(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147410
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】保護装置
(51)【国際特許分類】
H02H 3/087 20060101AFI20231005BHJP
H02J 1/00 20060101ALI20231005BHJP
H02H 5/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H02H3/087
H02J1/00 309Q
H02H5/04 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054886
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 崇博
(72)【発明者】
【氏名】宇佐見 雄大
(72)【発明者】
【氏名】平山 裕樹
【テーマコード(参考)】
5G004
5G165
【Fターム(参考)】
5G004AA04
5G004AB02
5G004BA04
5G004DA02
5G004EA01
5G165BB04
5G165CA01
5G165EA02
5G165GA09
5G165HA07
5G165HA16
5G165KA05
5G165LA02
5G165MA10
5G165NA02
5G165NA05
5G165PA05
(57)【要約】
【課題】コストを抑え、電線の温度上昇から電線を保護する。
【解決手段】保護装置は、電源と負荷との間に設けられたスイッチから電線を介して負荷へ流れる電流を遮断する保護回路であって、前記電線に直列に接続されたシャント抵抗に流れる電流を測定する電流測定部と、前記電流測定部で測定された電流に基づいて、前記スイッチをオン又はオフにする判定部と、を備え、前記シャント抵抗は、温度特性が前記電線と略等しく、環境温度が前記電線の環境温度と等しいときに通電時の温度が前記電線と等しく、前記判定部は、前記電流測定部で測定された電流値が、前記電線の環境温度上限、前記電線の電線限界温度、及び前記シャント抵抗の温度特性から予め定めた閾値以上の場合に前記スイッチをオフにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と負荷との間に設けられたスイッチから電線を介して負荷へ流れる電流を遮断する保護回路であって、
前記電線に直列に接続されたシャント抵抗に流れる電流を測定する電流測定部と、
前記電流測定部で測定された電流に基づいて、前記スイッチをオン又はオフにする判定部と、
を備え、
前記シャント抵抗は、温度特性が前記電線と略等しく、環境温度が前記電線の環境温度と等しいときに通電時の温度が前記電線と等しく、
前記判定部は、前記電流測定部で測定された電流値が、前記電線の環境温度上限、前記電線の電線限界温度、及び前記シャント抵抗の温度特性から予め定めた閾値以上の場合に前記スイッチをオフにする
保護装置。
【請求項2】
前記電線の抵抗値と前記電線の熱抵抗との積が、前記シャント抵抗の抵抗値と前記シャント抵抗の熱抵抗との積と略等しい
請求項1に記載の保護装置。
【請求項3】
前記電線の抵抗値と前記電線の過渡熱抵抗との積が、前記シャント抵抗の抵抗値と前記シャント抵抗の過渡熱抵抗との積と略等しい
請求項1に記載の保護装置。
【請求項4】
前記シャント抵抗は基板上に形成される導体である
請求項1~3のいずれか一項に記載の保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電源と負荷とを接続する電線を保護する発明として、例えば特許文献1に開示された装置がある。この装置は、負荷に流れる電流を検出し、検出した電流を用いて電線の発熱及び放熱を演算し、演算結果を用いて電線の温度を推定する。