプルの質量変化を測定した。質量増加率は300℃の質量を基準として700℃での質量増加率を算出した。
本例で得られた前駆物質は、300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率が0.03%であった。
また、この前駆物質について後述の「粉末磁気特性の測定」に従う磁気測定を行ったところ、飽和磁化σsは0.5Am2/kgであった。
【0028】
次に、上記の前駆物質に、大気雰囲気中630℃で60分保持する条件で結晶化熱処理を施し、結晶化させた。
【0029】
結晶化熱処理によって得られた粉体には、六方晶フェライトの他、ホウ酸バリウムを主体とする残余物質が含まれている。残余物質を除去するため、結晶化熱処理によって得られた粉体を60℃に加温した10質量%酢酸水溶液に浸漬させ、撹拌しながら1時間保持して上記残余物質を液中に溶解させる酸洗浄を施し、その後、ろ過により固液分離を行い、純水を加えて洗浄した。水洗後は110℃の大気中で乾燥を行い、六方晶バリウムフェライト磁性粉を得た。この六方晶バリウムフェライト磁性粉を供試粉として以下の調査に供した。磁性粉製造条件の主な項目は表1中に示してある。
【0030】
(磁性粉の組成分析)
アジレントテクノロジー株式会社製の高周波誘導プラズマ発光分析装置ICP(720-ES)により供試粉の組成分析を行った。測定波長(nm)についてはFe:259.940nm、Ba:233.527nm、Co:231.160nm、Ti:334.941nm、Bi:222.821nm、Nd:406.108nm、Al:396.152nmにて行った。なお、各金属元素の測定波長は、分析する磁性粉の組成に応じて、他元素のスペクトルの干渉がなく、検量線の直線性を得られる波長を選択するようにした。得られた定量値から、各元素のFeに対するモル比を算出した。
【0031】
(粉末磁気特性の測定)
供試粉をφ6mmのプラスチック製容器に詰め、振動試料型磁束計(東英工業株式会社製、VSM-P7-15)を使用して、外部磁場795.8kA/m(10kOe)、M測定レンジ0.010A・m2(10emu)、ステップビット198(bit)、時定数0.03sec、ウエイトタイム0.1secの条件で、保磁力Hc、飽和磁化σs、角形比SQを測定した。本例供試粉の保磁力Hcは143kA/mであった。
【0032】
(BET比表面積の測定)
供試粉について、全自動比表面積測定装置(マウンテック株式会社製、Macsorb HM Model-1210)を用いてBET一点法による比表面積を求めた。
【0033】
(活性化体積Vact、結晶磁気異方定数Kuの評価)
パルス磁界発生器(TESLA製、TP15326)および振動試料型磁束計(東英工業社製、VSM-5)を用いた。以下の(1)~(10)の操作により、活性化体積Vact、結晶磁気異方定数Kuの評価を行った。ただし、(2)~(10)の操作は、25±1℃で行った。残留磁化量は、M測定レンジ0.005A・m2(5emu)、時定数0.03secで測定を行った。
(1)供試分である六方晶バリウムフェライト磁性粉をφ6mmのプラスチック製容器に詰めた。
(2)振動試料型磁束計により1034.54kA/m(13kOe)の磁場を印加することで磁化を飽和させ、磁場をゼロに戻した。この際、ステップビット240bit、ウエイトタイム0.8secとし、Returnモードにして磁場を印加した。
(3)試料を振動試料型磁束計から取り外し、パルス磁界発生器に取り付けた。この際、飽和磁化方向と逆方向に磁場(逆磁場と呼ぶ)がかかるように試料を取り付けた。
(4)逆磁場印加時間0.40msで磁場を印加し磁場をゼロに戻した。印加する磁場は、1回目はHc+23.88kA/mを目安とする。2回目以降は1回目の結果を参考にして残留磁化がゼロ付近となるように1回目と異なる逆磁場を設定する。
(5)試料をパルス磁界発生器から取り外し、試料の向きが(2)のときと同じになるように振動試料型磁束計に取り付けた。
(6)振動試料型磁束計により残留磁化量を測定した。(2)の操作終了後から残留磁化量測定まで、20秒で操作を行った。
(7)(4)で印加する逆磁場の値を変更し、(2)~(6)までの操作をさらに4回以上繰り返した。
(8)残留磁化が0Am2/kgとなる逆磁場の値Hr(0.40ms)を内挿して求められるように測定結果を5点以上選んで直線近似し、決定係数R2の値が0.990以上になるまで(2)~(7)の作業を繰り返した。この近似直線から、残留磁化が0Am2/kgとなるときの逆磁場の値Hr(0.40ms)を求めた。このHrを残留保磁力と呼ぶこととする。磁性体のHr値によって印加する逆磁場の値は適宜設定することができる。
(9)逆磁場印加時間を6.1msとして(2)~(8)と同様の操作を行い、残留磁化が0Am2/kgとなるときの残留保磁力Hr(6.1ms)を求めた。
(10)逆磁場印加時間を17s、磁場を印加する装置を振動試料型磁束計に変更し、(2)~(8)と同様の操作を行い、残留磁化が0Am2/kgとなる時の残留保磁力Hr(17s)を求めた。この際、(3)~(5)の試料の付け外し作業は行わなかった。また、(7)での繰り返し回数を2回以上とし、(8)では測定結果を3点選んで直線近似し、決定係数R2の値を0.997以上とした。
