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特開2023-147402PTC機能性組成物、PTC機能性組成物層、非水電解質二次電池用被覆集電体、非水電解質二次電池用電極及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147402
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】PTC機能性組成物、PTC機能性組成物層、非水電解質二次電池用被覆集電体、非水電解質二次電池用電極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/02 20060101AFI20231005BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231005BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20231005BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01C7/02
H01M4/13
H01M4/66 A
C08L101/14
C08L23/26
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054873
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】田代 勇太
(72)【発明者】
【氏名】白 鎭碩
(72)【発明者】
【氏名】干場 弘治
(72)【発明者】
【氏名】深谷 倫行
【テーマコード(参考)】
4J002
5E034
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
4J002BB20X
4J002BB21X
4J002BG13W
4J002BJ00W
4J002DA017
4J002DA036
4J002FA057
4J002FA117
4J002FD116
4J002FD117
4J002GF00
4J002GQ00
4J002GQ02
4J002HA06
5E034AC10
5H017AA03
5H017DD06
5H017HH01
5H050AA15
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050EA23
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】塗工性及びスラリー安定性に優れたPTC機能性組成物を提供する。
【解決手段】導電材と水溶性樹脂と水分散樹脂微粒子と水性媒体とを含有し、前記水溶性樹脂が、(メタ)アクリルアミド系単量体単位を含有するノニオン性重合体、又はN-ビニルアミド系単量体単位を含有するノニオン性重合体であるPTC機能性組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材と水溶性樹脂と水分散樹脂微粒子と水性媒体とを含有し、
前記水溶性樹脂が、(メタ)アクリルアミド系単量体単位を含有するノニオン性重合体、又はN-ビニルアミド系単量体単位を含有するノニオン性重合体であるPTC機能性組成物。
【請求項2】
前記水分散樹脂粒子がポリオレフィン系材料である請求項1に記載のPTC機能性組成物。
【請求項3】
前記水分散樹脂粒子がマレイン酸を有する化合物によってその一部又は全ての繰り返し単位が変性されている請求項2に記載のPTC機能性組成物。
【請求項4】
前記導電材が1種類又は複数種類の炭素材料からなるものである請求項1~3のいずれか一項に記載のPTC機能性組成物。
【請求項5】
前記水性媒体が、水又は水と相溶な液状媒体である請求項1~4のいずれか一項に記載のPTC機能性組成物。
【請求項6】
前記PTC機能性組成物の固形分全体を100質量%として、
前記導電材の含有量が10~70質量%であり、
前記水溶性樹脂の含有量が1~50質量%であり、
前記水分散樹脂粒子の含有量が5~70質量%である請求項1~5のいずれか一項に記載のPTC機能性組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のPTC機能性組成物を含有するPTC機能性組成物層。
【請求項8】
請求項7記載のPTC機能性組成物層を備えた非水電解質二次電池用被覆集電体。
【請求項9】
請求項8に記載の非水電解質二次電池用被覆集電体を備えた非水電解質二次電池用電極。
【請求項10】
請求項9に記載の非水電解質二次電池用電極を備えた非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTC機能性組成物、当該PTC機能性組成物を用いたPTC機能性組成物層、非水電解質二次電池用被覆集電体、非水電解質二次電池用電極及び非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池をはじめとする非水電解質二次電池は、スマートフォンやノート型パソコン等の電源として広く用いられており、最近は車載用など大型電池にも使用されている。一方、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いという利点の反面、非水電解質を使用するため、安全性に十分な対策が必要であるが、近年電池の大型化に応じて、安全性の確保が更に重要となっている。
【0003】
そこで、リチウムイオン二次電池には、故障等の不慮の事故の際、自発的かつ安全に充放電を停止する所謂シャットダウン機能が求められており、電池内部ではセパレータにその機能が付与されている。しかし、セパレータによるシャットダウンが不完全でセパレータ融点より更に温度が上昇する場合や、外部温度の上昇により、セパレータが融解して内部短絡が発生する場合もあり、さらなる安全性向上に向けた対策が求められている。
【0004】
その対策として、リチウム二次電池の電極を構成する集電体または活物質層内に正温度係数(PTC)機能性組成物を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2019/003721号公報
