(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147387
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】レーダ装置、対象物検出方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/02 20060101AFI20231005BHJP
H01Q 21/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01S7/02 210
H01Q21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054852
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】並木 一
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山村 隆介
【テーマコード(参考)】
5J021
5J070
【Fターム(参考)】
5J021AA07
5J021AA11
5J021FA17
5J021FA25
5J021HA04
5J070AB01
5J070AB17
5J070AB20
5J070AC11
5J070AD03
5J070AD08
5J070AK08
(57)【要約】
【課題】不等間隔アレイアンテナを等間隔アレイアンテナに変換する補間処理を行うことにより、等間隔リニアアレイの場合同様の受信信号処理が可能とすること。
【解決手段】レーダ装置100は、1又は複数の物標によって反射された信号を、不等間隔で配置された複数のアンテナ素子を備えてなる不等間隔アレイアンテナとしての受信アンテナ8により受信する受信部52と、前記不等間隔アレイアンテナを構成する受信アンテナ8の各アンテナ素子で受信した受信信号に補間処理を行って、前記不等間隔アレイアンテナと同一の開口長を有する仮想等間隔アレイアンテナにおける受信信号に変換する補間処理部121と、変換された前記受信信号を用いて前記物標の角度を推定する角度推定部122とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数の物標によって反射された信号を、不等間隔で配置された複数のアンテナ素子を備えてなる不等間隔アレイアンテナにより受信する信号送受信部と、
前記不等間隔アレイアンテナを構成する各アンテナ素子で受信した受信信号に補間処理を行って、前記不等間隔アレイアンテナと同一の開口長を有する仮想等間隔アレイアンテナにおける受信信号に変換する補間処理部と、
変換された前記受信信号を用いて前記物標の角度を推定する角度推定部と、
を備えるレーダ装置。
【請求項2】
前記角度推定部は、前記補間処理によって得た仮想等間隔アレイアンテナの受信信号に対して、等間隔アレイアンテナの受信信号に適用される角度推定アルゴリズムを用いて前記物標の角度を推定する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記不等間隔アレイアンテナには、不等間隔リニアアレイアンテナが含まれる、請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記補間処理部は、線形補間、spline補間、akima補間、cubic補間、Nearest neighbor補間、及び区分的3次エルミート内挿多項式補間のいずれかによって補間処理を行う、請求項1~3のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記補間処理部は、n個のアンテナを有する不等間隔アレイアンテナの受信信号を、m個のアンテナを有する同一開口長の仮想等間隔アレイアンテナの受信信号に変換する処理を実行し、
nは、4以上の整数であり、
mは、n+1以上の整数である、請求項1~4のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
1又は複数の物標によって反射された信号を、不等間隔で配置された複数のアンテナ素子を備えてなる不等間隔アレイアンテナにより受信し、
前記不等間隔アレイアンテナを構成する各アンテナ素子で受信した受信信号に補間処理を行って、前記不等間隔アレイアンテナと同一の開口長を有する仮想等間隔アレイアンテナにおける受信信号に変換し、
変換された前記受信信号を用いて前記物標の角度を推定する、
対象物検出方法。
【請求項7】
情報処理装置に、
1又は複数の物標によって反射された信号を、不等間隔で配置された複数のアンテナ素子を備えてなる不等間隔アレイアンテナにより受信する処理と、
前記不等間隔アレイアンテナを構成する各アンテナ素子で受信した受信信号に補間処理を行って、前記不等間隔アレイアンテナと同一の開口長を有する仮想等間隔アレイアンテナにおける受信信号に変換する処理と、
変換された前記受信信号を用いて前記物標の角度を推定する処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置、対象物検出方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のアンテナ素子を配置してなるアレイアンテナは、配置の形状により、リニアアレイアンテナ、プレーナアレイアンテナ等に分類され、物標検出のためのレーダ装置に用いられている。一般に、複数のアンテナ素子を直列的に配置してなるリニアアレイアンテナでは、アンテナアレイ全体の長さである開口長を大きくするほど角度分解能を高めることができる。一方、リニアアレイアンテナにおいてアンテナ素子間の間隔を例えば一波長程度に広げると、グレーティングローブと呼ばれる不要な放射が生じる不都合がある。この点ではアンテナ素子の間隔は半波長程度に抑えることが望ましい。すなわち、角度分解能を向上させるために開口長を拡大した場合、同時にグレーティングローブを抑制するためにはアンテナ間隔を半波長(λ/2)程度に抑えなければならないため、必要なアンテナ素子の数が増加するという問題がある。
【0003】
