(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147389
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】樹脂組成物、ケーブル、チューブ、及び医療用診断装置
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20231005BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20231005BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/22
C08K3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054854
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末永 和史
(72)【発明者】
【氏名】樫村 誠一
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 かなこ
(72)【発明者】
【氏名】加古 学
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC001
4J002AC091
4J002BB031
4J002BD041
4J002BD121
4J002CK021
4J002CP031
4J002DA078
4J002DA118
4J002DE096
4J002DE097
4J002DE107
4J002DE117
4J002DE137
4J002DE147
4J002FD096
4J002FD097
4J002FD208
4J002GB00
(57)【要約】
【課題】UV-C光の照射及び遮光により可逆的に色を変化させる樹脂組成物であって、UV-C光の遮蔽機能を含む添加剤による機能を効果的に得ることができる樹脂組成物、過去のUV-C光による殺菌処理の実施状況を可視化するためのマーカーとして上記樹脂組成物を用いたケーブル又はチューブ、及び上記ケーブル又はチューブを備えた医療用診断装置を提供する。
【解決手段】本発明の一態様において、樹脂からなる母材10と、UV-C光の照射及び遮光により可逆的に変色する、酸化タングステンからなる第1の添加剤11と、UV-C光を遮蔽することのできる第2の添加剤12と、を有する、樹脂組成物1を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる母材と、
UV-C光の照射及び遮光により可逆的に変色する、酸化タングステンからなる第1の添加剤と、
UV-C光を遮蔽することのできる第2の添加剤と、
を有する、樹脂組成物。
【請求項2】
前記第1の添加剤がWOx(2.9<x≦3)である、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記第2の添加剤が、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化すず、酸化マンガン、酸化鉄、酸化シリコン、酸化チタンのうちの少なくとも1つ以上を含む、
請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記第2の添加剤が酸化チタンを含む、
請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記母材が、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、フッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル、合成ゴム、シリコーン系樹脂、クロロプレンゴム、ポリウレタンのうちの少なくとも1つ以上を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
表面におけるエチレンの水素化反応量(分子数/cm2・s)が、Rh(ロジウム)の表面におけるエチレンの水素化反応量の10-3倍以上である触媒を第3の添加剤として有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記第3の添加剤が、パラジウム、白金、銀のうちの少なくとも1つ以上を含む、
請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
過去のUV-C光による殺菌処理の実施状況を可視化するためのマーカーを表面に有し、
前記マーカーが、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる、
ケーブル又はチューブ。
【請求項9】
請求項8に記載のケーブル又はチューブを備えた、