【特許文献2】国際公開WO2016/158480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで従来知られているPTC機能性組成物では、その形成に用いられる複数種類の樹脂が有する官能基の相互作用等により、そのスラリーにおいて凝集物が形成され、塗工性の悪化や、スラリー安定性の悪化等の問題が生じる。それ故、このようなPTC機能性組成物を下地層とする集電体を用いた非水電解質二次電池を作成すると、PTC機能性組成物の厚みが大きくなってしまい、エネルギー密度の向上を阻害する要因となる。
【0007】
そこで本発明は、塗工性及びスラリー安定性に優れたPTC機能性組成物を提供することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の態様1は、導電材と水溶性樹脂と水分散樹脂微粒子と水性媒体とを含有し、前記水溶性樹脂が、(メタ)アクリルアミド系単量体単位を含有するノニオン性重合体、又はN-ビニルアミド系単量体単位を含有するノニオン性重合体であるPTC機能性組成物である。
【0009】
また本発明の態様2は、前記水分散樹脂粒子がポリオレフィン系材料である前記態様1のPTC機能性組成物である。
【0010】
本発明の態様3は、前記水分散樹脂粒子がマレイン酸によってその一部又は全ての繰り返し単位が変性されている前記態様2のPTC機能性組成物である。
【0011】
本発明の態様4は、前記導電材が1種類又は複数種類の炭素材料からなるものである前記態様1~3のいずれかのPTC機能性組成物である。
【0012】
本発明の態様5は、前記水性媒体が、水又は水と相溶な液状媒体である前記態様1~4のいずれかのPTC機能性組成物である。
【0013】
本発明の態様6は、前記PTC機能性組成物の固形分全体を100質量%として、前記導電材の含有量が10~70質量%であり、前記水溶性樹脂の含有量が1~50質量%であり、前記水分散樹脂粒子の含有量が5~70質量%である前記態様1~5のいずれかのPTC機能性組成物である。
【0014】
また本発明の別の態様は、以上に説明したような本発明の各態様のPTC機能性組成物を含有するPTC機能性組成物層、集電体上に前記PTC機能性組成物層が形成された非水電解質二次電池用被覆集電体、該非水電解質二次電池用被覆集電体を備えた非水電解質二次電池用電極、又は該非水電解質二次電池用電極を備えた非水電解質二次電池を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
このような本発明によれば、塗工性及びスラリー安定性に優れたPTC機能性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係るPTC機能性組成物により、優れた塗工性とスラリー安定性とが得られる理由については未だ不明な点もある。現在までに得られている知見を基に本発明者らが考えるメカニズムについて以下に説明する。
【0017】
すなわち本実施形態のPTC機能性組成物は、導電材と水溶性樹脂と水分散樹脂微粒子と水性媒体とを含有し、水溶性樹脂が(メタ)アクリルアミド系単量体単位を含有するノニオン性重合体、又はN-ビニルアミド系単量体単位を含有するノニオン性重合体であることにより、水分散体樹脂粒子の分散状態安定化に寄与する水分散体樹脂粒子の表面に存在するイオンとの相互作用が抑えられるので、スラリー中の凝集物の形成を抑制することができ、これにより優れた塗工性とスラリー安定性とを発揮することができると考えられる。なお、このメカニズムについての説明は本発明の技術的範囲を制限することを目的とするものではないことに留意されたい。
【0018】
以下に、本発明の一実施形態に係る二次電池の具体的な構成について説明する。
【0019】
<1.非水電解質二次電池の基本構成>
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、非水電解質と、を備えるものである。リチウムイオン二次電池の形態は、特に限定されないが、例えば、円筒形、角形、ラミネート形、またはボタン形等のいずれであってもよい。
【0020】
(1-1.正極)
正極は、正極集電体と、該正極集電体上に形成された正極合剤層とを備えている。
【0021】
正極集電体は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、板状又は箔状のものであり、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成されることが好ましい。
【0022】
正極合剤層は、少なくとも正極活物質を含み、導電剤と、正極用バインダーとをさらに含んでいてもよい。
【0023】
正極活物質は、例えば、リチウムを含む遷移金属酸化物または固溶体酸化物であり、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出することができる物質であれば特に制限されない。リチウムを含む遷移金属酸化物としては、例えば、Li1.0Ni0.88Co0.1Al0.01Mg0.01等を挙げることができるが、これ以外にも、LiCoO等のLi・Co系複合酸化物、LiNiCoMn等のLi・Ni・Co・Mn系複合酸化物、LiNiO等のLi・Ni系複合酸化物、またはLiMn等のLi・Mn系複合酸化物等を例示することができる。固溶体酸化物としては、LiMnCoNi(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMn1.5Ni0.5等を例示することができる。なお、正極活物質の含有量(含有比)は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極合剤層に適用可能な含有量であればよい。また、これらの化合物を単独で用いても良いし、または複数種混合して用いてもよい。
【0024】