上記のような、角度分解能向上とグレーティングローブ抑制との間のトレードオフの問題を改善ないし解消するために、アレイアンテナのアンテナ素子間の間隔を不等間隔とした不等間隔アレイアンテナが提案されている。例えば特許文献1では、不等間隔に配置された複数のアンテナ素子を備えるアレイアンテナと、物標がグレーティングゴーストであるか否か判定するグレーティング判定を実行するグレーティング判定部を備えたレーダ装置が記載されている。特許文献2には、レーダの検出性能を劣化させずに、仮想受信アレーにおける開口長を最大限拡大すべく、配置が異なるアンテナ群を有する送信アレーアンテナ、受信アレーアンテナを備えたレーダ装置が記載されている。特許文献3には、ゴーストの検出を抑え、さらに相互相関の程度を抑圧することを可能とすべく、送信アンテナ群及び受信アンテナ群が、不等間隔に一列に並べられるレーダ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-162448号公報
【特許文献2】特開2019-70595号公報
【特許文献3】特開2011-64567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不等間隔アレイアンテナは、様々な要求に対応するためのアンテナ特性を実現するうえで有用な技術である一方、角度推定処理等の受信信号の処理に広く利用されている、等間隔アレイアンテナ用のアルゴリズムを利用することができないという問題がある。前記した特許文献においても、デジタルビームフォーミング、Capon法といった複雑なアルゴリズムが採用されている。
【0006】
本願発明の一つの目的は、不等間隔アレイアンテナの受信信号を等間隔アレイアンテナの受信信号に変換する補間処理を行うことにより、等間隔アレイアンテナの場合と同様の受信信号処理が可能となるレーダ装置、対象物検出方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の、及び他の目的を達成するために、本発明に係るレーダ装置は、1又は複数の物標によって反射された信号を、不等間隔で配置された複数のアンテナ素子を備えてなる不等間隔アレイアンテナにより受信する信号送受信部と、前記不等間隔アレイアンテナを構成する各アンテナ素子で受信した受信信号に補間処理を行って、前記不等間隔アレイアンテナと同一の開口長を有する仮想等間隔アレイアンテナにおける受信信号に変換する補間処理部と、変換された前記受信信号を用いて前記物標の角度を推定する角度推定部と、を備える。
【0008】
前記角度推定部は、前記補間処理によって得た仮想等間隔アレイアンテナの受信信号に対して、等間隔アレイアンテナの受信信号に適用される角度推定アルゴリズムを用いて前記物標の角度を推定するとしてもよい。
【0009】
前記不等間隔アレイアンテナには、不等間隔リニアアレイアンテナが含まれるとしてもよい。
【0010】
前記補間処理部は、線形補間、spline補間、akima補間、cubic補間、Nearest neighbor補間、及び区分的3次エルミート内挿多項式補間のいずれかによって補間処理を行うとしてもよい。
【0011】
前記補間処理部は、n個のアンテナを有する不等間隔アレイアンテナの受信信号を、m個のアンテナを有する同一開口長の仮想等間隔アレイアンテナの受信信号に変換する処理を実行し、nは、4以上の整数であり、mは、n+1以上の整数であるとしてもよい。
【0012】
本発明の他の態様は、1又は複数の物標によって反射された信号を、不等間隔で配置された複数のアンテナ素子を備えてなる不等間隔アレイアンテナにより受信し、前記不等間隔アレイアンテナを構成する各アンテナ素子で受信した受信信号に補間処理を行って、前記不等間隔アレイアンテナと同一の開口長を有する仮想等間隔アレイアンテナにおける受信信号に変換し、変換された前記受信信号を用いて前記物標の角度を推定する対象物検出方法である。
【0013】
本発明のさらに他の態様は、情報処理装置に、1又は複数の物標によって反射された信号を、不等間隔で配置された複数のアンテナ素子を備えてなる不等間隔アレイアンテナにより受信する処理と、前記不等間隔アレイアンテナを構成する各アンテナ素子で受信した受信信号に補間処理を行って、前記不等間隔アレイアンテナと同一の開口長を有する仮想等間隔アレイアンテナにおける受信信号に変換する処理と、変換された前記受信信号を用いて前記物標の角度を推定する処理と、を実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、不等間隔アレイアンテナの受信信号を等間隔アレイアンテナの受信信号に変換する補間処理を行うことにより、等間隔アレイアンテナの場合と同様の受信信号処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、等間隔リニアアレイアンテナと不等間隔アレイアンテナのアンテナ素子配置例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、補間処理を模式的に示すI-Q図である。
【
図3】
図3は、不等間隔アレイアンテナを等間隔アレイアンテナに変換する補間処理を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、補間処理部の構成例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、角度推定部の構成例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、本実施形態における受信信号処理の概要を例示するフローチャートである。
【
図8】
図8は、本実施形態における対象物検出方法の手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、本実施形態におけるレーダ装置による角度推定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るレーダ装置について説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものでない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。即ち、本発明は、各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものでない。
