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特開2023-147501電気接点材料、ならびにこれを用いた接点、端子およびコネクタ
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  • 特開-電気接点材料、ならびにこれを用いた接点、端子およびコネクタ 図1
  • 特開-電気接点材料、ならびにこれを用いた接点、端子およびコネクタ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147501
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】電気接点材料、ならびにこれを用いた接点、端子およびコネクタ
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20231005BHJP
   C25D 3/46 20060101ALI20231005BHJP
   C25D 3/12 20060101ALI20231005BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20231005BHJP
   C22C 5/06 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D3/46
C25D3/12
H01R13/03 D
C22C5/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055026
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592181602
【氏名又は名称】古河精密金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 義胤
(72)【発明者】
【氏名】北河 秀一
(72)【発明者】
【氏名】葛原 颯己
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA24
4K023AB40
4K023BA06
4K023BA11
4K023DA06
4K023DA07
4K023DA08
4K024AA10
4K024AB01
4K024AB02
4K024BA02
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA01
4K024CA04
4K024CA06
4K024GA03
(57)【要約】
【課題】基材特性の影響を受けにくい優れた耐摩耗性を有する電気接点材料、ならびにこれを用いた接点、端子およびコネクタを提供する。
【解決手段】電気接点材料は、導電性基材と、前記導電性基材の表面の少なくとも一部に設けられる銀を含む銀含有層とを備え、前記電気接点材料の断面において、前記銀含有層のIQ値のピーク位置は、前記銀含有層のIQ値の最大値の5.00%以上20.00%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材と、
前記導電性基材の表面の少なくとも一部に設けられる銀を含む銀含有層と
を備える電気接点材料であって、
前記電気接点材料の断面において、前記銀含有層のIQ値のピーク位置は、前記銀含有層のIQ値の最大値の5.00%以上20.00%以下である、電気接点材料。
【請求項2】
前記電気接点材料の断面において、前記銀含有層のIQ値と前記IQ値の度数分布との積の合計が10以上50以下である、請求項1に記載の電気接点材料。
【請求項3】
前記銀含有層は、純銀層である、請求項1または2に記載の電気接点材料。
【請求項4】
前記銀含有層の平均厚さは0.5μm以上5.0μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気接点材料。
【請求項5】
前記導電性基材と前記銀含有層との間に、ニッケルまたはニッケル合金からなる中間層をさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気接点材料。
【請求項6】
前記中間層の平均厚さは0.01μm以上3.00μm以下である、請求項5に記載の電気接点材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電気接点材料を用いて作製された接点。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電気接点材料を用いて作製された端子。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電気接点材料を用いて作製されたコネクタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気接点材料、ならびにこれを用いた接点、端子およびコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車では、省燃費化を達成するために、車両駆動方式の電動化が進行している。車両駆動方式の電動化に伴い、電池‐インバータ‐モータ間の電線の通電量が飛躍的に増加する一方で、接点やコネクタの通電時の発熱が問題となる。そのため、接点やコネクタには導電率の高い純銅や希薄銅合金、コルソン合金の表面に対してニッケルの下地めっきを施し、さらに下地めっきの上に銀または銀合金のめっきを施した材料が使用されている。しかしながら、銀は凝着摩耗しやすい金属種であることから、銀めっきは摺動時に削れやすい。そのため、銀めっきの摩耗によって、銀めっき材の接触抵抗が上昇してしまうという欠点があった。