医療用診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、ケーブル、チューブ、及び医療用診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物品の殺菌処理の実施状況を指し示すためのインジケーターであって、UV-C光の照射により色を変化させるものが知られている(特許文献1を参照)。特許文献1に記載のインジケーターには、フォトクロミックモノマー、フォトクロミックオリゴマー、フォトクロミックポリマーなどの、UV-C光の照射により色を変化させる有機物が用いられている。
【0003】
特許文献1に記載のインジケーターによれば、その変色により、インジケーターが連結された物品がUV-C光の照射により殺菌されたことを視覚的に認識することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のインジケーターには、UV-C光の照射により色を変化させる物質として有機物が用いられているため、有機物を分解する機能を有する物質と併用することができない。そのため、例えば、UV-C光の遮蔽材や顔料などとして添加剤を用いる場合に、酸化チタン(TiO2)などの光触媒機能を有する物質を用いることができず、材料の選択の幅が狭いために、添加剤による機能を効果的に得ることが難しい。
【0006】
本発明の目的は、UV-C光の照射及び遮光により可逆的に色を変化させる樹脂組成物であって、UV-C光の遮蔽機能を含む添加剤による機能を効果的に得ることができる樹脂組成物、過去のUV-C光による殺菌処理の実施状況を可視化するためのマーカーとして上記樹脂組成物を用いたケーブル又はチューブ、及び上記ケーブル又はチューブを備えた医療用診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、樹脂からなる母材と、UV-C光の照射及び遮光により可逆的に変色する、酸化タングステンからなる第1の添加剤と、UV-C光を遮蔽することのできる第2の添加剤と、を有する、樹脂組成物を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、過去のUV-C光による殺菌処理の実施状況を可視化するためのマーカーを表面に有し、前記マーカーが、上記の樹脂組成物からなる、ケーブル又はチューブを提供する。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、上記のケーブル又はチューブを備えた、医療用診断装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、UV-C光の照射及び遮光により可逆的に色を変化させる樹脂組成物であって、UV-C光の遮蔽機能を含む添加剤による機能を効果的に得ることができる樹脂組成物、過去のUV-C光による殺菌処理の実施状況を可視化するためのマーカーとして上記樹脂組成物を用いたケーブル又はチューブ、及び上記ケーブル又はチューブを備えた医療用診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る樹脂組成物の垂直断面図である。
【
図2】
図2は、酸化タングステンがWO
x(2.9<x≦3)の組成を有する場合の、変色の過程を示す模式図である。
【
図3】
図3(a)は、本発明の第2の実施の形態に係る超音波プローブケーブルの構成を模式的に示す平面図である。
図3(b)は、
図3(a)に記載の切断線A-Aで切断された超音波プローブケーブルの径方向の断面図である。
【
図4】
図4(a)、(b)は、ケーブルにマーカーを形成するためのマーカー形成装置の構成を模式的に示す側面図と上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔第1の実施の形態〕
(樹脂組成物の構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る樹脂組成物1の垂直断面図である。樹脂組成物1は、樹脂からなる母材10と、UV-C光の照射及び遮光により可逆的に変色する酸化タングステンからなる第1の添加剤11と、UV-C光を遮蔽することのできる第2の添加剤12と、を有する。ここで、UV-C光は、200~280nmの波長域の紫外光である。
【0013】
母材10は、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、フッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル、合成ゴム、シリコーン系樹脂、クロロプレンゴム、ポリウレタンのうちの少なくとも1つ以上を含む。特に、紫外光への耐性に優れるシリコーン系樹脂が、母材10の材料として好ましい。
【0014】
樹脂組成物1に含まれる第1の添加剤11は、酸化タングステンの微粒子である。酸化タングステンは、その組成比によって色を変える性質を有し、例えば、WO3が黄色、WO2.9が青色、WO2.7で紫色、WO2で茶色を有することが知られている。また、酸化タングステンにUV-C光を照射することにより、還元反応を生じさせて酸素の組成比を低減させることができ、反対に、酸化タングステンに照射されるUV-C光を遮ることにより、酸化反応を生じさせて酸素の組成比を増加させることができる。すなわち、UV-C光の照射と遮光により、酸化タングステンの色を可逆的に変化させることができる。