【0017】
<用語について>
複数のアンテナ素子を等間隔で直列状に配置してなるアンテナは、一般に等間隔リニアアレイアンテナと称されるが、本明細書では簡単のため、「等間隔アレイアンテナ」と呼ぶこととする。また、複数のアンテナ素子を不等間隔で直列状に配置してなるアンテナは、一般に不等間隔アレイアンテナと称されるが、本明細書では、等間隔アレイアンテナのいずれかのアンテナ素子を取り除いてなる構成を有するアンテナ、言い換えると、アンテナ素子間の間隔が等間隔リニアアレイアンテナのアンテナ素子間隔の整数倍となっている構成を有するアンテナを「不等間隔リニアアレイアンテナ」と呼び、それ以外のアンテナ配置を有する不等間隔アレイアンテナを、単に「不等間隔アレイアンテナ」と呼ぶこととする。「不等間隔アレイアンテナ」の用語は、「不等間隔リニアアレイアンテナ」を包含する。
【0018】
<不等間隔アレイアンテナを等間隔アレイアンテナに変換する補間処理の考え方>
まず、本発明における、不等間隔アレイアンテナを等間隔アレイアンテナに変換する補間処理について説明する。本実施形態では、レーダ装置において送信アンテナから送信された送信波の物標からの反射波を、複数のアンテナ素子を直列状に配置してなるアレイアンテナとして構成されている受信アンテナによって受信する場合を考える。
図1に、受信アンテナの模式図を示している。
図1(a)は、8本のアンテナ素子を等しい間隔dをあけて直列状に配置してなる等間隔アレイアンテナである。アンテナ素子間の間隔dは典型的には送信波の波長λの1/2の半波長である。このような構成を有する等間隔アレイアンテナによって受信された受信信号については、これまで種々の角度推定手法が開発され、利用されている。そのような角度推定手法としては、例えば、自己回帰モデル(ARモデル)による手法、Root-MUSIC法,Root-WSF法、ESPRIT法、Pisarenko法等がある。不等間隔アレイアンテナによって受信された受信信号は、このような汎用されている等間隔アレイアンテナ用の角度推定手法を利用して処理することができない。そこで、本発明では、不等間隔アレイアンテナの各アンテナ素子からの受信信号に対して補間処理を行うことにより、仮想的な等間隔アレイアンテナの受信信号に変換し、前記したような種々の等間隔アレイアンテナ用角度推定手法を利用することを可能とするものである。
【0019】
<補間処理の手法>
図1に示すように、不等間隔アレイアンテナには、等間隔アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子の一部を間引いて得られる不等間隔リニアアレイアンテナ(
図1(b))と、等間隔アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子の一部が間引かれるとともに、元の等間隔アレイアンテナのアンテナ素子の位置とは対応しない位置にアンテナ素子が配置されてなる不等間隔アレイアンテナ(
図1(c))がある。いま、
図1(a)の等間隔アレイアンテナにおいて、各アンテナ素子に、左端から右方向へ、1~8のアンテナIDを付すものとする。
図1(b)の不等間隔リニアアレイアンテナは、
図1(a)の等間隔アレイアンテナにおけるアンテナID=5,7の2本のアンテナ素子を除いた構成である。これに対して、
図1(c)の不等間隔アレイアンテナは、
図1(b)の不等間隔リニアアレイアンテナと同様に2本のアンテナ素子が除かれているが、等間隔アレイアンテナのアンテナID=6に対応するアンテナ素子の位置が左方向にずれている。そのため、いま、
図1の不等間隔アレイアンテナにおける6本のアンテナ素子に左端から右方向へアンテナID=1~6を付したとすると、
図1(c)の不等間隔アレイアンテナでは、アンテナID=5のアンテナ素子は、等間隔アレイアンテナのアンテナID=6の位置とは対応しない位置に配置されている。
【0020】
本実施形態における補間処理では、
図1(b)の不等間隔リニアアレイアンテナ、
図1(c)の不等間隔アレイアンテナのいずれであっても、各アンテナ素子からの受信信号を、開口長が等しい等間隔アレイアンテナの各アンテナ素子からの受信信号に変換することができる。したがって、
図1(b)のような不等間隔リニアアレイアンテナ、
図1(c)のような不等間隔アレイアンテナからの受信信号を、等間隔アレイアンテナ用の角度推定手法を用いて処理することができる。以下、具体例によってさらに詳しく説明する。
【0021】
図1(a)~(c)に例示するアレイアンテナでは、受信信号は、適用されるレーダ形式に関わらず、時系列とアンテナIDとからなる2次元のデータとして取得される。例えば、時系列サンプル数が512であり、
図1(b)、(c)のように、空間サンプル数、すなわちアンテナ素子の数が6であれば、受信信号は、512×6の2次元データとなる。ここでは、説明を簡略化するために、時系列における特定の時間断面で見たアンテナID列の受信信号に注目して取り出した場合を考える。この場合、
図1(b)、(c)のアレイアンテナの例では、受信信号は、各アンテナ素子に対応する6ポイントのデータ列となる。
【0022】
<
図1(b)に例示する不等間隔リニアアレイアンテナの場合>
図1(b)に例示する不等間隔リニアアレイアンテナの受信信号から、同一開口長を有する等間隔アレイアンテナ(
図1(a))の受信信号への補間処理は、次のように実行される。
・アンテナID=iで特定されるアンテナ素子での受信信号をz(i)と表すものとする。このとき、
図1(b)の不等間隔リニアアレイアンテナが有する各アンテナ素子(アンテナID=1~6)において実際に受信される受信信号は、z(1)~z(6)と表される。一方、補間処理によって求められる仮想的な等間隔アレイアンテナの各アンテナ素子で受信される受信信号は、記号z’で表すこととする。
図1の例において、各アレイアンテナのアンテナ素子間間隔を次のように定義しておく。
d:
図1(a)の等間隔アレイアンテナにおけるアンテナ間隔
di,i+1:i番目のアンテナ素子とi+1番目のアンテナ素子との間の間隔