導電剤は、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。導電剤の具体例としては、例えば、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛及び繊維状炭素の中から選ばれる一種以上を含有するものを挙げることができる。カーボンブラックの例としては、ファーネスブラック、チャネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。繊維状炭素の例としては、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノファイバ等を挙げることができる。導電剤の含有量は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極合剤層に適用可能な含有量であれば良い。
【0025】
正極用バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素含有樹脂、スチレンブタジエンゴム等のエチレン含有樹脂、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、アクリロニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース若しくはカルボキシメチルセルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースの塩等)、又はニトロセルロース等を挙げることができる。正極用バインダーは、正極活物質及び導電剤を正極集電体上に結着させることができるものであればよく、特に制限されない。
【0026】
(1-2.負極)
負極は、負極集電体と、該負極集電体上に形成された負極合剤層とを備えるものである。
【0027】
負極集電体は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、板状又は箔状のものであり、銅、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成されるものであることが好ましい。
【0028】
負極合剤層は、少なくとも負極活物質を含み、導電剤と、負極用バインダーとをさらに含んでいても良い。
【0029】
前記負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することが出来るものであれば特に限定されないが、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、Si系活物質又はSn系活物質(例えば、ケイ素(Si)もしくはスズ(Sn)もしくはそれらの酸化物の微粒子と黒鉛活物質との混合物、ケイ素もしくはスズの微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金)、金属リチウム及びLiTi12等の酸化チタン系化合物、リチウム窒化物等が考えられる。負極活物質としては、以上に挙げたもののうち一種類を用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。なお、ケイ素の酸化物は、SiOx(0≦x≦2)で表される。
【0030】
導電剤は、負極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されず、例えば、正極の項で説明したものと同様のものを使用することができる。
【0031】
負極用バインダーとしては、負極活物質及び導電剤を負極集電体上に結着させることができるものであればよく、特に制限されない。負極用バインダーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸(PAA)、スチレンブタジエン系共重合体(SBR)、カルボキシメチルセルロースの金属塩(CMC)などであってもよい。1種のバインダーが単独で使用されても良いし、2種以上を含有するものとしても良い。
【0032】
(1-3.セパレータ)
セパレータは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。なお、セパレータの気孔率は、特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池のセパレータが有する気孔率を任意に適用することが可能である。
【0033】
セパレータの表面に、耐熱性を向上させるための無機粒子を含む耐熱層、または電極と接着して電池素子を固定化するための接着剤を含む層があってもよい。前述の無機粒子としては、Al、AlOOH、Mg(OH)、SiOなどがあげられる。接着剤としてはフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン重合体の酸変性物、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などがあげられる。
【0034】
(1-4.非水電解液)
非水電解液は、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを使用することができる。非水電解液は、電解液用溶媒である非水溶媒に電解質塩を含有させた組成を有する。
【0035】
非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル等の鎖状エステル類、テトラヒドロフラン又はその誘導体、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジブトキシエタン、又はメチルジグライム、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレンレングリコールモノプロピルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、ジオキソラン又はその誘導体、エチレンスルフィド、スルホラン、スルトン又はその誘導体等を、単独で、またはそれら2種以上を混合して使用することができる。なお、前記非水溶媒を2種以上混合して使用する場合、各非水溶媒の混合比は、従来のリチウムイオン二次電池で用いられる混合比が適用可能である。