【0003】
このような欠点に対して、例えば特許文献1には、銅又は銅合金からなる母材の表面が銀めっき層により被覆され、銀めっき層が、下層側の第1銀めっき層と、第1銀めっき層の上層側の第2銀めっき層とからなり、第1銀めっき層の結晶粒径が第2銀めっき層の結晶粒径よりも大きい、コネクタ用銀めっき端子が記載されている。特許文献1では、銀めっき材について、再結晶により銀めっき層の結晶粒径が増大し易く、この結晶粒径の増大により硬度が低くなって、耐摩耗性が低下するという問題に対して、耐摩耗性の良い材料として銀めっき層の結晶粒径の大きさを規定している。しかしながら、結晶粒径の大きさは、めっき層の厚さに依存する。そのため、特許文献1で良好な耐摩耗性を得るためには、銀めっき層の厚さの制約がある。
【0004】
また、特許文献2には、所定濃度の銀とシアン化カリウムとセレンとを含む銀めっき液中において、銀めっき液中のシアン化カリウムの濃度と電流密度の積をy、液温をxとして、yおよびxを所定関係になるように電気めっきを行うことによって、素材である基材上に純度99.9質量%以上の銀めっき皮膜を形成する、銀めっき材の製造方法が記載されている。特許文献2は、銀めっき皮膜中にセレンなどの元素を含有させることにより、高い硬度を維持したまま接触抵抗の増加を抑制した銀めっき材の製造方法を例示しており、銀めっき材表面のビッカース硬さを耐摩耗性の根拠としている。このように、特許文献2では、基材の特性に依存する銀めっき材のビッカース硬さを耐摩耗性の評価に用いている。しかしながら、本来は、基材特性の影響を受けにくいめっき皮膜自体の耐摩耗性を評価する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-169408号公報
【特許文献2】特許第6611602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、基材特性の影響を受けにくい優れた耐摩耗性を有する電気接点材料、ならびにこれを用いた接点、端子およびコネクタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 導電性基材と、前記導電性基材の表面の少なくとも一部に設けられる銀を含む銀含有層とを備える電気接点材料であって、前記電気接点材料の断面において、前記銀含有層のIQ値のピーク位置は、前記銀含有層のIQ値の最大値の5.00%以上20.00%以下である、電気接点材料。
[2] 前記電気接点材料の断面において、前記銀含有層のIQ値と前記IQ値の度数分布との積の合計が10以上50以下である、上記[1]に記載の電気接点材料。
[3] 前記銀含有層は、純銀層である、上記[1]または[2]に記載の電気接点材料。
[4] 前記銀含有層の平均厚さは0.5μm以上5.0μm以下である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の電気接点材料。
[5] 前記導電性基材と前記銀含有層との間に、ニッケルまたはニッケル合金からなる中間層をさらに備える、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の電気接点材料。
[6] 前記中間層の平均厚さは0.01μm以上3.00μm以下である、上記[5]に記載の電気接点材料。
[7] 上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の電気接点材料を用いて作製された接点。
[8] 上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の電気接点材料を用いて作製された端子。
[9] 上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の電気接点材料を用いて作製されたコネクタ。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、基材特性の影響を受けにくい優れた耐摩耗性を有する電気接点材料、ならびにこれを用いた接点、端子およびコネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態の電気接点材料の一例を示す断面図である。
図2図2は、実施形態の電気接点材料の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、導電性基材の表面の少なくとも一部に設けられる銀含有層中の歪量に着目し、銀含有層のIQ値を制御することによって、電気接点材料の耐摩耗性が導電性基材の特性に依存せずに優れていることを見出し、かかる知見に基づき本開示を完成させるに至った。