図1(b)に例示する不等間隔リニアアレイアンテナは、同一開口長の等間隔アレイアンテナにおいて、アンテナID=5,7の2本を間引いた構成である。したがって、補間処理後の仮想的な等間隔アレイアンテナにおけるアンテナID=1~4,6,8の受信信号z’(1)~z’(4)、z’(6)、z’(8)は、不等間隔リニアアレイアンテナのアンテナID=1~4、6、8の受信信号z(1)~z(4)、z’(5),z’(6)にそれぞれ等しい。これに対して、不等間隔リニアアレイアンテナに対応するアンテナ素子を有しない、等間隔アレイアンテナのアンテナID=5,7の受信信号z’(5),z’(7)は、不等間隔リニアアレイアンテナのアンテナID=4,5,6の受信信号z(4), z(5), z(6)から計算により求める必要がある。この計算を線形補間によって実行すると、次のようである。
図1(b)に例示する不等間隔リニアアレイアンテナのアンテナ素子間間隔は、
d1,2 = d2,3 = d3,4 = d
d4,5 = d5,6 = 2d
となっている。したがって、線形補間によれば、仮想的等間隔アレイアンテナ(
図1(a))のアンテナID=5,7の受信信号z’(5),z’(7)は、それぞれ
z’(5) = ((d4,5-d)*z(5)+d*z(4))/d4,5 = (z(5)+z(4))/2
z’(7) = ((d5,6-d)*z(6)+d*z(5))/d5,6 = (z(6)+z(5))/2
と求めることができる。
【0023】
<
図1(c)に例示する不等間隔アレイアンテナの場合>
図1(c)に例示する不等間隔アレイアンテナの場合、
図1(a)の等間隔アレイアンテナのアンテナID=5,6,7の3本について、対応するアンテナ素子が存在しない。したがって、補間処理により、アンテナID=5,6,7の受信信号z’(5), z’(6), z’(7)を生成する必要がある。
図1(c)に例示する不等間隔リニアアレイアンテナのアンテナ素子間間隔は、
d1,2 = d2,3 = d3,4 = d
d4,5 = 1.5d
d5,6 = 2.5d
となっている。したがって、線形補間によれば、仮想的等間隔アレイアンテナ(
図1(a))のアンテナID=5,6、7の受信信号z’(5), z’(6), z’(7)は、それぞれ
z’(5) = ((d4,5-d)*z(5)+d*z(4))/d4,5 = (0.5d*z(5)+d*z(4))/1.5d
z’(6) = ((d5,6-0.5d)*z(6)+3.0d*z(5))/d5,6 = (2.0d*z(6)+0.5z(5))/2.5d
z’(7) = ((d5,6-d)*z(6)+d*z(5))/d5,6 = (1.5d*z(6)+d*z(5))/2.5d
と求めることができる。
【0024】
以上の補間処理の手法により取得された、不等間隔リニアアレイアンテナ(
図1(b))における受信信号z(1)~z(6)と、補間処理後の仮想的な等間隔アレイアンテナにおける受信信号z’(1)~z’(8)を、
図2のI-Q平面に図示している。図示されている信号点を見ると、等間隔リニアアレイアンテナにおけるアンテナID=1~4、6,8の受信信号z’(1)~z’(4), z’(6), z’(8)を示す信号点は、不等間隔リニアアレイアンテナにおけるアンテナID=1~6の受信信号z(1)~z(6)を示す信号点に対応している。一方、等間隔アレイアンテナにおけるアンテナID=5,7の受信信号z’(5), z’(7)については不等間隔リニアアレイアンテナに対応する受信信号がなく、それぞれ、不等間隔リニアアレイアンテナのアンテナID=4,5,6から前記のように生成されている。例えば、等間隔アレイアンテナのアンテナID=5の受信信号z’(5)は、不等間隔リニアアレイアンテナの受信信号z(4), z(5)から生成され、その振幅と位相角とは例示のとおりである。
【0025】
<受信信号の補間処理例>
図1に例示するアンテナ素子の配置によって本実施形態の補間処理の例を説明してきたが、本発明を適用することができるアンテナ配置は
図1の例に限られず、任意のアンテナ素子配置を有する不等間隔アレイアンテナの受信信号を、同一開口長を有する仮想的な等間隔アレイアンテナの受信信号に変換することができる。
図3に、その例を示している。
図3に示すように、例えば、4本~6本のアンテナ素子を有する様々なアンテナ配置の不等間隔アレイアンテナの受信信号を、本実施形態にて例示した補間処理により、同一開口長を有する、6本あるいは15本のアンテナ素子を備えた等間隔リニアアレイアンテナの受信信号に変換することができる。どのような補間処理を実行するかは、後述する角度推定処理等のシミュレーションを通じて適切に決定することが可能である。
図3に示した例にあっては、6本のアンテナ素子を有する不等間隔アレイアンテナを8本のアンテナ素子を有する等間隔アレイアンテナに変換する場合において、後述するように、比較的良好な結果が得られた。なお、以上に述べた補間処理の例は、「nを4以上の整数、mをn+1以上の整数としたとき、n個のアンテナを有する不等間隔アレイアンテナの受信信号を、m個のアンテナを有する同一開口長の仮想等間隔アレイアンテナの受信信号に変換することができる」と、一般化して表現することもできる。
【0026】
なお、上記の補間処理の例では、処理手法として線形補間を採用していた。線形補間は計算が容易で汎用性のある利用しやすい手法であるが、補間処理手法はこれに限定されることなく、様々な手法により実行させることができる。補間処理に利用可能な手法としては、例えば、spline補間、akima補間、cubic補間、Nearest neighbor補間、区分的3次エルミート内挿多項式補間が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。各補間処理手法による具体的な演算処理、及び各手法の特徴については公知の情報であるので説明を省略する。
【0027】
以上のように、本実施形態における受信信号の補間処理によれば、不等間隔リニアアレイアンテナに限定されることなく、一般的な不等間隔アレイアンテナの受信信号を、同一開口長を有する等間隔アレイアンテナの受信信号に変換することができる。
【0028】
<受信信号の補間処理を適用したレーダ装置>
次に、本実施形態におけるアンテナ受信信号の補間処理を適用したレーダ装置について説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係るレーダ装置100の構成例を示すブロック図である。