【0036】
電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LIPF-x(C2n+1)x[但し、1<x<6、n=1or2]、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n-CNClO、(n-CNI、(CN-maleate、(CN-benzoate、(CN-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。なお、電解質塩の濃度は、従来のリチウムイオン二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。本実施形態では、前述したようなリチウム化合物(電解質塩)を0.8mol/l以上1.5mol/l以下程度の濃度で含有させた非水電解液を使用することが好ましい。
【0037】
なお、非水電解液には、各種の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、負極作用添加剤、正極作用添加剤、エステル系の添加剤、炭酸エステル系の添加剤、硫酸エステル系の添加剤、リン酸エステル系の添加剤、ホウ酸エステル系の添加剤、酸無水物系の添加剤、及び電解質系の添加剤等が挙げられる。これらのうちいずれか1種を非水電解液に添加しても良いし、複数種類の添加剤を非水電解液に添加してもよい。
【0038】
<2.本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法>
次に、リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
正極は、以下のように作製される。まず、正極活物質、導電剤、及び正極用バインダーを所望の割合で混合したものを、正極スラリー用溶媒に分散させることで正極スラリーを形成する。次いで、この正極スラリーを正極集電体上に塗布して乾燥させることで、正極合剤層を形成する。なお、塗布の方法は、特に限定されず、例えば、ナイフコーター法、グラビアコーター法、リバースロールコーター、スリットダイコーター等が考えられる。以下の各塗布工程も同様の方法により行われる。次いで、プレス機により正極合剤層を所望の密度となるようにプレスする。これにより、正極が作製される。
【0039】
負極は、正極と同様に作製される。まず負極合剤層を構成する材料を混合したものを負極スラリー用溶媒に分散させることで、負極スラリーを作製する。次いで、負極スラリーを負極集電体上に塗布して乾燥させることで、負極合剤層を形成する。次いで、プレス機により負極合剤層を所望の密度となるようにプレスする。これにより、負極が作製される。
【0040】
次いで、セパレータを正極及び負極で挟むことで、電極構造体を作製する。次いで、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。次いで、当該容器内に非水電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔や正極及び負極の空隙に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池が作製される。
【0041】
<3.本実施形態に係る非水電解質二次電池の特徴構成>
以下に、本実施形態に係る非水電解質二次電池の特徴構成について説明する。
【0042】
(3-1.PTC機能性組成物層)
前述した正極及び負極は、正温度係数(PTC)機能性組成物を含有するPTC機能性組成物層を下地層として更に備えている。
【0043】
PTC機能性組成物層は、導電材と、水溶性樹脂と、水分散樹脂微粒子と、水性媒体とを少なくとも含有するものである。PTC機能性組成物層は、正極集電体と負極集電体との間に形成されていれば良く、例えば、正極集電体と正極合剤層との間、及び/又は負極集電体と負極合剤層との間に設けられていることが好ましい。本実施形態では、PTC機能性組成物層は、正極集電体と正極合剤層との間、及び負極集電体と負極合剤層との間の両方に設けられている。
【0044】
<導電材>
導電材は、導電性を有する粒子状のものであり、グラファイト、カーボンブラック、ファーネスブラック、黒鉛化ファーネスブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、カーボンファイバー)、フラーレン等の炭素材料等の1種又は複種類からなるものである。
【0045】
導電材の含有量が少ないと、PTC機能性組成物層の電池動作温度での電気抵抗が高くなり、電圧降下が増大しセル容量、セル電圧、負荷特性、サイクル特性などの電池特性が低下する恐れがある。一方、導電材の含有量が過多であると、相対的に水分散樹脂の含有量が低下し、PTC機能が不十分となる恐れがある。そのため、導電材の含有量は、PTC機能性組成物から溶媒などの液体成分を除いた固形分全体を100質量%として、10質量%以上70質量%以下が好ましく、17.5質量%以上35質量%以下がより好ましく、22.5質量%以上35質量%以下がさらに好ましい。
【0046】
なお、PTC機能性組成物の固形分全体とは、例えば、乾燥させることによって液体部分を全て揮発させた後に残る固体の総質量を指すものであり、すなわちPTC機能性組成物を作製する際に使用した各成分の粉体としての総質量に等しいものである。以下において同じである。
【0047】
<水溶性樹脂>
水溶性樹脂は、水溶性を備え、導電材と水分散樹脂微粒子とを結着させるものである。ここでいう水溶性とは、例えば、25℃の水99g中に水溶性樹脂(E)1g入れて撹拌し、25℃で24時間放置した後、分離・析出せずに水中で樹脂が溶解可能なものを意味する。本発明の水溶性樹脂は、具体的には、(メタ)アクリルアミド系単量体単位を含有するノニオン性重合体、又はN-ビニルアミド系単量体単位を有するノニオン性重合体であることを特徴とする。
【0048】