【0012】
実施形態の電気接点材料は、導電性基材と、前記導電性基材の表面の少なくとも一部に設けられる銀を含む銀含有層とを備え、前記電気接点材料の断面において、前記銀含有層のIQ値のピーク位置は、前記銀含有層のIQ値の最大値の5.00%以上20.00%以下である。
【0013】
図1は、実施形態の電気接点材料の一例を示す断面図である。図1に示すように、電気接点材料1は、導電性基材10と銀含有層20とを備える。
【0014】
電気接点材料1を構成する導電性基材10は、導電性を有し、圧延加工で得られる圧延材である。導電性基材10の圧延加工性および電気接点材料1の高導電性などの観点から、導電性基材10は、純銅および銅合金を含む銅系材料、または純鉄および鉄合金を含む鉄系材料から構成されることが好ましい。そのなかでも、Cu-Zn系、Cu-Ni-Si系、Cu-Sn-Ni系、Cu-Cr-Mg系、Cu-Ni-Si-Zn-Sn-Mg系の銅合金であることが好ましい。
【0015】
導電性基材10の電気伝導率は、好ましくは60%IACS以上、より好ましくは80%IACS以上である。導電性基材10の電気伝導率が60%IACS以上であると、電気接点材料1は良好な導電性を有する。
【0016】
導電性基材10の形状は、電気接点材料1の用途に応じて適宜選択してもよいが、条状、板状、棒状または線状であることが好ましい。
【0017】
電気接点材料1を構成する銀含有層20は、導電性基材10の表面の少なくとも一部に設けられ、銀を含有する。導電性基材10の表面を覆う銀含有層20は、純銀または銀合金からなり、好ましくは純銀からなる、すなわち、銀含有層20は純銀層であることが好ましい。電気接点材料1が優れた耐摩耗性を有し、電気接点材料1の耐摩耗性が導電性基材10の特性の影響を受けにくい観点から、銀含有層20はめっきで形成される、すなわち銀含有層20はめっき皮膜であることが好ましい。
【0018】
図1に示す電気接点材料1の断面において、銀含有層20のIQ値のピーク位置は、銀含有層20のIQ値の最大値の5.00%以上20.00%以下である。電気接点材料1の断面とは、導電性基材10の圧延方向に平行な断面である。
【0019】
電気接点材料1の断面における、銀含有層20のIQ値の最大値に対するIQ値のピーク位置が上記範囲内であると、銀含有層20中に残存する歪量を高く維持でき、硬度が高くなるため、耐摩耗性を向上できる。このような観点から、銀含有層20のIQ値のピーク位置は、銀含有層20のIQ値の最大値の17.50%以下であることが好ましく、銀含有層20のIQ値の最大値の15.00以下であることがより好ましい。
【0020】
また、電気接点材料1の断面において、銀含有層20のIQ値とIQ値の度数分布との積の合計は10以上50以下であることが好ましい。上記積の合計が上記範囲内であると、銀含有層20中の歪量の増加により、耐摩耗性をさらに向上できる。このような観点から、銀含有層20のIQ値とIQ値の度数分布との積の合計は、40以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
【0021】
IQ(Image Quality)値は、EBSDパターンをHough変換した際のHough空間上のバンドを示すピーク強度をプロットした値であり、銀含有層20内の結晶性を反映した値である。
【0022】
IQ値は、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7001FA)に付属するEBSD検出器(TSLソリューションズ製、OIM5.0 HIKARI)を用いて連続して測定した結晶方位データから解析ソフト(TSLソリューションズ製、OIM Analysis)を用いて算出した結晶方位解析データから得ることができる。測定対象は、導電性基材10の圧延方向に平行な電気接点材料1の断面をクロスセクションポリッシャー(日本電子製)で鏡面仕上げされた表面における銀含有層20の表面であり、測定倍率は30000倍である。測定間隔50nm以下のステップで測定し、解析ソフトにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除外し(ノイズ除去)、隣接するピクセル間の方位差が5.00°以上である境界を結晶粒界とみなし、銀含有層20のIQ値を得る。そして、銀含有層20のIQ値における、最大値に対するピーク位置を算出できる。また、IQ値の度数分布は、上記方法で得たIQ値の最大値の5%刻みで測定して得ることができる。
【0023】
また、銀含有層20は、Sn、Zn、In、Ni、Cu、Se、SbおよびCoからなる群より選択される1種以上の元素(以下、第2元素ともいう)を含んでもよい。銀含有層20中に第2元素を共存させることで、摺動性を向上できる。そのなかでも、電気接点材料1の電気接続性を向上する観点から、銀含有層20は、Sn、Zn、In、Ni、Cu、Se、SbおよびCoからなる群より選択される1種以上の元素を合計で15.0at%未満含むことが好ましい。また、第2元素の添加による効率的な摺動性の向上および材料コスト抑制の観点から、銀含有層20は、Sn、Zn、In、Ni、Cu、Se、SbおよびCoからなる群より選択される1種以上の元素を合計で0.1at%以上含むことが好ましい。