【0015】
図2は、酸化タングステンがWO
x(2.9<x≦3)の組成を有する場合の、変色の過程を示す模式図である。UV-C光の照射により第1の添加剤11を効果的に変色させるため、第1の添加剤11は、黄色又は青色よりも黄色に近い色を有するWO
x(2.9<x≦3)であることが好ましい。この場合、樹脂組成物1にUV-C光を照射することにより、第1の添加剤11に還元反応が生じて、青色などに変色する。そして、樹脂組成物1をUV-C光が照射されない環境に置くことにより、第1の添加剤11に酸化反応が生じて、黄色に変色する。
【0016】
樹脂組成物1に含まれる第1の添加剤11の濃度は、10質量%以上であることが好ましい。第1の添加剤11の濃度が10質量%以上である場合、効果的な光触媒活性を有効に作用させることができる。
【0017】
樹脂組成物1に含まれる第2の添加剤12は、UV-C光を吸収及び/又は散乱により遮蔽することができる。第2の添加剤12がUV-C光を遮蔽することにより、母材10や、樹脂組成物1により構成される部材に覆われた部材のUV-C光による劣化を抑えることができる。
【0018】
第2の添加剤12は、例えば、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化すず、酸化マンガン、酸化鉄、酸化シリコン、酸化チタン(TiO2)の微粒子のうちの少なくとも1つ以上を含む。また、第2の添加剤12として、ベンゾエート系有機物(具体例は、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)などの有機物を用いてもよい。
【0019】
特に、第2の添加剤12は、酸化チタンの微粒子を含むことが好ましい。酸化チタンは、その触媒作用により、第1の添加剤11の酸化還元反応を促進し、UV-C光を照射したときの色の変化量を大きくすることができる。すなわち、第2の添加剤12に酸化チタンの微粒子を含めることにより、樹脂組成物1にUV-C光が照射されたことをより視認しやすくなる。また、酸化チタンの触媒作用による殺菌効果により、UV-C光の照射による殺菌処理と併せて、樹脂組成物1の殺菌をより効果的に実施することができる。
図2は、第2の添加剤12が酸化チタンの微粒子を含む場合の模式図である。
【0020】
なお、第2の添加剤12が酸化チタンを含む場合であっても、第1の添加剤11である酸化タングステンが無機材料であるため、酸化チタンの触媒作用により第1の添加剤11が分解されるおそれはない。
【0021】
第2の添加剤12に用いる酸化チタンは、アナターゼ型、ルチル型、又はブルッカイト型のいずれであってもよい。また、酸化チタンには、ニオブ酸化物を添加して、安定性を持たせるようにしてもよい。
【0022】
結晶構造の異なる酸化チタンは、それぞれ吸収波長が異なるため、複数種の酸化チタンを添加剤として含むことにより、より広い波長範囲の紫外光に対して耐性を有することができる。すなわち、第2の添加剤12が酸化チタンを含む場合、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型のうちの2つ以上を含むことが好ましい。なお、アナターゼ型の酸化チタンは、UV-C領域(200~280nm)の紫外光の吸光度がルチル型の酸化チタンよりも高い。一方、ルチル型の酸化チタンは、アナターゼ型の酸化チタンよりも長波長の紫外光を吸収できる(ルチル型の酸化チタンは約400nm以下の紫外光、アナターゼ型の酸化チタンは約370nm以下の紫外光を吸収できる)。
【0023】
また、ルチル型酸化チタンとアナターゼ型酸化チタンを比率70:30~90:10で混ぜることにより触媒活性が高まり、第1の添加剤11の酸化還元反応をより大きく促進し、かつ、殺菌効果が向上する。
【0024】
酸化チタンの微粒子を第2の添加剤12として用いる場合、樹脂組成物1に含まれる第2の添加剤12の濃度は、3質量%以上であることが好ましい。第2の添加剤12の濃度が3質量%以上である場合、樹脂組成物1全体の紫外線の耐性を向上させることができる。なお、酸化チタンの微粒子を第2の添加剤12として用いる場合、樹脂組成物1に含まれる第2の添加剤12の濃度が高いほど、第1の添加剤11の酸化還元反応を強く促進し、UV-C光を照射したときの色の変化量を大きくすることができる。
【0025】
また、樹脂組成物1は、触媒活性度が高い触媒を第3の添加剤として有することが好ましい。例えば、第3の添加剤の表面におけるエチレンの水素化反応量(分子数/cm2・s)が、Rh(ロジウム)の表面におけるエチレンの水素化反応量の10-3倍以上であることが好ましい。樹脂組成物1が第3の添加剤を含む場合、第1の添加剤11の酸化還元反応を促進し、UV-C光を照射したときの色の変化量を大きくすることができる。また、第3の添加剤の触媒作用による殺菌効果により、UV-C光の照射による殺菌処理と併せて、樹脂組成物1の殺菌をより効果的に実施することができる。第3の添加剤は、例えば、パラジウム、白金、銀の微粒子のうちの少なくとも1つ以上を含む。
【0026】