【0034】
Hr(0.40ms)、Hr(6.1ms)、Hr(17s)について、データ解析用ソフトウェア(OriginLab Corporation社製、Origin)を用いて解析した。Curve Fit(非線形)機能を用い、下記(6)式のH0、KuV/kTをフィッティングパラメータとし、最小二乗法により最適化することでH0、KuV/kTの値を求めた。このとき、H0、KuV/kTの初期値としてそれぞれ5000、50を入力した。最小二乗法により求めたH0、KuV/kTを下記(7)式に代入して活性化体積Vactを算出した。また、H0を下記(8)式に代入して結晶磁気異方性定数Kuを算出した。
Hr(t)=H0{1-[(kT/KuV)ln(f0t/ln2)]0.77} …(6)
ここで、k:ボルツマン定数(J/K)、T:測定温度(K)、Ku:結晶磁気異方性定数(J/m3)、V=Vact:活性化体積(nm3)、Hr(t):逆磁場印加時間tにおける残留保磁力(kA/m)、H0:10-9秒での残留保磁力(kA/m)、f0:スピン歳差周波数(s-1)、t:逆磁場印加時間(s)である。f0の値はここでは109(s-1)である。
Vact(nm3)=1.249×104×KuV/kT/H0 …(7)
Ku(J/m3)=331×H0(kA/m) …(8)
ここで、(7)式の係数1.249×104、および(8)式の係数331は計算過程での個別の数値および単位換算係数をまとめたものである。
本例供試粉の結晶磁気異方性定数Kuは、(8)式で算出したKu値の単位J/m3をMJ/m3に変換すると、0.130MJ/m3であった。
【0035】
(Dx体積、Dx比の評価)
X線回折装置(リガク製、UltimaIV)により、Cu管球を用いて、六方晶フェライト結晶格子のc軸方向の結晶子径Dxc(nm)、およびa軸方向の結晶子径Dxa(nm)を下記(6)式に従って求めた。
結晶子径(nm)=Kλ/(β・cosθ) …(9)
ここで、K:シェラー定数0.9、λ:Cu-Kα線波長(nm)、β:Dxcの測定では六方晶(006)面の回折ピークの半値幅(ラジアン)、Dxaの測定では六方晶(220)面の回折ピークの半値幅(ラジアン)、θ:回折ピークのブラッグ角(回折角2θの1/2)(ラジアン)である。
Dxcは2θ:20.5~25°、Dxaは2θ:60~65°の範囲をそれぞれスキャンして測定した。測定方法は集中法の連続測定法で、検出器は一次元半導体検出器(D-tex)を用いた。発散スリットは1/2°、散乱スリットは8mm、受光スリットは開放状態で測定を行った。サンプリング間隔Dxc:0.05°、Dxa:0.02°、走査速度Dxc:0.1°/min、Dxa:0.4°/min、積算回数1回とした。
Dx体積は、Dxc(nm)、Dxa(nm)の測定値を下記(2)式に代入することにより算出した。
Dx体積(nm3)=Dxc×π×(Dxa/2)2 …(2)
ここで、πは円周率である。
本例供試粉のDx体積は1458nm3であった。
以上の結果を表1に示してある。
【0036】
[実施例2]
結晶化熱処理温度を660℃としたことを除き、実施例1と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表1に示してある。本例供試粉の保磁力Hcは222kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.150MJ/m3、Dx体積は2099nm3であった。
【0037】
[実施例3]
予備熱処理を510℃で72時間保持する条件で行ったことを除き、実施例1と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表1に示してある。予備熱処理によって得られた前駆物質は、熱重量(TG)測定による300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率が-0.01%、飽和磁化σsは0.9Am2/kgであった。本例供試粉の保磁力Hcは144kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.131MJ/m3、Dx体積は1428nm3であった。
【0038】
[実施例4]
結晶化熱処理温度を660℃としたことを除き、実施例3と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表1に示してある。本例供試粉の保磁力Hcは220kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.150MJ/m3、Dx体積は2056nm3であった。
【0039】
[実施例5]
予備熱処理を530℃で72時間保持する条件で行ったことを除き、実施例1と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表1に示してある。予備熱処理によって得られた前駆物質は、熱重量(TG)測定による300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率が-0.01%、飽和磁化σsは1.2Am2/kgであった。本例供試粉の保磁力Hcは145kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.132MJ/m3、Dx体積は1468nm3であった。