(メタ)アクリルアミド系単量体単位としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチルアクリルアミド、N-tertブチルアクリルアミド、アクロイルモルホリン等が挙げられる。
【0049】
(メタ)アクリルアミド系単量体単位の中でも、水溶性と密着性と電解液低膨潤性の観点から、アクリルアミドが好ましい。N-ビニルアミド系単量体単位としては、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルイソブチルアミド等が挙げられる。これらの(メタ)アクリルアミド系単量体単位ならびにN-ビニルアミド系単量体単位は、1種類を単独で含有してもよく、2種類以上を任意の比率で含有してもよい。
【0050】
また上記水溶性樹脂は、(メタ)アクリルアミド系単量体単位及びN-ビニルアミド系単量体単位以外のその他の単量体単位を含有しても良い。その他の単量体単位は、(メタ)アクリルアミド系単量体及びN-ビニルアミド系単量体と共重合し得るノニオン性の単量体単位であれば特に制限されない。その他のノニオン性単量体単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位、ビニルアルコール、ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0051】
水溶性樹脂の含有量が少ないと、水溶性樹脂による結着性が損なわれ、導電剤などのPTC機能性組成組成層成分が製造中に集電体から脱落し十分なPTC機能が得られない恐れがある。一方、水溶性樹脂の含有量が過多であると、導電剤の不足による電池特性の低下や水分散樹脂の不足によるPTC機能の低下が生じるとなる恐れがある。そのため、水溶性樹脂の含有量は、PTC機能性組成物から溶媒などの液体成分を除いた固形分全体を100質量%として、1質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上40質量%以下がより好ましく、22.5質量%以上32.5質量%以下がさらに好ましい。
【0052】
<水分散樹脂微粒子>
水分散樹脂微粒子は、一般的に水性エマルションとも呼ばれるものであり、樹脂粒子が水中で溶解せずに、微粒子の形態で分散されているものである。
【0053】
具体的にこの水分散樹脂微粒子は、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、イソブテン、1-ブテン、2-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテンン、1-ヘキセン、1-オクテン、ノルボネン等をオレフィン成分とするポリオレフィン系材料が挙げられる。水分散樹脂微粒子を構成するポリオレフィン系材料は、これらオレフィン成分単一の重合体でも良く、2成分以上の共重合体でも良い。
【0054】
また水分散樹脂微粒子を構成するポリオレフィン系材料は、マレイン酸又はエチルアクリルレートを有する化合物によりその一部又はすべての繰り返し単位が変性されていることが好ましく、特にマレイン酸により変性されていることが好ましい。
【0055】
水分散樹脂微粒子の含有量が少ないと、故障等の不慮の事故により電池温度が上昇した際、自発的かつ安全に充放電を停止する所謂シャットダウン機能が不十分となる恐れがある。一方、水溶性樹脂微粒子の含有量が過多であると、充放電を停止する所謂シャットダウン機能を発現させる必要のない程度の温度上昇でシャットダウン機能が発現し電池性能が低下する恐れがある。そのため、水分散樹脂微粒子の含有量は、PTC機能性組成物から溶媒などの液体成分を除いた固形分全体を100質量%として、5質量%以上70質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましく、35質量%以上50質量%以下がさらに好ましい。
【0056】
<水性媒体>
水性媒体としては、水を使用することが好ましいが、必要に応じて、例えば、集電体への塗工性向上のために、水と相溶する液状媒体を使用しても良い。
【0057】
水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用しても良い。
【0058】
<その他添加剤>
PTC機能性組成物には、界面活性剤、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤、粘性調整剤などのその他添加剤が必要に応じて更に含まれていてもよい。界面活性剤、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤、粘性調整剤などのその他添加剤としては、ノニオン性であることが好ましい。ノニオン性のその他添加剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。界面活性剤、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤、粘性調整剤などのその他添加剤としてこのようなものを用いれば、前記添加剤を添加した際に生じ得るPTC機能性組成物中における凝集物の発生を抑制することができる。
【0059】
(3-2.PTC機能性組成物層の作製方法)
前述したPTC機能性組成物を水やNMP等の溶媒に懸濁してスラリー状にしたものを、正極集電体又は負極集電体上に乾燥後の厚みが0.1μm以上5μm以下、より好ましくは0.3μm以上2μm以下の厚みとなるように塗布し、乾燥させることによって形成することができる。本明細書においては、PTC機能性組成物層が表面に形成された集電体を被覆集電体と呼ぶこととする。被覆集電体のPTC機能性組成物層の厚みが0.1μm以上であれば、異常発熱時PTC機能を十分に発揮することができるので好ましい。また、被覆集電体のPTC機能性組成物層の厚みが5μm以下であれば、電極に占める活物質の含有比率を確保して、電池容量の低下を抑えることができるので好ましい。この被覆集電体が備えるPTC機能性組成物層の上に合剤層を形成することによって正極又は負極となる二次電池用電極を作製することができる。
【0060】