なお、樹脂組成物1が第3の添加剤を含む場合であっても、第1の添加剤11である酸化タングステンが無機材料であるため、第3の添加剤の触媒作用により第1の添加剤11が分解されるおそれはない。
【0027】
樹脂組成物1は、UV-C光の照射による殺菌処理を行う医療用のケーブルやチューブなどの物品の表面に付される、過去の殺菌処理の実施状況を可視化するためのマーカーの材料として用いることができる。すなわち、本発明によれば、樹脂組成物1からなる過去の殺菌処理の実施状況を可視化するためのマーカーや、そのマーカーを備えた物品を提供することができる。この場合、UV-C光の照射によりマーカーの色が変化し、UV-C光の照射を止めてから一定の時間の経過後に色が戻るため、例えば、マーカーが青色であるときはそのマーカーを備えた物品に殺菌処理が施されていると判断することができ、マーカーが黄色であるときは殺菌処理が未実施又は殺菌処理後所定の時間が経過して殺菌効果が薄れていると判断することができる。
【0028】
また、第1の添加剤11は、UV-C光を照射されたとき以外にも、水素ガスに曝されたときに還元反応が生じ、その色が変化する。そして、水素ガスへの暴露を止めてから一定の時間の経過後に酸化反応により色が戻る。このため、樹脂組成物1を水素漏洩検知用のマーカーとして用いることもできる。すなわち、本発明によれば、樹脂組成物1からなる水素漏洩検知用のマーカーや、そのマーカーを備えた装置を提供することができる。
【0029】
〔第2の実施の形態〕
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態に係る樹脂組成物1を過去の殺菌処理の実施状況を可視化するためのマーカーの材料として用いたケーブル又はチューブである。以下、その一例として、医療用の超音波プローブケーブルについて説明する。
【0030】
図3(a)は、本発明の第2の実施の形態に係る超音波プローブケーブル2の構成を模式的に示す平面図である。超音波プローブケーブル2においては、
図3(a)に示されるように、ケーブル20の一端部に、この一端部を保護するブーツ31を介して、超音波プローブ32が取り付けられている。一方、ケーブル20の他端部には、超音波プローブケーブル2を超音波撮像装置の本体部に接続するためのコネクタ33が取り付けられている。
【0031】
図3(b)は、
図3(a)に記載の切断線A-Aで切断された超音波プローブケーブル2の径方向の断面図である。ケーブル20の内部には、例えば、複数の同軸ケーブルに代表される電線21が収納されており、この複数の電線21を覆うように編組シールドなどのシールド22が設けられている。そして、シールド22を覆うようにシース23が設けられている。さらに、ケーブル20においては、上述したシース23の周囲を覆い、かつ、シース23と密着する被膜24が形成されている。
【0032】
ケーブル20のシース23と被膜24は、例えば、樹脂からなる母材と、UV-C光を遮蔽することのできる第2の添加剤12とを有する。この場合、シース23と被膜24が第2の添加剤12を含むために、ケーブル20はUV-C光への耐性に優れる。また、被膜24がシリコーンレジン微粒子、シリコーンゴム微粒子、シリカ微粒子などの被膜24の表面に凹凸を付与するための微粒子を含む場合には、ケーブル20は表面の滑り性に優れ、表面のべたつきに起因する引っ掛かりを抑制することができる。シース23と被膜24の母材の材料には、樹脂組成物1の母材10と同じ材料を用いることができる。例えば、シース23の材料にはシリコーンゴムを用い、被膜24の材料には、シリコーンレジン微粒子と酸化チタンを含有する付加反応型のシリコーンゴムコーティング剤を用いることが好ましい。なお、シース23の材料にポリ塩化ビニル(PVC)を用いる場合には、表面がべたつかないので、被膜24を設けなくてもよい。
【0033】
ブーツ31は、ケーブル20の被膜24上に、接着層34を介して被膜24を覆うように取り付けられる。ブーツ31は、例えば、PVC、シリコーン系樹脂、クロロプレンゴムなどの樹脂からなり、シース23や被膜24と同様に、UV-C光を遮蔽するための第2の添加剤12を含むことが好ましい。接着層34は、例えば、シリコーン系接着剤やエポキシ系接着剤から形成される。特に、接着層34には、縮合反応型のシリコーン系接着剤を用いることが好ましい。
【0034】
超音波プローブケーブル2は、過去のUV-C光による殺菌処理の実施状況を可視化するためのマーカーを表面に有する。このマーカーは樹脂組成物1で構成されるため、超音波プローブケーブル2にUV-C光の照射による殺菌処理を施すことにより色を変え、UV-C光の照射を止めてから一定の時間の経過後に色を戻す。このため、例えば、マーカーの色が初期状態から変化しているとき、例えば黄色から青色に変わっているときは、超音波プローブケーブル2に殺菌処理が施されていると判断することができ、マーカーの色が初期状態に戻っているときは殺菌処理が未実施又は殺菌処理後所定の時間が経過して殺菌効果が薄れていると判断することができる。
【0035】
超音波プローブケーブル2の有するマーカーの位置、大きさ、形状、個数などは特に限定されない。