図4に例示するレーダ装置100は、中心周波数が異なる複数のパルス信号を送信し、送信された信号が物標に反射され、この反射信号を受信するパルス方式を採用するものとしているが、他の方式であってもよい。またこのレーダ装置100の受信アンテナには、任意のアンテナ素子数、素子配置の不等間隔アレイアンテナが用いられているものとする。
【0029】
レーダ装置100は、
図4に示すように、送信部51と、受信部52と、直交復調部10と、ADC(Analog to Digital Converter)11と、信号処理部12と、データ処理部13とを備える。
【0030】
送信部51は、周波数帯の異なる複数の送信信号を送信する機能を有する。送信部51は、局発制御部1と、局部発振部2と、局発周波数モニタ部3と、変調信号生成部4と、変調部5と、増幅部6と、送信アンテナ7とを備える。
【0031】
局発制御部1は、レーダ装置100の各部を制御するとともに、局部発振部2が発生する局発信号の周波数を制御する。
【0032】
局部発振部2は、局発制御部1の制御に応じた周波数の局発信号を生成して出力する。変調信号生成部4は、局部発振部2から供給される局発信号をパルス波形に変調するための変調信号を生成して変調部5に供給する。なお、パルス変調以外にも、例えば、位相変調、周波数変調等の他の方式による変調を行うようにしてもよい。
【0033】
変調部5は、局部発振部2から供給される局発信号を、変調信号生成部4から供給される変調信号に基づいて変調し、増幅部6に供給する。
【0034】
増幅部6は、変調部5から供給されるパルス信号の電力を増幅して送信アンテナ7に供給する。
【0035】
送信アンテナ7は、1つまたは複数のアンテナ素子で構成され、増幅部6から供給されるパルス信号を対象物に向けて電磁波として送信する。
【0036】
受信部52は、送信部51によって送信された、周波数帯の異なる複数の送信信号が1または複数の物標によって反射されたそれぞれの受信信号を受信する。受信部52は、受信アンテナ8と、増幅部9とを備える。
【0037】
受信アンテナ8は、1つまたは複数のアンテナ素子で構成され、対象物によって反射された電磁波(反射信号)を捕捉し、電気信号に変換して増幅部9に供給する。前記のように、本実施形態では、受信アンテナ8は、適宜のアンテナ素子数、アンテナ素子配置をもって構成された不等間隔アレイアンテナである。増幅部9は、受信アンテナ8から供給される電気信号の電力を増幅して直交復調部10に供給する。
【0038】
直交復調部10は、増幅部9から供給される電気信号を局部発振部2から供給される局発信号によってダウンコンバート(低い周波数に周波数変換)するとともに、相互に直交する信号によって直交復調し、得られたI,Q成分をADコンバータ(ADC)11に供給する。
【0039】
ADC11は、直交復調部10から供給されるアナログ信号としてのI,Q成分をデジタルデータにそれぞれ変換して出力する。
【0040】
信号処理部12は、局発周波数モニタ部3から供給される局発信号の周波数を示す情報に基づいて、ADC11からのデジタルデータに対して所定の信号処理を行い、信号処理の結果をデータ処理部13に供給する。具体的には、信号処理部12は、補間処理部121と、角度推定部122とを備える。
【0041】
補間処理部121は、本実施形態における不等間隔アレイアンテナからの受信信号を、同一開口長を有する等間隔アレイアンテナの受信信号に変換する補間処理の機能を有する。補間処理部121によって補間処理された受信信号は、後段の角度推定部122において等間隔アレイアンテナからの受信信号として処理することができる。補間処理部121の構成例を
図5のブロック図に示している。
図5に示すように、補間処理部121は、ADCデータ格納部1211、アンテナ座標記憶部1213、信号補間処理部1212、及び補間データ格納部1214を備える。
【0042】
ADCデータ格納部1211は、ADC11から出力された、受信信号のI,Q成分デジタルデータを記憶するメモリである。アンテナ座標記憶部1213は、不等間隔アレイアンテナを同一開口長の等間隔アレイアンテナに補間処理するために利用されるアンテナ座標のデータを記憶しているメモリである。具体的には、アンテナ座標記憶部1213には、レーダ装置100の受信アンテナ8として使用されている不等間隔アレイアンテナのアンテナ素子数とその配置、補間処理後の等間隔アレイアンテナのアンテナ素子数とその配置(素子間間隔)が記憶されている。本実施形態の場合、補間処理後の等間隔アレイアンテナのアンテナ素子数は8本であるとして以下説明する。
【0043】
信号補間処理部1212は、アンテナ座標記憶部1213から読み出すアンテナ座標データに基づいて、ADCデータ格納部1211からの受信信号を等間隔アレイアンテナの受信信号に変換する補間処理を実行する。補間処理の具体例についてはすでに説明したとおりである。補間データ格納部1214は、信号補間処理部1212によって生成された等間隔アレイアンテナの受信信号としてのI,Q成分デジタルデータを格納するメモリである。以降の機能ブロックによって実行される処理は、通常の8本のアンテナ素子を有する等間隔アレイアンテナで受信されたものとして信号補間処理部1212によって生成された受信信号について実行される。
【0044】
角度推定部122は、補間処理された受信信号に基づいて、受信信号の角度推定(到来方向推定)を実行する機能を有する。
図6に、角度推定部122の構成例をブロック図で示している。角度推定部122は、AR次数記憶部1222、AR係数計算部1221、AR係数格納部1223、信号拡張部1224、及び角度FFT部1225を備える。本実施形態では、受信信号に基づく対象物の角度推定処理を、Yule-Walker法により推定された自己回帰(AR)モデルを用いて実行している。前記のように、角度推定処理は、Root-MUSIC法,Root-WSF法、ESPRIT法、Pisarenko法等の他の推定手法を用いて実行することもできる。
【0045】