【0024】
銀含有層20の平均厚さの下限値は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは2.0μm以上、さらに好ましくは3.0μm以上である。銀含有層20の平均厚さの上限値は、好ましくは5.0μm以下である。銀含有層20の平均厚さの下限値が0.5μm以上であると、優れた電気接点材料1の耐摩耗性を長期間に亘って維持できる。銀含有層20の平均厚さの上限値が5.0μm以下であると、材料コストを抑制できる。
【0025】
図2は、実施形態の電気接点材料の他の例を示す断面図である。図2に示す電気接点材料2において、中間層30の構成が追加されること以外は、図1に示す電気接点材料1の構成と基本的に同じである。
【0026】
図2に示すように、電気接点材料2は、導電性基材10と銀含有層20との間に、ニッケルまたはニッケル合金からなる中間層30をさらに備える。導電性基材10の表面と銀含有層20との間に中間層30が設けられると、導電性基材10を構成する元素の銀含有層20への熱拡散の抑制、および導電性基材10と銀含有層20との密着性を向上できる。
【0027】
上記の熱拡散の抑制および密着性をさらに向上する観点から、中間層30は、純ニッケル、またはNi-P系のニッケル合金であることが好ましい。
【0028】
中間層30の平均厚さの下限値は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.10μm以上、さらに好ましくは0.30μm以上である。中間層30の平均厚さの上限値は、好ましくは3.00μm以下、より好ましくは2.00μm以下、さらに好ましくは1.00μm以下である。中間層30の平均厚さの下限値が0.01μm未満であると、上記の熱拡散の抑制および密着性の向上を達成できない。中間層30の平均厚さの上限値が3.00μm超であると、曲げ加工性が悪化する。電気接点材料を端子で使用する場合、R/t≧1の曲げ加工性が要求される。
【0029】
また、上記の電気接点材料1、2は、表層である銀含有層20の直下に、不図示の銅層をさらに備えてもよい。不図示の銅層は、純銅または銅合金から構成される。導電性基材10の厚さに比べて、不図示の銅層の厚さは大幅に小さい。電気接点材料1、2が銀含有層20の直下に不図示の銅層をさらに備えると、密着性および曲げ加工性を向上できる。
【0030】
上記のように、電気接点材料1、2は、導電性基材10の特性の影響を受けにくい優れた耐摩耗性を有するため、電気接点材料1、2は、接点、端子、コネクタに好適に用いることができる。こうした接点は、電気接点材料1、2を用いて作製された接点であり、端子は、電気接点材料1、2を用いて作製された端子であり、コネクタは、電気接点材料1、2を用いて作製されたコネクタである。
【0031】
次に、電気接点材料1、2の製造方法について説明する。
【0032】
まず、導電性を有する基材の表面の少なくとも一部に、めっき法などによって銀含有層を形成する。続いて、銀含有層を表面に備える基材を圧延加工する。こうして、電気接点材料1を製造できる。
【0033】
また、導電性を有する基材の表面の少なくとも一部に、めっき法などによって中間層を形成する。続いて、中間層の上に、めっき法などによって銀含有層を形成する。続いて、中間層および銀含有層を備える基材を圧延加工する。こうして、電気接点材料2を製造できる。
【0034】
銀含有層のめっき条件について、電流密度を5A/dm以上10A/dm以下、浴温(液温)を30℃以上40℃以下にして、核生成を優先することで、異なる結晶方位の結晶粒が数多く成長し、結晶方位の差が大きくなることから、銀含有層の内部応力をさらに高めることができる。
【0035】
また、圧延加工の加工率は、5%以上15%以下である。加工率が5%以上であると、銀含有層中の歪量を増加して、耐摩耗性を向上できる。加工率が15%以下であると、銀含有層中の歪量が過剰になることによる、曲げ加工性の低下を抑制できる。圧延加工の加工率は、圧延加工前の試料の断面積と圧延加工後の試料の断面積との差を圧延加工前の試料の断面積で割った百分率である。
【0036】
また、銀含有層を形成した後であって圧延加工を行う前に、300℃以上600℃以下、5秒以上60秒以内の熱処理を実施してもよい。この熱処理によって、めっきによって導入された歪を均一化できる。
【0037】
また、第2元素を含む銀含有層20を備える電気接点材料1、2を製造する場合、上記のように、銀成分および第2元素成分を含むめっき浴を用いためっき法などによって、第2元素を含む銀含有層を直接形成してもよい。また、別の形成方法として、めっき法などによって、銀含有層と第2元素層とを交互に成膜した後、加熱処理を行うことで、第2元素を含む銀含有層を形成してもよい。この場合の圧延加工の加工率は、上記と同様の観点から、5%以上15%以下であることが好ましい。
【0038】
以上説明した実施形態によれば、導電性基材の表面に設けられる銀含有層中の歪量に着目し、銀含有層のIQ値を制御することによって、基材特性の影響を受けにくい優れた耐摩耗性を有する電気接点材料を得ることができる。