図3(a)に示される例では、ケーブル20の表面の一部に設けられたマーカー201と、超音波プローブ32の筐体の一部に設けられたマーカー321が超音波プローブケーブル2に含まれている。この場合、例えば、ケーブル20や超音波プローブ32の表面の一部に樹脂組成物1を所定の形状にコーティングすることにより、マーカー201やマーカー321を形成する。また、例えば、ブーツ31を樹脂組成物1で構成して、ブーツ31の全体をマーカーとして用いてもよい。
【0036】
マーカー201、マーカー321などのマーカーにおいては、第1の添加剤11の一部がマーカーの表面に露出した状態、すなわち母材10に完全に覆われていない状態であることが好ましい。この場合、第1の添加剤11が効率的にUV-C光を吸収することができるため、色の変化量が大きくなる。また、触媒作用を有する第2の添加剤12や第3の添加剤の一部がマーカーの表面に露出した状態である場合は、第2の添加剤12や第3の添加剤が効率的にUV-C光を吸収することができるため、触媒作用が強まることにより、第1の添加剤11の色の変化量が増加し、かつ殺菌効果が強まる。
【0037】
図4(a)、(b)は、ケーブル20にマーカー201を形成するためのマーカー形成装置50の構成を模式的に示す側面図と上面図である。ケーブル20のシース23の材料にはシリコーンゴムを用い、被膜24の材料にはシリコーンレジン微粒子と酸化チタンを含有する付加反応型のシリコーンゴムコーティング剤を用いており、被膜24の一部がマーカー201となる場合について説明を行う。マーカー形成装置50は、例えば、第1の添加剤11、第2の添加剤12を含む配合添加剤を被膜24の材料であるコーティング液が塗布されたケーブル20の表面に吹き付けることにより、マーカー201を形成する。第3の添加剤を含むマーカー201を形成する場合は、第1の添加剤11と第2の添加剤12に加えて、第3の添加剤を配合添加剤に含める。
【0038】
ケーブル20の表面に塗布されるコーティング液は、溶剤により液状化した母材10の材料である樹脂であり、配合添加剤が吹き付けられた後に溶剤が揮発して硬化すると母材10となる。被膜24の母材である樹脂が、マーカー201を構成する樹脂組成物1の母材10としても用いられてもよい。被膜24の母材である樹脂とマーカー201を構成する樹脂組成物1の母材10とは、別の材料であってもよく、同じ材料であって1層目(内周側層)が被膜24であり、2層目(外周側層)がマーカー201であってもよい。なお、マーカー201が形成されるケーブル20の表面は、ケーブル20が被膜24を有する場合は被膜24の表面であり、被膜24を有しない場合はシース23の表面である。以下では、被膜24の母材である樹脂が、マーカー201を構成する樹脂組成物1の母材10としても用いられる場合について説明を行う。
【0039】
マーカー形成装置50は、ケーブル20をマーカー形成装置50に導入するための導入リール51と、導入リール51により導入されたケーブル20をマーカー形成領域まで送り出すための送出リール52と、マーカー形成領域を通過したケーブル20を引き取るための引取リール53と、引取リール53に引き取られたケーブル20を巻き取るための巻取コイル54と、導入リール51と送出リール52の間に設置された、ケーブル20の進行をガイドするための送出ガイド治具55と、引取リール53と巻取コイル54の間に設置された、ケーブル20の進行をガイドするための引取ガイド治具56と、送出リール52、引取リール53などを支持する支持部57と、送出リール52と引取リール53の間のマーカー形成領域の手前側でケーブル20の表面にコーティング液を吹き付けるコーティング液吹き付け装置60と、マーカー形成領域においてケーブル20の表面に上記の配合添加剤を吹き付ける配合添加剤吹き付け装置58と、送出リール52と引取リール53の間のマーカー形成領域の奥側でコーティング液を加熱して硬化させるヒーター61とを備える。
図4(a)、(b)においてケーブル20の輸送方向は、左側から右側に向かう方向である。なお、コーティング液吹き付け装置60から吹き付けるコーティング液中に、第2の添加剤が含まれる場合には、配合添加剤吹き付け装置58から吹き付ける配合添加剤は、第1の添加剤のみとしてもよいし、第2の添加剤が含まれてもよい。
【0040】
図4(a)、(b)には、配合添加剤吹き付け装置58のノズル部のみを概略的に示す。配合添加剤吹き付け装置58のノズル部から発せられた配合添加剤は、シャッター59を通過してケーブル20の表面に吹き付けられる。ここで、シャッター59が閉状態のときには配合添加剤はシャッター59を通過できず、開状態のときにのみシャッター59を通過できる。このため、シャッター59の開閉を一定周期で断続的に繰り返すことにより、マーカー形成装置50内を輸送されるケーブル20の表面に一定の間隔でマーカー201を形成することができる。マーカー201が形成されたケーブル20は、巻取コイル54に巻き取られた後、超音波プローブケーブル2に適した長さに切断される。
【0041】