【0040】
[実施例6]
結晶化熱処理温度を660℃としたことを除き、実施例5と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表1に示してある。本例供試粉の保磁力Hcは224kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.151MJ/m3、Dx体積は2114nm3であった。
【0041】
[実施例7]
予備熱処理を550℃で72時間保持する条件で行ったことを除き、実施例1と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表2に示してある。予備熱処理によって得られた前駆物質は、熱重量(TG)測定による300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率が-0.01%、飽和磁化σsは3.5Am2/kgであった。本例供試粉の保磁力Hcは147kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.133MJ/m3、Dx体積は1415nm3であった。
【0042】
[実施例8]
結晶化熱処理温度を660℃としたことを除き、実施例7と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表2に示してある。本例供試粉の保磁力Hcは232kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.153MJ/m3、Dx体積は2172nm3であった。
【0043】
[実施例9]
予備熱処理を530℃で30時間保持する条件で行ったことを除き、実施例1と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表2に示してある。予備熱処理によって得られた前駆物質は、熱重量(TG)測定による300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率が0.01%、飽和磁化σsは1.0Am2/kgであった。本例供試粉の保磁力Hcは151kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.132/m3、Dx体積は1453nm3であった。
【0044】
[実施例10]
結晶化熱処理温度を660℃としたことを除き、実施例9と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表2に示してある。本例供試粉の保磁力Hcは227kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.150MJ/m3、Dx体積は2128nm3であった。
【0045】
[実施例11]
予備熱処理を470℃で72時間保持する条件で行い、結晶化熱処理温度を620℃としたことを除き、実施例1と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表2に示してある。予備熱処理によって得られた前駆物質は、熱重量(TG)測定による300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率が0.05%、飽和磁化σsは0.3Am2/kgであった。本例供試粉の保磁力Hcは154kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.129/m3、Dx体積は1551nm3であった。
【0046】
[実施例12]
結晶化熱処理温度を630℃としたことを除き、実施例9と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表2に示してある。本例供試粉の保磁力Hcは168kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.132MJ/m3、Dx体積は1679nm3であった。
【0047】
[実施例13]
結晶化熱処理温度を660℃としたことを除き、実施例9と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表2に示してある。本例供試粉の保磁力Hcは235kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.151MJ/m3、Dx体積は2275nm3であった。
【0048】
[比較例1]