【0039】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0040】
次に、実施例および比較例について説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1~5)
基材(古河電工製、EFTEC-550T、80%IACS)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。その後、浴温30~40℃のアルカリシアン銀浴(シアン化銀50~100g/L、シアン化カリウム100g/L)にて銀含有層をめっき法(電流密度10A/dm2)で基材表面に形成し、続いて表1に示す加工率の圧延加工を行うことによって、表1に示す銀含有層(純銀層)を備える電気接点材料を製造した。
【0042】
(実施例6~10)
基材(古河電工製、EFTEC-550T、80%IACS)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。その後、浴温55℃のニッケルめっき浴(硫酸ニッケル6水和物500g/L、塩化ニッケル30g/L、ホウ酸30g/L)にて中間層をめっき法(電流密度15A/dm2)で基材表面に形成し、続いて浴温30~40℃のアルカリシアン銀浴(シアン化銀50g/L、シアン化カリウム100g/L)にて銀含有層をめっき法(電流密度10A/dm2)で中間層表面に形成し、続いて表1に示す加工率の圧延加工を行うことによって、表1に示す銀含有層(純銀層)および中間層(純ニッケル層)を備える電気接点材料を製造した。
【0043】
(比較例1~3)
基材(古河電工製、EFTEC-550T、80%IACS)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。その後、浴温55℃のニッケルめっき浴(硫酸ニッケル6水和物500g/L、塩化ニッケル30g/L、ホウ酸30g/L)にて中間層をめっき法(電流密度15A/dm2)で基材表面に形成し、続いて浴温30℃未満または40℃より高い温度のアルカリシアン銀浴(シアン化銀50g/L、シアン化カリウム100g/L)にて銀含有層をめっき法(電流密度10A/dm2)で中間層表面に形成し、続いて表1に示す加工率の圧延加工を行うことによって、表1に示す銀含有層(純銀層)および中間層(純ニッケル層)を備える電気接点材料を製造した。なお、比較例3は圧延加工を行わなかった。
【0044】
(実施例11~13)
基材(古河電工製、EFTEC-550T、80%IACS)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。その後、浴温55℃のニッケルーリンの電解浴(硫酸ニッケル6水和物500g/L、塩化ニッケル6水和物30g/L、ホウ酸30g/L、亜リン酸16g/L)にて中間層をめっき法(電流密度10A/dm2)で基材表面に形成し、続いて浴温30~40℃のアルカリシアン銀浴(シアン化銀50~100g/L、シアン化カリウム100~200g/L、三塩化インジウム15g/L)にて第2元素を含む銀含有層をめっき法(電流密度5~10A/dm2)で中間層表面に形成し、続いて表1に示す加工率の圧延加工を行うことによって、表1に示す銀含有層(銀合金層)および中間層(ニッケル合金層)を備える電気接点材料を製造した。
【0045】
(実施例14~34)
基材(古河電工製、EFTEC-550T、80%IACS)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。その後、浴温55℃のニッケルめっき浴(硫酸ニッケル6水和物500g/L、塩化ニッケル30g/L、ホウ酸30g/L)にて中間層をめっき法(電流密度15A/dm2)で基材表面に形成し、続いて浴温30~40℃のアルカリシアン銀浴(シアン化銀50~100g/L、シアン化カリウム100~200g/L、塩化亜鉛10g/L(実施例14~16)、塩化ニッケル10g/L(実施例17~22)、塩化銅2水和物12g/L(実施例20~22)、セレノシアン酸カリウム2.2mg/L(実施例23~25)、三塩化アンチモン12g/L(実施例26~28)、塩化コバルト10g/L(実施例29~31)、塩化錫(II)2水和物15g/L(実施例32~34))にて第2元素を含む銀含有層をめっき法(電流密度5~10A/dm2)で中間層表面に形成し、続いて表1に示す加工率の圧延加工を行うことによって、表1に示す銀含有層(銀合金層)および中間層(純ニッケル層)を備える電気接点材料を製造した。
【0046】
(比較例4~9)
基材(古河電工製、EFTEC-550T、80%IACS)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。その後、浴温55℃のニッケルめっき浴(硫酸ニッケル6水和物500g/L、塩化ニッケル30g/L、ホウ酸30g/L)にて中間層をめっき法(電流密度15A/dm2)で基材表面に形成し、続いて浴温30℃未満または40℃より高い温度のアルカリシアン銀浴(シアン化銀50~100g/L、シアン化カリウム100~200g/L、塩化錫(II)2水和物15g/L)にて第2元素を含む銀含有層をめっき法(電流密度5~10A/dm2)で中間層表面に形成し、続いて表1に示す加工率の圧延加工を行うことによって、表1に示す銀含有層(銀合金層)および中間層(純ニッケル層)を備える電気接点材料を製造した。なお、比較例8は中間層を形成しなかった。