配合添加剤吹き付け装置58を用いて配合添加剤を吹き付けてマーカー201を形成する場合、第1の添加剤11、第2の添加剤12の一部が母材10の表面に露出した状態のマーカー201を容易に得ることができる。
【0042】
本実施の形態に係るケーブル又はチューブは、樹脂組成物1からなるマーカーを備えたものであれば、上記の超音波プローブケーブル2に限定されず、例えば、ケーブルの先端にカメラを備えた内視鏡スコープや、医療用途に使用されるチューブ(中空管)、例えばカテーテル、内視鏡手術器用チューブセット、超音波手術器用チューブセット、血液分析器用チューブ、酸素濃縮器内配管、人工透析血液回路、人工心肺回路、気管内チューブなど、であってもよい。これらのケーブル又チューブにおいても、超音波プローブケーブル2と同様に、マーカーの色の変化により、過去の殺菌処理の実施状況を視覚的に認識することができる。
【0043】
本実施の形態に係るケーブル又はチューブの一形態である超音波プローブケーブル2は、超音波画像診断装置において用いられる。また、本発明に係るケーブル又はチューブの他の形態である内視鏡スコープは、内視鏡システムにおいて用いられる。また、本発明に係るケーブル又はチューブの他の形態である医療用チューブは、人工透析装置、人工心肺装置、血液分析装置などにおいて用いられる。このため、本発明によれば、超音波プローブケーブル2、内視鏡スコープ、医療用チューブなどのケーブル又はチューブを備えた医療用診断装置を提供することができる。
【0044】
(実施の形態の効果)
上記第1の実施の形態によれば、UV-C光の照射及び遮光により可逆的に色を変化させる樹脂組成物であって、UV-C光の遮蔽機能を含む添加剤による機能を効果的に得ることができる樹脂組成物1を提供することができる。また、上記第2の実施の形態によれば、樹脂組成物1を過去の殺菌処理の実施状況を可視化するためのマーカーの材料に用いた超音波プローブケーブル2などのケーブルやチューブ、及びそれらを備えた医療用診断装置を提供することができる。
【0045】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0046】
[1]樹脂からなる母材(10)と、UV-C光の照射及び遮光により可逆的に変色する、酸化タングステンからなる第1の添加剤(11)と、UV-C光を遮蔽することのできる第2の添加剤(12)と、を有する、樹脂組成物(1)。
【0047】
[2]前記第1の添加剤がWOx(2.9<x≦3)である、上記[1]に記載の樹脂組成物(1)。
【0048】
[3]前記第2の添加剤が、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化すず、酸化マンガン、酸化鉄、酸化シリコン、酸化チタンのうちの少なくとも1つ以上を含む、上記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物(1)。
【0049】
[4]前記第2の添加剤が酸化チタンを含む、上記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物(1)。
【0050】
[5]前記母材が、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、フッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル、合成ゴム、シリコーン系樹脂、クロロプレンゴム、ポリウレタンのうちの少なくとも1つ以上を含む、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の樹脂組成物(1)。
【0051】
[6]表面におけるエチレンの水素化反応量(分子数/cm2・s)が、Rh(ロジウム)の表面におけるエチレンの水素化反応量の10-3倍以上である触媒を第3の添加剤として有する、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の樹脂組成物(1)。
【0052】
[7]前記第3の添加剤が、パラジウム、白金、銀のうちの少なくとも1つ以上を含む、上記[6]に記載の樹脂組成物(1)。
【0053】
[8]過去のUV-C光による殺菌処理の実施状況を可視化するためのマーカー(201、321)を表面に有し、前記マーカー(201、321)が、上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の樹脂組成物(1)からなる、ケーブル又はチューブ(2)。
【0054】
[9]上記[8]に記載のケーブル又はチューブ(2)を備えた、医療用診断装置。
【0055】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、上記実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0056】
1 樹脂組成物
10 母材
11 第1の添加剤
12 第2の添加剤
2 超音波プローブケーブル
20 ケーブル
201 マーカー
23 シース
24 被膜
31 ブーツ
32 超音波プローブ
321 マーカー
50 マーカー形成装置
58 吹き付け装置
59 シャッター