この演算においては、フューズの最低の電流・遮断時間特性と最高の電流・遮断時間特性との間になるように演算式に用いられる熱抵抗を疑似熱抵抗に設定しており、推定した温度が許容温度よりも低い疑似許容温度に達した場合、過電流であると判断して負荷へ流れる電流を遮断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された装置は、電線の温度を推定するために発熱及び放熱の演算を行う必要があるため、演算回路を必要とし、コストがかかるものとなっている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、コストを抑え、電線の温度上昇から電線を保護することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る保護装置は、電源と負荷との間に設けられたスイッチから電線を介して負荷へ流れる電流を遮断する保護回路であって、前記電線に直列に接続されたシャント抵抗に流れる電流を測定する電流測定部と、前記電流測定部で測定された電流に基づいて、前記スイッチをオン又はオフにする判定部と、を備え、前記シャント抵抗は、温度特性が前記電線と略等しく、環境温度が前記電線の環境温度と等しいときに通電時の温度が前記電線と等しく、前記判定部は、前記電流測定部で測定された電流値が、前記電線の環境温度上限、前記電線の電線限界温度、及び前記シャント抵抗の温度特性から予め定めた閾値以上の場合に前記スイッチをオフにする。
【0007】
本発明の一態様に係る保護装置においては、前記電線の抵抗値と前記電線の熱抵抗との積が、前記シャント抵抗の抵抗値と前記シャント抵抗の熱抵抗との積と略等しくてもよい。
【0008】
また、本発明の一態様に係る保護装置においては、前記電線の抵抗値と前記電線の過渡熱抵抗との積が、前記シャント抵抗の抵抗値と前記シャント抵抗の過渡熱抵抗との積と略等しくてもよい。
【0009】
また、本発明の一態様に係る保護装置においては、前記シャント抵抗は基板上に形成される導体であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コストを抑え、電線の温度上昇から電線を保護することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る保護装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、電線環境温度と電線限界過電流の関係及び電線を流れる電流と電流検出信号の電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一または対応する要素については適宜同一の符号を付している。
【0013】
[実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る保護装置の構成を示すブロック図である。電源2は、例えば車両に搭載される蓄電池である。電源2が供給する電力は、半導体スイッチ4、シャント抵抗6及び電線7を介して負荷3へ供給される。半導体スイッチ4は、例えばFET(Field effect transistor)を含むスイッチであり、電源2に接続されている。半導体スイッチ4は、駆動回路5から出力される信号によってオン又はオフとなり、電源2から供給される電力の出力と遮断を行なう。
【0014】
駆動回路5は、半導体スイッチ4が有するFETを駆動する回路である。駆動回路5は、負荷3への電力供給を制御するECU(Electronic Control Unit)であるECU8から供給される制御信号と、後述する判定部10から出力される判定信号に基づいて、半導体スイッチ4をオン又はオフにする信号を出力する。駆動回路5は、半導体スイッチ4をオフにする制御信号がECU8から入力されると、半導体スイッチ4をオフにする信号を出力する。また、駆動回路5は、半導体スイッチ4をオンにする制御信号がECU8から入力されると、判定部10からローレベルの判定信号が供給されている場合には半導体スイッチ4をオフにする信号を出力し、判定部10からハイレベルの判定信号が供給されている場合には半導体スイッチ4をオンにする信号を出力する。
【0015】
シャント抵抗6は、一端が半導体スイッチ4に接続され、他端が電線7に接続されており、半導体スイッチ4と電線7に直列に接続されている。シャント抵抗6は、半導体スイッチ4から電線7を介して負荷3へ流れる電流の測定に用いられる所謂シャント抵抗である。シャント抵抗6の温度特性は、電線7の温度特性に合わせたものとなっており、温度係数が同じとなっている。シャント抵抗6は、電線7と温度特性を合わせるため、例えば材質を電線7の材質と同じ材質としてもよい。また、シャント抵抗6は、基板上に形成される導体であってもよい。