【0047】
[測定および評価]
上記実施例および比較例で得られた電気接点材料について、下記の測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
[1] IQ値のピーク位置、およびIQ値と度数分布の積の合計
IQ値は、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7001FA)に付属するEBSD検出器(TSLソリューションズ製、OIM5.0 HIKARI)を用いて連続して測定した結晶方位データから解析ソフト(TSLソリューションズ製、OIM Analysis)を用いて算出した結晶方位解析データから得た。
【0049】
クロスセクションポリッシャー(日本電子製)を用いて、測定対象として、導電性基材の圧延方向に平行な電気接点材料の断面を鏡面仕上げされた表面における銀含有層表面を得た。測定倍率は、30000倍とした。測定間隔50nm以下のステップで測定し、解析ソフトにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除外し、隣接するピクセル間の方位差が5.00°以上である境界を結晶粒界とみなし、銀含有層のIQ値を得た。そして、銀含有層のIQ値における、最大値に対するピーク位置を算出した。また、IQ値の度数分布は、上記方法で得たIQ値の最大値の5%刻みで測定した。
【0050】
[2] 動摩擦係数
電気接点材料に対して張り出し加工を行い、張り出し加工部の曲率半径が5mmである張り出し加工材を得た。張り出し加工材の銀含有層側の表面に対して、摩擦摩耗試験機トライボギア(表面性測定機TYPE:14FW、新東科学株式会社製)を用いて、接触荷重5N、摺動距離5mm、摺動速度100mm/minで15回往復摺動を行った。15回目の摺動時の数値を動摩擦係数とした。動摩擦係数について、以下のランク付けをした。
【0051】
◎:動摩擦係数が0.4未満
○:動摩擦係数が0.4以上0.6未満
×:動摩擦係数が0.6以上
【0052】
[3] 耐摩耗性
電気接点材料の銀含有層側の表面に対して、摩擦摩耗試験機トライボギア(表面性測定機TYPE:14FW、新東科学株式会社製)を用いて、接触荷重4N、摺動距離50mm、摺動速度100mm/minで50回往復摺動を行った。レーザー粗さ計により、銀含有層の厚さに対する基準面(往復摺動していない面)からの深さの比を測定した。耐摩耗性について、以下のランク付けをした。
【0053】
◎:銀含有層の厚さに対する基準面からの深さの比が1/10未満
○:銀含有層の厚さに対する基準面からの深さの比が1/10以上1/5未満
×:銀含有層の厚さに対する基準面からの深さの比が1/5以上
【0054】
[4] 接触抵抗値
電気接点材料の銀含有層側の表面に対して、電気接点シミュレータ(株式会社山崎精機研究所製)を用いて、通電電流値20mA、荷重1Nで、接触抵抗値を10回測定し、得られた測定値を平均した値を電気接点材料の接触抵抗値とした。接触抵抗値について、以下のランク付けをした。
【0055】
◎:接触抵抗値が0.5mΩ未満
○:接触抵抗値が0.5mΩ以上1.0mΩ未満
×:接触抵抗値が1.0mΩ以上
【0056】
[5] 耐熱性
大気雰囲気下において、電気接点材料を150℃で1000時間加熱した。加熱後、電気接点材料の銀含有層側の表面に対して、電気接点シミュレータ(株式会社山崎精機研究所製)を用いて、通電電流値20mA、荷重1Nで、接触抵抗値を10回測定し、得られた測定値を平均した値を電気接点材料の接触抵抗値とした。耐熱性について、以下のランク付けをした。
【0057】
◎:加熱後の接触抵抗値が0. 6mΩ未満
○:加熱後の接触抵抗値が0. 6mΩ以上4. 6mΩ未満
×:加熱後の接触抵抗値が4. 6mΩ以上
【0058】
[6] 曲げ加工性
日本伸銅協会技術標準JCBA-T307:2007の試験方法に準拠し、試験片の長手方向が圧延方向と平行になるように、電気接点材料から幅10mm×長さ30mmの試験片を5つ(n=5)採取し、各試験片について、曲げ角度が90度、R/t=1で曲げ試験を行い、割れの有無を判定した。
【0059】
○:5つの試験片について、割れ無し
×:1つ以上の試験片について、割れ有り
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表1~2に示すように、実施例1~34では、銀含有層のIQ値のピーク位置が銀含有層のIQ値の最大値の5.00%以上20.00%以下であったため、電気接点材料の耐摩耗性は、導電性基材の特性の影響を受けず、良好であった。一方、比較例1~9では、上記ピーク位置が5.00%以上20.00%以下の範囲外であったため、電気接点材料の耐摩耗性が劣っていた。
【符号の説明】
【0063】
1、2 電気接点材料
10 導電性基材
20 銀含有層
30 中間層

図1
図2