より具体的には、PTC機能性組成物層と正極集電体とを備える正極用被覆集電体のPTC機能性組成物層の上に正極合剤層を形成することによって、前記正極を形成することができる。同様に、PTC機能性組成物層と負極集電体とを備える負極用被覆集電体のPTC機能性組成物層の上に負極合剤層を形成することによって、前記負極を形成することができる。
【実施例0061】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は、あくまでも本発明の一例であり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
<水溶性樹脂の合成>
(水溶性樹脂(B-1)の合成)
メカニカルスターラー、撹拌棒、温度計を装着した2000mLのセパラブルフラスコ内に、アクリルアミド60.0g、イオン交換水1125.0gを仕込んで400rpmにて撹拌した後、系内を窒素置換し、ジャケット温度を85℃の設定にして昇温した。系内温度が60℃になった時点で、2,2´-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1217mgをイオン交換水15.0gに溶解した開始剤水溶液を添加した。ジャケット温度85℃の設定にて、前述の開始剤添加から12時間撹拌を継続して、無色透明のポリマー水溶液を得た。反応後の水溶液の不揮発分を測定したところ、5.1質量%であった。これを回収して水溶性樹脂(B-1)を5.1質量%含有するpH7.2の水溶液を得た。
【0063】
(水溶性樹脂(B-2)の合成)
メカニカルスターラー、撹拌棒、温度計を装着した2000mLのセパラブルフラスコ内に、アクリルアミド45.0g、メタクリルアミド45.0g、イオン交換水790.0gを仕込んで400rpmにて撹拌した後、系内を窒素置換し、ジャケット温度を85℃の設定にして昇温した。系内温度が60℃になった時点で、2,2´-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1675mgをイオン交換水20.0gに溶解した開始剤水溶液を添加した。ジャケット温度85℃の設定にて、前述の開始剤添加から12時間撹拌を継続して、無色透明のポリマー水溶液を得た。反応後の水溶液の不揮発分を測定したところ、10.0質量%であった。これを回収して水溶性樹脂(B-2)を10.0質量%含有するpH7.8の水溶液を得た。
【0064】
(水溶性樹脂(B-3)の合成)
メカニカルスターラー、撹拌棒、温度計を装着した2000mLのセパラブルフラスコ内に、N-ビニルホルムアミド100.0g、イオン交換水880.0gを仕込んで400rpmにて撹拌した後、系内を窒素置換し、ジャケット温度を85℃の設定にして昇温した。系内温度が60℃になった時点で、2,2´-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)2028mgをイオン交換水20.0gに溶解した開始剤水溶液を添加した。ジャケット温度85℃の設定にて、前述の開始剤添加から6時間撹拌継続した後、2,2´-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)2028mgをイオン交換水20.0gに溶解した開始剤水溶液を添加して撹拌をさらに6時間継続して、無色透明のポリマー水溶液を得た。反応後の水溶液の不揮発分を測定したところ、10.0質量%であった。これを回収して水溶性樹脂(B-3)を10.0質量%含有するpH7.5の水溶液を得た。
【0065】
<水溶性樹脂の選定>
水溶性樹脂(B-4)としてカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩の1.36質量%水溶液を使用した。また水溶性樹脂(B-5)としてポリアクリル酸のナトリウム塩の25.0質量%溶液を使用した。
【0066】
<PTC機能性組成物の作製>
(実施例1)
導電性炭素材料として導電材(A-1)を70.0g、結着剤である水溶性樹脂(B-1)を5.1%水溶液588g(固形分として30g)、水100.0gを入れディスパーを用いて3000rpmにて20分間混合した。前記の混合物を吉田工業機械株式会社製NanoVatorにより圧力80MPaにて高圧分散処理した。前記高圧分散処理を3回繰り返し、導電材(A-1)の分散液を得た。次いで、前記分散液に水分散樹脂粒子(C-1)を120g(固形分として30g)ミキサーにて500rpmにて10分間混合し、PTC機能性組成物を得た。
【0067】
(実施例2~20)
表4に示す組成比に従って、導電材及び水溶性樹脂及び水分散樹脂粒子の種類及び投入量を変更した以外は同様の手順でPTC機能性組成物及び二次電池セル及び正極対称セル作製を行った。
【0068】
(比較例1~11)
表4に示す組成比に従って、導電材及び水溶性樹脂及び水分散樹脂粒子の種類及び投入量を変更した以外は同様の手順でPTC機能性組成物及び二次電池セル及び正極対称セル作製を行った。
【0069】
<リチウムイオン二次電池の作製>
(被覆集電体)
厚さ10μmのアルミニウム集電箔上にPTC機能性組成物を、グラビアコーターを用いて厚み1.5μmまたは3μmで塗工乾燥し被覆集電体を作製した。
【0070】
(正極作製)
LiCoO、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを固形分の質量比97.7:1.0:1.3でN-メチル-2-ピロリドン溶媒中に分散させて混合することで、正極合剤スラリーを作製した。次いで、乾燥後の合剤塗布量(面密度)が片面18.9mg/cm2になるようにスラリーを、PTC機能性組成物を塗工乾燥した被覆集電体上の片面に塗工乾燥させた後、ロールプレス機で合剤層密度が4.15g/ccとなるようにプレスし、正極を作製した。
【0071】
(負極作製)
人造黒鉛活物質100.0g、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC)の1.36質量%水溶液75.42g、イオン交換水25.86gを分散させて混合した後、変性スチレンブタジエン共重合体が水溶媒に分散した粒子状分散体aの40質量%水分散液3.85gを加えることで、負極合剤スラリーを作製した。次いで、乾燥後の合剤塗布量(面密度)が片面11.15mg/cm2になるようにスラリーを銅箔上の片面に塗工乾燥させた後、ロールプレス機で合剤層密度が1.42g/ccとなるようにプレスし負極を作製した。