AR係数計算部1221は、8個の受信信号(補間後のアレイアンテナ信号(以下、「補間後の信号」と称する))に基づいて自己回帰モデル(Auto Regressive Model)の係数(AR係数)を算出する。算出されたAR係数は、AR係数格納部1223に格納される。AR次数記憶部1222は、ARモデルでの予測に用いる次数のデータをあらかじめ設定して格納している。
【0046】
信号拡張部1224は、補間後の信号と、AR係数格納部1223から読み出したAR係数とに基づいて自己回帰モデルによる演算処理を行い、補間後の信号をアレイアンテナ方向に推定して拡張する。以下では、この拡張したアレイアンテナ信号列を「拡張アレイアンテナ信号列」と称する。
【0047】
角度FFT部1225は、信号拡張部1224により拡張された拡張アレイアンテナ信号列をフーリエ変換することにより、拡張アレイアンテナ信号列の振幅情報を物標ごとに分離するように処理する。すなわち、角度FFT部1225は、受信部52により受信された受信信号を補間処理部121において補間して得られたた補間後の信号と、自己回帰モデルの係数とを用いて行った演算結果に基づいて、補間後の信号をそれぞれの物標から反射された物標信号に分離する。
【0048】
データ処理部13は、信号処理部12から供給されるデジタルデータ(角度推定部122において分離された各物標信号に基づいて推定されたそれぞれの物標の位置に関する情報)に対して、クラスタリング処理およびトラッキング処理等を施し、対象物を検出する処理を実行する。なお、データ処理部13は、レーダ装置100の外部に設けられる構成でもよい。
【0049】
以上のように、本実施形態におけるレーダ装置100は、不等間隔アレイアンテナである受信アンテナ8によって受信される受信信号を、8本のアンテナ素子を有する、同一開口長の等間隔リニアアレイアンテナで受信された受信信号に変換し、角度FFT部1225によりその8個の受信信号をそれぞれの物標から反射された物標信号に分離することができる。このため、不等間隔アレイアンテナの受信信号について、等間隔アレイアンテナでの受信信号の処理のみに適用可能な角度推定処理によって角度推定、及びその後の位置推定を実行することができるようになっている。
【0050】
なお、本実施形態においては、等間隔アレイアンテナの受信信号に変換された後の角度推定処理に、Yule-Walker法により推測したARモデルを適用している。しかし、角度推定処理は、この手法に限定されることなく、等間隔アレイアンテナの受信信号処理に適用することができる信号処理手法を種々採用することができる。本実施形態では、特に等間隔アレイアンテナの受信信号処理のみに適用することができる手法を採用することができる点が有利である。このような信号処理手法としては、限定的でない例として、Root-MUSIC法、Root-WSF法、ESPRIT法、Pisarenko法を挙げることができる。
【0051】
<レーダ装置100による信号処理フロー>
次に、レーダ装置100の、特に信号処理部12の具体的な動作について説明する。
<<対象物からの反射波の受信処理>>
図7に、本実施形態のレーダ装置100による反射波の受信処理の処理フロー例を示している。
【0052】
まず、受信部52は、不等間隔アレイアンテナである受信アンテナ8により、アンテナ素子を切り替えながら対象物からの反射波を受信する(ステップS1)。
【0053】
受信された信号は、直交復調部10、ADC11を経て、不等間隔アレイアンテナである受信アンテナ8の受信信号としてADCデータ格納部1211に格納される(ステップS2)。
【0054】
信号補間処理部1212は、不等間隔アレイアンテナである受信アンテナ8からの受信信号を、仮想的な等間隔アレイアンテナの受信信号に補間処理により変換する(ステップS3)。変換された受信信号は、補間データ格納部1214に格納される。
【0055】
補間データ格納部1214に格納されている、補間処理により得られた等間隔アレイアンテナの受信信号は、角度推定部122において角度推定処理(到来方向推定処理)が実行され、対象物ごとに分離される。以上のデータ処理により、不等間隔アレイアンテナとして構成されている受信アンテナ8によって受信された受信信号は、仮想的な等間隔アレイアンテナの受信信号に補間処理により変換され、等間隔アレイアンテナ用の角度推定処理により対象物の角度推定が実行される。
【0056】
<<補間処理済みの受信信号に対する信号処理>>
次に、レーダ装置100の信号処理部12における角度推定処理について説明する。すでに説明しているように、この処理は、不等間隔アレイアンテナである受信アンテナ8の受信信号を、仮想的な等間隔アレイアンテナの受信信号に変換した後に実行される。その点では、通常の等間隔アレイアンテナを受信アンテナ8として用いているレーダ装置の場合と同様であるが、レーダ装置100としての動作を示すために以下に概説する。
図8に、レーダ装置100の角度推定部122による信号処理の手順をフローチャートによって例示している。なお、処理主体を明示していないデータ処理は、角度推定部122についてデータ入出力処理等を管理する、図示を略する制御ブロックが実行するものとする。
【0057】
補間処理された受信信号を処理するため、ステップS10において、最初の受信信号の時系列上の番号「j」がj=0に設定される。
【0058】
ステップS11において、補間処理部121の補間データ格納部1214に格納されている8アンテナ分の補間された受信信号について、時系列のj番目の受信信号列が読み出される。読み出された受信信号列は、AR係数計算部1221と信号拡張部1224に送信される。
【0059】
ステップS12において、AR係数計算部1221は、送信されてきた受信信号列から行列形式の方程式を生成する。AR係数計算部1221は、AR次数記憶部1222に格納されているAR次数(AR係数の個数p)に基づいて生成した方程式からAR係数を算出する。
【0060】
ステップS13において、AR係数計算部1221は、ステップS12で算出したAR係数をAR係数格納部1223に格納する。
【0061】
ステップS14において、信号拡張部1224は、AR係数格納部1223に格納されているAR係数と、抽出された受信信号列に基づいて、ARモデルにより周波数方向に信号を拡張した拡張信号列を算出する。
【0062】
ステップS15において、信号拡張部1224は、拡張信号列を時系列順に保存する。