【0016】
電線7は、車両に配索される電線であり、負荷3に接続されている。負荷3は、車両において電源2から供給される電力で駆動する電装品である。負荷3は、グランドGNDに接続されている。保護装置1は、電線7が発煙や発火するのを防ぐための装置であり、車両に搭載されている。
【0017】
保護装置1は、判定部10と、電流測定部11を有する。電流測定部11は、オペアンプを備える周知の電流測定回路を有している。電流測定部11は、シャント抵抗6に流れる電流の電流値に比例した電圧の電流検出信号を出力する。この電流検出信号は、電線7の環境温度と、電線7の温度特性を反映したものとなっている。
【0018】
判定部10は、コンパレーター回路を有しており、電流測定部11から供給される電流検出信号の電圧が定められた閾値以上である場合、ローレベルの判定信号を駆動回路5へ出力し、電流測定部11から供給される信号の電圧が定められた閾値未満である場合、ハイレベルの判定信号を駆動回路5へ出力する。これにより、電流検出信号の電圧の電圧値が閾値以上である場合には、半導体スイッチ4がオフとなり、半導体スイッチ4から負荷3への電力供給が遮断される。
【0019】
ここで、電線7の環境温度と温度特性を反映する電流検出信号と、判定部10が判定に用いる閾値について説明する。まず、自動車規格のJASO D 609「自動車部品-低電圧線の電流容量」によれば、自動車用電線の限界過電流の計算は、式(1)で示されている。
【0020】
【0021】
式(1)において、Ioは電線の限界過電流、T3は電線限界温度、rT3は電線限界温度における電線の導体抵抗、T2は電線の環境温度、Rは電線の熱抵抗、α2は電線の熱時定数τの逆数、tは時間である。式(1)から、電線7について環境温度Taのときの限界過電流Iwmは、時定数の項を無視できるため、式(2)により示される。
【0022】
【0023】
式(2)において、Twmは電線7の電線限界温度、Rwoは基準温度のときの電線7の抵抗値、Ctwは電線7の抵抗温度係数、Toは基準温度、Rhwは電線7の熱抵抗である。また、電線7の環境温度Taが環境温度上限Tamaxであるときの限界過電流Iwmは、式(3)により示される。
【0024】
【0025】
図2に、電線7の環境温度Taと、電線7の限界過電流Iwmとの関係を線L1で示す。なお、限界過電流Iwmの算出にあたり、基準温度Toを25℃とし、電線限界温度Twmを165℃としている。線L1で示されるように、電線7の環境温度Taが下がるにつれて、電線7の限界過電流Iwmは増加する。例えば、電線7の環境温度Taを、環境温度上限Tamaxの80℃とした場合、限界過電流Iwmは23.42Aとなる。
【0026】
次にシャント抵抗6の温度Tsは、式(4)により示され、電線7の温度Twは、式(5)により示される。
【0027】
【0028】
【0029】
式(4)において、Tbはシャント抵抗6が設けられている基板の温度であり、Rsはシャント抵抗6の抵抗値であり、Rthsはシャント抵抗6の熱抵抗である。式(5)において、Taは電線7の環境温度Taであり、Rwは電線7の抵抗値であり、Rthwは電線7の熱抵抗である。また、式(4)及び式(5)において、Iwはシャント抵抗6及び電線7に流れる電流の電流値である。
【0030】
式(4)及び式(5)に対し、シャント抵抗6及び電線7について、電線7の抵抗値Rw×電線7の熱抵抗Rthw=シャント抵抗6の抵抗値Rs×シャント抵抗6の熱抵抗Rths、となるようにシャント抵抗6を選定し、且つ、電線7の環境温度Ta=シャント抵抗6が設けられている基板の基板温度Tbとなる環境にすると、電線7の温度Tw=シャント抵抗6の温度Tsとなる。例えば、電線7について、基準温度Toのときの抵抗値Rwo=0.01Ωで熱抵抗Rhw=10℃/Wの場合、シャント抵抗6は、基準温度Toのときの抵抗値Rso=0.003Ωで熱抵抗Rths=33.33333℃/Wの抵抗器となる。なお、電線7の抵抗値Rw×電線7の熱抵抗Rthwが、シャント抵抗6の抵抗値Rs×シャント抵抗6の熱抵抗Rthsとほぼ等しくなるようにしてもよい。そして、電線7が電線限界温度Twmである場合、電線7の温度Tw=シャント抵抗6の温度Ts=電線7の電線限界温度Twmとなり、シャント抵抗6も電線限界温度Twmと等しい温度となる。即ち、シャント抵抗6は、電線7の温度変化を反映しているものとなる。