【0072】
(二次電池セル作製)
上述の片面負極電極、片面正極電極にそれぞれニッケル及びアルミリード線を溶接した後、ポリエチレン製多孔質セパレータを介して片面負極1枚を片面正極1枚で挟む形で積層させることで、電極積層体を作製した。次いで、アルミラミネートフィルム内に上記の電極積層体を、リード線を外部に引き出した状態で収納し、電解液を注液して減圧封止することで初期充電前二次電池セルを作製した。電解液には、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルプロピオネート/プロピルプロピオネートを15/15/30/40(体積比)で混合した溶媒に1.3MのLiPF6と6.0質量%のフルオロエチレンカーボネートおよび0.5質量%のビニレンカーボネートを溶解させたものを使用した。
【0073】
(正極対称セル作製)
上述の二次電池セル作製において、片面負極電極を片面正極に変更した以外は同様の手順で、正極対極セルを作製した。
【0074】
<PTC機能性組成物、被覆集電体、電極、非水二次電池の評価>
(凝集物の有無)
実施例1~20および比較例1~11において、BYK社製グラインドメーター(0-50μm)を用い、JIS-K5600-2-5にてPTC機能性組成物内に分散している微粒子径を測定した。顕著な斑点が現れ始める点を読み取り、15μm未満であった場合「凝集無し」とし、15μm以上であった場合「凝集有り」とした。
【0075】
(抵抗増加)
本実施例におけるPTC機能性組成物のPTC機能評価方法を記載する。電気炉内に正極対称セルを設置し、バッテリーテスタに接続した。次いで、前記正極対称セル表面にK熱電対を耐熱テープで貼り付けた。次いで、電気炉内温度を室温から100℃まで昇温し、前記バッテリーテスタおよび前記K熱電対により1kHzインピーダンスおよびセル表面温度を測定した。昇温時における比較例1の抵抗値を100%として、昇温時の各サンプルの抵抗値の相対的な割合を、“抵抗増加(%)”として算出して表4に記載した。
【0076】
(高温サイクル寿命)
実施例1~20および比較例1~11で作製した二次電池セルを、25℃の恒温槽内で、充電終止電圧4.45V、放電終止電圧3.0Vの条件で0.1CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電、0.1CAで定電流放電を1サイクル行い、次いで充電終止電圧4.45V、放電終止電圧3.0Vの条件で0.2CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電0.2CAで定電流放電を2サイクル行った。この二次電池を、45℃の恒温槽内に移し、充電終止電圧4.45V、放電終止電圧3.0Vの条件で0.2CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電、0.2CAで定電流放電を1サイクル、充電終止電圧4.45V、放電終止電圧3.0Vの条件で0.2CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電0.2CAで定電流放電を49サイクル行った。51サイクル目以降前記充放電パターンを200サイクルまで繰り返し行った。200サイクル目の容量維持率(%)を(200サイクル目の放電容量)÷(初回放電容量)×100として算出した。
【0077】
(高温貯蔵)
実施例1~20および比較例1~11で作製した二次電池セルを、25℃の恒温槽内で、充電終止電圧4.45V、放電終止電圧3.0Vの条件で0.1CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電0.1CAで定電流放電を1サイクル行い、次いで充電終止電圧4.45V、放電終止電圧3.0Vの条件で0.2CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電0.2CAで定電流放電を2サイクル行い、充電終止電圧4.45Vの条件で0.2CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電を行い、前記二次電池を満充電状態にした。満充電状態の二次電池のセル電圧と1kHzインピーダンスをバッテリーテスタにて測定し、60℃の恒温槽内に貯蔵した。貯蔵した満充電状態の二次電池を1、3、7日目に室温に戻し、OCVと1kHzインピーダンスをバッテリーテスタにて測定した後、60℃の恒温槽内に貯蔵した。貯蔵した満充電状態の二次電池を14日目に室温に戻し、OCVと1kHzインピーダンスをバッテリーテスタにて測定した後、25℃恒温槽内で放電終止電圧3.0Vの条件で0.2CAで定電流放電し、次いで、充電終止電圧4.45V、放電終止電圧3.0Vの条件で0.2CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電0.2CAで定電流放電を2サイクル行い、残存容量及び復帰容量を測定した。
【0078】
(高温貯蔵時の抵抗増加の評価)
高温貯蔵時の抵抗増加(%)を(高温貯蔵14日目に測定した二次電池の1kHzインピーダンス)÷(高温貯蔵直前に測定した二次電池の1kHzインピーダンス)×100%として算出した。
【0079】
(高温貯蔵時の電圧低下の評価)
高温貯蔵時の電圧低下(V)を(高温貯蔵直前に測定した二次電池のOCV)-(高温貯蔵14日目に測定した二次電池のOCV)として算出した。
【0080】
(高温貯蔵時の残存容量)
高温貯蔵14日目の1kHzインピーダンスとOCVを測定したのち、25℃恒温槽内で放電終止電圧3.0Vの条件で0.2CAで定電流放電した。この測定で得られた放電容量を高温貯蔵前の満充電容量で除算し、100%をかけたものを高温貯蔵時の残存容量として算出した。
【0081】
(高温貯蔵時の復帰容量)