予備熱処理を570℃で72時間保持する条件で行い、結晶化熱処理温度を620℃としたことを除き、実施例1と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表3に示してある。予備熱処理によって得られた前駆物質は、熱重量(TG)測定による300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率が-0.02%、飽和磁化σsは15.7Am2/kgであった。本例供試粉の保磁力Hcは132kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.125/m3、Dx体積は1398nm3であった。
【0049】
[比較例2]
結晶化熱処理温度を630℃としたことを除き、比較例1と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表3に示してある。本例供試粉の保磁力Hcは145kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.129MJ/m3、Dx体積は1548nm3であった。
【0050】
[比較例3]
結晶化熱処理温度を660℃としたことを除き、比較例1と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表3に示してある。本例供試粉の保磁力Hcは227kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.151MJ/m3、Dx体積は2256nm3であった。
【0051】
[比較例4]
予備熱処理を490℃で1時間保持する条件で行い、結晶化熱処理温度を620℃としたことを除き、実施例1と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表3に示してある。予備熱処理によって得られた前駆物質は、熱重量(TG)測定による300℃の質量を基準とした700℃での質量増加率が0.09%、飽和磁化σsは0.3Am2/kgであった。本例供試粉の保磁力Hcは158kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.130/m3、Dx体積は1683nm3であった。
【0052】
[比較例5]
結晶化熱処理温度を630℃としたことを除き、比較例4と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表3に示してある。本例供試粉の保磁力Hcは166kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.131MJ/m3、Dx体積は1750nm3であった。
【0053】
[比較例6]
結晶化熱処理温度を660℃としたことを除き、比較例4と同様の条件で六方晶バリウムフェライト磁性粉を作製した。この磁性粉を供試粉として実施例1と同様の調査に供した。製造条件および調査結果を表3に示してある。本例供試粉の保磁力Hcは238kA/m、結晶磁気異方性定数Kuは0.152MJ/m3、Dx体積は2363nm3であった。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
図2に、各前駆物質について大気雰囲気中で10℃/分で昇温した場合のTG曲線を例示する。凡例に予備熱処理の条件を示してある。比較例4~6で使用した前駆物質は予備熱処理での熱エネルギー付与が不十分であり、300~700℃の間での質量増加が大きかった。なお、
図2の縦軸数値は昇温開始時の温度(35℃)の質量を基準として表示してある。
【0058】
図3に、結晶化熱処理温度と得られた六方晶フェライト磁性粉のDx体積の関係を、使用した前駆物質が区別できるようにプロットしたグラフを示す。凡例に予備熱処理の条件を示してある。各実施例のものは、予備熱処理での熱エネルギー付与が不十分であった比較例1~3と比べ、同等の結晶化熱処理温度における磁性粒子の微細化効果が大きいことがわかる。
【0059】
図4に、六方晶フェライト磁性粉のDx体積と保磁力Hcの関係を、使用した前駆物質が区別できるようにプロットしたグラフを示す。凡例に予備熱処理の条件を示してある。各実施例のものは前述(3)式を満たし、予備熱処理での熱エネルギー付与が不十分であった比較例1~3および熱エネルギー付与が過剰であった比較例4~6と比べ、同等のDx体積における保磁力Hcの向上効果が大きいことがわかる。
【0060】
図5に、六方晶フェライト磁性粉のDx体積と結晶磁気異方性定数Kuの関係を、使用した前駆物質が区別できるようにプロットしたグラフを示す。凡例に予備熱処理の条件を示してある。各実施例のものは前述(4)式を満たし、予備熱処理での熱エネルギー付与が不十分であった比較例1~3と比べ、同等のDx体積における結晶磁気異方性定数Kuの向上効果が大きいことがわかる。前述(5)式を満たすものを作り分けることもできる。なお、予備熱処理での熱エネルギー付与が過剰であった比較例4~6は(4)式を満たすが、上述
図5に示したように、保磁力Hcの向上効果が見られない。
【0061】
図6に、予備熱処理の温度と時間の関係をプロットしたグラフを示す。本発明の効果を呈する六方晶バリウムフェライト磁性粉(実施例)は前述(1)式を満たす条件で予備熱処理を施すことによって実現できることがわかる。