【0063】
ステップS16において、受信信号列の時系列上の番号「j」が「j=j+1」にインクリメントされる。
【0064】
ステップS17において、ステップS16で更新された時系列信号の番号「j」が所定の数である「M-1」に達したかが判断される。Mは、時系列信号のサンプル数を示している。「j=M-1」の場合(ステップS17:Yes)、処理はステップS18に進み、「j=M-1」でない場合(ステップS17:No)、ステップS11に戻る。
【0065】
ステップS18において、周波数別の拡張時系列信号(拡張受信信号列)の取得が完了し、保存される。
【0066】
ステップS19において、角度推定部122の角度FFT部1225が、拡張受信信号列をFFT処理して角度スペクトル信号を算出して処理をメインルーチンへ戻す。
【0067】
このようにして、本実施形態におけるレーダ装置100で対象物の角度スペクトルが取得される。
【0068】
<角度推定処理結果の説明>
本実施形態におけるレーダ装置100によってターゲットからの反射波の角度推定を行った結果を
図9に示している。
図9は、レーダ装置100の不等間隔アレイアンテナによって受信された受信信号を、等間隔リニアアレイアンテナの受信信号に補間処理によって変換し、角度推定処理を実施した結果を示すスペクトル図である。横軸は受信アンテナの受信角度、縦軸は受信角度に対する振幅を示している。このシミュレーションにおいては、ターゲットを+20度、-10度の2箇所に設置した。受信アンテナとしては、アンテナID=0~7の等間隔リニアアレイアンテナを用いた場合と、その等間隔アレイアンテナにおいて、アンテナID=1,3の2本のアンテナ素子を除去した構成を有する不等間隔リニアアレイアンテナを用いた場合とを想定している。そして、前記の不等間隔リニアアレイアンテナの受信信号に基づいて、補間処理によってアンテナID=0~7の8本のアンテナ素子を有する等間隔アレイアンテナの受信信号に変換した場合を加えた3つのケースについて角度推定処理を実行し、結果を比較した。
図9に示すように、8本のアンテナ素子を有する等間隔アレイアンテナの場合、2つのターゲットが明確に分離されているとともに、グレーティングローブが抑制されており、良好な結果を得られている。一方、2本のアンテナ素子を除去した不等間隔リニアアレイアンテナの場合(「6アンテナ、♯1,3除去」のラベルで示している)では、ターゲットに対する振幅が低下している一方、グレーティングローブが増大して角度推定性能が低下していることがわかる。それらに対して、補間処理によって8本のアンテナ素子を有する等間隔アレイアンテナの受信信号に変換した場合(「8アンテナ、♯1,3補間」のラベルで示している)、ターゲットに対する振幅は等間隔リニアアレイアンテナの場合に次ぐ値が得られ、グレーティングローブは6アンテナ素子の不等間隔リニアアレイアンテナの場合と比較して大幅に低下しており、ほぼ8アンテナ素子の等間隔アレイアンテナ並みとなっている。このように、本実施形態における、不等間隔アレイアンテナの受信信号を同一開口長の等間隔アレイアンテナの受信信号に補間処理により変換することによって、不等間隔アレイアンテナを受信アンテナとして用いたレーダ装置における角度推定性能を向上させることが可能であることを示している。
【0069】
<プログラムについて>
上記したレーダ装置100のデータ処理は、当該データ処理の機能を記述したプログラムをコンピュータ(情報処理装置)に実行させることで実現することもできる。そのコンピュータの構成と動作について
図10を用いて説明する。
図10は、コンピュータ200の構成を示す図である。コンピュータ200は、
図10に示すように、プロセッサ201と、メモリ202と、ストレージ203と、入出力I/F204と、通信I/F205とがバスA上に接続されて構成されている。これらの各構成要素の協働により、本実施形態に記載される機能、および/または、方法を実現する。
【0070】
メモリ202は、RAM(Random Access Memory)で構成される。RAMは、揮発メモリまたは不揮発性メモリで構成されている。
【0071】
ストレージ203は、ROM(Read Only Memory)で構成される。ROMは、不揮発性メモリで構成されており、例えば、HDD(Hard Disc Drive)やSSD(Solid State Drive)、Flash Memoryにより実現される。ストレージ203には、本実施形態におけるレーダ装置100の機能を実現するプログラムなどの各種のプログラムが格納されている。
【0072】
入出力I/F204には、RF回路300が接続されている。RF回路300には、1または複数の送信アンテナ7と、1または複数の受信アンテナ8とが接続されている。RF回路300は、局発制御部1と、局部発振部2と、局発周波数モニタ部3と、変調信号生成部4と、変調部5と、増幅部6,9などの機能を有する。
【0073】
プロセッサ201は、コンピュータ200全体の動作を制御する。プロセッサ201は、ストレージ203からオペレーティングシステムや多様な機能を実現する様々なプログラムをメモリ202にロードし、ロードしたプログラムに含まれる命令を実行する演算装置である。
【0074】
具体的には、プロセッサ201は、ユーザの操作を受け付けた場合、ストレージ203に格納されているプログラム(例えば、本発明に係るプログラム)を読み出し、読み出したプログラムをメモリ202に展開し、プログラムを実行する。また、プロセッサ201が処理プログラムを実行することにより、信号処理部12と、データ処理部13などの各機能が実現される。
【0075】
ここで、プロセッサ201の構成について説明する。プロセッサ201は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、これら以外の各種演算装置、またはこれらの組み合わせにより実現される。
【0076】
また、本実施形態に記載される機能、および/または、方法を実現するために、プロセッサ201、メモリ202およびストレージ203などの機能の一部または全部は、専用のハードウェアであるコンピュータ(以下、処理回路という)400で構成されてもよい。