高温貯蔵時の残存容量を測定後、25℃恒温槽内で充電終止電圧4.45V、放電終止電圧3.0Vの条件で0.2CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電0.2CAで定電流放電を2サイクル行った。2サイクル目の放電容量を高温貯蔵前の満充電容量で除算し、100%をかけたものを高温貯蔵時の復帰容量として算出した。
【0082】
(評価結果)
以上に説明した実施例及び比較例で使用した導電材(A-1)~(A-5)の物性を表1に示す。水溶性樹脂(B-1)~(B-3)の構造式を表2に示す、水分散樹脂粒子(C-1)~(C~5)の物性および固形分濃度を表3に示す。また、実施例1~20及び比較例1~11の評価結果を表4にまとめた。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
まず、アンダーコートを有しない比較例1では昇温による抵抗増加が不十分であった。また、アニオン性水溶性樹脂を用いてPTC機能性組成物を作成した比較例2~11では凝集が発生し、実用に供する被覆集電体が得られなかった。本発明の実施の形態で水分散樹脂粒子として用いたポリオレフィン水分散体は変性官能基の導入、pHの調整、界面活性剤の添加などによってエマルションの状態を維持していると考えられるが、比較例2~11で用いた水溶性樹脂(B-4)、(B-5)がイオン性の樹脂であり、これを添加することで前記ポリオレフィン水分散体の分散状態が不安定になり凝集を形成してしまうと考えられる。
【0088】
一方実施例1~20では、PTC機能性組成物を作成する際、凝集が発生することはなく、塗工性及びスラリー安定性に優れていることが確認できた。これは実施例1~20で用いた水溶性樹脂(B-1)、(B-2)、(B-3)がノニオン性であり、変性官能基の導入、pHの調整、界面活性剤の添加などによって維持されているポリオレフィン粒子の分散状態を不安定化しなかったことによると考えられる。また、実施例1~20では、温度上昇時に電気抵抗が十分に上昇し、PTC(正温度係数)機能性を発現することが確認できた。
【0089】
実施例1~12と実施例13~16を比較すると、実施例1~12の高温サイクル寿命および高温貯蔵特性がより優れることが確認された。実施例1~12で用いた水分散樹脂粒子(C-1)、(C-4)、(C-5)はマレイン酸を有する化合物により変性され、実施例13~16で用いた水分散樹脂粒子(C-2)、(C-3)はエチルアクリレートを有する化合物により変性されている。高温サイクル特性や高温貯蔵特性向上の観点から、水分散樹脂粒子の変性はマレイン酸を有する化合物を用いてなされることが好ましいと考えられる。
【0090】
実施例1~10で比較すると、PTC機能性組成物中の水分散樹脂粒子の含有量が大きくなるほど、抵抗増加は大きくなる傾向が確認される。PTC機能の向上という観点では、PTC機能性組成物中の水分散樹脂粒子の含有量が大きいほど好ましいと考えられる。一方で実施例1~10の高温サイクル特性および高温貯蔵時の抵抗増加を比較すると、PTC機能性組成物中の水分散樹脂粒子の含有量が小さいほど高温サイクル特性および高温貯蔵時のセル特性が良い傾向が確認される。例えば45℃や60℃等の高温におけるセル特性を良好にするという観点では、PTC機能性組成物中の水分散樹脂粒子の含有量が小さいほど好ましいと考えられる。このようにPTC機能性組成物中の水分散樹脂粒子の含有量を変化させた時、PTC機能とセル特性との間でトレードオフの関係が存在するが、PTC機能性組成物から溶媒などの液体成分を除いた固形分全体を100質量%として、水分散樹脂粒子の含有量が5質量%以上70質量%以下であればPTC機能とセル特性とが両立でき、20質量%以上60質量%以下であればPTC機能とセル特性とがより高度に両立でき、35質量%以上50質量%以下であればPTC機能とセル特性とがさらに高度に両立できる。
【0091】
実施例1~10で比較すると、PTC機能性組成物中の炭素材料の含有量が小さくなるほど、抵抗増加は大きくなる傾向が確認される。PTC機能の向上という観点では、PTC機能性組成物中の炭素材料の含有量が小さいほど好ましいと考えられる。一方で実施例1~10の高温サイクル特性および高温貯蔵時の抵抗増加を比較すると、PTC機能性組成物中の炭素材料の含有量が大きくなるほど高温サイクル特性および高温貯蔵時のセル特性が良い傾向が確認される。例えば45℃や60℃等の高温におけるセル特性を良好にするという観点では、PTC機能性組成物中の炭素材料の含有量が大きくなるほど好ましいと考えられる。このようにPTC機能性組成物中の炭素材料の含有量を変化させた時、PTC機能とセル特性との間でトレードオフの関係が存在するが、PTC機能性組成物から溶媒などの液体成分を除いた固形分全体を100質量%として、炭素材料の含有量が10質量%以上70質量%以下であればPTC機能とセル特性とが両立でき、17.5質量%以上35質量%以下であればPTC機能とセル特性とがより高度に両立でき、22.5質量%以上35質量%以下であればPTC機能とセル特性とがさらに高度に両立できる。
【0092】
実施例1の抵抗増加と実施例17の抵抗増加を比較すると、実施例17の抵抗増加が大きいことが確認される。実施例1と実施例17とでは、PTC機能性組成物の組成は同じだが、PTC機能性組成物の厚みが異なる。PTC機能性組成物の厚みが大きい場合、PTC機能が発現した後のPTC機能性組成物層の電気抵抗が大きくなるためPTC機能が大きくなると考えられる。一方で、本発明の実施の形態に記されたような二次電池セル内に設けられたPTC機能性組成物層は、一般的な非水電解質二次電池電極用活物質を含まない。前記二次電池セルのエネルギー密度向上の観点からはPTC機能性組成物層の厚みは小さいほど好ましいと考えられる。このようにPTC機能性組成物層の厚みを変化させた時、PTC機能とセル特性との間でトレードオフの関係が存在するが、PTC機能性組成物を塗工し乾燥させた後のPTC機能性組成物の厚みが0.1μm以上5μm以下であればPTC機能とセル特性とが両立でき、0.3μm以上2μm以下であればより高度に両立できる。