【0031】
次に電流測定部11から出力される電流検出信号の電圧値をViwとすると、電圧値Viwは、式(6)により示される。式(6)において、Gaは電流測定部11のオペアンプのゲインであり、Vsofstは電流測定部11のオペアンプのオフセット電圧である。
【0032】
【0033】
式(6)に含まれるシャント抵抗6の抵抗値Rsは、温度により変化し、その抵抗値は式(7)により示される。式(7)において、Rsoは基準温度のときのシャント抵抗6の抵抗値であり、Ctsはシャント抵抗6の抵抗温度係数である。
【0034】
【0035】
電線7の温度Tw=シャント抵抗6の温度Ts=電線7の電線限界温度Twmのときには、シャント抵抗6の抵抗値Rsは、式(8)により示される。
【0036】
【0037】
電線限界温度Twmでのシャント抵抗6の抵抗値Rsを抵抗値Rsmとし、電線限界温度Twmでの電流検出信号の電圧値Viwを電圧値Viwmとすると、電圧値Viwmは、式(9)により示される。判定部10では、式(9)から得られるViwmを閾値としている。
【0038】
【0039】
なお、限界過電流Iwmを得るための式(3)における電線限界温度Twm、環境温度上限Tamax、基準温度のときの電線7の抵抗値Rwo、シャント抵抗6の抵抗温度係数Cts、基準温度To、電線7の熱抵抗Rhwは既知である。また、電圧値Viwmを得るための抵抗値Rsm、電流測定部11のゲインGa、及び電流測定部11のオフセット電圧Vsofstも既知であるため、電圧値Viwmは、予め既知のパラメータから算出し、判定部10の閾値として設定しておくことができる。
【0040】
図2に、シャント抵抗6及び電線7に流れる電流の電流値Iwと、電流検出信号の電圧値Viwとの関係を、線L2と線L3で示す。
図2に示す線L2は、シャント抵抗6の抵抗温度係数Cts=0.00393/Ω、シャント抵抗6の温度Ts=電線7の温度Tw=基準温度Toのときにシャント抵抗6及び電線7に流れる電流の電流値Iwと、電流検出信号の電圧の電圧値Viwとの関係を示す線である。本実施形態では、環境温度上限Tamaxを80℃とし、電線7の電線限界温度Twmを165℃とした場合、限界過電流Iwmは、線L1から23.42Aとなる。温度Ts及び温度Twが基準温度Toの場合、この23.42Aが流れると、線L2から電圧値Viwは、2.6Vとなる。
【0041】
図2に示す線L3は、シャント抵抗6の温度Ts及び電線7の温度Tw=電線7の電線限界温度Twmのときの電線7の限界過電流Iwmと、電圧値Viwとの関係を示す線である。環境温度上限Tamax=80℃で温度Ts及び温度Twが電線限界温度Twmのときに限界過電流Iwm=23.42Aが流れた場合、電圧値Viwmは、線L3から3.77Vとなる。よって判定部10では、環境温度上限Tamax=80℃、電線限界温度Twm=165℃とした場合、限界過電流Iwm=23.42Aに対応した電圧値である3.77Vを閾値として設定する。
【0042】
Viwm=3.77Vは、電線7の環境温度Taが環境温度上限Tamax=80℃、電線7の温度Twが電線限界温度Twm=165℃のときの限界過電流Iwmに対応した電圧値であるため、電線7の環境温度Taが環境温度上限Tamaxより低い場合は、限界過電流Iwmより大きな電流を許容して電線7へ電流を流すことができる。
【0043】
本実施形態によれば、シャント抵抗6と電線7で環境温度と温度特性を合わせることにより、シャント抵抗6が電線7の温度変化を反映して電圧値Viwが変化するため、温度変化を反映した電圧値を判定することにより、電線の温度を推定する演算を行わなくとも、通電を遮断して電線7を保護することができる。
【0044】
なお、本発明においては、電線7の抵抗値×電線7の過渡熱抵抗=シャント抵抗6の抵抗値×シャント抵抗6の過渡熱抵抗、となるようにシャント抵抗6を選定してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 保護装置
2 電源
3 負荷
4 半導体スイッチ
5 駆動回路
6 シャント抵抗
7 電線
8 ECU
10 判定部
11 電流測定部