図11は、処理回路400の構成を示す図である。処理回路400は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらを組み合わせたものである。処理回路400には、RF回路300が接続されている。RF回路300には、1または複数の送信アンテナ7と、1または複数の受信アンテナ8とが接続されている。
【0077】
また、プロセッサ201は、単一の構成要素として説明したが、これに限られず、複数の物理的に別体のプロセッサの集合により構成されてもよい。本明細書において、プロセッサ201によって実行されるとして説明されるプログラムまたは当該プログラムに含まれる命令は、単一のプロセッサ201で実行されてもよいし、複数のプロセッサにより分散して実行されてもよい。また、プロセッサ201によって実行されるプログラムまたは当該プログラムに含まれる命令は、複数の仮想プロセッサにより実行されてもよい。
【0078】
通信I/F205は、所定の通信規格(例えば、CAN(Controller Area Network))に準拠したインターフェースであり、有線または無線により外部装置と通信を行う。
【0079】
このようにして、プログラムは、コンピュータ200、400で実行されることにより、不等間隔アレイアンテナの受信信号を同一開口長の等間隔アレイアンテナの受信信号に変換し、角度推定処理によりその複数の受信信号をそれぞれの物標から反射された物標信号に分離する。このようにすることで、等間隔アレイアンテナの受信信号のみを処理することができる角度推定アルゴリズムを適用して、処理負荷を軽減するとともに、角度推定性能を向上させることができる。
【0080】
以上説明した実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
【0081】
本実施形態に係るレーダ装置100は、1又は複数の物標によって反射された信号を、不等間隔で配置された複数のアンテナ素子を備えてなる不等間隔アレイアンテナとしての受信アンテナ8により受信する受信部52と、前記不等間隔アレイアンテナを構成する受信アンテナ8の各アンテナ素子で受信した受信信号に補間処理を行って、前記不等間隔アレイアンテナと同一の開口長を有する仮想等間隔アレイアンテナにおける受信信号に変換する補間処理部121と、変換された前記受信信号を用いて前記物標の角度を推定する角度推定部122とを備える。
【0082】
これにより、不等間隔アレイアンテナによって受信された受信信号に対し、等間隔アレイアンテナの受信アンテナによる受信信号を処理するためのアルゴリズムを用いて角度推定処理を実行することができる。
【0083】
レーダ装置100において、角度推定部122は、前記補間処理によって得た仮想等間隔アレイアンテナの受信信号に対して、等間隔アレイアンテナの受信信号に適用される角度推定アルゴリズムを用いて前記物標の角度を推定するとしてもよい。
【0084】
これにより、角度推定アルゴリズムのための演算処理の負荷を軽減することができる。
【0085】
前記不等間隔アレイアンテナには、不等間隔リニアアレイアンテナが含まれるとしてもよい。
【0086】
これにより、広く不等間隔アレイアンテナ全般について等間隔アレイアンテナの受信信号用角度推定アルゴリズムを適用することができる。
【0087】
レーダ装置100において、前記補間処理部121は、線形補間、spline補間、akima補間、cubic補間、Nearest neighbor補間、及び区分的3次エルミート内挿多項式補間のいずれかによって補間処理を行うとしてもよい。
【0088】
これにより、レーダ装置100の仕様、要求性能等に適する補間処理の手法を採用することができる。
【0089】
レーダ装置100において、補間処理部121が、n個のアンテナを有する不等間隔アレイアンテナの受信信号を、m個のアンテナを有する同一開口長の仮想等間隔アレイアンテナの受信信号に変換する処理を実行し、nは、4以上の整数であり、mは、n+1以上の整数であるとしてもよい。
【0090】
これにより、角度推定性能を好適に向上させることができる。
【0091】
本実施形態に係る対象物検出方法では、1又は複数の物標によって反射された信号を、不等間隔で配置された複数のアンテナ素子を備えてなる不等間隔アレイアンテナとしての受信アンテナ8により受信し、前記不等間隔アレイアンテナを構成する受信アンテナ8の各アンテナ素子で受信した受信信号に補間処理を行って、前記不等間隔アレイアンテナと同一の開口長を有する仮想等間隔アレイアンテナにおける受信信号に変換し、変換された前記受信信号を用いて前記物標の角度を推定する。
【0092】
これにより、不等間隔アレイアンテナによって受信された受信信号に対し、等間隔アレイアンテナの受信アンテナによる受信信号を処理するためのアルゴリズムを用いて角度推定処理を実行することができる。
【0093】
本実施形態のプログラムは、コンピュータ200に、1又は複数の物標によって反射された信号を、不等間隔で配置された複数のアンテナ素子を備えてなる不等間隔アレイアンテナとしての受信アンテナ8により受信する処理と、前記不等間隔アレイアンテナを構成する受信アンテナ8の各アンテナ素子で受信した受信信号に補間処理を行って、前記不等間隔アレイアンテナと同一の開口長を有する仮想等間隔アレイアンテナにおける受信信号に変換する処理と、変換された前記受信信号を用いて前記物標の角度を推定する処理とを実行させる。
【0094】
これにより、不等間隔アレイアンテナによって受信された受信信号に対し、等間隔アレイアンテナの受信アンテナによる受信信号を処理するためのアルゴリズムを用いて角度推定処理を実行することができる。
【0095】
以上、本願の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、本明細書に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0096】
1局発制御部
2 局部発振部
3 局発周波数モニタ部
4 変調信号生成部
5 変調部
6 増幅部
7 送信アンテナ
8 受信アンテナ
9 増幅部
10 直交復調部
11 ADC
12 信号処理部
13 データ処理部
121 補間処理部
122 角度推定部
51 送信部
52 受信部
100 レーダ装置